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特開2024-132173車両用温調システムおよび車両用温調方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132173
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】車両用温調システムおよび車両用温調方法
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B60H1/22 651A
B60H1/22 651C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042861
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】足立 知康
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 徹三
(72)【発明者】
【氏名】中川 信也
(72)【発明者】
【氏名】小林 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕之
(72)【発明者】
【氏名】野山 英人
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 克弘
(72)【発明者】
【氏名】森下 昌俊
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA02
3L211BA03
3L211CA18
3L211CA19
3L211DA26
3L211DA27
3L211DA28
3L211EA12
3L211EA50
3L211EA56
3L211FB05
(57)【要約】
【課題】車両用温調について、圧縮機の回転数の制約によらず、急速冷房・急速暖房を実現する。
【解決手段】車両用の温調システムは、冷媒回路と、熱媒体回路とを備える。熱媒体回路に備わる温調熱交換器は、複数の熱交換器を備える。温調システムは、冷却用途のとき、低圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される第2冷却モードと、第2冷却モードに先行して、低圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の一部の熱交換器に供給される第1冷却モードと、を含む急速冷却モードを備える。温調システムは、加熱用途のとき、高圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される第2加熱モードと、第2加熱モードに先行して、高圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の一部の熱交換器に供給される第1加熱モードと、を含む急速加熱モードを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の温調システムであって、
圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備え、
前記熱媒体回路は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記高圧側熱交換器と、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器と、
外気と前記熱媒体とを熱交換させる外気熱交換器と、
温調対象と前記熱媒体とを熱交換させる温調熱交換器と、を含み、
前記温調熱交換器は、複数の熱交換器を備え、
前記温調システムは、
前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の複数の前記熱交換器に供給される第2冷却モードと、前記第2冷却モードに先行して、前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の一部の前記熱交換器に供給される第1冷却モードと、を含む急速冷却モードを備える、車両用温調システム。
【請求項2】
前記温調対象としての空気と前記熱媒体とを熱交換させる前記温調熱交換器は、
前記熱交換器としての第1熱交換器と、
前記空気の流れにおいて前記第1熱交換器よりも下流に配置される前記熱交換器としての第2熱交換器と、を備え、
前記第1冷却モードでは、前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記第1熱交換器および前記第2熱交換器の一方のみに供給され、
前記第2冷却モードでは、前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記第1熱交換器および前記第2熱交換器のいずれにも供給される、
請求項1に記載の車両用温調システム。
【請求項3】
前記第1冷却モードでは、前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記第1熱交換器および前記第2熱交換器のうち前記第2熱交換器のみに供給される、
請求項2に記載の車両用温調システム。
【請求項4】
前記第2熱交換器は、前記第1熱交換器と比べて熱交換能力が大きい、
請求項2に記載の車両用温調システム。
【請求項5】
前記低圧側熱交換器に対して、前記第1熱交換器と前記第2熱交換器とが選択的に接続可能に構成されている、
請求項2に記載の車両用温調システム。
【請求項6】
前記低圧側熱交換器を含む前記熱媒体回路を流れる前記熱媒体の温度を検知する温度センサを備え、
前記第1冷却モードにおいて前記温度センサにより検知される温度が所定温度に対して低いのならば、前記第1冷却モードから前記第2冷却モードへと移行する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用温調システム。
【請求項7】
前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体を前記温調熱交換器から迂回させるバイパス経路を備える、
請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用温調システム。
【請求項8】
前記低圧側熱交換器を含む前記熱媒体回路の前記熱媒体の温度を検知する温度センサを備え、
前記急速冷却モードは、
前記第1冷却モードに先行して、前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記バイパス経路により前記温調熱交換器から迂回されながら、前記低圧側熱交換器により冷却される温調熱交換器バイパスモードを含み、
前記温調熱交換器バイパスモードにおいて前記温度センサにより検知される温度が所定温度に対して低いのならば、前記温調熱交換器バイパスモードから前記第1冷却モードへと移行する、
請求項7に記載の車両用温調システム。
【請求項9】
車室内の温度を検知する室温センサと、車外の温度を検知する外気温センサと、を備え、
前記室温センサにより検知される温度が、前記急速冷却モードの終了に対応する定常温度に対して低く、かつ、前記外気温センサにより検知される温度が所定の第1温度に対して低いのならば、前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の一部の前記熱交換器のみに限定して供給される第3冷却モードへと移行する、
請求項2から5のいずれか一項に記載の車両用温調システム。
【請求項10】
前記室温センサにより検知される温度が、前記急速冷却モードの終了に対応する定常温度に対して低く、かつ、前記外気温センサにより検知される温度が前記第1温度よりも低い第2温度に対して低いのならば、前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記第1熱交換器のみに限定して供給される前記第3冷却モードへと移行する、
請求項9に記載の車両用温調システム。
【請求項11】
車両用の温調システムであって、
圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備え、
前記熱媒体回路は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記高圧側熱交換器と、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器と、
外気と前記熱媒体とを熱交換させる外気熱交換器と、
温調対象と前記熱媒体とを熱交換させる温調熱交換器と、を含み、
前記温調熱交換器は、複数の熱交換器を備え、
前記温調システムは、
前記高圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の複数の前記熱交換器に供給される第2加熱モードと、前記第2加熱モードに先行して、前記高圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の一部の前記熱交換器に供給される第1加熱モードと、を含む急速加熱モードを備える、車両用温調システム。
【請求項12】
車両用の温調システムであって、
圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備え、
前記熱媒体回路は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記高圧側熱交換器と、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器と、
外気と前記熱媒体とを熱交換させる外気熱交換器と、
温調対象と前記熱媒体とを熱交換させる温調熱交換器と、
前記低圧側熱交換器および前記高圧側熱交換器の一方を流出した前記熱媒体を前記温調熱交換器から迂回させるバイパス経路と、を含み、
前記温調熱交換器は、複数の熱交換器を備え、
前記温調システムは、
前記低圧側熱交換器および前記高圧側熱交換器の前記一方を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の複数の前記熱交換器に供給される温調熱交換器供給モードと、前記温調熱交換器供給モードに先行して、前記低圧側熱交換器および前記高圧側熱交換器の前記一方を流出した前記熱媒体が前記バイパス経路により前記複数の熱交換器から迂回される温調熱交換器バイパスモードと、を含む急速温調モードを備える、車両用温調システム。
【請求項13】
車両用の温調システムを用いる温調方法であって、
前記温調システムは、
圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備え、
前記熱媒体回路を流れる前記熱媒体と温調対象とを熱交換させる温調熱交換器は、複数の熱交換器を備え、
前記温調方法は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の複数の前記熱交換器に供給される第2冷却モードを実施するステップと、
前記第2冷却モードに先行して、前記低圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の一部の前記熱交換器に供給される第1冷却モードを実施するステップと、を備える、
車両用温調方法。
【請求項14】
車両用の温調システムを用いる温調方法であって、
前記温調システムは、
圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備え、
前記熱媒体回路を流れる前記熱媒体と温調対象とを熱交換させる温調熱交換器は、複数の熱交換器を備え、
前記温調方法は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記高圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の複数の前記熱交換器に供給される第2加熱モードを実施するステップと、
前記第2加熱モードに先行して、前記高圧側熱交換器を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の一部の前記熱交換器に供給される第1加熱モードを実施するステップと、を備える、
車両用温調方法。
【請求項15】
車両用の温調システムを用いる温調方法であって、
前記温調システムは、
圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備え、
前記熱媒体回路を流れる前記熱媒体と温調対象とを熱交換させる温調熱交換器は、複数の熱交換器を備え、
前記温調方法は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器および前記高圧側熱交換器の一方を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の複数の前記熱交換器に供給される温調熱交換器供給モードを実施するステップと、
前記温調熱交換器供給モードに先行して、前記低圧側熱交換器および前記高圧側熱交換器の前記一方を流出した前記熱媒体が前記複数の熱交換器から迂回される温調熱交換器バイパスモードを実施するステップと、を備える、
車両用温調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に装備される温調システム、およびそれを用いる温調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒が循環する冷媒回路の他に、水、ブライン等の熱媒体が循環する回路を備え、車室の空調やバッテリーの熱管理等が可能な車両用システムが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載のブライン回路は、冷媒から吸熱するブラインが循環する高温ブライン回路と、冷媒へと放熱するブラインが循環する低温ブライン回路とを備えている。
また、特許文献1に記載のシステムは、ブラインと空気とを熱交換させる車内側の熱交換器として、ブライン回路に関して直列または並列に接続可能な第1熱交換器および第2熱交換器を備えている。高温ブラインおよび低温ブラインのそれぞれの経路が設定されることにより、第1、第2熱交換器が直列に接続された冷房・暖房モードや、第1、第2熱交換器が並列に接続された除湿暖房・除湿冷房モードが実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-045068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱媒体が供給される2台の車内熱交換器が車内空調に用いられることで、1台の車内熱交換器が用いられる場合と比べて冷凍能力が増強されるものの、それに伴い熱容量が増加するため、冷房の立ち上がりの速さには劣る。特許文献1には、夏季におけるエンジンの始動直後など、低温ブラインの温度が外気と同等の高い温度である場合は、ブラインの温度降下を促進するために、圧縮機を可能な限り高速で回転させることが好ましいと記載されている。しかし、圧縮機の回転数には上限がある。
【0005】
本開示は、圧縮機の回転数の制約によらず、更なる急速冷房を実現可能な車両用の温調システムおよび温調方法を提供することを目的とする。
また、暖房の立ち上がりについても、冷房の立ち上がりと同様の課題が想定されることから、本開示の目的には、急速暖房も含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、車両用の温調システムであって、かかる温調システムは、圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備える。
熱媒体回路は、冷媒と熱媒体とを熱交換させる高圧側熱交換器と、冷媒と熱媒体とを熱交換させる低圧側熱交換器と、外気と熱媒体とを熱交換させる外気熱交換器と、温調対象と熱媒体とを熱交換させる温調熱交換器と、を含む。
温調熱交換器は、複数の熱交換器を備える。
温調システムは、低圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される第2冷却モードと、第2冷却モードに先行して、低圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の一部の熱交換器に供給される第1冷却モードと、を含む急速冷却モードを備える。
【0007】
また、本開示は、車両用の温調システムを用いる温調方法であって、温調システムは、圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備える。
熱媒体回路を流れる熱媒体と温調対象とを熱交換させる温調熱交換器は、複数の熱交換器を備える。
温調方法は、冷媒と熱媒体とを熱交換させる低圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される第2冷却モードを実施するステップと、第2冷却モードに先行して、低圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の一部の熱交換器に供給される第1冷却モードを実施するステップと、を備える。
【0008】
本開示の温調システムおよび温調方法は、車室の冷房や車載装置の冷却等の冷却用途には限らず、車室の暖房や車載装置の加熱等の加熱用途にも、冷却用途と同様の思想に基づき、展開することができる。
加熱用途の車両用温調システムは、高圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される第2加熱モードと、第2加熱モードに先行して、高圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の一部の熱交換器に供給される第1加熱モードと、を含む急速加熱モードを備える。
加熱用途の車両用温調方法は、冷媒と熱媒体とを熱交換させる高圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される第2加熱モードを実施するステップと、第2加熱モードに先行して、高圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の一部の熱交換器に供給される第1加熱モードを実施するステップと、を備える。
【0009】
また、本開示の車両用温調システムは、低圧側熱交換器および高圧側熱交換器の一方を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される温調熱交換器供給モードと、温調熱交換器供給モードに先行して、低圧側熱交換器および高圧側熱交換器の前記一方を流出した熱媒体がバイパス経路により複数の熱交換器から迂回される温調熱交換器バイパスモードと、を含む急速温調モードを備えていてもよい。本開示の車両用温調方法は、冷媒と熱媒体とを熱交換させる低圧側熱交換器および高圧側熱交換器の一方を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される温調熱交換器供給モードを実施するステップと、温調熱交換器供給モードに先行して、低圧側熱交換器および高圧側熱交換器の一方を流出した熱媒体が複数の熱交換器から迂回される温調熱交換器バイパスモードを実施するステップと、を備えていてもよい。
【0010】
本開示の車両用温調システムおよび車両用温調方法は、以下の如く、冷却/加熱用途の別、バイパスする/しないを限定しない上位概念により表される。
本開示の車両用の温調システムは、
圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備え、
前記熱媒体回路は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記高圧側熱交換器と、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器と、
外気と前記熱媒体とを熱交換させる外気熱交換器と、
温調対象と前記熱媒体とを熱交換させる温調熱交換器と、を含み、
前記温調熱交換器は、複数の熱交換器を備え、
前記温調システムは、
前記低圧側熱交換器および前記高圧側熱交換器の一方を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の複数の前記熱交換器に供給される第2温調モードと、前記第2温調モードに先行して、前記低圧側熱交換器および前記高圧側熱交換器の前記一方を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の一部の前記熱交換器に供給される第1温調モードと、を含む急速温調モードを備える、車両用温調システム。
【0011】
また、本開示は車両用の温調システムを用いる温調方法であって、
前記温調システムは、
圧縮機、高圧側熱交換器、減圧部、および低圧側熱交換器を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路と、を備え、
前記熱媒体回路を流れる前記熱媒体と温調対象とを熱交換させる温調熱交換器は、複数の熱交換器を備え、
前記温調方法は、
いずれも前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器および前記高圧側熱交換器の一方を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の複数の前記熱交換器に供給される第2温調モードを実施するステップと、
前記第2温調モードに先行して、前記低圧側熱交換器および前記高圧側熱交換器の前記一方を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器の一部の前記熱交換器に供給される第1温調モードを実施するステップと、を備える、
車両用温調方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、低圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される第2冷却モードに先行して、低圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の一部の熱交換器のみに供給される第1冷却モードが実施されることにより、冷却運転の初期に温調熱交換器の温度降下に費やされる時間を抑え、温調を促進することができる。そのため、急速冷却を実現することが可能となる。
また、高圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の複数の熱交換器に供給される第2加熱モードに先行して、高圧側熱交換器を流出した熱媒体が温調熱交換器の一部の熱交換器のみに供給される第1加熱モードが実施されることにより、加熱運転の初期に温調熱交換器の温度上昇に費やされる時間を抑え、温調を促進することができる。そのため、急速加熱を実現することが可能となる。
さらに、冷却、加熱を問わず、第2冷却モードに相当する温調熱交換器供給モードよりも、低圧側熱交換器または高圧側熱交換器を流出した熱媒体が室内熱交換器から迂回して流れるバイパスモードが先行して行われることによっても、温調熱交換器の温度上昇に費やされる時間を抑えて温調を促進することができるから、急速温調を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る車両用温調システムの回路構成を示す模式図である。
図2】(a)は、図1に示される回路切替装置を構成する弁の一例を示す模式図である。例えば、図1のII部に配置される弁を示している。(b)は、変形例として、図1に示す熱媒体回路とは独立したバッテリー専用の回路を示す模式図である。
図3図1に示される温調システムの第1冷房モードを示す図である。
図4図1に示される温調システムの第2冷房モードを示す図である。
図5】第2実施形態に係る車両用温調システムの室内熱交換器バイパスモードを示す図である。
図6】第4実施形態に係る車両用温調システムの第1暖房モードを示す図である。
図7】第4実施形態に係る車両用温調システムの第2暖房モードを示す図である。
図8】第5実施形態に係る車両用温調システムの室内熱交換器バイパスモードを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について説明する。
[第1実施形態]
図1に示す車両用の温調システム1は、例えば、エンジンを備えておらず走行用電動モーターから車両走行用の駆動力を得る電気自動車、あるいは、エンジンおよび電動機から車両走行用の駆動力を得る所謂ハイブリッド自動車等の図示しない車両に装備される。
温調システム1は、乗員が搭乗する車室の冷暖房、除湿、換気等の空調の他、車両に搭載されているバッテリー装置4(電源装置)、走行用モーター装置5、発熱する電子機器等の車載装置の熱管理、排熱回収等を担う。適切な温度や湿度に空調したり、車載装置を適温に管理したりすることを「熱管理」と総称するものとする。
温調システム1、および車載装置に備わる電動機器や電子機器には、車載のバッテリー装置4に蓄えられた電力が供給される。バッテリー装置4は、車両が停止している状態で外部電源から充電可能である。
【0015】
〔全体構成〕
温調システム1は、図1に構成の一例を示すように、冷媒が循環可能に構成される冷媒回路10と、冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路20と、温調システム1の運転状態を制御する制御装置6とを備えている。
また、温調システム1は、例えば、外気温度を検知する外気温センサS1や車室内の空気の温度を検知する室温センサS2、熱媒体の温度、冷媒の温度または圧力等の物理量を検知する図示しないセンサを備えていることが好ましい。
【0016】
温調システム1は、乗員によりあるいは制御装置6により選択される複数の運転モードを備えている。本実施形態の温調システム1は、少なくとも、車室内の空気を冷却するモードを備えている。このモードには、例えば、急速冷房モードMが含まれる。
温調システム1は、車室内の空気を冷却する冷房モードの他に、車室内の空気を加熱する暖房モードや、車室内の空気を除湿しつつ暖房するモード、バッテリー等の車載装置を温度調整するモード、それらのモードが組み合わせられたモード等を備えていてもよい。
【0017】
第1実施形態の急速冷房モードMは、第1冷房モードm1(図3)と、第1冷房モードm1に続いて行われる第2冷房モードm2(図4)とからなる。熱媒体の温度に基づいて第1冷房モードm1モードから第2冷房モードm2へと移行するため、少なくとも蒸発器14を含む熱媒体回路20の熱媒体の温度を検知する温度センサSが使用される。温度センサSは、例えば、蒸発器14から流出して室内熱交換器24に供給されるまでの熱媒体の経路の任意の位置に設けることができる。温度センサSは、熱媒体が接触する配管の壁等を介して熱媒体の温度を間接的に検知するものであってもよい。
【0018】
〔冷媒回路の構成〕
冷媒回路10は、図1に構成の一例を示すように、冷媒を圧縮する圧縮機11と、高圧側熱交換器としての凝縮器12と、減圧部としての膨張弁13と、低圧側熱交換器としての蒸発器14とを備えている。冷媒回路10には、冷凍サイクルに従って冷媒が循環する。
冷媒回路10に封入される冷媒としては、公知の適宜な単一冷媒あるいは混合冷媒を用いることができる。例えば、本実施形態の冷媒として、R410A、R32等のHFC(Hydro Fluoro Carbon)冷媒や、R1234ze、R1234yf等のHFO(Hydro Fluoro Olefin)冷媒、あるいは、プロパン、イソブタン等の炭化水素(HC)系冷媒を用いることが可能である。
【0019】
上記に列挙したフロン系または炭化水素系の冷媒を用いる場合は、高圧側の冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルが構成される。
冷媒として二酸化炭素(CO)を用いる場合は、高圧側の冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超える遷臨界冷凍サイクルが構成される。その場合でも、本実施形態の凝縮器12と同様に高圧側熱交換器により冷媒が熱媒体へと放熱し、本実施形態の蒸発器14と同様に低圧側熱交換器により冷媒が熱媒体から吸熱する作用が得られるから、二酸化炭素冷媒のように遷臨界冷凍サイクルを構成する冷媒も冷媒回路10に採用することができる。
【0020】
圧縮機11は、図示しないモーターを備えた電動圧縮機に相当する。圧縮機11は、図示しないハウジング内に吸入される冷媒を圧縮機構により断熱圧縮して吐出する。
【0021】
凝縮器12は、圧縮機11から吐出された冷媒ガスを熱媒体回路20の熱媒体と熱交換させる。
膨張弁13は、凝縮器12から流出した冷媒を減圧させることで断熱膨張させる。膨張弁13としては、制御装置6からの指令に基づき開度を制御可能な電子膨張弁の他、温度式膨張弁を採用することができる。あるいは、膨張弁13の代わりにキャピラリーチューブを採用することができる。
【0022】
蒸発器14は、膨張弁13から流出した冷媒を熱媒体回路20の熱媒体と熱交換させる。蒸発器14により蒸発した冷媒は、圧縮機11により吸入される。
蒸発器14と圧縮機11との間には、図示しないアキュムレータ(気液分離器)を設けることができる。
【0023】
凝縮器12には相対的に高い冷媒圧力(高圧)が与えられ、蒸発器14には相対的に低い冷媒圧力(低圧)が与えられる。冷媒は、高圧と低圧との圧力差に基づき冷媒回路10を循環する。
図1において、低圧側の冷媒の流れは太い実線により示され、高圧側の冷媒の流れは太い破線により示されている。
【0024】
〔熱媒体回路の構成〕
熱媒体回路20は、凝縮器12および蒸発器14により冷媒と熱を授受可能な熱媒体が循環可能に構成されている。熱媒体は、少なくとも1つの温調対象の温度を調整するために用いられる。本実施形態における温調対象は、車室内の空気、バッテリー装置4、および走行用モーター装置5に相当する。
【0025】
熱媒体回路20に封入される熱媒体は、液相の状態を維持して熱媒体回路20を循環する水やブライン等の液体である。ブラインとしては、例えば、水およびプロピレングリコールの混合液、あるいは、水およびエチレングリコールの混合液を例示することができる。
【0026】
熱媒体回路20は、図1に構成の一例を示すように、凝縮器12と、蒸発器14と、第1ポンプ21および第2ポンプ22と、外気熱交換器としての室外熱交換器23と、温調熱交換器としての室内熱交換器24と、いずれも車載装置としてのバッテリー装置4および走行用モーター装置5と、回路切替装置30とを含んでいる。
回路切替装置30は、凝縮器12および蒸発器14のそれぞれに対し、バッテリー装置4、室外熱交換器23、走行用モーター装置5、室内熱交換器24(第1熱交換器241および第2熱交換器242)を選択的に接続する。
【0027】
本実施形態の熱媒体回路20は、凝縮器12を含み、相対的に高温の熱媒体が第1ポンプ21により循環する第1熱媒体回路C1と、蒸発器14を含み、相対的に低温の熱媒体が第2ポンプ22により循環する第2熱媒体回路C2とに二分されている。但し、凝縮器12および蒸発器14を流れる熱媒体の経路の設定によっては、必ずしもその限りではない。
【0028】
第1ポンプ21は、凝縮器12から流出した熱媒体を吸入して吐出することで熱媒体を圧送する。第2ポンプ22は、蒸発器14から流出した熱媒体を吸入して吐出することで熱媒体を圧送する。
【0029】
圧縮機11が作動し、冷媒回路10を冷媒が循環しているとき、熱媒体は凝縮器12により冷媒から吸熱し、蒸発器14により冷媒へと放熱する。
そのため、室外熱交換器23、室内熱交換器24(第1熱交換器241および第2熱交換器242)、バッテリー装置4、および走行用モーター装置5のうち、凝縮器12に接続される要素には相対的に高温の熱媒体が循環し、蒸発器14に接続される要素には相対的に低温の熱媒体が循環する。
【0030】
図3および図4では、蒸発器14により冷媒へと放熱する低温熱媒体が流れる経路が実線で示され、凝縮器12により冷媒から吸熱する高温熱媒体が流れる経路が一点鎖線で示されている。熱媒体が流れていない、つまり温調に寄与しない経路は破線で示されている。これらの経路を示す線種は、図5でも同様である。
【0031】
第1ポンプ21は、凝縮器12の凝縮器出口122と回路切替装置30との間には限らず、凝縮器12の凝縮器入口121と回路切替装置30との間に配置されていてもよい。
同様に、第2ポンプ22は、蒸発器14の蒸発器出口142と回路切替装置30との間には限らず、蒸発器14の蒸発器入口141と回路切替装置30との間に配置されていてもよい。
【0032】
室外熱交換器23は、車室の外側の空気である外気と、熱媒体とを熱交換させる。車両の走行と図示しない送風機の作動とにより、室外熱交換器23に供給される外気と熱媒体との温度差に基づいて熱媒体が放熱または吸熱する。
【0033】
室内熱交換器24は、温調対象に相当する空気と熱媒体とを熱交換させる複数の熱交換器として、第1熱交換器241と第2熱交換器242とを備え、熱交換能力が可変に構成されている。熱交換能力は、熱交換器の伝熱面積、熱を授受する物質の温度差等に基づいて定まる。
【0034】
本実施形態の室内熱交換器24は、第1熱交換器241と第2熱交換器242との2つの熱交換器を備えている。急速冷房モードMの初期における冷凍能力を十分に担保するため、第2熱交換器242の熱交換能力は、第1熱交換器241の熱交換能力よりも高いことが好ましい。
【0035】
図3は、第1熱交換器241および第2熱交換器242の一方である第2熱交換器242のみが蒸発器14に接続され、蒸発器14を流出した熱媒体が第2熱交換器242のみに供給される状態(第1冷房ステップ)を示している。このとき他方の熱交換器である第1熱交換器241は、蒸発器14に接続されていないので、蒸発器14を流出した熱媒体は第1熱交換器241には供給されない。
【0036】
一方、図4は、第1熱交換器241および第2熱交換器242の両方が蒸発器14に接続され、蒸発器14を流出した熱媒体が第1熱交換器241および第2熱交換器242の両方に供給される状態を示している(第2冷房ステップ)。
室内熱交換器24の熱交換能力は、熱媒体を冷却する蒸発器14に接続される熱交換器241,242の数が多いほど大きく、熱交換能力が大きいほど温調システム1の冷凍能力は大きい。
【0037】
車両に備えられるHVAC(Heating, Ventilation, and Air Conditioning)ユニットUは、第1熱交換器241と、第2熱交換器242と、室内送風機24Aと、図示しないダクトおよびダンパーとを含んで構成されている。HVACユニットUは、第1熱交換器241および第2熱交換器242の少なくとも一方に供給される熱媒体と、室内送風機24Aにより第1熱交換器241および第2熱交換器242の少なくとも一方に送られる空気とを熱交換させて、空調空気を車室内に吹き出す。
【0038】
第1熱交換器241および第2熱交換器242は、室内送風機24Aにより送られて車室内に吹き出される空気の流れAFにおいて直列に配置されている。第2熱交換器242は、空気の流れAFにおいて第1熱交換器241よりも下流に配置されている。
【0039】
除湿暖房モードでは、空気流れAFの上流側の第1熱交換器241が蒸発器14に接続され、空気流れAFの下流側の第2熱交換器242が凝縮器12に接続される。そうすると、第1熱交換器241により露点温度以下に冷却されることで除湿された空気が、第2熱交換器242により加温されて車室内に供給される。
第1、第2熱交換器241,242の能力比を考えるとき、除湿暖房モード時に必要となる最小限の能力を第1熱交換器241に与えるとともに、第2熱交換器242の能力を大きくすることで急速冷房効果を確保するとよい。第1、第2熱交換器241,242の能力比は、例えば、4:6程度であることが好ましい。
【0040】
バッテリー装置4は、例えば、蓄電池であるバッテリー本体41と、必要に応じてバッテリー本体41に設けられる放熱部材やバッテリー用熱交換器等とを備えている。バッテリー装置4は、バッテリー本体41の出力や充電効率を安定させ、かつ劣化を抑えるため、熱媒体回路20の熱媒体を用いて所定の温度範囲内に維持されることが好ましい。バッテリー装置4は、バッテリー本体41の温度を検知する図示しない温度センサを備えていることが好ましい。
【0041】
バッテリー本体41を温度調整するための具体的構造は、バッテリー本体41の発熱量等に応じて適宜に定めることができる。
熱媒体回路20の熱媒体とバッテリー本体41とは、熱媒体がバッテリー本体41と直接的に接触することで熱を授受してもよいし、部材や他の熱媒体を介して熱を授受してもよい。但し、バッテリー本体41に熱媒体を直接的に接触させる場合は、バッテリー本体41の漏電防止のため、典型的なブラインと比べて電気絶縁性が高い熱媒体を使用する必要がある。
【0042】
バッテリー装置4の構造の例としては、例えば、バッテリー本体41に設けられたプレート部材45の内部には、熱媒体回路20を流れる第1熱媒体H1の流路が形成される。
また、例えば、図2(b)に示すように、第2熱媒体H2が循環するバッテリー用回路40が、第1熱媒体H1が流れる熱媒体回路20とは別に設けられる。バッテリー用回路40は、ポンプ42の作動によりバッテリー本体41とバッテリー用熱交換器43とに第2熱媒体H2を循環させる。バッテリー用熱交換器43により、第1熱媒体H1と第2熱媒体H2とが熱を授受する。
【0043】
第2熱媒体H2は、第1熱媒体H1と比べて電気絶縁性が高い。そのため、第2熱媒体H2とバッテリー本体41との間の電気的な絶縁を確保することができるので、バッテリー本体41の漏電に対する耐圧向上措置の必要がなく、適宜な方法でバッテリー本体41に第2熱媒体H2を直接的に供給することができる。直接的な供給手段としては、例えば、第2熱媒体H2にバッテリー本体41を浸漬したり、第2熱媒体H2をノズルからバッテリー本体41に噴射したりすることができる。
また、第2熱媒体H2は、バッテリー本体41を迅速に温調するため、第1熱媒体H1と比べて熱伝導率が高いことが好ましい。
【0044】
バッテリー本体41は充放電時に発熱するため、第2熱媒体H2の低温時の粘度が低いことおよび凍結温度が低いことよりも、第2熱媒体H2の電気絶縁性および熱伝導率が高いことの方が優先される。つまり、第2熱媒体H2の低温時の粘度が第1熱媒体H1の低温時の粘度よりも高いことや、第2熱媒体H2の凍結温度が第1熱媒体H1の凍結温度よりも高いことは許容される。
【0045】
なお、バッテリー装置4には、バッテリー用熱交換器43に外気を吹き付ける図示しない送風機が設けられていてもよい。その場合は、圧縮機11やポンプ21,22が停止している状態でも、送風機およびポンプ42を作動させてバッテリー本体41を空冷することができる。
【0046】
走行用モーター装置5も、バッテリー装置4と同様に、熱媒体回路20熱媒体を用いて、所定の温度範囲に維持されることが好ましい。
走行用モーター装置5は、例えば、走行用モーター装置5と熱的に結合した部材に熱媒体回路20熱媒体が供給されることによって温度調整される。
走行用モーター装置5には、走行用モーター装置5の周囲で走行用モーター装置5に熱媒体を循環させるポンプ51と、走行用モーター装置5に外気を吹き付ける図示しない送風機及び第2車外熱交換器とが設けられていてもよい。その場合は、圧縮機11やポンプ21,22が停止している状態でも、ポンプ51および送風機を作動させて走行用モーター装置5を空冷することができる。
【0047】
回路切替装置30は、図示しない複数の弁と、熱媒体が流入または流出する複数のポートA~Nとを備え、1つ以上の弁により熱媒体の流れを切り替えることで、熱媒体回路20の構成を切替可能に構成されている。制御装置6は、運転モードや車載装置の温度管理の必要性に応じて、回路切替装置30の弁を駆動機構により個別に駆動することで、凝縮器12および蒸発器14のそれぞれに対してバッテリー装置4、室外熱交換器23、走行用モーター装置5、第1熱交換器241、および第2熱交換器242を選択的に接続する。
【0048】
回路切替装置30は、構成の一例として、バッテリー装置4、室外熱交換器23、走行用モーター装置5、第1熱交換器241、および第2熱交換器242を熱媒体の流れに関して互いに並列に接続可能に構成されている。そのため、蒸発器14および凝縮器12のそれぞれに対して、バッテリー装置4、室外熱交換器23、走行用モーター装置5、第1熱交換器241、および第2熱交換器242が選択的に、熱媒体の流れに関して直列に接続可能に構成されている。
図4に示す例では、室外熱交換器23および走行用モーター装置5が凝縮器12に接続され、バッテリー装置4、第1熱交換器241、および第2熱交換器242が蒸発器14に接続されている。室外熱交換器23、走行用モーター装置5、バッテリー装置4、第1熱交換器241、および第2熱交換器242のいずれも、凝縮器12または蒸発器14の一方に直列に接続可能に構成されている。例えば、室外熱交換器23は、暖房モードのときに蒸発器14に接続され、冷房モードのときに凝縮器12に接続される。
【0049】
回路切替装置30は、任意の構造の弁を適宜に組み合わせることで実現することができる。弁の構造を示すと、例えば、図1におけるIIで示す箇所には、図2(a)に示す三方弁Vを使用することができる。a~cのポートは、図1に記載されているa~cに対応している。この三方弁Vは、室外熱交換器23が凝縮器12に接続される場合は、弁体が12Vの状態に切り替えられ、室外熱交換器23が蒸発器14に接続される場合は、弁体が14Vの状態に切り替えられる。
【0050】
熱媒体の経路は、必ずしも、回路切替装置30を示す二重線からなる枠線の内側に図示された線の分岐、集合の状態にはかかわらず、各運転モードや車載装置の温度管理を実現するために適宜に設定される。
回路切替装置30は、運転モードや車載装置の温度管理の必要性に応じて、熱媒体の流れを適宜な構造の弁により切り替えるものであればよい。
例えば、回路切替装置30は、第1熱交換器241および第2熱交換器242が互いに直列に接続されるように構成されていてもよい。
【0051】
回路切替装置30には、熱媒体回路20に備わる全ての弁、あるいは大部分の弁を集約することができる。それにより、熱媒体が供給される車載装置や熱交換器の数が増えても、熱媒体の複雑な経路を回路切替装置30に収め、回路切替装置30の外側の配管等を簡素に構成することができるので、温調システム1の全体として小型化を図ることができる。
また、複数の装置(室外熱交換器23、第1熱交換器241、第2熱交換器242、バッテリー装置4、および走行用モーター装置5)が互いに並列接続可能であるのならば、蒸発器14および凝縮器12のそれぞれに対して、直列接続する/しないを装置毎に切り替える手段を簡素な構成により実現し易い。
なお、回路切替装置30の内部経路は、例えば、積層造形により形成されていてもよい。
【0052】
熱媒体回路20は、必ずしも回路切替装置30を備えている必要はない。熱媒体回路20の熱媒体の流れを切り替える複数の弁がそれぞれ、独立した部材であって、熱媒体回路20の配管に組み付けられていてもよい。
【0053】
〔急速冷房モードの作用〕
温調システム1は、例えば夏季における外気温度等の影響により室内温度が高温であるとしても、急速に冷房を立ち上げることが可能な急速冷房モードMを備えている。
室内熱交換器24の第1熱交換器241と第2熱交換器242との両方が蒸発器14に接続されているとき(図4)、熱交換能力は大きいものの、蒸発器14から熱媒体が供給される熱交換器241,242の台数が多い分、熱容量が大きいので、熱交換器241,242が高温である状態からの冷房の立ち上がりの速さには劣る。
【0054】
そこで、急速冷房モードMは、第1熱交換器241および第2熱交換器242の両方が蒸発器14に接続されること(図4の第2冷房モードm2)に先行して、第1熱交換器241および第2熱交換器242の一方のみを蒸発器14に接続することにより(図3の第1冷房モードm1)、室内熱交換器24において、冷房運転の開始時に熱媒体が供給される領域の熱容量を減少させる。
【0055】
そうすると、冷房運転の開始時から、第1冷房モードm1が行われる間は、蒸発器14により冷却された熱媒体が他方の熱交換器241からは吸熱しないので、冷房運転の開始時から第2冷房モードが行われる場合、つまり第1熱交換器241および第2熱交換器242の両方が蒸発器14に接続される場合よりも、熱媒体の温度の降下が促進される。それに伴い、室内熱交換器24を流れる熱媒体と熱交換される空気の温度の降下も促進されるので、冷房運転の開始時から第2冷房モードが行われる場合と比べて車室内に冷たい空調空気をより早く供給することができる。
【0056】
第1冷房モードm1では、回路切替装置30により、単一の熱交換器241のみが蒸発器14に接続されるとともに、室外熱交換器23が凝縮器12に接続される。図3の例では、車室の冷房を急速に立ち上げるため、バッテリー装置4は蒸発器14に接続されていない。走行用モーター装置5は、凝縮器12に接続することができるが、必ずしもその限りではない。
【0057】
第1冷房モードm1のときは、図3に示すように、空気流れAFの下流側の第2熱交換器242のみが蒸発器14に接続されることが好ましい。そうすると、蒸発器14には接続されずに熱媒体が滞留している第1熱交換器241が、空気流れAFにおける第2熱交換器242よりも上流には存在していても、下流には存在していない。そのため、第2熱交換器242を通過することで熱媒体により冷却された空気が、第1熱交換器241により加温されずに、車室内へと吹き出される。
空気流れAFの上流側の第1熱交換器241と、そこに滞留している熱媒体は、空気への放熱により次第に温度が低下する。
【0058】
第1冷房モードm1のときに空気流れAFの上流側の第1熱交換器241のみが蒸発器14に接続される場合は、第1熱交換器241を通過することで冷却された空気が第2熱交換器242を通過する。そうすると、冷房運転の開始時から、第2熱交換器242および滞留している熱媒体の温度が第1熱交換器241を通過した空気と同等の温度に低下するまでの間は、第2熱交換器242により空気が加温されるので、その分、空調空気の温度降下が鈍化する。
但し、蒸発器14に接続されて温調に寄与する室内熱交換器24の台数の減少により、2台が蒸発器14に接続される場合と比べて熱媒体の温度降下が促進されることによる冷房立ち上げの急速化の効果が、上記の空調空気の温度降下の鈍化に対して上回るのならば、第1冷房モードm1のときに空気流れAFの上流側の第1熱交換器241のみが蒸発器14に接続されることも許容される。
【0059】
第1冷房モードm1のときに蒸発器14に接続される熱交換器(本実施形態の第2熱交換器242)には、冷房運転の初期の乗員快適性への寄与に足りる熱交換能力が与えられている。本実施形態において、第2熱交換器242の熱交換能力は第1熱交換器241の熱交換能力よりも高い。
空調空気の温度降下を効率よく促進するため、蒸発器14を流出した熱媒体が空気流れAFの下流側の第2熱交換器242のみに供給され、かつ、第2熱交換器242の能力が第1熱交換器241の能力よりも大きいことが、最も好ましい。この場合には、第2熱交換器242により一旦空気が冷却された後は、熱媒体が滞留した熱交換器により空気が加温されないし、また、熱交換器241,242の能力差に基づくと、第2熱交換器242により空気が冷却される前に上流側の第1熱交換器241により空気が加温されるとしても、加温による空調空気の温度降下の鈍化の度合が小さい。
【0060】
制御装置6は、温度センサSにより検知される熱媒体の温度を監視し、当該温度が所定の閾値Tを下回ったのならば、回路切替装置30の弁を駆動して熱媒体の流れを切り替えることにより、温調システム1を第1冷房モードm1から第2冷房モードm2へと移行させる。
【0061】
熱媒体温度に代えて、あるいは熱媒体温度に加え、他の指標を用いて第1冷房モードm1から第2冷房モードm2へと移行させるようにしてもよい。当該指標としては、冷房運転の開始時からの経過時間、車室の室温等を挙げることができる。
【0062】
図4に示す第2冷房モードm2では、第1、第2熱交換器241,242のいずれも蒸発器14に接続されるとともに、室外熱交換器23が凝縮器12に接続される。バッテリー装置4は、例えば充電時等の発熱量が大きいときに蒸発器14に接続され、蒸発器14を流出した熱媒体により冷却される。走行用モーター装置5は、熱媒体により温調するため、凝縮器12または蒸発器14に接続することができる。
【0063】
温調システム1は、急速冷房モードMの他に、冷房運転の開始時から、蒸発器14を流出した熱媒体を室内熱交換器24の2つの熱交換器241,242の両方に供給する強冷房モードを備えていてもよい。強冷房モードは、第1冷房モードm1を含まず、第2冷房モードm2のみからなる。
制御装置6は、温度センサSにより検知される熱媒体の温度が所定の閾値Tに対して低いと判定したのならば強冷房モードを実施し、温度センサSにより検知される熱媒体の温度が閾値Tに対して高いと判定したのならば急速冷房モードMを実施することができる。
【0064】
〔本実施形態による主な効果〕
本実施形態の温調システム1およびそれを用いる温調方法によれば、蒸発器14を流出した熱媒体が室内熱交換器24の複数の熱交換器241,242に供給される第2冷房モードm2に先行して、蒸発器14を流出した熱媒体が一部の熱交換器242のみに供給される第1冷房モードm1が実施されることにより、冷房運転の初期に熱交換器の温度降下に費やされる時間を抑えて、空調空気の温度降下を促進することができる。そのため、圧縮機11の回転数の上限の制約によらず、エネルギー消費を抑えながら、冷房を急速に立ち上げることができる。
本実施形態によれば、例えば夏季の炎天下での駐車により外気温度と同等またはそれ以上にまで熱媒体および熱交換器241,242の温度が上昇しているとしても、第2冷房モードm2により冷房運転を開始する場合と比べて、冷房運転の開始時から第2冷房モードm2の定常状態へと至るまでの時間を短縮することが可能である。
【0065】
〔急速冷房後の制御〕
第2冷房モードm2において室温センサS2により検知される室温が所定の閾値tに対して低いのならば、冷房の定常状態に至ったと判断して急速冷房モードMを終えることができる。急速冷房モードMの終了に対応する定常温度としての閾値tは、例えば、室温の設定温度に相当する。なお、室温が閾値tに対して高いのならば、急速冷房モードMの第2冷房モードm2を継続するとよい。
【0066】
室温センサS2により検知される温度が閾値tに対して低く、かつ、外気温センサS1により検知される温度が所定の第1閾値to1に対して低いのならば、制御装置6は、運転効率を高めるため、運転モードを第2冷房モードm2から第3冷房モードm3へと移行させることができる。外気温センサS1により検知される外気温が閾値to1に対して高い場合は、第2冷房モードm2を継続するとよい。
【0067】
第3冷房モードm3では、蒸発器14を流出した熱媒体が第1、第2熱交換器241,242の一方のみに限定して供給される。第3冷房モードm3の図示は省略する。閾値to1は、第1、第2熱交換器241,242の一方のみへの低温熱媒体の供給により車室内の冷房能力を確保することが可能な温度に定めることができる。
第3冷房モードm3によれば、急速冷房後に冷たい熱媒体が流れる配管および熱交換器が減少する分、熱の損失が低減されて運転効率が向上する。
【0068】
第3冷房モードm3において蒸発器14を流出した低温熱媒体が供給される熱交換器は、第1冷房モードm1の時と同様の理由から、空気流れAFの下流側に配置されている第2熱交換器242であることが好ましい。つまり、室内熱交換器24へと供給される空気が、第2熱交換器242の通過により冷却された後は、第1熱交換器241により加温されることはない。
【0069】
室温センサS2により検知される温度が閾値tに対して低く、かつ、外気温センサS1により検知される温度が所定の第2閾値to2(to1>to2)に対して低いのならば、制御装置6は、運転モードが除湿暖房モードに移行した際の窓ガラスの曇りを防止するため、第3冷房モードm3において第1熱交換器241に低温熱媒体を供給することが好ましい。除湿暖房モード時には、第1熱交換器241に低温熱媒体が供給され、第2熱交換器242に高温熱媒体が供給される。除湿暖房モードの直前の冷房運転により第2熱交換器242の表面に凝縮水が付着することを避けることで、除湿暖房時の凝縮水の蒸発を避けることができる。そのため、外気温が、除湿暖房へと移行する可能性のある第2閾値to2以下である場合は、第2熱交換器242ではなく第1熱交換器241に低温熱媒体を供給することにより、窓ガラスの曇りの発生を防止することができる。
【0070】
[第2実施形態]
次に、図5を参照し、本開示の第2実施形態を説明する。以下、第1実施形態と相違する事項を中心に説明する。第1実施形態と同様の要素には同じ符号を付している。
第2実施形態の車両用の温調システム2は、蒸発器14を流出した熱媒体を室内熱交換器24から迂回させるバイパス経路25を備えている。
回路切替装置30は、蒸発器14を流出した熱媒体をバイパス経路25に流入させるか否かを切り替える図示しない弁を含んでいる。
【0071】
温調システム2に備わる急速冷房モードMは、室内熱交換器バイパスモードm0(図5)と、第1冷房モードm1(図3)と、第2冷房モードm2(図4)とからなる。第1冷房モードm1に先行して行われる室内熱交換器バイパスモードm0では、回路切替装置30によりバイパス経路25が開通され、蒸発器14を流出した熱媒体がバイパス経路25により室内熱交換器24から迂回されつつ、蒸発器14により冷却される。室内熱交換器バイパスモードm0の間は、車室の外側から取り込まれる外気が室内送風機24Aにより室内熱交換器24に送られる。外気は、いずれも熱媒体が滞留している第1熱交換器241および第2熱交換器242を通過する。
【0072】
駐車時の日射等により外気温度よりも室内温度が高い場合は、冷房運転の開始時、室内熱交換器24内の熱媒体は外気により冷却される。そのため、冷房運転の開始時にはバイパス経路25を使用して、室内熱交換器24に熱媒体が供給されることを避けつつ、蒸発器14により熱媒体を冷却することにより、急速冷房を行う。
【0073】
室内熱交換器バイパスモードm0の実施により、車室外から取り込まれて室内熱交換器24に供給される外気を熱媒体の温度低減に有効活用できる。そのため、吹き出し温度が低下するまでの時間が短縮されるので、冷房初期における乗員快適性を高めることができる。
【0074】
制御装置6は、温度センサSにより検知される熱媒体の温度を監視し、当該温度が所定の閾値Tを下回ったのならば、回路切替装置30の弁を駆動して熱媒体の流れを切り替えることにより、温調システム1を室内熱交換器バイパスモードm0から第1冷房モードm1へと移行させる。温度の閾値Tは、第1冷房モードm1から第2冷房モードm2への移行に関する閾値Tよりも高い。
【0075】
室内熱交換器バイパスモードm0から第1冷房モードm1に移行すると、それまでに蒸発器14を循環することで冷却された熱媒体が第2熱交換器242に供給されるので、第1冷房モードm1の始期から第2熱交換器242により空気を効率よく冷却して車室に供給することができる。
【0076】
熱媒体温度に代えて、あるいは熱媒体温度に加え、他の指標を用いて室内熱交換器バイパスモードm0から第1冷房モードm1へと移行させるようにしてもよい。当該指標としては、冷房運転の開始時からの経過時間、車室の室温等を挙げることができる。
【0077】
なお、室内熱交換器バイパスモードm0を実施しないで、冷房運転の開始時から当該モードm0の実施に要する時間が経過するまでの間に亘り、室内送風機24Aを停止させた後、第1冷房モードm1を開始すると共に、室内送風機24Aの作動を開始させるようにしてもよい。その場合は、車室内への風の吹き出し開始が遅れるとしても、熱風が吹き出されるのを防ぎながら、第1冷房モードm1および第2冷房モードm2の実施により、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0078】
[第3実施形態]
第3実施形態の温調システムは、室内熱交換器バイパスモードm0から、第1冷房モードm1へは移行しないで、第2冷房モードm2(温調熱交換器供給モード)へと移行する。つまり、第3実施形態の急速冷房モードMは、室内熱交換器バイパスモードm0と、第2冷房モードm2(温調熱交換器供給モード)とからなる。
この点を除き、第3実施形態の温調システムは、第2実施形態の温調システム2と同様に構成することができる。そのため、第3実施形態の温調システムの図示を省略する。
【0079】
冷房運転の開始後、図5と同様に、蒸発器14を流出した熱媒体がバイパス経路25を通じてり第1、第2熱交換器241,242から迂回される室内熱交換器バイパスモードm0が行われる。制御装置6は、温度センサSにより検知される熱媒体の温度が所定の閾値Tに対して低いのならば、回路切替装置30により、室内熱交換器バイパスモードm0から、図4に示すように第1熱交換器241および第2熱交換器242の両方へと熱媒体が供給される第2冷房モードm2へと運転モードを移行させる。
【0080】
第3実施形態によれば、第2冷房モードm2に先行する室内熱交換器バイパスモードm0中に、熱媒体が室内熱交換器24から迂回しつつ蒸発器14により冷却される。そのため、冷房開始直後から第2冷房モードm2が実施される場合と比べ、室内熱交換器24の温度降下に費やされる時間が削減される分、吹き出し温度の低下を促進させることができるから、急速冷房が実現する。
【0081】
〔第4実施形態〕
次に、図6および図7を参照し、加熱用途の車両用温調システム7について説明する。温調システム7は、第1実施形態の急速冷房と同様の考え方に基づき、急速暖房を提供する。暖房時は、冷房時とは逆に、蒸発器14には室外熱交換器23が接続され、凝縮器12には室内熱交換器24が接続される。暖房時の熱媒体の流れに関し、上記各実施形態に記載の蒸発器14を凝縮器12に読み替え、かつ、温度の降下を温度の上昇に読み替えることにより、第1実施形態および変形例の構成を暖房運転に転用することができる。
【0082】
したがって、温調システム7は、凝縮器12を流出した熱媒体が室内熱交換器の複数の熱交換器241,242に供給される第2暖房モードhm2(図7)と、第2暖房モードhm2に先行して、凝縮器12を流出した熱媒体が第2熱交換器242のみに供給される第1暖房モードhm1(図6)とを含む急速暖房モードHMを備えている。
なお、第1実施形態の温調システム1が、急速冷房モードMに加えて急速暖房モードHMを備えていてもよい。
【0083】
制御装置6は、第1暖房モードhm1において、少なくとも凝縮器12を含む熱媒体回路20の熱媒体の温度を図示しない温度センサにより監視し、当該温度センサにより検知される熱媒体の温度が所定の閾値を上回ったのならば、第1暖房モードhm1から第2暖房モードhm2へと移行させることができる。
【0084】
第4実施形態によれば、例えば厳寒期の駐車により外気温度以下にまで熱媒体および熱交換器241,242の温度が降下しているとしても、第1暖房モードhm1を実施するステップに続いて、第2暖房モードhm2を実施するステップを行うことにより、暖房運転の初期に室内熱交換器24の温度上昇に費やされる時間を抑え、温調を促進することができる。そのため、急速暖房を実現することが可能となる。
【0085】
〔第5実施形態〕
図8に示す第5実施形態の温調システム8は、第2実施形態または第3実施形態と同様の考え方に基づき、凝縮器12を流出した熱媒体を第1、第2熱交換器241,242から迂回させるバイパス経路26を備えている。
温調システム8によると、凝縮器12を流出した熱媒体がバイパス経路26により第1、第2熱交換器241,242から迂回される室内熱交換器バイパスモードhm0、第1暖房モードhm1、第2暖房モードhm2の順に運転モードを移行させることができる。
あるいは、室内熱交換器バイパスモードhm0、温調熱交換器供給モードとしての第2暖房モードhm2の順に運転モードを移行させてもよい。
いずれにしても、暖房運転の前期(mh1またはmh0)には、暖房運転の後期(mh2)に熱媒体が供給される熱交換器241,242の数よりも少ない数、つまり1台または0台の熱交換器241,242に熱媒体が供給されることから、室内熱交換器24の温度上昇に費やされる時間を抑えて温調を促進することができる。
【0086】
上記以外にも、上記各実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
室内熱交換器24は、3つ以上の熱交換器を備えていてもよい。その場合でも、例えば、蒸発器14を流出する熱媒体が室内熱交換器24に備わる一部の熱交換器に限定して供給される第1冷房モードm1が、蒸発器14を流出する熱媒体が室内熱交換器24に備わる複数の熱交換器のいずれにも供給される第2冷房モードm2に先行して行われることにより、第1実施形態等と同様の効果を得ることができる。また、空気流れAFに関して直列に配置される複数の熱交換器のうちの空気流れAFにおける相対的に下流に配置される一部の熱交換器(1つ以上の熱交換器)のみに、蒸発器14を流出した熱媒体が供給されることが好ましい。
【0087】
温調対象と熱媒体とを熱交換させる温調熱交換器は、車室の空気を温調する室内熱交換器24には限らず、車載のバッテリーを温調するものであってもよい。その場合でも、例えば第1実施形態と同様に、温調熱交換器に備わる複数の熱交換器に熱媒体が供給される第2冷房モードに対して、一部の熱交換器にのみ熱媒体が供給される第1冷房モードを先行して行うことにより、バッテリーの急速冷却を実現することができる。
【0088】
〔付記〕
以上の開示により、以下に示す構成が把握される。
〔1〕車両用の温調システム(1,2)であって、
圧縮機(11)、高圧側熱交換器(12)、減圧部(13)、および低圧側熱交換器(14)を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路(10)と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路(20)と、を備え、
前記熱媒体回路(20)は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記高圧側熱交換器(12)と、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器(14)と、
外気と前記熱媒体とを熱交換させる外気熱交換器(23)と、
温調対象と前記熱媒体とを熱交換させる温調熱交換器(24)と、を含み、
前記温調熱交換器(24)は、複数の熱交換器(241,242)を備え、
前記温調システム(1,2)は、
前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の複数の前記熱交換器(241,242)に供給される第2冷却モード(m2)と、前記第2冷却モード(m2)に先行して、前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の一部の前記熱交換器(242)に供給される第1冷却モード(m1)と、を含む急速冷却モード(M)を備える、車両用温調システム(1,2)。
【0089】
〔2〕前記温調対象としての空気と前記熱媒体とを熱交換させる前記温調熱交換器(24)は、
前記熱交換器としての第1熱交換器(241)と、
前記空気の流れ(AF)において前記第1熱交換器(241)よりも下流に配置される前記熱交換器としての第2熱交換器(242)と、を備え、
前記第1冷却モード(m1)では、前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記第1熱交換器(241)および前記第2熱交換器(242)の一方のみに供給され、
前記第2冷却モード(m2)では、前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記第1熱交換器(241)および前記第2熱交換器(242)のいずれにも供給される、
〔1〕項に記載の車両用温調システム(1,2)。
【0090】
〔3〕前記第1冷却モード(m1)では、前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記第1熱交換器(241)および前記第2熱交換器(242)のうち前記第2熱交換器(242)のみに供給される、
〔2〕項に記載の車両用温調システム(1,2)。
【0091】
〔4〕
前記第2熱交換器(242)は、前記第1熱交換器(241)と比べて熱交換能力が大きい、
〔2〕または〔3〕項に記載の車両用温調システム(1,2)。
【0092】
〔5〕前記低圧側熱交換器(14)に対して、前記第1熱交換器(241)と前記第2熱交換器(242)とが選択的に接続可能に構成されている、
〔2〕から〔4〕のいずれか一項に記載の車両用温調システム(1,2)。
【0093】
〔6〕前記低圧側熱交換器(14)を含む前記熱媒体回路(20)の前記熱媒体の温度を検知する温度センサ(S)を備え、
前記第1冷却モード(m1)において前記温度センサ(S)により検知される温度が所定温度に対して低いのならば、前記第1冷却モード(m1)から前記第2冷却モード(m2)へと移行する、
〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の車両用温調システム(1,2)。
【0094】
〔7〕前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体を前記温調熱交換器(24)から迂回させるバイパス経路(25)を備える、
〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の車両用温調システム(2)。
【0095】
〔8〕前記低圧側熱交換器(14)を含む前記熱媒体回路(20)の前記熱媒体の温度を検知する温度センサ(S)を備え、
前記急速冷却モード(M)は、
前記第1冷却モード(m1)に先行して、前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記バイパス経路(25)により前記温調熱交換器(24)から迂回されながら、前記低圧側熱交換器(14)により冷却される温調熱交換器バイパスモード(m0)を含み、
前記温調熱交換器バイパスモード(m0)において前記温度センサ(S)により検知される温度が所定温度に対して低いのならば、前記温調熱交換器バイパスモード(m0)から前記第1冷却モード(m1)へと移行する、
〔7〕項に記載の車両用温調システム(2)。
【0096】
〔9〕車室内の温度を検知する室温センサ(S2)と、車外の温度を検知する外気温センサ(S1)と、を備え、
前記室温センサ(S2)により検知される温度が前記急速冷却モード(M)の終了に対応する定常温度に対して低く、かつ、前記外気温センサ(S1)により検知される温度が所定の第1温度に対して低いのならば、前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の一部の前記熱交換器(241または242)のみに限定して供給される第3冷却モードへと移行する、〔2〕から〔5〕のいずれか一項に記載の車両用温調システム(1,2)。
【0097】
〔10〕前記室温センサ(S2)により検知される温度が、前記急速冷却モード(M)の終了に対応する定常温度に対して低く、かつ、前記外気温センサ(S1)により検知される温度が前記第1温度よりも低い第2温度に対して低いのならば、前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記第1熱交換器(241)のみに限定して供給される前記第3冷却モードへと移行する、
〔9〕に記載の車両用温調システム。
【0098】
〔11〕車両用の温調システム(7)であって、
圧縮機(11)、高圧側熱交換器(12)、減圧部(13)、および低圧側熱交換器(14)を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路(10)と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路(20)と、を備え、
前記熱媒体回路(20)は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記高圧側熱交換器(12)と、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器(14)と、
外気と前記熱媒体とを熱交換させる外気熱交換器(23)と、
温調対象と前記熱媒体とを熱交換させる温調熱交換器(24)と、を含み、
前記温調熱交換器(24)は、複数の熱交換器(241,242)を備え、
前記温調システム(7)は、
前記高圧側熱交換器(12)を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の複数の前記熱交換器(241,242)に供給される第2加熱モード(hm2)と、前記第2加熱モード(hm2)に先行して、前記高圧側熱交換器(12)を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の一部の前記熱交換器(241または242)に供給される第1加熱モード(hm1)と、を含む急速加熱モード(HM)を備える、車両用温調システム(7)。
【0099】
〔12〕車両用の温調システム(3,8)であって、
圧縮機(11)、高圧側熱交換器(12)、減圧部(13)、および低圧側熱交換器(14)を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路(10)と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路(20)と、を備え、
前記熱媒体回路(20)は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記高圧側熱交換器(12)と、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器(14)と、
外気と前記熱媒体とを熱交換させる外気熱交換器(23)と、
温調対象と前記熱媒体とを熱交換させる温調熱交換器(24)と、
前記低圧側熱交換器(14)および前記高圧側熱交換器(12)の一方を流出した前記熱媒体を前記温調熱交換器(24)から迂回させるバイパス経路(25,26)と、を含み、
前記温調熱交換器(24)は、複数の熱交換器(241,242)を備え、
前記温調システム(3,8)は、
前記低圧側熱交換器(14)および前記高圧側熱交換器(12)の前記一方を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の複数の前記熱交換器(241,242)に供給される温調熱交換器供給モード(m2,mh2)と、前記温調熱交換器供給モード(m2,mh2)に先行して、前記低圧側熱交換器(14)および前記高圧側熱交換器(12)の前記一方を流出した前記熱媒体が前記バイパス経路(25,26)により前記複数の熱交換器(241,242)から迂回される温調熱交換器バイパスモード(m0,hm0)と、を含む急速温調モード(M,HM)を備える、車両用温調システム(3,8)。
【0100】
〔13〕車両用の温調システム(1,2)を用いる温調方法であって、
前記温調システム(1,2)は、
圧縮機(11)、高圧側熱交換器(12)、減圧部(13)、および低圧側熱交換器(14)を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路(10)と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路(20)と、を備え、
前記熱媒体回路(20)を流れる前記熱媒体と温調対象とを熱交換させる温調熱交換器(24)は、複数の熱交換器(241,242)を備え、
前記温調方法は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の複数の前記熱交換器(241,242)に供給される第2冷却モード(m2)を実施するステップと、
前記第2冷却モード(m2)に先行して、前記低圧側熱交換器(14)を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の一部の前記熱交換器(242)に供給される第1冷却モード(m1)を実施するステップと、を備える、車両用温調方法。
【0101】
〔14〕車両用の温調システム(7)を用いる温調方法であって、
前記温調システム(7)は、
圧縮機(11)、高圧側熱交換器(12)、減圧部(13)、および低圧側熱交換器(14)を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路(10)と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路(20)と、を備え、
前記熱媒体回路(20)を流れる前記熱媒体と温調対象とを熱交換させる温調熱交換器(24)は、複数の熱交換器(241,242)を備え、
前記温調方法は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記高圧側熱交換器(12)を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の複数の前記熱交換器(241,242)に供給される第2加熱モード(hm2)を実施するステップと、
前記第2加熱モード(hm2)に先行して、前記高圧側熱交換器(12)を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の一部の前記熱交換器(241または242)に供給される第1加熱モード(hm1)を実施するステップと、を備える、
車両用温調方法。
【0102】
〔15〕車両用の温調システム(3,8)を用いる温調方法であって、
前記温調システム(3,8)は、
圧縮機(11)、高圧側熱交換器(12)、減圧部(13)、および低圧側熱交換器(14)を含み、冷凍サイクルに従って冷媒が循環可能に構成される冷媒回路(10)と、
前記冷媒に対して熱を授受する熱媒体が循環可能に構成される熱媒体回路(20)と、を備え、
前記熱媒体回路(20)を流れる前記熱媒体と温調対象とを熱交換させる温調熱交換器(24)は、複数の熱交換器(241,242)を備え、
前記温調方法は、
前記冷媒と前記熱媒体とを熱交換させる前記低圧側熱交換器(14)および前記高圧側熱交換器(12)の一方を流出した前記熱媒体が前記温調熱交換器(24)の複数の前記熱交換器(241,242)に供給される温調熱交換器供給モード(m2,hm2)を実施するステップと、
前記温調熱交換器供給モード(m2,hm2)に先行して、前記低圧側熱交換器(14)および前記高圧側熱交換器(12)の前記一方を流出した前記熱媒体が前記複数の熱交換器(241,242)から迂回される温調熱交換器バイパスモード(m0,hm0)を実施するステップと、を備える、
車両用温調方法。
【符号の説明】
【0103】
1,2,7,8 温調システム
4 バッテリー装置
5 走行用モーター装置
6 制御装置
10 冷媒回路
11 圧縮機
12 凝縮器(高圧側熱交換器)
13 膨張弁(減圧部)
14 蒸発器(低圧側熱交換器)
20 熱媒体回路
21 第1ポンプ
22 第2ポンプ
23 室外熱交換器(外気熱交換器)
24 室内熱交換器(温調熱交換器)
24A 室内送風機
25,26 バイパス経路
30 回路切替装置
40 バッテリー用回路
41 バッテリー本体
42 ポンプ
43 バッテリー用熱交換器
45 プレート部材
51 ポンプ
121 凝縮器入口
122 凝縮器出口
141 蒸発器入口
142 蒸発器出口
241 第1熱交換器
242 第2熱交換器
A~N ポート
AF 空気流れ
C1 第1熱媒体回路
C2 第2熱媒体回路
H1 第1熱媒体
H2 第2熱媒体
M 急速冷房モード(急速冷却モード、急速温調モード)
HM 急速暖房モード(急速加熱モード、急速温調モード)
m0 室内熱交換器バイパスモード(温調熱交換器バイパスモード)
m1 第1冷房モード(第1冷却モード)
m2 第2冷房モード(第2冷却モード、温調熱交換器供給モード)
hm0 室内熱交換器バイパスモード(温調熱交換器バイパスモード)
hm1 第1暖房モード(第1加熱モード)
hm2 第2暖房モード(第2加熱モード、温調熱交換器供給モード)
S 温度センサ
S1 外気温センサ
S2 室温センサ
U HVACユニット
V 三方弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8