(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132214
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】再生芳香族ポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/83 20060101AFI20240920BHJP
C08J 11/24 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08G63/83
C08J11/24 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042905
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】須之内 慧
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 遼
【テーマコード(参考)】
4F401
4J029
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401BA06
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4J029KA03
4J029KG01
4J029KG02
4J029KG03
(57)【要約】
【課題】芳香族ポリエステルを含むポリエステル繊維屑やポリエステル製品回収品などに含まれる芳香族ポリエステルを解重合し、再度重合することにより再生芳香族ポリエステルを得る再生芳香族ポリエステルの製造方法でありながら、バージン品(解重合を経ずに、モノマーを重合して製造された物)の芳香族ポリエステル並みに優れた耐熱性を有する再生芳香族ポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族ポリエステルを含むポリエステルを解重合したあと解重合で得られた成分を重縮合して再生芳香族ポリエステルを得る再生芳香族ポリエステルの製造方法であって、芳香族ポリエステルを含むポリエステルをアルキレングリコール中で解重合することで芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を得て、前記芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を精製し、精製された芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の存在下で重縮合して再生芳香族ポリエステルを得ることを特徴とする再生芳香族ポリエステルの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステルを含むポリエステルを解重合したあと解重合で得られた成分を重縮合して再生芳香族ポリエステルを得る再生芳香族ポリエステルの製造方法であって、芳香族ポリエステルを含むポリエステルをアルキレングリコール中で解重合することで芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を得て、前記芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を精製し、精製された芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の存在下で重縮合して再生芳香族ポリエステルを得ることを特徴とする再生芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
ポリエステルが回収ポリエステルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の精製が、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)のアルキレングリコール溶液中での晶析により行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の晶析後に洗浄が行われる、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
洗浄が水またはアルキレングリコールにより行われる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
晶析が、芳香族ポリエステルを解重合反応して得た溶液を、60℃以上の温度を始点として、25℃以下の温度に降温することで行われる、請求項3記載の製造方法。
【請求項7】
芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の洗浄後に乾燥して、その後に重縮合反応に供される、請求項4記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の製造方法から得られた再生芳香族ポリエステル。
【請求項9】
精製された芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)のアルキレングリコール含有量が100質量%以下であり、この状態で重縮合に供する、請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生芳香族ポリエステルの製造方法に関し、詳しくは芳香族ポリエステルを含むポリエステル屑や製品回収品などに含まれる芳香族ポリエステルを解重合し、再度重合することにより再生芳香族ポリエステルを得る再生芳香族ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエステルは、その優れた特性により、たとえば繊維、フィルム、樹脂成形品として広く用いられている。これらの製造工程や加工工程において、未使用のポリエステル原料や、繊維状、フィルム状、その他の形状の屑や端材が出る。また、ポリエステル製品として使用された繊維、フィルム、樹脂成形品は、使用後あるいは未使用の状態で廃棄されるが、このような廃棄物が環境を悪化させるとして問題になっている。
【0003】
これらの工程屑や端材、未使用原料や製品廃棄物の再利用方法として、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクル、サーマルリサイクルがある。ケミカルリサイクルの中でも芳香族ジカルボン酸1分子とジオール2分子とがエステル基で結合した形態のモノマー、またはそれがさらにエステル結合しているオリゴマーまで解重合した中間体を再度重合して用いるケミカルリサイクルは、直接重縮合反応により再生芳香族ポリエステルを製造することができるため、必要なエネルギーが少なく、優れた方法である。
【0004】
この方法として、例えばポリエチレンテレフタレートをエチレングリコール中で解重合して、テレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)を得て、これを重縮合して再生芳香族ポリエステルを得る方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
芳香族ポリエステルには、ポリエステル繊維の染色性改善などの目的で、スルホイソフタル酸ナトリウムなどのスルホイソフタル酸金属塩、スルホイソフタル酸テトラアルキルホスホニウム塩、スルホイソフタル酸テトラアルキルアンモニウム塩などのスルホイソフタル酸系成分がジカルボン酸成分として含まれている場合がある。この場合、単に解重合後、再重合して得られる再生芳香族ポリエステルは、分子量(固有粘度)や融点および結晶性が低下したり、副生物(ジエチレングリコールなど)が多くなるため、耐熱性に劣る課題があった。
【0007】
本発明の目的は、芳香族ポリエステルを含むポリエステル繊維屑やポリエステル製品回収品などに含まれる芳香族ポリエステルを解重合し、再度重合することにより再生芳香族ポリエステルを得る再生芳香族ポリエステルの製造方法でありながら、バージン品(解重合を経ずに、モノマーを重合して製造された物)の芳香族ポリエステル並みに優れた耐熱性を有する再生芳香族ポリエステルの製造方法を提供することにある。特に、スルホイソフタル酸成分がジカルボン酸成分として芳香族ポリエステルに含まれている場合であっても、バージン品の芳香族ポリエステル並みに優れた耐熱性を有する再生芳香族ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、芳香族ポリエステルを含むポリエステルを解重合したあと解重合で得られた成分を重縮合して再生芳香族ポリエステルを得る再生芳香族ポリエステルの製造方法であって、芳香族ポリエステルを含むポリエステルをアルキレングリコール中で解重合することで芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を得て、前記芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を精製し、精製された芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の存在下で重縮合して再生芳香族ポリエステルを得ることを特徴とする再生芳香族ポリエステルの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、芳香族ポリエステルを含むポリエステル繊維屑やポリエステル製品回収品などに含まれる芳香族ポリエステルを解重合し、再度重合することにより再生芳香族ポリエステルを得る再生芳香族ポリエステルの製造方法でありながら、バージン品(解重合を経ずに、モノマーを重合して製造された物)の芳香族ポリエステル並みに優れた耐熱性を有する再生芳香族ポリエステルの製造方法を提供することができる。特に、スルホイソフタル酸成分がジカルボン酸成分として芳香族ポリエステルに含まれている場合であっても、バージン品(解重合を経ずに、モノマーを重合して製造された物)の芳香族ポリエステル並みに優れた耐熱性を有する再生芳香族ポリエステルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
〔ポリエステル〕
本発明では、再生芳香族ポリエステルを得るための原料のポリエステルとして、ポリエステルの賦形品から回収されたポリエステル(以下「回収ポリエステル」という。)であって、芳香族ポリエステルを含む回収ポリエステルを用いる。ポリエステルの賦形品として、繊維、フィルム、シート、その他の形態に成形されたものを例示することができる。
【0012】
回収ポリエステルが繊維である場合、繊維加工品の形態であってもよい。フィルムやシートである場合、トレイや袋であってもよい。その他の形態としてボトルが例示される。
【0013】
回収ポリエステルは、これらを製造する工程で発生する端材や規格不適合品から回収されたものであってもよい。この端材や規格不適合品として、例えば要求水準を満足しない原料ペレット、成形時や加工時に不要になった材料や切断された断片、発生した屑、銘柄変更時に発生した移行品や試作品、不良品や、それらの裁断物を例示することができる。
【0014】
本発明の好ましい態様においては、回収ポリエステルとして、ポリエステル繊維屑を用いる。回収ポリエステルにおいて、ポリエステル繊維屑は、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは51質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上を占める。
【0015】
このポリエステル繊維屑には、繊維製品や繊維加工品として市場に出る前に製造工程や加工工程、流通などで端材などとして回収されたものや、市場に出た後で回収された繊維製品や繊維加工品が該当する。この繊維加工品は、使用されていてもよく、使用されていなくてもよい。廃棄されたものであってもよい。
【0016】
ポリエステル繊維屑は、ポリエステル繊維を構成繊維としてればよく、他に綿、毛、絹などの天然繊維、レーヨンやキュプラ、アセテート、リヨセルなどの天然素材由来の化学繊維、ポリアミド繊維やアクリル繊維、ウレタン繊維などのポリエステル繊維以外の合成繊維が含まれていてもよい。
【0017】
ポリエステル繊維屑は着色されていてもよく、発色性や鮮明性に優れたカチオン染料で染色できる、カチオン可染ポリエステル繊維であってもよい。このカチオン可染ポリエステル繊維は、カチオン染料がイオン結合できる、芳香環上にスルホン酸塩基を置換基として持つ芳香族ジカルボン酸が共重合された芳香族ポリエステルからなる。
【0018】
〔芳香族ポリエステル〕
芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合させて得られたポリマーである。芳香族ポリエステルは、ホモポリマーであってもよく、共重合ポリマーであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0019】
芳香族ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸を例示することができ、好ましくはテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、特に好ましくはテレフタル酸である。
【0020】
上記の芳香族ジカルボン成分の他に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、5-テトラブチルアンモニウムスルホイソフタル酸といった、芳香環上にスルホン酸塩基を置換基として持つ芳香族ジカルボン酸が共重合されていてもよい。
【0021】
芳香族ポリエステルを構成するジオール成分として、炭素数2~20の脂肪族グリコールまたは脂環族ジオールを用いることができる。具体的には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールを例示することができ、好ましくはエチレングリコール、1,3‐プロパンジオール、1,4‐ブタンジオール、1,4‐シクロヘキサンジメタノールである。
【0022】
芳香族ポリエステルとして好ましいものは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用い、ジオールとしてアルキレングリコールを用いたポリアルキレンテレフタレートである。このとき、アルキレングリコールとして、好ましいものはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールである。芳香族ポリエステルとして好ましいものは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートである。これらの芳香族ポリエステルは共重合体であってもよい。
【0023】
スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸が含まれている共重合芳香族ポリエステルはカチオン染料への染色性が良好であり、このため、この成分は繊維の芳香族ポリエステルに含まれていることが多い。
【0024】
本発明において、芳香族ポリエステルは、スルホン酸塩基、特に金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分がジカルボン酸成分として含まれている共重合芳香族ポリエステルであってもよい。
【0025】
金属スルホネート基を有するイソフタル酸として、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を例示することができる。この場合、後に説明する解重合で得られる芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)は、5-ソジオスルホイソフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)となる。
芳香族ポリエステルにおけるスルホイソフタル酸塩成分の全ジカルボン酸成分に対する共重合量は0.5~15モル%、好ましくは1~10モル%である。
【0026】
本発明によれば、スルホイソフタル酸塩成分の共重合された共重合芳香族ポリエステルが、解重合の原料となる芳香族ポリエステルに混入していても、高い耐熱性を備える再生芳香族ポリエステルを得ることができる。
【0027】
本発明が対象とする芳香族ポリエステルとして好ましい例は、主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、従たるジカルボン酸成分が5-ナトリウムスルホイソフタル酸を含み、ジオール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステルである。ここで「主たる」とは、全ジカルボン酸成分あたり80モル%以上、好ましくは90モル%以上をいう。
【0028】
〔解重合〕
本発明では、芳香族ポリエステルをアルキレングリコール中で解重合する。この解重合反応は、触媒の存在下で行い、触媒として、好ましくはマンガン系触媒または亜鉛系触媒、特に好ましくはマンガン系触媒を用いる。
【0029】
マンガン系触媒として、マンガンの脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物(酸化マンガン)、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラートを例示することができる。マンガンの脂肪酸塩として、酢酸マンガンを例示することができる。
【0030】
マンガン系触媒として、再重合後のポリマー色相の観点から、好ましくは酸化マンガン、酢酸マンガン、特に好ましくは酢酸マンガンを用いる。これらは、単独で用いてもよく、複数を組み合わせてもよい。触媒は、予めアルキレングリコール中に溶解または懸濁させて、溶液または懸濁液として用いる。
【0031】
酢酸マンガンを触媒として用いた場合には、アルキレングリコールへの溶解性が高く、残存する触媒の量を減少させることができる。解重合反応で使用するアルキレングリコールの量は、芳香族ポリエステルの質量を基準として、好ましくは2~20倍量、さらに好ましくは3~10倍量である。この範囲でアルキレングリコールを使用することにより、触媒、その他の異物の混入量を低減することができるため好ましい。
【0032】
マンガン系触媒の解重合反応での使用量は、芳香族ポリエステルを構成する全ジカルボン酸分に対して、好ましくは20~500mmol%、さらに好ましくは30~300mmol%、特に好ましくは50~150mmol%である。マンガン系触媒を用いない場合、このような低濃度の触媒添加量で十分な解重合を行うことができない。触媒の使用量が20mmol%未満であると触媒活性が十分ではなく好ましくなく、500mmol%を超えると変色を抑制する効果が少なくなり好ましくない。
【0033】
解重合反応の温度は、例えば180~250℃、好ましくは185~210℃であり、時間は例えば0.5~10時間、好ましくは1~4時間である。圧力は常圧でもよく、例えば760~2000mmHgでもよい。
【0034】
〔アルキレングリコール〕
アルキレングリコールとして、上記の芳香族ポリエステルを構成しているジオール成分と同じものを用いるか、本発明の製造方法にて得る再生芳香族ポリエステルを構成するジオール成分と同じものを用いることが好ましい。
すなわち、芳香族ポリエステルまたは再生芳香族ポリエステルに応じて、アルキレングリコールとして、以下のものを用いることが好ましい。
【0035】
芳香族ポリエステルおよび/または再生芳香族ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである場合には、アルキレングリコールとして好ましくはエチレングリコールを用いる。
芳香族ポリエステルおよび/または再生芳香族ポリエステルがポリトリメチレンテレフタレートの場合には、アルキレングリコールとして好ましくは1,3-プロパンジオール(トリメチレングリコール)を用いる。
【0036】
芳香族ポリエステルおよび/または再生芳香族ポリエステルがポリブチレンテレフタレートである場合には、アルキレングリコールとして好ましくは1,4-ブタンジオールを用いる。
いずれの場合も、アルキレングリコールは、芳香族ポリエステルおよび/または再生芳香族ポリエステルを構成するアルキレングリコールの混合物であってもよい。
【0037】
〔精製〕
本発明では、芳香族ポリエステルを解重合して得た芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を精製することが肝要である。
芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の精製は、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)のアルキレングリコール溶液中での晶析により行われることが好ましい。
【0038】
晶析は、芳香族ポリエステルを解重合反応して得た溶液を、60℃以上の温度を始点として、25℃以下の温度に降温することで行うことが好ましく、さらに15℃以下の温度に降温することで行うことが好ましい。
【0039】
降温することにより、晶析された芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の固体は、液体である溶液と分離することになる。晶析させた芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の固体を「ケーク」という。ケークは液体と分離してから重縮合反応に供する。
【0040】
本発明の態様の一つとして、芳香族ポリエステルが金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分を共重合成分として含む芳香族ポリエステルであり、すなわち、主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、従たるジカルボン酸成分が5-ナトリウムスルホイソフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステルである態様がある。この場合、これを解重合して得られるものは、主たる解重合物はテレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)であり、従たる解重合物は5-ソジオスルホイソフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)であり、得られた解重合物はこれらを含む混合物となる。これを精製すると、テレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)(ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートまたはBHETと称することがある)がケークとして晶出する一方、従たる解重合物である5-ソジオスルホイソフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)(BHESIと称することがある)は晶出せず液状のまま存在するため、固液分離により晶出するBHETを固状で得、晶析しない液状のBHESIと分離をすることができ、BHETを高い純度で取り出すことができる。
【0041】
従って、本発明では、芳香族ポリエステルに、金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分を共重合成分として含む芳香族ポリエステルが含まれていても、これを解重合して、該共重合成分を分離し、再度重縮合することで、耐熱性に優れた再生芳香族ポリエステルを製造することができる。このとき、芳香族ポリエステルに含まれる金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分の量は、芳香族ポリエステルの全ジカルボン酸成分の量を基準といて、例えば2モル%以下、好ましくは0.5モル%以下である。
【0042】
〔洗浄〕
芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)のケークは、洗浄することが好ましい。すなわち、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の晶析後に洗浄が行われることが好ましい。
【0043】
ケークの洗浄は、洗浄液として好ましくは水またはアルキレングリコールを用いて行う。洗浄液は、粘度が低いこと好ましく、この観点からは水が好ましい。洗浄は、洗浄液をケークに噴霧しながらヌッチェろ過器にて処理することで行うことが好ましい。
【0044】
洗浄することにより、解重合後のアルキレングリコール溶液中に溶解していた解重合触媒や、解重合に供した芳香族ポリエステルに含有されていた着色原因物質が洗い流され、純度の高い芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を得ることができる。
【0045】
洗浄で用いる洗浄液の量は、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)のケークの質量に対して、好ましくは1~100倍量、さらに好ましくは1.5~10倍量である。洗浄液の温度は、好ましくは0~40℃である。温度が40℃を超えるとケーク自体が溶解しやすくなり収率が低下して好ましくない。
【0046】
洗浄後、ケークを乾燥して、スルホ基を持たない高純度の芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)を得ることができる。乾燥は、例えば真空乾燥機を用いて行うことができる。
【0047】
洗浄液にアルキレングリコールを用い、かつ用いたアルキレングリコールが再生芳香族ポリエステルのジオール成分と同一である場合には、乾燥を行わずに重縮合に供してもよい。
【0048】
芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の洗浄後に乾燥して、その後に重縮合反応に供さする態様は、好ましい態様である。
【0049】
〔重縮合〕
芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)から再生芳香族ポリエステルを得るために重縮合を行う。この重縮合反応は、重合触媒を用い、かつ、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の存在下で行う。重縮合反応自体は、当業界で慣用される重合触媒を用いて、当業界で慣用される方法で行うことができる。重縮合反応は、重縮合反応時に発生するアルキレングリコールを反応容器外に溜去しながら行うことが好ましい。
【0050】
重合触媒として、アンチモン系、ゲルマニウム系、チタン系の触媒を例示することができ、好ましくはアンチモン系触媒を用いる。アンチモン系触媒として、例えば三酸化二アンチモンを用いる。重合触媒の使用量は、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の質量に対して、好ましくは10~1000ppmである。
【0051】
重縮合反応に供するときの、精製された芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)のケークのアルキレングリコール含有量は、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の質量を基準として、好ましくは100質量%以下であり、さらに好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。
【0052】
重縮合反応の温度は、例えば230~330℃、好ましくは250~310℃であり、反応時間は例えば240分間以下、好ましくは180分間以下である。圧力は減圧下で行い、例えば100Pa以下、好ましくは50Pa以下である。
【0053】
〔アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属〕
アルカリ金属として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを例示することができ、好ましくはナトリウム、カリウムを用いる。
アルカリ土類金属として、カルシウム、バリウム、ベリリウム、マグネシウムを例示することができ、好ましくはカルシウム、マグネシウムを用いる。
アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属として特に好ましいものは、ナトリウムである。
【0054】
アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の使用量は、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の質量に対して、再重合後のポリマー色相の観点から、好ましくは5~1000ppm、さらに好ましくは10~500ppmである。
アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属は、それぞれの塩の形態で用いることが好ましい。すなわち、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩として用いることが好ましい。
【0055】
アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を構成する酸成分として、プロピオン酸、酢酸、シュウ酸、ギ酸、炭酸などを例示することができ、好ましくは酢酸を用いる。
アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩として、好ましくは酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、さらに好ましくは酢酸ナトリウムを用いる。
【0056】
〔安定剤〕
重縮合反応時、リン系安定剤を添加することが好ましい。リン系安定剤は、公知のものを用いることができ、芳香族ジカルボン酸ビス(ヒドロキシアルキル)の質量に対して、例えば1~100ppmである。リン系安定剤として、例えば、亜リン酸、正リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、(2-ヒドロキシエチル)ホスホン酸ジメチルおよび/またはフェニルホスホン酸を例示することができ、好ましくは正リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニルである。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。実施例中の各値は、以下の方法により求めた。
【0058】
1)極限粘度数(IV)
ポリエステル0.6gをo-クロロフェノール50cc中に加熱溶解した後、一旦冷却させ、ウベローデ式粘度計を用いて35℃の温度条件で測定したその溶液の溶液粘度から、別途作成した検量線を用いて算出した。
【0059】
2)5-ナトリウムスルホイソフタル酸の含有量
サンプルを、プレート状に成型し、RIGAKU社製蛍光X線装置ZSXPrimus IIにて、スルホ基由来の硫黄含有量を測定し、5-ナトリウムスルホイソフタル酸の含有量を算出した。
【0060】
3)融点(Tm)
サンプルを10mg切り取りアルミパンに充填し、TA Instruments-Waters LLC社製「DSC装置Q10」にて融点を測定した。測定条件としては、まず昇温速度20℃/分間にて25℃から300℃まで一旦昇温後、急冷しクエンチした。そしてこのクエンチしたサンプルに対して20℃/分間にて、25℃から300℃まで昇温し、結晶融点を求めた。
【0061】
4)ジエチレングリコール(DEG)含有量
抱水ヒドラジンを用いてポリエステルを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ-(ヒューレットパッカード社製「HP6850」)を用いて測定した。
【0062】
〔参考例1〕(5-ナトリウムスルホイソフタル酸共重合芳香族ポリエステルの製造1)
窒素雰囲気下で常圧下の反応容器に、ジメチルテレフタレート(DMT)191.3質量部、エチレングリコール(EG)124.2質量部、竹本油脂社製 ジメチル5スルホイソフタル酸ナトリウム4.4質量部を加え、触媒として酢酸マンガン0.07質量部、酢酸ナトリウム0.22質量部を加え、反応温度を240℃とし、メタノールを除去しながらエステル交換反応を実施した。
【0063】
次に、エステル交換反応が完了した反応物に対して、三酸化二アンチモン0.07質量部、正リン酸0.03質量部を仕込んだ。反応容器内の温度を285℃とし常圧で10分間、4kPaで10分間、0.4kPaで40分間の条件でそれぞれ段階的に減圧し、反応で発生するエチレングリコールなどを反応容器外に溜去しながら重縮合反応を行った。溜出部へのオリゴマー閉塞などは発生しなかった。生成した共重合芳香族ポリエステルの品質を表1に示す。
【0064】
〔参考例2〕(5-ナトリウムスルホイソフタル酸共重合芳香族ポリエステルの製造2)
参考例1において、ジメチルテレフタレート(DMT)を185.7質量部、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを13.0質量部とする以外は参考例1と同様の条件で実施して、共重合芳香族ポリエステルを得た。品質を表1に示した。
【0065】
〔参考例3〕(芳香族ポリエステルの製造)
窒素雰囲気下で常圧下の反応容器にジメチルテレフタレート(DMT)194.2質量部、エチレングリコール(EG)124.2質量部、酢酸Mn0.07質量部を加え、反応温度を240℃とし、メタノールを溜去しながらエステル交換反応を実施した。
【0066】
次にエステル交換反応が完了した反応物に対して、三酸化二アンチモン0.07質量部、正リン酸0.03質量部を仕込んだ。反応容器内の温度を285℃とし常圧で10分間、4kPaで10分間、0.4kPaで40分間の条件でそれぞれ段階的に減圧し、反応で発生するエチレングリコールなどを反応容器外に溜去しながら重縮合反応を行った。溜出部へのオリゴマー閉塞などは発生しなかった。生成した芳香族ポリエステルの品質を表1に示した。
【0067】
〔実施例1〕
参考例1にて得た共重合芳香族ポリエステル300質量部に対して、エチレングリコール(EG)1500質量部および酢酸マンガン0.38質量部(共重合芳香族ポリエステルの全ジカルボン酸成分に対して100mmol%)を2Lのセパラブルフラスコに投入した。
【0068】
この時、酢酸マンガンは、あらかじめEGに溶解して溶液としてから用いた。その後、窒素封入下で撹拌しながら、202℃にて4時間の解重合反応を行い、解重合サンプルを得た。
得られた解重合サンプルを70℃まで徐冷後、15℃の恒温槽にて撹拌冷却しながら、内温を降温、ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)の結晶を析出させ、BHET/EGスラリーを得た。
【0069】
BHET/EGスラリーは、日本濾過装置株式会社製フィルタープレスにて圧搾処理を実施し、BHETとEGの固液分離を行い、BHETのケークを得た。この時のBHETは、フィルタープレス後に回収したケークに対して、EGを34質量%含有していた。
【0070】
このEG分離を実施したBHETのケークに対して、その2質量倍の純水を噴霧しながら、ヌッチェろ過器にて水洗浄処理を実施した。固液分離が完了したBHETのケークを真空乾燥器にて50℃、8時間乾燥処理を実施し、解重合サンプル1を得た。
その後、窒素雰囲気下で常圧下の反応容器に、この解重合サンプル1を254質量部、三酸化二アンチモン0.07質量部、正リン酸0.005質量部、酢酸ナトリウム0.22質量部を仕込んだ。
【0071】
次に、反応容器内の温度を285℃とし常圧で10分間、4kPaで10分間、0.4kPaで40分間の条件でそれぞれ段階的に減圧し、反応で発生するエチレングリコールなどを反応容器外に溜去しながら重縮合反応を行い、再生芳香族ポリエステルを得た。
この再生芳香族ポリエステルは、解重合および重縮合を経たにも関わらす、原料の芳香族ポリエステルよりもIVおよび融点が高く、また白色であって高品質の再生芳香族ポリエステルであった。その品質を表2に示す。
【0072】
〔実施例2〕
実施例1にて使用した参考例1の共重合芳香族ポリエステルを、参考例2の共重合芳香族ポリエステルとしたこと以外は実施例1と同様にして解重合反応を実施し、解重合サンプル2を得た。
窒素雰囲気下で常圧下の反応容器に、この解重合サンプル2を254質量部、三酸化二アンチモン0.07質量部、正リン酸0.005質量部、酢酸ナトリウム0.22質量部を仕込んだ。
【0073】
次に反応容器内の温度を285℃とし、常圧で10分間、4kPaで10分間、0.4kPaで40分間の条件で、それぞれ段階的に減圧し、反応で発生するエチレングリコールなどを反応容器外に溜去しながら重縮合反応を行い、再生芳香族ポリエステルを得た。
得られた再生芳香族ポリエステルは、解重合および重縮合を経たにも関わらす、原料の芳香族ポリエステルよりもIVおよび融点が高く、また白色であって高品質の再生芳香族ポリエステルであった。その品質を表2に示した。
【0074】
〔比較例1〕
参考例1にて得た共重合芳香族ポリエステル300質量部に対して、エチレングリコール(EG)1500質量部および酢酸マンガン0.38質量部を、容量2Lのセパラブルフラスコに投入し、窒素封入下で撹拌しながら、202℃にて4時間の解重合反応を行い、解重合サンプルを得た。
窒素雰囲気下で常圧下の反応容器に、上記で得た解重合サンプル508質量部、三酸化二アンチモン0.07質量部、正リン酸0.005質量部および酢酸ナトリウム0.22質量部を仕込んだ。
【0075】
次に、反応容器内の温度を285℃とし、常圧で10分間、4kPaで10分間、0.4kPaで40分の条件で、それぞれ段階的に減圧し、反応で発生するエチレングリコールなどを反応容器外に溜去しながら重縮合反応を行い、再生芳香族ポリエステルを得た。
得られた再生芳香族ポリエステルは、スルホイソフタル酸Naの残存含有量が多く、IV値および融点が実施例よりも劣るものであった。品質を表2に示した。
【0076】
〔比較例2〕
窒素雰囲気下で常圧下の反応容器に、実施例2で得た解重合サンプル2を254質量部および三酸化二アンチモン0.07質量部、正リン酸0.005質量部を仕込んだ。
【0077】
次に、反応容器内の温度を285℃とし常圧で10分間、4kPaで10分間、0.4kPaで40分間の条件で、それぞれ段階的に減圧し、反応で発生するエチレングリコールなどを反応容器外に溜去しながら重縮合反応を行い、再生芳香族ポリエステルを得た。
得られた再生芳香族ポリエステルは、5-ナトリウムスルホイソフタル酸の含有量は少ないものの、融点は低くなった。品質を表2に示した。表中、「ND」は「検出されない」を意味する。
【0078】
【0079】