(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132245
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】波検出装置
(51)【国際特許分類】
G01F 23/2962 20220101AFI20240920BHJP
【FI】
G01F23/2962
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042953
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 ▲琢▼磨
【テーマコード(参考)】
2F014
【Fターム(参考)】
2F014AB02
2F014FB01
2F014GA01
(57)【要約】
【課題】検出精度が良好な波検出装置を提供する。
【解決手段】本開示は、液体に接触する伝搬体10と、伝搬体10を振動させる圧電素子20と、圧電素子20を制御し伝搬体10を伝搬する波を検出して波の伝搬時間を計測する制御部30と、を備えた波検出装置であって、制御部30は、圧電素子20に伝搬時間の起点となる起点振動を発生させる送信回路31と、起点振動が伝搬体10を伝搬し圧電素子20に返ってくる反射波の信号を圧電素子20の電圧変動により検出する受信回路32と、受信回路32が検出した信号に基づいて伝搬時間を計測する演算回路34と、を備え、受信回路32は、入力信号を増幅する増幅回路と、増幅回路が出力した信号から特定の周波数成分を取り出すフィルタ回路と、を備え、増幅回路は、入力信号のうちの正電圧側及び負電圧側の一方側の信号を主として出力するために、出力信号を正電圧側又は負電圧側へオフセットする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に接触する伝搬体と、前記伝搬体を振動させる圧電素子と、前記圧電素子を制御し前記伝搬体を伝搬する波を検出して前記波の伝搬時間を計測する制御部と、を備えた波検出装置であって、
前記制御部は、前記圧電素子に前記伝搬時間の起点となる起点振動を発生させる送信回路と、前記起点振動が前記伝搬体を伝搬し前記圧電素子に返ってくる反射波の信号を前記圧電素子の電圧変動により検出する受信回路と、前記受信回路が検出した信号に基づいて前記伝搬時間を計測する演算回路と、を備え、
前記受信回路は、入力信号を増幅する増幅回路と、前記増幅回路が出力した信号から特定の周波数成分を取り出すフィルタ回路と、を備え、
前記増幅回路は、入力信号のうちの正電圧側及び負電圧側の一方側の信号を主として出力するために、出力信号を正電圧側又は負電圧側へオフセットする
ことを特徴とする波検出装置。
【請求項2】
前記増幅回路は、非反転入力端子に入力された入力信号のうちの負電圧側の信号を主として出力するために、出力信号を正電圧側へオフセットし、
前記フィルタ回路は、反転入力端子に入力された入力信号を、波形の基線の位置が出力電圧範囲内で下限値に近づくようにオフセットして出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の波検出装置。
【請求項3】
前記受信回路は、前記フィルタ回路が出力した信号を二値化して前記演算回路へ出力する二値化回路を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の波検出装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記演算回路が計測する前記伝搬時間に基づいて、前記液体の液面位置、前記液体の種類、前記液体の溶液濃度、及び前記伝搬体に付着した前記液体の液滴のいずれかを検出する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の波検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、伝搬体を伝搬する波の伝搬時間を計時して伝搬体が接触する液体の状態(液面の位置、液種、溶液濃度、液滴)を検出する波検出装置が開示されている。そして、波検出装置の回路構成は、特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-68840号公報
【特許文献2】特開2016-138850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの波検出装置は、波を検出する検出精度において改善の余地があった。
【0005】
そこで、本開示は、検出精度が良好な波検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、液体に接触する伝搬体と、前記伝搬体を振動させる圧電素子と、前記圧電素子を制御し前記伝搬体を伝搬する波を検出して前記波の伝搬時間を計測する制御部と、を備えた波検出装置であって、前記制御部は、前記圧電素子に前記伝搬時間の起点となる起点振動を発生させる送信回路と、前記起点振動が前記伝搬体を伝搬し前記圧電素子に返ってくる反射波の信号を前記圧電素子の電圧変動により検出する受信回路と、前記受信回路が検出した信号に基づいて前記伝搬時間を計測する演算回路と、を備え、前記受信回路は、入力信号を増幅する増幅回路と、前記増幅回路が出力した信号から特定の周波数成分を取り出すフィルタ回路と、を備え、前記増幅回路は、入力信号のうちの正電圧側及び負電圧側の一方側の信号を主として出力するために、出力信号を正電圧側又は負電圧側へオフセットする。
【0007】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様の波検出装置であって、前記増幅回路は、非反転入力端子に入力された入力信号のうちの負電圧側の信号を主として出力するために、出力信号を正電圧側へオフセットし、前記フィルタ回路は、反転入力端子に入力された入力信号を、波形の基線の位置が出力電圧範囲内で下限値に近づくようにオフセットして出力する。
【0008】
本発明の第3の態様は、上記第2の態様の波検出装置であって、前記受信回路は、前記フィルタ回路が出力した信号を二値化して前記演算回路へ出力する二値化回路を備える。
【0009】
本発明の第4の態様は、上記第1の態様から上記第3の態様のいずれかの波検出装置であって、前記制御部は、前記演算回路が計測する前記伝搬時間に基づいて、前記液体の液面位置、前記液体の種類、前記液体の溶液濃度、及び前記伝搬体に付着した前記液体の液滴のいずれかを検出する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、検出精度が良好な波検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る波検出装置の構成図である。
【
図2】
図1の伝搬体、素子収容部及び圧電素子の軸方向の断面図である。
【
図4】伝搬体に振動を与えたときに圧電素子に入力される信号の波形を示す概略図である。
【
図5】受信回路に入力する信号の波形を示す図である。
【
図7】増幅回路に入力する表面波の入力信号を示す概略図である。
【
図8】増幅回路から出力する出力信号を示す概略図である。
【
図9】フィルタ回路から出力する出力信号を示す概略図である。
【
図10】二値化回路から出力する出力信号を示す概略図である。
【
図11】(a)は内部伝搬波の伝搬時間と伝搬体の温度との関係を示す説明図であり、(b)は表面波の伝搬時間と液面位置との関係を示す説明図である。
【
図12】液面検出処理を表すフローチャートである。
【
図13】本発明の第2実施形態に係る波検出装置の概略構成図である。
【
図14】第2実施形態の変形例に関する溶液の濃度と表面波の伝搬速度との関係を示す図であり、(a)は溶質が塩である場合を、(b)は溶質がアルコールである場合をそれぞれ示す。
【
図15】本発明の第3実施形態に係る波検出装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る波検出装置の構成図である。
図2は、
図1の伝搬体、素子収容部及び圧電素子の軸方向の断面図である。
図3は、波検出装置のブロック図である。
【0014】
図1及び
図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る波検出装置100は、容器1内に入れられた液体2の液面2aの位置(高さ位置)を検出する液面位置検出装置に適用される。液面2aの位置は、容器1内の液体2の量の増減に伴い、上下に変化する。
【0015】
波検出装置100は、液体2に接触する伝搬体10と、伝搬体10を振動させる圧電素子20と、圧電素子20を制御し伝搬体10を伝搬する波を検出して波の伝搬時間(以下、単に「伝搬時間」という場合がある。)を計測する制御部30とを備える。
【0016】
(伝搬体)
伝搬体10は、振動を良好に伝達可能な材質であり、本実施形態では、合成樹脂、特に、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を主体とし、場合によっては添加剤を加える。伝搬体10は、柱状(例えば四角柱状)に形成される。伝搬体10は、その延設方向(本実施形態では上下方向)に沿って帯状に延びて後述する表面波Wsが伝搬する平面状の伝搬面11を有する。伝搬体10は、その一部(例えば伝搬面11とは反対側の面)に切り欠いた溝12を備えている。この溝12は、後述する内部伝搬波Wiを反射する機能を有する(
図1参照)。なお、伝搬体10の形状は、四角柱に限定されるものではなく、表面波Wsが伝搬可能な平面状の伝搬面11を備えていればよい。また、本実施形態では、内部伝搬波Wiを反射するために溝12を設けたが、これに限定されるものではなく、内部伝搬波Wiを反射可能であれば、溝12に代えて他の構成(例えば、貫通穴等)を設けてもよい。
【0017】
伝搬体10の延設方向の一端(
図1における上端)側には、圧電素子20を収容する素子収容部13と、PCB(Printed Circuit Board)を収容する基板収容部14とが、伝搬体10に一体的に設けられる。
【0018】
(圧電素子)
圧電素子20は、圧電効果を利用した受動素子であって、素子収容部13内に配置され、伝搬体10に対して密着状態で固定されている。圧電素子20は、圧電効果を利用して伝搬体10に振動を与え、伝搬体10に超音波を発生させる。具体的には、圧電素子20は、超音波として、伝搬体10の伝搬面11に表面波Wsを発生させるとともに、伝搬体10の内部に内部伝搬波Wiを発生させる。また、圧電素子20は、伝搬体10の他端側(本実施形態では下端10a)で反射した表面波Wsと、溝12で反射した内部伝搬波Wiとを検出し、検出結果を示す検出信号(電圧信号)を出力する。
【0019】
圧電素子20は、伝搬面11に表面波Wsを発生させるため、その一部(
図2における右側の端部)が伝搬体10の伝搬面11を跨いで迫り出すように配置される。表面波Wsは、例えば、空気中ではレイリー波であり、液体2中ではシュルツ波である。圧電素子20は、図示しない端子を介して基板収容部14内の制御部30と電気的に接続される。なお、表面波Wsは、漏洩レイリー波、横波型弾性表面波(SH-SAW)等であってもよい。内部伝搬波Wiは、横波等であればよい。
【0020】
(制御部)
図1及び
図3に示すように、制御部30は、PCBに実装される送信回路31、受信回路32、マイクロコンピュータ33(以下、「マイコン33」という。)等を備え、基板収容部14内に設けられる。制御部30は、圧電素子20を制御し、圧電素子20に伝搬時間の起点となる起点振動V1を発生させ、伝搬体10を伝搬して圧電素子20に返ってくる反射波の信号を検出し、当該検出信号に基づいて伝搬時間を計測する。また、本実施形態の制御部30は、計測した伝搬時間に基づいて液面2aの位置(高さ)を算出する。すなわち、本実施形態の制御部30は、圧電素子20が検出した表面波Wsの伝搬時間に基づいて液体2の液面位置を検出する。
【0021】
なお、本実施形態では、制御部30の全ての機能を伝搬体10側の基板収容部14内のPCB上に設けたが、これに限定されるものではなく、制御部30の少なくとも一部の機能を伝搬体10とは別体に設けられた他のPCB等に実装し、伝搬体10側と電気的に接続してもよい。
【0022】
(送信回路)
送信回路31は、圧電素子20を駆動するものであり、例えば、図示しない駆動回路とトランスとから構成される。送信回路31は、マイコン33の制御により、圧電素子20に所定周期で駆動信号S1を送信して圧電素子20に電圧を加え、圧電素子20に伝搬時間の起点となる起点振動を発生させる。この結果、伝搬体10には、表面波Ws及び内部伝搬波Wiが発生する。
【0023】
(受信回路)
受信回路32は、起点振動V1が伝搬体10を伝搬して圧電素子20に返ってくる反射波(表面波Ws及び内部伝搬波Wi)の信号を圧電素子20の電圧変動により検出し、マイコン33へ出力する。なお、受信回路32の詳細な構成については後述する。
【0024】
(マイコン)
マイコン33は、伝搬時間を計測する演算回路34と、各種データ(後述する内部伝搬波Wiの伝搬時間と伝搬体10の温度との関係を示すデータを含む。)を格納する記憶手段35とを有する。演算回路34は、CPU(Central Processing Unit)等である。記憶手段35は、例えばROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリである。マイコン33は、圧電素子20を駆動し振動させる駆動信号S1を送信回路31へ出力する。マイコン33の演算回路34は、受信回路32から受信した検出信号(受信回路32が検出した信号)に基づいて伝搬時間を計測する。また、本実施形態では、マイコン33は、計測した伝搬時間に基づいて液面2aの位置(高さ)を算出する。
【0025】
(伝搬時間の検出)
次に、伝搬時間の検出について説明する。
【0026】
図4は、伝搬体に振動を与えたときに圧電素子に入力される信号の波形を示す概略図である。なお、
図4の縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。
【0027】
図4は、起点振動V1を発生させたことによって伝搬体10を伝搬する内部伝搬波Wi及び表面波Wsが反射した後に圧電素子20に入力する様子を示している。
図4中の最も左の振動は、マイコン33からの駆動信号S1によって圧電素子20が発生させた起点振動V1である。時点t1は、圧電素子20の駆動により伝搬体10に起点振動V1が発生した時点である。起点振動V1が発生することによって、表面波Ws及び内部伝搬波Wiが伝搬体10を伝搬する。
図4中の左から二番目の振動は、伝搬体10内を伝わって伝搬体10の溝12で反射して戻ってきた内部伝搬波Wiの振動V2である。時点t2は、内部伝搬波Wiが溝12で反射して圧電素子20に入力した時点である。時点t1から時点t2までの期間は、内部伝搬波Wiの伝搬時間T1となる。
図4中の最も右の振動が、伝搬体10の表面を伝わって伝搬体10の他端側(本実施形態では下端10a)で反射し戻ってきた表面波Wsの振動V3である。時点t3は、表面波Wsが伝搬体10の他端側で反射して圧電素子20に入力した時点である。時点t1から時点t3までの期間は、表面波Wsの伝搬時間T2となる。なお、本実施形態では、表面波Wsの振動V3によって受信回路32が出力する信号を測定信号S3と呼び、内部伝搬波Wiの振動V2によって受信回路32が出力する信号を基準信号S2と呼ぶ。
【0028】
マイコン33は、駆動信号S1を出力した時点t1を自身で把握している。マイコン33の演算回路34は、駆動信号S1を出力した時点t1から内部伝搬波Wiの基準信号S2を受ける時点t2までの時間を、内部伝搬波Wiの伝搬時間T1として計測する。また、マイコン33の演算回路34は、駆動信号S1を出力した時点t1から表面波Wsの測定信号S3を受ける時点t3までの時間を、表面波Wsの伝搬時間T2として計測する。このように、マイコン33の演算回路34は、受信回路32で検出した表面波Wsの振動V3や内部伝搬波Wiの振動V2に基づいて、伝搬時間を計測する。
【0029】
図5は、受信回路に入力する信号の波形を示す図である。なお、
図4の縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。
【0030】
図5に示すように、受信回路32に実際に入力する信号には、内部伝搬波Wiや表面波Wsの振動V2,V3の信号以外にノイズが含まれており、受信回路32に入力する信号自体が微弱であるので、検出したい振動とノイズとの区別が難しい。伝搬時間の計測精度を高めるためには、検出したい振動のピークを明確に検出して振動の発生タイミングの検出精度を高める必要がある。本発明の発明者は、受信回路32に入力する信号のうち検出したい振動(信号)の波形が正電圧側と負電圧側とで非対称であることに気付き、正電圧側及び負電圧側のうち振動の発生タイミングをより正確に検出し易い一方の電圧側の波形を利用して、振動の発生タイミングを検出することを考えた。なお、振動の発生タイミングをより正確に検出できる電圧側の波形については後述する。
【0031】
(受信回路の構成)
次に、本開示に係る受信回路32の構成について、図面に基づいて説明する。
【0032】
図6は、受信回路を示す構成図である。
図7は、増幅回路に入力する表面波の入力信号を示す概略図である。
図8は、増幅回路から出力する出力信号を示す概略図である。
図9は、フィルタ回路から出力する出力信号を示す概略図である。
図10は、二値化回路から出力する出力信号を示す概略図である。なお、
図7~
図10の横軸は時間を、縦軸は電圧をそれぞれ示す。
【0033】
図6に示すように、受信回路32は、入力保護回路CD1と、増幅回路CD2と、フィルタ回路CD3と、二値化回路CD4とを含み、圧電素子20が検出した振動を信号としてマイコン33へ出力する。
【0034】
(増幅回路)
図6に示すように、増幅回路CD2は、入力信号を増幅するオペアンプAmp1と、増幅度を設定する第一抵抗体R1及び第二抵抗体R2と、出力信号のオフセット量を設定する第三抵抗体R3及び第四抵抗体R4とを有する。本実施形態のオペアンプAmp1は、単電源オペアンプであって、オペアンプAmp1の非反転入力端子に圧電素子20からの信号(電圧)が入力する。増幅回路CD2は、非反転入力端子に入力された圧電素子20からの入力信号(
図7参照)を、増幅させて、かつオフセットさせて出力信号(
図8参照)として出力する。なお、オフセットとは、出力信号を所定の電圧分だけ増加又は減少させて、信号全体を正電圧側又は負電圧側へ移動(シフト)させることを意味する。
【0035】
図7に示すように、圧電素子20から増幅回路CD2に入力する信号(
図7には表面波Wsの信号を図示している。)は、微弱であるので、増幅回路CD2によって増幅する。増幅回路CD2の増幅度は、第一抵抗体R1及び第二抵抗体R2によって設定される。本実施形態では、帰還抵抗として機能する第二抵抗体R2は、可変抵抗となっており、増幅回路CD2の増幅度は、第二抵抗体R2の抵抗値を調整することによって、伝搬体10の長さに応じた最適な増幅度に設定される。増幅回路CD2の最適な増幅度は、実験やシミュレーション等によって予め求めておくことができる。例えば、増幅回路CD2の増幅度は、第一抵抗体R1及び第二抵抗体R2によって25倍に設定される。
【0036】
また、
図7に示すように、本実施形態の圧電素子20から増幅回路CD2に入力する表面波Wsの正電圧側の信号の波形のピーク(以下、単に「ピーク」という場合がある。)の推移は、比較的緩やかであり(白抜き矢印a1参照)、表面波Wsの負電圧側のピークの推移は、比較的急峻に現れている(白抜き矢印a2参照)。すなわち、上述したように、検出したい振動の波形が正電圧側と負電圧側とで非対称である。
図7に示すように、正電圧側及び負電圧側のうちピークの推移が急峻である方(本実施形態では負電圧側)の波形は、検出したい振動のピークp1とその直前のノイズのピークp2との振幅の差が大きく現れるので、振動の発生タイミング(検出したい振動のピークp1のタイミング)をより正確に検出できる。
【0037】
このため、本実施形態では、
図8に一点鎖線矢印で示すように、入力信号のうちの負電圧側の信号を利用するために、第三抵抗体R3及び第四抵抗体R4を適切に設定してバイアスを掛け、出力信号を正電圧側へオフセットさせて、負電圧側の信号を主として出力する。すなわち、増幅回路CD2は、正電圧側及び負電圧側の一方側(本実施形態では負電圧側)の信号を主として出力するために、出力信号を正電圧側又は負電圧側(本実施形態では正電圧側)へオフセットする。一般的に、波形の基線b(振動がないときの波形)を電源電圧Vccの半分の値(Vcc/2)にするようにバイアスを掛けるが、本実施形態では波形の基線bが電圧Vccの半分の値(Vcc/2)よりも更に正電圧側へオフセットするようにバイアスを掛ける。これにより、
図8に示すように、増幅回路CD2の出力信号の波形は、その基線bが電源電圧Vccの半分の値(Vcc/2)よりも正電圧側へオフセットしており、オペアンプAmp1の出力電圧範囲内に負電圧側の波形が正電圧側よりも大きく現れる。すなわち、正電圧側及び負電圧側の一方側の信号を主として出力するとは、出力電圧範囲内に一方側の波形が他方側の波形よりも大きく現れることを意味する。このように、負電圧側の信号を主として出力するために、出力信号を正電圧側へオフセットさせると、
図8に示すように、正電圧側のピークがオペアンプAmp1の電源電圧Vccよりも高くなってしまい波形が頭打ちになって消失してしまう(クリップされてしまう)可能性があるが、本実施形態では、振動の発生タイミングを検出するために負電圧側の信号を主として利用するので、問題は生じない。増幅回路CD2の最適なオフセット量は、実験やシミュレーション等によって予め求めておくことができる。
【0038】
なお、本実施形態では、オペアンプAmp1を単電源オペアンプとしたが、両電源オペアンプであってもよい。また、本実施形態では、波形の負電圧側のピークの推移が急峻であるので、負電圧側の信号を主として出力するように、出力信号をオフセットさせたが、これに限定されるものではない。例えば、波形の正電圧側のピークの推移が急峻である場合には、正電圧側の信号を主として出力するように、出力信号をオフセットさせてもよい。
【0039】
(フィルタ回路)
図6に示すように、フィルタ回路CD3は、増幅回路CD2が出力した信号から特定の周波数成分を取り出すオペアンプ多重帰還型バンドパスフィルタであって、オペアンプAmp2と、出力信号をオフセットさせる第五抵抗体R5及び第六抵抗体R6とを含む。フィルタ回路CD3は、受信回路32に入力した信号に含まれるノイズを除去し、内部伝搬波Wiや表面波Wsの振動V2,V3による信号を出力する。
【0040】
フィルタ回路CD3のバンドパスフィルタは、内部伝搬波Wi及び表面波Wsの周波数のみを通過するように設計することが理想的である。
図5に示すように、圧電素子20から受信回路32に入力する内部伝搬波Wiは、表面波Wsに比べてピークの振幅の変化が緩やかであり、振動の発生タイミングを精度良く検出することが難しい。このため、フィルタ回路CD3のバンドパスフィルタの中心周波数は、圧電素子20による起点振動V1の出力波の周波数及び表面波Wsの周波数の双方よりも、内部伝搬波Wiの周波数に近い周波数であることが好ましい。例えば、圧電素子20による起点振動V1の出力波の周波数が約400kHzであり、内部伝搬波Wiの周波数が約380kHzであり、表面波Wsの周波数が約330kHz~350kHzである場合には、フィルタ回路CD3のバンドパスフィルタの中心周波数を、385kHzに設定し、帯域幅を770kHzに設定することが好ましい。これにより、内部伝搬波Wi及び表面波Wsの双方を検出することができ、かつピークの振幅の変化が緩やかな内部伝搬波Wiを検出し易くなる。
【0041】
本実施形態のオペアンプAmp2は、単電源オペアンプであって、オペアンプAmp2の反転入力端子に増幅回路CD2からの出力信号(
図8参照)が入力され、非反転入力端子には、バイアスを掛けて出力信号をオフセットさせるための第五抵抗体R5及び第六抵抗体R6が電気的に接続される。一般的に、波形の基線bを電源電圧Vccの半分の値(Vcc/2)にするようにバイアスを掛けるが、本実施形態では波形の基線bが電圧Vccの半分の値(Vcc/2)よりも負電圧側へオフセットするようにバイアスを掛ける。すなわち、フィルタ回路CD3は、反転入力端子に入力された入力信号(
図8参照)を反転させて、波形の基線bの位置が出力電圧範囲(本実施形態では0V~Vcc)内で下限値(本実施形態では0V)に近づくようにオフセットして出力信号(
図9参照)出力する。このようにしてフィルタ回路CD3から出力される信号の波形は、検出したい波形のピークp1が正電圧側へ凸となり、かつピークp1の前に発生するノイズのピークp2をオペアンプAmp2の接地電圧(0V)に近づけることができるので、信号のSN比を高くすることができる。フィルタ回路CD3の最適なオフセット量は、実験やシミュレーション等によって予め求めておくことができる。
【0042】
なお、本実施形態では、オペアンプAmp2を単電源オペアンプとしたが、両電源オペアンプであってもよい。また、本実施形態では、増幅回路CD2から入力した信号をフィルタ回路CD3で反転させたが、これに限定されるものではない。例えば、上述したように増幅回路CD2において、圧電素子20からの信号の正電圧側の信号を主として出力する場合には、フィルタ回路CD3では、増幅回路CD2から入力した信号を反転させなくてもよい。
【0043】
(二値化回路)
二値化回路CD4は、フィルタ回路CD3が出力した信号(
図9参照)からマイコン33が取り扱い易い二値化された信号(
図10参照)に変換して、マイコン33へ出力する。すなわち、二値化回路CD4は、フィルタ回路CD3が出力した信号を二値化してマイコン33へ出力する。二値化回路CD4は、入力信号が所定の閾値k以上である場合にHighの値(Vcc)を出力し、上記所定の閾値k未満である場合にLowの値(0)を出力する。これにより、二値化回路CD4は、内部伝搬波Wi及び表面波Wsの双方の第一波目を検出する。
【0044】
二値化回路CD4としては、オペアンプやコンパレータ(比較回路)による二値化が挙げられる。これらの中でも応答性を高める観点から、コンパレータを適用することが好ましい。オペアンプは、負帰還をかけて使用することを想定して設計されており、発振を防ぐために位相補償容量を内蔵しているので、応答時間が制限されてしまう。また、AD変換回路によりデジタル信号に変換してマイコン33で二値化することも考えられるが、応答性がオペアンプよりも更に低くなるので、応答性を高める観点からコンパレータを適用することが好ましい。
【0045】
(液面位置の検出)
次に、計測した伝搬時間に基づく液面2aの位置(高さ)に検出について説明する。
【0046】
図11(a)は、内部伝搬波の伝搬時間と伝搬体の温度との関係を示す説明図であり、
図11(b)は、表面波の伝搬時間と液面位置との関係を示す説明図である。なお、
図11(a)の縦軸は内部伝搬波の伝搬時間を、横軸は伝搬体の温度をそれぞれ示す。また、
図11(b)の縦軸は表面波の伝搬時間を、横軸は液面位置をそれぞれ示す。
【0047】
伝搬体10を伝搬する表面波Wsは、伝搬体10が液体2に浸かった部分では、伝搬体10を進む速度が遅くなる性質がある。このため、液面2aが高い位置にあるほど、表面波Wsの伝搬時間T2が長くなる。一方、内部伝搬波Wiは、伝搬体10の内部を進むので、伝搬体10が液体2に浸かっている部分には影響されずに内部伝搬波Wiの伝搬時間T1の値が定まる。この性質を利用して、本実施形態の制御部30(本実施形態ではマイコン33)は、表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて液体2の液面2aを検出する。例えば、本実施形態のマイコン33は、記憶手段35に記憶される内部伝搬波Wiの伝搬時間T1と温度との関係(
図11(a)参照)を示すデータを参照し、内部伝搬波Wiの伝搬時間T1から伝搬体10の温度を求め、温度依存性がある表面波Wsの伝搬時間T2を、求めた温度に応じて補正する。すなわち、本実施形態のマイコン33は、内部伝搬波Wiに基づき表面波Wsの伝搬時間T2を温度補正し、温度補正後の表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて液面位置を算出する(検出する)。
【0048】
なお、伝搬体10の温度に基づいて液面位置を検出する方法は、上記に限定されるものではなく、公知技術を適宜用いることができる。例えば、記憶手段35は、
図11(b)で示すように、伝搬体10の所定の温度毎(例えば、摂氏5度毎)に表面波Wsの伝搬時間T2に関連した液面2aの位置を示すデータ記憶しておき、マイコン33は、検出した伝搬体10の温度と表面波Wsの伝搬時間T2とから、上記データを参照して液面2aの位置を検出してもよい。また、
図11(a)及び
図11(b)に示すデータは、数式又はテーブルで構成されていればよい。
【0049】
マイコン33は、検出した液面位置を図示しない報知部によってユーザに報知してもよい。報知部は、例えば、液面位置を画像、インジケータ、指針、数値などによりユーザに報知可能な構成であってもよい。
【0050】
次に、本実施形態のマイコン33の液面検出処理について、
図12に基づいて説明する。
図12は、液面検出処理を表すフローチャートである。
【0051】
ステップST1にて、マイコン33は、駆動信号S1を出力する。
【0052】
ステップST2にて、マイコン33は、駆動信号S1によって、伝搬体10に生じた内部伝搬波Wiに基づく基準信号S2の検出の有無を判定する。基準信号S2を検出したと判定した場合は、ステップST3へ進み。検出しないと判定した場合は、ステップST1へ戻る。
【0053】
ステップST3にて、マイコン33の演算回路34は、内部伝搬波Wiが、伝搬体10を伝搬した伝搬時間T1を求める。本実施形態では、伝搬時間T1は、駆動信号S1を出力してから基準信号S2を入力するまでの伝搬時間T1で求めている。
【0054】
ステップST4にて、マイコン33は、基準信号S2の伝搬時間T1から記憶手段35を参照し伝搬体10の温度を求める。
【0055】
ステップST5にて、マイコン33は、駆動信号S1によって、伝搬体10の表面に生じた表面波Wsに基づく測定信号S3の検出の有無を判定する。測定信号S3を検出したと判定した場合は、ステップST6へ進み。検出しないと判定した場合は、ステップST1へ戻る。
【0056】
ステップST6にて、マイコン33の演算回路34は、表面波Wsが、伝搬体10の表面を伝搬した伝搬時間T2を求める。
【0057】
ステップST7にて、マイコン33は、ステップST4にて求めた伝搬体10の温度に基づいて、伝搬体10の温度に基づく補正係数(a、b)によって、表面波Wsの伝搬時間T2を補正し、補正した伝搬時間に基づいて液面2aの位置を検出する。なお、伝搬時間T2を解とする式は、下記の一次式により表される。
【0058】
T2=ax+b
【0059】
上記のように構成された波検出装置100では、受信回路32の増幅回路CD2は、正電圧側及び負電圧側の一方側の信号を主として出力するために、出力信号を正電圧側又は負電圧側へオフセットする。本実施形態では、受信回路32の増幅回路CD2は、負電圧側の信号を主として出力するために、出力信号を正電圧側へオフセットする。このように、負電圧側の信号を主として出力するように、出力信号を正電圧側へオフセットするので、正電圧側及び負電圧側の双方の波形を出力する場合とは異なり、負電圧側の波形を大きく増幅させることができる。これにより、増幅回路CD2の出力信号の出力電圧範囲(0V~Vcc)内には、負電圧側の波形が正電圧側よりも大きく現れる(
図8参照)。負電圧側の波形は、波形のピークの推移が正電圧側よりも急峻であり、検出したい振動のピークp1とその直前のノイズのピークp2との差が大きく現れるので、振動の発生タイミング(検出したい振動のピークp1のタイミング)をより正確に検出することができる。このため、波検出装置100では、伝搬時間の計測精度を高めることができる。
【0060】
また、受信回路32は、フィルタ回路CD3を備えることによって、信号以外のノイズによる誤検知を防ぎ、表面波Ws及び内部伝搬波Wiを正確にマイコン33へ出力することができる。このため、波検出装置100では、伝搬時間の計測精度を高めることができる。
【0061】
このように、本実施形態によれば、検出精度(伝搬時間の計測精度)が良好な波検出装置100を提供することができる。
【0062】
また、受信回路32のフィルタ回路CD3は、増幅回路CD2からの入力信号を、反転させて、かつ波形の基線bの位置が出力電圧範囲内で下限値に近づくようにオフセットして出力する(
図9参照)。このように、フィルタ回路CD3は、波形の基線bの位置を出力電圧範囲内で下限値に近づくようにオフセットするので、波形のピークp1の前に発生するノイズのピークp2を出力電圧範囲内で下限値(本実施形態ではオペアンプAmp2の接地電圧(0V))に近づけることができる。これにより、信号のSN比を高くすることができるので、更に検出精度が良好な波検出装置100を提供することができる。
【0063】
また、フィルタ回路CD3において、ピークp1の前に発生するノイズのピークp2をオペアンプAmp2の接地電圧(0V)に近づけるので、二値化回路CD4における上記閾値kを高い値に設定することができる。例えば、オペアンプAmp2の電源電圧Vccが5Vである場合に、閾値kを4.5Vに設定することができる。このように、接地電圧(0V)付近のノイズと閾値kとのギャップを大きくすることができるので、ノイズの影響が少ない精度の高い検出(振動の発生タイミングの検出)が可能となる。
【0064】
また、受信回路32の二値化回路CD4は、フィルタ回路CD3が出力した信号を二値化してマイコン33へ出力する。このように、受信回路32は、マイコン33が取り扱い易い二値化された信号を出力することができる。
【0065】
また、本実施形態のマイコン33は、内部伝搬波Wiに基づき表面波Wsの伝搬時間T2を温度補正し、温度補正後の表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて液面位置を算出するので、温度センサを用いることなく精度良く超音波を利用して液面を検出することができる。
【0066】
なお、液体2の液面位置を検出するとは、液面2aの位置を詳細に検出することの他、液面2aの位置を何段階かに分けて現在の液面2aの位置がどの段階に属するかを検出すること、液面2aの位置に応じて変化する液体2の容量を検出すること等も含む。
【0067】
また、液体2の種類は特に限定されるものではなく、例えば、水、ガソリン、軽油、アルコール、洗浄液などが挙げられる。また、容器1としては、車両に搭載される燃料タンクなどが挙げられる。
【0068】
また、伝搬体10の材質は、PPSに限定されるものではなく、表面波Wsが良好に伝搬できるものであればよい。例えば、伝搬体10として使用される樹脂は、POM(ポリアセタール)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等であってもよい。或いは、伝搬体10の材質は、表面波Wsが良好に伝搬できるのであれば金属であってもよい。
【0069】
また、本実施形態では、伝搬体10を液体2の深さ方向に沿って設けたが、容器1及び液体2に対する伝搬体10の姿勢は、これに限定されるものではない。例えば、伝搬体10を、液体2の深さ方向(鉛直方向)に対して斜めに延びるように設けてもよい。
【0070】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の波検出装置200は、計測した伝搬時間に基づいて液体の種類を検出する点で第1実施形態と相違する。なお、第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。また、第2実施形態では、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0071】
図13は、本発明の第2実施形態に係る波検出装置の概略構成図である。
【0072】
図13に示すように、波検出装置200は、液体2に接触する伝搬体10と、伝搬体10を振動させる圧電素子20と、圧電素子20を制御し伝搬体10を伝搬する波を検出して波の伝搬時間を計測する制御部30Aとを備える。本実施形態の波検出装置200は、計測した伝搬時間に基づいて液体の種類(以下、「液種」という場合がある。)を検出(特定)する。
【0073】
本実施形態の伝搬体10は、容器1の底から液面2aに向かう姿勢で、容器1に取り付けられる。なお、伝搬体10は、少なくとも伝搬面11の全域が液体2に浸っていればよい。
【0074】
制御部30Aは、送信回路31、受信回路32、マイコン33等を実装する図示しないPCBを有し、圧電素子20が検出した表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて液体2の種類を特定する。すなわち、制御部30Aは、その構成が第1実施形態と同様であるものの、その機能が異なる。なお、本実施形態では、制御部30Aの全ての機能を伝搬体10側の基板収容部14内のPCB上に設けたが、これに限定されるものではなく、制御部30Aの少なくとも一部の機能を伝搬体10とは別体に設けられた他のPCB上に実装し、伝搬体10側と電気的に接続してもよい。
【0075】
制御部30Aのマイコン33の演算回路34は、第1実施形態と同様に表面波Wsの伝搬時間T2を計測する。そして、本実施形態のマイコン33は、上記第1実施形態とは異なり、表面波Wsの伝搬時間T2と液体2の種類とが関係付けられたデータテーブルを参照することによって、液体2の種類を特定する。以下、表面波Wsの伝搬時間T2に基づいた液体2の種類の特定について説明する。
【0076】
表面波Wsの伝搬時間T2は、表面波Wsの伝搬速度に反比例する。このため、表面波Wsの伝搬速度が速くなるにつれて表面波Wsの伝搬時間T2が短くなる一方で、表面波Wsの伝搬速度が遅くなるにつれて表面波Wsの伝搬時間T2が長くなる。伝搬体10の少なくとも伝搬面11が全体に渡って液体2に浸っているときの表面波Wsの伝搬速度は、液体2に固有の液中の音速vl及び密度ρl、並びに、伝搬体10固有の内部伝搬波Wiの伝搬速度vs、気中での表面波Wsの伝搬速度vR及び密度ρSによって定まる。すなわち、伝搬体10の材質が固定であるときには、伝搬体10の少なくとも伝搬面11が全体に渡って液体2に浸っているときの表面波Wsの伝搬速度は、液体2の種類によって変化する。そのため、実測又はシミュレーション等によって、伝搬体10の少なくとも伝搬面11が全体に渡って液体2に浸っているときの表面波Wsの伝搬速度と液体2の種類との関係を得ることができる。この関係に基づいて作成された表面波Wsの伝搬時間T2と液体2の種類とが関係付けられたデータテーブルを制御部30Aの記憶手段(例えば、マイコン33の記憶手段35)に記憶することによって、マイコン33は、上記データテーブルを参照し、表面波Wsの伝搬時間T2を用いて液体2の種類を特定することができる。
【0077】
なお、本実施形態では、マイコン33は、表面波Wsの伝搬時間T2と液体2の種類とが関係付けられたデータテーブルを参照して、表面波Wsの伝搬時間T2から液体2の種類を特定したが、参照するデータテーブルはこれに限定されるものではない。例えば、表面波Wsの伝搬速度と液体2の種類とが関係付けられたデータテーブルを記憶手段(例えば記憶手段35)に記憶しておき、マイコン33は、表面波Wsの伝搬時間T2から表面波Wsの伝搬速度を算出し、算出した表面波Wsの伝搬速度から上記データテーブルを参照して液体2の種類を特定してもよい。
【0078】
上記のように構成された波検出装置200によれば、上記第1実施形態と同様に、検出精度(伝搬時間の計測精度)が良好な波検出装置200を提供することができる。
【0079】
また、波検出装置200は、計測した伝搬時間に基づいて液体の種類を検出(特定)することができる。前述のように、内部伝搬波Wiの伝搬速度及び表面波Wsの伝搬速度は、伝搬体10の温度に影響を受ける。すなわち、伝搬体10の温度に起因して伝搬体10の密度ρS、弾性率が変化し、内部伝搬波Wiの伝搬速度及び表面波Wsの伝搬速度が、伝搬体10の密度ρS、弾性率によって変化する。ここで、内部伝搬波Wiは伝搬体10の内部を進むため、内部伝搬波Wiの伝搬速度(内部伝搬波Wiの伝搬時間T1)は、伝搬体10が浸っている液体2の種類に影響されずに、伝搬体10の温度のみに影響を受ける。そのため、制御部30Aは、内部伝搬波Wiの内部伝搬波Wiの伝搬時間T1から、記憶手段35に記憶した温度条件(
図11(a)参照)を参照し、伝搬体10の温度を求めてもよい。制御部30Aは、伝搬体10の温度に基づいて、所定の補正係数等を考慮した補正手法を用いて、表面波Wsの伝搬時間T2を補正してもよい。制御部30Aが、補正後の表面波Wsの伝搬時間T2に応じて液体2の種類を特定することによって、伝搬体10の温度を考慮した精度の高い液体2の種類の特定を実現することができる。
【0080】
また、波検出装置200は、伝搬時間の計測精度が高いので、高い精度で液体2の種類の特定を実現することができる。
【0081】
なお、本実施形態では、伝搬体10を液体2の深さ方向に沿って設けたが、容器1及び液体2に対する伝搬体10の姿勢は、これに限定されるものではなく、伝搬面11が液体2に浸っていればよい。例えば、伝搬体10を、液面2aの面内方向(水平方向)に沿って設けてもよい。
【0082】
(第2実施形態の変形例)
次に、本発明の第2実施形態の変形例を図面に基づいて説明する。
【0083】
図14は、第2実施形態の変形例に関する溶液の濃度と表面波の伝搬速度との関係を示す図であり、(a)は溶質が塩である場合を、(b)は溶質がアルコールである場合をそれぞれ示す。なお、
図14(a)及び
図14(b)の縦軸は表面波Wsの伝搬速度を、
図14(a)の横軸は塩分濃度を、
図14(b)の横軸はアルコール濃度をそれぞれ示す。また、
図14(b)の丸印はエタノールを混合した溶液について示し、三角印はメタノールを混合した溶液について示す。
【0084】
上記第2実施形態の波検出装置200と同様の構造で、同種の溶液の濃度(つまり、溶質の量)を検出することができる。この変形例に係る制御部30Aのマイコン33は、上記第2実施形態とは異なり、圧電素子20が検出した表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて、伝搬体10が浸る溶液(液体2)の濃度を検出する。
【0085】
図14(a)及び
図14(b)に示すように、表面波Wsの伝搬速度(伝搬時間T2)は、溶液の濃度が濃くなるほど、伝搬面11を進む速度が遅くなるという性質がある。この性質を利用して、マイコン33は、検出した表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて、溶液濃度を検出する。
【0086】
例えば、表面波Wsの伝搬時間T2と溶液の濃度との関係を示す濃度検出用データを、実験等によって予め取得して記憶手段(例えば、マイコン33の記憶手段35)に記憶しておき、マイコン33は、計測した表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて、濃度検出用データを参照して溶液濃度を検出する。マイコン33は、所定の周期で表面波Wsの伝搬時間T2を計測し、伝搬時間T2に応じた溶液の濃度を特定し、これを検出濃度とする。
【0087】
上記のように構成された第2実施形態の変形例によれば、上記第1実施形態と同様に、検出精度(伝搬時間の計測精度)が良好な波検出装置200を提供することができる。
【0088】
また、波検出装置200は、伝搬時間の計測精度が高いので、高い精度で液体2の種類の特定を実現することができる。
【0089】
なお、マイコン33は、必ずしも、溶液の濃度を%などの単位で表される具体的な数値で表さなくともよい。例えば、マイコン33は、今回計測した伝搬時間T2と前回計測した伝搬時間T2の差分に基づき、溶液の濃度が前回よりも濃くなっているか、又は、薄くなっているかを検出してもよい。また、制御部30Aは、伝搬時間T2に基づいて算出される表面波Wsの伝搬速度を用いて、溶液の濃度を検出してもよい。いずれにせよ、制御部30Aは、圧電素子20が検出した表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて、溶液の濃度を検出する。また、この変形例においても、内部伝搬波Wiを利用して温度補正を行ってもよい。
【0090】
また、溶液の溶質は、塩、アルコールに限られず任意であり、砂糖、その他の溶質であってもよい。この種の溶液に浸る伝搬体10は、前述したPPSなどの樹脂によって形成されることが好ましい。樹脂の伝搬体10によれば、金属のようにイオン化することを防止でき、腐食や汚れに強いためである。
【0091】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の波検出装置300は、計測した伝搬時間に基づいて伝搬体10に付着した液体2の液滴2bを検出する点で第1実施形態と相違する。なお、第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。また、第3実施形態では、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0092】
図15は、本発明の第3実施形態に係る波検出装置の概略構成図である。
【0093】
図15に示すように、本実施形態の波検出装置300は、例えば、プラントに設置された配管3のジョイント部、メカニカルシール部等からの液漏れを検出するために用いられる。波検出装置300は、液体2に接触する伝搬体10と、伝搬体10を振動させる圧電素子20と、圧電素子20を制御し伝搬体10を伝搬する波を検出して波の伝搬時間を計測する制御部30Bとを備える。本実施形態の波検出装置300は、計測した伝搬時間に基づいて伝搬体10の伝搬面11に付着した液体2の液滴2bを検出する(以下、単に「液滴2bを検出する」という場合がある。)。
【0094】
波検出装置300は、液漏れが生じる可能性が高い箇所の下方に、伝搬面11を上側に向けた状態で設置される。すなわち、第3実施形態の伝搬体10は、上記第1実施形態及び上記第2実施形態のように液体2に浸るものではない。
【0095】
制御部30Bは、送信回路31、受信回路32、マイコン33等を実装する図示しないPCBを有し、圧電素子20が検出した表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて液滴2bを検出する。すなわち、制御部30Bは、その構成が第1実施形態と同様であるものの、その機能が異なる。なお、本実施形態では、制御部30Bの全ての機能を伝搬体10側の基板収容部14内のPCB上に設けたが、これに限定されるものではなく、制御部30Bの少なくとも一部の機能を伝搬体10とは別体に設けられた他のPCB上に実装し、伝搬体10側と電気的に接続してもよい。
【0096】
制御部30Bのマイコン33の演算回路34は、第1実施形態と同様に表面波Wsの伝搬時間T2を計測する。そして、本実施形態のマイコン33は、上記第1実施形態とは異なり、表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて液滴2bを検出する。以下、表面波Wsの伝搬時間T2に基づいた液滴2bの検出について説明する。
【0097】
伝搬体10の伝搬面11に液滴2bが付着している場合は、液滴2bが付着していない場合よりも、伝搬面11を進む表面波Wsの伝搬速度が遅くなる。この性質を利用して、マイコン33は、検出した表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて液滴2bを検出する。
【0098】
例えば、表面波Wsの伝搬時間T2と液滴2bの付着の有無との関係を示す液滴検出用データを、実験等によって予め取得して記憶手段(例えば、マイコン33の記憶手段35)に記憶しておき、マイコン33は、計測した表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて、液滴検出用データを参照して液滴2bを検出する。マイコン33は、所定の周期で表面波Wsの伝搬時間T2を計測し、今回計測した伝搬時間T2と前回計測した伝搬時間T2の差分が予め定めた閾値以上である場合に液滴2bが付着していると判別し、当該閾値未満である場合に液滴2bが付着していないと判別する。
【0099】
上記のように構成された波検出装置300によれば、上記第1実施形態と同様に、検出精度(伝搬時間の計測精度)が良好な波検出装置300を提供することができる。
【0100】
また、伝搬時間の計測精度が高いので、高い精度で液滴2bの検出を実現することができる。
【0101】
なお、制御部30Bは、伝搬時間T2に基づいて算出される表面波Wsの伝搬速度を用いて、液滴2bの付着の有無を判別してもよい。いずれにせよ、制御部30Bは、圧電素子20が検出した表面波Wsの伝搬時間T2に基づいて、伝搬面11に液滴2bが付着していることを検出する。また、この第3実施形態においても、内部伝搬波Wiを利用して温度補正を行ってもよい。
【0102】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0103】
1:容器
2:液体
2a:液面
2b:液滴
100,200,300:波検出装置
10:伝搬体
20:圧電素子
30,30A,30B:制御部
31:送信回路
32:受信回路
34:演算回路
CD2:増幅回路
CD3:フィルタ回路
CD4:二値化回路
Wi:内部伝搬波
Ws:表面波
T1,T2:伝搬時間
V1:起点振動