(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132246
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電子レンジ加熱用治具
(51)【国際特許分類】
B65D 81/34 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B65D81/34 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042954
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬丸 彰子
(72)【発明者】
【氏名】上野 美空
(72)【発明者】
【氏名】中村 保昭
【テーマコード(参考)】
3E013
【Fターム(参考)】
3E013BA06
3E013BA21
3E013BB03
3E013BB06
3E013BC04
3E013BC06
3E013BD11
3E013BE01
3E013BF66
3E013CC03
(57)【要約】
【課題】金属製缶容器に収容された物品を電子レンジで加熱する際に、金属に由来する不具合が発生するのを抑制可能とする技術を提供する。
【解決手段】電子レンジ加熱用治具10Aは、金属製缶容器21に収容された物品22を電子レンジで加熱する際に、前記金属製缶容器21を前記電子レンジの庫内底面W1からの距離を広げた状態で庫内に設置するために使用する電子レンジ加熱用治具であって、2.45GHzでの比誘電率が5以下であり且つ2.45GHzでの誘電正接が7.0×10
-3以下である材料からなる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製缶容器に収容された物品を電子レンジで加熱する際に、前記金属製缶容器を前記電子レンジの庫内底面からの距離を広げた状態で庫内に設置するために使用する電子レンジ加熱用治具であって、2.45GHzでの比誘電率が5以下であり且つ2.45GHzでの誘電正接が7.0×10-3以下である材料からなる電子レンジ加熱用治具。
【請求項2】
前記材料は樹脂硬化物である請求項1に記載の電子レンジ加熱用治具。
【請求項3】
前記物品を前記電子レンジで加熱する際に、前記金属製缶容器と前記庫内底面との間に設置されるように構成された請求項1に記載の電子レンジ加熱用治具。
【請求項4】
金属製缶容器及びこれに収容された物品を含んだ缶詰製品と、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電子レンジ加熱用治具と
を備えた治具付属缶詰製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ加熱用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
容器入り食品の加熱方法として、電子レンジによる加熱方法が知られている。電子レンジによる加熱は、簡便であることから、広く利用されている。
【0003】
しかしながら、容器が金属層を含んでいる場合、これを電子レンジで加熱すると、マイクロ波により金属層における自由電子の運動が活発化して、この金属層と、接地されているレンジ庫内の壁面との間で放電(スパーク)を生じることがある。特許文献1には、このスパークの発生を防止するために、樹脂シート及び金属箔を含んだ複合シートをカップ状に成形してなる容器本体を、紙製の箱体に入れて電子レンジで加熱することが記載されている。
【0004】
ところで、金属製缶容器には、樹脂製容器と比較して内容物の長期保存に適しており、また、強度が高いため破損の心配がないという利点がある。このような利点から、金属製缶容器は、各種の食品缶詰容器として利用されている。
【0005】
また、金属製缶容器のなかには、特殊な道具を使うことなしに、容器端面の略全体を開口可能であるものがある。そのような金属製缶容器に収容された食品は、別の容器に移さずそのまま喫食することも可能である。その際、食品は、常温のまま喫食してもよいし、湯煎等で加熱した後に喫食してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金属製缶容器に収容された物品を電子レンジで加熱する際に、金属に由来する不具合が発生するのを抑制可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、金属製缶容器に収容された物品を電子レンジで加熱する際に、前記金属製缶容器を前記電子レンジの庫内底面からの距離を広げた状態で庫内に設置するために使用する電子レンジ加熱用治具であって、2.45GHzでの比誘電率が5以下であり且つ2.45GHzでの誘電正接が7.0×10-3以下である材料からなる電子レンジ加熱用治具が提供される。
【0009】
本発明の他の側面によると、前記材料は樹脂硬化物である上記側面に係る電子レンジ加熱用治具が提供される。
【0010】
本発明の更に他の側面によると、前記物品を前記電子レンジで加熱する際に、前記金属製缶容器と前記庫内底面との間に設置されるように構成された上記側面の何れかに係る電子レンジ加熱用治具が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、金属製缶容器及びこれに収容された物品を含んだ缶詰製品と、上記側面の何れかに係る電子レンジ加熱用治具とを備えた治具付属缶詰製品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、金属製缶容器に収容された物品を電子レンジで加熱する際に、金属に由来する不具合が発生するのを抑制可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子レンジ加熱用治具の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す電子レンジ加熱用治具のII-II線に沿った断面図である。
【
図3】
図3は、
図1及び
図2に示す電子レンジ加熱用治具を使用可能な電子レンジの一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、蓋を開けた缶詰製品を、
図1及び
図2に示す電子レンジ加熱用治具を介して、電子レンジの庫内底面に載置した様子を示す断面図である。
【
図5】
図5は、変形例に係る電子レンジ加熱用治具の斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す電子レンジ加熱用治具のVI-VI線に沿った断面図である。
【
図7】
図7は、蓋を開けた缶詰製品を、
図5及び
図6に示す電子レンジ加熱用治具を介して、電子レンジの庫内底面に載置した様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子レンジ加熱用治具の斜視図である。
図2は、
図1に示す電子レンジ加熱用治具のII-II線に沿った断面図である。
【0016】
図1及び
図2に示す電子レンジ加熱用治具10Aは、第1部分11と第2部分12とを含んでいる。
【0017】
第1部分11は、一方の開口から他方の開口へ向けて拡径した略円筒形状を有している。第1部分11は、後述する缶詰製品を支持する支持部である。
【0018】
電子レンジにおいて電子レンジ加熱用治具10Aを使用する際、第1部分11のより大きな径の開口は、より小さな径の開口の上方へ位置させる。以下、電子レンジ加熱用治具10A及びその構成要素について、用語「上」及び「下」は、電子レンジにおいて電子レンジ加熱用治具10Aを使用しているときの相対位置に関連付けて使用する。
【0019】
第1部分11は、ここでは、内径が下方から上方へ向けて連続的に増大している下部と、内径が高さ方向に一定である上部とを含んでいる。
【0020】
下部の最大内径は、缶詰製品の直径と比較してより小さい。下部は、電子レンジにおいて電子レンジ加熱用治具10Aを使用する際に、缶詰製品を庫内底面から離隔させる役割を果たす。
【0021】
上部の内径は、下部の最大内径と比較してより大きい。また、上部の内径は、缶詰製品の直径と等しいか又はそれよりも大きい。上部は、電子レンジにおいて電子レンジ加熱用治具10Aを使用する際に、缶詰製品が電子レンジ加熱用治具10Aから落下するのを防止する役割を果たす。
【0022】
第1部分11の内径は、下部と上部との境界位置で、下方から上方へ向けて不連続に増加している。この不連続な内径の増加は、下部と上部との間に、円環状の上面を有している中間部11Sを生じさせている。
【0023】
中間部11Sの上面は、第1部分11の下端面に対して平行である。中間部11Sの上面は、電子レンジにおいて電子レンジ加熱用治具10Aを使用する際に、缶詰製品を支持する支持面としての役割を果たす。
【0024】
第1部分11の下側端面を基準とした中間部11Sの上面の高さHは、1mm乃至50mmの範囲内にあることが好ましく、10mm乃至30mmの範囲内にあることがより好ましい。高さHを大きくすると、金属製缶容器と電子レンジの庫内底面との間でスパークが発生し難くなる。但し、高さHを大きくすると、電子レンジ加熱用治具10A、又は、これと缶詰製品とを含んだ治具付属缶詰製品の嵩が大きくなる。また、高さHを過剰に大きくすると、金属製缶容器から電子レンジの庫内上面までの距離が短くなり、それらの間でスパークが発生し易くなる。
【0025】
第2部分12は、円板形状を有しており、第1部分11の下側開口を塞いでいる。第2部分12は、第1部分11の形状保持性を高める補強部である。
【0026】
第2部分12の下面は、第1部分11の下側端面に対して面一である。第2部分12の下面は、第1部分11の下側端面よりも上方に位置していてもよい。また、第2部分12は、省略してもよい。
【0027】
電子レンジ加熱用治具10Aは、2.45GHzでの比誘電率が5以下であり且つ2.45GHzでの誘電正接が7.0×10-3以下である材料からなる。ここで、2.45GHzは、電子レンジで使用しているマイクロ波の周波数である。また、誘電正接は、23±5℃の温度及び50±10%RHの湿度のもと、JIS K6911-1995に規定される方法によって測定することによって得られる値である。
【0028】
この材料は、2.45GHzでの比誘電率が4.0以下であることが好ましい。この材料の2.45GHzでの比誘電率に下限値はないが、電子レンジ加熱用治具10Aに適した材料の多くは、2.45GHzでの比誘電率が2.0以上である。
【0029】
また、この材料は、2.45GHzでの誘電正接が、6.0×10-3以下であることが好ましく、5.0×10-3以下であることがより好ましく、4.0×10-3以下であることが更に好ましい。この材料の2.45GHzでの誘電正接に下限値はないが、電子レンジ加熱用治具10Aに適した材料の多くは、2.45GHzでの誘電正接が1.0×10-5以上である。
【0030】
上記の物理的性質を有している材料としては、例えば、特定の樹脂硬化物が挙げられる。樹脂硬化物は、例えば、熱硬化性樹脂の硬化物であるか、又は、熱可塑性樹脂である。上記材料が樹脂硬化物である場合、電子レンジ加熱用治具10Aは、例えば、その全体を一体に整形した成形品とすることができる。
【0031】
上記の物理的性質を有している樹脂硬化物としては、例えば、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリアミドイミド(PAI)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びポリエチレン(PE)が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリアミドイミド(PAI)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びポリエチレン(PE)が好ましい。
【0033】
そして、これらの中でも、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びポリエチレン(PE)が特に好ましい。
【0034】
図3は、
図1及び
図2に示す電子レンジ加熱用治具を使用可能な電子レンジの一例を示す斜視図である。
【0035】
図3に示す電子レンジ100は、ターンテーブルを有していない、所謂、フラットテーブル型の電子レンジである。電子レンジ100は、電子レンジ本体110と扉120とを含んでいる。
【0036】
電子レンジ本体110は、金属板によって取り囲まれ、正面で開口した加熱室を有している。
図3には、これら金属板の表面のうち、底板の表面である庫内底面W1と、左側の側面板の表面である庫内側面W2と、奥側の側面板の表面である庫内側面W3とを描いている。
【0037】
奥側の側面板には、開口が設けられている。この開口とマグネトロンとの間には、導波管が設置されている。奥側の側面板には、開口を塞ぐカバー体111が取り付けられている。カバー体111は、例えばマイカからなり、マイクロ波を透過させる。
【0038】
図1及び
図2に示す電子レンジ加熱用治具10Aは、ターンテーブルを有している、所謂、ターンテーブル型の電子レンジにおいて使用してもよい。また、
図1及び
図2に示す電子レンジ加熱用治具10Aは、右又は左側の側面板に開口が設けられ、この開口から加熱室へマイクロ波を導入するように構成された電子レンジにおいて使用してもよく、底板に開口が設けられ、この開口から加熱室へマイクロ波を導入するように構成された電子レンジにおいて使用してもよく、天板に開口が設けられ、この開口から加熱室へマイクロ波を導入するように構成された電子レンジにおいて使用してもよい。
【0039】
図4は、蓋を開けた缶詰製品を、
図1及び
図2に示す電子レンジ加熱用治具を介して、電子レンジの庫内底面に載置した様子を示す断面図である。
【0040】
図4には、
図3を参照しながら説明した電子レンジ100における缶詰製品20の加熱に、
図1及び
図2を参照しながら説明した電子レンジ加熱用治具10Aを利用する一形態を示している。
図4では、電子レンジ100については、上面を庫内底面W1として有している底板112のみを描いている。
【0041】
缶詰製品20は、金属製缶容器21と、これに収容された物品22とを含んでいる。
【0042】
金属製缶容器21は、缶底21bと缶胴21aとが二重巻締めによって一体化されるとともに、缶蓋21cと缶胴21aとが二重巻締めによって一体化されたスリーピース缶である。缶詰製品20が含む金属製缶容器は、胴部と底部とが一体に成形されたツーピース缶であってもよい。
【0043】
図4の缶詰製品20は、蓋が開けられた状態にある。蓋を開けていない缶詰製品では、金属製缶容器21の缶蓋は、一例によれば、V字溝などのスコアが表面に設けられた円板状の缶蓋本体と、これに取り付けられたプルタブとを含む。プルタブは、これを引っ張ることにより、スコアに沿った缶蓋本体の破断を生じさせ得る。他の例によれば、蓋を開けていない缶詰製品では、金属製缶容器21の缶蓋は、V字溝などのスコアが表面に設けられておらず、プルタブも取り付けられていない円板状の缶蓋本体からなる。
【0044】
物品22は、水を含んでいる。物品22は、ここでは、第1食品22aと第2食品22bとを含んだ食品である。第1食品22aと第2食品22bの少なくとも一方は水を含んでいる。一例によれば、第1食品22aは水分を含んだ固形食品であり、第2食品22bは調味液などの液状食品である。そのような第1食品22a及び第2食品22bを含んだ物品22は、例えば、焼き鳥又はコーンスープである。第1食品22a及び第2食品22bの一方は省略してもよい。
【0045】
ここで、蓋を開けることによって金属製缶容器21の缶蓋に生じる開口部の面積をSとし、物品22の体積をVとして、S/V(/cm)を定義する。缶詰め製品20は、S/Vが6/cm以上であることが好ましく、15/cm以上であることがより好ましい。マイクロ波は、蓋を開けることによって缶蓋に生じる開口部を介してのみ、物品22へ入射可能である。S/Vを大きくすると、より効率的な加熱が可能となる。なお、S/Vに上限値はないが、一例によれば、S/Vは45/cm以下である。
【0046】
金属製缶容器21内の物品22を電子レンジ100で加熱する際には、先ず、
図4に示すように、蓋を開けた缶詰製品20を、電子レンジ加熱用治具10Aを介して、電子レンジ100の庫内底面W1に載置する。
【0047】
上記の通り、電子レンジ加熱用治具10Aは、第1部分11のより小さな径の開口が、より大きな径の開口の下方へ位置するように庫内底面W1へ設置する。電子レンジ加熱用治具10Aは、庫内底面W1の略中央に設置することが好ましい。
【0048】
また、上記の通り、電子レンジ加熱用治具10Aの下部の最大内径は缶詰製品20の直径と比較してより小さく、電子レンジ加熱用治具10Aの上部の内径は缶詰製品20の直径と等しいか又はそれよりも大きい。従って、
図4に示すように、缶詰製品20の下部を電子レンジ加熱用治具10Aの上部内に位置させた場合、缶詰製品20の下側の縁は中間部11Sの上に載った状態となる。
【0049】
このようにして、金属製缶容器21を、電子レンジ100の庫内底面W1からの距離を広げた状態で、庫内に設置する。具体的には、電子レンジ加熱用治具10Aなしで缶詰製品20を庫内底面W1に載置した場合と比較して、上記の距離を高さHだけ広げた状態で、金属製缶容器21を庫内に設置する。
【0050】
その後、電子レンジ100の扉120を閉じ、電子レンジ100によるマイクロ波照射を行う。缶詰製品20は蓋を開けた状態にあるので、マイクロ波は物品22へ入射可能である。従って、物品22は加熱される。
【0051】
上記の通り、樹脂シート及び金属箔を含んだ複合シートをカップ状に成形してなる容器本体を、紙製の箱体に入れ、この状態で、容器本体内の内容物を電子レンジで加熱すると、スパークの発生を生じ難くすることができる。しかしながら、本発明者らは、上記の容器本体に代えて金属製缶容器を使用した場合、スパークの発生を生じ難くすることはできるものの、紙に焦げを生じ得ることを見出している。
【0052】
本発明者らは、この焦げの原因は、紙が含んでいる水分が一因であると考えた。即ち、紙は水分を含んでいるため、紙の温度はマイクロ波照射によって急速に上昇する。本発明者らは、これが、紙に焦げを発生し易くしていると考えた。
【0053】
そこで、本発明者らは、紙が含む水分量が焦げの発生へ及ぼす影響について調べた。その結果、驚くべきことに、紙が含む水分量が焦げの発生へ影響を及ぼしていないことが判明した。
【0054】
本発明者らは、焦げ発生の主因は別の点にあると考え、更に検討を行った。即ち、紙が含むセルロースなどの成分又はその官能基若しくは結合へマイクロ波が作用して、紙製容器に焦げが発生するという仮説を立てた。この仮説に基づいて、様々な材料について、マイクロ波照射による焦げ等の発生の有無を調べたところ、マイクロ波照射によって温度が過剰に上昇しないものは、何れも上記の物理的性質を有していることを見出した。
【0055】
また、庫内底面W1から金属製缶容器21までの距離を広げると、それらの間の電場の勾配を小さくすることができ、スパークの発生を生じ難くすることができる。そして、この距離を広げると、庫内底面W1と金属製缶容器21の底面とがマイクロ波を反射することに起因した、それらに挟まれた領域におけるマイクロ波の閉じ込めが軽減され、電子レンジ加熱用治具10Aへのマイクロ波の過剰照射も防止できる。
【0056】
従って、金属製缶容器21に収容された物品22を電子レンジ100で加熱する際に、上記の物理的性質を有している材料からなる電子レンジ加熱用治具10Aを使用して、庫内底面W1から金属製缶容器21までの距離を広げると、スパークの発生並びに治具の焦げ及び融けを抑制することができる。即ち、金属に由来する不具合が発生するのを抑制可能となる。
【0057】
電子レンジ加熱用治具には、様々な変形が可能である。
図5は、変形例に係る電子レンジ加熱用治具の斜視図である。
図6は、
図5に示す電子レンジ加熱用治具のVI-VI線に沿った断面図である。
図7は、蓋を開けた缶詰製品を、
図5及び
図6に示す電子レンジ加熱用治具を介して、電子レンジの庫内底面に載置した様子を示す断面図である。
【0058】
図5及び
図6に示す電子レンジ加熱用治具10Bは、電子レンジ加熱用治具10Aについて上述した物理的性質を有している材料からなる。電子レンジ加熱用治具10Bは、第1部分11と第3部分13とを含んでいる。
【0059】
第1部分11は、一方の開口から他方の開口へ向けて縮径した略円筒形状を有している。第1部分11は、
図7に示す缶詰製品20を支持する支持部である。
【0060】
電子レンジにおいて電子レンジ加熱用治具10Bを使用する際、第1部分11のより小さな径の開口は、より大きな径の開口の上方へ位置させる。以下、電子レンジ加熱用治具10B及びその構成要素について、用語「上」及び「下」は、電子レンジにおいて電子レンジ加熱用治具10Bを使用しているときの相対位置に関連付けて使用する。
【0061】
第1部分11は、ここでは、外径が高さ方向に一定である下部と、外径が下方から上方へ向けて連続的に減少している上部とを含んでいる。また、ここでは、第1部分11の外径は、下部と上部との境界位置で、下方から上方へ向けて不連続に減少している。第1部分11の高さは、高さHについて上述した範囲内にあることが好ましい。
【0062】
第3部分13は、円板形状を有しており、第1部分11の上側開口を塞いでいる。第3部分13は、第1部分11の形状保持性を高める補強部である。
【0063】
第3部分13の上面は、第1部分11の上側端面に対して面一である。第3部分13の上面は、第1部分11の上側端面よりも下方に位置していてもよい。また、第3部分13は、省略してもよい。
【0064】
第1部分11は、その上側端部における外径が、缶底21bの内径、即ち、缶底21bと缶胴21aとを二重巻締めしてなる二重巻締め部が形成している円筒部の内径と比較してより小さい。それ故、電子レンジ加熱用治具10Bを、例えば、電子レンジ100における缶詰製品20の加熱に利用する場合、上記円筒部内に電子レンジ加熱用治具10Bの上端が位置し、缶詰製品20の下面は第1部分11の上側端面及び第3部分13の上面に載った状態となる。従って、缶詰製品20は電子レンジ加熱用治具10Bからの落下を生じ難い。
【0065】
また、この状態では、電子レンジ100の庫内底面W1から金属製缶容器21までの距離は、電子レンジ加熱用治具10Bなしで缶詰製品20を庫内底面W1に載置した場合と比較して広げられている。そして、上記の通り、電子レンジ加熱用治具10Bは、電子レンジ加熱用治具10Aについて上述した物理的性質を有する材料からなる。従って、電子レンジ加熱用治具10Bを使用した場合も、スパークの発生並びに治具の焦げ及び融けを抑制することができる。即ち、金属に由来する不具合が発生するのを抑制可能となる。
【0066】
電子レンジ加熱用治具10A及び10Bの各々は、その高さ方向に対して垂直な平面への正射影の形状が円形である。電子レンジ加熱用治具は、その高さ方向に対して垂直な平面への正射影の形状が円形でなくてもよい。例えば、電子レンジ加熱用治具は、その高さ方向に対して垂直な平面への正射影の形状が、正方形、長方形、角が丸められた正方形、又は、角が丸められた長方形であってもよい。
【0067】
また、上記の通り、電子レンジ加熱用治具10A及び10Bは、物品22を電子レンジ100で加熱する際に、金属製缶容器21と庫内底面W1との間に設置するように構成されている。電子レンジ加熱用治具には、他の構成を採用することも可能である。例えば、電子レンジ加熱用治具は、缶詰製品20を吊り下げることにより支持してもよい。この場合、電子レンジ加熱用治具は、金属製缶容器21と庫内底面W1との間に位置する部分を含んでいなくてもよい。
【0068】
電子レンジ加熱用治具は、単独で流通させることができる。或いは、電子レンジ加熱用治具は、蓋を開ける前の缶詰製品と組み合わせて、治具付属缶詰製品として流通させることもできる。治具付属缶詰製品において、電子レンジ加熱用治具の数と缶詰製品の数とは、一致していてもよく、異なっていてもよい。後者の場合、治具付属缶詰製品は、例えば、1つの電子レンジ加熱用治具と、複数の缶詰製品とを含んでいてもよい。
【実施例0069】
以下に、本発明に関連して行った試験について記載する。
【0070】
<1>水分が焦げ又は融けの発生へ及ぼす影響
厚さが0.6mmであり、ポリプロピレンからなるシートを、室内環境中に長時間放置した。次いで、このシートから、一辺が10cmである正方形状を各々が有している複数のサンプルを切り出した。これらサンプルの質量(初期質量)を測定し、その後、これらを、A乃至C群へ分けた。
【0071】
A群の各サンプルについては、初期質量測定の直後に、以下の加熱試験を行った。
加熱試験においては、フラットテーブル型の電子レンジを使用した。サンプルは、フラットターンテーブルの略中央に設置した。サンプル上には、蓋を開けて70gの水道水を収容した金属製缶容器を載置した。金属製缶容器としては、蓋部がアルミニウムからなり、胴部及び底部がスチールからなり、開口部の直径が72mmであり、高さが30mmであるスリーピース缶を使用した。そして、電子レンジにより500Wで30秒間のマイクロ波加熱を行い、加熱終了直後に、金属製缶容器をサンプルから取り除いて、サンプル全体を赤外線サーモグラフィカメラで撮像した。このようにして取得した画像から、サンプルの最高温度を得た。また、マイクロ波加熱後のサンプルを通常のカメラで撮像して、その画像を観察するとともに、マイクロ波加熱後のサンプルを肉眼で観察して、サンプルにおける焦げ又は融けの発生状況を調べた。
【0072】
B群の各サンプルについては、初期質量測定後に、50℃の温度に設定した恒湿器で7日間に亘って乾燥させた。乾燥後の質量を測定し、続いて、上記の加熱試験を行った。これにより、サンプルの最高温度を得た。そして、上記と同様の方法により、サンプルにおける焦げ又は融けの発生状況を調べた。
【0073】
C群の各サンプルについては、初期質量測定後に、50℃の温度に設定した恒湿器で7日間に亘って乾燥させた。乾燥後の質量を測定し、続いて、50%RH、23℃の条件に設定した恒湿器で、サンプルを7日間に亘って吸湿させた。その後、上記の加熱試験を行って、サンプルの最高温度を得た。そして、上記と同様の方法により、サンプルにおける焦げ又は融けの発生状況を調べた。
【0074】
また、異なる材料からなるシートについても、ポリプロピレンシートに対して行ったのと同様の試験を行った。結果を、以下の表1に示す。
【0075】
【0076】
表1において、略号「PBS/PLA」は、ポリブチレンサクシネート/ポリ乳酸ブレンド樹脂を表している。「A」は、サンプルの肉眼による観察及び画像の観察の何れにおいても、焦げ又は融けの発生を確認できなかったことを表している。「B」は、画像の観察では焦げ又は融けの発生を確認できなかったが、サンプルの肉眼による観察では、一見しただけでは分からない程度の焦げ又は融けが確認できたことを表している。「C」は、画像の観察では焦げ又は融けの発生を明瞭に確認できなかったが、サンプルの肉眼による観察では、一見しただけで焦げ又は融けが確認できたことを表している。「D」は、画像の観察だけでも焦げ又は融けの発生を明瞭に確認できたことを表している。
【0077】
表1に示すように、シートの水分量と最高温度との間に相関は見られなかった。また、シートの水分量と焦げ又は融けの発生状況との間にも相関は見られなかった。
【0078】
<2>治具の材料の種類が焦げ又は融けの発生へ及ぼす影響
下記表2に示す材料からなる電子レンジ加熱用治具を作成した。電子レンジ加熱用治具には、
図5乃至
図7を参照しながら説明した電子レンジ加熱用治具10Bに類似した構造を採用した。電子レンジ加熱用治具の高さは1.0cmとした。なお、表2において、略号「A-PET」はアモルファスポリエチレンテレフタレートを表し、略号「POM」はポリアセタールを表し、略号「PA」はポリアミド(ここではナイロン66)を表し、略号「PBS/PLA」はポリブチレンサクシネート/ポリ乳酸ブレンド樹脂を表し、略号「PVDF」はポリ弗化ビニリデンを表している。
【0079】
また、電子レンジ加熱用治具として、紙からなる箱を作成した。この紙箱は、底面が正方形である直方体形状に形成した。直方体の底辺は6cmとし、高さは1.0cmとした。
【0080】
次に、以下の加熱試験を行った。
加熱試験においては、フラットテーブル型の電子レンジを使用した。電子レンジ加熱用治具は、フラットテーブルの略中央に設置した。電子レンジ加熱用治具の上には、蓋を開けて70gの水道水を収容した金属製缶容器を載置した。金属製缶容器としては、蓋部がアルミニウムからなり、胴部及び底部がスチールからなり、開口部の直径が72mmであり、高さが30mmであるスリーピース缶を使用した。そして、電子レンジにより500Wで60秒間のマイクロ波加熱を行った。その後、電子レンジ加熱用治具サンプルを通常のカメラで撮像して、その画像を観察するとともに、電子レンジ加熱用治具サンプルを肉眼で観察して、電子レンジ加熱用治具サンプルにおける焦げ又は融けの発生状況を調べた。結果を、以下の表2に示す。
【0081】
【0082】
表2における「焦げ・融け発生状況」に関する評価基準は、表1における「焦げ・融け発生状況」に関する評価基準と同様である。
【0083】
また、表2には、上記の評価の結果に加え、2.45GHzにおける比誘電率と、2.45GHzにおける誘電正接(tanδ)とを示している。なお、PTFEの比誘電率は10GHzにおける値であるが、その2.45GHzにおける比誘電率は1乃至5の範囲内にある。PVC、PMMA及びPVDFの比誘電率は1GHzにおける値であるが、それらの2.45GHzにおける比誘電率は1乃至5の範囲内にある。
【0084】
表2に示すように、誘電正接が7.0×10-3以下である材料からなる電子レンジ加熱用治具は、目立った焦げ又は融けを生じることがなかった。そして、誘電正接が6.0×10-3以下である材料からなる電子レンジ加熱用治具は、焦げ又は融けを生じなかった。
10A…電子レンジ加熱用治具、10B…電子レンジ加熱用治具、11…第1部分、11S…中間部、12…第2部分、13…第3部分、20…缶詰製品、21…金属製缶容器、21a…缶胴、21b…缶底、21c…缶蓋、22…物品、22a…第1食品、22b…第2食品、100…電子レンジ、110…電子レンジ本体、111…カバー体、112…底板、120…扉、W1…庫内底面、W2…庫内側面、W3…庫内側面。