(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132247
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】制御方法、制御装置、および鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20240920BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20240920BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240920BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240920BHJP
B60W 10/11 20120101ALI20240920BHJP
【FI】
B60W10/00 108
F02D29/00 G
F02D29/02 321C
B60W10/06
B60W10/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042956
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大関 孝
(72)【発明者】
【氏名】塚田 善昭
(72)【発明者】
【氏名】藤本 靖司
【テーマコード(参考)】
3D241
3G093
【Fターム(参考)】
3D241AA01
3D241AA04
3D241AA23
3D241AB00
3D241AC01
3D241AC13
3D241AC24
3D241AC29
3D241AD02
3D241AD22
3D241AD23
3D241AE03
3G093AA02
3G093BA02
3G093DA01
3G093DA06
3G093DB03
3G093DB04
3G093DB05
3G093DB10
3G093DB11
3G093DB12
3G093EA03
3G093FA04
(57)【要約】
【課題】コースティングを終了するためのクラッチの接続時に生じる衝撃を低減することが可能な技術を提供する。
【解決手段】鞍乗型車両のコースティングを制御する制御方法は、前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知する第1検知工程と、前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知する第2検知工程と、前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、且つ、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する開始工程と、前記コースティングの実行中、切断状態の前記クラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、前記鞍乗型車両のエンジンの回転数を制御する制御工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両のコースティングを制御する制御方法であって、
前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知する第1検知工程と、
前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知する第2検知工程と、
前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、且つ、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する開始工程と、
前記コースティングの実行中、切断状態の前記クラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、前記鞍乗型車両のエンジンの回転数を制御する制御工程と、
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項2】
前記コースティングの実行中における前記回転数差を検知する第3検知工程を更に含み、
前記制御工程では、前記第3検知工程で検知された前記回転数差に基づいて、前記エンジンの回転数を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記鞍乗型車両は、複数の変速段を有する手動式の変速機を備え、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中、前記回転数差が前記許容範囲内に収まるように、前記変速機の変速段に応じて前記エンジンの回転数を制御する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記変速機の変速段が変更された場合に、前記変速機の変速段の変更に応じて前記エンジンの回転数を変更する、ことを特徴とする請求項3に記載の制御方法。
【請求項5】
前記制御工程では、前記コースティングの実行中、前記変速機の変速段が低速側であるほど前記回転数差が小さくなるように、前記変速機の変速段に応じて前記エンジンの回転数を制御する、ことを特徴とする請求項3に記載の制御方法。
【請求項6】
前記鞍乗型車両は、複数の変速段を有する手動式の変速機を備え、
前記制御工程では、前記変速機の変速段と前記鞍乗型車両の速度とに基づいて、前記回転数差を前記許容範囲内に収めることができる前記エンジンの目標回転数を決定し、前記目標回転数に基づいて前記エンジンの回転数を制御する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御方法。
【請求項7】
前記制御工程では、前記コースティングの実行中、前記鞍乗型車両のバンク角に応じて前記エンジンの回転数を制御する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御方法。に記載の制御方法。
【請求項8】
前記制御工程では、前記コースティングの実行中、前記バンク角が大きいほど前記エンジンの回転数が高くなるように、前記バンク角に応じて前記許容範囲および前記エンジンの回転数を変更する、ことを特徴とする請求項7に記載の制御方法。
【請求項9】
前記コースティングの開始を制限するための制約条件を満たすか否かを判定する判定工程を更に含み、
前記開始工程は、前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、且つ、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知された場合であっても、前記判定工程で前記制約条件を満たすと判定された場合には行われず、
前記制約条件は、前記鞍乗型車両のバンク角が閾値以上であるとの条件を含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御方法。
【請求項10】
前記鞍乗型車両は、複数の変速段を有する手動式の変速機を備え、
前記制御方法は、前記複数の変速段のうち、前記コースティングの実行中における前記エンジンの回転数に対応する変速段を報知する報知工程を更に含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御方法。
【請求項11】
前記鞍乗型車両は、運転者によるレバーまたはペダルの操作によって前記クラッチを手動で切断可能に構成されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御方法。
【請求項12】
鞍乗型車両のコースティングを制御する制御装置であって、
前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知するクラッチ検知手段と、
前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知するスロットル検知手段と、
前記コースティングを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記クラッチ検知手段により前記クラッチの切断が検知され、且つ、前記スロットル検知手段により前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始し、
前記コースティングの実行中、切断状態の前記クラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、前記鞍乗型車両のエンジンの回転数を制御する、ことを特徴とする制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載の制御装置を備える鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両のコースティングを制御する制御方法、制御装置、および、それを備える鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンの動力を用いない惰性走行を制御することによって省エネ走行する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような惰性走行(コースティングとも呼ばれる)は、四輪車だけでなく、自動二輪車などの鞍乗型車両にも適用することが望まれている。鞍乗型車両にコースティングを適用することにより、鞍乗型車両の燃費を向上させることができる。しかしながら、鞍乗型車両では、コースティングの実行中におけるエンジンの回転数によっては、コースティングを終了するためのクラッチの接続時に大きな衝撃(ショック)が生じることがある。このような現象は、運転者によるレバーまたはペダルの操作によってクラッチが手動で切断/接続される鞍乗型車両において特に顕著になりうる。また、この場合、クラッチの耐久性に影響を与えることがある。
【0005】
そこで、本発明は、コースティングを終了するためのクラッチの接続時に生じる衝撃を低減することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての制御方法は、鞍乗型車両のコースティングを制御する制御方法であって、前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知する第1検知工程と、前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知する第2検知工程と、前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、且つ、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する開始工程と、前記コースティングの実行中、切断状態の前記クラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、前記鞍乗型車両のエンジンの回転数を制御する制御工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば、コースティングを終了するためのクラッチの接続時に生じる衝撃を低減することが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】鞍乗型車両のコースティング制御を示すフローチャート
【
図4】鞍乗型車両のコースティング制御を示すフローチャート
【
図5】鞍乗型車両のコースティングの制御例を説明するための図
【
図6】鞍乗型車両のコースティングの制御例を説明するための図
【
図7】バンク角とエンジンの回転数の増加量との関係の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内での構成の変更や変形も含む。また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明に必須のものとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、その説明を省略する。
【0010】
本発明に係る一実施形態の制御装置100について説明する。制御装置100は、鞍乗型車両10のコースティングを制御する装置である。コースティングとは、クラッチにより駆動源(エンジン)から駆動輪(車輪)への動力伝達を遮断して惰性走行を行うことである。本実施形態の場合、駆動源であるエンジンの回転数をアイドル回転数より小さくすることによってコースティングが行われる。また、鞍乗型車両10としては、例えば自動二輪車や三輪車などが挙げられる。本実施形態では、鞍乗型車両10として自動二輪車を例示して説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の制御装置100が適用(搭載)される鞍乗型車両10の一例を示す外観図(左側面図)である。鞍乗型車両10は、
図1に示されるように、エンジン11と変速機12とを備える。エンジン11の出力は、不図示のクラッチを介して変速機12に伝達される。変速機12は、変速比が互いに異なる複数の変速段(ギヤ段)を有する手動式の変速機である。本実施形態では、変速機12が1速~5速の変速段を有する例を説明するが、それに限られず、変速機12における変速段の数は幾つであってもよい。
【0012】
鞍乗型車両10における左側のハンドルグリップ13の近傍には、運転者(ライダ)がクラッチの切断操作(クラッチ操作)を行うためのクラッチレバー14が設けられている。また、鞍乗型車両10の左側面には、運転者が変速機12の変速操作を行うためのシフトペダル15が設けられている。運転者によりクラッチレバー14およびシフトペダル15が操作されると、それに応じて不図示のシフタが作動し、変速機12の変速段が変更される(切り替えられる)。ここで、シフトペダル15は、クラッチと連動して変速機12の変速段を変更可能に構成されたペダル(即ち、クラッチ・ギヤチェンジ連動式のチェンジペダル)として構成されてもよい。この場合、運転者は、シフトペダル15を介してクラッチの切断操作を行うことができる。
【0013】
鞍乗型車両10における右側のハンドルグリップ16は、運転者がアクセル操作を行うように回転可能に構成されている。即ち、ハンドルグリップ16は、運転者による回転操作に応じてスロットル開度を調整してエンジン11の出力を制御するためのスロットル操作部として構成される。また、ハンドルグリップ16の近傍には、鞍乗型車両10のブレーキを制御するためのブレーキレバー17が設けられている。
【0014】
図2は、本実施形態の制御装置100の構成例を示すブロック図を示している。制御装置100は、エンジン11を制御することによって鞍乗型車両10のコースティングを制御する装置であり、本実施形態では制御部110と各種センサ120と報知部130とを備えうる。なお、制御部110は、鞍乗型車両10に設けられたECU(Electronic Control Unit)の一部として構成されてもよい。
【0015】
制御部110は、処理部111と、記憶部112と、インタフェース部113とを含みうる。処理部111は、CPU(Central Processing Unit)等によって構成され、各種センサ120の検知結果に基づいて鞍乗型車両10のコースティングを制御する。記憶部112は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等によって構成され、鞍乗型車両10のコースティングを制御するためのプログラムを記憶する。記憶部112に記憶されている当該プログラムは、処理部111によって読み出されて実行されうる。インタフェース部113は、各種センサ120等の外部デバイスと情報やデータの送受信を行う。
【0016】
各種センサ120は、クラッチ検知センサ121と、スロットル検知センサ122と、回転数差検知センサ123と、ギヤ段検知センサ124と、バンク角検知センサ125と、エンジン回転数センサ126と、車速センサ127とを含みうる。各種センサ120での検知結果を示す情報は、制御部110に供給(送信)されうる。即ち、各種センサ120での検知結果を示す情報は、インタフェース部113を介して処理部111に供給(送信)されうる。
【0017】
クラッチ検知センサ121(第1検知部)は、鞍乗型車両10のクラッチの切断状態を検知する。クラッチ検知センサ121は、運転者によるクラッチレバー14の操作量に基づいて、鞍乗型車両10のクラッチが切断された状態か否かを検知するものとして理解されてもよい。シフトペダル15がクラッチを切断可能に構成されている場合、クラッチ検知センサ121は、運転者によるシフトペダル15の操作量に基づいて、鞍乗型車両10のクラッチが切断された状態か否かを検知してもよい。また、スロットル検知センサ122(第2検知部)は、鞍乗型車両10のスロットル開度を検知する。スロットル検知センサ122は、運転者によるハンドルグリップ16の操作量(回転量)に基づいてスロットル開度を検知するものとして理解されてもよい。
【0018】
回転数差検知センサ123(第3検知部)は、鞍乗型車両10のクラッチにおける駆動側と従動側との回転数差を検知する。即ち、回転数差検知センサ123は、鞍乗型車両10のクラッチにおける駆動軸の回転数と従動軸の回転数との差を回転数差として検知する。ギヤ段検知センサ124は、鞍乗型車両10の変速機12における複数の変速段のうち運転者により選択されている変速段(即ち、現在の変速段)を検知する。バンク角検知センサ125は、鞍乗型車両10のバンク角を検知する。エンジン回転数センサ126は、鞍乗型車両10のエンジン11の回転数を検知する。また、車速センサ127は、鞍乗型車両10の速度(車速)を検知する。
【0019】
報知部130(通知部)は、各種情報を運転者に報知(通知)する。報知部130は、鞍乗型車両10に設けられた表示装置(ディスプレイ)に各種情報を表示することによって各種情報の報知を行ってもよいし、運転者の所有する情報端末に各種情報を送信することによって各種情報の報知を行ってもよい。本実施形態の場合、報知部130は、変速機12における複数の変速段のうち、コースティングの実行中におけるエンジン11の回転数に対応する変速段を報知するために用いられる。即ち、報知部130は、現在のエンジン11の回転数に対し、クラッチを接続した場合に生じる衝撃(ショック)を低減するのに適した変速段を報知する。
【0020】
ところで、近年では、鞍乗型車両10の燃費向上の観点から、鞍乗型車両10にコースティングを適用することが望まれている。しかしながら、鞍乗型車両10では、コースティングの実行中におけるエンジン11の回転数によっては、コースティングを終了するためのクラッチの接続時に大きな衝撃(ショック)が生じることがある。このような現象は、本実施形態の鞍乗型車両10のように、運転者によるクラッチレバー14またはシフトペダル15の操作によってクラッチが手動で切断/接続される場合に特に顕著になりうる。また、この場合、クラッチの耐久性に影響を与えることがある。
【0021】
そこで、本実施形態の制御装置100(制御部110)は、コースティングの実行中、切断状態のクラッチにおける駆動側(駆動軸)と従動側(従動軸)との回転数差が許容範囲内に収まるように、エンジン11の回転数を制御する。これにより、コースティングの実行中、クラッチが切断状態であっても、クラッチにおける駆動側と従動側との回転数が近づくように制御される。そのため、コースティングを終了するためにクラッチが接続された場合であっても、クラッチの接続時に生じる衝撃を低減することができる。
【0022】
以下、鞍乗型車両10のコースティングの制御例について、
図3~
図6を参照しながら説明する。
図3~
図4は、鞍乗型車両10のコースティング制御を示すフローチャートである。
図3~
図4のフローチャートは、制御部110(処理部111)によって実行されうる。また、
図5~
図6は、鞍乗型車両10のコースティングの制御例を説明するための図である。
図5は、コースティングの実行中に変速機12の変速段が変更された例を示しており、
図6は、コースティングの実行中に鞍乗型車両10のバンク角が変更された例を示している。
【0023】
ステップS101で、制御部110は、クラッチ検知センサ121によりクラッチの切断が検知されたか否かを判定する。クラッチの切断が検知されていない場合にはステップS101を繰り返し行い、クラッチの切断が検知された場合にステップS102に進む。ステップS102で、制御部110は、スロットル検知センサ122によりスロットル開度が所定開度未満であることが検知されたか否かを判定する。スロットル開度が所定開度以上である場合にはステップS101に戻り、スロットル開度が所定開度未満である場合にはステップS103に進む。ここで、所定開度は、スロットルが閉状態であると判断するための値(閾値)であり、例えばゼロ、或いは、ゼロに近い値に設定されうる。
【0024】
ステップS103で、制御部110は、コースティングの開始を制限するための制約条件を満たすか否かを判定する。制約条件を満たす場合にはステップS101に戻り、制約条件を満たしていない場合にステップS104に進む。
【0025】
ここで、制約条件としては、鞍乗型車両10のバンク角が閾値以上であるとの条件が挙げられる。鞍乗型車両10のバンク角が閾値以上である場合にコースティングが開始されると、鞍乗型車両10の挙動が不安定になることがある。そのため、この制約条件によれば、鞍乗型車両10のバンク角が閾値以上である場合にはコースティングが実行(開始)されず、鞍乗型車両10のバンク角が閾値未満である場合にはステップS104に進んでコースティングが実行(開始)される。なお、バンク角は、バンク角検知センサ125によって検知される。バンク角の閾値は、実験やシミュレーション等を用いて、コースティングを実行(開始)しても鞍乗型車両10の挙動が不安定にならない値に事前に設定されうる。
【0026】
また、制約条件は、バンク角に関する条件に加えて又は代わりに、運転者によってコースティングが許可されていないとの条件を含みうる。例えば、鞍乗型車両10には、コースティングの許可/不許可を運転者が設定(選択)するための操作子が設けられうる。当該操作子は、ボタン或いはスイッチによって構成されうる。この制約条件によれば、当該操作子を介して運転者がコースティングの不許可を設定している場合にはコースティングが実行(開始)されず、運転者がコースティングの許可を設定している場合にはステップS104に進んでコースティングが実行(開始)される。
【0027】
ステップS104で、制御部110は、鞍乗型車両10のコースティングを開始する。制御部110は、
図5~
図6に示されるように、クラッチ検知センサ121によりクラッチの切断が検知され、且つ、スロットル検知センサ122によりスロットル開度が所定開度未満であることが検知されたタイミングt1において、エンジン11の回転数を低下させて鞍乗型車両10のコースティングを開始する。
【0028】
ステップS105で、制御部110は、鞍乗型車両10のコースティングを制御する。ステップS105におけるコースティング制御の詳細については
図4に示されている。以下、
図4を参照しながら、ステップS105におけるコースティング制御について説明する。
【0029】
ステップS111で、制御部110は、ギヤ段検知センサ124により、現在の変速機12の変速段を検知する。次いで、ステップS112で、制御部110は、回転数差検知センサ123により、切断状態のクラッチにおける駆動側と従動側との回転数差を検知する。なお、以下では、切断状態のクラッチにおける駆動側と従動側との回転数差を、単に「クラッチの回転数差」と表記することがある。
【0030】
ステップS113で、制御部110は、ステップS111でギヤ段検知センサ124により検知された変速機12の変速段と鞍乗型車両10の速度(車速)とに基づいて、クラッチの回転数差を許容範囲内に収めることができるエンジン11の目標回転数を決定する。例えば、変速機12の変速段と車速とが分かれば、クラッチにおける従動側(従動軸)の回転数を求めることができる。一例として、制御部110は、クラッチにおける従動側の回転数を、変速機12の変速段における変速比と車速とを変数とする計算式によって求めることができる。そして、クラッチにおける従動側の回転数が得られれば、制御部110は、クラッチにおける従動側の回転数と駆動側(駆動軸)の回転数との差が許容範囲内に収まるように駆動側の回転数を求め、求めた駆動側の回転数を実現するためのエンジン11の目標回転数を決定(算出)することができる。ここで、許容範囲は、実験やシミュレーション等を用いて、クラッチの接続時に生じる衝撃を規定値未満にすることができるクラッチの回転数差の範囲に事前に設定されうる。また、鞍乗型車両10の速度(車速)は、車速センサ127によって検知される。
【0031】
ステップS114で、制御部110は、ステップS113で決定された目標回転数に基づいて、エンジン11の回転数を制御する。具体的には、制御部110は、エンジン11の回転数が目標回転数になるように、エンジン11の回転数を制御する。
【0032】
ここで、コースティングは、後述するステップS118で終了条件を満たすと判定されるまで行われるため、コースティングの実行中において運転者により変速機12の変速段が変更されることがある。本実施形態では、終了条件を満たすまでステップS111~S114が繰り返し行われるため、コースティングの実行中に変速機12の変速段が変更された場合であっても、クラッチの回転数差が許容範囲内に収まるように、変速機12の変速段に応じてエンジン11の回転数が制御される。コースティングの実行中では、変速機12の変速段が低速側(即ち、高変速比側)であるほどクラッチの回転数差が小さくなるように、変速機12の変速段に応じてエンジン11の回転数が制御される。この場合、変速機12の変速段が低速側であるほどエンジン11の回転数が高くなるように、エンジン11の回転数が制御されうる。
【0033】
例えば、
図5に示されるように、コースティングの実行中に変速機12の変速段が4速から1速に変更された場合、変速段の変更に伴い、クラッチの従動側の回転数も変化しうる。制御部110は、4速から1速に変速段が変更されたとしても、1速の変更段についてステップS111~S114を行い、1速の変更段でのクラッチの回転数差が許容範囲内に収まるようにエンジン11の回転数を制御することができる。
図5の例では、4速から1速への変速段の変更に伴い、制御部110は、エンジン11の回転数を増加させている。また、
図5の例では、コースティングを実行しなかった場合におけるエンジンの回転数(即ち、アイドル回転数)を破線で示している。本実施形態の場合、制御部110は、コースティングの実行中におけるエンジン11の回転数とアイドル回転数との差を表す差回転Δが閾値(設定差回転)以下になるように、エンジン11の回転数を制御しうる。差回転Δは、コースティングを終了するためのクラッチの接続時に生じる衝撃や瞬時減速トルクの観点から、変速機12の変速段が低速側であるほど小さいことが望ましいが、変速機12の変速段によらずに一定であってもよい。例えば、制御部110は、
図5に示されるように、変速機12の変速段が1速の場合における差回転Δ2が、変速段が4速の場合における差回転Δ1以下になるように(即ち、Δ1≧Δ2)、エンジン11の回転数を制御しうる。ここで、閾値(設定差回転)は、実験やシミュレーション等を用いて、コースティングを終了するためのクラッチの接続時に生じる衝撃を規定値未満にすることができる差回転Δに事前に設定されうる。
【0034】
ステップS115で、制御部110は、バンク角検知センサ125の検知結果に基づいて、鞍乗型車両10のバンク角が変化したか否かを判定する。バンク角が変化した場合にはステップS116に進み、バンク角の変化がない場合にはステップS117に進む。
【0035】
ステップS116で、制御部110は、バンク角検知センサ125により検知されたバンク角に応じてエンジン11の回転数を変化(増減)させる。例えば、鞍乗型車両10のバンク角が生じている(増加している)状態でクラッチが接続されると、鞍乗型車両10の挙動が不安定になる。そのため、鞍乗型車両10のバンク角に応じてエンジン11の回転数を増加させることにより、クラッチの接続時における鞍乗型車両10の挙動の安定性を向上させるとよい。本実施形態の場合、制御部110は、コースティングの実行中、鞍乗型車両10のバンク角が大きいほどエンジンの回転数が高くなるように、バンク角に応じてエンジン11の回転数を変更する。この場合、クラッチの回転数差が許容範囲から外れることがあるため、制御部110は、バンク角に応じて当該許容範囲を変更(例えば解除)するとよい。
【0036】
例えば、
図6に示されるように、制御部110は、コースティングの実行中にバンク角が変化(増加)した場合、バンク角の変化に応じて、エンジン11の回転数を増加させる。エンジン11の回転数の増加は、バンク角とエンジン11の回転数の増加量との関係を示す情報に基づいて行われうる。当該情報は、実験やシミュレーション等を用いて事前に作成されうる。当該情報は、
図7(a)に示されるように、バンク角に応じてエンジン11の回転数の増加量を線形に増加させるものであってもよいし、
図7(b)に示されるように、バンク角に応じてエンジン11の回転数の増加量を段階的に増加させるものであってもよい。
【0037】
ステップS117で、制御部110は、報知部130により、コースティングの実行中におけるエンジン11の回転数に対応する変速段、即ち、クラッチの接続時に生じる衝撃を低減するのに適した変速段を報知する。本実施形態の場合、コースティングの実行中におけるエンジン11の回転数は、鞍乗型車両10の速度に応じて変化するとともに、バンク角に応じても変化するため、エンジン11の回転数に適した変速段も変化しうる。そのため、制御部110は、エンジン回転数センサ126により検知されたエンジン11の回転数に適した変速段を決定し、決定した変速段を報知部130によって報知しうる。変速段の決定は、エンジン11の回転数とそれに適した変速段との関係を示す情報に基づいて行われうる。当該情報は、実験やシミュレーション等を用いて事前に作成されうる。
【0038】
ステップS118で、制御部110は、コースティングを終了するための終了条件を満たすか否かを判定する。終了条件としては、クラッチ検知センサ121によりクラッチの接続が検知されたとの条件、または、スロットル検知センサ122によりスロットル開度が所定開度以上であることが検知されたとの条件が挙げられる。終了条件を満たさない場合にはステップS111に戻る。一方、終了条件を満たした場合には
図3のステップS106に進み、制御部110は、コースティングを終了する。なお、
図3~
図4のフローチャートは繰り返し実行されうる。即ち、
図3のフローチャートが終了したら、再び
図3のフローチャートが開始されうる。
【0039】
上述したように、本実施形態の制御装置100は、コースティングの実行中、切断状態のクラッチにおける駆動側(駆動軸)と従動側(従動軸)との回転数差が許容範囲内に収まるように、エンジン11の回転数を制御する。これにより、コースティングを終了するためにクラッチが接続された場合であっても、クラッチの接続時に生じる衝撃を低減することができる。また、この衝撃を低減することで、クラッチの耐久性への影響をも低減することができる。
【0040】
<実施形態のまとめ>
1.上記実施形態の制御方法は、
鞍乗型車両(例えば10)のコースティングを制御する制御方法であって、
前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知する第1検知工程(例えばS101)と、
前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知する第2検知工程(例えばS102)と、
前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、且つ、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する開始工程(例えばS104)と、
前記コースティングの実行中、切断状態の前記クラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、前記鞍乗型車両のエンジンの回転数を制御する制御工程(例えばS105、S113~S114)と、を含む。
この実施形態によれば、コースティングを終了するためにクラッチが接続された場合であっても、クラッチの接続時に生じる衝撃(ショック)を低減することができる。また、この衝撃を低減することで、クラッチの耐久性への影響をも低減することができる。さらに、鞍乗型車両にコースティングを適用することで、鞍乗型車両の燃費向上の点で有利になる。
【0041】
2.上記実施形態において、
前記コースティングの実行中における前記回転数差を検知する第3検知工程(例えばS112)を更に含み、
前記制御工程では、前記第3検知工程で検知された前記回転数差に基づいて、前記エンジンの回転数を制御する。
この実施形態によれば、切断状態のクラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、エンジンの回転数を精度よく制御することができる。
【0042】
3.上記実施形態において、
前記鞍乗型車両は、複数の変速段を有する手動式の変速機(例えば12)を備え、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中、前記回転数差が前記許容範囲内に収まるように、前記変速機の変速段に応じて前記エンジンの回転数を制御する。
この実施形態によれば、変速機の変速段に応じて、切断状態のクラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、エンジンの回転数を適切に制御することができる。
【0043】
4.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記変速機の変速段が変更された場合に、前記変速機の変速段の変更に応じて前記エンジンの回転数を変更する。
この実施形態によれば、コースティングの実行中に変速機の変速段が変更された場合であっても、変速機の変速段に応じてエンジンの回転数を変更することで、切断状態のクラッチにおける駆動側と従動側との回転数差を許容範囲内に収めることができる。
【0044】
5.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中、前記変速機の変速段が低速側であるほど前記回転数差が小さくなるように、前記変速機の変速段に応じて前記エンジンの回転数を制御する。
この実施形態によれば、コースティングの実行中における変速機の変速段に応じて、エンジンの回転数を適切に制御することができる。
【0045】
6.上記実施形態において、
前記鞍乗型車両は、複数の変速段を有する手動式の変速機(例えば12)を備え、
前記制御工程では、前記変速機の変速段と前記鞍乗型車両の速度とに基づいて、前記回転数差を前記許容範囲内に収めることができる前記エンジンの目標回転数を決定し(例えばS113)、前記目標回転数に基づいて前記エンジンの回転数を制御する(例えばS114)。
この実施形態によれば、切断状態のクラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、エンジンの回転数を精度よく制御することができる。
【0046】
7.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中、前記鞍乗型車両のバンク角に応じて前記エンジンの回転数を制御する(例えばS115~S116)。
この実施形態によれば、鞍乗型車両の車体姿勢(バンク角)を考慮して適切にエンジンエンジンの回転数を制御することができるため、クラッチの接続時における鞍乗型車両の挙動の安定性を向上させることができるとともに、燃費向上の点で有利になる。
【0047】
8.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中、前記バンク角が大きいほど前記エンジンの回転数が高くなるように、前記バンク角に応じて前記許容範囲および前記エンジンの回転数を変更する。
この実施形態によれば、鞍乗型車両のバンク角に応じてエンジンの回転数を増加させることにより、クラッチの接続時における鞍乗型車両の挙動の安定性を向上させることができる。
【0048】
9.上記実施形態において、
前記コースティングの開始を制限するための制約条件を満たすか否かを判定する判定工程(例えばS103)を更に含み、
前記開始工程は、前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、且つ、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知された場合であっても、前記判定工程で前記制約条件を満たすと判定された場合には行われず、
前記制約条件は、前記鞍乗型車両のバンク角が閾値以上であるとの条件を含む。
この実施形態によれば、バンク角が閾値以上である場合にコースティングが開始されて、鞍乗型車両の挙動が不安定になることを回避することができる。
【0049】
10.上記実施形態において、
前記鞍乗型車両は、複数の変速段を有する手動式の変速機(例えば12)を備え、
前記制御方法は、前記複数の変速段のうち、前記コースティングの実行中における前記エンジンの回転数に対応する変速段を報知する報知工程(例えばS117)を更に含む。
この実施形態によれば、鞍乗型車両の運転者は、コースティングの実行中において、現在のエンジンの回転数に適切な変速段を把握することができる。
【0050】
11.上記実施形態において、
前記鞍乗型車両は、運転者によるレバー(例えば14)またはペダル(例えば15)の操作によって前記クラッチを手動で切断可能に構成されている。
この実施形態によれば、レバーまたはペダルを介した運転者によるクラッチの切断操作に応じて、コースティングを制御することができる。
【0051】
12.上記実施形態の制御装置は、
鞍乗型車両のコースティングを制御する制御装置(例えば100)であって、
前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知するクラッチ検知手段(例えば121)と、
前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知するスロットル検知手段(例えば122)と、
前記コースティングを制御する制御手段(例えば110)と、
を備え、
前記制御手段は、
前記クラッチ検知手段により前記クラッチの切断が検知され、且つ、前記スロットル検知手段により前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始し(例えばS104)、
前記コースティングの実行中、切断状態の前記クラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、前記鞍乗型車両のエンジンの回転数を制御する(例えばS105、S113~S114)。
この実施形態によれば、コースティングを終了するためにクラッチが接続された場合であっても、クラッチの接続時に生じる衝撃(ショック)を低減することができる。また、この衝撃を低減することで、クラッチの耐久性への影響をも低減することができる。さらに、鞍乗型車両にコースティングを適用することで、鞍乗型車両の燃費向上の点で有利になる。
【0052】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0053】
10:鞍乗型車両、11:エンジン、12:変速機、13:左側のハンドルグリップ、14:クラッチレバー、15:シフトペダル、16:右側のハンドルグリップ(スロットル操作部)、17:ブレーキレバー、100:制御装置、110:制御部、120:各種センサ、121:クラッチ検知センサ、122:スロットル検知センサ、123:回転数差検知センサ124:ギヤ段検知センサ、125:バンク角検知センサ、126:エンジン回転数センサ、127:車速センサ