(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132251
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】圧力調整構造及び鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
F01M 13/00 20060101AFI20240920BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20240920BHJP
F01N 1/08 20060101ALI20240920BHJP
F01M 13/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F01M13/00 G
F01N13/08 A
F01N13/08 G
F01N1/08 B
F01M13/04 C
F01N1/08 N
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042961
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】恩田 博
(72)【発明者】
【氏名】重松 慶多
【テーマコード(参考)】
3G004
3G015
【Fターム(参考)】
3G004AA02
3G004BA03
3G004BA06
3G004CA04
3G004CA07
3G004DA03
3G004DA07
3G004DA08
3G004DA14
3G004DA21
3G015AB02
3G015BD18
3G015BD24
3G015BE04
3G015BE06
3G015CA17
3G015DA05
3G015EA03
(57)【要約】
【課題】クランク室の内圧上昇を抑制可能な技術を提供する。
【解決手段】エンジン(1)のクランク室(20)の内圧を調整する圧力調整構造(7,7A)であって、前記クランク室(20)と連通した圧力調整通路(80)を形成する通路形成手段(8)を備え、前記圧力調整通路(80)は、前記圧力調整通路(80)を流れる気体(80a)が、前記エンジン(1)の排気通路(60)を流れる排気流(60a)と合流するように形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(1)のクランク室(20)の内圧を調整する圧力調整構造(7,7A)であって、
前記クランク室(20)と連通した圧力調整通路(80)を形成する通路形成手段(8)を備え、
前記圧力調整通路(80)は、前記圧力調整通路(80)を流れる気体(80a)が、前記エンジン(1)の排気通路(60)を流れる排気流(60a)と合流するように形成される、
ことを特徴とする圧力調整構造。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力調整構造(7A)であって、
前記排気通路(60)の下流側の部分は、排気流が排出される開放口(EX1)を有する管部材(62)によって形成され、
前記通路形成手段(8)は、
前記管部材(62)の前記開放口(EX1)の側の端部の周囲を覆い、かつ、前記開放口(EX1)よりも下流側に位置する開口部(EX2)を有する筒状のカバー部材(833)を含み、
前記圧力調整通路(80)は、前記カバー部材(833)の周壁と前記管部材(62)の周壁との間の隙間(84)を含む、
ことを特徴とする圧力調整構造。
【請求項3】
請求項2に記載の圧力調整構造(7A)であって、
前記管部材(62)は、排気流が導入される導入口(IN1)を有し、
前記通路形成手段(8)は、
前記管部材(62)の周壁上を、前記導入口(IN1)の側から前記開放口(EX1)の側へ延設され、内部に前記隙間(84)と連通した前記圧力調整通路(80)の一部を形成する通路形成部材(832)と、
前記通路形成部材(832)の前記導入口(IN1)の側の端部に接続され、内部に前記圧力調整通路(80)の一部を形成する配管(830)と、を備える、
ことを特徴とする圧力調整構造。
【請求項4】
請求項3に記載の圧力調整構造であって、
前記通路形成部材(832)の内部空間(832b)と前記隙間(84)との連通部(833d)は、前記隙間(84)の前記導入口(IN1)の側の端(833c)から前記開放口(EX1)の側に離間した位置に形成されている、
ことを特徴とする圧力調整構造。
【請求項5】
請求項3に記載の圧力調整構造であって、
前記通路形成部材(832)の内部には、前記圧力調整通路(80)を曲折させる壁部(85)が設けられている、
ことを特徴とする圧力調整構造。
【請求項6】
請求項3に記載の圧力調整構造であって、
前記管部材(62)は消音器を構成し、
前記通路形成部材(832)と前記カバー部材(833)とは前記管部材(62)に一体に形成されている、
ことを特徴とする圧力調整構造。
【請求項7】
請求項1に記載の圧力調整構造であって、
前記通路形成手段(8)は、前記圧力調整通路(80)の途中において、気液分離室を形成する気液分離ユニット(82)を備える、
ことを特徴とする圧力調整構造。
【請求項8】
エンジン(104)を備えた鞍乗型車両(100)であって、
前記エンジン(104)のクランク室と連通した圧力調整通路(80)を形成する通路形成手段(8)を備え、
前記圧力調整通路(8)は、前記圧力調整通路(80)を流れる気体(80a)が、前記エンジン(1)の排気通路(60)を流れる排気流(60a)と合流するように形成される、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンのクランク室内の圧力を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランク室の内圧が高まるとピストン運動の抵抗が増加し、エンジンの出力特性に影響を及ぼす場合がある。そこでクランク室の内圧を解放する構造を設けて、クランク室の内圧を低下可能な技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クランク室の内圧上昇を抑制することは、ピストン運動の抵抗が減少して燃費の向上に寄与する。また、競技用車両に搭載されるエンジンでは高出力を期待できる。
【0005】
本発明の目的は、クランク室の内圧上昇を抑制可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
エンジン(1)のクランク室(20)の内圧を調整する圧力調整構造(7,7A)であって、
前記クランク室(20)と連通した圧力調整通路(80)を形成する通路形成手段(8)を備え、
前記圧力調整通路(80)は、前記圧力調整通路(80)を流れる気体(80a)が、前記エンジン(1)の排気通路(60)を流れる排気流(60a)と合流するように形成される、
ことを特徴とする圧力調整構造が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、クランク室の内圧上昇を抑制可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る圧力調整構造を適用したエンジンの説明図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両の側面図。
【
図6】(A)及び(B)は
図5のE部の他の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
図1は本発明の一実施形態に係る圧力調整構造7を適用したエンジン1の説明図である。エンジン1は、クランク室20を形成するクランクケース2、シリンダブロック3、及び、シリンダヘッド4を備えた4ストロークエンジンである。エンジン1の気筒数は単気筒であっても多気筒であってもよい。ここではエンジン1として多気筒エンジン(例えば直列4気筒エンジン)を想定する。
【0011】
クランクケース2にはクランク軸21が回転自在に支持されている。クランク軸21は、クランクアーム22とクランクアーム22に設けられたクランクピン23とを備えており、クランクピン23はクランク軸21の回転中心から離間した位置に配置されている。シリンダブロック3のボアにはピストン31が往復可能に配置されている。ピストン31とクランクピン23とはコネクティングロッド32によって連結されている。
【0012】
シリンダヘッド4は、燃焼室41と、燃焼室41に連通した、気筒毎の吸気ポート42及び排気ポート43を形成している。吸気ポート42は、動弁機構46で駆動される吸気バルブ44によって燃焼室41に対して開閉される。排気ポート43は、動弁機構47で駆動される排気バルブ45によって燃焼室41に対して開閉される。
【0013】
吸気装置5は吸気ポート42に連通した吸気通路50を形成する。吸気装置5は、空気の流れの上流側から順に、エアクリーナ51及び吸気量調整弁(スロットルバルブ)52を備えている。また、吸気装置5は配管53及び配管(吸気マニホールド)54を備えている。
【0014】
吸気ポート42には燃料噴射弁(インジェクタ)49によって燃料が噴射され、燃料と空気の混合気が燃焼室41に供給される。混合気は点火プラグ48によって点火され、燃焼室41で燃焼する。
【0015】
排気装置6は排気ポート43に連通した排気通路60を形成する。燃焼室41で発生した排気ガスは、排気ポート43から排気通路60に排出される。排気装置6は、排気の流れの上流側から順に触媒61及び消音器62を備えている。また、排気装置6は配管63(排気マニホールド)及び配管64を備えている。排気ガスは、排気装置6で浄化・消音されて大気に放出される。
【0016】
エンジン1では、ピストン31の往復運動によりクランク室20内の圧力が変動する。クランク室20内の圧力はポンピングロスとなる。圧力調整構造7はクランク室20内の気体(以下、内部気体とも呼ぶ)を外部に排出し、その内圧上昇を抑制する。
【0017】
圧力調整構造7は、通路形成ユニット8を備える。通路形成ユニット8は、クランク室20に連通した圧力調整通路80を形成する。クランク室20内の内部気体が圧力調整通路80に排気されることで、クランク室20の圧力上昇を抑制することができる。
【0018】
通路形成ユニット8は、通路形成部材81、気液分離ユニット82、及び、通路形成部材83を備える。通路形成部材81はクランクケース2に接続された配管であり、圧力調整通路80をクランク室20と連通させる。本実施形態では、通路形成部材81をクランクケース2に接続する構成としたが、圧力調整通路80とクランクケース2とを連通させることができれば通路形成部材81の接続部位はクランクケース2に限られない。例えば、クランク室20が、シリンダブロック3及びシリンダヘッド4に形成された通路と連通している場合、通路形成部材81はシリンダヘッドに接続する構成であってもよく、また、クランク室20が変速機ケース(不図示)内と連通している場合、通路形成部材81は変速機ケースに接続する構成であってもよい。
【0019】
通路形成部材81はクランクケース2と気液分離ユニット82との間を接続している。気液分離ユニット82は圧力調整通路80の途中に設けられ、内部に気液分離室82aを備えた中空体である。クランク室20内の内部気体はオイルミストを含み得る。気液分離ユニット82は、気体と液体とを分離して気体のみを下流側へ排気する。気液分離室82aの構造は、一例として、本実施形態では、圧力調整通路80を複数回屈曲させる複数のバッフルプレート82aを備えた構造である。内部気体がバッフルプレート82aと接触することで、気液分離が図られる。
【0020】
通路形成部材83は気液分離ユニット82と配管64との間を接続した配管である。通路形成部材83が配管64と接続されたことで、圧力調整通路80内を流れる内部気体の気体流80aが、配管64を流れる排気流60aと合流する。排気流60aの排気負圧によって気体流80aがその排出方向へ引っ張られる(ベンチュリ効果)。
【0021】
したがって、クランク室20の内部気体の圧力調整通路80への排気効果が向上し、クランク室20の内圧上昇を抑制することができる。特に、排気流60aが強い流れとなるエンジン1の高回転時においてポンピングロスを低減する効果を得ることができ、エンジン1の燃費向上や高出力化を図れる。
【0022】
<第二実施形態>
第一実施形態では、排気装置6の配管64において、排気流60aと気体流80aとが合流する構造としたが、合流部位は排気通路60の任意の部位を選択できる。本実施形態では、本発明を鞍乗型車両に適用し、かつ、合流部位を消音器62の下流端とした構成例について説明する。以下の説明において、第一実施形態と機能的に共通する構成については同じ符号を付して説明を省略する場合がある。
【0023】
図2は本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両100の側面図(右側面図)である。鞍乗型車両100は、前輪101と後輪102とを備えた自動二輪車である。なお、本発明は他の形式の鞍乗型車両にも適用可能である。
【0024】
鞍乗型車両100は、その骨格をなす車体フレーム103を備える。車体フレーム103には後輪102を駆動するパワーユニット104が支持されている。パワーユニット104は、エンジン1、変速機、クラッチを含む。パワーユニット104の駆動力は不図示のチェーンを介して後輪102に伝達される。
【0025】
パワーユニット104の上方には、エンジン1に供給される燃料を収容する燃料タンク106が配置されている。パワーユニット104のエンジン1から排出される排気ガスは消音器62で消音される。消音器62は車体の側部に配置されている。
【0026】
車体フレーム103の後部には、ライダが着座するシート108を支持するシートフレーム103aが連結されている。また、車体フレーム103の後部にはスイングアーム105が揺動自在に支持されており、スイングアーム105には後輪102が回転自在に支持されている。
【0027】
車体フレーム103は、ヘッドパイプ(不図示)を含み、ヘッドパイプには左右一対のフロントフォーク106及びセパレートタイプの左右のハンドル107が操向自在に支持されている。一対のフロントフォーク106には前輪101が回転自在に支持されている。
【0028】
鞍乗型車両100は、圧力調整構造7Aを備える。圧力調整構造7Aは、第一実施形態で説明した通路形成ユニット8として、通路形成部材81、気液分離ユニット82、通路形成部材83を含む。通路形成部材81は、パワーユニット4のエンジン1と気液分離ユニット82とを接続する配管であり、その内部空間(圧力調整通路80)はエンジン1のクランク室20と連通している。本実施形態では気液分離ユニット82は燃料タンク106の下方に配置されている。
【0029】
通路形成部材83は、通路形成部材830~833を含む。
図2に加えて
図3及び
図4を参照する。
図3は消音器62の周辺の構造を示す斜視図であり、
図4は消音器62の周辺の構造の一部破断図である。
【0030】
消音器62は、一端に導入口IN1、他端に開放口EX1を有し周壁62aを有する円筒状の管部材である。導入口IN1には排気流が導入される。開放口EX1は排気流が大気に排出される排出口である。消音器62の内部空間は排気通路60を形成し、排気通路60を排気流60aが流れる。
【0031】
図4の矢印D1は消音器62の長手方向を示し、本実施形態の場合、排気流60aの流れ方向に相当する。本実施形態の場合、消音器62はその内部に排気通路60を曲折させる構造を有していないが、消音効果を高めるためにこうした構造を有していてもよい。この場合、D1方向は消音器62内の排気流60aの全体的な流れを示すものとして理解され、いずれにしても導入口IN1の側がD1方向で排気流60aの上流側であり、開放口EX1の側がD1方向で排気流60aの下流側である。
【0032】
通路形成部材830は、気液分離ユニット82と通路形成部材832とをコネクタ831を介して接続する配管であり、その内部は圧力調整通路80を形成する。
【0033】
通路形成部材833は、消音器62の開放口EX1の側の端部の周囲を覆うカバー部材である。以下の説明では通路形成部材833のことをカバー部材833ともいう。カバー部材833は、D1方向で両端部が開放した円筒状の部材であり、消音器62の周壁62aに一体的に形成されている。カバー部材833のD1方向で上流側の端833cは消音器62の周壁62aに接続されており、下流側の端833bは開口部EX2を形成している。開口部EX2は、D1方向で開放口EX1よりも下流側に位置している。カバー部材833の周壁833aと消音器62の周壁62aとの間には、D1方向で上流側では閉塞し、下流側では開放された隙間84が形成されている。隙間84は、圧力調整通路80の一部(下流側部分)として機能する。
【0034】
通路形成部材832は、消音器62の周壁62a上をD1方向へ延設され、D1方向に細長い箱型の部材である。通路形成部材832は円筒形状の部材であってもよい。通路形成部材832のD1方向で下流側の端部は、カバー部材833と重なっており、通路形成部材832の内部空間832bは、通路形成部材832の左右壁部、前後壁部及び天壁部と、消音器62の周壁62aとカバー部材833の周壁833aとによって画定される。内部空間832bは圧力調整通路80の一部として機能する。
【0035】
通路形成部材832のD1方向で導入口IN1の側(上流側)の端部には、連通部832aが形成され、また、当該端部にはコネクタ831を介して通路形成部材830が接続されている。連通部832aは通路形成部材832の壁部を貫通する孔であり、連通部832aを介して通路形成部材831の内部と通路形成部材832内部とが連通する。
【0036】
通路形成部材832のD1方向で下流側の端部において、カバー部材833の周壁833aには連通部833dが形成されている。連通部833dは周壁833aを貫通する孔であり、連通部833dを介して内部空間832bと隙間84とが連通している。
【0037】
以上の構成により、通路形成部材830の内部、通路形成部材832の内部空間832b、隙間84によって、気液分離ユニット82から消音器62の開放口EX1に亘る圧力調整通路80が形成される。そして、開放口EX1付近において、開放口EX1から排出される排気流60aに、圧力調整通路80からの気体流80aが合流する。排気流60aの排気負圧によって気体流80aがその排出方向へ引っ張られる(ベンチュリ効果)。合流地点が開放口EX1付近であるため、排気脈動の影響を押えて気体流80aの排出を促進できる。
【0038】
したがって、クランク室20の内部気体の圧力調整通路80への排気効果が向上し、クランク室20の内圧上昇を抑制することができる。特に、排気流60aが強い流れとなるエンジン1の高回転時においてポンピングロスを低減する効果を得ることができ、エンジン1の燃費向上や高出力化を図れる。
【0039】
本実施形態の場合、消音器62に、カバー部材833、通路形成部材832及びコネクタ831が一体に形成されており、更に、通路形成部材832には消音器62を車体に固定する取付部110が一体に形成されている。消音器62を車体に取り付け、通路形成部材830を配索すれば圧力調整構造7Aが完成するので、作業工数を削減できる。
【0040】
<排気脈動に対する異物侵入の防止>
排気脈動によって、消音器62には
図5の気流60bに示すように、排気が逆流するタイミングが生じる場合がある。また、クランク室20内の圧力もピストン31の往復運動によって変動する。これらの要因によって、
図5の気流80bに示すように、圧力調整通路80を逆流する流れが生じる場合がある。このとき、開口部EX2から外部の小石、塵といった異物が隙間84に侵入し得る。エンジン1への異物の侵入は、これを阻止する必要がある。
【0041】
本実施形態の場合、連通部833dの位置が、隙間84の導入口IN1の側の端(カバー部材833の端833cから開放口EX1の側に離間した位置に形成されている。言い換えると、D1方向で隙間84の途中の部位に連通部833dが配置されている。このため、隙間84のD1方向の上流側の端部にポケット84aが形成される。外部の小石、塵といった異物Pが隙間84に侵入しても、その侵入の勢いで異物Pがポケット84aに収まり、連通部833dを介して、通路形成部材832の内部空間832bに侵入することを防止できる。
【0042】
また、連通部833dは消音器62よりも上方に位置しているので、重力の作用の点でも、異物Pが連通部833dを介して、通路形成部材832の内部空間832bに侵入することを防止できる。
【0043】
また、クランク室20内の圧力変動の点では、通路形成部材832の内部空間832bの容積によって、圧力変動を吸収して圧力変動の影響を低減できる。
【0044】
また、仮に異物Pが通路形成部材832の内部空間832bに侵入したとしても、通路形成部材830は上下方向に延びているので(
図2)、重力の作用の点で気液分離ユニット82に侵入することを防止できる。また、気液分離ユニット82の内部は圧力調整通路80が曲折しているので(
図1)、仮に、異物Pが気液分離ユニット82内に侵入しても、ここでエンジン1へ侵入することを防止できる。
【0045】
なお、異物Pの侵入防止の点で、通路形成部材832の内部空間832bに圧力調整通路80を曲折させる構造を設けてもよい。
図6(A)はその一例を示し、
図5のE部拡大図に相当する。図示の例では、内部空間832bに複数の壁部85が形成されている。複数の壁部85のうち、D1方向で両端の二つの壁部は、上部に隙間があり、中央の壁部は下部に隙間がある。この部位において、圧力調整通路80は上下に曲折している。仮に、気流80bが異物を同伴していたとして、ここを通過するときに異物が気流80bから分離される。
【0046】
また、異物Pの侵入防止の点で、
図6(B)に一例を示すように、連通部833dを単一の孔ではなく、孔のサイズが小さい複数の孔833d’で構成してもよい。図示しないが、同様に、連通部832aも単一の孔ではなく、孔のサイズが小さい複数の孔で構成してもよい。
図6(A)の例と
図6(B)の例との組み合わせも可能である。
【0047】
<実施形態のまとめ>
上記実施形態は少なくとも以下の圧力調整構造及び鞍乗型車両を開示している。
【0048】
項目1.
エンジン(1)のクランク室(20)の内圧を調整する圧力調整構造(7,7A)であって、
前記クランク室(20)と連通した圧力調整通路(80)を形成する通路形成手段(8)を備え、
前記圧力調整通路(80)は、前記圧力調整通路(80)を流れる気体(80a)が、前記エンジン(1)の排気通路(60)を流れる排気流(60a)と合流するように形成される、
ことを特徴とする圧力調整構造。
この実施形態によれば、排気負圧を利用してクランク室の気体を排出でき、クランク室の内圧上昇を抑制することができる。
【0049】
項目2.
項目1に記載の圧力調整構造(7A)であって、
前記排気通路(60)の下流側の部分は、排気流が排出される開放口(EX1)を有する管部材(62)によって形成され、
前記通路形成手段(8)は、
前記管部材(62)の前記開放口(EX1)の側の端部の周囲を覆い、かつ、前記開放口(EX1)よりも下流側に位置する開口部(EX2)を有する筒状のカバー部材(833)を含み、
前記圧力調整通路(80)は、前記カバー部材(833)の周壁と前記管部材(62)の周壁との間の隙間(84)を含む、
ことを特徴とする圧力調整構造。
この実施形態によれば、合流部位が前記開放口付近となり、排気脈動の影響を押えながら排気負圧を利用してクランク室の気体を排出できる。
【0050】
項目3.
項目2に記載の圧力調整構造(7A)であって、
前記管部材(62)は、排気流が導入される導入口(IN1)を有し、
前記通路形成手段(8)は、
前記管部材(62)の周壁上を、前記導入口(IN1)の側から前記開放口(EX1)の側へ延設され、内部に前記隙間(84)と連通した前記圧力調整通路(80)の一部を形成する通路形成部材(832)と、
前記通路形成部材(832)の前記導入口(IN1)の側の端部に接続され、内部に前記圧力調整通路(80)の一部を形成する配管(830)と、を備える、
ことを特徴とする圧力調整構造。
この実施形態によれば、前記クランク室の圧力変動を前記通路形成部材の内部容積で吸収して、外部の異物が侵入することを防止できる。
【0051】
項目4.
項目3に記載の圧力調整構造であって、
前記通路形成部材(832)の内部空間(832b)と前記隙間(84)との連通部(833d)は、前記隙間(84)の前記導入口(IN1)の側の端(833c)から前記開放口(EX1)の側に離間した位置に形成されている、
ことを特徴とする圧力調整構造。
この実施形態によれば、前記連通部が前記隙間の途中部位に位置するので、前記隙間に外部の異物が侵入したとしても、前記連通部を通過することを抑制できる。
【0052】
項目5.
項目3又は4に記載の圧力調整構造であって、
前記通路形成部材(832)の内部には、前記圧力調整通路(80)を曲折させる壁部(85)が設けられている、
ことを特徴とする圧力調整構造。
この実施形態によれば、外部の異物が前記通路形成部材の前記内部空間に侵入したとしても前記壁部によって前記エンジンの側へ異物が更に侵入することを防止できる。
【0053】
項目6.
項目3~5のいずれか一項に記載の圧力調整構造であって、
前記管部材(62)は消音器を構成し、
前記通路形成部材(832)と前記カバー部材(833)とは前記管部材(62)に一体に形成されている、
ことを特徴とする圧力調整構造。
この実施形態によれば、前記圧力調整構造の組み立てにおいて、作業工数の削減を図れる。
【0054】
項目7.
項目1に記載の圧力調整構造であって、
前記通路形成手段(8)は、前記圧力調整通路(80)の途中において、気液分離室を形成する気液分離ユニット(82)を備える、
ことを特徴とする圧力調整構造。
この実施形態によれば、オイル等が排出されることを防止でき、また、外部の異物が前記エンジンに侵入することを前記気液分離ユニットで防止できる。
【0055】
項目8.
エンジン(104)を備えた鞍乗型車両(100)であって、
前記エンジン(104)のクランク室と連通した圧力調整通路(80)を形成する通路形成手段(8)を備え、
前記圧力調整通路(8)は、前記圧力調整通路(80)を流れる気体(80a)が、前記エンジン(1)の排気通路(60)を流れる排気流(60a)と合流するように形成される、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
この実施形態によれば、排気負圧を利用してクランク室の気体を排出でき、クランク室の内圧上昇を抑制することができる。
【0056】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
7、7A 圧力調整構造、8 通路形成構造