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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132255
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/18 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
F16H63/18
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042966
(22)【出願日】2023-03-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏美
(72)【発明者】
【氏名】江村 大将
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 淳
(72)【発明者】
【氏名】海部 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】深澤 雄一郎
【テーマコード(参考)】
3J067
【Fターム(参考)】
3J067AA13
3J067AA21
3J067AB04
3J067AC05
3J067BA17
3J067BB11
3J067DA01
3J067DA72
3J067EA04
3J067EA31
3J067FB45
3J067GA05
(57)【要約】
【課題】コストを低減しつつ車両における操作性の向上を図ること。
【解決手段】変速制御装置は、シフトドラムの回転角度を検出するドラム角度センサと、シフトペダルの荷重に応じた信号を検出する荷重センサと、ドラム角度センサの検出信号および荷重センサの検出信号に基づいて、変速段の切り替えを制御する制御部と、を備える。制御部は、閾値時間内に、荷重センサの検出信号の変換に基づいて取得したペダル荷重の変化と、ペダル荷重の方向に応じたシフトドラムの回転角度の変化と、が検出された状態で、ペダル荷重を増加させる方向に向けたシフトペダルの操作により、変速段の切り替えが要求された場合に、変速段を切り替える変速制御を実行する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトペダル(63)の操作により回動されたシフトスピンドル(51)がシフトドラム(41)を回動することで、シフトフォーク(43)を介してシフターギヤを移動させることにより、変速段を切り替える変速機(31)の変速制御装置であって、
前記シフトドラム(41)の回転角度を検出するドラム角度センサ(84)と、
前記シフトペダル(63)の荷重に応じた信号を検出する荷重センサ(75)と、
前記ドラム角度センサ(84)の検出信号および前記荷重センサ(75)の検出信号に基づいて、前記変速段の切り替えを制御する制御部(80)と、を備え、
前記制御部(80)は、
閾値時間(TH1)内に、前記荷重センサ(75)の検出信号の変換に基づいて取得したペダル荷重の変化と、前記ペダル荷重の方向に応じた前記シフトドラム(41)の回転角度の変化と、が検出された状態で、
前記ペダル荷重を増加させる方向に向けた前記シフトペダル(63)の操作により、前記変速段の切り替えが要求された場合に、前記変速段を切り替える変速制御を実行する
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
前記変速機(31)の各変速段において、安定位置とは、ドラムストッパーアームが前記シフトドラム(41)に設けられたカム形状を有する凹部に嵌ることにより、前記シフトドラム(41)を固定している位置であり、
前記制御部(80)は、前記安定位置から、前記シフトドラム(41)と前記シフトフォーク(43)との間、及び前記シフトフォーク(43)と前記シフターギヤとの間の動作方向に存在する隙間が詰まる際に回動する前記シフトドラム(41)の回転角度が閾値角度以上になった場合に、前記回転角度の変化が生じたと判定することを特徴とする請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記制御部(80)は、前記ペダル荷重が閾値荷重を超えた場合に、前記ペダル荷重の変化が生じたと判定することを特徴とする請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記制御部(80)は、
前記ペダル荷重を増加させる方向に向けた前記シフトペダル(63)の操作により生じたペダル荷重を取得し、
当該ペダル荷重が、前記変速段の切り替えを要求するシフト要求荷重(SRP)に到達した場合に、前記変速段の切り替えが要求されたと判定することを特徴とする請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項5】
前記ドラム角度センサ(84)により検出された前記シフトドラム(41)の回転角度の情報を時系列に記憶する記憶部(88)を更に備え、
前記ペダル荷重が閾値荷重を超えたと判定した際に、前記回転角度の変化が生じたと既に判定された状態である場合に、
前記制御部(80)は、
前記閾値荷重を超えたと判定した判定時点(ST72)から繰り上げた基準時間(Tref)における前記シフトドラム(41)の回転角度を、基準角度として、前記記憶部(88)から取得し、
前記判定時点(ST72)から第2の閾値時間(TH2)内に、前記シフトドラム(41)が前記基準角度から、前記閾値角度よりも小さい第2の閾値角度以上回転した場合に、前記回転角度の変化が生じたと判定することを特徴とする請求項2に記載の変速制御装置。
【請求項6】
前記制御部(80)は、前記閾値時間(TH1)内に、前記ペダル荷重の変化が生じ、かつ、前記シフトドラム(41)の前記回転角度の変化が生じた場合に、前記シフトペダル(63)の操作に応じて、前記変速機(31)の変速段を切り替える変速制御を許可した許可状態に設定し、
前記変速制御を許可した状態で、前記変速段の切り替えが要求された場合に、前記変速段を切り替える変速制御を実行することを特徴とする請求項2に記載の変速制御装置。
【請求項7】
前記制御部(80)は、前記変速段の切り替えを行った後の所定時間内では、前記閾値時間(TH1)内に、前記ペダル荷重の変化と、前記シフトドラム(41)の前記回転角度の変化とが検出された場合でも、前記許可状態の設定を行わないことを特徴とする請求項6に記載の変速制御装置。
【請求項8】
前記制御部(80)は、前記シフトドラム(41)の回転角度が次の変速段との間の中間角度まで回転したことが、前記ドラム角度センサ(84)により検出された場合に、前記変速制御を許可した許可状態をリセットすることを特徴とする請求項6に記載の変速制御装置。
【請求項9】
前記制御部(80)は、前記変速機(31)の前記変速制御を開始した場合に、前記変速制御を許可した許可状態をリセットすることを特徴とする請求項6に記載の変速制御装置。
【請求項10】
前記制御部(80)は、前記シフトドラム(41)の回転角度が各変速段の前記安定位置に戻ったことが、前記ドラム角度センサ(84)により検出された場合に、前記変速制御を許可した許可状態をリセットすることを特徴とする請求項6に記載の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クラッチ操作をすることなく内燃機関の出力を低下させることで、ミッション伝達トルクを低減して円滑な変速段の切り替えを行えるようにする変速制御装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、内燃機関の出力を制御することでクラッチ操作無しに変速操作が可能な変速装置において、シフトスピンドルの回動を検出するシフトスピンドルセンサを用いることで、シフトスピンドルの回動を高精度に検出することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-77623号公報
【特許文献2】特許第6227022号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シフトチェンジ直後にペダルがフルストロークした状態や、ペダルを完全に戻さないで再度踏み込んだ状態など、シフトペダルを踏んでも、ドラムを回転させることができない状態が生じ得る。この状態で、荷重センサの出力だけを基にシフト制御を実行すると、シフトチェンジ出来ないのに駆動力が切断されたり、駆動力が増加してしまう場合も生じ得る。ペダル荷重が高まった時点でシフトスピンドルの回転角が、安定位置付近であるならばドラムを回転させることが可能になる。そのため、確実なシフト制御を実行するには、ペダル荷重だけで無く、シフトスピンドルの回転角を検出することが必要とされる。
【0006】
本願は上記課題の解決のため、シフトスピンドルセンサを用いること無く、シフトペダルを踏んだ時にシフトチェンジか可能な状態かどうかを検知することが可能な変速制御技術の提供を目的としたものである。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の変速制御装置は、シフトペダル(63)の操作により回動されたシフトスピンドル(51)がシフトドラム(41)を回動することで、シフトフォーク(43)を介してシフターギヤを移動させることにより、変速段を切り替える変速機(31)の変速制御装置であって、
前記シフトドラム(41)の回転角度を検出するドラム角度センサ(84)と、
前記シフトペダル(63)の荷重に応じた信号を検出する荷重センサ(75)と、
前記ドラム角度センサ(84)の検出信号および前記荷重センサ(75)の検出信号に基づいて、前記変速段の切り替えを制御する制御部(80)と、を備え、
前記制御部(80)は、
閾値時間(TH1)内に、前記荷重センサ(75)の検出信号の変換に基づいて取得したペダル荷重の変化と、前記ペダル荷重の方向に応じた前記シフトドラム(41)の回転角度の変化と、が検出された状態で、
前記ペダル荷重を増加させる方向に向けた前記シフトペダル(63)の操作により、前記変速段の切り替えが要求された場合に、前記変速段を切り替える変速制御を実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シフトスピンドルセンサを用いること無く、シフトペダルを踏んだ時にシフトチェンジか可能な状態かどうかを検知することが可能な変速制御技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る車両の全体側面図。
図2】車両に搭載されたパワーユニットの一部カバーを省略した側面図。
図3】クランクケースの一部を省略して変速機を示すパワーユニットの部分側面図。
図4】リンク機構を示すパワーユニットの要部斜視図。
図5】変速制御装置における制御ブロック図。
図6】ECUによる変速制御例1を説明するタイミングチャート。
図7】ECUによる変速制御例2を説明するタイミングチャート。
図8】ECUによる変速制御例3を説明するタイミングチャート。
図9】ペダル荷重が、ドラム角度ステータスよりも先に動き出し判断荷重を超える場合を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
(車両の概略構成)
図1は、実施形態に係る車両(鞍乗型車両)である自動二輪車1の側面図である。なお、本明細書の説明において、前後左右の向きは、本実施形態に係る自動二輪車1の直進方向を前方とする通常の基準に従うものとし、図面において、FRは前方を示し、RRは後方を示し、LHは左方を示し、RHは右方を示すものとする。
【0012】
鞍乗型自動二輪車1の車体フレーム2は、ヘッドパイプ部3aから左右に分かれてメインフレーム(ダウンフレーム部3bを備える幅広のフレーム)3,3が後方に延出し、その後端に連結されたセンターフレーム4,4が下方に屈曲してリアフォークピボット部4aを構成している。センターフレーム4,4の屈曲部から後方斜め上方にシートレール5が延設されている。
【0013】
ヘッドパイプ部3aによって操向可能に支承されたフロントフォーク6の下端に前輪7が軸支され、フロントフォーク6にはステアリングハンドル8が連結されている。また、センターフレーム4のリアフォークピボット部4aにピボット軸9により前端を軸支されたリアフォーク10が後方に延び、その後端に軸支された後輪11が上下に揺動自在に設けられている。
【0014】
自動二輪車1の車体フレーム2に搭載されるパワーユニット20は、内燃機関21のクランクケース23内の後部にマニュアル変速式の多段変速機(以下、単に「変速機」という)31を一体に収容して構成されたもので、パワーユニット20は、メインフレーム3の前側のダウンフレーム部3bと後側のセンターフレーム4に懸架されている。
【0015】
パワーユニット20の上方には燃料タンク13がメインフレーム3およびセンターフレーム4に架設され、燃料タンク13の後方にシート14がシートレール5に支持されて設けられている。左側のセンターフレーム4の下端にサイドスタンド15が起伏自在に枢着されている。
【0016】
センターフレーム4におけるリアフォーク10のピボット軸9の後方に支持ブラケット16が前端を固着されて後方に突設されており、支持ブラケット16に運転者の足を載せるバックステップ17が外側方に突出して設けられている。
【0017】
内燃機関21は、水冷4気筒の4ストロークサイクル内燃機関であり、そのクランク軸22を車幅方向(左右方向)に指向させて自動二輪車1に搭載されている。クランク軸22を回転自在に軸支するクランクケース23の上に、シリンダ軸線を若干前傾させて、シリンダブロック24、シリンダヘッド25が順次重ねられるように起立した姿勢で締結され、シリンダヘッド25の上にシリンダヘッドカバー26が被せられている。
【0018】
内燃機関21の前傾したシリンダヘッド25から上方にスロットルボディ27tを介して吸気管27が延出し、エアクリーナ27Aに接続されている。また、シリンダヘッド25から前方に延出した排気管28は、下方へ曲がり、さらに後方へ延びて後部のマフラー28Mに接続されている。
【0019】
図3を参照して、内燃機関21のクランクケース23は、上下割りの上側クランクケース23Uと下側クランクケース23Lとからなり、上側クランクケース23Uと下側クランクケース23Lの左右軸受壁の合わせ面にクランク軸22が軸支されている。変速機31の左右方向に指向したメイン軸32とカウンタ軸33のうちカウンタ軸33もクランク軸22の後方で上側クランクケース23Uと下側クランクケース23Lの左右軸受壁の合わせ面に軸支されている。
【0020】
変速機31のメイン軸32は、カウンタ軸33の上方で若干前寄りに位置して上側クランクケース23Uに軸支されている。変速機31は、メイン軸32に軸支された変速駆動ギヤ32g群とカウンタ軸33に軸支された変速被動ギヤ33g群とが変速比ごとに常時噛合している。変速駆動ギヤ32g群及び変速被動ギヤ33g群は、メイン軸32、カウンタ軸33にそれぞれ軸支された変速段数分のギヤを有する。変速機31は、メイン軸32及びカウンタ軸33間で、対応するギヤ対同士が常に噛み合った常時噛み合い式である。メイン軸32及びカウンタ軸33に支持された複数のギヤは、対応するシャフトに対して回転可能なフリーギヤと、対応するシャフトにスプライン嵌合するスライドギヤ(シフターギヤ)とに分類される。これらフリーギヤ及びスライドギヤ(シフターギヤ)の一方には軸方向で凸のドグが、他方にはドグを係合させるべく軸方向で凹のスロットがそれぞれ設けられている。
【0021】
カウンタ軸33は、パワーユニット20の出力軸であり、左側軸受壁を貫通して左方に突出しており、その左端部に出力スプロケット34が嵌着されており、出力スプロケット34を左側から出力スプロケットカバー37が覆っている(図2参照)。
【0022】
出力スプロケット34は、センターフレーム4のリアフォーク10を枢支するピボット軸9の前方の近い位置に配設され、出力スプロケット34と後輪11の後車軸に嵌着された従動スプロケット35との間に駆動チェーン36が巻き掛けられ、パワーユニット20の出力が駆動チェーン36を介して後輪11に伝達されて自動二輪車1が走行する(図1参照)。
【0023】
なお、図3を参照して、変速機31の変速駆動ギヤ32g群および変速被動ギヤ33g群の上方を、上側クランクケース23Uの上壁23Uaが覆っており、上壁23Uaに上方から嵌挿されて設けられた回転速度センサ83が変速駆動ギヤ32g群のメイン軸32と一体に回転する変速駆動ギヤ32gの上に近接して配設されている。回転速度センサ83は近接センサであり、変速駆動ギヤ32gの歯の回転によりメイン軸32の回転速度を検出することができる。
【0024】
クランクケース23のクランク軸22を軸支する左右軸受壁の左側軸受壁を貫通したクランク軸22の左端部にはACジェネレータ38が設けられ、この左方に突設されたACジェネレータ38を左側からACGカバー39が覆っている(図2図3参照)。
【0025】
他方、クランクケース23の右側軸受壁を貫通したメイン軸32の右端部には変速クラッチ45が設けられ、上側クランクケース23Uは変速機31を覆う上壁23Uaより上方に膨出したクラッチ収容部23Ubが変速クラッチ45の外周を覆っている(図4図3参照)。
【0026】
変速クラッチ45の右側方はクラッチカバー46により覆われる(図4参照)。クラッチカバー46にはクラッチ作動部(図示せず)が設けられ、手動操作により変速クラッチ45を作動することができる。
【0027】
図3を参照して、メイン軸32とカウンタ軸33は、内燃機関21のクランク軸22の後方にあって、互いに上下位置にあり、メイン軸32より上方でカウンタ軸33より後方位置に、シフトドラム41が配置されている。シフトドラム41の回転軸には、シフトドラム41の回転角を検出するドラム角度センサ84(ギヤポジションセンサ)が設けられている。
【0028】
シフトドラム41の斜め前下方で変速被動ギヤ群33gとの間にシフトフォーク軸42がメイン軸32やカウンタ軸33と平行に設けられ、シフトフォーク軸42にシフトフォーク43が左右軸方向に摺動自在に軸支されている。
【0029】
シフトフォーク43は、係合ピン43pがシフトドラム41のリード溝に摺動可能に係合し、二股に分かれたフォーク部がメイン軸32およびカウンタ軸33に摺動自在に軸支されたシフターギヤに係合している。
【0030】
したがって、シフトドラム41が回動されると、シフトドラム41のリード溝に案内されて軸方向に移動するシフトフォーク43がシフターギヤを移動して、シフターギヤのドグクラッチの噛合いにより、メイン軸32とカウンタ軸33の1対の変速ギヤ対の噛合いが有効となり1つの変速段が確立する。
【0031】
シフトドラム41の前方斜め上には、車幅方向(左右方向)に指向したシフトスピンドル51がクランクケース23に回動自在に軸支されて配置されている。
【0032】
図3および図4を参照して、シフトスピンドル51は上側クランクケース23Uの上壁23Uaの左右方向に指向して半円筒状に膨出した膨出部23Ucの内面に沿って配設されている。
【0033】
シフトスピンドル51の右端にはラチェットアーム53が嵌着されており(図4参照)、ラチェットアーム53とシフトドラム41の右側軸端部との間に動力を伝達し、間欠的にシフトドラム41を回動するシフトドラム駆動機構52が構成されている(図4参照)。
【0034】
シフトスピンドル51は、クランクケース23を左方に貫通して外部に突出している。図2および図4を参照して、シフトスピンドル51の突出した左端部の下方には、支持ブラケット60が左側センターフレーム4の下端部に固着されて設けられており、支持ブラケット60に突設されたシフト支軸61に前端を軸支されたシフト操作レバー62が後方に延びて配設されている。シフト操作レバー62の後端部にはシフトペダル63が左方に向けて突設されている。
【0035】
シフト操作レバー62は、シフトスピンドル51の左端の下方に位置し、シフト操作レバー62とシフトペダル63とがリンク機構70を介して連結されている。
【0036】
図4を参照して、リンク機構70は、シフトスピンドル51のクランクケース23から左方に突出した左端部に嵌着されたシフトアーム71と下方のシフト操作レバー62とを、ほぼ鉛直方向に指向したシフトロッド部材72が連結して構成されている。
【0037】
シフトロッド部材72の下端は、シフト支軸61に軸支されて後端のシフトペダル63を上下に揺動可能なシフト操作レバー62の中央よりシフト支軸61に寄った部分に形成された支持片62aと連結ピン62pにより軸着接続され、シフトロッド部材72の上端は、シフトスピンドル51の左端部に前端を嵌着されたシフトアーム71の後端と連結ピン71pにより接続されている(図2図4参照)。
【0038】
シフトロッド部材72には、弾性部材により操作力を伝達するロストモーション機構73(伝達機構)が介装されている。ロストモーション機構73は、伸縮ストロークを荷重に変換して、ペダル荷重を検出するためものであり、また、変速機31のドグクラッチのドグ当たりの衝撃を吸収して、良好な変速操作フィーリングを得るものである。そして、ロストモーション機構73には、ロストモーション機構73により伸縮するシフトロッド部材72の伸縮ストローク量を検出する荷重センサ75が付設されている。
【0039】
ロストモーション機構73は、上流側部分と下流側部分との間にコイルスプリングが介装されて伸縮する構造であり、荷重センサ75は、上流側部分と下流側部分の相対移動距離(伸縮ストローク量)を検出するリニア変位センサである。この他、荷重センサ75は、例えば、シフトストロークセンサやひずみゲージなどであってもよい。
【0040】
図2を参照して、シフト操作レバー62の後端のシフトペダル63の後方で若干高い位置にバックステップ17が突設されており、シート14に着座した運転者が左足をバックステップ17に載せた状態で、バックステップ17を支点に足先をシフトペダル63に下から引っ掛け蹴り上げると、シフトペダル63の操作方向に応じてシフト操作レバー62が上方に揺動してシフトアップ操作ができ、足先をシフトペダル63に載せて踏み込むと、シフトペダル63の操作方向に応じてシフト操作レバー62が下方に揺動してシフトダウン操作ができる。
【0041】
すなわち、シフトアップ時は、シフト操作レバー62を上方に揺動するので、連結ピン62pにより軸着されたシフトロッド部材72が押し上げられる。連結ピン71pを介してシフトアーム71は上方に揺動し、シフトアーム71が嵌着されたシフトスピンドル51を左側面視(図2)で反時計回りに回動する。
【0042】
シフトダウン時は、シフト操作レバー62を下方に揺動するので、連結ピン62pにより軸着されたシフトロッド部材72が引き下げられる。連結ピン71pを介してシフトアーム71は下方に揺動し、シフトアーム71が嵌着されたシフトスピンドル51を左側面視(図2)で時計回りに回動する。なお、前記したように、シフトスピンドル51の回動は、シフトドラム駆動機構52を介してシフトドラム41を回動して、変速機31の変速段が切り換えられる。
【0043】
シフトペダル63の操作による変速操作があり、シフト操作レバー62が揺動され、シフトロッド部材72の押し上げ・引き下げがあると、シフトロッドにかかる荷重に応じてロストモーション機構73のコイルスプリングが圧縮・伸長するので、この伸縮ストローク量を荷重センサ75が検出することができ、検出されたストローク量に基づいて操作荷重を検出することができる。
【0044】
図5は変速制御装置における制御ブロック図である。図5に示されるように、荷重センサ75およびドラム角度センサ84の検出信号は、内燃機関21の運転状態を検出する回転数センサ81,スロットルセンサ82および回転速度センサ83等の検出信号とともに、ECU(電子制御ユニット:制御部)80に入力される。ECU80は、スロットル駆動装置85,燃料供給装置86,点火装置87、変速機31等に制御信号を出力して駆動制御する。
【0045】
ECU80は、荷重センサ75の検出信号やドラム角度センサ84により検出されたシフトドラム41の回転角度の情報を記憶部88に時系列に記憶する。
【0046】
変速機31において、安定位置とは、シフトドラム41のドラムストッパーアームがシフトドラム41に設けられたシフトドラムセンターのカム形状を有する凹部(谷間)に嵌り、シフトドラム41を固定している状態である。ECU80は、シフトドラム41とシフトフォーク43との間、及びシフトフォーク43と現在駆動中のシフターギヤとの間の各部品の動作方向に存在する隙間が詰まる際に回動するシフトドラム41の回転角度が閾値角度以上になった場合に、回転角度の変化が生じたと判定する。ECU80(制御部)は、ドラム角度センサ84によるシフトドラム41の回転角度から変速段位を検知する。各変速段位における安定位置から回転角度の変化を表す変数として、ドラム角度ステータスDSTが設定されている。各変速段におけるシフトドラム41の安定位置では、ドラム角度ステータスDST=0が設定される。
【0047】
シフトドラム41の回転角度として、n段からn+1段にシフトアップする方向に、所定の角度Δθ(閾値角度)の回転が検出された場合に、ECU80は、ドラム角度ステータスDSTを、安定位置の設定値(「0」)から「1」に設定変更する。所定の角度Δθの回転の回転角度の変化(増加)に応じて、ECU80は、ドラム角度ステータスDSTの設定値を加算(カウントアップ)する。
【0048】
また、シフトドラム41の回転角度として、n+1段からn段にシフトダウンする方向に、所定の角度Δθ(閾値角度)の回転が検出された場合に、ECU80は、ドラム角度ステータスDSTを、安定位置の設定値(「0」)から「-1」に設定変更する。所定の角度Δθの回転の回転角度の変化(減少)に応じて、ECU80は、ドラム角度ステータスDSTの設定値を減算(カウントダウン)する。
【0049】
ECU80は、ドラム角度ステータスDSTの設定値を変更すると、内部クロックを起動して、設定値の変更からの経過時間Tを計測する。
【0050】
ECU80は、閾値時間TH1内に、ペダル荷重の変化が生じ、かつ、シフトドラム41の回転角度の変化が生じた場合に、シフトペダル63の操作により、変速機31の変速段を切り替える変速制御を許可した状態(許可状態)に設定する。そして、ECU80は、変速制御を許可した状態で、変速段の切り替えが要求された場合に、変速段を切り替える変速制御を実行する。
【0051】
荷重センサ75の特性によりペダル荷重がゼロ付近で信号が出力されない場合には、ドラム角度ステータスDSTがペダル荷重よりも先に変化し得る。この場合、ドラム角度ステータスDSTの値の変化と、動き出し判断荷重への到達との両方が所定時間(閾値時間TH1)内に両立することが、制御実施許可の条件となる。この条件が成立する場合に、ECU80は、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)にする。すなわち、ECU80は、荷重センサ75の検出信号に基づいたペダル荷重(シフト操作荷重)が動き出し判断荷重(閾値荷重)を超えたか否かを判断する。シフトドラム41がシフトダウン方向に回転し、所定の閾値時間TH1(第1の閾値時間:例えば、30ms程度)内に、ペダル荷重が動き出し判断荷重(閾値荷重)を超えた場合に、ECU80は、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)にする。ドラム角度ステータスDSTがペダル荷重よりも先に変化する場合の変速制御例1は、後に図6を参照して説明する。
【0052】
また、本実施形態ではシフトドラムがシフトダウン方向に回転してから所定の閾値時間内にペダル荷重が動き出し判断荷重を超えた場合に、変速制御(シフター制御)を許可したものであるが、シフトドラムのシフトダウン方向の回転の検知と、ペダル荷重が動き出し判断荷重を超えたことの検知は、所定の閾値時間内でいずれが先に成立しても変速制御(シフター制御)を許可して良い。シフトドラムの動きが硬い場合など、ペダル荷重が先に動き出し判断荷重を超える場合があるが、その場合でも、所定の閾値時間内に、シフトドラムのシフトダウン方向への回転が検知された場合には、ECU80は、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)にする。
【0053】
図9は、ペダル荷重が、ドラム角度ステータスDSTよりも先に動き出し判断荷重を超える場合を例示する図であり、図9に示す場合であっても、動き出し判断荷重への到達と、ドラム角度ステータスDSTの値の変化との両方が所定時間(閾値時間TH1)内に両立することが、制御実施許可の条件となる。この条件が成立する場合に、ECU80は、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)にする。
【0054】
変速制御(シフター制御)を許可した状態で、ECU80は、ペダル荷重を増加させる方向に向けたシフトペダル63の操作により生じたペダル荷重を取得する。運転者によりシフトペダル63が踏み込まれ、ペダル荷重がシフト要求荷重に到達したことが、検出された場合に、ECU80は、シフトダウン方向に変速する変速制御(変速段の切り替え)が要求されたと判断する(シフター要求有)。ECU80は、変速制御(シフター制御)が許可状態であり、かつ、変速制御(変速段の切り替え)が要求された場合に、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を実行する。
【0055】
シフトドラム41の回転角度が次の変速段との間(例えば、n段とn+1段との間)の中間角度まで回転したことが、ドラム角度センサ84により検出された場合に、ECU80は、変速制御(シフター制御)を許可した状態をリセットする。また、ECU80は、変速機31の変速制御(シフター制御)を開始すると、変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)をリセットする。また、シフトドラム41の回転角度が各変速段の安定位置に戻ったことが(例えば、ドラム角度ステータスDSTの設定値が「-1」から「0、または0以上」に変化したら)、ドラム角度センサ84により検出された場合に、ECU80は変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)をリセットする。
【0056】
荷重センサ75は、シフトペダル63の荷重に応じた信号として、シフトペダル63の操作による変速操作により生じたシフトロッド部材72の伸縮ストローク量を検出する。
【0057】
ECU80(制御部)は、伸縮ストローク量に基づいて、シフトダウン時のストローク量(例えば、伸長ストローク量)や、シフトアップ時のストローク量(例えば、圧縮ストローク量)を取得する。ECU80(制御部)は、例えば、シフトダウンのとき、シフトロッド部材72に所定の伸長荷重がかかった後に、シフトロッド部材72が伸長し、以後徐々に伸長荷重が増える傾向を示す。シフトペダル63によるシフトダウン操作の有無を判定するための所定の閾値荷重(動き出し判断荷重)を予め設定しておき、ECU80(制御部)は、ペダル荷重(シフト操作荷重)が動き出し判断荷重を越えたとき、シフトダウン操作があったと判断する。
【0058】
なお、以下の変速制御例1~3では、シフトダウンを行う際の変速段の切り替えを行う場合を例示的に説明しているが、変速制御装置の実施形態は、この例に限られず、シフトアップ時における変速制御でも同様に適用することが可能である。
【0059】
(変速制御例1)
図6は、ECU80(制御部)による変速制御例1を説明するタイミングチャートである。ここでは、変速段として、n+1段からn段へシフトダウンする変速制御の例を変速制御例1として説明する。図6では、ペダル荷重が動き出し判断荷重に到達するよりも先に、ドラム角度ステータスDSTが変化する場合を例として説明している。
【0060】
n+1段の安定位置にシフトドラム41の回転角度が位置する場合、ドラム角度ステータスDSTの設定値は「0」である。シフトペダル63にシフトダウン方向の荷重が加わり、シフトドラム41とシフトフォーク43との間、及びシフトフォーク43と現在駆動中のシフターギヤとの間の各部品の動作方向に存在する隙間が詰まり、シフトドラム41がシフトダウン方向に、所定の角度Δθを超える角度Δθ+α(Δθ<Δθ+α<2θ)回転した場合、ECU80は、ドラム角度ステータスDSTを、安定位置の設定値(「0」)から「-1」に設定変更する(ST61)。
【0061】
ECU80は、ドラム角度ステータスDSTの設定値を変更すると、内部クロックを起動して、設定値の変更からの経過時間ΔTを計測する。また、ECU80は、荷重センサ75の検出信号に基づいたペダル荷重(シフト操作荷重)が動き出し判断荷重(閾値荷重)を超えたか否かを判断する。ST61を起点として、所定の閾値時間TH1内に、ペダル荷重が動き出し判断荷重を超えた場合に(ST62)、ECU80は、シフトドラム41が動き出したと判断する。
【0062】
シフトドラム41がシフトダウン方向に回転し(ST61)、かつ、所定の閾値時間TH1内にペダル荷重が動き出し判断荷重(閾値荷重)を超えた場合に(ST62)、ECU80は、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)にする(ST63)。
【0063】
変速制御(シフター制御)を許可した状態で、ECU80は、ペダル荷重を増加させる方向に向けたシフトペダル63の操作により生じたペダル荷重を取得する。運転者によりシフトペダル63が踏み込まれ、ペダル荷重がシフト要求荷重SRPに到達したことが、検出された場合に、ECU80は、シフトダウン方向に変速する変速制御(変速段の切り替え)が要求されたと判断する(シフター要求有:ST64)。
【0064】
ECU80は、変速制御(シフター制御)が許可状態であり(ST63)、かつ、変速制御(変速段の切り替え)が要求された場合に(ST64)、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を実行する(ST65)。
【0065】
シフトドラム41の回転角度が次の変速段との間(n+1段とn段との間)の中間角度まで回転したことが、ドラム角度センサ84により検出された場合に、ECU80は、変速制御(シフター制御)を許可した状態をリセットする(ST66)。または、ECU80は、変速機31の変速制御(シフター制御)を開始すると、変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)をリセットする(ST66)。
【0066】
または、シフトドラム41の回転角度が各変速段の安定位置に戻ったこと(DSTの設定値が「-1」から「0、または0以上」に変化したこと)、ドラム角度センサ84により検出された場合に、ECU80は、変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)をリセットする(ST66)。
【0067】
前回の変速制御において、変速駆動ギヤ(32g)と変速被動ギヤ(33g)とが浅噛み状態のまま終わる場合など、ドラム角度ステータスDSTの設定値が「1」から「-1」に(「0」を経過して)変化する場合も生じ得る(例えば、ST67)。この場合でも、EUC80は、安定位置の設定値(「0」)から「-1」への設定変更と同様の判断を行い、シフトドラム41がシフトダウン方向に回転し(ST「1」→ST「-1」)、所定の閾値時間TH1内にペダル荷重が動き出し判断荷重(閾値荷重)を超えた場合に、ECU80は、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を許可した状態にする。一方、所定の閾値時間TH1内にペダル荷重が動き出し判断荷重(閾値荷重)を超えない場合には、ECU80は、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を許可状態にしない。
【0068】
この場合、運転者によりシフトペダル63が踏み込まれ、ペダル荷重がシフト要求荷重SRPに到達してシフター要求有と判断されても、事前にシフター制御が許可された状態になっていない場合は、ECU80は、変速制御(シフター制御)を行わない。すなわち、シフトダウンの変速制御(シフター制御)を行わないように変速機31の動作を制御する。
【0069】
変速制御(シフター制御)を実行後、変速駆動ギヤ(32g)と変速被動ギヤ(33g)とが浅噛み状態となると、ドラム角度ステータスDSTの設定値は「-1」になる(例えば、ST68)。このような場合に、変速制御(シフター制御)の実行可否の判断において、ECU80は、変速制御によるギヤポジションの変化直後におけるドラム角度ステータスDSTの設定値の変化を使用しない(ドラム角度ステータスDSTの設定値の変化を無視する)。ECU80は、変速機31における変速段の切り替えを行った後の所定時間内では、閾値時間TH1内に、閾値荷重を超えるペダル荷重の変化と、閾値角度を超えるシフトドラム41の回転角度の変化とが検出された場合でも、許可状態の設定を行わない。
【0070】
(変速制御例2)
図7は、ECU80(制御部)による変速制御例2を説明するタイミングチャートである。ここでは、変速段として、n+1段からn段へシフトダウンする変速制御の例を説明する。シフトドラム41がシフトダウン方向に進んだ状態(DST=-1)から(ST71)、ペダル荷重が上昇した場合のシフトドラム41の動き出しを判断する変速制御の例を変速制御例2として説明する。
【0071】
ペダル荷重が動き出し判断荷重を超えたと判定した判定時点(ST72)で、既に、ドラム角度ステータスDSTの設定値が-1に設定されている場合に(ST71)、ECU80は、ペダル荷重が動き出し判断荷重を超えた時点ST72から、繰り上げた基準時間Tref(例えば、100ms程度)におけるシフトドラム41の回転角度を基準角度(ドラム変動基準角度)として設定する(ST73)。ECU80は、シフトドラム41の回転角度を正確に取得するために、ペダル荷重が入力される前のシフトドラムの回転角度を基準角度として設定する。
【0072】
判定時点(ST72)を起点として、所定の閾値時間TH2(第2の閾値時間:例えば、50ms程度)内に、ペダル荷重の増加に伴いシフトドラム41がシフトダウン方向に回転して、基準角度から、閾値角度(Δθ)よりも小さい第2の閾値角度以上回転した場合に(ST74)、ECU80は、回転角度の変化が生じたと判定し、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)にする(ST75)。
【0073】
変速制御(シフター制御)を許可した状態で、ECU80は、ペダル荷重を増加させる方向に向けたシフトペダル63の操作により生じたペダル荷重を取得する。運転者によりシフトペダル63が踏み込まれ、ペダル荷重がシフト要求荷重SRPに到達したことが、検出された場合に、ECU80は、シフトダウン方向に変速する変速制御(変速段の切り替え)が要求されたと判断する(シフター要求有:ST76)。
【0074】
一方、所定の閾値時間TH2(第2の閾値時間)内に、シフトドラム41が基準角度から閾値角度以上回転しない場合には、ECU80は、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を許可状態にしない。
【0075】
この場合、運転者によりシフトペダル63が踏み込まれ、ペダル荷重がシフト要求荷重SRPに到達してシフター要求有と判断されても、事前にシフター制御が許可された状態になっていない場合は、ECU80は、変速制御(シフター制御)を行わない。すなわち、シフトダウンの変速制御(シフター制御)を行わないように変速機31の動作を制御する。
【0076】
ECU80は、変速制御(シフター制御)が許可状態であり(ST75)、かつ、変速制御(変速段の切り替え)が要求された場合に(ST76)、変速機31の変速段をシフトダウン方向に変速する変速制御(シフター制御)を実行する(ST77)。
【0077】
シフトドラム41の回転角度が次の変速段との間(n+1段とn段との間)の中間角度まで回転したことが、ドラム角度センサ84により検出された場合に、ECU80は、変速制御(シフター制御)を許可した状態をリセットする(ST78)。または、ECU80は、変速機31の変速制御(シフター制御)を開始すると、変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)をリセットする(ST78)。または、シフトドラム41の回転角度が各変速段の安定位置に戻ったこと(DSTの設定値が「-1」から「0、または0以上」に変化したこと)、ドラム角度センサ84により検出された場合に、ECU80は変速制御(シフター制御)を許可した状態(許可状態)をリセットする(ST78)。
【0078】
なお、変速制御(シフター制御)を実行後、ドラム角度ステータスDSTの設定値が「-1」になり、かつ、ペダル荷重が動き出し判断荷重(閾値荷重)を超える場合も生じ得る。このような場合は、シフトペダル63のオーバーシュート後の荷重上昇やシフトドラム41の回転角度の変動の可能性が高いため、変速制御(シフター制御)の実行可否の判断において、ECU80は、変速制御によるギヤポジションの変化直後におけるドラム角度ステータスDSTの設定値、及びペダル荷重を使用しない。
【0079】
(変速制御例3)
図8は、ECU80(制御部)による変速制御例3を説明するタイミングチャートである。変速制御例3では、制御許可されるタイミングと、シフター作動荷重到達のタイミングとの発生順序に関わらず、どちらの場合でも実行するシフター制御の例を変速制御例3として説明する。図8の例では、パターン1は、制御実施許可後にペダル荷重がシフター作動判断荷重に到達する場合のシフター制御の例である。また、パターン2は、ペダル荷重がシフター作動判断荷重に到達後に制御実施許可が成立する場合のシフター制御の例である。
【0080】
図8のパターン1において、TM0では、シフトドラム41がn+1速の安定位置から動いたことにより、ドラム角度ステータスDSTが0→-1に変更された状態である。TM0の時点ではペダル荷重はまだ立ち上がっていないので、ECU80はシフター制御の許可判断を行わない。
【0081】
TM0~TM1の間でペダル荷重が動き出し判断荷重に到達するので(ST81)、この時点で、ECU80は、シフター制御の許可判断を行う。ECU80は、ドラム角度ステータスDSTが-1であり、かつ、ペダル荷重が動き出し判断荷重に到達したことにより、制御実施許可(OFF→ON)とする(ST82)。TM1の時点では、制御実施許可判断がされており(ST82)、ペダル荷重もシフター作動判断荷重まで到達している状態であるため(ST83)、ECU80は、シフト要求荷重SRPに到達したタイミングを示すフラグを立ち上げ(ST84)、シフター制御を開始する(TM1)。
【0082】
また、図8のパターン2において、ST90では、シフトドラム41がn速の安定位置から少々オーバーストロークして、ドラム角度ステータスDSTは-1になっている。TM2の時点で、ペダル荷重が、ペダル動き出し判断荷重を経て(ST91)、シフター作動判断荷重に到達した状態になるので(ST92)、ECU80は、シフト要求荷重SRPに到達したタイミングを示すフラグを立ち上げる(ST93)。
【0083】
ペダル荷重がペダル動き出し判断荷重に到達した時点で(ST91)、ドラム角度ステータスDSTが-1の状態であるため、ECU80は、ST91の時点から所定時間前のシフトドラム41のドラム角度を基準角度として記憶部88に記憶する。シフトドラム41が基準角度から所定角度だけシフトダウン方向に回転した状態で(ST94)、ECU80は、制御実施許可(OFF→ON)とする(ST95)。ペダル荷重がシフト要求荷重SRPに到達したタイミング(TM2、ST92、ST93)から、シフトドラム41の所定角度回転まで(TM3、ST94、ST95)の経過時間が閾値時間内であり、かつ、TM2からTM3の間で、ペダル荷重がシフト要求荷重SRP以上の状態が継続されていれば(ST96)、ECU80は制御実施許可したタイミング(ST95)でシフター制御を実行する。なお、経過時間が閾値時間を超える場合には、ECU80は、制御不許可の状態にする。
【0084】
<実施形態のまとめ>
(項目1) 上記実施形態の変速制御装置は、シフトペダル(63)の操作により回動されたシフトスピンドル(51)がシフトドラム(41)を回動することで、シフトフォーク(43)を介してシフターギヤを移動させることにより、変速段を切り替える変速機(31)の変速制御装置であって、
前記シフトドラム(41)の回転角度を検出するドラム角度センサ(84)と、
前記シフトペダル(63)の荷重に応じた信号を検出する荷重センサ(75)と、
前記ドラム角度センサ(84)の検出信号および前記荷重センサ(75)の検出信号に基づいて、前記変速段の切り替えを制御する制御部(80)と、を備え、
前記制御部(80)は、
閾値時間(TH1)内に、前記荷重センサ(75)の検出信号の変換に基づいて取得したペダル荷重の変化と、前記ペダル荷重の方向に応じた前記シフトドラム(41)の回転角度の変化と、が検出された状態で、
前記ペダル荷重を増加させる方向に向けた前記シフトペダル(63)の操作により、前記変速段の切り替えが要求された場合に、前記変速段を切り替える変速制御を実行する。
【0085】
項目1の変速制御装置によれば、シフトスピンドルセンサを用いること無く、シフトペダルを踏んだ時にシフトチェンジか可能な状態かどうかを検知することが可能な変速制御技術の提供することができる。シフトスピンドルセンサを用いることなく、シフトペダルの操作によってシフトドラムが正常に次の変速段のポジションに回転出来る状態、即ちシフター制御を実行しても良い状態であるかを判定して、変速段の切り替えを制御することが可能になる。また、コストを低減しつつ車両における操作性の向上を図ることが可能な変速制御技術を提供することができる。
【0086】
(項目2) 前記変速機(31)の各変速段において、安定位置とは、ドラムストッパーアームが前記シフトドラム(41)に設けられたカム形状を有する凹部に嵌ることにより、前記シフトドラム(41)を固定している位置であり、
前記制御部(80)は、前記安定位置から、前記シフトドラム(41)と前記シフトフォーク(43)との間、及び前記シフトフォーク(43)と前記シフターギヤとの間の動作方向に存在する隙間が詰まる際に回動する前記シフトドラム(41)の回転角度が閾値角度以上になった場合に、前記回転角度の変化が生じたと判定する。
【0087】
項目2の変速制御装置によれば、シフトスピンドルセンサを用いることなく、シフトドラムの動き出しを簡便に判定することができる。
【0088】
(項目3) 前記制御部(80)は、前記ペダル荷重が閾値荷重を超えた場合に、前記ペダル荷重の変化が生じたと判定する。
【0089】
項目3の変速制御装置によれば、シフトペダルの動き出しを簡便に判定することができる。
【0090】
(項目4)前記制御部(80)は、
前記ペダル荷重を増加させる方向に向けた前記シフトペダル(63)の操作により生じたペダル荷重を取得し、
当該ペダル荷重が、前記変速段の切り替えを要求するシフト要求荷重(SRP)に到達した場合に、前記変速段の切り替えが要求されたと判定する。
【0091】
項目4の変速制御装置によれば、シフトペダルの操作により、変速段の切り替えが要求されたことを簡便に判定することができる。
【0092】
(項目5) 前記ドラム角度センサ(84)により検出された前記シフトドラム(41)の回転角度の情報を時系列に記憶する記憶部(88)を更に備え、
前記ペダル荷重が閾値荷重を超えたと判定した際に、前記回転角度の変化が生じたと既に判定された状態である場合に、
前記制御部(80)は、
前記閾値荷重を超えたと判定した判定時点(ST72)から繰り上げた基準時間(Tref)における前記シフトドラム(41)の回転角度を、基準角度として、前記記憶部(88)から取得し、
前記判定時点(ST72)から第2の閾値時間(TH2)内に、前記シフトドラム(41)が前記基準角度から、前記閾値角度よりも小さい第2の閾値角度以上回転した場合に、前記回転角度の変化が生じたと判定する。
【0093】
項目5の変速制御装置によれば、前回の変速段の切り替えの際にシフトドラムの回転位置が、アップシフト側に偏った場合やダウンシフト側に偏った場合でも、精度よく回転角度の変化の判定を行うことができる。
【0094】
(項目6) 前記制御部(80)は、前記閾値時間(TH1)内に、前記ペダル荷重の変化が生じ、かつ、前記シフトドラム(41)の前記回転角度の変化が生じた場合に、前記シフトペダル(63)の操作により、前記変速機(31)の変速段を切り替える変速制御を許可した許可状態に設定し、
前記変速制御を許可した状態で、前記変速段の切り替えが要求された場合に、前記変速段を切り替える変速制御を実行する。
【0095】
項目6の変速制御装置によれば、シフトスピンドルセンサを用いること無く、シフトペダルを踏んだ時にシフトチェンジか可能な状態かどうかを検知することが可能な変速制御技術の提供することができる。また、シフトスピンドルセンサを用いることなく、シフトペダルの操作によってシフトドラムが正常に次の変速段のポジションに回転出来る状態、即ちシフター制御を実行しても良い状態であるかを判定して、変速段の切り替えを制御することが可能になる。
【0096】
(項目7) 前記制御部(80)は、前記変速段の切り替えを行った後の所定時間内では、前記閾値時間(TH1)内に、前記ペダル荷重の変化と、前記シフトドラム(41)の前記回転角度の変化とが検出された場合でも、前記許可状態の設定を行わない。
【0097】
項目7の変速制御装置によれば、シフトペダル63のオーバーシュート後の荷重上昇やシフトドラム41の回転角度の変動の可能性が情報を、変速制御(シフター制御)の実行可否の判断における情報から除外することにより、精度よく、変速制御の実行可否を判断することができる。
【0098】
(項目8) 前記制御部(80)は、前記シフトドラム(41)の回転角度が次の変速段との間の中間角度まで回転したことが、前記ドラム角度センサ(84)により検出された場合に、前記変速制御を許可した許可状態をリセットする。
【0099】
(項目9) 前記制御部(80)は、前記変速機(31)の前記変速制御を開始した場合に、前記変速制御を許可した許可状態をリセットする。
【0100】
(項目10) 前記制御部(80)は、前記シフトドラム(41)の回転角度が各変速段の前記安定位置に戻ったことが、前記ドラム角度センサ(84)により検出された場合に、前記変速制御を許可した許可状態をリセットする。
【0101】
項目8乃至10の変速制御装置によれば、変速制御の実行可否の判断結果を適切なタイミングでリセットすることができる。
【0102】
本発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0103】
1:自動二輪車、20:パワーユニット、21:内燃機関、31:変速機、
32:メイン軸、33:カウンタ軸(出力軸)、41:シフトドラム、
43:シフトフォーク、45:変速クラッチ、63:シフトペダル、
70:リンク機構、75:荷重センサ、
80:ECU(制御部)、84:ドラム角度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9