(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132258
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】制御方法、制御装置、および鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240920BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20240920BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60W30/02
F02D29/00 G
F02D29/02 321C
F02D29/02 321B
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042970
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 善昭
(72)【発明者】
【氏名】大関 孝
(72)【発明者】
【氏名】藤本 靖司
【テーマコード(参考)】
3D241
3G093
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BA44
3D241BB07
3D241CA12
3D241CC02
3D241CC13
3D241DA03Z
3D241DA05Z
3D241DA13Z
3D241DA23Z
3D241DB02Z
3D241DB14Z
3G093AA02
3G093BA02
3G093DA06
3G093DB03
3G093DB04
3G093DB05
3G093DB10
3G093DB12
3G093EB03
(57)【要約】
【課題】鞍乗型車両においてコースティングを適切に実行することが可能な技術を提供する。
【解決手段】鞍乗型車両のコースティングを制御する制御方法は、前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知する第1検知工程と、前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知する第2検知工程と、前記鞍乗型車両のバンク角を検知する第3検知工程と、前記鞍乗型車両のエンジンを停止させる前記コースティングを制御する制御工程と、を含み、前記制御工程では、前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知され、且つ、前記第3検知工程で前記バンク角が閾値未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両のコースティングを制御する制御方法であって、
前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知する第1検知工程と、
前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知する第2検知工程と、
前記鞍乗型車両のバンク角を検知する第3検知工程と、
前記鞍乗型車両のエンジンを停止させる前記コースティングを制御する制御工程と、
を含み、
前記制御工程では、前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知され、且つ、前記第3検知工程で前記バンク角が閾値未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する、ことを特徴とする制御方法。
【請求項2】
前記制御工程では、前記鞍乗型車両の速度に応じて前記閾値を変更する、ことを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記制御工程では、所定の速度範囲において前記鞍乗型車両の速度が大きいほど前記閾値が小さくなるように、前記閾値を変更する、ことを特徴とする請求項2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記バンク角が前記閾値以上になった場合、前記コースティングを終了する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項5】
前記制御工程では、前記コースティングを終了する際、前記バンク角に応じて、前記クラッチを切断状態から接続状態へ移行するために費やす移行時間を変更する、ことを特徴とする請求項4に記載の制御方法。
【請求項6】
前記制御工程では、前記バンク角が大きいほど前記移行時間が長くなるように、前記バンク角に応じて前記移行時間を変更する、ことを特徴とする請求項5に記載の制御方法。
【請求項7】
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記バンク角が前記閾値以上になった場合、前記コースティングを終了する前に前記エンジンを始動させる、ことを特徴とする請求項4に記載の制御方法。
【請求項8】
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記エンジンを始動した場合、切断状態の前記クラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、前記エンジンの回転数を制御する、ことを特徴とする請求項7に記載の制御方法。
【請求項9】
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記エンジンを始動した場合、前記バンク角に応じて前記エンジンの回転数を制御する、ことを特徴とする請求項7に記載の制御方法。
【請求項10】
鞍乗型車両のコースティングを制御する制御装置であって、
前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知するクラッチ検知手段と、
前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知するスロットル検知手段と、
前記鞍乗型車両のバンク角を検知するバンク角検知手段と、
前記鞍乗型車両のエンジンを停止させる前記コースティングを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記クラッチ検知手段により前記クラッチの切断が検知され、前記スロットル検知手段により前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知され、且つ、前記バンク角検知手段により前記バンク角が閾値未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する、ことを特徴とする制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の制御装置を備える鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両のコースティングを制御する制御方法、制御装置、および、それを備える鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コースティング中における車幅方向への車両の移動が、直進走行時のふらつきによるものかコーナリングによるものかを判断し、当該車両の移動がコーナリングによるものと判断された場合にコースティングを終了させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようなコースティング(惰性走行とも呼ばれる)は、四輪車だけでなく、自動二輪車などの鞍乗型車両にも適用することが望まれている。鞍乗型車両にコースティングを適用することにより、鞍乗型車両の燃費を向上させることができる。しかしながら、鞍乗型車両では、バンク中にコースティングを開始してしまうと、車両の安定性が低下しうる。
【0005】
そこで、本発明は、鞍乗型車両においてコースティングを適切に実行することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての制御方法は、鞍乗型車両のコースティングを制御する制御方法であって、前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知する第1検知工程と、前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知する第2検知工程と、前記鞍乗型車両のバンク角を検知する第3検知工程と、前記鞍乗型車両のエンジンを停止させる前記コースティングを制御する制御工程と、を含み、前記制御工程では、前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知され、且つ、前記第3検知工程で前記バンク角が閾値未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば、鞍乗型車両においてコースティングを適切に実行することが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】鞍乗型車両のコースティング制御を示すフローチャート
【
図4】鞍乗型車両のコースティング制御を示すフローチャート
【
図5】車速とバンク角の閾値との関係の一例を示す図
【
図7】バンク角とエンジンの回転数との関係の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内での構成の変更や変形も含む。また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明に必須のものとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、その説明を省略する。
【0010】
本発明に係る一実施形態の制御装置100について説明する。制御装置100は、鞍乗型車両10のコースティングを制御する装置である。コースティングとは、クラッチにより駆動源(エンジン)から駆動輪(車輪)への動力伝達を遮断して惰性走行を行うことである。本実施形態の場合、駆動源であるエンジンを停止させることによってコースティングが行われる。即ち、本実施形態のコースティングは、エンジンの停止を伴う。また、鞍乗型車両10としては、例えば自動二輪車や三輪車などが挙げられる。本実施形態では、鞍乗型車両10として自動二輪車を例示して説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の制御装置100が適用(搭載)される鞍乗型車両10の一例を示す外観図(左側面図)である。鞍乗型車両10は、
図1に示されるように、エンジン11と変速機12とを備える。エンジン11の出力は、不図示のクラッチを介して変速機12に伝達される。変速機12は、変速比が互いに異なる複数の変速段(ギヤ段)を有する手動式の変速機である。本実施形態では、変速機12が1速~5速の変速段を有する例を説明するが、それに限られず、変速機12における変速段の数は幾つであってもよい。
【0012】
鞍乗型車両10における左側のハンドルグリップ13の近傍には、運転者(ライダ)がクラッチの切断操作(クラッチ操作)を行うためのクラッチレバー14が設けられている。また、鞍乗型車両10の左側面には、運転者が変速機12の変速操作を行うためのシフトペダル15が設けられている。運転者によりクラッチレバー14およびシフトペダル15が操作されると、それに応じて不図示のシフタが作動し、変速機12の変速段が変更される(切り替えられる)。
【0013】
鞍乗型車両10における右側のハンドルグリップ16は、運転者がアクセル操作を行うように回転可能に構成されている。即ち、ハンドルグリップ16は、運転者による回転操作に応じてスロットル開度を調整してエンジン11の出力を制御するためのスロットル操作部として構成される。また、ハンドルグリップ16の近傍には、鞍乗型車両10のブレーキを制御するためのブレーキレバー17が設けられている。
【0014】
図2は、本実施形態の制御装置100の構成例を示すブロック図を示している。制御装置100は、エンジン11を制御することによって鞍乗型車両10のコースティングを制御する装置であり、本実施形態では制御部110と各種センサ120と報知部130とを備えうる。なお、制御部110は、鞍乗型車両10に設けられたECU(Electronic Control Unit)の一部として構成されてもよい。
【0015】
制御部110は、処理部111と、記憶部112と、インタフェース部113とを含みうる。処理部111は、CPU(Central Processing Unit)等によって構成され、各種センサ120の検知結果に基づいて鞍乗型車両10のコースティングを制御する。記憶部112は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等によって構成され、鞍乗型車両10のコースティングを制御するためのプログラムを記憶する。記憶部112に記憶されている当該プログラムは、処理部111によって読み出されて実行されうる。インタフェース部113は、各種センサ120等の外部デバイスと情報やデータの送受信を行う。
【0016】
各種センサ120は、クラッチ検知センサ121と、スロットル検知センサ122と、回転数差検知センサ123と、ギヤ段検知センサ124と、バンク角検知センサ125と、エンジン回転数センサ126と、車速センサ127とを含みうる。各種センサ120での検知結果を示す情報は、制御部110に供給(送信)されうる。即ち、各種センサ120での検知結果を示す情報は、インタフェース部113を介して処理部111に供給(送信)されうる。
【0017】
クラッチ検知センサ121(第1検知部)は、鞍乗型車両10のクラッチの切断状態を検知する。クラッチ検知センサ121は、運転者によるクラッチレバー14の操作量に基づいて、鞍乗型車両10のクラッチが切断された状態か否かを検知するものとして理解されてもよい。また、スロットル検知センサ122(第2検知部)は、鞍乗型車両10のスロットル開度を検知する。スロットル検知センサ122は、運転者によるハンドルグリップ16の操作量(回転量)に基づいてスロットル開度を検知するものとして理解されてもよい。
【0018】
回転数差検知センサ123(第3検知部)は、鞍乗型車両10のクラッチにおける駆動側と従動側との回転数差を検知する。即ち、回転数差検知センサ123は、鞍乗型車両10のクラッチにおける駆動軸の回転数と従動軸の回転数との差を回転数差として検知する。ギヤ段検知センサ124は、鞍乗型車両10の変速機12における複数の変速段のうち運転者により選択されている変速段(即ち、現在の変速段)を検知する。バンク角検知センサ125は、例えばジャイロセンサ等で構成され、鞍乗型車両10のバンク角を検知する。エンジン回転数センサ126は、鞍乗型車両10のエンジン11の回転数を検知する。また、車速センサ127は、鞍乗型車両10の速度(車速)を検知する。
【0019】
報知部130(通知部)は、各種情報を運転者に報知(通知)する。報知部130は、鞍乗型車両10に設けられた表示装置(ディスプレイ)に各種情報を表示することによって各種情報の報知を行ってもよいし、運転者の所有する情報端末に各種情報を送信することによって各種情報の報知を行ってもよい。本実施形態の場合、報知部130は、コースティングの実行中か否かを報知するために用いられうる。例えば、報知部130は、コースティングの開始および/または終了を報知する。
【0020】
ところで、近年では、鞍乗型車両10の燃費向上の観点から、鞍乗型車両10にコースティングを適用することが望まれている。しかしながら、鞍乗型車両10では、バンク中にコースティングを開始してしまうと、車両の安定性が低下しうる。そこで、本実施形態の制御装置100(制御部110)は、クラッチ検知センサ121によりクラッチの切断が検知され、スロットル検知センサ122によりスロットル開度が所定開度未満であることが検知され、且つ、バンク角検知センサ125により鞍乗型車両10のバンク角が閾値未満であることが検知された場合に、コースティングを開始する。即ち、コースティングの開始条件として、クラッチの切断の検知と所定開度未満のスロットル開度の検知とに加えて、閾値未満のバンク角の検知が設けられる。これにより、鞍乗型車両10のバンク中にコースティングが開始されて車両の安定性が低下することを回避することができる。即ち、鞍乗型車両10においてコースティングを適切に実行することができる。
【0021】
以下、鞍乗型車両10のコースティングの制御例について、
図3~
図4を参照しながら説明する。
図3~
図4は、鞍乗型車両10のコースティング制御を示すフローチャートである。
図3~
図4のフローチャートは、制御部110(処理部111)によって実行されうる。
【0022】
ステップS101で、制御部110は、クラッチ検知センサ121によりクラッチの切断が検知されたか否かを判定する。クラッチの切断が検知されていない場合にはステップS101を繰り返し行い、クラッチの切断が検知された場合にステップS102に進む。ステップS102で、制御部110は、スロットル検知センサ122によりスロットル開度が所定開度未満であることが検知されたか否かを判定する。スロットル開度が所定開度以上である場合にはステップS101に戻り、スロットル開度が所定開度未満である場合にはステップS103に進む。ここで、所定開度は、スロットルが閉状態であると判断するための値(閾値)であり、例えばゼロ、或いは、ゼロに近い値に設定されうる。
【0023】
ステップS103で、制御部110は、バンク角検知センサ125の検知結果に基づいて、鞍乗型車両10のバンク角が閾値TH未満か否かを判定する。バンク角の閾値THは、実験やシミュレーション等を用いて、コースティングを実行(開始)しても鞍乗型車両10の挙動が不安定になりにくい値(即ち、鞍乗型車両10の安定性を確保しやすい値)に事前に設定されうる。バンク角が閾値以上である場合にはステップS101に戻り、バンク角が閾値TH未満である場合にはS104に進む。
【0024】
ここで、鞍乗型車両10の速度(車速)が低い状態では、コースティングを実行(開始)しても、コースティングが車両の挙動へ与える影響が少ない。そのため、制御部110は、車速センサ127により検知された鞍乗型車両10の速度に応じて、バンク角の閾値THを変更してもよい。例えば、制御部110は、
図5に示されるように、低速側の所定の速度範囲において鞍乗型車両10の速度が大きいほどバンク角の閾値THが小さくなるように、鞍乗型車両10の速度に応じてバンク角の閾値THを変更しうる。これにより、鞍乗型車両10の速度が低い状態においてコースティングを実行(開始)し易くすることができる。
【0025】
ステップS104で、制御部110は、鞍乗型車両10のコースティングを開始する。制御部110は、クラッチ検知センサ121によりクラッチの切断が検知され、スロットル検知センサ122によりスロットル開度が所定開度未満であることが検知され、且つ、バンク角検知センサ125によりバンク角が閾値TH未満であることが検知されたタイミングにおいて、エンジン11を停止させて鞍乗型車両10のコースティングを開始する。
【0026】
ステップS105で、制御部110は、鞍乗型車両10のコースティングを制御する。ステップS105におけるコースティング制御の詳細については
図4に示されている。以下、
図4を参照しながら、ステップS105におけるコースティング制御について説明する。
【0027】
ステップS111で、制御部110は、バンク角検知センサ125により検知されたバンク角が閾値TH以上か否かを判定する。バンク角が閾値TH以上であると判定された場合には、コースティングを終了するための処理(S112~S116)を実行してから
図3のステップS106に進み、コースティングを終了する。当該処理(S112~S116)は、コースティングを終了して通常走行に戻す際に生じる車両の挙動の不安定さを低減するために行われうる。
【0028】
ステップS112で、制御部110は、クラッチ接続の移行時間を決定する。移行時間とは、
図6(a)に示されるように、クラッチを切断状態から接続状態へ移行するために費やす時間のことであり、クラッチの接続に要する時間として理解されてもよい。切断状態から接続状態へのクラッチの状態の移行は、エンジン11を始動したタイミングt1の後、および、コースティングを終了するタイミングt2の前に行われうる。また、移行時間が長いほど、クラッチの接続時に生じる衝撃(ショック)を低減することができるため、バンク角が大きいほど移行時間を長くすることで車両の挙動の不安定さを低減させることができる。本実施形態の場合、制御部110は、
図6(b)に示されるように、バンク角が大きいほど移行時間が長くなるように、バンク角に応じて移行時間を決定しうる。
【0029】
ステップS113で、制御部110は、コースティングの実行中においてエンジン11を始動させた後のエンジン11の目標回転数を決定する。制御部110は、ギヤ段検知センサ124により検知された変速機12の変速段と、車速センサ127により検知された鞍乗型車両10の速度(車速)とに基づいて、クラッチの回転数差を許容範囲内に収めることができるエンジン11の目標回転数を決定する。クラッチの回転数差とは、切断状態のクラッチにおける駆動側(駆動軸)と従動側(従動軸)との回転数差のことである。
【0030】
例えば、変速機12の変速段と車速とが分かれば、クラッチにおける従動側(従動軸)の回転数を求めることができる。一例として、制御部110は、クラッチにおける従動側の回転数を、変速機12の変速段における変速比と車速とを変数とする計算式によって求めることができる。そして、クラッチにおける従動側の回転数が得られれば、制御部110は、クラッチにおける従動側の回転数と駆動側(駆動軸)の回転数との差が許容範囲内に収まるように駆動側の回転数を求め、求めた駆動側の回転数を実現するためのエンジン11の目標回転数を決定(算出)することができる。ここで、許容範囲は、実験やシミュレーション等を用いて、クラッチの接続時に生じる衝撃を規定値未満にすることができるクラッチの回転数差の範囲に事前に設定されうる。
【0031】
また、制御部110は、バンク角検知センサ125で検知されたバンク角に応じてエンジン11の目標回転数を変化(増減)させうる。例えば、鞍乗型車両10のバンク角が大きい状態でクラッチが接続されると、バンク角が小さい状態よりも、鞍乗型車両10の挙動が不安定になりやすい。そのため、鞍乗型車両10のバンク角に応じてクラッチにおける駆動側と従動側の回転数差が小さくなるようにエンジン11の回転数を制御することにより、クラッチの接続時における鞍乗型車両10の挙動の安定性を向上させるとよい。本実施形態の場合、制御部110は、
図7に示されるように、コースティングの実行中、鞍乗型車両10のバンク角が大きいほどクラッチの回転数差が小さくなるように、バンク角に応じてエンジン11の回転数を変更する。これにより、仮にバンク角が増大してバンク角閾値THに至った場合であっても、クラッチの接続時に車両の安定性が低下することを抑制することができる。
【0032】
ステップS114で、制御部110は、エンジン11を始動させる。次いで、ステップS115で、制御部110は、ステップS113で決定された目標回転数に基づいて、エンジン11の回転数を制御する。具体的には、制御部110は、エンジン11の回転数が目標回転数になるように、エンジン11の回転数を制御する。本実施形態の場合、コースティングの実行中にエンジン11を始動した場合、クラッチの回転数差が許容範囲内に収まるように、エンジン11の回転数が制御される。
【0033】
ステップS116で、制御部110は、クラッチを接続する。本実施形態の場合、上記のステップS112~115を行うことにより、ステップS116でのクラッチの接続時に生じる衝撃(ショック)を低減することができるため、車両の挙動の不安定さを低減させることができる。ステップS116が終了したら
図3のステップS106に進み、制御部110は、コースティングを終了する。
【0034】
また、ステップS111でバンク角が閾値TH未満であると判定された場合には、ステップS117に進む。ステップS117で、制御部110は、コースティングを終了するための終了条件を満たすか否かを判定する。終了条件としては、クラッチ検知センサ121によりクラッチの接続が検知されたとの条件、または、スロットル検知センサ122によりスロットル開度が所定開度以上であることが検知されたとの条件が挙げられる。終了条件を満たさない場合にはステップS111に戻る。一方、終了条件を満たした場合には
図3のステップS106に進み、制御部110は、コースティングを終了する。なお、
図3~
図4のフローチャートは繰り返し実行されうる。即ち、
図3のフローチャートが終了したら、再び
図3のフローチャートが開始されうる。
【0035】
上述したように、本実施形態の制御装置100は、クラッチ検知センサ121によりクラッチの切断が検知され、スロットル検知センサ122によりスロットル開度が所定開度未満であることが検知され、且つ、バンク角検知センサ125により鞍乗型車両10のバンク角が閾値未満であることが検知された場合に、コースティングを開始する。これにより、鞍乗型車両10のバンク中にコースティングが開始されて車両の安定性が低下することを回避することができる。即ち、鞍乗型車両10においてコースティングを適切に実行することができる。
【0036】
<実施形態のまとめ>
1.上記実施形態の制御方法は、
鞍乗型車両(例えば10)のコースティングを制御する制御方法であって、
前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知する第1検知工程(例えばS101)と、
前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知する第2検知工程(例えばS102)と、
前記鞍乗型車両のバンク角を検知する第3検知工程(例えばS103)と、
前記鞍乗型車両のエンジンの停止を伴う前記コースティングを制御する制御工程(例えばS104~S106)と、
を含み、
前記制御工程では、前記第1検知工程で前記クラッチの切断が検知され、前記第2検知工程で前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知され、且つ、前記第3検知工程で前記バンク角が閾値未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する。
この実施形態によれば、鞍乗型車両のバンク中にコースティングが開始されて車両の安定性が低下することを回避することができる。即ち、鞍乗型車両においてコースティングを適切に実行することができる。また、鞍乗型車両にコースティングを適用することで、鞍乗型車両の燃費向上の点で有利になる。
【0037】
2.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記鞍乗型車両の速度に応じて前記閾値を変更する。
この実施形態によれば、鞍乗型車両の速度に応じてコースティングの実行(開始)のし易さを変化させることができる。
【0038】
3.上記実施形態において、
前記制御工程では、所定の速度範囲において前記鞍乗型車両の速度が大きいほど前記閾値が小さくなるように、前記閾値を変更する。
この実施形態によれば、コースティングが車両の挙動へ与える影響が比較的少ない低速の状態において、コースティングを実行(開始)し易くすることができる。
【0039】
4.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記バンク角が前記閾値以上になった場合(例えばS111)、前記コースティングを終了する(例えばS106)。
この実施形態によれば、コースティングの実行中に鞍乗型車両がバンクして車両の安定性が低下することを回避することができる。即ち、鞍乗型車両においてコースティングを適切に実行することができる。
【0040】
5.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記コースティングを終了する際、前記バンク角に応じて、前記クラッチを切断状態から接続状態へ移行するために費やす移行時間を変更する(例えばS112)。
この実施形態によれば、クラッチの接続時に生じる衝撃(ショック)を低減し、車両の挙動の不安定さを低減させることができる。
【0041】
6.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記バンク角が大きいほど前記移行時間が長くなるように、前記バンク角に応じて前記移行時間を変更する(例えばS112)。
この実施形態によれば、移行時間が長いほど、クラッチの接続時に生じる衝撃(ショック)を低減することができるため、バンク角が大きいほど移行時間を長くすることで車両の挙動の不安定さを低減させることができる。
【0042】
7.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記バンク角が前記閾値以上になった場合、前記コースティングを終了する前に前記エンジンを始動させる(例えばS114)。
この実施形態によれば、コースティングを適切に終了させることができる。
【0043】
8.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記エンジンを始動した場合、切断状態の前記クラッチにおける駆動側と従動側との回転数差が許容範囲内に収まるように、前記エンジンの回転数を制御する(例えばS113、S115)。
この実施形態によれば、クラッチの接続時に生じる衝撃(ショック)を低減することができる。
【0044】
9.上記実施形態において、
前記制御工程では、前記コースティングの実行中に前記エンジンを始動した場合、前記バンク角に応じて前記エンジンの回転数を制御する(例えばS113、S115)。
この実施形態によれば、鞍乗型車両の車体姿勢(バンク角)を考慮して適切にエンジンの回転数を制御することができるため、クラッチの接続時における鞍乗型車両の挙動の安定性を向上させることができる。
【0045】
10.上記実施形態の制御装置は、
鞍乗型車両(例えば10)のコースティングを制御する制御装置(例えば100)であって、
前記鞍乗型車両のクラッチの切断状態を検知するクラッチ検知手段(例えば121)と、
前記鞍乗型車両のスロットル開度を検知するスロットル検知手段(例えば122)と、
前記鞍乗型車両のバンク角を検知するバンク角検知手段(例えば125)と、
前記鞍乗型車両のエンジンの停止を伴う前記コースティングを制御する制御手段(例えば110)と、
を備え、
前記制御手段は、前記クラッチ検知手段により前記クラッチの切断が検知され、前記スロットル検知手段により前記スロットル開度が所定開度未満であることが検知され、且つ、前記バンク角検知手段により前記バンク角が閾値未満であることが検知された場合に、前記コースティングを開始する。
この実施形態によれば、鞍乗型車両のバンク中にコースティングが開始されて車両の安定性が低下することを回避することができる。即ち、鞍乗型車両においてコースティングを適切に実行することができる。また、鞍乗型車両にコースティングを適用することで、鞍乗型車両の燃費向上の点で有利になる。
【0046】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10:鞍乗型車両、11:エンジン、12:変速機、13:左側のハンドルグリップ、14:クラッチレバー、15:シフトペダル、16:右側のハンドルグリップ(スロットル操作部)、17:ブレーキレバー、100:制御装置、110:制御部、120:各種センサ、121:クラッチ検知センサ、122:スロットル検知センサ、123:回転数差検知センサ、124:ギヤ段検知センサ、125:バンク角検知センサ、126:エンジン回転数センサ、127:車速センサ