(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132261
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】高周波誘電加熱用接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20240920BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240920BHJP
C09J 5/06 20060101ALI20240920BHJP
C09J 123/00 20060101ALI20240920BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20240920BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20240920BHJP
B29C 65/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/04
C09J5/06
C09J123/00
C09J7/35
B29C65/48
B29C65/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042974
(22)【出願日】2023-03-17
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケブラー
2.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】土渕 晃司
(72)【発明者】
【氏名】久保 秀平
(72)【発明者】
【氏名】田矢 直紀
【テーマコード(参考)】
4F211
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4F211AA03
4F211AB13C
4F211AB16
4F211AK10
4F211TA01
4F211TA03
4F211TC08
4F211TN14
4F211TN43
4F211TN53
4J004AA07
4J004AA18
4J040DA111
4J040DG001
4J040HA166
4J040JA09
4J040KA03
4J040KA34
4J040LA03
4J040LA06
4J040LA09
4J040MA05
4J040PA31
(57)【要約】
【課題】より短時間で被着体と接着できる高周波誘電加熱用接着剤を提供すること。
【解決手段】高周波誘電加熱用接着剤1Aであって、前記高周波誘電加熱用接着剤1Aは、熱可塑性樹脂(A)13及び誘電フィラー(B)15を含有し、前記高周波誘電加熱用接着剤1Aの厚さ方向に沿って切断した切断面において観察される前記誘電フィラー(B)15の二次元形状の円形度が、0.40以下である、高周波誘電加熱用接着剤1A。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波誘電加熱用接着剤であって、
前記高周波誘電加熱用接着剤は、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)を含有し、
前記高周波誘電加熱用接着剤の厚さ方向に沿って切断した切断面において観察される前記誘電フィラー(B)の二次元形状の円形度が、0.40以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤の前記厚さ方向に沿って切断した前記切断面において観察される前記誘電フィラー(B)の前記二次元形状の周囲長包絡度が、0.80以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリオレフィン系樹脂である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)の含有量が、前記高周波誘電加熱用接着剤全体に対して、2体積%以上、40体積%以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)は、表面に凹凸構造を備える、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛、炭化ケイ素、酸化チタン、及びチタン酸バリウムからなる群から選択される少なくとも一種である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)は、板状集積型球状酸化亜鉛である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、0.01μm以上、25μm以下であり、
前記体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により、前記誘電フィラー(B)の粒度分布を測定し、当該粒度分布測定の結果からJIS Z 8819-2:2019に準じて算出した体積平均粒子径である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤の波長500nmにおける透過率T1が、0.1%以上、20%以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性(tanδ/ε’r)が、0.005以上である、
高周波誘電加熱用接着剤。
(tanδは、23℃かつ周波数40.68MHzにおける誘電正接であり、
ε’rは、23℃かつ周波数40.68MHzにおける比誘電率である。)
【請求項11】
請求項1又は請求項2に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤が、高周波誘電加熱用接着シートである、
高周波誘電加熱用接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘電加熱用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤を用いて、被着体を接着する方法として、高周波誘電加熱処理等によって、被着体を接着する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、誘電加熱処理によって、同一材料若しくは異なる材料からなる複数の被着体を接着するための誘電加熱接着フィルムが記載されている。特許文献1に記載される誘電加熱接着フィルムは、(A)ポリオレフィン系樹脂と、(B)JIS Z 8819-2:2001に準拠し、測定される平均粒子径が、1μm~30μmの範囲内の値である誘電フィラーと、を含有しており、かつ、厚さが10μm~2000μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、熱可塑性樹脂と誘電フィラーとを含む高周波誘電加熱用接着剤は、短時間で被着体と接着可能であり、強固な接着性が得られやすい。熱可塑性樹脂と誘電フィラーとを含む高周波誘電加熱用接着剤は、被着体と接着するにあたり、さらなる短時間での接着が要求される場合がある。
【0006】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂と誘電フィラーとを含有する高周波誘電加熱用接着剤において、従来の高周波誘電加熱用接着剤に比べ、より短時間で被着体と強固に接着できる高周波誘電加熱用接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]
高周波誘電加熱用接着剤であって、
前記高周波誘電加熱用接着剤は、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)を含有し、
前記高周波誘電加熱用接着剤の厚さ方向に沿って切断した切断面において観察される前記誘電フィラー(B)の二次元形状の円形度が、0.40以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【0008】
[2]
[1]に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤の前記厚さ方向に沿って切断した前記切断面において観察される前記誘電フィラー(B)の前記二次元形状の周囲長包絡度が、0.80以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【0009】
[3]
[1]又は[2]に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリオレフィン系樹脂である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【0010】
[4]
[1]から[3]のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)の含有量が、前記高周波誘電加熱用接着剤全体に対して、2体積%以上、40体積%以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【0011】
[5]
[1]から[4]のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)は、表面に凹凸構造を備える、
高周波誘電加熱用接着剤。
【0012】
[6]
[1]から[5]のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛、炭化ケイ素、酸化チタン、及びチタン酸バリウムからなる群から選択される少なくとも一種である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【0013】
[7]
[1]から[6]のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)は、板状集積型球状酸化亜鉛である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【0014】
[8]
[1]から[7]のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、0.01μm以上、25μm以下であり、
前記体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により、前記誘電フィラー(B)の粒度分布を測定し、当該粒度分布測定の結果からJIS Z 8819-2:2019に準じて算出した体積平均粒子径である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【0015】
[9]
[1]から[8]のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤の波長500nmにおける透過率T1が、0.1%以上、20%以下である、
高周波誘電加熱用接着剤。
【0016】
[10]
[1]から[9]のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性(tanδ/ε’r)が、0.005以上である、
高周波誘電加熱用接着剤。
(tanδは、23℃かつ周波数40.68MHzにおける誘電正接であり、
ε’rは、23℃かつ周波数40.68MHzにおける比誘電率である。)
【0017】
[11]
[1]から[10]のいずれか一項に記載の高周波誘電加熱用接着剤において、
前記高周波誘電加熱用接着剤が、高周波誘電加熱用接着シートである、
高周波誘電加熱用接着剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、熱可塑性樹脂と誘電フィラーとを含有する高周波誘電加熱用接着剤において、従来の高周波誘電加熱用接着剤に比べ、より短時間で被着体と強固に接着できる高周波誘電加熱用接着剤が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の断面を模式的に表す拡大断面図である。
【
図3】(A)は、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の一例を表す概略断面図であり、(B)は、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の他の一例を表す概略断面図であり、(C)は、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の他の一例を表す概略断面図である。
【
図4】本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤及び誘電加熱装置を用いた高周波誘電加熱処理の一例を説明する概略図である。
【
図5】実施例1の高周波誘電加熱用接着剤における断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[高周波誘電加熱用接着剤]
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)を含有し、前記高周波誘電加熱用接着剤の厚さ方向に沿って切断した切断面において観察される前記誘電フィラー(B)の二次元形状の円形度が、0.40以下である。
【0021】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、上記構成により、従来の高周波誘電加熱用接着剤に比べ、より短時間で被着体と強固に接着することが可能である。高周波誘電加熱用接着剤を厚さ方向に切断した断面を観察したときの誘電フィラー(B)の円形度が低いということは、誘電フィラー(B)の輪郭形状が複雑であることを意味する。誘電フィラー(B)の輪郭形状が複雑であるため、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤に、高周波を印加すると、誘電フィラー(B)の輪郭形状のうち、凸になる部分に高周波電界エネルギーが集中しやすくなる。誘電フィラー(B)に高周波電界エネルギーが集中しやすくなるため、誘電フィラー(B)がより効率よく発熱しやすいと考えられる。このため、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、従来の高周波誘電加熱用接着剤に比べ、より短時間で被着体と接着できるとともに、より強固な接着強度が得られる。
【0022】
以下、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤に用いられる材料について説明する。
【0023】
<熱可塑性樹脂(A)>
熱可塑性樹脂(A)の種類は、特に制限されない。
熱可塑性樹脂(A)は、例えば、融解し易いとともに、所定の耐熱性を有する等の観点から、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、フェノキシ系樹脂、及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。熱可塑性樹脂(A)は、被着体の材質との親和性が高い樹脂の種類を選択することが好ましい。
【0024】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤において、熱可塑性樹脂(A)は、ポリオレフィン系樹脂又はスチレン系樹脂であることが好ましく、ポリオレフィン系樹脂であることがより好ましい。熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン系樹脂又はスチレン系樹脂であれば、高周波電界の印加時に高周波誘電加熱用接着剤が溶融し易く、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤と被着体とを容易に接着できる。
【0025】
本明細書において、ポリオレフィン系樹脂は、極性部位を有するポリオレフィン系樹脂及び極性部位を有さないポリオレフィン系樹脂を含み、極性部位の有無を特定する場合に、極性部位を有するポリオレフィン系樹脂又は極性部位を有さないポリオレフィン系樹脂のように記載される。
【0026】
熱可塑性樹脂(A)が、極性部位を有するポリオレフィン系樹脂であることも好ましい。熱可塑性樹脂(A)が、極性部位を有さないポリオレフィン系樹脂でもよい。
【0027】
(ポリオレフィン系樹脂)
熱可塑性樹脂(A)としてのポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、及びポリメチルペンテン等のホモポリマーからなる樹脂、並びにエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、及び4-メチル-1-ペンテン等からなる群から選択されるモノマーの共重合体からなるα-オレフィン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂(A)としてのポリオレフィン系樹脂は、一種単独の樹脂でもよいし、二種以上の樹脂の組み合わせでもよい。
【0028】
〔極性部位を有するポリオレフィン系樹脂〕
極性部位を有するポリオレフィン系樹脂における極性部位は、ポリオレフィン系樹脂に対して極性を付与できる部位であれば特に限定されない。
また、高周波誘電加熱用接着剤が熱可塑性樹脂(A)として極性部位を有するポリオレフィン系樹脂を含有することで、誘電特性が高くなりやすくなり、被着体に対する接着力が高まるため好ましい。
極性部位を有するポリオレフィン系熱可塑性樹脂は、オレフィン系モノマーと極性部位を有するモノマーとの共重合体であってもよい。また、極性部位を有するポリオレフィン系熱可塑性樹脂は、オレフィン系モノマーの重合によって得られたオレフィン系ポリマーに極性部位を付加反応等の変性により導入させた樹脂でもよい。
【0029】
極性部位を有するポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン系モノマーの種類については、特に制限されない。オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、及び4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。オレフィン系モノマーは、これらの一種単独で用いられてもよく、二種以上の組み合わせで用いられてもよい。
オレフィン系モノマーは、機械的強度に優れ、安定した接着特性が得られるという観点から、エチレン及びプロピレンの少なくともいずれかであることが好ましい。
極性部位を有するポリオレフィン系樹脂におけるオレフィン由来の構成単位は、エチレン又はプロピレンに由来する構成単位であることが好ましい。
【0030】
極性部位としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、酢酸ビニル構造、及び酸無水物構造等が挙げられる。極性部位としては、酸変性によってポリオレフィン系樹脂に導入される酸変性構造等も挙げられる。
【0031】
極性部位としての酸変性構造は、熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン系樹脂)を酸変性することによって導入される部位である。熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン系樹脂)を酸変性する際に用いる化合物としては、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、及び不飽和カルボン酸のエステルのいずれかから導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分が挙げられる。本明細書において、酸変性構造を有するポリオレフィン系樹脂を酸変性ポリオレフィン系樹脂と称する場合がある。
【0032】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びシトラコン酸などが挙げられる。
【0033】
不飽和カルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、及び無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0034】
不飽和カルボン酸のエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、シトラコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、及びテトラヒドロ無水フタル酸ジメチルなどが挙げられる。
【0035】
〔無水マレイン酸変性ポリオレフィン〕
熱可塑性樹脂としてのポリオレフィン系樹脂は、酸変性構造として、酸無水物構造を有することがより好ましい。酸無水物構造は、無水マレイン酸によってポリオレフィン系樹脂を変性した際に導入される構造であることが好ましい。
【0036】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンにおけるオレフィン由来の構成単位は、エチレン又はプロピレンに由来する構成単位であることが好ましい。すなわち、無水マレイン酸変性ポリオレフィンは、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂又は無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0037】
<誘電フィラー(B)>
誘電材料として好ましい材料である、誘電フィラー(B)について説明する。
誘電フィラー(B)は、高周波電界の印加により発熱するフィラーである。高周波電界とは、高周波で向きが反転する電界である。
誘電フィラー(B)は、周波数域が3MHz以上、300MHz以下の高周波電界を印加したときに発熱するフィラーであることが好ましい。誘電フィラー(B)は、周波数域3MHz以上、300MHz以下のうち、例えば、周波数13.56MHz、27.12MHz、又は40.68MHz等の高周波電界の印加により発熱するフィラーであることが好ましい。
【0038】
誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛、炭化ケイ素(SiC)、アナターゼ型酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ルチル型酸化チタン、水和ケイ酸アルミニウム、アルカリ金属の水和アルミノケイ酸塩等の結晶水を有する無機材料又はアルカリ土類金属の水和アルミノケイ酸塩等の結晶水を有する無機材料等の一種単独又は二種以上の組み合わせが好適である。
【0039】
誘電フィラー(B)は、より高い発熱性が得られる観点から、酸化亜鉛、炭化ケイ素、酸化チタン、及びチタン酸バリウムからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、及び酸化チタンからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましく、酸化亜鉛、及び酸化チタンの少なくとも一種であることがさらに好ましい。
【0040】
例示した誘電フィラーの中でも、種類が豊富であり、様々な形状及びサイズから選択でき、高周波誘電加熱用接着剤の接着特性及び機械特性を用途に合わせて改良できるため、誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛であることがさらに好ましい。誘電フィラー(B)として酸化亜鉛を用いることで、意匠性に問題が無く、透過率が低い高周波誘電加熱用接着剤を得ることができる。酸化亜鉛は、セラミックの中でも硬度が高過ぎないため、高周波誘電加熱用接着剤の製造装置を傷つけ難い。酸化亜鉛は、不活性な酸化物であるため、熱可塑性樹脂と配合しても、熱可塑性樹脂に与えるダメージが少ない。
また、誘電フィラー(B)としての酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタン及びルチル型酸化チタンの少なくともいずれかであることが好ましく、誘電特性に優れるという観点から、アナターゼ型酸化チタンであることがより好ましい。
【0041】
誘電フィラー(B)の形状は特に限定されず、種々の形状が採用できる。
【0042】
誘電フィラー(B)は、例えば、表面に凹凸構造を備えることが好ましい。
誘電フィラー(B)が、表面に凹凸構造を備える形状であれば、誘電フィラー(B)の凸になる部分に高周波電界エネルギーがより集中しやすくなることで、誘電フィラー(B)に高周波電界エネルギーがより集中しやすくなるため、誘電フィラー(B)がより効率よく発熱しやすいと考えられる。その結果として、誘電フィラー(B)が、表面に凹凸構造を備える形状であれば、より短時間で被着体と強固に接着できる高周波誘電加熱用接着剤が得られやすくなる。
誘電フィラー(B)が、表面に凹凸構造を備える形状であれば、可視光領域(可視光域と称する場合がある)の光線が入射したときに、多方面により散乱しやすくなり、可視光領域の光線が透過しにくくなる一方で、赤外領域の光線が入射したときには、赤外領域の光線の散乱が少なく、赤外領域の光線が透過しやすいと考えられる。その結果として、誘電フィラー(B)が、表面に凹凸構造を備える形状であれば、赤外領域の光線透過性を確保しつつ、可視光領域における優れた隠蔽性を備える高周波誘電加熱用接着剤が得られやすくなる。
【0043】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤に含まれる誘電フィラー(B)の形状が表面に凹凸構造を備えることについては、例えば、高周波誘電加熱用接着剤を厚さ方向に沿って切断した切断面を、走査型電子顕微鏡(以下SEM:Scanning Electron Microscope)により観察することによって確認できる。
【0044】
誘電フィラー(B)が表面に凹凸構造を備える場合、誘電フィラー(B)の形状は、特に限定されず、例えば、星型、テトラポット型、毬栗型、及び花びら型等が挙げられる。誘電フィラー(B)が表面に凹凸構造を備える場合でも、誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛、炭化ケイ素、酸化チタン、及びチタン酸バリウムからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、酸化亜鉛、酸化チタン、及びチタン酸バリウムからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましく、酸化亜鉛及び酸化チタンの少なくとも一種であることがさらに好ましく、酸化亜鉛であることがよりさらに好ましい。
【0045】
誘電フィラー(B)が表面に凹凸構造を備える場合、例えば、複数の粒子が凝集または集積することによって形成された粒子凝集体でもよく、粒子凝集体がさらに凝集または集積することによって形成された粒子集合体でもよい。凹凸構造を備える誘電フィラー(B)が、粒子凝集体および粒子集合体の少なくとも一方である場合、例えば、凹凸構造を形成する凸部の形状が、球状、針状、及び板状の少なくもいずれかの形状を有していてもよい。凸部にはさらに突起を有していてもよく、当該突起は、例えば、球状、針状、及び板状の少なくもいずれかの突起であってもよい。このような誘電フィラー(B)の形状としては、例えば、具体的には、球状粒子が集積した形状の球状集積型、針状粒子が集積した形状の針状集積型、及び板状粒子が集積した形状の板状集積型からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これら集積型の誘電フィラー(B)の全体形状は、特に限定されず、種々の形状であってもよい。誘電フィラー(B)は、球状集積型球状酸化亜鉛、針状集積型球状酸化亜鉛、及び板状集積型球状酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、板状集積型球状酸化亜鉛であることがより好ましい。球状集積型球状酸化亜鉛、針状集積型球状酸化亜鉛、及び板状集積型球状酸化亜鉛は、それぞれ、球状、針状、又は板状のいずれかの形状の粒子が集積することによって集積した粒子が、全体として球状に類似した形状を有し、表面に凹凸構造を備えた酸化亜鉛の粒子であることを表す。全体として球状に類似した形状とは、外形上、球状に見える形状、又は、ほぼ球状に見える形状を表す。
【0046】
板状集積型球状酸化亜鉛を得る方法は、特に限定されない。板状集積型球状酸化亜鉛は、例えば、亜鉛塩水溶液を、親水性分散剤の存在下で中和する工程を有する製造方法によって得ることができる。亜鉛塩水溶液としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、シュウ酸、及び脂肪酸の亜鉛塩、並びに、その他の有機酸の亜鉛塩等からなる群から選ばれる少なくとも一種の亜鉛塩が挙げられる。親水性分散剤としては、例えば、アニオン系、カチオン系、又はノニオン系の界面活性剤等が挙げられる。アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウム等のアルカリ水溶液が挙げられる。
【0047】
誘電フィラー(B)が、板状集積型球状酸化亜鉛であれば、高周波誘電加熱用接着剤の厚さ方向に沿って切断した切断面において観察される誘電フィラー(B)の円形度が0.4以下の範囲をより満足させやすくなり、より短時間で被着体と強固に接着できる高周波誘電加熱用接着剤がより得られやすくなる。また、周囲長包絡度が0.8以下の範囲もより満足させやすくなる。円形度および周囲長包絡度の具体的な説明については、後述する。
【0048】
また、誘電フィラー(B)が、板状集積型球状酸化亜鉛であれば、高周波誘電加熱用接着剤の波長1000nmにおける透過率T2に対する、波長500nmにおける透過率T1の透過率比(T1/T2)が0.65以下の範囲をより満足させやすくなり、赤外領域の光線透過性を確保しつつ、可視光領域における優れた隠蔽性を備える高周波誘電加熱用接着剤がより得られやすくなる。透過率比の具体的な説明については、後述する。
【0049】
高周波誘電加熱用接着剤中の誘電フィラー(B)の体積含有率は、2体積%以上であることが好ましく、4体積%以上であることがより好ましく、6体積%以上であることがさらに好ましく、8体積%以上であることがよりさらに好ましい。
高周波誘電加熱用接着剤中の誘電フィラー(B)の体積含有率は、40体積%以下であることが好ましく、35体積%以下であることがより好ましく、30体積%以下であることがさらに好ましく、25体積%以下であることがよりさらに好ましく、22体積%以下であることがさらになお好ましい。
【0050】
高周波誘電加熱用接着剤中の誘電フィラー(B)の体積含有率が2体積%以上であることで、発熱性が向上し、高周波誘電加熱用接着剤と被着体とを強固に接着し易い。
高周波誘電加熱用接着剤中の誘電フィラー(B)の体積含有率が40体積%以下であることで、接着剤の強度低下を防ぐことができ、その結果、当該接着剤を用いることにより接着強度の低下を防ぐことができる。また、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が接着シートである場合、接着シート中の誘電フィラー(B)の体積含有率が40体積%以下であることで、シートとしてのフレキシブル性を得やすく、靱性の低下も防止しやすくなるので、後工程で高周波誘電加熱用接着シートを所望の形状に加工しやすい。
【0051】
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、25μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましく、1.5μm以下であることが特に好ましい。
【0052】
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径が0.01μm以上であることで、高周波誘電加熱用接着剤は、高周波電界の印加時に高い発熱性能を発現し、被着体と短時間で強固に接着できる。
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径が25μm以下であることで、高周波誘電加熱用接着剤は、高周波電界の印加時に高い発熱性能を発現し、被着体と短時間で強固に接着できる。また、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が接着シートである場合、誘電フィラー(B)の体積平均粒子径が25μm以下であることで、高周波誘電加熱用接着シートの強度低下を防止できる。
【0053】
誘電フィラー(B)の体積平均粒子径は、次のような方法によって測定される。レーザー回折・散乱法により、誘電フィラー(B)の粒度分布を測定し、当該粒度分布測定の結果からJIS Z 8819-2:2019に準じて体積平均粒子径を算出する。
【0054】
<添加剤>
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、短時間での接着性を妨げない範囲で、添加剤を含んでいてもよいし、添加剤を含んでいなくてもよい。
【0055】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が添加剤を含む場合、添加剤としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、ワックス、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、カップリング剤、粘度調整剤、有機充填剤、及び無機充填剤等が挙げられる。添加剤としての有機充填剤及び無機充填剤は、誘電フィラーとは異なる。
【0056】
粘着付与剤及び可塑剤は、高周波誘電加熱用接着剤の溶融特性、及び接着特性を改良できる。
粘着付与剤としては、例えば、ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂の水素化物、テルペンフェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、及び芳香族石油樹脂の水素化物が挙げられる。
可塑剤としては、例えば、石油系プロセスオイル、天然油、二塩基酸ジアルキル、及び低分子量液状ポリマーが挙げられる。石油系プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、及び芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。天然油としては、例えば、ひまし油、及びトール油等が挙げられる。二塩基酸ジアルキルとしては、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、及びアジピン酸ジブチル等が挙げられる。低分子量液状ポリマーとしては、例えば、液状ポリブテン、及び液状ポリイソプレン等が挙げられる。
【0057】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が添加剤を含む場合、高周波誘電加熱用接着剤中の添加剤の含有量は、通常、高周波誘電加熱用接着剤の全体量基準で、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、高周波誘電加熱用接着剤中の添加剤の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、溶剤を含有しないことが好ましい。溶剤を含有しない高周波誘電加熱用接着剤によれば、被着体との接着に用いる接着剤に起因する揮発性有機化合物の問題が発生し難い。
【0059】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、炭素又は炭素を主成分とする炭素化合物及び金属等の導電性物質を含有しないことが好ましい。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、例えば、炭素鋼、α鉄、γ鉄、δ鉄、銅、酸化鉄、黄銅、アルミニウム、鉄-ニッケル合金、鉄-ニッケル-クロム合金、カーボンファイバー及びカーボンブラックを含有しないことが好ましい。
【0060】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が導電性物質を含有する場合、接着剤中の導電性物質の含有率は、それぞれ独立に、接着剤の全体量基準で、7質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.1質量%以下であることがさらになお好ましい。
接着剤中の導電性物質の含有率は、0質量%であることが特に好ましい。
接着剤中の導電性物質の含有率が7質量%以下であれば、誘電加熱処理した際に電気絶縁破壊して接着部及び被着体の炭化という不具合を防止し易くなる。
【0061】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤中、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)の合計含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、93質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがよりさらに好ましく、99質量%以上であることがさらになお好ましい。
【0062】
<高周波誘電加熱用接着剤の特性>
次に、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の特性について説明する。
【0063】
(円形度)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤において、厚さ方向に沿って切断した切断面において観察される誘電フィラー(B)の円形度は、0.40以下である。円形度は、0.38以下であることが好ましく、0.36以下であることがより好ましく、0.34以下であることがさらに好ましい。円形度の下限値は特に限定されないが、0.10以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.20以上であることがさらに好ましい。
【0064】
本実施形態において、円形度は、下記(Ci1)から下記(Ci4)に示す手順により測定した円形度である。
(Ci1):高周波誘電加熱用接着剤を厚さ方向に沿って切断した切断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて500倍以上で、1視野以上観察する。
(Ci2):得られたSEM画像を画像解析ソフトによって二値化処理し、得られた二値化処理画像から得られた塊(以下Blob:Binary Large Object)を誘電フィラー(B)の粒子として検出する。当該Blobは、二値化処理画像において、白と判定されたピクセルが隣接して繋がった領域である。
(Ci3):検出した誘電フィラー(B)の粒子をBlob解析することにより、誘電フィラー(B)の周囲長L1及び面積Sを求める。周囲長L1及び面積Sの測定対象は、検出した誘電フィラー(B)の粒子のうち、円相当径0.088μm以上の誘電フィラー(B)の粒子とする。
(Ci4):測定対象となる誘電フィラー(B)の個々の粒子から得られた周囲長L1及び面積Sを用いて、下記数式(数1)により円形度を算出し、測定した誘電フィラー(B)の個数の算術平均値として求める。
円形度=4πS/(L1)2 ・・・(数1)
(数式(数1)中、Sは、二値化処理画像から求められる誘電フィラー(B)の面積であり、周囲長L1は、二値化処理画像から求められる誘電フィラー(B)の周囲長である。)
【0065】
誘電フィラー(B)の周囲長L1は、二次元平面像から求められる誘電フィラー(B)の輪郭そのものの周の長さを表す。誘電フィラー(B)の円形度は、二次元平面像から求められる円形度を表す。円形度が小さいほど、二次元平面像の輪郭形状が真円から遠く離れた形状である形状を表している。円形度は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0066】
(周囲長包絡度)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤において、厚さ方向に沿って切断した切断面において観察される誘電フィラー(B)の周囲長包絡度は、0.80以下であることが好ましい。周囲長包絡度は、0.79以下であることがより好ましく、0.78以下であることがさらに好ましい。周囲長包絡度の下限値は特に限定されないが、0.30以上であることが好ましく、0.50以上であることがより好ましく、0.70以上であることがさらに好ましい。
【0067】
本実施形態において、周囲長包絡度は、下記(Co1)から下記(Co4)に示す手順により測定した周囲長包絡度である。
(Co1):高周波誘電加熱用接着剤を厚さ方向に沿って切断した切断面を、SEMを用いて500倍以上で、1視野以上観察する。
(Co2):得られたSEM画像を画像解析ソフトによって二値化処理し、得られた二値化処理画像から得られたBlobを誘電フィラー(B)の粒子として検出する。
(Co3):検出した誘電フィラー(B)の粒子をBlob解析することにより、誘電フィラー(B)の周囲長L1及び包絡周囲長L2を求める。周囲長L1及び包絡周囲長L2の測定対象は、検出した誘電フィラー(B)の粒子のうち、円相当径0.088μm以上の誘電フィラー(B)の粒子とする。
(Co4):得られた周囲長L1及び包絡周囲長L2を用いて、下記数式(数2)により周囲長包絡度を算出し、測定した誘電フィラー(B)の個数の算術平均値として求める。
周囲長包絡度=L2/L1 ・・・(数2)
(数式(数2)中、L1は、二値化処理画像から求められる誘電フィラー(B)の周囲長であり、L2は、二値化処理画像から求められる誘電フィラー(B)の包絡周囲長である。)
【0068】
周囲長包絡度は、円形度と同様にして、二値化処理画像において検出した誘電フィラー(B)の粒子を観察すればよい。測定対象となる誘電フィラー(B)の粒子の条件が同じであれば、円形度および周囲長包絡度の両者の測定において、観察するSEM画像の視野は、それぞれ、同じ視野を観察してもよく、異なる視野を観察してもよいが、両者の測定は、同じ視野で行うことが好ましい。
【0069】
誘電フィラー(B)の包絡周囲長L2は、二次元平面像における誘電フィラー(B)の凸部の各頂点を直線で結ぶことで形成される多角形の周の長さの合計から求められる周囲長を表す。以下、「凸部の各頂点を直線で結ぶことで形成される多角形」を凸包と称する場合がある。誘電フィラー(B)の周囲長包絡度は、二次元平面像から求められる周囲長包絡度を表す。周囲長包絡度が小さいほど、二次元平面像の輪郭形状に凹凸が多い形状であることを表している。周囲長包絡度は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0070】
ここで、
図1及び
図2を参照して、円形度及び周囲長包絡度について説明する。
図1には、高周波誘電加熱用接着剤1Aを厚さ方向に切断した切断面の拡大図が模式的に表されている。
図1に示されるように、高周波誘電加熱用接着剤1Aは、熱可塑性樹脂13と、多数の誘電フィラー15とを含んでおり、多数の誘電フィラー15は、それぞれ、表面に凹凸構造を備えている。
【0071】
図2には、高周波誘電加熱用接着剤1Aを厚さ方向に切断した切断面の断面視において観察される誘電フィラー15のうちの一つの誘電フィラーの一例として、誘電フィラー15Aが示されている。誘電フィラー15Aは、面積S、誘電フィラー15Aの輪郭の全周である周囲長L
1、及び誘電フィラー15Aの凸部を結んだ全周である包絡周囲長L
2を有している。
【0072】
例えば、
図1に示される切断面をSEMによって観察し、得られたSEM画像を画像解析ソフトによって二値化処理を行うと、所定の二値化閾値以上の画素値である画素(ピクセル)は白となるように処理され、所定の二値化閾値未満の画素値である画素は黒となるように処理される。例えば、画素値128を二値化閾値とした場合、画素値128以上のピクセルは、全て画素値255が割り当てられて白に変換されるように処理され、画素値128未満のピクセルは全て0が割り当てられて黒に変換されるように二値化処理される。SEM画像を二値化処理したときに、画素値255のピクセルが隣接して繋がっている領域を一つのBlobとして認識され、凹凸構造の輪郭を有する誘電フィラー15が検出される。
【0073】
そして、
図2に示されるように、検出された誘電フィラー15のうち、誘電フィラー15Aを円形度及び周囲長包絡度の測定に用いるための誘電フィラーの一つとして選択する。誘電フィラー15Aの面積S、周囲長L
1、及び包絡周囲長L
2は、それぞれ、誘電フィラー15Aに対応する部分全体の総ピクセル数を誘電フィラー15Aの面積S、誘電フィラー15Aの輪郭に対応する部分のピクセル数の合計から算出されるピクセル数を誘電フィラー15Aの周囲長L
1、及び誘電フィラー15Aの凸包された領域の輪郭に対応する部分のピクセル数の合計から算出されるピクセル数を誘電フィラー15Aの包絡周囲長L
2として測定される。誘電フィラー15Aの包絡周囲長L
2は、周囲長L
1に基づいて算出される。ここで、誘電フィラー15Aの輪郭に対応する部分のピクセル数の合計から算出されるピクセル数は、誘電フィラー15Aを取り囲む部分のピクセル数である。周囲長L
1および包絡周囲長L
2において算出されるピクセル数は、適切な算出方法が採用されることによって算出される。当該算出方法は、特に限定されず、例えば、上記のblobにおいて、横方向及び縦方向に繋がっている部分のピクセルについては、それぞれ、1ピクセルとして算出され、斜め方向に繋がっている部分のピクセルも、それぞれ、1ピクセルとして算出される方法であってもよい。得られた誘電フィラー15Aの面積S、周囲長L
1、及び包絡周囲長L
2の値から、前述の数式(数1)によって、円形度が求められ、前述の数式(数2)によって、周囲長包絡度が求められる。円形度及び周囲長包絡度は、それぞれ、誘電フィラー15のうちの測定に用いた誘電フィラーの個数の平均値として求められる。
【0074】
(透過率比)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤において、高周波誘電加熱用接着剤の波長1000nmにおける透過率T2に対する、波長500nmにおける透過率T1の透過率比(T1/T2)は、0.65以下であることが好ましい。透過率比(T1/T2)は、0.60以下であることがより好ましく、0.50以下であることがさらに好ましく、0.40以下であることがよりさらに好ましい。透過率比(T1/T2)の下限値は特に限定されず、例えば、0.01以上であってもよい。
【0075】
透過率比は、下記測定方法により測定される透過率比である。透過率比は、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤について、300nmから2000nmまでの波長域における透過率スペクトル(直進透過率と拡散透過率の合計)を測定し、得られた透過率スペクトルから、波長500nmにおける透過率T1及び波長1000nmにおける透過率T2を抽出して、下記数式(数3)により求める。透過率比は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により求められる。
透過率比=T1/T2 ・・・(数3)
(数式(数3)中、T1は、波長500nmにおける透過率であり、T2は、波長1000nmにおける透過率である。)
【0076】
高周波誘電加熱用接着剤の透過率比が、0.65以下であれば、赤外領域の光線透過性を確保しつつ、可視光領域の光線透過性を抑制することが可能である。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が、透過率比0.65以下を満たしている場合、例えば、意匠性等が求められる用途、及び赤外線センサー等の用途に有用である。
【0077】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤において、波長500nmにおける透過率T1は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、7%以下であることが特に好ましい。波長500nmにおける透過率T1は20%以下であれば、可視光領域の光線透過性を抑制しやすい。
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤において、波長500nmにおける透過率T1の下限値は特に限定されず、例えば、0.1%以上であることが挙げられる。
【0078】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤において、波長1000nmにおける透過率T2は5%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、9%以上であることがさらに好ましく、11%以上であることが特に好ましい。波長1000nmにおける透過率T2は5%以上であれば、赤外領域の光線透過性に優れる。
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤において、波長1000nmにおける透過率T2の上限値は特に限定されず、例えば、100%以下であってもよく、99%以下であってもよく、95%以下であってもよい。
【0079】
(誘電特性)
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性(tanδ/ε’r)について説明する。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性(tanδ/ε’r)が、0.005以上であることが好ましい。
(tanδは、23℃かつ周波数40.68MHzにおける誘電正接であり、
ε’rは、23℃かつ周波数40.68MHzにおける比誘電率である。)
【0080】
高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性が、0.005以上であれば、誘電加熱処理をした際に、高周波誘電加熱用接着剤が発熱し易く、高周波誘電加熱用接着剤と被着体とを短時間で強固に接着し易くなる。
【0081】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性は、0.008以上であることがより好ましく、0.010以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性が0.008以上であれば、誘電加熱処理をした際に、高周波誘電加熱用接着剤がより発熱しやすくなり、高周波誘電加熱用接着剤と被着体とを短時間で強固に接着し易くなる。
【0082】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性の上限は特に限定されない。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性は、例えば、0.1以下であってもよく、0.08以下であってもよく、0.05以下であってもよい。高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性は、例えば、0.005以上、0.1以下を満たしてもよい。
高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性が、0.1以下であれば、過熱を抑制しやすくなり、被着体と高周波誘電加熱用接着剤とが接する部分の損傷が起きにくい。
【0083】
誘電特性(tanδ/ε’r)は、インピーダンスマテリアル装置等を用いて測定される誘電正接(tanδ)を、インピーダンスマテリアル装置等を用いて測定される比誘電率(ε’r)で除した値である。
高周波誘電加熱用接着剤の誘電特性としての誘電正接(tanδ)、及び比誘電率(ε’r)は、インピーダンスマテリアルアナライザを用いて、簡便かつ正確に測定することができる。
【0084】
なお、高周波誘電加熱用接着剤及び被着体の誘電特性の測定方法の詳細は、次の通りである。まず、高周波誘電加熱用接着剤の測定用シートを得る。構造体から測定用シートを得る必要がある場合は、構造体から切り出したり、削り出したりすることにより、均一な厚さの測定用シートを得る。シート化されていない、例えば、ペレット状の高周波誘電加熱用接着剤については、熱プレス機などでシート化することにより測定用シートを得る。測定用シートの厚さは、例えば、10μm以上、2mm以下である。このようにして得たシートについて、RFインピーダンスマテリアルアナライザE4991A(Agilent社製)を用いて、23℃における周波数40.68MHzの条件下、比誘電率(ε’r)、及び誘電正接(tanδ)をそれぞれ測定し、誘電特性(tanδ/ε’r)の値を算出する。
【0085】
<高周波誘電加熱用接着剤の形状>
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の形状は、特に限定されない。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、例えば、射出成形などによって得られた、目的とする形状に成形した成型体状の接着剤でもよく、押出成形などによって得られた、シート状の接着剤でもよい。本実施形態において、成型体とシートとは異なる形状である。シートとは、通常、厚さが1mm以下、2mm以下、又は5mm以下である長尺帯状、又は枚葉状の形態を指す。成型体とは、高周波誘電加熱用接着剤の各成分を含有する材料を成形することによって得られる形状であって、シート以外の各種形状を指す。
【0086】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、シート状であることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、高周波誘電加熱用接着シート(接着シートと称する場合がある。)であることが好ましい。高周波誘電加熱用接着剤が接着シートであることで、構造体の製造工程の時間をさらに短縮することができる。
【0087】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の形状は、枠状部と、互いに対向する面における一方の面から他方の面に向かって貫通する開口部とを備える枠状シート(枠状の接着シート)の形状でもよい。開口部の形状は特に制限されない。接着シートが枠状である場合、当該枠状の接着シートは、当該開口部を1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。枠状シートは、枠状部の一部が切り欠きを有していてもよい。この場合、開口部は、枠状部の一部が枠状部の外側と連通する形状でもよい。つまり、枠状シートの平面視において、枠状部が開いた形状(例えば、C字状及びU字状などの枠状部が不連続な形状)を呈していてもよい。枠状シートは、枠状部が切り欠きを有していなくてもよい。この場合、開口部は、開口部の周囲が枠状部に囲まれた形状(例えば、O字状などの枠状部が連続した形状)でもよい。つまり、枠状シートの平面視において、枠状部が閉じた形状を呈していてもよい。枠状シートが2つ以上の開口部を有する場合、当該開口部の形状は、枠状シートの平面視において、同じ形状の開口部が組み合わされていてもよく、異なる形状の開口部が組み合わされていてもよい。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤の形状は、当該開口部を有さないシートでもよい。さらに、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、押出成形、及び射出成形などの成形方法により、目的とする形状の接着シートに成形することも可能である。
【0088】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、一態様では、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着シートからなる接着層の一層のみで構成される。高周波誘電加熱用接着剤が、接着層の一層のみからなる高周波誘電加熱用接着シートである場合、当該接着層そのものが高周波誘電加熱用接着シートに相当するため、高周波誘電加熱用接着シートの形態及び特性は、接着層の形態及び特性に相当する。高周波誘電加熱用接着シートは、単一の接着層のみからなることが好ましい。これにより、高周波誘電加熱用接着シートの厚さを薄くすることができ、また、簡単に高周波誘電加熱用接着シートを成形することができる。
【0089】
高周波誘電加熱用接着シートは、高周波誘電加熱接着性の接着層の一層のみからなる場合があるため、本明細書において、「高周波誘電加熱用接着シート」という用語と、「接着層」という用語は、場合によっては、互いに入れ替えることが可能である。
【0090】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、接着層の一層のみからなる高周波誘電加熱用接着シートの態様に限定されない。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、
図3(A)、
図3(B)及び
図3(C)に示すいずれの態様でもよい。
【0091】
図3(A)に示された高周波誘電加熱用接着剤1Aは、単一の接着層10のみから構成される接着シートである。
【0092】
図3(B)に示された高周波誘電加熱用接着剤1Bは、接着層10と、接着層10を支持する基材30とを有する接着シートである。接着層10は、第一表面11を有する。基材30としては、接着層10を支持できる部材であれば特に限定されない。基材30は、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アセテート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリスチレン樹脂、及び塩化ビニル樹脂等からなる群から選択される少なくとも1種以上の樹脂を含む樹脂シートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、及びポリプロピレン樹脂等が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂、及びポリエチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。基材30は、誘電フィラーを含んでいてもよい。接着層10中の誘電フィラー(B)と基材30中の誘電フィラーとは、互いに同一であるか又は異なる。
【0093】
図3(C)に示された高周波誘電加熱用接着剤1Cは、接着層10及び接着層20の間に配置された中間層40と、を有する接着シートである。高周波誘電加熱用接着剤1Cは、第一表面11及び第一表面11とは反対側の第二表面21を有する。高周波誘電加熱用接着剤1Cにおいては、接着層10が、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着シートの接着層の条件を満たしていればよい。一態様においては、接着層10と接着層20の両方が同じ組成及び特性の層である。一態様においては、接着層20が、接着層10とは組成及び特性の少なくともいずれかの点で異なる高周波誘電加熱接着性の層である。一態様においては、接着層20が、高周波誘電加熱接着性の層ではない一般的な接着剤の層である。この場合、高周波誘電加熱接着性ではない接着層20としては、例えば、水又は溶剤が蒸発して乾燥固化する乾燥固化型の接着剤の層、又は粘着剤から形成される粘着剤の層である。
【0094】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が、接着層の一層のみからなる接着シートである場合、本実施形態に係る接着シートの厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。
接着シートの厚さが5μm以上であれば、被着体と接する接着シートについて高周波電界の印加時の発熱性が向上するので、接着シートと被着体とを短時間で強固に接着し易い。また、被着体と接着させる際に、接着シートが被着体の凹凸に追従しやすく、接着強度が発現しやすくなる。
【0095】
接着シートが複数の層からなる多層構成の場合、接着層の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることがよりさらに好ましい。
高周波誘電加熱用接着シートが多層構成のシートである場合、接着層の厚さが5μm以上であれば、被着体と接着する際に、接着層が被着体の凹凸に追従しやすく、接着強度が発現しやすくなる。
【0096】
接着シートの厚さの上限は、特に限定されない。接着シートの厚さが増すほど、接着シートと被着体とを接着して得られる構造体全体の重量も増加する。このため、接着シートは、例えば、加工性、取り扱い性など、実使用上問題ない範囲の厚さであることが好ましい。高周波誘電加熱用接着シートの実用性及び成形性も考慮すると、本実施形態に係る接着シートの厚さは、2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。接着シートの厚さの上限は、接着層の一層のみからなる構成、接着層を含む複数の層からなる多層構成のいずれの場合にもかかわらず、上記の値であることが好ましい。
【0097】
高周波誘電加熱用接着剤としての接着シートは、塗布が必要な液状の接着剤を用いる場合と比べて、取り扱い易く、被着体との接着時の作業性も向上する。
【0098】
また、高周波誘電加熱用接着剤としての接着シートは、シート厚さなどを適宜制御できる。そのため、接着シートをロール・ツー・ロール方式に適用することもでき、かつ、抜き加工等により、被着体との接着面積、並びに被着体の形状に合わせて、接着シートを任意の面積及び形状に加工できる。そのため、高周波誘電加熱用接着剤としての接着シートは、製造工程の観点からも、利点が大きい。
【0099】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、いわゆる短波から超短波と呼ばれる周波数帯の高周波電界を印加して用いられることが好ましい。当該周波数帯の高周波電界を印加すると、加熱可能な深さが深いため、高周波印加時の発熱性が向上する。このため、高周波誘電加熱用接着剤の厚さが厚い場合でも、接着シートと被着体とを短時間で強固に接着しやすい。
【0100】
<高周波誘電加熱用接着剤の製造方法>
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、例えば、上述の各成分を混合することにより製造できる。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が接着シートである場合、例えば、上述の各成分を予備混合し、押出機、及び熱ロール等の公知の混練装置を用いて混練し、押出成形、カレンダー成形、射出成形、及びキャスティング成形等の公知の成形方法により製造できる。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が成型体である場合、例えば、上述の各成分を予備混合して得た材料を用いて、射出成形、及び圧縮成形等の公知の成形方法により製造できる。また、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が枠状シートである場合、枠状シートは、上述の接着シートの成形方法によって得られたシート状の高周波誘電加熱用接着剤に対して、例えば、公知の打ち抜き加工を施す方法によって、開口部を設けることにより製造できる。又は、枠状シートは、上述の接着シートの成形方法において、目的とする開口部が得られる形状の金型を用いることにより製造できる。
【0101】
高周波誘電加熱用接着剤は、一般的な粘着剤に比べて、耐水性及び耐湿性が優れる。
【0102】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、高周波電界の印加により局所的に加熱される。それゆえ、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤によれば、被着体との接着時に被着体全体が損傷するという不具合を防ぎやすい。
【0103】
[被着体]
被着体の材質は、特に限定されない。被着体の材質は、有機材料、金属材料及び無機材料のいずれの材料でもよく、これらの複合材料でもよい。
【0104】
被着体の材質は、有機材料であることが好ましい。被着体の材質としての有機材料は、例えば、プラスチック材料、及びゴム材料が挙げられる。プラスチック材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂;ナイロン6及びナイロン66等、ポリエステル樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート樹脂等、ポリアセタール樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、及びポリスチレン樹脂等が挙げられる。ゴム材料としては、スチレン-ブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、及びシリコーンゴム等が挙げられる。また、被着体は、有機材料の発泡材でもよい。
【0105】
被着体の材質が熱可塑性樹脂である場合、被着体が含有する熱可塑性樹脂と、高周波誘電加熱用接着剤が含有する熱可塑性樹脂(A)とが異なる樹脂であってもよい。この場合、接着する際に被着体の形状を損なうことなく接着し易くなる。
【0106】
また、被着体の材質が熱可塑性樹脂である場合、接着性の観点で、被着体が含有する熱可塑性樹脂の主たる組成は、高周波誘電加熱用接着剤が含有する熱可塑性樹脂(A)の主たる組成と、同一であってもよい。
【0107】
本明細書において、「熱可塑性樹脂の主たる組成」とは、例えば、熱可塑性樹脂が重合体である場合は、当該重合体が含む繰り返し単位の内、当該重合体中でも最も多く含まれる繰り返し単位である。熱可塑性樹脂が単独のモノマー由来の重合体であれば、当該モノマー単位による繰り返し単位が「熱可塑性樹脂の主たる組成」である。熱可塑性樹脂が共重合体である場合は、当該重合体中でも最も多く含まれる繰り返し単位が「熱可塑性樹脂の主たる組成」である。熱可塑性樹脂が共重合体である場合、当該共重合体中、「熱可塑性樹脂の主たる組成」は、30質量%以上含まれる繰り返し単位であり、一態様においては、30質量%超含まれる繰り返し単位であり、別の一態様においては、40質量%以上含まれる繰り返し単位であり、さらに別の一態様においては、50質量%以上含まれる繰り返し単位である。また、熱可塑性樹脂が共重合体である場合、最も多く含まれる繰り返し単位が、二種以上であってもよい。
【0108】
被着体の材質としての無機材料としては、ガラス材料、セメント材料、セラミック材料、及び金属材料等が挙げられる。また、被着体は、繊維と上述したプラスチック材料との複合材料である繊維強化樹脂でもよい。この繊維強化樹脂におけるプラスチック材料は、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂;ナイロン6及びナイロン66等、ポリエステル樹脂ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート樹脂等、ポリアセタール樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、エポキシ樹脂、及びポリスチレン樹脂等からなる群から選択される少なくとも一種である。繊維強化樹脂における繊維は、例えば、ガラス繊維、ケブラー繊維、及び炭素繊維等が挙げられる。
【0109】
被着体は、導電性が低いことが好ましい。
【0110】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用いて複数の被着体同士を接着する場合、複数の被着体は、互いに同じ材質であるか、又は異なる材質である。
【0111】
被着体の形状は、特に限定されないが、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤が接着シートである場合、被着体は、接着シートを貼り合わせることのできる面を有することが好ましく、シート状、板状、又はブロック状であることが好ましい。複数の被着体同士を接着する場合は、それら被着体の形状及び寸法は、互いに同じでも異なっていてもよい。
【0112】
[接着方法]
次に、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用い、被着体と接着する接着方法の一例として、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤と、被着体とを接着して構造体を製造する方法について説明する。本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用い、被着体と接着して構造体を製造する場合の構造体の製造方法は、例えば、以下の工程を有する。
【0113】
1つ以上の被着体と本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤とを接着して構造体を製造する場合、本実施形態に係る構造体の製造方法は、1つ以上の被着体に対して、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を配置する工程と、高周波誘電加熱用接着剤に高周波電界を印加して、1つ以上の被着体を接着する工程と、を含む。印加する高周波電界の周波数は、例えば、1MHz以上、300MHz以下である。
【0114】
2つ以上の被着体と本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤とを接着して構造体を製造する場合、本実施形態に係る構造体の製造方法は、2つ以上の被着体の間に、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を配置する工程と、高周波誘電加熱用接着剤に高周波電界を印加して、2つ以上の被着体を接着する工程と、を含む。この場合も、印加する高周波電界の周波数は、例えば、1MHz以上、300MHz以下である。
【0115】
本実施形態に係る構造体の製造方法において、誘電加熱装置の電極の間に2つ以上の被着体と高周波誘電加熱用接着剤とを配置し、2つ以上の被着体と高周波誘電加熱用接着剤とを前記電極で加圧しながら高周波電界を印加することが好ましい。このように電極で加圧しながら高周波電界を印加することで、構造体をより短時間で製造し易くなる。
なお、本明細書において、「誘電加熱装置」を「高周波誘電加熱装置」と称する場合がある。
【0116】
本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用いた製造方法によれば、誘電加熱装置によって、外部から、あらかじめ定められた箇所のみを局所的に加熱することができる。そのため、被着体が、大型で且つ複雑な立体構造体又は厚さが大きく且つ複雑な立体構造体等であり、さらに高い寸法精度を求められる場合でも、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用いた製造方法は、有効である。
【0117】
以下、本実施形態に係る構造体の製造方法の一例として、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を用いて、2つ以上の被着体を接着する態様を挙げて説明するが、本発明は、この態様に限定されない。
【0118】
本実施形態の一態様に係る接着方法は、以下の工程P1及び工程P2を含む。
【0119】
・工程P1
工程P1は、2つ以上の被着体の間に本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤を配置する工程である。本実施形態に係る構造体として積層体を製造する場合、工程P1においては、例えば、被着体と高周波誘電加熱用接着剤とを交互に配置して、高周波誘電加熱用接着剤を介して2つ以上の被着体を積層させる。
【0120】
被着体同士を接着できるように、高周波誘電加熱用接着剤を被着体間で挟持することが好ましい。高周波誘電加熱用接着剤を、被着体間の一部において挟持するか、被着体間の複数箇所において挟持するか、又は被着体間の全面において挟持すればよい。被着体同士の接着強度を向上させる観点から、被着体同士の接着面全体に亘って高周波誘電加熱用接着剤を挟持することが好ましい。
また、被着体間の一部において高周波誘電加熱用接着剤を挟持する一態様としては、被着体同士の接着面の外周に沿って高周波誘電加熱用接着剤を枠状に配置して、被着体間で挟持する態様が挙げられる。このように高周波誘電加熱用接着剤を枠状に配置することで、被着体同士の接着強度を得るとともに、接着面全体に亘って高周波誘電加熱用接着剤を配置した場合に比べて構造体を軽量化できる。
また、被着体間の一部に高周波誘電加熱用接着剤を挟持する一態様によれば、用いる高周波誘電加熱用接着剤の量を減らしたり、サイズを小さくできるため、接着面全体に亘って高周波誘電加熱用接着剤を配置した場合に比べて高周波誘電加熱処理時間を短縮できる。
【0121】
・工程P2
工程P2は、工程P1において被着体間に配置した高周波誘電加熱用接着剤に高周波電界を印加して、2つ以上の被着体を接着する工程である。印加する高周波電界の周波数は、一実施形態において、1MHz以上、300MHz以下である。例えば、誘電加熱装置を用いることにより、高周波電界を高周波誘電加熱用接着剤に印加することができる。
【0122】
<誘電加熱装置>
図4には、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤及び誘電加熱装置を用いた高周波誘電加熱処理を説明する概略図が示されている。
図4に示された誘電加熱装置50は、第一高周波電界印加電極51と、第二高周波電界印加電極52と、高周波電源53と、を備えている。
第一高周波電界印加電極51と、第二高周波電界印加電極52とは、互いに対向配置されている。第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52は、プレス機構を有している。誘電加熱装置50の電極(第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52)のプレス機構により、第一高周波電界印加電極51と第二高周波電界印加電極52との間で、第一被着体110、高周波誘電加熱用接着剤1A、及び第二被着体120を加圧処理できる。すなわち、誘電加熱装置50により、当該電極の間に配置された2つ以上の被着体と高周波誘電加熱用接着剤とを加圧しながら高周波電界を印加することもできる。
【0123】
第一高周波電界印加電極51と第二高周波電界印加電極52とが互いに平行な1対の平板電極を構成している場合、このような電極配置の形式を平行平板タイプと称する場合がある。
高周波電界の印加には平行平板タイプの高周波誘電加熱装置を用いることも好ましい。平行平板タイプの高周波誘電加熱装置であれば、高周波電界が電極間に位置する高周波誘電加熱用接着剤を貫通するので、高周波誘電加熱用接着剤全体を温めることができ、被着体と高周波誘電加熱用接着剤とを短時間で接着できる。また、構造体としての積層体を製造する場合には、平行平板タイプの高周波誘電加熱装置を用いることが好ましい。
【0124】
第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52のそれぞれに、例えば、周波数13.56MHz程度、周波数27.12MHz程度、又は周波数40.68MHz程度の高周波電界を印加するための高周波電源53が接続されている。
誘電加熱装置50は、
図4に示すように、第一被着体110、及び第二被着体120の間に挟持した高周波誘電加熱用接着剤1Aを介して、誘電加熱処理する。さらに、誘電加熱装置50は、誘電加熱処理に加えて、第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52による加圧処理によって、第一被着体110、及び第二被着体120を接着する。なお、加圧処理を行わずに、例えば、高周波誘電加熱用接着剤及び被着体の自重のみによる押圧により2つ以上の被着体を接着してもよい。
【0125】
第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52の間に、高周波電界を印加すると、高周波誘電加熱用接着剤1Aが、高周波エネルギーを吸収する。これによって、高周波誘電加熱用接着剤1A中の熱可塑性樹脂成分が溶融し、短時間処理であっても、第一被着体110、及び第二被着体120を強固に接着できる。
【0126】
第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52の間に、高周波電界を印加すると、高周波誘電加熱用接着剤1Aにおける接着剤成分中に分散された
図1に示す誘電フィラー15が、高周波エネルギーを吸収する。
そして、誘電フィラーは、発熱源として機能し、誘電フィラーの発熱によって、熱可塑性樹脂成分を溶融させ、短時間処理であっても、最終的には、第一被着体110と第二被着体120とを強固に接着できる。
【0127】
誘電加熱装置50の電極(第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52)は、プレス機構を有することから、誘電加熱装置50は、プレス装置としても機能する。そのため、第一高周波電界印加電極51及び第二高周波電界印加電極52による圧縮方向への加圧、並びに高周波誘電加熱用接着剤1Aの加熱溶融によって、第一被着体110、及び第二被着体120をより強固に接着できる。なお、構造体の製造方法の説明において
図4に示す構造体100を製造する場合を例に挙げて説明しているが、本発明は、この例に限定されない。
【0128】
<高周波誘電加熱条件>
高周波誘電加熱条件は、適宜変更できるが、以下の条件であることが好ましい。
【0129】
高周波電界の出力は、10W以上であることが好ましく、30W以上であることがより好ましく、50W以上であることがさらに好ましく、80W以上であることがよりさらに好ましい。
高周波電界の出力は、50000W以下であることが好ましく、20000W以下であることがより好ましく、15000W以下であることがさらに好ましく、10000W以下であることがよりさらに好ましく、1000W以下であることがさらになお好ましい。
高周波電界の出力が10W以上であれば、誘電加熱処理時に温度が上昇し難いという不具合を防止できるので、良好な接着強度を得やすい。
高周波電界の出力が50000W以下であれば、誘電加熱処理による温度制御が困難となる不具合を防ぎ易い。高周波出力は、物体に伝えるエネルギーの大きさを示す。
【0130】
高周波電界の印加時間は、1秒以上であることが好ましい。
高周波電界の印加時間は、300秒以下であることが好ましく、240秒以下であることがより好ましく、180秒以下であることがさらに好ましく、120秒以下であることがよりさらに好ましく、90秒以下であることがよりさらに好ましく、50秒以下であることがよりさらに好ましく、20秒以下であることがなお好ましく、10秒以下であることが特に好ましく、6秒以下であることが非常に好ましい。
高周波電界の印加時間が1秒以上であれば、誘電加熱処理時に温度が上昇し難いという不具合を防止できるので、良好な接着力を得やすい。
高周波電界の印加時間が300秒以下であれば、構造体の製造効率が低下したり、製造コストが高くなったり、さらには、被着体が熱劣化するといった不具合を防ぎ易い。
【0131】
印加する高周波電界の周波数は、1MHz以上であることが好ましく、3MHz以上であることがより好ましく、5MHz以上であることがさらに好ましく、10MHz以上であることがよりさらに好ましい。
印加する高周波電界の周波数は、300MHz以下であることが好ましく、100MHz以下であることがより好ましく、80MHz以下であることがさらに好ましく、50MHz以下であることがよりさらに好ましい。具体的には、国際電気通信連合により割り当てられた工業用周波数帯13.56MHz、27.12MHz、又は40.68MHzが、本実施形態の高周波誘電加熱による製造方法及び接着方法にも利用される。印加する高周波電界の周波数は、エネルギーの伝え方(速度)を示す。
【0132】
加圧処理しながら、高周波電界を印加する場合、高周波を印加するときの押し付け圧力は、高周波誘電加熱用接着剤に負荷される圧力の初期設定値として、1kPa以上であることが好ましく、5kPa以上であることがより好ましく、10kPa以上であることがさらに好ましく、30kPa以上であることがよりさらに好ましく、50kPa以上であることがさらになお好ましい。
加圧処理しながら、高周波電界を印加する場合、高周波を印加するときの押し付け圧力は、高周波誘電加熱用接着剤に負荷される圧力の初期設定値として、10MPa以下であることが好ましく、5MPa以下であることがより好ましく、1MPa以下であることがさらに好ましく、750kPa以下であることがよりさらに好ましい。
ここで、高周波誘電加熱用接着剤に負荷される圧力の初期設定値の基準となる面積は、電極、及び被着体を平面視したときの面積のうち、最も小さい面積である。
【0133】
[実施形態の変形]
本発明は、前記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良等を含むことができる。
【0134】
高周波誘電加熱処理は、前記実施形態で説明した電極を対向配置させた誘電加熱装置に限定されず、格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いてもよい。格子電極タイプの高周波誘電加熱装置は、一定間隔ごとに第一極性の電極と、第一極性の電極とは反対極性の第二極性の電極とを同一平面上に交互に配列した格子電極を有する。なお、図においては、簡略化のために電極を対向配置させた誘電加熱装置を用いた態様を例示した。
【実施例0135】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0136】
[高周波誘電加熱用接着剤の作製]
<実施例1~3、及び比較例1~7>
高周波誘電加熱用接着剤(接着シート)を作製するための材料として、熱可塑性樹脂(A)と、誘電フィラー(B)とを、体積基準で、表1に示す割合となるように、それぞれ秤量した。
【0137】
次いで、熱可塑性樹脂(A)と、誘電フィラー(B)とを予備混合した。熱可塑性樹脂(A)と誘電フィラー(B)とを予備混合した材料を30mmφ二軸押出機のホッパーに供給し、シリンダー及びダイスを所定の温度に加熱し、予備混合した材料を溶融混練した。溶融混練した材料を冷却した後に、当該材料をカットすることにより、粒状のペレットを作製した。次いで、作製した粒状のペレットを、Tダイを設置した単軸押出機のホッパーに投入し、シリンダー及びダイスを所定の温度に加熱し、Tダイから、フィルム状溶融混練物を押出し、冷却ロールにて冷却させることにより、実施例1~3及び比較例1~7に係る厚さ400μmのシート状の高周波誘電加熱用接着剤(高周波誘電加熱用接着シート)のそれぞれを作製した。
【0138】
表1に示す熱可塑性樹脂(A)、及び誘電フィラー(B)の説明は、以下のとおりである。
【0139】
(A1)r-PP:ポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製、製品名「プライムポリプロF-744NP」、密度0.90g/cm3)
(A2)MAH-PP:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学株式会社製、製品名「アドマーQE060」、密度0.90g/cm3)
【0140】
(誘電フィラー(B))
(B1)ZnO:板状集積型球状酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、製品名「CANDY ZINC 1000」、体積平均粒子径1μm、密度5.61g/cm3)
(B2)ZnO:不定形酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、製品名「LP-ZINC11」、体積平均粒子径11μm、密度5.61g/cm3)
(B3)ZnO:六角板状酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、製品名「XZ-3000FLP」、体積平均粒子径3μm、密度5.61g/cm3)
【0141】
(誘電フィラーの体積平均粒子径)
レーザー回折式粒子サイズ分析装置(Malvern Panalytical社製 Mastersizer 3000)を用いて、JIS Z 8825:2022に準じて誘電フィラーの粒度分布を測定した。粒度分布測定の結果からJIS Z 8819-2:2019に準じて体積平均粒子径を算出した。算出したZnOの体積平均粒子径は、それぞれ上記のとおりであった。
【0142】
[高周波誘電加熱用接着剤の物性評価]
<円形度>
作製した高周波誘電加熱用接着剤を厚さ方向に切断し、切断した接着シートの切断面をSEM(Carl Zeiss社製 Crossbeam 550)により、倍率10000倍にてSEM画像を得た。
図5に、実施例1で作製した接着シートにおける切断面のSEM画像を示す。相対的に白色に見える領域が、誘電フィラーに相当する。
【0143】
次に、得られたSEM画像に対し、プログラミング言語Pythonを用いて、所定の画素値を二値化閾値として二値化処理し、白および黒の二値に二分した二値化処理画像を得た。さらに、二値化処理のときに得られたBlobを誘電フィラーの粒子として検出した。
【0144】
検出した誘電フィラーの粒子のうち、円相当径0.088μm以上の誘電フィラーの粒子を測定対象とした。これらの誘電フィラーの粒子について、誘電フィラーの各粒子の面積に当たるピクセル数をカウントして、カウントしたピクセル数の合計を面積「S」とし、誘電フィラーの各粒子の輪郭に当たる部分、すなわち誘電フィラーの各粒子を取り囲む部分のピクセル数をカウントして、カウントしたピクセル数の合計から算出されるピクセル数を周囲長「L1」とした。これら誘電フィラーの各粒子における面積S、及び誘電フィラーの各粒子における周囲長L1から、下記数式(数1)により、円形度を算出した。円形度は、測定した粒子の平均値として求めた。
円形度=4πS/(L1)2 ・・・(数1)
【0145】
<周囲長包絡度>
円形度の測定と同様にして、SEM画像を取得して、SEM画像の二値化処理を行い、二値化処理のときに得られたBlobを誘電フィラーの粒子として検出した。検出した誘電フィラーの粒子のうち、円相当径0.088μm以上の誘電フィラーの粒子を測定対象とした。これらの誘電フィラーの粒子について、検出した誘電フィラーの各粒子の輪郭に当たる部分のピクセル数をカウントして、カウントしたピクセル数の合計から算出されるピクセル数を周囲長「L1」とした。Pythonのライブラリ「OpenCV」内のcv2. convexHull()関数により、凸包の包絡周囲長「L2」を計算した。これら誘電フィラーの各粒子における周囲長L1、及び誘電フィラーの各粒子における包絡周囲長L2から、下記数式(数2)により、周囲長包絡度を算出した。周囲長包絡度は、測定した粒子の平均値として求めた。
周囲長包絡度=L2/L1 ・・・(数2)
【0146】
<透過率比>
紫外線可視近赤外分光光度計(株式会社島津製作所製、型式「UV-3600」)を用いて、300nmから2000nmまでの波長域における接着シートの透過率スペクトルを測定した。得られた透過率スペクトルから、500nmにおける透過率T1(単位:%)、及び1000nmにおける透過率T2(単位:%)を抽出した。これら透過率T1及び透過率T2から、下記数式(数3)により、透過率比を算出した。
透過率比=T1/T2 ・・・(数3)
【0147】
<可視光域における隠蔽性の評価>
被着体として、ガラス板を用い、後述する接着性評価と同じ高周波電界印加条件で、各実施例および各比較例で作製した高周波誘電加熱用接着剤を、ガラス板に接着させ、可視光域における隠蔽性の評価用サンプルを作製した。次いで、近赤外光光源を備えたテレビ用リモコンを用い、当該テレビ用リモコンにおける近赤外光光源側の面と、評価用サンプルにおける高周波誘電加熱用接着剤側の面とが向き合うように配置した。また、近赤外光光源と評価用サンプルとの距離、および評価用サンプルと試験者の目との距離が、それぞれ1cmとなるように配置した。以下の評価基準に基づいて可視光域における隠蔽性を評価した。なお、後述する接着性評価において、引張せん断力が0MPaであった各比較例は、当該比較例の高周波誘電加熱用接着剤がガラス板から自重で落下しない程度には付着していた。この状態で、可視光域における隠蔽性の評価、及び近赤外光の検出性能の評価を行った。
【0148】
(評価基準)
A:テレビ用リモコンの輪郭を視認不能であった。
F:テレビ用リモコンの輪郭を視認可能であった。
【0149】
<近赤外光の検出性能の評価>
可視光域における隠蔽性の評価において、評価用サンプルの配置を変更することなく、試験者の目に代えて、デジタルカメラ搭載型携帯電話のカメラのレンズを配置した。デジタルカメラ搭載型携帯電話のカメラ機能を起動させた状態で、テレビ用リモコンの任意のボタンを押して近赤外光光源を発光させた。そして、近赤外光光源から発せられる近赤外光を、デジタルカメラ搭載型携帯電話におけるカメラによって受像の可否について、デジタルカメラ搭載型携帯電話の表示画面にて確認した。以下の評価基準にて、近赤外光の検出性能を評価した。
【0150】
(評価基準)
A:近赤外光の明瞭な像を確認できた。
F:近赤外光の明瞭な像を確認できなかった。
【0151】
<誘電特性>
作製した高周波誘電加熱用接着剤を、長さ30mm、幅30mmの大きさに切断した。切断した高周波誘電加熱用接着シートについて、RFインピーダンスマテリアルアナライザE4991A(Agilent社製)に、誘電材料テスト・フィクスチャー 16453A(Agilent社製)を取り付け、平行板法にて、23℃における周波数40.68MHzの条件下、比誘電率(ε’r)及び誘電正接(tanδ)をそれぞれ測定した。測定結果に基づき、誘電特性(tanδ/ε’r)の値を算出した。
【0152】
[高周波誘電加熱用接着剤の接着性評価]
<接着性評価>
作製した高周波誘電加熱用接着剤(接着シート)を、長さ25mm、幅12.5mmの寸法に切断した。被着体としてガラス繊維強化ポリプロピレン樹脂板(長さ25mm、幅100mm、厚さ1.5mm)を2枚準備した。前述の切断した接着シートを、2枚の被着体の間に配置して積層した。
前述のように積層した被着体及び接着シートを、高周波誘電加熱装置(山本ビニター株式会社製、製品名「YRP-400T-A」)の2つの電極の間に固定した。続いて、固定した状態で、下記の高周波電界印加条件で電界を印加し、接着シートと被着体とを接着させて、接着性評価用の試験片を作製した。電界印加時の押し付け圧力は、接着シートに掛かる圧力の初期設定値である。
【0153】
(高周波電界印加条件)
周波数 :40.68MHz
出力 :200W
印加時間 :5秒
押し付け圧力:0.5MPa
【0154】
得られた試験片について、万能引張試験機(インストロン社製、インストロン5581)を用い、接着強度としての引張せん断力(単位:MPa)を測定した。引張せん断力の測定はJIS K 6850:1999に準拠し、引張速度を100mm/分とした。
【0155】
【0156】
【0157】
実施例1~実施例3の接着シートは、比較例1~比較例7の接着シートに比べ、いずれも短時間で強固な接着強度が得られていた。以上の結果から、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、従来の高周波誘電加熱用接着剤に比べ、より短時間で被着体と強固に接着できることがわかる。
【0158】
また、実施例1~実施例3の接着シートは、比較例1~比較例7の接着シートに比べ、透過率比(T1/T2)がいずれも優れていた。以上の結果から、本実施形態に係る高周波誘電加熱用接着剤は、従来の高周波誘電加熱用接着剤に比べ、赤外領域の光線透過性を確保しつつ、隠蔽性に優れることがわかる。
10,20…接着層、11…第一表面、13…熱可塑性樹脂、15、15A…誘電フィラー、21…第二表面、30…基材、40…中間層、100…構造体、1A、1B、1C…高周波誘電加熱用接着剤、50…誘電加熱装置、51…電極(第一高周波電界印加電極)、52…電極(第二高周波電界印加電極)、53…高周波電源、110…被着体(第一被着体)、120…被着体(第二被着体)。