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特開2024-132263片面放射アンテナおよび片面放射アンテナの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132263
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】片面放射アンテナおよび片面放射アンテナの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/08 20060101AFI20240920BHJP
   H01Q 13/10 20060101ALI20240920BHJP
   H01Q 5/364 20150101ALI20240920BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q13/10
H01Q5/364
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042976
(22)【出願日】2023-03-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】394013312
【氏名又は名称】株式会社九州テン
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】金谷 晴一
(72)【発明者】
【氏名】石川 晶
(72)【発明者】
【氏名】深川 秀午
(72)【発明者】
【氏名】烏山 蓮
【テーマコード(参考)】
5J045
【Fターム(参考)】
5J045AA02
5J045DA03
5J045DA10
(57)【要約】
【課題】広帯域化を実現し得る片面放射アンテナであり、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波、およびテラヘルツ波などの無線通信システムにおいて、より効果的に利用可能な片面放射アンテナを提供する。
【解決手段】片面放射アンテナ1は、略平面状の誘電体21に表層メタル11が積層された片面放射アンテナ1であり、表層メタル11により形成されたスロットアンテナ31と、複数の表層メタル11が配列されることにより構成されたメタサーフェス32と、を有する。また、片面放射アンテナ1は、スロットアンテナ31へ給電する給電部30と、誘電体21の表層メタル11が積層された面とは反対の面に設けられる裏面メタル12と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平面状の誘電体に表層メタルが積層された片面放射アンテナであり、
前記表層メタルにより形成されたスロットアンテナと、
複数の前記表層メタルが配列されることにより構成されたメタサーフェスと、
を有する片面放射アンテナ。
【請求項2】
前記スロットアンテナへ給電する給電部と、
前記誘電体の前記表層メタルが積層された面とは反対の面に設けられる裏面メタルと、
を有する請求項1に記載の片面放射アンテナ。
【請求項3】
前記裏面メタルが、略中央に設けられた配線部分であり、前記スロットアンテナおよび前記メタサーフェスに渡って設けられた配線部分と、前記配線部分と略直角に交わるスリット部分と、
を有する請求項2に記載の片面放射アンテナ。
【請求項4】
略平面状の誘電体に表層メタルを積層する工程と、
前記表層メタルによりスロットアンテナを形成する工程と、
複数の前記表層メタルを配列させることによりメタサーフェスを構成する工程と、
を有する片面放射アンテナの製造方法。
【請求項5】
前記誘電体の前記表層メタルが積層された面とは反対の面に裏面メタルを設ける工程と、
前記裏面メタルの略中央に、前記スロットアンテナおよび前記メタサーフェスに渡る配線部分を設ける工程と、
前記メタサーフェスの反射係数が一定値以下となるように、前記配線部分と略直角に交わるスリット部分を設ける工程と、
を有する請求項4に記載の片面放射アンテナの製造方法。
【請求項6】
前記スロットアンテナが示す周波数と、前記メタサーフェスが示す周波数とで特定される周波数帯における反射係数が一定値以下となるように、前記スリット部分を設ける工程
を有する請求項5に記載の片面放射アンテナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片面放射アンテナおよび片面放射アンテナの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、無線通信用アンテナに関する技術において、アンテナの広帯域化が求められている。特に、昨今、第5世代移動通信システム(5G)の技術的条件として28GHz帯(27.0GHz~29.5GHz)を5G用周波数帯の一つとして使用することが策定されたため、準ミリ波(20GHz~30GHz)付近におけるアンテナの広帯域化が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、テラヘルツ波での広帯域化を実現することを目的としたアンテナ素子およびアレイアンテナに関する発明が記載されている。具体的には、特許文献1に記載の広帯域スロットアレイアンテナは、中心周波数の異なる広帯域スロットアンテナ素子10aを4素子、アンテナ素子10bを8素子用いて、アンテナ素子同士の結合を考慮した組み合わせにより2-4-4-2列に配置した構成よりなるものである(特許文献1の図3)。
【0004】
また、特許文献2には、遮断用導体面を電気的に絶縁された導体面とし、その上部に、誘電体層と、放射用導体面に、アンテナパターンを配し、その前方に半波長の導体を設けた構造を特徴とし、さらに遮断用導体面の下部に誘電体層および電気的に接地された導体面を有していることを特徴とする片面放射アンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-198349号公報
【特許文献2】特開2010-074344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の広帯域スロットアレイアンテナは、マイクロ波、ミリ波、およびテラヘルツ波などの無線通信システムにおいて利用されるものであるが、アレイアンテナは複数のアンテナ素子を規則的に配列するものであるため、設計の自由が制限されるおそれがある。また、アレイアンテナの帯域は、アレイを構成するアンテナ素子によってほぼ決定されてしまう。
【0007】
一方、特許文献2に記載の片面放射アンテナは、斯かる構成により誘電体厚を薄くすることができるため、従来よりも薄型で効果的に利用可能な片面放射アンテナではあるが(特許文献2の要約、明細書の段落0032等)、広帯域なアンテナであるとは言えない(特許文献2の図9)。
【0008】
よって、本発明は、広帯域化を実現し得る片面放射アンテナであり、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波、およびテラヘルツ波などの無線通信システムにおいて、より効果的に利用可能な片面放射アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の片面放射アンテナは、略平面状の誘電体に表層メタルが積層された片面放射アンテナであり、表層メタルにより形成されたスロットアンテナと、複数の表層メタルが配列されることにより構成されたメタサーフェスと、を有する。
【0010】
これにより、誘電体に表層メタルが積層された面(放射用導体面)に、スロットアンテナと、メタサーフェスを用いたアンテナ部分とが構成され、これらのアンテナ部分はそれぞれ異なる周波数で動作する。
【0011】
また、片面放射アンテナは、スロットアンテナへ給電する給電部と、誘電体の表層メタルが積層された面とは反対の面に設けられる裏面メタルと、を有する構成であることが好ましい。
【0012】
これにより、スロットアンテナへ部分には給電部により直接的に給電が行われ、メタサーフェスを用いたアンテナ部分には、給電部から裏面メタルおよび誘電体を介して間接的に給電が行われる。
【0013】
さらに、片面放射アンテナは、裏面メタルが、略中央に設けられた配線部分であり、スロットアンテナおよびメタサーフェスに渡って設けられた配線部分と、配線部分と略直角に交わるスリット部分と、を有する構成であることが好ましい。
【0014】
これにより、メタサーフェスを用いたアンテナ部分への給電用として用いられる裏面メタルは、インピーダンス整合用の配線部分およびスリット部分として、スロットアンテナおよびメタサーフェスに渡って設けられる。
【0015】
一方、本発明の片面放射アンテナの製造方法は、略平面状の誘電体に表層メタルを積層する工程と、表層メタルによりスロットアンテナを形成する工程と、複数の表層メタルを配列させることによりメタサーフェスを構成する工程と、を有する。
【0016】
また、誘電体の前記表層メタルが積層された面とは反対の面に裏面メタルを設ける工程と、裏面メタルの略中央に、スロットアンテナおよびメタサーフェスに渡る配線部分を設ける工程と、メタサーフェスの反射係数が一定値以下となるように、配線部分と略直角に交わるスリット部分を設ける工程と、を有することが好ましい。
【0017】
さらに、スロットアンテナが示す周波数と、メタサーフェスが示す周波数とで特定される周波数帯における反射係数が一定値以下となるように、スリット部分を設ける工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の片面放射アンテナは、斯かる構成により、誘電体に表層メタルが積層された面に、スロットアンテナと、メタサーフェスを用いたアンテナ部分とが構成され、これらのアンテナ部分はそれぞれ異なる周波数で動作するため、片面放射アンテナを、任意の2つの周波数で共振させる2周波共振のアンテナとして動作させることができる。つまり、任意の異なる周波数で、スロットアンテナとメタサーフェスを用いたアンテナ部分を共振させることにより、利得の広帯域化を実現することができる。
【0019】
また、片面放射アンテナは、スロットアンテナへ給電する給電部と、誘電体の表層メタルが積層された面とは反対の面に設けられる裏面メタルと、を有する構成であることにより、スロットアンテナ部分には給電部により直接的に給電が行われ、メタサーフェスを用いたアンテナ部分には、給電部から裏面メタルおよび誘電体を介して間接的に給電が行われるため、1つの給電部から給電を行うことができ、複雑な構成とならず、小型化に寄与し得る。
【0020】
さらに、片面放射アンテナは、裏面メタルが、略中央に設けられた配線部分であり、スロットアンテナおよびメタサーフェスに渡って設けられた配線部分と、配線部分と略直角に交わるスリット部分と、を有する構成であることにより、メタサーフェスを用いたアンテナ部分への給電用として用いられる裏面メタルは、インピーダンス整合用の配線部分およびスリット部分として、スロットアンテナおよびメタサーフェスに渡って設けられるため、配線部分およびスリット部分を設ける位置、数や大きさなどを調整することにより、アンテナ部分のインピーダンスを整合させ、前記2つの周波数間で一定値以上の利得を持たせることができる。
【0021】
なお、本発明の片面放射アンテナの製造方法によれば、本発明の片面放射アンテナと同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの概略構成図であり、(A)は片面放射アンテナの断面イメージ図、(B)は第1層の概略構成図、(C)は第2層の概略構成図である。
図2図1(B)の一部拡大図であり、(A)はスロットアンテナの拡大図、(B)はメタサーフェスの拡大図である。
図3】本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの概略斜視図である。
図4】本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの製造方法を説明するための図である。
図5】本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの電界分布を示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの反射係数および利得のシミュレーション結果を示す図である。
図7】本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの放射指向性を示す図である。
図8】従来の片面放射アンテナの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0024】
[片面放射アンテナ]
(第1層)
図1は、本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの概略構成図であり、(A)は片面放射アンテナの断面イメージ図、(B)は1層目の概略構成図、(C)は2層目の概略構成図である。
本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナ1は、図1(A)~(C)に示すように、略平面状の誘電体21に表層メタル11が積層されている。また、誘電体21の表層メタル11が積層された面とは反対の面には、裏面メタル12が設けられている。さらに、裏面メタル12の誘電体21が積層された面とは反対の面には、誘電体22が設けられている。
【0025】
つまり、片面放射アンテナ1は、誘電体22、裏面メタル12、誘電体21、表層メタル11の順で積層されている。なお、本説明において便宜上、表層メタル11および誘電体21を含む層を第1層L1、裏面メタル12および誘電体22を含む層を第2層L2と言う。
【0026】
第1層L1は、図1(B)に示すように、表層メタル11により形成されたスロットアンテナ31と、複数の表層メタル11が配列されることにより構成されたメタサーフェスを用いたアンテナ部分32(以下、単に「メタサーフェス32」と言う)と、を有する。
具体的には、メタサーフェス32は、任意の形状(本実の施形態においては正方形であるが、円形状や三角形状であってもよい)に形成された放射板である複数の表層メタル11(パッチ)が、誘電体21の片面に貼り付けられることで構成されている。
【0027】
そして、片面放射アンテナ1は、このスロットアンテナ31と、メタサーフェス32とが、それぞれ異なる周波数で動作する。そのため、片面放射アンテナ1は、任意の2つの周波数で共振させる2周波共振のアンテナとして動作させることができる。
【0028】
図2は、図1(B)の一部拡大図であり、(A)はスロットアンテナの拡大図、(B)はメタサーフェスの拡大図である。
本実施の形態におけるスロットアンテナ31は、図2(A)に示すように、サイズH1が0.45波長程度(スロットアンテナ31の波長λf1を「28GHz」とすると、H1=0.45λf1程度)である。
【0029】
一方、本実施の形態におけるメタサーフェス32は、図2(B)に示すように、正方形に形成された表層メタル11が3×3に配列されている。ここで、真ん中の横一列(3個)のそれぞれの表層メタル11の一辺のサイズH2は、0.19波長程度(サイズH2の表層メタル11の波長λf2を「24GHz」とすると、H2=0.19λf2程度)である。また、上の横一列(3個)および下の横一列(3個)のそれぞれの表層メタル11の一辺のサイズH3は、0.18波長程度(サイズH3の表層メタル11の波長λf3を「26GHz」とすると、H3=0.18λf3程度)である。
このようなサイズH2,H3の設計は、配列された表層メタル11が(本実施の形態の場合、9個の表層メタルが全体で)1つのアンテナとして1/2波長(0.5λ)程度になるように設計される。
【0030】
(給電部)
図3は、本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの概略斜視図である。
図1~3に示すように、片面放射アンテナ1は、給電部30を有する。給電部30は、信号線が挿入されるスルーホール30Aを含み、グランド用のビア30B,30Cが左右に配置されている。
【0031】
図3に示すように、スルーホール30Aに挿入される信号線はアンプ(図示せず)に繋がっており、アンプからスロットアンテナ31へ直接的に給電が行われる。一方、メタサーフェス32には、給電部30から裏面メタル12および誘電体21を介して、アンプから間接的に給電が行われる。
このように、片面放射アンテナ1は、1つの給電部からどちらのアンテナ(スロットアンテナ31、メタサーフェス32)へも給電することができる。
【0032】
(第2層)
一方、第2層L2は、図1(C)に示すように、誘電体22に積層された裏面メタル12により、略中央に配線部分Wが設けられている。第2層L2には第1層L1が積層されるため、配線部分Wは、スロットアンテナ31およびメタサーフェス32に渡って設けられている(図1(B),(C)参照)。
また、第2層L2は、裏面メタル12により、配線部分Wと略直角に交わるスリット部分Sが設けられている。スリット部分Sは、スロットアンテナ31およびメタサーフェス32に渡って設けられている。
【0033】
なお、裏面メタル12は誘電体22に積層されるため、図1(C)に示すように、配線部分Wおよびスリット部分Sが設けられた部分は誘電体22が見えている。
この配線部分Wおよびスリット部分Sは、スロットアンテナ31およびメタサーフェス32のインピーダンスを整合するために設けられるものである。
【0034】
このように、裏面メタル12は、言わばメタルの上にパッチを配置する構成により、アンテナから放射される電波の単方向化を図るためのものであるが、メタサーフェス32への給電用としても用いられる。さらに、配線部分Wおよびスリット部分Sを設ける位置、数や大きさなどを調整することにより、アンテナ(スロットアンテナ31、メタサーフェス32)のインピーダンスを整合させることができる。
【0035】
[片面放射アンテナの製造方法]
図4は、本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの製造方法を説明するための図である。言わば、図4は、本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナのチューニング工程を説明するための図である。
以下、図1~4を用いて、本実施の形態の片面放射アンテナの製造方法を説明する。
【0036】
まず、図4(A)に示すように、誘電体21に積層された表層メタル11により、第1層L1にスロットアンテナ31およびメタサーフェスイン32を形成する。また、誘電体22に積層された裏面メタル12により、配線部分Wおよびメタサーフェス32に渡るスリット部分Sを設ける(図4(A)上の破線枠参照)。
【0037】
ここで、片面放射アンテナ1が図4(A)上に示す構成で、ネットワークアナライザによりSパラメータを取得してみると、反射係数S11が24GHz付近と28GHz付近の2つの周波数付近で下がっていることが分かる(図4(A)下参照)。つまり、片面放射アンテナ1は、任意の2つの周波数(スロットアンテナ31:28GHz付近、メタサーフェス32:24GHz付近)で共振する2周波共振のアンテナとして動作していることが分かる。
【0038】
次に、メタサーフェス32の反射係数が一定値(例えば、アンテナとして有効な-10dB)以下となるようにスリット部分Sを設ける(図4(B)上の破線枠参照)。図4(A)下に示すように、スロットアンテナ31(28GHz付近)の反射係数は-10dB以下まで下がっているが、メタサーフェス32(24GHz付近)の反射係数は-7dB程度までしか下がっていない。そのため、スリット部分Sを設けることで、メタサーフェス32のインピーダンス整合を取っている(図4(B)下参照)。
なお、この場合の片面放射アンテナ1の利得は、24GHz付近~28GHz付近において6dBiを超えており、アンテナとして十分な性能を持っていることが分かる(図4(B)下参照)。
【0039】
最後に、スロットアンテナ31に渡るスリット部分Sを設ける(図4(C)上の破線枠参照)。そうすることで、片面放射アンテナ1は、24GHz付近~28GHz付近における有効な利得(>6dBi)を持ちつつ、24GHz付近~28GHz付近における反射係数を-10dB以下とすることができる(図4(C)下参照)。
【0040】
以上のように、本発明の片面放射アンテナの製造方法によれば、反射係数および利得の帯域幅が広い片面放射アンテナを製造することができる。
なお、本実施の形態において、スロットアンテナ31の波長λf1は28GHz、メタサーフェス32の波長λf2,波長λf3は24GHz,26GHzとしたが、これらアンテナの周波数は適宜設計変更可能である。また、メタサーフェス32の構成(配列)も、3×3に限定されない。
例えば、本実施の形態の片面放射アンテナ1は、要するに異なる周波数でスロットアンテナ31とメタサーフェス32という2つのアンテナを共振させることにより利得の広帯域化を実現しているが、3つ以上の異なるアンテナによるアレイ化にも対応できると思われる。具体的には、本発明の片面放射アンテナに、下記参考文献に示すような8つの直列給電パッチ要素からなるアンテナを採用することもできる。
(参考文献)
https://ja.remcom.com/examples/2018/7/25/em-simulation-of-28-ghz-series-fed-patch-antenna-array-for-5g
【0041】
さらに、本実施の形態の片面放射アンテナ1のメタサーフェス32は、放射板である表層メタル11(パッチ)を用いたが、これに代わって反射板(メタサーフェス反射板)を用いることもできる。
【0042】
前述したように、本実施の形態の片面放射アンテナ1は、24GHz付近~28GHz付近において、+Z方向(図3,7参照)に一定値(6dBi)以上の利得と一定値(-10dB)以下の反射係数を有する。そして、この時の構成における24GHz~28GHzの電界分布は、図5に示すものとなる。
【0043】
具体的には、図5に示すように、24GHzの電界は、メタサーフェス32が位置しているところに生じており、メタサーフェス32が放射部となっていることが分かる。また、26GHzの電界は、メタサーフェス32の下半分が位置しているところに生じていることが分かる。さらに、28GHzの電界は、スロットアンテナ31が位置しているところに生じていることが分かる。
【0044】
このように、本実施の形態の片面放射アンテナ1は、スロットアンテナ31が28GHzの辺りに放射しており、メタサーフェス32が24GHz~26GHzの辺りに放射していることが分かる。
【0045】
また、図6は、本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの反射係数および利得のシミュレーション結果を示す図である。なお、図6には、比較のために従来の片面放射アンテナの反射係数および利得も示している。一方、図7は、本発明の実施の形態に係る片面放射アンテナの放射指向性を示す図である。
【0046】
図8は、従来の片面放射アンテナの概略構成図であり、比較のために用いた従来の片面放射アンテナ構成の一例である。
図8に示すように、従来の片面放射アンテナは、4層(L1~L4、L3はリング状のPAD)で構成されている。そして、1層目(L1)は、11.50cm×7.00cmmの誘電体41に導体42(表層メタル)でアンテナが形成されている。また、2層目(L2)は導体42(裏面メタル)で、4層目(L4)は誘電体41でそれぞれ構成されている。そして、本実施の形態の片面放射アンテナ1と同様に、各層に渡って信号線が挿入されるスルーホールと、2つのグランド用のビアとが配置されている。
【0047】
図6に示すように、従来の片面放射アンテナの反射係数が-10dB以下となっている帯域は、27.6GHz~29.1GHzと帯域幅が1.5GHz程度である。それに対して、本実施の形態の片面放射アンテナ1は、23.8GHz~28。0GHzの4.2GHz程度の帯域幅において、反射係数が-10dB以下となっている。
つまり、反射係数が-10dB以下である従来の片面放射アンテナの比帯域幅(帯域幅/中心周波数×100[%])は5.3%であるのに対し、本実施の形態の片面放射アンテナ1の比帯域幅は、16.2%と3倍以上になっている。
【0048】
また、従来の片面放射アンテナの利得が6dBi以上となっている帯域は、27.2GHz~29.6GHzと帯域幅が2.4GHz程度である。それに対して、本実施の形態の片面放射アンテナ1は、23.6GHz~27.8GHzの4.2GHz程度の帯域幅において、+z方向(図3,7参照)の利得が6dBi以上となっている。
つまり、本実施の形態の片面放射アンテナ1は、従来の片面放射アンテナよりも広い帯域で有効な利得を持っていることが分かる。
なお、本実施の形態の片面放射アンテナ1の23.6GHz~27.8GHzにおける利得は、従来の片面放射アンテナが示す利得と比べてフラットである。
【0049】
さらに、図7に示すように、各周波数(24GHz、26GHz、28GHz)における片面放射アンテナ1は、+z方向に指向性利得を有していることが分かる。
【0050】
以上のことから、本発明の片面放射アンテナ1は、従来の片面放射アンテナよりも広帯域を実現できていることが分かる。
【0051】
なお、本発明の片面放射アンテナおよび片面放射アンテナの製造方法は、半導体デバイスに組み込むことができる他、以下に示すような様々な場面で有効的に活用できるものである。
(1)国内外主要国の5Gサブミリ波を全領域カバーすることができる広帯域アンテナ
(2)5Gサブミリ波帯小型省スペースアレーアンテナ
(3)メタサーフェスアンテナの設計手法(ノウハウを含む)確立による、設計作業効率化
(4)無線チップに搭載されるテラヘルツ波帯アンテナ
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、広帯域化を実現し得る片面放射アンテナであり、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波、およびテラヘルツ波などの無線通信システムにおいて、より効果的に利用可能な片面放射アンテナとして用いることができるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 片面放射アンテナ
11 表層メタル
12 裏面メタル
21,22 誘電体
30 給電部
31 スロットアンテナ
32 メタサーフェス(メタサーフェスを用いたアンテナ部分)
41 誘電体
42 導体
W 配線部分
S スリット部分
L1 第1層
L2 第2層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-10-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平面状の誘電体の一面に表層メタルが積層され、前記誘電体の他面に裏面メタルが積層された多層構造の片面放射アンテナであり、
前記誘電体の一面には、
形状が加工された前記表層メタルにより形成されたスロットアンテナと、
パッチ形状に加工された複数の前記表層メタルが配列されることにより構成されたメタサーフェス構造と、
を有する片面放射アンテナ。
【請求項2】
前記スロットアンテナへ給電する給電部を有する請求項1に記載の片面放射アンテナ。
【請求項3】
前記裏面メタルが、略中央に設けられた配線部分であり、前記スロットアンテナおよび前記メタサーフェス構造に渡って設けられた配線部分と、前記配線部分と略直角に交わるスリット部分と、
を有する請求項2に記載の片面放射アンテナ。
【請求項4】
略平面状の誘電体の一面に表層メタルを積層する工程と、
前記誘電体の他面に裏面メタルを設ける工程と、
前記誘電体の一面に、形状が加工された前記表層メタルによりスロットアンテナを形成する工程と、
前記誘電体の一面に、パッチ形状に加工された複数の前記表層メタルを配列させることによりメタサーフェス構造を構成する工程と、
を有する片面放射アンテナの製造方法。
【請求項5】
記裏面メタルの略中央に、前記スロットアンテナおよび前記メタサーフェスに渡る配線部分を設ける工程と、
前記メタサーフェス構造の反射係数が一定値以下となるように、前記配線部分と略直角に交わるスリット部分を設ける工程と、
を有する請求項4に記載の片面放射アンテナの製造方法。
【請求項6】
前記スロットアンテナが示す周波数と、前記メタサーフェス構造が示す周波数とで特定される周波数帯における反射係数が一定値以下となるように、前記スリット部分を設ける工程
を有する請求項5に記載の片面放射アンテナの製造方法。