(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132288
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】シャープペンシル
(51)【国際特許分類】
B43K 21/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B43K21/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043017
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 千洋
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353FA04
2C353FC13
2C353FE02
2C353FE04
2C353FG01
(57)【要約】
【課題】芯ブレーカーに筆記芯が接触する位置とホルダーに筆記芯が接触する位置との間の長さを最適化して、ホルダー内での筆記芯の折損を抑制できる筆記具の提供を課題とする。
【解決手段】軸筒と、軸筒の先端開口部に挿通されるとともに軸筒の先端から前方へ突出したホルダーと筆記芯を保持する芯ブレーカーを備えたシャープペンシルにおいて、軸筒とホルダーの間に運動方向変換手段を備え、芯ブレーカーと筆記芯が接触する位置とホルダーと筆記芯が接触する位置との間の距離が、式x≧a-(πd
3σ)/(16P)を満たすことを特徴とするシャープペンシル。ただし、x:芯ブレーカーと筆記芯が接触する位置とホルダーと筆記芯が接触する位置との間の距離(mm)、a:芯ブレーカーと筆記芯が接触する位置と筆記芯の先端との間の距離(mm)、d:筆記芯の直径(mm)、σ:筆記芯の曲げ強さ(MPa)、P:筆記芯の先端に径方向にかかる荷重(N)
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、前記軸筒の先端開口部に挿通されるとともに前記軸筒の先端から前方へ突出したホルダーと、筆記芯を保持する芯ブレーカーを前記ホルダーの内部に備えたシャープペンシルにおいて、
前記ホルダーは、前記筆記芯を前記ホルダーの先端から前方へ突出するように支持しており、
前記軸筒と前記ホルダーの間に、前記ホルダーに加わる前記軸筒の径方向の力により、前記ホルダーを前記軸筒及び前記筆記芯に対して前進させる運動方向変換手段を備え、
前記芯ブレーカー内面と前記筆記芯が接触する最先端の位置と、前記ホルダー内面と前記筆記芯が接触する最後端の位置との間の距離が、下記式(1)を満たすことを特徴とするシャープペンシル。
(1)x≧a-(πd3σ)/(16P)
ただし、
x:芯ブレーカー内面と筆記芯が接触する最先端の位置と、ホルダー内面と筆記芯が接触する最後端の位置との間の距離(mm)
a:芯ブレーカー内面と筆記芯が接触する最先端の位置と、筆記芯の先端との間の距離(mm)
d:筆記芯の直径(mm)
σ:筆記芯の曲げ強さ(MPa)
P:筆記芯の先端に径方向にかかる荷重(N)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャープペンシルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、筆記芯の径方向に大きな筆圧等が加わったとき、筆記芯が折れてしまうのを防止する構造(筆記芯折損防止構造)を備えたシャープペンシルが知られている。(特許文献1)
この筆記芯折損防止構造は、シャープペンシルの先端に筆記芯を保持するホルダーを備え、筆記芯の軸方向に角度を有して加わる筆圧により、ホルダーが筆記具の軸方向に傾斜すると、ホルダーのカム形状によりホルダーが突出する。この突出するホルダーが筆記芯の繰り出されている部分を被覆して保護することにより、筆記芯が折れるのを防止する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の筆記芯折損防止構造では、ホルダーがコイルバネにより軸筒後方に付勢されており、筆記芯に筆圧が加わると、ホルダーがカム形状によりコイルバネに抗して突出方向に移動するとともに、ホルダーの軸心がシャープペンシルの軸心に対して傾動する。
ホルダーの軸心の傾動により、筆記芯も傾動するから、筆記芯の操出機構の先端で筆記芯を保持する芯ブレーカーの内面に筆記芯が接触する最先端の位置と、ホルダーの内面に筆記芯が接触する最後端の位置との間の筆記芯は、芯ブレーカーより後側の筆記芯に対してしなることになる。
【0005】
また、後端が芯ブレーカーより前側に位置する筆記芯は、芯ブレーカーにより保持されていない残芯となり、保持が安定せず、筆感が悪くなる。このような残芯は、できるだけ短くした方がよい。
しかし、そのために、芯ブレーカーの位置をホルダーの先端に近づけると、芯ブレーカーに保持された筆記芯が、筆圧により、ホルダーとともに傾動すると、しなりが大きくなり、ホルダー内で筆記芯が折れてしまうことがある。
【0006】
そこで、本発明は、芯ブレーカー内面に筆記芯が接触する最先端の位置と、ホルダー内面に筆記芯が接触する最後端の位置との間の長さを最適化して、残芯をできるだけ短くするとともに、ホルダー内での筆記芯の折損を抑制できる筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
軸筒と、前記軸筒の先端開口部に挿通されるとともに前記軸筒の先端から前方へ突出したホルダーと、筆記芯を保持する芯ブレーカーを前記ホルダーの内部に備えたシャープペンシルにおいて、
前記ホルダーは、前記筆記芯を前記ホルダーの先端から前方へ突出するように支持しており、
前記軸筒と前記ホルダーの間に、前記ホルダーに加わる前記軸筒の径方向の力により、前記ホルダーを前記軸筒及び前記筆記芯に対して前進させる運動方向変換手段を備え、
前記芯ブレーカー内面と前記筆記芯が接触する最先端の位置と、前記ホルダー内面と前記筆記芯が接触する最後端の位置との間の距離が、下記式(1)を満たすことを特徴とするシャープペンシル。
(1)x≧a-(πd3σ)/(16P)
ただし、
x:芯ブレーカー内面と筆記芯が接触する最先端の位置と、ホルダー内面と筆記芯が接触する最後端の位置との間の距離(mm)
a:芯ブレーカー内面と筆記芯が接触する最先端の位置と、筆記芯の先端との間の距離(mm)
d:筆記芯の直径(mm)
σ:筆記芯の曲げ強さ(MPa)
P:筆記芯の先端に径方向にかかる荷重(N)
【発明の効果】
【0008】
本発明の筆記具は、芯ブレーカー内面に筆記芯が接触する最先端の位置と、ホルダー内面に筆記芯が接触する最後端の位置との間の長さを最適化して、残芯をできるだけ短くするとともに、ホルダー内での筆記芯の折損を抑制できる筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の縦断面図である。
【
図2】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の一部拡大縦断面図である。
【
図3】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の使用状態での一部拡大縦断面図である。
【
図4】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の使用状態でのさらなる一部拡大縦断面図である。
【
図5】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の残芯を示す図である。
【
図6】式(1)を導出する計算モデルを説明する図である。
【
図7】式(1)を導出する過程を説明する図である。
【
図8】式(1)を導出する過程を説明する図である。
【
図9】式(1)を導出する過程を説明する図である。
【
図10】式(1)に使用する数値を定めたJIS規格を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態]
本発明の筆記具を、実施形態として、シャープペンシルを例に挙げて説明する。
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態のシャープペンシル1を説明する。
以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0011】
[全体構成]
図1は、本実施形態におけるシャープペンシル1の縦断面図であり、
図2は、その一部拡大縦断面図である。なお、
図1及び2では、ホルダー3は初期位置(後述)にある。
シャープペンシル1は、軸筒2、ホルダー3、保持筒4、チャック5、接続部材6、芯タンク7などを有している。
そして、シャープペンシル1の先端から、筆記芯としてのシャープ芯8を繰り出すことにより筆記可能になっている。
シャープ芯8は、長尺円柱状の周知のシャープペンシル用鉛芯である。
以降、軸筒2の長軸方向を、単に「軸方向」という。また、軸方向で、シャープ芯8が出没する側を前又は先、その反対側を後という。
【0012】
[軸筒]
軸筒2は、前側軸筒21と後側軸筒22の2つの部材に分けられている。前側軸筒21と後側軸筒22は、シャープペンシル1の軸方向中央部付近で、ネジにより着脱自在に結合されている。
前側軸筒21は、先端に先端開口部211を、後側に後側軸筒22との結合部である雌ネジを有する。先端開口部211からは、後述するホルダー3が突出している。
先端開口部211は、その後側の部分よりも前側軸筒21の内周面を縮径した縮径部として構成されており、この縮径部とその後側との段差部で、ホルダー付勢部材3aの前端を受けている。
また、先端開口部211は、軸心と略平行な略円筒状の孔の内周面であり、その前端縁の部分には、ホルダー3のカム斜面311と摺接する摺接部2111を有する。
【0013】
後側軸筒22は、後側に後端開口部221を、中央に前側軸筒21との結合部である雄ネジを有する。後端開口部221からは、後述するノックキャップ71が突出している。前側は、前側軸筒21の中に挿入され、先端は先細り形状になっていて、後述する保持筒4が取り付けられている。
なお、軸筒2は、1つの筒で形成されたもの、先端側に別体の先口を設けたもの、3つ以上の部材に分けたものなどでもよい。また、複数の部材を分離結合する手段としては、ネジのほか、他の任意の係合手段、嵌合手段などを採用してもよい。
【0014】
[筆記芯操出機構]
筆記芯操出機構は、保持筒4、チャック5、接続部材6、芯タンク7を有する。
芯タンク7の先端に接続部材6が取り付けられ、接続部材6の先端にチャック5が取り付けられている。芯タンク7は、芯タンク付勢部材7aにより、後側に付勢されている。
芯タンク7の後端部に取り付けられたノックキャップ71を後端部から押圧すると、芯タンク付勢部材7aの付勢力に抗して、芯タンク7、接続部材6、チャック5が前進して、保持筒4に保持されたシャープ芯8を前方へ繰り出すことができる。
【0015】
[保持筒]
保持筒4は、後側軸筒22の先端に取り付けられて、チャック5から繰り出されたシャープ芯8を保持するための部材である。
保持筒4は、先端側で、内部に芯ブレーカー4aが取り付けられた芯保持部41と、芯保持部41の後側で、芯保持部41より外周、内周とも拡径しており、外周面が、ホルダー3の進退時にホルダー3の後端部314(
図4(a)参照)と摺接するホルダーガイド部42と、ホルダーガイド部42の後側で、ホルダーガイド部42より外周、内周とも拡径しており、内周面に雌ネジが形成され、後側軸筒22の先端に取り付けられる取付部43とを有する。
後側軸筒22の先端の外径は、その後側より縮径しており、その縮径部の外周に雄ネジが形成されている。保持筒4の取付部43は、後側軸筒22の先端に嵌合して、ネジ止めされている。
芯ブレーカー4aは、合成ゴムやエラストマー樹脂等の弾性体からなる円筒状部材であり、芯保持部41に進退不能に挿入され、内部に挿通されるシャープ芯8を弾性的に把持する。
【0016】
[チャック]
チャック5は、芯タンク7とともに、ノックにより進退動作されて、シャープ芯8を繰り出す部材である。
チャック5は、弾性的に撓むことが可能な合成樹脂材料又は金属材料から形成され、シャープ芯8の周囲に位置するように同芯状に配置された複数(例えば2~4個程度)の爪部51を備え、爪部51を軸筒径内方向へ撓ませることでシャープ芯8を後退不能に挟持し、爪部51を弾性的に復元することでシャープ芯8を解放する。
チャック5は、爪部51を含む前側部分が、保持筒4内に挿入されている。爪部51の前端側は、その外径部分が後側部分よりも拡径した拡径部になっている。
【0017】
[クラッチリング]
クラッチリング5aは、前側が開口したカップ状の部材であり、底面にはチャック5及びチャック5で保持されたシャープ芯8を挿通することができる挿通孔が形成されている。クラッチリング5aは、後側軸筒22の先端と、保持筒4のホルダーガイド部42と取付部43の間の内周の段差部との間に配置されている。
クラッチリング5aは、チャック5の複数の爪部51の前端側の拡径部に対し後方側から嵌合して、チャック5の複数の爪部51を閉じた状態に保持し、チャック5が前進した際に、チャック5とともに前進した後、ホルダーガイド部42と取付部43の間の内周の段差部に当接して、チャック5の複数の爪部51から後方へ外れて、チャック5の複数の爪部51を開放する。
【0018】
[接続部材]
接続部材6は、チャック5と芯タンク7を接続して、ノックされて進退する芯タンク7の移動をチャック5に伝える部材である。
接続部材6は、前側の第1接続部材61と後側の第2接続部材62からなる。
第1接続部材61の先端には、チャック5の後端が取り付けられている。
第2接続部材62の先端部には第1接続部材61を収納する孔部が形成されており、孔部内に収納した第1接続部材61の後端が、孔部内に取り付けられている。
第2接続部材62の後部は、前部より外径が縮径しており、芯タンク7の先端部に挿入され、取り付けられている。
【0019】
[芯タンク]
芯タンク7は、複数のシャープ芯8を収納可能な長尺円筒状に形成され、その後端部を、後側軸筒22の後端開口部221の近くに配置している。この芯タンク7は、弾性的にしなることが可能なように合成樹脂材料で成形されている。
芯タンク7の後端には、芯タンク7の後端開口をふさぐ消しゴム72と、消しゴム72を後方から覆うノックキャップ71とが、それぞれ着脱可能に接続されている。ノックキャップ71の後端側は、ノック操作が可能なように後側軸筒22の後端開口部221から後方へ突出している。
【0020】
[操出動作]
チャック5と第1接続部材61の取付、第1接続部材61と第2接続部材62の取付、第2接続部材62と芯タンク7の取付は、いずれも、軸方向に固定されていて、チャック5、第1接続部材61、第2接続部材62及び芯タンク7は、軸方向に一体的に進退移動する。
ノックキャップ71をノック操作すると、芯タンク7が前進するとともに、芯タンク7と一体的に進退移動するチャック5がシャープ芯8を挟持して前進し、その前進の途中でクラッチリング5aがホルダーガイド部42と取付部43の間の内周の段差部に当接して、チャック5から後方に外れ、爪部51が軸筒径外方向へ開放され、シャープ芯8を解放する。そして、芯タンク7が後退すると、チャック5も後退し、所定長さ後退すると、クラッチリング5aに挿入されることで閉じられ、シャープ芯8を再度挟持する。これらの動作が、ノック操作により繰り返されて、シャープ芯8は前進し、ホルダー3の前端から突出する。
【0021】
[筆記芯折損防止構造]
図3は、本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の使用状態での一部拡大縦断面図であり、(a)は、ホルダー3の初期位置での図、(b)は、ホルダー3の前進位置での図である。
図4は、
図3をさらに拡大した一部拡大縦断面図である。
筆記芯折損防止構造は、前側軸筒21の先端開口部211、ホルダー3、ホルダー付勢部材3a、保持筒4のホルダーガイド部42で構成されている。
ホルダー3は、シャープ芯8をホルダー3の先端から前方へ突出するように支持する部材であり、前側のホルダー本体31と、ホルダー本体31の後部に取り付けられたバネ受け部32を有する。
ホルダー本体31は、軸筒2及びシャープ芯8に対して前進した前進位置と、その前進前の初期位置との間で進退するように、ホルダー本体31のカム斜面311を介して、前側軸筒21の先端開口部211の摺接部2111に進退可能に先端側から係合している。
【0022】
そして、ホルダー3は、初期位置(
図3(a)、
図4(a))では、環状のカム斜面311を先端開口部211の摺接部2111に全周にわたって接触させることで、先端開口部211に対し軸筒径方向へ移動不能に嵌り合っている。また、ホルダー3は、カム斜面311よりも後側の部分の外形を先端開口部211内径よりも小さくしているため、前進位置(
図3(b)、
図4(b))では、先端開口部211に対し軸筒径方向へ移動可能な遊びを有する状態で嵌り合っている。
また、ホルダー付勢部材3aはコイルバネであり、ホルダー3が初期位置にあるとき、自然長から圧縮された状態で配置されており、ホルダー3は、前側軸筒21内のホルダー付勢部材3aによって軸筒後方へ付勢されているから、初期位置では、カム斜面311が摺接部2111に前側から係合して、ホルダー3が前側軸筒21に固定されている。
【0023】
ホルダー本体31は、先端開口部211を前後方向へ貫通する略円筒状の部材であり、その外周に、先端開口部211の摺接部2111に摺接する環状のカム斜面311を有する。
カム斜面311は、前方へ向かって拡径する円錐面に形成され、摺接部2111に摺接するように配置されて、シャープ芯8を介してホルダー3に加わる軸筒径方向の力によりホルダー3を前側軸筒21及びシャープ芯8に対して前進させる運動方向変換手段として構成されている。
【0024】
ホルダー本体31におけるカム斜面311よりも前側の部分は縮径されるように形成されている。
ホルダー3の内部には、カム斜面311よりも前側でシャープ芯8の外周面に摺接可能な芯摺動孔312と、芯摺動孔312よりも後側で拡径されて、保持筒4の前側部分を収納する収納部313を有する。
芯摺動孔312は、シャープ芯8の外周面に接触又は近接するように、シャープ芯8の外径よりもわずかに大きい内径に形成された孔であり、ホルダー本体31の先端部から後方へ延びて収納部313内に連通している。
【0025】
バネ受け部32は、ホルダー本体31の後端側の外周面に嵌合されている。なお、ホルダー本体31とバネ受け部32との取付構造は、嵌合以外の構造であってもよい。
バネ受け部32は、ホルダー本体31の後端側の外径よりも大きい外径を有するとともに前側軸筒21の内周面に対し隙間を有する筒状の部材であり、その前端側の環状段部を、ホルダー付勢部材3aの後端に当接させている。このバネ受け部32は、前記隙間により、軸心に対し若干傾くことが可能である(
図3(b)参照)。
なお、バネ受け部32としては、ホルダー本体31と一体形成された部位として構成することも可能である。すなわち、例えば、ホルダー本体31の後端側の外周面に突起を設けて、該突起をホルダー付勢部材3aの後端に後方から当接させる構成としてもよい。
【0026】
本実施形態では、運動方向変換手段として、ホルダー3にカム斜面を、軸筒2に摺接部を形成したが、逆に、ホルダー3に摺接部を、軸筒2にカム斜面を形成してもよい。
ホルダー付勢部材3aは、圧縮バネにより、ホルダー3を後側に付勢するものであるが、逆に、引張バネにより、ホルダー3を後側に付勢するものであってもよい。
【0027】
[筆記芯折損防止動作]
軸筒2を傾けて紙面Sに押し付けた通常の筆記状態においては、
図3(a)に示すように、ホルダー本体31から前方へ突出したシャープ芯8に対し、紙面Sから力Fを受ける。この紙面Sから受ける力Fは、筆圧の反力であるといえる。この力Fの分力として、シャープ芯8に交差する方向(換言すれば、軸筒径方向)の力Fxを受ける。この力Fxが所定値を超えると、ホルダー本体31は、ホルダー本体31のカム斜面311を前側軸筒21の先端開口部211(詳細には摺接部2111)に摺接させて軸筒径方向へ傾動しながら、ホルダー付勢部材3aの付勢力に抗して前進する。
図3(b)に示すように、ホルダー本体31が傾動すると、ホルダー本体31の後端部314が、保持筒4のホルダーガイド部42の外周面と当接する。ホルダー本体31は、後端部314をホルダーガイド部42の外周面に摺接させながら、前進する。
このホルダー本体31の前進の際、シャープ芯8は、芯ブレーカー4aから先端側がホルダー本体31とともに傾くようにして軸筒径方向へ移動する。
そして、シャープ芯8の先端側が、前進したホルダー本体31によって覆われて保護され、ホルダー本体31の芯摺動孔312の先端が紙面Sに当接すると、ホルダー本体31の前進が停止する。
そして、筆記者は、ホルダー3が前進したのを視認して、シャープペンシル1の先端を紙面Sから離すと、力Fが解除され、ホルダー3は、ホルダー付勢部材3aの付勢力によって後退し、初期位置に戻る。
【0028】
[芯ブレーカーの配置]
シャープ芯8は、筆記に使用されていくと、短くなっていき、シャープ芯8の後端が芯ブレーカー4aの先端より前側まで移動する。
この状態では、シャープ芯8は、前側がホルダー本体31の芯摺動孔312に保持されるものの、後側が芯ブレーカーにより保持されていない残芯となる(
図5参照)。すると、シャープ芯8の固定が十分でないため、筆感が著しく悪くなり、さらに、筆記者によっては、残芯となったシャープ芯8は、芯摺動孔312から引き抜かれ、廃棄されることもある。
このような残芯はできるだけ短い方がよく、そのためには、芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置と、ホルダー3内面(詳細には、芯摺動孔312)とシャープ芯8が接触する最後端の位置との間の長さを短くした方がよい。
【0029】
一方、シャープ芯8に径方向の力Fxがかかると、筆記芯折損防止構造により、ホルダー3は前進するとともに、傾動する。このホルダー3の傾動により、ホルダー3に保持されたシャープ芯8は、芯ブレーカー4aと芯摺動孔312との間でしなることになる。
シャープ芯8は、芯ブレーカー4aの内面と軸方向の所定の範囲(極々短い範囲も含む)で接触しており、この接触範囲のうちの一番先端の箇所から先端側がしなることになる。
また、シャープ芯8は、ホルダー3の芯摺動孔312の内面と軸方向の所定の範囲(極々短い範囲も含む)で接触しており、この接触範囲のうちの一番後端の箇所から後側がしなることになる。
すなわち、芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置と、ホルダー3内面とシャープ芯8が接触する最後端の位置との間でしなることになる(
図3(b)、
図4(b)参照)。
このシャープ芯8のしなりは、芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置と、ホルダー3内面とシャープ芯8が接触する最後端の位置との間の長さが短いほど、大きくなる。シャープ芯8のしなりが一定以上大きくなると、シャープ芯8は、芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置と、ホルダー3内面とシャープ芯8が接触する最後端の位置との間、すなわち、ホルダー3の内部で折損してしまう。
【0030】
そこで、残芯をできるだけ短くしつつ、筆記芯折損防止構造の作動によっても、シャープ芯8がホルダー3内で折損しないように、芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置と、ホルダー3内面とシャープ芯8が接触する最後端の位置との間の長さを定めればよい。
【0031】
[条件式]
以下、
図6~10を使用して、シャープ芯8がホルダー3内で折損しないための条件式について説明する。シャープ芯8がホルダー3内でしなっている状態では、芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置でシャープ芯8の曲げ応力が最大となるので、この位置でシャープ芯8が折れやすくなる。
そこで、芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置で、シャープ芯8が折れないための条件式を考える。
【0032】
[計算モデル]
図6(a)は、筆記芯折損防止構造を有するシャープペンシルの前端部を示す図であり、
図6(b)は、シャープ芯8がホルダー3内で折損しないための条件式を算出するための計算モデルを示す図である。
芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置は芯ブレーカー4aの先端位置とした。また、ホルダー3内面とシャープ芯8が接触する最後端の位置は、ホルダー3内面とシャープ芯8が芯摺動孔312の先端部分のみで接触する場合を想定して、芯摺動孔312の先端位置とした。
芯ブレーカーの先端位置を点O、芯摺動孔の先端位置を点X、シャープ芯の先端位置を点Aとした。そして、OXの長さをx、OA間の長さをaとした。シャープペンシルは、紙面に対して、60°になるように傾けて保持するものとした。すると、シャープ芯と紙面のなす角は60°になる。
筆圧がかかると、シャープ芯の先端には紙面からの反力が加わる。その反力のうちのシャープ芯の径方向の分力を荷重Pとする。なお、荷重Pは、実施形態における力Fxに相当する。
【0033】
[条件式の算出]
図7~
図10を用いて、芯ブレーカー内面とシャープ芯が接触する最先端の位置で、シャープ芯が折れないための条件式の算出を説明する。
(1)定義
シャープ芯の先端の点Aに荷重Pが加わったときの、点Oにおける反力、曲げモーメント、曲げ応力を、それぞれ、Ro、Mo、σoとする。また、点Xにおける反力、曲げモーメントを、それぞれ、Rx、Mxとする。
(2)全体のFBD
点Oから点Aまでの全体のFree Body Diagram(FBD)を考えると、
図7(2)に示した2つの式が導かれる。
(3)OX間のFBD
OX間のFBDを考えると、
図7(3)に示した2つの式が導かれる。
【0034】
(4)OX間のたわみ角/たわみ
シャープ芯に荷重Pが加わると、ホルダーが作動して、芯摺動孔は、径方向に傾くので、シャープ芯はたわむことになる。
このOX間のたわみ角/たわみを算出すると、たわみ角EI(dy/dx)、たわみEIyについて、
図8(4)に示した式が導出される。これらの式におけるC
1、C
2は、積分定数である。
(5)積分定数C
1、C
2
積分定数C
1、C
2を点Oの境界条件を用いて算出する。点Oでは、x=0、EI(dy/dx)=0、EIy=0であるから、C
1=0、C
2=0となる。
(6)MoとRoの関係式
点Xの境界条件を用いて、MoとRoの関係式を算出する。シャープ芯は、ホルダーの作動によりたわむので、点XでのたわみEIyは0でない数値であるが、この数値は、微小な数値であって、この計算モデルでは無視し得るので、EIy=0とする。
すると、x=x、EIy=0であることから、
図8(6)に示した式が導かれる。
(7)Roの算出
図7(2)の2つの式から、
図8(7)に示した式が導かれる。
(8)Moの算出
図8(6)、
図8(7)の式から、点Oの曲げモーメントが、Mo=(1/2)(x-a)Pであると算出される。
【0035】
(9)点Oの曲げ応力σoの算出
点Oの曲げ応力σoを算出する。このとき、シャープ芯8の断面係数をZ、直径をdとすると、
図9(9)に示した式が導かれる。
(10)xの条件式
点Oの曲げ応力σoがシャープ芯8の曲げ強さσ以下であれば、シャープ芯8は折れないことから、xの下限値が算出される。
図9(10)に示すとおり、xは、a、d、σ、Pで表される式を下限値とすることを示す式(1):x≧a-(πd
3σ)/(16P)が導かれる。なお、a、d、σ、Pの数値は、例えば、以下のように、設定することができる。
aは、JIS:S6013:2020(
図10[※3]参照)で定められた先端荷重試験に使用される芯を出す長さを考慮して、実際のシャープペンシルに要求される性能に合わせて任意に設定する。
曲げ強さσは、JIS:S6005:2019(
図10[※1]参照)で定められた規格の数値を用いる。
dは、JIS:S6005:2019(
図10[※2]参照)で定められたシャープ芯の直径を用いればよく、規格値の範囲のうちの最も小さい数値(短い直径)を使用することが好ましい。
Pは、JIS:S6013:2020(
図10[※3]参照)で定められた先端荷重試験に使用される荷重を考慮して、実際のシャープペンシルに要求される性能に合わせて任意に設定する。(JIS規格値より高い荷重を設定すると、より高い荷重でも折れにくい数値が算出できる。)
(計算例)
0.5mmの2Bのシャープ芯を使用し、a=4.3mmで、芯の径方向に2Nの荷重(上述の力Fxに相当)をかけた(製品を紙面に対し60°傾けて、紙面に垂直に4Nの荷重(上述の力Fに相当)をかけた)ときに、芯が点Oで折れないxの条件は、次のようになる。
d=0.55(mm)、σ=150(MPa)、P=2(N)であるから、x≧1.9mmとなる。
【0036】
以上のとおり、OX間の距離xが、式(1)x≧a-(πd3σ)/(16P)を満たすと、シャープ芯がホルダーの内部で折損してしまうことを防止することができることがわかる。
すなわち、芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置と、ホルダー3内面とシャープ芯8が接触する最後端の位置との間の距離xが、式(1)x≧a-(πd3σ)/(16P)を満たすと、シャープ芯8がホルダー3の内部で折損してしまうことを防止することができる。
このように、式(1)によると、芯ブレーカー4a内面とシャープ芯8が接触する最先端の位置と、ホルダー3内面とシャープ芯8が接触する最後端の位置との間の距離xの下限値を算出することができ、xをこの下限値またはこの下限値より少し大きい値にすれば、残芯をできるだけ短くできるとともに、シャープ芯8がホルダー3内部で折損することも防止できる。
【0037】
以上、本発明に係る実施形態のシャープペンシル1を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
1 シャープペンシル
2 軸筒
21 前側軸筒
211 先端開口部
2111 摺接部
22 後側軸筒
221 後端開口部
3 ホルダー
31 ホルダー本体
311 カム斜面
312 芯摺動孔
313 収納部
314 後端部
32 バネ受け部
3a ホルダー付勢部材
4 保持筒
41 芯保持部
42 ホルダーガイド部
421 縮径面
422 拡径面
43 取付部
4a 芯ブレーカー
5 チャック
51 爪部
5a クラッチリング
6 接続部材
61 第1接続部材
62 第2接続部材
7 芯タンク
71 ノックキャップ
72 消しゴム
7a 芯タンク付勢部材
8 シャープ芯
S 紙面