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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132289
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】データ処理装置および補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N30/86 M
G01N30/72 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043018
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 悟司
(72)【発明者】
【氏名】杉本 哲
(72)【発明者】
【氏名】足立 健太
(57)【要約】
【課題】処理負荷を軽減しつつ、参照クロマトグラムデータに含まれる各参照データと対象クロマトグラムデータに含まれる各対象データとをそれぞれ対応づけて時間軸を補正することを一の目的とする。
【解決手段】プロセッサは、参照クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の参照ピークと、対象クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の対象ピークとをそれぞれ対応づけた第1対応関係を求め、参照クロマトグラムデータに含まれる参照データと、対象クロマトグラムデータに含まれる対象データとをそれぞれ対応付けた第2対応関係を、当該第2対応関係と第1対応関係との類似度である第1類似度を算出して求め、第2対応関係に従って対象クロマトグラムデータの時間軸を補正する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフ装置により得られた対象クロマトグラムデータについて、基準となる参照クロマトグラムデータと時間軸を合わせるように補正処理を行なうデータ処理装置であって、
前記クロマトグラフ装置により得られたクロマトグラムデータを格納するメモリと、
前記補正処理を実行するプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
前記参照クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の参照ピークと、前記対象クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の対象ピークとをそれぞれ対応づけた第1対応関係を求め、
前記参照クロマトグラムデータに含まれる参照データと、前記対象クロマトグラムデータに含まれる対象データとをそれぞれ対応付けた第2対応関係を、当該第2対応関係と前記第1対応関係との類似度である第1類似度を算出して求め、
前記第2対応関係に従って前記対象クロマトグラムデータの時間軸を補正する、データ処理装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
動的時間伸縮法を用いた対応関係の探索によって前記第2対応関係を求め、
前記探索において、候補となる各対応関係のスコア付けに用いる特徴量として前記第1類似度を用いる、請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記参照データと前記対象データとの対応点のうち、前記第1類似度が予め定められた閾値以下となる対応点を含む対応関係を前記第2対応関係の候補に含めない、請求項1または2に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記少なくとも一の参照ピークの各ピークについて、当該参照ピークを基準として参照ピーク領域を設定し、
前記少なくとも一の対象ピークの各ピークについて、当該対象ピークを基準として対象ピーク領域を設定し、
前記参照ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータの波形と、前記対象ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータの波形との類似度である第2類似度を求め、当該第2類似度に基づいて前記第1対応関係を求める、請求項1または2に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記クロマトグラフ装置は、質量分析を実行する質量分析器を含み、
前記参照ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータは、当該参照ピーク領域内の時間に前記質量分析器から得られる少なくとも一の参照マススペクトルデータを含み、
前記対象ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータは、当該対象ピーク領域内の時間に前記質量分析器から得られる少なくとも一の対象マススペクトルデータを含み、
前記第2類似度は、前記参照ピーク領域に含まれる前記少なくとも一の参照マススペクトルデータの波形と、前記対象ピーク領域に含まれる前記少なくとも一の対象マススペクトルデータの波形との類似度である、請求項4に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記対象クロマトグラムデータの波形である対象波形を平行移動または伸縮させて得られる変換波形と、前記参照クロマトグラムデータの波形である参照波形との相関関係を求め、当該相関関係に基づいて前記対象クロマトグラムデータを線形補正し、
前記第1対応関係および前記第2対応関係を、線形変換後の対象クロマトグラムデータに基づいて求める、請求項1または2に記載のデータ処理装置。
【請求項7】
前記クロマトグラフ装置は、質量分析を実行する質量分析器を含み、
前記対象クロマトグラムデータは、前記質量分析器により各時間に得られた複数の対象マススペクトルデータを含み、
前記参照クロマトグラムデータは、前記質量分析器により各時間に得られた参照マススペクトルデータを含み、
前記対象波形は、前記複数の対象マススペクトルデータによって作成される波形であり、
前記参照波形は、前記複数の参照マススペクトルデータによって作成される波形である、請求項6に記載のデータ処理装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記参照クロマトグラムデータおよび前記対象クロマトグラムデータをそれぞれ平滑化処理して、前記参照波形および前記対象波形を作成する、請求項6に記載のデータ処理装置。
【請求項9】
クロマトグラフ装置により得られた対象クロマトグラムデータについて、基準となる参照クロマトグラムデータと時間軸を合わせる補正方法であって、
前記参照クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の参照ピークと、前記対象クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の対象ピークとをそれぞれ対応づけた第1対応関係を求めるステップと、
前記参照クロマトグラムデータに含まれる参照データと、前記対象クロマトグラムデータに含まれる対象データとをそれぞれ対応付けた第2対応関係を、当該第2対応関係と前記第1対応関係との類似度である第1類似度を算出して求めるステップと、
前記第2対応関係に従って前記対象クロマトグラムデータの時間軸を補正するステップとを含む、補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ処理装置および補正方法に関する。より特定的には、クロマトグラフ装置により得られた対象クロマトグラムデータについて、基準となる参照クロマトグラムデータと時間軸を合わせる手法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ(LC)等のクロマトグラフ分析においては、同一装置でかつ同一条件の下で分析を実施しても、移動相の流量の時間的変動やカラムの劣化等の様々な要因によって、同一成分に対する保持時間がずれてしまう場合がある。そのため、複数のクロマトグラムを比較するためには、その比較に先立って同一成分に対する保持時間がほぼ同一に揃うように時間軸を補正する作業を行うことが好ましい。
【0003】
具体的には、基準となる参照クロマトグラムデータの時間軸に対して対象クロマトグラムデータの時間軸を合わせるように時間軸を補正する。
【0004】
たとえば、特許文献1は、参照クロマトグラムデータと対象クロマトグラムデータとの各々についてピーク検出を行い、検出した各ピークを対応付けることで時間軸を補正することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-220907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分析手法の最適化がされていない初期スクリーニングにおいては、ピークの分離が不十分であったり、ピークの形状が悪かったりする。このようなクロマトグラムからピーク検出を行うにあたっては、適当なピークを検出するための設定が難しく設定に時間がかかってしまったり、ピークそのものを検出できなかったりする。
【0007】
従来の補正方法は、ピーク検出を行い、検出したピーク同士を対応付けることで時間軸の補正を行うものだった。そのため、検出されないピークの保持時間の補正はできていなかった。
【0008】
このような課題を解決する方法として、参照クロマトグラムデータおよび対象クロマトグラムデータのピーク同士だけでなく、参照クロマトグラムデータを構成する各測定値(以下、「参照データ」とも称する)と対象クロマトグラムデータを構成する各測定値(以下、「対象データ」とも称する)とをそれぞれ対応付ける方法が考えられるが、このような手法では、処理装置にかかる負荷が大きく、また、適切な結果が得られない場合もある。
【0009】
本開示においては、処理負荷を軽減しつつ、参照クロマトグラムデータに含まれる各参照データと対象クロマトグラムデータに含まれる各対象データとをそれぞれ対応づけて時間軸を補正することを一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のデータ処理装置は、クロマトグラフ装置により得られた対象クロマトグラムデータについて、基準となる参照クロマトグラムデータと時間軸を合わせるように補正処理を行なう。データ処理装置は、クロマトグラフ装置により得られたクロマトグラムデータを格納するメモリと、補正処理を実行するプロセッサとを含む。プロセッサは、参照クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の参照ピークと、対象クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の対象ピークとをそれぞれ対応づけた第1対応関係を求め、参照クロマトグラムデータに含まれる参照データと、対象クロマトグラムデータに含まれる対象データとをそれぞれ対応付けた第2対応関係を、当該第2対応関係と第1対応関係との類似度である第1類似度を算出して求め、第2対応関係に従って対象クロマトグラムデータの時間軸を補正する。
【0011】
本開示の補正方法は、クロマトグラフ装置により得られた対象クロマトグラムデータについて、基準となる参照クロマトグラムデータと時間軸を合わせる方法である。補正方法は、参照クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の参照ピークと、対象クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の対象ピークとをそれぞれ対応づけた第1対応関係を求めるステップと、参照クロマトグラムデータに含まれる参照データと、対象クロマトグラムデータに含まれる対象データとをそれぞれ対応付けた第2対応関係を、当該第2対応関係と第1対応関係との類似度である第1類似度を算出して求めるステップと、第2対応関係に従って対象クロマトグラムデータの時間軸を補正するステップとを含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ピーク同士の対応付け結果である第1対応関係との類似度である第1類似度に基づいて第2対応関係を求めることで、指標が何もない中で第2対応関係を探索する場合に比べてプロセッサへの処理負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】分析システムの全体構成を示す図である。
図2】クロマトグラムデータの一例を示す図である。
図3】補正処理のフローチャートである。
図4】補正処理の概要を示す図である。
図5】線形補正処理の概要を示す図である。
図6】ピーク対応付け処理の概要を示す図である。
図7】データ対応付け処理の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0015】
[分析システムの全体構成]
図1は、分析システムの全体構成を示す図である。分析システム100は、ガスクロマトグラフ質量分析装置(以下、「GC/MS」と称する)1とデータ処理装置3とを含む。なお、本実施の形態においては、補正対象のクロマトグラムデータは、一例として、GC/MS1により得られたガスクロマトグラムデータとする。なお、補正対象のクロマトグラムデータは、試料に含まれる各種成分を分離するクロマトグラフと、成分分離された試料を検出する検出器とを含むクロマトグラフ装置により得られた時系列データであるクロマトグラムデータであればよい。
【0016】
GC/MS1は、ガスクロマトグラフ10と質量分析装置20とを含む。ガスクロマトグラフ10は、試料を導入するインジェクタ11と、インジェクタ11で導入された試料の成分を分離するカラム12とを備える。インジェクタ11で導入された試料に含まれる各成分はカラム12を通過する間に分離され、分離された各成分は、質量分析装置20に順次導入される。
【0017】
質量分析装置20は、図示しない真空ポンプにより真空排気される真空チャンバ23、並びに、真空チャンバ23の内部に配置されたイオン源21、レンズ電極22、四重極マスフィルタ24、およびイオン検出器25を含む。
【0018】
ガスクロマトグラフ10のカラム12を通過して分離された試料中の各成分は、質量分析装置20のイオン源21に順次導入され、イオン化される。イオン化された成分は、レンズ電極22により収束され四重極マスフィルタ24で質量電荷比(m/z)に応じて分離されたあと、イオン検出器25で検出される。
【0019】
質量分析装置20は、スキャン測定を行うことが可能である。スキャン測定では、質量分析装置20は、四重極マスフィルタ24を通過させるイオンの質量電荷比を所定の質量電荷比範囲で走査しつつ、所定の質量電荷比範囲のイオンを質量電荷比ごとにイオン検出器25で検出する。スキャン測定は、所定の時間間隔で繰り返し行われる。イオン検出器25によって得られた検出結果(マススペクトルデータ)は、データ処理装置3に順次送られる。これにより、所定の時間間隔でマススペクトルデータが得られ、マススペクトルの時系列データであるクロマトグラムデータが得られる。
【0020】
図2は、クロマトグラムデータの一例を示す図である。クロマトグラムデータは、複数の測定値(以下、「サンプルデータ」とも称する)の時系列データである。クロマトグラムデータは、複数のマススペクトルデータMを含む。また、クロマトグラムデータは、トータルイオンクロマトグラム(TIC)データIを含んでいてもよい。TICデータIは、1回のスキャン測定を行う間に検出されたイオンの強度を合計したトータルイオンカレントの時系列データである。
【0021】
図1を再び参照して、データ処理装置3は、制御装置30と、入力装置31と、表示装置33とを備える。データ処理装置3は、クロマトグラムデータを処理する機能に加えて、GC/MS1の各部を制御する機能を備えていてもよい。なお、GC/MS1の各部を制御する機能を、データ処理装置3とは異なる別の装置が備えていてもよい。この場合、データ処理装置3は、GC/MS1の各部を制御する機能を備えた制御装置から検出結果(クロマトグラムデータ)を取得してもよい。
【0022】
制御装置30は、プロセッサ32とメモリ34とを備える。プロセッサ32は、たとえばCPU(Central Processing Unit)であって、プログラムに記述された所定の演算処理を実行する処理回路(processing circuitry)である。プロセッサ32は、メモリ34に記憶されたプログラムおよびデータを読み出して、GC/MS1の各部を制御するとともに、後述するクロマトグラムデータを処理する各種処理を実行する。
【0023】
メモリ34は、ROM(Read Only Memory)あるいはRAM(Random Access Memory)などの不揮発性メモリあるいは揮発性メモリ、および/または、HDD(Hard Disc Drive)あるいはSSD(Solid State Drive)などの大容量記憶装置を含む。メモリ34には、プロセッサ32が実行する各種処理を実行するためのプログラム341、およびイオン検出器25によって得られた検出結果(クロマトグラムデータ342)などが格納される。
【0024】
制御装置30には、入力装置31と表示装置33とが接続されている。入力装置31は、たとえば、キーボード、マウス、ポインティングデバイス、タッチパネルなどであり、ユーザの操作を受け付ける。表示装置33は、たとえば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)あるいは有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどであり、メモリ34に記憶された各種情報を表示する。
【0025】
[補正処理のフローチャート]
制御装置30は、GC/MS1により得られたクロマトグラムデータの時間軸(保持時間軸)を、基準となるクロマトグラムデータの時間軸(保持時間軸)に合わせる補正処理を実行する。以下では、補正対象のクロマトグラムデータおよび基準となるクロマトグラムデータを、「対象クロマトグラムデータ」および「参照クロマトグラムデータ」とそれぞれ称する。また、クロマトグラムデータによって得られる波形を単に「クロマトグラム」と称する場合がある。なお、以下では、便宜的に、クロマトグラムデータとして2次元のTICデータIのみを図示しているものの、本実施の形態における「クロマトグラムデータ」は、マススペクトルの時系列データと、TICデータとを含む。また、以下では、対象クトマトグラムデータを構成する各サンプルデータおよび参照クロマトグラムデータを構成する各サンプルデータを、「対象データ」および「参照データ」とそれぞれ称する。なお、TICデータIを構成する各サンプルデータは、保持時間とイオン検出器25が出力する信号強度とから構成された2次元データである。また、マススペクトルデータMを構成する各サンプルデータは、保持時間と信号強度と質量電荷比とから構成された3次元データである。
【0026】
図3は、補正処理のフローチャートである。図4は、補正処理の概要を示す図である。図3を参照して、補正処理は、線形補正処理S100と、ピーク対応付け処理S200と、データ対応付け処理S300と、保持時間補正処理S400とを含む。プロセッサ32は、メモリ34に格納されたプログラム341を読み出して実行することで、図3に示した補正処理を実行する。
【0027】
線形補正処理S100において、プロセッサ32は、対象クロマトグラムデータTの波形全体の形が参照クロマトグラムデータRの波形全体の形と類似するように、対象クロマトグラムデータTの波形全体を平行移動または伸縮させるように線形補正させて、対象クロマトグラムデータT1を得る。
【0028】
図4のグラフ42、43において、横軸は時間軸(保持時間)を示し、縦軸はイオン検出器25が出力した信号強度(ピーク強度)を示す。グラフ42、43において、破線で参照クロマトグラムデータRが示されている。グラフ42およびグラフ43において、実線で補正前の対象クロマトグラムデータTと線形補正後の対象クロマトグラムデータT1がそれぞれ示されている。図4に示した例では、プロセッサ32は、グラフ42中の対象クロマトグラムデータTを図中のx方向に平行移動させるとともに、波形全体を縮めることで、グラフ43中の対象クロマトグラムデータT1を得る。
【0029】
なお、プロセッサ32は、TICデータに基づく2次元の波形を類似させるように線形補正を行ってもよく、また、複数のマススペクトルデータを含めた三次元の波形を類似させるように線形補正を行ってもよい。線形補正処理S100は、S110~S130を含み、詳細については、図5を参照して後述する。
【0030】
ピーク対応付け処理S200において、プロセッサ32は、対象クロマトグラムデータT1から抽出されたピークと、参照クロマトグラムデータRから抽出されたピークとを対応づけた、第1対応関係C1を求める。
【0031】
図4のグラフ44において、横軸は対象クロマトグラムデータT1の時間軸(保持時間)を示し、縦軸は参照クロマトグラムデータRの時間軸(保持時間)を示す。グラフ44には、参照クロマトグラムデータRから抽出された各ピークと対象クロマトグラムデータT1から抽出された各ピークとを対応付けた5つの対応点Pと、各対応点Pを結んだ第1対応関係C1とを示す。
【0032】
対応付けの方法は、特に限定されるものではない。プロセッサ32は、ピーク形状の類似度およびピークの出現タイミング(保持時間)の差分などを特徴量として算出し、算出した特徴量に基づいて第1対応関係C1を求めてもよい。なお、特徴量は、各ピーク範囲に含まれるマススペクトルの類似度を含み得る。ピーク対応付け処理S200は、S210およびS220を含み、詳細については、図6を参照して後述する。
【0033】
データ対応付け処理S300において、プロセッサ32は、対象クロマトグラムデータT1に含まれる対象データと、参照クロマトグラムデータRに含まれる参照データとをそれぞれ対応づけて第2対応関係C2を求める。なお、第2対応関係C2は、ピーク同士を対応づけた第1対応関係とは異なり、参照データと対象データとの対応関係を意味し、参照クロマトグラムデータRを時間軸方向に所定間隔(たとえば5秒間隔など)に区切った各区間と対象クロマトグラムデータT1の各区間との対応関係である。
【0034】
図4のグラフ45において、横軸は対象クロマトグラムデータT1の時間軸(保持時間)を示し、縦軸は参照クロマトグラムデータRの時間軸(保持時間)を示す。グラフ45には、参照データと対応データとを対応づけた対応点を結んだものを候補a1~候補a3として例示している。
【0035】
プロセッサ32は、ピーク対応付け処理S200において求めた第1対応関係C1から乖離しないように、すなわち、第2対応関係C2の各候補(たとえば、図4中の候補a1~候補a3)と第1対応関係C1との類似度を求め、当該類似度に基づいて複数の候補の中から第2対応関係C2を決定する。図4において、プロセッサ32は、候補a3を第2対応関係C2に決定したものとする。なお、データ対応付け処理S300のより詳細な処理方法については、図7を参照して後述するものの、候補の中から第2対応関係C2を求めるために第1対応関係C1との類似度以外の特徴量を用いてもよい。
【0036】
保持時間補正処理S400において、プロセッサ32は、対象クロマトグラムデータT1の各対象データの保持時間を第2対応関係C2に従って補正して、対象クロマトグラムデータT2を得る。
【0037】
図4のグラフ46において、横軸は時間軸(保持時間)を示し、縦軸はイオン検出器25が出力した信号強度(ピーク強度)を示す。グラフ46において、破線で参照クロマトグラムデータRが示されており、実線で第2対応関係C2に従って補正して得られる対象クロマトグラムデータT2が示されている。
【0038】
プロセッサ32は、対象データの保持時間を、第2対応関係C2において対応付けられた参照データの保持時間に補正する。第2対応関係C2は、上述したように、参照クロマトグラムデータRを時間軸方向に所定間隔(たとえば5秒間隔など)に区切った各区間と対象クロマトグラムデータT1の各区間との対応関係である。すなわち、第2対応関係C2においては、すべての対象データが参照データに対応付けられているわけではない。そこで、対象クロマトグラムデータT1を構成する対象データのうち参照データに対応付けられていない対象データの保持時間は、隣接する参照データに対応付けられた対象データを用いて線形補間することで補正されてもよい。
【0039】
このような補正処理においては、検出できないピークがあった場合でも、データ対応付け処理S300において参照クロマトグラムデータおよび対象クロマトグラムデータのサンプルデータ同士を対応づけることで、検出できないピークのサンプルデータの時間軸も補正できる。また、データ対応付け処理S300において、ピーク同士の対応付け結果と類似するように第2対応関係C2を求めることで、指標が何もない中で第2対応関係C2を探索する場合に比べてプロセッサ32への処理負担を軽減できる。
【0040】
さらに、プロセッサ32は、線形補正処理S100を行ってからピーク対応付け処理S200およびデータ対応付け処理S00を行う。線形的な保持時間のずれについては予め補正してからピーク同士の対応付けとサンプルデータ同士の対応付けを行うため、これらの対応付けにかかるプロセッサ32への処理負担を軽減できる。
【0041】
本実施の形態において、プロセッサ32は、線形補正処理S100において波形全体の形に従って対象クロマトグラムデータTを参照クロマトグラムデータRに対して大まかに位置合わせを行う。その後、プロセッサ32は、ピーク対応付け処理S200において検出可能な大きなピーク(特徴的なピーク)の対応付けを行い、データ同士を対応づけるための指標を作成する。最後に、プロセッサ32は、データ対応付け処理S00において、得られた指標(第1対応関係C1)を参考に、ピークとして検出が困難なデータまで細かく対応づける。このように、複数段階に分けて対応付けを行うことで、プロセッサ32への処理負担を軽減できるとともに、より正確な対応付けを行うことができる。
【0042】
[線形補正処理S100]
図3に戻り、線形補正処理S100は、S110~S130を含む。S110~S130について、図5を参照して、より詳細に説明する。図5は、線形補正処理の概要を示す図である。グラフ51~グラフ56においては、横軸は時間軸(保持時間)を示し、縦軸はイオン検出器25が出力した信号強度(ピーク強度)を示す。
【0043】
S110において、プロセッサ32は、参照クロマトグラムデータRおよび対象クロマトグラムデータTに対して平滑化処理を行う。グラフ51,52は、参照クロマトグラムデータRおよび対象クロマトグラムデータTをそれぞれ示す。グラフ53,54において、実線で平滑化処理後の参照波形R’と対象波形T’とがそれぞれ示されている。グラフ53,54において、破線で平滑化処理前の参照クロマトグラムデータRと対象クロマトグラムデータTとがそれぞれ示されている。
【0044】
図5に示すように、プロセッサ32は、平滑化処理を行って、参照クロマトグラムデータRから参照波形R’を作成する。また、プロセッサ32は、平滑化処理を行って、対象クロマトグラムデータTから対象波形T’を作成する。
【0045】
S120において、プロセッサ32は、対象クロマトグラムデータTの波形全体の形が参照クロマトグラムデータRの波形全体の形と類似するように対象クロマトグラムデータTの保持時間を線形補正するための変換係数を求める。プロセッサ32は、平滑化処理後の波形同士の相関関係を求め、相関関係に基づいて、当該相関関係が高くなるように対象波形T’に対して線形変換を繰り返す。
【0046】
グラフ56において、実線および破線で、線形補正後の変形波形T”および線形補正前の対象は径T’がそれぞれ示されている。図5に示すように、対象波形T’を保持時間方向に平行移動または伸縮させるように線形変換した後の変換波形T”と参照波形R’との相関関係を求める。たとえば、線形補正前の保持時間をt’、線形変換後の保持時間をt”とすると、線形変換は次の式(1)で表すことができる。式(1)のa,bが、変換係数である。
【0047】
【数1】
【0048】
相関関係は、参照波形R’を示す画像と、線形変換後の変換波形T”を示す画像との相関値を既知の画像処理技術を利用して求めてもよい。プロセッサ32は、求めた相関関係が高くなるように線形変換を繰り返し、相関関係を示す相関値が収束したことに基づいて線形変換を止め、線形変換前の保持時間t’を相関値が収束したときの線形変換後の保持時間t”に変換するための変換係数a,bを、S120において求める変換係数a,bとする。
【0049】
S130において、プロセッサ32は、求めた変換係数に従って対象クロマトグラムデータTを平行移動または伸縮させるように、対象クロマトグラムデータTの保持時間tを線形変換させて対象クロマトグラムデータT1を得る。その後、プロセッサ32は、線形変換後の対象クロマトグラムデータT1に基づいて、ピーク対応付け処理S200およびデータ対応付け処理S300を実行する。
【0050】
このように、平滑化処理をすることで、クロマトグラムデータ内の細かなピーク(たとえば、外れ値など)に左右されることなく、相関関係を求めることができる。
【0051】
なお、プロセッサ32は、TICデータに加えて、またはTICデータに代えて、複数のマススペクトルデータを用いて相関関係を求めてもよい。すなわち、対象波形T’および参照波形R’は、複数のマススペクトルデータによって作成される波形であってもよい。この場合、プロセッサ32は、対象波形T’を保持時間方向に平行移動または伸縮させるように線形変換させて参照波形R’に形を合わせる。また、複数のマススペクトルデータによって作成される波形を平滑化処理する場合、プロセッサ32は、保持時間軸および質量電荷比軸の両方の軸に沿って平滑化を行っても良く、また、保持時間軸に沿ってのみ平滑化してもよい。
【0052】
参照波形R’および対象波形T’は、いずれも、複数のマススペクトルによって作成される保持時間‐強度‐質量電荷比の3次元の波形であってもよい。3次元の波形間の相関関係は、既存の三次元画像処理技術を利用して求めてもよい。また、プロセッサ32は、各質量電荷比ごとに得られる2次元のクロマトグラムから相関値を求め、質量電荷比ごとに求められる相関値の合計値が高くなるように変換係数を探索したり、あるいは、すべての相関値がある一定値を超えるように変換係数を探索したりしてもよい。
【0053】
複数のマススペクトルデータを含めることで、各ピークが示す成分の類似度を含めて、対象クロマトグラムデータTを参照クロマトグラムデータRに合わせることができる。
【0054】
[ピーク対応付け処理S200]
図3を参照して、ピーク対応付け処理S200は、S210およびS220を含む。S210およびS220について、図6を参照して、より詳細に説明する。図6は、ピーク対応付け処理の概要を示す図である。グラフ61には、参照クロマトグラムデータR、参照クロマトグラムデータRから抽出したピークr1~r6およびピーク領域Ar1~Ar6が示されている。グラフ62には、線形変換後の対象クロマトグラムデータT1、対象クロマトグラムデータT1から抽出したピークt1~t5およびピーク領域At1~At5が示されている。
【0055】
S210において、プロセッサ32は、参照クロマトグラムデータRおよび線形補正後の対象クロマトグラムデータT1からピークを抽出する。ピークの抽出方法は、既存の方法を利用可能である。ピークの抽出条件は、メモリ34に格納されている。なお、ピークの抽出条件は、ユーザによって変更可能に構成されていても、変更できないように構成されていてもよい。
【0056】
なお、各クロマトグラムデータから抽出されるピーク数は、異なっていてもよい。図6に示した例では、グラフ61に示すように参照クロマトグラムデータRから6つのピークr1~r6が抽出され、グラフ62に示すように対象クロマトグラムデータT1からは5つのピークt1~t5が抽出されたものとする。
【0057】
S220において、プロセッサ32は、抽出したピークを中心に設定されるピーク領域内の波形同士の類似度を求め、ピーク同士を対応づけた第1対応関係を求める。プロセッサ32は、抽出したピークのピークトップのサンプルデータの保持時間b1を中心に前後に幅を持たせた保持時間Bをピーク領域に設定してもよい。
【0058】
図6に示した例では、グラフ61に示すように参照クロマトグラムデータRから6つのピーク領域Ar1~Ar6が設定され、グラフ62に示すように対象クロマトグラムデータT1から5つのピーク領域At1~At5が設定されたものとする。
【0059】
プロセッサ32は、ピーク領域Ar1~Ar6内の各波形と、ピーク領域At1~At5内の各波形との類似度を求めて、類似度に基づいて波形同士の対応付けを行うことでピーク同士を対応づける。プロセッサ32は、波形同士を対応付ける探索方法として、たとえば、動的時間伸縮法(DTW:Dynamic Time Warping)を用いてもよい。DTWについては後述するものの、プロセッサ32は、各波形間の類似度を示す特徴量として、波形の高さ、傾き、保持時間を使用可能である。
【0060】
このように、抽出したピークを中心に設定されるピーク領域内の波形同士で対応付けが行われることで、ピーク周辺の情報を含めて対応付けを行うことができる。特に、ピークの分離が不十分でピークの始点と終点とを正確に検出できないような場合であっても、ピーク領域を設定することでピーク同士の対応付けを行うことができる。
【0061】
なお、プロセッサ32は、TICデータに加えて、またはTICデータに代えて、ピーク領域内の時間に得られるマススペクトルデータを用いてもよい。プロセッサ32は、ピーク領域内の時間に得られた1または複数のマススペクトルデータの特徴を示すピークの高さ、傾き、質量電荷比などを含めて上記特徴量を求め、特徴量同士を比較して得られる類似度に基づいて波形同士の対応付けを行ってもよい。
【0062】
マススペクトルの情報を含めることで、各ピークが示す成分の類似度を含めて、ピークの対応付けを行うことができる。
【0063】
[データ対応付け処理S300]
図7は、データ対応付け処理の概要を示す図である。図7においては、横軸を対象クロマトグラムデータT1の時間軸(保持時間)、縦軸を参照クロマトグラムデータRの時間軸(保持時間)として、各サンプルデータの時間軸を対応づけ、各サンプルデータの対応点を結んだものを候補a1~候補a3として例示している。また、ピーク対応付け処理S200において得られた第1対応関係C1も示している。
【0064】
図4を参照して説明したように、第1対応関係C1から乖離しないように、すなわち、第2対応関係C2の各候補(たとえば、図4中の候補a1~候補a3)と第1対応関係C1との類似度を求め、当該類似度に基づいて複数の候補の中から第2対応関係C2を求める。
【0065】
第2対応関係C2を探索する方法として、DTWを用いてもよい。DTWは、2つの時系列データの類似度を調べる手法であって、各データ間の類似度を示す特徴量を総当たりで計算することで、2つの時系列データの類似度を調べる手法である。本実施の形態において、プロセッサ32は、2つのクロマトグラムデータについて、各データ間の類似度を示す特徴量を総当たりで計算してデータ間の関係(対応関係)をスコア付けし、スコア結果に基づいて2つのクロマトグラムデータが最も類似するデータ間の関係を第2対応関係C2とする。
【0066】
プロセッサ32は、特徴量として第1対応関係C1との類似度を用いる。第1対応関係C1との類似度は、第1対応関係C1からの距離Dに相当する。また、特徴量は、2つのクロマトグラムデータのピーク強度の類似度およびマススペクトルデータの類似度を含み得る。
【0067】
DTWを用いるとともに、DTWにおけるスコア付けに第1対応関係C1との類似度を利用することで、波形全体のうち検出可能な特徴的なピークの対応関係に重点を置くような重みづけを行いつつ、データ同士の細かな対応付けまで行うことができる。
【0068】
なお、プロセッサ32は、第1対応関係C1からの類似度が所定の閾値以下となる対応関係については、第2対応関係C2の候補から除外するようにしてもよい。たとえば、プロセッサ32は、第1対応関係C1からの距離Dが距離D1以上となる対応点P1を含まないように第2対応関係C2を求める。このようにすることで、第2対応関係C2の候補を減らすことができるため、プロセッサ32への処理負担を軽減できる。
【0069】
[その他の変形例]
上記実施の形態において、プロセッサ32は、線形補正処理S100を行うものとした。なお、プロセッサ32は、線形補正処理S100を行うことなく、ピーク対応付け処理S200およびデータ対応付け処理S300を実行してもよい。また、プロセッサ32は、線形補正処理S100として、波形全体の形に基づいて線形補正するものとしたが、線形補正の方法はこれに限られない。たとえば、プロセッサ32は、ピークを抽出して、抽出したピークの対応付けを行うことで線形補正を行ってもよい。
【0070】
上記実施の形態において、プロセッサ32は、ピーク対応付け処理S200において、ピーク領域を設定し、波形同士の類似度に基づいてピークの対応付けを行うものとした。なお、プロセッサ32は、ピーク領域を設定することなく、抽出したピークの特徴(ピーク幅、保持時間、傾きなど)に基づいてピークの対応付けを行ってもよい。
【0071】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0072】
(第1項)一態様に係るデータ処理装置は、クロマトグラフ装置により得られた対象クロマトグラムデータについて、基準となる参照クロマトグラムデータと時間軸を合わせるように補正処理を行なう。データ処理装置は、クロマトグラフ装置により得られたクロマトグラムデータを格納するメモリと、補正処理を実行するプロセッサとを含む。プロセッサは、参照クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の参照ピークと、対象クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の対象ピークとをそれぞれ対応づけた第1対応関係を求め、参照クロマトグラムデータに含まれる参照データと、対象クロマトグラムデータに含まれる対象データとをそれぞれ対応付けた第2対応関係を、当該第2対応関係と第1対応関係との類似度である第1類似度を算出して求め、第2対応関係に従って対象クロマトグラムデータの時間軸を補正する。
【0073】
第1項に記載のデータ処理装置によれば、ピーク同士の対応付け結果である第1対応関係との類似度である第1類似度に基づいて第2対応関係を求めることで、指標が何もない中で第2対応関係を探索する場合に比べてプロセッサへの処理負担を軽減できる。
【0074】
(第2項)第1項に記載のデータ処理装置において、プロセッサは、動的時間伸縮法を用いた対応関係の探索によって第2対応関係を求め、探索において、候補となる各対応関係のスコア付けに用いる特徴量として第1類似度を用いる。
【0075】
第2項に記載のデータ処理装置によれば、動的時間伸縮法におけるスコア付けに第1対応関係との類似度を利用することで、波形全体のうち検出可能な特徴的なピークの対応関係に重点を置くような重みづけを行いつつ、データ同士の細かな対応付けまで行うことができる。
【0076】
(第3項)第1項または第2項に記載のデータ処理装置において、プロセッサは、参照データと対象データとの対応点のうち、第1類似度が予め定められた閾値以下となる対応点を含む対応関係を第2対応関係の候補に含めない。
【0077】
第3項に記載のデータ処理装置によれば、第2対応関係の候補を減らすことができるため、プロセッサへの処理負担を軽減できる。
【0078】
(第4項)第1項~第3項のうちいずれか1項に記載のデータ処理装置において、プロセッサは、少なくとも一の参照ピークの各ピークについて、当該参照ピークを基準として参照ピーク領域を設定し、少なくとも一の対象ピークの各ピークについて、当該対象ピークを基準として対象ピーク領域を設定し、参照ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータの波形と、対象ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータの波形との類似度である第2類似度を求め、当該第2類似度に基づいて第1対応関係を求める。
【0079】
第4項に記載のデータ処理装置によれば、抽出したピークを中心に設定されるピーク領域内の波形同士で対応付けが行われることで、ピーク周辺の情報を含めて対応付けを行うことができる。特に、ピークの分離が不十分でピークの始点と終点とを正確に検出できないような場合であっても、ピーク領域を設定することでピーク同士の対応付けを行うことができる。
【0080】
(第5項)第4項に記載のデータ処理装置において、クロマトグラフ装置は、質量分析を実行する質量分析器を含む。参照ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータは、当該参照ピーク領域内の時間に質量分析器から得られる少なくとも一の参照マススペクトルデータを含む。対象ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータは、当該対象ピーク領域内の時間に質量分析器から得られる少なくとも一の対象マススペクトルデータを含む。第2類似度は、参照ピーク領域に含まれる少なくとも一の参照マススペクトルデータの波形と、対象ピーク領域に含まれる少なくとも一の対象マススペクトルデータの波形との類似度である。
【0081】
第5項に記載のデータ処理装置によれば、マススペクトルの情報を含めることで、各ピークが示す成分の類似度を含めて、ピークの対応付けを行うことができる。
【0082】
(第6項)第1項~第5項のうちいずれか1項に記載のデータ処理装置において、プロセッサは、対象クロマトグラムデータの波形である対象波形を平行移動または伸縮させて得られる変換波形と、参照クロマトグラムデータの波形である参照波形との相関関係を求め、当該相関関係に基づいて対象クロマトグラムデータを線形補正し、第1対応関係および第2対応関係を、線形変換後の対象クロマトグラムデータに基づいて求める。
【0083】
第6項に記載のデータ処理装置によれば、線形的な保持時間のずれについては予め補正してから第1対応関係および第2対応関係を求めるため、これらの対応付けにかかるプロセッサへの処理負担を軽減できる。
【0084】
(第7項)第6項に記載のデータ処理装置において、クロマトグラフ装置は、質量分析を実行する質量分析器を含む。対象クロマトグラムデータは、質量分析器により各時間に得られた複数の対象マススペクトルデータを含む。参照クロマトグラムデータは、質量分析器により各時間に得られた参照マススペクトルデータを含む。対象波形は、複数の対象マススペクトルデータによって作成される波形である。参照波形は、複数の参照マススペクトルデータによって作成される波形である。
【0085】
第7項に記載のデータ処理装置によれば、マススペクトルデータを含めることで、各ピークが示す成分の類似度を含めて、対象クロマトグラムデータを参照クロマトグラムデータに合わせることができる。
【0086】
(第8項)第6項または第7項に記載のデータ処理装置において、プロセッサは、参照クロマトグラムデータおよび対象クロマトグラムデータをそれぞれ平滑化処理して、参照波形および対象波形を作成する。
【0087】
第8項に記載のデータ処理装置によれば、平滑化処理をすることで、クロマトグラムデータ内の細かなピーク(たとえば、外れ値など)に左右されることなく、相関関係を求めることができる。
【0088】
(第9項)一態様に係る補正方法は、クロマトグラフ装置により得られた対象クロマトグラムデータについて、基準となる参照クロマトグラムデータと時間軸を合わせる方法である。補正方法は、参照クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の参照ピークと、対象クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の対象ピークとをそれぞれ対応づけた第1対応関係を求めるステップと、参照クロマトグラムデータに含まれる参照データと、対象クロマトグラムデータに含まれる対象データとをそれぞれ対応付けた第2対応関係を、当該第2対応関係と第1対応関係との類似度である第1類似度を算出して求めるステップと、第2対応関係に従って対象クロマトグラムデータの時間軸を補正するステップとを含む。
【0089】
(第10項)一態様にかかるプログラムは、第9項に記載の補正方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0090】
(第11項)一態様にかかるコンピュータ可読媒体は、第10項に記載のプログラムを記憶する。
【0091】
第9項~第11項に記載の補正方法、プログラムおよびコンピュータ可読媒体によれば、ピーク同士の対応付け結果である第1対応関係との類似度である第1類似度に基づいて第2対応関係を求めることで、指標が何もない中で第2対応関係を探索する場合に比べてコンピュータへの処理負担を軽減できる。
【0092】
今回開示された各実施の形態は、技術的に矛盾しない範囲で適宜組合わせて実施することも予定されている。そして、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0093】
1 GC/MS、3 データ処理装置、10 ガスクロマトグラフ、11 インジェクタ、12 カラム、20 質量分析装置、21 イオン源、22 レンズ電極、23 真空チャンバ、24 マスフィルタ、25 イオン検出器、30 制御装置、31 入力装置、32 プロセッサ、33 表示装置、34 メモリ、100 分析システム、C1 第1対応関係、C2 第2対応関係、R 参照クロマトグラムデータ、T 対象クロマトグラムデータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-02-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフ装置により得られた対象クロマトグラムデータについて、基準となる参照クロマトグラムデータと時間軸を合わせるように補正処理を行なうデータ処理装置であって、
前記クロマトグラフ装置により得られたクロマトグラムデータを格納するメモリと、
前記補正処理を実行するプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
前記参照クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の参照ピークと、前記対象クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の対象ピークとをそれぞれ対応づけた第1対応関係を求め、
前記参照クロマトグラムデータに含まれる参照データと、前記対象クロマトグラムデータに含まれる対象データとをそれぞれ対応付けた第2対応関係を、当該第2対応関係と前記第1対応関係との類似度である第1類似度を算出して求め、
前記第2対応関係に従って前記対象クロマトグラムデータの時間軸を補正する、データ処理装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
動的時間伸縮法を用いた探索によって、前記第2対応関係の複数の候補の中から前記第2対応関係を求め、
前記探索において、前記複数の候補の各々に対するスコア付けに用いる特徴量として前記第1類似度を用いる、請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記参照データと前記対象データとの対応点のうち、前記第1類似度が予め定められた閾値以下となる対応点を含む対応関係を前記第2対応関係の候補に含めない、請求項1または2に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記少なくとも一の参照ピークの各ピークについて、当該参照ピークを基準として参照ピーク領域を設定し、
前記少なくとも一の対象ピークの各ピークについて、当該対象ピークを基準として対象ピーク領域を設定し、
前記参照ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータの波形と、前記対象ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータの波形との類似度である第2類似度を求め、当該第2類似度に基づいて前記第1対応関係を求める、請求項1または2に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記クロマトグラフ装置は、質量分析を実行する質量分析器を含み、
前記参照ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータは、当該参照ピーク領域内の時間に前記質量分析器から得られる少なくとも一の参照マススペクトルデータを含み、
前記対象ピーク領域に含まれるクロマトグラムデータは、当該対象ピーク領域内の時間に前記質量分析器から得られる少なくとも一の対象マススペクトルデータを含み、
前記第2類似度は、前記参照ピーク領域に含まれる前記少なくとも一の参照マススペクトルデータの波形と、前記対象ピーク領域に含まれる前記少なくとも一の対象マススペクトルデータの波形との類似度である、請求項4に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記対象クロマトグラムデータの波形である対象波形を平行移動または伸縮させて得られる変換波形と、前記参照クロマトグラムデータの波形である参照波形との相関関係を求め、当該相関関係に基づいて前記対象クロマトグラムデータを線形補正し、
前記第1対応関係および前記第2対応関係を、線形変換後の対象クロマトグラムデータに基づいて求める、請求項1または2に記載のデータ処理装置。
【請求項7】
前記クロマトグラフ装置は、質量分析を実行する質量分析器を含み、
前記対象クロマトグラムデータは、前記質量分析器により各時間に得られた対象マススペクトルデータを含み、
前記参照クロマトグラムデータは、前記質量分析器により各時間に得られた参照マススペクトルデータを含み、
前記対象波形は、得られた複数の対象マススペクトルデータによって作成される波形であり、
前記参照波形は、得られた複数の参照マススペクトルデータによって作成される波形である、請求項6に記載のデータ処理装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記参照クロマトグラムデータおよび前記対象クロマトグラムデータをそれぞれ平滑化処理して、前記参照波形および前記対象波形を作成する、請求項6に記載のデータ処理装置。
【請求項9】
クロマトグラフ装置により得られた対象クロマトグラムデータについて、基準となる参照クロマトグラムデータと時間軸を合わせる補正方法であって、
前記参照クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の参照ピークと、前記対象クロマトグラムデータから検出した少なくとも一の対象ピークとをそれぞれ対応づけた第1対応関係を求めるステップと、
前記参照クロマトグラムデータに含まれる参照データと、前記対象クロマトグラムデータに含まれる対象データとをそれぞれ対応付けた第2対応関係を、当該第2対応関係と前記第1対応関係との類似度である第1類似度を算出して求めるステップと、
前記第2対応関係に従って前記対象クロマトグラムデータの時間軸を補正するステップとを含む、補正方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
[補正処理のフローチャート]
制御装置30は、GC/MS1により得られたクロマトグラムデータの時間軸(保持時間軸)を、基準となるクロマトグラムデータの時間軸(保持時間軸)に合わせる補正処理を実行する。以下では、補正対象のクロマトグラムデータおよび基準となるクロマトグラムデータを、「対象クロマトグラムデータ」および「参照クロマトグラムデータ」とそれぞれ称する。また、クロマトグラムデータによって得られる波形を単に「クロマトグラム」と称する場合がある。なお、以下では、便宜的に、クロマトグラムデータとして2次元のTICデータIのみを図示しているものの、本実施の形態における「クロマトグラムデータ」は、マススペクトルの時系列データと、TICデータとを含む。また、以下では、対象クマトグラムデータを構成する各サンプルデータおよび参照クロマトグラムデータを構成する各サンプルデータを、「対象データ」および「参照データ」とそれぞれ称する。なお、TICデータIを構成する各サンプルデータは、保持時間とイオン検出器25が出力する信号強度とから構成された2次元データである。また、マススペクトルデータMを構成する各サンプルデータは、保持時間と信号強度と質量電荷比とから構成された3次元データである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
さらに、プロセッサ32は、線形補正処理S100を行ってからピーク対応付け処理S200およびデータ対応付け処理S00を行う。線形的な保持時間のずれについては予め補正してからピーク同士の対応付けとサンプルデータ同士の対応付けを行うため、これらの対応付けにかかるプロセッサ32への処理負担を軽減できる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
本実施の形態において、プロセッサ32は、線形補正処理S100において波形全体の形に従って対象クロマトグラムデータTを参照クロマトグラムデータRに対して大まかに位置合わせを行う。その後、プロセッサ32は、ピーク対応付け処理S200において検出可能な大きなピーク(特徴的なピーク)の対応付けを行い、データ同士を対応づけるための指標を作成する。最後に、プロセッサ32は、データ対応付け処理S00において、得られた指標(第1対応関係C1)を参考に、ピークとして検出が困難なデータまで細かく対応づける。このように、複数段階に分けて対応付けを行うことで、プロセッサ32への処理負担を軽減できるとともに、より正確な対応付けを行うことができる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
グラフ56において、実線および破線で、線形補正後の変形波形T”および線形補正前の対象波形T’がそれぞれ示されている。図5に示すように、対象波形T’を保持時間方向に平行移動または伸縮させるように線形変換した後の変換波形T”と参照波形R’との相関関係を求める。たとえば、線形補正前の保持時間をt’、線形変換後の保持時間をt”とすると、線形変換は次の式(1)で表すことができる。式(1)のa,bが、変換係数である。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0074
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0074】
(第2項)第1項に記載のデータ処理装置において、プロセッサは、動的時間伸縮法を用いた探索によって、第2対応関係の複数の候補の中から第2対応関係を求め、探索において、複数の候補の各々に対するスコア付けに用いる特徴量として第1類似度を用いる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0084
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0084】
(第7項)第6項に記載のデータ処理装置において、クロマトグラフ装置は、質量分析を実行する質量分析器を含む。対象クロマトグラムデータは、質量分析器により各時間に得られた対象マススペクトルデータを含む。参照クロマトグラムデータは、質量分析器により各時間に得られた参照マススペクトルデータを含む。対象波形は、得られた複数の対象マススペクトルデータによって作成される波形である。参照波形は、得られた複数の参照マススペクトルデータによって作成される波形である。