(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132294
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】作業機械の周囲監視装置
(51)【国際特許分類】
E02F 9/26 20060101AFI20240920BHJP
E02F 9/24 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E02F9/26 B
E02F9/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043024
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 準矢
【テーマコード(参考)】
2D015
【Fターム(参考)】
2D015GA03
2D015GB06
2D015GB07
2D015HA03
2D015HB04
2D015HB05
(57)【要約】
【課題】停止状態でも走行体の動作制限範囲を適切に設定することができる作業機械の周囲監視装置を提供する。
【解決手段】作業機械の周囲監視装置は、走行体2の走行動作を制限する運転支援制御装置104を備えており、この運転支援制御装置104は、旋回体3の旋回中心Oを原点とする基準の直交座標系を、走行体2の左右方向に所定量だけオフセットした位置に左側の座標系H
1と右側の座標系H
2とを設定し、これら座標系H
1と座標系H
2を用いて障害物検出センサ9で検出された障害物300の座標を設定することにより、走行体2の走行動作を制限する動作制限範囲を算出し、走行体2が動作制限範囲内に侵入すると判定した場合に、走行体2の走行動作を制限する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、前記走行体に旋回可能に搭載された旋回体と、前記旋回体の前部に取り付けられた作業機と、前記走行体の周囲に存在する障害物を検出する障害物検出センサと、前記障害物検出センサにより検出された障害物に基づいて前記走行体の走行動作を制限する制御装置と、を備えた作業機械の周囲監視装置において、
前記制御装置は、
前記障害物検出センサからの検知情報に基づいて動作制限範囲の閾値を算出する動作制限範囲算出部と、前記動作制限範囲の閾値と前記走行体の操作情報とを比較して動作制限を作動させるか否かを判定する動作制限判定部と、前記動作制限判定部の判定結果に基づいて前記走行動作を制限する信号を出力する動作制限部と、
を備え、
前記動作制限範囲算出部は、前記走行体の向きを基準とする直交座標軸の原点を、前記旋回体の旋回中心から左右の車体幅方向にオフセットした位置に座標系を設定し、該座標系を基準に特定した障害物の座標に基づいて前記動作制限範囲の閾値を算出する、
ことを特徴とする作業機械の周囲監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械の周囲監視装置において、
前記走行体の左右方向を前記座標系のX軸、前記走行体の前後進方向を前記座標系のY軸としたとき、
前記動作制限範囲算出部は、前記座標系の原点と障害物の前記座標を結ぶ線分と、前記座標系のX軸との成す角度から前記動作制限範囲の境界域となる動作制限範囲角度を算出し、
前記動作制限判定部は、前記走行体の前記座標系のX軸に対する前記動作制限範囲角度と前記走行体の走行角度とを比較する、
ことを特徴とする作業機械の周囲監視装置。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械の周囲監視装置において、
前記座標系の前記走行体の旋回中心からのオフセット量は、前記旋回体の幅寸法の1/2以上、かつ、前記走行体に備えられるクローラの幅寸法の1/2以下である、
ことを特徴とする作業機械の周囲監視装置。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械の周囲監視装置において、
前記動作制限判定部は、前記走行体を走行操作する左右一対の走行レバーの操作方向と操作量の差とに基づいて走行角度を算出し、前記走行角度が前記動作制限範囲内に侵入するか否かを判定する、
ことを特徴とする作業機械の周囲監視装置。
【請求項5】
請求項4に記載の作業機械の周囲監視装置において、
前記動作制限判定部は、前記走行角度に加えて前記走行体の予測走行速度を算出し、前記走行角度と前記予測走行速度とに基づいて、前記走行体が前記動作制限範囲内に侵入するか否かを判定する、
ことを特徴とする作業機械の周囲監視装置。
【請求項6】
請求項1に記載の作業機械の周囲監視装置において、
前記走行体が前記動作制限範囲内に侵入することを報知可能な警報手段を備え、
前記動作制限判定部は、前記走行体が前記動作制限範囲内に侵入すると判定した場合に、前記警報手段を作動させてオペレータに警報を報知する、
ことを特徴とする作業機械の周囲監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械の周囲監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械においては、障害物が近くに存在する場合に走行を制限するようにした技術が広く知られている。例えば特許文献1には、作業車両の周囲に存在する障害物の検出情報を取得する障害物検出部と、走行体の走行情報を取得する移動情報取得部と、旋回体および作業機の運動情報を取得する運動情報取得部と、障害物の検出情報と走行体の走行情報および作業機の運動情報を用いて、現在時刻以降における障害物と作業車両の干渉を予測する干渉予測部と、を備えた干渉監視装置が記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載の干渉監視装置では、走行体の走行情報に基づいて現在時刻以降における走行体の経路予測を算出した後、障害物の検出情報に基づいて経路予測上の複数のサンプリング位置における作業車両から障害物までの距離を推測し、作業車両と障害物の干渉が予測された場合に、作業車両の動作を制限するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の干渉監視装置は、走行体が走行することで取得される走行情報を用いて経路予測を算出し、この経路予測上の複数のサンプリング位置における作業車両と障害物との干渉を判定するという技術であるため、走行体を走行させることが必須要件となり、作業車両の停止状態では障害物との干渉を判定することができない。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、停止状態でも走行中でも走行体の動作制限範囲を適切に設定することができる作業機械の周囲監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一形態は、走行体と、前記走行体に旋回可能に搭載された旋回体と、前記旋回体の前部に取り付けられた作業機と、前記走行体の周囲に存在する障害物を検出する障害物検出センサと、前記障害物検出センサにより検出された障害物に基づいて前記走行体の走行動作を制限する制御装置と、を備えた作業機械の周囲監視装置において、前記制御装置は、前記障害物検出センサからの検知情報に基づいて動作制限範囲の閾値を算出する動作制限範囲算出部と、前記動作制限範囲の閾値と前記走行体の操作情報とを比較して動作制限を作動させるか否かを判定する動作制限判定部と、前記動作制限判定部の判定結果に基づいて前記走行動作を制限する信号を出力する動作制限部と、を備え、前記動作制限範囲算出部は、前記走行体の向きを基準とする直交座標軸の原点を、前記旋回体の旋回中心から左右の車体幅方向にオフセットした位置に座標系を設定し、該座標系を基準に特定した障害物の座標に基づいて前記動作制限範囲の閾値を算出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、停止状態でも走行中でも走行体の動作制限範囲を適切に設定可能な作業機械の周囲監視装置を提供することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの側面図である。
【
図2】油圧ショベルの制御システムの概要を説明するための説明図である。
【
図3】油圧ショベルと障害物の位置関係を示す説明図である。
【
図4】動作制限を実施するか否かの判定処理を示すフローチャートである。
【
図5】運転支援制御装置の機能を示すブロック図である。
【
図6】動作制限範囲の算出処理を示すフローチャートである
【
図7】走行体の向きを基準とする座標軸の設定を示す説明図である。
【
図8】車体幅分オフセットした座標軸の設定を示す説明図である。
【
図9】動作制限範囲角度の算出に用いられる障害物の座標を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベル1の側面図である。
図1に示すように、油圧ショベル1は、路面を走行するための走行体2と、走行体2上に旋回可能に取り付けられた旋回体3と、旋回体3の前部に俯仰動可能に取り付けられたフロント作業機4と、を備える。
【0012】
走行体2は、旋回体3の中央に位置しているロアフレーム2aと、ロアフレーム2aの左右両側に設けられた一対のクローラ2bとを備えている。これら一対のクローラ2bは、走行体2の左右それぞれに設けられた走行モータ(
図2参照)の駆動力によって独立して回転駆動する。これにより、油圧ショベル1は、左右それぞれのクローラ2bを地面に接触させた状態で前後方向に走行する。
【0013】
旋回体3は、旋回装置5を介して走行体2上に旋回可能に支持されている。旋回体3は、オペレータが搭乗する運転室6と、フロント作業機4とのバランスを保つためのカウンタウェイト7と、エンジンや油圧ポンプ等(
図2参照)の機器類を内部に収容する機械室8とを主に備えている。
【0014】
旋回体3は、旋回装置5内に設けられた旋回モータ(
図2参照)の駆動力によって走行体2に対して旋回する。運転室6内には、走行体2を走行させるための左右一対の走行レバー(
図2参照)や、旋回体3を旋回させるための操作レバー(
図2参照)等が設けられている。
【0015】
旋回体3には、油圧ショベル1の周囲の障害物を検出するための障害物検出センサ9が設置されている。障害物検出センサ9は、例えば、カメラ、レーザ、レーザスキャナ、レーザライダー等を組み合わせたものであり、本実施形態では、左側方用と右側方用として2つずつ、合計で4つの障害物検出センサ9が旋回体3上の任意位置に搭載されている。なお、障害物検出センサ9の設置数は4つに限定されず、センサの種類や旋回体3の形状等に応じて適宜変更しても良い。
【0016】
フロント作業機4は、基端部が旋回体3に回動可能に取り付けられて、旋回体3に対して上下方向に回動(俯仰)するブーム10と、ブーム10の先端部に回動可能に取り付けられてブーム10に対して前後方向に回動するアーム11と、アーム11の先端部に回動可能に取り付けられてアーム11に対して前後方向に回動するバケット12と、を備えている。
【0017】
また、
図1では図示省略されているが、フロント作業機4は、ブーム10を駆動させるブームシリンダと、アーム11を駆動させるアームシリンダと、バケット12を駆動させるバケットシリンダ(いずれも
図2参照)と、を備えている。
【0018】
図2は、油圧ショベル1の制御システムの概要を説明するための説明図である。
図2に示すように、油圧ショベル1は、エンジン100と、油圧ポンプ101と、制御コントローラ102と、コントロールバルブ103と、運転支援制御装置104と、を備える。
【0019】
油圧ポンプ101は、エンジン100の動力によって作動する。オペレータが操作レバー105または走行レバー106を操作すると、その操作情報は、制御コントローラ102で制御信号に変換される。制御コントローラ102からの制御信号は、油圧ポンプ101とコントロールバルブ103とに送られ、油圧ポンプ101の出力およびコントロールバルブの電磁弁を制御する。これにより、旋回モータ107と、走行モータ108と、ブームシリンダ109と、アームシリンダ110と、バケットシリンダ111とは、駆動される。
【0020】
運転支援制御装置104は、障害物検出センサ9と、角度検出器112と、警報装置113と、表示装置114と、モードスイッチ115とに接続される。角度検出器112は、走行体2に対する旋回体3の旋回角度を検出する角度センサであり、例えば、ロータリーエンコーダ、ポテンショメータ、ジャイロ、レゾルバ等からなる。運転支援制御装置104は、障害物検出センサ9と角度検出器112により取得される検知情報に基づいて、制御コントローラ102に制御指示信号を出力する。
【0021】
警報装置113は、警報ブザーや警報ランプ等からなる。運転支援制御装置104は、警報装置113に動作信号を出力することにより、警報ブザーや警報ランプを作動させてオペレータおよび周囲の作業者へ警報を報知する。
【0022】
表示装置114は、入力機能を有するパソコンやタッチパネル式のタブレットであり、運転室6の内部に設置されている。運転支援制御装置104は、表示装置114に作動信号を出力することにより、表示装置114のディスプレイ上に、障害物検出センサ9から取得される画像情報や、オペレータに注意喚起を促す警報メッセージ等を表示する。
【0023】
モードスイッチ115は、運転支援制御装置104の有効/無効を切り替えるスイッチである。モードスイッチ115がオン状態になると、運転支援制御装置104の処理動作が開始し、モードスイッチ115がオフ状態になると、運転支援制御装置104の処理動作が終了する。モードスイッチ115は、例えば、運転室6内の適宜位置に設置されたプッシュスイッチ等のデバイスからなる。あるいは、表示装置114のディスプレイ上にモードスイッチ115のアイコンを表示し、このアイコンを表示装置114の入力機能を用いて操作するようにしても良い。
【0024】
本実施形態では、運転支援制御装置104が、障害物検出センサ9と角度検出器112により取得される検知情報を用いて、後述する作業機械の周囲監視装置200を実現する。
【0025】
本実施形態に係る周囲監視装置200の説明に先立ち、本実施形態の概要を
図3と
図4を参照して説明する。
【0026】
図3は、油圧ショベル1と障害物300の位置関係を示す説明図である。
図3に示すように、本実施形態では、左右両側に他の作業機械が近接して存在するような駐機場や、輸出の際における船積み等の状況から油圧ショベル1を操作する場合を想定している。
【0027】
図4は、油圧ショベル1に対して動作制限を実施するか否かの判定処理を示すフローチャートである。
図4に示すように、運転支援制御装置104は、障害物検出センサ9から取得した障害物情報を参照し、油圧ショベル1の周囲の障害物(物体)300の有無を判定する(ステップS1)。
【0028】
油圧ショベル1からの距離が比較的近い警告領域で障害物300を検知する(ステップS1でYES)と、警報装置113の警報ブザーや警報ランプ等を作動させたり、表示装置114のディスプレイに警報表示を行ってオペレータに注意を促す。また、オペレータが操作レバー105を操作しても、旋回モータ107が動作しないようにする動作制限を行う。それと同時に、後述する物体検知部と走行体向き推定部(
図5参照)により、走行モータ108に対する動作制限範囲の閾値を算出する(ステップS2)。
【0029】
油圧ショベル1に搭乗しているオペレータは、障害物300を目視により確認し、障害物300が油圧ショベル1の走行方向に対して妨げにならないと判断した場合は、走行レバー106の操作を行う(ステップS3でYES)。その際に、走行レバー106に対応する制御コントローラ102の電磁弁により、走行体2の走行角度の算出を行う。
【0030】
そして、走行角度の算出結果が動作制限範囲の閾値以内であるか否かを判定し(ステップS4)、算出結果が動作制限範囲の閾値以内であると判断された場合(ステップS4でYES)は、そのまま走行体2の走行を許可する(ステップS5)。
【0031】
一方、走行角度の算出結果が動作制限範囲の閾値を超えて閾値外であると判断された場合(ステップS4でNO)は、走行体2に対して動作制限を実施する(ステップS6)。この場合、制御コントローラ102が油圧ポンプ101とコントロールバルブ103に制限を掛けることにより、走行モータ108が動作しないようになる。
【0032】
なお、
図4のステップS1~ステップS6に示す処理の順序は変更可能であり、例えば、ステップS1とステップS3の処理順序を逆にし、走行レバー106の操作後に物体検知を行ってから、動作制限を実施するか否かの判定を行うようにしても良い。
【0033】
また、
図4のステップS1~ステップS6に示す処理は、例えばモードスイッチ115がオンした場合に開始され、モードスイッチ115がオフされるまでの間、所定の周期で繰り返し行われる。あるいは、モードスイッチ115の代わりにエンジン100のキースイッチを用い、エンジン100のキースイッチがオンした場合に開始され、エンジン100のキースイッチがオフされるまでの間、所定の周期で繰り返し行われるようにしても良い。
【0034】
図5は、周囲監視装置200が有する運転支援制御装置104の機能を示すブロック図である。
図6は、運転支援制御装置104内で実行される動作制限範囲の算出処理を示すフローチャートである。
【0035】
運転支援制御装置104は、CPU、RAM、ROM、インターフェイス回路等を含む1つまたは複数の電子回路ユニットにより構成される。この運転支援制御装置104は、実装されたハードウェア構成またはプログラムにより実現される機能として、
図5に示すように、物体検出部201と、走行体向き推定部202と、動作制限範囲算出部203と、走行操作量取得部204と、動作制限判定部205と、警告報知部206と、動作制限部207と、を備える。
【0036】
物体検出部201は、旋回体3に設置されている障害物検出センサ9が取得する検知情報を用いて、油圧ショベル1の周囲の画像および障害物300の位置を取得する。
【0037】
走行体向き推定部202は、角度検出器112から得られる検知情報に基づいて、走行体2に対する旋回体3の旋回角度を検出する。
【0038】
動作制限範囲算出部203は、物体検出部201と走行体向き推定部202から得られる情報に基づいて、走行体2に対する動作制限を作動させる閾値を算出する。この動作制限を作動させる閾値の算出方法については後ほど詳細に説明する。
【0039】
走行操作量取得部204は、制御コントローラ102からコントロールバルブ103の電磁弁の情報を取得し、左右の走行レバー106の操作情報から走行体2の走行角度を算出する。
【0040】
動作制限判定部205は、動作制限範囲算出部203で算出された動作制限範囲の閾値と、走行操作量取得部204で算出された走行角度とを比較し、走行体2に対して動作制限を作動させるか否かを判定する。そして、動作制限を作動させると判断した場合は、警告報知部206と動作制限部207にそれぞれ作動指令信号を出力する。
【0041】
警告報知部206は、動作制限判定部205からの作動指令信号を受けることにより、警報装置113と表示装置114に対して動作信号を出力する。動作信号を受けた警報装置113は、警報ブザーを鳴動させたり警報ランプを点灯させることにより、オペレータや周囲の作業者に警報を報知する。また、動作信号を受けた表示装置114は、ディスプレイ上にオペレータに注意喚起を促すメッセージを表示する。
【0042】
動作制限部207は、動作制限判定部205からの作動指令信号を受け、走行体2に対して動作制限を実施するよう制御コントローラ102に制御指示信号を出力する。制御指示信号を受けた制御コントローラ102は、油圧ポンプ101と、走行モータ108を制御するコントロールバルブ103とに対し、走行動作を制限するための信号を出力して油圧ポンプ101の出力とコントロールバルブ103の電磁弁を制御し、走行モータ108が動作しないように動作制限を実施する。
【0043】
図6は、動作制限範囲算出部203で行われる動作制限範囲の閾値を設定するまでの処理を示すフローチャートである。
図6に示す各処理は、物体検出部201にて障害物300を検知する度に繰り返して実行される。
【0044】
図6に示すように、動作制限範囲算出部203は、走行体2の向きを基準とした座標軸を作成する(ステップS10)。すなわち、障害物検出センサ9は油圧ショベル1の旋回体3に設置されているため、障害物検出センサ9を基準とした座標軸を設定した場合、旋回体3の旋回動作を行うと動作制限範囲の算出が正常に機能しなくなってしまう。そこで、旋回体3の旋回動作に関わらず正常な動作制限範囲を算出するために、走行体2の向きを基準とする座標軸を作成する。
【0045】
図7は、
図6のステップS10で行われる、走行体2の向きを基準とする座標軸の設定を示す説明図である。
図7に示すように、旋回体3の旋回中心Oを原点とし、水平面上にX軸とY軸を取り、鉛直方向にZ軸を取る標準の座標系H
0を用いて、走行体2の向きを基準とした座標軸を作成する。本実施形態においては、走行体2の左右方向(幅方向)をX軸とし、走行体2の前後進方向をY軸としている。
【0046】
次に、動作制限範囲算出部203は、ステップS10で作成した標準の座標系H
0の座標軸を車体幅分だけオフセットした座標系を設定する(ステップS11)。すなわち、油圧ショベル1と障害物300が衝突する場所は走行体2の左右外側であり、旋回中心Oを原点とする標準の座標系H
0を用いて障害物300の座標を設定した場合、車体幅分だけ障害物検出センサ9から障害物300の座標位置までが遠くなってしまうため、動作制限範囲の算出が正常に機能しなくなる状況が発生する。特に、
図3に示すように、油圧ショベル1が輸出の際の船積み港や駐機場に駐機されている場合、走行体2のクローラ2bと障害物300との間隔が非常に狭くなるため、動作制限範囲を正確に算出することができなくなり、障害物300との衝突を確実に回避することができなくなる。そこで、このような不具合を解消するために、旋回中心Oを原点とする座標系H
0を走行体2の車体幅分だけオフセットした座標系を設定する。
【0047】
図8は、
図6のステップS11で行われる、車体幅分だけオフセットした座標軸の設定を示す説明図である。
図8に示すように、標準の座標系H
0の原点を旋回中心OからX軸の左方向に所定量だけオフセットした左側の座標系H
1と、旋回中心OからX軸の右方向に所定量だけオフセットした右側の座標系H
2とをそれぞれ設定する。これら座標系H
1と座標系H
2は、それぞれの原点が車体幅の範囲で走行体2の外側に近い位置に設定される。具体的には、旋回体3の幅寸法をW1、クローラ2bの幅寸法をW2とすると(
図3参照)、座標系H
1と座標系H
2における旋回中心Oからのオフセット量は、旋回体3の幅寸法W1の1/2以上、かつ、クローラ2bの幅寸法W2の1/2以下であることが好ましい。
【0048】
次に、動作制限範囲算出部203は、ステップS11で設定した左側の座標系H1と右側の座標系H2を用いて、障害物検出センサ9で検出された障害物(物体)300の座標を取得する(ステップS12)。
【0049】
図9は、
図6のステップS12で行われる、動作制限範囲角度の算出に用いられる障害物の300の座標を示す説明図である。
図9に示すように、走行体2の左側方に存在する障害物300については、左側の座標系H
1の座標軸を用いて障害物300の座標を取得し、走行体2の右側方に存在する障害物300については、右側の座標系H
2を用いて障害物300の座標を取得する。
【0050】
本実施形態では、走行体2の左右両側に障害物300が近接状態で存在する場合を想定しており、障害物300との衝突を確実に回避するために、X軸方向の絶対値が小さく、Y軸方向の絶対値が大きい地点を基準の座標とする。また、走行体2の進行方向は、前後左右それぞれの組み合わせで4通りとなるため、それぞれの組み合わせで使用する座標も4点とする。
図9においては、走行体2の左側に存在する障害物300の角部に設定された座標に符号a1とa2を付し、走行体2の右側に存在する障害物300の角部に設定された座標にa3とa4を付してある。
【0051】
なお、本実施形態では、直方体形状の障害物300を例示しているため、左側に存在する障害物300の座標a1とa2がX軸の同じ位置に設定され、右側に存在する障害物300の座標a3とa4もX軸の同じ位置に設定される。ただし、障害物300は直方体形状の物体に限定されず、大きさや形状を異にする種々の障害物300が予想されるため、各座標は障害物300の大きさや形状等に応じた適宜の位置に設定される。
【0052】
次に、動作制限範囲算出部203は、ステップS12で設定した障害物300の各座標a1~a4を用いて、前後左右それぞれの方向について動作制限範囲角度θを算出する(ステップS13)。
【0053】
図10は、
図6のステップS13で行われる、動作制限範囲角度θを示す説明図である。
図10に示すように、走行体2の左側の領域については、左側の座標系H
1の原点から座標a1に下した直線とX軸とのなす角度を左前部の動作制限範囲角度θ1とし、左側の座標系H
1の原点から座標a2に下した直線とX軸とのなす角度を左後部の動作制限範囲角度θ2として算出する。走行体2の右側の領域については、右側の座標系H
2の原点から座標a3に下した直線とX軸とのなす角度を右前部の動作制限範囲角度θ3とし、右側の座標系H
2の原点から座標a4に下した直線とX軸とのなす角度を右後部の動作制限範囲角度θ4として算出する。
【0054】
最後に、動作制限範囲算出部203は、ステップS13で算出した動作制限範囲角度θ1~θ4から、前後左右の各領域における動作制限範囲の閾値を設定する(ステップS14)。
【0055】
前述したように、このように動作制限範囲算出部203にて動作制限範囲の閾値が設定されると、動作制限判定部205は、動作制限範囲算出部203で算出された動作制限範囲の閾値と、走行操作量取得部204で算出された走行角度とを比較し、走行体2に対して動作制限を作動させるか否かを判定する。その際に、走行操作量取得部204は、左右の走行レバー106の符号および差動量から走行角度を算出する。ここで、走行レバー106の符号とは、左右の走行レバー106が前進方向(+方向)と後進方向(-方向)のいずれかであるかの判定であり、走行レバー106の差動量とは、左右の走行レバー106の操作量の大きさの比較である。
【0056】
例えば、前進方向かつ左の走行レバー106が右の走行レバー106よりも大きく操作されている場合は、走行体2の走行角度は右前方となるため、走行体2の右前部に設定された動作制限範囲角度θ3を基準とする閾値に対して動作制限が行われる。あるいは、後進方向かつ右の走行レバー106が左の走行レバー106よりも大きく操作されている場合は、走行体2の走行角度は左後方となるため、走行体2の左後部に設定された動作制限範囲角度θ2を基準とする閾値に対して動作制限が行われる。
【0057】
なお、走行操作量取得部204で左右の走行レバー106の操作量に基づいて走行体2の走行速度を算出し、動作制限判定部205が、走行レバー106の符号および差動量から算出される走行角度と、走行レバー106の操作量から算出される走行速度とに基づいて、動作制限を作動させるか否かを判定するようにしても良い。このように動作制限の判定に用いられる走行情報の要素に走行速度を加えると、より適切な動作制限処理を実行することができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る油圧ショベル1の周囲監視装置200では、障害物検出センサ9からの検知情報に基づいて動作制限範囲の閾値を算出する動作制限範囲算出部203と、動作制限範囲の閾値と走行体2の操作情報とを比較して動作制限を作動させるか否かを判定する動作制限判定部205と、動作制限判定部205の判定結果に基づいて運転支援制御装置104を作動させる動作制限部207とを備え、動作制限範囲算出部203が、走行体2の向きを基準とする直交座標軸の原点を、旋回体3の旋回中心Oから左右の車体幅方向にオフセットした位置にそれぞれ座標系H1,H2を設定し、これらの座標系H1,H2を基準に特定した障害物300の座標a1~a4に基づいて動作制限範囲の閾値を算出するため、走行体2の停止状態においても走行体2の動作制限範囲を適切に設定することができる。したがって、走行体2の走行中のみならず停止状態であっても不必要な動作制限機能を抑制することができ、作業効率を低下させることことなく必要十分な監視を行うことができる。
【0059】
また、走行体2の向きを基準とする座標系H1,H2を車体幅の外側付近に設定し、これら座標系H1,H2を基準に障害物300の座標が特定されるため、走行体2の左右両側に障害物300が近接状態で存在している場合でも、障害物300と走行体2の衝突を確実に回避することができる。したがって、左右両側に他の作業機械が近接して存在するような駐機場や、輸出の際における船積み等の状況から油圧ショベル1を操作する場合であっても、障害物300との衝突を確実に回避しながら油圧ショベル1を停止位置から走行させることができる。
【0060】
この場合において、座標系H1,H2の旋回中心Oからオフセット量は車体幅の範囲内に収まっていれば良い。本実施形態では、旋回中心Oからのオフセット量が旋回体3の幅寸法W1の1/2以上、かつ、クローラ2bの幅寸法W2の1/2以下に設定されているため、近接位置に存在する障害物300に対する動作制限範囲を適切に設定することができる。
【0061】
なお、上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【0062】
例えば、上記実施形態では、警告報知部206が動作制限判定部205からの作動指令を受けると、警報装置113と表示装置114の両方に対して動作信号を出力するようにしているが、表示装置114による警報メッセージを省略し、警報装置113による警報ブザーや警報ランプだけで警報を報知するようにしても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 油圧ショベル
2 走行体
2a ロアフレーム
2b クローラ
3 旋回体
4 フロント作業機(作業機)
5 旋回装置
6 運転室
7 カウンタウェイト
8 機械室
9 障害物検出センサ
10 ブーム
11 アーム
12 バケット
100 エンジン
101 油圧ポンプ
102 制御コントローラ
103 コントロールバルブ
104 運転支援制御装置(制御装置)
105 操作レバー
106 走行レバー
107 旋回モータ
108 走行モータ
109 ブームシリンダ
110 アームシリンダ
111 バケットシリンダ
112 角度検出器
113 警報装置
114 表示装置
115 モードスイッチ
200 周囲監視装置
201 物体検出部
202 走行体向き推定部
203 動作制限範囲算出部
204 走行操作量取得部
205 動作制限判定部
206 警告報知部
207 動作制限部
300 障害物
H0 標準の座標系
H1 左側の座標系
H2 右側の座標系