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特開2024-132311ドラムブレーキ装置、及び、リターンスプリングの脱着方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132311
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ドラムブレーキ装置、及び、リターンスプリングの脱着方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/00 20060101AFI20240920BHJP
   F16D 65/09 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16D65/00 E
F16D65/09 R
F16D65/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043051
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】横倉 久紀
(72)【発明者】
【氏名】早川 喜朗
(72)【発明者】
【氏名】深見 佳雄
(72)【発明者】
【氏名】玉置 功
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA03
3J058AA09
3J058AA13
3J058AA17
3J058AA24
3J058AA28
3J058AA34
3J058AA37
3J058BA70
3J058CA03
3J058CA07
3J058CA09
(57)【要約】
【課題】リターンスプリングの脱着作業の作業性に優れたドラムブレーキ装置、及び、リターンスプリングの脱着方法を提供すること。
【解決手段】ドラムブレーキ装置100は、一対のブレーキシュー11と、一対のブレーキシュー11におけるシューリム13の外周面にそれぞれ取り付けられてブレーキドラム1の内周面に押し付けられるライニング21と、一対のブレーキシュー11を架橋して、一対のブレーキシュー11をブレーキドラム1の内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリング25と、を備える。一対のブレーキシュー11は、リターンスプリング25の両端部に設けられたフック部27がそれぞれ掛け止めされる掛止部17の近傍に、リターンスプリング25の付勢方向と交差するとともに掛止部17に向かって開口して、掛止部17へフック部27を脱着するための治具5を挿入可能な貫通孔3が設けられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキドラムの内周面に対向して、バッキングプレートに平行な面で拡開可能に配設される一対のブレーキシューと、
前記一対のブレーキシューにおけるシューリムの外周面にそれぞれ取り付けられて、前記ブレーキドラムの前記内周面に押し付けられるライニングと、
前記一対のブレーキシューを架橋して、前記一対のブレーキシューを前記ブレーキドラムの前記内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリングと、
を備えたドラムブレーキ装置であって、
前記リターンスプリングは、
当該リターンスプリングの付勢方向の両端部に設けられて、前記一対のブレーキシューの掛止部にそれぞれ掛け止めされるフック部を有し、
前記一対のブレーキシューにおける前記掛止部の近傍には、
前記掛止部へ前記フック部を脱着するための治具を挿入可能な貫通孔が設けられ、
前記貫通孔は、
前記付勢方向と交差するとともに前記掛止部に向かって開口している、
ドラムブレーキ装置。
【請求項2】
ブレーキドラムの内周面に対向して、バッキングプレートに平行な面で拡開可能に配設される一対のブレーキシューと、
前記一対のブレーキシューにおけるシューリムの外周面にそれぞれ取り付けられて、前記ブレーキドラムの前記内周面に押し付けられるライニングと、
前記一対のブレーキシューを架橋して、前記一対のブレーキシューを前記ブレーキドラムの前記内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリングと、
を備えたドラムブレーキ装置であって、
前記リターンスプリングは、
当該リターンスプリングの付勢方向の両端部に設けられて、前記一対のブレーキシューの掛止部にそれぞれ掛け止めされるフック部を有し、
前記一対のブレーキシューにおける前記掛止部の近傍には、
前記掛止部へ前記フック部を脱着するための治具を挿入可能な貫通孔が設けられ、
前記貫通孔は、
シューリム貫通孔とライニング貫通孔とからなる段付き孔であって、前記ライニング貫通孔の内径が前記シューリム貫通孔の内径よりも大きい、
ドラムブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のドラムブレーキ装置におけるリターンスプリングの脱着方法であって、
前記貫通孔に治具を挿入し、前記貫通孔の内側の開口端を支点にして、前記掛止部へ前記フック部を脱着する工程を含む、
リターンスプリングの脱着方法。
【請求項4】
請求項2に記載のドラムブレーキ装置におけるリターンスプリングの脱着方法であって、
前記貫通孔に治具を挿入し、外側に露出する前記シューリム貫通孔の開口端を支点にして、前記掛止部へ前記フック部を脱着する工程を含む、
リターンスプリングの脱着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキ装置、及び、リターンスプリングの脱着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ装置は、例えばパーキングブレーキ機構として、ブレーキレバーやアクチュエータに駆動されて軸方向に移動する駆動ケーブルがブレーキシューの拡開機構に接続されており、ブレーキシューをブレーキドラムに押し付けることでブレーキ力が発生する。
特許文献1のブレーキ装置において、拡開機構は、一対のブレーキシューを架橋するホイールシリンダと、リターンスプリングと、により構成されており、ホイールシリンダに圧力が加わり一対のブレーキシューをリターンスプリングの引張力に抗して拡開させるよう構成される。即ち、特許文献1のブレーキ装置は、デュアルツーリーディング構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-135988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図15図16に示すドラムブレーキ装置300(上述したドラムブレーキ装置を含む)において、ブレーキシュー310を交換する場合、一対のブレーキシュー310を架橋するリターンスプリング320を脱着する必要がある。しかしながら、ドラムブレーキ装置300が用いられる大型商用車では、近年、ハブ330のユニット化が進んでおり、ユニット化されたハブ330は、リターンスプリング320を覆うように配置されているため、リターンスプリング320の脱着作業が煩雑化する傾向にあった。
【0005】
本発明は、上述した状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、リターンスプリングの脱着作業の作業性に優れたドラムブレーキ装置、及び、リターンスプリングの脱着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明に係るドラムブレーキ装置、及び、リターンスプリングの脱着方法は、下記[1]~[4]を特徴としている。
【0007】
[1]
ブレーキドラムの内周面に対向して、バッキングプレートに平行な面で拡開可能に配設される一対のブレーキシューと、
前記一対のブレーキシューにおけるシューリムの外周面にそれぞれ取り付けられて、前記ブレーキドラムの前記内周面に押し付けられるライニングと、
前記一対のブレーキシューを架橋して、前記一対のブレーキシューを前記ブレーキドラムの前記内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリングと、
を備えたドラムブレーキ装置であって、
前記リターンスプリングは、
当該リターンスプリングの付勢方向の両端部に設けられて、前記一対のブレーキシューの掛止部にそれぞれ掛け止めされるフック部を有し、
前記一対のブレーキシューにおける前記掛止部の近傍には、
前記掛止部へ前記フック部を脱着するための治具を挿入可能な貫通孔が設けられ、
前記貫通孔は、
前記付勢方向と交差するとともに前記掛止部に向かって開口している、
ドラムブレーキ装置。
【0008】
[2]
ブレーキドラムの内周面に対向して、バッキングプレートに平行な面で拡開可能に配設される一対のブレーキシューと、
前記一対のブレーキシューにおけるシューリムの外周面にそれぞれ取り付けられて、前記ブレーキドラムの前記内周面に押し付けられるライニングと、
前記一対のブレーキシューを架橋して、前記一対のブレーキシューを前記ブレーキドラムの前記内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリングと、
を備えたドラムブレーキ装置であって、
前記リターンスプリングは、
当該リターンスプリングの付勢方向の両端部に設けられて、前記一対のブレーキシューの掛止部にそれぞれ掛け止めされるフック部を有し、
前記一対のブレーキシューにおける前記掛止部の近傍には、
前記掛止部へ前記フック部を脱着するための治具を挿入可能な貫通孔が設けられ、
前記貫通孔は、
シューリム貫通孔とライニング貫通孔とからなる段付き孔であって、前記ライニング貫通孔の内径が前記シューリム貫通孔の内径よりも大きい、
ドラムブレーキ装置。
【0009】
[3]
上記[1]に記載のドラムブレーキ装置におけるリターンスプリングの脱着方法であって、
前記貫通孔に治具を挿入し、前記貫通孔の内側の開口端を支点にして、前記掛止部へ前記フック部を脱着する工程を含む、
リターンスプリングの脱着方法。
【0010】
[4]
上記[2]に記載のドラムブレーキ装置におけるリターンスプリングの脱着方法であって、
前記貫通孔に治具を挿入し、外側に露出する前記シューリム貫通孔の開口端を支点にして、前記掛止部へ前記フック部を脱着する工程を含む、
リターンスプリングの脱着方法。
【発明の効果】
【0011】
上記[1]~[4]の構成によれば、一対のブレーキシューにおける掛止部の近傍には、掛止部へフック部の脱着用の治具を挿入可能な貫通孔が設けられるため、ドラムブレーキ装置の側方からリターンスプリングを脱着できる。これにより、たとえハブがユニット化されていたとしても、ハブに覆われた正面から脱着作業を行わずに済み、ドラムブレーキ装置からハブを取り外す必要がなくなる。
【0012】
更に、上記[1]及び[3]の構成によれば、貫通孔は付勢方向と交差するとともに掛止部に向かって開口しているため、貫通孔の内側の開口端を支点として、梃子の原理を活用して小さい力でリターンスプリングを脱着できる。
【0013】
更に、上記[2]及び[4]の構成によれば、貫通孔はシューリム貫通孔とライニング貫通孔とからなる段付き孔であって、ライニング貫通孔の内径がシューリム貫通孔の内径よりも大きいため、シューリム貫通孔の開口端が外側に露出する。このため、外側に露出するシューリム貫通孔の開口端を支点として、梃子の原理を活用して小さい力でリターンスプリングを脱着できる。
【0014】
このように、上記[1]~[4]の構成によれば、従来に比べ、リターンスプリングの脱着作業の作業性に優れる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るドラムブレーキ装置の要部断面図である。
図2図2は、図1の要部拡大図である。
図3図3は、ブレーキシューの掛止部にリターンスプリングのフック部が掛け止められた態様を示す概略図である。
図4図4は、ブレーキシュー及びライニングの斜視図である。
図5図5は、図1におけるドラムブレーキ装置において、リターンスプリングの脱着方法を説明するための図である。
図6図6は、ドラムブレーキ装置の斜視図であって、一対のブレーキシュー及びライニングへの貫通孔の設け方の一例を示す第1図である(ブレーキドラムの図示省略)。
図7図7は、図6に相当する図であって、一対のブレーキシュー及びライニングへの貫通孔の設け方の一例を示す第2図である(ブレーキドラムの図示省略)。
図8図8は、図6に相当する図であって、一対のブレーキシュー及びライニングへの貫通孔の設け方の一例を示す第3図である(ブレーキドラムの図示省略)。
図9図9は、図6に相当する図であって、一対のブレーキシュー及びライニングへの貫通孔の設け方の一例を示す第4図である(ブレーキドラムの図示省略)。
図10図10は、図6に相当する図であって、一対のブレーキシュー及びライニングへの貫通孔の設け方の一例を示す第5図である(ブレーキドラムの図示省略)。
図11図11は、図6に相当する図であって、一対のブレーキシュー及びライニングへの貫通孔の設け方の一例を示す第6図である(ブレーキドラムの図示省略)。
図12図12は、本発明の第2実施形態に係るドラムブレーキ装置の要部断面図である。
図13図13は、図12の要部拡大図である(図2に相当)。
図14図14は、図12におけるドラムブレーキ装置において、リターンスプリングの脱着方法を説明するための図である。
図15図15は、ハブがユニット化されたドラムブレーキ装置の正面図である。
図16図16は、図15のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係るドラムブレーキ装置100及びリターンスプリング25の脱着方法について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るドラムブレーキ装置100の正面図である。図2は、図1の要部拡大図である。図3は、ブレーキシュー11の掛止部17にリターンスプリング25のフック部27が掛け止められた態様を示す概略図である。図4は、ブレーキシュー及びライニングの斜視図である。
【0018】
ドラムブレーキ装置100は、バッキングプレート2が車輪回転軸心Oに対して略垂直となる姿勢で車体に一体的に固定される。バッキングプレート2は、厚肉の金属板からなる円形基板の外周縁部が周壁として起立されることにより、所定の強度を有して形成される。
【0019】
図1に示すように、バッキングプレート2には、それぞれ円弧形状となる一対のブレーキシュー11が車両前後方向側(図1中、左右方向側)の外周縁に沿って配設される。一対のブレーキシュー11は、ブレーキドラム1の内周面に対向してバッキングプレート2と平行な面上で拡開可能に配設される。
【0020】
バッキングプレート2に配設された一対のブレーキシュー11は、それぞれ、シューリム13の内周側にシューウェブ15が固定され、外周側にライニング21が固定されている(図1図4参照)。一対のブレーキシュー11において、シューウェブ15は、それぞれ、バッキングプレート2に垂直な車輪回転軸心Oを中心とする仮想円(図示略)の直径を挟んで互いに対向し、バッキングプレート2と平行な面上で弧状に形成されている。
【0021】
一対のブレーキシュー11は、シューホールドダウン装置29によりバッキングプレート2に拡開可能に保持される。一対のブレーキシュー11は、車輪回転軸心Oを挟んでブレーキドラム1の内周面に対向してバッキングプレート2と平行な面上で拡開可能に配設される。
【0022】
一対のブレーキシュー11の両端部間(具体的には、図1中、上下方向両側の端部間)には、それぞれ、ドラムブレーキ装置100の拡開機構を構成するアジャスタ37と、リターンスプリング25と、がそれぞれ略水平に配設されている。
【0023】
リターンスプリング25は、一対のブレーキシュー11の対向方向(本発明の「付勢方向」に対応、図1中、左右方向)両端部にフック部27がそれぞれ設けられており、各フック部27が、一対のブレーキシュー11における各シューウェブ15の外周端に設けられた掛止部17(図2図4参照)に、それぞれ掛け止めされている(図2及び図3参照)。
【0024】
更に、一対のブレーキシュー11の両端部間には、それぞれ、ホイールシリンダ31が介装される。ホイールシリンダ31は、バッキングプレート2に取り付けられ、第1ピストン33及び第2ピストン35を内蔵している。
【0025】
一対のブレーキシュー11は、その各端部がホイールシリンダ31の第1ピストン33及び第2ピストン35とそれぞれ係合しており、各端部間に架橋(換言すると張設)されたリターンスプリング25のばね力により縮径方向に付勢されている。換言すると、リターンスプリング25は、一対のブレーキシュー11をブレーキドラム1の内周面から離れる方向に付勢している。
【0026】
ホイールシリンダ31は、それぞれ、第1ピストン33及び第2ピストン35により両端部間を離反方向に押動して一対のブレーキシュー11を拡開させる。
即ち、ホイールシリンダ31は、例えばフットブレーキペダルの踏み込み等によるサービスブレーキ時、両端より進出する第1ピストン33及び第2ピストン35により、一対のブレーキシュー11を拡開させる。拡開した一対のブレーキシュー11は、ブレーキドラム1の内周面に摩擦係合してこれを制動する。
【0027】
即ち、本実施形態によるドラムブレーキ装置100は、ブレーキドラム1の回転方向に関係なく、一対のブレーキシュー11がリーディングシューとなってブレーキ作動する公知のデュアルツーリーディング構造となっている。
【0028】
アジャスタ37は、公知のアジャスタ(いわゆるシュー間隙自動調整機構)であり、ライニング21の摩耗により制動時の一対のブレーキシュー11の移動量が拡大するとシュー間隙を自動調整する。
【0029】
本実施形態において、ドラムブレーキ装置100は、リターンスプリング25の脱着作業性に優れるように構成される。
図5は、図1におけるドラムブレーキ装置100において、リターンスプリング25の脱着方法を説明するための図である。
【0030】
図1図5に示すように、一対のブレーキシュー11における掛止部17の近傍には、掛止部17へフック部27を脱着するための治具5を挿入可能な貫通孔3が、シューリム13及びライニング21を貫通して設けられている。即ち、貫通孔3は、シューリム貫通孔19とライニング貫通孔23とが連通して形成されている。
この貫通孔3は、一対のブレーキシュー11の対向方向と交差するとともに掛止部17に向かって開口している。
【0031】
貫通孔3は、図1に示すように一対のブレーキシュー11の一方のブレーキシュー11の一端部(図1中、上側端部)に1つだけ設けられていてもよいし、ほかの設けられ方をしていてもよい。
例えば、図6に示すように、ブレーキシュー11の一端部において、一対の貫通孔3をブレーキシュー11の短手方向(図3中、上下方向)に並設してもよい。
例えば、図7に示すように、治具5が挿入可能であれば、図6に示す貫通孔3と比較して、貫通孔3のサイズを小さく設定してもよい。
例えば、図8図9に示すように、一対の貫通孔3をブレーキシュー11の両端部にそれぞれ設けてもよい。
例えば、図10図11に示すように、千鳥状に形成されるようにブレーキシュー11の両端部にそれぞれ1つの貫通孔3を設けてもよい。
なお、図6図11に示すように、貫通孔3が形成される場合、一対のブレーキシュー11は共通化を図ることができる。このため、例えば、図6図11に示すように、一対のブレーキシュー11の両方に貫通孔3が設けられていてもよい。
また、貫通孔3の形状は、治具5が挿入可能であれば、長孔形状等に形成されてもよい。
【0032】
以下、リターンスプリング25の脱着方法について説明する。リターンスプリング25の脱着には、例えば先端部が鉤形状の治具5が用いられる。
【0033】
リターンスプリング25を脱装する(取り外す)には、まず、貫通孔3に治具5を挿入して、鉤形状の先端部(図示略)をリターンスプリング25のフック部27に引っ掛ける。そして、貫通孔3の内側の開口端39を支点にして治具5を操作することで(図5の矢印参照)、掛止部17へのフック部27の掛け止めが解除される。
即ち、リターンスプリング25の脱装は、梃子の原理を利用して行われる。
上述したように掛け止めが解除された後、残り箇所の掛け止めを解除することで、リターンスプリング25が一対のブレーキシュー11から脱装される。
【0034】
本例では、一対のブレーキシュー11の両端部間には、一対のリターンスプリング25がそれぞれ架橋されていることから、掛止部17にフック部27が掛け止めされた箇所が計4箇所ある。そのうち少なくとも1箇所においては、上述したように掛け止めが解除される。一方、残りの3箇所については、ほかの方法で掛け止めが解除されてもよいし、上述したように掛け止めが解除されてもよい。
【0035】
掛止部17にリターンスプリング25を着装する際も、上述したリターンスプリング25の脱装と同要領で行われ、具体的には、リターンスプリング25の一方側のフック部27を一対のブレーキシュー11の一方側の掛止部17に引っ掛け、その後、治具5の先端部を他方側のフック部27に引っ掛けて、開口端39を支点にして治具5を操作する。これにより、他方側の掛止部17に他方側のフック部27が掛け止めされて、リターンスプリング25が一対のブレーキシュー11に着装される。
【0036】
即ち、一対のブレーキシュー11における掛止部17の近傍とは、上述したように、貫通孔3の内側の開口端39を支点にして、梃子の原理を活用したリターンスプリング25の脱着を実現できる位置であり、リターンスプリング25の付勢方向に沿った直線上から外れた位置である。
【0037】
本実施形態によれば、掛止部17の近傍に治具5を挿入可能な貫通孔3が設けられるため、ドラムブレーキ装置100の側方からリターンスプリング25を脱着できる。これにより、たとえばハブがユニット化されていたとしても、ハブに覆われた正面から脱着作業を行わずに済み、ドラムブレーキ装置100からハブを取り外す必要がなくなる。
更に、本実施形態によれば、貫通孔3は付勢方向と交差するとともに掛止部17に向かって開口しているため、開口端39を支点として、梃子の原理を活用して小さい力でリターンスプリング25を脱着できる。
このように、本実施形態によれば、従来に比べ、リターンスプリング25の脱着作業の作業性に優れる。
【0038】
<第2実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係るドラムブレーキ装置100a及びリターンスプリング25の脱着方法について図面を参照して説明する。
本実施形態によるドラムブレーキ装置100aと、上記実施形態によるドラムブレーキ装置100との相違点は、貫通孔3,3aである。貫通孔3,3aを除いては、ドラムブレーキ装置100,100aは同構成であるため、同じ符号を付し説明を省略する。
図12は、本発明の第2実施形態に係るドラムブレーキ装置の正面図である。図13は、図12の要部拡大図である。図14は、図12におけるドラムブレーキ装置において、リターンスプリングの脱着方法を説明するための図である。
【0039】
一対のブレーキシュー11における掛止部17の近傍には、掛止部17へフック部27を脱着するための治具5を挿入可能な貫通孔3aが、シューリム13及びライニング21を貫通して設けられている。
この貫通孔3aは、シューリム貫通孔19aとライニング貫通孔23aとが連通して形成され、ライニング貫通孔23aの内径がシューリム貫通孔19aの内径よりも大きい段付き孔である。
このため、シューリム貫通孔19aの開口端41は、外側に露出している。
【0040】
貫通孔3aは、図12に示すように一対のブレーキシュー11の一方のブレーキシュー11の一端部(図14中、上側端部)に1つだけ設けられていてもよいし、貫通孔3aの配置、数及び形状等については、上記実施形態の図6図11に示すように設けられてもよい。
【0041】
以下、リターンスプリング25の脱着方法について説明する。本実施形態においても梃子の原理を活用してリターンスプリング25の脱着が行われるが、上記実施形態との相違点は、梃子の原理の支点となる箇所である。
具体的には、本実施形態では、外側に露出するシューリム貫通孔19aの開口端41を支点にして治具5を操作する。これを除いては、本実施形態と上記実施形態とは同要領でリターンスプリング25の脱着が行われるため、説明を省略する。
【0042】
なお、本実施形態において、一対のブレーキシュー11における掛止部17の近傍とは、上述したように、外側に露出するシューリム貫通孔19aの開口端41を支点にして、梃子の原理を活用したリターンスプリング25の脱着を実現できる位置であり、リターンスプリング25の付勢方向に沿った直線上から外れた位置である。
【0043】
本実施形態によれば、掛止部17の近傍に治具5を挿入可能な貫通孔3aが設けられるため、ドラムブレーキ装置100aの側方からリターンスプリング25を脱着できる。これにより、たとえばハブがユニット化されていたとしても、ハブに覆われた正面から脱着作業を行わずに済み、ドラムブレーキ装置100aからハブを取り外す必要がなくなる。
更に、本実施形態によれば、貫通孔3aはシューリム貫通孔19aとライニング貫通孔23aとからなる段付き孔であって、ライニング貫通孔23aの内径がシューリム貫通孔19aの内径よりも大きいため、シューリム貫通孔19aの開口端41が外側に露出する。このため、外側に露出するシューリム貫通孔19aの開口端41を支点として、梃子の原理を活用して小さい力でリターンスプリング25を脱着できる。
このように、本実施形態によれば、従来に比べ、リターンスプリング25の脱着作業の作業性に優れる。
【0044】
<他の形態>
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0045】
ここで、上述した本発明に係るドラムブレーキ装置、及び、リターンスプリングの脱着方法の実施形態の特徴をそれぞれ以下に簡潔に纏めて列記する。
[1]
ブレーキドラム(1)の内周面に対向して、バッキングプレート(2)に平行な面で拡開可能に配設される一対のブレーキシュー(11)と、
前記一対のブレーキシュー(11)におけるシューリム(13)の外周面にそれぞれ取り付けられて、前記ブレーキドラム(1)の前記内周面に押し付けられるライニング(21)と、
前記一対のブレーキシュー(11)を架橋して、前記一対のブレーキシュー(11)を前記ブレーキドラム(1)の前記内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリング(25)と、
を備えたドラムブレーキ装置(100)であって、
前記リターンスプリング(25)は、
当該リターンスプリング(25)の付勢方向の両端部に設けられて、前記一対のブレーキシュー(11)の掛止部(17)にそれぞれ掛け止めされるフック部(27)を有し、
前記一対のブレーキシュー(11)における前記掛止部(17)の近傍には、
前記掛止部(17)へ前記フック部(27)を脱着するための治具を挿入可能な貫通孔(3)が設けられ、
前記貫通孔(3)は、
前記付勢方向と交差するとともに前記掛止部(17)に向かって開口している、
ドラムブレーキ装置(100)。
[2]
ブレーキドラム(1)の内周面に対向して、バッキングプレート(2)に平行な面で拡開可能に配設される一対のブレーキシュー(11)と、
前記一対のブレーキシュー(11)におけるシューリム(13)の外周面にそれぞれ取り付けられて、前記ブレーキドラム(1)の前記内周面に押し付けられるライニング(21)と、
前記一対のブレーキシュー(11)を架橋して、前記一対のブレーキシュー(11)を前記ブレーキドラム(1)の前記内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリング(25)と、
を備えたドラムブレーキ装置(100a)であって、
前記リターンスプリング(25)は、
当該リターンスプリング(25)の付勢方向の両端部に設けられて、前記一対のブレーキシュー(11)の掛止部(17)にそれぞれ掛け止めされるフック部(27)を有し、
前記一対のブレーキシュー(11)における前記掛止部(17)の近傍には、
前記掛止部(17)へ前記フック部(27)を脱着するための治具を挿入可能な貫通孔(3a)が設けられ、
前記貫通孔(3a)は、
シューリム貫通孔(19a)とライニング貫通孔(23a)とからなる段付き孔であって、前記ライニング貫通孔(23a)の内径が前記シューリム貫通孔(19a)の内径よりも大きい、
ドラムブレーキ装置(100a)。
[3]
上記[1]に記載のドラムブレーキ装置(100)におけるリターンスプリングの脱着方法であって、
前記貫通孔(3)に治具(5)を挿入し、前記貫通孔(3)の内側の開口端(39)を支点にして、前記掛止部(17)へ前記フック部(27)を脱着する工程を含む、
リターンスプリングの脱着方法。
[4]
上記[2]に記載のドラムブレーキ装置(100a)におけるリターンスプリングの脱着方法であって、
前記貫通孔(3a)に治具(5)を挿入し、外側に露出する前記シューリム貫通孔(19a)の開口端(41)を支点にして、前記掛止部(17)へ前記フック部(27)を脱着する工程を含む、
リターンスプリングの脱着方法。
【符号の説明】
【0046】
1 ブレーキドラム
2 バッキングプレート
3,3a 貫通孔
5 治具
11 ブレーキシュー
13 シューリム
15 シューウェブ
17 掛止部
19,19a シューリム貫通孔
21 ライニング
23,23a ライニング貫通孔
25 リターンスプリング
27 フック部
39,41 開口端
100,100a ドラムブレーキ装置
O 車輪回転軸心
図1
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