(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132316
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】報知システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043060
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直登志
(72)【発明者】
【氏名】石田 定治
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】上蓑 義幸
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181AA23
5H181BB13
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC14
5H181FF27
5H181LL02
5H181LL07
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】報知の緊急度又は重要度が中程度である場合において、移動体の乗員に不要な緊張を与えることなく且つ乗員が気付きやすい態様で報知を行う。
【解決手段】移動体に関わる情報を乗員に報知する報知システムは、注意音を生成する注意音生成部と、移動体の室内に配されて、上記生成された注意音を出力する一つ又は複数のスピーカと、を備え、注意音は、所定の持続時間で持続するシグナル音の、複数回の繰り返しで構成され、シグナル音は、最大強度に至るまでの立上り時間が60ms以上であって、最大強度が41dB以上、74dB未満であり、1000Hz以上、2000Hz以下の少なくとも1つの周波数成分を含み、時間的に隣接する2つのシグナル音の間の時間間隔は200ms以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に関わる情報を当該移動体の乗員に報知する報知システムであって、
注意音を生成する注意音生成部と、
前記移動体の室内に配されて、前記生成された注意音を出力する一つ又は複数のスピーカと、
を備え、
前記注意音生成部が生成する前記注意音は、
所定の持続時間で持続するシグナル音の、複数回の繰り返しで構成され、
前記シグナル音は、
最大強度に至るまでの立上り時間が60ms以上であって、
最大強度が41dB以上、74dB未満であり、
1000Hz以上、2000Hz以下の周波数を有する少なくとも1つの周波数成分を含み、
時間的に隣接する2つの前記シグナル音の間の時間間隔は200ms以上である、
報知システム。
【請求項2】
前記シグナル音の最大強度は、45dB以上、65dB未満である、
請求項1に記載の報知システム。
【請求項3】
前記注意音は、所定の持続時間で持続する前記シグナル音の、2回以上4回以下の繰り返しにより構成される、
請求項1に記載の報知システム。
【請求項4】
前記シグナル音は、
前記持続時間が100ms以上であり、
300Hz以上、1000Hz以下の周波数を有する少なくとも2つの周波数成分を更に含む、
請求項1に記載の報知システム。
【請求項5】
前記シグナル音は、
最大強度に至るまでの立上り時間が120±12msの範囲であって、
前記持続時間が、100±20ms以上200±20ms以下であり、
最大強度から無音状態までの立下り時間が80±12msの範囲であり、
300Hz以上1000Hz以下の周波数を有する少なくとも2つの周波数成分を更に含み、
時間的に隣接する2つの前記シグナル音の間の時間間隔は200ms以上220ms以下である、
請求項1に記載の報知システム。
【請求項6】
前記移動体は車両であり、前記乗員は前記車両の運転者であって、
前記注意音を前記スピーカから出力して、前記移動体に到来するリスクの方向を音像定位により前記乗員に示す出力部を更に備え、
前記出力部は、前記車両の運転席の左前方及び右前方にそれぞれ設けられた前記スピーカと、前記運転席のヘッドレストの左右に一つずつ設けられた前記スピーカと、のうちから、前記音像定位に用いるスピーカを選択する、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の報知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に関わる情報を乗員に報知する報知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現に向けて予防安全技術に関する研究開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発に注力している。
【0003】
特許文献1には、自車両周囲に存在する交通参加者等の危険要因の方向を特定し、運転者の視線方向とは異なる方向にある危険要因についての報知内容等を、運転者の視線方向と同方向にある危険要因についての報知内容等よりも優先して決定する運転支援装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、車室内に出力する警報音を運転者にとって聞き取りやすいものとするため、上記警報音を、200Hz以上の幅を持つ複数の音で構成し、警報レベルに応じて上記警報音の和音及びリズムを異なるものとする、車両用警報発生装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4275507号公報
【特許文献2】特開2018-120467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
予防安全技術においては、車室内に発する報知によって運転者の運転行動を阻害しないように、その報知の緊急度や重要度に応じて、運転者への確実な伝達を図りつつも運転者に不要な緊張を与えないことが課題である。
【0007】
本願は、上記課題の解決のため、報知の緊急度又は重要度が中程度である場合において、移動体の乗員に不要な緊張を与えることなく且つ乗員が気付きやすい態様で上記報知を行うことを目的とする。そして、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様は、移動体に関わる情報を当該移動体の乗員に報知する報知システムであって、注意音を生成する注意音生成部と、前記移動体の室内に配されて、前記生成された注意音を出力する一つ又は複数のスピーカと、を備え、前記注意音生成部が生成する前記注意音は、所定の持続時間で持続するシグナル音の、複数回の繰り返しで構成され、前記シグナル音は、最大強度に至るまでの立上り時間が60ms以上であって、最大強度が41dB以上、74dB未満であり、1000Hz以上、2000Hz以下の周波数を有する少なくとも1つの周波数成分を含み、時間的に隣接する2つの前記シグナル音の間の時間間隔は200ms以上である、報知システムである。
本発明の他の態様によると、前記シグナル音の最大強度は、45dB以上、65dB未満である。
本発明の他の態様によると、前記注意音は、所定の持続時間で持続する前記シグナル音の、2回以上4回以下の繰り返しにより構成される。
本発明の他の態様によると、前記シグナル音は、前記持続時間が100ms以上であり、300Hz以上、1000Hz以下の周波数を有する少なくとも2つの周波数成分を更に含む。
本発明の他の態様によると、前記シグナル音は、最大強度に至るまでの立上り時間が120±12msの範囲であって、前記持続時間が、100±20ms以上200±20ms以下であり、最大強度から無音状態までの立下り時間が80±12msの範囲であり、300Hz以上1000Hz以下の周波数を有する少なくとも2つの周波数成分を更に含み、時間的に隣接する2つの前記シグナル音の間の時間間隔は200ms以上220ms以下である。
本発明の他の態様によると、前記移動体は車両であり、前記乗員は前記車両の運転者であって、前記注意音を前記スピーカから出力して、前記移動体に到来するリスクの方向を音像定位により前記乗員に示す出力部を更に備え、前記出力部は、前記車両の運転席の左前方及び右前方にそれぞれ設けられた前記スピーカと、前記運転席のヘッドレストの左右に一つずつ設けられた前記スピーカと、のうちから、前記音像定位に用いるスピーカを選択する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、報知の緊急度又は重要度が中程度である場合において、移動体の乗員に不要な緊張を与えることなく且つ乗員が気付きやすい態様で上記報知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る報知システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、報知システムが搭載される車両における、スピーカの配置の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、注意喚起の報知に用いる音響の、時間強度波形を定義する図である。
【
図4】
図4は、調査及び実験により得られた知見を示す図である。
【
図5】
図5は、スピーカからの音響に対して被験者が知覚した音響周波数の下限値及び上限値を示す図である。
【
図6】
図6は、シグナル音周波数と音像定位との関係に関する第1の実験の結果を示す図である。
【
図7】
図7は、シグナル音周波数と音像定位との関係に関する第2の実験の結果を示す図である。
【
図8】
図8は、シグナル音周波数と音像定位との関係に関する第3の実験の結果を示す図である。
【
図9】
図9は、シグナル音パラメータと音像定位との関係についての評価結果を示す図である。
【
図10】
図10は、シグナル音の周波数成分とシグナル音の聞き取り易さとの関係についての実験の結果を示す図である。
【
図11】
図11は、報知の緊急度及び重要度に適合するシグナル音パラメータについての主観評価に用いた、10種類のシグナル音及び基準シグナル音を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
移動体の乗員に対して行う報知には、乗員に緊張感を与えつつ確実に伝達すべき緊急性の高い報知から、乗員が報知に気付かなくても特に大きな問題を生じない重要度の低い報知まで、様々な報知があり得る。
【0012】
中でも、緊急度又は重要度が中程度の報知は、移動体における運転者の安全運転を支援する観点で大きな意味を用い得る。例えば、移動体の側方から接近しつつある他の移動体についての情報は、当該他の移動体が未だ遠くにあって緊急性ないし重要度は高くない時点においても、乗員に確実に報知して早期に運転操縦に反映できるようにすることが望ましい場合が多々あり得る。
【0013】
このような緊急度又は重要度が中程度の報知は、緊急性の高い報知のような過度の緊張感を運転者に与えることなく、その一方、運転者がその報知に気づきやすいことが必要となる。しかしながら、そのような報知を、技術的にどのように実現するかについての明確な指針は見受けられない。
【0014】
本願発明の発明者は、上記の課題認識に立ち、特に、緊急度又は重要度が中程度の報知に関し、移動体の乗員に効果的に伝達し得る報知の態様について鋭意研究を行った。
【0015】
発明者は、まず、報知の緊急度又は重要度の程度を、低レベル、中レベル、及び高レベルの3つのレベルに分け、それぞれのレベルに応じた報知として、「情報提供」、「注意喚起」、及び「警報」の報知を次にように定義する。
【0016】
まず、「情報提供」とは、運転者が無視しようとすれば無視し得る程度の顕著性をもって行われる報知であって、運転行動に関して運転者が行う随意的な注意配分を阻害しない報知、と定義する。「情報提供」における報知の対象は、運転者が現在の運転操作を維持しても不利な状態が発生しない情報である。例えば、ナビゲーション装置からの情報に基づいて行われる、「100m先が渋滞しています」、「もうすぐ目的地です」等の交通情報や経路案内の情報は、「情報提供」による報知の対象となり得る。
【0017】
また、「警報」とは、運転者の意識に積極的に介入して、強制的に運転者の注意を引くことのできる程度の顕著性をもって行われる、移動体の状況についての報知、と定義する。「警報」による報知の対象は、特に緊急性の高い状況に関する情報であり、例えば、運転者の運転操作によっては深刻な結果をもたらすこととなる状況や、状況が切迫していて運転支援システム等の状況判断を優先する必要のある状況についての情報である。例えば、移動体である自車両と他車両等の交通参加者との接触リスクが切迫している状況や、自車両がレーンを大きく逸脱している状況等は、「警報」による報知の対象となり得る。
【0018】
また、「注意喚起」とは、運転者の注意を移動体の状況把握に向けて適格に誘導するための報知であって、運転者において運転行動についての随意的な注意配分を優先し得る程度の顕著性をもって行われる報知、と定義する。「注意喚起」による報知の対象は、可能性は高くないものの運転者にとって不利な事態を招くかもしれない状況や、運転者の状況判断を優先して対処することが望ましい状況である。例えば、自車両に他車両等の交通参加者が接近しつつある状況や、自車両がレーンマーカに接近しつつある状況等は、「注意喚起」による報知の対象となり得る。
【0019】
本願発明の発明者は、上記定義により、「警報」及び「情報提供」と比較した、「注意喚起」の報知において注目すべき観点を明らかにした上で、そのような「注意喚起」の報知を効果的に行うための音響について、詳細な実験を行った。
本願発明は、発明者が鋭意実験を行うことにより初めて明らかとなった音響による注意誘導及び注意方向の伝達についての新たな知見に基づいて成されたものである。
【0020】
以下に示す報知システムは、上記知見に基づき、特に、報知の緊急度又は重要度が中程度である場合の「注意喚起」の報知を、運転者に不要な緊張を与えることなく且つ運転者が気付きやすい音響により行う。
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る報知システム1について説明する。
図1は、報知システム1の構成を示す図である。報知システム1は、移動体に関わる情報を当該移動体の乗員に報知する。移動体は、本実施形態では車両2である。車両2は、例えば自動車である。ただし、報知システム1が対象とする移動体は、人が搭乗して利用する任意の乗り物であり得る。例えば、移動体は、自動車に限らず、二輪自動車及び自転車等を含む、陸上を走行するその他の陸上移動体であってもよい。あるいは、移動体は、船舶等の海を移動する海洋移動体、航空機等の空中移動体、又は宇宙船等の宇宙移動体であってもよい。
【0022】
報知システム1は、車両2に搭載された報知装置3と、報知装置3に接続された一つ又は複数の車載のスピーカを含む。
図2は、車両2に設けられる各スピーカの配置の例を示す図である。本実施形態では、報知システム1は、運転席前方のインストルメントパネル上に配された速度計等を含むメータが備えるメータスピーカ4aと、運転席から視て右前方に配された右前方スピーカ4bと、左前方に配された左前方スピーカ4cと、右後方に配された右後方スピーカ4dと、左後方に配された左後方スピーカ4eとを含む。
【0023】
右前方スピーカ4b及び左前方スピーカ4cは、それぞれ、例えば、右前方ドア及び左前方ドアに設けられる。また、右後方スピーカ4d及び左後方スピーカ4eは、それぞれ、例えば、右後方ドア及び左後方ドアに設けられる。報知システム1は、更に、運転席のヘッドレスト8に配されたヘッドレストスピーカ4fを含む。ヘッドレストスピーカ4fは、運転席に着座する運転者の頭部の右側に配された右スピーカ41と、頭部の左側に配された左スピーカ42とを含む。
【0024】
以下、メータスピーカ4a、右前方スピーカ4b、左前方スピーカ4c、右後方スピーカ4d、左後方スピーカ4e、及びヘッドレストスピーカ4f(右スピーカ41及び左スピーカ42を含む)を総称してスピーカ4ともいうものとする。
【0025】
報知装置3は、また、接近検知装置5、ナビゲーション装置6、及びADAS(Advanced Driver-Assistance System)7と、通信可能に接続されている。接近検知装置5は、従来技術に従い、車両2が備えるカメラ、レーダ、ソナー等(いずれも不図示)からのセンサ情報に基づいて、他車両等の交通参観者の車両2への接近、あるいは、それら交通参加者と車両2との接触リスクの存在を検知する。接近検知装置5は、上記検知の結果についての通知を報知装置3へ送信する。
【0026】
ナビゲーション装置6は、従来技術に従い、車両2が備えるGPS受信機(不図示)からの位置情報に基づいて、車両2の乗員に経路案内を行うと共に、交通管制サーバ等からの情報に基づいて、車両2の乗員に渋滞や天候状態等の情報を提供する。ナビゲーション装置6は、経路案内についての通知、及び渋滞や天候状態等についての通知を、報知装置3へ送信する。
ADAS7は、従来技術に従い、車両2の走行位置とレーン(車線)との位置関係を検知してレーンキープ走行を行ったり、先行車と車両2との車間距離を検知して追従走行等を行う。ADAS7は、上記検知したレーンとの位置関係や車間距離についての通知を、報知装置3へ送信する。
【0027】
報知システム1を構成する報知装置3は、接近検知装置5、ナビゲーション装置6、及びADAS7から送信される通知を受信し、それらの通知に基づき、スピーカ4により、車両2に関わる情報を当該車両2の運転者を含む乗員に報知する。
【0028】
報知システム1を構成する報知装置3は、プロセッサ10と、メモリ11と、を有する。メモリ11は、例えば、揮発性及び又は不揮発性の半導体メモリ、及び又はハードディスク装置等により構成される。
【0029】
プロセッサ10は、例えば、CPU等を備えるコンピュータである。プロセッサ10は、プログラムが書き込まれたROM、データの一時記憶のためのRAM等を有する構成であってもよい。そして、プロセッサ10は、機能要素又は機能ユニットとして、レベル決定部12と、警報部13と、注意喚起部14と、情報提供部15と、を備える。また、注意喚起部14は、機能要素又は機能ユニットとして、注意音生成部16と、出力部17と、を有する。
【0030】
プロセッサ10が備えるこれらの機能要素は、例えば、コンピュータであるプロセッサ10が、メモリ11に保存されたプログラムを実行することにより実現される。なお、プログラムは、コンピュータ読み取り可能な任意の記憶媒体に記憶させておくことができる。これに代えて、プロセッサ10が備える上記機能要素の全部又は一部を、それぞれ一つ以上の電子回路部品を含むハードウェアにより構成することもできる。
【0031】
レベル決定部12は、接近検知装置5、ナビゲーション装置6、及びADAS7から、車両2と交通参加者との接近状況についての通知、経路案内についての通知、及び車両2の走行状況についての通知を受信し、これらの通知についての緊急度及び又は重要度のレベルである通知レベルを、例えば「高」、「中」、「低」の3段階で決定する。
【0032】
例えば、レベル決定部12は、通知の内容と当該通知の内容に応じて予め定められた通知レベルと、を関連付けたレベル情報を参照して、上記受信した通知についての通知レベルを決定するものとすることができる。上記レベル情報は、予めメモリ11に記憶しておくものとすることができる。
【0033】
レベル決定部12は、受信した通知の通知レベルが「高」又は「低」であるときは、それぞれ、当該受信した通知についての報知を警報部13又は情報提供部15に指示する。また、レベル決定部12は、受信した通知の通知レベルが「中」であるときは、当該受信した通知についての報知を注意喚起部14に指示する。
【0034】
レベル決定部12は、上記受信した通知に、リスクの到来方向(例えば、車両2に接近する交通参加者の到来方向や、交差点での車両2の右左折時における道路横断者が存在する方向など)についての情報が含まれるときは、当該リスクの到来方向についての情報(例えば、車両2の進行方向に対する相対方向)を、上記報知の指示に含めて、警報部13、注意喚起部14、又は情報提供部15へ送信する。
【0035】
警報部13は、レベル決定部12からの指示に基づき、上述した「警報」の態様の通知を行う。例えば、警報部13は、従来技術に従い、繰り返し周期が短く周波数の高いビープ音を、車両2の乗員が驚愕しない範囲の比較的大きな音量でスピーカ4により出力する。このような警報のためのビープ音は、例えば、車両2の乗員に確実に伝えることを最優先とし、車両2の乗員に与える過度な緊張感への配慮は優先されることなく決定され得る。
【0036】
情報提供部15は、レベル決定部12からの指示に基づき、上述した「情報提供」の定義に沿った態様の通知を行う。例えば、情報提供部15は、従来技術に従い、繰り返し周期が短く周波数の高いビープ音を、スピーカ4により出力する。このような「警報」のためのビープ音は、例えば、車両2の乗員に確実に伝えることを最優先とし、車両2の乗員に与える過度な緊張感への配慮は優先されることなく決定され得る。
【0037】
情報提供部15は、レベル決定部12から指示された通知についての報知を、上述した「情報提供」の態様で行う。例えば、情報提供部15は、従来技術に従い、人が交わす通常会話程度の音量のチャイム音をスピーカ4に出力する。このような「情報提供」のための報知音は、例えば、乗員への伝達の確実性は副次的なものとし、車両2の乗員の注意力を阻害しないことを優先して決定され得る。
【0038】
注意喚起部14は、レベル決定部12から指示された通知についての報知を、上述した「注意喚起」の態様で行う。
【0039】
上述したように、報知システム1において行われる「注意喚起」の報知は、発明者の調査及び実験により得られた、音響による注意誘導及び注意方向の伝達についての新たな知見に基づいている。
【0040】
図3は、注意喚起の報知に用いる音響の時間強度波形を定義する図である。
図3に示すように、この音響は、所定の持続時間Dで持続する複数回のシグナル音Ssで構成されたビープ音である。以下、このビープ音を、注意音Saという。
図3において、各シグナル音の最大強度をL(dB)、最大強度までの立上り時間をd1(ms)、最大強度から強度ゼロ(無音)までの立下り時間をd2(ms)、時間的に隣接する2つのシグナル音の間の無音時間である時間間隔をITI(ms)とする。また、注意音Saを構成するシグナル音Ssの繰返し回数をNrepとする。また、それぞれのシグナル音Ssが含む周波数成分の周波数をF1、F2、…、Fnとする。
なお、本明細書においてdBで表される音の強度は、A特性音圧レベルとして測定された値(騒音レベル)である。
【0041】
以下、
図3に示す持続時間D、最大強度L(dB)、立上り時間d1(ms)、立下り時間d2(ms)、時間間隔ITI(ms)、繰返し回数Nrep、及び周波数成分F1、F2、…、Fnを総称して、シグナル音パラメータともいうものとする。
【0042】
図4は、発明者が行った調査及び実験により得られた知見を示している。
図4に示す知見のうち、注意音Sa又はシグナル音Ssについて考慮すべき知見として、以下が挙げられる。
・(知見1)高齢者が聞き取れるようにするために、シグナル音は、1kHz以上、2kHz以下の周波数を持つ周波数成分を含むことが好ましい。
・(知見2)移動体の乗員に驚愕反応を起こさせたり、警報となり得るほどの強制感、切迫感、あるいは危機感覚を乗員に与えないために、「注意喚起」の報知に用いるシグナル音Ss(又は注意音Sa)は、シグナル音パラメータが以下の値範囲であることが好ましい。
・繰返し回数Nrepは、4回以下。
・持続時間Dと時間間隔ITIの合計は、200ms以上。
・立上り時間d1は、60ms以上。
・最大強度Lは65dB未満。
・(知見3)注意喚起の報知において、移動体に対するリスクの到来方向を音像定位により乗員に知らせるためには、シグナル音は、周波数成分を複数含むことが好ましく、また、持続時間Dが、100ms以上であることが好ましい。
【0043】
以下、発明者が更に行った実験とその結果について説明する。
まず、予備実験として、車両2のメータスピーカ4a、右前方スピーカ4b、右後方スピーカ4d、及びヘッドレストスピーカ4fと同様な配置のスピーカを用いて、被験者が知覚する音響周波数の範囲ばらつきを確認した。
図5は、各スピーカからの音響に対して各被験者が知覚した音響周波数の、下限値及び上限値を示している。
図5に示す結果より、シグナル音の周波数成分は、全被験者が知覚した100Hz以上、12kHz以下の範囲で決定することとした。
【0044】
次に、シグナル音の周波数と音像定位との関係に関する実験について説明する。
図6は、シグナル音周波数と音像定位との関係に関する第1の実験の結果を示す図である。
図6の実験では、被験者の右前方に配した音源としてのスピーカから、シグナル音として種々の単一周波数の音を独立に出力した場合に、被験者が音源方向を正しく認識できるか否か(
図5の表中に、それぞれ〇、×で示す)を調査した。
図5の表に示す「手掛り率」は、音源方向を正しく認識できた被験者の数の、全被験者数に対する比率である。実験における被験者の数は5名、実験に用いたシグナル音パラメータの各数値は、Nrep=5、ITI=50ms、D=500ms、d1=60ms、d2=60ms、L=45dBである。
【0045】
図6より、下記の知見を得た。
・(知見4)全被験者において、300Hz以上、1kHz以下の低周波数領域において、方向手掛かりとなる周波数要素が少なくとも1つ含まれる。
・(知見5)3500Hz及び4500Hzの中周波数、及び7kHz以上、9kHz以下の高周波数において、方向手掛かりとなる周波数要素が少なくとも1つ持つ被験者が多い。
【0046】
図7は、シグナル音周波数と音像定位との関係に関する第2の実験の結果を示す図である。
図7の実験では、
図7に示す実験結果において手掛り率が0.6以上であった周波数を組合せて構成されたシグナル音をスピーカから出力した場合に、被験者が音源方向を正しく認識できるか否かを調査した。音源として、車両2における右前方スピーカ4b、左前方スピーカ4c、右後方スピーカ4d、左後方スピーカ4e、並びにヘッドレストスピーカ4fの右スピーカ41及び左スピーカ42と同様な配置のスピーカを用いた。被験者の数は5、シグナル音パラメータの各値は
図5における値と同じである。
【0047】
図7に示す各数値は手掛り率、すなわち、音源方向を正しく認識できた被験者の数の、全被験者数に対する比率である。
図7において、「低周波数組合せ」とは、周波数300Hz、500Hz、750Hz、及び1000Hzの4つの周波数成分を含むシグナル音を意味する。また、「中周波数組合せ」とは、周波数3500Hz及び4500Hzの2つの周波数成分を含むシグナル音を意味する。また、「高周波数組合せ」とは、周波数7kHz、8kHz、及び9kHzの3つの周波数成分を含むシグナル音を意味する。
【0048】
また、
図7より、下記の知見が得られた。
・(知見6)中周波数組合せにおける後方スピーカについての音像定位を除き、低周波数組合せ、中周波数組合せ、及び高周波組合せのいずれにおいても、ほとんどの被験者において音像定位が正確に行われ得る。
【0049】
図8は、シグナル音周波数と音像定位との関係に関する第3の実験の結果を示す図である。
図8の低周波数の測定では、
図7の実験と同じスピーカ配置を用いて、それぞれのスピーカから、順次、低帯域の4つの周波数要素の音(300Hz、500Hz、750Hz、及び1000Hz)を含むシグナル音を同時に出力し、出力したスピーカから注意音が聴こえるか否かの回答を被験者から取得した。同様に、中周波数の測定では、中帯域の2つの周波数要素の音(3500Hz及び4500Hz)、高周波数の測定では、高帯域の3つの周波数要素の音(7kHz、8kHz、及び9kHz)を含むシグナル音を同時に出力して、注意音が聴こえるか否かの回答を被験者から取得した。
図8の表中に示す各数値は手掛り率である。オーディオシステムの都合のため、右前方スピーカ及び左前方スピーカについては2回の測定となった。被験者の数は5、シグナル音パラメータの各値は
図5における値と同じである。
【0050】
図8の結果より、下記の知見が得られた。
・(知見7)低周波組合せの成分(300Hz以上1kHz以下)が含まれれば、8割以上の被験者において、左右前方の音像定位及びヘッドレストスピーカに基づく左右後方の音像定位を、正しく行うことができる。
・(知見8)周波数帯域に依らず、右後方スピーカ及び左後方スピーカによる後方の音像定位は困難となる傾向がある。
【0051】
図9は、シグナル音パラメータと音像定位との関係について評価した結果である。具体的には、シグナル音の持続時間D、立上り時間t1、及び立下り時間t2についての8組の値の組み合わせと、音像定位の成功割合との関係を評価した。
図9の表中に示す音像定位成功割合とは、全被験者5名のうち吹鳴しているスピーカの方向に音像が定位されたと回答した被験者の割合である。なお、評価に用いたシグナル音は、300Hz以上1kHz以下の帯域のうちから選択した300Hz、500Hz、750Hz、及び1000Hzの4個とした。被験者の数は5、シグナル音パラメータの各値は
図5における値と同じである。
【0052】
図9の結果より、下記の知見が得られた。
・(知見9)
図9に示す各パラメータの値範囲においては、各パラメータの値と、正確な音像定位を行った被験者の割合と、の間に相関関係は認められない。
【0053】
次に、発明者が行った、シグナル音の周波数成分と、シグナル音の聞き取り易さとの関係についての実験結果について説明する。
図10は、シグナル音の周波数成分とシグナル音の聞き取り易さとの関係についての実験の結果を示す図である。
図10の実験では、3kHzまでの周波数帯域内に60±3dBの強度を持つ模擬騒音が存在する環境下において、1kHz以上の一つ又は複数の周波数成分を含むシグナル音(連続音)を、徐々に強度(音量)を上げながら出力し、上記騒音下において被験者10人のそれぞれがシグナル音を認識したときの当該シグナル音の強度を、最低可聴音量として記録した。
【0054】
図10において、縦軸は最低可聴音量を示す。
図10の棒グラフは、図示左から、それぞれ、シグナル音の周波数成分を、2kHz単一、2kHz+3kHz、2kHz+4kHz、1kHz+2kHz+3kHz+5kHz、2kHz+6kHz+10kHzとしたときの、被験者10人における最低可聴音量の平均値を示している。
【0055】
図10の結果より、下記の知見が得られた。
・(知見10)1kHz以上の周波数成分を含むシグナル音は、シグナル音が複数の周波数成分を有することより最低可聴音量が減少し、乗員にとってより聞き取りやすいものとなり得る。
【0056】
次に、発明者が行った、報知の緊急度及び重要度に適合するシグナル音パラメータについての、主観評価の結果について説明する。
この主観評価は、4名の被験者のそれぞれに、車両の運転者が遭遇する種々の走行シーンを表示装置のモニタ画面により提示し、各シーンについて各被験者が行った緊急度及び重要度の評価の結果と当該評価に適したシグナル音の選択の結果と、を集計することで行った。
【0057】
走行シーンには、市街地を走行する車両の前の横断歩道の近くで歩行者が携帯電話で会話しているシーンや、車両が交差点を右左折する際に自転車が車両前を横切るシーン等が含まれる。また、シグナル音の選択肢は、
図11に示す、シグナル音パラメータの種々の組み合わせを有するT1からT10までの10個のシグナル音とした。
図11にR1及びR2で示すシグナル音は、シグナル音を選択する場合の基準として被験者に呈示した基準シグナル音である。R1は、緊急度及び重要度が共に最低評価である場合に対応する基準シグナル音であり、R2は、緊急度及び重要度が共に最高評価である場合に対応する基準シグナル音である。
【0058】
具体的には、それぞれの被験者は、画面上に走行シーンが提示されるごとに、その走行シーンの緊急度及び重要度の評価を、それぞれ、リニアスケールの評価線分上の位置として入力する。そして、被験者に、R1、R2、及びT1からT10までのシグナル音を順次提示し、被験者は、上記評価に適したシグナル音を選択する。
緊急度及び重要度のそれぞれの評価に用いた上記リニアスケールの評価線分は、当該線分を3等分することにより、その中央の区間が、それぞれ緊急度又は重要度が中程度である区間として把握され得る。
【0059】
上記主観評価の結果として、下記の知見が得られた。
・(知見11)緊急度又は重要度が中程度である走行シーンでは、被験者は、
図11に示すT3で規定されるシグナル音での報知を適切と感じる傾向がある。
【0060】
上述において(知見1)から(知見11)までに示した各知見に基づき、報知システム1では、少なくとも車両2の乗員(運転者を含む)への確実な伝達を図りつつも乗員に不要な緊張を与えない観点から、注意喚起部14の注意音生成部16は、下記のような条件Aにより、「注意喚起」の報知音としての注意音Saを生成する。注意音生成部16が生成した注意音は、出力部17によりスピーカ4から出力される。
(条件A)
・上述した(知見2)に基づき、シグナル音Ssの時間間隔ITIは200ms以上、立上り時間d1は60ms以上、最大強度Lは、45dB以上65dB未満の範囲とする。
・また、上述した(知見1)及び(知見10)に基づき、シグナル音Ssは、1000Hz以上、2000Hz以下の周波数を有する少なくとも1つの周波数成分を含むものとする。
【0061】
例えば、注意音生成部16は、上記条件に合致する報知音として、シンセサイザ等(不図示)により次のような注意音Saを生成する。
・シグナル音Ssの周波数成分の数は1つで、周波数は1.5kHz。
・Nrep=2回、L=55dB、D=150ms、ITI=200ms、d1=60ms、d2=40ms。
【0062】
これにより、報知システム1では、車両2の乗員への確実な伝達を図りつつも、車両2の運転者に不要な緊張を与えて運転操縦に影響を及ぼしてしまうという事態を避けることができる。
【0063】
上記の条件Aにおいて、シグナル音Ssの最大強度Lの範囲を下記のように広げても良い。
・シグナル音Ssの最大強度Lを、41dB以上、74dB未満の範囲とする。
【0064】
上記のように最大強度Lの下限範囲を条件Aで規定する45dB以上から41dB以上に広げることで、注意音Saが車両2の運転者に与える緊急度及び重要度の程度の範囲をより緩和し、且つ運転者が注意音に対して感じる煩わしさをより低減することができる。なお、最大強度Lの下限値を41dBとするのは、41dB未満の強度では、車両2の運転者に与える緊急度及び重要度の程度が緩和され過ぎ、注意喚起としての効果が失われ得るためである。
【0065】
また、最大強度Lの上限範囲を条件Aで規定する65dB未満から74dB未満に広げることで、車両2の車室内環境における暗騒音が従来では考えられないような(例えば、設計時における通常の想定を超えるような)レベルとなった場合でも、運転者が注意音に気付けるようにすることができる。また、これにより、注意音が車両2の運転者に与える緊急度及び重要度の程度を高めて、注意喚起を目的とする注意音Saが情報提供のための通知音と誤認される可能性を低減することができる。なお、最大強度Lの上限値を74dBとするのは、74dB以上の強度では、車両2の運転者に与える緊急度及び重要度の程度が大きくなり過ぎ、上述において「運転者において運転行動についての随意的な注意配分を優先し得る程度の顕著性をもって行われる報知」と定義した注意喚起の範囲を逸脱した注意音となってしまうためである。
【0066】
なお、条件Aのようにシグナル音Ssの最大強度Lを45dB以上65dB未満の範囲とする場合には、最大強度Lを41dB以上74dB未満の範囲とする場合に比べて、注意音Saが運転者に感じさせる緊急度及び重要度の程度と煩わしさの程度とを、よりバランスさせることができる。
【0067】
また、上記の条件Aに加えて、複数回のシグナル音Ssの繰返し回数Nrepは、上述の(知見2)に基づき、下記の範囲とすることが好ましい。
・注意音Saにおける複数回のシグナル音Ssの繰返し回数Nrepは、4回以下。
【0068】
上記の条件Aに加えて、更に、注意音生成部16は、車両2に到来するリスクの方向(例えば、車両2に接近する交通参加者の到来方向)を注意音Saによる音像定位により乗員に示す観点から、「注意喚起」の報知に用いる注意音Saについてのより好ましい条件として、下記のような条件Bを加えてもよい。
(条件B)
・上述の(知見3)に基づき、持続時間Dは100ms以上とする。
・また、上述の(知見3)、(知見4)、(知見7)に基づき、シグナル音Ssは、300Hz以上、1000Hz以下の周波数を有する少なくとも2つの周波数成分を更に含むものとする。
【0069】
例えば、注意音生成部16は、リスク方向の音像定位に適した「注意喚起」の報知音として、次のような注意音Saを生成する。
・シグナル音Ssの周波数成分は3つで、それぞれの周波数成分の周波数は、300Hz、750Hz、及び1.5kHz。
・Nrep=3回、L=55dB、D=200ms、ITI=200ms、d1=60ms、d2=40ms。
【0070】
これにより、報知システム1では、車両2の乗員への確実な伝達を図りつつ、車両2の運転者に不要な緊張を与えて運転操縦に影響を及ぼしてしまうという事態を避けつつ、且つ、リスクの到来方向を乗員に伝達することができる。
【0071】
また、注意音生成部16は、緊急度又は重要度が中程度である場合の報知音の、移動体乗員における受容性を高める観点から、「注意喚起」の報知に用いる注意音Saについての更に好ましい条件として、上記の条件Bを更に制限してもよい。
【0072】
具体的には、上述の(知見11)に基づき、
図11にT3で示す条件を中心として、例えば注意音生成部16が設定を行うシンセサイザ等の音源回路(不図示)における設定誤差を許容するための許容誤差を加味し、下記の条件Cを用いるものとすることができる。
(条件C)
・持続時間Dは、100±20ms以上200±20ms以下。
・時間間隔ITIは200ms以上220ms以下。
・立上り時間d1は120±12ms、立下り時間d2は80±12ms。
・最大強度Lは、45dB以上60dB以下。
・1000Hz以上2000Hz以下の少なくとも1つの周波数成分と、300Hz以上1000Hz以下の少なくとも2つの周波数成分を含む。
【0073】
例えば、注意音生成部16は、
図11にT3で示す注意音と同様な、次のような注意音Saを生成するものとすることができる。
・持続時間D=200ms
・時間間隔ITI=200ms
・立上り時間d1=120ms
・立下り時間d2=80ms
・最大強度L=55dB
・300Hz、750Hz、及び1.5kHzの3つの周波数成分を含む。
【0074】
これにより、報知システム1では、車両2の乗員への確実な伝達を図りつつ、車両2の運転者に不要な緊張を与えて運転操縦に影響を及ぼしてしまうという事態を避けつつ、且つリスクの到来方向の伝達を可能としつつ、乗員にとって受容性の高い「注意喚起」の報知を行うことができる。
【0075】
図1を参照し、出力部17は、注意音生成部16が生成した注意音を、スピーカ4から出力する。出力部17は、レベル決定部12からの報知指示にリスクの到来方向についての情報が含まれるときは、車両2に到来するリスクの方向を、音像定位により車両2の乗員に示す。
【0076】
本実施形態では、上述した(知見8)に基づき、出力部17は、音像定位に適したスピーカ4として、右前方スピーカ4b、左前方スピーカ4c、並びに、ヘッドレストスピーカ4fの右スピーカ41及び左スピーカ42のうちから、一つ又は複数のスピーカ4を選択して用いる。
【0077】
なお、本発明は上記の実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0078】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0079】
(構成1)移動体に関わる情報を当該移動体の乗員に報知する報知システムであって、注意音を生成する注意音生成部と、前記移動体の室内に配されて、前記生成された注意音を出力する一つ又は複数のスピーカと、を備え、前記注意音生成部が生成する前記注意音は、所定の持続時間で持続するシグナル音の、複数回の繰り返しで構成され、前記シグナル音は、最大強度に至るまでの立上り時間が60ms以上であって、最大強度が41dB以上、74dB未満であり、1000Hz以上、2000Hz以下の周波数を有する少なくとも1つの周波数成分を含み、時間的に隣接する2つの前記シグナル音の間の時間間隔は200ms以上である、報知システム。
構成1の報知システムによれば、緊急度又は重要度が中程度である場合の報知において、移動体の乗員への確実な伝達を図りつつも、移動体の運転者に不要な緊張を与えて運転操縦に影響を及ぼしてしまうという事態を避けることができる。
【0080】
(構成2)前記シグナル音の最大強度は、45dB以上、65dB未満である、構成1に記載の報知システム。
構成2の報知システムによれば、注意音が乗員に感じさせる緊急度及び重要度の程度と煩わしさの程度とを、よりバランスさせることができる。
【0081】
(構成3)前記注意音は、所定の持続時間で持続する前記シグナル音の、2回以上4回以下の繰り返しにより構成される、構成1又は2に記載の報知システム。
構成3の報知システムによれば、乗員の注意をより確実に喚起しつつも、乗員に対し不要な切迫感等を与えたり煩わしさを感じさせるのを回避することができる。
【0082】
(構成4)前記シグナル音は、前記持続時間が100ms以上であり、300Hz以上、1000Hz以下の周波数を有する少なくとも2つの周波数成分を更に含む、構成1ないし3のいずれかに記載の報知システム。
構成4の報知システムによれば、緊急度又は重要度が中程度である場合の報知において、移動体の乗員への確実な伝達を図りつつ、移動体の運転者に不要な緊張を与えて運転操縦に影響を及ぼしてしまうという事態を避けつつ、且つ、移動体に接近するリスクの到来方向を乗員に伝達することができる。
【0083】
(構成5)前記シグナル音は、最大強度に至るまでの立上り時間が120±12msの範囲であって、前記持続時間が、100±20ms以上200±20ms以下であり、最大強度から無音状態までの立下り時間が80±12msの範囲であり、300Hz以上1000Hz以下の周波数を有する少なくとも2つの周波数成分を更に含み、時間的に隣接する2つの前記シグナル音の間の時間間隔は200ms以上220ms以下である、構成1ないし3のいずれかに記載の報知システム。
構成5の報知システムによれば、緊急度又は重要度が中程度である場合の報知において、移動体の乗員への確実な伝達を図りつつ、移動体の運転者に不要な緊張を与えて運転操縦に影響を及ぼしてしまうという事態を避けつつ、且つ、移動体に接近するリスクの到来方向の伝達を可能としつつ、乗員にとって受容性の高い報知を行うことができる。
【0084】
(構成6)前記移動体は車両であり、前記乗員は前記車両の運転者であって、 前記注意音を前記スピーカから出力して、前記移動体に到来するリスクの方向を音像定位により前記乗員に示す出力部を更に備え、前記出力部は、前記車両の運転席の左前方及び右前方にそれぞれ設けられた前記スピーカと、前記運転席のヘッドレストの左右に一つずつ設けられた前記スピーカと、のうちから、前記音像定位に用いるスピーカを選択する、構成1ないし5のいずれかに記載の報知システム。
構成4の報知システムによれば、移動体に接近するリスクの到来方向の伝達を、より確実に行うことができる。
【符号の説明】
【0085】
1…報知システム、2…車両、3…報知装置、4…スピーカ、4a…メータスピーカ、4b…右前方スピーカ、4c…左前方スピーカ、4d…右後方スピーカ、4e…左後方スピーカ、4f…ヘッドレストスピーカ、41…右スピーカ、42…左スピーカ、5…接近検知装置、6…ナビゲーション装置、7…ADAS、8…ヘッドレスト、10…プロセッサ、11…メモリ、12…レベル決定部、13…警報部、14…注意喚起部、15…情報提供部、16…注意音生成部、17…出力部。