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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132320
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20240920BHJP
   F16H 61/48 20060101ALI20240920BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20240920BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F02D41/04
F16H61/48
F02D29/00 B
E02F9/20 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043064
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大前 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲二
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 幸次
【テーマコード(参考)】
2D003
3G093
3G301
3J053
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB06
2D003BA02
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB03
2D003DB06
2D003FA02
3G093AA05
3G093AA08
3G093DA01
3G093DA06
3G093EA03
3G301JA32
3G301KA20
3G301NE18
3G301PE01
3G301PF01
3G301PF08
3J053BA01
3J053BB13
3J053DA14
3J053FA03
(57)【要約】
【課題】作業性能の低下を抑えつつ、トルクコンバータにおけるオーバーヒートの発生を抑制することが可能な作業車両を提供する。
【解決手段】トルクコンバータ式の走行駆動システムが搭載されたホイールローダ1において、メインコントローラ5は、車速センサ43で検出された走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上であって、かつ、車体の前後進が切り替わった場合に、トルクコンバータの油温Tが高いほど、エンジン30の回転数の上限値Nmaxを低く制限する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪が設けられた車体と、
前記車体に搭載されたエンジンと、
前記エンジンの駆動力を作動流体を介して前記車輪に伝達するトルクコンバータと、
前記車体の走行速度を検出する車速センサと、
前記車体の進行方向を指示する前後進指示装置と、
操作量に応じて前記エンジンの目標回転数を指示する目標回転数指示装置と、
前記目標回転数指示装置により指示される前記目標回転数に基づいて、前記エンジンの回転数を制御するコントローラと、
を備えた作業車両において、
前記トルクコンバータの前記作動流体の温度を検出する温度センサを有し、
前記コントローラは、
前記車速センサで検出された走行速度が所定の速度閾値以上であって、かつ、前記前後進指示装置により指示された前記車体の進行方向が現在の進行方向と反対の方向である場合に、前記温度センサで検出された前記作動流体の温度が高いほど、前記エンジンの回転数の上限値を低く制限する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両において、
前記コントローラは、
前記車速センサで検出された走行速度が前記速度閾値以上であって、かつ、前記前後進指示装置により指示される前記車体の進行方向が現在の進行方向と反対の方向である場合に、
前記温度センサで検出された前記作動流体の温度が所定の温度閾値未満であるときには、前記エンジンの回転数の上限値を所定の第1制限値に制限し、
前記温度センサで検出された前記作動流体の温度が前記温度閾値以上であるときには、前記第1制限値よりも低く、前記エンジンの回転数がローアイドル状態の回転数よりも高い範囲で、前記温度センサで検出された前記作動流体の温度が高いほど、前記エンジンの回転数の上限値を低く制限する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1に記載の作業車両において、
前記コントローラは、
前記車速センサで検出された走行速度が前記速度閾値よりも低くなった場合に、前記エンジンの回転数の上限値の制限を解除する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項1に記載の作業車両において、
前記コントローラは、
前記前後進指示装置により指示された前記車体の進行方向が前記車体を停止させる中立状態である場合に、前記エンジンの回転数の上限値の制限を解除する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項5】
請求項1に記載の作業車両において、
前記コントローラは、
前記車速センサで検出された走行速度が前記速度閾値以上のままで、前記前後進指示装置により指示された前記車体の進行方向が現在の進行方向から現在の進行方向と反対の方向をへて現在の進行方向と同じ方向に戻された場合に、前記エンジンの回転数の上限値の制限を解除する
ことを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータ式の走行駆動システムが搭載された作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両であるホイールローダでは、走行したままの状態で前後進を切り替えたり、作業装置を作業対象物である地山に突入させたりするなど、急激な加速や減速により、車体に大きな走行負荷がかかる動作が多く行われる。特に、トルクコンバータ式の走行駆動システムが搭載された作業車両の場合には、車体に大きな走行負荷がかかると、トルクコンバータ内を流れる作動油の温度(いわゆるトルコン油温)が上昇し、トルクコンバータがオーバーヒートすることがある。そこで、トルクコンバータにおけるオーバーヒートの発生を防止する方法として、エンジンの出力を低下させる方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された作業車両では、トルクコンバータの入力回転数に対する出力回転数の比であるトルクコンバータの速度比が0に近い状態であるストール気味の状態もしくはトルクコンバータの速度比が0の状態であるストール状態になると、エンジンでの燃料噴射量を調整することで、エンジンの出力トルクを低下させる制御を行い、トルクコンバータの発熱を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5091953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された制御方法では、トルクコンバータがストール気味もしくはストール状態になると、エンジンでの燃料噴射量を調整してエンジンの出力トルクを低下させることから、ホイールローダは、掘削作業時などの最大けん引力を必要とする場面で十分なけん引力を発揮することができず、作業性能が低下してしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、作業性能の低下を抑えつつ、トルクコンバータにおけるオーバーヒートの発生を抑制することが可能な作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、車輪が設けられた車体と、前記車体に搭載されたエンジンと、前記エンジンの駆動力を作動流体を介して前記車輪に伝達するトルクコンバータと、前記車体の走行速度を検出する車速センサと、前記車体の進行方向を指示する前後進指示装置と、操作量に応じて前記エンジンの目標回転数を指示する目標回転数指示装置と、前記目標回転数指示装置により指示される前記目標回転数に基づいて、前記エンジンの回転数を制御するコントローラと、を備えた作業車両において、前記トルクコンバータの前記作動流体の温度を検出する温度センサを有し、前記コントローラは、前記車速センサで検出された走行速度が所定の速度閾値以上であって、かつ、前記前後進指示装置により指示された前記車体の進行方向が現在の進行方向と反対の方向である場合に、前記温度センサで検出された前記作動流体の温度が高いほど、前記エンジンの回転数の上限値を低く制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業性能の低下を抑えつつ、トルクコンバータにおけるオーバーヒートの発生を抑制することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るホイールローダの一構成例を示す外観側面図である。
図2】ホイールローダによるVシェープローディングについて説明する説明図である。
図3A】ホイールローダの掘削作業において、バケットを地山に突入させた場面を説明する説明図である。
図3B】ホイールローダの掘削作業において、バケットが荷を掬い上げる場面を説明する説明図である。
図3C】ホイールローダの掘削作業において、荷が積まれた状態のバケットを上方に持ち上げる場面を説明する説明図である。
図4】ホイールローダのかき上げ作業について説明する説明図である。
図5】ホイールローダの駆動システムの一構成例を示すシステム構成図である。
図6】メインコントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図7】トルコン油温とエンジン回転数の上限値との関係を示すグラフである。
図8】メインコントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る作業車両の一態様として、例えば、土砂や鉱物といった作業対象物を掘削してダンプトラックやホッパーなどの積込み先へ積み込む荷役作業を行うホイールローダについて説明する。
【0011】
<ホイールローダ1の全体構成>
まず、ホイールローダ1の全体構成について、図1を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るホイールローダ1の一構成例を示す外観側面図である。
【0013】
ホイールローダ1は、車体が中心付近で中折れすることにより操舵するアーティキュレート式の作業車両である。車体の前部を構成する前フレーム1Aと車体の後部を構成する後フレーム1Bとが、センタジョイント10によって左右方向に回動自在に連結されており、ステアリング操作によって前フレーム1Aが後フレーム1Bに対して左右方向に屈曲する。
【0014】
車体には4つの車輪11が設けられており、2つの車輪11が前輪11Aとして前フレーム1Aの左右両側に、残り2つの車輪11が後輪11Bとして後フレーム1Bの左右両側に、それぞれ設けられている。なお、図1では、4つの車輪11のうち、左側の前輪11Aおよび後輪11Bのみが示されている。
【0015】
前フレーム1Aの前部には、油圧駆動式の作業装置2が取り付けられている。作業装置2は、前フレーム1Aに基端部が取り付けられたリフトアーム21と、リフトアーム21を駆動する2つのリフトアームシリンダ22と、リフトアーム21の先端部に取り付けられたバケット23と、バケット23を駆動するバケットシリンダ24と、リフトアーム21に回動可能に連結されてバケット23とバケットシリンダ24とのリンク機構を構成するベルクランク25と、を有している。
【0016】
なお、2つのリフトアームシリンダ22は、車体の左右方向に並んで配置されているが、図1では、2つのリフトアームシリンダ22のうち、左側に配置されたリフトアームシリンダ22のみを破線で示している。
【0017】
リフトアーム21は、2つのリフトアームシリンダ22のそれぞれに作動油が供給されて各ロッド220が伸縮することにより、前フレーム1Aに対して上下方向に回動する。より具体的には、リフトアーム21は、2つのリフトアームシリンダ22の各ロッド220が伸びることにより前フレーム1Aに対して上方向に回動し、各ロッド220が縮むことにより前フレーム1Aに対して下方向に回動する。
【0018】
バケット23は、バケットシリンダ24に作動油が供給されてロッド240が伸縮することにより、リフトアーム21に対して上下方向に回動する。より具体的には、バケット23は、バケットシリンダ24のロッド240が伸びることによりリフトアーム21に対して上方向に回動し(チルト動作)、ロッド240が縮むことによりリフトアーム21に対して下方向に回動する(ダンプ動作)。
【0019】
なお、バケット23は、例えば、ブレードやプラウなどの各種のアタッチメントに交換することが可能であり、ホイールローダ1は、バケット23を用いた掘削作業の他に、押土作業や除雪作業などの各種作業を行うこともできる。
【0020】
後フレーム1Bには、オペレータが搭乗する運転室12と、ホイールローダ1の駆動に必要な各種の機器類を内部に収容する機械室13と、車体が傾倒しないように作業装置2とのバランスを保つためのカウンタウェイト14と、が設けられている。後フレーム1Bにおいて、運転室12は前部に、カウンタウェイト14は後部に、機械室13は運転室12とカウンタウェイト14との間に、それぞれ配置されている。
【0021】
<荷役作業時におけるホイールローダ1の動作例>
次に、荷役作業時におけるホイールローダ1の動作例について、図2~4を参照して説明する。
【0022】
図2は、ホイールローダ1によるVシェープローディングについて説明する説明図である。図3A~Cは、ホイールローダ1の掘削作業について説明する説明図であり、図3Aは、バケット23を地山101に突入させた場面を、図3Bは、バケット23が荷を掬い上げる場面を、図3Cは、荷が積まれた状態のバケット23を上方に持ち上げる場面を、それぞれ示している。図4は、ホイールローダ1のかき上げ作業について説明する説明図である。
【0023】
まず、ホイールローダ1は、図2に示すように、土砂や鉱物などを含んでなる地山101(作業対象)に向かって低速で前進し(図2に示す矢印X1)、図3Aに示すように、バケット23を地山101に突入させる。
【0024】
次に、図3Bに示すように、オペレータが、バケット23をチルト操作しながらリフトアーム21を上げ操作することにより、または、バケット23をチルト操作した後にリフトアーム21を上げ操作することにより、ホイールローダ1は、土砂や鉱物などの荷を掬い上げる。
【0025】
そして、図3Cに示すように、オペレータが、リフトアーム21をさらに上げ操作することにより、荷が積み込まれた状態のバケット23は上方に持ち上がる。図3A~Cに示されたホイールローダ1の一連の動作が、「掘削作業」に相当する。
【0026】
ホイールローダ1は、掘削作業を終えると、図2に示すように、元の場所に向かって一旦後進する(図2に示す矢印X2)。
【0027】
続いて、オペレータが、進行方向を後進から前進に切り替え操作することにより、ホイールローダ1は、積込み先であるダンプトラック102に向かって前進し、ダンプトラック102の手前で停止するダンプアプローチ動作を行う(図2に示す矢印Y1)。なお、図2では、ダンプトラック102の手前で停止している状態のホイールローダ1を破線で示している。
【0028】
ダンプアプローチ動作では、オペレータはアクセルペダルをいっぱいまで踏み込む(フルアクセル)と共に、リフトアーム21の上げ操作を行う。次に、オペレータは、フルアクセルの状態のままにしてリフトアーム21をさらに上昇させながら、同時にブレーキペダルを少し踏み込んでダンプトラック102に衝突しないよう車速を調整する。そして、オペレータは、ブレーキペダルをさらに踏み込んでダンプトラック102の手前で停止し、バケット23をダンプさせてバケット23内の荷をダンプトラック102へ排出する。
【0029】
ホイールローダ1は、ダンプトラック102への積込み作業が終わると、元の場所に向かって後進する(図2に示す矢印Y2)。
【0030】
このように、ホイールローダ1は、地山101とダンプトラック102との間でV字状に往復走行(図2に示す矢印X1→X2→Y1→Y2の道順を繰り返し走行)する、いわゆる「Vシェープローディング」という方法により、掘削作業および積込み作業を繰り返し行う。
【0031】
なお、掘削作業には、図3A~Cに示すように、ホイールローダ1が平地に設置された状態でバケット23を作業対象物に突入させて土砂や鉱物などを掘削する場合の他に、図4に示すように、ホイールローダ1が作業対象物の斜面上を前進走行しながらバケット23で当該斜面を掘削する場合がある。ホイールローダ1が登坂しながら掘削を行う場合を、特に「かき上げ作業」ということがある。
【0032】
かき上げ作業では、図4に示すように、ホイールローダ1は、作業対象物である地山101に向かって平地を前進走行し、そのまま地山101を登坂しながら作業装置2を操作してその斜面を掘削する。オペレータは、斜面を登って行くにつれてリフトアーム21を上方向に上昇させるように操作する。
【0033】
続いて、オペレータは、バケット23をダンプさせてバケット23内に積み込まれた土砂や鉱物などを地山101の頂上で排出する。その後、ホイールローダ1は、後進しながら斜面を下って元の場所に戻る。
【0034】
ホイールローダ1では、図3A~Cに示す平地での掘削作業時には、地山101に対してバケット23を突入させる力が、図4に示すかき上げ作業時には、地山101の斜面を登る力(登坂能力)が、それぞれ必要になる。そのため、ホイールローダ1は、かき上げ作業を含む掘削作業時に最大けん引力(最大駆動力)を発揮する。
【0035】
<ホイールローダ1の駆動システム>
次に、ホイールローダ1の駆動システムについて、図5を参照して説明する。
【0036】
図5は、ホイールローダ1の駆動システムの一構成例を示すシステム構成図である。
【0037】
ホイールローダ1は、トルクコンバータ式の走行駆動システムによって車体の走行が制御されており、図5に示すように、エンジン30と、エンジン30を制御するエンジンコントローラ30Aと、エンジン30の出力軸に連結されたトルクコンバータ31(以下、「トルコン31」とする)と、トルコン31の出力軸に連結されたトランスミッション32と、エンジンコントローラ30A、トルコン31、およびトランスミッション32を含む各機器を制御するメインコントローラ5と、を備えている。
【0038】
エンジン30は、機械室13内に収容されており、オペレータが、運転室12内に設けられたイグニッションスイッチをONに操作することにより始動し、続いてアクセルペダル121を踏み込むことにより回転する。エンジン30の回転数NE(以下、単に「エンジン回転数NE」とする)は、アクセルペダル121の踏込量に比例し、アクセルペダル121の踏込量が大きくなるにつれて増加する。すなわち、アクセルペダル121は、踏込量(操作量)に応じてエンジン30の目標回転数を指示する目標回転数指示装置に相当する。
【0039】
なお、エンジン回転数NEは、エンジン30に取り付けられた回転数センサ41により検出される。また、アクセルペダル121の踏込量は、アクセルペダル121に取り付けられた踏込量センサ42により検出される。回転数センサ41で検出されたエンジン回転数NEおよび踏込量センサ42で検出されたアクセルペダル121の踏込量はそれぞれ、メインコントローラ5に入力される。
【0040】
エンジンコントローラ41Aは、CAN(Controller Area Network)を介してメインコントローラ5に接続されており、メインコントローラ5から出力される指令信号(アクセルペダル121により指示される目標回転数に係る指令信号)に基づいてエンジン回転数NEを制御する。
【0041】
本実施形態では、ホイールローダ1の駆動システム全体を制御するメインコントローラ5と、エンジン30を制御するエンジンコントローラ30Aとが、別個に設けられているが、これに限られず、1つのコントローラ(メインコントローラ5)でホイールローダ1の駆動システム全体とエンジン30とが制御されてもよい。
【0042】
トルコン31は、インペラ、タービン、およびステータで構成された流体クラッチである。エンジン30の駆動力によりトルコン31の入力軸が回転すると、作動流体としてのトルコン油を介してトルコン31の出力軸が回転し、エンジン30の駆動力がトランスミッション32に伝達される。
【0043】
トルコン31は、入力トルクに対して出力トルクを増大させる機能、すなわちトルク比(=出力トルク/入力トルク)を1以上とする機能を有する。このトルク比は、トルコン31の入力軸の回転速度と出力軸の回転速度の比であるトルコン速度比(=出力軸回転速度/入力軸回転速度)が大きくなるにつれて小さくなる。これにより、エンジン30の回転力は、トルコン31を介して回転速度が変速された上でトランスミッション32に伝達される。
【0044】
トルコン31のトルコン油は、トルコン31から作動流体クーラとしてのトルコン油クーラへ流れ込み、トルコン油クーラで冷却された後に、再びトルコン31へ戻る。トルコン油の温度(作動流体の温度)T(以下、単に「トルコン油温T」とする)は、トルコン31の出力側に設けられた温度センサ43で検出され、メインコントローラ5に入力される。
【0045】
なお、ホイールローダ1では、例えば、前述した掘削作業時や後述する車体の前後進の切り替え時など、車体に大きな走行負荷がかかると、トルコン31は、ストール状態(ストール気味の状態を含む)に陥ると共に、トルコン油温Tが上昇してオーバーヒートを起こすことがある。このような場合、メインコントローラ5は、エンジンコントローラ30Aを介してエンジン回転数NEを制限することにより、トルコン31がストール状態に陥るのを回避すると共に、オーバーヒートの発生を防止している。
【0046】
トランスミッション32は、複数のクラッチを有するクラッチ機構と、複数段の変速ギアを有するギア機構と、によって構成され、車体の前後進を切り替えると共に、トルコン31の出力軸の回転速度を変速する自動変速機である。
【0047】
トランスミッション32で変速された回転力は、プロペラシャフト111およびアクスル112を介して4つの車輪11にそれぞれ伝達され、これによりホイールローダ1が走行する。なお、ホイールローダ1の走行速度は、プロペラシャフト111の回転速度として、プロペラシャフト15に取り付けられた車速センサ44で検出される。
【0048】
また、ホイールローダ1が停止または減速する場合には、オペレータが踏み込んだブレーキペダルの踏込み量(制動力)に応じてトランスミッション32のクラッチ機構が制御され、これにより4つの車輪11への駆動力の伝達が遮断される。
【0049】
ホイールローダ1の前後進の切り替えは、運転室12内に設けられた前後進指示装置としての前後進指示レバー122を操作することにより行われる。前後進指示レバー123は、車体を前進走行させる前進位置Fと、車体を後進走行させる後進位置Rと、車体を停止させる中立位置Nと、の間でそれぞれ切り替わり、車体の進行方向を指示する。図5に示すように、前後進指示レバー122において、前進位置Fと後進位置Rと中立位置Nとは、前進位置Fと後進位置との間に中立位置Nを挟んで並んで配置されている。
【0050】
オペレータが前後進指示レバー122を操作すると、前後進指示レバー122は、メインコントローラ5に対して車体の進行方向に係る指示信号を出力する。メインコントローラ5は、入力された指示信号に基づいて、トランスミッション32のクラッチ機構を制御する。
【0051】
具体的には、メインコントローラ5は、前後進指示レバー122が前進位置Fに切り替わると、トランスミッション32のクラッチ機構に対して前進用のクラッチの係合を指令する。
【0052】
他方、メインコントローラ5は、前後進指示レバー122が後進位置Rに切り替わると、トランスミッション32のクラッチ機構に対して後進用のクラッチの係合を指令する。
【0053】
また、メインコントローラ5は、前後進指示レバー122が中立位置Nに切り替わると、トランスミッション32のクラッチ機構に対して前進用のクラッチおよび後進用のクラッチそれぞれの解放(係合解除)を指令する。
【0054】
なお、前後進指示レバー122が前進位置Fから後進位置Rに、あるいは、後進位置Rから前進位置Fに切り替わる際には、必ず中立位置Nを経由する。したがって、ホイールローダ1は、前後進が切り替わる際には、減速して一瞬車速がゼロ(車体停止)となり再び加速することになるため、車体に大きな走行負荷がかかる。
【0055】
また、ホイールローダ1には、車体の走行駆動システムの他に、作業装置2を駆動するための荷役駆動システムが搭載されている。荷役駆動システムは、エンジン30により駆動されて2つのリフトアームシリンダ22およびバケットシリンダ24のそれぞれに作動油を供給する荷役用油圧ポンプ33と、荷役用油圧ポンプ33と2つのリフトアームシリンダ22との間に設けられた第1方向制御弁34と、荷役用油圧ポンプ33とバケットシリンダ24との間に設けられた第2方向制御弁35と、を含んで構成される。
【0056】
第1方向制御弁34は、荷役用油圧ポンプ33から吐出されて2つのリフトアームシリンダ22に供給される作動油の流れ(流量および方向)を制御する。同様にして、第2方向制御弁35は、荷役用油圧ポンプ33から吐出されてバケットシリンダ24に供給される作動油の流れを制御する。
【0057】
荷役用油圧ポンプ33、第1方向制御弁34、および第2方向制御弁35はそれぞれ、メインコントローラ5から出力された指令信号に基づいて制御される。
【0058】
<メインコントローラ5の機能構成>
次に、メインコントローラ5の機能構成について、図6を参照して説明する。
【0059】
図6は、メインコントローラ5が有する機能を示す機能ブロック図である。
【0060】
メインコントローラ5は、CPU、RAM、ROM、HDD、入力I/F、および出力I/Fがバスを介して互いに接続されて構成される。そして、前後進指示レバー122といった各種の操作装置、ならびに、温度センサ43および車速センサ44といった各種のセンサなどが入力I/Fに接続され、エンジンコントローラ30Aなどが出力I/Fに接続されている。
【0061】
このようなハードウェア構成において、ROMやHDD若しくは光学ディスク等の記録媒体に格納された制御プログラム(ソフトウェア)をCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された制御プログラムを実行することにより、制御プログラムとハードウェアとが協働して、メインコントローラ5の機能を実現する。
【0062】
なお、本実施形態では、メインコントローラ5をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって構成されるコンピュータとして説明しているが、これに限らず、例えば他のコンピュータの構成の一例として、ホイールローダ1の側で実行される制御プログラムの機能を実現する集積回路を用いてもよい。
【0063】
図6に示すように、メインコントローラ5は、データ取得部51と、車速判定部52と、進行方向判定部53と、油温判定部56と、エンジン制御部54と、記憶部55と、を含む。
【0064】
データ取得部51は、前後進指示レバー122から出力された指示信号、車速センサ44で検出されたホイールローダ1の走行速度V(以下、単に「走行速度V」とする)、および温度センサ43で検出されたトルコン油温Tに関するデータをそれぞれ取得する。
【0065】
車速判定部52は、データ取得部51で取得された走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上であるか否かを判定する。この「第1速度閾値Vth1」は、ホイールローダ1が移動のために走行していることが外観から明確に認識可能な最低速度に相当する所定の速度閾値であって、例えば、約3km/hである。
【0066】
また、車速判定部52は、データ取得部51で取得された走行速度Vが第2速度閾値Vth2よりも低くなったか否かを判定する。この「第2速度閾値Vth2」は、第1速度閾値Vth1以下の値である(Vth2≦Vth1)。
【0067】
進行方向判定部53は、データ取得部51で取得された指示信号に基づいて、前後進指示レバー122が前進位置F、中立位置N、および後進位置Rのうちのいずれの切替位置に切り替わった状態であるかを判定する。
【0068】
油温判定部56は、データ取得部51で取得されたトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以上であるか否かを判定する。この「所定の温度閾値Tth」とは、後述する「第1温度閾値T1」に相当する(図7参照)。
【0069】
エンジン制御部54は、車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定され、かつ、進行方向判定部53において前後進が切り替わった(現在の進行方向と反対の方向に切り替わった、すなわち前進位置F→後進位置Rあるいは後進位置R→前進位置F)と判定された場合に、油温判定部56においてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以上である(T≧Tth)と判定されると、エンジン回転数の上限値Nmaxを所定の制限値Nlimに制限する制限信号をエンジンコントローラ30Aに対して出力する。
【0070】
ここで、「車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定され、かつ、進行方向判定部53において前後進が切り替えられたと判定された場合」とは、例えば、前述した「Vシェープローディング」において、ホイールローダ1が掘削作業後に積込み作業に移行する際の後進から前進への切り替え時(図2に示す矢印X2から矢印Y1への切り替え時)や、ホイールローダ1が積込み作業後に次の掘削作業に移行する際の後進から前進への切り替え時(図2に示す矢印Y2から矢印X1への切り替え時)であって、車体にかかる走行負荷が大きく、トルコン31がストール状態に陥り、オーバーヒートを起こしやすい状態である。
【0071】
また、「所定の制限値Nlim」とは、エンジン回転数NEを制限しても車体がギクシャクせず乗り心地が良好となる最低限の制限値に相当する所定の第1制限値N1よりも低い第2制限値N2である。
【0072】
本実施形態では、この第2制限値N2は、第1制限値N1よりも低く、エンジン30がローアイドル状態となるときの回転数NL(以下、「ローアイドル回転数NL」とする)よりも高い範囲内で(NL<N2<N1)、トルコン油温Tが高くなるにつれて低くなるように設定されている。したがって、所定の制限値Nlimは、データ取得部51で取得されたトルコン油温Tに応じて変化する。
【0073】
エンジン制御部54は、他方で、車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定され、かつ、進行方向判定部53において前後進が切り替わった(現在の進行方向と反対の方向に切り替わった、すなわち前進位置F→後進位置Rあるいは後進位置R→前進位置F)と判定された場合に、油温判定部56においてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth未満である(T<Tth)と判定されると、エンジン回転数の上限値Nmaxを第1制限値N1に制限する制限信号をエンジンコントローラ30Aに対して出力する。
【0074】
よって、エンジン制御部54は、車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定され、かつ、進行方向判定部53において前後進が切り替えられたと判定された場合、油温判定部56においてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以未満である(T<Tth)と判定されたときには、エンジン回転数の上限値Nmaxを予め設定された固定値である第1制限値N1に制限し、油温判定部56においてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以上である(T≧Tth)と判定されたときには、エンジン回転数の上限値Nmaxを、予め設定された固定値に制限するのではなく、データ取得部51で取得されたトルコン油温Tに応じて制限する。
【0075】
図7は、トルコン油温Tとエンジン回転数の上限値Nmaxとの関係を示すグラフである。図7に示すように、エンジン回転数の上限値Nmaxは、トルコン油温Tが第1温度閾値T1(=所定の温度閾値Tth)に達するまでは、第1制限値N1で一定に制限されている。続いて、トルコン油温Tが上昇して第1温度閾値T1を過ぎると、エンジン回転数の上限値Nmaxは、トルコン油温Tが高いほど低く制限される。そして、トルコン油温Tがさらに上昇して第2温度閾値T2に達すると、エンジン回転数の上限値Nmaxは、ローアイドル回転数NLで一定に制限される。
【0076】
図7における「第1温度閾値T1」は、トルコン31がオーバーヒートの状態に限りなく近づいている警戒温度(例えば、103℃)に相当し、「第2温度閾値T2」は、第1温度閾値T1よりも高い温度であって(T2>T1)、トルコン31においてオーバーヒートが発生したことを警告する時の温度(例えば、115℃)に相当する。
【0077】
すなわち、車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定され、かつ、進行方向判定部53において前後進が切り替えられたと判定された場合には、前述したように、トルコン31がオーバーヒートを起こしやすい状態であって、トルコン油温Tが第1温度閾値T1以上第2温度閾値T2以下の範囲に該当しやすい。
【0078】
また、エンジン制御部54は、エンジン回転数の上限値Nmaxを所定の制限値Nlimに制限した後、条件α、条件β、および条件γのうちのいずれかの条件が満たされた場合には、エンジン回転数の上限値Nmaxの所定の制限値Nlimへの制限を解除する解除信号をエンジンコントローラ30Aに対して出力する。
【0079】
ここで、「条件α」とは、車速判定部52において走行速度Vが第2速度閾値Vth2よりも低くなった(V<Vth2)と判定されることである。なお、第2速度閾値Vth2が第1速度閾値Vth1と同じ値である場合には(Vth2=Vth1)、車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1よりも低くなった(V<Vth1)と判定されれば条件αが満たされる。
【0080】
すなわち、「条件α」が満たされる場合とは、ホイールローダ1が停止している状態、または、ホイールローダ1が停止に限りなく近い低速で動いている状態(例えば、掘削作業時の走行速度)になった場合である。
【0081】
「条件β」は、前後進指示レバー122の切り替え方向によって、具体的な条件内容が異なる。
【0082】
車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定され、かつ、進行方向判定部53において前後進指示レバー122が前進位置Fから後進位置Rに切り替わった(前進位置F→後進位置R)と判定されて、油温判定部56においてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以上である(T≧Tth)と判定されたときに、エンジン制御部54がエンジン回転数の上限値Nmaxを所定の制限値Nlimに制限した場合における「条件β(条件β1)」とは、進行方向判定部53において前後進指示レバー122が後進位置Rから中立位置Nに切り替わった(後進位置R→中立位置N)と判定されることである。
【0083】
他方、車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定され、かつ、進行方向判定部53において前後進指示レバー122が後進位置Rから前進位置Fに切り替わった(後進位置R→前進位置F)と判定されて、油温判定部56においてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以上である(T≧Tth)と判定されたときに、エンジン制御部54がエンジン回転数の上限値Nmaxを所定の制限値Nlimに制限した場合における「条件β(条件β2)」とは、進行方向判定部53において前後進指示レバー122が前進位置Fから中立位置Nに切り替わった(前進位置F→中立位置N)と判定されることである。
【0084】
すなわち、「条件β」が満たされる場合とは、前後進指示レバー122により指示された車体の進行方向が、車体を停止させる中立状態である場合(前後進指示レバー122が中立位置Nに切り替わり、車体が停止状態になった場合)である。
【0085】
また、「条件γ」も、「条件β」と同様に、前後進指示レバー122の切り替え方向によって具体的な条件内容が異なる。
【0086】
車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定され、かつ、進行方向判定部53において前後進指示レバー122が前進位置Fから後進位置Rに切り替わった(前進位置F→後進位置R)と判定されて、油温判定部56においてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以上である(T≧Tth)と判定されたときに、エンジン制御部54がエンジン回転数の上限値Nmaxを所定の制限値Nlimに制限した場合における「条件γ(条件γ1)」とは、車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定されたままで、進行方向判定部53において前後進指示レバー122が後進位置Rから前進位置Fに切り替わった(後進位置R→前進位置F)と判定されることである。
【0087】
他方、車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定され、かつ、進行方向判定部53において前後進指示レバー122が後進位置Rから前進位置Fに切り替わった(後進位置R→前進位置F)と判定されて、油温判定部56においてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以上である(T≧Tth)と判定されたときに、エンジン制御部54がエンジン回転数の上限値Nmaxを所定の制限値Nlimに制限した場合における「条件γ(条件γ2)」とは、車速判定部52において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定されたままで、進行方向判定部53において前後進指示レバー122が前進位置Fから後進位置Rに切り替わった(前進位置F→後進位置R)と判定されることである。
【0088】
すなわち、「条件γ」が満たされる場合とは、ホイールローダ1が移動のために走行している状態のまま、前後進指示レバー122が切り替わり前の元の方向に戻された場合である。
【0089】
記憶部55は、メモリであって、第1速度閾値Vth1、第2速度閾値Vth2、所定の温度閾値(第1温度閾値T1)、および所定の制限値Nlim(第2制限値N2)をそれぞれ記憶している。
【0090】
(メインコントローラ5内での処理)
次に、メインコントローラ5内で実行される具体的な処理の流れについて、図8を参照して説明する。
【0091】
図8は、メインコントローラ5で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0092】
メインコントローラ5では、まず、データ取得部51が、車速センサ44から出力された走行速度Vを取得する(ステップS501)。
【0093】
次に、車速判定部52は、ステップS501において取得された走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上であるか否かを判定する(ステップS502)。
【0094】
ステップS502において走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上である(V≧Vth1)と判定されると(ステップS502/YES)、データ取得部51は、前後進指示レバー122から出力された指示信号を取得する(ステップS503)。
【0095】
一方で、ステップS502において走行速度Vが第1速度閾値Vth1よりも低い(V<Vth1)と判定されると(ステップS502/NO)、ステップS501に戻って走行速度Vが第1速度閾値Vth1以上になる(V≧Vth1)まで先のステップに進まない。
【0096】
次に、進行方向判定部53は、ステップS503において取得された指示信号に基づいて、前後進指示レバー122が、現在の進行方向からその反対方向への切り替えを指示したか否かを判定する。具体的には、進行方向判定部53は、前進位置Fから後進位置Rに切り替わったのか、あるいは、後進位置Rから前進位置Fに切り替わったのかを判定する(ステップS504)。
【0097】
ステップS504において現在の進行方向からその反対方向への切り替えが指示されたと判定された場合、具体的には、前進位置Fから後進位置Rに(前進→後進)、あるいは、後進位置Rから前進位置Fに(後進→前進)、切り替わったと判定された場合(ステップS504/YES)、データ取得部51は、温度センサ43から出力されたトルコン油温Tを取得する(ステップS505)。
【0098】
次に、油温判定部56は、ステップS505において取得されたトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth(第1温度閾値T1)以上であるか否かを判定する(ステップS505A)。
【0099】
ステップS505Aにおいてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以上である(T≧Tth)と判定された場合には(ステップS505A/YES)、エンジン制御部54は、エンジン回転数の上限値Nmaxを、ステップS505で取得されたトルコン油温Tに対応した第2制限値N2(制限値Nlim)に制限する制限信号をエンジンコントローラ30Aに対して出力する(ステップS506A)。
【0100】
次に、メインコントローラ5において、V<Vth2と判定されるか(条件α)、または、前後進指示レバー122により指示された車体の進行方向が中立状態である(具体的には、後進位置R→中立位置Nへ切り替わった、あるいは、前進位置F→中立位置Nへ切り替わった)と判定されるか(条件β1)、または、V≧Vth1かつ前後進指示レバー122により指示された車体の進行方向が現在の進行方向からその反対方向をへて現在の進行方向と同じ方向に戻された(具体的には、前進位置F→後進位置R→前進位置Fへ切り替わった、あるいは、後進位置R→前進位置F→後進位置Rへ切り替わった)と判定される(条件γ1)と(ステップS507/YES)、エンジン制御部54は、エンジン回転数の上限値Nmaxの第2制限値N2(制限値Nlim)への制限を解除する解除信号をエンジンコントローラ30Aに対して出力し(ステップS508)、メインコントローラ5内における処理が終了する。
【0101】
一方で、ステップS507において条件α、条件β1、および条件γ1のうちのいずれの条件も満たさない場合には、ステップS505に戻って処理を繰り返す。
【0102】
また、ステップS505Aにおいてトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth未満である(T<Tth)と判定された場合には(ステップS505A/NO)、エンジン制御部54は、エンジン回転数の上限値Nmaxを第1制限値N1に制限する制限信号をエンジンコントローラ30Aに対して出力し(ステップS506B)、メインコントローラ5内における処理が終了する。
【0103】
また、ステップS504において現在の進行方向からその反対方向への切り替えが指示されたと判定されなかった場合、すなわち、車体の進行方向が現在の進行方向のままである場合には(ステップS504/NO)、メインコントローラ5内における処理が終了する。
【0104】
前述したように、トルコン31のオーバーヒートは、車体に大きな走行負荷がかかり、トルコン31がストール状態となるような場合、具体的には、かき上げ作業を含む掘削作業時や前後進の切り替え時に発生しやすいが、かき上げ作業を含む掘削作業時は最大けん引力を必要とするため、できる限りエンジン回転数を制限したくない。
【0105】
そこで、メインコントローラ5では、トルコン31がストール状態となるような場合に一律にエンジン回転数の上限値Nmaxを制限するのではなく、トルコン31がストール状態となるような場合であって、かつ、最大けん引力を必要としない場合、具体的には、前後進が切り替わった場合にのみエンジン回転数の上限値Nmaxを制限するため、作業性能を低下させることなく、トルコン31におけるオーバーヒートの発生を抑制することが可能となっている。
【0106】
なお、エンジン回転数が上限値(制限値)以下となる範囲でホイールローダ1の操作が行われている場合には、メインコントローラ5による制限制御の影響を受けることなく、ホイールローダ1を駆動させることが可能である。
【0107】
また、本実施形態では、メインコントローラ5は、温度センサ43で検出されたトルコン油温Tが所定の温度閾値Tth以上であるときには(T≧Tth)、第1制限値N1よりも低く、エンジン回転数がローアイドル状態の回転数NLよりも高い範囲において、トルコン油温Tが高いほどエンジン回転数の上限値Nmaxを低く制限する(トルコン油温Tに応じてエンジン回転数の上限値Nmaxを制限する)ため、より精度良くトルコン31におけるオーバーヒートの発生を抑制することができる。
【0108】
さらに、本実施形態では、メインコントローラ5は、トルコン31におけるオーバーヒートの発生を考慮する必要のない状況になった場合、具体的には、条件α、条件β(条件β1または条件β2)、および条件γ(条件γ1または条件γ2)のうちのいずれかの条件が満たされた場合には、エンジン回転数の上限値Nmaxの制限を解除するため、必要以上にエンジン回転数の上限値Nmaxが制限されない。
【0109】
例えば、条件αが満たされる場合、ホイールローダ1が掘削作業を開始する場合が想定されるため、エンジン回転数の上限値Nmaxが制限されたままの状態では最大けん引力が発揮されないことになってしまう。
【0110】
また、条件βが満たされる場合、ホイールローダ1が、駐機場において停車した状態または停車しようとしている状態で、持ち上げられた作業装置2を駐機姿勢(バケット23の底面部を接地させた状態)まで降ろすなど、作業装置2の姿勢を整える場合が想定されるため、エンジン回転数の上限値Nmaxが制限されたままの状態では作業装置2を迅速に動作させることができなくなってしまう。
【0111】
また、条件γが満たされる場合において、エンジン回転数の上限値Nmaxが制限されたままの状態になると、エンジン回転数に比例する車速が上がらず、最高速が出ない状態となってしまう。
【0112】
このように、条件α、条件β、および条件γがそれぞれ満たされる場合にエンジン回転数の上限値Nmaxが制限されたままの状態になると不都合が生じることから、メインコントローラ5がエンジン回転数の上限値Nmaxの制限を解除することにより、ホイールローダ1が有する作業性能を維持している。
【0113】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0114】
例えば、上記実施形態では、作業車両の一態様としてバケット23を備えたホイールローダ1について説明したが、これに限らず、例えば、ブレードを備えた除雪車など、他の作業車両についても本発明を適用することが可能である。除雪車の場合においても、ホイールローダ1と同様に、前進と後進との間で進行方向を頻繁に切り替えながら除雪作業を行うことから、本発明を適用することが望ましいといえる。
【0115】
また、上記実施形態では、所定の制限値Nlimは、トルコン油温Tが大きくなるにつれて低くなるように、すなわちトルコン油温Tに応じて変動する値として設定されていたが、これに限られず、例えば、所定の制限値Nlimは、トルコン油温Tの値にかかわらず一定値に設定されていてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1:ホイールローダ(作業車両)
1A:前フレーム(車体)
1B:後フレーム(車体)
5:メインコントローラ(コントローラ)
11,11A:前輪(車輪)
11,11B:後輪(車輪)
30:エンジン
31:トルクコンバータ
43:温度センサ
44:車速センサ
121:アクセルペダル(目標回転数指示装置)
122:前後進指示レバー(前後進指示装置)
NE:エンジン回転数
Nmax:エンジン回転数の上限値
N1:第1制限値
T:トルコン油温(作動流体の温度)
T1(Tth):第1温度閾値(所定の温度閾値)
V:走行速度
Vth1:第1速度閾値(所定の速度閾値)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8