(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132322
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】抗菌性繊維構造物およびその製法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/352 20060101AFI20240920BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20240920BHJP
D06M 11/46 20060101ALI20240920BHJP
D06M 11/65 20060101ALI20240920BHJP
D06M 11/13 20060101ALI20240920BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240920BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240920BHJP
A01N 43/80 20060101ALI20240920BHJP
A01N 33/12 20060101ALI20240920BHJP
A01N 47/12 20060101ALI20240920BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20240920BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
D06M13/352
D06M15/643
D06M11/46
D06M11/65
D06M11/13
A01P1/00
A01P3/00
A01N43/80 102
A01N33/12 101
A01N47/12 Z
A01N59/16 A
A01N59/16 Z
A01N25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043068
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000205432
【氏名又は名称】大阪化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】林 和大
(72)【発明者】
【氏名】合志 修
(72)【発明者】
【氏名】浅見 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】山神 安令
【テーマコード(参考)】
4H011
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA03
4H011BA01
4H011BA06
4H011BB04
4H011BB10
4H011BB13
4H011BB18
4H011BC03
4H011BC06
4H011BC09
4H011BC19
4H011DF04
4H011DH04
4H011DH05
4H011DH08
4H011DH10
4L031AA02
4L031AA18
4L031AA20
4L031AA22
4L031AB31
4L031BA05
4L031BA09
4L031DA12
4L033AA02
4L033AA06
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA23
4L033BA56
4L033BA60
4L033CA64
(57)【要約】
【課題】洗濯耐久性のある、優れた抗菌性を備えた抗菌性繊維構造物を得るための抗菌処理液を提供する。
【解決手段】合成繊維を含む繊維構造物であって、イソチアゾール系抗菌剤(A)と、抗菌剤群(X1:オルガノシリコン第四級アンモニウム塩、X2:カルバミン酸エステル誘導体、X3:銀系抗菌剤、X4:金属酸化物)のいずれかの群に属する少なくとも1つの抗菌剤(B)とが、繊維に固定されており、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)の、繊維構造物全体に対する含有量が、0.01~0.2重量%である抗菌性繊維構造物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を含む繊維構造物であって、
イソチアゾール系抗菌剤(A)と、下記の抗菌剤群X1~X4のいずれかの群に属する少なくとも1つの抗菌剤(B)とが、繊維に固定されており、
上記イソチアゾール系抗菌剤(A)の、繊維構造物全体に対する含有量が、0.01~0.2重量%である抗菌性繊維構造物。
X1:オルガノシリコン第四級アンモニウム塩
X2:カルバミン酸エステル誘導体
X3:銀系抗菌剤
X4:金属酸化物(銀酸化物を除く)
【請求項2】
40℃の家庭洗濯(JIS L0217-103に準拠)10回後における、黄色ブドウ球菌および肺炎かん菌に対する抗菌活性値(JIS L1902:2015による)が、ともに2.2以上である、請求項1記載の抗菌性繊維構造物。
【請求項3】
上記イソチアゾール系抗菌剤(A)が、ベンゾイソチアゾリン系誘導体である、請求項1または2記載の抗菌性繊維構造物。
【請求項4】
上記X1のオルガノシリコン第四級アンモニウム塩が、n-オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリドである、請求項1または2記載の抗菌性繊維構造物。
【請求項5】
上記X2のカルバミン酸エステル誘導体が、3-ヨード-2-プロピニル=N-ブチルカルバマートである、請求項1または2記載の抗菌性繊維構造物。
【請求項6】
上記X3の銀系抗菌剤が、硝酸銀、塩化銀、硫酸銀、酸化銀の少なくとも1つである、請求項1または2記載の抗菌性繊維構造物。
【請求項7】
上記X4の金属酸化物が、酸化チタン、酸化亜鉛の少なくとも1つである、請求項1または2記載の抗菌性繊維構造物。
【請求項8】
請求項1または2記載の抗菌性繊維構造物を得る方法であって、合成繊維を含む繊維構造物に、イソチアゾール系抗菌剤(A)と、下記の抗菌剤群X1~X4のいずれかの群に属する少なくとも1つの抗菌剤(B)とを含む水性処理液を含浸させ、90℃以上200℃以下で熱処理を行うことにより、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)と抗菌剤(B)とが繊維に固定された繊維構造物を得るようにした、抗菌性繊維構造物の製法。
X1:オルガノシリコン第四級アンモニウム塩
X2:カルバミン酸エステル誘導体
X3:銀系抗菌剤
X4:金属酸化物(銀酸化物を除く)
【請求項9】
上記熱処理が、常圧下、100~200℃の加熱処理である、請求項8記載の抗菌性繊維構造物の製法。
【請求項10】
上記熱処理が、加圧下、90~150℃の加熱処理である、請求項8記載の抗菌性繊維構造物の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造物に抗菌性が付与された抗菌性繊維構造物と、その製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生や健康に対する意識の高まりから、衣料やタオル、寝具等、身の回りの繊維製品に、抗菌性や抗かび性を付与したものが多く出回っている。しかし、抗菌剤は、繊維と化学的に結合しにくいものが多いため、抗菌性を付与した繊維製品の多くは、抗菌剤を、樹脂等のバインダーによって繊維表面にコーティング加工して付着させているにすぎない。このため、抗菌性の高いものは、使用するバインダー量が多くなり繊維の風合いが損なれるという問題がある。また、上記繊維製品を繰り返し洗濯すると、繊維表面から抗菌剤がバインダーとともに脱落しやすいため、抗菌性能が洗濯の都度、低下しやすいという問題もある。また、洗濯による抗菌性能の低下を見越して当初高濃度で繊維に抗菌剤を含有させておくことも考えられるが、抗菌剤の高濃度使用は、皮膚刺激性のリスクや、繊維変色のリスクがあり、好ましくない。
【0003】
一方、合成繊維においては、洗濯耐久性を得るために、繊維自身に抗菌剤を練り込んで紡糸したものも出回っているが、このような練り込みおよび紡糸温度(ポリエステルの場合300℃以上)に耐えられる抗菌剤は極めて少なく、また耐熱性の高い無機抗菌剤は合成繊維内に封入されると繊維表面にブリードしないことから、抗菌性能が十分に得られないという問題がある。
【0004】
ちなみに、抗菌剤を繊維に付与するための抗菌処理剤の組成を吟味することにより、その洗濯耐久性を高めた技術として、例えば以下の特許文献1、2等をあげることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-154965号公報
【特許文献2】特開平11-335202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの技術は、いずれも、樹脂バインダーを用いて抗菌剤を繊維に付着することを前提としているため、前述の課題は依然として残っており、その解決が望まれている。
【0007】
本発明は、このような課題に応えるためになされたもので、抗菌剤が低濃度であっても優れた抗菌性を発揮して皮膚刺激性や繊維変色のリスクが低減されており、しかも優れた洗濯耐久性を示す抗菌性繊維構造物と、その製法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題に応えるため、本発明は、下記の[1]~[10]の態様を有する。
[1] 合成繊維を含む繊維構造物であって、イソチアゾール系抗菌剤(A)と、下記の抗菌剤群X1~X4のいずれかの群に属する少なくとも1つの抗菌剤(B)とが、繊維に固定されており、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)の、繊維構造物全体に対する含有量が、0.01~0.2重量%である抗菌性繊維構造物。
X1:オルガノシリコン第四級アンモニウム塩
X2:カルバミン酸エステル誘導体
X3:銀系抗菌剤
X4:金属酸化物(銀酸化物を除く)
[2] 40℃の家庭洗濯(JIS L0217-103に準拠)10回後における、黄色ブドウ球菌および肺炎かん菌に対する抗菌活性値(JIS L1902:2015による)が、ともに2.2以上である、[1]記載の抗菌性繊維構造物。
[3] 上記イソチアゾール系抗菌剤(A)が、ベンゾイソチアゾリン系誘導体である、[1]または[2]記載の抗菌性繊維構造物。
[4] 上記X1のオルガノシリコン第四級アンモニウム塩が、n-オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリドである、[1]~[3]のいずれかに記載の抗菌性繊維構造物。
[5] 上記X2のカルバミン酸エステル誘導体が、3-ヨード-2-プロピニル=N-ブチルカルバマートである、[1]~[4]のいずれかに記載の抗菌性繊維構造物。
[6] 上記X3の銀系抗菌剤が、硝酸銀、塩化銀、硫酸銀、酸化銀の少なくとも1つである、[1]~[5]のいずれかに記載の抗菌性繊維構造物。
[7] 上記X4の金属酸化物が、酸化チタン、酸化亜鉛の少なくとも1つである、[1]~[6]のいずれかに記載の抗菌性繊維構造物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の抗菌性繊維構造物を得る方法であって、合成繊維を含む繊維構造物に、イソチアゾール系抗菌剤(A)と、下記の抗菌剤群X1~X4のいずれかの群に属する少なくとも1つの抗菌剤(B)とを含む水性処理液を含浸させ、90℃以上200℃以下で熱処理を行うことにより、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)と抗菌剤(B)とが繊維に固定された繊維構造物を得るようにした、抗菌性繊維構造物の製法。
X1:オルガノシリコン第四級アンモニウム塩
X2:カルバミン酸エステル誘導体
X3:銀系抗菌剤
X4:金属酸化物(銀酸化物を除く)
[9] 上記熱処理が、常圧下、100~200℃の加熱処理である、[8]記載の抗菌性繊維構造物の製法。
[10] 上記熱処理が、加圧下、90~150℃の加熱処理である、[8]記載の抗菌性繊維構造物の製法。
【0009】
なお、本発明において「Y~Z」(Y、Zは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「Y以上Z以下」の意と共に、「好ましくはYより大きい」または「好ましくはZより小さい」の意も包含する。
【発明の効果】
【0010】
すなわち、本発明の抗菌性繊維構造物は、イソチアゾール系抗菌剤(A)と、特定の他の抗菌剤(B)との組み合わせによる相乗効果によって、イソチアゾール系抗菌剤(A)が単独では有効な抗菌性を発揮できない、ごく低濃度の含有量であっても、優れた抗菌性が得られるため、イソチアゾール系抗菌剤(A)による皮膚刺激性のリスクや繊維変色のリスクが少なく、高品質のものとなる。
また、他の抗菌剤(B)も、イソチアゾール系抗菌剤(A)との相乗効果によって、それ自体を単独で用いる場合に比べて低濃度で用いることができるため、抗菌剤(B)を多く入れた場合に生じる不具合(繊維変色や風合いの低下等)を回避することができるという利点を有する。
【0011】
しかも、本発明では、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)と特定の他の抗菌剤(B)とが、樹脂バインダーを用いなくても、繊維に直接固定されているため、洗濯耐久性に優れており、繰り返し洗濯しても、優れた抗菌性を維持することができる。
【0012】
そして、本発明の抗菌性繊維構造物の製法によれば、従来の、染色等の繊維加工処理装置を用いて、効率よく上記抗菌性繊維構造物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の抗菌性繊維構造物の製造方法の一例を示す模式的な説明図である。
【
図2】本発明の抗菌性繊維構造物の製造方法の他の例を示す模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限られるものではない。
【0015】
本発明の抗菌性繊維構造物は、イソチアゾール系抗菌剤(A)と、特定の他の抗菌剤(B)とが繊維に固定されており、それらの組み合わせの相乗効果によって、優れた抗菌性を発揮するものである。
【0016】
<繊維構造物>
まず、本発明が対象とする繊維構造物の繊維素材は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の合成樹脂、合成樹脂に合成樹脂以外の成分(金属や無機物質等)を混合したもの、それらの複合物、混合物によって得られる合成繊維があげられる。また、綿、麻、レーヨン、羊毛、絹等の天然繊維(再生繊維を含む)等であってもよい。そして、上記合成繊維と天然繊維の混紡品であってもよい。
【0017】
これらのなかでも、特に、抗菌加工製品として需要が高く、しかもその洗濯耐久性が問題となる、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸樹脂等のポリエステル系樹脂を主として用いたポリエステル系繊維(ポリエステル繊維のみからなる場合も含む)や、ポリエステル系繊維と他の繊維との混合品(混繊品、混紡品)を対象とすることが好適である。
【0018】
そして、上記繊維素材からなる繊維構造物の形態としては、糸、紐、ロープ、生地(織地、編地、不織布)等があげられる。また、上記繊維素材と、他の素材(衣料用のゴムや縫製糸、フィルム等)を組み合わせてなる繊維製品も、本発明が対象とする「繊維構造物」に含む趣旨である。このような繊維製品としては、一般に家庭で汎用される、寝装寝具(カーテン、シーツ、タオル、布団地、布団綿、マット、カーペット、枕カバー等)、衣料(コート、スーツ、セーター、ブラウス、ワイシャツ、肌着、帽子、マスク、靴下、手袋等)、ユニフォーム(白衣、作業着、学童服等)等があげられる。
【0019】
また、家庭用に限らず、広範に用いられる例として、介護シート、シャワーカーテン、車シート、シートカバー、天井材等の内装材、テント、防虫・防鳥ネット、間仕切りシ-ト、空調フィルタ、掃除機フィルタ、マスク、テーブルクロス、机下敷き、前掛け、壁紙、包装紙等があげられる。さらに、医療用品(医療ベッド、車椅子、滅菌袋、滅菌シート等)や、衛生用品(包帯、洗浄ブラシ、使い捨てマスク等)があげられる。
【0020】
特に、本発明の繊維構造物は、洗濯耐久性に優れた抗菌性を備えていることから、医療施設や介護施設において繰り返し洗濯にかけられて使用されるリネンサプライ用品(手術着や白衣、寝間着、シーツ等)への適用が好適である。
【0021】
つぎに、上記繊維構造物に含有させる抗菌剤としては、イソチアゾール系抗菌剤(A)と、他の特定の抗菌剤(B)が組み合わせて用いられる。
【0022】
<イソチアゾール系抗菌剤(A)>
上記イソチアゾール系抗菌剤(A)としては、イソチアゾリン系誘導体、ベンゾイソチアゾリン系誘導体等があげられる。上記イソチアゾリン系誘導体としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4-(n-オクチル)イソチアゾリン-3-オン、4-メチル-5-クロロイソチアゾリン-3-オン、4-メチルイソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-4-シクロヘキシルイソチアゾリン-3-オン等があげられる。
【0023】
また、上記ベンゾイソチアゾリン系誘導体としては、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-ブチル-1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、4,5-ベンゾイソチアゾリン-3-オン等があげられる。
【0024】
これらのイソチアゾール系抗菌剤(A)は、単独で、あるいは2種以上を併用することができる。そして、これらのなかでも、特に、ベンゾイソチアゾリン系誘導体を用いることが好適であり、とりわけ、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3(2H)-オン(以下「BIT」と略す)、2-ブチル-1,2-ベンゾイソチアゾリン-3(2H)-オン(以下「BBIT」と略す)を用いることが好適である。なかでも、上記BITを用いることが最適である。
【0025】
<他の特定の抗菌剤(B)>
上記イソチアゾール系抗菌剤(A)とともに用いられる、他の特定の抗菌剤(B)としては、下記の抗菌剤群X1~X4のいずれかの群に属する少なくとも1つの抗菌剤が用いられる。
X1:オルガノシリコン第四級アンモニウム塩
X2:カルバミン酸エステル誘導体
X3:銀系抗菌剤
X4:金属酸化物(銀酸化物を除く、以下同じ)
【0026】
上記オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)は、分子内にシリコン(Si)と有機基との結合を有する第四級アンモニウム塩で、効果の点から、親油性を示す長鎖のアルキル基を有していることが好ましく、例えば、炭素数1~14のアルキル基を有していることが好適である。また、化合物全体における炭素数は1~42であることが好ましく、なかでも10~30であることがより好ましい。
【0027】
このようなオルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)としては、例えば、ジメチル(オクタデシル)[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウム塩、ジメチル(ノナデシル)[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウム塩、ジメチル(オクタデシル)[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウム塩、ジメチル(ノナデシル)[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウム塩があげられる。
【0028】
そして、上記オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)における、アンモニウムカチオンと塩を構成するアニオン種としては、ヨージド、ブロミド、クロリド、アジペート、グルコナート、プロピオナート、スルホナートがあげられ、なかでも、ブロミドもしくはクロリドであることが好適である。
【0029】
上記オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。そして、これらのなかでも、特に、n-オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(以下「DOTPAC」と略す)を用いることが、とりわけ効果の点で好適である。
【0030】
また、上記カルバミン酸エステル誘導体(X2)としては、特に、3-ヨード-2-プロピニル=N-ブチルカルバマート(以下「IPBC」と略す)を用いることが、とりわけ効果の点で好適である。
【0031】
さらに、上記銀系抗菌剤(X3)としては、硝酸銀、塩化銀、硫酸銀、酸化銀があげられる。なかでも、硝酸銀、塩化銀が好ましく、とりわけ硝酸銀を用いることが、効果の点で好適である。
【0032】
また、上記金属酸化物(X4)としては、酸化チタン、酸化亜鉛があげられる。なかでも、酸化チタンが、効果の点で好適である。なお、上記金属酸化物(X4)は、金属酸化物と金属塩との複合体として用いても差し支えない。
【0033】
前記イソチアゾール系抗菌剤(A)と、上記抗菌剤群(X1)~(X4)のいずれかの群に属する少なくとも1つの抗菌剤(B)を組み合わせることにより、それぞれの抗菌剤(A)、(B)を単独で繊維に付与した場合に比べて、互いの含有量がごく低濃度であっても、優れた抗菌性能を発揮する。これが本発明の最大の特徴である。
【0034】
すなわち、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)は、これを単独で用いる場合、通常、繊維構造物全体に対し0.2重量%より多く含有させなければ、有効な抗菌性能が発揮されないが、0.1重量%以上の含有量で、皮膚刺激性を発現しやすいリスクがある(独立行政法人 製品評価技術基盤機構2022年12月26日時点の資料より)。これに対し、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)を、上記他の特定の抗菌剤(B)と組み合わせて用いることにより、イソチアゾール系抗菌剤(A)が0.2重量%以下、とりわけ0.1重量%未満であっても、優れた抗菌性能を発揮する。
【0035】
したがって、本発明では、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)の繊維構造物全体に対する含有量は、0.01~0.2重量%に設定される。この範囲において、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)と他の特定の抗菌剤(B)との組み合わせにおいて、顕著な相乗効果による抗菌性能を発揮することができる。
【0036】
本願発明の上記組み合わせによって、顕著な相乗効果による抗菌性能が得られるのは、以下の複合的な作用によるものと考えられる。すなわち、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)の抗菌作用機構は、タンパク質合成系阻害、細胞膜合成阻害、チオール系酵素阻害、TCAサイクルの酵素阻害であるのに対し、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)の抗菌作用機構は、細胞膜破壊、タンパク質変性である。また、カルバミン酸エステル誘導体(X2)の抗菌作用機構は、有糸分裂阻害、酵素機能阻害であり、銀系抗菌剤(X3)の抗菌作用機構は、タンパク質変性、酵素活性阻害である。さらに、金属酸化物(X4)の抗菌作用機構は、酸化分解である。このように、互いに全く異なる抗菌作用機構を有する抗菌剤同士を組み合わせることで、顕著な相乗効果を発揮すると考えられる。特に同じ細胞膜に作用する場合であっても、細胞膜の合成を阻害するイソチアゾール系抗菌剤(A)と細胞膜自体を破壊する(X1)、(X3)、(X4)を組み合わせることにより、より顕著な相乗効果を発揮すると考えられる。
【0037】
なお、上記複合的な作用機能は、抗菌性能に限らず、抗かび性能についても同様に優れた効果を奏すると考えられるため、かびに対しても優れた抗かび性能を期待することができる。
特に、(X1)、(X3)、(X4)は、その作用機構から抗菌性能に優れるが、抗かび性能にやや劣るため、抗菌性能にも抗かび性能にも優れる上記イソチアゾール系抗菌剤(A)と組み合わせることによって、より抗かび性能を期待することができる。
【0038】
そして、特に、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)を、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)やカルバミン酸エステル誘導体(X2)と組み合わせて用いる場合、イソチアゾール系抗菌剤(A)の繊維構造物全体に対する含有量は、0.025~0.1重量%に設定することが好ましく、0.03~0.08重量%に設定することがより好ましい。
【0039】
また、特に、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)を、銀系抗菌剤(X3)や酸化チタン(X4)と組み合わせて用いる場合、イソチアゾール系抗菌剤(A)の繊維構造物全体に対する含有量は、0.015~0.08重量%に設定することが好ましく、0.02~0.03重量%に設定することがより好ましい。
【0040】
一方、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)と組み合わせて用いられる、他の特定の抗菌剤(B)の、繊維構造物全体に対する含有量も、これらを単独で用いる場合に比べて少ない量で、優れた抗菌性能が発揮される。例えば、上記他の抗菌剤(B)のうち、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)は、これを単独で繊維に付与して有効な抗菌性能を得るには、繊維構造物全体に対して3重量%以上の含有量であることが望ましいが、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)と組み合わせると、繊維構造物に対する含有量が、例えば0.5重量%程度の低濃度であっても、十分に優れた抗菌性能を発揮する。このように、他の抗菌剤(B)についても、その含有量をごく低濃度に抑えることができると、材料コストを低減できるだけでなく、抗菌剤(B)の種類によっては、濃度が高いと繊維に対して着色や風合い劣化等をもたらすリスクを有するものもあるが、そのようなリスクを回避することができる。
【0041】
このような観点から、他の抗菌剤(B)として、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)を用いる場合、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)の繊維構造物全体に対する含有量は、0.4~3重量%に設定することが好ましく、より好ましくは1~2重量%である。そして、上記オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)とイソチアゾール系抗菌剤(A)との含有比率[(X1)/(A)]は、重量基準で、通常5~200に設定され、好ましくは15~60、より好ましくは20~40に設定される。
【0042】
同様に、上記他の抗菌剤(B)として、カルバミン酸エステル誘導体(X2)を用いる場合、カルバミン酸エステル誘導体(X2)の繊維構造物全体に対する含有量は、0.2~1.0重量%に設定することが好ましく、より好ましくは0.3~0.8重量%である。そして、上記カルバミン酸エステル誘導体(X2)とイソチアゾール系抗菌剤(A)との含有比率[(X2)/(A)]は、重量基準で、通常3.5~70に設定され、好ましくは7~30、より好ましくは10~20に設定される。
【0043】
同様に、上記他の抗菌剤(B)として、銀系抗菌剤(X3)を用いる場合、銀系抗菌剤(X3)の繊維構造物全体に対する含有量は、0.0001~0.01重量%に設定することが好ましく、より好ましくは0.0002~0.008重量%である。そして、上記銀系抗菌剤(X3)とイソチアゾール系抗菌剤(A)との含有比率[(X3)/(A)]は、重量基準で、通常0.004~0.4に設定され、好ましくは0.02~0.32、より好ましくは0.04~0.2に設定される。
【0044】
同様に、上記他の抗菌剤(B)として、金属酸化物(X4)を用いる場合、金属酸化物(X4)の繊維構造物全体に対する含有量は、0.0001~0.02重量%に設定することが好ましく、より好ましくは0.008~0.01重量%である。そして、上記金属酸化物(X4)とイソチアゾール系抗菌剤(A)との含有比率[(X4)/(A)]は、重量基準で、通常0.004~0.8に設定され、好ましくは0.01~0.4、より好ましくは0.03~0.3に設定される。
【0045】
本発明の抗菌性繊維構造物は、上記イソチアゾール系抗菌剤(A)と他の抗菌剤(B)とを組み合わせた抗菌剤を用い、例えばつぎのようにして得ることができる。
【0046】
<抗菌性繊維構造物の製法>
(1)抗菌処理液の調製
まず、繊維構造物に抗菌性を付与するための抗菌処理液を調製する。この抗菌処理液は、溶媒もしくは分散媒となる液体中に、上記2種類の抗菌剤(A)、(B)を溶解もしくは分散させることにより得ることができる。
【0047】
上記溶媒もしくは分散媒となる液体としては、通常、水が用いられる。水は、水道水、軟水、イオン交換水、純水、精製水等があげられ、好ましくは、軟水、イオン交換水、精製水が好適に用いられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
また、上記水とともに、あるいは水に代えて、有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、エタノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等があげられる。これらも、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
なお、本発明の抗菌処理液には、上記必須の2種類の抗菌剤(A)、(B)とともに、
必要に応じて、抗菌性の向上や効果の持続性等を図るため、例えば、繊維加工用助剤、分散剤、消臭剤、防腐剤、香料、油性成分、増粘剤、保湿剤、色素、pH調整剤、セラミド類、ステロール類、抗酸化剤、一重項酸素消去剤、紫外線吸収剤、美白剤、抗炎症剤、他の抗菌剤、抗ウィルス剤等の公知の任意成分を配合することができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0050】
上記繊維加工用助剤は、繊維の種類に応じて、その繊維構造物の変色、硬化、縮化等の異常防止や、上記抗菌剤(A)、(B)の抗菌性の低下抑制を目的として用いられるもので、例えば、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、フィックス剤(Fixer)、防汚剤、緩染剤、蛍光増白剤、膨潤剤、浸透剤、乳化剤、金属イオン封鎖剤、均染剤、沈殿防止剤、マイグレーション防止剤、キャリアー、防染剤、防しわ剤、風合い加工剤等があげられる。
【0051】
例えば、ポリエステル系繊維と綿、レーヨン、羊毛、絹等の天然繊維との混紡品を加工処理する際や、ポリエステル系繊維とポリアミド系、アクリル系、ポリウレタン系の繊維との混紡品を加工処理する際には、加工温度、時間によって、ポリエステル系繊維以外の繊維が、抗菌剤(B)等のカチオンの作用によって変色、硬化、縮化等の異常が生じたり、抗菌性の低下や喪失が生じたりするおそれがある。
そこで、このような事態を防止するために、助剤として、上記フィックス剤、均染剤、緩染剤、蛍光増白剤等を用いることが好ましい。
【0052】
上記フィックス剤としては、染料によって使い分けられるが、例えば、ポリカチオン系化合物等や、ポリアミン系化合物、フェノール系化合物等があげられる。
【0053】
また、上記均染剤および緩染剤としては、例えば、アルキルエーテル型、多環フェニルエーテル型、ソルビタン誘導体、脂肪族ポリエーテル型等で代表されるノニオン界面活性剤や、芒硝、硫酸アンモニウム等に代表されるノニオン剤、さらにドデシルトリアンモニウム塩系で代表されるカチオン界面活性剤[抗菌剤(B)として用いるものを除く]、ジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等で代表されるアニオン界面活性剤等があげられる。
【0054】
さらに、上記蛍光増白剤としては、例えば、オキサザール誘導体、スチルベン誘導体、クマリン誘導体やナフタルイミド誘導体等があげられる。
【0055】
また、繊維表面が帯電すると、抗菌剤(A)、(B)と菌との接触が、電気的に妨げられるおそれがあることから、助剤として、上記帯電防止剤を用いることが好適である。上記帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩系誘導体[抗菌剤(B)として用いるものを除く]、リン酸エステル誘導体等があげられる。
【0056】
本発明に用いられる抗菌処理液は、すでに述べたとおり、上記各成分を、水や有機溶媒等の液体中に溶解もしくは分散することによって得られるが、各成分の配合の順序は特に限定するものではない。また、全ての成分を一液中で混合する必要はなく、イソチアゾール系抗菌剤(A)を含有する第一液と、他の特定の抗菌剤(B)を含有する第二液とを調製し、これら二液を混合して均一な溶液もしくは分散液とすることができる。さらに、任意成分も、それらの特性を考慮して、一液中に配合してもよいし、上記のように二液に分ける場合には、そのいずれかに配合することができる。あるいは、抗菌剤(A)、(B)とは別に、任意成分だけ含有する液を調製し、これを抗菌剤(A)、(B)を含有する液(一液もしくは二液)と混合し、最終的に、抗菌処理液を得るようにしてもよい。
【0057】
なお、上記抗菌処理液は、通常、原液のまま使用するのではなく、適宜の割合で希釈した上で、繊維構造物の処理に用いられる。その希釈の割合は、一般に、処理対象となる繊維構造物の乾燥繊維重量に対して抗菌剤(A)、(B)をどの程度含有させるか(いわゆる「%owf」)を基準として調製される。
【0058】
ちなみに、本発明の抗菌性繊維構造物における、イソチアゾール系抗菌剤(A)の含有量は、すでに述べたとおり、抗菌性繊維構造物全体に対し、0.01~0.2重量%となるように設定される。また、他の抗菌剤(B)の含有量については、前述のとおり、適宜調整される。
【0059】
つぎに、上記抗菌処理液を用いて繊維構造物に対して抗菌処理を施す方法について説明する。
【0060】
(2)抗菌処理方法
上記抗菌処理液による抗菌処理方法としては、繊維構造物と上記抗菌処理液とを十分に接触させ、繊維表面および内部に、上記抗菌処理液中の抗菌成分(イソチアゾール系抗菌剤(A)+他の特定の抗菌剤(B))を固定することができれば、特に限定するものではないが、例えば(1)常圧処理法、(2)加圧処理法の2種類の方法があげられ、繊維の種類や形態に応じて適宜の方法を選択することができる。以下、これらの処理法を簡単に説明する。
【0061】
(2-1)常圧処理法
常圧処理法とは、繊維構造物を上記抗菌処理液に接触させ、繊維構造物に抗菌処理液を含浸させた状態で、オーブン等を用いて加熱処理する方法である。上記繊維構造物を抗菌処理液に接触させるには、抗菌処理液を繊維構造物にスプレーしたりコーティングしたりする方法も考えられるが、一般に、
図1に模式的に示すように、浸漬槽1内に抗菌処理液2を溜め、そのなかに繊維構造物3を浸漬してマングル4等で所定の絞り率で絞ることが、抗菌処理液2の繊維構造物3に対する付与量をコントロールしやすく、好適である。
図1において、5は、オーブン等の加熱装置である。そして、上記加熱処理によって、繊維構造物に抗菌剤が固定される。
【0062】
上記
図1に示す方法は、染色分野において、連続処理法、ベーキング法、pad-dry-cure法と呼ばれている方法等と基本的に同じ構成であり、染色加工のための染色処理液に代えて(場合によっては染色処理液とともに)、上記抗菌処理液を用いることにより、抗菌処理を行うことができる。
【0063】
そして、上記「常圧処理」とは、処理を、減圧したり加圧したりすることなく行うことをいい、通常、大気圧(1013.25hPa)下での処理を意味する。
【0064】
また、上記加熱処理における加熱温度(繊維構造物に対するの加熱空間内の温度)は、通常、100~200℃であり、加熱時間は、10~300秒であることが好ましい。上記加熱温度、加熱時間は、繊維の種類に応じて、適宜好適な範囲に調整される。例えば、繊維構造物が100%ポリエステルである場合、加熱温度は130~180℃であることが好ましく、加熱時間は30~180秒であることが好ましい。
【0065】
(2-2)加圧処理法
加圧処理法とは、
図2において模式的に示すように、圧力容器6内に抗菌処理液2と繊維構造物3とを投入して密閉後、加圧下で加熱処理することによって、繊維構造物に抗菌剤を固定する方法である。抗菌剤が固定された繊維構造物3aは、脱液され、乾燥される。
【0066】
上記
図2に示す方法は、染色分野において、チーズ染色法、バッチ染色法、液流染色法等と呼ばれている方法と基本的に同じ構成であり、染色加工のための染色処理液に代えて(場合によっては染色処理液と同時に)、上記抗菌処理液を用いることにより、抗菌処理を行うことができる。
【0067】
そして、上記「加圧処理」における加圧の程度は、繊維の種類等によるが、通常、ゲージ圧で5~200kPa程度の加圧下での処理を意味する。例えばポリエステル繊維の場合、ゲージ圧で100~200kPa程度の加圧下で処理することが好ましい。
【0068】
また、上記圧力容器内での処理における加熱温度(圧力容器内の温度)は、通常、90~150℃であり、加熱時間は、1~120分であることが好ましい。上記加熱温度、加熱時間は、繊維の種類に応じて、適宜好適な範囲に調整される。例えば、繊維構造物が100%ポリエステルである場合、加熱温度は100~135℃であることが好ましく、加熱時間は10~100分であることが好ましい。
【0069】
<抗菌性繊維構造物>
このようにして処理されることによって、本発明の抗菌性繊維構造物を得ることができる。本発明の抗菌性繊維構造物は、イソチアゾール系抗菌剤(A)と、他の特定の抗菌剤(B)とが、抗菌処理液として繊維に含浸され、その状態で加熱されることによって、繊維を構成する分子間の空隙(加熱によって緩んだ非晶領域)に抗菌剤(A)、(B)が入り込んだ状態で固定されるため、繊維との結合力が強く、優れた洗濯耐久性を示す。このため、従来の、バインダー加工によって繊維表面に付着された抗菌剤のように、樹脂バインダーとともに徐々に脱落して抗菌性が急激に低下するようなことがない。
【0070】
なお、本発明の処理においても、バインダー加工を併用することは可能であるが、配合された樹脂バインダーが、逆に、繊維と抗菌剤(A)、(B)との直接的な結合を妨げるおそれがあることから、樹脂バインダーを用いる場合、その使用は、繊維構造物全体に対して5重量%以下にすることが好ましく、1重量%以下にすることがより好ましい。
【0071】
このようにして得られる、本発明の抗菌性繊維構造物は、すでに述べたとおり、イソチアゾール系抗菌剤(A)と他の抗菌剤(B)との組み合わせによる相乗効果によって、互いの含有量が、ごく低く設定されているため、抗菌剤の含有量が多い場合に生じやすい、皮膚刺激性のリスクや、繊維の変色等のリスクが抑制されており、抗菌性のみならず優れた品質の繊維製品として提供することができる。
【0072】
そして、従来のように樹脂バインダーを用いて繊維表面を被覆する必要がないため、繊維の風合いがごわつくことがない。
【0073】
本発明の抗菌性繊維構造物が抗菌効果を発揮しうる、対象となる細菌としては、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、MRSA(Methicillin-resistant taphylococcus aureus)、枯草菌(Bacillus subtilis)、セレウス菌(Bacillus cereus)等のグラム陽性菌や、大腸菌(Esherichia coli)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、サルモネラ菌(Salmonella typhimur)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)等のグラム陰性菌があげられる。
【0074】
なお、本発明においては、少なくとも上記黄色ブドウ球菌と肺炎かん菌の二つの菌に対して、抗菌活性値が2.2以上である場合、「抗菌性を有する」と評価する。
【0075】
上記「抗菌活性値」は、下記のようにして測定することができる。
【0076】
<抗菌活性値の測定方法>
JIS L1902:2015に準拠する方法に従い、試験菌種として「黄色ブドウ球菌」および「肺炎かん菌」を用いて測定する。すなわち、まず、標準布(抗菌活性を示さない綿布)および抗菌処理の繊維生地のそれぞれに、各試験菌種を接種し、37℃で18~24時間培養後に各生地の生菌数を測定する。測定された各生菌数から以下に示す計算で抗菌活性値を算出する。
【0077】
抗菌活性値A=(LogCt-LogCo)-(LogTt-LogTo)
標準布の増殖値F=(LogCt-LogCo)
LogCo:標準布の試験菌接種直後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
LogCt:標準布の18時間培養後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
LogTo:処理繊維生地の試験菌接種直後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
LogTt:処理繊維生地の18時間培養後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
【0078】
そして、上記抗菌活性値が「2.2」以上の場合、「○:有効」と評価し、同じく「2.2」未満のものを「×:無効」と評価する(一般社団法人 繊維評価技術協議会基準)。
【0079】
また、本発明の抗菌性繊維構造物は、その抗菌性が洗濯耐久性を有することが大きな特徴である。そこで、上記抗菌性の評価は、本発明の抗菌性繊維構造物に対して、JIS L0217-103に準拠する「40℃の家庭洗濯10回」または「40℃の家庭洗濯50回」を行い、洗濯後の繊維構造物に対して、上記抗菌活性値の測定を行う。
【実施例0080】
つぎに、本発明の実施例を、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
[抗菌性処理液の調製]
まず、イソチアゾール系抗菌剤(A)と、他の抗菌剤(B)と、他の任意成分とを水に溶解もしくは懸濁させることにより、以下の表に示す組成の抗菌性処理液を調製した。なお、各成分と、加工対象となる繊維構造物(生地)は、以下に示すとおりである。
【0082】
<イソチアゾール系抗菌剤(A)>
・BIT(プロキセルLV、アークサーダ社製)
・BBIT(デンシルDG、アークサーダ社製)
【0083】
<他の抗菌剤(B)>
(1)オルガノシリコン第四級アンモニウム塩(X1)
・DOTPAC(AEM5700、AEGIS社製)
(2)カルバミン酸エステル誘導体(X2)
・IPBC(ポリフェースP100HP、トロイ社製)
(3)銀系抗菌剤(X3)
・硝酸銀
・塩化銀
(4)金属酸化物(X4)
・酸化チタン
【0084】
<任意成分>
(1)界面活性剤1:N-アルキロールアミド(レベノールTD-881D、北広ケミカル社製)
(2)バインダー1:リケンレヂンMM-35(三木理研工業社製)
【0085】
<繊維構造物>
繊維1:ポリエステルからなる生地(PET100%トロピカル、帝人社製)
繊維2:ポリエステル・綿からなる生地(PET50%、綿50%交織、色染社社製)
繊維3:ナイロン(ナイロン6ジャージ、色染社社製)
繊維4:ポリウレタン・ポリエステルからなる生地(ポリウレタン15%、ポリエステル85%交織、色染社社製)
繊維5:綿からなる生地(金巾、色染社社製)
【0086】
そして、このようにして準備した処理液と繊維構造物(上記繊維1~5からなる生地)を用い、表1~表11に示す条件で抗菌処理を施した後、容器から取り出して繊維表面の余分な成分を除去するため洗濯機でオーバーフロー5分間水洗後、一晩風乾することにより、目的とする抗菌性繊維構造物を得た。
【0087】
そして、上記抗菌処理によって得られた実施例品、比較例品に対し、繊維に着色等の変化や風合いの変化がないかどうかを目で見るとともに手で触って確認した。また、以下の項目について、各項目に述べる手順に従って評価を行った。
【0088】
<抗菌性1、2の評価>
各抗菌性繊維構造物に対して、JIS L0217-103に準拠する「40℃の家庭洗濯10回」または「40℃の家庭洗濯50回」を行った。そして、洗濯後の繊維構造物に対して、JIS L1902:2015に準拠する方法に従い、抗菌性1の評価では、試験菌種として黄色ブドウ球菌を用い、抗菌性2の評価では、試験菌種として肺炎かん菌を用いて、前述の方法にしたがって抗菌性の評価を行った。
【0089】
<抗かび性の評価>
JIS L1921:2015に準拠する方法に従い、試験菌種として「アオカビ(Penicillium citrinum)」を用い、菌体内に含まれるATP量の測定によって評価した。すなわち、まず、上記試験菌種の胞子が懸濁した液体培地を、得られた処理品に接種して25℃で42時間培養した。そして、培養後のATP量を測定し、未処理綿繊維の同様の試験値(ATP量)との対比を抗かび活性値として、その抗かび活性値が「2.2」以上の場合を「○:有効」、同じく「2.2」未満の場合を「×:無効」とした(一般社団法人繊維評価技術協議会基準)。
[実施例1~12、比較例1~3]
<抗菌剤(A)と、抗菌剤(B)のX1との組み合わせ>
下記の表1、表2に示す処理条件で、繊維構造物に対する抗菌処理を行うことにより、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例1~12品、比較例1~3品について、前述のとおり評価を行い、それらの結果を、下記の表1、表2に併せて示す。
【0090】
【0091】
【0092】
上記の結果から、実施例1~12品は、いずれも洗濯耐久性に優れた抗菌性が付与されていることがわかる。特に、イソチアゾール系抗菌剤(A)が、繊維重量に対して0.01~0.2重量%というごく低濃度で含有されていても、併用されているX1との相乗効果によって優れた抗菌・抗かび性を発揮しており、肌にやさしい抗菌性繊維構造物であることがわかる。
【0093】
一方、イソチアゾール系抗菌剤(A)のみを低濃度で用い、X1が用いられていない比較例1品では、十分な抗菌・抗かび性が得られていないことがわかる。また、イソチアゾール系抗菌剤(A)のみで十分な抗菌・抗かび性が得られる濃度で処理をした比較例2品は、繊維が着色することがわかる。また、皮膚への悪影響が懸念される。
さらに、X1のみを用い、イソチアゾール系抗菌剤(A)が用いられていない比較例3品では、十分な抗菌・抗かび性が得られていないことがわかる。
【0094】
[実施例13~24、比較例4、5]
<抗菌剤(A)と、抗菌剤(B)のX2との組み合わせ>
下記の表3、表4に示す処理条件で、繊維構造物に対する抗菌処理を行うことにより、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例13~24品、比較例4、5品について、前述のとおり評価を行い、それらの結果を、下記の表3、表4に併せて示す。
【0095】
【0096】
【0097】
上記の結果から、実施例13~24品は、いずれも洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性が付与されていることがわかる。特に、イソチアゾール系抗菌剤(A)が、繊維重量に対して0.01~0.2重量%というごく低濃度で含有されていても、併用されているX2との相乗効果によって優れた抗菌・抗かび性を発揮しており、肌にやさしい抗菌性繊維構造物であることがわかる。
一方、X2のみを用い、イソチアゾール系抗菌剤(A)が用いられていない比較例4、5品では、十分な抗菌・抗かび性が得られていないことがわかる。
【0098】
[実施例25~42、比較例6~9]
<抗菌剤(A)と、抗菌剤(B)のX3との組み合わせ>
下記の表5~表7に示す処理条件で、繊維構造物に対する抗菌処理を行うことにより、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例25~42品、比較例6~9品について、前述のとおり評価を行い、それらの結果を、下記の表5~表7に併せて示す。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
上記の結果から、実施例25~42品は、いずれも洗濯耐久性に優れた抗菌性が付与されていることがわかる。特に、イソチアゾール系抗菌剤(A)が、繊維重量に対して0.01~0.2重量%というごく低濃度で含有されていても、併用されているX3との相乗効果によって優れた抗菌・抗かび性を発揮しており、肌にやさしい抗菌性繊維構造物であることがわかる。
一方、X3のみを低濃度で用い、イソチアゾール系抗菌剤(A)が用いられていない比較例6、8品では、十分な抗菌・抗かび性が得られておらず、X3のみを高濃度で用いた比較例7、9品は、抗菌・抗かび性は得られるものの、繊維が着色することがわかる。
【0103】
[実施例43~54、比較例10、11]
<抗菌剤(A)と、抗菌剤(B)のX4との組み合わせ>
下記の表8、表9に示す処理条件で、繊維構造物に対する抗菌処理を行うことにより、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例43~54品、比較例10、11品について、前述のとおり評価を行い、それらの結果を、下記の表8、表9に併せて示す。
【0104】
【0105】
【0106】
上記の結果から、実施例43~54品は、いずれも洗濯耐久性に優れた抗菌性が付与されていることがわかる。特に、イソチアゾール系抗菌剤(A)が、繊維重量に対して0.01~0.2重量%というごく低濃度で含有されていても、併用されているX4との相乗効果によって優れた抗菌・抗かび性を発揮しており、肌にやさしい抗菌性繊維構造物であることがわかる。
一方、X4のみを低濃度で用い、イソチアゾール系抗菌剤(A)が用いられていない比較例10品では、繊維に着色があり、しかも十分な抗菌・抗かび性が得られていないことがわかる。また、X4のみを高濃度で用いた比較例11品は、抗菌・抗かび性は得られるものの、繊維が着色するとともに硬い手触りになることがわかる。
【0107】
[実施例55~70]
<抗菌剤(A)と、抗菌剤(B)を用いたさまざまな組み合わせ>
下記の表10、表11に示す処理条件で、繊維構造物に対する抗菌処理を行うことにより、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例55~70品について、前述のとおり評価を行い、それらの結果を、下記の表10、表11に併せて示す。
【0108】
【0109】
【0110】
上記の結果から、実施例55~70品は、概ね洗濯耐久性に優れた抗菌・抗菌・抗かび性が付与されていることがわかる。
なお、ベーキング加工における温度が140℃と低い実施例58品は、50回の洗濯後には抗菌性と抗かび性が低下しており、洗濯耐久性が十分ではないことがわかる。ただし、同様の処理条件で加工して10回洗濯後に評価したもの(実施例57品)は、優れた抗菌性と抗かび性を有しており、用途によっては十分に実用性があるといえる。
また、バインダーを用いた実施例70品は、抗菌性と抗かび性に優れているが、風合いがやや硬いことがわかる。
本発明は、抗菌剤(A)と抗菌剤(B)の相乗作用によって、組み合わせられる各抗菌剤がそれぞれ比較的少ない含有割合であるにもかかわらず、全体として、洗濯耐久性のある優れた抗菌性が発揮されるようになっており、繊維の品質や繊維が接する皮膚に対して悪影響を及ぼすことのない、優れた抗菌性繊維構造物の提供に有用である。