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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132350
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】電化柱の耐震補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240920BHJP
   E04H 12/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E04G23/02 F
E04H12/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043075
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】591075641
【氏名又は名称】東鉄工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】草野 英明
(72)【発明者】
【氏名】小林 昂樹
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA04
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】寒冷環境における耐震補強工事の施工性向上が図られた電化柱の耐震補強方法を提供する。
【解決手段】電化柱の耐震補強方法は、既設の電化柱EPの外周に、筒状体の鋼管ユニット10を設置する鋼管ユニット設置工程と、鋼管ユニット設置工程で設置した鋼管ユニット10と電化柱EPとの間に充填材を充填する充填工程と、充填工程において電化柱EPとの間に充填材が充填された鋼管ユニット10の外周側面と上面とを覆うように、中空体の断熱ユニット2を設置する断熱ユニット設置工程と、を有することを特徴とする。断熱ユニット設置工程においては、鋼管ユニット10の外周側面を覆う第1断熱材21と、鋼管ユニット10の上面を覆う第2断熱材22と、を設置してもよい。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の電化柱の外周に、筒状体の鋼管ユニットを設置する鋼管ユニット設置工程と、
前記鋼管ユニット設置工程で設置した前記鋼管ユニットと前記電化柱との間に充填材を充填する充填工程と、
前記充填工程において前記電化柱との間に前記充填材が充填された前記鋼管ユニットの外周側面と上面とを覆うように、中空体の断熱ユニットを設置する断熱ユニット設置工程と、
を有すること
を特徴とする電化柱の耐震補強方法。
【請求項2】
前記鋼管ユニット設置工程は、筒状体の上段鋼管ユニットと、前記上段鋼管ユニットと上下方向に離間する筒状体の下段鋼管ユニットと、前記上段鋼管ユニットの外周と前記下段鋼管ユニットの外周とに接合された複数の鋼製の棒材と、から構成された前記鋼管ユニットを設置し、
前記充填材の硬化後、前記断熱ユニット設置工程において設置された前記断熱ユニットを取り外し、前記上段鋼管ユニットと前記下段鋼管ユニットとの間において、前記電化柱を上下に分断する分断工程をさらに有すること
を特徴とする請求項1に記載の電化柱の耐震補強方法。
【請求項3】
前記断熱ユニット設置工程は、前記鋼管ユニットの外周側面を覆う、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが10mm以上の第1断熱材と、前記鋼管ユニットの上面を覆う、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが60mm以上の第2断熱材と、を含む前記断熱ユニットを設置すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の電化柱の耐震補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、寒冷環境において有効な、電化柱の耐震補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大規模地震の際に電化柱が倒壊する被害が多発したことを受け、既存の電化柱の耐震を補強する補強構造について研究されている。
【0003】
既設の電化柱を補強する耐震補強構造の一例として、特許文献1には、電化柱の外周を耐震補強鋼管ユニットで囲み、電化柱と耐震補強鋼管ユニットとの間にモルタルを充填した耐震補強構造の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許7203268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された電化柱の耐震補強構造によれば、打設した無収縮モルタルの圧縮強度が24N/mm2以上の強度に達していることを確認したうえで、ワイヤソーにより切断位置で無収縮モルタル及びPC鋼線を切断して塑性ヒンジ部を形成することで、電化柱の脆性破壊を防ぐことができる。一方で、環境温度が氷点下となる寒冷環境においては、モルタルに含まれる水分が凍結し、モルタルの水和反応が進行せず、要求される強度に達する前に硬化が止まるおそれがある。その結果、モルタルやコンクリートを用いる耐震補強工事について、特に冬期に実施することが困難となる問題がある。この点、特許文献1では、記載も示唆もされていない。
【0006】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、寒冷環境における耐震補強工事の施工性向上が図られた電化柱の耐震補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明における電化柱の耐震補強方法は、既設の電化柱の外周に、筒状体の鋼管ユニットを設置する鋼管ユニット設置工程と、前記鋼管ユニット設置工程で設置した前記鋼管ユニットと前記電化柱との間に充填材を充填する充填工程と、前記充填工程において前記電化柱との間に前記充填材が充填された前記鋼管ユニットの外周側面と上面とを覆うように、中空体の断熱ユニットを設置する断熱ユニット設置工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
第2発明における電化柱の耐震補強方法は、第1発明において、前記鋼管ユニット設置工程は、筒状体の上段鋼管ユニットと、前記上段鋼管ユニットと上下方向に離間する筒状体の下段鋼管ユニットと、前記上段鋼管ユニットの外周と前記下段鋼管ユニットの外周とに接合された複数の鋼製の棒材と、から構成された前記鋼管ユニットを設置し、前記充填材の硬化後、前記断熱ユニット設置工程において設置された前記断熱ユニットを取り外し、前記上段鋼管ユニットと前記下段鋼管ユニットとの間において、前記電化柱を上下に分断する分断工程をさらに有することを特徴とする。
【0009】
第3発明における電化柱の耐震補強方法は、第1発明又は第2発明において、前記断熱ユニット設置工程は、前記鋼管ユニットの外周側面を覆う、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが10mm以上の第1断熱材と、前記鋼管ユニットの上面を覆う、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが60mm以上の第2断熱材と、を含む前記断熱ユニットを設置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明~第3発明によれば、鋼管ユニットと電化柱との間に充填材を充填する充填工程と、電化柱との間に充填材が充填された鋼管ユニットの外周側面と上面とを覆うように、中空体の断熱ユニットを設置する断熱ユニット設置工程と、を備える。このため、断熱ユニット内部の充填材が外気温の影響を受けにくくなり、充填材を要求される強度まで十分に硬化させることができる。これにより、寒冷環境における耐震補強工事の施工性向上を図ることができる。
【0011】
特に、第2発明によれば、鋼管ユニット設置工程は、筒状体の上段鋼管ユニットと、筒状体の下段鋼管ユニットと、上段鋼管ユニットの外周と下段鋼管ユニットの外周とに接合された複数の鋼製の棒材と、から構成された鋼管ユニットを設置する。また、充填材の硬化後に断熱ユニットを取り外し、上段鋼管ユニットと下段鋼管ユニットとの間において、電化柱を上下に分断する分断工程をさらに備える。このため、上段鋼管ユニットと下段鋼管ユニットの間が塑性ヒンジとなり、電化柱に加わる震動によるエネルギーが棒材の塑性変形によって吸収されやすくなる。また、棒材は全数外部に露出しており、棒材全数の塑性変形の有無が目視で簡単に視認できる。これにより、電化柱の交換の要否を容易に判断することができる。
【0012】
また、第2発明によれば、鋼管ユニット設置工程は、筒状体の上段鋼管ユニットと、筒状体の下段鋼管ユニットと、上段鋼管ユニットの外周と下段鋼管ユニットの外周とに接合された複数の鋼製の棒材と、から構成された鋼管ユニットを設置する。すなわち、棒材が内周面に設けられる場合と比べて、電化柱の分断に用いるワイヤソーを取り出す間隔を広く確保しやすい。このため、ワイヤソーの一部における摩擦抵抗の増加を避け、電化柱が分断不能となるリスクを低減することができる。これにより、施工性の向上を図ることができる。
【0013】
特に、第3発明によれば、断熱ユニット設置工程は、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが10mm以上の第1断熱材と、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが60mm以上の第2断熱材と、を含む断熱ユニットを設置する。このため、電化柱と鋼管ユニットとの間に充填された充填材の温度が72時間0℃以上に維持され、充填材を完全硬化させることができる。これにより、寒冷環境における耐震補強工事で施工する耐震補強構造の強度の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1実施形態における電化柱の耐震補強構造の一例を示す模式図である。
図2図2は、第1実施形態における電化柱の耐震補強構造の一例を示す図1のA-A線断面図である。
図3図3(a)~図3(b)は、鋼管ユニットの第1補強部材を示す模式図であり、(a)が平面図、(b)が側面図である。図3(c)~図3(d)は、鋼管ユニットの第2補強部材を示す図であり、(c)が平面図、(d)が側面図である。
図4図4は、第1実施形態における電化柱の耐震補強構造の施工方法の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、第1実施形態における電化柱の耐震補強構造の施工時に設置する断熱ユニットの一例を示す模式図である。
図6図6(a)~図6(d)は、断熱ユニットを示す模式図であり、(a)が平面図、(b)が側面図、(c)及び(d)が上端の詳細を示す模式断面図である。
図7図7は、第1実施形態における電化柱の耐震補強構造の施工時に設置する断熱ユニットの一部の一例を示す模式図である。
図8図8は、第1実施形態における電化柱の耐震補強構造の施工時に設置する断熱ユニットの一部の一例を示す平面図である。
図9図9(a)~図9(d)は、第1実施形態における電化柱の耐震補強構造の施工時に設置する断熱ユニットの施工方法の一例を示す模式平面図である。
図10図10は、第2実施形態における電化柱の耐震補強構造の一例を示す模式図である。
図11図11は、第2実施形態における電化柱の耐震補強構造の上段耐震補強構造及び下段耐震補強構造を示す図11のB-B線断面図である。
図12図12は、第2実施形態における電化柱の耐震補強構造の中段耐震補強構造の分断位置を示す図10のC-C線断面図である。
図13図13は、第2実施形態における電化柱の耐震補強構造を構成する鋼管ユニットの第1補強部材を示す模式図であり、(a)が平面図、(b)が側面図である。
図14図14は、第2実施形態における電化柱の耐震補強構造を構成する鋼管ユニットの第2補強部材を示す模式図であり、(a)が平面図、(b)が側面図である。
図15図15は、第2実施形態における電化柱の耐震補強構造の施工方法の一例を示すフローチャートである。
図16図16は、第2実施形態における電化柱の耐震補強構造の施工方法のうち、分断工程実施前の中段耐震補強構造の分断位置を示す図であり、(a)が本発明の断面図、(b)が比較例の断面図である。
図17図17は、第2実施形態における電化柱の耐震補強構造の施工時に設置する断熱ユニットの施工方法の一例を示す模式平面図である。
図18図18は、第2実施形態における電化柱の耐震補強構造の施工方法のうち、分断工程実施中の中段耐震補強構造の分断位置を示す図であり、(a)が本発明の断面図、(b)が比較例の断面図である。
図19図19は、本実施形態における断熱ユニットを設置しない電化柱の耐震補強構造の比較例と、本実施形態における断熱ユニットを設置した本発明例と、の効果を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態としての電化柱の耐震補強方法の一例について、図面を参照しながら詳細に説明をする。なお、各図における構成は、説明のため模式的に記載されており、例えば各構成の大きさや、構成毎における大きさの対比等については、図とは異なってもよい。
【0016】
(第1実施形態:電化柱の耐震補強方法)
まず、図1図3を参照して、本実施形態における電化柱EPの耐震補強方法により設置される耐震補強構造1の一例を説明する。
【0017】
電化柱EPの耐震補強方法は、例えば図1に示すように、既設の電化柱EPの外周に鋼管ユニット10を設置して、耐震補強構造1を構築するものである。
【0018】
電化柱EPは、例えば直径400mmのPC電化柱を想定している。従来のPC電化柱は、電化柱EPの外周を鋼管ユニット10で囲み、電化柱EPと鋼管ユニット10との隙間に、第1充填材M1が注入充填される。また、従来のPC電化柱は、例えば中空状の電化柱EPに穿設された、内部空洞EPaに連通する注入孔INと吐出確認孔OUTを介して、内部空洞EPaに第2充填材M2が注入充填される。ここで、第1充填材M1及び第2充填材M2としては、例えば無収縮モルタルが用いられる。これら各充填材M1、M2は、充填後に水和反応によって硬化し始めるが、水和反応が完了する前に温度が0℃以下になる場合、水和反応に必要な水分が凍結し、充填材の硬化が不完全になるおそれがある。その結果、充填材の硬度が不十分となり、電化柱の補強構造1の品質が悪化してしまう。
【0019】
本実施形態で説明する電化柱EPの耐震補強方法は、各充填材M1、M2の水和反応が完了するまでの間、後述のとおり、電化柱の補強構造1の外周を囲むように断熱ユニット2を設置する。これにより、各充填材M1、M2が外気温の影響を受けにくくなり、各充填材M1、M2を要求される強度まで十分に硬化させることができる。これにより、寒冷環境における耐震補強工事の施工性向上を図ることができる。
【0020】
<鋼管ユニット10>
鋼管ユニット10は、溶融亜鉛めっき等の防錆処理が施された一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材からなる。鋼管ユニット10は、例えば図2に示すように、断面円弧状の第1補強部材10aと、断面円弧状の第2補強部材10bの2つのパーツに分割されている。
【0021】
第1補強部材10aは、例えば図3(a)に示すように、厚さ9mmの一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材から内周面の曲率半径が245mmの断面円弧状に曲げ加工された筒状体100を基体とする部材である。
【0022】
筒状体100は、例えば図3(b)に示すように、上端の縁沿いにおいて、吊上げ孔h1が穿設されている(図3では5カ所)。吊上げ孔h1は、筒状体100を電化柱EPの装着位置まで吊り上げるためのフックボルトをかけるために用いる、シャックル等を挿通するための孔である。吊上げ孔h1は、例えば直径10mmの孔となっている。
【0023】
筒状体100は、例えば図3(b)に示すように、複数のボルト孔102が穿設されている。複数のボルト孔102は、筒状体100と第2補強部材10bの筒状体101とをボルト接合するための孔である。また、このボルト孔112の内側となる筒状体100の内周面には、ボルトm1と螺合するナット103が溶接されている。このため、鋼管ユニット10は、第2補強部材10bの筒状体101の外側からボルト孔105にボルトm1をねじ回すだけで第2補強部材10bと第1補強部材10aの接合が短時間で容易にできる。
【0024】
筒状体100は、例えば図2に示すように、筒状体100の内周面の中心線上に、第1充填材M1を充填するための隙間s1を確保するスペーサー104が突設されてもよい。スペーサー104は、例えば高さ10mm、厚さ16mmの鋼材のフラットバーからなる。
【0025】
鋼管ユニット10は、例えば電化柱EPとの隙間s1に、第1充填材M1が充填されている。この場合、電化柱EPに加わる震動によるエネルギーを、第1充填材M1を介して耐震補強構造1全体に分散しやすくなる。
【0026】
また、このとき、例えば図1に示すように、電化柱EPの内部空洞EPaに、第2充填材M2が、第1充填材M1より上方の位置まで充填されてもよい。この場合、電化柱EPに加わる震動によるエネルギーを、第2充填材M2と第1充填材M1とを介して耐震補強構造1全体に分散しやすくなる。
【0027】
一方、第2補強部材10bは、例えば図3(c)に示すように、厚さ9mmの一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材から内周面の曲率半径が254mmの断面円弧状に曲げ加工された筒状体101を基体とする部材である。
【0028】
筒状体101は、例えば図3(d)に示すように、筒状体100と同様、上端の縁沿いにおいて、吊上げ孔h1が穿設されている(図3では3カ所)。
【0029】
筒状体101は、例えば複数のボルト孔105が穿設されている。複数のボルト孔105は、筒状体101と第1補強部材10aの筒状体100とをボルト接合するための孔である。
【0030】
次に、本発明の実施形態に係る電化柱EPの耐震補強方法について説明する。電化柱EPの耐震補強方法は、例えば図4に示すように、鋼管ユニット設置工程S11と、充填工程S12と、断熱ユニット設置工程S13と、を備える。
【0031】
<事前準備>
本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法を実施する準備工として、予め耐震補強工事の対象である既設の電化柱EPが建植されている基礎の形式、障害物の有無を確認する。勿論、施工に支障がある添接物等があれば、施工前に撤去できるものは撤去しておく。また、後述の鋼管ユニット設置工程S11において内部空洞EPaに第2充填材M2を注入充填するための孔を削孔する。具体的には、例えば図1に示すように、電化柱EPの所定の高さに、電化柱EPの外周面から内部空洞EPaに連通する注入孔INと吐出確認孔OUTを削孔する。吐出確認孔OUTは、例えば上段鋼管ユニット11の上端から1D(電化柱EPの外周断面の直径)だけ上方の位置に設けられる。なお、第2充填材M2は予め内部空洞EPaに充填されてもよく、後述の第1充填材M1の充填後に充填されてもよい。
【0032】
<鋼管ユニット設置工程S11>
鋼管ユニット設置工程S11では、鋼管ユニット10を、補強対象である電化柱EPとの位置関係が所定の位置となるように構築する。詳しくは、電化柱EPの外周に鋼管ユニット10を設置する。
【0033】
まず、第1補強部材10aを、電化柱EPに沿って吊り上げる。具体的には、例えば予め電化柱EPに固定したハンガー部材に設けられたフックボルトと吊上げ孔h1に挿通したシャックルとを連結して吊り上げる。吊り上げ時は、フックボルトで長さを調整することなく、チェーンブロックなどの他の長さ調整治具を用いて、ハンガー部材と第1補強部材10aとの間隔を調整してもよい。
【0034】
同様に、第2補強部材10bも設置する。その後、第2補強部材10bと第1補強部材10aとをボルト接合して、鋼管ユニット10を構築する。
【0035】
第1補強部材10aにスペーサー104が設けられる場合、スペーサー104は、例えば図2に示すように、電化柱EPに接することで、第1補強部材10aと電化柱EPとの間に隙間s1を形成する。なお、図示を省略したが、前述のハンガー部材を用いて、隙間s1が一定となるように、上段鋼管ユニット11の一部を支持してもよい。
【0036】
以上で、鋼管ユニット10の設置が完了となる。
【0037】
<充填工程S12>
鋼管ユニット設置工程S11において鋼管ユニット10を設置した後に、充填工程S12を実施する。充填工程S12では、鋼管ユニット10の上部から、鋼管ユニット10内の隙間s1に第1充填材M1を注入し、鋼管ユニット10の上部まで第1充填材M1で満たす。第1充填材M1を注入する際、図1に示すように、鋼管ユニット10の下端と既設の電化柱EPの基礎との間に、鋼管ユニット10の筒状体100,101の下端を挿し込む凹溝が形成された断面凹字状のゴム材5を介装すると好ましい。この場合、鋼管ユニット10に充填した第1充填材M1が下端から漏出することを防ぐことができる。なお、ゴム材5とは、加えた力の方向に大きく伸縮し、力を除くと元の形状に戻る特性(弾性変形)を有したゴム弾性体を指している。
【0038】
<断熱ユニット設置工程S13>
充填工程S12において第1充填材M1を注入し、隙間s1を鋼管ユニット10の上部まで第1充填材M1で満たした後、断熱ユニット設置工程S13を実施する。断熱ユニット設置工程S13においては、例えば図5に示すように、鋼管ユニット10の外周に断熱ユニット2を設置する。
【0039】
<断熱ユニット2>
断熱ユニット2は、中空体であり、鋼管ユニット10を覆うように設置される。断熱ユニット2は、鋼管ユニット10の外周側面を覆う第1断熱材21と、鋼管ユニット10の上面を覆う第2断熱材22と、を有する。この場合、断熱ユニット2内部の第1充填材M1が外気温の影響を受けにくくなり、第1充填材M1を要求される強度まで十分に硬化させることができる。これにより、寒冷環境における耐震補強工事の施工性向上を図ることができる。なお、電化柱の耐震補強方法においては、水和反応を完了させることで第1充填材M1が完全に硬化し、より高い圧縮強度を得るために、第1充填材M1の温度を水が凍結しない0℃以上に約72時間保つことが好ましい。
【0040】
断熱ユニット2は、例えば保護材20を基体として、保護材20の内周面に第1断熱材21が設けられる。第1断熱材21は、例えば公知の金属用接着剤により、保護材20の内周面に接着されて設けられる。
【0041】
保護材20及び第1断熱材21の形状としては、例えば筒状体であるが、鋼管ユニット10を覆う任意の形状でもよい。第2断熱材22の形状としては、例えば電化柱EPの外周に沿って設けられる平面視円形の形状であるが、鋼管ユニット10の上面を覆うように保護材20の上面を塞ぐ任意の形状でよい。
【0042】
保護材20の材質としては、耐候性に優れる材料が用いられ、溶融亜鉛めっき等の防錆処理が施された一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材や、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の公知の合成樹脂からなる。鋼材からなる保護材20を用いる場合、合成樹脂からなる保護材20よりも密度が大きいため、例えば耐震補強構造1の近くを車両が走行する際の風圧等の影響を受けにくい。また、合成樹脂からなる保護材20よりも加工性に優れるため、各種部材間の接合が容易になり、強度を確保しやすい。一方で、合成樹脂からなる保護材20を用いる場合、鋼材からなる保護材20よりも熱伝導率が低い傾向にあるため、断熱性能を向上させやすい。また、鋼材からなる保護材20よりも密度が小さく軽量であるため、施工性を向上させやすい。
【0043】
第1断熱材21の材質としては、例えば予め面状に形成された発泡プラスチックが用いられ、ポリエチレンフォーム、ポリスチレンフォーム、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォーム等が用いられる。第2断熱材22の材質としては、例えば第1断熱材21と同様の材質が用いられる。
【0044】
断熱ユニット2は、例えば図6(a)に示すように、断面視円弧状の第1断熱部材20aと、断面視円弧状の第2断熱部材20bと、各断熱部材20a、20bを回動自在に接合する蝶番20cと、を有する。
【0045】
各断熱部材20a、20bは、例えば厚さ1.2mmの面材から内周面の曲率半径が310mmの断面円弧状に曲げ加工された筒状体200、201を基体とする部材である。各断熱部材20a、20bは、例えば厚さ2.3mmの面材から曲げ加工されてもよい。各断熱部材20a、20bの厚さは、例えば1.0mm~20.00mmである。各断熱部材20a、20bの厚さが1.0mm未満の場合、蝶番20cへの溶接性が悪くなるなど施工性が低くなる点、耐久性が低く風圧等で飛散するおそれがある点、期待する断熱性能が得られにくい点等で懸念がある。各断熱部材20a、20bの厚さが20mm超の場合、断熱ユニット2内に収まらず設置が困難となる。筒状体200の内周面には、筒状体の第1断熱材21の一部を構成する、断面円弧上の断熱材210が設けられている。また、筒状体201の内周面には、筒状体の第1断熱材21の一部を構成する、断面円弧上の断熱材211が設けられている。第1断熱部材20aの蝶番20cが設けられていない方の端部と、第2断熱部材20bの蝶番20cが設けられていない方の端部と、を接合することで、筒状体の保護材20を形成するとともに、保護材20の内周面に筒状体の第1断熱材21を形成することができる。
【0046】
特に、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さ10mm以上の第1断熱材21と、熱伝導率が0.040W/(m・K)以で厚さ60mm以上の第2断熱材22と、を用いるとき、第1断熱材21の熱貫流抵抗を0.01m÷0.040W/(m・K)=0.25m2・K/W以上、第2断熱材22の熱貫流抵抗を0.06m÷0.040W/(m・K)=1.5m2・K/W以上確保することができる。この場合、電化柱EPと鋼管ユニット10との隙間s1に充填された充填材M1の温度が72時間0℃以上に維持され、充填材M1を完全硬化させることができる。これにより、寒冷環境における耐震補強工事で施工する耐震補強構造1の強度の安定化を図ることができる。なお、第1断熱材21の熱貫流抵抗が0.25m2・K/W未満、又は第2断熱材22の熱貫流抵抗が1.5m2・K/W未満の場合、隙間s1に充填された充填材M1の温度が72時間0℃以上に維持されないおそれがある。第1断熱材21と第2断熱材22の材質及び厚さに応じた断熱性能の効用については、実施例において実験データに基づき説明する。
【0047】
保護材20を構成する各筒状体200、201には、例えば図6(b)に示すように、複数のボルト孔202が穿設されている。各筒状体200、201は、例えば図7に示すように、それぞれに設けられた複数のボルト孔202と、留め具23に設けられたボルト孔230と、がボルトm2に螺合されることで、接合される。また、このボルト孔202の内側となる各筒状体200、201の内周面には、例えば図6(a)に示すように、ボルトm2と螺合するナット203が溶接されている。このため、断熱ユニット2は、各筒状体200、201の外側からボルト孔202にボルトm2をねじ回すだけで、各断熱部材20a、20bの接合が短時間で容易にできる。
【0048】
保護材20の上端には、例えば図5に示すように、第2断熱材22を嵌め込むための第1嵌合部204と第2嵌合部205とが設けられる。
【0049】
第2断熱部材20bの上端には、例えば図6(c)に示すように、第1嵌合部204が設けられている。第1嵌合部204は、例えば筒状体201の内周面に溶接されて設けられる。第1嵌合部204は、例えば断面L字型の複数のアングル(山形鋼)204a、204bが断面コの字状となるように溶接されてなる。第1嵌合部204は、例えばアングル204aの上方に溶接されるアングル204bに、拡張部材204cを溶接してもよい。すなわち、断面コの字状の第1嵌合部204のうち上方の面が、電化柱EPに向かって拡張される。この場合、天候等の外力により第2断熱材22が第1嵌合部204から外れにくくなる。これにより、断熱ユニット2の断熱性能の低下抑制を図ることができる。また、拡張部材204cを第2断熱材22に沿ってより大きく設けることにより、この場合、第2断熱材22の露出面を減らすことができ、天候等の外力による第2断熱材22の損傷を防ぎやすくなる。これにより、断熱ユニット2の断熱性能の低下抑制を図ることができる。なお、拡張部材204cは、各アングル204a、204bと同様の鋼材を用いてもよい。
【0050】
第1断熱部材20aの上端には、例えば図6(d)に示すように、第2嵌合部205が設けられている。第2嵌合部205は、例えば筒状体200の内周面に溶接されて設けられる。第2嵌合部205は、例えば第1嵌合部204と同様に、断面L字型の複数のアングル(山形鋼)205a、205bが断面コの字状となるように溶接されてなる。なお、第2嵌合部205には、後述のとおり第2断熱材22を保護材20の上部から押し下げて嵌め込むために、拡張部材204cのような部材を設けなくてもよい。
【0051】
第2断熱材22は、例えば図5に示すように、各嵌合部204、205に嵌め込まれて、保護材20の上端に設けられる。第2断熱材22は、例えば第3断熱部材22aと第4断熱部材22bとからなる。各断熱部材22a、22bは、例えば図8に示すように、平面視において、保護材20の内径と同程度の直径の半円から、電化柱EPの外径と同程度の直径の半円を切り欠いた形状であり、図8のように組み合わせて用いる。各断熱部材22a、22bの厚さは、充填材M1の性質に応じて設計してよく、例えば60mm~100mmである。各断熱部材22a、22bの厚さが60mm未満の場合、隙間s1に充填された充填材M1の温度が72時間0℃以上に維持されないおそれがある。各断熱部材22a、22bの厚さが100mm超の場合、より高さのある保護材20が必要となるため、製造コストが増加するおそれがある。また、保護材20の上部に嵌め込めにくく作業性が低下するおそれがある。
【0052】
断熱ユニット設置工程S13は、例えば図9(a)~図9(c)に示すような手順で実施される。まず、図9(a)に示すように、第1断熱部材20aと第2断熱部材20bとを繋ぐ蝶番20cを折り曲げた状態で、鋼管ユニット10の外周に第1断熱部材20aのみ設置する。第1断熱部材20aを設置するスペースが限られているときは、第1断熱部材20aを電化柱EPの円周方向(図9では時計回りの方向)に沿って回動させる方法により、鋼管ユニット10の外周に第1断熱部材20aを設置してもよい。
【0053】
次に、図9(b)に示すように、第2嵌合部205に嵌め込むように、第3断熱部材22aと第4断熱部材22bとを、鋼管ユニット10の上面を覆うように設置する。このとき、各断熱部材22a、22bの嵌め込み方としては、例えば各断熱部材22a、22bを、電化柱EPに向かう方向に弾性変形させながら、筒状体200の上方から押し下げて第2嵌合部205に嵌め込む。また、他の方法としては、各断熱部材22a、22bを電化柱EPの円周方向に沿って回動させながら第2嵌合部205に嵌め込んでもよい。また、予め各断熱部材22a、22bを電化柱EPに仮留めした後に第1断熱部材20aを鋼管ユニット10の外周に設置してもよく、各断熱部材22a、22bを設置するときだけ、第1断熱部材20aを電化柱EPから離間する方向に一時的にずらして設置してもよい。
【0054】
次に、図9(c)に示すように、蝶番20cを回動させて、鋼管ユニット10の外周に第2断熱部材20bを設置する。このとき、設置済みの各断熱部材22a、22bが、第1嵌合部204に嵌め込まれるように、各断熱部材22a、22bの位置を調整しながら、第2断熱部材20bを設置する。その後、図7に示すように、各断熱部材20a、20bに設けられたボルト孔202に対して、留め具23をボルトm2で螺合する。
【0055】
なお、鋼管ユニット10は、例えば図9(d)に示すように、上部において電化柱EPとの距離を調整するためのスペーサー206が嵌め込まれる場合がある。このとき、各断熱部材20a、20b、22a、22bには、スペーサー206の設置を支障しないように、溝206aが形成されてもよい。スペーサー206は、例えば板状である。
【0056】
以上で、断熱ユニット2の設置が完了となる。
【0057】
断熱ユニット2を設置した後、第1充填材M1の硬化後、断熱ユニット2を耐震補強構造1から取り外す。詳しくは、第1充填材M1の圧縮強度が例えば24N/mm以上の強度に達していることを確認した上で、断熱ユニット2を耐震補強構造1から取り外す。
【0058】
以上で、電化柱の耐震補強構造1の設置が完了となる。
【0059】
本実施形態によれば、電化柱EPと鋼管ユニット10との間に充填材M1を充填する充填工程S12と、電化柱EPとの間に充填材M1が充填された鋼管ユニット10の外周側面と上面とを覆うように、中空体の断熱ユニット2を設置する断熱ユニット設置工程S13と、を備える。このため、断熱ユニット2内部の充填材M1が外気温の影響を受けにくくなり、充填材M1を要求される強度まで十分に硬化させることができる。これにより、寒冷環境における耐震補強工事の施工性向上を図ることができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、断熱ユニット設置工程S13は、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが10mm以上の第1断熱材21と、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが60mm以上の第2断熱材22と、を含む断熱ユニット2を設置する。このため、電化柱EPと鋼管ユニット10との間に充填された充填材M1の温度が72時間0℃以上に維持され、充填材M1を完全硬化させることができる。これにより、寒冷環境における耐震補強工事で施工する耐震補強構造1の強度の安定化を図ることができる。
【0061】
(第2実施形態:電化柱の耐震補強方法)
図10図14を参照して、本実施形態における電化柱EPの耐震補強方法により設置される耐震補強構造1の一例を説明する。本実施形態は、鋼管ユニット10が、筒状体の上段鋼管ユニット11と、筒状体の下段鋼管ユニット13と、上段鋼管ユニット11の外周と下段鋼管ユニット13の外周とに接合された複数の鋼製の棒材14と、から構成され、電化柱EPが、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13との間で上下に分断される点で、第1実施形態とは異なる。なお、上述の内容と同様の構成については、説明を省略する。
【0062】
電化柱EPの耐震補強方法は、例えば図10に示すように、既設の電化柱EPの外周に、上段鋼管ユニット11と、上段鋼管ユニット11と上下方向に離間する下段鋼管ユニット13と、からなる鋼管ユニット10を設置して、耐震補強構造1を構築するものである。ここで、上段鋼管ユニット11は上段耐震補強構造の一部を構成し、下段鋼管ユニット13は下段耐震補強構造の一部を構成する。
【0063】
なお、本実施形態においては、電化柱の耐震補強構造1が、上段鋼管ユニット11及び下段鋼管ユニット13よりも厚さを薄くすることで、強度が低くなるように調節された中段鋼管ユニット12で構成される中段耐震補強構造を備える例を説明するが、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13との間が塑性ヒンジ部として機能する構成であれば、これに限定されない。例えば、中段耐震補強構造は、中段鋼管ユニット12の代わりに鉄鋼材よりも強度の低い保護シート材等で構成されてもよく、設置が省略されてもよい。
【0064】
従来のPC電化柱は、その内部に設けられるPC鋼線PC1で補強されているが、大地震等により想定外の水平荷重が入力されることにより、電化柱EPを構成するコンクリートが圧壊し、電化柱EPが脆性的な破壊形態を呈するおそれがある。このため、本発明に係る電柱耐震補強工事では、後述のとおり、電化柱EPの外周を、複数の棒材14が全て外周面に接合された上段鋼管ユニット11及び下段鋼管ユニット13を備える鋼管ユニット10で囲み、その後上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13との間の位置で、電化柱EPを、埋設されたPC鋼線PC1ごとワイヤソーで切断する。
【0065】
また、電化柱の耐震補強構造1は、例えばPC鋼線PC1及び電化柱EPの分断により生じた隙間に、第3充填材M3が注入充填される(図12参照)。これにより、電化柱の耐震補強構造1は、鋼管ユニット10の外周に設けられた棒材14が塑性変形することで大地震時の入力エネルギーを吸収して脆性破壊を防ぐ構成となっている。第3充填材M3としては、分断された電化柱EPについて上下方向の圧縮力を負担することができる間詰用の材料が用いられ、例えば公知の合成樹脂、無収縮セメントミルク等が用いられる。
【0066】
<鋼管ユニット10>
鋼管ユニット10は、例えば図10に示すように、上段鋼管ユニット11と、下段鋼管ユニット13と、を備えている。各鋼管ユニット11、13は、溶融亜鉛めっき等の防錆処理が施された一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材からなる。上段鋼管ユニット11及び下段鋼管ユニット13の外周面には、複数本の鉄筋からなる棒材14が溶接されて取り付けられているとともに、棒材14が地震エネルギー吸収時に各鋼管プレートから剥離することを防止するための保護鋼材15も取り付けられている。なお、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13とは上下に離間されており、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13との間には、例えば棒材14が取り付けられていない中段鋼管ユニット12が設けられる(図10図12参照)。
【0067】
上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13とは、複数本(図示形態では8本)の棒材14で連結された上下一対且つ上下対称の部材である。よって、以下は、下段鋼管ユニット13は、符号のみを記載して上段鋼管ユニット11で代替して説明し、詳細な説明は省略する。
【0068】
<上段鋼管ユニット11、下段鋼管ユニット13>
上段鋼管ユニット11(下段鋼管ユニット13)は、例えば図11に示すように、断面円弧状の第1補強部材11a(13a)と、断面円弧状の第2補強部材11b(13b)の2つのパーツに分割されている。
【0069】
第1補強部材11a(13a)は、例えば図13(a)に示すように、厚さ9mmの一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材から内周面の曲率半径が245mmの断面円弧状に曲げ加工された筒状体110(130)を基体とする部材である。
【0070】
筒状体110は、例えば図13(b)に示すように、上端の縁沿いにおいて、吊上げ孔h1が穿設されている(図4では5カ所)。吊上げ孔h1は、筒状体110を電化柱EPの装着位置まで吊り上げるためのフックボルトをかけるために用いる、シャックル等を挿通するための孔である。吊上げ孔h1は、例えば直径10mmの孔となっている。
【0071】
筒状体110(130)は、例えば図13(b)に示すように、複数のボルト孔112(132)が穿設されている。複数のボルト孔112(132)は、筒状体110(130)と第2補強部材11b(13b)の筒状体111(131)とをボルト接合するための孔である。また、このボルト孔112の内側となる筒状体110の内周面には、ボルトm1と螺合するナット113が溶接されている。このため、上段鋼管ユニット11(下段鋼管ユニット13)は、後述の第2補強部材11b(13b)の筒状体111の外側からボルト孔115にボルトm1をねじ回すだけで第2補強部材11b(13b)と第1補強部材11a(13a)の接合が短時間で容易にできる。
【0072】
筒状体110(130)は、例えば図11に示すように、筒状体110の内周面の中心線の上部(筒状体130の内周面の中心線の下部)に、第1充填材M1を充填するための隙間s1を確保するスペーサー114(134)が突設されてもよい。スペーサー114(134)は、例えば高さ10mm、厚さ16mmの鋼材のフラットバーからなる。
【0073】
上段鋼管ユニット11(下段鋼管ユニット13)は、例えば電化柱EPとの隙間s1に、第1充填材M1が充填されている。この場合、電化柱EPに加わる震動によるエネルギーを、第1充填材M1及び鋼管ユニット10を介して、各棒材14に伝達しやすくなる。これにより、より確実に地震エネルギーを吸収して電化柱EPの脆性破壊を防止することができる。
【0074】
また、このとき、例えば図10に示すように、電化柱EPの内部空洞EPaに、第2充填材M2が、第1充填材M1より上方の位置まで充填されてもよい。この場合、電化柱EPの分断により生じた隙間に第3充填材M3を注入充填する際に、分断位置より下方の内部空洞EPa内が既に第2充填材M2で満たされているため、内部空洞EPa内に第3充填材M3が落下することを防ぎ、第3充填材M3を効率よく充填することができる。
【0075】
一方、第2補強部材11b(13b)は、例えば図14(a)に示すように、厚さ9mmの一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材から内周面の曲率半径が254mmの断面円弧状に曲げ加工された筒状体111(131)を基体とする部材である。
【0076】
筒状体111は、例えば図14(b)に示すように、筒状体110と同様、上端の縁沿いにおいて、吊上げ孔h1が穿設されている(図14では3カ所)。
【0077】
筒状体111(131)は、例えば複数のボルト孔115(135)が穿設されている。複数のボルト孔115(135)は、筒状体111(131)と第1補強部材11a(13a)の筒状体110(130)とをボルト接合するための孔である。
【0078】
筒状体111と筒状体131とは、予め外周に設けられた棒材14を介して接合されている。
【0079】
<中段耐震補強構造>
中段耐震補強構造とは、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13の間の構造を指す。
【0080】
中段耐震補強構造は、例えば図10に示す、少なくとも何れかのスリット126の位置を分断位置として、電化柱EPが分断される。この分断位置は、電化柱EPの塑性ヒンジ部として機能する。すなわち、電化柱の耐震補強構造1は、後述のとおり、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13とを上下に接続する複数の棒材14を備え、棒材14は、全て上段鋼管ユニット11及び下段鋼管ユニット13の外周面に設けられる。また、電化柱EPは、鋼管ユニット10で補強されて、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13との間で上下に分断されている。この場合、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13との間が塑性ヒンジとなり、電化柱EPに加わる震動によるエネルギーが塑性変形によって吸収されやすくなる。また、外部に露出した棒材14の全数の塑性変形の有無が目視で簡単に視認できる。これにより、電化柱EPの交換の要否を容易に判断することができる。
【0081】
中段耐震補強構造は、例えば図12に示すように、中段鋼管ユニット12と、第1充填材M1と、第3充填材M3と、棒材14と、で構成される。中段鋼管ユニット12は、例えば第1補強部材11aと同様の断面円弧状の第1補強部材12aと、第2補強部材11bと同様の断面円弧状の第2補強部材12bと、の2つのパーツに分割されている。
【0082】
第1補強部材12aは、例えば厚さ4.5mmの一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材から内周面の曲率半径が245mmの断面円弧状に曲げ加工された筒状体120を基体とする部材である。第1補強部材12aは、第1補強部材11a(13a)よりも厚さが薄いため、第1補強部材11a(13a)と比べて塑性変形しやすい。
【0083】
筒状体120は、例えば図13(b)に示すように、複数のボルト孔122が穿設されている。複数のボルト孔122は、筒状体120と第2補強部材12bの筒状体121とをボルト接合するための孔である。また、このボルト孔122の内側となる筒状体120の内周面には、上段鋼管ユニット11を構成する第1補強部材11aと同様に、ボルトm1と螺合するナット113が溶接されている。このため、中段鋼管ユニット12は、後述の第2補強部材12bの筒状体121の外側からボルト孔125にボルトm1をねじ回すだけで第2補強部材12bと第1補強部材12aの接合が短時間で容易にできる。
【0084】
中段鋼管ユニット12は、例えば電化柱EPとの隙間s1に、第1充填材M1が充填されている。また、電化柱EPの分断により生じた隙間に、スリット126まで満たされるように第3充填材M3が充填されている(図12参照)。電化柱EPは、例えば電化柱EPの外周を覆う形状の隙間s2に挿通されるワイヤソーによって、PC鋼線PC1及び第1充填材M1ごと分断される。
【0085】
一方、第2補強部材12bは、例えば厚さ4.5mmの一般構造用圧延鋼板(SS400)等の鋼材から内周面の曲率半径が254mmの断面円弧状に曲げ加工された筒状体121を基体とする部材である。第2補強部材12bは、第1補強部材11b(13b)よりも厚さが薄いため、第2補強部材11b(13b)と比べて塑性変形しやすい。
【0086】
筒状体121は、例えば図14(b)に示すように、複数のボルト孔125が穿設されている。複数のボルト孔125は、筒状体121と第1補強部材12aの筒状体120とをボルト接合するための孔である。
【0087】
筒状体121は、例えば分断位置において、中段鋼管ユニット12内の電化柱EPを分断する治具を挿通するためのスリット126が設けられている。なお、本実施形態においては、スリット126が上下方向に2つ設けられる例を示したが、電化柱EPの分断は少なくとも一方のスリット126の位置において実施されればよく、他方のスリット126は一方のスリット126において電化柱EPが分断不能となった場合に備えて予備的に設けられる。
【0088】
なお、本実施形態においては、筒状体110と筒状体130との間に第1補強部材12aとしての筒状体120が設けられ、筒状体111と筒状体131との間に第2補強部材12bとしての筒状体121が設けられる例を示したが、中段耐震補強構造の設置を省略する場合は、筒状体120及び筒状体121が設けられなくてもよい。
【0089】
<棒材14>
棒材14は、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13とを上下に接続するように、全て上段鋼管ユニット11及び下段鋼管ユニット13の外周面に設けられる。棒材14は、例えばD25(SD390)の異形鋼棒からなる鉄筋である。棒材14は、例えば全長900mmで、その上端及び下端から200mmの範囲の長手方向の両端部分が、各筒状体110、130に溶接により接合されている。棒材14は、中間部分が固定されずフリーとなっており、フリーとなっている区間が地震時に塑性変形し、電化柱の耐震補強構造1に入力されたエネルギーを吸収する。棒材14は、地震等により外力が加わることで、塑性変形する。この場合、棒材14が塑性変形する際に、電化柱EP、鋼管ユニット10、第1充填材M1等と接触してエネルギー吸収性能が阻害されることを防ぐことができる。これにより、確実に地震エネルギーを吸収して電化柱EPの脆性破壊を防止することができる。
【0090】
棒材14は、例えば図13(a)に示すように、所定の間隙を保持する間隙保持体14aを介して、各筒状体110、130を上下方向に接続するように、各筒状体110、130の外周面に設けられる。間隙保持体14aは、例えば厚さ4.5mmの長さ200mmのスペーサーである。間隙保持体14aは、各筒状体110、130の外周面から少し浮かせた状態で、端部から200mmの範囲だけ間隙保持体14aごとK形フレア溶接で強固に固定されて、各筒状体110、130と一体化される。すなわち、棒材14は間隙保持体14aによって電化柱EPからさらに離間する。この場合、棒材14が塑性変形する際に、電化柱EPや鋼管ユニット10、第1充填材M1等と接触してエネルギー吸収性能が阻害されることをさらに防ぐことができる。これにより、より確実に地震エネルギーを吸収して電化柱EPの脆性破壊を防止することができる。なお、間隙保持体14aは、例えば図14(a)に示すように、各筒状体111、131についても同様に設けられる。
【0091】
次に、図15図18を参照して、本発明の実施形態に係る電化柱EPの耐震補強方法について説明する。電化柱EPの耐震補強方法は、例えば図15に示すように、分断工程S14をさらに備える。分断工程S14は、断熱ユニット設置工程S13の後に実施される。
【0092】
<事前準備>
本発明の実施形態に係る電柱耐震補強工事の施工方法を実施する準備工として、電化柱EPを分断する位置(図10のスリット126の位置)に、分断用治具として用いる後述のワイヤソー33を挿通するための、内部に隙間s2を有するワイヤソー用配管31を、電化柱EPの外周に予め巻き付けて仮配置する。なお、ワイヤソー用配管31はワイヤソー33で分断される程度の強度を有する材料が用いられ、例えば合成樹脂(プラスチック)製が用いられる。
【0093】
上段鋼管ユニット11の第1補強部材11aと、下段鋼管ユニット13の第1補強部材13aとは、例えば図13(b)に示すように、上下に延びる複数の棒材14が溶接により外周に予め接合され、一体化されている。補強部材の吊り上げ回数を低減するために、各第1補強部材11a、13aの間には、中段鋼管ユニット12の第1補強部材12aが粘着テープ等で仮止めされてもよい。ただし、各補強部材11a、12aの間、及び各補強部材12a、13aの間を塑性ヒンジとして機能させるため、第1補強部材12aは各補強部材11a、13aと一体化はされていない。また、上段鋼管ユニット11の第2補強部材11bと、下段鋼管ユニット13の第2補強部材13bとは、例えば図14(b)に示すように、上下に延びる複数の棒材14が溶接により外周に予め接合され、一体化されている。また、第1補強部材12aと同様に、各第2補強部材11b、13bの間には、中段鋼管ユニット12の第2補強部材12bが粘着テープ等で仮止めされてもよいが、第2補強部材12bは各補強部材11b、13bと一体化はされていない。
【0094】
<鋼管ユニット設置工程S11>
鋼管ユニット設置工程S11では、電化柱EPの外周に、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13とを設置する。本実施形態においては、上段鋼管ユニット11及び下段鋼管ユニット13の各部材に仮止めされた中段鋼管ユニット12の各部材を用いて、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13との設置に伴い、中段鋼管ユニット12も構築される例を示したが、各鋼管ユニット11、13の各部材と独立した中段鋼管ユニット12の各部材を用いて、各鋼管ユニット11、13の設置の前後において中断鋼管ユニット12を別途構築してもよい。
【0095】
まず、各第1補強部材11a、12a、13aを、電化柱EPに沿って吊り上げる。具体的には、例えば予め電化柱EPに固定したハンガー部材に設けられたフックボルトと吊上げ孔h1に挿通したシャックルとを連結して吊り上げる。吊り上げ時は、フックボルトで長さを調整することなく、チェーンブロックなどの他の長さ調整治具を用いて、ハンガー部材と各第1補強部材11a、12a、13aとの間隔を調整してもよい。
【0096】
同様に、各第2補強部材11b、12b、13bも設置する。このとき、第2補強部材12bに設けられたスリット126が、電化柱EPの外周に巻き付けて仮配置したワイヤソー用配管31の位置に来るように、各第2補強部材11b、12b、13b又は仮配置したワイヤソー用配管31の高さを調節する。その後、各第2補強部材11b、12b、13bと各第1補強部材11a、12a、13aとをボルト接合して、上段鋼管ユニット11、中段鋼管ユニット12、及び下段鋼管ユニット13を構築する。
【0097】
各鋼管ユニット11、12、13を設置した後、ワイヤソー用配管31の仮配置を解いて、第2補強部材12bに設けられたスリット126からワイヤソー用配管31の両端を取り出し、中段鋼管ユニット12の外部に露出させた状態で、養生テープ32をスリット126に貼着してワイヤソー用配管31を固定する。このとき、ワイヤソー用配管31は図16(a)に示す隙間s2を形成するように配置される。なお、ワイヤソー33によって棒材14が誤って分断されないよう、ワイヤソー用配管31は棒材14をまたがない2地点から取り出す必要がある。すなわち、スリット126の両端は、棒材14をまたがない位置に設けられる。
【0098】
ワイヤソー用配管31を養生テープ32で固定した後、上段鋼管ユニット11の上部から、各鋼管ユニット11、12、13内の隙間s1に第1充填材M1を注入し、上段鋼管ユニット11の上部まで第1充填材M1で満たす。このとき、ワイヤソー用配管31内の隙間s2には第1充填材M1が侵入せず、中段鋼管ユニット12内に隙間s2が維持される。
【0099】
以上で、鋼管ユニット10の設置が完了となる。
【0100】
<断熱ユニット設置工程S13>
断熱ユニット設置工程S13では、例えば図17に示すように、鋼管ユニット10の外周に断熱ユニット2を設置する。このとき、第1断熱材21(210、211)が、鋼管ユニット10の外周に設けられた棒材14に食い込むことで、天候等の外力により断熱ユニット2が設置位置からずれにくくなり、断熱性能の低下を抑制することができる。
【0101】
<分断工程S14>
断熱ユニット設置工程S13において断熱ユニット2を設置した後、第1充填材M1の硬化後、断熱ユニット2を耐震補強構造1から取り外す。詳しくは、第1充填材M1の圧縮強度が例えば24N/mm2以上の強度に達していることを確認した上で、断熱ユニット2を耐震補強構造1から取り外す。
【0102】
その後、例えば図16(a)に示すように、中段鋼管ユニット12に含まれるワイヤソー用配管31内の隙間s2にワイヤソー33を挿通し、ワイヤソー33をメインプーリー34と補助プーリー35との間に設置する。その後、ワイヤソーが棒材14に接触していないことを確認した上で、ワイヤソー33を回転させ、ワイヤソー用配管31ごと電化柱EP、PC鋼線PC1、第1充填材M1、及び第2充填材M2を切断する。
【0103】
なお、本発明における電化柱の耐震補強構造1は、棒材14が鋼管ユニット10の外周側に設けられるため、例えば図16(b)に示すように鋼管ユニット10の内周側に設けられる棒材14’を備える場合と比べて、棒材14同士の間隔が大きくなり、ワイヤソー33の回転半径が大きくなるように配置しやすい。また、ワイヤソー33の回転半径が大きい場合、例えば図18(a)に示すように、ワイヤソー33が矢印で示される切断方向に移動しても、回転半径が切断不能となる半径まで下がりにくく、電化柱EPの全切断不能となりにくい。一方で、ワイヤソー33の回転半径が小さい場合、例えば図18(b)に示すように、切断に伴いワイヤソー33が矢印で示される切断方向に移動したとき、回転半径が小さくなる(図18(b)内の右肩下がり斜線参照)ことでワイヤソー33が電化柱EPから受ける摩擦抵抗が大きくなり、電化柱EPの全切断不能となるリスクがある。すなわち、棒材14が鋼管ユニット10の外周に設けられることで、鋼管ユニット10の内周に設けられる場合と比べて、ワイヤソー33を取り出す間隔を広く確保しやすいため、ワイヤソー33の一部における電化柱EPからの摩擦抵抗の増加を避け、電化柱EPの全切断不能となるリスクの低減を図ることができる。これにより、施工性の向上を図ることができる。
【0104】
電化柱EPを分断した後、分断によって生じた隙間に、例えば図12に示すように第3充填材M3を充填する。具体的には、分断によって生じた隙間内の粉塵を回収した後に、その隙間に注入パイプ及びエア抜きパイプ等を設置し、電動式ディスペンサ等を用いて第3充填材M3を注入して充填する。
【0105】
以上で、電化柱の耐震補強構造1の設置完了となる。
【0106】
本実施形態によれば、鋼管ユニット設置工程S11は、筒状体の上段鋼管ユニット11と、筒状体の下段鋼管ユニット13と、上段鋼管ユニット11の外周と下段鋼管ユニット13の外周とに接合された複数の鋼製の棒材14と、から構成された鋼管ユニット10を設置する。また、充填材M1の硬化後に断熱ユニット2を取り外し、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13との間で、電化柱EPを上下に分断する分断工程S14をさらに備える。このため、上段鋼管ユニット11と下段鋼管ユニット13の間が塑性ヒンジとなり、電化柱EPに加わる震動によるエネルギーが棒材14の塑性変形によって吸収されやすくなる。また、棒材14は全数外部に露出しており、棒材14全数の塑性変形の有無が目視で簡単に視認できる。これにより、電化柱EPの交換の要否を容易に判断することができる。
【0107】
また、本実施形態によれば、鋼管ユニット設置工程S11は、筒状体の上段鋼管ユニット11と、筒状体の下段鋼管ユニット13と、上段鋼管ユニット11の外周と下段鋼管ユニット13の外周とに接合された複数の鋼製の棒材14と、から構成された鋼管ユニット10を設置する。すなわち、棒材14が内周面に設けられる場合と比べて、電化柱EPの分断に用いるワイヤソー33を取り出す間隔を広く確保しやすい。このため、ワイヤソー33の一部における摩擦抵抗の増加を避け、電化柱EPが分断不能となるリスクを低減することができる。これにより、施工性の向上を図ることができる。
【実施例0108】
以下に、上述した実施形態を用いた場合の電化柱の耐震補強方法の効果に関する実験結果を説明する。本実験では、断熱ユニット2を使用しない従来の耐震補強方法を用いる比較例と、本発明の耐震補強方法を用いる本発明例と、について、第1充填材M1の温度を示す内部温度と、鋼管ユニット10の温度を示す表面温度と、をそれぞれ時間経過に伴う変化を示すグラフを作成し、それらを比較することで、第1充填材M1が外気温の影響を受けにくくなる効果を確認した。
【0109】
まず、本実験の条件を説明する。
【0110】
比較例としては、図5に示す断熱ユニット2を設置せずに構築した、図10の示す鋼管ユニット10について、第1充填材M1の内部温度と、鋼管ユニット10の表面温度と、を計測した。本発明例としては、図5に示す断熱ユニット2を設置して構築した、図10の示す鋼管ユニット10について、第1充填材M1の内部温度と、鋼管ユニット10の表面温度と、を計測した。
【0111】
第1断熱材21及び第2断熱材22としては、古川電気工業株式会社(登録商標)製のポリエチレンフォーム「フォームエース(登録商標)」のグレード「SN3000」を用いた。このポリエチレンフォームは、「JIS K 6767(ポリエチレンフォーム試験方法)」に準拠した熱伝導率が0.040W/(m・K)以下である。また、本発明例のうち、第1断熱材21の厚さが10mm、第2断熱材22の厚さが60mmの組み合わせを本発明例1とし、第1断熱材21の厚さが20mm、第2断熱材22の厚さが60mmの組み合わせを本発明例2とした。
【0112】
その他、内部温度測定用の温度計をセンサ部が鋼管ユニット10と電化柱EPの中間付近となるように取り付け、表面温度測定用の温度計をセンサ部が鋼管ユニット10の外周面に接するように取り付けた。また、寒冷環境での効果を再現するために、実験室の室内温度を約-5℃に調整したうえで実験を実施した。
【0113】
第1充填材M1としては、デンカ株式会社(登録商標)製「デンカハイプレタスコン(登録商標)TYPE-H」を用いた。当該充填材は、水を混錬して水和反応させることで、硬化する無収縮グラウト材である。本実験では、水和反応が完了するために十分な時間を約72時間として、当該充填材に水を混錬してから72時間における、当該充填材の温度を計測し、その変化を時系列的に示すグラフを作成した。なお、第1充填材M1の練り上がり温度は約14.7℃であった。
【0114】
次に、本実験の結果として、比較例、本発明例1、及び本発明例1の、それぞれの内部温度及び表面温度の時間変化を説明する。本実験の結果は、図19に示すとおりである。図19のグラフは、縦軸が内部温度又は表面温度を示し、横軸が温度計測時点の経過時間を示す。詳しくは、グラフST1が比較例の表面温度を、グラフIT1が比較例の内部温度を、グラフST2が本発明例1の表面温度を、グラフIT1が本発明例1の内部温度を、グラフST3が本発明例2の表面温度を、グラフIT3が本発明例2の内部温度を、それぞれ示している。また、グラフRTは、実験室の室内温度を示している。
【0115】
各グラフに示す温度は、第1充填材M1の打設に伴い、内部温度及び表面温度が第1充填材M1の練り上がり温度近くまで上昇し、その後水和反応による温度ピークに達した後、計測終了まで低下傾向にあった。
【0116】
比較例の内部温度を示すグラフIT1は、温度ピーク37.0℃に達した後、実験開始から約19時間で0℃以下となった。なお、比較例の表面温度を示すグラフST1は、温度ピーク21.5℃に達した後、実験開始から約15時間で0℃以下となった。すなわち、比較例の耐震補強方法によれば、第1充填材M1の温度を72時間0℃以上に保つことができない。このため、第1充填材M1を完全に硬化させることができないおそれがある。
【0117】
本発明例1の内部温度を示すグラフIT2は、温度ピーク45.6℃に達した後、実験開始から約72時間0℃超の温度を維持した。なお、本発明例1の表面温度を示すグラフST2は、温度ピーク39.5℃に達した後、実験開始から約69時間で0℃以下となった。すなわち、本発明例1の耐震補強方法によれば、第1充填材M1の温度を72時間0℃以上に保つことができる。このため、第1充填材M1を完全に硬化させることができる。
【0118】
本発明例2の内部温度を示すグラフIT3は、温度ピーク52.0℃に達した後、実験開始から約72時間0℃超の温度を維持した。なお、本発明例2の表面温度を示すグラフST2は、温度ピーク52.8℃に達した後、実験開始から約72時間0℃超の温度を維持した。すなわち、本発明例2の耐震補強方法によれば、第1充填材M1の温度を72時間0℃以上に保つことができる。このため、第1充填材M1を完全に硬化させることができる。
【0119】
以上の結果により、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが10mm以上の第1断熱材21と、熱伝導率が0.040W/(m・K)以下で厚さが60mm以上の第2断熱材22とを用いる場合、すなわち、第1断熱材21の熱貫流抵抗が0.25m2・K/W以上、第2断熱材22の熱貫流抵抗が1.5m2・K/W以上の場合、電化柱EPと鋼管ユニット10との隙間s1に充填された充填材M1の温度が72時間0℃以上に維持され、充填材M1を完全硬化させることができる。これにより、寒冷環境における耐震補強工事で施工する耐震補強構造1の強度の安定化を図ることができる。
【0120】
第1断熱材21については、熱伝導率が約0.040W/(m・K)で厚さが10mm未満の場合、すなわち、第1断熱材21の熱貫流抵抗が0.25m2・K/W未満の場合、表面温度が本発明例1の表面温度よりもさらに低くなり、内部温度が72時間0℃以上に維持されないおそれがある。また、第1断熱材21の厚さが20mm超の場合、第1断熱材21を内包するためにより大きな保護材20を調達する必要がある。また、第1断熱材21の厚さが大きいほど、保護材20の内周面に接着させる加工性が低下し得る。このため、第1断熱材21の厚さは、好ましくは10mm以上、より好ましくは10mm以上20mm以下である。
【0121】
第2断熱材22については、熱伝導率が約0.040W/(m・K)で厚さが60mm以上の場合、すなわち第2断熱材22の熱貫流抵抗が1.5m2・K/W以上の場合、充填材M1の完全硬化に必要な上記の断熱性能を発揮できることが確認された。第2断熱材22は、保護材20の上面を覆うように設置されれば、保護材20よりも上方に設けられ、任意の方法により保護材20に接着、又は嵌合されてもよい。ただし、耐候性や機械的強度を高めるためには、第2断熱材22は、保護材20の上端に設けられた各嵌合部204、205に嵌め込まれることが好ましい。
【0122】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0123】
1 電化柱の補強構造
10:鋼管ユニット
11:上段鋼管ユニット
10a、11a、12a、13a:第1補強部材
10b、11b、12b、13b:第2補強部材
100、101、100、101、120、121、130、131:筒状体
102、112、122、132:ボルト孔
103、113:ナット
104、114、134:スペーサー
105、115、125、135:ボルト孔
12:中段鋼管ユニット
126:スリット
13:下段鋼管ユニット
14:棒材
14a:間隙保持体
15:保護鋼材
h1:吊上げ孔
m1:ボルト
s1:隙間
s2:隙間
20:断熱ユニット
20a:蝶番
200、201:筒状体
202:ボルト孔
203:ナット
204:嵌合部
205:ボルト孔
21:第1断熱材
210、211:筒状体
22:第2断熱材
23:留め具
230:ボルト孔
m2:ボルト
31:ワイヤソー用配管
32:養生テープ
33:ワイヤソー
34:メインプーリー
35:補助プーリー
5:ゴム材
EP:PC電化柱
EPa:内部空洞
PC1:PC鋼線
S11:鋼管ユニット設置工程
S12:充填工程
S13:断熱ユニット設置工程
IN:注入孔
OUT:吐出確認孔
M1:第1充填材
M2:第2充填材
M3:第3充填材
図1
図2
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