(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132354
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20240920BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60H1/00 101Z
B60H1/22 671
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043082
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 尭之
(72)【発明者】
【氏名】東宮 武史
(72)【発明者】
【氏名】間島 裕大
(72)【発明者】
【氏名】張 洪銘
(72)【発明者】
【氏名】岡田 瑞季
(72)【発明者】
【氏名】黄 雲生
(72)【発明者】
【氏名】石関 徹也
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA02
3L211EA12
3L211EA50
3L211EA56
3L211FA41
3L211FB04
3L211FB05
3L211GA29
(57)【要約】
【課題】冷媒回路の運転モード切り替え時等に、冷媒熱媒体熱交換器に液冷媒が滞留してしまう状態になることを、冷媒回路の冷媒回収動作を行うことなく、より低電力で抑止し、冷媒回路が冷媒過少運転に至るのを未然に防ぐ。
【解決手段】冷媒回路の放熱と吸熱を利用して車室内の空調を行う車両用空調装置は、冷媒回路の冷媒と熱媒体が熱交換する冷媒熱媒体熱交換器と、熱媒体を循環させる熱媒体回路と、冷媒回路と前記熱媒体回路の動作を制御する制御装置を備える。制御装置は、冷媒熱媒体熱交換器に液冷媒が滞留していると推定した場合に、液冷媒を蒸発させる液冷媒蒸発モードを実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒回路の放熱と吸熱を利用して車室内の空調を行う車両用空調装置であって、
前記冷媒回路の冷媒と熱媒体が熱交換する冷媒熱媒体熱交換器と、
前記熱媒体を循環させる熱媒体回路と、
前記冷媒回路と前記熱媒体回路の動作を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記冷媒熱媒体熱交換器に液冷媒が滞留していると推定した場合に、
前記液冷媒を蒸発させる液冷媒蒸発モードを実行することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記液冷媒蒸発モードでは、
前記熱媒体回路が回収した熱を前記冷媒熱媒体熱交換器内の液冷媒に放熱することを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記液冷媒蒸発モードは、
外気温度よりも前記熱媒体回路の熱媒体温度が高い場合に実行することを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記冷媒熱媒体熱交換器に液冷媒が滞留しているとの推定は、
外気温度が設定閾値以下であり、
前記冷媒熱媒体熱交換器にて、冷媒が熱媒体から吸熱する運転を実行した場合に行うことを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記冷媒熱媒体熱交換器に液冷媒が滞留しているとの推定は、
外気温度が設定閾値以下であり、
外気温度が車室内温度以下の場合に行うことを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置として、ヒートポンプ式の冷媒回路を用いたものが知られている。このような車両用空調装置は、冷媒回路が、一般に、圧縮機、放熱用熱交換器(凝縮器)、膨張機構、吸熱用熱交換器(蒸発器)を備えており、放熱用熱交換器の放熱と吸熱用熱交換器の吸熱を車室内外で選択的に行うことで、車室内の空調を行っている。また、車両用空調装置は、冷媒回路を流れる低温冷媒と熱媒体が熱交換する冷媒熱媒体熱交換器(チラー熱交換器)を備えており、ここで冷却された熱媒体でバッテリ等の発熱体を冷却する熱媒体回路を備えている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した車両用空調装置の冷媒熱媒体熱交換器は、膨張機構で減圧された低温の液冷媒を含むことになるが、常時、冷媒熱媒体熱交換器に冷媒が流れるわけでは無い。冷媒回路の流路は、車両用空調装置の運転モードに応じて、冷媒熱媒体熱交換器に冷媒を流す場合と、冷媒熱媒体熱交換器をバイパスする流路に冷媒を流す場合が適宜切り替えられる。
【0005】
この際、冷媒熱媒体熱交換器(チラー熱交換器)に冷媒を流す運転モード(チラー運転モード)を実行した後に、冷媒熱媒体熱交換器への流路を停止すると、冷媒熱媒体熱交換器の中に液冷媒が滞留した状態になり、冷媒熱媒体熱交換器を使用しない運転モードで冷媒回路を運転する際に、冷媒過少運転(循環する冷媒の量が少なくなる運転状態)に至り、適正な運転状態から逸脱してしまう問題があった。また、このような問題は、チラー運転モードを実行した後に、冷媒回路が停止し、その後冷媒回路が再起動される場合も同様の問題が生じる可能性がある。
【0006】
このような冷媒回路の冷媒熱媒体熱交換器における液冷媒の滞留に対しては、次の動作の初動で圧縮機を作動させて液冷媒をアキュムレータに回収することも行われているが、これによると余分な回収動作が加わることで、バッテリの電力消費が嵩むことになるので、より低電力で、液冷媒の滞留を抑制する手立てが求められていた。
【0007】
本発明は、このような事情に対処することを課題としている。すなわち、冷媒回路の運転モード切り替え時や再起動時に、冷媒熱媒体熱交換器に液冷媒が滞留してしまう状態になることを、冷媒回路の冷媒回収動作を行うことなく、より低電力で抑止し、冷媒回路が冷媒過少運転に至るのを未然に防ぐこと、が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明による車両空調装置は、以下の構成を具備するものである。
冷媒回路の放熱と吸熱を利用して車室内の空調を行う車両用空調装置であって、前記冷媒回路の冷媒と熱媒体が熱交換する冷媒熱媒体熱交換器と、前記熱媒体を循環させる熱媒体回路と、前記冷媒回路と前記熱媒体回路の動作を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記冷媒熱媒体熱交換器に液冷媒が滞留していると推定した場合に、前記液冷媒を蒸発させる液冷媒蒸発モードを実行することを特徴とする車両用空調装置。
【発明の効果】
【0009】
このような特徴を有する本発明によると、車両用空調装置において、冷媒回路の運転モード切り替え時等に、冷媒熱媒体熱交換器に液冷媒が滞留してしまう状態になることを、冷媒回路の冷媒回収動作を行うことなく、より低電力で抑止し、冷媒回路が冷媒過少運転に至るのを未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の制御装置としての空調コントローラの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】液冷媒蒸発モード(蒸発運転)の実行制御動作を説明するためのフロー図である。
【
図4】液冷媒蒸発モード(蒸発運転)の停止制御動作を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明において、同一の符号は、同一の機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
図1に示す車両用空調装置1は、冷媒回路Rの放熱と吸熱を利用して車室内の空調を行うものである。この車両用空調装置1は、例えば、エンジン(内燃機関)が搭載されていない電気自動車(EV)やエンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車等の車両に適用することができる。このような車両は、バッテリ5(例えば、リチウム電池)が搭載され、外部電源からバッテリ5に充電された電力を、走行用モータ(電動モータ)を含むモータユニット6に供給することで駆動し、走行する。車両用空調装置1も、バッテリ5に充電された電力で駆動する。
【0013】
車両用空調装置1は、ヒートポンプ運転を行うための冷媒回路Rと、熱媒体を循環させる熱媒体回路4とを備えている。熱媒体回路4は、バッテリ5、モータユニット6等の温調対象の温度を調整する機器温度調整回路として機能すると共に、前述した温調対象から廃熱を回収する廃熱回収回路として機能する。冷媒回路R及び熱媒体回路4は、
図2に示す後述の空調コントローラ8(制御装置)によって制御される。熱媒体回路4は、冷媒回路Rに対して冷媒熱媒体熱交換器(以下、チラー熱交換器)14を介して並列配置され、チラー熱交換器14は、冷媒側流路14Aに冷媒が流れ、熱媒体側流路14Bに熱媒体が流れる。
【0014】
冷媒回路Rは、冷媒配管R1~R12によって複数の循環経路を形成する。冷媒回路Rでは、圧縮機(電動圧縮機)2によって圧縮吐出された冷媒は、各種経路で循環する間に、凝縮(放熱)、減圧(膨張)、気化(吸熱)の状態変化を行い、アキュムレータ10にて気液分離された冷媒が圧縮機2に吸い込まれる。
【0015】
冷媒回路Rは、冷媒が流れる複数の熱交換器を備えており、その内の2つは、車室内空気が流れる空気流通路30を有するHVAC(Heating, Ventilating, and Air Conditioning)ユニット3内に配置される第1熱交換器11と第2熱交換器12であり、他の2つは、車室外に配置される室外熱交換器13と、前述したチラー熱交換器14である。
【0016】
冷媒回路Rは、
図1に示した例では、冷媒配管R3に流路切替弁(電磁弁)20、冷媒配管R6に流路切替弁(電磁弁)21が設けられ、冷媒配管R9に逆止弁22、冷媒配管R5に逆止弁23が設けられる。また、図示の冷媒回路Rは、冷媒配管R4に減圧装置24、冷媒配管R7に減圧装置25、冷媒配管R11に減圧装置26が設けられている。そして、空調コントローラ8(制御装置)による運転モードの切り替えに応じて、流路切替弁20、21の開閉及び減圧装置(膨張弁)24~26の圧力調整(全開及び全閉を含む)が行われる。
【0017】
ここで、冷媒回路Rの冷媒配管R11,R12は、チラー熱交換器14に冷媒を流すための分岐流路であり、冷媒配管R11に設けられる減圧装置(所謂チラー弁)26を開くことで、減圧された液冷媒を含む冷媒がチラー熱交換器14に流れ込み、減圧装置26を閉じることで、チラー熱交換器14への冷媒の流れが遮断される。この際、チラー熱交換器14に液冷媒が存在する状態で減圧装置26が閉止されると、チラー熱交換器14に液冷媒が滞留する状態が生じる場合がある。
【0018】
車両用空調装置1において、空調コントローラ8(制御装置)の制御により実行可能な暖房運転の運転モードとしては、例えば、チラー熱交換器14を利用せずに室外熱交換器13によって外気吸熱を行う外気吸熱暖房モードと、チラー熱交換器14を利用して熱媒体回路4で回収された廃熱を吸熱する廃熱回収暖房モードと、室外熱交換器13による外気吸熱とチラー熱交換器14による廃熱回収吸熱を同時に行う並列暖房モードがある。
【0019】
外気吸熱暖房モードでは、流路切替弁20を閉、流路切替弁21を開、減圧装置25及び減圧装置26を全閉とすることで、冷媒回路Rを循環する冷媒は、圧縮機2を出て、冷媒配管R1を通り、第1熱交換器11を経由し、冷媒配管R2から冷媒配管R4に入り、減圧装置24及び室外熱交換器13を経由して、冷媒配管R6に入り、流路切替弁21と逆止弁22を通って、アキュムレータ10に至る。よって、この運転モードでは、チラー熱交換器14への冷媒の流入は遮断されている。
【0020】
この外気吸熱暖房モードでは、圧縮機2にて圧縮された高温高圧冷媒が放熱器として機能するHVACユニット3内の第1熱交換器11に送られ、室内送風機32の駆動で内気吸込口33からHVACユニット3内に取り込まれた空気が、第1熱交換器11を通過することで加熱されて吹出口31から車室内に吹き出される。この際、HVACユニット3の外気吸込口34は、吸込切替ダンパ35によって閉じられており、空気流通路30内のエアミックスダンパ36は、第1熱交換器11に向かう空気の流路のみを開放している。
【0021】
廃熱回収暖房モードでは、流路切替弁20を開、流路切替弁21を閉、減圧装置25を全閉、減圧装置26を全開とすることで、冷媒回路Rを循環する冷媒は、圧縮機2を出て、冷媒配管R1を通り、第1熱交換器11を経由し、冷媒配管R2から開状態の流路切替弁20が設けられた冷媒配管R3に入り、減圧装置26が設けられた冷媒配管R11を通ってチラー熱交換器14を経由して、冷媒配管R12に入りアキュムレータ10に至る。この運転モードでは、チラー熱交換器14に液冷媒を含む冷媒が流入し、ここで熱媒体回路4を循環する熱媒体からの吸熱が行われる。
【0022】
この廃熱回収暖房モードにおいても、外気吸収暖房モードと同様に、圧縮機2にて圧縮された高温高圧冷媒が放熱器として機能するHVACユニット3内の第1熱交換器11に送られ、室内送風機32の駆動で内気吸込口33からHVACユニット3内に取り込まれた空気が、第1熱交換器11を通過することで加熱されて吹出口31から車室内に吹き出される。
【0023】
前述した廃熱回収暖房モードのように、チラー熱交換器14に冷媒を流す運転モードを、以下、チラー運転モードという。チラー運転モードは、前述した廃熱回収暖房モードや並列暖房モードに限らず、冷房運転時等で熱媒体回路4に設けられる温調対象の温調を行うチラー温調モード、室外熱交換器13の除霜を行う運転モードにおいて、熱媒体回路4が回収した廃熱を利用するチラー除霜モード等がある。
【0024】
図1に示した熱媒体回路4は、外気熱媒体熱交換器40と熱媒体貯留用のタンク4Tと熱媒体加熱ヒータ7を備えており、空調コントローラ8によって制御される循環ポンプ41,42の駆動で、チラー熱交換器14の熱媒体側流路14Bを通る熱媒体を循環させる。また、
図1に示した熱媒体回路4は、三方弁43と逆止弁44を設けると共に循環ポンプ41と循環ポンプ42を独立駆動することで、複数の循環流路が形成可能になっている。循環流路を例示すると、バッテリ5で回収した熱とモータユニット6で回収した熱をそれぞれ個別に外気熱媒体熱交換器40にて放熱する場合、これらの熱を合わせて外気熱媒体熱交換器40にて放熱する場合、バッテリ5で回収した熱とモータユニット6で回収した熱をそれぞれ個別にチラー熱交換器14にて吸熱させる場合、これらの熱を合わせてチラー熱交換器14にて吸熱させる場合等が、切り替え可能になっている。
【0025】
なお、
図1において、「TS」は、冷媒回路Rの冷媒温度や熱媒体回路4の熱媒体温度や空気流通路30の空気温度を計測する温度センサを示し、「PTS」は、冷媒回路Rの冷媒温度を計測する冷媒温度センサ、及び、冷媒回路Rの冷媒温度を推定可能な冷媒圧力を計測する冷媒圧力センサを示している。また、流路切替弁20,21と三方弁43における「S」は開閉を切り替える電動アクチュエータを示し、減圧装置24~26における「E」は、開閉状態(圧力調整状態)を調整するための電動アクチュエータを示している。
【0026】
図2に、車両用空調装置1の制御、特に冷媒回路Rと熱媒体回路4の動作制御を司る制御装置としての空調コントローラ8の概略構成を示す。空調コントローラ8は、モータユニット6の駆動制御やバッテリ5の充放電制御を含む車両全般の制御を司る車両コントローラ9(ECU)に車両通信バスを介して接続され、情報の送受信を行う。空調コントローラ8及び車両コントローラ9(ECU)には何れもプロセッサを備えたコンピュータの一例としてのマイクロコンピュータを適用することができる。
【0027】
空調コントローラ8(制御装置)には、各種センサ100の計測情報が入力され、入力された計測情報に基づいて、冷媒回路Rの圧縮機2や流路切替弁20,21や減圧装置24~26、HVACユニット3における室内送風機32や吸込切替ダンパ35やエアミックスダンパ36、熱媒体回路4の循環ポンプ41,42や熱媒体加熱ヒータ7や三方弁43等を制御する。各種センサ100には、後述する液冷媒蒸発モードを実行するためも必要な、外気温度センサ101、熱媒体温度センサ102、冷媒温度センサ103、冷媒圧力センサ104、内気温度センサ105等が含まれる。
【0028】
車両用空調装置1は、前述したチラー運転モードを実行した後に、外気吸熱暖房モードのようにチラー熱交換器14に冷媒を流さない運転モードを実行する場合がある。また、車両用空調装置1は、前述したチラー運転モードを実行した後に、冷媒回路Rを停止させる場合がある。このような場合には、チラー熱交換器14に液冷媒が滞留している場合が有るので、これを解消するために、冷媒回路Rを駆動させず、熱媒体回路4のみを駆動させて、滞留している液冷媒を蒸発させる液冷媒蒸発モードを実行する。
【0029】
以下、
図3により、空調コントローラ8による液冷媒蒸発モード(蒸発運転)の実行制御動作を説明する。
【0030】
ステップS1において、空調コントローラ8は、外気温度センサ101にて検出する車両の外気温度が、設定閾値(例えば10℃)以下であるか否かを判断する。空調コントローラ8は、この外気温度が設定閾値以下であると判断すると(ステップS1でYES)、ステップS2に進み、この外気温度が設定閾値以下でない(すなわち設定閾値よりも高い)と判断すると(ステップS1でNO)、チラー熱交換器14に液冷媒が滞留していないと判断して、
図3の一連の動作処理を終了する。
【0031】
ステップS2において、空調コントローラ8は、現時点がチラー熱交換器14に冷媒を流す運転モード(チラー運転モード)の実行後であることを確認できるか否かを判断する。このステップS2において、空調コントローラ8は、現時点がチラー運転モードの実行後であると確認できる場合(ステップS2でYES)、ステップS4に進み、現時点がチラー運転モードの実行後あると確認できない場合(ステップS2でNO)、ステップS3に進む。このステップS2でYESの場合には、比較的低外気温の環境下で廃熱回収暖房モード等のチラー運転モードを実行した後であることから、空調コントローラ8は、チラー熱交換器14に液冷媒が滞留していると推定する。
【0032】
ステップS3において、空調コントローラ8は、外気温度センサ101にて検出する車両の外気温度が、内気温度センサ105で検出する車室内の空気の温度(車室内温度)以下であるか否かを判断する。このステップS3において、空調コントローラ8は、この外気温度がこの車室内温度以下であると判断すると(ステップS3でYES)、この場合も廃棄回収暖房モード等でチラー運転モードを実行している可能性が高いので、ステップS2でYESの場合と同様に、チラー熱交換器14に液冷媒が滞留していると推定して、ステップS4に進む。ステップS3で、空調コントローラ8は、外気温度がこの車室内温度以下でない(すなわち車室内温度よりも高い)と判断すると(ステップS3でNO)、チラー熱交換器14に液冷媒が滞留していないと判断して、
図3の一連の動作処理を終了する。
【0033】
ステップS4~ステップS7では、熱媒体の循環で液冷媒蒸発モード(ステップS9)を実行するに際して、熱媒体の加熱が必要であるか否かの判断を行っている。
【0034】
ステップS4において、空調コントローラ8は、外気温度センサ101にて検出する車両の外気温度が、比較的低温の任意温度(例えば5℃)以下であるか否かを判断する。空調コントローラ8は、この外気温度がこの任意温度(例えば5℃)以下でない(すなわち任意温度よりも高い)と判断すると(ステップS4でNO)、ステップS5に進み、この外気温度がこの任意温度(例えば5℃)以下であると判断すると(ステップS4でYES)、ステップS7に進む。
【0035】
ステップS5において、空調コントローラ8は、熱媒体温度センサ102にて検出する熱媒体(クーラント)温度が、外気温度センサ101にて検出する車両の外気温度よりも高いか否かを判断する。空調コントローラ8は、この熱媒体温度がこの外気温度よりも高いと判断すると(ステップS5でYES)、熱媒体を加熱せずに循環させて液冷媒を蒸発できると判断し、ステップS9に進み、この熱媒体温度がこの外気温度よりも高くない(すなわち外気温度以下である)と判断すると(ステップS5でNO)、熱媒体の加熱が必要であるかを考慮するために、ステップS6に進む。
【0036】
ステップS6において、空調コントローラ8は、熱媒体温度センサ102にて検出する熱媒体(クーラント)温度が、冷媒温度センサ103にて検出する冷媒温度(又は冷媒圧力センサ104にて検出する冷媒圧力から推定される冷媒温度)よりも高いか否かを判断する。空調コントローラ8は、この熱媒体温度がこの冷媒温度よりも高いと判断すると(ステップS6でYES)、熱媒体の加熱は必要ないと判断して、ステップS9に進み、この熱媒体温度がこの冷媒温度よりも高くない(冷媒温度以下である)と判断すると(ステップS6でNO)、熱媒体の加熱が必要であると判断して、ステップS8に進む。
【0037】
ステップS7において、空調コントローラ8は、熱媒体温度センサ102にて検出する熱媒体(クーラント)温度が、ステップS4における任意温度(例えば5℃)よりもα℃(例えばα=2℃)高い温度(任意温度+α℃)(例えば7℃)以下であるか否かを判断する。空調コントローラ8は、この熱媒体温度がこの任意温度+α℃(例えば7℃)以下であると判断すると(ステップS7でYES)、熱媒体の加熱が必要であると判断して、ステップS8に進み、この熱媒体温度がこの任意温度+α℃(例えば7℃)以下でない(任意温度+α℃よりも高い)と判断すると(ステップS7でNO)、熱媒体の加熱は必要ないと判断して、ステップS9に進む。
【0038】
ステップS8において、空調コントローラ8は、熱媒体加熱ヒータ7を稼働させ、これにより、チラー熱交換器14の熱媒体側流路14Bに流入する熱媒体を加熱する。
【0039】
ステップS9において、空調コントローラ8は、液冷媒蒸発モードを実行する。この液冷媒蒸発モードでは、空調コントローラ8は、三方弁43における外気熱媒体熱交換器40側の弁を閉とすると共に、三方弁43におけるモータユニット6側の弁とチラー熱交換器14側の弁を開とすることで、三方弁43における入口とチラー熱交換器14側の出口を連通する状態とする制御を行う。これと共に、空調コントローラ8は、循環ポンプ41,42を稼働させる。
【0040】
これにより、熱媒体回路4において、バッテリ5を通過することで温度上昇した熱媒体(ステップS8で熱媒体加熱ヒータ7を稼働させた場合にはそれによっても温度上昇した熱媒体)と、モータユニット6を通過することで温度上昇した熱媒体とが、チラー熱交換器14の熱媒体側流路14Bに流入する前に混合される。つまり、チラー熱交換器14の熱媒体側流路14Bには、バッテリ5(又は、バッテリ5及び熱媒体加熱ヒータ7)とモータユニット6によって温度上昇された熱媒体が流入する。
【0041】
この熱媒体側流路14B内に流入した高温の熱媒体によって、冷媒側流路14A内に滞留している液冷媒は熱交換されて蒸発する。このように、液冷媒蒸発モードでは、熱媒体回路4が回収した熱をチラー熱交換器14内の液冷媒に放熱することで、この液冷媒を蒸発させるようにしている。
【0042】
また、このステップS9において、空調コントローラ8は、冷媒配管R11に設けられている減圧装置26と、冷媒配管R7に設けられている減圧装置25を全閉とする制御を行う。これにより、液冷媒蒸発モードの実行中においては、チラー熱交換器14にて熱媒体との熱交換により蒸発した冷媒を、冷媒配管R11及び冷媒配管R7を通じて第2熱交換器12へと流すことなく、冷媒配管R12を通じてアキュムレータ10へと流すことができる。空調コントローラ8は、ステップS9の処理を終了後、
図3の一連の動作処理を終了する。
【0043】
なお、空調コントローラ8(制御装置)により行う液冷媒蒸発モード(蒸発運転)の実行制御動作は、
図3の例に限定されない。例えば、空調コントローラ8は、
図3のステップS5及びステップS6に代えて、ステップS105として次の処理を行い、その他は
図3と同様の処理を行うようにしてもよい。このステップS105において、空調コントローラ8は、外気温度センサ101にて検出する車両の外気温度が、冷媒温度センサ103にて検出する冷媒温度(又は冷媒圧力センサ104にて検出する冷媒圧力から推定される冷媒温度)よりも高いか否かを判断する。空調コントローラ8は、この外気温度がこの冷媒温度よりも高いと判断すると(ステップS105でYES)、熱媒体の加熱は必要ないと判断して、ステップS9に進み、この外気温度がこの冷媒温度よりも高くない(冷媒温度以下である)と判断すると(ステップS105でNO)、熱媒体の加熱が必要であると判断して、ステップS8に進む。
【0044】
また、例えば、空調コントローラ8は、
図3の例では、ステップS5の後にステップS6の処理を行うが、これに代えて、ステップS6の後にステップS5の処理を行うようにしてもよい。
【0045】
次に、車両用空調装置1の動作の一つである、空調コントローラ8(制御装置)により行う液冷媒蒸発モードの停止制御動作について
図4を用いて説明する。ステップS11において、空調コントローラ8は、現時点が液冷媒蒸発モードの実行中であるか否かを判断する。空調コントローラ8は、現時点が液冷媒蒸発モードの実行中であると判断すると(ステップS11でYES)、ステップS12に進み、現時点が液冷媒蒸発モードの実行中でないと判断すると(ステップS11でNO)、
図4の一連の動作処理を終了する。
【0046】
ステップS12において、空調コントローラ8は、熱媒体加熱ヒータ7を稼働中であるか否かを判断する。空調コントローラ8は、熱媒体加熱ヒータ7を稼働中であると判断すると(ステップS12でYES)、熱媒体の加熱を継続させる必要があるかを考慮するために、ステップS13に進み、熱媒体加熱ヒータ7を稼働中でないと判断すると(ステップS12でNO)、液冷媒蒸発モードの実行を継続させる必要があるかを考慮するために、ステップS15に進む。
【0047】
ステップS13において、空調コントローラ8は、熱媒体温度センサ102で検出する熱媒体温度が、特定温度(例えば35℃)以上であるか否かを判断し、特定温度以上であると判断すると(ステップS13でYES)、熱媒体の加熱を継続させる必要がないと判断して、ステップS14に進み、特定温度以上でない(特定温度未満である)と判断すると(ステップS13でNO)、熱媒体の加熱を継続させた状態で、ステップS15に進む。
【0048】
ステップS14において、空調コントローラ8は、熱媒体加熱ヒータ7の稼働を停止させる。この時点で、液冷媒蒸発モードは、循環ポンプ41,42のみが稼働した状態となる。
【0049】
ステップS15において、空調コントローラ8は、外気温度センサ101にて検出する外気温度と熱媒体温度センサ102で検出する熱媒体温度との差が所定値(例えば10℃)以下であるか否かを判断し、所定値以下であると判断すると(ステップS15でYES)、液冷媒蒸発モードの実行を継続させる必要が無いと判断して、ステップS17に進み、所定値以下でない(所定値よりも大きい)と判断すると(ステップS15でNO)、液冷媒蒸発モードの実行を継続させる必要があるかを考慮するために、ステップS16に進む。
【0050】
ステップS16において、空調コントローラ8は、液冷媒蒸発モードの実行時間(蒸発運転時間)が所定時間(例えば5分)以上であるか否かを判断し、所定時間以上であると判断すると(ステップS16でYES)、液冷媒蒸発モードの実行を継続させる必要が無いと判断して、ステップS17に進み、所定時間以上でない(所定時間未満である)と判断すると(ステップS16でNO)、液冷媒蒸発モードの実行を継続させるために、
図4の一連の動作処理を終了する。
【0051】
ステップS17において、空調コントローラ8は、液冷媒蒸発モード(蒸発運転)を停止する。具体的に、空調コントローラ8は、循環ポンプ41,42の稼働を停止させる。これと共に、空調コントローラ8は、三方弁43におけるモータユニット6側の弁を開としたまま、三方弁43における外気熱媒体熱交換器40側の弁を開とし、チラー熱交換器14側の弁を閉とすることで、三方弁43における入口と外気熱媒体熱交換器40側の出口を連通する状態とする制御を行う。
【0052】
また、このステップS17において、空調コントローラ8は、冷媒配管R11に設けられている減圧装置26と、冷媒配管R7に設けられている減圧装置25を全開とする制御を行う。これにより、液冷媒蒸発モードの終了後においては、冷媒を冷媒配管R11及び冷媒配管R7を通じて第2熱交換器12へと流すことができる。空調コントローラ8は、ステップS17の処理を終了後、
図4の一連の動作処理を終了する。
【0053】
以上のような本実施形態の車両用空調装置1によれば、冷媒回路Rの流路を、チラー熱交換器(冷媒熱媒体熱交換器)14を経由するものからチラー熱交換器14をバイパスするものに切り替えてチラー熱交換器14への冷媒の流れを停止する際(冷媒回路Rの運転モード切り替え時)や、チラー運転モードを実行した後に、冷媒回路Rが停止し、その後冷媒回路Rが再起動される際に、チラー熱交換器14に液冷媒が滞留してしまう状態になることを抑止することができる。これにより、車両用空調装置1は、チラー熱交換器14をバイパスする流路で冷媒回路Rを運転する際や冷媒回路Rを再起動する際等に、冷媒回路Rが冷媒過少運転(循環する冷媒の量が少なくなる運転状態)に至るのを未然に防ぐことができる。
【0054】
以上、本実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は上述の例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0055】
例えば上述の実施形態の
図3、
図4を用いて説明した、温度又は時間の大小比較の処理工程(ステップS1、S3~S7、S13、S15、S16、S105)における「以上」を「よりも高い(長い)」としてもよく、「未満」を「以下」としてもよく、「よりも高い」を「以上」としてもよく、「以下」を「未満」としてもよい。
【0056】
また、例えば上述の実施形態における液冷媒蒸発モードでは、空調コントローラ8は、循環ポンプ41,42を稼働させることにより、モータユニット6を通過することで温度上昇した熱媒体と、バッテリ5を通過することで温度上昇した熱媒体(熱媒体加熱ヒータ7を稼働させた場合にはそれによっても温度上昇した熱媒体)とを混合させてチラー熱交換器14に流入させるようにした。しかしながら、このように、バッテリ5で回収した熱とモータユニット6で回収した熱とを合わせてチラー熱交換器14にて吸熱させる例に限定されず、バッテリ5で回収した熱とモータユニット6で回収した熱とをそれぞれ個別にチラー熱交換器14にて吸熱させるようにしてもよい。
【0057】
例えば液冷媒蒸発モードでは、熱媒体の加熱が必要ない場合に、循環ポンプ42を稼働させずに循環ポンプ41を稼働させ、モータユニット6を通過して温度上昇した熱媒体のみをチラー熱交換器14に流入させるようにしてもよい。
【0058】
また例えば液冷媒蒸発モードでは、熱媒体の加熱が必要ない場合に、循環ポンプ41を稼働させずに循環ポンプ42を稼働させ、バッテリ5を通過して温度上昇した熱媒体のみをチラー熱交換器14に流入させるようにしてもよい。
【0059】
また例えば液冷媒蒸発モードでは、熱媒体の加熱が必要である場合に、循環ポンプ41を稼働させずに、循環ポンプ42及び熱媒体加熱ヒータ7を稼働させ、熱媒体加熱ヒータ7及びバッテリ5を通過して温度上昇した熱媒体のみをチラー熱交換器14に流入させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1:車両用空調装置,2:圧縮機(電動圧縮機),10:アキュムレータ,11:第1熱交換器,12:第2熱交換器,13:室外熱交換器,14:冷媒熱媒体熱交換器(チラー熱交換器),14A:冷媒側流路,14B:熱媒体側流路,20,21:流路切替弁(電磁弁),22,23:逆止弁,24~26:減圧装置(膨張弁),3:HVACユニット,30:空気流通路,31:吹出口,32:室内送風機,33:内気吸込口,34:外気吸込口,35:吸込切替ダンパ,36:エアミックスダンパ,4:熱媒体回路,4T:タンク,40:外気熱媒体熱交換器,41,42:循環ポンプ,43:三方弁,5:バッテリ,6:モータユニット,7:熱媒体加熱ヒータ,8:空調コントローラ(制御装置),9:車両コントローラ,R:冷媒回路,R1~R12:冷媒配管,TS:温度センサ,PTS:冷媒温度センサ及び冷媒圧力センサ,100:各種センサ,101:外気温度センサ,102:熱媒体温度センサ,103:冷媒温度センサ,104:冷媒圧力センサ,105:内気温度センサ