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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132360
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240920BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20240920BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240920BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20240920BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20240920BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/06 N
H01M4/06 V
H01M4/66 A
H01M4/80 C
H01M50/533
H01M6/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043094
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓海
(72)【発明者】
【氏名】青木 潤珠
(72)【発明者】
【氏名】石澤 政嗣
(72)【発明者】
【氏名】関谷 智仁
【テーマコード(参考)】
5H017
5H024
5H029
5H043
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017CC25
5H017EE01
5H024AA01
5H024AA12
5H024BB04
5H024CC07
5H024CC11
5H024DD01
5H024DD11
5H024DD15
5H024FF21
5H024HH15
5H029AJ00
5H029AJ12
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ11
5H029BJ12
5H029CJ04
5H029DJ02
5H029DJ07
5H029DJ13
5H029HJ04
5H029HJ12
5H043AA19
5H043BA08
5H043BA20
5H043CA09
5H043CA13
5H043DA20
5H043EA02
5H043EA60
5H043HA04E
5H043JA23E
5H043LA21E
5H050AA00
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA04
5H050DA13
5H050DA20
5H050EA01
5H050EA09
5H050FA02
5H050FA13
5H050GA04
5H050GA08
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】 複数個の発電素子を有し、前記発電素子を分離して電池として使用可能であり、前記発電素子の分離時に短絡の発生を良好に抑制でき、かつ分離した発電素子に適用機器と接続するための接続端子を容易に形成し得る電池を提供する。本発明の電池は、SDGsの目標3、7、11、および12に関係する。
【解決手段】 本発明の電池は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質層を有する複数個の発電素子が、基材上に配列されており、平面視で、各発電素子の正極同士を接続する集電体と、各発電素子の負極同士を接続する集電体とは、少なくとも発電素子が存在しない箇所では重なっておらず、前記正極の集電体および前記負極の集電体は、平面視で、隣接する発電素子同士を接続する方向に垂直な方向の長さが0.5mm以上であり、前記基材の、発電素子が配置されていない領域の、絶縁体の配置された箇所において切断可能である。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装体内に複数個の発電素子が封入されてなる電池であって、
前記発電素子は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質層を有し、
前記正極は、正極活物質を含有する正極合剤層と、シート状の導電性基材とを有し、
前記負極は、負極活物質を含有する負極合剤層と、シート状の導電性基材とを有し、
前記複数個の発電素子は、基材上に配列されており、かつ、それぞれの正極が集電体と直接接続することで、前記正極同士が前記集電体によって接続され、それぞれの負極が集電体と直接接続することで、前記負極同士が前記集電体によって接続されており、
平面視で、前記正極の集電体と前記負極の集電体とは、少なくとも前記発電素子が存在しない箇所では重なっておらず、
前記正極の集電体および前記負極の集電体は、平面視で、隣接する前記発電素子同士を接続する方向に垂直な方向の長さが0.5mm以上であり、
前記基材の、前記発電素子が配置されていない領域の少なくとも一部には絶縁体が配置されており、かつ前記絶縁体の配置された箇所において切断可能であることを特徴とする電池。
【請求項2】
前記絶縁体の配置された箇所で切断した後に、前記正極の集電体および前記負極の集電体に、外部への接続端子を取り付け可能である請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記正極の導電性基材は多孔質金属基材であり、前記正極合剤層側の端部を含む少なくとも一部が前記正極合剤層に埋設されて前記正極合剤層と一体化しており、前記正極の多孔質金属基材の他方の端部は、前記正極の表面に露出しており、
前記負極の導電性基材は多孔質金属基材であり、前記負極合剤層側の端部を含む少なくとも一部が前記負極合剤層に埋設されて前記負極合剤層と一体化しており、前記負極の多孔質金属基材の他方の端部は、前記負極の表面に露出している請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記基材が可撓性を有している請求項1に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の発電素子を有し、前記発電素子を分離して電池として使用可能であり、前記発電素子の分離時に短絡の発生を良好に抑制でき、かつ分離した発電素子に適用機器と接続するための接続端子を容易に形成し得る電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型・軽量で、かつ高容量・高エネルギー密度の電池が必要とされるようになってきている。
【0003】
現在、この要求に応え得るリチウム電池、特にリチウムイオン電池では、正極活物質にコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)などのリチウム含有複合酸化物が用いられ、負極活物質に黒鉛などが用いられ、非水電解質として有機溶媒とリチウム塩とを含む有機電解液が用いられている。
【0004】
そして、リチウムイオン電池の適用機器のさらなる発達に伴って、リチウムイオン電池のさらなる長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化が求められていると共に、長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化したリチウムイオン電池の信頼性も高く求められている。
【0005】
しかし、リチウムイオン電池に用いられている有機電解液は、可燃性物質である有機溶媒を含んでいるため、電池に短絡などの異常事態が発生した際に、有機電解液が異常発熱する可能性がある。また、近年のリチウムイオン電池の高エネルギー密度化および有機電解液中の有機溶媒量の増加傾向に伴い、より一層リチウムイオン電池の信頼性が求められている。
【0006】
以上のような状況において、有機溶媒を用いない全固体型のリチウム電池も検討されている。全固体型のリチウム電池は、従来の有機溶媒系電解質に代えて、有機溶媒を用いない固体電解質の成形体を用いるものであり、固体電解質の異常発熱の虞がなく、高い信頼性を備えている。そのため、特に高容量の二次電池を必要とする製品分野での期待は大きい。
【0007】
また、全固体電池は、高い安全性だけではなく、高い信頼性および高い耐環境性を有し、かつ長寿命であるため、社会の発展に寄与すると同時に安心、安全にも貢献し続けることができるメンテナンスフリーの電池として期待されている。全固体電池の社会への提供により、国際連合が制定する持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)、目標7(すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する)、目標11〔包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する〕、および目標12(持続可能な生産消費形態を確保する)の達成に貢献することができる。
【0008】
なお、全固体電池においては、小さな面積の正極や負極を有する電池要素(単電池)を複数配列した構成とすることで、例えば高容量化を図ることが検討されている。
【0009】
例えば、特許文献1では、正極、固体電解質および負極を順次積層して設けた、比較的面積の小さな薄型シート状の電池要素を、集電体上に特定範囲の間隔をもって複数配設して、電極の膨張収縮や衝撃による脆性破壊によって生じる特性劣化などの抑制を図った全固体二次電池を提案している。
【0010】
なお、小さなサイズの発電要素(単電池)を複数配列して電池を構成する技術は、全固体電池以外の電池においても種々検討されている。例えば、特許文献2には、可撓性を有する基材に、小さなサイズの電池を複数個配列してなるフレキシブル電池が提案されている。
【0011】
また、複数の発電要素を有する電池において、個々の発電要素を分離して、それらを個別に電池として使用する技術の提案もある(特許文献3、4)。特許文献3、4の技術によれば、多数の発電要素を有する電池から、求める特性に応じた発電要素の個数を選択して分離して使用できるため、電池メーカーにおいては、ユーザー毎に特性の異なる電池を製造する必要がなくなるといった利点があり、また、電池のユーザーにおいては、1つの製品から用途などに応じた様々な特性の電池を容易に得られるといった利点がある。
【0012】
ところで、特許文献3には、多数の発電要素を有する電池から必要な個数の発電要素を有する電池を切断して得るに際し、切断後の電池において正極の集電体と負極の集電体との接触による短絡を防止するために、周縁部の再熱加圧による絶縁体のはみ出し部の形成を要することが記載されている。
【0013】
その一方で、特許文献4には、発電要素の分離をレーザー光で行うことで、分離後の正極の集電体と負極の集電体との接触による短絡を防止することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001-15153号公報
【特許文献2】特開2015-15143号公報
【特許文献3】特開平6-215753号公報(特許請求の範囲、段落[0007])
【特許文献4】特開平6-267581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、従来の技術では、複数個の発電素子を有する電池から、一部の発電要素を分離して個別に電池として使用するに際し、分離後(切断後)の短絡を防止するために、切断後に別の工程を設ける必要があったり、特殊な切断方法(レーザー光を用いる方法)が必要であったりするため、ユーザーサイドにおいて必要に応じて特性の異なる電池を得る操作の簡便性の面で、未だ改善の余地がある。
【0016】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数個の発電素子を有し、前記発電素子を分離して電池として使用可能であり、前記発電素子の分離時に短絡の発生を良好に抑制でき、かつ分離した発電素子に適用機器と接続するための接続端子を容易に形成し得る電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の電池は、外装体内に複数個の発電素子が封入されてなり、前記発電素子は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質層を有し、前記正極は、正極合剤層とシート状の導電性基材とを有し、前記負極は、負極合剤層とシート状の導電性基材とを有し、前記複数個の発電素子は、基材上に配列されており、かつ、それぞれの正極が集電体と直接接続することで、前記正極同士が前記集電体によって接続され、それぞれの負極が集電体と直接接続することで、前記負極同士が前記集電体によって接続されており、平面視で、前記正極の集電体と前記負極の集電体とは、少なくとも前記発電素子が存在しない箇所では重なっておらず、前記正極の集電体および前記負極の集電体は、平面視で、隣接する前記発電素子同士を接続する方向に垂直な方向の長さが0.5mm以上であり、前記基材の、前記発電素子が配置されていない領域の少なくとも一部には絶縁体が配置されており、かつ前記絶縁体の配置された箇所において切断可能であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数個の発電素子を有し、前記発電素子を分離して電池として使用可能であり、前記発電素子の分離時に短絡の発生を良好に抑制でき、かつ分離した発電素子に適用機器と接続するための接続端子を容易に形成し得る電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の電池の一例を模式的に表す平面図である。
図2】本発明の電池の一例を模式的に表す縦断面図である。
図3】本発明の電池から、発電素子を分離して個別の電池とする際の切断例である。
図4】本発明の電池における発電素子、正極同士を接続する集電体、および負極同士を接続する集電体の配置を説明するための図面である。
図5】発電素子を分離して得られた電池における接続端子の取り付け例である。
図6】正極合剤層とシート状の多孔質金属基材とを有する正極の一例における表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1および図2に本発明の電池の一例を模式的に表す図面を示す。図1は電池の平面図であり、図2は電池の縦断面図である。
【0021】
図1および図2に示す電池100においては、複数個の発電素子110が配列され、外装体150内に封入されている。各発電素子110は、それぞれ、正極120、負極130、およびこれらの間に介在する固体電解質層140を有している。
【0022】
外装体150は、基材160、170によって構成されている。そして、基材160、170上には、各発電素子110が配列されている。
【0023】
各発電素子110の正極120は集電体161と接触しており、これにより正極120同士が直接接続されている。また、図2では示していないが、各発電素子110の負極130も、基材170の図中下側に配置された集電体と接触しており、この集電体によって負極130同士が直接接続されている。
【0024】
図2に示す電池100においては、正極120は、正極合剤層121とシート状の導電性基材である多孔質金属基材122とを有しており、この多孔質金属基材122の正極合剤層121側の端部を含む全体が、正極合剤層121に埋設されている。すなわち、多孔質金属基材122の存在箇所の全体が、正極合剤層と多孔質金属基材とが共存する領域に該当する。そして、正極120においては、多孔質金属基材122の正極合剤層121側とは反対側の端部(図2中下側の端部)が露出している。なお、正極120における点線は、正極合剤層121における、多孔質金属基材が共存していない領域と、正極合剤層と多孔質金属基材とが共存している領域との境界を示しており、多孔質金属基材122の正極合剤層121側の端部に該当する。
【0025】
さらに、図2に示す電池100においては、負極130は、負極合剤層131とシート状の導電性基材である多孔質金属基材132とを有しており、この多孔質金属基材132の負極合剤層131側の端部を含む全体が、負極合剤層131に埋設されている。すなわち、多孔質金属基材132の存在箇所の全体が、負極合剤層と多孔質金属基材とが共存する領域に該当する。そして、負極130においては、多孔質金属基材132の負極合剤層131側とは反対側の端部(図2中上側の端部)が露出している。なお、負極130における点線は、負極合剤層131における、多孔質金属基材が共存していない領域と、負極合剤層と多孔質金属基材とが共存している領域との境界を示しており、多孔質金属基材132の負極合剤層131側の端部に該当する。
【0026】
電池においては、図2に示すように、正極が、正極合剤層と、正極合剤層との表面に配置されたシート状の多孔質金属基材とを有し、正極の多孔質金属基材が、正極合剤層側の端部を含む少なくとも一部が正極合剤層に埋設されて正極合剤層と一体化しており、かつ正極の多孔質金属基材の他方の端部が正極の表面に露出していることが好ましく、また、負極が、負極合剤層と、負極合剤層との表面に配置されたシート状の多孔質金属基材とを有し、負極の多孔質金属基材が、負極合剤層側の端部を含む少なくとも一部が負極合剤層に埋設されて負極合剤層と一体化しており、かつ負極の多孔質金属基材の他方の端部が負極の表面に露出していることが好ましい。
【0027】
複数個の発電素子(単位電池)を有する電池(電池モジュール)においては、各発電素子同士の電気的接続に関しては、各発電素子の電極同士を集電体で直接接続すると、正極同士の電気的接続および負極同士の電気的接続が不安定になりやすい。
【0028】
しかしながら、発電素子に係る正極が、正極合剤層と、正極合剤層との表面に配置されたシート状の多孔質金属基材とを有し、正極の多孔質金属基材が、正極合剤層側の端部を含む少なくとも一部が正極合剤層に埋設されて正極合剤層と一体化しており、かつ正極の多孔質金属基材の他方の端部が正極の表面に露出している場合には、発電素子内で正極の集電体として機能するシート状の多孔質金属基材と、正極合剤層との間の電気的接続、およびシート状の多孔質金属基材と、正極同士を接続する集電体との間の電気的接続を、良好にすることができる。また、発電素子に係る負極が、負極合剤層と、負極合剤層との表面に配置されたシート状の多孔質金属基材とを有し、負極の多孔質金属基材が、負極合剤層側の端部を含む少なくとも一部が負極合剤層に埋設されて負極合剤層と一体化しており、かつ負極の多孔質金属基材の他方の端部が負極の表面に露出している場合には、発電素子内で負極の集電体として機能するシート状の多孔質金属基材と、負極合剤層との間の電気的接続、およびシート状の多孔質金属基材と、負極同士を接続する集電体との間の電気的接続を、良好にすることができる。そのため、各発電素子を個別に外装しなくても、発電素子同士の電気的接続を良好にし得ることから、電気的接続の信頼性がより高く、より優れた特性を発揮し得る電池とすることができる。
【0029】
また、発電素子110同士の領域には、絶縁体180が配置されている。図1に示す電池100においては、四隅が曲線状の四角形で示した箇所の内部に各発電素子が配置されており、前記四角形同士の間、および外装体150の前記四角形より外側の箇所の内部には、絶縁体が配置されている。そして、この絶縁体の箇所を切断することができ、これによって発電素子を分離して、個別の電池として使用することが可能である。
【0030】
図3に、本発明の電池から発電素子を分離して個別の電池とする場合の切断例を示している。電池においては、図中左上のように1つの発電素子を切断によって分離し、個別の電池200とすることができ、また、図中右上のように複数個の発電素子を含むように切断して分離し、複数個の発電素子を有する電池201とすることができる。また、複数個の発電素子を含む領域を、図中左下の例のように平面視でL字状に切断して分離することで個別の電池202としたり、図中右下の例のように平面視でロの字状に切断して分離することで個別の電池203として使用したりすることもできる。なお、図中右下の例では、分離後の電池の中央部分から切断した発電素子についても、個別の電池200として使用可能である。
【0031】
このように、本発明の電池においては、適用機器に要求される特性や形態に応じて、1個または複数個の発電素子を含む部分を、内部に絶縁体を配置した箇所で切断して、種々の特性および形状の電池を容易に得ることができる。
【0032】
ところが、複数個の発電素子を含む電池から、所望の個数の発電素子を含む部分を切断して個別の電池を得る場合、発電素子の正極同士を接続する集電体と、発電素子の負極同士を接続する集電体とが、それらの切断部近傍で接触して短絡が生じる虞がある。
【0033】
そこで、本発明の電池では、複数個の発電素子における正極同士を接続する集電体と、負極同士を接続する集電体とが、平面視で、少なくとも発電素子が存在しない箇所では重ならないように配置することとした。
【0034】
図4に、複数個の発電素子、各発電素子の正極同士を接続する集電体、および各発電素子の負極同士を接続する集電体の配置を説明するための図面を示している。すなわち、図4は、例えば図1および図2に示す電池100から、外装体150を構成する図中上側(負極側)の基材170を取り除いて、内部を確認できるようにした図面である。
【0035】
図4では、4個の発電素子110を含む部分を示しており、図中の点線と基材160の端部との間の領域、および発電素子110が配置された箇所の、点線よりも外側の領域には、絶縁体が配置される。そして、この絶縁体が配置される領域が、個別の電池を得る際の切断可能箇所となる。
【0036】
図4に示すように、複数個の発電素子110の正極同士を接続する集電体161と、負極同士を接続する171とは、平面視で、発電素子110が存在する箇所でのみ重なっており、発電素子110が存在しない箇所では重なり部分がない。そのため、前記の絶縁体の配置箇所で1個または複数個の発電素子110を含むように切断しても、その切断面において、正極同士を接続する集電体161と負極同士を接続する171とは、図中奥行方向において重なっていないため、接触して短絡を発生させる虞がない。
【0037】
このように、本発明の電池においては、複数個の発電素子の正極同士を接続する集電体と、複数個の発電素子の負極同士を接続する集電体とが、平面視で、少なくとも発電素子が存在しない箇所では重ならないように配置されているため、個別の電池を得るために絶縁体の配置箇所で切断しても、その切断面において、正極同士を接続する集電体(図3中の電池200の場合は正極側の集電体)と負極同士を接続する集電体(図3中の電池200の場合は負極側の集電体)とが接触し得ないことから、カッターやハサミなどの汎用の切断手段で切断しても短絡の発生を抑制でき、切断後の短絡を防止するための特別な操作を要しない。
【0038】
なお、正極同士を接続する集電体と負極同士を接続する集電体とは、発電素子が存在する箇所では、平面視で常に重なっている必要はなく、例えば、複数個の発電素子を一列に配列した形態の電池の場合には、正極同士を接続する集電体と負極同士を接続する集電体とは、平面視で重なっている部分は存在しない。
【0039】
なお、電池から分離した発電素子を、個別の電池として使用するには、通常、適用機器と接続するための接続端子を取り付ける。こうした接続端子は、発電素子の分離後に、例えば図4中の、正極同士を接続する集電体161や、負極同士を接続する集電体171と接続することになる。ところが、こうした集電体に細い導線などを使用していると、接続端子を確実に接続するには、その取り付け箇所を厳密に管理する必要が生じ、接続端子の取り付け時に電池または接続端子に位置ずれが生じると、集電体と接続端子とを良好に接続できない虞がある。また、発電素子の分離後には、外装体の内部に位置する集電体に外部から接続端子を接続することになるため、状況によっては接続位置の細かい調整が困難であるといった問題もある。
【0040】
そこで、本発明の電池では、複数個の発電素子の正極同士を接続する集電体、および複数個の発電素子の負極同士を接続する集電体において、平面視で、隣接する発電素子同士を接続する方向に垂直な方向の長さを、0.5mm以上、好ましくは1mm以上とすることとした。前記の長さは、図4におけるa、bの長さ(正極同士を接続する集電体161の場合)、およびc、dの長さ(負極同士を接続する集電体171の場合)を意味している。すなわち、図4においては、複数個の発電素子110が、図中横方向および縦方向に配列しており、これらの正極同士が集電体161で接続され、負極同士が集電体171で接続されている。よって、平面視で、隣接する発電素子同士を接続する方向は、図中の矢印で示した横方向および縦方向であり、そのうちの縦方向に垂直な方向における集電体161、171の長さは、それぞれ、図中a、cの長さであり、横方向に垂直な方向における集電体161、171の長さは、それぞれ、図中b、dの長さである。
【0041】
このように、正極同士を接続する集電体および負極同士を接続する集電体における前記の長さが、前記の値を満たす場合には、接続端子を取り付ける集電体にある程度の幅があることから、仮に前記の位置ずれが多少生じても、接続端子を集電体に良好に取り付け得る。よって、電池から発電素子を分離して個別の電池を形成する際の接続端子の形成が容易となる。
【0042】
複数個の発電素子の正極同士を接続する集電体、および複数個の発電素子の負極同士を接続する集電体における、平面視で、隣接する発電素子同士を接続する方向に垂直な方向の長さは、発電素子の平面視での面積や発電素子同士の間隔などにもよるが、あまり長すぎると、発電素子を分離して個別の電池を形成する際の短絡の抑制効果が小さくなる虞があることから、発電素子の幅または径の40%以下であることが好ましく、発電素子の幅または径の30%以下であることがより好ましい。
【0043】
図5に、電池から発電素子を分離して得られた個別の電池における接続端子の取り付け例を示している。図5に示す電池200においては、正極用の接続端子190および負極用の接続端子191が外装体150の外部に配置されており、それぞれ、電池200内の、正極側の集電体(発電素子を複数個有する電池の場合は、正極同士を接続する集電体)、負極側の集電体(発電素子を複数個有する電池の場合は、負極同士を接続する集電体)と、接合手段192、192によって接合されている。
【0044】
正極用の接続端子および負極用の接続端子と、正極同士を接続する集電体および負極同士を接続する集電体とを接合するための接合手段としては、例えば、金属製の針、ワニ口クリップ(比較的鋭利な歯を有するもの)、ステープル針などの、電池の外装体を貫通して接続端子と集電体とを接合し、両者を電気的に接続させ得るものであれば、特に制限なく使用できる。また、接続端子を配置する部分の外装体を破り得る程度の出力で、接続端子と集電体とを溶接することで、接続端子と集電体とを電気的に接続してもよい。
【0045】
なお、一部の発電素子を分離することなく電池を使用する場合にも、個別の電池に取り付ける方法と同じ方法で、接続端子を取り付けることができる。また、一部の発電素子を分離した後に残りの部分を電池として使用することが予定されている場合には、外装体の内部において、正極同士を接続する集電体および負極同士を接続する集電体と、接続端子の片端側とを溶接などによって接続し、これらの接続端子の他端側を外装体から外部に引き出す方法で、接続端子を設けることもできる。
【0046】
本発明の電池には、一次電池(全固体一次電池)と二次電池(全固体二次電池)とが含まれる。以下に、電池の詳細について説明する。
【0047】
<発電素子>
発電素子は、正極と、負極と、これらの間に介在する固体電解質層とを有している。
【0048】
(正極)
正極は、正極活物質などを含有する正極合剤層と、シート状の導電性基材とを有している。
【0049】
電池が一次電池である場合の正極活物質には、従来から知られている非水電解質一次電池などに用いられている正極活物質と同じものが使用できる。具体的には、例えば、二酸化マンガン、リチウム含有マンガン酸化物〔例えば、LiMnや、二酸化マンガンと同じ結晶構造(β型、γ型、またはβ型とγ型が混在する構造など)を有し、Liの含有量が3.5質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である複合酸化物など〕、LiTi5/3(4/3≦a<7/3)などのリチウム含有複合酸化物;バナジウム酸化物;ニオブ酸化物;チタン酸化物;二硫化鉄などの硫化物;フッ化黒鉛;AgSなどの銀硫化物;NiOなどのニッケル酸化物:などが挙げられる。
【0050】
また、電池が二次電池の正極である場合の正極活物質には、従来から知られている非水電解質二次電池などに用いられている正極活物質と同じものが使用できる。具体的には、LiMMn2-r(ただし、Mは、Li、Na、K、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Zr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Sb、In、Nb、Ta、Mo、W、Y、RuおよびRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦r≦1)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、LiMn(1-s-r)Ni(2-u)(ただし、Mは、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.8≦r≦1.2、0<s<0.5、0≦t≦0.5、u+v<1、-0.1≦u≦0.2、0≦v≦0.1)で表される層状化合物、LiCo1-r(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、V、Cr、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦r≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNi1-r(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦r≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、Li1+s1-rPO(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、VおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦r≦0.5、0≦s≦1)で表されるオリビン型複合酸化物、Li1-r(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、VおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦r≦0.5)で表されるピロリン酸化合物などの、従来から知られている非水電解質二次電池で使用されている各種の正極活物質の1種または2種以上が挙げられる。
【0051】
電池が二次電池の場合には、正極活物質の平均粒子径は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。なお、正極活物質は一次粒子でも一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。平均粒子径が前記範囲の正極活物質を使用すると、正極に含まれる固体電解質との界面を多くとれるため、電池の出力特性がより向上する。
【0052】
本明細書でいう各種粒子(正極活物質、固体電解質など)の平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」など)を用いて、粒度の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値(D50)を意味している。
【0053】
電池が二次電池の場合、正極活物質は、その表面に、正極に含まれる固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を有していることが好ましい。
【0054】
正極合剤層内において、正極活物質と固体電解質とが直接接触すると、固体電解質が酸化して抵抗層を形成し、正極合剤層内のイオン伝導性が低下する虞がある。正極活物質の表面に、固体電解質との反応を抑制する反応抑制層を設け、正極活物質と固体電解質との直接の接触を防止することで、固体電解質の酸化による正極合剤層内のイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0055】
反応抑制層は、イオン伝導性を有し、電極活物質(正極活物質)の粒子と固体電解質との反応を抑制できる材料で構成されていればよい。反応抑制層を構成し得る材料としては、例えば、Liと、Nb、P、B、Si、Ge、Ti、Zr、TaおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物、より具体的には、LiNbOなどのNb含有酸化物、LiPO、LiBO、LiSO、LiSiO、LiGeO、LiTiO、LiZrO、LiWOなどが挙げられる。反応抑制層は、これらの酸化物のうちの1種のみを含有していてもよく、また、2種以上を含有していてもよく、さらに、これらの酸化物のうちの複数種が複合化合物を形成していてもよい。これらの酸化物の中でも、Nb含有酸化物を使用することが好ましく、LiNbOを使用することがより好ましい。
【0056】
反応抑制層は、正極活物質:100質量部に対して0.1~1.0質量部で表面に存在することが好ましい。この範囲であれば正極活物質と固体電解質との反応を良好に抑制することができる。
【0057】
正極活物質の表面に反応抑制層を形成する方法としては、ゾルゲル法、メカノフュージョン法、CVD法、PVD法、ALD法などが挙げられる。
【0058】
正極合剤における正極活物質の含有量は、電池のエネルギー密度をより大きくする観点から、60~85質量%であることが好ましい。
【0059】
正極合剤には、導電助剤を含有させることができる。その具体例としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどの炭素材料などが挙げられる。なお、例えば活物質にAgSを用いる場合には放電反応の際に導電性のあるAgが生成するため、導電助剤は含有させなくてもよい。正極合剤において導電助剤を含有させる場合には、その含有量は、正極活物質の含有量を100質量部としたときに、1.0質量部以上であることが好ましく、7.0質量部以下であることが好ましく、6.5質量部以下であることがより好ましい。
【0060】
また、正極合剤にはバインダを含有させることができる。その具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。なお、例えば正極合剤に硫化物系固体電解質を含有させる場合(詳しくは後述する)のように、バインダを使用しなくても、正極合剤層を形成する上で良好な成形性が確保できる場合には、正極合剤にはバインダを含有させなくてもよい。
【0061】
正極合剤において、バインダを要する場合には、その含有量は、15質量%以下であることが好ましく、また、0.5質量%以上であることが好ましい。他方、正極合剤において、バインダを要しなくても成形性が得られる場合には、その含有量が、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、バインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0062】
正極合剤には、固体電解質を含有させることができる。
【0063】
正極合剤に含有させる固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有していれば特に限定されず、例えば、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが使用できる。
【0064】
硫化物系固体電解質としては、LiS-P、LiS-SiS、LiS-P-GeS、LiS-B系ガラスなどの粒子が挙げられる他、近年、Liイオン伝導性が高いものとして注目されているthio-LISICON型のもの〔Li10GeP12、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3などの、Li12-12a-b+c+6d-e 3+a-b-c-d 12-e(ただし、MはSi、GeまたはSn、MはPまたはV、MはAl、Ga、YまたはSb、MはZn、Ca、またはBa、MはSまたはSおよびOのいずれかであり、XはF、Cl、BrまたはI、0≦a<3、0≦b+c+d≦3、0≦e≦3〕や、アルジロダイト型結晶構造を有するものも使用することができる。
【0065】
水素化物系固体電解質としては、例えば、LiBH、LiBHと下記のアルカリ金属化合物との固溶体(例えば、LiBHとアルカリ金属化合物とのモル比が1:1~20:1のもの)などが挙げられる。前記固溶体におけるアルカリ金属化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiI、LiBr、LiF、LiClなど)、ハロゲン化ルビジウム(RbI、RbBr、RbF、RbClなど)、ハロゲン化セシウム(CsI、CsBr、CsF、CsClなど)、リチウムアミド、ルビジウムアミドおよびセシウムアミドよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0066】
ハロゲン化物系固体電解質としては、例えば、単斜晶型のLiAlCl、欠陥スピネル型または層状構造のLiInBr、単斜晶型のLi6-3m(ただし、0<m<2かつX=ClまたはBr)などが挙げられ、その他にも例えば国際公開第2020/070958や国際公開第2020/070955に記載の公知のものを使用することができる。
【0067】
酸化物系固体電解質としては、例えば、LiO-Al-SiO-P-TiO系ガラスセラミックス、LiO-Al-SiO-P-GeO系ガラスセラミックス、LiPO-LiBO-LiSO系ガラス、ガーネット型のLiLaZr12、NASICON型のLi1+OAl1+OTi2-O(PO、Li1+pAl1+pGe2-p(PO、ペロブスカイト型のLi3qLa2/3-qTiO、逆ペロブスカイト型のLiHX(X=О、S、Se、Te)などが挙げられる。
【0068】
これらの固体電解質の中でも、リチウムイオン伝導性が高いことから、硫化物系固体電解質が好ましく、LiおよびPを含む硫化物系固体電解質がより好ましく、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質が、リチウムイオン伝導性がより高く、化学的に安定性が高いことから、さらに好ましい。
【0069】
アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質としては、例えば、LiPSClなどの、下記一般組成式(1)または下記一般組成式(2)で表されるものが、特に好ましい。
【0070】
Li7-x+yPS6-xClx+y (1)
【0071】
前記一般組成式(1)中、0.05≦y≦0.9、-3.0x+1.8≦y≦-3.0x+5.7である。
【0072】
Li7-aPS6-aClBr (2)
【0073】
前記一般組成式(2)中、a=b+c、0<a≦1.8、0.1≦b/c≦10.0である。
【0074】
固体電解質の平均粒子径は、粒界抵抗軽減の観点から、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、一方、活物質と固体電解質との間での十分な接触界面形成の観点から、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0075】
正極合剤における固体電解質の含有量は、正極内でのイオン伝導性をより高めて、電池の出力特性をより向上させる観点から、正極活物質の含有量を100質量部としたときに、10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましい。ただし、正極合剤中の固体電解質の量が多すぎると、他の成分の量が少なくなって、それらによる効果が小さくなる虞がある。よって、正極合剤における固体電解質の含有量は、正極活物質の含有量を100質量部としたときに、65質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましい。
【0076】
正極が有するシート状の導電性基材は、正極の集電体として機能するものである。正極のシート状の導電性基材としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼などの金属の網、箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル;カーボンのシート、網;などが使用できるが、シート状の多孔質金属基材が好ましく用いられる。
【0077】
正極におけるシート状の多孔質金属基材には、発泡状金属多孔質体を使用することが好ましい。発泡状金属多孔質体の具体例としては、住友電気工業株式会社の「セルメット(登録商標)」などが挙げられる。なお、このような多孔質金属基材は、正極(に使用する前の厚みが、前記の厚み(正極内での厚み)よりも大きいことが通常であり(例えば、圧縮される前の厚みが0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることが特に好ましく、一方、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることが特に好ましい。)、後述する発電素子の製造時において、厚み方向に圧縮されて、その厚みが後記のような値となる。
【0078】
多孔質金属基材の圧縮される前の空孔率は、多孔質金属基材と正極合剤とを加圧する工程において、多孔質金属基材の空孔内に正極合剤が充填されやすくし、多孔質金属基材と正極合剤層とが容易に一体化できるようにするために、80%以上とすることが好ましく、90%以上とすることがより好ましく、95%以上とすることが特に好ましい。一方、基材の量を一定以上にして導電性を高めるために、空孔率は、99.5%以下とすることが好ましく、99%以下とすることがより好ましく、98.5%以下とすることが特に好ましい。
【0079】
正極において、多孔質金属基材のうち、正極合剤層中に埋設している部分の厚みは、多孔質金属基材と正極合剤層とをより確実に一体化させる観点から、多孔質金属基材の厚み(多孔質金属基材全体の厚みであって、正極合剤層が共存している部分の厚みを含む。特に断らない限り、多孔質金属基材の厚みについて、以下同じ。)のうちの、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
【0080】
また、正極において、複数個の発電素子の正極同士を接続するための集電体と接触させた際の抵抗を低減するためには、多孔質金属基材における正極合剤層側とは反対側の端部は正極合剤層に埋設されず、正極の端部(正極の表面)が多孔質金属基材のみで構成されていることが望ましい。すなわち、後述する発電素子の製造時において、多孔質金属基材が厚み方向に圧縮される際に、多孔質金属基材の端部の空孔が押しつぶされて無くなり、多孔質金属基材のみが正極の表面に露出している状態となることが望ましい。ただし、多孔質金属基材の端部の空孔の一部は押しつぶされず、その中に正極合剤が充填された状態となっていてもよく、前記集電体との接触抵抗に大きな影響を及ぼさない範囲で、多孔質金属基材の端部とともに正極合剤の一部が正極の表面に露出しても構わない。
【0081】
図6に、正極の一例における表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。図6に示す正極の表面においては、多孔質金属基材122の端部が露出しているが、正極合剤121aの一部も、多孔質金属基材の端部に存在する空孔に入り込むことにより正極の表面に露出している。
【0082】
ただし、正極の表面に露出している正極合剤の割合(面積比)が大きくなるほど、多孔質金属基材と、複数個の発電素子の正極同士を接続するための集電体との接触抵抗が大きくなるため、正極表面における、露出した正極合剤の面積の割合を、平面視で50%以下とすることが望ましく、25%以下とすることがより望ましく、15%以下とすることがさらに望ましく、10%以下とすることが特に望ましい。
【0083】
正極において、正極合剤層に多孔質金属基材の少なくとも一部を埋設させるにあたり、多孔質金属基材と正極合剤層とをより確実に一体化させる観点からは、多孔質金属基材の厚みは、正極合剤層の全体の厚み(多孔質金属基材と共存している部分の厚みを含む。以下にいう「正極合剤層の厚み」は、正極がシート状の多孔質金属基材を有している場合には、特に断らない限り、ここでいう「正極合剤層の全体の厚み」を意味する。)の、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることが特に好ましい。また、正極における正極合剤層の充填性を高める観点から、多孔質金属基材の厚みは、正極合剤層の厚みの、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
【0084】
なお、正極において、多孔質金属基材の厚みは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが特に好ましく、一方、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが特に好ましい。
【0085】
また、正極合剤層の厚みは、0.2mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましく、0.7mm以上であることが特に好ましく、一方、3mm以下であることが好ましく、2.5mm以下であることがより好ましく、2mm以下であることが特に好ましい。
【0086】
本明細書でいう多孔質金属基材の厚み、正極合剤層の厚み、および後記の負極合剤層の厚みは、それぞれ、正極または負極の厚み方向の断面をSEMにより倍率50~1000倍で観察した画像において、多孔質金属基材が確認できる領域と、正極合剤または負極合剤が確認できる領域の厚み方向の幅の最大値により求められる。また、多孔質金属基材のうち正極合剤層内または負極合剤層内に埋設されている部分の厚みは、前記多孔質金属基材が確認できる領域と前記正極合剤が確認できる領域または前記負極合剤が確認できる領域とが重なっている部分の厚み方向の幅の最大値により求められる(後述する実施例における各値は、これらの方法によって求めたものである)。
【0087】
また、正極の表面に露出している正極合剤の割合(面積比)および負極の表面に露出している負極合剤の割合(面積比)は、正極または負極の表面をSEMにより倍率50~200倍で観察した画像において、正極合剤または負極合剤が露出している部分の面積の総和:Aと、正極または負極全体の面積:Bとの比(A/B)により求められる(後述する実施例における値は、この方法によって求めたものである)。
【0088】
(負極)
負極は、例えば、負極活物質などを含有する負極合剤層と、シート状の導電性基材とを有している。
【0089】
負極活物質としては、例えば、黒鉛などの炭素材料や、リチウムチタン酸化物(チタン酸リチウムなど)、Si、Snなどの元素を含む単体、化合物(酸化物など)およびその合金などが挙げられる。また、リチウム金属やリチウム合金(リチウム-アルミニウム合金、リチウム-インジウム合金など)も負極活物質として用いることができる。
【0090】
負極合剤における負極活物質の含有量は、電池のエネルギー密度をより大きくする観点から、40~80質量%であることが好ましい。
【0091】
負極合剤には、導電助剤を含有させることができる。その具体例としては、正極合剤に含有させ得るものとして先に例示した導電助剤と同じものなどが挙げられる。負極合剤における導電助剤の含有量は、負極活物質の含有量を100質量部としたときに、10~30質量部であることが好ましい。
【0092】
また、負極合剤にはバインダを含有させることができる。その具体例としては、正極合剤に含有させ得るものとして先に例示したバインダと同じものなどが挙げられる。なお、例えば負極合剤に硫化物系固体電解質を含有させる場合(後述する)のように、バインダを使用しなくても、負極合剤層を形成する上で良好な成形性が確保できる場合には、負極合剤にはバインダを含有させなくてもよい。
【0093】
負極合剤において、バインダを要する場合には、その含有量は、15質量%以下であることが好ましく、また、0.5質量%以上であることが好ましい。他方、負極合剤において、バインダを要しなくても成形性が得られる場合には、その含有量が、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、バインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0094】
負極合剤には固体電解質を含有させることができる。その具体例としては、正極合剤に含有させ得るものとして先に例示した固体電解質と同じものなどが挙げられる。前記例示の固体電解質の中でも、リチウムイオン伝導性が高く、また、負極合剤の成形性を高める機能を有していることから、硫化物系固体電解質を用いることが好ましく、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質を用いることがより好ましく、前記一般組成式(1)または前記一般組成式(2)で表されるものを用いることがさらに好ましい。
【0095】
負極合剤に係る固体電解質の平均粒子径は、正極合剤の場合と同じ理由から、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0096】
負極合剤における固体電解質の含有量は、負極内でのイオン伝導性をより高めて、電池の出力特性をより向上させる観点から、負極活物質の含有量を100質量部としたときに、30質量部以上であることが好ましく、35質量部以上であることがより好ましい。ただし、負極合剤中の固体電解質の量が多すぎると、他の成分の量が少なくなって、それらによる効果が小さくなる虞がある。よって、負極合剤における固体電解質の含有量は、負極活物質の含有量を100質量部としたときに、130質量部以下であることが好ましく、110質量部以下であることがより好ましい。
【0097】
負極が有するシート状の導電性基材は、負極の集電体として機能するものである。負極のシート状の導電性基材としては、ニッケル、銅、ステンレス鋼などの金属の網、箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル;カーボンのシート、網;などが使用できるが、シート状の多孔質金属基材が好ましく用いられる。
【0098】
負極におけるシート状の多孔質金属基材には、正極同様に発泡状金属多孔質体を使用することが好ましい。発泡状金属多孔質体の具体例としては、住友電気工業株式会社の「セルメット(登録商標)」などが挙げられる。なお、このような多孔質金属基材は、負極に使用する前の厚みが、前記の厚み(負極内での厚み)よりも大きいことが通常であり(例えば、圧縮される前の厚みが0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることが特に好ましく、一方、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることが特に好ましい。)、後述する負極の製造時において、厚み方向に圧縮されて、その厚みが後記のような値となる。
【0099】
多孔質金属基材の圧縮される前の空孔率は、多孔質金属基材と負極合剤とを加圧する工程において、多孔質金属基材の空孔内に負極合剤が充填されやすくし、多孔質金属基材と負極合剤層とが容易に一体化できるようにするために、80%以上とすることが好ましく、90%以上とすることがより好ましく、95%以上とすることが特に好ましい。一方、基材の量を一定以上にして導電性を高めるために、空孔率は、99.5%以下とすることが好ましく、99%以下とすることがより好ましく、98.5%以下とすることが特に好ましい。
【0100】
負極において、多孔質金属基材のうち、負極合剤層中に埋設している部分の厚みは、多孔質金属基材と負極合剤層とをより確実に一体化させる観点から、多孔質金属基材の厚み(多孔質金属基材全体の厚みであって、負極合剤層が共存している部分の厚みを含む。特に断らない限り、多孔質金属基材の厚みについて、以下同じ。)のうちの、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
【0101】
また、負極において、負極同士を接続するための集電体と接触させた際の抵抗を低減するためには、多孔質金属基材における負極合剤層側とは反対側の端部は負極合剤層に埋設されず、負極の端部(負極の表面)が多孔質金属基材のみで構成されていることが望ましい。すなわち、後述する負極の製造時において、多孔質金属基材が厚み方向に圧縮される際に、多孔質金属基材の端部の空孔が押しつぶされて無くなり、多孔質金属基材のみが負極の表面に露出している状態となることが望ましい。ただし、多孔質金属基材の端部の空孔の一部は押しつぶされず、その中に負極合剤が充填された状態となっていてもよく、前記集電体との接触抵抗に大きな影響を及ぼさない範囲で、多孔質金属基材の端部とともに負極合剤の一部が負極の表面に露出しても構わない。
【0102】
ただし、負極の表面に露出している負極合剤の割合(面積比)が大きくなるほど、多孔質金属基材と、負極同士を接続するための集電体との接触抵抗が大きくなるため、負極表面における、露出した負極合剤の面積の割合を、平面視で50%以下とすることが望ましく、25%以下とすることがより望ましく、15%以下とすることがさらに望ましく、10%以下とすることが特に望ましい。
【0103】
負極において、負極合剤層に多孔質金属基材の少なくとも一部を埋設させるにあたり、多孔質金属基材と負極合剤層とをより確実に一体化させる観点からは、多孔質金属基材の厚みは、負極合剤層の全体の厚み(多孔質金属基材と共存している部分の厚みを含む。以下にいう「負極合剤層の厚み」は、負極がシート状の多孔質金属基材を有している場合には、特に断らない限り、ここでいう「負極合剤層の全体の厚み」を意味する。)の、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることが特に好ましい。また、負極における負極合剤層の充填性を高める観点から、多孔質金属基材の厚みは、負極合剤層の厚みの、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
【0104】
なお、負極において、多孔質金属基材の厚みは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが特に好ましく、一方、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが特に好ましい。
【0105】
また、負極合剤層の厚みは、0.2mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましく、0.7mm以上であることが特に好ましく、一方、4mm以下であることが好ましく、3.5mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることが特に好ましい。
【0106】
(固体電解質層)
発電素子において、正極と負極との間には固体電解質層を介在させる。固体電解質層を構成する固体電解質の具体例としては、正極合剤に含有させ得るものとして先に例示した固体電解質と同じものなどが挙げられる。前記例示の固体電解質の中でも、リチウムイオン伝導性が高く、また、成形性を高める機能を有していることから、硫化物系固体電解質を用いることが好ましく、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質を用いることがより好ましく、前記一般組成式(1)または前記一般組成式(2)で表されるものを用いることがさらに好ましい。
【0107】
固体電解質層は、樹脂製の不織布などの多孔質体を支持体として有していてもよい。
【0108】
固体電解質層の厚みは、10~200μmであることが好ましい。
【0109】
(発電素子の製造方法)
発電素子は、例えば粉体状の正極合剤を加圧成形して前記正極合剤層を形成する工程と、粉体状の固体電解質を加圧成形して固体電解質層を形成する工程と、粉体状の負極合 剤を加圧成形して前記負極合剤層を形成する工程とを含む製造方法によって製造できる。
【0110】
例えば、シート状の多孔質金属基材を有する正極および負極を備えた発電素子の場合、より具体的な製造方法としては、例えば以下の第1工程~第3工程を有する製造方法が挙げられる。
【0111】
第1工程では、粉体状の電極合剤(正極合剤または負極合剤)を金型に投入して加圧成形する。第1工程での加圧成形の面圧は、例えば30~500MPaであることが好ましい。
【0112】
次の第2工程では、第1工程で加圧成形された前記電極合剤上に多孔質金属基材を載置し、その次の第3工程で前記電極合剤と前記多孔質金属基材とを加圧する。この第3工程における加圧によって、多孔質金属基材を電極合剤側の端部から電極合剤内に埋設させつつ前記電極合剤をさらに圧縮すると共に、多孔質金属基材を厚み方向に圧縮して、電極合剤層(正極合剤層または負極合剤層)と前記多孔質金属基材とを一体化させて、電極(正極または負極)を形成する。
【0113】
前記の通り、この第3工程において、多孔質金属基材を厚み方向に圧縮するが、その圧縮の程度としては、多孔質金属基材と電極合剤層とをより確実にする観点から、圧縮後の多孔質金属基材の厚みを、圧縮前の厚みの30%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが特に好ましい。また、多孔質金属基材の空隙内に一定以上の電極合剤を保持させて、多孔質金属基材と電極合剤層との接合強度を高める観点からは、第3工程における圧縮後の多孔質金属基材の厚みを、圧縮前の厚みの1%以上とすることが好ましく、2%以上とすることがより好ましい。
【0114】
第3工程における加圧時の面圧は、電極合剤を圧縮成形して電極合剤層の密度を十分に高めるため、例えば800MPa以上であることが好ましく、1000MPa以上であることがより好ましく、1200MPa以上であることが特に好ましい。第3工程における加圧時の面圧の上限値は特に規定されないが、一般的な加圧装置では、通常は2000MPa程度が上限値となる。
【0115】
前記第1工程から前記第3工程を経ることで、多孔質金属基材の電極合剤層側の端部を含む少なくとも一部(多孔質金属基材の端部から厚み方向に一定の範囲)が電極合剤層に埋設されて電極合剤層と一体化しており、かつ多孔質金属基材の他方の端部が当該電極の表面に露出している構成の電極(正極または負極)を得ることができる。
【0116】
なお、第3工程における加圧時の面圧が高くなると、多孔質金属基材が圧縮される際に亀裂を生じる可能性もあるが、切断されて破片が生じる場合でも、その端部が電極の表面に露出するのであれば、接触抵抗の低減に寄与することができる。
【0117】
前記の第1工程、第2工程および第3工程を経て正極および負極を作製し、これらを固体電解質層の両面に配置し、必要に応じて加圧して発電素子を形成することができる。
【0118】
さらに、第1工程の前に、粉体状の固体電解質を金型に投入して加圧成形する予備工程を設け、この予備工程で加圧成形された固体電解質上に電極合剤(正極合剤または負極合剤)を載置し、その後に第1工程、第2工程および第3工程を順次実施することで、固体電解質層と電極(正極または負極)との一体化物を製造し、これを発電素子に使用することもできる。
【0119】
予備工程における加圧成形時の面圧は、例えば、30~120MPaとすることが好ましい。
【0120】
また、予備工程から第1工程、第2工程および第3工程を経て、片面に正極および負極のうちの一方の電極を形成した固体電解質層の他面に、さらに第1工程、第2工程および第3工程を順次実施して他方の電極(負極または正極)を形成することで、発電素子を製造することもできる。
【0121】
(発電素子の積層構成)
発電素子は、1個の正極と1個の負極とを有し、これらが固体電解質層を介して積層された構成とすることができるほか、複数個の正極と複数個の負極とを有する構成とすることもできる。複数個の正極と複数個の負極とを有する発電素子の場合、例えば、1個の正極と1個の負極とが1個の固体電解質層を介して積層された単位積層体を、複数積層することで構成することができる。単位積層体同士を積層する際には、例えば、一方の単位積層体の正極と、他方の単位積層体の負極とを、金属箔などの集電体を介して積層する方法が採用できる。また、正極と負極とを金属箔などを介して積層したバイポーラ電極を使用し、このバイポーラ電極の正極側に固体電解質層を介して負極を積層し、前記バイポーラ電極の負極側に固体電解質層を介して正極を積層することでも、複数個の正極と複数個の負極とを有する発電素子を形成することができる。
【0122】
(発電素子の形状)
発電素子の平面視での形状については、特に制限はなく、円形や楕円形、四角形、六角形などの多角形のいずれでもよいが、通常は、円形または四角形である。
【0123】
(発電素子の配置および個数)
電池においては、外装体の平面視形状に応じて、複数個の発電素子を、直線状に1列で配列させることもでき、また、図1に示すように、縦および横に、それぞれ複数列で配列させたり、円状に一列で配列させたり、同心円状に複数列で配列させたりすることもできる。
【0124】
電池内に配置する発電素子の個数については、複数個、すなわち2個以上であれば特に制限はなく、電池が適用される際に要求される特性に応じて適宜選択することが可能であり、例えば、10個、100個、1000個、それ以上とすることも可能である。
【0125】
<基材、集電体および外装体>
複数個の発電素子を配列する基材としては、絶縁性のシート状物(実質的に空孔を持たないフィルム、織布、不織布など)が挙げられる。なお、基材は、可撓性を有していることが好ましい。可撓性を有する基材を用いて構成することで、いわゆるフレキシブル電池とすることが可能であり、例えば、ロール状に巻き取って貯蔵や輸送したり、曲面上を覆うように配置する電池とするなどのように、適用箇所に合わせて変形させ得る電池として使用したりすることが可能となる。
【0126】
このような基材の素材としては、ナイロン(ナイロン66など)、ポリエステル〔ポリエチレンテレフタレート(PET)など〕、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)、ポリウレタン、エポキシ、ポリイミドなどの樹脂が挙げられる。
【0127】
基材の厚みは、1~100μmであることが好ましい。
【0128】
複数個の発電素子の正極同士を接続する集電体、および複数個の発電素子の負極同士を接続する集電体は、電池の平面視で、少なくとも発電素子が存在しない箇所では、これら同士が重なり合わないようにし得る平面視形状をしている必要がある。例えば、集電体の平面視形状を、例えば、図4に示す格子状などのように、箔状(板状)のものから一部が切り抜かれた形状などとすればよい。または、細長い形状の箔状(板状)のものを、横方向、縦方向にそれぞれ配置して格子状にしたものでもよい。
【0129】
正極同士を接続する集電体および負極同士を接続する集電体には、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、鉄、銅、これらを組み合わせたクラッド材料や、これら材料にニッケルやクロム、ニッケルクロムなどのめっき処理を施した材料などの金属製の箔(板)などが使用できる。
【0130】
金属箔(板)からなる集電体の厚みは、10~100μmであることが好ましい。
【0131】
また、電池には、絶縁層と導電層とを有する基材を使用し、複数個の発電素子の正極同士および負極同士を接続する集電体として、前記導電層を機能させてもよい。
【0132】
絶縁層と導電層とを有する基材における絶縁層としては、複数個の発電素子を配列させる基材として先に例示した素材で構成される絶縁性のシート状物(実質的に空孔を持たないフィルム、織布、不織布など)が挙げられる。絶縁層の厚みは、1~100μmであることが好ましい。
【0133】
また、絶縁層と導電層とを有する基材における導電層としては、前記集電体に使用し得る金属箔などが挙げられる。導電層の厚みは、10~100μmであることが好ましい。
【0134】
なお、絶縁層と導電層とを有する基材においては、絶縁層と導電層とは単に重ねられているだけでもよいが、絶縁層と導電層とが接着されていることが好ましい。
【0135】
発電素子に係る正極が多孔質金属基材を有する場合、その多孔質金属基材と、正極同士を接続する集電体とは、単に接触しているだけでもよく、溶接されていてもよい。また、発電素子に係る負極が多孔質金属基材を有する場合、その多孔質金属基材と、負極同士を接続する集電体とは、単に接触しているだけでもよく、溶接されていてもよい。
【0136】
電池の外装体については、内部の絶縁層を配置した箇所において切断可能とする観点から、樹脂フィルムで構成されたもの、樹脂フィルムの表面に金属層を有するラミネートフィルムで構成されたものなどの、容易に切断し得る外装体が適用される。
【0137】
なお、樹脂フィルムで構成された外装体の場合、その樹脂フィルムには、絶縁層と導電層とを有する基材における絶縁層として使用可能な樹脂製のシート状物のうちの、実質的に空孔を持たないフィルムと同じものを使用できる。また、外装体を構成するラミネートフィルムには、絶縁層と導電層とを有する基材と同じものを使用することができる。
【0138】
なお、外装体は、絶縁層と導電層とを有する基材で構成することもできる。すなわち、発電素子を配列した2枚の基材の外周端同士を接着などすることで封止して、外装体を形成することができる。
【0139】
外装体を形成するための基材同士の接着は、アイオノマー樹脂などを介して熱融着させることによって実施することができる。アイオノマー樹脂には、例えば、三井・ダウポリケミカル社製「ハイミラン(エチレン系アイオノマー樹脂、商品名)」などを使用することができる。
【0140】
外装体の平面視での形状については特に制限はなく、四角形などの多角形や、円形などとすることができる。
【0141】
<接続端子>
電池と適用機器とを接続するための接続端子には、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、鉄、銅、これらを組み合わせたクラッド材料や、これら材料にニッケルやクロム、ニッケルクロムなどのめっき処理を施した材料などの金属製の板などを使用することができる。接続端子の厚みは、10~300μmであることが好ましい。
【0142】
<絶縁体>
発電素子が配置されていない領域に配置する絶縁体としては、アイオノマー樹脂(例えば、外装体を形成するための基材同士の接着するためのものとして先に例示したものと同じものなど)、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)、ポリウレタン、エポキシ、ポリイミドなどの樹脂などが挙げられる。
【0143】
なお、電池においては、絶縁体の配置箇所での切断を容易とする観点から、絶縁体の配置箇所の厚みが小さいことが好ましく、例えば、図2に示すように、絶縁体が配置されている箇所の厚みが、発電素子が配置されている箇所よりも小さいことがより好ましい。発電素子が配置されている箇所の厚みは、発電素子の厚みに応じて変動するが、絶縁体が配置されている箇所の厚みは、通常、0.2~1.0mmとすることが好ましく、この程度の厚みであれば、比較的容易に切断可能である。
【0144】
本発明の電池は、従来から知られている一次電池や二次電池と同様の用途に適用し得るが、有機電解液に代えて固体電解質を有していることから耐熱性に優れており、高温に曝されるような用途に好ましく使用することができる。
【実施例0145】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0146】
(実施例1)
平均粒子径が2μmのチタン酸リチウム(LiTi12、負極活物質)と、平均粒子径が0.7μmの硫化物系固体電解質(LiPSCl)と、グラフェン(導電助剤)とを、質量比が50:41:9となる割合で混合して負極合剤を調製した。
【0147】
また、表面にLiNbOの被覆層が形成された平均粒子径が5μmのLiCoO(正極活物質)と、平均粒子径が0.7μmの硫化物系固体電解質(LiPSCl)と、グラフェンとを、質量比が65:30.7:4.3となる割合で混合して正極合剤を調製した。
【0148】
次に、平均粒子径が0.7μmの硫化物系固体電解質(LiPSCl)の粉末を粉末成形金型に入れ、プレス機を用いて70MPaの面圧で加圧成形を行い、固体電解質層の仮成形層を形成した。さらに、固体電解質層の仮成形層の上面に、前記負極合剤を配置して50MPaの面圧で加圧成形を行い、固体電解質層の仮成形層の上に、さらに負極の仮成形層を形成した。
【0149】
次に、固体電解質層の仮成形層上に形成した負極の仮成形層の上に、住友電気化学工業社のニッケル製の発泡状金属多孔質体〔ニッケル製の「セルメット」(登録商標)〕を直径8mmの円形に切断したもの(厚み:1.2mm、空孔率:98%)を載置し、300MPaの面圧で加圧成形を行って、固体電解質層と負極との一体化物を形成した。
【0150】
さらに、前記金型を上下反転させた後、金型内の固体電解質層の上面(負極を有する面の反対側)に前記正極合剤を配置して50MPaの面圧で加圧成形を行い、固体電解質層の上に、正極の仮成形層を形成した。
【0151】
次に、固体電解質層上に形成した正極の仮成形層の上に、負極に用いたものと同じニッケル製の発泡状金属多孔質体を切断したものを載置し、1400MPaの面圧で加圧成形を行って、平面視で直径8mmの円形で、厚みが1.4mmの形状の発電素子を得た。
【0152】
得られた発電素子においては、負極の負極合剤層の厚み、多孔質金属基材の厚み、および負極合剤層中に埋設されている多孔質金属基材の部分の厚みは、それぞれ、740μm、50μm(負極に使用する前の多孔質金属基材の厚みの4%)および10μm(多孔質金属基材の全体厚みの20%)であった。また、負極の表面に露出している負極合剤の部分の面積割合は、7%であった。
【0153】
また、得られた発電素子においては、正極の正極合剤層の厚み、多孔質金属基材の厚み、および正極合剤層中に埋設されている多孔質金属基材の部分の厚みは、それぞれ、420μmおよび50μm(正極に使用する前の多孔質金属基材の厚みの4%)および10μm(多孔質金属基材の全体厚みの20%)であった。また、正極の表面に露出している正極合剤の部分の面積割合は、7%であった。
【0154】
前記のようにして得られた発電素子36個を、発電素子同士の間隔を10mmとしつつ縦6列×横6列の格子状に配列させ、発電素子の正極面側で、発電素子の中心から横方向の一方(図4中の右方向)に2mmずれた位置に、厚み20μm、幅2mmのニッケル製の箔からなる集電体を重ね合わせ、正極合剤層中に埋設されている多孔質金属基材と集電体とを抵抗溶接で溶接して接続した。また、発電素子の正極面側で、発電素子の中心から縦方向の一方(図4中の下方向)に2mmずれた位置に、前記と同じニッケル製の箔からなる集電体を重ね合わせ、正極合剤層中に埋設されている多孔質金属基材と集電体とを同様に接続した。さらに、発電素子の負極面側で、発電素子の中心から横方向の他方(図4中の左方向)に2mmずれた位置に、前記と同じニッケル製の箔からなる集電体を重ね合わせ、負極合剤層中に埋設されている多孔質金属基材と集電体とを抵抗溶接で溶接して接続した。また、発電素子の負極面側で、発電素子の中心から縦方向の他方(図4中の上方向)に2mmずれた位置に、前記と同じニッケル製の箔からなる集電体を重ね合わせ、負極合剤層中に埋設されている多孔質金属基材と集電体とを同様に接続し、集電体で格子状に接続された発電素子群を得た。なお、本実施例では、発電素子を縦方向に接続する集電体と横方向に接続する集電体とを別々のニッケル製の箔からなる集電体で構成したが、縦方向の集電体と横方向の集電体とが一体になった格子状の集電体を使用してもよい。
【0155】
次に、ナイロン/アルミニウム/CPP(無延伸ポリプロピレン)(それぞれの厚みが25μm/40μm/40μm)の3層構造からなるラミネートフィルムを2枚用意した。
【0156】
そして、一方のラミネートフィルムのCPP層側に、前記のようにして集電体で格子状に接続された発電素子群を正極側が対向するように配置し、発電素子が存在していない箇所に、厚みが0.1mmのアイオノマー樹脂〔三井・ダウポリケミカル社製「ハイミラン(商品名)」〕を配置した。
【0157】
そして、その上に、他方のラミネートフィルムを、CPP層側を発電素子群の負極側に対向するように被せ、アイオノマー樹脂に沿って熱プレスし、アイオノマー樹脂と上下のラミネートフィルムとを融着させた。
【0158】
正極側の外周端のニッケル箔からなる集電体上にあるラミネートフィルム上に、厚みが50μm、幅3mm、長さ15mmのニッケル製の接続端子を置き、ステンレス製のステープル針で接続させた。負極側も同様に接続端子を接続させ、フレキシブルな全固体電池(以下、フレキシブル電池)を得た。
【0159】
(比較例1)
ナイロン66からなる絶縁層とステンレス鋼箔からなる導電層とを有するラミネートフィルム(絶縁層の厚みが45μm、導電層の厚みが40μm)を2枚用意し、それぞれの端部に、ニッケル製の接続端子(3mm×15mmで、厚みが50μm)を取り付けた。
【0160】
次に、一方のラミネートフィルムの導電層上に、実施例1と同様にして作製した発電素子36個を、正極側が対向するように発電素子同士の間隔を10mmとしつつ縦6列×横6列で配列させ、発電素子が存在していない箇所に、0.1mmの厚みで実施例と同じアイオノマー樹脂を配置した。
【0161】
そして、その上に、他方のラミネートフィルムを、導電層を発電素子の負極側と対向するように被せ、全体を熱プレスしてアイオノマー樹脂と上下のラミネートフィルムとを融着させ、さらに4辺の外周端を熱プレスによって封止して、フレキシブル電池を得た。
【0162】
実施例1および比較例1のフレキシブル電池について、下記の各評価を行った。
【0163】
実施例1および比較例1の各フレキシブル電池について、200mAを1C相当の電流値として、それぞれ0.5C相当の電流値で電圧が2.6Vになるまで定電流充電し、引き続いて2.6Vの電圧で電流値が0.01C相当になるまで定電圧充電を行った。
【0164】
実施例1および比較例1のフレキシブル電池各10個について、縦3列×横2列で接続端子がついている部分を含むようにして、内部にアイオノマー樹脂を配置した箇所をセラミック製のハサミを用いて切断した。このときの、実施例1および比較例1のフレキシブル電池から切り出した個別の電池(発電素子)における短絡発生率は、それぞれ、0/10、8/10であった。
【0165】
実施例1および比較例1のフレキシブル電池各10個について、正極側の外周端のニッケル箔からなる集電体上にあるラミネートフィルム上に、厚みが50μm、幅3mmのニッケル製の接続端子を置き、ステンレス製のステープル針で接続した。負極側も同様に接続端子を接続した。このときの、実施例1および比較例1のフレキシブル電池における短絡発生率は、それぞれ、0/10、10/10であった。
【0166】
以上のように、実施例1のフレキシブル電池では、複数個の発電素子のうちの一部を切断分離する際の短絡発生が効果的に抑制されており、また、分離後の発電素子を個別の電池として利用するための接続端子の取り付け時においても、容易な手段によって、短絡を発生させることなく取り付けが可能であることが分かった。
【符号の説明】
【0167】
100 電池
110 発電素子
120 正極
121 正極合剤層
121a 正極合剤
122 シート状の多孔質金属基材
130 負極
131 負極合剤層
132 シート状の多孔質金属基材
140 固体電解質層
150 外装体
160、170 基材
161 正極同士を接続する集電体
171 負極同士を接続する集電体
180 絶縁体
190、191 接続端子
192 接合手段
200、201、202、203 分離後の電池(発電素子)
図1
図2
図3
図4
図5
図6