(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132362
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体、樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
C08F 232/00 20060101AFI20240920BHJP
C08G 61/08 20060101ALI20240920BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240920BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08F232/00
C08G61/08
H05K1/03 610H
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043098
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】井上 真路
(72)【発明者】
【氏名】中島 真実
(72)【発明者】
【氏名】宝谷 洋平
【テーマコード(参考)】
4J032
4J100
【Fターム(参考)】
4J032CA33
4J032CA46
4J032CG02
4J100AA02P
4J100AR21Q
4J100AS15R
4J100CA05
4J100JA33
4J100JA43
4J100JA50
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】高強度放射線を照射後の耐衝撃性が向上した環状オレフィン系(共)重合体、並びに、高強度放射線を照射後の耐衝撃性が向上した樹脂組成物および成形体を提供する。
【解決手段】下記[I]、[II]、[III]、[IV]および[V]からなる群より選択される一種または二種以上の重合体を含む高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[I]炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、を含むランダム共重合体
[II]前記構成単位(A)と、前記構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を含む共重合体
[III]前記芳香環を有さない環状オレフィンおよび前記芳香環を有する環状オレフィンからなる群より選択される一種または二種以上の開環重合体または開環共重合体
[IV]前記開環重合体または開環共重合体[III]の水素化物
[V]前記[I]、前記[II]、前記[III]または前記[IV]の重合体のグラフト変性物
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[I]、[II]、[III]、[IV]および[V]からなる群より選択される一種または二種以上の重合体を含む、高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[I]炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、を含むランダム共重合体
[II]前記構成単位(A)と、前記構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を含む共重合体
[III]前記芳香環を有さない環状オレフィンおよび前記芳香環を有する環状オレフィンからなる群より選択される一種または二種以上の開環重合体または開環共重合体
[IV]前記開環重合体または開環共重合体[III]の水素化物
[V]前記[I]、前記[II]、前記[III]または前記[IV]の重合体のグラフト変性物
【請求項2】
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B-1)で示される化合物を含む、請求項1に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【化1】
(上記式(B-1)中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R
1~R
18ならびにR
aおよびR
bは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R
15~R
18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR
15とR
16とで、またはR
17とR
18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
【請求項3】
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンおよびヘキサシクロ[6,6,1,13,6,110,13,02,7,09,14]ヘプタデセン-4からなる群より選択される一種または二種以上を含む、請求項1または2に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項4】
前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C-1)で示される化合物、下記式(C-2)で示される化合物、および下記式(C-3)で示される化合物からなる群より選択される一種または二種以上を含む、請求項1~3のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【化2】
(上記式(C-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R
1~R
17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R
10~R
17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR
10とR
11、R
11とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR
10とR
11、R
11とR
17、R
17とR
17、R
17とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
16、R
16とR
16、R
16とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化3】
(上記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R
18~R
31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
28とR
28、R
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31、R
31とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化4】
(上記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【請求項5】
前記[I]および前記[II]から選択される少なくとも一種の重合体を含む、請求項1~4のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項6】
前記[I]の重合体を含む、請求項1~4のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項7】
前記[I]の重合体中の前記構成単位(A)および前記構成単位(B)の合計含有量を100モル%としたとき、前記[I]の重合体中の前記構成単位(A)の含有量が50モル%を超え、80モル%以下である、請求項6に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項8】
前記[II]の重合体を含む、請求項1~4のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項9】
前記[II]の重合体中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記[II]の重合体中の前記構成単位(A)の含有量が50モル%を超え、80モル%以下である、請求項8に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項10】
前記[II]の重合体中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記[II]の重合体中の前記構成単位(B)の含有量が0.1モル%以上50モル%未満である、請求項8または9に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項11】
前記[II]の重合体中の前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記[II]の重合体中の前記構成単位(C)の含有量が5モル%以上95モル%以下である、請求項8~10のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項12】
示差走査熱量計(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)が120℃以上180℃以下である、請求項1~11のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項13】
135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上5.0dl/g以下である、請求項1~12のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項14】
前記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンからなる群より選択される一種または二種以上を含む、請求項1~13のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体を含む樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1~14のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体を含む成形体。
【請求項17】
高強度放射線環境下で使用することが可能な、窓材、防護服のフェイスシールド、透視面、サイトグラス、光学レンズ、医療用容器、回路基板またはプリプレグである請求項16に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度放射線環境下で用いられる環状オレフィン系(共)重合体、樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系(共)重合体は、透明性、耐薬品性、耐熱性、寸法安定性などの性能が高いため、医療用容器、fθレンズ、ピックアップレンズ等の光学レンズ、スマートフォンやデジタルカメラ等に使用される撮像レンズ、食品用容器など幅広い用途で使用されている。
医療用容器等の成形体を形成する材料として環状オレフィン系(共)重合体を用いることを検討した例としては、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。また、食品用器具や食品用包装材に用いられる環状オレフィン系重合体に関する技術としては、例えば、特許文献2~3に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、スリップ性が改良され、透明性、表面光沢に優れ、さらに衛生性の優れた環状オレフィン系樹脂組成物およびその成形体を提供することを目的として、特定構造の環状オレフィンから導かれるαーオレフィン・環状オレフィンランダム共重合体(a-1)、環状オレフィンの開環(共)重合体もしくはその水素添加物(a-2)、および(a-1)または(a-2)のグラフト変性物(a-3)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン系樹脂、または該環状オレフィン系樹脂とポリオレフィンからなる樹脂組成物と、前記(a-1)ないし(a-3)よりなる群から選ばれる環状オレフィン系樹脂であって、前記環状オレフィン系樹脂とは異なる化学構造を有する少なくとも1種の環状オレフィン系樹脂とよりなる環状オレフィン系樹脂組成物、並びに該環状オレフィン系樹脂組成物を用いた医療容器、食品容器、包装等に好適な成形体が記載されている。
【0004】
特許文献2には、耐熱性、防湿性および遮光性、即ち光線の遮蔽性に優れるとともに引裂きし易く、包装材として、特に食品用の包装材として好適な樹脂組成物を提供すること並びに、該樹脂組成物を成形して得られる包装材および食品用包装材を提供すること目的として、特定の構造を有する環状オレフィン系重合体および特定のα-オレフィン系重合体を特定量含む樹脂組成物並びに、該樹脂組成物を成形して得られる包装材および食品用包装材が記載されている。
【0005】
特許文献3には、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少なく、かつ、耐熱性に優れる成形体を提供することを目的として、環状オレフィン系共重合体(P)および安定剤(S)を含む環状オレフィン系共重合体組成物であって、上記環状オレフィン系共重合体(P)は炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を有し、上記安定剤(S)がフェノール性水酸基およびリンを有する、環状オレフィン系共重合体組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-26693号公報
【特許文献2】特開2007-284504号公報
【特許文献3】特開2021-054905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高強度放射線を照射後の耐衝撃性が向上した環状オレフィン系(共)重合体、並びに、高強度放射線を照射後の耐衝撃性が向上した樹脂組成物および成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、特定の構造を有する環状オレフィン系(共)重合体に対して100kGyを超えるような高強度の照射を行ったところ、高強度放射線を照射後も優れた耐衝撃性を有することを初めて見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、以下に示す環状オレフィン系(共)重合体、樹脂組成物および成形体が提供される。
【0010】
[1]
下記[I]、[II]、[III]、[IV]および[V]からなる群より選択される一種または二種以上の重合体を含む、高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[I]炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、を含むランダム共重合体
[II]前記構成単位(A)と、前記構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を含む共重合体
[III]前記芳香環を有さない環状オレフィンおよび前記芳香環を有する環状オレフィンからなる群より選択される一種または二種以上の開環重合体または開環共重合体
[IV]前記開環重合体または開環共重合体[III]の水素化物
[V]前記[I]、前記[II]、前記[III]または前記[IV]の重合体のグラフト変性物
[2]
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B-1)で示される化合物を含む、前記[1]に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【化1】
(上記式(B-1)中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R
1~R
18ならびにR
aおよびR
bは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R
15~R
18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR
15とR
16とで、またはR
17とR
18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
[3]
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]-3-ドデセンおよびヘキサシクロ[6,6,1,1
3,6,1
10,13,0
2,7,0
9,14]ヘプタデセン-4からなる群より選択される一種または二種以上を含む、前記[1]または[2]に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[4]
前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C-1)で示される化合物、下記式(C-2)で示される化合物、および下記式(C-3)で示される化合物からなる群より選択される一種または二種以上を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
【化2】
(上記式(C-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R
1~R
17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R
10~R
17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR
10とR
11、R
11とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR
10とR
11、R
11とR
17、R
17とR
17、R
17とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
16、R
16とR
16、R
16とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化3】
(上記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R
18~R
31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
28とR
28、R
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31、R
31とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化4】
(上記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
[5]
前記[I]および前記[II]から選択される少なくとも一種の重合体を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[6]
前記[I]の重合体を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[7]
前記[I]の重合体中の前記構成単位(A)および前記構成単位(B)の合計含有量を100モル%としたとき、前記[I]の重合体中の前記構成単位(A)の含有量が50モル%を超え、80モル%以下である、前記[6]に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[8]
前記[II]の重合体を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[9]
前記[II]の重合体中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記[II]の重合体中の前記構成単位(A)の含有量が50モル%を超え、80モル%以下である、前記[8]に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[10]
前記[II]の重合体中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記[II]の重合体中の前記構成単位(B)の含有量が0.1モル%以上50モル%未満である、前記[8]または[9]に記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[11]
前記[II]の重合体中の前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記[II]の重合体中の前記構成単位(C)の含有量が5モル%以上95モル%以下である、前記[8]~[10]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[12]
示差走査熱量計(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)が120℃以上180℃以下である、前記[1]~[11]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[13]
135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上5.0dl/g以下である、前記[1]~[12]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[14]
前記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンからなる群より選択される一種または二種以上を含む、前記[1]~[13]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体。
[15]
前記[1]~[14]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体を含む樹脂組成物。
[16]
前記[1]~[14]のいずれかに記載の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体を含む成形体。
[17]
高強度放射線環境下で使用することが可能な、窓材、防護服のフェイスシールド、透視面、サイトグラス、光学レンズ、医療用容器、回路基板またはプリプレグである前記[16]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高強度放射線を照射後の耐衝撃性が向上した環状オレフィン系(共)重合体、並びに、高強度放射線を照射後の耐衝撃性が向上した樹脂組成物および成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」および「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
また、本発明の環状オレフィン系(共)重合体を構成する各モノマーは、化石原料から得られるモノマーであってもよく、動植物系原料から得られるモノマーであってもよい。
【0013】
(高強度放射線環境)
本実施形態に係る環状オレフィン系(共)重合体は、高強度放射線環境下での用途で使用されるものである。本明細書において「高強度」とは、例えば放射線の照射量が100kGyを超えることを意味し、特に300kGy以上であることを意味する。当該放射線としては特に制限されず、例えば、ガンマ線、X線などの電磁放射線、アルファ線、ベータ線、電子線、陽子線、中性子線、重粒子線などの粒子放射線、太陽宇宙線、銀河宇宙線などの宇宙線を挙げることができる。
放射線の照射量が100kGyを超える(特に300kGy以上である)高強度放射線環境としては、例えば宇宙環境、原子力発電所や原子力潜水艦などの原子力施設、高度が1万メートル以上であるような高高度環境などが挙げられ、本発明の環状オレフィン系(共)重合体および成形体の用途としては、これらの高強度放射線環境下で使用することが可能な、窓材、防護服のフェイスシールド、透視面、サイトグラス、光学レンズ、医療用容器、回路基板(特に高周波回路基板)、プリプレグなどが挙げられる。
【0014】
例えばシリンジや薬液保存容器などの医療用容器や食品用容器などの用途においては、電子線やガンマ線などの放射線により滅菌してから使用されることがある。ここで、一般的に、樹脂に対してガンマ線や電子線のような放射線を照射すると樹脂の劣化(特に強度の低下)が進行することが知られているが、医療用容器や食品用容器など用途において滅菌に用いられる、~50kGy程度の照射線量においては実用上問題となるほどの強度低下が起きないため、ガンマ線や電子線で滅菌可能な材料として樹脂は広く使用されている。
しかしながら、樹脂の中には、100kGyを超えるような高強度の放射線の照射に晒された場合には強度が著しく低下するものがあることがわかってきたが、これまで、100kGyを超えるような高強度の放射線の照射を樹脂に行うような検討・報告例はなかった。
本発明者らは、樹脂として環状オレフィン系(共)重合体に対して100kGyを超えるような高強度の放射線の照射を行ったところ、高強度の放射線照射を行っても優れた強度を有することができることを初めて見出した。
【0015】
(高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体)
本実施形態に係る高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)について説明する。
本実施形態に係る高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)は、下記[I]、[II]、[III]、[IV]および[V]からなる群より選択される一種または二種以上の重合体を含む。
[I]炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、を含むランダム共重合体
[II]前記構成単位(A)と、前記構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を含む共重合体
[III]前記芳香環を有さない環状オレフィンおよび前記芳香環を有する環状オレフィンからなる群より選択される一種または二種以上の開環重合体または開環共重合体
[IV]前記開環重合体または開環共重合体[III]の水素化物
[V]前記[I]、前記[II]、前記[III]または前記[IV]の重合体のグラフト変性物。
本実施形態に係る高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)は、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、前記[I]、前記[II]および前記[III]からなる群より選択される一種または二種以上の重合体を含むことが好ましく、前記[I]および前記[II]からなる群より選択される一種または二種以上の重合体を含むことがより好ましく、前記[II]の重合体を含むことがさらに好ましい。
【0016】
([I]炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、を含むランダム共重合体)
本実施形態に係る[I]の重合体は、炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、を含む。
本実施形態に係る[I]の重合体は、炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)および芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)を含むことにより、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性を向上できる。
【0017】
(炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A))
本実施形態に係る構成単位(A)は炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位である。
ここで、炭素原子数が2~20のα-オレフィンとしては、直鎖状でも分岐状でもよく、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセン等の炭素原子数が2~20の直鎖状α-オレフィン;3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセンおよび3-エチル-1-ヘキセン等の炭素原子数が4~20の分岐状α-オレフィン等が挙げられる。これらの中では、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性を向上させる観点から、炭素原子数が2~4の直鎖状α-オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。このような直鎖状または分岐状のα-オレフィンは、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本実施形態に係る[I]の重合体中の構成単位(A)および構成単位(B)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る[I]の重合体中の構成単位(A)の含有量は、好ましくは50モル%を超え、より好ましくは54モル%以上、さらに好ましくは57モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは63モル%以上、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは76モル%以下、さらに好ましくは73モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは68モル%以下である。
構成単位(A)の含有量が上記下限値以上であることにより、得られる樹脂組成物および成形体の耐熱性や寸法安定性を向上させることができ、内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性を向上できる。また、構成単位(A)の含有量が上記上限値以下であることにより、得られる樹脂組成物および成形体の透明性等を向上できる。
本実施形態において、構成単位(A)の含有量は、例えば、1H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0019】
本実施形態に係る[I]の重合体中の構成単位(A)および構成単位(B)の合計含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上であり、そして、例えば100モル%以下である。
【0020】
(芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B))
本実施形態に係る構成単位(B)は芳香環を有さない環状オレフィン由来の構成単位である。本実施形態に係る構成単位(B)としては、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、下記式(B-1)で示される化合物由来の構成単位を含むことが好ましい。
【化5】
(上記式(B-1)中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R
1~R
18ならびにR
aおよびR
bは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R
15~R
18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR
15とR
16とで、またはR
17とR
18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
これらの中でも、本実施形態に係る構成単位(B)としては、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン由来の構成単位、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]-3-ドデセン由来の構成単位およびヘキサシクロ[6,6,1,1
3,6,1
10,13,0
2,7,0
9,14]ヘプタデセン-4由来の構成単位等から選択される一種または二種以上の構成単位を含むことが好ましく、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン由来の構成単位およびテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]-3-ドデセン由来の構成単位から選択される一種または二種以上の構成単位を含むことがより好ましく、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]-3-ドデセン由来の構成単位を含むことがさらに好ましい。
すなわち、芳香環を有さない環状オレフィンとしては、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]-3-ドデセンおよびヘキサシクロ[6,6,1,1
3,6,1
10,13,0
2,7,0
9,14]ヘプタデセン-4等から選択される一種または二種以上を含むことが好ましく、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]-3-ドデセンから選択される一種または二種以上を含むことがより好ましく、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]-3-ドデセンを含むことがさらに好ましい。
【0021】
([II]炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を含む共重合体)
本実施形態に係る[II]の重合体は、炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を含む。
本実施形態に係る[II]の重合体は、炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を含むことにより、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性を向上できる。
本実施形態に係る[II]の重合体における、構成単位(A)および構成単位(B)についての好ましい態様は、本実施形態に係る[I]の重合体と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0022】
(芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C))
本実施形態に係る構成単位(C)は芳香環を有する環状オレフィン由来の構成単位である。本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、下記式(C-1)で示される化合物、下記式(C-2)で示される化合物、および下記式(C-3)で示される化合物からなる群より選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
【化6】
(上記式(C-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R
1~R
17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R
10~R
17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR
10とR
11、R
11とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR
10とR
11、R
11とR
17、R
17とR
17、R
17とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
16、R
16とR
16、R
16とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化7】
(上記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R
18~R
31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
28とR
28、R
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31、R
31とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化8】
(上記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【0023】
また、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、上記式(C-1)において、nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
また、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、上記式(C-2)において、nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
また、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、上記式(C-3)において、qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
また、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、上記式(C-1)、上記式(C-2)および上記式(C-3)において、R1~R39は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子または炭素原子数1~4の炭化水素基であることがより好ましく、水素原子またはメチル基であることがさらに好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
【0024】
また、炭素原子数1~20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0025】
これらの中でも、本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンからなる群より選択される一種または二種以上を含むことが好ましく、ベンゾノルボルナジエンを含むことがより好ましい。
【0026】
本実施形態に係る[II]の重合体中の構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る[II]の重合体中の構成単位(A)の含有量は、好ましくは50モル%を超え、より好ましくは54モル%以上、さらに好ましくは57モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは63モル%以上、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは76モル%以下、さらに好ましくは73モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは67モル%以下である。
構成単位(A)の含有量が上記下限値以上であることにより、得られる樹脂組成物および成形体の耐熱性や寸法安定性を向上させることができ、内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上できる。また、構成単位(A)の含有量が上記上限値以下であることにより、得られる樹脂組成物および成形体の透明性等を向上できる。
本実施形態において、構成単位(A)の含有量は、例えば、1H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0027】
本実施形態に係る[II]の重合体中の構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る[II]の重合体中の構成単位(B)の含有量は、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは25モル%以上、そして、好ましくは50モル%未満、より好ましくは45モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは32モル%以下である。
構成単位(B)の含有量が上記下限値以上であることにより、得られる樹脂組成物および成形体の透明性等をより向上できる。また、構成単位(B)の含有量が上記上限値以下であることにより、得られる樹脂組成物および成形体の耐熱性や寸法安定性を向上させることができ、内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上できる。
本実施形態において、構成単位(B)の含有量は、例えば、1H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0028】
本実施形態に係る[II]の重合体中の構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る[II]の重合体中の構成単位(C)の含有量は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上、そして、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは60モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下である。
構成単位(C)の含有量が上記下限値以上であることにより、得られる成形体において、高い屈折率としつつ、アッベ数を低くすることができ、内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上できる。また、構成単位(C)の含有量が上記上限値以下であることにより、得られる成形体の屈折率およびアッベ数のバランスをより良好にすることができ、内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上ができる。
本実施形態において、構成単位(C)の含有量は、例えば、1H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0029】
本実施形態に係る[II]の重合体中の構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上であり、そして、例えば100モル%以下である。
【0030】
本実施形態に係る[I]の重合体および[II]の重合体の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、アッベ数、屈折率、複屈折率および内部ヘイズの抑制等の光学物性、および高強度放射線を照射後の耐衝撃性に優れる成形体を得ることができる観点から、本実施形態に係る[I]の重合体および[II]の重合体としてはそれぞれランダム共重合体であることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る[I]の重合体および[II]の重合体は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報、特開2007-314806号公報、特開2010-241932号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0032】
([III]芳香環を有さない環状オレフィンおよび芳香環を有する環状オレフィンからなる群より選択される一種または二種以上の開環重合体または開環共重合体)
本実施形態に係る[III]の重合体は、芳香環を有さない環状オレフィンおよび芳香環を有する環状オレフィンからなる群より選択される一種または二種以上の開環重合体または開環共重合体である。
本実施形態に係る[III]の重合体は、芳香環を有さない環状オレフィンおよび芳香環を有する環状オレフィンからなる群より選択される一種または二種以上を開環重合または開環共重合して得られる構造を有することにより、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上できる。
本実施形態に係る[III]の重合体における、芳香環を有さない環状オレフィンおよび芳香環を有する環状オレフィンについての好ましい態様は、本実施形態に係る[I]の重合体や[II]の重合体と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0033】
環状オレフィンの開環(共)重合体[III]は、従来公知の製造方法により製造することができ、例えば、環状オレフィンを開環重合触媒の存在下に、重合または共重合させることにより製造することができる。
【0034】
このような開環重合触媒としては、タングステン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、インジウムおよび白金等から選ばれる金属のハロゲン化物、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、パラジウム、ジルコニウムおよびモリブテン等から選ばれる金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
環状オレフィンの開環(共)重合体[III]は、例えば、特開平7-324108号公報に記載の方法でも得ることができる。
【0035】
([IV]開環重合体または開環共重合体[III]の水素化物)
本実施形態に係る[IV]の重合体は、環状オレフィンの開環重合体または開環共重合体[III]の水素化物である。
環状オレフィンの開環(共)重合体[III]の水素化物(以下、開環(共)重合体の水素化物[IV]とも呼ぶ。)は、環状オレフィンの開環(共)重合体[III]を、従来公知の方法、例えば、特開平7-324108号公報の水素添加触媒の存在下で水素化することにより得ることができる。
【0036】
([V]前記[I]、[II]、[III]または[IV]の重合体のグラフト変性物)
本実施形態に係る[V]は、[I]、[II]、[III]または[IV]の重合体のグラフト変性物である。
グラフト変性物[V]を得るための変性剤としては、例えば、不飽和カルボン酸類が用いられ、具体的に、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸TM)等の不飽和カルボン酸;上記不飽和カルボン酸の誘導体(例えば、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸ハライド、不飽和カルボン酸アミド、不飽和カルボン酸イミド、不飽和カルボン酸のエステル化合物)等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、より具体的に、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、塩化マレニル、マレイミド、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート等が挙げられる。
【0037】
これらの変性剤のうちでも、α,β-不飽和ジカルボン酸およびα,β-不飽和ジカルボン酸無水物が好ましく用いられ、マレイン酸、ナジック酸およびこれら酸の無水物がより好ましく用いられる。これらの変性剤は、単独で用いてもよいし二種以上を組み合わせて用いてもよい。
グラフト変性物[V]における変性率は、例えば10モル%以下であることが望ましい。
【0038】
[I]、[II]、[III]または[IV]の重合体と、変性剤と、を用いてグラフト変性物[V]を得るには、従来公知のポリマーの変性方法を広く適用することができる。例えば、溶融状態にある[I]、[II]、[III]または[IV]の重合体に変性剤を添加してグラフト重合(反応)させる方法;あるいは[I]、[II]、[III]または[IV]の重合体溶液に変性剤を添加してグラフト反応させる方法等によりグラフト変性物[V]を得ることができる。このようなグラフト反応は、例えば、60~350℃の温度で行われる。また、グラフト反応は有機過酸化物およびアゾ化合物等のラジカル開始剤の共存下で行うことができる。
【0039】
また、上記のような変性率のグラフト変性物[V]は、未変性の[I]、[II]、[III]または[IV]の重合体と変性剤とのグラフト反応によって直接得ることができる。また、[I]、[II]、[III]または[IV]の重合体と変性剤とのグラフト反応によって予め高変性率の変性物を調製し、次いでこの変性物を未変性の[I]、[II]、[III]または[IV]の重合体で所望の変性率となるように希釈することによって得ることもできる。
【0040】
示差走査熱量計(DSC)で測定される、本実施形態に係る高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)のガラス転移温度(Tg)は、得られる樹脂組成物および成形体の透明性、ヘイズ、アッベ数、複屈折および屈折率等を良好に保ちつつ、耐熱性をより向上させ、内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上、そして、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは160℃以下である。
【0041】
135℃デカリン中で測定される、本実施形態に係る高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)の極限粘度[η]は、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、好ましくは0.05dl/g以上、より好ましくは0.2dl/g以上、さらに好ましくは0.3dl/g以上、さらに好ましくは0.4dl/g以上、そして、好ましくは5.0dl/g以下、より好ましくは4.0dl/g以下、さらに好ましくは2.0dl/g以下、さらに好ましくは1.0dl/g以下である。
【0042】
本実施形態に係る高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)において、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)からなる厚さ2.0mmのプレスシートを作製したとき、高速面衝撃試験で測定される、電子線300kGyを照射後の前記プレスシートの高速面衝撃の値は、好ましくは0.30J以上、より好ましくは0.35J以上、さらに好ましくは0.40J以上、さらに好ましくは0.45J以上、さらに好ましくは0.50J以上である。電子線300kGyを照射後の前記プレスシートの高速面衝撃の上限値は特に限定されないが、例えば、5.0J以下であってもよく、3.0J以下であってもよく、1.0J以下であってもよい。
【0043】
本実施形態に係る高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)において、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)からなる厚さ2.0mmのプレスシートを作製したとき、JIS K7105:2000に基づいて測定される、電子線300kGyを照射後の前記プレスシートの内部ヘイズは好ましくは2.00%未満であり、より好ましくは1.80%未満であり、さらに好ましくは1.60%未満であり、さらに好ましくは1.40%未満であり、さらに好ましくは1.20%未満であり、さらに好ましくは1.00%未満である。電子線300kGyを照射後の前記プレスシートの内部ヘイズの下限値は特に限定されないが、例えば、0.01%以上であってもよく、0.05%以上であってもよく、0.10%以上であってもよい。
【0044】
(樹脂組成物)
本実施形態の樹脂組成物は、上述した高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)を含む。
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)を含むことによって内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性が向上しているため、高強度放射線環境下での用途に好適に用いることができる。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物中の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)の含有量は、得られる樹脂組成物および成形体の内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性をより向上させる観点から、樹脂組成物の全量を100質量部としたときに、好ましくは80質量部以上、より好ましくは90質量部以上、さらに好ましくは95質量部以上、そして、好ましくは99.9質量部以下、より好ましくは99.5質量部以下、さらに好ましくは99質量部以下である。
【0046】
(その他の成分)
本実施形態に係る樹脂組成物には、必要に応じて、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、塩酸吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、天然油、合成油、ワックス、着色剤、有機または無機の充填剤等を本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。
【0047】
上記着色剤としては、例えば、天然系、合成系各種染料や無機系、有機系各種顔料を任意に使用することができる。
【0048】
(成形体)
本実施形態に係る成形体は、本実施形態に係る高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)を含む成形体である。
本実施形態に係る成形体は、本実施形態に係る高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)を含むため、耐熱性、透明性、ヘイズ、複屈折、耐薬品性および低吸湿性等のバランスに優れるとともに、さらに高い屈折率を有しつつ、従来の樹脂材料よりも低いアッベ数を示す。また、内部ヘイズを抑制しつつ、高強度放射線を照射後の耐衝撃性が向上しているため、強度放射線環境下での用途に好適である。
【0049】
本実施形態に係る成形体は光学特性および高強度放射線を照射後の耐衝撃性に優れるため、例えば、高強度放射線環境下で使用される窓材、防護服のフェイスシールド、透視面、サイトグラス、光学レンズ、医療用容器、回路基板(特に高周波回路基板)またはプリプレグとして好適に用いることができる。
【0050】
また、本実施形態に係る成形体中の高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)の含有量は、透明性、ヘイズ、複屈折、アッベ数、屈折率および高強度放射線を照射後の耐衝撃性の性能バランスをより向上させる観点から、当該成形体の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、そして好ましくは100質量%以下である。
【0051】
本実施形態に係る成形体は、高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)を含む樹脂組成物を所定の形状に成形することにより得ることができる。高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体(P)を含む樹脂組成物を成形して成形体を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃、より好ましくは230℃~330℃の範囲で適宜選択される。
【0052】
本実施形態に係る成形体は、レンズ形状、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状等の種々の形態で使用することができる。
【0053】
本実施形態に係る成形体には、必要に応じて、本実施形態に係る成形体の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有できる。添加剤としては、例えば、フェノール系安定剤、高級脂肪酸金属塩、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、塩酸吸収剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、スリップ剤、核剤、可塑剤、難燃剤、リン系安定剤等を本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。
【0054】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0055】
以下、実施例および比較例を挙げて本開示を更に詳細に説明するが、本開示は何らこれに制約されるものではない。
【0056】
以下に、実施例および比較例で用いた成分を示す。
<高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体の製造>
[製造例1]
[高強度放射線環境下用環状オレフィン系共重合体(P-1)]
攪拌装置を備えた容積500mlのガラス製反応容器に不活性ガスとして窒素を100Nl/hrの流量で30分間流通させた後、シクロヘキサン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(11mmol、以下、テトラシクロドデセンまたはTDとも呼ぶ。)、およびベンゾノルボルナジエン(19mmol、以下、BNBDとも呼ぶ。)を加えた。次いで回転数600rpmで重合溶媒を攪拌しながら溶媒温度を50℃に昇温した。溶媒温度が所定の温度に達した後、流通ガスを窒素からエチレンに切り替え、エチレンを90Nl/hr、水素を0.2Nl/hrの供給速度で反応容器に流通させ、10分間経過した後に、メチルアルミノキサン(MMAO)(0.30mmol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(0.0040mmol)、3,5-ビスメチルエチル-1-ピラゾレート-t-ブチルシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド(0.00013mmol)をガラス製反応容器に添加し、重合を開始させた。
10分間経過した後、イソブチルアルコールを5ml添加して重合を停止させ、エチレン、テトラシクロドデセンおよびBNBDの共重合体を含む重合溶液を得た。その後、重合溶液を別に用意した容積2Lのビーカーに移液し、さらに濃塩酸5mlと攪拌子を加え、強攪拌下で2時間接触させ脱灰操作を行った。この重合溶液に対して体積で約3倍のアセトンを入れたビーカーに脱灰後の重合溶液を攪拌下加えて共重合体を析出させ、さらに析出した共重合体を濾過により濾液と分離した。得られた溶媒を含む重合体を130℃で10時間減圧乾燥を行ったところ、白色パウダー状のエチレン・テトラシクロドデセン・BNBD共重合体0.18gが得られた。
以上により、高強度放射線環境下用環状オレフィン系共重合体(P-1)を得た。高強度放射線環境下用環状オレフィン系共重合体(P-1)中のエチレンとテトラシクロドデセンとBNBDのモル比は、エチレン/テトラシクロドデセン/BNBD=64/29/7(mol%)であった。また、高強度放射線環境下用環状オレフィン系共重合体(P-1)のガラス転移点(Tg)は142℃であり、極限粘度[η]は0.58dl/gであった。
ここで、ベンゾノルボルナジエンは下記式(1)で示される。
【0057】
【化9】
ここで、テトラシクロドデセンは下記式(2)で示される。
【0058】
【0059】
[製造例2]
[高強度放射線環境下用環状オレフィン系共重合体(P-2)]
P-2:エチレンとテトラシクロドデセンとのランダム共重合体(エチレン含量:66mol%、テトラシクロドデセン(TD)含量:34mol%、ガラス転移温度:145℃、極限粘度[η]:0.60dl/g)
ここで、上記の高強度放射線環境下用環状オレフィン系共重合体(P-2)は、国際公開第2008/068897号の実施例に記載の重合例7に準じた方法により、各モノマーの仕込み量を変更して合成した。
【0060】
[製造例3]
[高強度放射線環境下用環状オレフィン系開環重合体(P-3)]
内部を窒素置換した重合反応器に、単量体混合物(テトラシクロドデセン40mol%、ジシクロペンタジエン40mol%、インデンノルボルネン20mol%)7質量部、脱水シクロヘキサン1600質量部、1-ヘキセン0.6質量部、ジイソプロピルエーテル1.3質量部、イソブチルアルコール0.33質量部、トリイソブチルアルミニウム0.84質量部、六塩化タングステンのシクロヘキサン溶液(濃度:0.66%)30質量部を入れ、全量を55℃で10分間撹拌した。
次いで、撹拌を継続しながら、55℃で上記単量体混合物693質量部と六塩化タングステンのシクロヘキサン溶液(濃度:0.77%)72質量部を、各々150分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに30分間撹拌を継続した後、イソプロピルアルコール1.0質量部を添加して重合反応を停止させた。重合反応溶液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、単量体の重合体への転化率は100%であった。
次いで、上記重合体を含有する重合反応溶液300質量部を、撹拌器付きオートクレーブに移し、シクロヘキサン100質量部、珪藻土担持ニッケル触媒(ニッケル担持率58%)2.0質量部を加えた。オートクレーブ内を水素で置換した後、180℃、4.5MPaの水素圧力下で6時間、水素化反応を行った。
水素化反応終了後、珪藻土を濾過床として、加圧濾過器を使用し、圧力0.25MPaで加圧濾過して、無色透明な溶液を得た。得られた溶液に対して3倍のアセトンを入れたビーカーに溶液を撹拌下加えて開環重合体を析出させ、製造例1に記載の方法と同様に高強度放射線環境下用環状オレフィン系開環重合体(P-3)を得た。
高強度放射線環境下用環状オレフィン系開環重合体(P-3)中のテトラシクロドデセンとジシクロペンタジエンとインデンノルボルネンのモル比は、テトラシクロドデセン/ジシクロペンタジエン/インデンノルボルネン=40/40/20(mol%)であった。また、高強度放射線環境下用環状オレフィン系開環重合体(P-3)のガラス転移点(Tg)は136℃であり、極限粘度[η]は0.42dl/gであった。
ここで、ジシクロペンタジエンは下記式(3)で示される。
【0061】
【化11】
ここで、インデンノルボルネンは下記式(4)で示される。
【化12】
【0062】
[比較例1]
市販されているポリメタクリル酸メチル(三菱ケミカル株式会社製)を用いた。
【0063】
[高強度放射線環境下用環状オレフィン系共重合体・開環重合体を構成する各構成単位の含有量の測定方法]
炭素原子数2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位および環状オレフィンから導かれる構成単位の含有量は、日本電子社製「ECA500型」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定することにより行った。
溶媒:重テトラクロロエタン
サンプル濃度:50~100g/l-solvent
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:6000~16000回
測定温度:120℃
上記のような条件で測定した13C-NMRスペクトルにより、炭素原子数2~20のα-オレフィンおよび環状オレフィンの組成をそれぞれ定量した。
【0064】
[ガラス転移温度Tg(℃)]
島津サイエンス社製、DSC-6220を用いてN2(窒素)雰囲気下で高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体のガラス転移温度Tgを測定した。高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体を常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で-20℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線から高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体のガラス転移点(Tg)を求めた。
【0065】
[極限粘度[η]]
移動粘度計(離合社製、タイプVNR053U型)を用い、高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体の0.25~0.30gを25mlのデカリンに溶解させたものを試料とした。ASTM J1601に準じ135℃にて高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体の比粘度を測定し、これと濃度との比を濃度0に外挿して高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体の極限粘度[η]を求めた。
【0066】
<実施例1~3および比較例1>
各実施例および比較例において、各種物性は下記の方法によって測定または評価し、得られた結果を表1および表2に示した。
【0067】
[試験用プレスシートの作製]
各実施例で合成した高強度放射線環境下用環状オレフィン系(共)重合体および比較例のポリメタクリル酸メチルを、ユーピレックス(商品名、宇部興産社製)のフィルムに挟み込み、2.0mmのスペーサ-を用いて、250℃、10MPa、3分間の条件で真空プレス成形した。これにより厚さ2.0mmの試験用プレスシートを得た。
【0068】
[電子線照射]
真空プレス成形で得られた試験用プレスシートに、電子線300kGyを両面照射法にて照射した。
【0069】
[高速面衝撃試験(ハイレート試験)]
電子線を照射した試験用プレスシートに、23℃の条件下、径が1/2インチのロードセル付き撃芯(ストライカ)を、試験速度5m/sで衝突させた。試験用プレスシートの裏面には支持台径1インチの台を使用した。得られる変位および試験力変位曲線から試験力の最大点までのエネルギー値を最大衝撃点エネルギーとして算出した。
この値が大きいほど耐衝撃性が高いことを表し、電子線照射後の高速面衝撃の値が0.30J以上である場合、本発明の効果を奏しているものと判断した。
なお、同様の試験を、電子線未照射の試験用プレスシートを用いても行った。
【0070】
[透明性]
得られた厚み2.0mmの試験用プレスシートと、当該試験用プレスシートに電子線を照射し、その後23℃で2週間静置した後の試験用プレスシートの内部ヘイズをそれぞれJIS K7105:2000に基づいて測定し、以下の基準で透明性をそれぞれ評価した。
内部ヘイズは、ヘイズ計(日本電色工業社製NDH-20D)を用い、純水中でそれぞれ測定した。
OK:内部ヘイズが2.00%未満
NG:目視で試験片が白濁しているもの、または内部ヘイズが2.00%以上
【0071】
【0072】