(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132365
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】走行支援システム、画像処理装置、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G08G1/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043101
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀部 剛治
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181CC02
5H181CC04
5H181CC27
5H181FF10
5H181FF27
5H181FF33
(57)【要約】
【課題】進行方向に位置する路面に検出された水溜まりなどを通過する車両の走行を支援する。
【解決手段】撮像装置11は、可視波長域の光と水分子により吸収される波長域の光に感度を有する撮像素子を備えており、車両の進行方向に位置する路面が映り込んだ画像に対応する画像データIMを出力する。画像処理装置12は、画像データIMに基づいて、前記路面における周囲よりも水分量が相対的に多い高水分領域を検出し、当該高水分領域を通過する左車輪と右車輪の少なくとも一方を特定する支援データASを出力する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左車輪と右車輪を備える車両に搭載される走行支援システムであって、
可視波長域の光と水分子により吸収される波長域の光に感度を有する撮像素子を備えており、前記車両の進行方向に位置する路面が映り込んだ画像に対応する画像データを出力する撮像装置と、
前記画像データに基づいて、前記路面における周囲よりも水分量が相対的に多い高水分領域を検出し、当該高水分領域を通過する前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方を特定する支援データを出力する画像処理装置と、
を備えている、
走行支援システム。
【請求項2】
前記画像処理装置は、検出された前記高水分領域のうち左右方向の幅が前記左車輪と前記右車輪の左右方向の幅よりも狭いものを除外して前記支援データを生成する処理を行なう、
請求項1に記載の走行支援システム。
【請求項3】
前記画像処理装置は、前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方の推定走行経路を示す画像に対応する表示データを出力する、
請求項1に記載の走行支援システム。
【請求項4】
前記支援データに基づいて、前記高水分領域を通過する前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方の回転数低減とトルク増大の少なくとも一方を前記車両に実行させる制御装置を備えている、
請求項1に記載の走行支援システム。
【請求項5】
前記支援データは、前記左車輪と前記右車輪の一方が前記高水分領域を通過することを示している場合、前記制御装置は、前記回転数低減と前記トルク増大の少なくとも一方を、前記左車輪と前記右車輪の他方についても前記車両に実行させる、
請求項4に記載の走行支援システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記高水分領域が前記路面に形成された凹部であることを前提としたサスペンション制御を前記車両に実行させる、
請求項4に記載の走行支援システム。
【請求項7】
左車輪と右車輪を備える車両に搭載される画像処理装置であって、
可視光波長域と水分子により吸収される波長域に感度を有する撮像素子を備えている撮像装置から前記車両の進行方向に位置する路面が映り込んだ画像に対応する画像データを受け付けるインタフェースと、
前記画像データに基づいて、前記路面における周囲よりも水分量が相対的に多い高水分領域を検出し、当該高水分領域を通過する前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方を特定する支援データを出力するプロセッサと、
を備えている、
画像処理装置。
【請求項8】
左車輪と右車輪を備える車両に搭載される画像処理装置のプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
実行されることにより、前記画像処理装置は、
可視光波長域と水分子により吸収される波長域に感度を有する撮像素子を備えている撮像装置から前記車両の進行方向に位置する路面が映り込んだ画像に対応する画像データを受け付け、
前記画像データに基づいて、前記路面における周囲よりも水分量が相対的に多い高水分領域を検出し、
前記高水分領域を通過する前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方を特定する支援データを出力する、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、左車輪と右車輪を備える車両に搭載される走行支援システムに関連する。本開示は、当該走行支援システムに含まれる画像処理装置、および当該画像処理装置のプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムにも関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両に搭載されて当該車両の進行方向に位置する路面に形成された水溜まりなどを検出するセンサを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
進行方向に位置する路面に検出された水溜まりなどを通過する車両の走行を支援することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示により提供される一態様例は、左車輪と右車輪を備える車両に搭載される走行支援システムであって、
可視波長域の光と水分子により吸収される波長域の光に感度を有する撮像素子を備えており、前記車両の進行方向に位置する路面が映り込んだ画像に対応する画像データを出力する撮像装置と、
前記画像データに基づいて、前記路面における周囲よりも水分量が相対的に多い高水分領域を検出し、当該高水分領域を通過する前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方を特定する支援データを出力する画像処理装置と、
を備えている。
【0006】
本開示により提供される一態様例は、左車輪と右車輪を備える車両に搭載される画像処理装置であって、
可視光波長域と水分子により吸収される波長域に感度を有する撮像素子を備えている撮像装置から前記車両の進行方向に位置する路面が映り込んだ画像に対応する画像データを受け付けるインタフェースと、
前記画像データに基づいて、前記路面における周囲よりも水分量が相対的に多い高水分領域を検出し、当該高水分領域を通過する前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方を特定する支援データを出力するプロセッサと、
を備えている。
【0007】
本開示により提供される一態様例は、左車輪と右車輪を備える車両に搭載される画像処理装置のプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
実行されることにより、前記画像処理装置は、
可視光波長域と水分子により吸収される波長域に感度を有する撮像素子を備えている撮像装置から前記車両の進行方向に位置する路面が映り込んだ画像に対応する画像データを受け付け、
前記画像データに基づいて、前記路面における周囲よりも水分量が相対的に多い高水分領域を検出し、
前記高水分領域を通過する前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方を特定する支援データを出力する。
【0008】
走行中の車両の左車輪と右車輪の少なくとも一方が高水分領域を通過する場合、スリップが発生しうる。車両の進行方向に検出された高水分領域を回避するような操舵制御を行なうことは、走行支援に係る一つのアプローチでありうる。しかしながら、車両の周囲の走行環境(道路の幅、他車両の存在)によっては、進路変更を伴う操舵制御が常に最善の対応であるとは言えない。
【0009】
上記の各態様例に係る構成によれば、撮像装置により車両の進行方向に検出された高水分領域を回避するのではなく、車両の進路が維持された場合にいずれの車輪がその高水分領域を通過するのかを判断するための画像処理が、撮像装置から出力された画像データに対して行なわれる。当該画像処理の結果として、左車輪と右車輪の少なくとも一方がその高水分領域を通過すると判断された場合、当該車輪を特定する支援データが出力される。
【0010】
これにより、どの車輪に対して車両の進路を維持しつつスリップを抑制するための走行制御を行なえばよいかについての情報を提供できる。例えば、当該車輪の回転数の低減とトルクの増大の少なくとも一方が、当該情報に基づいて行なわれうる。したがって、車両の進行方向に位置する路面に検出された水溜まりなどを通過する場合における車両の走行を支援できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態例に係る走行支援システムが搭載される車両を例示している。
【
図2】
図1の走行支援システムの機能構成を例示している。
【
図3】
図2の画像処理装置により実行される処理の流れを例示している。
【
図4】
図2の画像処理装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図5】
図2の画像処理装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図6】
図2の画像処理装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図7】
図2の画像処理装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図8】
図2の画像処理装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図9】
図2の画像処理装置により実行される処理を説明するための図である。。
【
図10】
図2の画像処理装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図11】
図2の画像処理装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図12】
図2の画像処理装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図13】
図2の表示装置に表示される画像を例示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例について以下詳細に説明する。以下の説明に用いられる各図面では、各要素を認識可能な大きさとするために、必要に応じてその縮尺を変更している。
【0013】
図1は、一実施形態例に係る走行支援システム10が搭載される車両20を例示している。車両20は、左前輪21、右前輪22、左後輪23、および右後輪24を備えている。左前輪21と左後輪23は、右前輪22と右後輪24よりも車両20の左右方向における左方に配置されている。左前輪21と左後輪23の各々は、左車輪の一例である。右前輪22と右後輪24は、右前輪22と右後輪24よりも車両20の左右方向における右方に配置されている。右前輪22と右後輪24の各々は、右車輪の一例である。
【0014】
図2は、走行支援システム10の機能構成を例示している。走行支援システム10は、撮像装置11、画像処理装置12、および制御装置13を含んでいる。
【0015】
撮像装置11は、可視波長域の光と近赤外波長域の光に感度を有する撮像素子を備えている。そのような撮像装置11の例としては、SWIR(Short Wavelength Infrared Region)カメラが挙げられる。SWIRカメラは、例えば400nmから1700nmの波長域の光に感度を有している。
【0016】
なお、撮像素子は、必ずしも近赤外波長域の全体に亘って感度を有していることを要しない。後述するように、撮像素子は、水分子により吸収される波長域の光に感度を有していればよい。
【0017】
撮像装置11は、車両20の進行方向に位置する路面が映り込んだ画像を取得できるように、車両20における適宜の箇所に配置される。撮像装置11は、当該画像に対応する画像データIMを出力するように構成されている。画像データIMは、撮像装置11の仕様に応じてアナログデータの形態であってもよいし、デジタルデータの形態であってもよい。
【0018】
画像処理装置12は、車両20における適宜の箇所に配置されている。画像処理装置12は、入力インタフェース121を備えている。入力インタフェース121は、画像データIMを受け付けるハードウェアインタフェースとして構成されている。画像データIMがアナログデータの形態である場合、入力インタフェース121は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を備える。この説明は、後述する入力インタフェース121が受け付け可能な他のデータについても同様に適用される。
【0019】
画像処理装置12は、プロセッサ122と出力インタフェース123を備えている。プロセッサ122は、画像データIMに基づいて、上記の画像に映り込んだ路面における周囲よりも水分量が相対的に多い高水分領域を検出し、当該高水分領域を通過する車輪を特定する支援データASを出力インタフェース123から出力するように構成されている。高水分領域の例としては、水溜まりや凍結部が挙げられる。
【0020】
出力インタフェース123は、支援データASを出力可能なハードウェアインタフェースとして構成されている。支援データASは、後述する制御装置13との通信に係る仕様に応じてアナログデータの形態であってもよいし、デジタルデータの形態であってもよい。支援データASがアナログデータの形態である場合、出力インタフェース123は、D/Aコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0021】
制御装置13は、車両20における適宜の位置に配置されている。制御装置13は、入力インタフェース131を備えている。入力インタフェース131は、支援データASを受け付けるハードウェアインタフェースとして構成されている。支援データASがアナログデータの形態である場合、入力インタフェース131は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0022】
制御装置13は、プロセッサ132と出力インタフェース133を備えている。プロセッサ132は、支援データASに基づいて、車両20に搭載された車輪駆動機構25に走行支援のための動作を行なわせる制御データCTを、出力インタフェース133から出力するように構成されている。走行中の車両20の少なくとも一つの車輪が高水分領域を通過する場合、スリップが発生しうる。本実施形態例に係る「走行支援」は、当該スリップを抑制するための走行制御を含んでいる。
【0023】
出力インタフェース133は、制御データCTを出力可能なハードウェアインタフェースとして構成されている。制御データCTは、車輪駆動機構25の仕様に応じてアナログデータの形態であってもよいし、デジタルデータの形態であってもよい。制御データCTがアナログデータの形態である場合、出力インタフェース133は、D/Aコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0024】
図3は、画像処理装置12のプロセッサ122により実行される処理の流れを例示している。
【0025】
まず、プロセッサ122は、入力インタフェース121を通じて撮像装置11から画像データIMを受け付ける(STEP1)。
図4は、撮像装置11により取得された画像I0を例示している。画像データIMは、画像I0に対応している。前述したように、撮像装置11の撮像素子は可視波長域の光に感度を有しているので、画像I0には車両20の乗員による目視が可能な路面Rが映り込んでいる。
【0026】
本例における路面Rには、水溜まりPが形成されている。当該撮像素子は、水分子により吸収される波長域の光にも感度を有している。水溜まりPのように周囲よりも相対的に水分量が多い高水分領域においては、撮像装置11への当該波長域の光の反射率が低下する。したがって、高水分領域は、より暗い領域として画像I0に映り込む。これにより、可視波長域の光のみに感度を有する撮像素子により取得された画像よりも、路面Rにおける高水分領域の位置の特定が容易になる。
【0027】
続いて、プロセッサ122は、周知のアルゴリズムを用いて画像I0における仮想的な水平線の位置を設定する処理を実行する(
図3のSTEP2)。例えば、
図5に示されるように、仮想的な直線道路の両側縁に対応する平行線Lが設定され、その消点に対応する位置に仮想的な水平線Hが設定される。
【0028】
続いて、プロセッサ122は、設定された水平線Hよりも下方に位置する領域を画像I0から抽出する処理を実行する(
図3のSTEP3)。
図6は、当該処理により抽出された画像I1を例示している。
【0029】
続いて、プロセッサ122は、画像I1において高水分領域が映り込んでいると推定される部分(推定高水分領域と称する)を抽出する処理を実行する(
図3のSTEP4)。具体的には、画像I1を形成している画素のうち、閾値未満の明度に対応付けられたものを抽出する処理が行なわれる。
図7は、当該処理により抽出された推定高水分領域Eを含む画像I2を例示している。
【0030】
続いて、プロセッサ122は、推定高水分領域Eであって、閾値未満の大きさを有するものを画像I2から除去する処理を実行する(
図3のSTEP5)。具体的には、画像I2における位置に基づいて、実際の路面Rにおける各推定高水分領域Eの車両20の左右方向に沿う向きの幅寸法が算出される。続いて、当該幅寸法が、車両20の左右方向における各車輪の幅寸法との比較に供される。車輪の幅寸法よりも小さい幅寸法を有する推定高水分領域Eが除去の対象とされる。
図8は、当該処理により抽出された閾値以上の大きさを有する推定高水分領域E1を含む画像I3を例示している。
【0031】
図2に例示されるように、車輪駆動機構25は、車速データVLと操舵角データAGを出力可能に構成されている。車速データVLは、車輪の回転速度に基づいて算出された車両20の走行速度vに対応している。操舵角データAGは、操舵に伴う車輪の向きの変化に基づいて算出された車両20の操舵角θに対応している。しかしながら、車速データVLと操舵角データAGの少なくとも一方は、車両20の適宜の箇所に設けられた周知のセンサから出力されてもよい。車速データVLと操舵角データAGは、画像処理装置12の入力インタフェース121により受け付けられる。
【0032】
プロセッサ122は、車速データVLと操舵角データAGに基づいて、車両20の左前輪21と右前輪22の各々の走行経路を推定する処理を実行する(
図3のSTEP6)。具体的には、操舵角データAGが示す車両20の操舵角が閾値未満である場合、左前輪21と右前輪22の双方について、直線状の走行経路が設定される。操舵角が閾値以上である場合、左前輪21と右前輪22の各々について、走行速度vと操舵角θに応じた曲率半径が算出され、当該曲率半径を有する曲線状の走行経路が推定される。
【0033】
曲率半径rは、例えば車両20の単純化モデルとして線形二輪モデルを選ぶことによって、次式により算出されうる。
r=(1+Av2)L/θ
ここで、Aは車両20のスタビリティファクタであり、Lは車両20のホイール間距離である。
【0034】
図9は、上記の処理を通じて推定された左前輪21の走行経路PLと右前輪22の走行経路PRが画像I3に重畳された画像I4を例示している。プロセッサ122は、左前輪21の走行経路PLと右前輪22の走行経路PRのいずれかが推定高水分領域E1と重なっているかを判断する(
図3のSTEP7)。
【0035】
走行経路PLと走行経路PRのいずれも推定高水分領域E1と重なっていないと判断されると(STEP7においてNO)、プロセッサ122は、処理をSTEP1に戻す。すなわち、左前輪21と右前輪22のいずれも水溜まりPのような高水分領域を通過する可能性がなく、走行支援制御を行なう必要がないと判断される。
【0036】
走行経路PLと走行経路PRの少なくとも一方が推定高水分領域E1と重なっている場合(STEP7においてYES)、左前輪21と右前輪22の少なくとも一方が高水分領域を通過する可能性があると判断される。
図9に示される例においては、左前輪21の走行経路PLが推定高水分領域E1と重なっている。
図10は、推定高水分領域E1とこれに重なる走行経路PLが抽出された画像I5を例示している。
【0037】
この場合、プロセッサ122は、重なり量が閾値以上であるかを判断する(
図3のSTEP8)。具体的には、画像I5における走行経路PLと推定高水分領域E1の重なり部分Oの面積が閾値以上であるかが判断される。
図11は、重なり部分Oが抽出された画像I6を例示している。
【0038】
重なり部分Oの面積が閾値未満であると判断されると(STEP8においてNO)、プロセッサ122は、処理をSTEP1に戻す。すなわち、左前輪21と右前輪22の少なくとも一方が高水分領域を通過しても車両20の走行に与えうる影響が小さく、走行支援制御を行なう必要はないと判断される。
【0039】
重なり部分Oの面積が閾値以上であると判断されると(STEP8においてYES)、プロセッサ122は、重なり部分Oの水分量を推定する処理を行なう(STEP9)。具体的には、プロセッサ122は、重なり部分Oを形成している複数の画素に対応付けられた明度の平均値を算出し、当該平均値に基づいて水分量の推定を行なう。
【0040】
算出される明度の平均値と推定される水分量との関係は、例えば
図12に示される設備を用いた測定を通じて予め取得される。具体的には、撮像装置11からの距離がdsである容器内に入った深さdpの水が光源LSにより照明される。深さdp(水量)と距離dsを変えながら撮像装置11により取得される画像に映り込んだ水面Wの明度の平均値を測定することにより、三者の関係をテーブル化する。テーブル化されたデータは、画像処理装置12における不図示のストレージに格納され、プロセッサ122により参照可能とされる。
【0041】
画像I6における重なり部分Oの位置に基づいて、撮像装置11から重なり部分Oまでの距離が特定されうる。当該距離と算出された明度の平均値に基づいてテーブルが参照されることにより、重なり部分Oにおける水分量が推定されうる。プロセッサ122は、推定された水分量が閾値以上であるかを判断する(
図3のSTEP10)。
【0042】
水分量が閾値未満である場合(STEP10においてNO)、プロセッサ122は、処理をSTEP1に戻す。すなわち、左前輪21と右前輪22の少なくとも一方が高水分領域を通過しても車両20の走行に与えうる影響が小さく、走行支援制御を行なう必要はないと判断される。
【0043】
水分量が閾値以上である場合(STEP10においてYES)、プロセッサ122は、支援データASを生成して出力インタフェース123から出力する(STEP11)。支援データASは、推定高水分領域E1を通過する車輪を特定する情報を含んでいる。本例においては、支援データASは、左前輪21を特定する情報を含む。
【0044】
なお、
図9から
図11を参照して説明した車輪の走行経路の推定および当該走行経路と推定高水分領域E1の重なりに係る判断は、左後輪23と右後輪24に対しても同様に実行されうる。
【0045】
前述したように、走行中の車両20の少なくとも一つの車輪が高水分領域を通過する場合、スリップが発生しうる。車両20の進行方向に検出された高水分領域を回避するような操舵制御を行なうことは、走行支援に係る一つのアプローチでありうる。しかしながら、車両20の周囲の走行環境(道路の幅、他車両の存在)によっては、進路変更を伴う操舵制御が常に最善の対応であるとは言えない。
【0046】
本実施形態例に係る構成によれば、撮像装置11により車両20の進行方向に検出された高水分領域を回避するのではなく、車両20の進路が維持された場合にいずれの車輪がその高水分領域を通過するのかを判断するための画像処理が、撮像装置11から出力された画像データIMに対して行なわれる。当該画像処理の結果として、いずれかの車輪がその高水分領域を通過すると判断された場合、当該車輪を特定する支援データASが出力される。これにより、どの車輪に対して車両20の進路を維持しつつスリップを抑制するための走行制御を行なえばよいかについての情報を提供できる。したがって、車両20の進行方向に位置する路面Rに検出された水溜まりPなどを通過する場合における車両20の走行を支援できる。
【0047】
具体的には、制御装置13の入力インタフェース131により支援データASが受け付けられると、プロセッサ132は、支援データASにより特定される高水分領域を通過する車輪に対して回転数低減とトルク増大の少なくとも一方を車輪駆動機構25に行なわせるための制御データCTを、出力インタフェース133から出力する。
【0048】
回転数の低減量とトルクの増大量は、一定の比率または変化量をとるように行なわれてもよいし、高水分領域の状態に応じて変更されてもよい。後者の場合、
図3のSTEP9を参照して説明した処理によって推定された高水分領域の水分量を示す情報が、支援データASに含まれうる。
【0049】
これにより、車両20の進路を維持しつつ高水分領域の通過に伴うスリップの発生を抑制できる。特に回転数の低減を行なうことなくトルクの増大により走行支援を行なう場合、車両20の減速が後続車両に与える影響も緩和できる。
【0050】
上記の例においては、高水分領域を通過する車輪として支援データASにより特定されているのは、左前輪21のみである。左前輪21と右前輪22の回転数とトルクを個別に制御可能な構成において左前輪21のみに対して回転数低減とトルク増大の少なくとも一方が実行されると、車両20の進路が緩やかに左方へ変化する。
【0051】
よって、左前輪21と右前輪22の一方が高水分領域を通過することを支援データASが示している場合、プロセッサ132は、左前輪21と右前輪22の他方にも回転数低減とトルク増大の少なくとも一方を車輪駆動機構25に実行させる制御データCTを、出力インタフェース133から出力しうる。
【0052】
このような構成によれば、特に左前輪21と右前輪22の回転数とトルクを個別に制御可能な構成において、走行支援の実行に伴う無用な車両20の進路変更の発生を抑制できる。
【0053】
加えて、プロセッサ132は、左前輪21と右前輪22の少なくとも一方が通過する高水分領域が路面に形成された凹部であることを前提としたサスペンション制御を車輪駆動機構25に行なわせる制御データCTを、出力インタフェース133から出力しうる。
【0054】
特に高水分領域が水溜まりである場合、高水分領域が検出されている箇所の路面に凹部が形成されている蓋然性が高い。このような高水分領域を通過する車輪に対して凹部の通過に伴う車体の上下動を吸収するようなサスペンション制御を適用することにより、車両20の乗員の快適性を高めることができる。
【0055】
制御装置13による走行支援制御に係る上記の説明は、左後輪23と右後輪24についても同様に適用されうる。
【0056】
なお、特定の車輪に対して回転数の低減とトルクの増大の少なくとも一方を実行できるのであれば、必ずしも制御データCTが車輪駆動機構25に入力されることを要しない。制御データCTは、当該制御を実行可能な適宜の車載装置に対して入力されうる。
【0057】
これまで説明した各種の機能を有する画像処理装置12のプロセッサ122と制御装置13のプロセッサ132の少なくとも一方は、汎用メモリと協働して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されうる。汎用マイクロプロセッサとしては、CPU、MPU、GPUが例示されうる。汎用メモリとしては、ROMやRAMが例示されうる。この場合、ROMには、当該機能を実現するコンピュータプログラムが記憶されうる。ROMは、コンピュータプログラムを記憶している非一時的なコンピュータ可読媒体の一例である。汎用マイクロプロセッサは、ROM上に記憶されたプログラムの少なくとも一部を指定してRAM上に展開し、RAMと協働して上述した処理を実行する。当該コンピュータプログラムは、汎用メモリにプリインストールされてもよいし、通信ネットワークを介して外部サーバ装置からダウンロードされてから汎用メモリにインストールされてもよい。この場合、外部サーバ装置は、コンピュータプログラムを記憶している非一時的なコンピュータ可読媒体の一例である。
【0058】
プロセッサ122とプロセッサ132の少なくとも一方は、上記のコンピュータプログラムを実行可能なマイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの専用集積回路によって実現されてもよい。この場合、当該専用集積回路に含まれる記憶素子に上記のコンピュータプログラムがプリインストールされる。当該記憶素子は、コンピュータプログラムを記憶しているコンピュータ可読媒体の一例である。プロセッサ122とプロセッサ132の少なくとも一方は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによっても実現されうる。
【0059】
これまで説明した様々な構成は、本開示の理解を容易にするための例示にすぎない。各構成例は、本開示の趣旨の範囲内で適宜に変更や相互の組合せがなされうる。
【0060】
図3のSTEP5を参照して説明したように、上記の実施形態例においては、車両20の進行方向に検出された推定高水分領域Eのうち、左右方向の幅が車両20の車輪の左右方向の幅よりも狭いものを除外して支援データASの生成がなされている。
【0061】
このような構成によれば、車輪が通過してもスリップを生じる可能性が低い高水分領域や、ノイズとして誤検出されている可能性が高い高水分領域を予め除外できる。これにより、スリップを生じる可能性がある高水分領域を通過する車輪を特定する処理に係るプロセッサ122の負荷を軽減できる。しかしながら、
図3のSTEP5に係る処理は、必要に応じて省略されてもよい。
【0062】
図3のSTEP8を参照して説明したように、上記の実施形態例においては、推定された車輪の走行経路と検出された高水分領域の重なり量に応じて、走行支援制御の要否が判断されている。このような構成によれば、必要以上の走行支援制御が実行されることによる走行支援システム10の処理負荷を軽減できる。しかしながら、
図3のSTEP8に係る処理は、必要に応じて省略されてもよい。
【0063】
図3のSTEP9とSTEP10を参照して説明したように、上記の実施形態例においては、検出された高水分領域の水分量に応じて、走行支援制御の要否が判断されている。このような構成によれば、必要以上の走行支援制御が実行されることによる走行支援システム10の処理負荷を軽減できる。しかしながら、
図3のSTEP9とSTEP10に係る処理は、必要に応じて省略されてもよい。
【0064】
図2に例示されるように、走行支援システム10は、表示装置14を含みうる。表示装置14の例としては、車両20のセンタクラスタなどに設置されるディスプレイ装置、車両20のフロントガラスに画像を投影するヘッドアップディスプレイ装置などが挙げられる。この場合、画像処理装置12のプロセッサ122は、
図3のSTEP6において推定された左前輪21の走行経路PLと右前輪22の走行経路PRを示す画像を表示装置14に表示させる表示データDSを、出力インタフェース123から出力しうる。
【0065】
図13は、表示装置14が上記のディスプレイ装置である場合に画面に表示される画像を例示している。当該画像は、撮像装置11より出力される画像データIMに対応する画像に走行経路PLと走行経路PRを示す画像が重畳されることにより形成されている。すなわち、水溜まりPが形成された路面Rが映り込んだ画像に、走行経路PLと走行経路PRを示す画像が重畳されている。
【0066】
表示装置14が上記のヘッドアップディスプレイ装置である場合、走行経路PLと走行経路PRを示す画像が車両20のフロントガラスに投影される。車両20の乗員には、水溜まりPが形成された実際の路面Rに走行経路PLと走行経路PRが重なって見える。
【0067】
このような構成によれば、車両20が高水分領域をどのように通過するかを示す情報を乗員に提供できるので、走行支援制御に対する乗員の信頼感を高めることができる。
【0068】
なお、必ずしも左前輪21と右前輪22の双方について走行経路を示す画像が表示されることを要しない。左前輪21と右前輪22の一方が高水分領域を通過すると推定された場合、当該一方の車輪の走行経路を示す画像のみが表示に供されうる。
【0069】
上記の実施形態例に係る車両20は、四つの車輪を備えている。しかしながら、左前輪と右前輪を備えていれば、車両における車輪の総数は適宜に定められうる。
【0070】
以下に列挙される構成もまた、本開示の一部を構成する。
項目1:
左車輪と右車輪を備える車両に搭載される走行支援システムであって、
可視波長域の光と水分子により吸収される波長域の光に感度を有する撮像素子を備えており、前記車両の進行方向に位置する路面が映り込んだ画像に対応する画像データを出力する撮像装置と、
前記画像データに基づいて、前記路面における周囲よりも水分量が相対的に多い高水分領域を検出し、当該高水分領域を通過する前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方を特定する支援データを出力する画像処理装置と、
を備えている、
走行支援システム。
項目2:
前記画像処理装置は、検出された前記高水分領域のうち左右方向の幅が前記左車輪と前記右車輪の左右方向の幅よりも狭いものを除外して前記支援データを生成する処理を行なう、
項目1に記載の走行支援システム。
項目3:
前記画像処理装置は、前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方の推定走行経路を示す画像に対応する表示データを出力する、
項目1または2に記載の走行支援システム。
項目4:
前記支援データに基づいて、前記高水分領域を通過する前記左車輪と前記右車輪の少なくとも一方の回転数低減とトルク増大の少なくとも一方を前記車両に実行させる制御装置を備えている、
項目1から3のいずれか一項に記載の走行支援システム。
項目5:
前記支援データは、前記左車輪と前記右車輪の一方が前記高水分領域を通過することを示している場合、前記制御装置は、前記回転数低減と前記トルク増大の少なくとも一方を、前記左車輪と前記右車輪の他方についても前記車両に実行させる、
項目4に記載の走行支援システム。
項目6:
前記制御装置は、前記高水分領域が前記路面に形成された凹部であることを前提としたサスペンション制御を前記車両に実行させる、
項目4または5に記載の走行支援システム。
【符号の説明】
【0071】
10:走行支援システム、11:撮像装置、12:画像処理装置、121:入力インタフェース、122:プロセッサ、13:制御装置、14:表示装置、20:車両、21:左前輪、22:右前輪、23:左後輪、24:右後輪、AS:支援データ、DS:表示データ、E、E1:推定高水分領域、IM:画像データ、P:水溜まり、PL:左前輪の走行経路、PR:右前輪の走行経路、R:路面