(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132386
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/24 20060101AFI20240920BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E02F9/24 H
E02F9/22 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043125
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】成川 理優
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 哲平
(72)【発明者】
【氏名】小谷 匡士
(72)【発明者】
【氏名】石本 英史
(72)【発明者】
【氏名】伊東 英明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慧
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB04
2D003BA02
2D003BA06
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB03
2D003DB04
2D003DB05
2D015GA03
2D015GB04
(57)【要約】
【課題】掘削位置への到達時間の短縮と作業具の周囲物体との接触による損傷可能性の低減とを両立させた戻り動作を行うことができる作業機械を提供する。
【解決手段】作業機械1は、フロント作業装置2のバケット10を掘削開始位置に向かって移動させる戻り動作の制御を行う制御装置60を備える。制御装置60は、周囲物体検出装置26により検出された周囲物体に対してバケット10との接触の可否を設定し、周囲物体のうち接触可に設定された周囲物体については、バケット10の接触を許容しつつ戻り動作を行うように、上部旋回体5及びフロント作業装置2を動作させる。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回可能な旋回体と、
前記旋回体に対して上下方向に回動可能に取り付けられ、作業具を有する多関節型の作業装置と、
前記旋回体の周囲に存在する地形を含む物体を検出する周囲物体検出装置と、
前記旋回体及び前記作業装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記作業装置が掘削対象の掘削を開始する位置である掘削開始位置に向かって前記作業具を移動させる戻り動作の制御を行うように構成された作業機械において、
前記制御装置は、
前記周囲物体検出装置により検出された物体である周囲物体に対して、前記作業具との接触の可否を設定し、
前記周囲物体のうち接触可に設定された周囲物体については、前記作業具の接触を許容しつつ前記戻り動作を行うように、前記旋回体及び前記作業装置を動作させる
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記周囲物体に対して前記作業具との接触の可否の条件を示す接触特性を設定し、
前記作業具の前記周囲物体に対する接触の有無が前記接触特性を満たしつつ前記作業具が前記掘削開始位置に近づくような前記旋回体及び前記作業装置の制御入力を演算し、
当該演算された制御入力に基づき前記旋回体及び前記作業装置を動作させる
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記周囲物体の種類又は属性を判別し、
判別結果の前記周囲物体の種類又は属性に応じて前記接触特性を設定する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項2に記載の作業機械において、
前記制御装置は、オペレータにより操作される入力装置からの指示に応じて前記接触特性を設定する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項2に記載の作業機械において、
前記接触特性は、前記旋回体の旋回動作に伴い前記作業具が移動する場合と前記旋回体の旋回動作が無く前記作業装置の動作に伴い前記作業具が移動する場合とで前記周囲物体に対する前記作業具との接触の可否の条件が異なるように設定されている
ことを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項2に記載の作業機械において、
前記接触特性は、前記周囲物体に対する前記作業具の全体との接触の可否の条件を示すものである
ことを特徴とする作業機械。
【請求項7】
請求項2に記載の作業機械において、
前記接触特性は、前記周囲物体に対する前記作業具の第1部分との接触の可否の条件と、前記周囲物体に対する前記作業具の前記第1部分とは異なる第2部分との接触の可否の条件とが異なるように設定されている
ことを特徴とする作業機械。
【請求項8】
請求項2に記載の作業機械において、
前記制御装置は、前記周囲物体が前記旋回体の周囲に存在する地形である周囲地形の場合、
前記周囲物体検出装置の検出情報を基に得られる前記周囲地形の作業開始前の形状と掘削作業中の形状とを比較し、
前記周囲地形の作業開始前の形状に対する掘削作業中の形状の変化分の領域に対して、前記作業具との接触を許容する接触特性を設定する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項9】
請求項2に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
作業現場の地質情報を取得し又は予め記憶し、
前記周囲物体が前記旋回体の周囲に存在する地形である周囲地形の場合には、前記周囲地形に対して前記地質情報に応じて前記接触特性を設定する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項10】
請求項2に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
被積込機械の走行経路の情報を含む作業現場の設計情報を取得し又は予め記憶し、
前記周囲物体が前記設計情報に含まれる前記走行経路に対応する地形である場合には、前記周囲物体に対して前記作業具との接触を許容しない接触特性を設定する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項11】
請求項2に記載の作業機械において、
前記制御装置は、モデル予測制御の評価関数を用いて前記制御入力の演算を行うように構成され、
前記制御装置は、
前記周囲物体検出装置の検出情報に基づき前記周囲物体の位置を演算し、
演算結果の前記周囲物体の位置に基づき設定した侵入禁止領域に前記作業具が侵入する条件の場合に値が増加するペナルティ関数と前記接触特性に応じて設定した重みとの積で表されたペナルティコストを含むように前記評価関数を設定する
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業を行う多関節型の作業装置と当該作業装置が取り付けられた旋回可能な旋回体とを備えた作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどの作業機械には、旋回可能な旋回体に多関節型の作業装置が取り付けられているものがある。作業装置は、例えば、旋回体に対して上下方向に回動可能に取り付けられたブームと、ブームに回動可能に取り付けられたアームと、アームに回動可能に取り付けられた作業具としてのバケットとで構成されている。
【0003】
このような構成の作業機械は、例えば、作業装置により土砂を掘削する掘削動作、掘削した土砂等の掘削物をダンプトラック等の被積込機械の荷台の上方まで運搬する運搬動作、掘削物を被積込機械の荷台に放出する放土動作、放土後のバケットを掘削開始位置まで移動させる戻り動作を順に繰り返すことによって土砂の掘削積込作業を行う。このような掘削積込作業を行うとき、作業機械の周囲には、掘削対象近傍の土地や被積込機械などの物体が存在する。そのため、掘削積込作業では、バケットを掘削開始位置まで移動させる戻り動作のとき、周囲の物体に対するバケットの接触を考慮する必要がある。
【0004】
作業機械の周囲に存在する物体に対する作業具の接触を考慮した作業具の移動方法として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載の経路設定システムは、作業機械のアタッチメント(バケット)の目標経路を設定するものである。当該経路設定システムは、目標経路の開始点と終了点の間に障害物の特定部位があると判定した場合には、アタッチメントが障害物を回避する回避動作を行う回避経路を設定する一方、障害物の特定部位がないと判定した場合には、アタッチメントが回避動作を行わない非回避経路を設定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術を上述の作業機械の戻り動作に対して適用する場合を考える。特許文献1に記載の技術においては、バケット(アタッチメント)の移動の際にバケットに接触する可能性のあるものを障害物とみなしている。したがって、バケットの戻り動作の際にバケットの物体との接触による損傷を防止することはできる。しかし、山形状の土砂山の頂上なども障害物として見なしている。このため、戻り動作における目標経路の終了点となる掘削開始位置の近傍(例えば直上)に土砂山の頂上(障害物の特定部位)があると、土砂山の頂上を回避する回避経路が設定されるので、当該回避経路上をバケットが移動することになる。その結果、作業具であるバケットが掘削開始位置に到達するまでに時間を要し、作業効率が低下することが考えられる。戻り動作における作業効率の観点からは、バケットに接触する可能性のあるものを全て障害物とみなすことを見直す必要がある。例えば、バケットが土砂山に接触しても、当該接触によるバケットの損傷が発生する可能性が極めて低いからである。
【0007】
本発明は、上記の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、掘削位置までの到達時間の短縮と作業具の周囲物体との接触による損傷の可能性の低減とを両立させた戻り動作を行うことができる作業機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいる。その一例を挙げるならば、旋回可能な旋回体と、前記旋回体に対して上下方向に回動可能に取り付けられ、作業具を有する多関節型の作業装置と、前記旋回体の周囲に存在する地形を含む物体を検出する周囲物体検出装置と、前記旋回体及び前記作業装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記作業装置が掘削対象の掘削を開始する位置である掘削開始位置に向かって前記作業具を移動させる戻り動作の制御を行うように構成された作業機械において、前記制御装置は、前記周囲物体検出装置により検出された物体である周囲物体に対して、前記作業具との接触の可否を設定し、前記周囲物体のうち接触可に設定された周囲物体については、前記作業具の接触を許容しつつ前記戻り動作を行うように、前記旋回体及び前記作業装置を動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一例によれば、接触可に設定された周囲物体と作業具との接触を許容する戻り動作は、当該周囲物体との接触を回避する戻り動作の場合よりも、掘削位置までの経路を短くすることが可能となる。この場合、周囲物体に対する作業具との接触の可否を作業具の損傷可能性に応じて設定することで、作業具の損傷可能性を低減することができる。すなわち、掘削位置までの到達時間の短縮と作業具の周囲物体との接触による損傷の可能性の低減とを両立させた戻り動作を行うことができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る作業機械としての油圧ショベル及び当該油圧ショベルの積込作業の積込先である被積込機械としてのダンプトラックを示す外観図である。
【
図2】第1の実施形態に係る作業機械における油圧システム及び当該油圧システムの制御システムを示す構成図である。
【
図3】
図2に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置の機能を示すブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係る作業機械に設定された基準座標系のX-Z軸の平面と共に油圧ショベルの姿勢を規定する情報を示す説明図である。
【
図5】第1の実施形態に係る作業機械に設定された基準座標系のX-Y軸の平面と共に油圧ショベルの姿勢を規定する情報を示す説明図である。
【
図6】
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における周囲物体特性設定部による接触特性の設定方法の一例を示す説明図である。
【
図7】
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における評価関数設定部による侵入禁止領域の設定方法の一例を示す説明図である。
【
図8】
図7に示す侵入禁止領域を基準座標系において示した図である。
【
図9A】
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における評価関数設定部により設定されるペナルティコストへの重み(ペナルティ関数の係数)の第1例を示す図である。
【
図9B】
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における評価関数設定部により設定されるペナルティコストへの重み(ペナルティ関数の係数)の第2例を示す図である。
【
図10】
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における評価関数の最適化演算で移動対象とするバケットの部位の一例を示す説明図である。
【
図11】
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置による戻り動作の制御手順の一例を示すフローチャートである。
【
図12】第1の実施形態に係る作業機械の戻り動作においてバケットと接触する周囲地形(周囲物体)が存在しない場合のバケット経路を示す説明図である。
【
図13】戻り動作においてバケットと接触する可能性がある周囲地形(周囲物体)が存在する場合のバケット経路の一例を示す説明図である。
【
図14】第1の実施形態に係る作業機械の戻り動作において接触禁止の接触特性が設定された周囲地形(周囲物体)が存在する場合のバケット経路を示す説明図である。
【
図15】第1の実施形態に係る作業機械の戻り動作において接触可能な接触特性が設定された周囲地形(周囲物体)が存在する場合のバケット経路を示す説明図である。
【
図16】第1の実施形態に係る作業機械の戻り動作において被積込機械への放土動作終了時点からのバケット経路を示す説明図である。
【
図17】本発明の第2の実施形態に係る作業機械における制御装置の機能を示すブロック図である。
【
図18】掘削対象が鉱物を含む場合であると共に戻り動作においてバケットと接触する可能性がある周囲地形(周囲物体)が存在する場合を示す説明図である。
【
図19】本発明の第3の実施形態に係る作業機械における制御装置の機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の作業機械の実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態においては、作業機械の一例として油圧ショベルを例に挙げて説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
まず、第1の実施形態に係る作業機械としての油圧ショベルの構成について
図1を用いて説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る作業機械としての油圧ショベル及び当該油圧ショベルの積込作業の積込先である被積込機械としてのダンプトラックを示す外観図である。ここでは、油圧ショベルの運転席に着座したオペレータから見た方向を用いて説明する。
【0013】
図1において、作業機械としての油圧ショベル1は、被積込機械100に対して対象物を積込する積込機の一種である。被積込機械100は、例えば、ダンプトラックをはじめとする運搬車両などであり、トレイ(荷台)101を備えている。油圧ショベル1は、掘削積込作業を行うものであり、地面等の掘削対象面を掘削する掘削動作、掘削した土砂等の掘削物(積込の対象物)を被積込機械100のトレイ101上まで運搬する運搬動作、掘削物をトレイ101へ放出する放土動作、次の掘削を行うための戻り動作の一連の動作を繰り返す。
【0014】
油圧ショベル1は、機体3と、機体3に対して上下方向に回動可能に取り付けられた多関節型のフロント作業装置2とで構成されている。機体3は、自走可能な下部走行体4と、下部走行体4上に旋回装置6を介して旋回可能に搭載された上部旋回体5とで構成されている。
【0015】
フロント作業装置2は、複数の被駆動部材を上下方向又は前後方向に回動可能に連結して構成されたものである。複数の被駆動部材は、例えば、ブーム8、アーム9、掘削作業用の作業具としてのバケット10とで構成されている。ブーム8は、上部旋回体5の前部にブームピン8a(後述の
図4参照)を介して上下方向に回動可能に連結されている。アーム9は、ブーム8の先端部にアームピン9aを介して前後方向に回動可能に連結されている。バケット10は、フロント作業装置2の先端部に位置するものであり、アーム9の先端部にバケットピン10a及びバケットリンク10bを介して上下方向又は前後方向に回動可能に連結されている。ブーム8、アーム9、バケット10はそれぞれ、油圧アクチュエータであるブームシリンダ11、アームシリンダ12、バケットシリンダ13の伸縮によって回動駆動される。
【0016】
下部走行体4は、例えば、クローラ式の走行装置15を備えている。走行装置15は、油圧アクチュエータである左走行油圧モータ16a及び右走行油圧モータ16b(後述の
図2参照)によって駆動する。なお、左走行油圧モータ16a及び右走行油圧モータ16bを総称して走行油圧モータ16と称することもある。
【0017】
上部旋回体5は、例えば、油圧アクチュエータである旋回装置6の旋回油圧モータ7によって下部走行体4に対して旋回駆動されるように構成されている。上部旋回体5は、オペレータが搭乗する運転室18と、各種機器を収容する機械室19とを備えている。運転室18には、複数の油圧アクチュエータ7、11、12、13、16を操作するための操作装置50(後述の
図2参照)が配設されている。操作装置50の構成の詳細は後述する。機械室19には、後述の油圧システム30(後述の
図2参照)を構成する各種機器、例えば、原動機31や油圧ポンプ32などが配置されている。
【0018】
旋回装置6及び上部旋回体5にはそれぞれ、下部走行体4に対する上部旋回体5の旋回角度を検出する旋回角度センサ21及び上部旋回体5の旋回角速度を検出する旋回角速度センサ22(共に後述の
図2参照)が取り付けられている。旋回角速度センサ22は、例えば、慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)で構成されており、水平面等の基準面に対する上部旋回体5(機体3)のピッチ角度やロール角度を検出可能である。
【0019】
フロント作業装置2のブーム8、アーム9、バケット10にはそれぞれ、角度センサが取り付けられている。具体的には、ブームピン8a(後述の
図4参照)には、上部旋回体5に対するブーム8の回動角度(ブーム回動角度)を検出するブーム角度センサ23(後述の
図2参照)が取り付けられている。アームピン9aには、ブーム8に対するアーム9の回動角度(アーム回動角度)を検出するアーム角度センサ24(後述の
図2参照)が取り付けられている。バケットリンク10bには、アーム9に対するバケット10の回動角度(バケット回動角度)を検出するバケット角度センサ25(後述の
図2参照)が取り付けられている。
【0020】
ここで、旋回角度センサ21と旋回角速度センサ22とブーム角度センサ23とアーム角度センサ24とバケット角度センサ25は、上部旋回体5の旋回角度及びフロント作業装置2の各回動角度を検出する姿勢検出装置20(後述の
図2参照)を構成する。姿勢検出装置20を構成する各センサ21、22、23、24、25は検出情報を後述の制御装置60へ出力する。
【0021】
なお、ブーム8、アーム9、バケット10の各回動角度は、水平面等の基準面に対するブーム8、アーム9及びバケット10の各角度を慣性計測装置(IMU)によって検出し、当該慣性計測装置の検出値を各回動角度に換算することによって取得することが可能である。また、ブーム8、アーム9及びバケット10の各回動角度は、ブームシリンダ11、アームシリンダ12及びバケットシリンダ13の各ストロークをストロークセンサにより検出し、当該ストロークセンサの検出値を各回動角度に換算することによって取得することも可能である。
【0022】
上部旋回体5(例えば、運転室18)には、油圧ショベル1の周囲に存在する物体(以下、周囲物体と称することがある)の情報を検出する周囲物体検出装置26が取り付けられている。周囲物体検出装置26は、例えば、油圧ショベル1の積込作業の対象である被積込機械100や他の作業機械又は人などを検出可能である。また、本実施の形態においては、周囲物体検出装置26が検出する周囲物体は、油圧ショベル1の周囲に存在する地形(以下、周囲地形と称することがある)を含むものであり、例えば、掘削対象の土地や掘削対象近傍の土地などの地形などがある。周囲物体検出装置26は、周囲物体の位置や形状に関する情報を検出可能なものであり、例えば、ステレオカメラやLiDAR(Light Detection And Ranging)などで構成することが可能である。なお、周囲物体検出装置26は、周囲物体を検出可能な複数の装置によって構成することも可能である。
【0023】
次に、第1の実施形態に係る作業機械における油圧システム及び制御システムの構成について
図2を用いて説明する。
図2は第1の実施形態に係る作業機械における油圧システム及び当該油圧システムの制御システムを示す構成図である。
【0024】
図2において、油圧ショベル1は、フロント作業装置2、下部走行体4、上部旋回体5(共に
図1参照)を油圧によって駆動させる油圧システム30を備えている。油圧システム30は、エンジン又は電動機である原動機31と、原動機31により駆動される油圧ポンプ32と、油圧ポンプ32から供給される圧油によって駆動する複数の油圧アクチュエータとを備えている。油圧ポンプ32は、例えば、可変容量型のポンプである。複数の油圧アクチュエータは、旋回油圧モータ7、ブームシリンダ11、アームシリンダ12、バケットシリンダ13、左走行油圧モータ16a、右走行油圧モータ16bを含んでいる。
【0025】
各油圧アクチュエータ7、11、12、13、16a、16bは、流量制御弁33を介して油圧ポンプ32に接続されている。流量制御弁33は、油圧ポンプ32から各油圧アクチュエータ7、11、12、13、16a、16bに供給される圧油の流量及び方向を制御するものであり、例えば、各油圧アクチュエータ7、11、12、13、16a、16bに対応するスプール弁の集合体である。流量制御弁33は、入力されたパイロット圧に応じて駆動するものであり、パイロットライン36を介してパイロット油圧源であるパイロットポンプ35に接続されている。パイロットポンプ35は、例えば、原動機31によって駆動される。
【0026】
パイロットライン36上には、流量制御弁33の各油圧アクチュエータ7、11、12、13、16a、16bに対応するスプール弁に入力するパイロット圧を生成する電磁比例弁41a、41b、42a、42b、43a、43b、44a、44b、45a、45b、46a、46bが設けられている。各電磁比例弁41a、41b~46a、46bは、後述の制御装置60からの駆動指令に応じたパイロット圧を生成する。なお、電磁比例弁41a、41bは、旋回油圧モータ7に対応するスプール弁に入力するパイロット圧を生成するものである。電磁比例弁42a、42bは、アームシリンダ12に対応するスプール弁に入力するパイロット圧を生成するものである。電磁比例弁43a、43bは、ブームシリンダ11に対応するスプール弁に入力するパイロット圧を生成するものである。電磁比例弁44a、44bは、バケットシリンダ13に対応するスプール弁に入力するパイロット圧を生成するものである。電磁比例弁45a、45bは、左走行油圧モータ16aに対応するスプール弁に入力するパイロット圧を生成するものである。電磁比例弁46a、46bは、右走行油圧モータ16bに対応するスプール弁に入力するパイロット圧を生成するものである。
【0027】
油圧システム30は、油圧ショベル1のオペレータによる操作装置50の操作に応じて制御装置60によって制御されるように構成されている。
【0028】
操作装置50は、フロント作業装置2、下部走行体4、上部旋回体5(共に
図1参照)の動作を指示するものである。操作装置50は、例えば、旋回油圧モータ7及びアームシリンダ12を操作するための左操作レバー51と、ブームシリンダ11及びバケットシリンダ13を操作するための右操作レバー52と、左走行油圧モータ16aを操作するための左走行操作レバー53と、右走行油圧モータ16bを操作するための右走行操作レバー54とを備えている。左操作レバー51や右操作レバー52は、例えば、油圧ショベル1の掘削積込作業の際に行われる戻り動作の実行を指示する操作スイッチ(図示せず)を有する構成も可能である。
【0029】
操作装置50は、例えば、電気式の操作レバー装置であり、操作レバーの操作情報として操作方向(傾倒方向)及び操作量(傾倒量)を検出する操作情報検出装置を有している。操作情報検出装置は、例えば、左操作レバー51の操作を検出する第1操作検出器51a、51bと、右操作レバー52の操作を検出する第2操作検出器52a、52bと、左走行操作レバー53の操作を検出する第3操作検出器53aと、右走行操作レバー54の操作を検出する第4操作検出器54aとを備えている。各操作検出器51a、51b、52a、52b、53a、54aは、例えば、ロータリエンコーダやポテンショメータで構成されている。操作装置50は、各操作検出器51a、51b、52a、52b、53a、54aによって検出された操作情報を制御装置60へ出力する。
【0030】
制御装置60には、操作装置50の各操作検出器51a、51b、52a、52b、53a、54aが電気的に接続されており、各操作検出器51a、51b、52a、52b、53a、54aが検出した操作装置50の操作情報が入力される。制御装置60には、姿勢検出装置20を構成する各センサ21、22、23、24、25が電気的に接続されており、姿勢検出装置20の各センサ21~25の検出情報(油圧ショベル1の姿勢情報)が入力される。また、制御装置60には、周囲物体検出装置26が電気的又は通信可能に接続されており、周囲物体検出装置26の検出情報が入力される。
【0031】
さらに、制御装置60には、掘削開始位置設定装置27が電気的又は通信可能に接続されている。掘削開始位置設定装置27は、フロント作業装置2が掘削対象の掘削を開始する位置である掘削開始位置を設定するものであり、例えば、油圧ショベル1のオペレータの操作に基づいて掘削開始位置を設定するような構成が可能である。具体的には、掘削開始位置設定装置27は、タッチパネルを含む入力装置28(後述の
図3の破線の構成を参照)を兼ねた表示装置に周囲物体検出装置26が撮影した周囲地形を表示させ、当該表示装置の表示画面に対するオペレータのタッチ操作又はボタン操作などによって掘削開始位置の設定を指示するような構成が可能である。
【0032】
制御装置60は、操作装置50からの操作情報に応じた駆動指令を油圧システム30の電磁比例弁41a、41b~46a、46bへ出力することで、各油圧アクチュエータ7、11、12、13、16a、16bの駆動を制御するものである。これにより、上部旋回体5の旋回動作、フロント作業装置2の回動動作、下部走行体4の走行動作などの各種動作が実行可能である。
【0033】
制御装置60は、例えば、左操作レバー51の操作情報に応じた駆動指令を電磁比例弁41a、41bへ出力することで、旋回油圧モータ7が圧油の供給により回転して上部旋回体5を旋回動作させる。左操作レバー51の操作情報に応じた駆動指令を電磁比例弁42a、42bへ出力することで、アームシリンダ12が圧油の供給により伸縮してアーム9を回動動作させる。また、右操作レバー52の操作情報に応じた駆動指令を電磁比例弁43a、43bへ出力することで、ブームシリンダ11が圧油の供給により伸縮してブーム8を回動動作させる。右操作レバー52の操作情報に応じた駆動指令を電磁比例弁44a、44bへ出力することで、バケットシリンダ13が圧油の供給により伸縮してバケット10を回動動作させる。左走行操作レバー53及び右走行操作レバー54の操作情報に応じた駆動指令を電磁比例弁45a、45b、46a、46bへ出力することで、左走行油圧モータ16a及び右走行油圧モータ16bが圧油の供給により回転して下部走行体4を走行動作させる。
【0034】
なお、制御装置60は、操作装置50の操作が無い場合でも、自動制御又は半自動制御の制御指令を電磁比例弁41a、41b~46a、46bへ出力することで、油圧アクチュエータ7、11、12、13、16a、16bを駆動させることが可能である。
【0035】
制御装置60は、ハード構成として例えば、外部機器との情報の授受を行うインターフェース61(以下、I/Fと称することがある)と、RAMやROM等からなる内部記憶装置62と、CPUやMPU等からなる処理装置63とを備えている。I/F61は、例えば、操作装置50と姿勢検出装置20と周囲物体検出装置26からの情報を取り込むと共に、電磁比例弁41a、41b~46a、46bに対して制御信号を出力するように構成されている。内部記憶装置62には、本実施の形態における掘削積込作業の際の油圧ショベ1ルの戻り動作を制御するために必要なプログラムや各種情報が予め記憶されている。制御装置60は、各種情報が記憶されている外部記憶装置80にも接続されている。処理装置63は、内部記憶装置62や外部記憶装置80からプログラムや各種情報を適宜読み込むと共に、I/F61を介して各種情報を適宜取り込み、当該プログラムに従って処理を実行することで当該戻り動作の制御を行う各種機能を実現する。本実施の形態の制御装置60の機能部の詳細は後述する。
【0036】
次に、第1の実施形態に係る作業機械の制御装置の機能構成について
図3~
図6を用いて説明する。
図3は
図2に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置の機能を示すブロック図である。
図4は第1の実施形態に係る作業機械に設定された基準座標系のX-Z軸の平面と共に油圧ショベルの姿勢を規定する情報を示す説明図である。
図5は第1の実施形態に係る作業機械に設定された基準座標系のX-Y軸の平面と共に油圧ショベルの姿勢を規定する情報を示す説明図である。
図6は
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における周囲物体特性設定部による接触特性の設定方法の一例を示す説明図である。
【0037】
本実施の形態の制御装置60は、姿勢検出装置20の検出情報(姿勢情報)、周囲物体検出装置26の検出情報、掘削開始位置設定装置27からの指示を基にフロント作業装置2の各構成部材の動作及び上部旋回体5の動作を制御するための制御入力を演算することで、油圧ショベル1の掘削積込作業の際に行われる戻り動作の制御を実行するものである。制御装置60は、油圧ショベル1の当該戻り動作の制御を行う機能部として、姿勢演算部71、周囲物体位置演算部72、周囲物体特性設定部73、評価関数設定部74、最適化演算部75、アクチュエータ制御部76を有している。
【0038】
制御装置60においては、各機能部71~76の演算するための前提として、フロント作業装置2や上部旋回体5などの油圧ショベル1の構成要素の位置や姿勢を特定する基準座標系が予め設定されている。本実施の形態の基準座標系は、例えば
図4及び
図5に示すように、上部旋回体5の旋回軸線5aと地面Gとの交点を原点Oとする右手座標系として定義されている。また、この基準座標系では、
図4に示すように、下部走行体4の前進方向がX軸の正方向として、旋回軸線5aの上方に延びる方向がZ軸の正方向として定義されている。また、
図5に示すように、X軸及びZ軸の両軸に直交し、下部走行体4の前進方向(X軸の正方向)を向いたときの左方向がY軸の正方向として定義されている。
【0039】
また、この基準座標系では、上部旋回体5の旋回角度は、フロント作業装置2がX軸と平行となる状態が0度として定義されている。上部旋回体5の旋回角度が0度の場合、フロント作業装置2の動作平面は基準座標系のXZ平面に平行になる。さらに、ブーム8の上げ動作方向はZ軸の正方向であり、アーム9及びバケット10のダンプ方向もX軸の正方向である。
【0040】
姿勢演算部71は、姿勢検出装置20の検出情報を基に、フロント作業装置2や上部旋回体5などの油圧ショベル1の構成要素の基準座標系における姿勢を演算するものである。具体的には、姿勢演算部71は、ブーム角度センサ23の検出情報に基づき、X軸に対するブーム8の回動角度θ
Bm(
図4)を演算する。また、アーム角度センサ24の検出情報に基づき、ブーム8に対するアーム9の回動角度θ
Am(
図4)を演算する。また、バケット角度センサ25の検出情報に基づき、アーム9に対するバケット10の回動角度θ
Bk(
図4)を演算する。姿勢演算部71は、旋回角度センサ21の検出情報に基づき、X軸(下部走行体4)に対する上部旋回体5の旋回角度θ
Swg(
図5)を演算する。
【0041】
姿勢演算部71は、演算結果のフロント作業装置2の各構成要素8、9、10の回動角度θ
Bm、θ
Am、θ
Bk及び上部旋回体5の旋回角度θ
Swgと、フロント作業装置2の各構成要素(ブーム8、アーム9、バケット10)の寸法L
Bm、L
Am、L
Bk(
図4)とに基づき、ブーム8、アーム9、バケット10のXY平面における位置とZ軸における位置(高さ)を演算する。なお、ブーム8の寸法L
Bmはブームピン8aからアームピン9aまでの長さ、アーム9の寸法L
Amはアームピン9aからバケットピン10aまでの長さ、バケット10の寸法L
Bkはバケットピン10aからバケット10の先端部までの長さである。ブームピン8aは、例えば、旋回角度を0度としたとき、旋回軸線5aからX軸の正方向にL
oxだけオフセットしている。各寸法L
Bm、L
Am、L
Bkやブームピン8aのオフセットの情報は、例えば、内部記憶装置62(
図2参照)に予め記憶されている。
【0042】
周囲物体位置演算部72は、周囲物体検出装置26の検出情報に基づき、周囲物体検出装置26が検出した周囲物体の基準座標系における位置を演算するものである。周囲物体位置演算部72の位置演算の対象は、周囲物体検出装置26によって検出される被積込機械100及び掘削対象や掘削対象近傍の周囲地形などである。
【0043】
周囲物体特性設定部73は、周囲物体検出装置26が検出した周囲物体に対して、フロント作業装置2との接触を許容するか又は接触を許容しないかの可否の条件(条件付きで許容する場合を含む)を示す接触特性を設定するものである。周囲物体特性設定部73は、例えば、周囲物体検出装置26によって検出された周囲物体に対して、オペレータにより操作されるタッチパネル等の入力装置28(
図3中、破線で図示)としてのHMI(Human Machine Interface)からの指示に応じて上述の接触特性を設定するように構成することが可能である。また、周囲物体特性設定部73は、周囲物体検出装置26によって検出された周囲物体の種類又は属性を周囲物体検出装置26の検出情報に基づいて判別し、判別結果の周囲物体の種類又は属性に応じて接触特性を自ら設定するように構成することも可能である。具体的には、周囲物体特性設定部73は、例えば、周囲物体検出装置26の検出情報から得られる周囲物体の形状などから当該周囲物体の種類及びその属性を判別する。周囲物体の種類としては、例えば、被積込機械100などの油圧ショベル1以外の機械、人、作業現場の周囲地形、被積込機械100の走行経路の地形などが予め分類されている。周囲地形の土砂は、所定よりも柔らかいもの、鉱物の周囲に位置するものなどの属性により分類することも可能である。また、属性が不明な土砂として分類することも可能である。
【0044】
周囲物体特性設定部73は、例えば、周囲物体検出装置26により検出された周囲物体の種類及び属性に応じて次の表1のように接触特性を設定することが可能である。
【0045】
【0046】
表1に示すように、周囲物体が油圧ショベル1以外の他の機械(被積込機械100を含む)や人の場合には、バケット10との接触を許容しないことを示す接触禁止(表1中、×)の接触特性を設定する。これは、機械や人の安全性を確保するためである。また、周囲物体が被積込機械100の走行経路の地形(周囲地形)の場合でも、同様に、接触禁止の接触特性を設定する。これは、被積込機械100の走行経路の地形がバケット10との接触により荒らされることで、被積込機械100の走行の快適性が損なわれることを回避するためである。
【0047】
また、周囲物体が掘削開始位置の近傍の土砂(周囲地形)の場合、例えば、上部旋回体5が旋回動作に伴うバケット10の移動である第1条件下においてフロント作業装置2との接触を許容しないことを示す接触禁止の接触特性を設定する一方、上部旋回体5の旋回動作が無くフロント作業装置2のみの動作に伴うバケット10の移動である第2条件下においてバケット10との接触を許容することを示す接触許可の接触特性(表1中、〇)を設定する。ただし、この接触特性の設定は、当該土砂の硬さ(属性)が不明である場合に適用するものである。これは、上部旋回体5の旋回動作に伴い移動するバケット10が属性(硬さ)の不明な土砂(周囲地形)との接触により損傷するリスクやバケット10の先端部の偏摩耗を防止する観点から望ましい。
【0048】
また、周囲物体が掘削開始位置の近傍の土砂(周囲地形)であって当該土砂の周囲に鉱物が存在する場合には、属性(硬さ)が不明な土砂(周囲地形)の場合と同様に、第1条件下において接触禁止の接触特性を設定する一方、第2条件下において接触許可の接触特性を設定する。これは、上部旋回体5の旋回動作に伴い移動するバケット10が鉱物との接触により変形することを防止するためである。
【0049】
一方、周囲物体が掘削開始位置の近傍の土砂(周囲地形)であって当該土砂が所定よりも柔らかい場合には、上述の第2条件下において接触許可の接触特性を設定すると共に、上部旋回体5が旋回動作中でも接触許可の接触特性を設定するか、又は、上部旋回体5の旋回速度が所定速度よりも低速の場合に限って接触許可の接触特性を設定する。これは、旋回動作又は低速の旋回動作に伴い移動するバケット10が柔らかい土砂に接触したとしてもバケット10に変形や損傷が発生しないと想定されるためであり、バケット10の掘削開始位置への到達時間の短縮を優先させることを意図したものである。
【0050】
また、周囲物体特性設定部73は、例えば
図6に示すように、周囲物体検出装置26の検出情報を基に得られる周囲地形の作業開始前の形状と掘削作業中の形状とを比較し、周囲地形の作業開始前の形状に対する掘削作業中の形状の変化分の領域に対して、バケット10との接触を許容することを示す接触許可の接触特性を設定する構成も可能である。周囲地形の掘削作業中の形状のうち、周囲地形の作業開始前の形状に対する変化分の領域には、掘削作業により生じた土砂の形状が含まれていると想定される。掘削作業により生じた土砂に対してバケット10が接触しても、バケット10の損傷や消耗が生じることは考えにくい。そこで、本実施の形態においては、掘削作業により生じた土砂と想定される周囲地形に対しては、接触許可の接触特性を設定する。これにより、バケット10の掘削開始位置への到達時間の短縮を優先させることが可能である。
【0051】
評価関数設定部74と最適化演算部75は、例えば、モデル予測制御(Model Predictive Control:MPC)の枠組みを用いて油圧ショベル1の戻り動作の制御を行うための制御入力を演算するものである。モデル予測制御は、制御対象(油圧ショベル1)の動特性(例えば、運動方程式や伝達関数モデル)を用いて現時刻から有限時間先の制御対象の挙動を予測し、特定の評価関数を当該有限時間の区間において最小化するような制御入力を算出する方法である(モデル予測制御の詳細は、非線形最適制御入門、大塚敏之、コロナ社(2011)を参照)。
【0052】
評価関数設定部74は、周囲物体位置演算部72の演算結果である周囲物体の位置情報、周囲物体特性設定部73により設定された周囲物体の接触特性、掘削開始位置設定装置27からの指示に応じて設定する掘削開始位置(目標値)に基づき、最適化演算部75が実行する最適化演算で用いる評価関数を設定するものである。最適化演算部75は、評価関数設定部74により設定された評価関数を現時刻から有限時間先までの予測時間区間において最小化する最適化演算を行うことで、フロント作業装置2及び上部旋回体5の制御入力を制御周期ごとに演算するものである。評価関数の最適化演算では、姿勢演算部71の演算結果であるフロント作業装置2及び上部旋回体5の姿勢情報を現時刻の制御出力として用いて予測時間区間の評価関数の最適化演算を行うことで、予測時間区間における各時間ステップの制御入力を演算する。最適化演算部75は、演算結果の予測時間区間の各時間ステップの制御入力のうちの最初の時間ステップの制御入力を戻り動作の制御に用いる現制御周期の制御入力として、アクチュエータ制御部76へ出力する。なお、評価関数設定部74により設定されて最適化演算部75で用いられる評価関数の詳細については後述する。
【0053】
アクチュエータ制御部76は、最適化演算部75の演算結果であるフロント作業装置2及び上部旋回体5の制御入力を実現するための指令値に変換し、当該指令値に応じた制御信号を各電磁比例弁41a、41b~46a、46bへ出力する。
【0054】
次に、制御装置で用いられる評価関数について
図7~
図10を用いて説明する。
図7は
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における評価関数設定部による侵入禁止領域の設定方法の一例を示す説明図である。
図8は
図7に示す侵入禁止領域を基準座標系において示した図である。
図9Aは
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における評価関数設定部により設定されるペナルティコストへの重み(ペナルティ関数の係数)の第1例を示す図である。
図9Bは
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における評価関数設定部により設定されるペナルティコストへの重み(ペナルティ関数の係数)の第2例を示す図である。
図10は
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における評価関数の最適化演算で移動対象とするバケットの部位の一例を示す説明図である。
【0055】
評価関数設定部74及び最適化演算部75で用いるモデル予測制御では、評価関数の設定の前提として、制御対象である油圧ショベル1の動特性(数理モデル)が必要である。油圧ショベル1の戻り動作の動特性として、運動方程式を採用することが可能である。この場合、例えば、油圧ショベル1の上部旋回体5及びフロント作業装置2の3つの構成部材(ブーム8、アーム9、バケット10)を剛体の4リンク系で模擬することができる。この剛体の4リンク系の運動方程式は、次の式(1)で表現することができる。
【0056】
【0057】
なお、式(1)において、θ、ωはそれぞれ各リンクの角度、角速度(共に出力に相当)を示し、τは駆動トルク(制御入力に相当)を示している。また、θ、ω、τの下付き文字のSwg、Bm、Am、Bkはそれぞれ、上部旋回体5、ブーム8、アーム9、バケット10を示している。
【0058】
各リンクの動作は、油圧アクチュエータである旋回油圧モータ7、ブームシリンダ11、アームシリンダ12、バケットシリンダ13の駆動によって実現される。そのため、駆動トルクτは、次の式(2)のように、油圧アクチュエータ711、12、13に作用する圧油の圧力pに応じた変換式が必要である。なお、式(1)及び式(2)の詳細な説明は、本発明の本質的なものではないので、省略する。
【0059】
【0060】
また、油圧ショベル1の戻り動作の動特性(数理モデル)として、運動方程式に代えて、遅れ系の伝達関数を採用することも可能である。この場合、例えば、上部旋回体5及びフロント作業装置2の3つの構成部材(ブーム8、アーム9、バケット10)の動作について速度指令に対する遅れ系として、次の式(3)で表現することが可能である。
【0061】
【0062】
なお、式(3)におけるy、xはそれぞれ、速度の出力、速度の指令値(制御入力に相当)を示している。また、式(3)におけるs、ζ、ωnはそれぞれ、ラプラス演算子、減衰比、固有角周波数を示している。なお、式(3)のxと式(1)のxは異なる変数であることに留意する。
【0063】
評価関数設定部74は、上述の動特性を前提として、周囲物体位置演算部72の演算結果及び周囲物体特性設定部73により設定された周囲物体の接触特性に応じた条件を満たすような戻り動作を実現するための評価関数を設定する。戻り動作の終点位置(目標値)は、掘削開始位置設定装置27により設定された掘削開始位置である。
【0064】
具体的には、評価関数設定部74は、例えば、評価関数Jとして次の式(4)を設定する。なお、この評価関数Jは、上記式(1)の動特性(数理モデル)を採用した場合を例に挙げたものである。
【0065】
【0066】
式(4)は、式(4a)と式(4b)と式(4c)とを用いて構成されている。式(4a)は終端コストφであり、式(4b)はステージコストLである。式(4c)は、制約条件としてのペナルティコストPである。なお、式(4a)、(4b)、(4c)のK(x)は、上述の動特性の変数xをバケット10の先端の位置に変換する関数である。また、式(4a)、(4b)のydは、油圧ショベル1の戻り動作の終点(目標値)であり、掘削開始位置設定装置27により設定された掘削開始位置である。
【0067】
式(4a)及び式(4b)は共に、時刻tにおけるバケット10の先端位置を示すK(x(t))が掘削開始位置ydに近いほど値が小さくなる関数であることが分かる。つまり、式(4a)と(4b)によって、バケット10の先端が掘削開始位置に近づく制御入力が生成される。
【0068】
本実施の形態のペナルティコストPは、式(4c)に示すように、ペナルティ関数Fと重みμpの積として定義されている。ペナルティ関数Fは、バケット10の先端位置が後述の侵入禁止領域に侵入した時のみ大きな値を出力する一方、侵入禁止領域に侵入していない場合にはゼロを出力する関数である。重みμpは、周囲物体に対して設定された接触特性の接触禁止又は接触許可の条件に合致するように設定される関数である。
【0069】
侵入禁止領域は、周囲物体特性設定部73によって設定された周囲物体の接触特性に応じて設定される。例えば、周囲物体に対して接触禁止の接触特性が設定されている場合、当該周囲物体の形状と一致するように又は当該周囲物体を取り囲むように侵入禁止領域を設定する。また、周囲物体に対して条件付きで接触許可の接触特性が設定されている場合、当該条件の範囲外のときに接触禁止の接触特性が設定されていることと同義であるので、当該周囲物体に対しても上述と同様な侵入禁止領域が設定される。一方、周囲物体に対して条件無しの接触許可の接触特性が設定される場合には、周囲物体に対応する侵入禁止領域を設定しない。
【0070】
例えば、
図7の上図に示すように、掘削開始位置の周囲に土砂が存在する状況を想定する。この場合、掘削開始位置の近傍の土砂が周囲地形として検出される。掘削開始位置の近傍の土砂(周囲地形)に対しては、例えば表1で示したように、土砂の硬さ(属性)が不明である場合や周囲に鉱物が存在している場合、上部旋回体5が旋回動作中である条件下において接触禁止の接触特性が設定される。また、周囲地形が所定よりも柔らかい場合であっても、上部旋回体5が少なくとも所定速度以上の旋回動作中である条件下においてはバケット10との接触が許容されていない。
【0071】
そこで、掘削開始位置の近傍の土砂(周囲地形)に対して、
図7の下図に示すように、当該土砂を覆うように侵入禁止領域を設定する。侵入禁止領域は、例えば
図8に示すように、周囲物体位置演算部72の演算結果の周囲物体の位置情報に基づき基準座標系における3次元位置として定義することができる。侵入禁止領域が
図8に示すように設定された場合、ペナルティ関数Fは、バケット10の先端位置がX座標のx
minからx
maxまでの範囲、Y座標のy
minからy
maxまでの範囲、かつ、Z座標のz
minからz
maxまでの範囲にある場合、すなわち、バケット10の先端位置が侵入禁止領域の範囲内にある場合のみ、大きな値を出力する。
【0072】
重みμpは、周囲物体に対して設定された接触特性に応じて決定されるものである。重みμpは、例えば、上部旋回体5の旋回速度ωSwgの関数である。
【0073】
例えば、掘削開始位置の近傍の土砂(周囲地形)に対しては、前述したように、属性が不明な場合や周囲に鉱物が存在している場合には上部旋回体5が旋回動作中の条件下において接触禁止の接触特性が設定される。そこで、このような周囲地形の場合には、重みμpは、例えば、上部旋回体5の旋回速度ωSwgがゼロのときにゼロとなる一方、上部旋回体5の旋回速度ωSwgがゼロ以外のときにゼロよりも大きな値となるように設定される。このように重みμpを設定すると、バケット10の先端が侵入禁止領域に存在することでペナルティ関数Fが大きな値になったとしても、上部旋回体5の旋回速度ωSwgがゼロのとき、すなわち、フロント作業装置2のみが動作しているときに、重みμpが0になることで(式4c)に示すペナルティコストPが0となる。つまり、(式4c)のペナルティコストPは、条件付きの接触禁止の接触特性が反映された関数となっている。
【0074】
また、掘削開始位置の近傍の土砂(周囲地形)が所定よりも柔らかい場合には、上述したように、上部旋回体5が所定速度よりも低速の旋回動作中である条件下において接触許可の接触特性が設定される。換言すると、上部旋回体5が所定速度以上の旋回動作中である条件下では、バケット10との接触が許容されていない。このような周囲地形の場合、重みμpは、例えば
図9Aに示すように、上部旋回体5の旋回速度ω
Swgが所定速度ω0よりも低速のときにゼロとなる一方、旋回速度ω
Swgが所定速度ω0以上のときにゼロよりも大きな値で一定となるように設定される。このように重みμpを設定すると、バケット10の先端が侵入禁止領域に存在することでペナルティ関数Fが大きな値になったとしても、旋回速度ω
Swgが所定速度ω0よりも低速のとき、重みμpが0になることで(式4c)に示すペナルティコストが0となる。つまり、(式4c)のペナルティコストは、上部旋回体5が所定速度ω0以上の旋回動作中の条件下において接触禁止となる接触特性が反映された関数となる。なお、重みμpは、
図9Bに示すように、上部旋回体5の旋回速度ω
Swgが所定速度ω
A以下の低速のときにゼロとなる一方、旋回速度ω
Swgが所定の第1速度ω
Aよりも大きくなるにつれて値が大きくなり、旋回速度ω
Swgが所定の第2速度ω
B以上になると一定になるように設定することも可能である。
【0075】
(式4c)のペナルティコストPは、このように設定されたペナルティ関数Fと重みμpの積として定義される。このため、バケット10の先端が侵入禁止領域に対して所定の条件下で侵入すると、ペナルティコストPが大きな値のペナルティ関数Fとゼロでない値の重みμpとの積になるので、評価関数Jが大きな値となる。そのため、評価関数Jの最適化によってペナルティコストPが大きな値となる解が除外される。すなわち、重みμpが
図9A又は
図9Bに示すように設定されている場合、所定速度ω0又はω
Bよりも高速な旋回中のバケット10先端が侵入禁止領域へ侵入することを回避する経路で戻り動作が行われるような制御入力が算出される。一方、旋回動作が行われていない状態では、侵入禁止領域が考慮されない経路で戻り動作が行われるような制御入力が算出される。
【0076】
このように、評価関数Jは、バケット10の先端位置を掘削開始位置ydに近づける終端コストφ及びステージコストLと、設定された接触特性に応じた条件において当該先端位置を侵入禁止領域から遠ざけるペナルティコストPとで構成されている。
【0077】
また、上述の式(4)の評価関数Jを示す各項φ、L、PにおけるK(x)は、バケット10の先端位置を示すものとして説明した。しかし、K(x)は、
図10に示すように、バケット10の先端(頂点A)だけではなく、バケット10を包含するように設定した多角形の各頂点A、B、Cを演算対象として設定する構成も可能である。この場合、バケット10の先端(頂点A)のみならず、バケット10の底部(頂点Bや頂点C)も侵入禁止領域への侵入を回避する戻り動作の制御入力が演算されるので、接触禁止の接触特性が設定された周囲物体とバケット10の接触を確実に回避することができる。
【0078】
また、評価関数JのうちペナルティコストPの項において、バケット10の先端位置を対象とした関数に加えて、バケット10の幾何中心(
図10参照)を対象とした関数を追加する構成も可能である。具体的には、ペナルティコストPを上記の式(4c)と次の式(4d)とを組み合わせる構成が可能である。
【0079】
【0080】
式(4d)中、Kg(x)はバケット10の幾何中心位置を、μpgはバケットの幾何中心位置に関するペナルティ関数Fに対する重みを示している。式(4d)の重みμpgは、例えば、式(4c)の重みμpよりも大きくなるように設定することが可能である。また、上記の式(4c)の重みμpを
図9Aに示すように設定すると共に、式(4d)のμpgを旋回速度ω
Swgの大きさに無関係に0より大きな値に設定することも可能である。これは、所定値ω0よりも低速の旋回動作中において、バケット10の先端に対しては掘削開始位置付近の土砂(周囲地形)との接触(侵入禁止領域への侵入)を許容する一方、バケット10の幾何中心に対しては掘削開始位置付近の土砂(周囲地形)との接触(侵入禁止領域への侵入)を許容しない条件を示している。式(4d)のKg(x)及び重みμpgをバケット10の幾何中心位置を対象とした例を示したが、バケット10の幾何中心や先端以外の任意の部位を対象とする関数として設定することも可能である。
【0081】
次に、第1の実施形態に係る作業機械の制御装置における戻り動作の制御手順について
図11を用いて説明する。
図11は
図3に示す第1の実施形態に係る作業機械の制御装置による戻り動作の制御手順の一例を示すフローチャートである。
【0082】
図11において、制御装置60(
図3参照)は、例えば、操作装置50などに設けられた戻り動作用の開始スイッチがオペレータにより操作入力されたとき、又は、掘削積込作業を自動で行う制御を実行している場合には放土動作を終了したとき、戻り動作の制御を開始する(スタート)。制御装置60は、先ず、周囲物体検出装置26からの周囲物体の検出情報および掘削開始位置設定装置27からの指示である掘削開始位置の情報を取得する(ステップS10)。
【0083】
次に、制御装置60は、周囲物体検出装置26から取得した周囲物体の検出情報に基づき、検出された周囲物体の位置を演算すると共に(ステップS20)、検出された周囲物体に対する接触特性を設定する(ステップS30)。なお、ステップS20とS30の処理については順序を問わない。
【0084】
具体的には、制御装置60の周囲物体位置演算部72が、周囲物体検出装置26の検出情報に含まれる位置情報(例えば、周囲物体検出装置26からの距離など)を基に、検出された周囲物体の3次元位置を演算する。また、制御装置60の周囲物体特性設定部73は、例えば、周囲物体検出装置26の検出情報を基に得られる周囲物体の形状情報や予め内部記憶装置62や外部記憶装置80に記憶されている情報などから当該周囲物体の種類や属性を判別し、判別結果の種類や属性に応じた接触特性を当該周囲物体に対して設定する。周囲物体検出装置26の検出情報が画像データである場合には、入力装置28(
図3中の破線で示す)を兼ねる表示装置に表示させた周囲物体検出装置26の検出情報である画像に対してオペレータの操作により接触特性の設定を行うことも可能である。
【0085】
次いで、制御装置60は、ステップS10にて掘削開始位置設定装置27から取得した掘削開始位置とステップS20の処理結果である周囲物体の3次元位置とステップS30にて設定した接触特性とに基づき、評価関数Jを設定する(ステップS40)。具体的には、制御装置60の評価関数設定部74は、前述したように、バケット10の特定部分を目標値としての掘削開始位置ydに近づける終端コストφ及びステージコストLと、バケット10の特定部位を所定の条件下において侵入禁止領域から遠ざけるペナルティコストPとで構成された評価関数Jを設定する。ペナルティコストPにおける所定の条件は、周囲物体に対する接触特性に対応した重みとして規定されていると共に、侵入禁止領域が演算結果の周囲物体の位置に基づき規定されている。
【0086】
続いて、制御装置60は、ステップS40にて設定した評価関数を用いて制御入力を演算する(ステップS50)。具体的には、制御装置60の最適化演算部75は、姿勢演算部71の演算結果である上部旋回体5及びフロント作業装置2の姿勢情報を用いて現時点からの予測時間区間において評価関数設定部74により設定された評価関数を最適化する最適化演算を行うことで上部旋回体5及びフロント作業装置2の制御入力を演算する。
【0087】
さらに、制御装置60は、ステップS50の演算結果である上部旋回体5及びフロント作業装置2の制御入力を制御指令に変換して電磁比例弁41a、41b~46a、46bへ出力する(ステップS60)。これにより、電磁比例弁41a、41b~46a、46bが制御指令に応じて駆動するので、流量制御弁33に入力されるパイロット圧が制御される。その結果、流量制御弁33のストロークが制御されることで、演算結果の制御入力に応じて油圧アクチュエータ7、11、12、13が駆動する。
【0088】
次いで、制御装置60は、バケット10の先端が掘削開始位置に到達したか否かを判定する(ステップS70)。具体的には、姿勢検出装置20から取得した姿勢情報を基に姿勢演算部71が演算したバケット10の先端位置が掘削開始位置に到達したか否かを判定する。バケット10の先端が掘削開始位置に到達していないと判定した場合(Noの場合)には、ステップS50の戻り、ステップS70にてYESと判定するまでステップS50~S70を繰り返す。これにより、バケット10の先端が掘削開始位置に到達するまで戻り動作の制御を行う。バケット10の先端が掘削開始位置に到達したと判定した場合(Yesの場合)には、戻り動作の制御を終了する(エンド)。
【0089】
次に、第1の実施形態の作業機械の戻り動作の制御におけるバケットの経路について
図12~
図16を用いて説明する。第1に、戻り動作においてバケットと接触する周囲地形(周囲物体)が存在しない場合のバケットの経路を説明する。
図12は第1の実施形態に係る作業機械の戻り動作においてバケットと接触する周囲地形(周囲物体)が存在しない場合のバケット経路を示す説明図である。
【0090】
図12に示すように、掘削開始位置の近傍に戻り動作のバケットと接触する土砂などの周囲地形が存在しない場合を考える。この場合、掘削開始位置の近傍に侵入禁止領域が設定されないので、式(4)に示す評価関数Jのうち式(4c)のペナルティコストPがゼロ値となる。したがって、式(4c)のペナルティコストがゼロ値である評価関数Jの最適化演算の結果から得られた制御入力に基づいてバケット10の先端が掘削開始位置まで移動する。このため、上部旋回体5の旋回動作とフロント作業装置2の下げ動作の複合動作によって、バケット10が例えば
図12に示す白抜き矢印の方向である斜め下方へ移動することとなる。
【0091】
第2に、接触禁止の接触特性が設定される周囲地形が存在する場合の戻り動作時のバケットの経路について
図13及び
図14を用いて説明する。
図13は戻り動作においてバケットと接触する可能性がある周囲地形(周囲物体)が存在する場合のバケット経路の一例を示す説明図である。
図14は第1の実施形態に係る作業機械の戻り動作において接触禁止の接触特性が設定された周囲地形(周囲物体)が存在する場合のバケット経路を示す説明図である。
【0092】
図13に示すように、掘削開始位置の近傍にバケット10との接触可能性がある周囲地形(周囲物体)が存在する場合を考える。さらに、当該周囲地形は、旋回中のバケット10との接触を許容しない接触特性が設定される場合を考える。この場合、上部旋回体5の旋回動作とフロント作業装置2の下げ動作の複合動作によって、バケット10が
図12に示すような斜め下方へ移動して周囲地形に接触する経路を移動すると、式(4c)のペナルティコストの値によって評価関数Jが増大してしまう。
【0093】
本実施の形態においては、評価関数Jの最適化演算の結果から得られる制御入力に基づき戻り動作の制御を行う。したがって、上部旋回体5の旋回動作が行われている場合には、式(4c)のペナルティコストの値によって評価関数Jが増大することがないように、バケット10は
図14に示すように周囲地形(周囲物体)と接触しない経路を介してフロント作業装置2の動作のみで掘削開始位置に到達可能な位置まで移動する。それから、バケット10は、上部旋回体5の旋回動作無しにフロント作業装置2の動作のみによって掘削開始位置に到達する。
【0094】
第3に、接触許可の接触特性が設定される周囲物体が存在する場合の戻り動作時のバケットの経路について
図15を用いて説明する。
図15は第1の実施形態に係る作業機械の戻り動作において接触可能な接触特性が設定された周囲地形(周囲物体)が存在する場合のバケット経路を示す説明図である。
【0095】
図15に示すように、掘削開始位置の近傍にバケット10との接触可能性がある周囲地形(周囲物体)が存在する場合を考える。さらに、当該周囲地形は、旋回中のバケット10との接触を許容する接触特性が設定される場合を考える。この場合、バケット10が上部旋回体5の旋回動作とフロント作業装置2の下げ動作との複合動作によって
図12に示す場合と同様に斜め下方へ移動して周囲地形に接触する経路を移動すると、条件付きの接触許可を示す接触特性に対応した設定された式(4c)のペナルティコストがゼロ値になるので、評価関数Jは増大することがない。そのため、評価関数Jの最適化演算の結果から得られた制御入力に基づき戻り動作を制御すると、例えば
図15に示すように、上部旋回体5の旋回動作とフロント作業装置2の下げ動作との複合動作によって、バケット10が斜め下方へ移動して掘削開始位置まで移動する結果となる。
【0096】
このように、本実施の形態においては、旋回中のバケット10と掘削開始位置の近傍に存在する周囲地形(周囲物体)との接触の可否の条件を示す接触特性の設定に応じて、戻り動作中のバケット10の移動経路を変更する。例えば、周囲地形(周囲物体)が硬いと想定される場合には、旋回中のバケット10との接触を許容しない接触禁止の接触特性を当該周囲地形に設定することで、旋回中のバケット10の移動経路が当該周囲地形と接触しない経路となる。したがって、フロント作業装置2に生じる損傷の可能性を低減しつつ、掘削開始位置に到達することができる。また、周囲地形が柔らかいと想定される場合には、旋回中のバケット10との接触を許容することを示す接触許可の接触特性を当該周囲地形に設定することで、旋回中のバケット10の移動経路が当該周囲地形との接触を許容した経路となる。この場合、当該周囲地形との接触を許容することで、バケット10は当該周囲地形との接触を回避する経路よりも短い経路を介して掘削開始位置に到達することができる。
【0097】
また、本実施の形態においては、被積込機械100に対してバケット10との接触を全く許容しない接触禁止の接触特性を設定し、接触禁止の接触特性に応じて設定した評価関数Jの最適化演算から得られた制御入力に基づき戻り動作を制御する。これにより、例えば
図16に示すように、被積込機械100とバケット10との接触を回避する戻り動作を行うことができる。
図16は第1の実施形態に係る作業機械の戻り動作において被積込機械への放土動作終了時点からのバケット経路を示す説明図である。
【0098】
バケット10がダンプ動作により放土した後、被積込機械100に最も接近するバケット10の位置は先端部になる。そこで、評価関数JのペナルティコストPにおけるペナルティ関数Fを設定するときに、周囲物体である被積込機械100を包含するように侵入禁止領域を設定する。また、式(4c)のペナルティコストPにおける重みμpを接触禁止の接触特性に対応させて旋回速度ω
Swgと無関係に一定とする。このように評価関数JのペナルティコストPを設定すると、バケット10が被積込機械100に接触する経路(侵入禁止領域に侵入する経路)をとると、式(4c)のペナルティコストの値によって評価関数Jが増大してしまう。そのため、評価関数Jの最適化演算の結果から得られる制御入力に基づき戻り動作を制御すると、例えば
図16に示すように、被積込機械100とバケット10との接触を回避する戻り動作を行うことができる。
【0099】
上述したように、第1の実施形態に係る油圧ショベル1(作業機械)は、旋回可能な上部旋回体5(旋回体)と、上部旋回体5(旋回体)に対して上下方向に回動可能に取り付けられ、バケット10(作業具)を有する多関節型のフロント作業装置2(作業装置)と、上部旋回体5(旋回体)の周囲に存在する地形を含む物体を検出する周囲物体検出装置26と、上部旋回体5(旋回体)及びフロント作業装置2(作業装置)を制御する制御装置60とを備える。制御装置60は、フロント作業装置2(作業装置)が掘削対象の掘削を開始する位置である掘削開始位置に向かってバケット10(作業具)を移動させる戻り動作の制御を行うように構成されている。制御装置60は、周囲物体検出装置26により検出された物体である周囲物体に対してバケット10(作業具)との接触の可否を設定し、周囲物体のうち接触可に設定された周囲物体については、バケット10(作業具)の接触を許容しつつ戻り動作を行うように、上部旋回体5(旋回体)及びフロント作業装置2(作業装置)を動作させるように構成されている。
【0100】
この構成によれば、接触可に設定された周囲物体とバケット10(作業具)との接触を許容する戻り動作は、当該周囲物体との接触を回避する戻り動作の場合よりも、掘削位置までの経路を短くすることが可能となる。この場合、周囲物体に対するバケット10(作業具)との接触の可否をバケット10(作業具)の損傷可能性に応じて設定することで、バケット10(作業具)の損傷可能性を低減することができる。すなわち、掘削位置までの到達時間の短縮とバケット10(作業具)の周囲物体との接触による損傷可能性の低減とを両立させた戻り動作を行うことができる。
【0101】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)の制御装置60は、周囲物体に対してバケット10(作業具)との接触の可否の条件を示す接触特性を設定し、バケット10(作業具)の周囲物体に対する接触の有無が前記接触特性を満たしつつバケット10(作業具)が掘削開始位置に近づくような上部旋回体5(旋回体)及びフロント作業装置2(作業装置)の制御入力を演算し、当該演算された制御入力に基づき上部旋回体5(旋回体)及びフロント作業装置2(作業装置)を動作させるように構成されている。
【0102】
この構成によれば、周囲物体に設定された接触特性を満たしつつ掘削開始位置に近づくようにバケット10(作業具)を移動させることができるので、周囲物体に対する接触特性がバケット10(作業具)の損傷可能性の低さを考慮してバケット10(作業具)との接触を許容するよう設定されている場合、バケット10(作業具)が周囲物体を回避せずに掘削開始位置へ移動する経路を経ることで周囲物体を回避する経路よりも到達時間を短くすることができる。すなわち、掘削位置までの到達時間の短縮とバケット10(作業具)の周囲物体との接触による損傷の可能性の低減とを両立させた戻り動作を行うことができる。
【0103】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)の制御装置60は、周囲物体の種類又は属性を判別し、判別結果の周囲物体の種類又は属性に応じて接触特性を設定するように構成されている。
【0104】
この構成によれば、周囲物体検出装置26により検出された周囲物体の種類や属性を制御装置60がオペレータの操作を介さずに自動で判別して接触特性を設定するので、戻り動作時のオペレータの操作の手間を低減することができる。
【0105】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)の制御装置60は、オペレータにより操作される入力装置28からの指示に応じて接触特性を設定するように構成されている。
【0106】
この構成によれば、周囲物体検出装置26により検出された周囲物体に対してオペレータの判断に対応した接触特性が設定されるので、オペレータの意図した戻り動作を実現することが可能となる。
【0107】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)においては、接触特性が上部旋回体5(旋回体)の旋回動作に伴いバケット10(作業具)が移動する場合と上部旋回体5(旋回体)の旋回動作が無くフロント作業装置2(作業装置)の動作に伴いバケット10(作業具)が移動する場合とで周囲物体に対するバケット10(作業具)との接触の可否の条件が異なるように設定されている。
【0108】
この構成によれば、バケット10(作業具)の移動形態に応じて周囲物体に対する接触特性を変更することで、周囲物体との接触によるバケット10(作業具)の損傷の可能性を低減することができる。
【0109】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)においては、接触特性が周囲物体に対するバケット10の先端部(作業具の一部分)との接触の可否の条件を示すものである。
【0110】
この構成によれば、バケット10全体のうち先端部(作業具の一部分)の情報のみを用いて制御入力の演算を行うので、演算負荷を抑制することができる。
【0111】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)においては、接触特性が周囲物体に対するバケット10(作業具)の全体(頂点A、B、C)との接触の可否の条件を示すものである。
【0112】
この構成によれば、周囲物体に対するバケット10(作業具)の接触の有無についてバケット10(作業具)の全体が考慮されている制御入力が演算されるので、バケット10(作業具)の周囲物体に対する接触を確実に回避することができる。
【0113】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)においては、接触特性が、周囲物体に対するバケット10(作業具)の先端部(第1部分)との接触の可否の条件と、周囲物体に対するバケット10(作業具)の先端部(第1部分)とは異なる幾何中心(第2部分)との接触の可否の条件とが異なるように設定されている。
【0114】
この構成によれば、周囲物体に対して適切な接触特性を設定することで、掘削位置までの到達時間の短縮を優先したり、バケット10(作業具)の周囲物体との接触による損傷の可能性の低減を優先したりすることができる。
【0115】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)の制御装置60は、周囲物体が旋回体の周囲に存在する地形である周囲地形の場合、周囲物体検出装置26の検出情報を基に得られる周囲地形の作業開始前の形状と掘削作業中の形状とを比較し、周囲地形の作業開始前の形状に対する掘削作業中の形状の変化分の領域に対して、バケット10(作業具)との接触を許容する接触特性を設定するように構成されている。
【0116】
この構成によれば、周囲地形の作業開始前の形状に対する掘削作業中の形状の変化分の領域が掘削作業により生じた土砂と想定されるので、当該領域の土砂との接触よるバケット10(作業具)の損傷の可能性は低い。このことから、掘削位置までの到達時間の短縮を優先させることができる。
【0117】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)の制御装置60は、モデル予測制御の評価関数Jを用いて上述の制御入力の演算を行うように構成されている。制御装置60は、周囲物体検出装置26の検出情報に基づき周囲物体の位置を演算し、演算結果の周囲物体の位置に基づき設定した侵入禁止領域にバケット10(作業具)が侵入する条件の場合に値が増加するペナルティ関数Fと接触特性に応じて設定した重みμpとの積で表されたペナルティコストPを含むように評価関数Jを設定するように構成されている。
【0118】
この構成によれば、ペナルティコストPが周囲物体に設定された接触特性を反映させた関数となるので、評価関数Jのアルゴリズムを制御装置60に実装することで、本実施の形態の戻り動作の制御を実現することができる。
【0119】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態に係る作業機械について
図17及び
図18を用いて説明する。
図17は本発明の第2の実施形態に係る作業機械における制御装置の機能を示すブロック図である。
図18は掘削対象が鉱物を含む場合であると共に戻り動作においてバケットと接触する可能性がある周囲地形(周囲物体)が存在する場合を示す説明図である。なお、
図17及び
図18において、
図1~
図16に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0120】
第2の実施形態に係る作業機械が第1の実施形態と異なる点は、次のとおりである。第1に、油圧ショベル1は、作業機械自身のグローバル座標系の3次元位置に関する情報を検出する位置情報検出装置29を備えていることである。第2に、制御装置60Aは、周囲物体検出装置26により検出される周囲地形に対して、位置情報検出装置29の検出情報及び作業現場の地質情報を用いて接触特性を設定することである。
【0121】
具体的には、
図17に示す第2の実施形態に係る制御装置60Aでは、周囲物体検出装置26により検出される周囲地形に対する周囲物体特性設定部73Aの接触特性の設定方法が異なる。制御装置60Aは、第1の実施形態に係る制御装置60における周囲物体特性設定部73以外の機能部である姿勢演算部71、周囲物体位置演算部72、評価関数設定部74、最適化演算部75、アクチュエータ制御部76と同様な機能部を有している。
【0122】
制御装置60Aは、位置情報検出装置29と電気的又は通信可能に接続されていると共に、地質情報データベース81(以下、地質情報DBと称することがある)と通信可能に接続されている。位置情報検出装置29は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)を用いることで油圧ショベル1自体のグローバル座標系の位置を検出するものである。位置情報検出装置29は、例えば、測位衛星の衛星信号を受信するGNSSアンテナと、GNSSアンテナによって受信された衛星信号を基にGNSSアンテナのグローバル座標系の位置を演算するGNSS受信機とで構成されている。地質情報DB81は、グローバル座標の位置が付与されている掘削対象を含む作業現場の地形に対して硬度、粘性、単位体積当たりの質量などの地質情報を格納している。地質情報DB81は、グローバル座標の位置と関連付けられた掘削対象を含む作業現場の地質情報を通信装置を介して制御装置60Aへ送信する。
【0123】
制御装置60Aは、地質情報DB81から送信された地質情報を取得するように構成されている。なお、制御装置60Aは、当該地質情報を予め内部記憶装置62に記憶しておくように構成することも可能である。
【0124】
制御装置60Aの周囲物体特性設定部73Aは、位置情報検出装置29により検出された油圧ショベル1の位置及び姿勢演算部71の演算結果である上部旋回体5の姿勢情報を用いることで、周囲物体検出装置26により検出された周囲地形のグローバル座標系の位置を特定し、地質情報DB81から取得したグローバル座標の位置情報が付与された地質情報を参照することで、周囲地形の種類や属性を判別する。周囲物体特性設定部73Aは、さらに、周囲地形の種類や属性の判別結果に応じて当該周囲地形の接触特性を設定する。
【0125】
例えば、周囲物体検出装置26が検出した周囲地形に対応するグローバル座標系の位置の地質情報が所定よりも硬い土砂である場合、周囲物体特性設定部73Aは、当該周囲地形に対して旋回中のバケット10の接触を許容しない接触禁止の接触特性を設定する。
【0126】
また、周囲物体検出装置26が検出した周囲地形に対応するグローバル座標系の位置の地質情報が所定よりも柔らかい土砂である場合、当該周囲地形に対して旋回中のバケット10の接触を許容する接触許可の接触特性を設定する。ただし、
図18に示すように、地質情報DB81から取得した地質情報から掘削開始位置に掘削対象の鉱物が存在していることが判明している場合であって掘削開始位置の近傍の周囲地形の土砂を検出した場合、周囲物体特性設定部73Aは、検出された周囲地形の土砂が所定よりも柔らかい場合であっても、当該周囲地形に対して旋回中のバケット10の接触を許容しない接触禁止の接触特性を設定するように構成することも可能である。旋回中のバケット10が掘削開始位置の周囲地形に接触すると、周囲地形の土砂が落下して掘削対象の鉱物と混在してしまう懸念がある。そこで、周囲地形が所定よりも柔らかい土砂であっても、周囲地形の土砂と掘削対象の鉱物との混在を回避するために、上述したように旋回中のバケット10との接触を許容しない接触禁止の接触特性を設定する。
【0127】
上述した第2の実施形態によれば、前述した第1の実施形態の場合と同様に、周囲物体に設定された接触特性を満たしつつ掘削開始位置に近づくようにバケット10(作業具)を移動させることができるので、掘削位置までの到達時間の短縮とバケット10(作業具)の周囲物体との接触による損傷の可能性の低減とを両立させた戻り動作を行うことができる。
【0128】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)の制御装置60Aは、作業現場の地質情報を取得し又は予め記憶し、周囲物体が上部旋回体5(旋回体)の周囲に存在する地形である周囲地形の場合には、周囲地形に対して取得又は記憶している地質情報に応じて接触特性を設定するように構成されている。
【0129】
この構成によれば、周囲地形の接触特性を地質情報に基づく属性に応じて設定することができるので、バケット10(作業具)の周囲地形との接触による損傷の可能性を確実に低減することができる。
【0130】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態に係る作業機械について
図19を用いて説明する。
図19は第3の実施形態に係る作業機械における制御装置の機能を示すブロック図である。なお、
図19において、
図1~
図18に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0131】
第3の実施形態に係る作業機械が第2の実施形態に対して相違する点は、制御装置60Bが地質情報DB81の格納している地質情報の代わりに設計データベース82(以下、設計DBと称することがある)の格納している作業現場の設計情報に基づき周囲地形に対する接触特性を設定することである。
【0132】
具体的には、設計DB82は、グローバル座標の位置と関連付けられた作業現場の各地形を被積込機械100の走行経路や掘削作業の対象のベンチなどに分類した設計情報を格納している。設計DB82は、グローバル座標の位置と関連付けられた作業現場の設計情報を通信装置を介して制御装置60Bへ送信する。
【0133】
制御装置60Bは、設計DB82と通信可能に接続されており、設計DB82から送信された設計情報を取得するように構成されている。なお、制御装置60Bは、当該設計情報を予め内部記憶装置62に記憶しておく構成も可能である。
【0134】
制御装置60Bの周囲物体特性設定部73Bは、位置情報検出装置29により検出された油圧ショベル1の位置及び姿勢演算部71の演算結果の上部旋回体5の姿勢情報を基に周囲物体検出装置26により検出された周囲地形のグローバル座標系の位置を特定する。さらに、グローバル座標系の位置を特定した周囲地形の種類や属性について、設計DB82から取得した設計情報(グローバル座標系の位置が関連付けられている情報)を参照して判別する。周囲物体特性設定部73Bは、さらに、当該周囲地形に対して判別結果の種類や属性に応じて接触特性を設定する。
【0135】
例えば、周囲物体検出装置26により検出された周囲地形のグローバル座標系の位置に対応する設計情報が被積込機械100の走行経路の地形である場合、周囲物体特性設定部73Bは、当該周囲地形に対して旋回中のバケット10との接触を許容しない接触禁止の接触特性を設定する。これにより、バケット10の当該走行経路との接触を回避することができる。そのため、被積込機械100の走行経路の地形が荒らさずに維持されるので、被積込機械100の走行の快適性が損なわれることがない。
【0136】
上述した第3の実施形態によれば、前述した第2の実施形態と同様に、周囲物体に設定された接触特性を満たしつつ掘削開始位置に近づくようにバケット10(作業具)を移動させることができるので、掘削位置までの到達時間の短縮とバケット10(作業具)の周囲物体との接触による損傷の可能性の低減とを両立させた戻り動作を行うことができる。
【0137】
また、本実施の形態に係る油圧ショベル1(作業機械)の制御装置60Bは、被積込機械100の走行経路の情報を含む作業現場の設計情報を取得し又は予め記憶し、周囲物体が取得又は記憶している設計情報に含まれる走行経路に対応する地形である場合には、周囲物体に対してバケット10(作業具)との接触を許容しない接触特性を設定するように構成されている。
【0138】
この構成によれば、被積込機械100の走行経路に対するバケット10(作業具)の接触が回避されることで、当該走行経路が荒らされることがないので、被積込機械100の走行の快適性を維持することができる。
【0139】
[その他の実施の形態]
なお、本発明は本実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0140】
例えば、上述した第1~第3の実施の形態においては、フロント作業装置2の作業具としてバケット10を備える油圧ショベル1を例示した。しかし、バケット10以外の作業具を備える油圧ショベルに対しても本発明を適用することが可能である。また、旋回可能な旋回体に多関節型の作業装置が取り付けられているものであれば、油圧ショベル1以外の各種の作業機械に対しても本発明を適用することも可能である。
【0141】
また、上述した実施形態においては、掘削開始位置設定装置27が制御装置60に接続されている構成の例を示した。しかし、制御装置60が外部からの入力無しに掘削開始位置を設定する構成も可能である。例えば、周囲物体検出装置26により検出された周囲地形の情報を基に掘削開始位置を自動で判別する構成が可能である。
【0142】
また、上述した実施形態においては、操作装置50が電気式の操作レバー装置である構成の例を示した。しかし、操作装置は、油圧式の操作レバー装置で構成することも可能である。
【符号の説明】
【0143】
1…油圧ショベル(作業機械)、 2…フロント作業装置(作業装置)、 5…上部旋回体(旋回体)、 10…バケット(作業具)、 26…周囲物体検出装置、 28…入力装置、 60…制御装置、 100…被積込機械