(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132400
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20240920BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T8/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043142
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
(72)【発明者】
【氏名】山添 洋介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰輔
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246CA03
3D246DA01
3D246FA04
3D246GB15
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA39A
3D246HA43A
3D246HA44A
3D246HA45A
3D246HA64A
3D246HA94A
3D246HC13
3D246JA12
3D246JB11
3D246JB27
3D246JB32
3D246JB43
3D246LA04Z
3D246LA09Z
3D246LA15Z
3D246LA36Z
3D246LA52Z
3D246LA63Z
(57)【要約】
【課題】電気モータを有する制動装置の制御装置に関して、制動力を一定に保持する場合において電気モータの過熱を抑制する。
【解決手段】車両の制動装置20は、電気モータ513を駆動源とする電動シリンダ51を有する第1制動部50を備えている。制動装置20は、ホイールシリンダ11に接続する流路に設けられている差圧調整弁621を有する第2制動部23を備えている。電動シリンダ51が発生させる液圧を第1制動圧として、差圧調整弁621が調整する差圧を第2制動圧とする。制御装置100は、ホイールシリンダ11の液圧の目標値を目標WC圧として、目標WC圧よりも低い値に第1制動圧を保持するように電気モータ513の正転と逆転とを繰り返すとともに、差圧調整弁621の閉弁力を調整することによって、第1制動圧と第2制動圧との和によって目標WC圧を満たすように第1制動圧及び第2制動圧を発生させる過熱抑制処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ホイールシリンダ及び第2ホイールシリンダと、前記第1ホイールシリンダの液圧に応じた摩擦制動力を発生する第1車輪と、前記第2ホイールシリンダの液圧に応じた摩擦制動力を発生する第2車輪と、を備える車両に適用される制動装置であって、
ブレーキ液を貯留するリザーバタンクと、
シリンダとピストンと電気モータとによって構成されている電動シリンダを有し、前記リザーバタンクから供給されるブレーキ液を、前記電気モータの駆動に応じて移動する前記ピストンによって吐出することで、前記第1ホイールシリンダの液圧及び前記第2ホイールシリンダの液圧を調整することができる第1制動部と、
前記第1ホイールシリンダと前記第1制動部との間に介在するものであり、前記第1制動部から供給されるブレーキ液によって前記第1ホイールシリンダの液圧を調整することができる第2制動部と、
前記第1制動部及び前記第2制動部を制御する制御装置と、を備え、
前記第1制動部によってブレーキ液が加圧されることによる液圧の大きさを第1制動圧として、
前記第2制動部は、
前記第1ホイールシリンダに接続されている液圧回路と、
前記第1制動部と前記液圧回路とを接続する流路の間に配置されており、前記第1制動圧と前記液圧回路における液圧との差圧を調整する常開型の電磁弁であり、前記液圧回路における液圧を前記第1制動圧よりも高く調整できる差圧調整弁と、を備えるものであり、
前記制御装置は、
前記車両が停止している場合に、
前記第1ホイールシリンダの液圧を保持する目標値を目標WC圧として、前記差圧調整弁によって調整される差圧を第2制動圧として、
前記目標WC圧よりも低い値に前記第1制動圧を保持するように前記電気モータを第1方向に回転させる制御と前記第1方向とは反対方向である第2方向に前記電気モータを回転させる制御とを交互に繰り返すとともに、前記差圧調整弁の閉弁力を調整することによって、前記第1制動圧と前記第2制動圧との和によって前記目標WC圧を満たすように前記第1制動圧及び前記第2制動圧を発生させる過熱抑制処理を実行する
制動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記過熱抑制処理の実行中において所定条件が成立した場合には、前記第1制動圧を前記目標WC圧以上へ一時的に増大させる
請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記第2制動部は、前記第1ホイールシリンダと前記第1制動部との間及び前記第2ホイールシリンダと前記第1制動部との間に介在するものであり、前記第1制動部から供給されるブレーキ液によって前記第1ホイールシリンダの液圧及び前記第2ホイールシリンダの液圧を調整することができるものであり、
前記液圧回路は、第1液圧回路であり、
前記差圧調整弁は、第1差圧調整弁であり、
前記第2制動部は、
前記第2ホイールシリンダに接続されている第2液圧回路と、
前記第1制動部と前記第2液圧回路とを接続する流路の間に配置されており、前記第1制動圧と前記第2液圧回路における液圧との差圧を調整する常開型の電磁弁であり、前記第2液圧回路における液圧を前記第1制動圧よりも高く調整できる第2差圧調整弁と、をさらに備え、
前記制御装置は、
前記過熱抑制処理として、
前記第1差圧調整弁及び前記第2差圧調整弁のうち少なくとも前記第1差圧調整弁を制御対象弁として、前記第1液圧回路及び前記第2液圧回路のうち前記制御対象弁を備える液圧回路を対象液圧回路として、前記第1ホイールシリンダ及び前記第2ホイールシリンダのうち前記対象液圧回路に接続されているホイールシリンダの液圧を保持する目標値を前記目標WC圧として、前記制御対象弁によって調整される差圧を前記第2制動圧として、
前記目標WC圧よりも低い値に前記第1制動圧を保持するように前記電気モータを前記第1方向に回転させる制御と前記第2方向に前記電気モータを回転させる制御とを交互に繰り返すとともに、前記制御対象弁の閉弁力を調整することによって、前記第1制動圧と前記第2制動圧との和によって前記目標WC圧を満たすように前記第1制動圧及び前記第2制動圧を発生させる
請求項1又は2に記載の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気モータによって駆動される電動ピストンブレーキ装置が開示されている。この装置について、電気モータの正転と逆転とを繰り返すことによってピストン位置を保持する制御を行うことで、ピストン位置を保持しつつ電気モータの過熱を抑制することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第102019215313号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているようなピストン位置を保持する制御をピストンによって加圧する液圧を高くした状態で行おうとすると、電気モータにかかる負荷が大きくなりやすい。このため、液圧を高くした状態を保持する時間が長くなると、電気モータの温度上昇を抑制できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動装置は、第1ホイールシリンダ及び第2ホイールシリンダと、前記第1ホイールシリンダの液圧に応じた摩擦制動力を発生する第1車輪と、前記第2ホイールシリンダの液圧に応じた摩擦制動力を発生する第2車輪と、を備える車両に適用される制動装置であって、ブレーキ液を貯留するリザーバタンクと、シリンダとピストンと電気モータとによって構成されている電動シリンダを有し、前記リザーバタンクから供給されるブレーキ液を、前記電気モータの駆動に応じて移動する前記ピストンによって吐出することで、前記第1ホイールシリンダの液圧及び前記第2ホイールシリンダの液圧を調整することができる第1制動部と、前記第1ホイールシリンダと前記第1制動部との間に介在するものであり、前記第1制動部から供給されるブレーキ液によって前記第1ホイールシリンダの液圧を調整することができる第2制動部と、前記第1制動部及び前記第2制動部を制御する制御装置と、を備え、前記第1制動部によってブレーキ液が加圧されることによる液圧の大きさを第1制動圧として、前記第2制動部は、前記第1ホイールシリンダに接続されている液圧回路と、前記第1制動部と前記液圧回路とを接続する流路の間に配置されており、前記第1制動圧と前記液圧回路における液圧との差圧を調整する常開型の電磁弁であり、前記液圧回路における液圧を前記第1制動圧よりも高く調整できる差圧調整弁と、を備えるものであり、前記第1ホイールシリンダの液圧を保持する目標値を目標WC圧として、前記差圧調整弁によって調整される差圧を第2制動圧として、前記目標WC圧よりも低い値に前記第1制動圧を保持するように前記電気モータを第1方向に回転させる制御と前記第1方向とは反対方向である第2方向に前記電気モータを回転させる制御とを交互に繰り返すとともに、前記差圧調整弁の閉弁力を調整することによって、前記第1制動圧と前記第2制動圧との和によって前記目標WC圧を満たすように前記第1制動圧及び前記第2制動圧を発生させる過熱抑制処理を実行することをその要旨とする。
【0006】
上記構成では、車両が停止している場合に特定のホイールシリンダにおける目標WC圧を保持する際には、第1制動部及び第2制動部の両方を制御するようにしている。このため、電気モータを第1方向に回転させる制御と第2方向に回転させる制御とを交互に繰り返すことによって保持させる液圧を、目標WC圧から第2制動圧を引いた値まで低くすることができる。電動シリンダによって保持させる液圧を低く抑えることによって、ホイールシリンダの液圧を高く保持する状態が継続しても電気モータの温度上昇を抑制できる。このため、電気モータの過熱を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、制動装置の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の制動装置が備える制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図1の制動装置が備える制御装置が過熱抑制処理を実行した場合におけるホイールシリンダの液圧の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、制動装置の一実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、車両の制動装置20を示す。制動装置20は、車両の車輪に制動力を付与することができる制動部を備えている。制動装置20は、制動部として第1制動部50及び第2制動部23を備えている。制動装置20は、制動部を制御することができる制御装置100を備えている。
【0009】
図1には、車両の車輪として、前輪FL,FR及び後輪RL,RRを示している。車両は、制動操作部材21を備えている。制動操作部材21は、車両の運転者によって操作が可能である。制動操作部材21の一例は、ブレーキペダルである。
【0010】
制御装置100は、車両が備える処理回路の一例である。車両は、制御装置100に限らず、他の処理回路を備えていてもよい。制御装置100が実現する機能の一部は、他の処理回路によって実現されてもよい。車両が備える処理回路同士は、互いに情報の送受信が可能なように接続されているとよい。例えば、車両が備える車載ネットワークに各処理回路が接続されている構成を採用できる。車載ネットワークに接続されている各処理回路は、車載ネットワークを介して相互に通信が可能である。車載ネットワークには、例えば、車両が備える各種センサ等の検出系が接続されていてもよい。他の処理回路の一例として、自動運転制御装置が挙げられる。
【0011】
<制動装置>
制動装置20は、車輪FL,FR,RL,RRのそれぞれに対応した制動機構を備えている。制動機構によって、各車輪FL,FR,RL,RRに対して摩擦制動力を付与することができる。各制動機構が車輪FL,FR,RL,RRに付与する摩擦制動力は、制動装置20によって調整することができる。
図1には、制動機構として、車輪のうち前輪FL,FRに対応する前輪制動機構10Aと、車輪のうち後輪RL,RRに対応する後輪制動機構10Bと、を示す。
【0012】
制動装置20の一例は、液圧式の制動装置である。例えば、制動装置20は、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク24と、液圧発生装置22と、を備えている。液圧発生装置22の一例は、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式の液圧発生装置である。液圧発生装置22は、制動操作部材21の操作量に応じて液圧を発生させることができる。液圧発生装置22は、マスタ装置30と、第1制動部50と、によって構成されている。マスタ装置30は、第2制動部23にブレーキ液を供給することができる。第1制動部50は、マスタ装置30と第2制動部23とにブレーキ液を供給することができる。
【0013】
<制動機構>
前輪制動機構10A及び後輪制動機構10Bについて説明する。前輪制動機構10Aは、ブレーキ液が供給されるホイールシリンダ11と、車輪と一体に回転する回転板12と、回転板12に対して回転板12の板厚方向に相対移動する摩擦材13と、を有している。前輪制動機構10Aは、ホイールシリンダ11内の液圧であるWC圧Pwcが高いほど、摩擦材13を回転板12に強く押し付けるように構成されている。後輪制動機構10Bは、前輪制動機構10Aと同様に、ホイールシリンダ11、回転板12、及び摩擦材13によって構成されている。制動機構によれば、WC圧Pwcが高いほど、車輪FL,FR,RL,RRに付与する摩擦制動力が大きくされる。
【0014】
本実施形態の制動装置20では、前輪制動機構10A及び後輪制動機構10Bは、次の関係が成立するように構成されている。後輪制動機構10BにおいてWC圧Pwcに対して発生する制動力の大きさと比較して、前輪制動機構10Aでは、WC圧Pwcに対して発生する制動力の大きさが、大きくされている。具体的に例示すると、前輪制動機構10AにおけるWC圧Pwcと後輪制動機構10BにおけるWC圧Pwcとが等しい場合には、前輪FL,FRに付与される制動力の方が、後輪RL,RRに付与される制動力よりも大きくなるように構成されている。
【0015】
車両が備える複数のホイールシリンダのうち、前輪制動機構10Aが備えるホイールシリンダ11が第1ホイールシリンダに対応する。すなわち、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11が第1ホイールシリンダに対応する。左前輪FL及び右前輪FRが第1車輪に対応する。
【0016】
車両が備える複数のホイールシリンダのうち、後輪制動機構10Bが備えるホイールシリンダ11が第2ホイールシリンダに対応する。すなわち、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11が第2ホイールシリンダに対応する。左後輪RL及び右後輪RRが第2車輪に対応する。
【0017】
<マスタ装置>
マスタ装置30の一例は、マスタシリンダ31と、ストロークシミュレータ32と、マスタシリンダ31に繋がる複数の流路331,332,333と、ブレーキ液の流れを制御する複数の制御弁341,342と、を備えている。ストロークシミュレータ32は、制動操作部材21の操作量に応じた反力を発生させることができる。
【0018】
マスタシリンダ31は、メインシリンダ41とカバーシリンダ42とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43と入力ピストン44とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43を押す力を付与するマスタスプリング45と、入力ピストン44を押す力を付与する入力スプリング46と、を備えている。マスタピストン43及び入力ピストン44は、メインシリンダ41及びカバーシリンダ42に対して相対移動することができる。
【0019】
マスタシリンダ31の一例を、より詳しく説明する。
マスタシリンダ31のメインシリンダ41は、板状の底壁411と、底壁411から底壁411の軸線に沿って延びる第1周壁412と、を有している。さらにメインシリンダ41は、第1周壁412の後端から第1周壁412の軸線に沿って延びる第2周壁413と、第2周壁413の後端から第2周壁413の軸線に向かって延びる第1環状壁414と、を有している。第1周壁412及び第2周壁413の各々は筒状をなしている。第1環状壁414には、後述するマスタピストン43の後端部が挿し込まれている孔が形成されている。第1周壁412の内径は第2周壁413の内径よりも小さくなっている。
【0020】
メインシリンダ41内には、底壁411及び第1周壁412とマスタピストン43とによってマスタ室Rmが区画されている。以降では、マスタシリンダ31において、マスタピストン43の移動方向のうち
図1における左方、すなわちマスタ室Rmの容積を小さくする方向を「前方」という。一方で、マスタピストン43の移動方向のうち前方とは反対方向を「後方」という。後方は、マスタ室Rmの容積を大きくする方向でもある。
【0021】
メインシリンダ41内には、第2周壁413とマスタピストン43とによって第1液室R1が区画されているとともに、第2周壁413及び第1環状壁414とマスタピストン43とによってサーボ室Rsが区画されている。マスタ室Rmは、マスタシリンダ31の前端寄りの位置に形成されている。第1液室R1は、マスタ室Rmよりも後方に形成されている。サーボ室Rsは、第1液室R1よりも後方に形成されている。メインシリンダ41の内部において、マスタ室Rm、第1液室R1及びサーボ室Rsは、互いに接続していない。また、マスタピストン43がマスタ室Rmの液圧により軸方向、具体的には後方方向の力を受ける面積とマスタピストン43がサーボ室Rsの液圧により軸方向、具体的には前方方向の力を受ける面積とは等しい。
【0022】
マスタシリンダ31のカバーシリンダ42は、筒状をなす第3周壁421と、第3周壁421の後端から第3周壁421の軸線に向かって延びる第2環状壁422と、を有している。第3周壁421は、メインシリンダ41の第2周壁413と軸線が一致するように、第1環状壁414に取り付けられている。第2環状壁422には、後述する入力ピストン44の後端部が挿し込まれている孔が設けられている。
【0023】
カバーシリンダ42内には、第3周壁421と第2環状壁422とメインシリンダ41の第1環状壁414とによって第2液室R2が区画されている。マスタシリンダ31において、第2液室R2はサーボ室Rsよりも後方に形成されている。
【0024】
マスタピストン43は、メインシリンダ41の第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、マスタピストン43が軸方向に移動する場合には、マスタピストン43が第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面と摺動する。マスタピストン43の後端部は、第1環状壁414よりも後方に突出して、第2液室R2内に位置している。ここで、マスタピストン43が第2液室R2の液圧により軸方向、具体的には前方方向の力を受ける面積とマスタピストン43が第1液室R1の液圧により軸方向、具体的には後方方向の力を受ける面積とは等しい。
【0025】
入力ピストン44は、カバーシリンダ42の第2環状壁422の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、入力ピストン44が軸方向に移動する場合には、入力ピストン44が第2環状壁422の内周面と摺動する。入力ピストン44の後端部は、第2環状壁422よりも後方に突出している。そして、入力ピストン44の後端部に制動操作部材21が連結されている。このため、入力ピストン44は、制動操作部材21の操作量に応じて、マスタピストン43に接近する方向に移動する。また、第2液室R2において、入力ピストン44とマスタピストン43との間には隙間が形成されている。
【0026】
マスタスプリング45は、メインシリンダ41のマスタ室Rmに配置されている。マスタスプリング45は、マスタピストン43を後方に押す力をマスタピストン43に付与する。このため、マスタスプリング45は、マスタピストン43が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0027】
入力スプリング46は、カバーシリンダ42の第2液室R2に配置されている。入力スプリング46は、入力ピストン44を後方に押す力を入力ピストン44に付与する。このため、入力スプリング46は、入力ピストン44が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0028】
マスタシリンダ31において、マスタ室Rmはリザーバタンク24と接続されている。詳しくは、マスタ室Rmの後端寄りの部分がメインシリンダ41の第1周壁412に形成されるポートを介してリザーバタンク24と接続されている。このため、マスタピストン43が
図1に示す初期位置から前方に移動する場合には、マスタ室Rmとリザーバタンク24とが接続しなくなる。その結果、マスタピストン43の前方への移動に伴い、マスタ室Rmの液圧が増大する。例えばサーボ室Rsの液圧が高くなると、サーボ室Rsの液圧によってマスタピストン43が前方に移動する。これにより、マスタ室Rmの液圧が増大する。
【0029】
第1流路331は、マスタ室Rmと第2制動部23とを接続している。すなわち、第1流路331は、複数のホイールシリンダ11のうちの一部とマスタ室Rmとを接続する流路である。詳しくは、第1流路331は、第1ホイールシリンダに対応する前輪FL,FR用のホイールシリンダ11とマスタ室Rmとを接続する。第2流路332は、第1液室R1と第2液室R2とを接続している。第3流路333は、リザーバタンク24と第2流路332とを接続している。
【0030】
第1制御弁341は、常閉型の電磁弁である。第2制御弁342は、常開型の電磁弁である。第1制御弁341は、第2流路332における第3流路333との接続点と第2液室R2との間に配置されている。第2制御弁342は、第3流路333に設けられている。制動装置20の制御装置100が稼動している場合には、第1制御弁341は開弁され、第2制御弁342は閉弁される。
【0031】
ストロークシミュレータ32は、第2流路332における第1液室R1と第1制御弁341との間に配置されている。例えば、ストロークシミュレータ32は、内部にスプリングによって背面から押す力を付与されているピストンを有している。この場合、ストロークシミュレータ32は、第2流路332からブレーキ液が流入されることで内部のピストンがスプリングによる力に抗して変位すると、ピストンの変位に応じてブレーキ液に液圧を発生させる。当該ピストンの図示は省略している。具体的には、第1制御弁341が開弁し且つ第2制御弁342が閉弁した状態で、制動操作部材21の操作によって入力ピストン44が前方に移動すると、入力ピストン44が第2液室R2に進入する体積分だけ第2液室R2の容積が減少する。よって、第2液室R2から第2流路332に流出したブレーキ液がストロークシミュレータ32に流入する。この結果、ストロークシミュレータ32によって、第2流路332で繋がった第2液室R2と第1液室R1とに同じ液圧が発生する。マスタピストン43が第2液室R2の液圧により軸方向、具体的には前方方向の力を受ける面積とマスタピストン43が第1液室R1の液圧により軸方向、具体的には後方方向の力を受ける面積とは等しい。このため、第2液室R2と第1液室R1とに同じ液圧が発生している状態では、この液圧によってマスタピストン43が軸方向に動かされることはない。
【0032】
<第1制動部>
第1制動部50は、動力源としての第1電気モータ513を有する電動シリンダ51を備えている。第1制動部50は、第1電気モータ513の駆動量に応じて作動する電動シリンダ51によって、WC圧Pwcを調整することができる。すなわち、第1制動部50は、車両の車輪FL,FR,RL,RRに対して制動力を発生させることができる。
【0033】
第1制動部50の一例について説明する。
第1制動部50は、電動シリンダ51を備えている。第1制動部50は、液圧調整弁551と、チェック弁552とを備えていてもよい。
【0034】
第1制動部50は、電動シリンダ51とリザーバタンク24とを接続する第4流路54を備えている。第1制動部50は、第2制動部23と電動シリンダ51とを接続する第6流路58を備えている。第1制動部50は、マスタシリンダ31のサーボ室Rsと第6流路58とを接続する第5流路55を備えている。
【0035】
液圧調整弁551は、第5流路55に設けられている。液圧調整弁551は、第5流路55における液圧調整弁551よりもサーボ室Rs側の部分と、第5流路55における液圧調整弁551よりも電動シリンダ51側の部分との差圧を調整する電磁弁である。すなわち、液圧調整弁551は、サーボ室Rsへのブレーキ液の供給量を調整できる。
【0036】
チェック弁552は、液圧調整弁551に対して並列に、第5流路55に設けられている。チェック弁552は、サーボ室Rsから電動シリンダ51に向かうチェック弁552を通るブレーキ液の流動を許容する。一方で、チェック弁552は、電動シリンダ51からサーボ室Rsの方向へのチェック弁552を通るブレーキ液の流動を規制する。
【0037】
<電動シリンダ>
第1制動部50が備える電動シリンダ51は、第4流路54と第6流路58との間に設けられている。第4流路54は、電動シリンダ51の入力ポート515に接続されている。第6流路58は、電動シリンダ51の出力ポート516に接続されている。入力ポート515及び出力ポート516については後述する。
【0038】
図1を参照して、電動シリンダ51の構成について説明する。
電動シリンダ51は、シリンダ511と、ピストン512と、第1電気モータ513と、変換機構514と、を備えている。ピストン512は、シリンダ511内に摺動可能な状態で設けられている。第1電気モータ513は、電動シリンダ51の動力源である。変換機構514は、第1電気モータ513の出力軸の回転運動をピストン512の直線運動に変換する。
【0039】
第1電気モータ513の一例は、ブラシレスモータである。第1電気モータ513が備えているコイルは、例えば、U相、V相、W相からなる三相のコイルである。第1電気モータ513は、三相交流によって駆動する。
【0040】
第1電気モータ513は、駆動回路を備えている。駆動回路は、例えば、直流を三相交流に変換して第1電気モータ513のコイルに供給するインバータ回路である。駆動回路は、スイッチング素子等の半導体素子を備えている。スイッチング素子としては、MOSFET、IGBT等を採用することができる。
【0041】
シリンダ511の内部には、シリンダ511の周壁とピストン512とによって、ブレーキ液が導入される液圧室Reが区画されている。シリンダ511の内部でのピストン512の位置は、第1電気モータ513の駆動によって変更できる。以降では、ピストン512の移動方向のうち液圧室Reの容積を小さくする方向を「前進方向Za」という。ピストン512の移動方向のうち前進方向Zaとは反対方向を「後退方向Zb」という。後退方向Zbは、ピストン512の移動方向のうち液圧室Reの容積を大きくする方向でもある。
【0042】
シリンダ511の周壁には、液圧室Reと外部とを接続するポートとして、入力ポート515及び出力ポート516が形成されている。ピストン512には貫通孔517が形成されている。貫通孔517は、ピストン512が終点位置に位置するときに入力ポート515と液圧室Reとを連通させることのできる位置に形成されている。これによって、ピストン512が終点位置に位置する場合には、シリンダ511の液圧室Reは、入力ポート515及び貫通孔517を介して第4流路54と連通する。すなわち、シリンダ511の液圧室Reは、入力ポート515と貫通孔517とを介して、リザーバタンク24に連通する。入力ポート515は、ピストン512が終点位置から原点位置までの間に位置する際には開放されている。終点位置は、ピストン512を後退方向Zbにおける端部に移動させた位置である。原点位置は、終点位置から前進方向Zaにピストン512を規定の移動量だけ移動させた位置である。電動シリンダ51は、原点位置からピストン512が前進方向Zaに移動するとピストン512によって入力ポート515が閉塞されるように構成されている。このように入力ポート515がピストン512によって閉塞された後に、ピストン512がさらに前進方向Zaに移動する場合には、液圧室Reの液圧が増大する。
【0043】
シリンダ511の出力ポート516は、第6流路58を介して第2制動部23及び第5流路55に接続されている。出力ポート516は、ピストン512の位置にかかわらず、常時開放されている。このため、入力ポート515がピストン512に閉塞されている場合に、ピストン512が前進方向Zaに移動すると、液圧室Reのブレーキ液が出力ポート516からシリンダ511外に吐出される。
【0044】
なお、制動装置20が備える電動シリンダ51は、
図1に示すように、ピストン512を後退方向Zbに押す力を付与するスプリングを備えていない。電動シリンダ51としては、ピストン512を後退方向Zbに押す力を付与するスプリングを備えていてもよい。
【0045】
図1に示すように、第1制動部50は、解放流路56と、解放流路56に配置されている解放弁57と、を備えている。解放流路56は、電動シリンダ51を迂回するようにリザーバタンク24とホイールシリンダ11とを接続する流路である。解放流路56の第1端部が第4流路54に接続されている一方、解放流路56の第2端部が第6流路58に接続されている。具体的には、解放流路56は、第4流路54におけるリザーバタンク24と入力ポート515との間と、第6流路58における出力ポート516と第2制動部23との間と、を接続している。解放弁57は常閉型の電磁弁である。そのため、解放弁57を開弁する制御が行われていない場合、解放流路56は閉塞されている。
【0046】
<第2制動部>
図1に示すように、第2制動部23は、動力源としての第2電気モータ64を備えている。第2制動部23は、第2電気モータ64の駆動量に応じて車両の車輪FL,FR,RL,RRに対して制動力を発生させることができる。第2制動部23は、第1制動部50とホイールシリンダ11との間に介在している。
【0047】
第2制動部23の一例について説明する。
第2制動部23は、各車輪FL,FR,RL,RRのWC圧Pwcを個別に調整することができる制動アクチュエータである。第2制動部23は、ブレーキ液を吐出する第1ポンプ631及び第2ポンプ632を備えている。ポンプ631,632は、第2電気モータ64によって駆動される。
【0048】
第2制動部23は、第1制動部50によって調圧されたブレーキ液の液圧を増大させることなくWC圧Pwcを増大させることができる。制動装置20は、第1制動部50を上流側として第2制動部23を下流側とした冗長構成を有している。
【0049】
第2制動部23は、2系統の液圧回路611,612を有している。第1液圧回路611には、前輪FL,FR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。第2液圧回路612には、後輪RL,RR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。
【0050】
第1液圧回路611は、第1流路331及びマスタ室Rmを介してリザーバタンク24に接続されている。第1液圧回路611において、第1流路331との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第1差圧調整弁621が設けられている。当該液路には、第1差圧調整弁621に対してチェック弁が並列に設けられている。当該チェック弁は、第1流路331からホイールシリンダ11の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を許容する。一方、当該チェック弁は、ホイールシリンダ11から第1流路331の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を規制する。
【0051】
第2液圧回路612は、第4流路54と電動シリンダ51と第6流路58とを介してリザーバタンク24に接続されている。第2液圧回路612において、第6流路58との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第2差圧調整弁622が設けられている。当該液路には、第2差圧調整弁622に対してチェック弁が並列に設けられている。当該チェック弁は、第6流路58からホイールシリンダ11の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を許容する。一方、当該チェック弁は、ホイールシリンダ11から第6流路58の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を規制する。
【0052】
第1ポンプ631は、第1液圧回路611に設けられている。第1ポンプ631は、第1差圧調整弁621とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。第1ポンプ631から当該液路までの間には、チェック弁が直列に配置されている。このチェック弁は、第1ポンプ631から吐出される方向にブレーキ液が流動することを許容する。一方、当該チェック弁は、第1ポンプ631から吐出されたブレーキ液が第1ポンプ631に戻る方向にブレーキ液が流動することを規制する。
【0053】
第2ポンプ632は、第2液圧回路612に設けられている。第2ポンプ632は、第2差圧調整弁622とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。第2ポンプ632から当該液路までの間には、チェック弁が直列に配置されている。このチェック弁は、第2ポンプ632から吐出される方向にブレーキ液が流動することを許容する。一方、当該チェック弁は、第2ポンプ632から吐出されたブレーキ液が第2ポンプ632に戻る方向にブレーキ液が流動することを規制する。
【0054】
液圧回路611において第1差圧調整弁621よりもホイールシリンダ11側には、液圧回路611に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65a,65bが設けられている。同様に、液圧回路612において第2差圧調整弁622よりもホイールシリンダ11側には、液圧回路612に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65c,65dが設けられている。そして、複数の経路65a~65dには、ホイールシリンダ11の液圧の増大を規制する際に閉弁される保持弁66と、当該液圧を減少させる際に開弁される減圧弁67とが設けられている。すなわち、差圧調整弁621,622よりもホイールシリンダ11側の液路に保持弁66が配置されている。なお、複数の保持弁66は常開型の電磁弁であり、複数の減圧弁67は常閉型の電磁弁である。
【0055】
複数の経路65a~65dの各々には、保持弁66に対してチェック弁が並列に設けられている。当該チェック弁は、ホイールシリンダ11から差圧調整弁621,622の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を許容する。一方、当該チェック弁は、差圧調整弁621,622からホイールシリンダ11の方向にチェック弁を通るブレーキ液の流動を規制する。
【0056】
複数の液圧回路611,612には、減圧弁67が開弁しているときにホイールシリンダ11から減圧弁67を介して流出したブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ681,682が接続されている。複数のリザーバ681,682は、吸入用流路691,692を介してポンプ631,632に接続されている。
【0057】
リザーバ681は、第1差圧調整弁621とマスタ室Rmとを繋ぐ液路にタンク側流路701を介して接続されている。リザーバ682は、第2液圧回路612における第6流路58との接続点と第2差圧調整弁622とを繋ぐ液路にタンク側流路702を介して接続されている。
【0058】
第1ポンプ631は、リザーバ681を介してリザーバタンク24内のブレーキ液を汲み取ることができる。第1ポンプ631は、汲み取ったブレーキ液を第1差圧調整弁621と保持弁66との間の液路に吐出する。当該液路と第1ポンプ631との間の液路を、「中間液路711」という。
【0059】
第2ポンプ632は、リザーバ682を介してリザーバタンク24内のブレーキ液を汲み取ることができる。第2ポンプ632は、汲み取ったブレーキ液を第2差圧調整弁622と保持弁66との間の液路に吐出する。当該液路と第2ポンプ632との間の液路を、「中間液路712」という。
【0060】
<制動装置の検出系>
図1に示すように、制動装置20の検出系は複数のセンサを備えている。センサの検出信号は、制動装置20の制御装置100に入力される。
図1には、複数のセンサとして、マスタ液圧センサ351、入力液圧センサ352、制御圧センサ353、ストロークセンサSE1、温度センサSE2、及び車速検出部SE3を示している。制動装置20は、センサとしてWC圧センサSE4を備えていてもよい。
【0061】
マスタ液圧センサ351は、マスタ室Rm内の液圧を検出する。例えば、マスタ液圧センサ351は第1流路331に設けられている。マスタ液圧センサ351の検出値に基づいたマスタ室Rm内の液圧を「マスタ圧」という。
【0062】
入力液圧センサ352は、第2液室R2内の液圧を検出する。例えば、入力液圧センサ352は、第2流路332における第1制御弁341と第2液室R2との間の位置に接続されている。入力液圧センサ352の検出値に基づいた第2液室R2の液圧を「入力液圧」という。
【0063】
制御圧センサ353は、電動シリンダ51から供給されるブレーキ液の液圧を検出する圧力センサである。例えば、制御圧センサ353は、電動シリンダ51における出力ポート516の近くに設けられている。一例として
図1には、解放流路56における解放弁57と出力ポート516との間に制御圧センサ353が接続されている構成を示している。
【0064】
ストロークセンサSE1は、制動操作部材21の操作量を検出する。制動操作部材21の操作量は、運転者が要求する制動力に対応する。制動操作部材21の操作量に基づいて、運転者が要求するWC圧Pwcを算出できる。ストロークセンサSE1の検出値に基づいた運転者が要求するWC圧Pwcを「要求圧Pr」という。
【0065】
温度センサSE2は、第1電気モータ513の温度を検出する。第1電気モータ513の温度の一例は、第1電気モータ513が備えるコイルの温度である。第1電気モータ513の温度の他の例は、第1電気モータ513が備える駆動回路における半導体素子の温度である。半導体素子の温度は、例えば、スイッチング素子の温度である。温度センサSE2の検出値に基づいた第1電気モータ513の温度を「モータ温度Tm」という。
【0066】
車速検出部SE3の一例は、車輪速センサである。例えば、各車輪に対応する車輪速センサが設けられている。この場合には、車速検出部SE3は、車輪それぞれの車輪速度を検出する。車輪速度に基づいて車速を算出できる。車速検出部SE3は、前後加速度センサでもよい。この場合には、車速検出部SE3は、車両の前後加速度を検出する。車両の前後加速度に基づいて車速を算出できる。
【0067】
WC圧センサSE4は、ホイールシリンダ11の液圧を検出することができる。例えば、ホイールシリンダ11のそれぞれに対応するWC圧センサSE4が設けられている。あるいは、第1ホイールシリンダに対応する一つのセンサ及び第2ホイールシリンダに対応する一つのセンサの二つのセンサがWC圧センサSE4として設けられていてもよい。
【0068】
<制動装置の制御装置>
制御装置100は、液圧発生装置22が備えている各種の電磁弁341,342,551,57及び第1電気モータ513と、第2制動部23が備えている各種の電磁弁621,622,66,67及び第2電気モータ64と、を制御することができる。
【0069】
制御装置100は、制動要求に基づいて制動装置20を作動させることができる。制動要求は、例えば制動操作部材21の操作によって発生して制動操作部材21の操作が解消されることで解消される。この場合には、制御装置100は、制動操作部材21の操作量に基づいて算出される要求制動力を用いて制動装置20を作動させることができる。また、制動要求は、自動運転制御装置によって出力されることもある。この場合には、制御装置100は、自動運転制御装置が算出する要求制動力に基づいて制動装置20を作動させることができる。要求制動力をホイールシリンダ11における液圧の目標値に変換した値が要求圧Prに対応する。
【0070】
制御装置100は、WC圧Pwcの目標値として、要求圧Prを設定する。この場合には、制御装置100は、WC圧Pwcを要求圧Prに調整するように制動装置20を作動させる。以下では、WC圧Pwcの目標値のことを「目標WC圧」ということもある。目標WC圧に基づいて車輪FL,FR,RL,RRのWC圧Pwcが調整されることによって、要求制動力に対応した制動力が車輪FL,FR,RL,RRに付与される。
【0071】
<第1制動部によるWC圧の調整>
制御装置100は、第1制動部50を制御する機能を備えている。制御装置100は、第1制動部50を作動させて制動力を発生させることができる。
【0072】
制御装置100は、電動シリンダ51を作動させてWC圧Pwcを調整することができる。これによって、第1制動部50によって車両の車輪FL,FR,RL,RRに対して制動力を発生させることができる。第1制動部50によってブレーキ液が加圧されることによる液圧の大きさを第1制動圧P1という。第1制動圧P1は、制御圧センサ353の検出値に基づいた電動シリンダ51の吐出液圧に等しい。
【0073】
制御装置100は、目標WC圧が増大される場合には、マスタ圧が目標WC圧に応じた液圧まで増大するように、電動シリンダ51を制御する。具体的には、第1電気モータ513を制御することによってピストン512を前進方向Zaに移動させることで入力ポート515を閉塞させる。ピストン512の移動によって電動シリンダ51の出力ポート516から第6流路58を介して第5流路55にブレーキ液が供給される。第5流路55のブレーキ液は、マスタシリンダ31のサーボ室Rsに供給される。サーボ室Rsにブレーキ液が供給されることで、マスタピストン43が前方に移動する。すなわち、マスタシリンダ31は、電動シリンダ51からサーボ室Rsに供給されるブレーキ液によってマスタピストン43を前方に移動させることができる。続いて、第2制動部23の第1液圧回路611を介して、マスタ室Rmから前輪FL,FR用のホイールシリンダ11内にブレーキ液が供給される。その結果、前輪FL,FRのWC圧Pwcが目標WC圧まで増大される。また、電動シリンダ51の出力ポート516から第6流路58を介して第2制動部23の第2液圧回路612にブレーキ液が供給される。すなわち、第2制動部23の第2液圧回路612を介して、第6流路58から後輪RL,RR用のホイールシリンダ11内にブレーキ液が供給される。その結果、後輪RL,RRのWC圧Pwcが目標WC圧まで増大される。
【0074】
制御装置100は、目標WC圧が維持される場合には、電動シリンダ51の作動を継続する。一例として、ピストン512が移動しないように、第1電気モータ513に一定の電流を流し続ける。
【0075】
制御装置100は、目標WC圧が減少される場合には、マスタ圧が目標WC圧に応じた液圧まで減少するように電動シリンダ51を制御する。具体的には、第1電気モータ513を制御することによってピストン512を後退方向Zbに移動させることで、サーボ室Rsに供給されるブレーキ液の液圧を減少させる。また、ブレーキが解除された場合には、ピストン512を初期位置まで移動させて、貫通孔517と入力ポート515とを接続する。すなわち、入力ポート515を開放して液圧室Reとリザーバタンク24とを接続する。前述の様に、ピストン512を後退方向Zbに移動させること、あるいは、貫通孔517と入力ポート515を接続することによって、ブレーキ液がサーボ室Rsから液圧室Reに流入することができる。すると、マスタピストン43が後方に移動して、第2制動部23の第1液圧回路611を介して、ブレーキ液が前輪FL,FR用のホイールシリンダ11内からマスタ室Rmに流入することができる。その結果、前輪FL,FRのWC圧Pwcが目標WC圧まで減少する。また、ブレーキ液が後輪RL,RR用のホイールシリンダ11内から第6流路58を介して液圧室Reに流入する。その結果、後輪RL,RRのWC圧Pwcが目標WC圧まで減少する。
【0076】
<第2制動部によるWC圧の調整>
制御装置100は、第2制動部23を制御する機能を備えている。制御装置100は、第2制動部23を作動させて制動力を発生させることができる。
【0077】
以下、第2制動部23によってWC圧Pwcを調整する例を説明する。
第2制動部23は、第1制動部50が所定の第1制動圧P1を発生させている状態から第1制動圧P1を低下させたとしても、低下後の第1制動圧P1よりも高い液圧にWC圧Pwcを調整するように、第2制動圧P2を発生させることができる。
【0078】
第2制動部23は、第1制動部50が所定の第1制動圧P1を発生させている状態から第1制動圧P1を低下させた場合に、ポンプ631を作動させることなく第1差圧調整弁621を作動させることによって、差圧である第2制動圧P2を調整することができる。これによって、制動装置20では、第1差圧調整弁621よりも下流の液圧である第1液圧回路611の液圧を第1制動圧P1よりも高く維持することができる。このため、第1液圧回路611に接続されている第1ホイールシリンダにおけるWC圧Pwcを第1制動圧P1よりも高く維持することができる。こうした第1制動圧P1よりも高い液圧は、第1差圧調整弁621の閉弁力を調整することによって維持できる。第1差圧調整弁621の閉弁力は、第1差圧調整弁621を閉弁しようとする力である。第1差圧調整弁621の閉弁力は、第1差圧調整弁621を駆動する電流によって調整される。
【0079】
第2制動部23は、第1制動部50が所定の第1制動圧P1を発生させている状態から第1制動圧P1を低下させた場合に、ポンプ632を作動させることなく第2差圧調整弁622を作動させることによって、差圧である第2制動圧P2を調整することができる。これによって、制動装置20では、第2差圧調整弁622よりも下流の液圧である第2液圧回路612の液圧を第1制動圧P1よりも高く維持することができる。このため、第2液圧回路612に接続されている第2ホイールシリンダにおけるWC圧Pwcを第1制動圧P1よりも高く維持することができる。こうした第1制動圧P1よりも高い液圧は、第2差圧調整弁622の閉弁力を調整することによって維持できる。第2差圧調整弁622の閉弁力は、第2差圧調整弁622を閉弁しようとする力である。第2差圧調整弁622の閉弁力は、第2差圧調整弁622を駆動する電流によって調整される。
【0080】
制御装置100は、第2制動部23において上記差圧を発生させることで、第1制動部50によって調圧されたブレーキ液の液圧に対して差圧分だけWC圧Pwcを高くすることができる。
【0081】
他の例として、制御装置100は、第2電気モータ64の駆動量に応じてポンプ631,632を作動させることによって、WC圧Pwcを調整することもできる。このように第2制動部23は、ポンプ631,632による加圧を行うこともできる。
【0082】
<過熱抑制処理>
制御装置100は、車両が停止している場合に、過熱抑制処理を実行することができる。過熱抑制処理は、車両が停止している場合にWC圧Pwcを所定範囲に保持しつつ第1電気モータ513の温度上昇を抑制するために実行される。
【0083】
制御装置100は、過熱抑制処理を実行する際の処理の流れにおいて、第1判定値Tmth1と第2判定値Tmth2とを用いる。
第2判定値Tmth2は、例えば、第1電気モータ513が過熱状態にある場合のモータ温度Tmよりも規定温度だけ低い値である。第2判定値Tmth2は、例えば、モータ温度Tmが第2判定値Tmth2よりも大きい場合には、モータ温度Tmのさらなる上昇が好ましくない状態である値として予め実験等によって算出された値である。第2判定値Tmth2の一例は、100℃以上の値である。
【0084】
第1判定値Tmth1は、第2判定値Tmth2よりも低い値として設定されている。第1判定値Tmth1は、例えば、モータ温度Tmが第1判定値Tmth1よりも大きい場合にはモータ温度Tmが高い状態であるが、第1電気モータ513が過熱状態となるまでには余裕のある状態である値として設定されている。第1判定値Tmth1の一例は、80℃以上の値である。第1判定値Tmth1と第2判定値Tmth2との関係は、後述するように
図3の(a)に例示している。
【0085】
図2を用いて、制御装置100が過熱抑制処理を実行する際の処理の流れの一例を説明する。例えば、制御装置100は、本処理ルーチンを所定の周期毎に繰り返し実行する。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101において、制御装置100は、車両が停車中であるか否かを判定する。例えば、制御装置100は、車速に基づいて車両が停止していると判定できる場合に、車両が停車中であると判定することができる。例えば、制御装置100は、車速が「0」である場合に車両が停止していると判定できる。例えば、制御装置100は、車速が「0」ではない場合に車両が停止していないと判定できる。
【0086】
車両が停車中ではない場合には(S101:NO)、制御装置100は、処理をステップS113に移行する。一方、車両が停車中である場合には(S101:YES)、制御装置100は、処理をステップS102に移行する。
【0087】
ステップS102では、制御装置100は、要求圧Prを制限することができる。具体的には、制御装置100は、要求圧Pr及び第1制限値Paのうち小さい方の値を選択して要求圧Prを更新する。このため、要求圧Prが第1制限値Paよりも大きい場合には、要求圧Prが第1制限値Paと等しい値に制限される。一方で、要求圧Prが第1制限値Pa以下である場合には、要求圧Prは、制限されない。制限されない場合の要求圧Prは、制動操作部材21の操作量に基づく値である。第1制限値Paは、例えば、車両が停止している状態から動き出すことを抑制するためにWC圧Pwcとして保持することが好ましい値のうち最小の値である。第1制限値Paの一例は、8MPa以上の値である。制御装置100は、要求圧Prを制限するための処理を行った後、処理をステップS103に移行する。
【0088】
ステップS103では、制御装置100は、モータ温度Tmが第1判定値Tmth1よりも大きいか否かを判定する。
モータ温度Tmが第1判定値Tmth1以下である場合には(S103:NO)、制御装置100は、処理をステップS113に移行する。一方、モータ温度Tmが第1判定値Tmth1よりも大きい場合には(S103:YES)、制御装置100は、処理をステップS104に移行する。
【0089】
ステップS104では、制御装置100は、液圧系条件が成立しているか否かを判定する。
液圧系条件の一例を説明する。例えば、下記の条件A及び条件Bの両方が成立している場合に、液圧系条件が成立していると判定することができる。
【0090】
[条件A]要求圧Prが第1要求圧判定値Pth1よりも大きい。
第1要求圧判定値Pth1は、過熱抑制処理を実行する必要があるほど要求圧Prが高い値であるか否かを判定するために、予め実験等によって算出された値が設定されている。第1要求圧判定値Pth1は、要求圧Prが第1要求圧判定値Pth1以下である場合には、次のことがいえる要求圧Prの値として設定されている。例えば、第1要求圧判定値Pth1は、過熱抑制処理を実行することなく停止している車両に対して一定の制動力を発生させ続けても第1電気モータ513が過熱することがない要求圧Prの値として設定されている。
【0091】
[条件B]要求圧Prが変動してない。
制御装置100は、例えば、要求圧Prを時間微分した変動率が所定の変動幅以内である場合に、要求圧Prが変動してないと判定できる。制御装置100は、例えば、要求圧Prが一定の値に保持されている場合に、要求圧Prが変動してないと判定することもできる。
【0092】
制御装置100は、条件A及び条件Bのうち少なくとも一つの条件が成立している場合に液圧系条件が成立していると判定してもよい。
液圧系条件は、条件A及び条件B以外の条件を含んでいてもよい。この場合には、制御装置100は、条件A及び条件Bを含む複数の条件のうち少なくとも一つの条件が成立している場合に液圧系条件が成立していると判定してもよい。
【0093】
本明細書において使用される「少なくとも一つ」という表現は、所望の選択肢の「一つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも一つ」という表現は、選択肢の数が二つであれば「一つの選択肢のみ」又は「二つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも一つ」という表現は、選択肢の数が三つ以上であれば「一つの選択肢のみ」又は「二つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【0094】
ステップS104の処理において、液圧系条件が成立していない場合には(S104:NO)、制御装置100は、処理をステップS113に移行する。
一方、液圧系条件が成立している場合には(S104:YES)、制御装置100は、処理をステップS105に移行する。
【0095】
ステップS105では、制御装置100は、第2過熱抑制処理を実行中であるか否かを判定する。第2過熱抑制処理は、後述するステップS112の処理によって実行される処理である。第2過熱抑制処理を実行中である場合には(S105:YES)、制御装置100は、処理をステップS112に移行する。一方、第2過熱抑制処理を実行中でない場合には(S105:NO)、制御装置100は、処理をステップS106に移行する。
【0096】
ステップS106では、制御装置100は、モータ温度Tmが第2判定値Tmth2よりも大きいか否かを判定する。
モータ温度Tmが第2判定値Tmth2以下である場合には(S106:NO)、制御装置100は、処理をステップS111に移行する。
【0097】
一方、モータ温度Tmが第2判定値Tmth2よりも大きい場合には(S106:YES)、制御装置100は、処理をステップS107に移行する。
ステップS107では、制御装置100は、要求圧Prが第2要求圧判定値Pth2よりも大きいか否かを判定する。第2要求圧判定値Pth2については後述する。ここでは、制御装置100は、制限前の要求圧Pr及び第1制限値Paのうち小さい方の値が選択されている更新後の要求圧Prを用いて、判定を行う。
【0098】
要求圧Prが第2要求圧判定値Pth2以下である場合には(S107:NO)、制御装置100は、処理をステップS111に移行する。
一方、要求圧Prが第2要求圧判定値Pth2よりも大きい場合には(S107:YES)、制御装置100は、処理をステップS112に移行する。
【0099】
ステップS111では、制御装置100は、第1過熱抑制処理を実行する。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。第1過熱抑制処理の詳細は後述する。
ステップS112では、制御装置100は、第2過熱抑制処理を実行する。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。第2過熱抑制処理の詳細は後述する。
【0100】
ステップS113では、制御装置100は、第1過熱抑制処理及び第2過熱抑制処理を終了する。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。すなわち、制御装置100は、第1過熱抑制処理を実行中である場合には第1過熱抑制処理を終了した後、本処理ルーチンを終了する。制御装置100は、第2過熱抑制処理を実行中である場合には第2過熱抑制処理を終了した後、本処理ルーチンを終了する。第1過熱抑制処理及び第2過熱抑制処理のいずれも実行されていない場合には、制御装置100は、そのまま本処理ルーチンを終了する。
【0101】
以上のように、制御装置100は、過熱抑制処理として、第1過熱抑制処理と第2過熱抑制処理とを実行することができる。制御装置100は、モータ温度Tmが第1判定値Tmth1よりも大きく、且つ、モータ温度Tmが第2判定値Tmth2以下である場合に、第1過熱抑制処理を実行する。制御装置100は、モータ温度Tmが第2判定値Tmth2よりも大きい場合に、第2過熱抑制処理を実行する。制御装置100は、モータ温度Tmが第2判定値Tmth2よりも大きい場合であっても、要求圧Prが第2要求圧判定値Pth2以下である場合には、第1過熱抑制処理を実行する。
【0102】
ステップS105の処理において肯定判定がなされる場合、すなわちステップS105の処理が行われる時点で第2過熱抑制処理が既に実行中である場合には、制御装置100は、ステップS112の処理として第2過熱抑制処理の実行を継続する。
【0103】
ステップS105の処理において否定判定がなされる場合は、詳述すると、ステップS105の処理が行われる時点で第1過熱抑制処理及び第2過熱抑制処理のいずれも実行中でない場合、あるいは、第1過熱抑制処理が実行中である場合である。ステップS105の処理が行われる時点で第1過熱抑制処理及び第2過熱抑制処理のいずれも実行中でない場合、又は、第1過熱抑制処理が実行中である場合には、制御装置100は、ステップS106の処理を実行する。
【0104】
第2要求圧判定値Pth2は、予め実験等によって算出された値が設定されている。第2要求圧判定値Pth2は、第1要求圧判定値Pth1よりも大きい値である。例えば、第2要求圧判定値Pth2は、要求圧Prが第2要求圧判定値Pth2以下である場合には、第1過熱抑制処理の実行によってモータ温度Tmの上昇を抑制できる値である。例えば、第2要求圧判定値Pth2は、要求圧Prが第2要求圧判定値Pth2よりも大きい場合には、第1過熱抑制処理を実行してもモータ温度Tmが上昇しつづける値である。例えば、第2要求圧判定値Pth2は、要求圧Prが第2要求圧判定値Pth2よりも大きい場合には、第1過熱抑制処理を実行しても第1電気モータ513の過熱を抑制できない値である。
【0105】
また、第2要求圧判定値Pth2は、第1制限値Paよりも小さい値である。このため、ステップS102の処理として要求圧Prが第1制限値Paに制限されている場合には、要求圧Prは、第2要求圧判定値Pth2よりも大きい。要求圧Prが第1制限値Paよりも小さい場合、すなわち要求圧Prが制限されていない場合には、要求圧Prが第2要求圧判定値Pth2以下であることがある。
【0106】
なお、ステップS103の処理において否定判定がなされる場合、及びステップS104の処理において否定判定がなされる場合には、制御装置100は、過熱抑制処理を実行することなく停止中の車両に要求圧Prに応じた制動力を発生させる。例えば要求圧Prが保持されている場合には、制御装置100は、ピストン512が移動しないように第1電気モータ513に電流を流し続けることによって、停止中の車両に一定の制動力を発生させる。
【0107】
<第1過熱抑制処理>
第1過熱抑制処理の一例を説明する。
第1過熱抑制処理では、制御装置100は、WC圧Pwcを要求圧Prに調整するように制動装置20を制御する。ステップS102において要求圧Prが制限されている場合には、制御装置100は、WC圧Pwcを調整する目標値である目標WC圧として、第1制限値Paを設定する。一方で、要求圧Prが制限されていない場合には、制御装置100は、WC圧Pwcを調整する目標値である目標WC圧として、制動操作部材21の操作量に基づく値を設定する。
【0108】
第1過熱抑制処理では、制御装置100は、第1制動部50を制御して第1制動圧P1を発生させる。
制御装置100は、WC圧Pwcを目標WC圧に保持するために、第1電気モータ513を制御する。制御装置100は、第1電気モータ513を第1方向に回転させる制御と、第1方向とは反対方向である第2方向に第1電気モータ513を回転させる制御と、を交互に繰り返すことで第1制動圧P1を保持するように第1電気モータ513を制御する。例えば、第1方向がピストン512を前進方向Zaに移動させる方向に対応する。以下では、当該繰り返しによって第1制動圧P1を保持する制御のことを揺らし制御ということもある。上記のように電気モータ513が制御されることで、ピストン512が前進方向Zaへの移動と後退方向Zbへの移動とを交互に繰り返すようになる。この結果として、第1制動圧P1が所定範囲に保持される。当該所定範囲は、揺らし制御においてピストン512が往復する範囲に応じた範囲である。制御装置100は、第1制動圧P1を保持することによって、目標WC圧を含む所定範囲にWC圧Pwcを保持する。一例として、当該所定範囲の下限値が目標WC圧である。他の例として、当該所定範囲における中間の値が目標WC圧でもよい。
【0109】
第1電気モータ513を第1方向に回転させる制御と、第1電気モータ513を第2方向に回転させる制御とでは、第1電気モータ513の回転数の絶対値が等しい。第1電気モータ513を第1方向に回転させる制御を継続する時間と、第1電気モータ513を第2方向に回転させる制御を継続する時間とは、異なっていてもよいし等しくてもよい。
【0110】
第1過熱抑制処理では、制御装置100は、差圧調整弁621,622によって差圧を発生させない。具体的には、制御装置100は、差圧調整弁621,622を作動させないことで差圧調整弁621,622を開弁させた状態にする。
【0111】
<第2過熱抑制処理>
第2過熱抑制処理の一例を説明する。
第2過熱抑制処理では、制御装置100は、第1差圧調整弁621及び第2差圧調整弁622のうち少なくとも第1差圧調整弁621を制御する。以下では、第1差圧調整弁621及び第2差圧調整弁622のうち、第2過熱抑制処理において制御される差圧調整弁を制御対象弁という。すなわち、一例として、第1差圧調整弁621のみが制御対象弁である。他の例では、第1差圧調整弁621及び第2差圧調整弁622の両方が制御対象弁である。第2過熱抑制処理の実行中において制御対象弁によって調整される差圧を第2制動圧P2という。
【0112】
第1液圧回路611及び第2液圧回路612のうち制御対象弁を備える液圧回路を対象液圧回路とする。第1ホイールシリンダ及び第2ホイールシリンダのうち対象液圧回路に接続されているホイールシリンダのWC圧Pwcを保持する目標値を目標WC圧とする。
【0113】
例えば第1差圧調整弁621が制御対象弁である場合には、第1液圧回路611が対象液圧回路に対応する。第1差圧調整弁621が制御対象弁である場合には、第1液圧回路611に接続されている第1ホイールシリンダである前輪FL,FR用のホイールシリンダ11におけるWC圧Pwcの目標値が目標WC圧に対応する。
【0114】
例えば第2差圧調整弁622が制御対象弁である場合には、第2液圧回路612が対象液圧回路に対応する。第2差圧調整弁622が制御対象弁である場合には、第2液圧回路612に接続されている第2ホイールシリンダである後輪RL,RR用のホイールシリンダ11におけるWC圧Pwcの目標値が目標WC圧に対応する。
【0115】
第2過熱抑制処理では、制御装置100は、WC圧Pwcを要求圧Prに調整するように制動装置20を制御する。ステップS102において要求圧Prが制限されている場合には、制御装置100は、WC圧Pwcを調整する目標値である目標WC圧として、第1制限値Paを設定する。一方で、要求圧Prが制限されていない場合には、制御装置100は、WC圧Pwcを調整する目標値である目標WC圧として、制動操作部材21の操作量に基づく値を設定する。
【0116】
第2過熱抑制処理では、制御装置100は、第1制動部50を制御して第1制動圧P1を発生させる。第2過熱抑制処理では、制御装置100は、第2制動部23を制御して第2制動圧P2を発生させる。
【0117】
制御装置100は、目標WC圧よりも低い値に第1制動圧P1を保持するために、第1電気モータ513を制御する。例えば、制御装置100は、第1制動圧P1を第2制限値Pbに保持する。第2制限値Pbは、第1制限値Paよりも小さい値である。第2制限値Pbの一例は、第2要求圧判定値Pth2よりも小さい値である。例えば、第2制限値Pbは、第1制動圧P1が第2制限値Pb以下であれば、第1過熱抑制処理の実行によってモータ温度Tmの上昇を抑制できる値である。第2制限値Pbの一例は、第1要求圧判定値Pth1よりも大きい値である。第2制限値Pbの一例は、5MPa以下の値である。
【0118】
制御装置100は、第1制動圧P1を第2制限値Pbに保持するように第1電気モータ513を第1方向に回転させる制御と、第1方向とは反対方向である第2方向に第1電気モータ513を回転させる制御と、を交互に繰り返す。すなわち、制御装置100は、第1制動圧P1を第2制限値Pbに保持するように揺らし制御を行う。第1電気モータ513を第1方向に回転させる制御、及び第1電気モータ513を第2方向に回転させる制御は、第1制動圧P1の目標が異なる以外は第1過熱抑制処理における揺らし制御と共通している。
【0119】
制御装置100は、差圧調整弁621,622のうち制御対象弁を作動させる。このとき、制御装置100は、ポンプ631,632を作動させることなく制御対象弁を作動させる。制御装置100は、制御対象弁の閉弁力を調整することによって、第1制動圧P1と第2制動圧P2との和によって目標WC圧を満たすように第2制動圧P2を発生させる。
【0120】
例えば、第1差圧調整弁621及び第2差圧調整弁622の両方が制御対象弁である場合には、次のようになる。制御装置100は、第1ホイールシリンダにおけるWC圧Pwcと第2ホイールシリンダにおけるWC圧Pwcとの両方に関して、第1制動圧P1と第2制動圧P2との和によって目標WC圧を満たすように第2制動圧P2を発生させる。
【0121】
一方で、制御装置100は、制御対象弁ではない差圧調整弁については作動させない。具体的には、第1差圧調整弁621のみが制御対象弁である場合には、第2ホイールシリンダにおけるWC圧Pwcは、第1制動圧P1に制御される。すなわち後輪RL,RR用のホイールシリンダ11におけるWC圧Pwcは、第1制動圧P1に制御される。
【0122】
第2過熱抑制処理において、例えば、制御装置100は、揺らし制御を開始すると同時に制御対象弁を作動させる。又は、制御装置100は、制御対象弁を作動させた後に揺らし制御を開始してもよい。ここで、「揺らし制御を開始すると同時に制御対象弁を作動させる」とは、第1制動圧P1を第2制限値Pbに保持するように行う揺らし制御を開始する際に、第1制動圧P1が低下し始める前に制御対象弁を作動させることを意味する。このため、第1制動圧P1が低下し始めるまでの間であれば、第1制動圧P1を第2制限値Pbに低下させるように第1電気モータ513の制御を切り換えるタイミングと制御対象弁を作動させるタイミングとのずれは許容される。
【0123】
制御装置100は、第2過熱抑制処理の実行中において所定条件が成立した場合には、第1制動圧P1を目標WC圧以上へ一時的に増大させてもよい。第1制動圧P1を一時的に増大させた後は、第1制動圧P1を第2制限値Pbまで速やかに減少させることが好ましい。
【0124】
一例として、制御装置100は、第2過熱抑制処理を開始してから規定時間が経過する毎に、所定条件が成立していると判定することができる。この場合には、制御装置100は、第2過熱抑制処理の実行中において定期的に第1制動圧P1を増大させる。
【0125】
例えば、対象液圧回路に接続されているホイールシリンダ11のWC圧PwcがWC圧しきい値Pwthよりも小さくなった場合に、所定条件が成立していると判定することもできる。この場合には、制御装置100は、第2過熱抑制処理の実行中においてWC圧Pwcが減少したタイミングで第1制動圧P1を増大させる。この結果として、第1制動圧P1を増大させるタイミングが不定期になる場合もある。
【0126】
WC圧Pwcは、例えば、WC圧センサSE4の検出値に基づいて取得できる。WC圧しきい値Pwthの一例は、目標WC圧に対して「1.00」よりも小さい係数を乗算した値である。上記係数は、特に制限されない。上記係数は、例えば、0.90以上0.99以下の値を採用できる。
【0127】
第2過熱抑制処理によれば、例えば、過熱抑制処理が第1過熱抑制処理から第2過熱抑制処理に移行した場合に、対象液圧回路における液圧を第1制動圧P1よりも高く調整できる。第2過熱抑制処理では、例えば、第2過熱抑制処理を開始する際に第1制動圧P1を一時的に目標WC圧以上に増大させることで、第2過熱抑制処理の開始時に第1制動圧P1が低い場合でも、対象液圧回路における液圧を第1制動圧P1よりも高く調整できる。第2過熱抑制処理を開始する際に第1制動圧P1を一時的に増大させる構成を採用する場合は、第1制動圧P1を増大させた後では、第1制動圧P1を第2制限値Pbまで速やかに減少させることが好ましい。
【0128】
<作用及び効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
図3を用いて、制動装置20において制御装置100が過熱抑制処理を行う際の一例を説明する。
図3には、第2過熱抑制処理に関して第1差圧調整弁621のみを制御対象弁とした場合の例を示す。
【0129】
図3に示す例では、タイミングt1よりも以前から、車両が停車中であり且つ液圧系条件が成立している状態である。
図3に示す例では、この状態が継続している。
図3の(a)に示すように、タイミングt1よりも以前から、モータ温度Tmが第1判定値Tmth1よりも高くなっている。タイミングt1よりも前からモータ温度Tmは、上昇し続けている。モータ温度Tmは、タイミングt1において第2判定値Tmth2よりも大きくなっている。
【0130】
図3の(b)には、制限前の要求圧Prを二点鎖線で表示している。二点鎖線で示す制限前の要求圧Prは、第1制限値Paよりも大きい値を推移している。このため、制限後の要求圧Prは、第1制限値Paに制限されている。
図3の(b)には、制限後の要求圧Prを実線で表示している。第1制限値Paは第2要求圧判定値Pth2よりも大きい値であるため、制限後の要求圧Prは、第2要求圧判定値Pth2よりも大きい値を推移している。
【0131】
上記のような状態であるため、
図3に示す例では、タイミングt1よりも以前において、第1過熱抑制処理が実行されている(S111)。このため、
図3の(c)に示すように、第1過熱抑制処理によって、前輪FL,FRのWC圧Pwcが第1制限値Paに制限されている。
【0132】
より詳しく説明すると、タイミングt1よりも以前では、
図3の(c)に二点鎖線で示す第1制動圧P1を第1制限値Paに保持するように揺らし制御が行われている。このとき、実行されているのが第1過熱抑制処理であるため、
図3の(d)に示すように、差圧調整弁の制御による差圧は発生していない。この結果、タイミングt1よりも以前では、前輪FL,FRのWC圧Pwcは、第1制動圧P1と等しい。
図3の(c)に実線で示すように、前輪FL,FRのWC圧Pwcは、二点鎖線で示す第1制動圧P1と同様に第1制限値Paに保持されている。以上説明したことを改めて詳述すると、
図3の(c)におけるタイミングt1よりも以前には、前輪FL,FRのWC圧Pwcを示す実線と、第1制動圧P1を示す二点鎖線と、が重なるように推移している様子を示している。
【0133】
タイミングt1においてモータ温度Tmが第2判定値Tmth2よりも大きくなると、
図2に示すステップS106の処理において肯定判定がなされるようになる。このため、第2過熱抑制処理が実行される(S112)。
図3に示す例では、タイミングt1よりも前から第1過熱抑制処理が実行されているため、タイミングt1において、過熱抑制処理が第1過熱抑制処理から第2過熱抑制処理に移行することになる。
【0134】
第2過熱抑制処理が実行されることで、
図3の(c)に二点鎖線で示すように、第1制動圧P1が第2制限値Pbまで低下する。その後、第1制動圧P1を第2制限値Pbに保持するように揺らし制御が行われている。このとき、第1差圧調整弁621が作動されていることで、第2制動圧P2が発生している。第1差圧調整弁621は、第1制動圧P1と第2制動圧P2との和が第1制限値Paを満たす差圧を発生させるように制御されている。
図3の(d)には、第1差圧調整弁621が発生させることができる差圧の大きさを「Pc」と表示している。なお、
図3の(d)では、第1差圧調整弁621の保持漏れを考慮していない差圧の大きさを示している。このため、
図3の(d)に例示する差圧の大きさは、実際に発生している差圧の大きさとは一致していない。保持漏れを考慮していない場合の差圧の大きさは、第1制限値Paから第2制限値Pbを引いた値に相当する(Pc=Pa-Pb)。差圧が発生される結果、タイミングt1以降では、前輪FL,FRのWC圧Pwcは、第1制動圧P1と第2制動圧P2との和に等しい。
図3の(c)に実線で示すように、前輪FL,FRのWC圧Pwcは、第1制限値Paに保持されている。
【0135】
また、
図3に示す例では、タイミングt1からタイミングt2までの期間が、規定時間に対応している。このため、
図3の(c)に二点鎖線で示すように、第1制動圧P1は、タイミングt2において目標WC圧である第1制限値Pa以上まで一時的に増加されている。その後、第1制動圧P1が第2制限値Pbまで低下された後、第1制動圧P1を第2制限値Pbに保持する揺らし制御が再開されている。このように第1制動圧P1を一時的に増大させる制御は、第2過熱抑制処理の実行中において規定時間が経過する毎に定期的に行われる。例えば、タイミングt3においても同様に第1制動圧P1が一時的に第1制限値Pa以上まで増加されている。
【0136】
タイミングt1以降において第2過熱抑制処理が実行されることで、第1電気モータ513の負荷が軽減される。このため、タイミングt1以降ではモータ温度Tmの上昇が抑制されている。
図3の(a)には、タイミングt1以降においてモータ温度Tmが徐々に低下し始める例を示している。モータ温度Tmは、タイミングt1以降では、第1判定値Tmth1よりも高く、且つ、第2判定値Tmth2よりも低い範囲で推移している。
【0137】
制動装置20によれば、制御装置100が過熱抑制処理を実行することで、第1電気モータ513を揺らし制御によって駆動する。このため、第1電気モータ513の三相に負荷を分散させることができる。これによって、第1電気モータ513の特定の相が過熱することを抑制できる。
【0138】
制動装置20によれば、制御装置100が過熱抑制処理を実行することによって、第1電気モータ513が備えるスイッチング素子の温度上昇を抑制できる。また同様に、第1電気モータ513が備えるコイルの温度上昇を抑制できる。
【0139】
特に、制御装置100が実行する第2過熱抑制処理では、揺らし制御によって保持させる液圧を、目標WC圧から第2制動圧P2を引いた値まで低くすることができる。電動シリンダ51によって保持させる液圧を低く抑えることによって、ホイールシリンダ11の液圧を高く保持する状態が継続しても第1電気モータ513の温度上昇を抑制できる。このため、第1電気モータ513の過熱を抑制できる。例えば、第1制限値Paを8MPa以上の値に設定しても、第1電気モータ513の過熱を抑制しつつWC圧Pwcを第1制限値Paに保持した状態を4000秒以上継続できることを確認した。制御装置100によれば、停止中の車両において大きな制動力を確保するために高いWC圧Pwcが求められるような場合でも、第1電気モータ513の過熱を抑制することができる。
【0140】
制動装置20によれば、第1制動圧P1を発生させることなく第2制動圧P2のみによって目標WC圧を保持するような場合と比較して、制御装置100が第2過熱抑制処理を実行することによって制御対象弁にかかる負荷を軽減することができる。このため、制御対象弁の温度上昇を抑制できる。これによって、制御対象弁の過熱を抑制できる。
【0141】
第1制動圧P1と第2制動圧P2との和によって目標WC圧を満たすようにホイールシリンダ11の液圧を保持する場合には、液圧を保持した状態を継続する時間が長くなると、制御対象弁の微小な保持漏れによって、第2制動圧P2が低下するおそれがある。例えば、制御対象弁が閉弁されていても漏れが発生して制御対象弁をブレーキ液が通過することがある。仮に第2過熱抑制処理の実行中に第2制動圧P2が低下すると、第2制動圧P2の低下に伴ってWC圧Pwcが低下するおそれがある。
【0142】
そこで本実施形態の制動装置20では、第1制動圧P1を目標WC圧以上まで一時的に増大させることを所定条件が成立した場合に行うように構成している。こうした第1制動圧P1の増大によって、目標WC圧を第1制動圧P1のみによって一時的に満たすことができる。
図3の(c)には、二点鎖線で示す第1制動圧P1の一時的な増大によって、徐々に低下している実線で示すWC圧Pwcを繰り返し押し上げている例を示している。このように制動装置20によれば、第2過熱抑制処理の実行中に第2制動圧P2が仮に低下することでWC圧Pwcが徐々に低下するとしても、第1制動圧P1の増大によってWC圧Pwcを増大させられるため、目標WC圧の維持を継続することができる。これによって、WC圧Pwcをより長い時間保持することができる。
【0143】
例えば、
図3に示す例では、第1差圧調整弁621のみを制御対象弁とすることで、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11、すなわち第1ホイールシリンダのWC圧Pwcを保持するように構成している。一方で後輪RL,RR用のホイールシリンダ11、すなわち第2ホイールシリンダのWC圧Pwcは、第1ホイールシリンダのWC圧Pwcと比較して低くなる。なお、
図3を用いて説明した例において後輪RL,RR用のホイールシリンダ11におけるWC圧Pwcの推移は、
図3の(c)に二点鎖線で示す第1制動圧P1の推移に一致している。例えば、第1過熱抑制処理から第2過熱抑制処理に移行すると、WC圧Pwcの低下に応じて後輪RL,RRに発生する制動力が低下することになる。仮に第2差圧調整弁622のみを制御対象弁とする比較例を考えると、第1過熱抑制処理から第2過熱抑制処理に移行する際には、WC圧Pwcの低下に応じて前輪FL,FRに発生する制動力が低下することになる。このように、第1差圧調整弁621及び第2差圧調整弁622のうちいずれか一方を制御対象弁とする場合には、前輪FL,FR及び後輪RL,RRのうち一方の制動力を保持できるが他方の制動力が低下することになる。前輪FL,FR又は後輪RL,RRの制動力が低下すると車両全体における制動力が低下する。
【0144】
制動装置20によれば、特に第1差圧調整弁621のみを制御対象弁とする場合には、以下の効果を奏する。本実施形態において第1差圧調整弁621のみを制御対象弁とする場合には、第2差圧調整弁622のみを制御対象弁とする比較例に比して、第2過熱抑制処理を実行する際において車両全体における制動力の低下を軽減することができる。詳述すると、本実施形態では、後輪制動機構10BにおいてWC圧Pwcに対して発生する制動力の大きさと比較して、前輪制動機構10Aでは、同圧のWC圧Pwcに対して発生する制動力の大きさが、大きくされている。このため、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11におけるWC圧Pwcが低下するとしても、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11におけるWC圧Pwcが保持されていることで車両全体の制動力の低下幅を小さく抑えることができる。このように、制御装置100によれば、第2過熱抑制処理を実行することによって第1電気モータ513の過熱を抑制しつつも、制動力を確保しやすい。
【0145】
上記では、第2過熱抑制処理に関して第1差圧調整弁621のみを制御対象弁とした場合の例を説明した。本実施形態では、制動装置20が備える制御装置100は、第2過熱抑制処理において第1差圧調整弁621及び第2差圧調整弁622のうち少なくとも第1差圧調整弁621を制御対象弁とする。第1差圧調整弁621のみを制御対象弁とした場合には、上記のように、第1電気モータ513の過熱を抑制しつつ、第1ホイールシリンダのWC圧Pwcを第1制限値Paに保持することができる。制動装置20は、第2過熱抑制処理に関して第2差圧調整弁622も制御対象弁とした場合には、第1電気モータ513の過熱を抑制しつつ、第2ホイールシリンダのWC圧Pwcも保持することができる。この場合には、制動装置20は、第1ホイールシリンダのWC圧Pwcに加えて、第2ホイールシリンダのWC圧Pwcも第1制限値Paに保持することができる。
【0146】
本実施形態では、ステップS104の処理として液圧系条件が成立しているか否かを判定するよりも前に、要求圧Prを制限する処理を行うように構成している(S102)。このため、要求圧Prが第1制限値Paに制限されている場合には、液圧系条件が成立しやすい。これは、要求圧Prが第1制限値Paに制限されている場合には、液圧系条件における条件Bが必ず成立することによる。
【0147】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0148】
・上記実施形態では、温度センサSE2の検出値に基づく値をモータ温度Tmとして採用する例を示した。モータ温度Tmは、推定値を採用してもよい。例えば、第1電気モータ513の電流値、第1電気モータ513が駆動を継続している時間等からモータ温度Tmを推定することができる。
【0149】
・上記実施形態では、
図2を用いて説明したステップS103の処理において、モータ温度Tmを用いて判定を行うようにした。
これに替えて、車両の停車が継続している時間を用いて判定を行ってもよい。停車中の車両において制動力を確保するようにWC圧Pwcを保持している場合には、停車が継続している時間が長いほど、モータ温度Tmが高くなりやすいと推測できる。そこで、ステップS103の処理では、停車が継続している時間が規定の第1判定時間よりも長い場合に肯定判定を行うようにしてもよい。この場合には、停車が継続している時間が第1判定時間以下である場合には否定判定を行う。
【0150】
ステップS103の処理と同様に、ステップS106の処理においても、車両の停車が継続している時間を用いて判定を行ってもよい。例えば、ステップS106の処理では、停車が継続している時間が規定の第2判定時間よりも長い場合に肯定判定を行うようにしてもよい。この場合には、停車が継続している時間が第2判定時間以下である場合には否定判定を行う。なお、第2判定時間は、第1判定時間よりも長い値である。
【0151】
・上記実施形態では、ステップS101の処理において肯定判定がなされた場合にステップS102の処理を実行する例を示した。これに替えて、ステップS101の処理において肯定判定がなされた場合に、処理がステップS103に移行されてもよい。この場合には、制御装置100は、その後の処理の流れにおいてステップS102の処理として説明した処理を行ってもよい。例えば、ステップS102として説明した処理である要求圧Prを制限できる処理は、ステップS103の処理において肯定判定がなされた場合に、ステップS104の処理が行われる前に行われてもよい。例えば、要求圧Prを制限できる処理は、ステップS104の処理において肯定判定がなされた場合に、ステップS105の処理が行われる前に行われてもよい。例えば、要求圧Prを制限できる処理は、ステップS111の処理を行う直前に行われてもよい。例えば、要求圧Prを制限できる処理は、ステップS112の処理を行う直前に行われてもよい。以上のように、要求圧Prを制限できる処理は、第1過熱抑制処理又は第2過熱抑制処理を実行するよりも前に行えばよい。
【0152】
・上記実施形態では、要求圧Prを制限する例として、要求圧Pr及び第1制限値Paのうち小さい方の値を選択して要求圧Prを更新する構成を示した。これに替えて、制御装置100は、制限前の要求圧Prと制限後の要求圧Prとをそれぞれ保持するようにしてもよい。
【0153】
・第1差圧調整弁621のみを制御対象弁とする構成を採用する場合には、第2制動部23は、以下に示すいずれの構成でもよい。第2制動部23は、第2差圧調整弁622を備えていなくてもよい。第2制動部23は、第2液圧回路612に配置される各種の電磁弁66,67を備えていなくてもよい。第2制動部23は、第2液圧回路612を備えていなくてもよい。
【0154】
・第1差圧調整弁621のみを制御対象弁とする構成を採用する場合には、第2ホイールシリンダと第1制動部50との間には、第2制動部23が介在していなくてもよい。この場合には、第1制動部50から第2ホイールシリンダにブレーキ液が直接供給されることになる。
【0155】
・上記実施形態では、第1液圧回路611が第1流路331に接続されており、且つ、第2液圧回路612が第6流路58に接続されている構成を例示した。これに替えて、第1液圧回路611が第6流路58に接続されており、且つ、第2液圧回路612が第1流路331に接続されている構成を採用してもよい。
【0156】
・上記実施形態では、左前輪FL及び右前輪FRが第1車輪に対応し、且つ左後輪RL及び右後輪RRが第2車輪に対応する例を示した。
これに替えて、右前輪FR及び左後輪RLが第1車輪に対応し、且つ左前輪FL及び右後輪RRが第2車輪に対応していてもよい。この場合には、右前輪FRに対応するホイールシリンダ11及び左後輪RLに対応するホイールシリンダ11が第1ホイールシリンダである。左前輪FLに対応するホイールシリンダ11及び右後輪RRに対応するホイールシリンダ11は第2ホイールシリンダである。第1液圧回路には右前輪FRに対応するホイールシリンダ11及び左後輪RLに対応するホイールシリンダ11が接続されていることになる。第2液圧回路には左前輪FLに対応するホイールシリンダ11及び右後輪RRに対応するホイールシリンダ11が接続されていることになる。
【0157】
上記構成のような車両及び制動装置であっても、制御装置100による制御を適用することができる。すなわち、制御装置100が実行する過熱抑制処理を適用することができる。一例として、上記構成において少なくとも第1差圧調整弁を制御対象弁として第2過熱抑制処理を実行すると、右前輪FRのWC圧Pwc及び左後輪RLのWC圧Pwcの両方が、第1制動圧P1と第2制動圧P2との和によって目標WC圧に保持される。第1差圧調整弁及び第2差圧調整弁のうち第1差圧調整弁のみを制御対象弁として第2過熱抑制処理を実行すると、左前輪FLのWC圧Pwc及び右後輪RRのWC圧Pwcは、第1制動圧P1と等しくなる。
【0158】
・左後輪RL及び右後輪RRが第1車輪に対応し、且つ左前輪FL及び右前輪FRが第2車輪に対応していてもよい。上記構成のような車両及び制動装置であっても、制御装置100が実行する過熱抑制処理を適用することができる。
【0159】
・左前輪FL及び右後輪RRが第1車輪に対応し、且つ右前輪FR及び左後輪RLが第2車輪に対応していてもよい。上記構成のような車両及び制動装置であっても、制御装置100が実行する過熱抑制処理を適用することができる。
【0160】
・上記実施形態では、ストロークセンサSE1の検出値に基づいた運転者が要求するWC圧Pwcを「要求圧Pr」とした。これに限らず、自動運転制御装置が算出する要求制動力に基づいて、要求制動力をホイールシリンダ11における液圧の目標値に変換した値を要求圧Prとしてもよい。
【0161】
・制御装置100等の処理回路は、以下のように構成できる。処理回路は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える回路として構成できる。処理回路は、各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える回路として構成できる。処理回路は、各種処理のうち一部の処理を実行する一つ以上のプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する一つ以上のハードウェア回路とを組み合わせた回路として構成できる。
【0162】
プロセッサは、CPU等の処理装置を備える。プロセッサは、RAM及びROM等のメモリを備える。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。ハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。ハードウェア回路の他の例としては、FPGA等がある。
【符号の説明】
【0163】
100…制御装置
11…ホイールシリンダ
20…制動装置
23…第2制動部
24…リザーバタンク
50…第1制動部
51…電動シリンダ
511…シリンダ
512…ピストン
513…第1電気モータ
611…第1液圧回路
612…第2液圧回路
621…第1差圧調整弁
622…第2差圧調整弁