(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132401
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】複合粒子、導電性ペースト、および、電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H01G4/30 201C
H01G4/30 201D
H01G4/30 513
H01G4/30 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043143
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】舩山 耕生
(72)【発明者】
【氏名】小松 敬
(72)【発明者】
【氏名】田中 泰
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 耕太郎
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE27
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG11
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】熱収縮開始温度が高い複合粒子を提供すること。
【解決手段】大粒子と、大粒子の表面に付着してあり大粒子よりも粒径が小さい小粒子と、を有する複合粒子である。大粒子の平均結晶子径が、20nm以上80nm以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大粒子と、それぞれの前記大粒子の表面に付着してあり前記大粒子よりも粒径が小さい小粒子と、を有し、
前記大粒子の平均結晶子径が、20nm以上80nm以下である複合粒子。
【請求項2】
硫黄の含有率が、3000質量ppm以下である請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記大粒子に対する前記小粒子の平均被覆率が、18%以上である請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記大粒子の平均粒径が、20nm以上200nm以下である請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記大粒子の平均粒径に対する前記小粒子の平均粒径の比が、0.01以上0.30以下である請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項6】
前記大粒子が、ニッケル、または、Snを含有するニッケル合金を含む請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項7】
前記小粒子が、チタン酸バリウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、および、酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項8】
請求項1または2に記載の前記複合粒子、バインダ、および、溶剤を含む導電性ペースト。
【請求項9】
請求項8に記載の前記導電性ペーストを用いて形成された電極層を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極層を有する電子部品と、当該電子部品の電極層の形成に用いる複合粒子および導電性ペーストと、に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品では、小型化および大容量化の要求に伴って、セラミック層および内部電極層の薄層化が進んでいる。ただし、内部電極層を薄層化させると、セラミック層と内部電極層との間の焼結開始温度の差に起因して、焼結後の内部電極層にクラックや途切れが発生し、セラミック層に対する内部電極層の被覆率が低下することがある。
【0003】
焼結開始温度の差を小さくするため方策として、セラミック共材粉末を添加した導電性ペーストを用いて、内部電極層を形成する方法が提案されている(たとえば、特許文献1)。セラミック共材粉末を導電性ペースト中に添加することで、内部電極層の焼結を遅延させる効果(焼結遅延効果)が期待できる。しかしながら、このような導電性ペーストでは、セラミック共材粉末が凝集し易く、内部電極層を焼結させる過程で金属成分が球状化し、十分な焼結遅延効果が得られないことがある。また、セラミック共材粉末が、セラミック層に拡散し、セラミック層の組成に影響を及ぼす可能性もある。
【0004】
上記の方策の他に、導電性ペーストの原料粉末として、金属粒子の表面に微小なセラミック粒子を固着させた複合粒子を用いる方法も提案されている(たとえば、特許文献2)。このような複合粒子の熱収縮開始温度は、複合化していない金属粒子よりも高くなる。また、表面に固着したセラミック粒子は、導電性ペースト中に個別で添加されるセラミック共材粉末よりは凝集し難い。そのため、上記のような複合粒子を導電性ペーストの原料粉末として用いることで、内部電極層の被覆率の向上が期待できる。
【0005】
ただし、近年、セラミック電子部品における薄層化への要求はさらに高まっており、原料粉末として使用する複合粒子の熱収縮特性の更なる向上が求められている。たとえば、特許文献2では、0.2μmまたは0.5μmの平均粒径(フェレ径換算)を有するNi粒子を用いて、複合粒子の熱収縮特性を評価しているが、近年の薄層化への要求を満たすためには、特許文献2よりも粒径が小さい金属粒子を用いる必要がある。しかしながら、金属粒子を小径化すると、熱収縮開始温度が低くなり、内部電極層の被覆率を十分に確保できない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-55314号公報
【特許文献2】特開2000-282102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明における例示的な実施形態の目的は、熱収縮開始温度が高い複合粒子、および、当該複合粒子を用いた導電性ペースト、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る複合粒子は、
大粒子と、それぞれの前記大粒子の表面に付着してあり前記大粒子よりも粒径が小さい小粒子と、を有し、
前記大粒子の平均結晶子径が、20nm以上80nm以下である。
【0009】
複合粒子が上記の特性を有することで、熱収縮開始温度を従来よりも高くすることができる。
【0010】
好ましくは、前記複合粒子に含まれる硫黄の含有率が、3000質量ppm以下である。
【0011】
好ましくは、前記大粒子に対する前記小粒子の平均被覆率が、18%以上である。
【0012】
好ましくは、前記大粒子の平均粒径が、20nm以上200nm以下である。
【0013】
好ましくは、前記大粒子の平均粒径に対する前記小粒子の平均粒径の比が、0.01以上0.30以下である。
【0014】
好ましくは、前記大粒子が、ニッケル、または、Snを含有するニッケル合金を含む。
【0015】
好ましくは、前記小粒子が、チタン酸バリウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、および、酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種を含む。
【0016】
本発明に係る導電性ペーストは、上記の複合粒子、バインダ、および、溶剤を含む。また、本発明に係る電子部品は、前記導電性ペーストを用いて形成された電極層を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る積層セラミック電子部品を示す断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る複合粒子の断面を示す模式図である。
【
図3】
図3は、複合粒子における平均被覆率の測定方法を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、複合粒子における平均被覆率の測定方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、複合粒子における平均被覆率の測定方法を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、接線法による熱収縮開始温度の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
第1実施形態 複合粒子
図2に示すように、本実施形態に係る複合粒子12は、それぞれ、1つの大粒子14と、当該大粒子14の表面に付着してある複数の小粒子16と、を有する。
【0020】
大粒子14は、導電性を有する金属粒子であり、主成分として、Ni、Cu、Ag、Pd、または、これらの金属元素から選択される少なくとも1種を含む合金が含まれていてもよい。大粒子14は、Ni粒子、または、Snを含むNi合金粒子(以下、NiSn系合金粒子と称する)であることが好ましい。
【0021】
大粒子14がNi粒子である場合、Niの純度は、たとえば、98wt%以上であることが好ましく、Niの他に、Fe、Co、Cr、Mn、Cu、Pd、Mg、Si、Ca、Na、K、Cl、O、C、および、Nなどの微量元素が含まれていてもよい。大粒子14がNiSn系合金粒子である場合においても、上記の微量元素が含まれていてもよい。NiSn系合金の大粒子14におけるNiとSnの比率は特に限定されず、たとえば、Snの含有率が1wt%以上50wt%以下であってもよい。
【0022】
複合粒子12では、各大粒子14が同じ材質を有していてもよいし、大粒子14が材質の異なる2種以上の粒子群を含んでいてもよい(つまり、材質が異なる2種以上の大粒子14が混在していてもよい)。本実施形態において、「材質が異なる」とは、粒子を構成する元素が異なる場合、または、粒子を構成する元素が同じであってもその組成比が異なる場合などが挙げられる。
【0023】
大粒子14の平均粒径(R)は、200nm以上であってもよく、必ずしも限定されないが、複合粒子12を用いて形成する電極層の厚みを薄くする観点から、20nm以上200nm以下であることが好ましく、20nm以上150nm以下であることがより好ましく、30nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。また、大粒子14の粒度分布における変動係数(標準偏差/平均粒径)は、特に限定されないが、たとえば、30%以下であってもよい。大粒子14が材質の異なる2種以上の粒子群を含む場合、各粒子群が、それぞれ異なる粒度分布を有していてもよいが、各粒子群の平均粒径が、上記の範囲内であることが好ましい。
【0024】
なお、本実施形態において、「平均粒径」は円相当径の算術平均値を意味し、「粒度分布」は円相当径の分布を意味する。
【0025】
本実施形態の複合粒子12では、大粒子14の平均結晶子径(DC)が、20nm以上80nm以下であり、20nm超過80nm以下であることが好ましく、20nm超過50nm以下であることがより好ましく、30nm以上50nm以下であることがさらに好ましい。ここで、結晶子径は、各大粒子14の内部に存在する結晶のサイズを意味する。
【0026】
大粒子14の平均結晶子径(D
C)は、X線回折法(XRD)により測定すればよい。具体的に、複合粒子12のX線回折チャートを2θ/θ測定により取得し、当該X線回折チャートにおいて、大粒子14に由来する回折ピークを同定する。そして、同定した回折ピークから、シェラー式(以下の数式1)に基づいて、大粒子14の平均結晶子径(D
C)を算出すればよい。
【数1】
【0027】
小粒子16は、大粒子14よりも粒径が小さい酸化物粒子である。小粒子16の材質は特に限定されず、たとえば、小粒子16が、チタン酸バリウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、および、酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましく、チタン酸バリウムまたは酸化ケイ素をふくむことがより好ましく、チタン酸バリウムを含むことがさらに好ましい。複合粒子12では、各小粒子16が同じ材質を有していてもよいし、小粒子16が材質の異なる2種以上の粒子群を含んでいてもよい(つまり、材質が異なる2種以上の小粒子16が混在していてもよい)。
【0028】
小粒子16の平均粒径(r)は、必ずしも限定されないが、たとえば、3nm以上30nm以下であることが好ましく、3nm以上20nm以下であることがより好ましい。小粒子16が材質の異なる2種以上の粒子群を含む場合、各粒子群が、それぞれ異なる粒度分布を有していてもよいが、各粒子群の平均粒径が、上記の範囲内であることが好ましい。また、大粒子14の平均粒径に対する小粒子16の平均粒径の比(r/R)は、0.01以上0.30以下であることが好ましく、0.01以上0.20以下であることがより好ましく、0.03以上0.17以下であることがさらに好ましい。r/Rを上記の範囲内に設定することで、後述する立体障害をより効果的に発揮させることができる。
【0029】
本実施形態では、各大粒子14が、複合粒子12におけるコア粒子である。一方、各小粒子16は、大粒子14よりも小さい粒径を有し、複合粒子12において立体障害を生み出す働きを示す。立体障害とは、隣接する大粒子14同士の表面が直に接触することを抑制する働きを意味する。複合粒子12では、各大粒子14の表面に付着してある小粒子16が、隣接する大粒子14同士の間に介在することで、立体障害を生み出す。このような立体障害により、複合粒子12の熱収縮開始温度を、大粒子14のみからなる粉末の熱収縮開始温度よりも、高くすることができる。
【0030】
また、上記のような立体障害が生じる粒子構造において、大粒子14の平均結晶子径(DC)を20nm以上80nm以下の範囲に制御することで、熱収縮開始温度を従来の複合粒子よりも高温側にシフトさせることができる。特に、本実施形態の複合粒子12では、大粒子14の平均粒径(R)が200nm以上の場合のみならず、大粒子14の平均粒径(R)を200nm未満に小径化させた場合においても、熱収縮開始温度を十分に高くすることができる。
【0031】
結晶子径の制御により熱収縮開始温度が高くなる理由は、必ずしも明らかではないが、たとえば、以下に示す事由が考えられる。
【0032】
従来の複合粒子では、立体障害が発揮されたとしても、400℃以上の高温域では、中核をなす金属粒子の形状が崩れやすいと考えられる。金属粒子の形状が崩れると、無機化合物などからなる微小粒子の隙間で、隣接する金属粒子同士の連結が進むと考えられる。特に、金属粒子の平均粒径が200nm未満と小さい場合には、高温域で粒子形状が崩れやすく、微小粒子間での金属粒子同士の連結が顕著となり、熱収縮特性の向上効果が十分に得られないと考えられる。
【0033】
これに対して、本実施形態の複合粒子12では、大粒子14が20nm≦DC≦80nmを満たすことで、大粒子14の平均結晶子径に対する平均粒径の比(R/DC)が、従来の複合粒子よりも低くなっている。換言すると、各大粒子14において、1つあたりの結晶子が占める体積割合が、従来の複合粒子よりも高くなっている。このように、大粒子14の内部で1つあたりの結晶子が占める体積割合を高めることで、高温域においても、大粒子14の形状が崩れ難くなると考えられる。その結果、小粒子16の隙間で、大粒子14同士が連結することを抑制でき、熱収縮開始温度を高くすることができると考えられる。
【0034】
大粒子14の平均粒径(R)が20nm以上100nm以下の範囲である場合、R/DCが、5.0以下であり、3.0以下であることが好ましい。また、大粒子14の平均粒径(R)が100nm超過200nm以下の範囲である場合、R/DCが、10.0以下であり、8.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。なお、R/DCの下限は、1.0である。R/DCを上記の範囲に制御することで、熱収縮特性をより向上させることができる。
【0035】
複合粒子12における硫黄の含有率が、3000質量ppm以下であることが好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。硫黄の含有率が、10質量ppm未満の場合、複合粒子12が実質的に硫黄を含まないとみなしてよい。複合粒子12に含まれる硫黄は、主に大粒子14に由来すると考えられる。硫黄成分は、大粒子14を製造する際に、不純物として混入する場合もあれば、添加剤として意図的に添加される場合もある。複合粒子12における硫黄の含有率を3000質量ppm以下(好ましくは10ppm以下)に制御することで、大粒子14の硫化による融点の低下を抑制することができる。硫黄の含有率は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)、および、炭素・硫黄分析装置などにより測定すればよい。
【0036】
複合粒子12では、大粒子14に対する小粒子16の平均被覆率が、10%以上であってもよく、18%以上であることが好ましく、18%以上50%以下であることがより好ましく、18%以上30%以下であることがさらに好ましい。大粒子14に対する小粒子16の平均被覆率を18%以上に設定することで、小粒子16による立体障害をより効果的に発揮させることができる。また、大粒子14に対する小粒子16の被覆率の標準偏差は、0%以上20%以下であることが好ましく、0%以上5%以下であることがより好ましい。被覆率のばらつきを低減することで、立体障害をより効果的に発揮させることができる。上記のような被覆率の標準偏差(特に5%以下)は、たとえば、静電吸着法により複合粒子12を製造することで実現できる。
【0037】
なお、大粒子14および小粒子16の粒径、ならびに、大粒子14に対する小粒子16の被覆率の測定方法は、必ずしも限定されないが、たとえば、以下に示すような画像解析法を採用することが好ましい。
【0038】
まず、複合粒子12を含む液体を、試料ステージに滴下し、風乾させる。次に、試料ステージ上の複合粒子12を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し(走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いてもよい)、複合粒子12のSEM画像を取得する。SEM画像を取得する際の観察倍率は、特に限定されず、大粒子14の平均粒径(R)に応じて適宜決定すればよい。たとえば、1視野あたりの面積が、(R×8)×(R×6)程度の面積となるように、観察倍率を設定してもよい。
図3にSEM画像の模式図を示す。
【0039】
次に、SEM画像に含まれる大粒子14のうちから、「輪郭が確認できる大粒子14」を選別する。
図4では、
図3に含まれる大粒子14のうちから「輪郭が確認できる大粒子14」を選定し、選定した大粒子14の輪郭を太線で示している。また、
図4では、「輪郭が確認できる大粒子14」に付着している「輪郭が確認できる小粒子16」の輪郭も太線で示している。なお、「輪郭が確認できる大粒子14」とは、SEM画像中に全輪郭が含まれており、なおかつ、SEM画像において最前面に存在する大粒子14を意味する。したがって、一部でも輪郭が欠けている場合は、その大粒子14は「輪郭が確認できる大粒子14」とはならない。また、一部でも他の大粒子14の後ろ(背面)に存在する場合も、その大粒子14は「輪郭が確認できる大粒子14」とはならない。
【0040】
上記の方法により特定した「輪郭が確認できる大粒子14」の円相当径を計測し、大粒子14の粒度分布、および、平均粒径(R)を算出すればよい。また、「輪郭が確認できる大粒子14」に付着している「輪郭が確認できる小粒子16」の円相当径を計測し、小粒子16の粒度分布、および、平均粒径(r)を算出すればよい。なお、円相当径は画像解析用ソフトウェアを用いて計測すればよく、平均粒径(Rおよびr)は、いずれも、少なくとも1000個の粒子の円相当径を計測することで、算出することが好ましい。
【0041】
被覆率を計測する際には、まず、「輪郭が確認できる大粒子14」のうちから測定対象粒子を選定する。そして、測定対象粒子の粒径Raを計測すると共に、測定対象粒子の重心Gを特定する。次に、
図5に示すように、重心Gから、Raの0.25倍の半径の円を描き、その円を仮想円18とする。次に、仮想円18の面積A0と、仮想円18に含まれる小粒子16の合計面積A1と、を測定し、測定対象粒子における小粒子16の被覆率を、A0に対するA1の比(A1/A0)として算出する。上記のような方法で、少なくとも100個の大粒子14の被覆率を求め、その平均値を平均被覆率とする。
【0042】
なお、被覆率の標準偏差は、以下の数式2に基づいて、算出すればよい。
【数2】
【0043】
上記のような画像解析において、複合粒子12には、被覆率が0%の粒子が含まれていてもよいが、複合粒子12における被覆率が0%の粒子の個数割合(数密度)は、10%以下であることが好ましい。
【0044】
また、上記のような画像解析において、(R×80)×(R×60)の面積における小粒子16の凝集の数が3個以下であることが好ましく、1個以下であることがより好ましく、0個であることがさらに好ましい。
【0045】
以下、本実施形態に係る複合粒子12の製造方法の一例を説明する。
【0046】
まず、大粒子14と、小粒子16と、を準備する。大粒子14を製造する方法としては、液相合成法を採用してもよく、気相合成法を採用してもよく、大粒子14の製造方法は、必ずしも限定されない。大粒子14の平均結晶子径(DC)は、たとえば、大粒子14を合成する際の、前駆体の種類、温度、および、冷却速度などの各種条件に基づいて制御することができる。また、複合粒子12における硫黄の含有率は、たとえば、大粒子14の製造時に、脱硫処理を実施することで制御すればよい。
【0047】
粒径の小さい金属粒子を製造する観点では、気相法よりも液相法が適しており、200nm以下の金属粒子を製造するためには、液相法を採用することが一般的である。ただし、現行の液相法では、結晶子径が小さくなりやすく、20nm以上の平均結晶子径を実現することが困難である。そのため、液相法で大粒子14を製造する場合は、大粒子14の合成後に、結晶子径を大きくするための処理が必要となる。このような処理としては、たとえば、大粒子14の形状が崩れない程度の低温で大粒子14を熱処理する方法が挙げられる。
【0048】
結晶子径に対する粒径の比が小さい金属粒子を製造する観点では、液相法よりもPVDやCVDなどの気相法が適しており、複合粒子12の製造においても気相法を採用することが好ましい。しかしながら、現行の気相法は、粒径の小さい金属粒子の製造には不向きであり、200nm以下の平均粒径を実現することが困難である。そのため、気相法で大粒子14を製造する場合は、まず、所定の結晶子径で幅の広い粒度分布が得られる条件で母粉末を製造する。その後、所望の平均粒径(たとえば、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下)になるまで、母粉末を分級することで、大粒子14を得る。
【0049】
なお、R≦200nm、および、20nm≦DC≦80nmを両方実現するための方法として、今後の研究開発により上記よりも最適な製造方法を見出すことができれば、大粒子14の製造方法は、上記の方法に限定されない。
【0050】
小粒子16の製造方法は、特に限定されず、たとえば、液相合成法または固相合成法により製造すればよい。
【0051】
次に、大粒子14の表面に小粒子16を付着させることで、複合粒子12を製造する。小粒子16を付着させる方法は、必ずしも限定されないが、静電吸着法を採用することが好ましい。静電吸着法は、大粒子14と小粒子16にそれぞれ反対の電荷を帯びさせた後、これらを混合することで、電気的吸引力によって大粒子14と小粒子16とを複合化する方法である。
【0052】
小粒子16として用いるナノメートルオーダの酸化物粒子は、最表面に水酸基を持つため、基本的に親水性が高く水や極性の高い溶剤類、たとえばアルコール類やグリコール類に良く分散する。製法や分散方法にもよるが、酸化物粒子は多くの場合はマイナスの表面電荷を持っている。このようなプラスの表面電位を有する小粒子16を、アルコール類、グリコール類、もしくはケトン類などの有機溶剤に分散させることで小粒子16を含む分散液を得る。この小粒子16の分散液を安定化させるために、当該分散液中に微量の添加材を加えてもよい。
【0053】
一方、大粒子14として用いる金属粒子は、プラスもしくはマイナスの非常に弱い電荷を持っている。ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリエチレンイミン(PEI)等の高分子電解質を用いて、大粒子14の表面電位を強いプラスに変えることが好ましい。そして、プラスの表面電位を有する大粒子14を、小粒子16と同様に、アルコール類、グリコール類、もしくは、ケトン類などの有機溶剤に分散させることで、大粒子14を含む分散液を得る。この大粒子14の分散液を安定化させるために、当該分散液中に微量の添加材を加えてもよい。
【0054】
次に、小粒子16を含む分散液と、大粒子14を含む分散液とを所望の比率で混合し、大粒子14の表面に小粒子16を静電吸着させる。その後、有機溶媒を除去することで、複合粒子12が得られる。
【0055】
図7Aが、小粒子16を付着させる前の大粒子14(Ni粒子)を撮影したSEM画像の一例である。そして、
図7Bが、静電吸着後のSEM画像の一例であり、
図7Bでは、
図7Aに示す大粒子14の表面に、小粒子16(チタン酸バリウム粒子)が付着されていることが確認できる。
【0056】
図7Bに示すように、静電吸着法では、小粒子16を、単分散に近い状態で、大粒子14の表面に付着させることができ、小粒子16の凝集を抑制できる。また、静電吸着法では、大粒子14に付着させる小粒子16の量を制御し易く、大粒子14に対する小粒子16の被覆率を、立体障害を効果的に発揮させるうえで最適な範囲に制御することができる。
【0057】
本実施形態に係る複合粒子12は、各種電子部品において、電極層を形成するための原料粉末として用いることができ、積層セラミック電子部品の内部電極層を形成するための原料粉末として用いることが好ましい。上記のような、電極層(内部電極層)は、複合粒子12を含む導電性ペーストを焼結させることで、形成される。導電性ペーストは、複合粒子12と、公知のバインダと、公知の溶剤と、を混合することで製造すればよい。
【0058】
第2実施形態 積層セラミック電子部品
第2実施形態では、第1実施形態の複合粒子12を利用した積層セラミック電子部品の一例として、
図1に示す積層セラミックコンデンサ2について説明する。
【0059】
積層セラミックコンデンサ2は、素子本体4と、当該素子本体4の外面に形成してある一対の外部電極6と、を有する。素子本体4は、X軸およびY軸を含む平面に実質的に平行なセラミック層20と内部電極層20とを有し、素子本体4の内部では、セラミック層20と内部電極層10とがZ軸方向に沿って交互に積層してある。ここで、「実質的に平行」とは、ほとんどの部分が平行であるが、多少平行でない部分を有していてもよいことを意味し、セラミック層20および内部電極層10は、多少、凹凸があったり、傾いていたりしてもよい。
【0060】
セラミック層20は、誘電体組成物を含む。当該誘電体組成物の組成は特に限定されない。たとえば、セラミック層20は、BaTiO3、CaTiO3、SrTiO3、CaZrO3、(K1-xNax)Sr2Nb5O15、Ba3TiNb4O15、および(Ba1-xCax)(Ti1-yZry)O3などから選択される少なくとも1種を主成分として含んでいてもよい。また、セラミック層20は、上記のような主成分の他に、1種以上の副成分を含んでいてもよい。セラミック層20の副成分としては、たとえば、Mn化合物、Mg化合物、Cr化合物、Co化合物、Ni化合物、希土類元素を含む化合物、Si化合物、および、Li化合物などが例示される。
【0061】
セラミック層20の1層あたりの平均厚みは、特に限定されず、たとえば、2μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、0.8μm以下であることがさらに好ましい。セラミック層20の平均厚みの下限は、特に限定されず、たとえば、0.3μm程度としてもよい。セラミック層20の積層数については、所望の特性に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。たとえば、セラミック層20の積層数は、20層以上であることが好ましく、50層以上であることがより好ましい。
【0062】
内部電極層10は、第1実施形態の複合粒子12を焼結させることで形成され、複合粒子12における大粒子14が、焼結後に、内部電極層10の導体成分となる。内部電極層10は、NiまたはNiSn系合金からなる大粒子14を含む複合粒子12で形成することが好ましい。つまり、内部電極層10の導体成分は、NiまたはNiSn系合金であることが好ましい。
【0063】
一方、複合粒子12の小粒子16は、焼結後の内部電極層10の内部に、絶縁材として残存していてもよい。内部電極層10における導体成分と絶縁材の合計を100質量%とすると、内部電極層10における絶縁材の含有率は、たとえば、0.4質量%以上20質量%以下であってもよく、3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。小粒子16の一部は、焼結後に、セラミック層20に拡散していてもよい。小粒子16として、チタン酸バリウムの粒子を用いることで、小粒子16がセラミック層20に拡散しても、セラミック層20での組成の変動を抑制することができる。
【0064】
内部電極層10は、各セラミック層20の間に積層され、その積層数は、セラミック層20の積層数に応じて決定される。そして、内部電極層10の1層当たりの平均厚みは、必ずしも限定されず、たとえば、2.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、0.8μm以下であることがさらに好ましい。第1実施形態の複合粒子12を原料粉末として用いることで、クラックや途切れの発生を抑制しつつ内部電極層10を薄くする(たとえば0.8μm以下)ことができる。内部電極層10の平均厚みの下限は、特に限定されず、たとえば、0.3μm程度としてもよい。なお、平均厚みtEの内部電極層10を形成するためには、tEの0.2倍以下の平均粒径(R)を有する大粒子14を用いることが好ましい。
【0065】
また、内部電極層10は、一方の端部が、素子本体4の2つの端面に交互に露出するように、積層してある。そして、一対の外部電極6が、素子本体4の両端面に形成され、交互に配置された内部電極層10の露出端に電気的に接続してある。
図1に示すような様態で、内部電極層10と外部電極6とを接続させることで、外部電極6および内部電極層10で、コンデンサ回路が構成される。すなわち、容量領域内に存在するセラミック層20は、極性の異なる内部電極層10に挟まれており、セラミック層20に対して電圧が印加可能となっている。
【0066】
一対の外部電極6は、焼付電極層や、樹脂電極層、メッキ電極層などを含むことができ、単一の電極層で構成してあってもよいし、複数の電極層を積層して構成してあってもよい。たとえば、外部電極6は、Cuを含む焼付電極層-Niメッキ層-Snメッキ層の三層構造(記載の順番に積層する)とすることができる。この三層構造の外部電極6を形成した場合、外部電極6の最表面にSnメッキ層が位置するため、外部電極6のハンダ濡れ性が良好となる。
【0067】
次に、
図1に示す積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。
【0068】
まず、内部電極層10の形成に用いる導電性ペーストと、セラミック層20の形成に用いるセラミック層用ペーストと、を準備する。
【0069】
導電性ペーストは、第1実施形態の複合粒子12と、バインダと、溶剤と、を混練することで製造する。導電性ペーストには、上記の他に、分散剤、酸化防止剤、セラミクス粉末、および、有機金属溶液などの添加剤を加えてもよい。導電性ペーストは、有機系塗料であってもよく、水系塗料であってもよく、導電性ペーストで使用するバインダおよび溶媒は特に限定されない。
【0070】
たとえば、導電性ペーストを有機系塗料とする場合、バインダとしては、ポリビニルブチラール、アクリル、エチルセルロース、などを用いてもよく、溶剤としては、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、テルピネオール、ブチルカルビトール、または、アセテートなどの有機溶剤を用いてもよい。また、導電性ペーストを水系塗料とする場合、水を溶剤として用い、バインダとしては、ポリビニルアルコール、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリビニルブチラール樹脂などを用いてもよい。
【0071】
セラミック層用ペーストは、誘電体組成物の主成分粉末、バインダ、および、溶剤を混練することで製造すればよい。セラミック層用ペーストには、上記の他に、副成分粉末、分散剤、酸化防止剤などの添加剤を加えてもよい。セラミック層用ペーストは、有機系塗料であってもよく、水系塗料であってもよく、導電性ペーストで使用するバインダおよび溶媒は特に限定されない。セラミック層用ペーストにおいても、導電性ペーストと同様のバインダおよび溶剤を用いることができる。
【0072】
次に、誘電体用ペーストを、ドクターブレード法などの手法によりシート化することで、セラミックグリーンシートを得る。そして、このセラミックグリーンシート上に、スクリーン印刷等の各種印刷法や転写法により、導電性ペーストを所定のパターンで塗布する。導電性ペーストの塗布方法としては、複合粒子12の構造を保持させやすくする観点から、スクリーン印刷またはグラビア印刷を採用することが好ましい。
【0073】
内部電極パターンを形成したグリーンシートを複数層に渡って積層した後、積層方向にプレスすることでマザー積層体を得る。なお、この際、マザー積層体の積層方向の最上面および最下面には、内部電極パターンが形成されていないグリーンシートを1層以上積層する。
【0074】
上記の工程により得られたマザー積層体を、ダイシングもしくは押切りにより所定の寸法に切断し、複数のグリーンチップを得る。グリーンチップは、必要に応じて、可塑剤などを除去するために固化乾燥をしてもよく、固化乾燥後に水平遠心バレル機などを用いてバレル研磨してもよい。
【0075】
次に、上記で得られたグリーンチップに対して、脱バインダ処理、および、焼成処理を施し、素子本体4を得る。
【0076】
脱バインダ処理の条件は、誘電体用ペーストおよび導電性ペーストに添加したバインダの種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。たとえば、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、保持温度を好ましくは180~800℃、温度保持時間を好ましくは0.5~24時間としてもよい。また、脱バインダ処理の雰囲気は、大気雰囲気(すなわち空気中)もしくは還元性雰囲気としてもよい。
【0077】
焼成処理の条件は、内部電極層10およびセラミック層20が焼結する条件に設定すればよく、特に限定されない。たとえば、焼成処理において、昇温速度は50℃/時間~500℃/時間としてもよく、200℃/時間~300℃/時間であることが好ましい。焼成処理の保持温度は、1200℃~1350℃であることが好ましく、1220℃~1300℃であることがより好ましい。温度保持時間は、0.5時間~8時間であることが好ましく、2時間~3時間であることがより好ましい。焼成処理の雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしては、たとえば、N2とH2との混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0078】
また、焼成雰囲気中の酸素分圧は、導電性ペースト中の導体成分の種類に応じて適宜決定すればよい。導体成分がNiまたはNi合金等の卑金属である場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、1.0×10-14MPa~1.0×10-10MPaとすることが好ましい。焼成処理の降温速度は、50℃/時間~500℃/時間であることが好ましい。
【0079】
還元性雰囲気中で焼成した後、素子本体4に対してアニール処理を施してもよい。アニール処理の条件は、特に限定されず、たとえば、雰囲気中の酸素分圧は1.0×10-9MPa~1.0×10-5MPaとしてもよく、アニール処理の保持温度は950℃~1150℃としてもよく、温度保持時間は0時間~20時間としてもよい。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したN2ガス等を用いることができる。
【0080】
上記の脱バインダ処理、焼成処理およびアニール処理において、N2ガスや混合ガス等を加湿するためには、たとえばウェッター等を使用すればよく、この場合、水温は5~75℃程度が好ましい。また、脱バインダ処理、焼成処理およびアニール処理は、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0081】
次に、上記で得られた素子本体4の外面に、一対の外部電極6を形成する。外部電極6の形成方法は、特に限定されない。たとえば、外部電極6として焼付電極を形成する場合には、ガラスフリットを含む導電性ペーストを素子本体4の端面にディップ法により塗布した後、素子本体4を所定の温度で加熱すればよい。また、外部電極6として樹脂電極を形成する場合には、熱硬化性樹脂を含む導電性ペーストを素子本体4の端面に塗布し、その後、素子本体4を熱硬化性樹脂が硬化する温度で加熱すればよい。さらに、上記の方法で焼付電極や樹脂電極を形成した後、スパッタリング、蒸着、電解メッキ、もしくは無電解メッキなどを施し、多層構造を有する外部電極6を形成してもよい。
【0082】
以上の工程により、
図1に示すような断面を有する積層セラミックコンデンサ2を製造することができる。
【0083】
積層セラミックコンデンサ2では、熱収縮開始温度が高い複合粒子12を、内部電極層10の形成に用いているため、内部電極層10の焼結開始温度とセラミック層20の焼結開始温度との差を小さくすることができる。そのため、内部電極層10にクラックや途切れが発生することを抑制でき、セラミック層20に対する内部電極層10の被覆率を、従来よりも向上させることができる。具体的に、複合粒子12を適用した積層セラミックコンデンサ2では、薄層化した場合であっても、セラミック層20に対する内部電極層10の被覆率を80%以上(好ましくは90%以上)とすることができる。内部電極層10の被覆率を向上させることで、静電容量などの積層セラミックコンデンサ2の諸特性を向上させることができる。
【0084】
また、複合粒子12を用いて内部電極層10を形成する場合、酸化物粒子である小粒子16のセラミック層20への拡散を抑制することができる。その結果、セラミック層20の組成が狙いの組成から外れることを抑制できる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0086】
複合粒子12を適用する電子部品は、積層セラミックコンデンサに限らず、複合粒子12はその他の電子部品に適用することが可能である。その他の電子部品としては、セラミック層が内部電極層を介して積層される全ての電子部品であり、たとえば、バンドパスフィルタ、インダクタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタなどである。
【0087】
また、内部電極層10は、複合粒子12と共に複合粒子12以外の導電性粒子を含む導電性ペーストを用いて形成してもよい。複合粒子12以外の導電性粒子は、特に限定されず、たとえば、小粒子16と複合化されていないNi粒子、Ni系合金粒子、Cu粒子、または、Cu系合金粒子などを使用してもよい。この場合に用いられる導電性ペーストでは、複合粒子12および導電性粒子の合計含有量を100質量%として、複合粒子12が20質量%以上60質量%以下含まれることが好ましく、25質量%以上45質量%以下含まれることがより好ましい。
【0088】
また、内部電極層10は、小粒子16に由来しない共材を含んでいてもよい。小粒子16に由来しない共材は、複合粒子12の一部としてではなく、単独の共材として導電性ペーストに添加される。小粒子16に由来しない共材の平均粒径は特に限定されず、小粒子16の平均粒径より大きくてもよく、0.003μm以上0.100μm以下としてもよい。小粒子16に由来しない共材の材質は特に限定されないが、セラミック層20の組成へ与える影響を低減するために、セラミック層20に含まれる酸化物を用いることが好ましい。
【0089】
さらに、複合粒子12を外部電極6の形成に適用してもよい。たとえば、複合粒子12と熱硬化性樹脂とを含む導電性ペーストを用いて外部電極6を形成してもよい。
【実施例0090】
以下、本開示をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。
【0091】
(実験1)
実験1では、大粒子として、平均粒径(R)および平均結晶子径(DC)が異なる5種類のNi粒子を準備し、表1に示す複合粒子を製造した。
【0092】
試料1のNi粒子および試料5のNi粒子は、それぞれ、水熱合成法(液相法)で製造し、試料5のNi粒子に対しては、合成後に、結晶子径を大きくするための熱処理を施した。試料2~試料4および試料6では、それぞれ、CVD法(気相法)で母粉末を製造し、その母粉末を分級することで、平均粒径を調整したNi粒子を得た。なお、試料4のNi粒子については、CVD法での母粉末の製造時に、母粉末に対して脱硫処理を施した。
【0093】
実験1の各試料では、静電吸着法により、上記のNi粒子の表面に、チタン酸バリウムからなる小粒子(以下、BT粒子と称する)を付着させた。具体的に、Ni粒子を、PDDAを含む水溶液と混合し、Ni粒子の表面をプラスに帯電させた。次に、元々マイナスの表面電位を有するBT粒子を、プラスに帯電させたNi粒子を含む水溶液に投入し、静電吸着によりNi粒子とBT粒子とを複合化させた。その後、得られた粉末を水溶液中から回収し、乾燥させることで、各試料に係る複合粒子を得た。
【0094】
試料4aでは、複合粒子における硫黄の影響を調査するために、硫黄の粉末を、試料4の複合粒子に混ぜ合わせた複合粒子を製造した。また、試料6aでは、試料6のNi粒子を用い、静電吸着時のBT粒子の配合比を変えて、複合粒子を製造した。加えて、試料6bおよび試料6cでは、試料6のNi粒子を用いて、当該Ni粒子に付着させるBT粒子の粒径を変えて、複合粒子を製造した。
【0095】
各試料の複合粒子について、以下に示す評価を実施した。
【0096】
画像解析
まず、複合粒子を、エタノール中に0.5質量%の割合で投入し、1分間ボルテックスミキサーにより混合した。複合粒子を添加したエタノール溶液を、1~2時間静置し、複合粒子を沈降させた。その後、エタノール溶液の上澄みをデカンテーションで取り除き、残存液を、再度、エタノールに加えて混合した。得られた複合粒子含有液を、SEMステージ上に滴下して風乾させた。そして、SEMステージ上に残存した複合粒子を、SEMを用いて観察し、複合粒子のSEM画像を取得した。
【0097】
上記のSEM画像を、画像解析用ソフトウェアを用いて解析し、Ni粒子の平均粒径(R)、Ni粒子の粒度分布における変動係数(CV)、Ni粒子に付着したBT粒子の平均粒径(r)、および、Ni粒子に対するBT粒子の平均被覆率を測定した。この際、Ni粒子およびBT粒子の粒度分布は、それぞれ、1000個以上の粒子の円相当径を計測することで算出し、Ni粒子に対するBT粒子の平均被覆率は、100個以上のNi粒子を解析することで算出した。
【0098】
XRDによる平均結晶子径の測定
XRDを用いて複合粒子のX線回折チャートと取得し、当該X線回折チャートにおけるNiの回折ピークを同定した。そして、同定した回折ピークから、シェラー式に基づいて、Ni粒子(大粒子)の平均結晶子径(DC)を算出した。
【0099】
硫黄含有率の測定
複合粒子における硫黄の含有率を、ICPにより測定した。本実験で使用したICPでは、硫黄の検出限界値が10質量ppmであり、表1に示す「<10」は、硫黄が検出されず、硫黄の含有率が10質量ppm未満であることを意味する。また、表1に示す「≒1000」は、硫黄の含有率が、800質量ppm~1300質量ppmの範囲内であったことを意味し、「≒2000」は、硫黄の含有率が1800質量ppm~2300質量ppmの範囲内であったことを意味する。
【0100】
熱収縮開始温度の測定
各試料において、複合化前のNi粒子の熱収縮開始温度、および、複合粒子の熱収縮開始温度を、熱機械分析(TMA)により測定した。当該測定では、TMAの測定機器として、Rigaku社製、品名Thermo plus EVO2を用い、熱収縮開始温度は、接線法により特定した。
【0101】
接線法では、
図6に示すように、変曲点での接線と、ベースラインとの交点を特定し、その交点における温度(T0)を、熱収縮開始温度として特定する。変曲点は、たとえば、
図6に示すようなTMA曲線を微分したDTMA曲線を参照して特定すればよく、DTMA曲線の極大値を変曲点とすればよい。
【0102】
TMAで熱収縮開始温度や焼結開始温度を測定する際には、
図6に示す収縮率10%での温度T1のように、所定の収縮率に達した際の温度を、熱収縮開始温度や焼結開始温度として特定する場合もある。ただし、収縮率は、評価サンプル中の有機物残渣や空隙の影響を受け、設定した収縮率での温度(たとえば
図6のT1)が、接線法で特定する交点での温度(たとえば
図6のT0)よりも高くなる傾向となる。本実験では、有機物残渣や空隙の影響を軽減して、より正確に熱収縮開始温度を測定するために、接線法を採用することとした。
【0103】
なお、積層セラミックコンデンサのセラミック層の形成に用いる原料粉末の熱収縮開始温度は、誘電体組成物の組成によっても異なるが、たとえば、1000℃~1200℃であり、金属粒子の熱収縮温度よりも高い。そのため、本実験における複合粒子の評価においては、熱収縮開始温度が高いほうが電極材料として好ましいと判断する。具体的に、複合粒子の熱収縮開始温度は、600℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましい。
【0104】
【0105】
表1に示すように、一般手な水熱合成法で製造した試料1のNi粒子では、平均結晶子径が20nm未満となった。そして、試料1の複合粒子の熱収縮開始温度は、Ni粒子のみの熱収縮開始温度よりも高くなったものの、電極材料として積層セラミック電子部品に適用する観点では、特性が不十分であった。
【0106】
一方、実施例である試料2~4,4a,5~6,6a~6cでは、Ni粒子の平均結晶子径が20nm以上80nm以下の範囲であり、当該Ni粒子を用いることで、複合粒子の熱収縮開始温度を、600℃以上の高温側にシフトさせることができた。この結果から、大粒子の平均結晶子径を所定の範囲で大きくすることで、複合粒子における熱収縮特性のさらなる向上が図れることがわかった。
【0107】
試料6および試料6aでは、同じNi粒子を使用しているが、Ni粒子に対するBT粒子の平均被覆率が高い試料6aの方が熱収縮開始温度をより高くすることができた。また、試料2と試料3とを比較すると、BT粒子の平均被覆率が相対的に高い試料2のほうが、試料3よりも、熱収縮開始温度が高くなった。試料2のほうが試料3よりもNi粒子の平均粒径が小さいにも拘わらず、高い熱収縮開始温度が得られていることから、BT粒子の平均被覆率が複合粒子の熱収縮特性に寄与していることがわかる。これらの結果から、小粒子の平均被覆率を18%以上とすることで熱収縮開始温度をより高くできることがわかった。
【0108】
試料3と試料4とを比較すると、硫黄が実質的に含有されていない試料4の方が、硫黄を含む試料3よりも、熱収縮開始温度が高くなった。なお、試料4aでは、意図的に後から硫黄を添加したが、硫黄の添加によって試料4aの熱収縮開始温度は試料4より低下した。これらの結果から、硫黄の含有率を低減することで、熱収縮開始温度をより高くできることがわかった。
【0109】
試料6bおよび試料6cでは、試料6および試料6aよりも大きい粒径を有するBT粒子を小粒子として使用したことで、試料6および試料6aよりも熱収縮開始温度が高くなった。この結果から、r/Rを所定の範囲に制御することで、熱収縮開始温度のさらなる向上が図れることがわかった。
【0110】
(実験2)
実験2では、実験1で製造した試料3に係る複合粒子を用いて、以下に示す手順で、実施例Iに係る積層セラミックコンデンサを製造した。
【0111】
まず、内部電極層を形成するための導電性ペーストを準備した。導電性ペーストは、試料3の複合粒子と、エチルセルロース(バインダ)と、テルピネオール(溶剤)と、を混練して製造した。導電性ペーストにおける複合粒子の配合比は45質量%、バインダの配合比は3質量%、溶剤の配合比は52質量%に設定した。
【0112】
次に、主成分としてBaTiO3を含むセラミック層用のグリーンシートを準備し、このグリーンシートの上に、導電性ペーストを塗布して、内部電極パターンを形成した。そして、内部電極パターンを形成したグリーンシートを複数層に渡って積層し、積層方向からプレスすることでマザー積層体を得た。この際、マザー積層体の上面および下面には、内部電極パターンを形成していない保護用グリーンシートを積層した。上記マザー積層体を、ダイシングにより所定サイズに切断することで、複数のグリーンチップを得た。
【0113】
次に、上記のグリーンチップに対して、脱バインダ処理、焼成処理、およびアニール処理を施し、素子本体(焼成体)を得た。次に、素子本体の2つの端面に対して、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けることで、一対の外部電極を形成し、
図1に示すような構造を有する積層セラミックコンデンサ(以下、コンデンサ試料と称する)を得た。コンデンサ試料における素子本体の寸法は、幅12mm×奥行20mm×高さ12mmであった。また、コンデンサ試料におけるセラミック層の1層あたりの平均厚みは0.80μmであり、内部電極層の1層あたりの平均厚みは0.50μmであり、内部電極層に挟まれたセラミック層の数は4であった。
【0114】
比較例I
実験2では、実験1で製造した試料1(比較例)の複合粒子を用いて、実施例Iと同様の製造条件で、比較例Iに係る積層セラミックコンデンサを製造した。比較例Iのコンデンサ試料における素子本体の寸法は、幅12mm×奥行20mm×高さ12mmであった。また、比較例Iにおいて、コンデンサ試料におけるセラミック層の1層あたりの平均厚みは0.80μmであり、内部電極層の1層あたりの平均厚みは0.51μmであり、内部電極層に挟まれたセラミック層の数は4であった。
【0115】
断面解析
上記で製造したコンデンサ試料の断面を鏡面研磨し、その断面をSEMで観察した。当該SEM観察により、上述したセラミック層の平均厚み、および、内部電極層の平均厚みを計測すると共に、セラミック層に対する内部電極層の平均被覆率を算出した。
【0116】
比較例Iにおける内部電極層の平均被覆率は74%であった。一方、実施例Iでは、内部電極層のクラックや途切れが比較例Iよりも減少しており、内部電極層の平均被覆率が94%であった。この結果から、熱収縮開始温度が高い複合粒子を用いて内部電極層を形成することで、積層セラミックコンデンサにおいて内部電極層の被覆率を向上させることができることがわかった。