IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル電子化成株式会社の特許一覧

特開2024-132439パーフルオロアルキル化化合物の製造方法、パーフルオロアルキル化剤
<>
  • 特開-パーフルオロアルキル化化合物の製造方法、パーフルオロアルキル化剤 図1
  • 特開-パーフルオロアルキル化化合物の製造方法、パーフルオロアルキル化剤 図2
  • 特開-パーフルオロアルキル化化合物の製造方法、パーフルオロアルキル化剤 図3
  • 特開-パーフルオロアルキル化化合物の製造方法、パーフルオロアルキル化剤 図4
  • 特開-パーフルオロアルキル化化合物の製造方法、パーフルオロアルキル化剤 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132439
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】パーフルオロアルキル化化合物の製造方法、パーフルオロアルキル化剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/32 20060101AFI20240920BHJP
   C07C 22/08 20060101ALI20240920BHJP
   C07C 231/12 20060101ALI20240920BHJP
   C07C 233/07 20060101ALI20240920BHJP
   C07C 41/30 20060101ALI20240920BHJP
   C07C 43/225 20060101ALI20240920BHJP
   C07C 17/275 20060101ALI20240920BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07C17/32
C07C22/08
C07C231/12
C07C233/07
C07C41/30
C07C43/225 A
C07C17/275
C07C19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043196
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小野 泰蔵
(72)【発明者】
【氏名】神谷 武志
(72)【発明者】
【氏名】松村 典明
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB81
4H006AC23
4H006BB12
4H006BB61
4H006BE90
4H006EA21
4H006EA23
(57)【要約】
【課題】光増感触媒や金属触媒を用いることなく、基質にパーフルオロアルキル基を導入することができるパーフルオロアルキル化化合物の製造方法、およびパーフルオロアルキル化化合物の製造方法に用いられるパーフルオロアルキル化剤を提供する。
【解決手段】溶媒に基質を溶解し、前記基質を含む第1の溶液を調製する第1の工程と、前記第1の溶液に、第三級炭素あるいは第四級炭素と第四級炭素が隣り合った構造を有するパーフルオロカーボンを加えて第2の溶液とする第2の工程と、前記第2の溶液を加熱し、前記パーフルオロカーボンの熱分解反応で生じるパーフルオロアルキルラジカルにより、前記基質にパーフルオロアルキル基を導入する第3の工程と、を有する、パーフルオロアルキル化化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に基質を溶解し、前記基質を含む第1の溶液を調製する第1の工程と、
前記第1の溶液に、第三級炭素あるいは第四級炭素と第四級炭素が隣り合った構造を有するパーフルオロカーボンを加えて第2の溶液とする第2の工程と、
前記第2の溶液を加熱し、前記パーフルオロカーボンの熱分解反応で生じるパーフルオロアルキルラジカルにより、前記基質にパーフルオロアルキル基を導入する第3の工程と、を有する、パーフルオロアルキル化化合物の製造方法。
【請求項2】
前記パーフルオロカーボンが、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneであり、
前記第3の工程において、前記F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneの熱分解反応で生じるheptafluoroisopropylラジカルおよびperfluoro-2,3-dimethyl-3-pentylラジカルにより、前記基質にヘプタフルオロイソプロピル基、または、perfluoro-2,3-dimethyl-3-pentyl基を導入する、請求項1に記載のパーフルオロアルキル化化合物の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、前記第1の溶液に、前記パーフルオロカーボンと酸化剤とを加えて前記第2の溶液とする、請求項1に記載のパーフルオロアルキル化化合物の製造方法。
【請求項4】
前記第1の溶液はフッ素系溶媒を含み、前記第2の工程において、前記第1の溶液に前記パーフルオロカーボンを加えて第2の溶液とする、請求項1に記載のパーフルオロアルキル化化合物の製造方法。
【請求項5】
基質にパーフルオロアルキル基を導入するために用いられ、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneからなる、パーフルオロアルキル化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロアルキル化化合物の製造方法、およびパーフルオロアルキル化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機化合物からなる基質にヘプタフルオロイソプロピル基等のパーフルオロアルキル基を導入する方法としては、例えば、ヘプタフルオロイソプロピルヨージドを用いた光増感剤や、金属触媒等を用いる方法が知られている。
【0003】
非特許文献1には、ヘプタフルオロイソプロピルヨージドとジエチル亜鉛を反応させて得られたヘプタフルオロイソプロピル亜鉛化合物を、銅触媒存在下でハロゲン化アリールとカップリグさせる方法が記載されている。しかしながら、この方法は、金属を用いるため、医薬分野での展開が難しい。
【0004】
また、光増感触媒を用いて、基質にパーフルオロアルキル基を導入する方法が知られている。しかしながら、この方法は、光の透過性の問題があり、スケールアップが難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Soichiro Ono,Yuki Yokota,Shigekazu Ito,and Koichi Mikami,“Regiocontrolled Heptafluoroisopropylation of Aromatic Halides by Copper(I) Carboxylates with Heptafluoroisopropyl-Zinc Reagents”,Org.Lett.2019,21,1093-1097
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、光増感触媒や金属触媒を用いることなく、基質にパーフルオロアルキル基を導入することができるパーフルオロアルキル化化合物の製造方法、およびパーフルオロアルキル化化合物の製造方法に用いられるパーフルオロアルキル化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、forever chemicalsと呼ばれるパーフルオロカーボンでありながら、そのパーフルオロカーボンが、高いひずみを有するために容易に熱分解する性質と、ひずみが一点に集中しているために特定の炭素-炭素結合が特異的に切れる性質とを有することに着目し、新規なパーフルオロアルキル化化合物の製造方法を発明した。
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]溶媒に基質を溶解し、前記基質を含む第1の溶液を調製する第1の工程と、
前記第1の溶液に、第三級炭素あるいは第四級炭素と第四級炭素が隣り合った構造を有するパーフルオロカーボンを加えて第2の溶液とする第2の工程と、
前記第2の溶液を加熱し、前記パーフルオロカーボンの熱分解反応で生じるパーフルオロアルキルラジカルにより、前記基質にパーフルオロアルキル基を導入する第3の工程と、を有する、パーフルオロアルキル化化合物の製造方法。
[2]前記パーフルオロカーボンが、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneであり、
前記第3の工程において、前記F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneの熱分解反応で生じるheptafluoroisopropylラジカルおよびperfluoro-2,3-dimethyl-3-pentylラジカルにより、前記基質にヘプタフルオロイソプロピル基、または、perfluoro-2,3-dimethyl-3-pentyl基を導入する、[1]に記載のパーフルオロアルキル化化合物の製造方法。
[3]前記第2の工程において、前記第1の溶液に、前記パーフルオロカーボンと酸化剤とを加えて前記第2の溶液とする、[1]に記載のパーフルオロアルキル化化合物の製造方法。
[4]前記第1の溶液はフッ素系溶媒を含み、前記第2の工程において、前記第1の溶液に前記パーフルオロカーボンを加えて第2の溶液とする、[1]に記載のパーフルオロアルキル化化合物の製造方法。
[5]基質にパーフルオロアルキル基を導入するために用いられ、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneからなる、パーフルオロアルキル化剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光増感触媒や金属触媒を用いることなく、基質にパーフルオロアルキル基を導入することができるパーフルオロアルキル化化合物の製造方法、およびパーフルオロアルキル化化合物の製造方法に用いられるパーフルオロアルキル化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】85℃におけるパーフルオロカーボンの熱分解反応においてパーフルオロカーボンと内部標準の量比の対数値と反応時間との関係を示す図である。
図2】90℃におけるパーフルオロカーボンの熱分解反応においてパーフルオロカーボンと内部標準の量比の対数値と反応時間との関係を示す図である。
図3】95℃におけるパーフルオロカーボンの熱分解反応においてパーフルオロカーボンと内部標準の量比の対数値と反応時間との関係を示す図である。
図4】100℃におけるパーフルオロカーボンの熱分解反応においてパーフルオロカーボンと内部標準の量比の対数値と反応時間との関係を示す図である。
図5】Arrheniusプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のパーフルオロアルキル化化合物の製造方法、およびパーフルオロアルキル化剤の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
[パーフルオロアルキル化化合物の製造方法]
本発明の一実施形態に係るパーフルオロアルキル化化合物の製造方法は、溶媒に基質を溶解し、前記基質を含む第1の溶液を調製する第1の工程と、前記第1の溶液に、第三級炭素、または第四級炭素と第四級炭素が隣り合った構造を有するパーフルオロカーボンを加えて第2の溶液とする第2の工程と、前記第2の溶液を加熱し、前記パーフルオロカーボンの熱分解反応で生じるパーフルオロアルキルラジカルにより、前記基質にパーフルオロアルキル基を導入する第3の工程と、を有する。
【0013】
「第1の工程」
第1の工程では、溶媒に基質を溶解し、基質を含む第1の溶液を調製する。本記述の内容は、基質と溶媒が同一である場合も含まれる。例えば、後述する実施例1、実施例9~12がこの場合に相当する。
【0014】
本実施形態のパーフルオロアルキル化化合物の製造方法に適用可能な基質としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、N-アセチルアニリン、1,4-ジメトキシベンゼン、N-アセチル-p-アニシジン、フェナントレン、ナフタレン、アントラセン、オルソキシレン、tert-ブチルベンゼン、アニソール、メシチレン等の芳香族化合物、1-デセン、1-ノネン、1-オクテン等の末端オレフィン、および、オレフィンの任意の位置にメチル、エチル等のアルキル基、或いは、フェニル基やナフタレンに代表される縮合多環系の芳香族炭化水素が置換している不飽和炭化水素が挙げられる。また、それら芳香族炭化水素には、アシル保護したアミノ基、メトキシ基、エステル基、シアノ基、カルボキシル基、水酸基等が置換基として含まれていてもよい。さらに、芳香族炭化水素の替りに、ピリジン、キノリン、インドール等の含窒素複素環や、フラン、チオフェン等どの酸素、硫黄を含む複素環を使用することも可能である。
【0015】
溶媒としては、ラジカル反応に使用可能な溶媒から選択されるが、例えば、アセトニトリル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、n-ブタノール、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、などが挙げられる。室温で基質を溶解することができるものが望ましいが、所定の反応温度において大部分が溶解していれば特に限定されない。また、フッ素系の溶媒としては、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、パーフルオロ-t-ブチルアルコール等のアルコール類や、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のフッ素官能基を有するベンゼン類、さらに、トリフルオロ酢酸、パーフルオロプロピオン酸、パーフルオロ酪酸等のパーフルオロ系の酸等が使用可能である。また、パーフルオロカーボン溶媒は、基質を溶解しないので、上記のパーフルオロ系アルコールとの混合溶媒として基質を溶解可能な状態にして使用することが可能である
【0016】
第1の溶液の基質濃度は、0.01モル/リットル以上4モル/リットル以下が好ましく、0.05モル/リットル以上2モル/リットル以下がより好ましく、0.1モル/リットル以上1モル/リットル以下がさらに好ましい。基質濃度が前記上限値以上であると、副反応が多くなり収率の低下を招き、基質濃度が前記下限値以下であると、やはり収率の低下を招く。但し、基質濃度の収率に対する効果は、基質によって変動することが十分に考えられるため、基質によっては、必ずしも当てはまらない場合があり得る。
【0017】
「第2の工程」
第2の工程では、第1の工程で調製した第1の溶液に、パーフルオロカーボンを加えて第2の溶液とする。
【0018】
パーフルオロカーボンとしては、第三級炭素あるいは第四級炭素と第四級炭素が隣り合った構造を有するものが用いられる。このようなパーフルオロカーボンは、いわゆる、高度に枝分かれし、高いひずみを有する化合物である。
【0019】
パーフルオロカーボンとしては、上記の構造を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane、F-2,2,3,3-テトラメチルブタン、F-2,2,3-トリメチルブタン、F-tert-ブチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0020】
第2の工程では、第1の溶液に、パーフルオロカーボンのみを加えて第2の溶液としてもよく、第1の溶液に、パーフルオロカーボンと酸化剤を加えて第2の溶液としてもよく、第1の溶液に、フッ素系溶媒に溶解したパーフルオロカーボンを加えて第2の溶液としてもよい。
【0021】
第1の溶液に対する、パーフルオロカーボンの添加量は、第1の溶液に含まれる基質と当量以上10当量以下が好ましく、前記基質と当量以上3当量以下がより好ましい。パーフルオロカーボンの添加量が前記下限値未満であると、収率の低下を招き、前記上限値を超えると、やはり収率の低下を招く。ここで基質と溶媒が同一の場合は、溶媒に対するパーフルオロカーボンの量が重量体積%(w/v%)で50重量体積%以下が好ましく、40重量体積%以下がより好ましく、30重量体積%以下で行うのがさらに好まい。重量%の上限値は100重量体積%で、これ以上では、副反応が多くなり収率が低下する。
【0022】
第1の溶液に、パーフルオロカーボンと酸化剤を加えて第2の溶液とする場合、酸化剤の量は、第1の溶液に含まれる基質に対して0.1当量以上10当量以下が好ましく、0.3当量以上2当量以下がより好ましく、0.5当量以上1当量以下がさらに好ましい。加える酸化剤の量が前記下限値未満であると、収率が低下し、前記上限値を超えると、やはり収率が低下する。
【0023】
酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、2,3,5,6-テトラクロロベンゾキノン、2,3,5,6-テトラシアノベンゾキノン、2,3-ジクロロー5,6-ジシアノベンゾキノン、ヨードベンゼンジアセタート、ヨードベンゼンビス(トリフルオロアセタート)等が挙げられるが、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノベンゾキノンが特によい(実施例9(C))。酸化剤を加えることにより、パーフルオロアルキル化化合物の収率が向上する。
【0024】
フッ素系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、パーフルオロ-tert-ブチルアルコール、トリフルオロ酢酸、パーフルオロプロパン酸、パーフルオロブタン酸、ヘキサフルオロアルコール等の極性の高いフッ素系溶媒や、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ-2-n-ブチルテトラヒドロブラン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン等の非極性のフッ素系溶媒が挙げられる。極性の高いフッ素系溶媒により、反応が促進され、基質に対して当量以上のパーフルオロカーボンを使用すると、2置換以上のパーフルオロアルキル化化合物を得ることが出来る。また、これら極性の高いフッ素系溶媒と非極性のフッ素系溶媒を混合して用いることで基質の溶解性を適宜調整することが可能であり、反応の促進効果も適宜コントロールが可能である(実施例13)。
【0025】
「第3の工程」
第3の工程では、第2の工程で得られた第2の溶液を加熱し、パーフルオロカーボンの熱分解反応で生じるパーフルオロアルキルラジカルにより、基質にパーフルオロアルキル基を導入する。
【0026】
第3の工程では、真空ポンプ等を用いて第2の溶液を含む容器内の空気を除去(脱気)した後、前記容器内に窒素、希ガス等の不活性気体を導入して、前記容器内の空気を不活性気体に置換する。
【0027】
続いて、常圧下、または、溶媒の種類によっては加圧下にて、第2の溶液を撹拌しながら加熱する。加圧する場合、圧力は溶媒の種類によって適宜調整され、特に限定されない。パーフルオロ系溶媒で反応系が均一になっている場合には、攪拌を行わなくてもよい。
第2の溶液を加熱する際、第2の溶液の温度は、70℃以上120℃以下が好ましく、80℃以上110℃以下がより好ましく、90℃以上100℃以下がさらに好ましい。第2の溶液の温度が前記下限値未満であると、パーフルオロカーボンの熱分解反応に時間が掛かり過ぎてしまい、第2の溶液の温度が前記上限値を超えると、副反応が多くなり、収率の低下を招く。
【0028】
第2の溶液を加熱する際、加熱に要する時間は、パーフルオロカーボンの熱分解速度が温度に依存するために、それぞれの反応温度におけるパーフルオロカーボンの半減期の1倍以上、10倍以下で行うのが好ましく、2倍以上9倍以下がより好ましく、4倍以上8倍以下がさらに好ましい。第2の溶液の加熱時間が前記下限値未満であると、反応が完結しないか、または、パーフルオロカーボンの使用量が非常に多くなりコストが掛かり過ぎてしまう。第2の溶液の加熱時間が前記上限値を超えると、実質的にパーフルオロカーボンを完全に消費しているため意味をなさない。
【0029】
第3の工程において、基質に導入されるパーフルオロアルキル基としては、例えば、ヘプタフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル、パーフルオロ-2,3-ジメチル-3-ペンチル等が挙げられる。基質に導入されるパーフルオロアルキル基は、パーフルオロカーボンの構造によって決まる。パーフルオロカーボンとして、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneを用いた場合、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneの熱分解反応によって、heptafluoroisopropylラジカルおよびperfluoro-2,3-dimethyl-3-pentylラジカルが生じる。これらのラジカルにより、上記基質にヘプタフルオロイソプロピル基または、perfluoro-2,3-dimethyl-3-pentyl基が導入される。
【0030】
「第4の工程」
第4の工程では、第3の工程において、第2の溶液の加熱によって得られた反応液を精製する。
【0031】
第4の工程では、上記反応液に含まれる試薬由来の揮発性パーフルオロ化合物を減圧、または、常圧で加熱して留去して、目的のパーフルオロアルキル化化合物を得る。また、上記反応液がフルオラス相を形成する場合、上記反応液を分液することでフルオラス相を除去し、フルオラス相を分離して得た反応液を蒸留、カラムクロマト、再結晶等の一般的な合成化学上の精製法を適用して、目的のパーフルオロアルキル化化合物を得る。
【0032】
本発明のパーフルオロアルキル化化合物の製造方法は、forever chemicalsと呼ばれるパーフルオロカーボンでありながら、そのパーフルオロカーボンが、高いひずみを有するために容易に熱分解する性質と、ひずみが一点に集中しているために特定の炭素-炭素結合が特異的に切れる性質とを有することを利用することにより、光増感触媒や金属触媒を用いることなく、基質にパーフルオロアルキル基を導入することができる。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例の分析に使用した機器分析装置は、島津製作所社製のガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー分析装置(Shimadzu GCMS-QP5050A)、島津製作所社製のガスクロマトグラフィー分析装置(Shimadzu GC-14A)、Bruker社製の核磁気共鳴分析装置(AVANCE III 400)である。
【0035】
[実施例1]
「ベンゼンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
ベンゼン(2mL)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1mmol)、磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてベンゾトリフルオリド(43mg、0.295mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。-63.5ppmに現れるベンゾトリフルオリドのシングレットのシグナル積分値(1.0)に対し、-76.55ppmのトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(1.85)から、生成したヘプタフルオロイソプロピルベンゼンの収率は27.3%と計算された。また、反応液の底に形成したフルオラス相を分離後に、内部標準としてベンゾトリフルオリド(20mg、0.137mmol)を加え、同様の方法でヘプタフルオロイソプロピルベンゼンの収率を計算で求めた(5.1%)。従って、ヘプタフルオロイソプロピルベンゼンの総収量は合わせて収率32.4%となった。なお、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneが熱分解して生成したパーフルオロ-2,3-ジメチル-3-ペンチルは、水素引き抜き反応をして3H-パーフルオロ-2,3-ジメチルペンタンに変換されていることが19F-NMRおよびH-NMRで確認された。
ヘプタフルオロイソプロピルベンゼンの19F-NMR(CDCl,δ):-76.55(d,J=7.2Hz,6F),-183.18(septet,J=7.2Hz,1F);MS(EI,70eV):m/z246(M,51.0),227(M-F,4.5),207(M-HF,8.1),177(M-CF,66.6),127(CCF,100),107(4.7),77(C,7.3),69(CF,3.8),51(CFH,4.3),50(CF,2.7).
【0036】
[実施例2]
「N-ピバロイルアニリドのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
(A)基質に対してF-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneを1.5倍当量用いた場合
N-ピバロイルアニリド(106.2mg、0.6mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(484mg、0.9mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてベンゾトリフルオリド(32.6mg、0.223mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.21ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.32ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(2.44)から、生成したN-ピバロイルパラ-ヘプタフルオロイソプロピルアニリドの収率は45.3%と計算された。その他のオルソ-位およびメタ-位で置換した生成物については、溶媒留去後の反応液について19F-NMRを計測し、N-ピバロイルパラ-ヘプタフルオロイソプロピルアニリドに対する比率より収率を求めた(オルソ体:5.9%、メタ体:1.4%)。H-NMRより求めた未反応の出発原料が49.9%残っており、生成物の収率と合わせて物質収支が102.5%となった。物質収支が100%になるように補正した各生成物の収率は、オルソ体:5.8%、メタ体:1.3%、パラ体:44.2%、未反応原料:48.7%となった。生成物の構造は、反応溶媒を減圧下で留去して得た残渣をカラムクロマトグラフィー(200~230メッシュのシリカゲル10.5g;酢酸エチル:ヘキサン=1:4,Rf=0.63、0.57)で精製した後にNMRおよびMSにより同定した。
主生成物のパラ体のスペクトルデータ
19F-NMR of Fr.4(CDCl):-76.34(d,J=7.3Hz,6F),-182.79(septet,J=7.3Hz,1F).
H-NMR of Fr.4(CDCl):7.69(d,J=8.7Hz,2H),7.55(d,J=8.7Hz,2H),7.51(brs,1H),1.32(s,9H).
MS(EI,70eV):m/z345(M,9.5),m/z192(M-COC(CHCH through McLafferty then -CF,6.9),m/z57(C(CH,100).
オルソ体のスペクトルデータ
19F-NMR of Fr.4(CDCl):-74.57(brs,6F),-177.77(brs,1F)オルソ体は、立体障害のために回転障害があり、septetにでるべきCFとdoubletにでるべき(CFの吸収ピークが共にbroad singletに変化している。
H-NMRは、夾雑物が除けなかったため、帰属出来なかった。
MS(EI,70eV):m/z345(M,9.0),m/z192(M-COC(CHCH through McLafferty then -CF,5.5),m/z57(C(CH,100).
メタ体のスペクトルデータ
19F-NMR of Fr.4(CDCN):-75.17(d,J=6.9Hz,6F),-181.40(septet,J=6.9Hz,1F).
H-NMRは、単離できなかった。
MS(EI,70eV):m/z345(M,7.1),m/z192(M-COC(CHCH through McLafferty then -CF,1.9),m/z57(C(CH,100).
【0037】
(B)基質に対してF-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneを3倍当量用いた場合
N-ピバロイルアニリド(88.5mg,0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(807mg,1.5mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてベンゾトリフルオリド(35.3mg、0.24mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.21ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-74.56ppm,-76.16ppm,-76.32ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(0.22,0.275,2.49)から、生成したN-ピバロイルヘプタフルオロイソプロピルアニリドの各異性体の収率は、オルソ体、メタ体、パラ体、それぞれ、5.3%,6.6%,60.2%と計算された。H-NMRより求めた未反応の出発原料が28.9%残っており、生成物の収率と合わせて物質収支が101.0%となった。物質収支が100%になるように補正した各生成物の収率は、オルソ体:5.2%、メタ体:6.5%、パラ体:59.6%、未反応原料:28.6%となった。
【0038】
[実施例3]
「アセトアニリドのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
アセトアニリド(67.5mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(807mg、1.5mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(22.2mg、0.116mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.40ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.29ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(4.53)から、生成した4-ヘプタフルオロイソプロピルアニリドの収率は52.5%と計算された。本反応では、少量の固体状沈殿物があり、19F-NMRおよびH-NMRより、4-ヘプタフルオロイソプロピルアニリドであることが確認された(収率にして8.1%)。従って、両者を合わせた収率は、61.2%であった。H-NMRによる収率は、53.1%で19F-NMRから計算された値とほぼ一致した。H-NMRより求めた未反応の出発原料が34.4%残っており、目的化合物と合わせて物質収支が95.6%であった。生成物の構造は、反応溶媒を減圧下で留去して得た残渣をカラムクロマトグラフィー(200~230メッシュのシリカゲル6.5g;酢酸エチル:ヘキサン=3:2,Rf=0.59)で精製した後にNMRおよびMSにより同定した。
4-ヘプタフルオロイソプロピルアニリドのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-76.32(d,J=7.6Hz,6F),-182.79(septet,J=7.3Hz,1F).
H-NMR(CDCl):7.66(d,J=8.8Hz,2H),7.56(d,J=8.8Hz,2H),7.27(brs,1H),2.22(s,3H).
MS(EI,70eV):m/z303(M,34.2),m/z284(M-F,2.9),261(M-CHCO,58.1),m/z192(M-CHCO-CF,100.0),m/z172(M-CHCO,-CF,-HF,0.0),m/z142(M-CHCO,-C,16.9),m/z43(CHCO,31.8).
単離精製した4-ヘプタフルオロイソプロピルアニリドのGC-MSで痕跡量のオルソ置換体が観測された。
MS(EI,70eV):m/z303(M,30.0),m/z284(M-F,2.5),261(M-CHCO,100),m/z192(M-CHCO-CF,97.0),m/z172(M-CHCO,-CF,-HF,15.4),m/z43(CHCO,46.3).
【0039】
[実施例4]
「1,4-ジメトキシベンゼンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
(A)基質とF-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneを等モル用いた反応(濃度0.25M)
1,4-ジメトキシベンゼン(138mg、1mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてベンゾトリフルオリド(35.4mg、0.242mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。ベンゾトリフルオリドのシングレットのシグナル積分値(1.0)に対し、-74.83ppmのトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(3.20)から、生成した2-ヘプタフルオロイソプロピル-1,4-ジメトキシベンゼンの収率は38.8%と計算された。反応液のH-NNR(CDCl)から出発原料が34.2%残っていることを確認した。
2-ヘプタフルオロイソプロピル-1,4-ジメトキシベンゼンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl,δ):-74.83(d,J=4.4Hz,6F),-173.49(brs,1F).
H-NMR(CDCl,δ):7.12(dd,J=3.0,1.6Hz,1H),7.02(dd,J=9.0,3.0Hz,1H),6.95(dd,J=9.0,1.0Hz,1H),3.793(s,3H),3.791(s,3H).
MS(MS(EI,70eV)m/z(ベースピークに対する相対強度):306(M,100),291(M-CH,79.2),272(M-CH-F,17.3),263(M-OCH,12.0),222(M-CH-CF,9.7),194(M-OCH-CF,21.9),127(10.9),101(10.5),69(CF,13.0).
【0040】
(B)基質に対して2倍当量のパーフルオロカーボンを用いた場合
1,4-ジメトキシベンゼン(69mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(30.7mg,0.161mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.40ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-74.83ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(3.20)から、生成した2-ヘプタフルオロイソプロピル-1,4-ジメトキシベンゼンの収率は61.8%と計算された。
【0041】
(C)(A)の濃度の半分の濃度(0.125M)で反応を行った場合
1,4-ジメトキシベンゼン(69mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(269mg、0.5mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(23.5mg,0.123mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.40ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-74.83ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(2.31)から、生成した2-ヘプタフルオロイソプロピル-1,4-ジメトキシベンゼンの収率は28.4%と計算された。
【0042】
[実施例5]
「N-アセチルパラアニシジンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
N-アセチルパラアニシジン(82.5mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(807mg、1.5mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(28.0mg、0.147mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.42ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-74.83ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(1.76)から、生成した3-ヘプタフルオロイソプロピル-4-メトキシアセトアニリドの収率は25.9%と計算された。反応溶媒を減圧下で留去して得た残渣をカラムクロマトグラフィー(230~400メッシュのシリカゲル6g;酢酸エチル:ヘキサン=3:2)で精製した。
3-ヘプタフルオロイソプロピル-4-メトキシアセトアニリドのスペクトルデータ
19F-NMR of Fr13(CDCN):-73.80(d,J=4.1Hz,6F),-172.4(brs,1F).
19F-NMR of Fr12(CDCl):-74.84(d,J=4.7Hz,6F),-173.64(brs,1F).
H-NMR of Fr12(CDCN):8.35(brs,1H),7.83(dd,J=2.6,1.1Hz,1H),7.70(dd,J=9.0,2.6Hz,1H),7.12(dd,J=9.0,1.1Hz,1H),3.82(s,3H),2.16(s,3H).
H-NMR of Fr12(CDCl):7.86(dd,J=9.0,2.6,1H),7.46(dd,J=2.6,0.8Hz,1H),7.37(brs,1H),6.97(dd,J=9.0,0.8Hz,1H),3.83(s,3H),2.17(s,3H).
痕跡量で含まれる2-ヘプタフルオロイソプロピル-4-メトキシアセトアニリドが上述のカラムクロマトグラフィーにより、ほぼ純粋な形で得られた。これらの位置異性体の同定は、2-ヘプタフルオロイソプロピル-4-メトキシアセトアニリドのH-NMRにおいて隣接するアミドプロトンとヘプタフルオロイソプロピル基のCFの間でスル-スペースカップリング(16.8Hz)が観測されたことから行うことが出来た。
2-ヘプタフルオロイソプロピル-4-メトキシアセトアニリドのスペクトルデータ
19F-NMR of Fr13(CDCN):-76.42(d,J=8.0Hz,6F),-184.78(brs,d septet,J=16.8,8.0Hz,1F).
H-NMR of Fr13(CDCN):7.89(brs,1H),7.72(d,J=9.0Hz,1H),7.02(d,J=2.9Hz,1H),6.87(dd,J=9.0,2.9Hz,1H),3.77(s,3H),2.09(s,3H).
19F-NMR of Fr14(CDCl):-77.42(d,J=8.0Hz,6F),-184.78(brs,d septet,J=16.8,8.0Hz,1F).
H-NMR of Fr14(CDCl):8.14(d,J=9.1Hz,1H),7.40(brs,1H),6.93(d,J=2.8Hz,1H),6.82(dd,J=9.1,2.8Hz,1H),3.78(s,3H),2.22(s,3H).
【0043】
[実施例6]
「ナフタレンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
ナフタレン(256mg、2mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてベンゾトリフルオリド(34.0mg、0.233mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.21ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-73.98ppmおよび-75.88ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(それぞれ5.20および1.22)から、生成したα-ヘプタフルオロイソプロピルナフタレンおよびβ-ヘプタフルオロイソプロピルナフタレンの収率は、それぞれ60.6%、および14.2%と計算された。反応溶媒を減圧下で留去して得た残渣をカラムクロマトグラフィー(230~400メッシュのシリカゲル8g;ヘキサンRf=0.7)で精製した。
α-ヘプタフルオロイソプロピルナフタレンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-73.99(d,J=6.8Hz,6F),-174.98(septet,J=6.8Hz,1F).
H-NMR of Fr9(CDCl):8.46(d,J=8.6Hz,1H),8.02(d,J=8.2Hz,1H),7.91(dd,J=7.2,1.9Hz,1H),7.78(d,J=7.2Hz,1H),7.59(t,J=8.5Hz,1H),7.55(t,J=6.8Hz,1H),7.51(td,J=7.9,1.4Hz,1H).
MS(MS(EI,70eV)m/z(ベースピークに対する相対強度):296(M,93.5),227(M-CF,100),177(M-C,74.3),207(M-CF-HF,19.0),157(M-C-HF,12.7),127(M-C,10.0),88.6(divalent cation of m/z177 fragment,28.1),five divalent cations between 85.7~89.6(1.1~1.5 except m/z88.6).
β-ヘプタフルオロイソプロピルナフタレンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-75.89(d,J=7.2Hz,6F),-182.36(septet,J=7.2Hz,1F).
H-NMR of Fr7(CDCl):8.14(s,1H),7.95(d,J=9.5Hz,1H),7.90(d,J=9.5Hz,1H),7.88~7.92(overlapped,1H),7.64(d,J=8.8Hz,1H),7.57~7.62(overlapped,2H).
MS(MS(EI,70eV)m/z(ベースピークに対する相対強度):296(M,100),227(M-CF,79.6),207(M-CF-HF,4.3),177(M-C,91.6)157(M-C-HF,11.2),127(M-C,15.9),88.6(divalent cation of m/z177 fragment,23.6),five divalent cations between 85.7~89.6(1.1~1.8 except m/z88.6).
【0044】
[実施例7]
「フェナントレンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
フェナントレン(89.1mg,0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(807mg、1.5mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてベンゾトリフルオリド(20.3mg,0.139mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.22ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-73.50ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(2.12)から、生成した9-ヘプタフルオロイソプロピルフェナントレンの収率は29.4%と計算された。反応溶媒を減圧下で留去して得た残渣をカラムクロマトグラフィー(230~400メッシュのシリカゲル8g;ヘキサンRf=0.61)で精製した。
9-ヘプタフルオロイソプロピルフェナントレンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-73.51(d,J=6.9Hz,6F),-174.68(septet,J=6.8Hz,1F).
H-NMR(CDCl):8.80(d,J=8.3Hz,1H),8.71(d,J=8.3Hz,1H),8.53(d,J=8.5Hz,1H),8.08(s,1H),7.93(d,J=8.0Hz,1H),7.7(ddd,J=8.5,8.0,1.4Hz,1H),7.72(t,J=8.0Hz,1H),7.68(t,J=8.3Hz,1H),7.66(t,J=8.0Hz,1H).
MS(EI,70eV):346(100),277(93.4,M-CF),257(18.5,M-CF-HF),227(26.9),113.5(21.6,dication with 227mu).
【0045】
[実施例8]
「アントラセンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
アントラセン(356.5mg、2.0mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1mmol)、磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後に(528mg、1.0mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてベンゾトリフルオリド(31.8mg、0.218mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.21ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-70.50ppm、-73.87ppmおよび-75.74ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(それぞれ2.6、0.62、0.16)から、生成した9-ヘプタフルオロイソプロピルアントラセン、2-ヘプタフルオロイソプロピルアントラセン、および1-ヘプタフルオロイソプロピルアントラセンの収率は、それぞれ28.3%、6.7%、および1.7%と計算された。反応溶媒を減圧下で留去して得た残渣をカラムクロマトグラフィー(230~400メッシュのシリカゲル11.5g;ヘキサンRf=0.55)で精製した。
9-ヘプタフルオロイソプロピルアントラセンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-70.51(d,J=2.9Hz,6F),-156.52(m,1F).
H-NMR(CDCl):8.63(s,1H),8.55(t,J=8.0Hz,1H),8.29(d,J=9.2Hz,1H),8.06(d,J=5.3Hz,1H),8.04(d,J=5.9Hz,1H),7.43~7.62(m,4H).
MS(EI,70eV):m/z346(M,67.5),277(M-CF,100).
2-ヘプタフルオロイソプロピルアントラセンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-73.87(d,J=6.8Hz,6F),-175.51(septet,J=6.8Hz,1F).
H-NMR(CDCl):9.06(s,1H),8.51(dm,J=8.8Hz,1H),8.41(s,1H),8.19(d,J=8.7Hz,1H),8.01(s,1H),7.47~7.62(m,3H).
MS(EI,70eV):m/z346(M,100),277(M-CF,79.0).
1-ヘプタフルオロイソプロピルアントラセンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-75.74(d,J=7.2Hz,6F),-182.24(septet,J=7.2Hz,1F).
H-NMRについては、生成量が少なく単離精製が困難のためにデータを取得出来なかった。
MS(EI,70eV):m/z346(M,100),277(M-CF,60.7).
【0046】
[実施例9]
「ベンゼンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
(A)酸化剤2,3,5,6-テトラクロロベンゾキノン(クロラニル)との組み合わせ
(A-1)
ベンゼン(2mL)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1mmol)、クロラニル(369mg、1.5mmol)、磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタニトロベンゾトリフルオリド(26.1mg、0.137mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。-63.43ppmに現れる内部標準のトリフルオロメチル基のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.18ppmに観測されるヘプタフルオロイソプロピルベンゼンのトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(11.66)から、生成したヘプタフルオロイソプロピルベンゼンの収率は79.9%と計算された。本反応では、-63.24ppmに痕跡量のベンゾトリフルオリドが生成しており(0.8%収率)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneが実質的に選択的なC-C結合の開裂反応を起こしていることを支持した。
(A-2)
(A-1)の反応をクロラニルの量を1.0mmol(246mg)にして行った結果、ヘプタフルオロイソプロピルベンゼンの収率は、88.1%となった。
(A-3)
(A-1)の反応をクロラニルの量を0.5mmol(123mg)にして行った結果、ヘプタフルオロイソプロピルベンゼンの収率は、81.6%となった。
【0047】
(B)(A-1)の反応について反応時間を半分の2日間にして行った場合
ヘプタフルオロイソプロピルベンゼンの収率は、79.9%から62.8%へと減少した。
【0048】
(C)酸化剤2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)との組み合わせ
ベンゼン(2mL)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane((538mg、1mmol)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-2,5-シクロヘキサジエン-1,4-ジオン(369mg、1.5mmol)、磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタニトロベンゾトリフルオリド(38.4mg、0.201mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。-63.40ppmに現れる内部標準のトリフルオロメチル基のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.17ppmに観測されるヘプタフルオロイソプロピルベンゼンのトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(9.17)から、生成したヘプタフルオロイソプロピルベンゼンの収率は92.2%と計算された。ベンゼンを留去して得た残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(230~400メッシュのシリカゲル6g;ヘキサンRf=0.71)で精製した。
ヘプタフルオロイソプロピルベンゼンのH-NMR(CDCl,δ):7.61(br d,J=7.6HZ,2H),7.46~7.55(overlapped m,3H).
【0049】
[実施例10]
「トルエンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
酸化剤2,3,5,6-テトラクロロベンゾキノン(クロラニル)との組み合わせ
トルエン(2mL)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1mmol)、クロラニル(369mg、1.5mmol)、磁気撹拌子を30ml容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタニトロベンゾトリフルオリド(34.9mg、0.183mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。-63.45ppmに現れる内部標準のトリフルオロメチル基のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.16ppm、76.21ppm、76.32ppmに観測されるヘプタフルオロイソプロピル基のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(それぞれ、0.288、0.052、0.231)から、生成したパラ-、オルソ-、およびメタ-ヘプタフルオロイソプロピルトルエンの収率は、それぞれ28.8%、5.2%、23.1%と計算された。
オルソ-、メタ-、パラ-ヘプタフルオロイソプロピルトルエンのスペクトルデータ
オルソ-ヘプタフルオロイソプロピルトルエン
19F-NMR(CDCl):-76.20(d,J=5.4Hz,6F)
生成量が少なく単離が難しく他の異性体によるピークと重なり特定出来なかった。
メタ-ヘプタフルオロイソプロピルトルエン
19F-NMR(CDCl):-76.32(d,J=7.2Hz,6F),-183.01(septet,J=7.2Hz,1F).
パラ‐ヘプタフルオロイソプロピルトルエン
19F-NMR(CDCl):-76.17(d,J=7.0Hz,6F),-183.05(septet,J=7.0Hz,1F).
【0050】
[実施例11]
「tert-ブチルベンゼンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
tert-ブチルベンゼン(2mL)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1mmol)、3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-2,5-シクロヘキサジエン-1,4-ジオン(340.5mg、1.5mmol)、磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、2日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタニトロベンゾトリフルオリド(32.6mg、0.177mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。-63.43ppmに現れる内部標準のトリフルオロメチル基のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.14ppmと76.25ppmに観測されるヘプタフルオロイソプロピル基のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(それぞれ、5.78および4.46)から、生成したメタ-およびパラ-ヘプタフルオロイソプロピルtert-ブチルベンゼンの収率は、それぞれ49.3%および38.1%と計算された。90℃で2日間の加熱では、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneが7.3%分解せずに残っていた。F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneの分解した量を勘案してconversion yieldを計算すると、それぞれ、41.1%、53.2%となり、メタ体とパラ体の収率の総計は、94.3%となった。反応液を減圧蒸留して得たフラクション(70℃/30mmHg、0.27g)、および残渣(0.67g)について、それぞれシリカゲルカラムクロマトグラフィー(230~400メッシュシリカゲルそれぞれ16g、および7g;ヘキサンRf=0.77)にかけメタ体とパラ体の混合比の異なるフラクションについて19F-NMRおよびH-NMRを測定し、その変動から各成分の構造を決定した。メタ体とパラ体の成分比が分かったフラクションのマススペクトル(MS)より、それぞれのMSを得た。
メタ-ヘプタフルオロイソプロピルtert-ブチルベンゼンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-76.14(d,J=7.1Hz,6F),-182.86(septet,J=7.1Hz,1F).
H-NMR(CDCl):7.62(brs,1H),7.55(ddd,J=5.7,3.2,1.9Hz,1H),7.38~7.44(m,2H),1.34(s,9H).
MS(EI,70eV):302(M,11.9),287(M-CH,100),259(heptafluoroisopropyltropylium,51.3),57(tert-butyl cation,30.2),41(allylic cation,65.9).
パラ-ヘプタフルオロイソプロピルtert-ブチルベンゼン
19F-NMR(CDCl):-76.25(d,J=7.2Hz,6F),-183.06(septet,J=7.3Hz,1F).
H-NMR(CDCl):7.53(d,J=9.2Hz,2H),7.49(d,J=9.2Hz,2H),1.34(s,9H).
MS(EI,70eV):302(M,10.2),287(M-CH,100),259(heptafluoroisopropyltropylium,52.7),57(tert-butyl cation,34.4),41(allylic cation,68.6).
【0051】
[実施例12]
「オルソキシレンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
オルソキシレン(2mL)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1mmol)、クロラニル(369mg、1.5mmol)、磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタニトロベンゾトリフルオリド(34.1mg,0.179mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。-63.42ppmに現れる内部標準のトリフルオロメチル基のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.28ppmに観測される4-ヘプタフルオロイソプロピル-1,2-ジメチルベンゼンのトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(4.71)から、位置選択的に生成した4-ヘプタフルオロイソプロピル-1,2-ジメチルベンゼンの収率は42.0%と計算された。
オルソキシレンを常圧蒸留で留去して得た残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(230~400メッシュのシリカゲル4g、ヘキサンRf=0.68)に付し、生成物の4-ヘプタフルオロイソプロピル-1,2-ジメチルベンゼンを単離し、NMRおよびGC-MSにより構造を決定した。
4-ヘプタフルオロイソプロピル-1,2-ジメチルベンゼンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-76.34(d,J=7.0Hz,6F),-183.07(septet,J=7.0Hz,1F).
H-NMR(CDCl):7.35(s,1H),7.32(d,J=8.5Hz,1H),7.23(d,J=8.5Hz,1H),2.32(s,3H),2.30(s,3H).
MS(EI,70eV):274(M,55.8),259(4.2,M-CH),255(8.0,M-F),205(100,M-CF),155(69.7,M-C),115(11.6),105(32.1,M-C),91(3.5,tropyrium),69(5.3,CF).
【0052】
[実施例13]
「フルオロ系溶媒中でのアセトアニリドのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
(A)トリフルオロエタノールを用いた場合
(A-1)F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneを1.5倍当量用いた場合
アセトアニリド(67.5mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(403.5mg、0.75mmol)、トリフルオロエタノール(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(26.0mg、0.136mmol)を加え、19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.45ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.31ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(4.72)から、生成したN-アセチル4-ヘプタフルオロイソプロピルアニリドの収率は64.3%と計算された。H-NMRからは、未反応の出発原料が36.4%残っていることが確認されたので、物質収支は、ほぼ100%であり、パラ位選択性の高いきれいな反応であった。
4-ヘプタフルオロイソプロピルアセトアニリドのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-76.32(d,J=7.6Hz,6F),-182.79(septet,J=7.3Hz,1F).
H-NMR(CDCl):7.66(d,J=8.8Hz,2H),7.56(d,J=8.8Hz,2H),7.27(brs,1H),2.22(s,3H).
MS(EI,70eV):m/z303(M,34.2),m/z284(M-F,2.9),261(M-CHCO,58.1),m/z192(M-CHCO-CF,100.0),m/z172(M-CHCO,-CF,-HF,0.0),m/z142(M-CHCO,-C,16.9),m/z43(CHCO,31.8).
単離精製した4-ヘプタフルオロイソプロピルアセトアニリドのGC-MSで痕跡量のオルソ置換体が観測された。
MS(EI,70eV):m/z303(M,30.0),m/z284(M-F,2.5),261(M-CHCO,100),m/z192(M-CHCO-CF,97.0),m/z172(M-CHCO,-CF,-HF,15.4),m/z43(CHCO,46.3).
【0053】
(A-2)F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentaneを3倍当量用いた場合
アセトアニリド(67.5mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(807mg、1.5mmol)、トリフルオロエタノール(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(21.0mg、0.136mmol)を加え、19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.46ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.32ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(8.62)から、生成した4-ヘプタフルオロイソプロピルアセトアニリドの収率は94.8%と計算された。H-NMRから求めた収率は96.8%となり、双方の測定で良い一致を見た(平均値:95.8%)。H-NMRより未反応出発原料が4.0%あったので、物質収支は99.8%であった。反応液を濃縮後、Kugel Rohrを用いて減圧下で昇華して白色の結晶を得た(0.132g、87.1%)。
4-ヘプタフルオロイソプロピルアセトアニリドのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-76.32(d,J=7.6Hz,6F),-182.79(septet,J=7.3Hz,1F).
H-NMR(CDCl):7.66(d,J=8.8Hz,2H),7.56(d,J=8.8Hz,2H),7.27(brs,1H),2.22(s,3H).
MS(EI,70eV):m/z303(M,34.2),m/z284(M-F,2.9),261(M-CHCO,58.1),m/z192(M-CHCO-CF,100.0),m/z172(M-CHCO,-CF,-HF,0.0),m/z142(M-CHCO,-C,16.9),m/z43(CHCO,31.8).
単離精製した4-ヘプタフルオロイソプロピルアセトアニリドのGC-MSで痕跡量のオルソ置換体が観測された。
MS(EI,70eV):m/z303(M,30.0),m/z284(M-F,2.5),261(M-CHCO,100),m/z192(M-CHCO-CF,97.0),m/z172(M-CHCO,-CF,-HF,15.4),m/z43(CHCO,46.3).
【0054】
(B)ヘキサフルオロイソプロパノールとパーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフランの混合溶媒
アセトアニリド(67.5mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(807mg、1.5mmol)、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP;1mL)とパーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフラン(PFBTF;3mL)の混合溶媒、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(24.2mg、0.127mmol)を加え、19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)を測定した。
反応液から溶媒を留去によって除いて得た固体を含む残液(340mg)に重クロロホルム(1mL)を加え均一とした後に、一部を取り19F-NMRおよびH-NMRを測定した。重クロロホルムに溶かした反応液をKugel Rohrに移し、減圧下で蒸留し、固体と液体を含む高沸点側のフラクション1(251mg)と液体の低沸点側フラクション2(39mg)を得た。残渣は、ほとんど無かった(31mg)。19F-NMRおよびH-NMRよりフラクション2は、内部標準として加えたメタニトロベンゾトリフルオリドであった。フラクション1は、GC-MSによる分析から、主生成物(1)のビス置換体以外に、アセチル基のメチル水素がC15で置換したモノ置換、およびビス置換体が含まれていることが判明した。そこでフラクション1をシリカゲルクロマトグラフィー(SiO:5g、AcOEt:Hex=3:2、Rf=0.76)に掛けて、主生成物を単離精製し19F-NMRおよびH-NMRで構造決定した。19F-NMRには2種類のヘプタフルオロイソプロピル置換基が-73.88ppmと-75.29ppmに観測され、前者の-73.88ppmのシグナルは、ブロードなシングレットとなっており、アセトアミドに隣接すると考えられた。アセトアニリドのヘプタフルオロイソプロピル化は、アミド基に対してパラ位から選択的に進行することが分かっているので、本化合物は2位と4位に置換した構造であると同定した。CFシグナルは、-178.4ppmと-181.56ppmに観測されたが、前者の-178.4ppmのシグナルは極度に幅が広く、アミドプロトンとCFの間の水素結合に起因するとして、アセトアニリドに隣接するヘプタフルオロイソプロピル基由来のシグナルと判断した。-75.29ppmのシグナルはダブレット(J=6.9Hz)であるが、-181.56ppmのシグナルがセプテットにはならずブロードなシングレットであることから、お互いの位置関係がパラであっても、2つのヘプタフルオロイソプロピル基間には立体的な反発に起因する多少の回転障害があると考えられた。H-NMRについては、2,4-ビス(ヘプタフルオロイソプロピル)アセトアニリド(1)の構造と矛盾しないものであった。本化合物の単離収率は48%であった(113.1mg)。フラクション1に含まれる副生成物2種を含むカラムフラクション(51mg)について、再度、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO 5.3g,AcOEt:Hex=0.5:4で留出する成分とAcOEt:Hsx=3:1で留出する成分)による精製を行い、両副生物を単離し、19F-NMRおよびH-NMR、GC-MSにより4-ヘプタフルオロイソプロピル[(パーフルオロ-2,3-ジメチル-3-ヘキシル)アセト]アニリド(2)、及び2,4-ビス(ヘプタフルオロイソプロピル)[(パーフルオロ-2,3-ジメチル-3-ヘキシル)アセト]アニリド(3)と構造を決定した。これら単離した3つの化合物のスペクトル情報に基づいて、内部標準を加えた濃縮反応液の19F-NMRおよびH-NMRより、それぞれの収率を求めた(1:57.1%、2:27.9%、3:12.7%)。GC-MSで4-ヘプタフルオロイソプロピルアセトアニリドの存在が確認されたが、ごく僅かであった。生成物の合計収量は97.7%であることから、4-ヘプタフルオロイソプロピルアセトアニリドの量は無視できる程度と考えられた。
生成物のスペクトルデータ
2,4-ビス(ヘプタフルオロイソプロピル)アセトアニリド(1)
19F-NMR of Fr9(CDCl);-74.71(brs,6F),-76.26(d,J=6.6Hz,6F),-178.92(brs,1F),-183.07(brs,1F).
19F-NMR of Fr9(CDCN);-73.88(brs,6F),-75.29(d,J=6.9Hz,6F),-178.47(Brs,1F),-181.56(brs,1F).
H-NMR of Fr9(CDCl):8.47(brs,1H),7.87(brs,1H),7.77)d,J=9.0Hz,1H),7.73(brs,1H),2.23(s,3H).
H-NMR of Fr9(CDCN):8.18(brs,1H),8.06(d,J=8.8Hz,1H),7.90)d,J=8.8Hz,1H),7.77(s,1H),2.13(s,3H).
MS(EI,70eV);m/z471(M,14.1),452(M-F,6.6),429(M-COCH,61.3),410(M-F-COCH,6.5),360(M-CF-COCH,100),340(M-CF-COCH-HF,2.2),43(CH=C=OH,40.8).
2,4-ビス(ヘプタフルオロイソプロピル)[(パーフルオロ-2,3-ジメチル-3-ヘキシル)アセト]アニリド(2)
19F-NMR(CDCl):-59.63(brs,3F),-67.65(m,3F),-68.19(m,3F),-74.66(quintet,J=7.8Hz,3F),-75.24(brs,3F),-76.23(d,J=7.1Hz,6F),-78.10(qd,J=10.9,4.3Hz,3F),-106.18(Abq,J=291Hz,1F),-108.03(Abqq,J=291,30.7Hz,1F),-168.96(brs,1F),-179.86(brs,1F),-183.08(brs,1F).
H-NMR(CDCl):8.49(brs,-NHCO-,1H),8.05(brd,J=7.8Hz,1H),7.78(d,J=7.8Hz,1H),7.75(s,1H),3.34(Abq,J=15.6Hz,2H).
MS(EI,70eV):839(6.2,M),820(12.0,M-F),770(2.7,M-CF),429(100),411(27.6,protonated ketene),360(94.4,M-ketene-CF),275(4.3),245(4.3),195(3.1),145(10.0),119(16.2),69(15.5).
4-ヘプタフルオロイソプロピル[(パーフルオロ-2,3-ジメチル-3-ヘキシル)アセト]アニリド(3)
19F-NMR(CDCl):-59.43(brs,3F),-67.38(m,3F),-68.17(m,3F),-76.26(d,J=7.1Hz,6F),-78.05(qd,J=10.8,5.1Hz,3F),-106.86(Abq,J=292Hz,2F),-168.66(brs,1F),-182.78(septet,J=7.2Hz,1F).
H-NMR(CDCl):7.60(Abq,J=9.0Hz,4H),7.25(brs,1H),3.33(Abq,J=15.8Hz,2H).
MS(EI,70eV):671(18.8,M),652(14.8,M-F),632(3.7,M-F-HF),602(2.8,M-CF),411(6.9,protonated ketene),261(100,M-ketene),192(97.6,M-ketene-CF),145(12.4),119(13.0),69(13.3).
【0055】
(C)パーフルオロ-t-ブチルアルコールとパーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフランの混合溶媒
アセトアニリド(67.5mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(807mg、1.5mmol)、パーフルオロ-t-ブチルアルコール(PFTB;1mL)とパーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフラン(PFBTF;3mL)の混合溶媒、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液から溶媒を留去し濃縮した後に内部標準としてメタ―ニトロベンゾトリフルオリド(23.4mg、0.123mmol)を加え、19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)を測定した。実施例13(B)で同定した生成物のスペクトルデータを基にして計算した化合物(1)、(2)および(3)の収率は、それぞれ58.3%、20.0%、および16.0%(総収率94.3%)であった。
【0056】
(D)トリフルオロ酢酸とPFBTFの混合溶媒
アセトアニリド(67.5mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(807mg、1.5mmol)、トリフルオロ酢酸(TFA;1mL)とパーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフラン(PFBTF;3mL)の混合溶媒、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液から溶媒を留去し濃縮した後に内部標準としてメタ―ニトロベンゾトリフルオリド(22.9mg、0.120mmol)を加え、19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)を測定した。実施例13(B)で同定した生成物のスペクトルデータを基にして計算した化合物(1)、(2)および(3)の収率は、それぞれ26.4%、38.9%、および9.7%(総収率74.8%)であった。
【0057】
[実施例14]
「フルオロ系溶媒中での1,4-ジメトキシベンゼンのヘプタフルオロイソプロピル化反応」
(A):実施例4(B)の反応について溶媒を1,2-ジクロロエタンからトリフルオロエタノールに変えて行った場合
1,4-ジメトキシベンゼン(69mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1.0mmol)、トリフルオロエタノール(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(24.2mg、0.127mmol)を加え、19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.42ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-74.84ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(4.54)から、生成した2-ヘプタフルオロイソプロピル-1,4-ジメトキシベンゼンの収率は57.7%と計算された。さらに-74.61ppmに観測されたビス置換体由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(1.67)より求めた2,5-ビス(ヘプタフルオロイソプロピル)-1,4-ジメトキシベンゼンの収率は10.7%であった。また、H-NMRで観測される内部標準の8.53ppmのシングレットのシグナル積分値(1.0)に対し、7.12ppmに観測されるベンゼン環の3位プロトン(dd,J=3.0,1.4Hz)の積分値(2.46)から計算した2-ヘプタフルオロイソプロピル-1,4-ジメトキシベンゼンの収率は62.5%であった。また、2,5-ビス置換体の生成量は7.21ppmに観測されるシングレットのシグナル積分値(0.96)より12.2%と計算された。出発原料のベンゼン環のプロトン(6.85ppm,singlet)のシグナルは観測されず、全量が消費していた。19F-NMRおよびH-NMRで求めたモノ置換体およびビス置換体の収率の平均値は、それぞれ、60.1%、および11.5%であった。
トリフルオロエタノール溶媒を用いた場合に生成したビス置換体は、減圧下で濃縮して得た反応残渣をKugel蒸留(70℃、~1mmHg)して得たフラクション1と2のGC-MSと19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)により同定された。
2,5-ビス(ヘプタフルオロイソプロピル)-1,4-ジメトキシベンゼンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-74.61(d,J=5.1Hz,12F),-173.25(brs,2F).
H-NMR(CDCl):7.21(brs,2H),3.852(brs,6H).
MS(EI,70eV):m/z474(M,100),459(M-CH,55.7),440(M-CH-F,26.0),362(9.2),307(12.3),188(18.7),69(10.9).
【0058】
(B):実施例4(C)の反応について溶媒を1,2-ジクロロエタンからトリフルオロエタノールに変えて行った場合
1,4-ジメトキシベンゼン(69mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(269mg、0.5mmol)、トリフルオロエタノール(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(23.1mg、0.121mmol)を加え、19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.45ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-74.84ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(4.22)から、生成した2-ヘプタフルオロイソプロピル-1,4-ジメトキシベンゼンの収率は55.1%と計算された。また、H-NMRで観測される内部標準の8.52ppmのシングレットのシグナル積分値(1.0)に対し、7.13ppmに観測される生成物のベンゼン環の3位プロトン(dd,J=3.0,1.4Hz)の積分値(2.38)から計算した収率は58.5%となった。19F-NMRおよびH-NMRで求めた収率の平均値は、56.8%であった。また、微量であるが、2,5-ビス置換体が生成していた(7.21ppm、singlet signalの積分値0.09より1.1%と計算された)。さらに、出発原料のベンゼン環のプロトン(6.85ppm、singlet)の積分値(5.79)に基づいて計算で求めた未反応の1,4-ジメトキシベンゼンが35.7%存在した。
【0059】
[実施例15]
「1-デセンのヒドロヘプタフルオロイソプロピル化反応」
(A)F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane単独での反応
1-デセン(70mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(296mg,0.55mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(22.4mg、0.117mmol)を加え、19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.38ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.83ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(2.77)から、生成した1-(ヘプタフルオロイソプロピル)デカンの収率は32.0%と計算された。H-NMRは副生成物の影響で複雑で解析不能であるため、溶媒を留去して得た残渣をKugel Rohrで減圧下に蒸留して得たフラクション(90℃、~1mmHg)のGC-MSを測定した。水素引き抜き反応で生成した炭素-炭素二重結合の位置、およびトランス、シス幾何異性体が8種類検出された。
【0060】
(B)THF添加条件下での反応
1-デセン(70mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(296mg、0.55mmol)、テトラヒドロフラン(72mg、1mmol)、1,2-ジクロロエタン(4mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、4日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(21.6mg、0.121mmol)を加え、19F-NMR(CDCl)を測定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.40ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-76.85ppmに観測された生成物由来のトリフルオロメチル基のダブレットのシグナル積分値(3.50)から、生成した1-(ヘプタフルオロイソプロピル)デカンの収率は40.0%と計算された。THF存在下では、ほぼ単一の生成物が生成していたので、溶媒留去後の残渣をKugel Rohrで減圧下に蒸留して単離精製し(70℃、~0.3mmHg、79mg、単離収率25%)GC-MSと19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)により同定を行った。
1-(ヘプタフルオロイソプロピル)デカンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-76.87(d,J=6.8Hz,6F),-184.15(t septet,J=20.4,6.8Hz,1F).
H-NMR(CDCl):2.04(dt,J=20.4,8.1Hz,2H),1.55(m,2H),1.2~1.4(brd m,14H),0.88(t,J=7.0Hz,3H).
MS(EI,70eV):310(M,3.6),281(M-C,5.2),267(M-C,5.6),239(M-C11,12.4),225(M-C13,4.4),127(C19,2.0),99(C15,3.1),85(C13,32.4),71(C11,39.0),70(C10,10.7),57(C,84.0),56(C,16.1),55(C,16.3),43(C,100),42(C,12.7),41(C,23.2),29(C,15.7).
【0061】
[実施例16]
「メシチレンのパーフルオロ-2,3-ジメチル-3-ペンチル化反応」
メシチレン(60.1mg、0.5mmol)、F-3-ethyl-2,3,4-trimethylpentane(538mg、1.0mmol)、1,2-ジクロロエタン(2mL)、および磁気撹拌子を30mL容のSchlenk管に入れ、脱気後にヘリウムを封入し(1気圧)、テフロン(登録商標)コックを閉じた。反応容器を90℃に加温したオイルバスに、前記Schlenk管を浸け、2日間良く攪拌した。得られた反応液に内部標準としてメタ-ニトロベンゾトリフルオリド(22.4mg、0.117mmol)を加え、19F-NMRおよびH-NMR(CDCl)を測定した。生成物の構造は、溶媒を留去して得た残渣をKugel Rohrを用いて減圧下で蒸留して単離した後にNMRおよびGC-MSで決定した。内部標準由来のトリフルオロメチル基(-63.41ppm)のシグナル積分値(1.0)に対し、-58.94ppm、-67.15ppm、-78.22ppmに観測された3種類のCFシグナルの積分値の平均値(1.70)に基づいて計算した1-(パーフルオロ-2,3-ジメチル-3-ペンチル)メチル-3,5-ジメチルベンゼンの収率は40%であった。また、副生成物として1-ヘプタフルオロイソプロピルメチル-3,5-ジメチルベンゼンが1.3%生成していることが19F-NMRおよびGC-MSで確認された。
1-(パーフルオロ-2,3-ジメチル-3-ペンチル)メチル-3,5-ジメチルベンゼンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-58.94(3F,brs),-67.15(3F,brs),-68.66(3F,vbrs),-78.22(3F,m),-104.4,-108.5(2F,ABquartet,JAB=286Hz),-169.14(1F,brs).
H-NMR(CDCl):6.93(1H,s),6.90(2H,s),3.74,3.55(ABquartet,JAB=15.9Hz),2.29(6H,s).
MS(EI,70eV):488(M,6.0),119(M-C15,100)
1-ヘプタフルオロイソプロピルメチル-3,5-ジメチルベンゼンのスペクトルデータ
19F-NMR(CDCl):-75.99(d,J=7.6Hz,6F),-182.94(t septet,JHF=23.0Hz,JFF=7.6Hz,1F).
MS(EI,70eV):288(M,12.2),119(M-C,100),115(methyltropylium ion,3.4),91(tropylium ion,10.1).
【0062】
[参考例]
パーフルオロカーボンの熱分解反応に関する速度論を、パーフルオロ-3-エチル-2,4-ジメチルペンタンを内部標準としてパーフルオロフルオレン溶媒中で行った。85、90、95、100℃で熱分解反応を行い、パーフルオロカーボンと内部標準の量比の対数値を反応時間に対してプロットした。85℃におけるパーフルオロカーボンの熱分解反応においてパーフルオロカーボンと内部標準の量比の対数値と反応時間との関係を図1に示す。90℃におけるパーフルオロカーボンの熱分解反応においてパーフルオロカーボンと内部標準の量比の対数値と反応時間との関係を図2に示す。95℃におけるパーフルオロカーボンの熱分解反応においてパーフルオロカーボンと内部標準の量比の対数値と反応時間との関係を図3に示す。100℃におけるパーフルオロカーボンの熱分解反応においてパーフルオロカーボンと内部標準の量比の対数値と反応時間との関係を図4に示す。
得られた直線(相関係数>0.99)より求めた各温度におけるパーフルオロカーボンの半減期は、それぞれ、25.7、12.1、6.3、3.0時間となった。各温度での速度定数を表1に纏めて示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に基づくArrheniusプロットを図5に示す。図5に示すArrheniusプロットから、下記式(1)と下記式(2)で規定される絶対反応速度式を用いて求めた活性化エンタルピーは37.5kcal/mol、活性化エントロピーは20.9e.u.であった。反応時間は、これらの速度論データを基にして、反応に用いた温度でのパーフルオロカーボンの半減期を基にして設定されるが、それぞれの反応温度におけるパーフルオロカーボンの半減期の1倍以上10倍以下で行うのが好ましく、2倍以上9倍以下がより好ましく、4倍以上8倍以下がさらに好ましい。上記第2の溶液の加熱時間が前記下限値未満であると、反応が完結しないか、または、パーフルオロカーボンの使用量が非常に多くなりコストが掛かり過ぎてしまう。第2の溶液の加熱時間が前記上限値を超えると、実質的にパーフルオロカーボンを完全に消費しているため意味をなさない。
【0065】
【数1】
(式中Rは気体定数、kはボルツマン定数、hはプランク定数を意味する。)
【0066】
【数2】
(式中Rは気体定数、kはボルツマン定数、hはプランク定数を意味する。)
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、医薬・農薬を初めとする高機能性化合物の探索において利用される可能性が高く、さらに材料一般の分子設計やイメージングなどの計測分野でも展開が可能と考えられる。本発明に係るパーフルオロアルキル化化合物の製造方法により、第三級炭素、または第四級炭素と第四級炭素が隣り合った構造を有するパーフルオロカーボンを用いて、医薬、農薬、機能性材料等の分野で活用される多様なパーフルオロアルキル化化合物を提供することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5