(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132442
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ウイルス濃縮デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 1/40 20060101AFI20240920BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240920BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240920BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N1/40
G01N1/28 J
C12M1/00 A
C12M1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043201
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重松 奈公子
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 啓
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 諒太
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
【Fターム(参考)】
2G052AA29
2G052AA36
2G052AD26
2G052CA03
2G052CA18
2G052CA24
2G052EA03
2G052ED04
2G052ED11
2G052JA16
4B029AA09
4B029BB13
4B029CC01
4B029DG08
4B029HA06
(57)【要約】
【課題】安全かつ迅速に、被処理液中のウイルスを濃縮する技術に関する。
【解決手段】ウイルス濃縮デバイスは、被処理液中のウイルスを濃縮するためのウイルス濃縮デバイスであって、前記被処理液の吸入及び吐出が可能な開口端を有する管状部材と、前記管状部材の内部に配置された積層シートと、を備える。前記積層シートは、第1シートと、前記第1シートに積層された第2シートと、を有する。前記第1シートは、メジアン繊維径が10μm未満の第1繊維と、前記第1繊維を被覆する、少なくとも1種のカチオン性ポリマーと、を含む。前記第2シートは、メジアン繊維径が10μm以上の第2繊維を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液中のウイルスを濃縮するためのウイルス濃縮デバイスであって、
前記被処理液の吸入及び吐出が可能な開口端を有する管状部材と、
前記管状部材の内部に配置された積層シートと、
を備え、
前記積層シートは、
第1シートと、
前記第1シートに積層された第2シートと、を有し、
前記第1シートは、
メジアン繊維径が10μm未満の第1繊維と、
前記第1繊維を被覆する、少なくとも1種のカチオン性ポリマーと、を含み、
前記第2シートは、
メジアン繊維径が10μm以上の第2繊維を含む
ウイルス濃縮デバイス。
【請求項2】
前記積層シートにおいて、前記第1シート及び前記第2シートの積層方向は、前記管状部材の延在方向と交差する方向である
請求項1に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項3】
前記積層シートは、
前記管状部材の延在方向と平行な軸まわりに巻かれている
請求項2に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項4】
前記積層シートは、前記第1シート及び前記第2シートを含む、合計3枚以上のシートを有する
請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項5】
前記積層シートは、前記開口端に配置される
請求項1から4のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項6】
前記管状部材は、スポイト状に構成される
請求項1から5のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項7】
前記第1繊維のメジアン繊維径は、1μm以下である
請求項1から6のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項8】
前記第1シートの比表面積は、1m2/g以上である
請求項1から7のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項9】
前記第1シートは、前記第1繊維の基材として、熱可塑性樹脂を含む
請求項1から8のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項10】
前記カチオン性ポリマーの少なくとも1種は、カチオン性モノマーの少なくとも1種に由来する構成単位を有する
請求項1から9のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項11】
前記カチオン性モノマーは、第四級アンモニウム塩を含む
請求項10に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項12】
前記第2繊維は、セルロース系繊維を含む
請求項1から11のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項13】
前記第2繊維は、レーヨンを含む
請求項12に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項14】
前記積層シート全体の質量に占める前記第1シートの質量の割合は、12.7%以上25.4%以下である
請求項1から13のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項15】
エンベロープウイルスを標的ウイルスとする
請求項1から14のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項16】
前記標的ウイルスは、SARS-CoV-2を含む
請求項15に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項17】
前記第2シートは、
前記第2繊維を被覆する、少なくとも1種のカチオン性ポリマーをさらに含む
請求項1から16のいずれか一項に記載のウイルス濃縮デバイス。
【請求項18】
被処理液中のウイルスを吸着することが可能なウイルス濃縮デバイス
を備えたウイルス濃縮キットであって、
前記ウイルス濃縮デバイスは、
前記被処理液の吸入及び吐出が可能な開口端を有する管状部材と、
前記管状部材の内部に配置された積層シートと、を有し、
前記積層シートは、
第1シートと、
前記第1シートに積層された第2シートと、を有し、
前記第1シートは、
メジアン繊維径が10μm未満の第1繊維と、
前記第1繊維を被覆する、少なくとも1種のカチオン性ポリマーと、を含み、
前記第2シートは、
メジアン繊維径が10μm以上の第2繊維を含む
ウイルス濃縮キット。
【請求項19】
被処理液中のウイルスを吸着することが可能なウイルス濃縮デバイスと、
前記ウイルス濃縮デバイスに吸着した前記ウイルスを検出するための検査試薬と、
を備えたウイルス検査キットであって、
前記ウイルス濃縮デバイスは、
前記被処理液の吸入及び吐出が可能な開口端を有する管状部材と、
前記管状部材の内部に配置された積層シートと、を有し、
前記積層シートは、
第1シートと、
前記第1シートに積層された第2シートと、を有し、
前記第1シートは、
メジアン繊維径が10μm未満の第1繊維と、
前記第1繊維を被覆する、少なくとも1種のカチオン性ポリマーと、を含み、
前記第2シートは、
メジアン繊維径が10μm以上の第2繊維を含む
ウイルス検査キット。
【請求項20】
開口端を有する管状部材と、前記管状部材の内部に配置された積層シートと、を備えたウイルス濃縮デバイスを準備し、
前記開口端から前記管状部材の内部へ被処理液を吸入し、
吸入した前記被処理液を前記開口端から吐出する
ウイルス濃縮方法であって、
前記積層シートは、
第1シートと、
前記第1シートに積層された第2シートと、を有し、
前記第1シートは、
メジアン繊維径が10μm未満の第1繊維と、
前記第1繊維を被覆する、少なくとも1種のカチオン性ポリマーと、を含み、
前記第2シートは、
メジアン繊維径が10μm以上の第2繊維を含む
ウイルス濃縮方法。
【請求項21】
前記被処理液が、SARS-CoV-2を含有する
請求項19に記載のウイルス濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理液中のウイルスを濃縮する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス検査における検出感度向上等の観点から、検体中のウイルスを濃縮する技術が知られている。例えば、特許文献1には、入口と出口を有するハウジングと、ハウジング内に配置された濃縮膜と、ハウジング内において濃縮液を収容する濃縮空間部と、を備えた生物学的粒子の濃縮デバイスが開示されている。例えば、特許文献2には、高吸水性ポリマーを収容する容器を備えるウイルスの濃縮用治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/261382号公報
【特許文献2】特許第7192146号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された濃縮用デバイスでは、濃縮空間部に収容された濃縮液を回収する必要があり、実施者がウイルスに接触するリスクが高かった。また、特許文献2に開示された濃縮用治具は、検体液と高吸水性ポリマーを10分程度接触させる必要があり、迅速性に改善の余地があった。
【0005】
本発明は、安全かつ迅速に、被処理液中のウイルスを濃縮する技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係るウイルス濃縮デバイスは、被処理液中のウイルスを濃縮するためのウイルス濃縮デバイスであって、
前記被処理液の吸入及び吐出が可能な開口端を有する管状部材と、
前記管状部材の内部に配置された積層シートと、
を備える。
前記積層シートは、
第1シートと、
前記第1シートに積層された第2シートと、を有する。
前記第1シートは、
メジアン繊維径が10μm未満の第1繊維と、
前記第1繊維を被覆する、少なくとも1種のカチオン性ポリマーと、を含む。
前記第2シートは、
メジアン繊維径が10μm以上の第2繊維を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安全かつ迅速に、被処理液中のウイルスを濃縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るウイルス濃縮デバイスを示す模式的な平面図(正面図)である。
【
図2】上記ウイルス濃縮デバイスの積層シートを広げた態様を示す平面図と、その一部を拡大した拡大図である。
【
図3】上記積層シートを示す模式的な斜視図である。
【
図4】(A)は、上記ウイルス濃縮デバイスを用いたウイルス濃縮方法を示すフロー図であり、(B)は変形例に係るウイルス濃縮方法を示すフロー図である。
【
図5】上記ウイルス濃縮デバイスを用いたウイルス濃縮方法の過程を示す模式図である。
【
図6】上記ウイルス濃縮デバイスを用いたウイルス検査方法を示すフロー図である。
【
図7】(A)は、上記ウイルス濃縮デバイスを備えたウイルス濃縮キットを示す模式図であり、(B)及び(C)は、それぞれ、変形例に係るウイルス濃縮キットを示す模式図である。
【
図8】(A)は、上記ウイルス濃縮デバイスを備えたウイルス検査キットを示す模式図であり、(B)は、変形例に係るウイルス検査キットを示す模式図である。
【
図9】(A)は、上記ウイルス濃縮デバイスの製造方法を示すフロー図であり、(B)は変形例に係るウイルス濃縮デバイスの製造方法を示すフロー図である。
【
図10】上記ウイルス濃縮デバイスの製造に用いられる繊維製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のウイルス濃縮デバイスは、被処理液中のウイルスを安全かつ迅速に濃縮するための器具である。
本発明において、「被処理液」は、ウイルス濃縮デバイスによる処理の対象となる液であり、例えばウイルス検査の対象となる液状の検体、当該検体を含む液、その他のウイルスを含有する可能性のある液から選択された少なくとも1種の液を含む。
本発明のウイルス検査は、抗原検査及び遺伝子検査を含む。抗原検査は、ウイルスの有するタンパク質あるいはタンパク質の断片を検出する検査である。遺伝子検査は、ウイルスの遺伝子(核酸)を検出する検査である。
本発明において「濃縮」とは、被処理液からウイルス濃度のより高い被処理液を生成するための操作を意味する。濃縮操作は、具体的には、本発明のウイルス濃縮デバイスに被処理液中のウイルスを集合及び吸着させる操作、及び、当該操作によってウイルス濃縮デバイスに吸着されたウイルスを少量の液に溶出する操作等を含む。
本発明において、ウイルスの「吸着」とは、ウイルス及び/又はその断片を選択的に結合することを意味する。ウイルスの断片は、例えば、ウイルスのタンパク質を含む。
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[ウイルス濃縮デバイス]
本発明の一実施形態において、ウイルス濃縮デバイス1は、管状部材2と、管状部材2の内部に配置された積層シート3と、を備える。この例は、
図1に示されている。管状部材2は、被処理液の吸入及び吐出が可能に構成される。積層シート3は、被処理液中のウイルスを吸着することが可能なシート材である。本発明のウイルス濃縮デバイス1は、管状部材2の内部に被処理液を吸入及び吐出することで、積層シート3と被処理液とを接触させる。これにより、被処理液中のウイルスを積層シート3に吸着させることができ、ウイルスの濃縮が可能となる。なお、
図1において、便宜上、積層シート3をドットパターンで表しているが、実際の外観はこれに限定されない。
【0011】
(管状部材)
管状部材2は、被処理液の吸入及び吐出が可能な開口端2aを有し、所定の方向に延在する管状の部材である。管状部材2は、内圧の上昇及び低下が可能に構成され、これにより開口端2aからの被処理液の吸入及び吐出が可能となる。管状部材2は、内圧の変化によって液の吸入及び吐出が可能な種々の形状を適用でき、例えば、スポイト状、シリンジポンプ状、ピペット状、ピペットチップ状等から選択される形状で構成され得る。管状部材2は、一般的なスポイトやシリンジポンプ、ピペット等と同様の材料で形成することができる。管状部材2の材料としては、例えば、ポリエチレン等の樹脂材料、ガラス等が挙げられる。
なお、管状部材2の延在する方向を延在方向Eとする。また、延在方向Eと直交し、かつ管状部材2の横断面の径と平行な方向を径方向Dとする。
【0012】
管状部材2は、例えばスポイト状であることが好ましい(
図1参照)。これにより、簡便な操作で被処理液の吸入及び吐出が可能となるともに、単純な構造の管状部材2を低コストで準備することができる。
【0013】
管状部材2は、例えば、開口端2aを含む第1管部T1と、第1管部T1に接続され、第1管部T1よりも内径の大きい第2管部T2と、を有することが好ましい(
図1参照)。
第1管部T1は、延在方向Eに延び、被処理液の通路として機能する。第1管部T1は、被処理液の流動性の観点から、例えば円筒状に構成されることが好ましい。第1管部T1には、積層シート3が配置されることが好ましい。例えば、第1管部T1では、被処理液の吸入と吐出に伴って被処理液が内部を流動し、積層シート3と接触し得る。内径の小さく開口端2aを含む第1管部T1に積層シート3が配置されることで、被処理液と積層シート3との接触効率を高めることができる。
【0014】
第2管部T2は、内圧の上昇及び低下が可能に構成されることが好ましい。例えば
図1に示す例において、第2管部T2は、開口端2aと反対側の端部であって閉塞された遠位端2bを含み、径方向Dの押圧によって弾性変形が可能に構成される。この構成では、第2管部T2を押圧し、その後押圧力を緩めるといった簡便な操作によって、第2管部T2の内圧を変化させ、開口端2aから被処理液を吸入及び吐出することができる。
他の例として、第2管部T2は、硬質なガラス等で構成されており、開放された遠位端に弾性変形可能なキャップ等が配置されていてもよい。このような構成においては、キャップの弾性変形によって第2管部T2の内圧を変化させることができ、被処理液を吸入及び吐出することができる。
【0015】
管状部材2において、開口端2aの内径は、積層シート3の充填しやすさと液透過性の観点から、好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上であり、デバイスを小型化して利便性や操作性を確保する観点から、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下である。
第1管部T1の長さは、十分なサイズの積層シート3を収容しつつ、デバイスを小型化して利便性や操作性を確保する観点から、好ましくは20mm以上、より好ましくは40mm以上であり、好ましくは200mm以下、より好ましくは100mm以下である。
管状部材2の最大容量は、十分な液量を処理しつつ、デバイスを小型化して利便性や操作性を確保する観点から、好ましくは0.5mL以上、より好ましくは2mL以上であり、好ましくは20mL以下、より好ましくは10mL以下である。なお、管状部材2の最大容量とは、管状部材2において、被処理液を収容可能な最大の容量を意味する。
【0016】
(積層シート)
積層シート3は、第1シート31と、第1シート31に積層された第2シート32と、を有する。この例は、
図2に示されている。第1シート31は、例えば、ウイルスの吸着量を高める等の観点から設けられる。第2シート32は、例えば、被処理液の液透過性を高める等の観点から設けられる。積層シート3の管状部材2内での形状については後述するが、
図2は、管状部材2から積層シート3を取り出して平面状に広げた態様を示している。また、
図2では、理解を容易にするため、積層シート3を構成するシートをずらして配置しているが、実際の積層シート3は、これらのシートの端部が揃うように積層されていることが好ましい。
図2において、便宜上、第1シート31を白で、第2シート32をグレーで表しているが、各シートの色はこれに限定されない。
【0017】
積層シート3は、多角形状及びこれに類する形状、円形状、楕円形状及びこれらに類する形状、並びにその他の形状から選択される任意の平面形状を有する。
図2に示す例では、積層シート3は長方形状に構成される。積層シート3を長方形状とすることで、後述するように、積層シート3を巻いて円柱形状を形成することができ、管状部材2の内部空間を有効活用しやすくなる。
【0018】
積層シート3は、1枚の第1シート31と1枚の第2シート32の合計2枚のシートを少なくとも有しており、第1シート31及び第2シート32を含む、合計で3枚以上のシートを有していてもよい。例えば、積層シート3は、複数の第1シート31と1枚の第2シート32を有していてもよく、1枚の第1シート31と複数の第2シート32を有していてもよい。あるいは、積層シート3は、複数の第1シート31と複数の第2シート32を有していてもよい。このような3層以上の積層シート3において、第1シート31及び第2シート32は交互に配置されることが好ましい。これにより、積層シート3における被処理液の透過性とウイルスの吸着効率とのバランスを適正化することができる。
【0019】
積層シート3全体のサイズは、管状部材2のサイズに応じて適宜設定することができる。例えば、積層シート3が長方形状の場合、延在方向Eと平行な方向における寸法は、ウイルスの吸着量を高める観点から、好ましくは0.5cm以上、より好ましくは1cm以上であり、管状部材2への充填しやすさと被処理液の透過性の観点から、好ましくは5cm以下、より好ましくは3cm以下である。また、積層シート3が長方形状の場合、延在方向Eと直交する方向における寸法は、被処理液の透過性とウイルスの吸着効率の向上とを図る観点から、好ましくは1cm以上、より好ましくは3cm以上であり、好ましくは20cm以下、より好ましくは10cm以下である。
積層シート3全体の質量も、管状部材2のサイズに応じて適宜設定することができるが、被処理液の透過性とウイルスの吸着効率の向上とを図る観点から、例えば、好ましくは10mg以上、より好ましくは50mg以上であり、好ましくは500mg以下、より好ましくは200mg以下である。
【0020】
積層シート3全体の坪量は、ウイルスの吸着量を高める観点から、好ましくは10g/m2以上、より好ましくは50g/m2以上であり、管状部材2への充填性と被処理液の透過性の観点から、好ましくは200g/m2以下、より好ましくは100g/m2以下である。
第1シート31の坪量は、ウイルス吸着性を高めつつ、管状部材2への充填を容易にする観点から、好ましくは1g/m2以上、より好ましくは5g/m2以上であり、好ましくは50g/m2以下、より好ましくは20g/m2以下である。
第2シート32の坪量は、被処理液の透過性を高めつつ、管状部材2への充填を容易にする観点から、好ましくは20g/m2以上、より好ましくは50g/m2以上であり、好ましくは199g/m2以下、より好ましくは100g/m2以下である。
積層シート3全体の質量に占める第1シート31の質量の割合は、被処理液の透過性とウイルスの吸着効率の向上とを図る観点から、好ましくは12.7%以上25.4%以下である。
【0021】
(第1シート)
第1シート31は、メジアン繊維径が10μm未満の第1繊維F1と、第1繊維F1を被覆する、少なくとも1種のカチオン性ポリマーPと、を含む(
図2参照)。つまり、第1繊維F1は、表面をカチオン性ポリマーPによって改質されている。
第1シート31は、例えば、不織布、織布、編み地又はそれらの積層体で構成され、後述する第1シート31の比表面積を高める観点から、好ましくは不織布又はその積層体で構成される。
【0022】
例えば、第1繊維F1は、第1シート31において、互いに融着し、及び/又は絡み合っていることが好ましい。「融着」とは、第1繊維F1同士が溶融して接着した状態を意味する。「絡み合い」とは、第1繊維F1同士が互いに絡んだ状態を意味する。さらに、第1シート31が、第1繊維F1の表面又は第1繊維F1間に接着剤を含んでおらず、融着及び又は絡み合いによって形状を保持していることが好ましい。本発明の第1繊維F1は、非常に細い径を有するため、特に融着や絡み合いが起きやすい。したがって、第1シート31は、接着剤を含まずとも良好に形状を保持することができる。
第1繊維F1の表面に接着剤が存在しない状態となることで、第1繊維F1におけるウイルス吸着可能な領域を十分に確保でき、ウイルスの吸着量を高めることができる。また、衛生的な観点からも接着剤を用いないことが好ましく、ウイルス検査等のための医療用の材料としてウイルス濃縮デバイス1を好ましく用いることができる。
【0023】
比表面積を高めてウイルスの吸着量を高める観点から、第1繊維F1のメジアン繊維径は、10μm未満である。
より詳細に、第1繊維F1のメジアン繊維径は、十分な比表面積を得てウイルス吸着量をより高める観点から、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.8μm以下である。
第1繊維F1のメジアン繊維径は、第1シート31の強度を高め、第1シート31の構造を維持することで、第1シート31の細孔構造の容積・表面積を高く維持し、より多くのウイルスを吸着しやすくする観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上である。
【0024】
本発明における「メジアン繊維径」とは、以下の方法で算出した繊維径を意味する。
第1繊維F1の繊維径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)の観察による二次元画像から繊維の塊、繊維の交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径として直接読み取ることで測定することができる。測定した500本の繊維径の分布からメジアン繊維径を求めることができる。
【0025】
本発明の第1繊維F1は、確実に比表面積を高める観点から、均一性の高い繊維径を有することが好ましい。そこで、第1シート31に含まれる第1繊維F1の繊維径の分散値は、製造のしやすさの観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上であり、均一性の高さの観点から、好ましくは2.5以下、より好ましくは2以下である。
本発明の繊維径の分散値は、上述のように500本の繊維の繊維径を測定し、これらの測定値から以下の式(1)に基づいて算出することができる。
分散値=|累積頻度90%径-累積頻度10%径|÷メジアン径(累積頻度50%径)
…(1)
【0026】
第1繊維F1の比表面積は、ウイルスの吸着可能な表面の面積を十分に得る観点から、好ましくは0.5m2/g以上、好ましくは1m2/g以上、好ましくは1.5m2/g以上、より好ましくは2m2/g以上である。
第1繊維F1の比表面積は、製造上の観点から、好ましくは300m2/g以下、好ましくは50m2/g以下、好ましくは30m2/g以下、より好ましくは10m2/g以下である。
第1繊維F1の比表面積とは、細孔径0.1μm~100μmにおける細孔容量から算出される第1シート31の単位質量あたりの表面積を意味する。
第1繊維F1の比表面積を高めることで、単位質量あたりの第1シート31の表面積が高められる。これにより、第1シート31のウイルス吸着可能な領域が大きくなり、積層シート3のウイルス吸着量を高めることができると考えられる。
【0027】
第1繊維F1の比表面積は、JIS R 1655に規定される水銀圧入法に準じて、以下の方法で測定することができる。詳細には、測定対象から0.02gの第1シートを測定サンプルとして切り出す。該測定サンプルを入れた測定セルを水銀ポロシメーター(オートポアIV9500、マイクロメリティックス社製)にセットし、測定環境22℃、65%RH、水銀の表面張力γ:480dyn/cm、接触角θ:140°、水銀注入圧力Pの測定範囲:0psia(0MPa)以上60000psia(413.685MPa)以下の条件で、水銀注入圧力Pを所定の範囲内で上昇させていったときの該測定サンプルの累積細孔容積V(mL/g)を測定する。次いで、下記の式(2)に従って換算した換算細孔径Q(μm)を横軸に、log微分細孔容積(dV/d(logQ);mL/g)との関係を縦軸にプロットし、細孔容積分布を得る。つまり、換算細孔径Qを横軸にとり、累積細孔容積Vを細孔径Qの対数値で微分した細孔容積を縦軸にとって、細孔容積分布を得る。
Q=4γcosθ/P …(2)
(γ:水銀の表面張力、θ:接触角、P:水銀注入圧力)
ここで得られた換算細孔径と該換算細孔径における細孔容量から該換算細孔径における細孔形状を円柱近似して表面積を求め、各換算細孔径ごとの表面積の積分値を測定サンプル重量で除した値を比表面積とする。
【0028】
第1シート31は、第1繊維F1の基材として、第1繊維F1を形成可能な合成樹脂、又はセルロース等の天然繊維を含むことが好ましく、製造上の観点から合成繊維を含むことが好ましい。
当該合成樹脂は、熱可塑性樹脂又はその他の樹脂から選択される1種又は2種以上を含む。
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィンコポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテフタレート、ポリテトラメチレンテフタレート、ポリブチレンテフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸及び乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー等のポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンナフタレート、液晶ポリマー等が挙げられる。
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6及びナイロン66、アラミド等が挙げられる。
ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、及びポリメタクリル酸エステル等が挙げられる。
ポリイミド系樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等が挙げられる。
芳香族ポリエーテルケトン系樹脂としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等が挙げられる。
ニトリル系樹脂としては、ポリアクリロニトリル樹脂等が挙げられる。
第1繊維F1が熱可塑性樹脂を含むことで、バインダー等を使うことなく熱融着により接着、賦形が可能となる等の利点を有する。
【0029】
第1シート31は、容易に第1繊維F1を細径化する観点から、熱可塑性樹脂を主体として含むことが好ましい。さらに、熱可塑性樹脂を用いて溶融電界紡糸法により第1繊維F1を形成すると、更に第1繊維F1を細径化させることができ、好ましい。
溶融電界紡糸法とは、高電圧が印加されている状態で繊維の原料となる樹脂を含む溶融液を電界中へ吐出することによって、吐出された溶融液が細長く引き伸ばされ、繊維径が細い繊維を形成することができる方法である。溶融電界紡糸法の詳細については後述する。
第1繊維F1の原料(樹脂組成物)として熱可塑性樹脂を用いることで、加熱によって上記樹脂を含む溶融液が生成され、溶融電界紡糸法を用いて細径化した第1繊維F1が形成され得る。
【0030】
<樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量の測定方法>
樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、以下の方法で測定することができる。具体的には、樹脂組成物をNMR(核磁気共鳴)分析、IR(赤外分光)分析等の各種分析に供して、これらの分析によって得られる各シグナル、スペクトルの位置に基づいて、分子骨格の構造及び分子構造の末端の官能基構造を同定する。これによって、含有する樹脂の種類を同定し、各種熱可塑性樹脂に相当する分子構造を示す測定値の強度から各種樹脂組成部中に含まれる熱可塑性樹脂の量を算出する。そして、該算出値を合計することにより樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量を測定することができる。
【0031】
第1シート31が熱可塑性樹脂を含む場合、溶融電界紡糸法を安定的に実施する観点から、第1シート31の総質量に対する熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは93質量%以上である。
また、後述する添加剤等を添加してより細径化及び/又は安定化した第1繊維F1を形成する観点から、第1シート31の総質量に対する熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下である。
【0032】
さらに、第1シート31は、溶融電界紡糸法において安定した繊維形成性を得る観点から、融点を有する樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂を含むことがより好ましい。「融点を有する」樹脂とは、示差走査熱量測定法(DSC法)において、測定対象の樹脂を加熱していったときに、該樹脂が熱分解する前に、固体から液体へ相変化することに起因する吸熱ピークを示す樹脂のことである。
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1万以上、さらに好ましくは4万以上、また、好ましくは15万以下、さらに好ましくは10万以下である。重量平均分子量は、例えば特開2014-129614号公報に記載の高温サイズ排除型クロマトグラフィー(高温SEC)法又は高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(高温GPC)法を用い、重量平均分子量が既知であり且つ重量平均分子量がそれぞれ異なるポリスチレン標準試料(例えば、東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン(型番:F450、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000、A500及びA300))を前記高温SEC法又は高温GPC法に供して分子量較正曲線を予め作成し、該較正曲線と測定試料の結果とを比較することによって測定することができる。なお、ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量の測定には、ポリオレフィン樹脂の溶離液にオルソジクロロベンゼンを用い、溶解温度を140~150℃として溶解したポリプロピレン樹脂の溶解液を用いて測定を行う。
【0033】
ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-α-オレフィンコポリマー樹脂、エチレン-プロピレンコポリマー等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、第1シート31は、ポリプロピレン樹脂を含むことがより好ましい。これにより、溶融電界紡糸法による第1繊維F1の形成を効率よく行うことができる。
【0034】
上記熱可塑性樹脂に加えて、第1シート31は、第1繊維F1の添加剤として、下記成分(a)及び下記成分(b)から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。これにより、詳細を後述するように、例えば、溶融電界紡糸法を用いてより細径化した第1繊維F1を形成することができる。
(a)アニオン性界面活性剤
(b)成分(a)以外の可塑剤、ポリオレフィンワックス及び石油ワックスから選択される1種又は2種以上
上記添加剤の好ましい組み合わせとして、第1シート31は、下記成分(a)及び下記成分(b)を含む。これにより、成分(a)及び成分(b)のそれぞれが協働し、より細径化及び均一化した第1繊維F1が形成され得る。
なお、本開示において、「第1シート31の添加剤」とは、繊維の表面を改質する材料ではなく、原料である樹脂組成物に添加される添加剤を意味する。
【0035】
成分(a)は、一般的に疎水性であるポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂を改質して、電場中で高い帯電量を発現させて細径の繊維を電界紡糸可能にするために用いられる。熱可塑性樹脂の帯電量をより向上させて紡糸性を高める観点から、成分(a)は、その融点が、併用される熱可塑性樹脂の融点以下であることが好ましい。
【0036】
本発明に用いられる成分(a)の中では、硫酸エステル塩やスルホン酸塩が特に好ましい。硫酸エステル塩とは、分子構造中の末端にアルキル基を有し、且つ分子構造中の任意の位置に硫酸基を有する有機化合物の塩を意味する。このような硫酸エステル塩としては、例えば、高級アルコール硫酸エステル塩(R-O-SO3M)等のアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(R-O-(CH2CH2O)n-SO3M)等のアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
スルホン酸塩とは、分子構造の任意の位置にスルホン酸基を有する塩を意味する。
本発明におけるスルホン酸塩は、有機スルホン酸塩であることが好ましい。有機スルホン酸塩とは、分子構造中の末端にアルキル基又は芳香環の少なくともいずれか1つを有する、及び/又は、分子構造中の一部にアルキレン基を有するスルホン酸塩である。
さらに、有機スルホン酸塩は、分子構造中の末端にアルキル基を有する、及び/又は、分子構造中の一部にアルキレン基を有することが好ましい。加えて、有機スルホン酸塩は、分子構造中に塩構造をもったスルホン酸基を有することがより好ましい。
【0038】
本発明に用いられる有機スルホン酸塩としては、例えば、アルキルスルホン酸塩(R-SO3M)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(R-Ph-SO3M)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(R-Np-SO3M)、オレフィンスルホン酸塩(R-CH=CH-(CH2)n-SO3M及びR-CH(-OH)(CH2)n-SO3M)、アルキルスルホこはく酸塩(R-OOC-CH2-CH(-SO3M)-COOM)、ジアルキルスルホこはく酸塩(R-OOC-CH2-CH(-SO3M)-COO-R)、α-スルホ脂肪酸エステル塩(R-CH(-SO3M)-COO-CH3)、アシルイセチオン酸塩(R-CO-O-(CH2CH2)-SO3M)、アシルタウリン塩(R-CO-NH-(CH2)2-SO3M)、アシルアルキルタウリン塩(R-CO-N(-R')-(CH2)2-SO3M)等のN-アルキル-N-アシルアミノアルキルスルホン酸塩、β-ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物(M-O3S-Np-(CH2-Np(-SO3M))n-H)等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
上述した硫酸エステル塩及びスルホン酸塩において、Rは、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表し、その炭素数は好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上であり、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。R'は、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表し、その炭素数は好ましくは5以下である。Phは、置換されていてもよいフェニル基を表す。Npは、置換されていてもよいナフチル基を表す。Mは一価の陽イオンを表し、好ましくは金属4イオンであり、さらに好ましくはナトリウムイオンである。nは、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上の数であり、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下の数を表す。これらの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩は、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせた混合物として用いてもよい。
【0040】
これらの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、及びN-アルキル-N-アシルアミノアルキルスルホン酸塩のうち少なくとも1種を用いることが好ましく、アシルアルキルタウリン塩を用いることがさらに好ましい。成分(a)としてこのような成分を用いることによって、細い繊維径を有する第1繊維F1を一層効率よく溶融電界紡糸することができるとともに、紡糸された第1繊維F1に親水性を付与することができる。加えて、繊維径が均一化され、第1シート31の比表面積がより効果的に向上する。
【0041】
成分(a)として有機スルホン酸塩を用いる場合、有機スルホン酸塩の第1シート31の総質量に対する含有量は、電場中で高い帯電量を発現させて細径の第1繊維F1を電界紡糸可能にするとともに、第1繊維F1に親水性を付与する観点から、好ましくは0質量%超、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上である。
また、細径の第1繊維F1の形成を可能とする観点から、上記含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
【0042】
成分(a)以外の可塑剤、ポリオレフィンワックス及び石油ワックスから選択される1種又は2種以上である成分(b)は、上記熱可塑性樹脂を溶融して電界紡糸に供するときに、溶融した熱可塑性樹脂の流動性を高めて、より細径の第1繊維F1を製造可能にするために用いられるものである。
成分(b)は、その重量平均分子量がポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂よりも小さいものであることが好ましく、特に成分(b)としてポリオレフィンワックスを用いる場合には、好ましくは600以上、より好ましくは1000以上、さらに好ましくは1000超、一層好ましくは2000以上、また、好ましくは20000以下、より好ましくは10000以下、さらに好ましくは9000以下、一層好ましくは8000以下のものである。重量平均分子量は、ポリオレフィンワックスについては例えば上述したポリオレフィン樹脂と同様の方法で測定することができる。
石油ワックスの重量平均分子量も、ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂よりも小さいものであり、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは250以上、一層好ましくは300以上、また、好ましくは1000以下、より好ましくは1000未満、更に好ましくは900以下、一層好ましくは800以下のものである。石油ワックスの重量平均分子量は、例えばガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法(GC-MS装置、日本電子株式会社製、型番:JMS-T100GC)で測定することができる。
【0043】
可塑剤とは、高分子や合成樹脂に流動性を与え成形しやすくしたり、成形品に柔軟性を与えたりするために添加される物質を言い、嵩高い側鎖を有し、極性部と非極性部を有する化合物が用いられる。本発明に用いられる可塑剤は、例えば脂肪酸エステル、アルキルグリセリド、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化植物油、低分子ポリエステルから選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。中でも脂肪酸エステル、アルキルグリセリド、クエン酸エステルから選択される1種又は2種以上を含むことがより好ましい。このうち脂肪酸エステルは炭素数14から22までの飽和脂肪酸のいずれかと炭素数14から22までを有するアルコールのいずれかで形成されるものを含むことが更に好ましい。アルキルグリセリドは炭素数14から22までの飽和脂肪酸のいずれかとのトリグリセリドを含むことが更に好ましい。クエン酸エステルは炭素数14から22までを有するアルコールとのトリエステルを含むことが更に好ましい。
【0044】
本発明に用いられるポリオレフィンワックスは、直鎖若しくは分枝鎖又は環式若しくは非環式の脂肪族飽和炭化水素の1種以上からなる合成物を指すものであり、好ましくは直鎖又は分枝鎖であり且つ非環式のアルカンである。ポリオレフィンワックスとしては、例えば、H-(CH2-CH2)q-Hで表されるポリエチレンワックス、H-(CH2-CH(CH3))q-Hで表されるポリプロピレンワックス、H-(CH2-CH2)r-(CH2-CH(CH3))s-H、H-(CH2-CH(CH3))s-(CH2-CH2)r-H及びH-(CH2-CH2-CH2-CH(CH3))t-Hで表されるエチレン-プロピレン共重合ワックス等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
上述したポリオレフィンワックスの各化学式において、qは、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、さらに好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは220以下の数を表す。r及びsは、それぞれ正の数であり、r及びsの総和として、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、さらに好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは220以下の数を表す。tは、好ましくは12以上、より好ましくは24以上、さらに好ましくは50以上の数であり、また好ましくは250以下、より好ましくは125以下、さらに好ましくは110以下の数を表す。
【0046】
本発明に用いられる石油ワックスは、常温で固体の炭化水素であり、好ましくは直鎖若しくは分枝鎖又は環式若しくは非環式の脂肪族飽和炭化水素の1種以上から構成されおり、例えば、JIS K2235-1991で規定される石油ワックス等が挙げられる。その中でも、直鎖の脂肪族飽和炭化水素を主として含むパラフィンワックス、直鎖、分枝鎖及び環式の脂肪族飽和炭化水素をそれぞれ含むマイクロクリスタリンワックス等から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
これらのポリオレフィンワックス及び石油ワックスのうち、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン-プロピレン共重合ワックス、エチレンワックス、パラフィンワックスのうち少なくとも1種を用いることが好ましく、ポリプロピレンワックス又はエチレン-プロピレン共重合ワックス、の少なくとも1種を用いることがさらに好ましい。成分(b)としてこのような成分を用いることによって、第1繊維F1の原料を溶融して溶融電界紡糸に用いるときに、溶融液の流動性を高めて吐出及び延伸を効率よく行うことができ、その結果、より細径化かつ均一化された繊維を高い生産効率で製造することができる。
【0048】
上記添加剤に替えて又は上記添加剤に加えて、第1シート31は、第1繊維F1の添加剤として、ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物を含んでいることが好ましい。ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物は、光安定剤として、製造後の第1繊維F1の品質の安定化に寄与する。
ヒンダードアミン系化合物は、2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジンを基本骨格とする化合物であり、熱や光に安定で,高分子化合物を着色しないという利点を有する。ヒンダードアミン系化合物としては、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート等が挙げられる。
トリアジン系化合物は、複素環式化合物の1種で、3個の窒素を含む不飽和の6員環構造を有する化合物である。トリアジン系化合物としては、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0049】
ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物の第1シート31の総質量に対する含有量は、製造後の第1繊維F1の品質の安定化を実現できる観点から、好ましくは0質量%超、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。
また、細径の第1繊維F1を形成可能とする観点から、上記含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
【0050】
第1シート31は、上記以外の添加剤をさらに含んでいてもよい。当該添加剤としては、例えば酸化防止剤、上記以外の光安定剤、紫外線吸収剤、及び金属不活性剤などが挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤及びチオ系酸化防止剤などが例示できる。光安定剤及び紫外線吸収剤としては、ニッケル錯化合物、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類などが例示できる。金属不活性剤としては、フォスフォン類、エポキシ類、トリアゾール類、ヒドラジド類、オキサミド類等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。第1シート31がこれらの添加剤を含む場合、第1シート31に含まれる上記添加剤の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
なお、第1繊維F1が含む樹脂や添加剤の含有量や分子構造は、NMR、各種クロマトグラフィー、IR分析等の公知の技術やその組み合わせによって分子構造を特定し同定することができる。また、添加物の含有量は、上記の測定手段によって、上記の分子構造を示す部分の測定値の強度で測定することができる。
また添加剤については、測定対象となる繊維から添加剤を各種溶剤でソックスレー抽出・濃縮し、該濃縮液に対して熱分解ガスクロマトグラフ(GC-MS)分析を行うこともできる。ここで得られたマススペクトルより添加剤の化合物を同定するとともに、添加剤の含有量を算出することもできる。
【0052】
(カチオン性ポリマー)
カチオン性ポリマーPは、第1繊維F1の少なくとも一部を被覆している。この例は、
図2の拡大断面図に示されている。この拡大断面図は、第1繊維F1の延在方向に沿って切断した断面を示す縦断面図であり、第1繊維F1の表面をカチオン性ポリマーPが覆っている態様を模式的に示している。
なお、
図2の拡大断面図において、第1繊維F1及びカチオン性ポリマーPを斜線のハッチングで示しているが、このハッチングは各部の配置例を模式的に示すものであって、各部の分子構造等を示しているものではない。
また、「カチオン性ポリマーPが第1繊維F1を被覆する」とは、第1繊維F1の全体を被覆する例に限定されず、第1繊維F1の少なくとも一部を被覆していればよい。また、「第1繊維F1を被覆する」という表現は、第1繊維F1の表面に直接接している態様のみならず、第1繊維F1の表面に、他の材料を介して間接的に配置されている態様も含む。
なお、カチオン性ポリマーPは、第1繊維F1に加えて、第2シート32の第2繊維F2を被覆していてもよい。
【0053】
本発明において、カチオン性ポリマーPとは、カチオン性基を有するポリマーをいう。カチオン性基とは、カチオン基、又は、イオン化されてカチオン基になり得る基をいう。つまり、カチオン性ポリマーPは、カチオン性基に由来して、全体的又は局所的に正に帯電し得る。
本発明のカチオン性ポリマーPは、常にカチオン性を帯びたポリマーのみならず、pHの変化によりカチオン性を帯びることがあるポリマーも含む。
このようなカチオン性ポリマーPにより、第1繊維F1の表面が正に帯電することになり、負に帯電しやすいウイルスを静電相互作用によって吸着させることが可能となる。また、第1繊維F1の表面が親水性の高い状態に改質されることから、第1繊維F1の被処理液に対する濡れ性を高めることができる。これにより、被処理液が第1繊維F1と広い範囲で接触しやすくなり、ウイルスの吸着量を向上できると考えられる。
【0054】
本発明のカチオン性ポリマーPは、例えば、カチオン性モノマーの少なくとも1種に由来する構成単位を有していてもよい。カチオン性モノマーとは、常にカチオン性を帯びたモノマーのみならず、pHの変化によりカチオン性を帯びることがあるモノマーも含む。
当該カチオン性モノマーは、不飽和モノマーが好ましく、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、アリルアミン、ジアリルアミン及びトリアリルアミンや、これらの塩類及び第四級アンモニウム塩が好ましい。これらの塩類としては、塩酸、硫酸、酢酸、燐酸等の無機酸及び有機酸の塩類が挙げられる。これらの第四級アンモニウム塩としては、メチルハライド(クロライド、ブロマイド等)、エチルハライド(クロライド、ブロマイド等)、ベンジルハライド(クロライド、ブロマイド等)、ジアルキル(メチル、エチル等)硫酸、ジアルキル(メチル、エチル等)炭酸、エピクロロヒドリン等の四級化剤との反応により得られる第四級アンモニウム塩が挙げられる。
なお、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミンは、共重合した後、塩酸、硫酸、酢酸、燐酸等の無機酸、有機酸等の塩類で処理したものも用いることができる。
より具体的に、カチオン性ポリマーPの一例としては、塩化ジメチルジアリルアンモニウムのホモポリマーが挙げられる。
【0055】
上記ポリマーの重合には、上記カチオン性モノマーと共に、その他のモノマーを用いることができる。これらのモノマーの割合は、全モノマーに対して0~80モル%が好ましく、0~50モル%がより好ましく、0~20モル%が特に好ましい。また、必要に応じて架橋性モノマーを用いることができる。架橋性モノマーは、前記の各モノマーに属するものであってもよく、属さない他のモノマーであってもよい。
【0056】
上記ポリマーの重量平均分子量は、1000~100万が好ましく、3000~50万がより好ましく、1万~30万が特に好ましく、1万~20万がさらに好ましい。
上記ポリマーの重量平均分子量は、下記の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定したものである。換算分子量には、ポリエチレングリコール(GPC用の標準試料)を用いることができる。
<測定条件>
カラム:α-M×2(東ソー)
溶離液:50mM LiBr、1%酢酸/エタノール=70/30(体積比)
流速:1mL/min
カラム温度:40℃
検出器:RI
試料濃度:4mg/mL
注入量:100μL
【0057】
本発明のカチオン性ポリマーPの少なくとも1種は、カチオン性基等の親水基によって濡れ性を高めるとともに、疎水基によって疎水性の高い第1繊維F1の広範囲を安定的に被覆する観点から、両親媒性を有するポリマーであってもよい。本発明において、両親媒性を有するポリマーとは、親水基と疎水基とを有するポリマーをいう。
【0058】
本発明の両親媒性を有するポリマーは、具体的には、溶解パラメーターが20.5(MPa)1/2以下で非イオン性のモノマーの1種以上に由来する構成単位と、カチオン性モノマーの1種以上に由来する構成単位と、を有するコポリマーであることが好ましい。コポリマーは、1種又は2種以上を使用することができる。
本開示における非イオン性のモノマーとは、pHの変化によりアニオン性又はカチオン性を帯びることがないモノマーである。
なお、カチオン性モノマーとしては、上述したカチオン性モノマーを好ましく用いることができる。
【0059】
溶解パラメーターが20.5(MPa)1/2以下である非イオン性モノマーは、不飽和モノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸の炭素数1~40、好ましくは炭素数2~24のアルキルエステル;炭素数1~40、好ましくは炭素数2~24の脂肪酸のアルケニルエステル(好ましくはビニルエステル);炭素数2~40、好ましくは3~24のアルキル変性(メタ)アクリルアミド;炭素数2~40、好ましくは3~24のアルコキシ変性(メタ)アクリルアミド;マレイン酸の炭素数1~40のモノ又はジアルキルエステル;フマル酸の炭素数1~40のモノ又はジアルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブチレン、ジイソブチレン、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールアルケニルエーテル、アルコキシポリアルキレングリコールアルケニルエーテル等が挙げられる。
【0060】
本開示における溶解パラメーターδとは、POLYMER HANDBOOK(J.Brandrup and E.H.Immergut、third edition)のVII/519に記載される方法で計算された値である。すなわち、溶解パラメーターδは、以下の式(3)で表される。
δ=((H-R×298.15)/V)1/2 〔単位:(cal/m3)1/2又は×2.046(MPa)1/2〕 …(3)
H:蒸発エンタルピー 〔単位:(cal/mol)又は(×4.186J/mol)〕
R:気体定数 〔単位:(1.98719cal/K・mol)又は(1.98719×4.186J/K・mol)〕
V:mol体積(cm3/mol)
なお、本開示において、Hは、以下の式(4)で経験的にあらわされることを利用して、標準沸点Tbより求めた。
H=-2950+23.7Tb+0.020Tb
2 〔単位:(cal/mol)又は(×4.186J/mol)〕 …(4)
Tb:標準沸点〔単位:K〕
モノマーの標準沸点TbはAldrich(2000-2001:JAPAN)試薬カタログ記載の値を使用し、沸点が減圧下で記載されている場合は同書の付表の圧力-温度計算表より常圧での沸点を求めた。また同書に記載ないモノマーおよび沸点の記載がないモノマーについてはGroup Contrbution法を用い、式(5)により25℃での溶解パラメーターδを求めた。
δ=ΣFi/V …(5)
F:モル吸引定数 〔単位:(cal/m3)1/2cm3/mol又は×2.046(MPa)1/2cm3/mol〕
なお、本開示においてFはHoyの値を用い求めた。以下に、モノマーの溶解パラメーターδの計算例を示す。
【0061】
<計算例-1>
モノマー:アクリルアミド 分子量:71.08 Tb:235℃ 比重:1.12
H=-2950+23.7×508.15+0.020×(508.15)2
=14257.9
V=71.08/1.12=63.4
δ=((H-1.98719×298.15)/V)1/2
=14.7(cal/m3)1/2=30.1(MPa)1/2
【0062】
<計算例-2>
モノマー:ラウリルメタクリレート 分子量:254.4 比重:0.868
【表1】
【0063】
δ=(148.3×2+131.5×11+32.03+126.54+326.58+135.1)/(254.4/0.868)=8.1(cal/m3)1/2=16.6(MPa)1/2
【0064】
コポリマーの重合に使用される非イオン性モノマーの溶解パラメーターは、好ましくは20.5(MPa)1/2以下、より好ましくは20.0(MPa)1/2以下、特に好ましくは18.0(MPa)1/2以下、更に好ましくは17.0(MPa)1/2以下である。
【0065】
さらに、本発明の両親媒性を有するポリマーは、ウイルス吸着量をより一層高める観点から、上記非イオン性のモノマーの1種以上に由来する構成単位と、カチオン性モノマーの1種以上に由来する構成単位とを有するコポリマーとして、以下のような構造を有することがより好ましい。
すなわち、両親媒性を有するポリマーは、炭素数が6~16の前記非イオン性モノマーに由来する構成単位と、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、を有することが好ましく、さらに、ラウリルメタクリレートと、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートと、を構成単位として有することがより好ましい。ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの全モノマーに対する割合は、好ましくは50~99.5モル%、より好ましくは50~95モル%、より好ましくは60~93モル%、更に好ましくは70~90モル%である。
このようなポリマーは、後述する実施例において示すように、ポリプロピレンを基材として含む細径の第1繊維F1の被処理液に対する濡れ性を十分に高めることができ、ウイルスの吸着量を一層効果的に高めることができる。
【0066】
上記コポリマーの重合には、上記非イオン性モノマー及びカチオン性モノマーと共に、上述の各モノマーに属さないモノマーを用いることができる。これらのモノマーの割合は、全モノマーに対して0~50モル%が好ましく、0~30モル%がより好ましく、0~10モル%が特に好ましい。また、必要に応じて架橋性モノマーを用いることができる。架橋性モノマーは、上述の各モノマーに属するものであってもよく、属さない他のモノマーであってもよい。
【0067】
上記コポリマーが、非イオン性モノマー単位とカチオン性モノマー単位からなる場合、各構成単位の割合(原料を基準とした割合)は、次のとおりである。
非イオン性モノマー単位は、非イオン性モノマーとカチオン性モノマーの合計に対して、好ましくは0.5~60モル%、より好ましくは5~50モル%、より好ましくは7~40モル%、更に好ましくは10~30モル%である。この範囲は、上記非イオン性モノマー単位がラウリルメタクリレート、ジイソブチレン、スチレンである場合に特に好ましい。
カチオン性モノマー単位は、非イオン性モノマーとカチオン性モノマーの合計に対して、好ましくは50~99.5モル%、より好ましくは50~95モル%、より好ましくは60~93モル%、更に好ましくは70~90モル%である。この範囲は、上記非イオン性モノマー単位がラウリルメタクリレートの場合に特に好ましい。
【0068】
コポリマーの重合方法は特に限定されず、溶媒、重合開始剤を用いての溶液重合や塊状重合等の公知の重合方法を適用し、回分式又は連続式で行うことができる。
【0069】
コポリマーの重合に用いる溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n-ヘプタン等の芳香族又は脂肪族炭化水素類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、フェニルグリコール類等のグリコール系溶剤等が挙げられる。これらの中でも、各モノマー及び生成するコポリマーの溶解性が良いことから、グリコール系溶剤、水及び炭素数1~4の低級アルコールから選択される1種又は2種以上が好ましい。
【0070】
コポリマーの重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス-2メチルプロピオンアミジン塩酸塩、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等のパーオキシド等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
この際、促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、アスコルビン酸等の還元剤、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、グリシン等のアミン化合物から選択される1種又は2種以上を併用することもできる。
【0071】
また、重合反応時には、必要に応じて連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、メルカプトグリセリン、メルカプトコハク酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシルエステル、オクタン酸2-メルカプトエチルエステル、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、デカントリチオール、ドデシルメルカプタン、ヘキサデカンチオール、デカンチオール、四塩化炭素、四臭化炭素、α-メチルスチレンダイマー、ターピノレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、ジペンテン、2-アミノプロパン-1-オール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0072】
重合温度は、重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤の種類に応じて決められるが、通常、0~150℃の範囲内である。重合反応終了後、減圧乾燥、粉砕等の公知の精製処理をすることができる。
【0073】
(第2シート)
第2シート32は、メジアン繊維径が10μm以上の第2繊維F2を含む(
図2参照)。第2シート32は、例えば、不織布、織布、編み地又はそれらの積層体で構成され、例えば織布又は不織布で構成されることが好ましい。第2シート32としてメジアン繊維径が10μm以上の第2繊維F2を用いることで、第1シート31よりも細孔構造における細孔容量を大きくすることができ、液透過性を高めることができると考えられる。液透過性を高めることができれば、ウイルス濃縮デバイス1を用いた被処理液の吸入及び吐出を迅速に行うことができ、ウイルスの濃縮処理の利便性を高めることができる。
【0074】
第2繊維F2のメジアン繊維径は、細孔構造における細孔容量を大きくすることで、液透過性を高めてウイルスの濃縮処理の迅速性を高める観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは12μm以上である。また、第2繊維F2のメジアン繊維径は、十分な比表面積によって第1シート31のウイルス吸着性を補助する観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0075】
第2繊維F2の比表面積は、第1シート31のウイルスの吸着性を補助する観点から、好ましくは0.05m2/g以上、より好ましくは0.1m2/g以上であり、製造上の観点から、好ましくは0.5m2/g以下、より好ましくは1m2/g以下である。
第2繊維F2の比表面積は、第1繊維F1の比表面積と同様に算出することができる。
【0076】
第2繊維F2は、例えば、合成樹脂、天然繊維又は再生繊維等から選択された少なくとも一種の繊維を含む。このうち、第2繊維F2は、管状部材2の内部における液透過性を高めて濃縮処理の迅速化を図る観点から、親水性の繊維を含むことが好ましく、より具体的に、セルロース系繊維を含むことが好ましい。セルロース系繊維とは、セルロースを成分として含むセルロース繊維若しくは再生セルロース繊維、又はセルロース誘導体からなる繊維をいう。セルロース繊維としては、コットン、パルプ、麻等の天然セルロース繊維が挙げられる。再生セルロース繊維としては、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等が挙げられる。セルロース誘導体からなる繊維としては、アセテート、トリアセテート等の酢酸セルロース繊維等が挙げられる。
このうち、第2繊維F2は、再生セルロース繊維を含むことが好ましく、入手の容易性などの観点から、レーヨンを含むことがより好ましい。再生セルロース繊維により、天然繊維よりも均一性の高い構造を形成することができ、第1シート31との積層に好適な特性を得やすくなる。
【0077】
また、第2シート32は、第1シート31と同様に、第2繊維F2を被覆するカチオン性ポリマーPを含んでいてもよい。これにより、第2繊維F2の表面を正に帯電させることができ、負に帯電しやすいウイルスを静電相互作用によって吸着させることが可能となる。したがって、上記構成により、ウイルスの吸着量の向上に寄与できると考えられる。
【0078】
(管状部材の内部における積層シートの構成)
積層シート3は、管状部材2の内部に、被処理液との接触機会を増やすように配置されることが好ましい。このような観点から、積層シート3は、第1管部T1の内部に配置されていることが好ましく、さらに、開口端2a又はその近傍に配置されていることが好ましく、開口端2aに配置されていることがより好ましい(
図1参照)。「積層シート3が開口端2aに配置されている」とは、積層シート3の少なくとも一部が開口端2aに接触するように配置されていることを意味する。「積層シート3が開口端2aの近傍に配置されている」とは、積層シート3の開口端2a側の端部3eが、延在方向Eに沿って開口端2aから1cm以内に配置されていることを意味する。
【0079】
図3に例示するように、積層シート3において、第1シート31及び第2シート32の積層方向tは、管状部材2の延在方向Eと交差する方向であることが好ましく、延在方向Eと直交する方向であることがより好ましい。なお、第1シート31及び第2シート32の積層方向tは、第1シート31及び第2シート32の厚みと平行な方向である。このような積層方向tを有する積層シート3は、例えば、管状部材2の延在方向E及び径方向Dに沿って延びるように配置されていてもよいし、後述するように、延在方向Eと平行な軸まわりに巻かれていてもよい。積層方向tをこのように設定することで、積層シート3の延在方向Eにおける端部3eから、第1シート31及び第2シート32の双方が露出し得る。これにより、被処理液が管状部材2の内部において延在方向Eに流動する際に、第1シート31及び第2シート32の双方と接触する可能性を高めることができる。この結果、ウイルスの吸着性と液透過性を両立させることができると考えられる。
【0080】
さらに、ウイルスの吸着量と液透過性とを両立させる観点から、積層シート3は、管状部材2の延在方向Eと平行な軸まわりに巻かれていることが好ましい。
図3に例示するように、この構成では、積層シート3が略円柱形状となり得る。なお、
図3では、説明のため、巻かれている積層シート3の一部を開いて示しているが、実際は積層シート3の全体が巻かれていることが好ましい。
上記構成により、積層シート3を管状部材2の内部の形状に即した形状に容易に成形することができる。また、積層シート3を管状部材2の内部に密に配置することができ、管状部材2の内部の空間を有効活用することで、ウイルスの吸着量を高めることができる。さらに、上記構成では、積層シート3の端部3eから、積層された第1シート31と第2シート32の全てを露出させることができ、ウイルスの吸着量と液透過性をより効果的に高めることができる。
【0081】
また、積層シート3は、ウイルスの吸着量を十分に確保するため、管状部材2の内部において密に配置されていることが好ましい一方で、被処理液の透過性を確保するため、適度なゆとりがあることが好ましい。このような観点から、管状部材2の内部における積層シート3の見掛け密度は、好ましくは0.01g/cm3以上、より好ましくは0.1g/cm3以上であり、好ましくは1g/cm3以下、より好ましくは0.5g/cm3以下である。「見掛け密度」とは、管状部材2の内部における積層シート3の単位体積当たりの質量を意味する。具体的に、「見掛け密度」は、積層シート3の質量を、管状部材2の内部における積層シート3の体積で除した値である。
【0082】
[標的ウイルス]
本実施形態のウイルス濃縮デバイス1は、主に静電相互作用によって標的とするウイルスを吸着することができる。
ウイルスは遺伝情報を有する核酸(DNAまたはRNA)を中心とし,その周囲をタンパク質の殻(カプシド)で包んだ構造からできている。また、一部のウイルスにはさらに外側に脂質二重膜や糖タンパク質からなる被膜(エンベロープ)を有するものがあり、この構造的特徴を有するウイルスはエンベロープウイルスと呼ばれる。
本実施形態のウイルス濃縮デバイスは、静電相互作用によって効率よくウイルスを吸着する観点から、負に帯電しやすいエンベロープウイルスを標的とすることが好ましい。
本開示において、エンベロープウイルスとしては、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、レトロウイルスなどが挙げられる。
【0083】
特に、本実施形態の標的ウイルスは、エンベロープウイルスであるコロナウイルスに属するSARS-CoV-2を含むことがより好ましい。SARS-CoV-2は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となるウイルスである。これにより、本発明のウイルス濃縮デバイス1によってSARS-CoV-2のウイルス検査の効率及び精度を高めることができ、SARS-CoV-2の感染の予防や、その感染症であるCOVID-19の拡大防止に貢献できる。
【0084】
[ウイルス濃縮方法]
本実施形態において、ウイルス濃縮方法は、ウイルス濃縮デバイス1を用いて被処理液中のウイルスを濃縮する方法である。具体的に、ウイルス濃縮方法は、ウイルス濃縮デバイスの準備工程(S11)と、被処理液の吸入工程(S12)と、被処理液の吐出工程(S13)と、を含む。この例は、
図4(A)に示されている。さらに、ウイルス濃縮方法は、これらの準備工程(S11)、吸入工程(S12)及び吐出工程(S13)に加えて、ウイルスの溶出工程(S14)を含んでいてもよい。この例は、
図4(B)に示されている。
【0085】
(ウイルス濃縮デバイスの準備工程(S11))
本工程では、上述の構成を有するウイルス濃縮デバイス1を準備する。本工程において、実施者(図示せず)は、ウイルス濃縮デバイス1を被処理液L1内に挿入する前に、予め管状部材2の内圧を高める操作を行うことが好ましい(
図5(A)参照)。管状部材2の内圧を高める操作は、例えば、第2管部T2の表面を押圧する操作であり得る。
【0086】
なお、
図5(A)に例示するように、ウイルス濃縮デバイス1の準備とともに、ウイルスVを含む被処理液L1を準備することが好ましい。被処理液L1の量は、管状部材2の最大容量に基づいて調整されるが、好ましくは1mL以上、より好ましくは4mL以上であり、好ましくは50mL以下、より好ましくは15mL以下である。
【0087】
(被処理液の吸入工程(S12))
本工程では、開口端2aから管状部材2の内部へ被処理液L1を吸入する(
図5(B)参照)。本工程において、実施者は、例えば開口端2aを被処理液L1へ挿入し、管状部材2の内圧を低下させる操作(例えば第2管部T2の押圧力を緩める操作)を行う。これにより、
図5(B)に例示するように、開口端2aから管状部材2の内部へ被処理液L1が吸入される。被処理液L1の吸入量は、管状部材2の最大容量に基づいて調整され得る。
【0088】
被処理液L1は、積層シート3内を通過しつつ、管状部材2の第2管部T2へ向かって流動する。上述のように、積層シート3の第1シート31は、カチオン性ポリマーPを被覆する第1繊維F1を含む(
図2参照)。このため、第1繊維F1の表面は正に帯電しており、負に帯電し得るウイルスVと静電相互作用することができる。これにより、
図5(B)に例示するように、被処理液L1中のウイルスVが積層シート3に吸着して集合した状態となり得る。
【0089】
(被処理液の吐出工程(S13))
本工程では、吸入した被処理液L1を開口端2aから吐出する。具体的に、実施者は、例えば管状部材2の内圧を高める操作(例えば第2管部T2を押圧する操作)を行う。これにより、管状部材2内の被処理液L1が開口端2aに向かって流動する。この際、被処理液L1は再び積層シート3を通過し、積層シート3と接触する。これにより、被処理液L1中の未吸着のウイルスVが積層シート3に吸着し得る。この結果、被処理液L1は開口端2aから吐出されるが、被処理液L1に含まれていたウイルスVは、積層シート3に吸着して集合した状態を維持できる(
図5(C)参照)。
【0090】
なお、上記濃縮方法において、吸入工程(S12)と吐出工程(S13)は、吸着工程(S10)を構成してもよい。吸着工程(S10)は、1回だけ行われてもよいが、複数回繰り返し行われることが好ましい。吸着工程(S10)の実施回数は、操作の迅速性とウイルス吸着性との兼ね合いから、1回以上10回以下であることが好ましい。
【0091】
以上の工程によって、積層シート3に多量のウイルスVが吸着及び集合し、積層シート3においてウイルスVが濃縮された状態となる(
図5(C)参照)。さらに、濃縮されたウイルスVを用いてウイルス検査等を行う場合には、必要に応じて、以下の溶出工程(S14)を行ってもよい。
【0092】
(ウイルスの溶出工程(S14))
本工程では、吐出工程(S13)後の積層シート3から、吸入した被処理液L1よりも少ない量のウイルス溶出液L2にウイルスVを溶出する。
例えば、上述の吸入工程(S12)及び吐出工程(S13)と同様に、ウイルス濃縮デバイス1の内圧を上昇及び低下させることで、開口端2aからウイルス溶出液L2を吸入及び吐出する。ウイルス溶出液L2は、公知のものを用いることができ、例えば、界面活性剤、緩衝液等を含む。本工程においても、吸入及び吐出の操作は、複数回行われてもよい。
【0093】
本工程では、吸入工程(S12)で吸入した被処理液L1よりも少ない量のウイルス溶出液L2を用いることで、ウイルス溶出液L2におけるウイルスVの濃度を、被処理液L1におけるウイルスVの濃度よりも高くすることができる。これにより、ウイルスVが濃縮されたウイルス溶出液L2を得ることができる。また、本実施形態に係る積層シート3は、主に静電相互作用によってウイルスVを吸着することができるため、ウイルス溶出液L2も静電相互作用等によって比較的容易にウイルスVを溶出させることができる。したがって、ウイルス濃縮デバイス1によれば、溶出処理を簡便な操作で効率よく行うことができ、ウイルス溶出液L2におけるウイルス濃度を高めることができる。
【0094】
溶出工程後のウイルス溶出液L2は、そのままウイルスVの検出工程等に用いられてもよいし、さらに希釈液等によって調製されてもよい。ウイルス溶出液L2によってウイルス濃縮デバイス1からウイルスVが分離されることで、濃縮されたウイルスVを用いてウイルス検査の試料を容易に調製することができる。
【0095】
(被処理液)
本発明のウイルス濃縮方法において、被処理液L1は、生体由来の採取物を検体として含んでいてもよく、あるいは非生体由来の検体を含んでいてもよい。
上記生体由来の採取物としては、例えば、洗口液(うがい液)、鼻咽頭スワブ、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液、気管スワブ、唾液、痰、血液、血清、尿、糞便、組織、細胞、組織又は細胞の破砕物等が挙げられる。
採取物が固形物を含む場合は、被処理液L1は、当該固形物を上述のような検体処理液によって懸濁させた液体であってもよい。
被処理液L1は、洗口液、鼻咽頭スワブ、気管スワブ、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液、唾液、痰、血液、血清、尿等から選択される1又は2以上の生体の体液を含む液が好ましい。
非生体由来の検体としては、例えば、ドアノブ、机、便器、キーボード等の操作盤、マウス等の入力装置、スイッチ、床、壁等を拭った検体処理液が挙げられる。検体処理液は、例えば、PBS(Phosphate-buffered saline)等の緩衝液や界面活性剤、あるいはエタノール等の有機溶媒から選択される少なくとも1種の成分を含む。
【0096】
被処理液L1は、公知の方法により容器に採取されたものであり得る。被処理液L1の採取方法は、検体の種類により適切な方法を選択することができる。
例えば、綿棒、スワブ又はシリンジ等の検体採取具を用いて採取した採取物を容器に入れてもよい。この場合、採取物が液体の場合は、当該採取物を被処理液L1として用いてもよいし、当該採取物に上述のような検体処理液を加えて被処理液L1を調製してもよい。
あるいは、被処理液L1が唾液、痰等の体液を含む場合は、容器に直接体液を採取してもよい。
また例えば、被処理液L1が洗口液の場合は、被験者が口から吐き出した液をウイルス濃縮用の容器に収容してもよいし、他の容器に収容した洗口液の一部をウイルス濃縮用の容器に移して使用してもよい。
【0097】
本発明において、被処理液L1は、洗口液であることがより好ましい。洗口液は、被験者が所定の液を口に含んでうがいをし、口から吐き出したものである。この液は、ウイルスの濃縮処理や検査処理等に影響を及ぼさず、被験者の健康に害を及ぼさない液であれば特に限定されず、例えば脱イオン水等の精製水や等張液、少量の界面活性剤や緩衝液等を含む処理液などが挙げられる。
【0098】
洗口液は、被験者自身で採取することができ、侵襲性も非常に低い。また、洗口液は、比較的短時間で採取することができる。このように、洗口液は、採取に関して大きな利点を有する一方で、鼻咽頭スワブ等と比較して採取できるウイルス量が少なくなり得る。これに対して、本実施形態のウイルス濃縮デバイス1は、後述する実施例で示すように、被処理液L1中のウイルスを十分に濃縮することができる。これにより、ウイルス濃度の低い洗口液を被処理液L1として用いた場合でも、ウイルス検査におけるウイルスの検出感度を十分に確保することができ、ウイルス検査における利便性を高めることができる。
【0099】
[上記構成の作用効果]
上記構成のウイルス濃縮デバイス1では、第1シート31の第1繊維F1が、10μm未満のメジアン径を有する。これにより、第1繊維F1の比表面積を高めることができ、ウイルスの吸着可能な領域を十分に確保することができる。また、第1繊維F1の表面にカチオン性ポリマーPが配置されていることで、静電相互作用によって第1繊維F1の表面にウイルスVを吸着できると考えられる。これらにより、第1繊維F1におけるウイルスVの吸着量を増加でき、ウイルス濃縮デバイス1におけるウイルスVの濃縮率を高めることができると考えられる。
【0100】
さらに、ウイルス濃縮デバイス1の積層シート3は、第1シート31に加えて、メジアン繊維径が10μm以上の第2繊維F2を含む第2シート32を有する。これにより、積層シート3の液透過性を確保することができ、ウイルス濃縮デバイス1による濃縮処理を迅速に行うことができる。加えて、開口端2aから被処理液L1の吸入及び吐出が可能であることで、被処理液L1と積層シート3との接触機会を十分に確保することができる。この結果、積層シート3におけるウイルスVの吸着量をより効果的に増加させ、濃縮率を高めることができると考えられる。
【0101】
さらに、ウイルス濃縮デバイス1は、開口端2aから被処理液L1を吸入及び吐出するといった簡便な操作により、ウイルスVの濃縮操作を行うことができる。
また、被処理液L1の吸入と吐出を同一の開口端2aから行うことで、濃縮処理におけるウイルスVの移動経路を制限することができる。加えて、管状部材2の内圧を上昇及び低下させる操作によって被処理液L1の吸入及び吐出を行うことができ、実施者が被処理液L1を直接扱うリスクを軽減することができる。これらにより、濃縮操作における実施者と被処理液L1との接触リスクを軽減することができる。したがって、被処理液L1の濃縮操作における安全性を高めることができ、実施者のウイルス感染のリスクを軽減させることができる。
【0102】
以上のように、本実施形態のウイルス濃縮デバイス1及びそれを用いたウイルス濃縮方法によれば、迅速かつ安全な処理によってウイルスVを濃縮することができる。ウイルス濃縮処理の迅速性を高めることで、短時間で多くの被処理液L1を処理することができる。これにより、実施者及び被験者等の時間的な負担を軽減できるとともに、大量の検体を処理して感染拡大防止に貢献できる。また、ウイルス濃縮処理の安全性を高めることでも、ウイルス感染症の感染拡大のリスクを低減させることができる。さらに、ウイルス濃縮処理における濃縮率を高めることで、ウイルス検査における検出感度を高めることができる。これにより、例えばウイルス濃度の低い洗口液を検体として用いることができ、検体採取における侵襲性を低下させ、検体採取の迅速性を高めることができる。加えて、初期のウイルス感染症の患者から採取した検体からもウイルスを検出できる可能性が高まり、ウイルス感染症の感染拡大防止に寄与できる。
【0103】
[ウイルス検査方法]
本実施形態では、さらに、ウイルス濃縮デバイスを用いたウイルス検査方法を提供する。
本実施形態のウイルス検査方法は、ウイルス濃縮デバイスの準備工程(S11)と、被処理液の吸入工程(S12)と、被処理液の吐出工程(S13)と、ウイルスの溶出工程(S14)と、ウイルスの検出工程(S15)と、を含む。この例は、
図6に示されている。なお、準備工程(S11)、吸入工程(S12)、吐出工程(S13)及び溶出工程(S14)は、上述の「ウイルス濃縮方法」で説明した工程と同様であるため、説明を省略する。
【0104】
(ウイルスの検出工程(S15))
本工程では、溶出工程(S14)後のウイルス溶出液から、公知のウイルス検出方法を用いてウイルスを検出することができる。
本工程におけるウイルス検出方法は、抗原検査によるウイルスタンパク質の検出方法、又は遺伝子検査による核酸の検出方法を含む。
抗原検査としては、ELISA法、イムノクロマト法等の抗原抗体反応を利用した方法が挙げられる。
遺伝子検査としては、PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法等が挙げられる。
抗原検査によってウイルスタンパク質を検出する場合には、例えば、濃縮後のウイルス溶出液に対して、当該ウイルスのタンパク質に結合可能な抗体を反応させ、ウイルスを検出することができる。
遺伝子検査によってウイルスを検出する場合には、例えば、濃縮後のウイルス溶出液又はウイルスが吸着されたウイルス濃縮デバイスに対して核酸抽出処理を行い、当該抽出された核酸を用いて核酸増幅処理を行い、当該ウイルスの核酸を検出することができる。
【0105】
本実施形態のウイルス検査方法では、上記ウイルス濃縮デバイスを用いることで、上述のようにウイルスの濃縮率が向上し、ウイルス検査の検出感度が高められる。さらに、簡便な操作で、安全かつ迅速にウイルスが濃縮されることで、大量の検体のウイルス検査が可能となり、感染防止策がより適切に講じられる。したがって、本実施形態のウイルス検査方法は、感染拡大の防止に大きく貢献できる。
【0106】
[ウイルス濃縮キット]
上記構成のウイルス濃縮デバイスは、被処理液中のウイルスを濃縮するためのウイルス濃縮キットに用いられていてもよい。
本実施形態に係るウイルス濃縮キット5は、ウイルス濃縮デバイス1と、ウイルスを溶出するための溶出試薬6と、を備えることが好ましい。この例は、
図7(A)に示されている。なお、ウイルス濃縮デバイス1は、上述の構成を有するため、説明を省略する。
【0107】
溶出試薬6は、積層シート3に吸着されたウイルスを溶出するためのウイルス溶出液L2を含む。ウイルス溶出液L2は、例えば、界面活性剤、緩衝液等を含む。
【0108】
変形例として、ウイルス濃縮キット5は、ウイルス濃縮デバイス1と、容器7と、を備えていてもよい。この例は、
図7(B)に示されている。
【0109】
容器7は、被処理液及び/又はウイルス溶出液を収容可能な容器であり、好ましくは滅菌された容器である。容器7が被処理液を収容可能である場合、容器7は、例えば、検体を採取するための検体採取容器、又は検体採取具によって採取された検体を処理した検体処理液を収容可能な容器であってもよい。ウイルス濃縮キット5は、1つの容器7を備えていてもよく、複数の容器7を備えていてもよく、例えば、被処理液を収容可能な第1容器と、ウイルス溶出液を収容可能な第2容器と、を備えていてもよい。
容器7は、滅菌可能な材料で構成されていればよく、例えばプラスチック、ガラス等で構成される。容器7のサイズも、検体や溶出液の量に応じて適宜設定される。容器7は、具体的には、コップ状容器、遠沈管等で構成され得る。
なお、ウイルス濃縮キット5は、容器7を支持する容器支持具などの器具を含んでいてもよい。
【0110】
他の変形例として、ウイルス濃縮キット5は、ウイルス濃縮デバイス1と、ウイルスを溶出するための溶出試薬6と、容器7と、を備えていてもよい。この例は、
図7(C)に示されている。
【0111】
このような構成のウイルス濃縮キット5によれば、ウイルス濃縮デバイス1に加えて、ウイルスの濃縮処理に用いられる溶出試薬6及び/又は容器7が提供されるため、ウイルス濃縮操作の利便性を高めることができる。
【0112】
[ウイルス検査キット]
上記構成のウイルス濃縮デバイスは、ウイルス検査のためのウイルス検査キットに用いられてもよい。
本実施形態に係るウイルス検査キット8は、ウイルス濃縮デバイス1と、検査試薬9と、を備えていることが好ましい。この例は、
図8(A)に示されている。あるいは、変形例として、ウイルス検査キット8は、ウイルス濃縮デバイス1と、容器7と、検査試薬9と、を備えていてもよい。この例は
図8(B)に示されている。ウイルス濃縮デバイス1及び容器7は、上述の構成を有するため、説明を省略する。
【0113】
本発明のウイルス検査キット8は、ウイルスを検出可能なウイルス検査を行うためのキットである。本発明のウイルス検査キット8の対象となるウイルス検査としては、上述の抗原検査及び遺伝子検査が挙げられる。
【0114】
検査試薬9は、積層シート3に付着した被処理液を用いて標的ウイルスを検出するための検査試薬であり、1又は複数の検査試薬を含んでいてもよい。検査試薬9は、例えば、ウイルス溶出液を含んでいてもよいし、他の検査試薬を含んでいてもよい。
例えば、ELISA法を対象とする検査試薬9は、上記ウイルス溶出液、酵素標識抗体含有液、基質液、洗浄液、希釈液等から選択された少なくとも1種の試薬を含んでいてもよい。
例えば、イムノクロマト法を対象とする検査試薬9は、上記ウイルス溶出液を含んでいてもよい。
遺伝子検査を対象とする検査試薬9は、例えば、上記ウイルス溶出液、ウイルスから核酸を溶出する核酸抽出液、核酸増幅用試薬等から選択された少なくとも1種の試薬を含んでいてもよい。
【0115】
さらに、本発明のウイルス検査キット8は、必要に応じて、ウイルス検査に用いられる検査器具を含んでいてもよい。当該検査器具としては、イムノクロマト法に用いられる抗体等を含むセルロース膜、検査試料滴下用のチップ、検査用プレート、容器支持具等が挙げられる。
【0116】
このような構成のウイルス検査キット8では、ウイルス濃縮デバイス1によるウイルス濃縮処理を簡便に行うことができる。これにより、ウイルス検査の検出感度を簡便に向上できるとともに、ウイルス検査の安全性や迅速性も高めることができる。
【0117】
[ウイルス濃縮デバイスの製造方法]
さらに本実施形態は、ウイルス濃縮デバイスの製造方法を提供する。本実施形態に係るウイルス濃縮デバイスの製造方法は、第1繊維を含む第1シートを準備する工程(S21)と、第2繊維を含む第2シートを準備する工程(S22)と、第1シート及び第2シートを積層して積層シートを形成する工程(S23)と、積層シートを管状部材に充填する工程(S24)と、少なくとも1種のカチオン性ポリマーによって第1繊維の表面を改質する工程(S25)と、を含む。この製造方法の例は、
図9(A)及び(B)に示されている。
【0118】
(第1シートの準備工程(S21))
本工程では、メジアン繊維径が10μm未満の第1繊維を含む第1シートを準備する。本工程においては、第1シートを形成してもよいし、市販品を購入してもよい。以下、第1繊維を紡糸して第1シートを形成する方法の一例について説明する。
なお、本実施形態の製造方法において、「第1シート」は、メジアン繊維径が10μm未満の第1繊維を含むシート材であればよく、その第1繊維は、カチオン性ポリマーによる表面改質前のものであってもよい。
【0119】
第1繊維は、例えば、細径の繊維を形成するための公知の紡糸法によって形成され、例えば、電界紡糸法(エレクトロスピニング)又は溶融電界紡糸法によって形成されることが好ましい。第1繊維は、細径の繊維をより生産性高く、且つ安定的に形成する観点から、溶融電界紡糸法によって形成されることがより好ましい。溶融電界紡糸法は、第1繊維の原料となる樹脂の溶融液を電場中に吐出して電界紡糸法により紡糸する方法であり、例えば特開2020-105458号公報の段落0048~0058に記載の方法を適用することができる。
【0120】
以下、溶融電界紡糸法によって第1繊維を形成する例について説明する。
図10に模式的に示すように、繊維製造装置10は、例えば、原料供給部10Aと、電極部10Bと、流体噴射部10Cと、捕集部10Dと、を備える。同図には、相互に直交するX軸及びY軸が記載されている。
原料供給部10Aと電極部10Bとは、X軸方向に相互に対向して配置される。原料供給部10Aと電極部10Bとの間の領域は、電場が発生する電場発生領域となる。
流体噴射部10Cと捕集部10Dとは、電場発生領域を挟んでY軸方向に相互に対向して配置される。
【0121】
原料供給部10Aは、熱可塑性樹脂等を含む原料組成物を供給するホッパー19と、ホッパー19に接続された溶融液生成部11と、生成された溶融液を吐出する吐出ノズル12と、を有する。
なお、溶融電界紡糸法による原料組成物の変質は実質的にないので、原料である原料組成物の組成と、製造物である第1繊維F1の組成とは実質的に同一である。つまり、原料組成物の組成は、上述の第1繊維F1又は第1シート31の組成と同一の組成を有していればよい。
溶融液生成部11は、ホッパー19から供給された原料組成物を加熱溶融して、原料組成物の溶融液Rを生成する。溶融液Rは、スクリュー等によって吐出ノズル12に供給される。
吐出ノズル12は、溶融液Rを電場中に吐出する部材であり、ノズルベース13と吐出ノズル先端部14とを有する。ノズルベース13と吐出ノズル先端部14は、例えば金属などの導電性材料によって構成され得るが、溶融液生成部11への電圧の印加を防止するため、図示しない絶縁性部材によって電気的に絶縁されていてもよい。吐出ノズル先端部14は、接地されている。吐出ノズル先端部14は、溶融液Rの流動性を維持するために、ヒータ(図示せず)等によって加熱されていてもよい。
【0122】
電極部10Bは、吐出ノズル12とX軸方向に対向して配置された帯電電極21と、これに接続された高電圧発生装置22と、を含む。
高電圧発生装置22によって帯電電極21に高電圧が印加されると、電極部10Bと吐出ノズル12との間に電場が発生する。これにより、この電場中に吐出された溶融液Rが帯電し得る。
【0123】
流体噴射部10Cは、電場に対してY軸方向に空気流Aを噴射することが可能な流体噴射装置23を有する。空気流Aは、例えば所定の温度以上に加熱されていてもよい。
【0124】
捕集部10Dは、空気流Aによって搬送され引き伸ばされた第1繊維F1を捕集することが可能に構成される。捕集部10Dは、流体噴射装置23とY軸方向に対向して配置された捕集シート24と、捕集シート24に接続された捕集電極27と、捕集電極27に接続された高電圧発生装置26と、捕集シート24を搬送する搬送コンベア25と、を有している。
高電圧発生装置26は、捕集電極27に対して高電圧を印加する。これにより、捕集電極27が負に帯電する。なお、捕集部10Dは、高電圧発生装置26を有さず、捕集電極27が接地されていてもよい。
捕集シート24は、捕集電極27に引き寄せされた第1繊維F1を表面に堆積させる。捕集シート24は、例えば長尺の樹脂製シートであり、原反ロール24aから繰り出されて搬送コンベア25に搬送される。
【0125】
以上の構成の繊維製造装置10を用いた第1繊維F1の形成方法について説明する。
まず、ホッパー19に充填された原料組成物が溶融液生成部11において溶融し、溶融液Rが生成される。生成された溶融液Rは、吐出ノズル12から電場に向けて吐出される。
【0126】
電極部10Bには高電圧が印加され、吐出ノズル12が接地されていることで、電極部10Bと吐出ノズル12との間に電場が発生する。電場に溶融液Rが吐出されることで、溶融液Rが帯電する。帯電した溶融液Rは、溶融液R自体に発生した自己反発力によって延伸されるとともに、帯電電極21に向けて電気的引力によって引き寄せされる。その際に、溶融液Rは、引力と自己反発力とによる延伸を繰り返して細い径の繊維状となり得る。
【0127】
さらに流体噴射部10Cの流体噴射装置23が、電場に吐出された溶融液Rに向けてY軸方向に空気流Aを吹き付ける。これにより、電場に吐出された溶融液Rがさらに延伸され、さらに細い径の繊維を形成しながらY軸方向に搬送される。この過程で引き伸ばされた繊維状の溶融液Rが固化し、第1繊維F1が形成される。形成された第1繊維F1は、捕集部10Dの捕集シート24に捕集される。
【0128】
以上のような方法により、非常に細い径の第1繊維F1を形成することができる。なお、溶融電界紡糸法による繊維製造装置10は、
図10に示す例に限定されず、例えば、特開2019-49078号公報の
図2、特開2016-204816号公報の
図1~6等に記載の構成を有していてもよい。
【0129】
本実施形態では、上述のように、第1繊維F1の原料組成物が熱可塑性樹脂、好ましくはポリオレフィン樹脂、より好ましくはポリプロピレン樹脂を含むことで、溶融電界紡糸法に適した溶融液Rが生成されやすくなり、第1繊維F1がより細径化される。
また、原料組成物が硫酸エステル塩及び/又はスルホン酸塩を含むことで、電場中に吐出された溶融液Rの帯電量が高められ、電界紡糸によって第1繊維F1がより一層細径化される。
また、原料組成物が可塑剤、ポリオレフィンワックス及び石油ワックスから選択される1種又は2種以上を含むことで、溶融液Rの流動性が高められ、第1繊維F1がより一層細径化される。
また、原料組成物がヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物を含むことで、製造後の第1繊維F1の光安定性が高められる。
【0130】
捕集部10Dによって捕集された第1繊維F1は、捕集シート24等に堆積された堆積物の状態で、シート状の第1シートとして用いられてもよい。あるいは、第1繊維F1の堆積物は、加熱、プレス又は積層の少なくとも1つの方法によって、シート状に成形されてもよい。また、第1繊維F1を用いて公知の方法により織布や不織布を形成することで、第1シートが成形されてもよい。本工程において、第1シートは、積層シートのサイズに基づいて切断されてもよいし、大判のシートとして形成されてもよい。
【0131】
(第2シートの準備工程(S22))
本工程では、メジアン繊維径が10μm以上の第2繊維を含む第2シートを準備する。第2シートは、市販のシート材であってもよいし、第2繊維を用いて作製されてもよい。例えば、不織布である第2シートを作製する場合は、第2繊維の種類に応じて、スパンボンド法、メルトブローン法、エアスルー法、ニードルパンチ法、スパンレース法、サーマルボンド法等の公知の手法を用いることができる。本工程において、第2シートは、積層シートのサイズに基づいて切断されてもよいし、大判のシートとして形成されてもよい。
【0132】
(第1シート及び第2シートの積層工程(S23))
本工程では、第1シート及び第2シートを積層することで、積層シートを形成する。本工程では、合計3枚以上の第1シートと第2シートを積層することが好ましく、この場合は、第1シートと第2シートを交互に積層することが好ましい。第1シートと第2シートの積層方法としては、これらのシートを接着剤又は熱融着等によって接合してもよいが、ウイルスの吸着可能な繊維をより多く確保する観点からは、接合せずに重ねることが好ましい。
さらに、本工程では、大判の第1シート及び第2シートが積層された場合、この大判のシートを所定のサイズに切断してもよい。これにより管状部材に適したサイズの積層シートを得ることができる。
【0133】
(積層シートの充填工程(S24))
本工程では、管状部材の内部に積層シートを充填する。管状部材は、例えば、市販のスポイト、シリンジポンプ、ピペット、ピペットチップ等を使用することができる。
本工程において、積層シートの積層方向が管状部材の延在方向と交差する方向となるよう、積層シートを管状部材の内部に充填することが好ましく、具体的には、積層シートの積層方向が管状部材の径方向と平行であることが好ましい。さらに、積層シートは、管状部材の延在方向と平行な軸まわりに巻かれることがより好ましい(
図3参照)。
一例として、積層シートが長方形状の場合は、管状部材の延在方向と平行に配置される積層シートの一辺を選択し、その一辺を含む積層シートの端部を当該辺の延在方向と直交する方向に折り曲げて重ねる。そして、積層シートを折り曲げた方向に巻いて積層シートを略円柱形状に成形し、管状部材の開口端から当該積層シートを充填する。
積層シートは、開口端又はその近傍に配置されることが好ましく、具体的には、当該開口端と、積層シートの開口端側の端部との間の、管状部材の延在方向における距離が、1cm以内であることが好ましい。
【0134】
さらに、本工程では、積層シートと管状部材とを接合することが好ましい。これにより、管状部材に対して積層シートを固定することができ、積層シートの管状部材内における移動や管状部材からの脱離を抑制することができる。接合方法としては、例えば、超音波等による樹脂溶着、接着剤による接着等が挙げられるが、積層シートの液透過性及びウイルス吸着性を維持する観点から、超音波等による樹脂溶着を用いることが好ましい。
【0135】
(カチオン性ポリマーによる表面改質工程(S25))
本工程では、第1シートの第1繊維の表面を、少なくとも1種のカチオン性ポリマーによって改質する。本工程は、第1シートの準備工程(S21)の後に行われればよい。具体的には、例えば
図9(A)に示すように、積層シートの充填工程(S24)後に行われてもよいし、
図9(B)に示すように、第1シートの準備工程(S21)の後であって、第2シートの準備工程(S22)の前に行われてもよい。あるいは、図示はしないが、積層工程(S23)の後、充填工程(S24)の前に行われてもよい。本工程により、比表面積の大きい第1繊維の表面の親水性を高め、かつ、正に帯電させることができ、ウイルスの吸着量を高めることができる。
【0136】
本工程では、例えば、積層シート又は第1シートをカチオン性ポリマーの溶液に接触させる。ポリマー溶液は、水、又は水溶性の液状の媒体にポリマーを溶解させた液であり、例えば脱イオン水等の精製水又は緩衝液にポリマーを溶解させた液とすることができる。
ポリマー溶液におけるポリマーの濃度は、第1繊維上に十分な量のポリマーを付与する観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。
また、コストを抑える観点から、当該濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
本工程におけるポリマー溶液の温度は、第1繊維に対してポリマーを効率よく付与するとともに、第1繊維の変性を防止する観点から、好ましくは4℃以上40℃以下である。
【0137】
図9(A)に示すような、積層シートの管状部材への充填後においては、例えば、管状部材によってポリマー溶液を吸入及び吐出することで、積層シートをポリマー溶液に接触させることができる。この例では、第1繊維のみならず第2シートの第2繊維にもカチオン性ポリマーを被覆させることができ、第2繊維のウイルス吸着量も高められると考えられる。また、ポリマー溶液を吸入及び吐出する簡便な操作によって、積層シートとポリマー溶液とを確実に接触させることができる。
ポリマー溶液を管状部材に吸入及び吐出する場合には、ポリマー溶液を積層シートに十分接触させる観点から、ポリマー溶液の吸入後、ポリマー溶液を管状部材内に所定時間保持した後に、ポリマー溶液を吐出することが好ましい。この保持時間は、生産性を考慮しつつ、ポリマーを繊維表面に十分被覆させる観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上であり、好ましくは30分以下、より好ましくは15分以下である。また、このポリマー溶液の吸入及び吐出操作は、複数回行われることが好ましく、吸入及び吐出操作の回数は、例えば2回以上10回以下であることが好ましい。
【0138】
また、
図9(B)に示すように、積層シートの管状部材への充填前においては、第1シート又は積層シート(以下、「処理対象シート」と称する)をポリマー溶液に浸漬させることが好ましく、あるいは、処理対象シートにポリマー溶液を噴霧等してもよい。ポリマー溶液に処理対象シートを浸漬させる場合の浸漬時間は、繊維に十分な量のポリマーを付与する観点から、好ましくは1分間以上、より好ましくは3分間以上である。また、生産性を高める観点から、当該浸漬時間は、好ましくは10時間以下、より好ましく3時間以下である。
【0139】
また、ポリマー溶液の処理後に処理対象を脱イオン水等で洗浄することが好ましい。さらに、繊維の被処理液に対する濡れ性を高める等の観点から、ポリマー溶液の処理の前及び/又は後に、エタノール、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール(DPG)などの親水性の溶液に処理対象を接触させる処理を行ってもよい。
【0140】
また、本工程の後に、必要に応じて、処理対象を乾燥してもよい。乾燥方法としては、例えば、風乾、加熱による乾燥、真空乾燥機による乾燥、自然乾燥等から選択される1又は2以上の公知の乾燥方法を用いることができる。このうち、処理対象シートや管状部材の変性を防止しつつ、生産性を高める観点から、風乾又は真空乾燥機による乾燥が好ましく用いられる。乾燥温度は、好ましくは4℃以上40℃以下である。
【0141】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。
【0142】
例えば、管状部材2の形状は、図示の例に限定されず、種々の形状を採り得る。
また、積層シート3も、図示の例に限定されず、第1シート及び第2シートを少なくとも1枚ずつ有していればよい。積層シート3の管状部材2内における形状も、図示の例に限定されない。
【実施例0143】
<試験例1:洗口液中SARS-CoV-2粒子に対するウイルス濃縮デバイスの濃縮性能の検討>
試験例1として、ウイルス濃縮デバイスのサンプルを用いて、ウイルス(SARS-CoV-2)のタンパク質の濃縮が可能か否か、検討した。
【0144】
[シートサンプルの作製又は準備]
(シートサンプルaの作製)
図10に示す繊維製造装置10を用いて、原料の熱可塑性樹脂として、95質量%のポリプロピレン(PP;PolyMirae社製、MF650Y)と、5質量%のアシルアルキルタウリン塩(N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム(NSMT);日光ケミカルズ株式会社製、ニッコールSMT)とを溶融液生成部11内に供給し、これらを溶融液生成部11内で加熱溶融混練した後、繊維を製造した。製造条件は以下のとおりとした。
【0145】
・製造環境:27℃、50%RH
・溶融液生成部11内の加熱温度:220℃
・溶融液Rの吐出量:1g/min
・吐出ノズル先端部14(ステンレス製)への印加電圧:0kV(アースに接地されている。)
・帯電電極21(80mm×80mm、厚さ10mm、ステンレス製)への印加電圧:-40kV
・吐出ノズル先端部14と捕集部10Dとの間の距離:600mm
・流体噴射部10Cから噴出される空気流の温度:350℃
・流体噴射部10Cから噴出される空気流の流量:320L/min
【0146】
捕集された繊維は、210mm×297mm(JIS A4サイズ)に回収した。回収した繊維を、ハンドプレス機を用いて常温で10MPa、10秒間プレスすることで、不織布シート状のシートサンプルaを作製した。
【0147】
(シートサンプルb)
市販のレーヨン不織布(池田紙業株式会社製、坪量80g/m2)をシートサンプルbとした。
【0148】
(シートサンプルc)
市販のポリプロピレンスパンボンド不織布(東レ株式会社製LIVSEN SSSS SM、坪量17g/m2)をシートサンプルcとした。
【0149】
[メジアン繊維径の測定]
各シートサンプルの繊維のメジアン繊維径を以下のように測定した。
走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製 S24300SE/N)を用いて各シートサンプルを観察し、繊維の塊、繊維の交差部分といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出した。画像処理ソフト(三谷商事株式会社製 WinROOF2013)を用いて各繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径として測定した。測定した500本の繊維径の分布から、平均繊維径(メジアン繊維径)を算出した。結果を、表2に示す。
【0150】
【0151】
表2に示すように、シートサンプルaのメジアン繊維径は10μm未満だったが、シートサンプルb及びcのメジアン繊維径は10μm以上だった。
【0152】
[ウイルス濃縮デバイスの作製]
(デバイスサンプル1)
以下の手順で、ウイルス濃縮デバイスのサンプル(以下、「デバイスサンプル」)を作製した。シートサンプルa及びシートサンプルbを4cm×2cm角に切断し、シートサンプルb、シートサンプルa、シートサンプルb、シートサンプルaの順で積層した。積層したシートサンプルを短軸方向に1回折り重ね、折った方向に巻いたのち、スポイト(CA2000、栄研化学株式会社製)の開口端に充填した。開口端を加熱溶解し、スポイト内部の積層シート端部を超音波によりシールすることで積層シートを固定した。続いて、後述する手法によりポリマーによる繊維の表面改質を行い、デバイスサンプル1を得た。
【0153】
(デバイスサンプル2)
以下の手順で、デバイスサンプル2を作製した。シートサンプルa及びシートサンプルbを4cm×2cm角に切断し、シートサンプルb、シートサンプルa、シートサンプルa、シートサンプルbの順で積層した以外はデバイスサンプル1と同様の手順で作製し、デバイスサンプル2を得た。
【0154】
(デバイスサンプル3)
以下の手順で、デバイスサンプル3を作製した。シートサンプルa及びシートサンプルbを4cm×2cm角に切断し、シートサンプルb、シートサンプルb、シートサンプルaの順で積層した以外はデバイスサンプル1と同様の手順で作製し、デバイスサンプル3を得た。
【0155】
(デバイスサンプル4)
以下の手順で、デバイスサンプル4を作製した。シートサンプルa及びシートサンプルcを4cm×2cm角に切断し、シートサンプルc、シートサンプルc、シートサンプルc、シートサンプルc、シートサンプルa、シートサンプルc、シートサンプルc、シートサンプルc、シートサンプルc、シートサンプルc、シートサンプルaの順で積層した以外はデバイスサンプル1と同様の手順で作製し、デバイスサンプル4を得た。
【0156】
(デバイスサンプル5)
以下の手順で、デバイスサンプル5を作製した。シートサンプルaを4cm×2cm角に切断し、8枚積層して積層シートを得た。この積層シートをデバイスサンプル1と同様にしてスポイトに充填した後、ポリマーによる繊維の表面改質を行い、デバイスサンプル5を得た。
【0157】
(デバイスサンプル6)
以下の手順で、デバイスサンプル6を作製した。シートサンプルbを4cm×2cm角に切断し、2枚積層した。この積層シートをデバイスサンプル1と同様にしてスポイトに充填した後、ポリマーによる繊維の表面改質を行い、デバイスサンプル6を得た。
【0158】
(デバイスサンプル7)
以下の手順で、デバイスサンプル7を作製した。シートサンプルcを18cm×2cm角に切断し、2枚積層した。この積層シートをデバイスサンプル1と同様にしてスポイトに充填した後、ポリマーによる繊維の表面改質を行い、デバイスサンプル7を得た。
【0159】
(デバイスサンプル8)
以下の手順で、デバイスサンプル8を作製した。シートサンプルc及びシートサンプルbを4cm×2cm角に切断し、シートサンプルb、シートサンプルc、シートサンプルb、シートサンプルcの順で積層した。この積層シートをデバイスサンプル1と同様にしてスポイトに充填した後、ポリマーによる繊維の表面改質を行い、デバイスサンプル8を得た。
【0160】
[ポリマーによる繊維の表面改質]
(ポリマー溶液の準備)
カチオン性ポリマーとして、カチオン性基を有する塩化ジメチルジアリルアンモニウムのポリマーを含む、「Merquat(登録商標) 100 Polymer」(ルブリゾール社製)を準備した。リン酸緩衝液(47.35mMリン酸水素二ナトリウム+2.65mMリン酸水素二ナトリウム、pH8)を用いて1wt%のポリマー溶液を調製した。
【0161】
(繊維の表面改質処理)
各デバイスサンプルを用いて50%エタノール(和光純薬)を2mL吸引し、室温で1分間静置した。溶液を排出したのち、イオン交換水2mLを吸引し、室温で1分間静置した。溶液を排出し、エタノールの洗浄を行った。1%(w/w)に調製したポリマー溶液を2mL吸引し、10分間室温で静置した。溶液を排出したのち、イオン交換水2mLを吸引し、室温で1分間静置した。溶液を排出し、余剰のポリマーを洗浄した。この洗浄工程は3回行った。続いて、デバイスサンプルの濡れ性を向上させるため、10%(w/w)DPG(DPG-RF、ADEKA社製)水溶液を2mL吸引し、室温で10分静置した。溶液を排出したのち、イオン交換水2mLを吸入し、室温で1分間静置した。溶液を吐出し、余剰のDPGを洗浄した。この洗浄工程は3回行った。真空乾燥機を用いて、1Pa、23℃、1時間の条件で乾燥をさせ、ポリマーによる繊維の表面改質がされた各デバイスサンプルを得た。
【0162】
[濃縮性能の評価]
以下のとおり、デバイスサンプル1~8の濃縮性能の評価を行った。なお、デバイスサンプル1~4は第1実施形態における実施例に相当し、デバイスサンプル5~8は第1実施形態における比較例に相当する。
【0163】
(SARS-CoV-2ウイルス懸濁液の調整)
イオン交換水14mLを口に含み、30秒間口を濯いだ。遠沈管に濯ぎ液を吐き出し、洗口液を得た。洗口液を用いてSARS-CoV-2溶液(Wuhan株、1.2×10^10copies/mL)を16倍希釈し、洗口液懸濁SARS-CoV-2溶液を調製した。
【0164】
(SARS-CoV-2の濃縮操作)
各デバイスサンプル1~8を用いて、ウイルス懸濁液の吸入及び吐出操作を行った。この操作を、「(ウイルスの)吸着操作」とも称する。
ウイルス懸濁液2mLを25mL遠沈管に分注し、各デバイスサンプルを用いて、全量を吸入し全量を吐出した。この操作を3回行い、吸着操作後のウイルス懸濁液を回収した。吸着操作後のデバイスサンプルには300μLの懸濁液が保持され、次の溶出操作に使用した。
続いて、以下のウイルス溶出操作を行った。
3回の吸着操作を行った後の各デバイスサンプルを用いて、クイックナビCOVID-19Ag(デンカ生研株式会社製)付属の検体処理液400μLを全量吸入した。その後全量を吐出し、吸着したウイルス中のNタンパク質を溶出した。この操作を2回行い、溶出操作後の溶出液を回収した。
この他、濃縮操作を行わない溶出液を準備した。具体的には、デバイスサンプルに保持される溶液量に相当する300μLの洗口液懸濁SARS-CoV-2溶液と検体処理液400μLを1.5mlチューブへ直接添加し、ピペッティングで混合した。
【0165】
(ウエスタンブロッティングによるウイルス濃縮デバイスの性能評価)
各デバイスサンプルを用いた濃縮操作における処理液のうち、(i)吸着操作前のウイルス懸濁液、(ii)吸着操作後、溶出前のウイルス懸濁液、(iii)溶出操作後の溶出液、(iv)濃縮操作を行わない溶出液、を測定対象のサンプル液として抗Nタンパク質抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った。これにより、各サンプル液中のウイルス由来Nタンパク質量を測定した。
回収したサンプル液(必要に応じてイオン交換水で希釈)65μLと、10×Sample Reducing Agent(Invitrogen)10μLと、4×LDS Sample Buffer(Invitrogen)25μLとを混合し、100℃で5分間加熱した。加熱処理したサンプル10μLを10%,Bis-Tris,1.0mm,Mini Protein Gel(Invitrogen)にアプライし、200Vで40分間電気泳動した。電気泳動終了後、ゲルを取り出し、iBlot2(Invitrogen)を用いて、PVDFメンブレンへタンパク質転写した。続いて、メンブレンを取り出し、iBind(Invitrogen)を用いて、抗原抗体反応を行った。操作は付属のプロトコールに従った。1次抗体には1000倍希釈したSARS-CoV-2 Nucleocapsid Antibody Rabbit Mab(SinoBiological,40143-R019)を用い、2次抗体には1000倍希釈したAnti-Rabbit IgG HRP-linked Antibody(CST,7074S)を使用した。
抗原抗体反応終了後、メンブレンをイオン交換水で2回洗浄し、2mLのECL Prime Western Blotting Detection Reagent(Cytiva)をメンブレン全体に滴下して、室温で5分間インキュベートした。メンブレンから余計な溶液を除去し、CCDカメラ付きイメージャー(IQ800、Cytiva)で化学発光を検出した。
取得した画像から、画像解析ソフトウェア(ImageJ)を用いて、各サンプルのNタンパク質のバンド強度を数値化した。濃縮操作実施前のウイルス懸濁液(初発溶液)の希釈系列サンプルを用いて検量線を作成し、各サンプル液中のNタンパク質量を初発溶液に対する割合(%)で算出した。
【0166】
(各サンプルの吸着率、濃縮倍率、溶出率の算出)
SARS-CoV-2ウイルスの吸着率(%)は、以下の計算式により算出した。
(吸着率)=[1-{(吸着操作後ウイルス懸濁液(ii)中のNタンパク質量)/(吸着操作前ウイルス懸濁液(i)中のNタンパク質量)}]×100
SARS-CoV-2ウイルスの濃縮倍率は、以下の計算式により算出した。
(濃縮倍率)=(濃縮操作ありの溶出液(iii)中のNタンパク質量)/(濃縮操作なしの溶出液(iv)中のNタンパク質量)
SARS-CoV-2ウイルスの溶出率(%)は、以下の計算式により算出した。
(溶出率)=[{(濃縮倍率)/(最大濃縮倍率)}/(吸着率/100)]×100
最大濃縮倍率は、以下の計算式を用いて算出した。
(最大濃縮倍率)=(濃縮に用いた検体液量)/(デバイスサンプルに保持され検体処理液に混合される溶液量)=2mL/300μL=6.67
各デバイスサンプル1~8について算出された結果を表3に示す。
【0167】
【0168】
シートサンプルaのみから構成されるデバイスサンプル5を用いた場合は、ウイルス懸濁液を10分以上通液させることができず、SARS-CoV-2の濃縮が確認されなかった(ND)。一方、シートサンプルb又はシートサンプルcのみから構成されるデバイスサンプル6及び7や、シートサンプルaを含まないデバイスサンプル8に比べ、シートサンプルaを含む2種以上のシートを用いたデバイスサンプルでは、4倍以上の濃縮倍率を示し、SARS-CoV-2を高効率に濃縮可能であることが明らかとなった。
【0169】
<試験例2:洗口液を用いたウイルス濃縮デバイスにおける処理時間の検討>
試験例2として、デバイスサンプル1~4,5を用いて、洗口液の濃縮操作に要する処理時間を検討した。なお、デバイスサンプル1~4は、第1実施形態における実施例に相当し、デバイスサンプル5は、比較例に相当する。
【0170】
(洗口液の調整)
イオン交換水15mLを口に含み、10秒間口を濯いだ。遠沈管に濯ぎ液を吐き出し、洗口液を得た。
【0171】
(処理時間の評価)
洗口液2mLを25mL遠沈管に分注した。デバイスサンプル1のスポイト球部(第2管部)を指で押しながらデバイスサンプル1の先端を洗口液に浸け、洗口液を吸入するためにスポイト球部の指を離した時から処理時間を測定した。その後、全量を吸入及び吐出する操作を3回行った。続いて、3回の吸着操作を行った後のデバイスサンプル1を用いて、クイックナビCOVID-19Ag(デンカ生研株式会社製)付属の検体処理液400μLを吸入及び吐出する操作を1回行った。吐出時に先端から液が出きった時に処理時間の測定を終了した。
他のデバイスサンプルについても、同様の手順で操作を行い、処理時間を評価した。
これらの結果を表4に示す。
【0172】
【0173】
シートサンプルaのみから構成されるデバイスサンプル5では洗口液が10分以上通液しなかった。それに対して、シートサンプルaを含む2種以上のシートサンプルを含むデバイスサンプルを用いることで、迅速で効率的な濃縮が可能であることが明らかとなった。