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特開2024-132443焼結含油軸受、軸受ユニット、及びモータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132443
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】焼結含油軸受、軸受ユニット、及びモータ
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20240920BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20240920BHJP
   H02K 7/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16C33/10 A
F16C17/02 Z
H02K7/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043202
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山郷 正志
【テーマコード(参考)】
3J011
5H607
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011BA02
3J011CA04
3J011JA02
3J011KA02
3J011LA01
3J011MA05
3J011MA27
3J011PA02
3J011RA03
5H607AA04
5H607BB01
5H607BB07
5H607BB14
5H607BB25
5H607CC01
5H607GG01
5H607GG10
5H607GG12
5H607GG15
(57)【要約】
【課題】軸の振れ回り振動を抑制できて静粛性を確保できる焼結含油軸受の提供、油の膨張より軸受隙間外に油が漏れても、溢れた油を再び軸受隙間内に戻すことができる焼結含油軸受、軸受ユニット、及びモータを提供する。
【解決手段】軸受内径面に周方向に沿って所定ピッチで5個以上の軸方向の溝部を形成し、前記溝部と、周方向に沿って隣り合う溝部間に形成される丘部により形成されら焼結含油軸受である。溝部の表面開口率を前記丘部の表面開口率よりも大きくする。丘溝比を1以下とし、丘部の周方向長さを0.1mm以上とする。溝部の深さを、内径面と軸部材の外径面との間の隙間寸法の8倍以下とする。周方向に沿って隣り合う丘部間の周方向間隔の間隔角度を72°以下とした。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の外径面と対向する軸受内径面を有し、前記軸受内径面に周方向に沿って所定ピッチで5個以上の軸方向の溝部を形成し、周方向に沿って隣り合う溝部間に丘部が形成される焼結含油軸受であって、
前記溝部の表面開口率を前記丘部の表面開口率よりも大きくするとともに、前記丘部と前記溝部との比である丘溝比を1以下とし、前記丘部の周方向長さを0.1mm以上とし、かつ、前記溝部の深さを、前記内径面と前記軸部材の外径面との間の隙間寸法の8倍以下とするとともに、周方向に沿って隣り合う丘部間の周方向間隔の間隔角度を72°以下としたことを特徴とする焼結含油軸受。
【請求項2】
軸受端面の少なくともいずれか一方側に、潤滑油の漏れ防止及び潤滑油の循環機能を成すオイルバッファを有し、前記オイルバッファは、前記軸受内径面と前記軸部材の外径面との間の軸受隙間に連通される凹溝で構成されるとともに、軸受外径面に、軸受両端面を繋ぐ軸方向溝を設け、前記凹溝の体積を、温度上昇に伴い膨張する前記凹溝内の油の容積よりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の焼結含油軸受。
【請求項3】
軸受内径面の軸方向の前記溝部と前記軸受端面の凹溝と軸受外径面の軸方向溝とが連通されていることを特徴とする請求項2に記載の焼結含油軸受。
【請求項4】
軸受内径面の軸端部に面取部を有し、前記面取部の面取角度を60°以上としたことを特徴とする請求項1に記載の焼結含油軸受。
【請求項5】
請求項2に記載の焼結含油軸受と、前記焼結含油軸受の軸心孔に挿入される軸部材と、前記焼結含油軸受が内径面に収容されるハウジングとを備えた軸受ユニットであって、
前記軸受端面の凹溝を大気解放側に向くように組付けられ、温度上昇により、軸部材の外径面と対向する軸受内径面との間の軸受隙間に前記大気解放側へ向かう潤滑油の流れが発生し、前記軸受隙間から溢れた潤滑油が前記軸受端面の凹溝に入り、この凹溝から軸受外径面の軸方向溝を介して潤滑油が前記軸受隙間に戻る循環路が形成されることを特徴とする軸受ユニット。
【請求項6】
軸受内径面に、軸方向の溝部を形成することなく他の動圧発生溝が形成された焼結含油軸受と、前記焼結含油軸受の軸心孔に挿入される軸部材と、前記焼結含油軸受が内径面に収容されるハウジングとを備えた軸受ユニットであって、
前記軸受端面の少なくともいずれか一方側に、潤滑油の漏れ防止及び潤滑油の循環機能を成すオイルバッファを有し、前記オイルバッファは、前記軸受内径面と前記軸部材の外径面との間の軸受隙間に連通される凹溝で構成されるとともに、軸受外径面に、軸受両端面を繋ぐ軸方向溝を設け、前記凹溝の体積を、温度上昇に伴い膨張する前記凹溝内の油の容積よりも大きくし、軸受端面の凹溝を大気解放側に向くように組付けられ、温度上昇により、軸部材の外径面と対向する軸受内径面との間の軸受隙間に前記大気解放側へ向かう潤滑油の流れが発生し、軸受隙間から溢れた潤滑油が前記軸受端面の凹溝に入り、この凹溝から軸受外径面の軸方向溝を介して潤滑油が前記軸受隙間に戻る循環路が形成されることを特徴とする軸受ユニット。
【請求項7】
前記請求項1~請求項4のいずれかの1項の焼結含油軸受を備えたことを特徴とするモータ。
【請求項8】
前記請求項5又は請求項6に記載の軸受ユニットを用いたことを特徴とするモータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結含油軸受、軸受ユニット、及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンミラー用の磁気ディスクドライブ(HDD)用のスピンドルモータ、ファンモータなど小型モータを回転支持する軸受に、一般的には焼結含油軸受が使用される。
【0003】
この種の焼結含油軸受は、例えば、軸受面にヘリングボーン形やスパイラル形等の動圧溝を設け、軸の回転に伴う動圧溝の作用によって軸受隙間に動圧油膜を発生させて軸を浮上支持する流体動圧軸受装置に用いることができる。
【0004】
従来の焼結含油軸受には、特許文献1に記載のように、回転軸(軸部材)と対向する軸受孔内径面に、その円周方向に、回転軸と同心円をなす摺動面を有する矩形状の段付部を複数個設け、互いに隣接する段差部とその間の軸受孔内径面と回転軸とで囲まれる矩形状の空隙が形成されるものがある。すなわち、この空隙が、油膜の圧力を発生させるものである。
【0005】
特許文献1では、前記のように構成することによって、「十分大きな油膜の圧力を得ることができるので、大きな軸受負荷荷重を支持することができる。また、一定の含油の吸込み/吐出しが確保でき、焼き付きの発生を防止できる。」というものである。
【0006】
また、特許文献2では、円筒形のベアリング内面に軸方向に沿った溝が多数本形成されたものであり、溝としては、一方(下方)の端面にのみに繋がった下向溝と、他方(上方)の端面にのみに繋がった上向溝とを備えている。
【0007】
特許文献2では、前記のように構成することによって、「モータに衝撃があっても、モータの特性を最大に維持することができる」というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-115146号公報
【特許文献2】特開平10-68418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、引用文献1では、低ノイズ化を課題に挙げているが、図6等に示す実施例では、半径隙間(溝と軸部材との間の隙間を5μmとするとともに、偏心率(軸受中心から回転軸中心間の距離を半径隙間で割った値)を0.9に設定したものであり、軸部材と軸受の内径面との間の隙間が極めて狭い隙間となる。このため、軸部材外径及び軸受内径の真円度(生産性を考慮した精度の真円度)では、軸部材と軸受との接触が避けられず、軸受として成立しにくいものとなっている。
【0010】
特許文献2では、高温環境下での使用が考慮されていない。すなわち、高温環境下で使用した場合、潤滑油の膨張による油の漏れが生じるおそれがある。
【0011】
すなわち、この種の焼結含油軸受を持つ軸受ユニットでは、軸部材(回転軸)の回転にともなう軸受隙間(回転軸と軸受との間の隙間)内の温度上昇や周囲環境(高温雰囲気中)により、潤滑油が膨張して、油面が上昇し、軸受隙間外に潤滑油が漏れだすことがある。このように、軸受隙間外に潤滑油が漏れれば、安定して潤滑機能を発揮できず、軸の振れ回り振動を抑制できなくなる。なお、潤滑油は、初期(組立時)は、常温(23℃程度)環境下で軸受内部空間容積が満たされる程度に潤滑油が注入されるので、上記したように、温度上昇により油面が上昇すれば、軸受隙間外に潤滑油が漏れることになる。
【0012】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、軸の振れ回り振動を抑制できて静粛性を確保できる焼結含油軸受の提供、及び油の膨張より軸受隙間外に油が漏れても、溢れた油を再び軸受隙間内に戻すことができる焼結含油軸受、軸受ユニット、及びモータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の焼結含油軸受は、軸部材の外径面と対向する軸受内径面を有し、前記軸受内径面に周方向に沿って所定ピッチで5個以上の軸方向の溝部を形成し、前記溝部と、周方向に沿って隣り合う溝部間に形成される丘部により形成された焼結含油軸受であって、前記溝部の表面開口率を前記丘部の表面開口率よりも大きくするとともに、前記丘部と前記溝部との比である丘溝比を1以下とし、前記丘部の周方向長さを0.1mm以上とし、かつ、前記溝部の深さを、前記内径面と前記軸部材の外径面との間の隙間寸法の8倍以下とするとともに、周方向に沿って隣り合う丘部間の周方向間隔の間隔角度を72°以下としたものである。ここで、丘溝比とは、丘部の周方向長さをH2とし、溝周方向長さをH1とときに、H2/H1である。
【0014】
本発明の焼結含油軸受は、前記のような寸法・形状に設定することによって、偏心角を小さくできる。すなわち、軸方向の溝部を設けることで、溝部が無い場合(真円)に比べて偏心角が小さくなり、さらに、丘溝比が1以下になると偏心角は更に小さくなる。丘溝比を小さくしていくことで偏心角を小さくすることができる。しかしながら、小さくし過ぎると丘部の幅が狭くなり、負荷容量の低下を引き起こすおそれがあり、さらには、加工性や耐摩耗性も低下するおそれがある。このため、丘部の円周長さは0.1mm以上となるように丘溝比を設定することが好ましい。また、溝部の深さが大きく(深く)なると、偏心角を調整しにくくなる。このため、溝部の深さを、前記軸受内径面と前記軸部材の外径面との間の隙間寸法の8倍以下に設定するのが好ましい。さらに、周方向に沿って隣り合う丘部間の周方向間隔の間隔角度が大きく開かれるものでは、軸部材に負荷がかかった場合、その負荷を支持できなくなる場合がある。しかしながら、隣り合う丘部間の周方向間隔の間隔角度が72°以下であれば、その負荷を十分に支持できる。
【0015】
軸受端面の少なくともいずれか一方側に、潤滑油の漏れ防止及び潤滑油の循環機能を成すオイルバッファを有し、前記オイルバッファは、前記軸受内径面と前記軸部材の外径面との間の軸受隙間に連通される凹溝で構成されるとともに、軸受外径面に、軸受両端面を繋ぐ軸方向溝を設け、前記凹溝の体積を、温度上昇に伴い膨張する前記凹溝内の油の容積よりも大きくするのが好ましい。
【0016】
軸受内径面と前記軸部材の外径面との間の軸受隙間に連通される凹溝で構成されるオイルバッファを設けることによって、軸受からの油漏れ(飛散)を有効に防止でき、しかも、凹溝の体積は、温度上昇に伴い膨張する凹溝内の油の容積よりも大きくしているので、温度上昇時に凹溝に入った凹溝からの油の漏れを有効に防止できる。
【0017】
この場合、軸受内径面の軸方向の前記溝部と前記軸受端面の凹溝と、軸受外径面の軸方向溝とが連通されているのが好ましい。このように連通されていれば、凹溝に流入した潤滑油は、軸方向溝を介して軸受内部に戻ることができる。
【0018】
軸受内径面の軸端部に面取部を有し、前記面取部の面取角度を60°以上とするのが好ましい。面取部の面取角度が60°よりも小さいと、軸外径面と、面取部とで構成される空間(テーパ空間)の毛細管力により、軸受外径面に油が流れにくくなり、逆に、面取部の面取角度が60°以上のように大きければ、毛細管力が作用しにくく、軸受外径面に油が流れやすくなる。
【0019】
本発明に係る一の軸受ユニットは、前記焼結含油軸受と、前記焼結含油軸受の軸心孔に挿入される軸部材と、前記焼結含油軸受が内径面に収容されるハウジングとを備えた軸受ユニットであって、前記軸受端面の凹溝を大気解放側に向くように組付けられ、温度上昇により、軸部材の外径面と対向する軸受内径面との間の軸受隙間(半径隙間)に前記大気解放側へ向かう潤滑油の流れが発生し、軸受隙間から溢れた潤滑油が前記軸受端面の凹溝に入り、この凹溝から軸受外径面の軸方向溝を介して潤滑油が前記隙間に戻る循環路が形成されるものである。
【0020】
本発明に係る一の軸受ユニットは、温度上昇により、軸受隙間(半径隙間)から溢れた潤滑油が軸受端面の凹溝に入り、この凹溝から軸受外径面の軸方向溝を介して潤滑油が前記軸受隙間に戻る循環路が形成される。このため、本発明に係る一の軸受ユニットは、運転開始直後に油膜を形成し、高温時においても運転中の軸受隙間内の油膜切れを防止できるため、軸受面の摩耗が抑制され、長寿命化に繋がる。
【0021】
本発明にかかる他の軸受ユニットは、軸受内径面に、軸方向の溝部を形成することなく他の動圧発生溝が形成された焼結含油軸受と、前記焼結含油軸受の軸心孔に挿入される軸部材と、前記焼結含油軸受が内径面に収容されるハウジングとを備えた軸受ユニットであって、前記軸受端面の少なくともいずれか一方側に、潤滑油の漏れ防止及び潤滑油の循環機能を成すオイルバッファを有し、前記オイルバッファは、前記軸受内径面と前記軸部材の外径面との間の軸受隙間に連通される凹溝で構成されるとともに、軸受外径面に、軸受両端面を繋ぐ軸方向溝を設け、前記凹溝の体積を、温度上昇に伴い膨張する前記凹溝内の油の容積よりも大きくし、軸受端面の凹溝を大気解放側に向くように組付けられてなり、温度上昇により、軸部材の外径面と対向する軸受内径面との間の軸受隙間に大気解放側へ向かう潤滑油の流れが発生し、軸受隙間から溢れた潤滑油が前記軸受端面の凹溝に入り、この凹溝から軸受外径面の軸方向溝を介して潤滑油が前記軸受隙間に戻る循環路が形成されるものである。
【0022】
本発明の他の軸受ユニットにおいても、温度上昇により、軸受隙間から溢れた潤滑油が前記軸受端面の凹溝に入り、この凹溝から軸受外径面の軸方向溝を介して潤滑油が前記軸受隙間に戻る循環路が形成される。このため、本発明に係る他の軸受ユニットは、運転開始直後に油膜を形成し、高温時においても運転中の軸受隙間内の油膜切れを防止できるため、軸受面の摩耗が抑制され、長寿命化に繋がる。
【0023】
モータとして、前記焼結含油軸受を備えたものであっても、前記軸受ユニットを用いたものであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、運転中の軸の偏心角を小さくすることで、軸の振動が抑制され、静粛性に優れた軸受となる。また、運転開始直後に油膜を形成し、高温時においても運転中の軸受隙間内の油膜切れを防止できるため、軸受面の摩耗が抑制され、長寿命化に繋がる軸受ユニットとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の流体動圧軸受装置(軸受ユニット)を用いたスピンドルモータの断面図である。
図2】本発明の第1の焼結含油軸受の平面図である。
図3】本発明の第1の焼結含油軸受の断面図である。
図4】軸受端面に形成される面取部を示し、(a)は面取角度が60°未満の場合の簡略図であり、(b)は面取角度が60°以上の場合の簡略図である。
図5】本発明の第2の焼結含油軸受の平面図である。
図6】本発明の第2の焼結含油軸受の断面図である。
図7】本発明の第3の焼結含油軸受の簡略平面図である。
図8】本発明の第3の焼結含油軸受の簡略断面図である。
図9】本発明の第4の焼結含油軸受の簡略平面図である。
図10】本発明の第4の焼結含油軸受の簡略断面図である。
図11】本発明の第5の焼結含油軸受の簡略図である。
図12】本発明の第5の焼結含油軸受の要部拡大図である。
図13】動圧溝と動圧丘の形状を示し、(a)は基本形状の簡略図であり、(b)は第1変形例の簡略図であり、(c)は第2変形例の簡略図である。
図14】本発明の他の流体動圧軸受装置を用いたスピンドルモータに用いた他の焼結含油軸受の簡略断面図である。
図15】動圧溝と動圧丘との関係を示す簡略図である。
図16】丘溝比と偏心角との関係を示すグラフ図である。
図17】丘溝比を0.7とした軸方向溝を設けた軸受における油膜形成性、および振動値を測定した結果を示すグラフ図である。
図18】丘溝比を2.5とした軸方向溝を設けた軸受における油膜形成性、および振動値を測定した結果を示すグラフ図である。
図19】真円軸受における油膜形成性、および振動値を測定した結果を示すグラフ図である。
図20】溝深さと半径隙間との関係を示すグラフ図である。
図21】軸部材と軸受との関係を示し、(a)は溝本数が3の場合の簡略図であり、(b)は溝本数が4の場合の簡略図であり、(c)は溝本数が5の場合の簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に、HDDのディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータを示す。このスピンドルモータは、流体動圧軸受装置(軸受ユニット)1と、流体動圧軸受装置(軸受ユニット)1の軸部材2に固定されたディスクハブ3と、半径方向隙間を介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、ブラケット6とを備えている。ステータコイル4はブラケット6に固定され、ロータマグネット5はディスクハブ3に固定される。ブラケット6の内径面には、流体動圧軸受装置1のハウジング7が固定される。ディスクハブ3には、所定枚数(図示例では2枚)のディスクDが保持される。ステータコイル4に通電すると、ロータマグネット5が回転し、これに伴って、ディスクハブ3に保持されたディスク10が軸部材2と一体に回転する。
【0027】
流体動圧軸受装置1は、本発明の一実施形態に係る焼結含油軸受8と、焼結含油軸受8の内周に挿入された軸部材2と、内径面に焼結含油軸受8が固定された有底筒状のハウジング7と、ハウジング7の開口部に配設されるシール部材9とを備える。尚、以下の流体動圧軸受装置1の説明では、便宜上、軸方向でハウジング7の開口側を上方、その反対側を下方という。
【0028】
燒結含油軸受8の下端面8bと、対向するハウジング7の底部7bの上端面7b1との間には、軸部材2の下端に設けられたフランジ部2bが収容される。
【0029】
図2及び図3に示すように、燒結含油軸受8の軸受内径面(以下、単に内径面と呼ぶ場合がある)8aには、周方向に沿って所定ピッチで複数個(図例では、5本)の軸方向の溝部11を形成している。すなわち、燒結含油軸受8の内径面8aには、軸方向の溝部11と、周方向に沿って隣り合う溝部間に形成される丘部12とが形成される。なお、丘部12は、溝部11を形成したことによる内径面の残部にて構成される。
【0030】
ところで、この溝部11の深さd(図15参照)は、軸部材2の外径面2aと燒結含油軸受8の内径面(すなわち、丘部12との間の隙間寸法c1(図15参照))の8倍以下に設定される。この場合、隙間寸法c1の最大値を10μmとするのが好ましい。また、丘溝比を1以下とする。ここで、丘溝比が1とは、丘部12の周方向長さH2(図15参照)と溝部11の周方向長さH1(図15参照)の比(H2/H1)である。このため、この実施形態では、丘部12の周方向長さH2と溝部11の周方向長さH1を同一にするか、丘部12の周方向長さH2を溝部11の周方向長さH1よりも短く設定する。しかしながら、丘部12の周方向長さH2としては、0.1mm以上あるのが好ましい。さらに、丘部12と丘部12との間隔(周方向間隔)B(図2参照)としては、72°以下に設定するのが好ましい。なお、軸部材2の外径面と燒結含油軸受8の内径面(すなわち、丘部12)の間の隙間c1を、本明細書では、軸受隙間や半径隙間と呼ぶ場合がある。
【0031】
さらに、丘部12の表面開口率よりも溝部11の表面開口率を大きくするのが好ましい。
表面開口率とは、単位面積当たりに占める、開孔の面積の総和(総面積)の比率をいう。
【0032】
ところで、この軸受8には、一方(上方)の軸受端面に、軸受内径面8aと軸受外径面(以下、単に内径面と呼ぶ場合がある)8cとを繋ぐ径方向の凹溝15を形成している。この凹溝15がこの軸受端面に溢れた油を溜めるための溝(オイルバッファ)を構成する。この場合、凹溝15の体積を、温度上昇に伴い膨張する凹溝15内の油の容積よりも大きくするのが好ましい。この凹溝15としては、この実施形態では、内径面の溝部11に対して対応位置に受けられている。すなわち、この実施形態では、周方向に沿って、72°ピッチで配設され、この凹溝15も周方向に沿って、72°ピッチで配設され、かつ、位相も同一に設定されている。
【0033】
また、軸受8の外径面には、軸受両端面を繋ぐ軸方向溝16が設けられている。この軸方向溝16としては、凹溝15に連通されるものあっても、連通されないものであってもよい。図2及び図5で示す軸受8では、軸方向溝16と凹溝15とが連通されている。したがって、凹溝15に対応する位置に軸方向溝16が設けられるものであり、このため、この場合、軸方向溝16も周方向に沿って、72°ピッチで5個配設されている。
【0034】
ところで、軸受8の両軸受端面の内径側及び外径側には、面取部17a、17b、18a、18bが設けられている。この場合、内径側の面取部17a、17bとして、その面取角度θ(図4(a)(b)参照)を60°以上とした。
【0035】
図4(a)に示すように、内径側の面取部17a(17b)は、その面取角度θが60°よりも小さければ、軸外径面2aと、面取部17a(17b)とで構成される空間(テーパ空間)の毛細管力により、軸受外径面8cに油が流れにくくなり、逆に、図4(b)に示すように、面取部17aの面取角度θが60°以上のように大きければ、毛細管力が作用しにくく、軸受外径面8cに油が流れ流れやすくなる。
【0036】
このように構成された軸受8を用いたスピンドルモータでは、軸部材2の回転に伴う軸受隙間の温度上昇や周囲環境が高温(例えば、150℃)により潤滑油が膨張して、油面が上昇した場合、軸受隙間外に潤滑油が漏れた場合、軸受端面の凹溝15に蓄えられ、さらに、この凹溝15から外径面の軸方方向溝16を下方に流れ、軸受内部に戻る循環ルートが形成される。
【0037】
この場合、燒結含油軸受8の下端面8bの全面又は一部環状領域には、スラスト動圧発生部として、図示は省略するが、例えば複数の動圧溝をスパイラル状に配列した領域が形成される。
【0038】
燒結含油軸受8の下端面8b(動圧溝形成領域)とこれに対向するフランジ部2bの上端面との間のスラスト軸受隙間、およびハウジング7の底部7bの上端面7b1(動圧溝形成領域)とこれに対向するフランジ部2bの下端面との間のスラスト軸受隙間に形成される潤滑油膜の圧力が、動圧溝の動圧作用により高められる。そして、これら油膜の圧力によって、図1に示すように、フランジ部2b(軸部材2)をスラスト方向に非接触支持する第一スラスト軸受部T1と第二スラスト軸受部T2とがそれぞれ構成される。
【0039】
本発明の焼結含油軸受は、前記のような寸法・形状に設定することによって、偏心角を小さくできる。すなわち、軸方向の溝部11を設けることで、溝部11が無い場合(真円)に比べて偏心角が小さくなり、さらに、丘溝比が1以下になると偏心率は更に小さくなる。丘溝比を小さくしていくことで偏心角を小さくすることができる。しかしながら、小さくし過ぎると丘部の幅が狭くなり、負荷容量の低下を引き起こすおそれがあり、さらには、加工性や耐摩耗性も低下するおそれがある。このため、丘部12の円周長さは0.1mm以上となるように丘溝比を設定することが好ましい。
【0040】
ここで、偏心率は、軸偏心量をeとし、半径隙間をc1とした場合に、e/c1である (図15参照) 。すなわち、軸部材2に偏心がないとした場合(仮想線で示す)の状態に対して、実際の軸部材2は、実線で示すように偏心する。そこで、基準線L0に対する偏心方向のなす角度が偏心角である。すなわち、基準線L0に対する、軸受中心Oと回転軸中心O1とを結ぶ線L3の成す角度αが偏心角であり、偏心率とは、軸受中心Oから回転軸中心O1間の距離eを半径隙間c1で割った値である。従って、軸部材2が軸受8に接触した状態は偏心率が1.0であり、軸部材2が動圧により中心位置にある状態は偏心率が0.0となる。
【0041】
また、溝部の深さdが大きく(深く)なると、偏心角を調整しにくくなる。このため、溝部の深さdを、軸受内径面8aと軸部材2の外径面2aとの間の隙間寸法c1の8倍以下に設定するのが好ましい。さらに、周方向に沿って隣り合う丘部間の周方向間隔の間隔角度が大きく開かれ、軸部材2に負荷がかかった場合、その負荷を支持できなくなる場合があるため、隣り合う丘部間の周方向間隔Bの間隔角度が72°以下であれば、その負荷を十分に支持できる。
【0042】
丘部12よりも溝部11の表面開口率を大きくすることによって、軸受面(丘部12)でも圧力の抜けを防止し、溝部11の底面でも負圧の発生を防止できる。ところで、焼結含油軸受では、サイジング加工を行うものである。このため、溝部11としてサイジング加工されないものであってもよい。ここで、サイジング加工とは、焼結後の製品を圧縮し反りを平らにしたり、寸法の矯正や表面状態の改善などを行うことを目的とした軽い冷間プレスである。
【0043】
軸部材2の外径面2aとの間の半径隙間c1に連通される凹溝15で構成されるオイルバッファを有することにより、軸受8からの油漏れ(飛散)を有効に防止でき、しかも、凹溝15の体積は、温度上昇に伴い膨張する凹溝15内の油の容積よりも大きくしているので、温度上昇時に凹溝15に入った油の漏れを有効に防止できる。
【0044】
この場合、軸受内径面8aの軸方向の溝部11と軸受端面8dの凹溝15と、軸受外径面8cの軸方向溝16とが連通されているのが好ましい。このように、連通されていれば、凹溝15に流入した潤滑油は、軸方向溝16を介して軸受内部に戻ることができる。すなわち、軸受内径面8aの軸方向の溝部11と、軸受端面の凹溝15と、および軸受外径面8cの軸方向溝部16と同一位相として連結(連通)することによって、油漏れを有効に防止できる。しかしながら、連結(連通)せず、かつ同一位相でなくてもよい。
【0045】
軸受内径面8aの軸端部に面取部17aを有し、面取部17aの面取角度θが60°以上とするのが好ましい。面取部17aの面取角度を60°よりも小さいと、軸外径面2aと、面取部17aとで構成される空間(テーパ空間)の毛細管力により、軸受外径面8cに油が流れにくくなり、逆に、面取部17aの面取角度θが60°以上のように大きければ、毛細管力が作用しにくく、軸受外径面8cに油が流れやすくなる。
【0046】
本発明に係る焼結含油軸受を用いたモータは、温度上昇により、軸受隙間から溢れた潤滑油が軸受端面8dの凹溝15に入り、この凹溝15から軸受外径面8cの軸方向溝16を介して潤滑油が軸受隙間c1に戻る循環路が形成される。このため、本発明に係る焼結含油軸受8を用いたモータは、運転開始直後に油膜を形成し、高温時においても運転中の軸受隙間内の油膜切れを防止できるため、軸受面の摩耗が抑制され、長寿命化に繋がる。
【0047】
次に図5及び図6に第2の焼結含油軸受8を示す。この場合、凹溝15を形成する側の軸受端面に円環形状のザグリ20を設けている。この場合、ザグリ20の下方位置に面取部17a、17bを設けている。このため、軸受端面に設けられる凹溝15がザグリ20に連通されている。
【0048】
他の構成は図2及び図4に記載した第1の焼結含油軸受8と同様であるので、同一部位乃至同一構成は、図2及び図4に付した符号と同一の符号を付してそれらの説明を省略する。このため、図5及び図6の第2の焼結含油軸受8は、図2及び図4の第1の焼結含油軸受8と同様の作用効果を奏する。この場合も、油面が上昇した場合、軸受隙間外に潤滑油が漏れた場合、軸受端面の凹溝15に蓄えられ、さらに、この凹溝15から外径面の軸方方向溝16を下方にながれ、軸受内部に戻る循環ルートが形成される。
【0049】
ところで、丘部12の形状として、図7及び図8に示すように、丘部12の内径を、軸方向中央部よりも軸方向端部側を小さくしたものであってもよい。ここで、丘部12の内径とは、丘部12の内径端面を接続されてなる円筒面の内径であり、軸方向端部側の内径寸法をD1とし、軸方向中央部側の内径寸法をD2としたときに、D1<D2としている。このように設定することによって、軸部材2を両端側で支持でき、モーメント荷重に対する支持剛性向上およびトルク低減の効果を望める。なお、図8においては、図面の省力化のために、内径面8aの溝部11の図示を省略している。
【0050】
図9及び図10に示すように、丘部12の周方向長さH2を、軸方向中央部側が軸方向端部側よりも短くしている。すなわち、軸方向端部側の周方向長さH1をA1とし、軸方向中央部側の周方向長さH2をA2としたときに、A1>A2としている。このように設定することによって、トルク低減の効果が望める。
【0051】
図11及び図12に示すように、丘部12と溝部11とを繋ぐ線L2,L3が、丘部12の中央部と、軸受中心Oとを結ぶ線L1と平行をなすように形成されている。この形状にすることによって、金型の加工性の向上を図ることができる。
【0052】
ところで、前記各実施形態では、溝部11の形状として、図13(a)に示すように、展開状態において、矩形形状であったが、図13(b)(c)に示す形状のものであってもよい。すなわち、展開図における図13(a)では、溝部11の底面11aを深さ寸法が一定の平坦面としていたが、展開図における12(b)では、底面11aが軸部材回転方向の上流側から下流側に向かって深くなっている傾斜面とし、展開図における図13(c)では、底面が円弧形状面としている。
【0053】
このように、図13(b)(c)に示す形状のものであっても、図13(a)に示す形状のものと同様の作用効果を奏する。
【0054】
図14に示す焼結含油軸受8は、内径面に軸方向の溝部を形成することなく、燒結含油軸受8の内径面8aの全面又は一部円筒領域には、ラジアル動圧発生部として複数の動圧溝を配列した領域が形成される。この実施形態では、複数の動圧溝8a1、8a2をヘリングボーン形状に配列した領域が軸方向に離隔して2箇所形成される。
【0055】
上記構成の焼結含油軸受8を用いた流体軸受装置において、軸部材2の回転時、燒結含油軸受8の内径面8aに形成された動圧溝8a1、8a2形成領域は、対向する軸部材2の外径面2aとの間にラジアル軸受隙間を形成する。そして、軸部材2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間の潤滑油が動圧溝8a1、8a2の軸方向中心側に押し込まれ、その圧力が上昇する。このように、動圧溝8a1、8a2によって生じる潤滑油の動圧作用によって、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部が構成される。
【0056】
この場合の焼結含油軸受8においても、軸受端面の凹溝15と、外径面の軸方方向溝16とが設けられ、油面が上昇した場合、軸受隙間外に潤滑油が漏れた場合、軸受端面の凹溝15に蓄えられ、さらに、この凹溝15から外径面8cの軸方方向溝16を下方にながれ、軸受内部に戻る循環ルートが形成される。なお、ラジアル動圧発生部として動圧溝としては、図4では、ヘリングボーン形状に配列したものであったが、スパイラル形状の他の形状のものであってもよい。
【0057】
このように、前記各実施形態の焼結含油軸受を用いたモータは、運転開始直後に油膜を形成し、高温時においても運転中の軸受隙間内の油膜切れを防止できるため、軸受面の摩耗が抑制され、長寿命化に繋がる。
【0058】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、焼結含油軸受8が固定され、軸部材2が回転する場合を示したが、これに限らず、軸部材2を固定して焼結含油軸受8を回転させる構成、あるいは、軸部材2及び焼結含油軸受8の双方を回転させる構成を採用することもできる。
【0059】
本発明に係る焼結含油軸受8が組み込まれた流体動圧軸受装置は、HDDのディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータに限らず、他の情報機器に組み込まれるスピンドルモータ、レーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイール、あるいは冷却用のファンモータ等、他の小型モータにも広く使用することができる。
【実施例0060】
本発明の効果を確認するための試験(テスト)を行った。
まず、丘溝比と偏心角の関係を調べた。この場合、試験品としては、図15に示すように、内径面8aに軸方向に延びる溝部11を、周方向に60°ピッチで、6本の溝部を形成したものを使用した。具体的には、軸受サイズとして、内径寸法を4mmとし、幅寸法(肉厚寸法)を2.7mmとし、半径隙間を6.5μmとし、溝部深さdを35μmとし、潤滑油粘度を0.0601(Pa・s)とし、偏心率0.3とした。
【0061】
また、内径面に溝部を有さない真円軸受を試験品1とし、丘溝比を0.5としたものを試験品2とし、丘溝比を1.0としたものを試験品3とし、丘溝比を1.5としたものを試験品4とし、丘溝比を2.0としたものを試験品5とし、丘溝比を2.5としたものを試験品6とした。また、回転速度は3900rpmとした。
【0062】
この丘溝比と偏心角の関係を図16を示した。図16からわかるように真円軸受よりも溝部11を有するものが偏心角が小さくなり、特に、丘溝比が1.0以下になると、偏心角がさらに小さくなる。ところで、丘溝比を小さくしていけば、丘部12の周方向幅が小さく(狭く)なり、負荷容量の低下を引き起こし、また、加工性や耐摩耗性の低下を招く、このため、丘部12の周方向長さとしては、0.1mmとして、丘溝比を設定することが好ましい。
【0063】
次に、丘溝比を0.7とした試験品7の軸受と、丘溝比を2.5とした試験品8の軸受と、内径面に溝部を有さない試験品9としての真円軸受とについて、油膜形成性と、振動値とを調べた。この場合、試験品7、試験品8、及び試験品9の軸受サイズとして、内径寸法を4mmとし、幅寸法(肉厚寸法)を2.7mmとし、半径隙間を6.5μmとし、潤滑油粘度を0,0601(Pa・s)とし、、回転速度は3900rpmとし、負荷荷重5Nとした。また、試験品7及び試験品8は、溝本数を6本とし、溝深さを35μmとした。
【0064】
試験結果を次の図17から図19、及び表1に示した。図17は、試験品7の測定結果であり、図18は、試験品8の測定結果であり、図19は、試験品9の測定結果である。表1に試験品7~試験品9の振動値を示している。振動値は、振動センサー(リオン株式会社製のPV-90B)を用いた。
【表1】
【0065】
図17図19でわかるように、内径面8aの溝部11を設けることによって、油膜形成性が向上するのがわかり、また、丘溝比が0.7のものでは、起動直後から安定して油膜が形成され、振動値も、試験品7<試験品8<試験品9と大きくなる。すなわち、表1に示しているように、丘溝比が0.7の試験品7では、1.79mm/s2であり、丘溝比が2.50の試験品8では、1.88mm/s2であり、溝部が形成されていない真円軸受である試験品9では、2.00mm/s2であった。
【0066】
次に、溝深さと半径隙間との関係を調べた。この場合、軸受サイズとして、内径寸法を4mmとし、幅寸法(肉厚寸法)を2.7mmとし、溝部本数を6本とし、また、潤滑油粘度を0.0601(Pa・s)とし、回転速度を3900rpmとし、偏心率を0.3とした。この場合、半径隙間が2.0μmのものを試験品10とし、半径隙間が4.0μmのものを試験品11とし、半径隙間が6.0μmのものを試験品12とし、半径隙間が8.0μmのものを試験品13とし、半径隙間が10.0μmのものを試験品14とし、各試験品について、溝深さを5.0μm、10.0μm、15.0μm、20.0μm、25.0μm、30.0μm、35.0μm、40.0μm、45.0μm、および50.0μmとしたものについて試験を行った。その結果を図20に示した。
【0067】
図20からわかるように、溝深さと半径隙間に交互作用(2つの因子が組み合わさることで初めて現れる相乗効果のこと)が見られ、偏心角が小さくなる組み合わせがあることがわかった。例えば、溝深さを10μmとした場合の半径隙間は、8~10μmとすることで、偏心角を小さくすることができ、また、溝深さを深くしていくと半径隙間による偏心角の差は小さくなってくる。このため、溝深さを、半径隙間の8倍以下とするのが好ましいと言える。
【0068】
次に、溝部が、3本、4本、及び5本とした軸受8と軸部材2の位置関係について調べた。すなわち、図21(a)に溝本数が3本の軸受を示し、図21(b)に溝本数が4本の軸受を示し、図21(c)に溝本数が5本の軸受を示した。各軸受8の軸部材2に一方向に負荷を加えた。負荷の方向が、一の溝部に向かう場合、この溝部の周方向両端側の丘部に圧力がかかることになる。すなわち、図21(a)から図21(c)に示すように、荷重の向きと圧力が発生する向きが一致しない。この場合、溝本数が3本の軸受ではベクトルの向きを考えた場合、ベクトルの向きの差が大きく、ベクトルの向きの差は、3本の軸受>4本の軸受>5本の溝受となり、3本の軸受や4本の軸受では、負荷を十分に支持できないおそれがある。しかしながら、図21(c)に示すように、周方向に隣合う丘部間の周方向間隔Bが72度となる溝部が5本以上であれば、ベクトルの向きの差があまり大きくならず、このような負荷であっても十分に支持することできることが分かる。
【符号の説明】
【0069】
θ 面取角度
2 軸部材
2a 外径面
8 焼結含油軸受
8a 内径面
8a1 動圧溝
11 溝部
12 丘部
15 凹溝
16 軸方向溝
17a 面取部
B 周方向間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21