(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132447
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】車両のサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
B60G 9/04 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B60G9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043208
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】矢野 大貴
(72)【発明者】
【氏名】小堀 正樹
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA76
3D301CA28
3D301CA48
3D301DA08
3D301DA89
3D301DA94
(57)【要約】
【課題】操縦安定性や車体の重量に影響を与えることなくロードノイズの低減を図る。
【解決手段】トーションビーム14は下部に開口部26を有する断面U字状のビーム本体28を備えている。開口部26は、一対の縦壁部2804の下端間により形成され、したがって、トーションビーム14は下部に開口部26を有している。車両30が水平面HPに置かれた状態で、トーションビーム14は、上壁部2802の幅方向の前端が後端よりも上方に位置するように水平面HPに対して傾斜して配置され、一対の縦壁部2804の上端が下端よりも車両後方に位置するように鉛直面に対して傾斜して配置されている。ビーム本体28の幅方向の中心を通る中心線CLが、その上部が下部よりも後方に位置するように傾いている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の一対のトレーリングアームと、前記一対のトレーリングアーム間を連結するトーションビームと、を備える車両のサスペンション装置であって、
前記トーションビームは下部に開口部を有する断面U字状のビーム本体を備え、
前記ビーム本体は、前記開口部が車両の前方斜め下方、あるいは、車両の後方斜め下方を向いた状態に設けられる
ことを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項2】
前記車両を水平面に置いた状態で、前記ビーム本体の幅方向の中心を通る中心線が鉛直線に対して交差する角度が30度以上45度以下である、
ことを特徴とする請求項1記載の車両のサスペンション装置。
【請求項3】
前記ビーム本体は、その曲げ剛性が、前記ビーム本体の両端から中央部に至るにつれて次第に低くなるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の車両のサスペンション装置。
【請求項4】
前記ビーム本体は、上壁部と、前記上壁部の両側から垂設され車両前後方向において互いに対向する一対の縦壁部とを備え、
前記一対の縦壁部間の間隔が、前記ビーム本体の両端から中央部に至るにつれて次第に小さくなるように構成されている、
ことを特徴とする請求項3記載の車両のサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のトーションビーム式サスペンション装置には、一対のトレーリングアームを連結するトーションビームが設けられている。
このような車両のトーションビームとして、下部に開口部を有する断面U字状のビーム本体を備え、車両を水平面に置いた場合に、開口部が鉛直下方を向いているものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなトーションビームでは、開口部が下方を向いていることから上下方向の荷重に対して開口部が開きやすく、すなわち、上下方向における曲げ剛性(断面係数)が低くなりがちである。
そのため、車両走行中にタイヤから加わる上下方向の振動がトーションビームからサスペンション装置を介してフロアパネルに伝達されやすくなることから、フロアパネルがフロアパネルの延在方向と直交する上下方向に振動するので、車室内のロードノイズが発生しやすくなっている。
ロードノイズの低減を図るための対策としては、トレーリングアームと車体との間に設けられるブッシュを低剛性化することや制振材を設けることなどが考えられる。
しかしながら、ブッシュの低剛性化は操縦安定性に影響を及ぼすことが懸念され、制振材を設けることは車体の重量増を招くことが懸念される。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、操縦安定性や車体の重量に影響を与えることなくロードノイズの低減を図る上で有利な車両のサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施の形態は、車両の一対のトレーリングアームと、前記一対のトレーリングアーム間を連結するトーションビームと、を備える車両のサスペンション装置であって、前記トーションビームは下部に開口部を有する断面U字状のビーム本体を備え、前記ビーム本体は、前記開口部が車両の前方斜め下方、あるいは、車両の後方斜め下方を向いた状態に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施の形態によれば、操縦安定性や車体の重量に影響を与えることなくロードノイズの低減を図る上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態に係る車両のサスペンション装置を車幅方向から見た斜視図である。
【
図2】実施の形態に係る車両のサスペンション装置を上方から見た斜視図である。
【
図3】実施の形態に係る車両のサスペンション装置を下方から見た斜視図である。
【
図4】ビーム本体の幅方向の中心を通る中心線が鉛直線と交差する角度θの説明図である。
【
図5】実施の形態に係る車両のサスペンション装置のトーションビームの平面図である。
【
図6】実施の形態に係る車両のサスペンション装置のトーションビームの正面図である。
【
図7】(A)は
図5のA-A線断面図、(B)は
図5のB-B線断面図、(C)は
図5のC-C線断面図、(D)は
図5のD矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
なお、以下の図面において符号FRは車両前方、符号UPは車両上方、符号INは車幅方向内方、符号OUTは車幅方向外方を示す。
図1-
図3を参照して、本実施の形態が適用された車両のトーションビーム式サスペンション装置10について説明する。
車両30の後輪32(
図4参照)は、トーションビーム式サスペンション装置10により不図示のリアサイドメンバに対して懸架されている。
トーションビーム式サスペンション装置10は、一対のトレーリングアーム12と、トーションビーム14と、一対のコイルスプリング16と、一対のショックアブソーバ18とを含んで構成されている。
各トレーリングアーム12は、その前端がリアサイドメンバにブッシュ20を介して揺動可能に支持され、その後端が
図2、
図3に示す車軸22を介して後輪32を支持している。
トーションビーム14は、車幅方向に延在しその両端が一対のトレーリングアーム12に連結されている。
コイルスプリング16の上端を支持するスプリングシート1602が、リアサイドメンバに設けられ、コイルスプリング16の下端を支持するスプリング受け1604がトレーリングアーム12に設けられている。
そして、各コイルスプリング16は、それらスプリングシート1602とスプリング受け1604とを介してトレーリングアーム12とリアサイドメンバとの間にそれぞれ設けられている。
また、トレーリングアーム12とリアサイドメンバとの間にショックアブソーバ18がそれぞれ設けられている。
図1において、符号24は車軸22に取り付けられたハブを示す。
【0009】
次に、本実施の形態に係るトーションビームについて具体的に説明する。
図5-
図7に示すように、トーションビーム14は下部に開口部26を有する断面U字状のビーム本体28を備えている。
詳細には、ビーム本体28は、車幅方向に延在する長さと、車両前後方向に延在する幅とを有している。
ビーム本体28は、金属板をプレス加工することによって形成され、ビーム本体28は、上壁部2802と、上壁部2802の幅方向の両端から垂設され互いに対向する一対の縦壁部2804とを備えている。
上壁部2802は、
図7(A)に示すように、ビーム本体28の長さ方向の中央部では上方に凸の湾曲面で形成され、中央部以外の箇所では平坦面で形成されている。
図7(A)、(B)、(C)に示すように、上壁部2802の幅は、ビーム本体28の長さ方向の両端から中央部に至るにつれて次第に小さくなるように形成されている。
【0010】
一対の縦壁部2804は、上壁部2802から垂設される寸法が互いに等しい寸法で設けられ、各縦壁部2804の下部は互いに離れる方向に変位する鍔部2806として形成されている。
上壁部2802の幅が、ビーム本体28の長さ方向の両端から中央部に至るにつれて次第に小さくなるように形成されていることから、一対の縦壁部2804間の間隔は、ビーム本体28の両端から中央部に至るにつれて次第に小さくなるように形成されている。
したがって、ビーム本体28の断面係数は、トーションビーム14の両端から中央部に至るにつれて次第に低くなるように構成され、言い換えると、ビーム本体28の曲げ剛性は、ビーム本体28の両端から中央部に至るにつれて次第に低くなるように構成されている。
なお、
図7(D)に示すように、ビーム本体28の両端には上壁部2802の高さが低い上壁端部2810が設けられ、ビーム本体28の両端をトレーリングアーム12に接合した際に、ビーム本体28の両端の上壁部2802がトレーリングアーム12から上方に突出しないように図られている。
【0011】
図7に示すように、開口部26は、一対の縦壁部2804の下端間により形成され、したがって、トーションビーム14は下部に開口部26を有している。
図4に示すように、車両30が水平面HPに置かれた状態で、トーションビーム14は、上壁部2802の幅方向の前端が後端よりも上方に位置するように水平面HPに対して傾斜して配置され、一対の縦壁部2804の上端が下端よりも車両後方に位置するように鉛直面に対して傾斜して配置されている。
したがって、ビーム本体28は、開口部26が前方斜め下方を向いている。
開口部26は、上壁部2802と一対の縦壁部2804により形成された空間部が開放される箇所であるため、開口部26が前方斜め下方を向いているとは、この空間部が上下方向に対して傾いているということであり、詳細には、この空間部の中心線CL、すなわちビーム本体28の幅方向の中心を通る中心線CLが、その上部が下部よりも後方に位置するように傾いているということである。
車両を水平面HPに置いた状態で、開口部26が前方斜め下方に向く角度θは、言い換えると、中心線CLが鉛直線PLに対して交差する角度θは30度以上45度以下が好ましい。
【0012】
次に作用効果について説明する。
従来技術のように、断面U字状のビーム本体28の下部の開口部26が下方を向いている場合は、上下方向の荷重に対して開口部26が開きやすく、すなわち、上下方向における曲げ剛性(断面係数)が低くなりがちである。
そのため、車両走行中にタイヤから加わる上下方向の振動がトーションビーム14を介してフロアパネルに伝達されやすくなる。
すなわち、フロアパネルに伝達される主要な振動は上下方向の振動であることから、フロアパネルがフロアパネルの延在方向と直交する上下方向に振動しやすくなり、車室内のロードノイズが発生しやすくなっている。
【0013】
これに対して本実施の形態では、断面U字状のビーム本体28の下部の開口部26が車両の前方斜め下方を向いていることから、上下方向の荷重に対して開口部26が開きにくく、すなわち、上下方向における曲げ剛性(断面係数)が確保されている。
そして、上下方向の振動は、開口部26が車両の前方斜め下方を向いていることから、ビーム本体28により上下方向の振動と、車両前後方向の振動に分解され、フロアパネルに伝達されることになる。
そのため、フロアパネルに伝達される上下方向の振動の大きさは従来技術の場合に比較して低下するため、フロアパネルから発生するノイズは低減される。
さらに、車両前後方向の振動はフロアパネルの延在方向と平行する方向の振動であることから、車両前後方向の振動によってフロアパネルから発生するノイズは生じにくくなるので、フロアパネルから発生するノイズを低減する上で有利となる。
したがって、操縦安定性や車体の重量に影響を与えることなくロードノイズの低減を図る上で有利となる。
【0014】
また、本実施の形態では、車両を水平面HPに置いた状態で、ビーム本体28の幅方向の中心を通る中心線CLが鉛直線PLに対して交差する角度θを30度以上45度以下とした。
本発明者らの実験によれば、角度θが30度を下回ると、角度θが30度以上の場合に比較してロードノイズの低減効果が低下することがわかった。
また、理論的には、角度θが45度を超えて90度に近づくほど、フロアパネルに伝達される上下方向の振動をより小さく、フロアパネルに伝達される車両前後方向の振動をより大きくすることができる。
しかしながら、角度θが45度を超えて90度に近づくほど、ビーム本体28の変形モードに起因して後輪のトー角が旋回方向に対して内向きとなるトーイン傾向となりやすく、すなわち、ロールステアがオーバーステア傾向となりやすいため、角度θは45度以下が好ましい。
なお、開口部26を車両前方斜め上方、車両後方斜め上方、車両上方に向けた場合もビーム本体28の変形モードに起因してロールステアがオーバーステア傾向となる。
したがって、開口部26が車両の前方斜め下方を向いた状態で、角度θを30度以上45度以下とすることが、ロードノイズの低減効果を確保しつつ操縦安定性の向上を図る上で有利となる。
また、本実施の形態では、開口部26が車両の前方斜め下方を向いた場合について説明したが、開口部26が車両の後方斜め下方を向いていても、本実施の形態と同様の効果が奏されることは無論である。
その際、ビーム本体28の幅方向の中心を通る中心線CLが鉛直線PLに対して交差する角度θを30度以上45度以下とすることが好ましいことは本実施の形態と同様である。
【0015】
また、本実施の形態では、ビーム本体28は、その曲げ剛性が、ビーム本体28の両端から中央部に至るにつれて次第に低くなるように構成したので、ビーム本体28に荷重が加わった場合に、ビーム本体28の中央部の変形が両端の変形よりも大きなものとなる。
そのため、ひずみエネルギーがビーム本体28の中央部に滞留することになることから、ひずみエネルギーがビーム本体28の両端からトレーリングアーム12に伝わりにくくなる。
したがって、トレーリングアーム12の前端からブッシュ20およびリアサイドメンバを介してフロアパネルに伝わる振動を低減する上で有利となるため、ロードノイズの低減を図る上でより有利となる。
【0016】
また、本実施の形態では、ビーム本体28の曲げ剛性を、ビーム本体28の両端から中央部に至るにつれて次第に低くするために、ビーム本体28の一対の縦壁部2804間の間隔を、ビーム本体28の両端から中央部に至るにつれて次第に小さくなるように構成したので、簡単な構造でビーム本体28を構成でき製造コストの低減を図る上で有利となる。
【0017】
なお、金属製のパイプをプレス加工することによって閉断面構造でかつ断面U字状のビーム本体28を構成してもよいが、本実施の形態のように、金属板をプレス加工することによってビーム本体28を構成すると、製造コストの低減を図る上で有利となる。
【0018】
また、本実施の形態では、ビーム本体28の一対の縦壁部2804間の間隔を、ビーム本体28の両端から中央部に至るにつれて次第に小さくなるように構成したが、ビーム本体28は、その曲げ剛性が、トーションビーム14の両端から中央部に至るにつれて次第に低くなるように構成されていればよい。
例えば、一対の縦壁部2804の上壁部2802から垂設される寸法を、トーションビーム14の両端から中央部に至るにつれて次第に小さくなるように構成してもよい。
また、ビーム本体28の肉厚をトーションビーム14の両端から中央部に至るにつれて次第に小さくなるように構成してもよい。
また、ビーム本体28に複数の孔を形成し、単位面積当たりの孔の数あるいは面積がトーションビーム14の両端から中央部に至るにつれて次第に大きくなるように構成してもよい。
すなわち、ビーム本体28の曲げ剛性を、トーションビーム14の両端から中央部に至るにつれて次第に低くなるようにする構造には従来公知の様々な構造が採用可能である。
【符号の説明】
【0019】
10 トーションビーム式サスペンション装置
12 トレーリングアーム
14 トーションビーム
16 コイルスプリング
1602 スプリングシート
1604 スプリング受け
18 ショックアブソーバ
20 ブッシュ
22 車軸
24 ハブ
26 開口部
28 ビーム本体
2802 上壁部
2804 縦壁部
2806 鍔部
2810 上壁端部
30 車両
32 後輪
HP 水平面
CL 中心線
PL 鉛直線
θ 角度