(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132457
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】無電解めっき方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/18 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C23C18/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043223
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000120386
【氏名又は名称】株式会社JCU
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰望
(72)【発明者】
【氏名】辻野 峻
(72)【発明者】
【氏名】相澤 涼
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA01
4K022AA02
4K022AA03
4K022AA04
4K022AA05
4K022AA13
4K022AA14
4K022AA15
4K022AA16
4K022AA17
4K022AA18
4K022AA19
4K022AA20
4K022AA21
4K022AA22
4K022AA23
4K022AA24
4K022AA25
4K022AA26
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA08
4K022BA14
4K022CA06
4K022CA07
4K022CA12
4K022CA22
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】触媒の付与に使用するパラジウム量を低減しても良好な無電解めっき部品を得ることができ、触媒付与後に強酸等での後処理を必要とせず、簡便かつ低コストに実施し得るめっき方法を提供すること。
【解決手段】基材の被処理面に触媒付与処理液を接触させ触媒を付与する触媒付与工程と、触媒が付与された被処理面に金属めっきを施す無電解めっき工程とを、少なくとも含むめっき方法において、触媒付与工程では、触媒付与処理液として、液体中に配置されたパラジウム電極と対極との間の放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液を用いる、めっき方法。触媒付与処理液は、多価カルボン酸及び/又はその塩を含有することが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の被処理面に触媒付与処理液を接触させ触媒を付与する触媒付与工程と、前記触媒が付与された前記被処理面に金属めっきを施す無電解めっき工程とを、少なくとも含むめっき方法において、
前記触媒付与工程では、前記触媒付与処理液として、液体中に配置されたパラジウム電極と対極との間の放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液を用いる、
めっき方法。
【請求項2】
前記触媒付与工程は、
前記液体中に配置した前記パラジウム電極と前記対極との間の放電によって、前記パラジウム微粒子を含有する前記触媒付与処理液を調製する操作と、
前記被処理面に前記触媒付与処理液を接触させる操作と、
を有する、請求項1に記載のめっき方法。
【請求項3】
前記触媒付与処理液中の前記パラジウム微粒子のゼータ電位の平均値が、0mV以下である、請求項1又は2記載のめっき方法。
【請求項4】
前記触媒付与処理液が多価カルボン酸及び/又はその塩を含有する、請求項1又は2記載のめっき方法。
【請求項5】
前記基材が、高分子、ガラス、セラミックス、炭素材料、及び金属からなる群より選択される1以上からなる、請求項1又は2記載のめっき方法。
【請求項6】
前記基材が基板である、請求項1又は2記載のめっき方法。
【請求項7】
前記触媒付与工程に先立ち、前記被処理面を、多価アミン化合物を含有する触媒付与増強液に接触させるコンディショニング工程をさらに含む、請求項1又は2記載のめっき方法。
【請求項8】
前記コンディショニング工程と前記触媒付与工程との間に、前記被処理面を水洗する工程をさらに含む、請求項7記載のめっき方法。
【請求項9】
前記触媒付与工程と前記無電解めっき工程との間に、前記被処理面に次亜リン酸溶液、還元剤、及び/又は無機酸を接触させる活性化処理工程をさらに含む、請求項1又は2記載のめっき方法。
【請求項10】
前記触媒付与工程に先立ち、前記被処理面を表面改質する工程をさらに含む、請求項1又は2記載のめっき方法。
【請求項11】
前記触媒付与工程に先立ち、前記被処理面を、酸化剤を含有する酸性溶液に接触させるエッチング工程をさらに含む、請求項1又は2記載のめっき方法。
【請求項12】
請求項1又は2記載のめっき方法により製造される、めっき部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、無電解めっきは、金属基材だけでなく高分子成形体、繊維構造体、ガラス、セラミックス等の種々の基材に、金属又は合金の被膜を直接形成する方法として広く用いられている。特に、樹脂基材の表面にめっき膜が形成された製品は、金属素材の製品に比べて軽量かつ低コストであるため、自動車部品、建材部品、基板等の電子部品を始めとする様々な部品として用いられている。
【0003】
基材が樹脂等の高分子成形体のように絶縁性の場合は、無電解めっきの金属を析出し易くするために、基材表面に予め触媒核を形成しておくのが一般的である。通常は、絶縁性基材を浸漬等によって前処理液と接触させ、めっきが必要な箇所に無電解めっき用触媒を付与する処理が行われる。
【0004】
無電解めっき用触媒としては、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)を中心とする金属やその合金等の微粒子が一般的である。
【0005】
例えば、特許文献1及び2には、パラジウム/スズ混合コロイド触媒溶液を触媒付与処理液として用いる無電解めっき方法が開示されている。この手法は通常、基材に付与したコロイド触媒を酸等で処理して活性化させる処理(アクセラレータ処理)を伴うので、キャタライザー・アクセラレータ法とも呼ばれる。また、特許文献2及び3には、基材表面の酸素原子等にスズが吸着してパラジウム用の吸着サイトを形成し(センシタイジング)、次いでスズの吸着サイトに高い触媒能を有するパラジウムが吸着する(アクチベーティング)、いわゆるセンシタイジング-アクチベーティング法が開示されている。また、特許文献4には、パラジウムイオンを含有する触媒液を用いて基材表面に触媒を付与し、次いで還元剤溶液に接触させる方法が開示されている。また、特許文献5には、パラジウム等の金属塩を還元して、無電解めっき用の触媒を作製する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4275157号公報
【特許文献2】特開2016-029209号公報
【特許文献3】特開2007-063646号公報
【特許文献4】特開2015-086429号公報
【特許文献5】特開2013-184425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの従来法では、触媒付与処理液として貴金属濃度が低いものを用いると金属めっき層が析出し難く、めっき不良を来し易いという難点がある。通常は貴金属の濃度が数十ppm以上、時には100ppm以上の触媒付与処理液が用いられ、製造コストが掛かる。また、多くの場合、貴金属触媒の還元や活性化等の後処理を必要とする。しかも後処理においては、一般に濃度が1mol/L程度以上の塩酸や硫酸等の強酸がしばしば用いられるため、周辺の装置の腐食や、人体への悪影響が懸念される。このように従来法は、触媒の付与に高濃度の貴金属処理液と、多工程での操作を必要とし、煩雑でコストと時間を要するという課題を抱えている。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決すべく、触媒の付与に使用するパラジウム量を低減しても良好な無電解めっき部品を得ることができ、触媒付与後に強酸等での後処理を必要とせず、簡便かつ低コストに実施し得るめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、無電解めっき工程に先立つ触媒付与工程において、液体中での放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液を用いることにより、低濃度の触媒付与処理液であっても良好なめっき部品が製造でき、強酸による後処理等も不要となって、無電解めっきを低コストで安全かつ簡便に行い得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の(1)~(12)を提供する。
(1)基材の被処理面に触媒付与処理液を接触させ触媒を付与する触媒付与工程と、前記触媒が付与された前記被処理面に金属めっきを施す無電解めっき工程とを、少なくとも含むめっき方法において、
前記触媒付与工程では、前記触媒付与処理液として、液体中に配置されたパラジウム電極と対極との間の放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液を用いる、
めっき方法。
(2)前記触媒付与工程は、
前記液体中に配置した前記パラジウム電極と前記対極との間の放電によって、前記パラジウム微粒子を含有する前記触媒付与処理液を調製する操作と、
前記被処理面に前記触媒付与処理液を接触させる操作と、
を有する、上記(1)のめっき方法。
(3)前記触媒付与処理液中の前記パラジウム微粒子のゼータ電位の平均値が、0mV以下である、上記(1)又は(2)のめっき方法。
(4)前記触媒付与処理液が多価カルボン酸及び/又はその塩を含有する、上記(1)~(3)のいずれかのめっき方法。
(5)前記基材が、高分子、ガラス、セラミックス、炭素材料、及び金属からなる群より選択される1以上からなる、上記(1)~(4)のいずれかのめっき方法。
(6)前記基材が基板である、上記(1)~(5)のいずれかのめっき方法。
(7)前記触媒付与工程に先立ち、前記被処理面を、多価アミン化合物を含有する触媒付与増強液に接触させるコンディショニング工程をさらに含む、上記(1)~(6)のいずれかのめっき方法。
(8)前記コンディショニング工程と前記触媒付与工程との間に、前記被処理面を水洗する工程をさらに含む、上記(7)のめっき方法。
(9)前記触媒付与工程と前記無電解めっき工程との間に、前記被処理面に次亜リン酸溶液、還元剤、及び/又は無機酸を接触させる活性化処理工程をさらに含む、上記(1)~(8)のいずれかのめっき方法。
(10)前記触媒付与工程に先立ち、前記被処理面を表面改質する工程をさらに含む、上記(1)~(9)のいずれかのめっき方法。
(11)前記触媒付与工程に先立ち、前記被処理面を、酸化剤を含有する酸性溶液に接触させるエッチング工程をさらに含む、上記(1)~(9)のいずれかのめっき方法。
(12)上記(1)~(11)のいずれかのめっき方法により製造される、めっき部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のめっき方法によれば、触媒の付与に使用するパラジウム量を低減しても良好な無電解めっき部品を得ることができる。また、触媒付与後に強酸等での後処理を必要とせず、無電解めっきを時間とコストを掛けずに安全かつ簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施態様に係る触媒付与処理液の調製に用いられる、製造装置の一例の概略構成を示す概念図である。
【
図2】本発明の一態様に係るめっき処理工程の一例を示すフロー図である。
【
図3】本発明の他の態様に係るめっき処理工程における、触媒付与工程の一例を示す概念図である。
【
図4】本発明に従う実施例16における、無電解銅めっきを施した後のプリント配線基板のバックライト試験結果を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0014】
≪1.めっき方法の概要≫
本実施形態は、基材の被処理面に触媒付与処理液を接触させ触媒を付与する触媒付与工程と、触媒が付与された被処理面に金属めっきを施す無電解めっき工程とを、少なくとも含むめっき方法において、触媒付与工程では、触媒付与処理液として、液体中に配置されたパラジウム電極と対極との間の放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液を用いる、めっき方法である。
【0015】
本実施形態においては、液体中のパラジウム電極と対極との間(パラジウム電極-対極間)の放電によって形成された、パラジウム微粒子を含む液が用いられる。
【0016】
パラジウム微粒子は一般に、上記したパラジウムイオンの還元を始めとする化学合成法の他、レーザー蒸発法やCVD等の物理的な手段により作製されている。しかしながら、これらの方法では、高温等のエネルギー消費を伴う条件がしばしば必要となる上、生成した粒子が凝集し易い欠点がある。
【0017】
これに対して、液体中でのパラジウム電極-対極間の放電によれば、均一サイズの微粒子が均一分散した触媒付与処理液が形成され易く、エネルギー消費も抑制され得る。以下では先ず、液中放電による触媒付与処理液の形成について説明する。
【0018】
≪2.触媒付与処理液の形成≫
本実施形態のめっき方法で使用される触媒付与処理液は、液体中に配置されたパラジウム電極-対極間での放電によって形成される。こうして形成された微粒子は基材に吸着され易く、また、活性化等の後処理を必要としない。しかも、レーザー蒸発法や蒸着法により生成した微粒子に比べ、粒子サイズが均一で液中にも均一分散し易い傾向がある。そのため、液体中での電極間放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液は、たとえ低濃度であっても、触媒付与処理液として優れた効果を発揮し得る。パラジウム微粒子自体の形成も、高温等の条件や複雑な工程を要さずに行うことができる。それ故、本実施形態によれば、良好な無電解めっき部品をより少量のパラジウム使用量にて簡便に得ることが可能となる。
【0019】
(1)触媒付与処理液
パラジウム電極-対極間の放電により、触媒付与処理液中において、平均粒子径がキュムラント法(散乱光強度基準の測定法、JIS Z8828等参照。)による測定で例えば1~500nm、特に200~400nm程度のパラジウム微粒子が形成される。液中放電により形成された触媒付与処理液は、こうしたナノオーダーの微粒子を含有するため、無電解めっき用の触媒付与処理液として優れた機能を示す。
【0020】
また、パラジウム電極-対極間の放電により、触媒付与処理液中において、パラジウムの微粒子を例えば1~3000mg/L、特に10~100mg/L程度の濃度で容易に形成し得るが、本実施形態における触媒付与処理液は、より低いパラジウム濃度でも触媒機能を発揮する。例えば、触媒付与処理液中のパラジウム微粒子の濃度が、1~50mg/L、中でも2~30mg/L、さらには3~15mg/L、特に4~10mg/L程度と低めであっても、良好な無電解めっき部品を得ることが可能である。本発明はまた、このように液中放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む触媒付与処理液を包含する。
【0021】
前述のように、本実施形態の方法において用いるパラジウム微粒子については、従来公知の還元法により形成されるパラジウム粒子のように、還元剤溶液、又は塩酸や硫酸等を含有する活性化処理液での後処理を必要としない。そのため、一連のめっき方法において、工程数を減じることができるだけでなく、例えば還元剤や酸による高分子成形体等の基材の劣化や副反応を回避することも可能である。換言すると、本実施形態の方法で用いる触媒付与処理液は、還元剤不含のものとすることができる。
【0022】
触媒付与処理液に含まれるパラジウム微粒子は、そのゼータ電位の平均値が0mV以下、例えば-10~-50mV、特に-20~-40mV程度であることが好ましい。こうしたゼータ電位のパラジウム微粒子を含む液であれば、長期にわたり安定という利点がある。
【0023】
(2)触媒付与処理液の調製方法
次に、上記のような触媒付与処理液の調製方法について、好ましい実施態様を例示して説明する。
【0024】
(パラジウム電極)
触媒付与処理液に含まれるパラジウム微粒子は、液体中に配置されたパラジウム電極と対極との間の放電によって形成される。使用するパラジウム電極は、その構造や形状に特に制限はない。例えばパラジウム製の板状物や棒状物又は中空の筒状物であってもよく、また、銅や鉄等の金属板をパラジウムで被覆した構造のものであってもよい。電極表面の一部が、絶縁体によって被覆された構造とすることもできる。
【0025】
また、電極におけるパラジウム純度も、特に限定されない。なお、触媒付与効率の観点からは、高純度のパラジウム、例えば純度90%以上、さらには99%以上、中でも不可避的不純物以外は不含の、純度99.9%以上の高純度品を使用することが好ましい。また、目的によっては、パラジウムと白金、ニッケル、及び/又はスズとの合金を使用することもできる。合金を使用することによって、2成分以上の元素がナノスケールで混ざり合った微粒子を形成させることができる。
【0026】
また、パラジウム電極の大きさについても、特に制限はない。液中放電においては、放電部の面積を大きくすることによって形成される微粒子の量を増大させることができる。
【0027】
(対極)
対極の材質、構造、形状についても、特に制限はない。例えばタングステン等の金属又はグラファイト製の板状物や棒状物又は中空の筒状物であってもよく、表面の一部が絶縁体によって被覆された構造であってもよい。それら金属の純度は特に限定されず、また、対極の形状はパラジウム電極と同一であっても異なっていても構わない。上記のパラジウム電極と同一のものを対極とし、液中放電を一対のパラジウム電極間で行ってもよい。なお、放電に際しては上記パラジウム電極のみが液中に配置されていればよく、対極は例えば空気中に配置されていてもよい。但し、パラジウム微粒子の形成効率の観点からは、対極がパラジウム電極と同一の液中に配置されていることが好ましい。
【0028】
(分散媒)
触媒付与処理液は、液中放電により形成されたパラジウム微粒子が分散媒中に分散して構成される。触媒付与処理液を構成する分散媒についても、生成するパラジウム微粒子が溶解する等の不具合が生じなければ特に制限はない。例えば、水や過酸化水素水;メタノール、エタノール、プロパノール、 ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジメチル等のエステル類;その他、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、シリコーン、イオン液体等を使用することができる。また、複数種の溶媒を混合して混合分散媒としてもよい。
【0029】
その中でも、めっき工程での適合性や、パラジウム微粒子の分散性、放電の際の導電性、安全性等を考慮すると、分散媒としては、水及び/又はエタノール等のアルコールを用いることが好ましく、特に水を用いることが好ましい。なお、液中放電により液体中で形成されたパラジウム微粒子を、一旦フィルター等でろ過し、水等の液体に再度分散させて使用することもできるが、分散性及び操作の簡便さの観点からは、水及び/又はアルコール中で放電させて得られた液を、そのまま触媒付与処理液として使用することが好ましい。
【0030】
(導電性付与剤)
液体中のパラジウム電極-対極間での放電によってパラジウム微粒子を形成する上で、当該液体中には導電性付与剤が含まれていることが好ましい。
【0031】
導電性付与剤の種類に特に制限はなく、各種の無機塩、テトラアルキルアンモニウム塩やピリジニウム塩、スルホン酸塩等の有機塩を使用することができる。中でも、カルボン酸塩等の有機酸塩が好ましい。カルボン酸塩に特に制限はなく、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、安息香酸、サリチル酸等の種々のカルボン酸の塩を用いることができる。より好ましくは、多価カルボン酸の塩を使用する。多価カルボン酸塩は導電性付与剤として機能するだけでなく、生成したパラジウム微粒子の分散安定性を高めることもできる。そのため、触媒付与処理液の添加剤として好適である。なお、多価カルボン酸塩等の導電性付与剤を、以下で「分散剤」ということがある。
【0032】
多価カルボン酸塩は、分散媒、例えば水に溶解し得るものならどのような塩であってもよい。例として、シュウ酸(エタン二酸)、マロン酸(プロパン二酸)、コハク酸(ブタン二酸)、グルタル酸(ペンタン二酸)、アジピン酸(ヘキサン二酸)、ピメリン酸(ヘプタン二酸)、スベリン酸(オクタン二酸)、アゼライン酸(ノナン二酸)、セバシン酸(デカン二酸)、フマル酸(E-ブテン二酸)、及びマレイン酸(cis-ブテン二酸)等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;トリカルバリル酸(プロパントリカルボン酸)、アコニット酸(プロペントリカルボン酸)、トリメリット酸(1,2,4-ベンゼントリカルボン酸)、及びトリメシン酸(1,3,5-ベンゼントリカルボン酸)等のトリカルボン酸;並びに、リンゴ酸(ヒドロキシブタン二酸)、酒石酸(ジヒドロキシブタン二酸)、シトラマル酸(ヒドロキシメチルブタン二酸)、クエン酸(2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸)、及びイソクエン酸(1-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸)等のヒドロキシ多価カルボン酸等の塩が挙げられるが、これらに限定されない。塩を構成するカチオンの種類にも特に制限はなく、例としてナトリウムやカリウム等のアルカリ金属イオン、置換又は非置換のアンモニウムイオン、例えばテトラメチルアンモニウムイオン等が挙げられるが、これらに限定されない。複数の多価カルボン酸塩を併用することも可能である。
【0033】
パラジウム微粒子の分散性の観点からは、多価カルボン酸塩としてヒドロキシ多価カルボン酸の塩、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のナトリウム塩やカリウム塩を使用することが好ましい。中でもクエン酸塩、特にクエン酸ナトリウムを用いると、パラジウム微粒子の分散状態が安定し、さらに良好な無電解めっき部品を得ることも可能となる。
【0034】
これら多価カルボン酸塩は、パラジウム微粒子を形成する液体の導電率が、例えば150~500μS/cm、特に300~400μScm/程度となるように用いることが好ましい。液体の導電度がこの前後の範囲であれば、電極間の放電によるパラジウム微粒子の形成が容易となる。こうした導電度には、例えばリンゴ酸、酒石酸の多価カルボン酸塩の濃度を、約0.1~0.5g/L、特に0.2~0.4g/L程度とすることにより、容易に調整することができる。パラジウム微粒子の分散性の点からも、多価カルボン酸塩をこうした濃度とすることが好ましい。なお、導電性付与剤として多価カルボン酸塩以外の化合物を使用し、放電後に多価カルボン酸塩を追加してもよい。
【0035】
パラジウム微粒子を形成する液体及び/又は触媒付与処理液には、上記のような導電性付与剤及び分散剤の他に、分散助剤、乳化剤、界面活性剤、pH調整剤、pH緩衝剤、錯化剤、粘度調整剤等の種々の添加剤を配合してもよい。これら添加剤は、触媒活性を高める観点からは無添加としてもよいが、添加する場合、その量は合計で約0.1~1g/L程度とすることが好ましい。
【0036】
(放電処理)
触媒付与処理液の調製においては、調製した液体中に、パラジウム電極と対極とを配置し、その間で放電させることにより、パラジウム微粒子を含んだ触媒付与処理液が形成される。以下に、
図1に示す放電装置1を参照しながら、触媒付与処理液の調製についてより具体的に説明する。なお、放電装置や放電条件等は下記の態様に限定されるものではない。
【0037】
図1に示すように、先ず一対の電極10を、所定の間隙を介して互いに対向配置させる。次に、液体20を容器30に充填して、各電極10を液体20に浸す。
図1に示す実施態様では、両電極10の形状及びサイズが同一のものとなっているが、これら2つの電極10は異なったものであってもよい。例えば電極の一方(対極)の材質が、パラジウム以外のものであっても構わない。また、両電極10は絶縁部12を介して容器30の側面に予め取り付けられているが、電極10を容器30の上部から液体20中に浸漬してもよい。さらにまた、電極10の配置と液体20の充填とは、どちらを先に行ってもよい。なお、電極10や液体20の材質については、上記したとおりである。
【0038】
次に、放電装置1の電源部40から電圧を印加し、液体20中の2つの電極の間に放電を発生させる。この際、電極10等が熱くならないよう、冷却処理を施してもよい。例えば、放電装置1に電極10を冷却する機構を付随させることもできる。また、パラジウム微粒子の生成を促進するために、電極10の一方又は両方を振動させてもよい。さらに、電極10の周辺部に、マイクロバブル等の気泡を供給してもよい。
【0039】
ここで、放電の方式や印加する電圧としては、特に制限はなく、使用する装置に応じた適切な条件で行うことができる。例えば、グロー放電、アーク放電、パルス放電等、どのようなタイプであってもよい。エネルギー効率が良く、空間的な均一性が得易いグロー放電が好ましい。例えば、電源部40から500~3000V、特に800~2000V程度の電圧を電極10に印加する。これにより、ナノサイズのパラジウム微粒子が均一に分散した液が形成され易くなる。また、その際の電流値も特に限定されず、例えば200~2000mAとすることができる。
【0040】
また、パルスグロー放電とすることもできる。グロー放電は非熱平衡性であるため、パルスでの駆動はアーク転移の防止にも寄与し得る。例えば、電源部40から、周波数20Hz~200kHz、特に800Hz~60kHz程度の周波数でパルスを掛けてもよい。また、パルスの立ち上がり期間を、例えば0.1~数μs(マイクロ秒)、特に0.2~2μs程度として、0.2~10μs、特に0.5~1.5μs程度のパルスを印加する等の条件により、低温での安定した放電が得られるという利点が生じる。
【0041】
なお、放電処理は、例えば室温で行うことができ、液体の加温等は必要としない。そのため、本実施態様における触媒付与処理液の形成は、エネルギー消費を抑制しつつ、低コストにて行うことが可能である。
【0042】
≪3.めっき対象の基材≫
本実施形態のめっき方法においては、例えば上記のようにして形成されたパラジウム微粒子を含む液を、基材の被処理面に接触させて触媒を付与する。ここで、めっき対象とする基材に特に制限はなく、高分子、ガラス、セラミックス、炭素材料、及び金属からなる群より選択される1以上からなる基材を使用することができる。高分子やセラミックスと金属との複合材料等も、本実施形態のめっき対象とし得る。これらの内でも特に、熱可塑性高分子もしくは熱硬化性高分子又はその複合材の成形体が好ましい。
【0043】
(高分子成形体)
本実施形態でめっき対象とする高分子成形体の材質に特に制限はなく、各種の樹脂及びエラストマーを使用することができる。例として、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂)、PC(ポリカーボネート)、PC含有ABS、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合体)、SAS(シリコーン系複合ゴム-アクリロニトリル-スチレン共重合体)、アクリル系樹脂、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、(脂肪族)ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、味の素ビルドアップフィルム(商標、ABF)等が挙げられるが、これらに限定されない。内でもABS樹脂に基づく高分子成形体は、無電解めっきが容易であるため、基材として好適である。
【0044】
基材はまた、高分子材料と、ガラス、セラミックス、金属、炭素材料等との複合材であってもよい。例えば、ガラス繊維又は紙とエポキシ樹脂又はフェノール樹脂との複合材、ガラス繊維とポリイミドとの複合材、ガラス繊維とフッ素樹脂との複合材、ガラス繊維とポリフェニレンオキシドとの複合材、ガラス繊維とビスマレイミド/トリアジン/エポキシ樹脂(BT樹脂)との複合材、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)、CNF(セルロースナノファイバー)含有樹脂等をめっき対象とすることができる。
【0045】
(他材質)
本実施形態では、上記のような高分子成形体だけでなく、セルロースや合成樹脂繊維を始めとする繊維状の高分子材料に基づく基材;Eガラス、Cガラス、Sガラス等のガラスに基づく基材;シリコン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、チタニア、窒化ガリウム等のセラミックスに基づく基材;カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、炭素繊維等の炭素材料に基づく基材;さらにはアルミニウム、銀等の金属材料に基づく基材を、めっき対象とすることも可能である。
【0046】
(形状・用途)
基材の形状にも、特に制限はない。例えばシートやパイプ等の産業用材料、各種形状のハンドル、グリル、モール、エンブレム等の自動車部品、船外機部品、水栓金具、ドアノブや窓枠を始めとする建材部品、家電部品、プリント配線基板等の各種基板を始めとする電子部品、パワーデバイス(半導体)等、どのような形状及び用途のものであっても良い。炭素繊維やセルロース繊維等からなる、繊維構造体をめっき対象とすることもできる。
【0047】
(基板)
本実施形態のめっき方法は、強酸等での後処理を必要とせずに少ないパラジウム量で良好なめっき部品を製造することができるので、各種電子部品、特にプリント配線基板等用の基板のめっきに有用である。めっき対象とする基板に特に制限はなく、例えば上記したエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリフェニレンオキシド、BT樹脂等、及びそれら樹脂とガラス繊維や紙との複合材に基づくリジッド基板;ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等に基づくフレキシブル基板;さらには金属基板やガラス基板、セラミックス基板をめっき対象とすることもできる。スルーホールやビアホールを有する基板やコンポジット基板を、めっき対象としてもよい。
【0048】
≪4.めっき方法の具体的な態様≫
本実施形態のめっき方法においては、上記のようにパラジウム微粒子を含む触媒付与処理液を基材の被処理面に接触させて触媒を付与し、次いで触媒が付与された被処理面に金属めっきを施す。なお、本実施形態の好ましい態様においては、めっき対象である基材の被処理面を、触媒付与処理に先立って被処理面を表面改質する工程をさらに含む。この表面改質工程は必須ではないが、基材、特に高分子成形体の被処理面に、官能基、例えばヒドロキシ基やカルボキシ基等の親水性の官能基を生成させ、触媒のパラジウム微粒子をより多く付与する上で有用である。
【0049】
(表面改質工程)
表面改質方法に特に制限はなく、めっき対象や目的とするめっき部品に応じて、種々の公知の手法を採用することができる。例として酸性溶液やアルカリ性溶液等のエッチング処理液を使用する(ウェット)エッチング、プラズマや紫外線(UV)等を用いるドライエッチング等が挙げられるが、これらに限定されない。特に、エッチング処理液を用いる表面改質方法が好ましい。
【0050】
<特に好ましい態様>
以下では、本実施形態のめっき方法について、特に好ましい態様を例に
図2のフローに基づき具体的に説明する。なお、この態様はエッチング工程-コンディショニング工程-触媒付与工程-活性化処理工程-無電解めっき工程をこの順で含むが、本発明はこうした態様に限定されるものではない。
【0051】
(1)エッチング工程
本態様においては、めっき対象である基材の被処理面を、触媒付与工程に先立って先ずはエッチング処理する。なお、エッチング工程に先立ち、被処理面に脱脂、洗浄等の前処理(ステップS1-0)を行うことが好ましい。これら前処理及びエッチングの方法に特に制限はなく、慣用の苛性アルカリ等を用いた脱脂法や、水洗、汎用のエッチング液を使用するエッチング等を、基材の被処理面に行えばよい。
【0052】
(エッチング処理液)
エッチング工程(ステップS1-1)に用いる処理液の種類にも特に制限はなく、例としてクロム酸-硫酸エッチング液、リン酸-クロム酸-硫酸エッチング液等のクロム酸系エッチング液;重クロム酸カリウム-硫酸エッチング液、重クロム酸カリウム-リン酸エッチング液等の重クロム酸系エッチング液;過マンガン酸ナトリウムエッチング液、過マンガン酸カリウムエッチング液、リン酸-過塩素酸-過マンガン酸カリウムエッチング液、過マンガン酸カリウム-リン酸エッチング液等の過マンガン酸系エッチング液;さらには、含オゾンエッチング液、硫酸エッチング液、過硫酸エッチング液、塩酸エッチング液、及び硫酸-塩酸エッチング液等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
エッチング処理液の液性にも特に制限はないが、pHが約0以上7未満の酸性、例えばpHが2以下、特に1.0以下であることが好ましい。より好ましくは、クロム酸系;重クロム酸系;過マンガン酸系;マンガン塩系、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、炭酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、二酸化マンガン、マンガン酸ナトリウム、マンガン酸カリウム等;過硫酸系;及び/又はオゾン系のエッチング処理液を使用する。これらエッチング処理液には、ABS等の樹脂に対する粗化及び表面改質に優れるという利点がある。特に、過マンガン酸系のエッチング剤は、エッチングが十分に進行し易く、また、クロム等による環境汚染を引き起こし難い利点がある。本態様は、好ましくは、触媒付与工程に先立ち、高分子成形体等の基材の被処理面を、酸化剤を含有する酸性溶液に接触させるエッチング工程を、より好ましくは過マンガン酸イオンを含む酸性溶液に接触させるエッチング工程を、さらに含む。
【0054】
エッチング処理液が過マンガン酸イオンを含む場合、その濃度は0.5mmol/L以上、中でも5mmol/L~2.0mol/L、特に50mmol/L~0.5mol/L程度とすることが好ましい。また、リン酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる無機酸の少なくとも1種、中でもリン酸又は硫酸、特に硫酸を含むことが好ましい。これら無機酸のエッチング処理液中の濃度は、例えば2mol/L以上、特に6~12mol/L程度とすることが好ましい。
【0055】
エッチング工程(ステップS1-1)においては、エッチング処理液の液温を例えば0~100℃、特に25~70℃程度とし、そこに基材を例えば0.5~30分間、特に1~15分間程度浸漬すればよい。基材の被処理面に、エッチング処理液を噴霧等して接触させてもよい。なお、エッチング工程の後に、被処理面を洗浄、特に水洗(ステップS1-2)することが好ましい。また、エッチング工程の条件によっては、中和処理や還元処理等を続けて行ってもよい。本態様においては、このように種々の表面改質処理を、エッチング処理と共に又はエッチング処理に代えて行うこともできる。
【0056】
エッチング処理は、複数工程にて行うこともできる。例えば、上記のようなエッチング処理を複数回繰り返してもよい。また、上記よりも酸性度の低い酸化剤含有エッチング処理液、例えばpHが3.0~10.0程度、特に6.0~7.0程度の過マンガン酸イオン含有液を用いて被処理面を処理した後、任意的に水洗を行い、次いで酸化剤を活性化させる後処理を施してもよい。この後処理は例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、フッ酸等の無機酸;酢酸、メタンスルホン酸等の有機酸;過酸化水素;ハロゲンオキソ酸、過塩素酸カリウム、過ヨウ素酸ナトリウム、過臭素酸等のハロゲンオキソ酸塩;及びペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の過硫酸塩から選ばれる活性化剤の1種又は2種以上を、0.05mol/L以上、特に0.5~17mol/L程度の濃度で含有する溶液に、被処理面を0~100℃、特に60~70℃の温度で30秒間以上、特に1~5分間接触させることによって行うことができる。
【0057】
上記のエッチング処理液及び後処理で使用する活性化剤の溶液には、1種又は2種以上のpH緩衝剤、例えばリン酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、酢酸塩、 ジエチルバルビツル酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸、エチレンジアミン四酢酸等;及び/又は1種又は2種以上の界面活性剤、例えばアミン塩型界面活性剤、第4級アミン塩型界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤、ベタイン型界面活性剤、カルボン酸塩型界面活性剤、スルホン酸塩型界面活性剤、硫酸エステル塩型界面活性剤、リン酸エステル塩型界面活性剤、エーテル型界面活性剤、エステル型界面活性剤、含窒素型界面活性剤、含フッ素型界面活性剤等を含有させてもよい。
【0058】
(他の表面改質処理)
本態様においては、上記のように種々の表面改質処理を、エッチング処理と共に又はエッチング処理に代えて行ってもよい。例えば、被処理面にアルカリ処理や濃硫酸加熱処理を施すこともできる。これら処理によって被処理面がカルボキシ化又はスルホン化され、パラジウム触媒との密着性や触媒の付与効率が高められる場合がある。同様の理由から、被処理面にプラズマ処理やUV照射によるドライエッチングを施してもよい。
【0059】
特に、めっき対象がポリイミド、例えばポリイミド基板の場合、アルカリ処理の結果、イミド環が加水分解により開環してポリアミック酸イオンとなり、カルボキシ基が容易に生成する。そのため、上記のエッチング処理や後記するコンディショニング処理を行うことなく、アルカリ処理の直後に触媒付与工程に進んで、良好な無電解めっき部品をより簡便に作製することも可能である。勿論、アルカリ処理や濃硫酸加熱処理、あるいはドライエッチング処理と、エッチング処理及び/又はコンディショニング処理とを併用してもよい。
【0060】
(アルカリ処理)
アルカリ処理の方法に特に制限はなく、例えばポリイミドを構成するイミド環を開環させ得る、どのようなアルカリ溶液を使用することもできる。好ましい例として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液が挙げられるが、これらに限定されない。アルカリ処理は例えば、20~100℃ 程度の温度範囲で、0.01~10mol/L程度の濃度のアルカリ溶液に、ポリイミド等の基材を10秒間~50分間程度浸漬することによって行えばよい。基材の被処理面に、アルカリ溶液を噴霧等して処理することもできる。なお、アルカリ処理後の被処理面は、水洗等により洗浄することが好ましい。
【0061】
(2)コンディショニング工程
本態様では次に、触媒付与工程に先立ち、被処理面を触媒付与増強液(コンディショナーともいう。)に接触させる、コンディショニング処理(ステップS2-1)を行う。このコンディショニング工程も必須ではないが、無電解めっき部品の品質をさらに高める上で有用である。高分子成形体等の基材の被処理面、特にエッチング工程後の被処理面には、上記のように親水基等の官能基が生じ得る。これら官能基に選択吸着性のある化合物(以下、これを「選択吸着性化合物」という。)を含有する処理液が、触媒付与増強液である。
【0062】
(選択吸着性化合物)
触媒付与増強液に含有される選択吸着性化合物としては、上記したような選択吸着性のある官能基を有する化合物であれば特に制限されないが、例えば、窒素原子を含有する化合物等が好ましい。具体的な例としては、エチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のエチレンジアミン系化合物;エポミンSP-003、エポミンSP-012、エポミンSP-200(何れも日本触媒株式会社製)等のエチレンイミン系高分子化合物;PAA-03、PAA-D41-HCl(何れも日東紡績株式会社製)等のアリルアミン系高分子化合物;PAS-92、PAS-M-1、PAS-880(何れも日東紡績株式会社製)等のジアリルアミン系高分子化合物;PVAM-0570-B(三菱化学株式会社製)等のビニルアミン系高分子化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
良好なめっき特性を発現させる上で、選択吸着性化合物として多価アミン化合物を使用することが好ましい。すなわち本態様は、触媒付与工程に先立ち、被処理面を、多価アミン化合物を含有する触媒付与増強液に接触させるコンディショニング工程をさらに含む、めっき方法を包含する。より好ましくは、窒素原子を3個以上含有する化合物を使用する。さらに好ましくはエチレンイミン系高分子化合物、アリルアミン系高分子化合物、及びジアリルアミン系高分子化合物が、中でもポリエチレンイミンが適切である。なお、ポリエチレンイミンは直鎖状であっても分岐状であってもよい。その分子量にも特に制限はなく、例えば分子量100以上、中でも300~70000、特に10000程度のものが好ましい。アミン価にも制限はなく、例えばアミン価が15~25mgKOH/g程度の多価アミン化合物、特にアミン価が18~21mgKOH/g程度のポリエチレンイミンを好ましく使用することができる。こうした窒素化合物を含有する触媒付与増強液で処理すれば、めっき特性はさらに良好なものとなり得る。
【0064】
上記のような選択吸着性化合物の触媒付与増強液中の濃度は、例えば10mg/L以上、特に100~3000mg/L程度とすることができる。また、この触媒付与増強液のpHに特に制限はなく、例えば10~13程度であってもよい。また、そのpHを例えば水酸化ナトリウム、硫酸等によって例えば5~12、特に8~10程度に調整することもできる。この触媒付与増強液にて基材の被処理面を処理するには、液温を例えば0~70℃、特に25~35℃程度とし、そこに基材を例えば1~20分間、特に2~3分間程度浸漬して処理すればよい。基材の被処理面に、触媒付与増強液を噴霧等して接触させてもよい。
【0065】
(その他添加剤)
触媒付与増強液には、選択吸着性化合物と共に、上記したような分散剤、例えばクエン酸や、スズ酸塩等の添加剤を配合してもよい。スズ酸塩、例えばスズ酸カリウム等の配合によって、めっき特性がさらに改善される場合がある。例えば前記した触媒付与処理液中のパラジウムの濃度を10mg/L以下の低濃度としても、被処理面全面に無電解めっき層が付されためっき部品を製造し得る。
【0066】
(水洗)
本態様においてコンディショニング処理を行った場合、次の触媒付与工程に先立ち、基材の被処理面を洗浄、特に水洗することが好ましい。高分子成形体等の基材に結合していない選択吸着性化合物にパラジウム微粒子が結合すると、無電解めっき用の触媒として機能し得なくなるおそれが生じるが、そうしたおそれは水洗によって低減される。また、水洗によって触媒液の寿命が延命されるという利点が生じる。すなわち本態様は、コンディショニング工程と触媒付与工程との間に、被処理面を水洗する工程(ステップS2-2)をさらに含む、めっき方法も包含する。
【0067】
(3)触媒付与工程
本態様においては、上記のような基材の被処理面に、脱脂、洗浄、エッチング、コンディショニング、及び/又は水洗等を任意的に行った後に、触媒付与処理液を接触させて触媒を付与する。触媒付与処理液としては、上記した電極間での液中放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液を使用する。例えば、触媒付与処理液を別途に調製し(ステップS3-1)、これを被処理面に接触させて触媒付与工程(ステップS3-2)としてもよい。
【0068】
本態様における触媒付与処理液中の微粒子は、前述のようにナノスケールのサイズを有し、高い活性を備えている。そのため、基材表面に吸着され易く、また基材表面のパラジウム吸着量が通常のめっき法におけるより少量でも、優れためっき特性を発現する。例えば、慣用のパラジウム/スズコロイドを触媒とする場合、被処理面全面を無電解めっきするために少なくとも5~10mg/m2程度、通常はより多量のパラジウムが必要となるのに対し、本態様においては、基材の被処理面に付すパラジウム微粒子の量が、単位面積当たり例えば3~8mg/m2、特に4.0~6.0mg/m2程度と少量であっても、良好な無電解めっき部品を得ることが可能である。
【0069】
基材の被処理面に触媒を付与するには、触媒付与処理液の液温を例えば10~60℃、特に20~50℃程度とし、それに高分子成形体等の基材を1~20分間、特に2~5分間程度浸漬させて処理すればよい。基材の被処理面に、触媒付与処理液を噴霧等して接触させてもよい。なお、触媒付与工程後に、洗浄、特に水洗(ステップS3-3)操作を行うことが好ましい。
【0070】
前述のように、液体中での放電によって形成された微粒子は、通常の触媒付与工程後に行われるような、塩酸による活性化や還元等の後処理を必要としない。そのため、本態様によれば、基材の無電解めっきを通常法よりも少ない工程数で、時間とコストを掛けずに簡便に行うことができる。
【0071】
また、パラジウム微粒子自体が、還元剤等を必要とせず、パラジウム電極、液体、並びに任意的な導電性付与剤及び/又は分散剤のみで形成し得る。そのため、触媒付与処理液を調製する操作を、被処理面に触媒付与処理液を接触させる操作と、例えば同一の装置又は反応器中で同時的に行っても、予期せぬ副反応や触媒付着量の低減等の不具合を来し難い。換言すると、触媒付与処理液の調製と、被処理面への触媒付与処理液の接触とを、例えば
図3に示す態様のように同時並行的に行うことも可能である。したがって本態様における触媒付与工程は、パラジウム微粒子が形成された触媒付与処理液を予め用意し、これを任意的に前処理に付した被処理面に接触させる方法だけでなく、液中放電によってパラジウム微粒子を含有する触媒付与処理液を調製する操作(ステップS3-1’)と、被処理面に触媒付与処理液を接触させる操作(ステップS3-2’)とを有するめっき方法によっても、進めることができる。
【0072】
(4)活性化処理工程
本態様においては、上記のように塩酸等による活性化処理は不要であるが、回避する必要もない。例えば触媒付与工程と後記する無電解めっき工程との間に、被処理面に次亜リン酸溶液等を接触させる活性化処理工程(ステップS4-1)をさらに含んでもよい。活性化処理によって、めっき液中にパラジウムが混入し難くなる。また、触媒付与処理液の調製や触媒付与工程から無電解めっき工程に進むまでに間が空き、触媒が失活したような場合に、活性化処理によって触媒を再度活性化することも可能である。
【0073】
活性化処理工程で使用する処理液に特に制限はなく、例えば前記した次亜リン酸溶液、次亜リン酸塩溶液、還元剤、及び/又は無機酸等を使用することができる。例として次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム;ジメチルアミンボラン(DMAB)、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)等の還元剤;塩酸等の無機酸;並びにそれらを含有する溶液が挙げられるが、これらに限定されない。これら次亜リン酸(塩)、還元剤、無機酸等を、複数種併用することも可能である。特に、次亜リン酸(塩)による処理が好ましい。次亜リン酸は、キャタライザー・アクセラレータ法やセンシタイジング-アクチベーティング法で使用される塩酸のような強酸ではないので、周辺の装置等に悪影響を及ぼすおそれは少ない。
【0074】
活性化処理工程では、例えば次亜リン酸ナトリウム又は次亜リン酸カリウムを、5~40g/L、特に10~25g/L程度含有する水溶液を使用することができる。例えばpHを7程度に調整し、液温を0~70℃、特に25~35℃程度とした処理液に、触媒を付した基材を数秒間~数分間、例えば1分間程度浸漬して処理すればよい。基材の被処理面に、処理液を噴霧等して接触させてもよい。なお、活性化処理工程終了後に、基材又はその被処理面を洗浄、特に水洗(ステップS4-2)することが好ましい。
【0075】
(5)無電解めっき工程
上記のようにして触媒が付与された基材は、次に無電解めっき工程(ステップS5)にて、触媒が付与された被処理面に金属めっきが施される。無電解めっきの方法に特に制限はなく、例えば公知の無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液等の無電解金属めっきを用いて、常法に従って行うことができる。具体的に、無電解ニッケルめっき液で無電解めっきを行う場合を例にとると、例えばpH8~10で30~50℃の液温の無電解ニッケルめっき液に、高分子成形体等の基材を5~15分間程度浸漬させて処理すればよい。
【0076】
(6)後工程
上記のようにして無電解めっきを施された基材は、所望により水洗・乾燥等した後、そのままめっき部品として使用できるが、さらに電気めっき処理等の後工程(S6)に付してもよい。例えば、銅ストライクめっき、ニッケルストライクめっき、銀ストライクめっき、金ストライクめっき等のストライクめっき処理;ニッケルめっき、クロムめっき、ニッケルクロムめっき、スズめっき、スズ銀メッキ、銅めっき、金めっき、銀めっき等の汎用めっき処理を行うことができる。これら電気めっきの方法及び条件にも特に制限はなく、慣用の方法及び条件で行うことができる。
【0077】
上記の無電解めっき層又は電気めっき層上に、電解化成処理膜及び/又は浸漬化成処理膜をさらに付してもよい。これら処理膜によって、めっき部品の耐食性をさらに高めることも可能である。電解化成処理及び浸漬化成処理に特に制限はなく、慣用の処理方法を所望に応じて適用することができる。例としてクロメート処理、ワックス処理、ベンゾトリアゾールやトリアジンチオール等の溶液による処理、アミノ基やイミノ基を有する化合物の溶液による処理、陽極酸化処理さらには熱処理等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
≪5.めっき部品≫
上記のような本実施形態のめっき方法により、めっき部品を簡便かつ低コストに製造することができる。こうして製造されためっき部品は、ふくれ等の外観不良を伴い難く、めっき層と基材との密着性に優れ、ピール強度等も大である。そのため、種々の形状及び用途、例えば各種形状の産業用材料、自動車部品、船外機部品、水栓金具、建材部品、家電部品、及びプリント配線基板等の各種基板を始めとする電子部品、炭化ケイ素(SiC)パワーデバイスを始めとするパワーデバイス等に好適である。本発明はまた、上記めっき方法により製造されるめっき部品を包含する。本発明はさらにまた、例えばポリイミド基板等の各種基板に、上記めっき方法を施して得られる電子部品、例えば銅張積層板等の生基板、プリント基板、プリント配線基板、プリント回路基板;片面基板、両面基板、多層基板等を包含する。
【実施例0079】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0080】
≪実施例1≫
本発明に従い、以下のようにしてめっき部品を製造した。
(めっき対象のエッチング)
ABS樹脂成形品(90×50×0.3mmの平板形状)を、68℃に保持した過マンガン酸ナトリウム水溶液(pH=7)中に2分間浸漬した。この処理を2回行い、表面(被処理面)をエッチングした。エッチング後には、水洗処理を施した。
【0081】
(コンディショニング)
エッチング・水洗後の樹脂成形品を、コンディショナー中に室温で5分間浸漬してコンディショニング処理を行い、再度水洗して、無電解めっき用の基材を調製した。コンディショナーとしては、イオン交換水1L中にポリエチレンイミン(分岐状、質量平均分子量70000の30%溶液)を10g含有する水溶液を使用した。
【0082】
(触媒付与処理液の調製)
上記と並行して、触媒付与処理液を調製した。イオン交換水中に、導電性付与剤兼分散剤としてクエン酸3ナトリウムを300mg/Lの濃度で溶解させた液体に、
図1に示すようにパラジウム電極(純度99.5%、直径2mmの棒状)1対を配置し、両電極間に約1000Vの放電電圧を印加して、液中グロー放電を約13分間行った。得られた分散液(触媒付与処理液-0)中のパラジウム微粒子の平均粒径を、キュムラント法により測定したところ、248nmであった。また、触媒付与処理液-0中のパラジウム濃度を原子吸光法により分析したところ、11.2ppmであった。なお、ICP発光測定したところ、同等の結果であった。
【0083】
次に、触媒付与処理液-0をイオン交換水で希釈して、パラジウム濃度8ppm、クエン酸3ナトリウム濃度2.4mg/Lの分散液(触媒付与処理液-1)を調製した。触媒付与処理液-1中のパラジウム微粒子の平均粒径を、キュムラント法により測定したところ、294.9nmであった。また、触媒付与処理液-1のゼータ電位を測定したところ、-50.1mVであった。なお、触媒付与処理液-1は、浮遊物や沈殿等が観察されない、分散安定性に優れるものであった。
【0084】
(触媒の付与)
上記のようにして調製した基材を、35℃に保持した触媒付与処理液-1中に5分間浸漬後、さらに水洗して乾燥した。乾燥後の試料の一部を王水に浸漬し、浸漬液について5分間撹拌した後に原子吸光分析を行った結果、基材の単位表面積当たりのパラジウムの付着量(吸着量)は、4.4mg/m2であった。
【0085】
(無電解めっき)
触媒付与後の基材を、(株)JCU製のNI-100めっき液中に、温度35℃、pH8.6にて10分間浸漬し、無電解ニッケルめっきを行った。得られためっき部品においては、基材の全面に金属ニッケルが析出していた。
【0086】
≪実施例2≫
触媒付与処理液として、上記触媒付与処理液-1をイオン交換水で倍に希釈した触媒付与処理液-2(パラジウム濃度4ppm、クエン酸3ナトリウム濃度1.2mg/L、ゼータ電位-14.5mV)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られためっき部品においては、基材の全面に金属ニッケルが析出していた。
【0087】
≪比較例1≫
触媒付与処理液として、還元法により得られたパラジウムコロイド溶液を使用した。イオン交換水1L当たり、0.8mgのL-グルタチオン、3.76mlのPdCl2/5NaCl溶液(濃度20mM)、及び11.4mgのNaBH4を混合して、パラジウム濃度8ppmの触媒付与処理液-C1を調製した。この触媒付与処理液-C1を触媒付与処理液-1の代わりに用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られためっき部品においては、金属ニッケル未析出の部分が散見された。
【0088】
≪比較例2≫
触媒付与処理液-C1をイオン交換水で倍に希釈した触媒付与処理液-C2(パラジウム濃度4ppm)を使用して、実施例1及び比較例1と同様の操作を行った。得られためっき部品においては、金属ニッケルは試料の端部にしか析出していなかった。
【0089】
≪比較例3≫
イオン交換水1L当たり、1.6gのスクロース、3.76mlのPdCl2/5NaCl溶液(濃度20mM)、及び11.4mgのNaBH4を混合して、パラジウム濃度8ppmの触媒付与処理液-C3を調製した。この触媒付与処理液-C3を使用して、実施例1及び比較例1と同様の操作を行った。得られためっき部品においては、試料中央部に金属ニッケルが未析出の部分が観察された。
【0090】
≪比較例4≫
イオン交換水1L当たり、34.3mgのグリセリン、3.76mlのPdCl2/5NaCl溶液(濃度20mM)、及び113.6mgの次亜リン酸ナトリウムを混合して、パラジウム濃度8ppmの触媒付与処理液-C4を調製した。この触媒付与処理液-C4を使用して、実施例1及び比較例1と同様に無電解めっきを試みたが、金属ニッケルは基材試料表面に析出しなかった。
【0091】
実施例1~2及び比較例1~4の試験結果を、触媒付与処理液の種類と共に、下記の表1に纏めて示す。なお、表1中のめっき析出性の評価結果は、下記の基準に基づく。
◎:基材試料の全面に、金属ニッケルが析出
〇:基材試料表面の50%~ほぼ全面に、金属ニッケルが析出
△:金属ニッケルの析出は観察されるものの、未析出の部分が全体の50%以上
×:金属ニッケルが未析出
【0092】
【0093】
触媒付与処理液として、本発明に従い液中放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液を用いることにより、良好なめっき析出性が発現することが明らかとなった。なお、前述のように還元法による触媒付与処理液では、パラジウム濃度は通常数十ppm以上に設定される。実際にパラジウム濃度が4~8ppmの触媒付与処理液-C1~C3では、良好な試験結果が得られなかった。本発明により、高価なパラジウム触媒の使用量を低減させ、無電解めっきをより低コストで行い得ることが示された。
【0094】
≪実施例3≫
コンディショナーとして、イオン交換水1L中にポリエチレンイミン3mlのみを含有する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。基材の全面に金属ニッケルが析出した、光沢外観を有するめっき部品が得られた。
【0095】
≪実施例4~6≫
分散剤(導電性付与剤)をクエン酸3ナトリウム(クエン酸3Na)以外のものに変更した以外は、実施例3と同様の操作を行った。試験結果を、実施例3の結果及び分散剤の種類と共に、表2に示す。なお、めっき析出性の評価基準は、表1における基準と同一である。
【0096】
【0097】
本発明に従い液中放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液を触媒付与処理液として用いると、導電付与剤の種類によらず、めっき析出性は概ね良好となることが判明した。また、分散剤(導電性付与剤)として多価カルボン酸の塩を用いた場合に、特に優れためっき析出性が発現することが明らかとなった。
【0098】
≪実施例7~14≫
コンディショナー中のポリエチレンイミン(PEI)の種類及び含有量を変化させて、実施例3と同様の操作を行った。なお、ここで使用したポリエチレンイミンは、いずれも分岐状の高分子である。試験結果を、表3に示す。
【0099】
【0100】
本発明に従い液中放電によって形成されたパラジウム微粒子を含む液を触媒付与処理液として用いると、コンディショナー中のポリエチレンイミンがどのような分子量及び含有量であっても、優れためっき析出性が発現することが判明した。
【0101】
≪実施例15≫
めっき対象の基材の材質を、ABS樹脂からPC含有ABSに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られためっき部品においては、金属ニッケルが全面に析出していた。本発明のめっき方法によれば、基材の材質によらず良好なめっき部品が得られることが明らかとなった。このように、本発明のめっき方法によって、高濃度のパラジウム触媒付与液の使用や強酸等での後処理を必要とせずに、良好な無電解めっき部品を簡便に製造し得ることが示された。
【0102】
≪実施例16≫
触媒付与処理液-1を用いて、スルーホール基板のめっきを試みた。ガラスエポキシ銅張積層板(パナソニック(株)製のR-1705 FR-4、厚さ1.6mm)に、直径(φ)0.3mm及び1.0mmのスルーホールを形成し、スルーホール基板とした。このスルーホール基板に、DS-SW12Aプロセス((株)JCU製)を用いた70℃×7分間の膨潤処理、DS-250NAプロセス((株)JCU製)を用いた70℃×10分間のデスミア処理(穴開け加工時の樹脂残渣を除去する処理)、及びDS-RD31プロセス((株)JCU製)を用いた25℃×5分間の中和処理をこの順で施し、次いで水洗した。
【0103】
水洗後のスルーホール基板に、実施例3と同様のコンディショニング処理及び触媒付与処理を施した(但し、触媒の付与は室温で行った)。次に、PB-507Fプロセス((株)JCU製)を用いて32℃×15分間浸漬処理し、無電解銅めっきを行った。銅めっき後のスルーホール基板についてバックライト試験を行い、めっき状態を評価した。
【0104】
(バックライト試験)
スルーホールの中心が露出するまで研磨し、それに下方向からライトをあて、光の遮断具合を以下の評価基準で評価した。
・レイティングNo.0:スルーホールが銅めっきにより全く被覆されていない状態
・レイティングNo.10:スルーホールが完全に銅めっきで被覆され、遮光された状態
(レイティングNo.1~9は、上記の中間の状態である。)
【0105】
バックライト試験の結果を、
図4に示す。φ=0.3mm、φ=1.0mmいずれのスルーホールにおいても、光は完全に遮蔽されており、試験結果はレイティングNo.10となった。すなわち、スルーホール内を完全に被覆することができた。このように、本発明に従うめっき方法は、電子部品の製造においても有用であることが明らかとなった。