(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132469
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】描画装置および描画方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240920BHJP
H01J 37/30 20060101ALI20240920BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L21/30 541M
H01L21/30 541W
H01J37/30 A
H01J37/305 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043239
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】香川 譲徳
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101BB03
5C101EE03
5C101EE43
5C101EE48
5C101FF02
5C101FF52
5C101FF56
5C101HH05
5C101HH21
5C101JJ02
5F056AA07
5F056CA04
5F056CD13
5F056CD15
5F056EA03
5F056EA04
(57)【要約】
【課題】基板の描画時間を短縮することができる描画装置および描画方法を提供する。
【解決手段】本実施形態による描画装置は、基板の描画領域を描画する荷電粒子のビームを生成するビーム生成部を備える。描画部は、描画領域をパターンの密度に基づいて分割した複数の分割領域のそれぞれに、ビームを照射する。コントローラは、それぞれ複数の分割領域の少なくとも1つをビームで照射する第1~第n照射(nは2以上の整数)を実行し、第1~第n照射におけるビームのトータル照射量が描画領域におけるビームの必要照射量以上なるように描画部を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の描画領域を描画する荷電粒子のビームを生成するビーム生成部と、
前記描画領域をパターンの密度に基づいて分割した複数の分割領域のそれぞれに、前記ビームを照射する描画部と、
それぞれ前記複数の分割領域の少なくとも1つを前記ビームで照射する第1~第n照射(nは2以上の整数)を実行し、前記第1~第n照射における前記ビームのトータル照射量が前記描画領域における前記ビームの必要照射量以上なるように前記描画部を制御するコントローラとを備える、描画装置。
【請求項2】
前記第1~第n照射における前記ビームの照射量は等しく、
前記コントローラは、前記第1~第n照射において、前記ビームを照射する領域に依って、各分割領域における前記トータル照射量を決定する、請求項1に記載の描画装置。
【請求項3】
前記複数の分割領域のそれぞれにおける前記ビームのトータル照射量は、前記第1~第n照射による前記ビームの照射量の和である、請求項1に記載の描画装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記複数の分割領域における前記パターンの密度に応じて、前記複数の分割領域のそれぞれに対して前記第1~第n照射を行うか決定する、請求項1に記載の描画装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記描画領域の描画データに基づいて前記描画領域におけるパターンの密度を算出し、前記パターンの密度に基づいて前記描画領域を前記複数の分割領域に分割し、前記複数の分割領域のそれぞれに対して前記第1~第n照射を行うか決定する、請求項1に記載の描画装置。
【請求項6】
前記コントローラは、前記第1~第n照射における前記ビームの照射量を変更可能であり、
前記コントローラは、前記複数の分割領域における前記必要照射量と前記第1~第n照射における前記ビームの照射量とに基づいて前記複数の分割領域のそれぞれに対して前記第1~第n照射を行うか決定する、請求項1に記載の描画装置。
【請求項7】
前記コントローラは、前記描画領域において前記ビームを重複して照射する回数を示す多重度と前記複数の分割領域における前記必要照射量とに基づいて、前記第1~第n照射における前記ビームの照射量を決定する、請求項6に記載の描画装置。
【請求項8】
前記多重度の情報は、前記複数の分割領域に前記ビームを重複して照射する最低回数を示す最低多重度と、前記複数の分割領域に前記ビームを重複して照射する最大回数を示す最大多重度とを含み、
前記コントローラは、前記最低多重度に基づいて前記描画領域の全体を前記ビームで照射し、前記最大多重度に基づいて前記複数の分割領域の一部分を前記ビームで照射する、請求項7に記載の描画装置。
【請求項9】
前記第1~第n照射のnは偶数である、請求項1に記載の描画装置。
【請求項10】
前記描画部は、前記描画領域を前記ビームの幅に分割した複数のストライプ領域に前記ビームを往復動作させて照射し、
前記複数のストライプ領域のそれぞれにおいて前記ビームを照射するステージ移動方向は、前記第1~第n照射のうち半分の照射と他の半分の照射とで互いに逆方向である、請求項1に記載の描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、描画装置および描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程で用いられるリソグラフィ用のマスクやナノインプリントリソグラフィ用のテンプレートは、電子ビーム描画装置によって描画されたレジスト等をマスクとして用いて加工を行うことで形成される。描画装置は、描画パターンデータと描画条件とから各パターンにおける照射量を算出し、各パターンの照射量でパターンをマスクブランクスに描画する。その際に、ステージ速度は、照射量が大きなパターンに合わせた速度となる。そのため、照射量の小さなパターンであっても、ステージ速度が必要以上に遅くなる場合がある。この場合、照射量の小さいパターンでは、ステージは動作しているが、電子ビームを照射していないこともあり、無駄な動作が発生する。このような無駄な動作は、描画時間を長期化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5620725号明細書
【特許文献2】特許第5662756号明細書
【特許文献3】特許第4054445号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板の描画時間を短縮することができる描画装置および描画方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態による描画装置は、基板の描画領域を描画する荷電粒子のビームを生成するビーム生成部を備える。描画部は、描画領域をパターンの密度に基づいて分割した複数の分割領域のそれぞれに、ビームを照射する。コントローラは、それぞれ複数の分割領域の少なくとも1つをビーム照射する第1~第n照射(nは2以上の整数)を実行し、第1~第n照射におけるビームのトータル照射量が描画領域におけるビームの必要照射量以上となるように描画部を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図3】第1実施形態における描画動作を説明するための概念図。
【
図4】マルチビームの1ショットの照射領域と描画画素との一例を示す図。
【
図5】第1実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図。
【
図6】第1実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図。
【
図7】第1実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図。
【
図8】第1実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図。
【
図9】パターン密度と照射量との関係を示すグラフ。
【
図10】第2実施形態による第1~第4照射のそれぞれの最大照射量と照射対象の分割領域との関係を示す表。
【
図11】第2実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図。
【
図12】第2実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図。
【
図13】第2実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図。
【
図14】第2実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図。
【
図15】パターン密度と照射量との関係を示すグラフ。
【
図16】第3実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図。
【
図17】第3実施形態によるパターン密度と照射量との関係を示すグラフ。
【
図18】第4実施形態による照射位置の補正処理を示す基板の概念的平面図。
【
図19】第4実施形態による照射位置の補正処理を示す基板の概念的平面図。
【
図20】第4実施形態による照射位置の補正処理を示す基板の概念的平面図。
【
図21】第5実施形態による照射位置の補正処理を示す基板の概念的断面図。
【
図22】第5実施形態による照射位置の補正処理を示す基板の概念的断面図。
【
図23】ビームの照射位置の補正量と照射時間との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。図面は模式的または概念的なものである。明細書と図面において、同一の要素には同一の符号を付す。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る描画装置の概略構成図である。描画装置100は、描画部Wと制御部Cを備えている。描画装置100は、例えば、マルチ荷電粒子ビーム描画装置でよい。描画部Wは、電子鏡筒102と描画室103とを備えている。電子鏡筒102は、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャ部材203と、ブランキングプレート204、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、偏向器208、209、及び、検出器211を備えている。電子鏡筒102は、基板101の描画領域を描画する荷電粒子のマルチビームを生成する。
【0009】
描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画対象の基板101が配置される。基板101は、例えば、マスクブランクスやテンプレートブランクス、半導体基板(シリコンウェハ)である。
【0010】
XYステージ105には、マーク106、ファラデーカップ107、及び位置測定用のミラー210が配置される。ファラデーカップ107の出力は、アンプ134を介して制御計算機110へ出力される。
【0011】
制御部Cは、制御計算機110、偏向制御回路130、検出回路132、アンプ134、ステージ位置検出器139、及び記憶部140を有している。記憶部140には、描画データおよび描画条件が外部から入力され、格納されている。描画データには、通常、描画するための複数の図形パターンの情報が定義される。例えば、図形パターン毎に、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。また、描画データは、描画装置が描画動作を行う部分、つまり、ビーム照射を行う部分を示すデータである。描画条件には、最低多重度、最大多重度、レジスト材料に与える必要照射量等の情報を含む。多重度は、基板101の描画領域にビームを繰り返し重ねて照射する回数である。レジスト材料に与える必要照射量等の情報は、レジスト材料にパターン形成に必要な感度などの情報である。
【0012】
制御計算機110は、パターン密度算出部111、分割領域設定部112、必要照射量算出部113、スキャン設定部114、スキャン速度算出部115、ビーム照射量設定部116、および、描画制御部118を備えている。制御計算機110の各部は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。ハードウェアは、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)またはCPU(Central Processing Unit)等でよい。
【0013】
パターン密度算出部111は、記憶部140に格納された描画データに基づいて描画領域における描画するパターンの密度を算出する。描画データは、前述の通り基板101の表面の描画領域において、半導体ウェハに転写するためのパターンを半導体ウェハ上のレジストに形成するためにビーム照射が行われる領域を示している。従って、パターン密度算出部111は、描画データに基づいて各描画領域のパターンの密度を算出することができる。単位面積当たりの図形面積が小さい描画データはパターン密度が小さく、単位面積当たりの図形面積が大きい描画データはパターン密度が大きい。前述の通り、描画データはビーム照射が行われる領域であるため、レジスト材料がポジレジストであり、ビームを照射することによって除去されるとすると、描画データは半導体ウェハに転写するためのパターンと反転した形状となる。一方、レジスト材料がネガレジストであり、ビームを照射することによってパターン形成されるとすると、描画データは半導体ウェハに転写するためのパターンと一致した形状となる。以下、レジスト材料はポジレジストとして説明する。
【0014】
分割領域設定部112は、パターン密度算出部111で算出された描画領域におけるパターン密度に基づいて、
図5に示すように、描画領域を複数の分割領域DR1~DR3に仮想的に分割する。例えば、パターン密度について第1および第2閾値(第1閾値<第2閾値)を設定し、この第1および第2閾値を記憶部140に格納しておく。分割領域設定部112は、例えば、第1および第2閾値よりもパターン密度の低い領域DR1と、第1閾値よりも高く第2閾値よりも低いパターン密度の領域DR2と、第1および第2閾値よりも高いパターン密度の領域DR3とに描画領域を仮想的に分割する。尚、閾値の数や分割領域の数は、特に限定しない。
【0015】
必要照射量算出部113は、複数の分割領域DR1~DR3のそれぞれに対してビームの必要照射量を算出する。必要照射量は、レジスト材料を描画データに従った所定のパターンに露光するために必要な荷電粒子ビームの照射量(ドーズ量、露光量)であり、パターン密度に応じて変化する。例えば、分割領域DR1~DR3の中でパターン密度の低い分割領域DR1は、分割領域DR2、DR3よりもビームでレジスト材料の多くを感光させる必要がある。従って、必要照射量算出部113は、分割領域DR1の必要照射量を他の分割領域DR2、DR3のそれよりも大きく設定する。分割領域DR1~DR3の中でパターン密度の高い分割領域DR3は、分割領域DR1、DR2よりも必要照射量が少ない。従って、必要照射量算出部113は、分割領域DR3の必要照射量を他の分割領域DR1、DR2のそれよりも小さく設定する。
【0016】
スキャン設定部114は、分割領域DR1~DR3の必要照射量に基づいて、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対してビームの照射回数を決定する。例えば、ビームの第1~第n照射(nは2以上の整数)を行う場合、スキャン設定部114は、ビームの第1~第n照射による照射量が分割領域DR1~DR3の必要照射量以上になるように、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対して第1~第n照射を実行するか否かを決定する。
【0017】
スキャン速度算出部115は、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対してビームのスキャン速度、つまり、ステージ速度を決定する。ビームを照射する領域は固定であるため、ビームをスキャンすることは実際にはステージ速度を変えて露光領域内を通過するステージ速度によって決まる。例えば、ビームの照射を分割領域DR1~DR3に実行する場合に、スキャン速度算出部115は、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対してビームのスキャン速度(ステージ速度)を決定する。尚、第1実施形態では、スキャン速度は一定としている。
【0018】
ビーム照射量設定部116は、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対するビームの照射量を決定する。以下、ビームの照射量を、「ビーム照射量」と呼ぶ。尚、描画領域の単位面積当たりの照射量を、単に、「照射量」と呼ぶ。さらに、描画領域が複数回のビーム照射を受けた場合に、描画領域の単位面積当たりの合計照射量を、「トータル照射量」と呼ぶ。必要照射量は、レジスト材料を所定のパターンに露光するために必要な照射量である。
【0019】
描画制御部118は、スキャン速度算出部115で決定されたスキャン速度、つまり、ステージ速度に従って、XYステージ105を移動させる。
【0020】
ステージ位置検出器139は、レーザーを照射し、ミラー210からの反射光を受光し、レーザー干渉法によりXYステージ105の位置を検出する。
【0021】
図2は、成形アパーチャ部材203の構成を示す概念図である。成形アパーチャ部材203には、縦(y方向)m行×横(x方向)n列(m,n≧2)の開口22が所定の配列ピッチで形成されている。各開口22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。各開口22は、同じ外径の円形であっても構わない。これらの複数の開口22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20a~20eが形成される。
【0022】
図1のブランキングプレート204には、成形アパーチャ部材203の各開口22の配置位置に合わせて通過孔が形成されている。各通過孔には、対となる2つの電極の組(ブランカ)が、それぞれ配置される。各通過孔を通過する電子ビームは、ブランカに印加される電圧によってビームオンまたはビームオフの状態にビーム毎独立に制御される。ビームオンの場合、ブランカの対向する電極は同電位に制御され、ブランカはビームを偏向しない。ビームオフの場合、ブランカの対向する電極は互いに異なる電位に制御され、ブランカはビームを偏向する。このように、複数のブランカが、成形アパーチャ部材203の複数の開口22を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0023】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャ部材203全体を照明する。電子ビーム200は、すべての開口22が含まれる領域を照明する。電子ビーム200が、成形アパーチャ部材203の複数の開口22を通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a~20eが形成される。
【0024】
マルチビーム20a~20eは、ブランキングプレート204のそれぞれ対応するブランカ内を通過する。ブランカは、それぞれ、個別に通過する電子ビームを偏向する。ブランキングプレート204を通過したマルチビーム20a~20eは、縮小レンズ205によって縮小され、全ビームがオンの状態で、制限アパーチャ部材206上で理想的には同一の点を通過する。この点が制限アパーチャ部材206の中心の開口内に位置するように図示しないアライメントコイルでビームの軌道を調整しておく。
【0025】
ここで、ビームオフ状態に制御されるビームはブランキングプレート204のブランカによって偏向され、制限アパーチャ部材206の開口の外を通る軌道を通るため、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ビームオン状態に制御されるビームは、ブランカによって偏向されないので、制限アパーチャ部材206の開口を通過する。このようにブランキングプレート204のブランキング制御により、ビームのオン/オフが制御される。
【0026】
制限アパーチャ部材206は、複数のブランカによってビームオフの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームオンになってからビームオフになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより1回分のショットのマルチビームが形成される。
【0027】
制限アパーチャ部材206を通過したマルチビームは、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率で基板101に投影される。偏向器208,209はそれぞれマルチビーム全体を同じ方向と距離だけ偏向する。偏向器208,209の偏向量は独立に制御される。マルチビームの基板101上の照射位置は、偏向器208,209によって制御される。
【0028】
描画中、XYステージ105は連続移動するよう制御される。第1実施形態においてXYステージ105の移動速度は一定であるが、他の実施形態で説明するように、XYステージ105の移動速度は可変であってもよい。ビームの照射位置は、XYステージ105の移動に追従するように、偏向器208によって制御される。同時に照射されるマルチビームは、理想的には成形アパーチャ部材203の複数の開口の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画中、偏向による位置制御により、マルチビームは基板101上に定義された画素の全てを露光する、ラスタースキャン方式の描画動作を行う。ビームがパターンを含まない画素上にある場合、ビームはブランキング制御によりビームオフに制御される。
【0029】
図3は、本実施形態における描画動作を説明するための概念図である。
図3に示すように、基板101上の描画領域30は、例えば、y方向(第1方向)に所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。これらのストライプ領域32を描画する際、まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端に一回のマルチビームの照射で照射可能な照射領域(ビームアレイ)34が位置するように調整し、描画が開始される。
【0030】
第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を-x方向に連続的に移動させることにより、相対的に+x方向へと基板101の描画を行う。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、XYステージ105は停止する。次に、ステージ位置をストライプ幅もしくはストライプ幅より小さい距離だけ-y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端にビームアレイ34が位置するように調整する。続いて、XYステージ105を+x方向に連続的に移動させることにより、-x方向に向かって基板101の描画を行う。
【0031】
第3番目のストライプ領域32では、+x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、-x方向に向かって描画する。同じ方向に向かって各ストライプ領域32を描画してもよいが、この場合は描画した後、ステージ位置を戻す動作が追加されるため、描画時間は長くなる。
【0032】
図4は、マルチビームの1ショットの照射領域と描画画素との一例を示す図である。ストライプ領域32には、例えば、基板101面上におけるマルチビームのビームサイズのピッチで格子状に配列される複数の制御グリッド27が設定される。例えば、10nm程度の配列ピッチにすると好適である。
【0033】
複数の制御グリッド27が、マルチビームの位置ずれが無い理想的な照射位置(理想位置)となる。制御グリッド27の配列ピッチはビームサイズと同じ大きさに限定されるものではなく、偏向器209の偏向位置として制御可能な任意の大きさであっても構わない。そして、各制御グリッド27を中心とした、制御グリッド27の配列ピッチと同サイズでメッシュ状に仮想分割された複数の画素36が設定される。
【0034】
各画素36は、マルチビームの1つのビームあたりの照射単位領域となる。
図4の例では、基板101の描画領域が、y方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能なビームアレイ34(描画フィールド)のサイズと同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。ビームアレイ34のx方向のサイズは、マルチビームのx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じた値となる。ビームアレイ34のy方向サイズは、マルチビームのy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じた値となる。
【0035】
図4では、8×8列のマルチビームの例を示している。なお、マルチビームは、8×8列に限定されるものではなく、512×512列などを適宜用いることができる。そして、ビームアレイ34内に、1回のマルチビームのショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が黒塗りの画素として示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチが設計上のマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。ここで、ビームピッチの大きさの領域をサブ照射領域29とする。
図4の例では、各サブ照射領域29は4×4画素で構成されている。
【0036】
各ストライプ領域32を描画する際、x方向に向かってXYステージ105が移動する中、各ショットで露光される画素が、偏向器209によってy方向に移動するようにビームアレイを偏向し、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画する。
【0037】
各ストライプ領域32を描画する際、x方向に向かってXYステージ105が連続移動するのと並行して偏向器208でビーム位置を制御して基板101上の画素を露光する。このとき、偏向器208は、露光画素の切り替えの制御と、露光中のビームが基板101の連続移動に追従するようにビーム位置の偏向制御を行う(ステージトラッキング)。偏向器208は、露光画素の切り替えの際、サブ照射領域29の範囲でビームアレイを偏向する。
【0038】
図5~
図8は、第1実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図である。分割領域設定部112は、基板101の描画領域の全体を描画パターンの密度に基づいて複数の分割領域DR1~DR3に仮想的に分割する。例えば、第1閾値が30%とし、第2閾値が60%とする。また、
図5に示すように、分割領域DR1のパターン密度は、例えば、10%であり、分割領域DR2のパターン密度は、例えば、50%であり、分割領域DR3のパターン密度は、例えば、90%であるとする。この場合、描画領域は、30%よりもパターン密度の低い分割領域DR1と、30%よりも高く60%よりも低いパターン密度の分割領域DR2と、60%よりも高いパターン密度の分割領域DR3とに仮想的に分割される。このように、分割領域設定部112は、描画領域のパターン密度に基づいて、描画領域を複数の分割領域DR1~DR3に分割する。尚、
図5では、分割領域DR1~DR3は、便宜的に図の下から順番に等しい形状で並んでいる。しかし、実際には、分割領域は、描画領域において様々な領域に様々な形状で存在し得る。
【0039】
複数の分割領域DR1~DR3のそれぞれに対してビームの必要照射量を設定する。例えば、パターン密度に対する必要照射量の関係式が記憶部140に予め格納されている。必要照射量算出部113は、パターン密度に対する必要照射量の関係式を用いて、分割領域DR1~DR3のそれぞれの必要照射量を算出する。必要照射量算出部113は、分割領域DR1~DR3のパターン密度による寸法のばらつきを抑制するために、近接効果補正にて必要照射量を変更すればよい。例えば、必要照射量算出部113は、パターン密度が10%と低い分割領域DR1の必要照射量を93マイクロクーロン(μC)と設定し、パターン密度が50%と中程度の分割領域DR2の必要照射量を72μCと設定し、パターン密度が90%と高い分割領域DR3の必要照射量を58μCと設定する。尚、パターン密度に対する必要照射量の関係式は、レジスト材料の感度によって変わる。
【0040】
スキャン設定部114は、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対する必要照射量に基づいて、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対してビームの照射回数を決定する。第1実施形態において、ビームの照射量はほぼ一定であり、かつ、基板101に対するビームのスキャン速度、つまりステージ速度もほぼ一定であるとする。この場合、1回のビーム照射による照射量もほぼ一定となる。例えば、第1~第n照射(nは2以上の整数)を行う場合、スキャン設定部114は、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対する必要照射量に基づいて、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対して第1~第n照射を実行するか否かを決定する。即ち、スキャン設定部114は、分割領域DR1~DR3のそれぞれにおいてトータル照射量が必要照射量以上になるように、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対してビームの照射回数を決定する。このビームの照射回数によって、分割領域DR1~DR3のそれぞれに対するビームのトータル照射量が決定される。
【0041】
例えば、
図5~
図8に示すように、描画装置100は、第1~第4照射S1~S4を実行する。
図5~
図7に示すように、第1~第3照射S1~S3では、分割領域DR1~DR3の全て(描画領域の全体)をビームで照射する。第1~第3照射S1~S3のそれぞれにおいて、描画装置100は、描画領域をラスタースキャン方式で描画する。例えば、1回の照射による照射量が25μCである場合、第1~第3照射S1~S3によって、75μCのトータル照射量までのビームが照射可能になる。この場合、トータル照射量(75μC)は、分割領域DR2の必要照射量(72μC)および分割領域DR3の必要照射量(58μC)のそれぞれに達している。従って、分割領域DR2、DR3については、これ以上のビームの照射を必要としない。
【0042】
一方、トータル照射量(75μC)は、分割領域DR1の必要照射量(93μC)に達していない。従って、分割領域DR1については、さらに追加の照射が必要になる。ここで、
図8に示すように、第4照射S4では、分割領域DR1(描画領域の一部分)のみをビームで照射する。第4照射S4においても、描画装置100は、描画領域をラスタースキャン方式で描画する。第4照射S4は、分割領域DR2、DR3には実行されない。第4照射S4によって、分割領域DR1のみに25μCまでの照射量のビームが照射される。即ち、分割領域DR1における第1~第4照射S1~S4のトータル照射量は、100μCとなる。トータル照射量(100μC)は、分割領域DR1の必要照射量(93μC)に達している。従って、第1~第4照射S1~S4によって、トータル照射量は、描画領域の全体において必要照射量以上になる。
【0043】
図9は、パターン密度と照射量との関係を示すグラフである。縦軸はトータル照射量(ドーズ量)(μC)を示す。横軸は、パターン密度を示す。ラインL1は、パターン密度に対する必要照射量を示す。ラインL1の関係式は、記憶部140に予め格納されている。分割領域DR1のパターン密度は、0.1(10%)であり、それに対する必要照射量は93μCである。分割領域DR2のパターン密度は、0.5(50%)であり、それに対する必要照射量は72μCである。分割領域DR3のパターン密度は、0.9(90%)であり、それに対する必要照射量は58μCである。
【0044】
さらに、第1~第4照射S1~S4は、それぞれ25μCずつの照射量である。第1~第3照射S1~S3は、分割領域DR1~DR3(描画領域の全体)に照射される。これにより、分割領域DR2、DR3のトータル照射量が75μCとなり、それぞれの必要照射量(72μC、58μC)以上になる。第4照射S4は、分割領域DR1のみに照射される。これにより、分割領域DR1のトータル照射量が100μCとなり、分割領域DR1の必要照射量(93μC)以上になる。
【0045】
尚、第1~第4照射S1~S4の実行順は問わない。S4、S3、S2、S1の順番に実行してもよい。また、第1~第4照射S1~S4のいずれから開始し、いずれで終了してもよい。また、本実施形態では、第1~第4照射S1~S4について説明したが、照射回数は、4回に限定されず、n回照射してもよい。さらに、描画領域は、分割領域DR1~DR3の3つに仮想的に分割されている。しかし、描画領域の分割数は、特に限定しない。
【0046】
このように、本実施形態による描画装置100は、第1~第3照射において、分割領域DR1~DR3(描画領域の全体)をビームで照射している。第4照射においては、描画装置100は、トータル照射量が必要照射量に達していない分割領域DR1のみをビーム照射している。これにより、第4照射において分割領域DR2、DR3へのビーム照射を省略しつつ、分割領域DR1を部分的にビーム照射することできる。
【0047】
本実施形態によれば、第1~第4照射におけるビームの照射量は等しく、かつ、第1~第4照射におけるビームのスキャン速度、つまりステージ速度も等しい。よって、制御計算機110は、描画領域のパターン密度に応じて描画領域を分割領域DR1~DR3に仮想的に分割し、これらの分割領域DR1~DR3のそれぞれに対して、それらのパターン密度に基づいてビームの必要照射量を決定することができる。さらに、制御計算機110は、分割領域DR1~DR3のそれぞれの必要照射量に応じて、第1~第4照射を行うか決定する。これにより、ビーム照射を行わず、ステージ動作のみを行う無駄なスキャン動作およびXYステージ105の無駄な動作を省略することができ、基板101の描画時間を短縮することができる。
【0048】
第1~第4照射において、ビームを照射する領域に依存して、各分割領域DR1~DR3におけるトータル照射量が決定される。分割領域DR1~DR3のそれぞれにおけるビームのトータル照射量は、第1~第4照射によるビームの照射量の和まで可能となる。描画装置100は、制御計算機110の決定に基づいて、第1~第4照射を分割領域DR1~DR3に実行する。これにより、制御計算機110は、第1~第4照射におけるビームのトータル照射量が描画領域におけるビームの必要照射量以上になるように電子鏡筒102および描画室103を制御することができる。これにより、ビーム照射を行わない無駄な動作およびXYステージ105の無駄な動作を省略しつつ、分割領域DR1~DR3がそれぞれの必要照射量以上になるようにすることができる。
【0049】
(第2実施形態)
図10は、第2実施形態による第1~第4照射のそれぞれの最大照射量と照射対象の分割領域との関係を示す表である。第2実施形態では、制御計算機110は、描画領域のパターン密度および描画条件に基づいて、ビームの照射量を第1~第4照射において互いに異ならせることができる。ビーム照射量が異なると、ビームの1回の照射における照射量(即ち、第1~第4照射S1~S4の照射量)も異なる。ビーム照射量は、ビームの照射時間を一定として、電子銃201の出力を調整することによって変更してもよく、あるいは、電子銃201の出力を一定として、ビームの照射時間を調整することによって変更してもよい。さらに、ビーム照射量は、ビームの照射時間および電子銃201の出力の両方を調整することによって変更してもよい。
【0050】
制御計算機110が分割領域DR1~DR3のパターン密度に基づいて分割領域DR1~DR3におけるビームの必要照射量を決定する点については、第1実施形態と同じである。
【0051】
描画条件は、最低多重度、最大多重度、レジスト材料等の情報を含む。最低多重度は、同一描画領域においてビームを繰り返し重ねて照射する最低回数である。最低多重度は、同一の照射量で描画領域をビームで照射する回数と言ってもよい。描画装置100は、少なくとも最低多重度だけビームで描画領域を照射する。最大多重度は、同一描画領域においてビームを繰り返し重ねて照射する最大回数である。描画装置100は、最大多重度を超えてビームで描画領域を照射することはできない。レジスト材料の情報は、ビームに対するレジスト材料の感度などである。レジスト材料の情報は、分割領域DR1~DR3におけるビームの必要照射量を設定する要素の1つである。よって、制御計算機110は、基板101上に形成されているレジスト材料の感度に基づいて、分割領域DR1~DR3におけるビームの必要照射量を決定する。例えば、レジスト材料が高感度の場合には、制御計算機110は、ビームの必要照射量を低下させる。レジスト材料が低感度の場合には、制御計算機110は、ビームの必要照射量を増大させる。尚、描画条件は、オペレータが描画装置100に入力すればよい。
【0052】
ビーム照射量設定部116は、最低多重度、最大多重度、レジスト材料の情報等の描画条件、並びに、分割領域DR1~DR3の必要照射量に基づいて、第1~第4照射S1~S4におけるビーム照射量を決定する。
【0053】
スキャン設定部114は、分割領域DR1~DR3におけるビームの必要照射量と第1~第4照射S1~S4のビーム照射量とに基づいて、分割領域DR1~DR3のそれぞれに照射するか否かを決定する。
【0054】
例えば、最低多重度が2であり、最大多重度が4であるとする。この場合、制御計算機110は、最低多重度の2回だけ描画領域全体をビームで照射するように設定する。例えば、
図11に示すように、分割領域DR1~DR3のうち必要照射量が最低である分割領域DR3の必要照射量が58μCである。従って、ビーム照射量設定部116は、
図10に示すように、最低多重度の2回で照射量が58μCとなるように、第1および第2照射S1、S2のビーム照射量を設定する。また、スキャン設定部114は、第1および第2照射S1 S2の照射領域を、分割領域DR1~DR3(描画領域の全体)に設定する。これにより、分割領域DR1~DR3のトータル照射量が58μCになる。このとき、分割領域DR3のトータル照射量は必要照射量以上になる。従って、分割領域DR3へのビーム照射は、これ以上不要となる。
【0055】
次に、描画装置100は、最大多重度の3回目および4回目までの照射(第3および第4照射S3、S4)で描画領域全体の必要照射量を満たすように設定する。例えば、分割領域DR2の必要照射量が72μCであり、第1および第2照射S1、S2ですでに照射されているトータル照射量が58μCである。従って、ビーム照射量設定部116は、
図10に示すように、第3照射S3の照射量が14μCとなるように、第3照射S3のビーム照射量を設定する。また、スキャン設定部114は、第3照射S3の照射領域を、分割領域DR1、DR2に設定する。これにより、分割領域DR1、DR2のトータル照射量が72μCになる。このとき、分割領域DR2のトータル照射量は必要照射量以上になる。従って、分割領域DR2へのビーム照射は、これ以上不要となる。
【0056】
また、例えば、分割領域DR1の必要照射量が93μCであり、第1~第3照射S1~S3ですでに照射されているトータル照射量が72μCである。従って、ビーム照射量設定部116は、
図10に示すように、第4照射S4の照射量が21μCとなるように、第4照射S4のビーム照射量を設定する。また、スキャン設定部114は、第4照射S4の照射領域を、分割領域DR1に設定する。これにより、分割領域DR1のトータル照射量が93μCになる。このとき、分割領域DR1のトータル照射量は必要照射量以上になる。従って、最大多重度4回の第1~第4照射S1~S4によって、分割領域DR1~DR3(描画領域の全体)のトータル照射量がそれぞれの必要照射量以上になる。
【0057】
次に、描画装置100は、
図10に示す第1~第4照射S1~S4の設定に従って、基板101にビームを照射する。
【0058】
例えば、
図11~
図14は、第2実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図である。
図11および
図12に示すように、第1および第2照射S1、S2において、分割領域DR1~DR3の全て(描画領域の全体)をビームで照射する。このとき、分割領域DR1~DR3の照射量は、29μCである。従って、第1および第2照射S1、S2によって、58μCのトータル照射量までのビームが照射されたことになる。この場合、トータル照射量(58μC)は、分割領域DR3の必要照射量(58μC)に達している。従って、分割領域DR3については、これ以上のビームの照射を必要としない。
【0059】
次に、
図13に示すように、第3照射S3において、分割領域DR1、DR2をビームで照射する。このとき、分割領域DR1、DR2の照射量は、14μCである。従って、第3照射S3によって、72μCまでのトータル照射量のビームが照射されたことになる。この場合、トータル照射量(72μC)は、分割領域DR2の必要照射量(72μC)に達している。従って、分割領域DR2についても、これ以上のビームの照射を必要としない。
【0060】
次に、
図14に示すように、第4照射S4において、分割領域DR1をビームで照射する。このとき、分割領域DR1の照射量は、21μCである。従って、第4照射S4によって、93μCの照射量のビームが照射されたことになる。この場合、トータル照射量(93μC)は、分割領域DR1の必要照射量(93μC)に達している。これにより、分割領域DR1~DR3(描画領域の全体)のトータル照射量がそれぞれの必要照射量以上になる。
【0061】
図15は、パターン密度と照射量との関係を示すグラフである。縦軸、横軸、L1および、分割領域DR1~DR3の必要照射量は、
図9のそれらと同じである。一方、第2実施形態では、分割領域DR1~DR3のそれぞれのトータル照射量がそれらの必要照射量にほぼ等しくなっていることがわかる。
【0062】
このように、第2実施形態によれば、描画条件およびパターン密度に基づいて、第1~第4照射におけるビームの照射量を異ならせることができる。よって、制御計算機110は、第1~第4照射によって、分割領域DR1~DR3のそれぞれのトータル照射量を、それらの必要照射量により近づけ、あるいは、ほぼ等しくすることができる。それによりステージ移動の無駄を低減することができる。
【0063】
第2実施形態のその他の構成および動作は、第1実施形態の対応する構成および動作と同じでよい。よって、第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果も得ることができる。
【0064】
(変形例)
照射量は、ビームの照射時間を調整することによって変更してもよい。パターン密度が高く1に近い分割領域では、ビームの照射量は少なくて良い。この場合、描画制御部118は、XYステージ105の移動速度を速めてもよい。パターン密度が低く必要照射量が高い分割領域では描画制御部118はステージ速度を低速にし、パターン密度が高く必要照射量が低い分割領域では描画制御部118はXYステージ105の速度を高速にする。これにより、XYステージ105の速度を変更しながらビームを照射するので、描画時間を短縮することができる。
【0065】
同一分割領域内であっても、ビームの照射がパターン密度の高い領域から低い領域に移行したときに、描画制御部118はXYステージ105の速度を低下させてもよい。このようにXYステージ105の速度を制御することで、同一分割領域内に疎密なパターンが混在していても、描画時間を短縮することができる。
【0066】
(第3実施形態)
図16は、第3実施形態に係る描画装置による基板の描画動作を示す概念図である。
図17は、第3実施形態によるパターン密度と照射量との関係を示すグラフである。
図17の縦軸、横軸、L1および分割領域DR1~DR3の必要照射量は、
図9または
図15のそれらと同じである。
【0067】
第3実施形態では、分割領域DR1~DR3のそれぞれにおいてビームを重複して照射する回数(多重度)は偶数である。例えば、
図17に示すように、描画装置100は、分割領域DR1~DR3に、第1および第2照射S1、S2の2回、ビームを照射している。このとき、
図16に示すように、描画装置100は、第1照射S1を照射開始位置P1から開始し、最初のストライプ領域32を+x方向へビームを照射する。その時、描画装置100は、ラスタースキャン方式で描画領域にビームを照射する。即ち、描画装置100は、ストライプ領域32にビームを往復動作させて描画する。
【0068】
次に、描画装置100は、第2照射S2を照射開始位置P2から開始し、最初のストライプ領域32を-x方向へビームを照射する。その時、描画装置100は、ラスタースキャン方式で描画領域にビーム照射する。第1および第2照射S1、S2の照射量が29μCとすると、第1および第2照射S1、S2によって、分割領域DR1~DR3のトータル照射量は58μCとなる。これにより、分割領域DR3のトータル照射量はその必要照射量以上になる。
【0069】
照射開始位置P2は、照射開始位置P1に対して描画領域の対辺(ストライプ領域32のx方向の反対側)にある。また、ストライプ領域32のそれぞれにおいて、ステージの移動方向は、第1照射S1と第2照射S2とで互いに逆方向となる。よって、第1および第2照射S1、S2において、描画装置100は、互いに逆方向にステージを移動させてビームを照射する。
【0070】
次に、
図17に示すように、描画装置100は、分割領域DR1、DR2に、第3および第4照射S3、S4の2回、ビームを追加で照射している。即ち、分割領域DR1、DR2には、第1~第4照射S1~S4の4回、ビームを照射している。このとき、上記と同様に、描画装置100は、第3照射S3を照射開始位置P1から開始し、最初のストライプ領域32を+x方向へステージ移動させてビームを照射する。その時、描画装置100は、ラスタースキャン方式で分割領域DR1、DR2にビームを照射する。
【0071】
次に、描画装置100は、第4照射S4を照射開始位置P2から開始し、最初のストライプ領域32を-x方向へステージ移動させてビームを照射する。その時、描画装置100は、ラスタースキャン方式で分割領域DR1、DR2にビームを照射する。第3および第4照射S3、S4の照射量が7μCとすると、第3および第4照射S3、S4によって、分割領域DR1、DR2の照射量は14μC追加され、それらのトータル照射量は、72μCとなる。これにより、分割領域DR2のトータル照射量はその必要照射量以上になる。
【0072】
照射開始位置P2は、照射開始位置P1に対して描画領域の対辺(ストライプ領域32のx方向の反対側)にある。また、ストライプ領域32のそれぞれにおいて、ステージ移動方向は、第3照射S3と第4照射S4とで互いに逆方向となる。よって、第3および第4照射S3、S4において、描画装置100は、互いに逆方向にステージ移動してビームを照射する。
【0073】
次に、
図17に示すように、描画装置100は、分割領域DR1に、第5および第6照射S5、S6の2回、ビームを追加で照射している。即ち、分割領域DR1には、第1~第6照射S1~S6の6回、ビームを照射している。このとき、上記と同様に、描画装置100は、第5照射S5を照射開始位置P1から開始し、最初のストライプ領域32を+x方向へステージを移動させてビームを照射する。その時、描画装置100は、ラスタースキャン方式で分割領域DR1にビームを照射する。
【0074】
次に、描画装置100は、第6照射S6を照射開始位置P2から開始し、最初のストライプ領域32を-x方向へステージ移動させてビームを照射する。その時、描画装置100は、ラスタースキャン方式で分割領域DR1にビームを照射する。第5および第6照射S5、S6の照射量が11μCとすると、第5および第6照射S5、S6によって、分割領域DR1の照射量は22μC追加され、それらのトータル照射量は、94μCとなる。これにより、分割領域DR1のトータル照射量はその必要照射量以上になる。
【0075】
照射開始位置P2は、照射開始位置P1に対して描画領域の対辺(ストライプ領域32のx方向の反対側)にある。また、ストライプ領域32のそれぞれにおいて、ステージ移動してビームを照射する方向は、第5照射S5と第6照射S6とで互いに逆方向となる。よって、第5および第6照射S5、S6において、描画装置100は、互いに逆方向にステージ移動させてビームを照射する。
【0076】
このように、分割領域DR1~DR3のいずれにおいても、ビームの照射回数は、偶数である。さらに、ストライプ領域32のそれぞれにおいて、ビームのスキャン方向は、ビームの第1~第6照射S1~S6のうち半分の照射(例えば、S1、S3、S5)と他の半分の照射(S2、S4、S6)とで互いに逆方向となっている。
【0077】
もし、ビームの照射回数が奇数の場合、あるいは、ビームのスキャン方向が一方向に偏っている場合、レジストに形成されるパターンの位置ずれ量が大きくなることがある。
【0078】
これに対し、第3実施形態によれば、分割領域DR1~DR3のいずれにおいても、ビームの照射回数は偶数であり、かつ、ビームのスキャン方向はビームの第1~第6照射S1~S6のうち半分の照射(例えば、S1、S3、S5)と他の半分の照射(S2、S4、S6)とで互いに逆方向となっている。従って、レジストに形成されるパターンの位置ずれ量がキャンセルされ、抑制され得る。
【0079】
(第4実施形態)
図18~
図20は、第4実施形態による照射位置の補正処理を示す基板の概念的平面図である。第4実施形態では、制御計算機110は、ビームの照射による基板101の熱膨張を考慮して、ビームの照射位置を補正する。例えば、
図18の補助線LAで示すように、第1照射S1および第2照射S2において、ビームの照射が基板101の下部から上部へと進むと、基板101はビームで加熱されて熱膨張する。よって、制御計算機110は、ビームのトータル照射量に基づいて、基板101の熱膨張の分だけ、ビームの照射位置を補正する。ビーム照射による基板101の温度は、ビームのスキャン開始時よりも、ビームのスキャン終了時において高い。従って、ビームの補正量は、ビームのスキャン開始時よりも、ビームのスキャン終了時において大きくなる。
【0080】
例えば、記憶部140は、ビームの照射量に対する基板101の温度変化の情報(関係式)と、基板101の熱膨張係数とを予め格納する。制御計算機110は、ビームの照射量に対する温度変化の関係式に基づいて、ビームのトータル照射量から基板101の温度を算出し、基板101の温度と基板101の熱膨張係数とから基板101の熱膨張を算出する。そして、制御計算機110は、基板101の熱膨張に応じたビームの照射位置の補正量を算出する。制御計算機110は、ビームの照射位置の補正量を、第1~第4照射S1~S4のそれぞれについて算出する。描画装置100は、第1および第2照射S1、S2を実行する際に、この補正量を考慮してビームを描画領域に照射する。尚、基板101の温度は、時間とともに描画前の基板温度へ近づく。従って、ビームの照射量に対する基板101の温度変化の関係式は、時間の関数でもある。
【0081】
図19の補助線LAで示すように、第3照射S3においても同様に、ビームの照射が基板101の分割領域DR1、DR2の下部から上部へと進むと、基板101はビームで加熱されて熱膨張する。よって、制御計算機110は、ビームのトータル照射量に基づいて、基板101の熱膨張の分だけ、ビームの照射位置を補正する。第3照射S3でも、ビームの補正量は、ビームのスキャン開始時よりも、ビームのスキャン終了時において大きくなる。
【0082】
図20の補助線LAで示すように、第4照射S4においても同様に、ビームの照射が基板101の分割領域DR1の下部から上部へと進むと、基板101はビームで加熱されて熱膨張する。よって、制御計算機110は、ビームのトータル照射量に基づいて、基板101の熱膨張の分だけ、ビームの照射位置を補正する。第4照射S4でも、ビームの補正量は、ビームのスキャン開始時よりも、ビームのスキャン終了時において大きくなる。
【0083】
このように、第4実施形態によれば、ビームの照射による基板101の熱膨張を考慮して、ビームの照射位置を補正する。これにより、ビーム照射後に基板101の温度が描画前の基板温度に戻った時に、基板101の描画領域には、正確なパターンが描画されている。その結果、描画装置100は、基板101の描画領域に高精度なパターンを描画することができる。第4実施形態のその他の構成および動作は、第1~第3実施形態のいずれかと同じでよい。これにより、第4実施形態は、第1~第3実施形態のいずれかの効果も得ることができる。
【0084】
(第5実施形態)
図21および
図22は、第5実施形態による照射位置の補正処理を示す基板の概念的断面図である。第5実施形態では、制御計算機110は、ビームの照射による基板101の電荷のチャージアップを考慮して、ビームの照射位置を補正する。例えば、ビームが描画パターンに基づいてビーム照射され、ビームが負電荷を有する荷電粒子であるとすると、
図21に示すように、ビームが照射されたレジスト材料Rには電荷(電子)がチャージされる。従って、
図21に示すように、以前に描画されたパターン部近傍にビームB1を照射すると、ビーム照射位置は、本来照射すべきビームB0の照射位置からずれてしまう。
【0085】
これに対し、第5実施形態による制御計算機110は、
図22で示すように、ビームの照射位置に対して以前に描画したパターン部の電荷のチャージアップによるビーム位置ずれを補正するためにビームBcの照射位置を補正する。これにより、補正後のビームBcの照射位置を、本来照射すべきビームB0の照射位置に近づけることができる。
【0086】
例えば、記憶部140は、ビームの照射量とレジスト材料に滞留する電荷量との関係式、および、レジスト材料に滞留する電荷量によるビームのずれ量の関係式を予め格納する。制御計算機110は、ビームの照射量からレジスト材料に滞留する電荷量を算出し、レジスト材料に滞留する電荷量からビームの補正量を算出する。制御計算機110は、ビームの照射位置の補正量を、第1~第4照射S1~S4のそれぞれについて算出する。描画装置100は、ビーム照射を実行する際に、この補正量を考慮してビームを描画領域に照射する。これにより、基板101のレジスト材料にチャージアップした電荷の分だけ、ビームの照射位置を補正することができる。その結果、描画装置100は、基板101の描画領域に高精度なパターンを描画することができる。
【0087】
図23は、ビームの照射位置の補正量と照射時間との関係を示すグラフである。レジスト材料にチャージアップする電荷量は、照射回数(多重度)が多いほど増大するものの、時間の経過によって消滅していく。従って、ビームの照射位置の補正量は、照射回数(多重度)と時間との関係により、
図23のグラフのように表される。記憶部140は、このようなビームの照射位置の補正量、照射回数(多重度)および時間の関係式を予め格納しておいてもよい。これにより、制御計算機110は、時間の経過を考慮した補正量を算出することができる。
【0088】
このように、第5実施形態によれば、ビームの照射による基板101の電荷を考慮して、ビームの照射位置を補正する。これにより、基板101の描画領域には、正確なパターンが描画されている。第5実施形態のその他の構成および動作は、第1~第3実施形態のいずれかと同じでよい。これにより、第5実施形態は、第1~第3実施形態のいずれかの効果も得ることができる。また、第5実施形態は、第4実施形態と組み合わせてもよい。これにより、描画装置100は、基板101の熱膨張およびレジスト材料の電荷を考慮して、ビームの照射位置を補正することができる。
【0089】
以上のように、第1~第5実施形態の描画装置および補正処理を用いて基板(マスクブランクス、テンプレートブランクス、半導体基板)上に形成されたレジストを加工することによって、所望のフォトマスク、テンプレート等を製造することができる。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0091】
100 描画装置
W 描画部
C 制御部
101 基板
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
201 電子銃
202 照明レンズ
203 成形アパーチャ部材
204 ブランキングプレート
205 縮小レンズ
206 制限アパーチャ部材
207 対物レンズ
208,209 偏向器
211 検出器
110 制御計算機
111 パターン密度算出部
112 分割領域設定部
113 必要照射量算出部
114 スキャン設定部
115 スキャン速度算出部
116 ビーム照射量設定部
118 描画制御部
130 偏向制御回路
132 検出回路
139 ステージ位置検出器
140 記憶部
DR1~DR3 分割領域
32 ストライプ領域