IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シオノギヘルスケア株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-フコイダン含有経口組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132501
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】フコイダン含有経口組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20240920BHJP
   A61K 36/03 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240920BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240920BHJP
   C08B 37/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
A61K31/737
A61K36/03
A61P29/00
A61K9/48
A23L33/105
C08B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043288
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】316008352
【氏名又は名称】シオノギヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和泉 光人
(72)【発明者】
【氏名】梁 光耀
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C086
4C088
4C090
【Fターム(参考)】
4B018LE02
4B018MD67
4B018ME07
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF08
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC05
4C076CC40
4C076FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB11
4C088AA13
4C088BA12
4C088MA04
4C088MA37
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZB11
4C090AA08
4C090AA09
4C090BA66
4C090BB13
4C090BB54
4C090BB63
4C090BB95
4C090BC06
4C090DA23
4C090DA27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は特定のかぜ様症状の抑制及び緩和に対して選択的に効果を発揮する経口組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】フコイダンを有効成分として含有する、下記かぜ様症状の予防又は改善用経口組成物:
のどの痛み、並びに鼻づまりによる頭部及び顔面の圧迫感。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコイダンを有効成分として含有する、下記かぜ様症状の予防又は改善用経口組成物:
のどの痛み、並びに鼻づまりによる頭部及び顔面の圧迫感。
【請求項2】
1日の服用量がフコイダンの乾燥重量に換算して30~200mg/ヒトである、請求項1に記載する経口組成物。
【請求項3】
前記フコイダンがガゴメ昆布由来のフコイダンである、請求項1又は2に記載する経口組成物。
【請求項4】
製剤形態を有する食品組成物である、請求項1又は2に記載する経口組成物。
【請求項5】
対象者が体調を崩しやすい成人である、請求項1又は2に記載する経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフコイダンを含有する経口組成物に関する。より詳細には、特定の症状の抑制及び緩和に優位に効果を発揮する経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹状細胞(Dendric cell:DC)は、侵入してきた微生物などに反応して細胞表面にHLA-DR分子を発現し、T細胞を活性化してサイトカインの産生等の免疫反応を開始させると同時に、その働きを制御する(非特許文献1)。同時に、活性化したミエロイドDC(myeloid DC:mDC)はToll-like receptor(TLR)の刺激によりTNF-αを産生し、炎症に関連するIL-12の産生にも係わっている他、NK細胞活性を高めることも知られている(非特許文献2)。さらに、mDCはTh1/Th2バランスの維持に深く関わり、アトピー性疾患、花粉症等のアレルギー反応との関連も指摘されており(非特許文献3)、感染予防やアレルギー症状をはじめとする自己免疫疾患の緩和等について多くの報告がされている(非特許文献4-6)。
【0003】
日本では古くからモズク、ワカメ、及びコンブなどの海藻類(褐藻類)が食物として利用されている。近年、これら海藻類の「ぬめり」の構成成分である細胞間粘質多糖が注目されている。なかでも硫酸化L-フコースを主な構成とする粘性多糖類はフコイダンと呼ばれ、多彩な機能があることが知られている(非特許文献7)。ガゴメ昆布(Saccharina sculpera)は、特にフコイダンを豊富に含み、なかでも硫酸化の高いフコイダンを含むことが報告されている(非特許文献8)。ガゴメ昆布由来フコイダンには多くの機能があり(非特許文献9)、マウスへの経口投与によりNK活性の増強が認められたという報告がある(非特許文献10)。ヒト試験でも小規模ながら、高齢者の8週間連続摂取でTh2細胞の増加およびIgEの低下が認められており、健常人の4週間連続摂取でTh1/Th2比およびIFN-γの増加とIL-2やIL-4等のサイトカイン産生能の低下抑制が確認されており、フコイダンが免疫系に影響を及ぼす報告がなされている(非特許文献11)。フコイダンのmDCに対する詳細な作用機序は不明であるが、経口摂取されたフコイダンは腸管においてパイエル板を介してDCを活性化すると考えられている(非特許文献12)。また、フコイダンがTLR4を刺激してmDCの成熟化と活性化に関与することが動物での試験で確認されており、フコイダンにより活性化されたmDCがIL-6、IL-12およびTNF-αの産生を誘導し、それによってT細胞の増殖が亢進していることが報告されている(非特許文献13)。また、経口投与によりNK細胞活性が亢進したという報告もある(非特許文献10及び14)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】松下祥、MHC クラス II 分子を介したシグナル伝達と免疫制御-免疫応答遺伝子再訪-、炎症・再生、2001; 21:541-55.
【非特許文献2】Munz C, Dao T, Ferlazzo G, de Cos MA, Goodman K, Young JW. Mature myeloid dendritic cell subsets have distinct roles for activation and viability of circulating human natural killer cells. Blood. 2005; 105: 266-73.
【非特許文献3】Inagaki‐Katashiba N, Ito T, Inaba M, Azuma Y, Tanaka A, et. al. Statins can suppress DC‐mediatedTh2responsesthroughtherepression ofOX40‐ligandandCCL17 expression.Europeanjournalofimmunology.2019;49:2051-62.
【非特許文献4】Panda A, Qian F, Mohanty S, Van Duin D, Newman FK, Zhang L, et. al. Age-associated decrease in TLR function in primary human dendritic cells predicts influenza vaccine response. The Journal of Immunology. 2010; 184: 2518-27.
【非特許文献5】Loughland JR, Minigo G, Burel J, Tipping PE, Piera KA, Amante FH, et.al., Profoundly reduced CD1c+ myeloid dendritic cell HLA-DR and CD86 expression and increased tumor necrosis factor production in experimental human blood-stage malaria infection. Infection and immunity. 2016; 84: 1403-12.
【非特許文献6】Yonkers NL, Rodriguez B, Asaad R, Lederman MM, Anthony DD. Systemic immune activation in HIV infection is associated with decreased MDC responsiveness to TLR ligand and inability to activate naive CD4 T-cells. PLoS One. 2011; 6: e23884.
【非特許文献7】国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性情報https://hfnet.nibiohn.go.jp/ ,
【非特許文献8】酒井武, 加藤郁之進. 昆布由来多糖-フコイダン. 高分子. 2006; 55: 488-9.
【非特許文献9】酒井武, 加藤郁之進. 海藻由来フコイダンとそのオリゴ糖の構造と生物活性. The Japanese Journal of Phycology (Sorui) 2003; 51; 23-6.
【非特許文献10】鈴木信孝, 上馬塲和夫, 宋函, 滝本裕子, 鈴木里芳, 川端豊慈樹ほか. 高年齢者におけるガゴメ昆布フコイダンの安全性ならびに免疫機能への効果. 日本補完代替医療学会誌. 2012; 9: 149-55.
【非特許文献11】Ohnogi H, Naito Y, Higashimura Y, Uno K, Yoshikawa T. Immune efficacy and safety of fucoidan extracted from Gagome kombu (Kjellmaniella crassifolia) in healthy Japanese subjects. Japanese Journal of Complementary and Alternative Medicine. 2015; 12: 87-93.
【非特許文献12】Kawashima T, MurakamiK, NishimuraI, Nakano T, ObataA. A sulfated polysaccharide, fucoidan, enhances the immune modulatory effects of lactic acid bacteria. International journal of molecular medicine. 2012; 29: 447-53.
【非特許文献13】Jin JO, Zhang W, Du JY, Wong KW, Oda T, Yu Q. Fucoidan can function as an adjuvant in vivo to enhanced dendritic cell maturation and function and promote antigen-specific T cell immune responses. PloS one. 2014; 9: e99396.
【非特許文献14】Negishi H, Mori M, Mori H, Yamori Y. Supplementation of elderly Japanese men and women with fucoidan from seaweed increases immune responses to seasonal influenza vaccination. The Journalofnutrition.2013;143:1794-8.
【非特許文献15】Sugimura T, Jounai K, Ohshio K, Tanaka T, Suwa M, Fujiwara D. Immunomodulatory effect of Lactococcus lactis JCM5805 on human plasmacytoid dendritic cells. Clinical immunology. 2013; 149: 509-18.
【非特許文献16】「抗微生物薬安全性評価基準」日化療会誌 2010. 58.: 484-93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、本発明は特定のかぜ様症状の抑制及び緩和に対して選択的に効果を発揮する経口組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために、体調を崩しやすい成人男女に、ガゴメ昆布由来フコイダン含有食品(被験食品)を12週間連続摂取させ、無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を行ったところ、被験食品群はプラセボ群と比較して免疫機能を示すmDCの活性化が認められたものの、かぜ様症状については、複数ある症状のうち有意に改善が認められたのは、鼻づまりによる頭部及び顔面の不快感と、のどの痛みであった。
【0007】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである:
項1.フコイダンを有効成分として含有する、下記かぜ様症状の予防又は改善用経口組成物:
のどの痛み、並びに鼻づまりによる頭部及び顔面の圧迫感。
項2.1日の服用量がフコイダンの乾燥重量に換算して30mg/ヒト以上である、項1に記載する経口組成物。
項3.前記フコイダンが、ガゴメ昆布由来フコイダンである、項1又は2に記載する経口組成物。
項4.製剤形態を有する食品組成物である、項1~3のいずれかに記載する経口組成物。
項5.対象者が体調を崩しやすい成人である、項1~4のいずかに記載する経口組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフコイダン、好ましくはガゴメ昆布由来フコイダンを有効成分とする経口組成物によれば、特にかぜをひきやすいなど、体調を崩しやすい人について、かぜ様症状のうち、特にのどの痛み、又は/並びに鼻づまりによる頭部及び顔面の圧迫感といった症状の発生を有効に抑制し、また緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で行った試験のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物は、フコイダンを有効成分とする。
フコイダンは、主としてフコースからなる分子量数十万前後の硫酸化多糖類であり、海藻、特に褐藻類(昆布、モズク、ウミウチワ、マコンブ、ワカメ、アミジクサ、メカブ、アラメ、クロメ、ヒジキ、アカモク)に豊富に含まれている成分である。本発明で用いるフコイダンの由来は褐藻類のなかでも好ましくは昆布であり、より好ましくはガゴメ昆布である。
【0011】
フコイダンは、精製品であってもよいが、粗精製品であってもよい。粗精製品としては、例えば前述する褐藻の抽出物を挙げることができるが、アルギン酸が除去又は低減されている程度に精製されたものであることが好ましい。褐藻から抽出されるフコイダンは、通常10万前後の分子量を有し、約50~60%又はそれ以上がフコースからなり、若干のウロン酸を含む。また構成糖の一部は硫酸エステル化されている。
【0012】
褐藻類等からフコイダンを抽出する方法は、特に限定されるものではなく、酸抽出法、及び熱水抽出法等、公知のいずれの方法を用いることができる。
酸抽出法で使用される抽出溶媒としては、制限されないものの、例えばpH2程度の酢酸水溶液又は希塩酸等の酸性水溶液を用いることができる。藻体を酸性水溶液に懸濁させて室温~100℃で抽出する。抽出後、遠心分離等の固液分離処理することで回収される上清にフコイダンが含まれている。かかる上清を水酸化ナトリウム水溶液等で中和した後、精製処理することで、フコイダンを得ることができる。熱水抽出法は藻体を100℃の熱水に懸濁させて抽出する方法であり、抽出後は、中和処理をしない以外は、酸抽出法と同様の方法でフコイダンを得ることができる。精製処理としては、塩化カルシウム水溶液を加えてアルギン酸を沈殿除去する方法のほか、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、透析等の方法を挙げることができ、これらは任意に組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明の経口組成物は、フコイダンを本発明の効果を奏する程度の有効量含むものであればよく、その限りにおいてフコイダンの含有量は制限されず、10~100質量%の範囲から適宜選択することができる。
【0014】
本発明の経口組成物は、例えば薬学的に許容される医薬品担体等を加えて製剤化し、医薬品又は医薬部外品として調製することができる。また飲食品用素材又は食品添加物等を加えて、飲食品(特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品等の保健機能食品、栄養補助食品、その他の健康食品、サプリメントを含む)として調製することもできる。好ましくは飲食物であり、より好ましくは製剤形態を有する飲食物(サプリメント)である。
【0015】
製剤形態には、シロップ剤、乳剤、及び懸濁剤等の液剤形態;錠剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤(硬質、軟質)、及びトローチ剤等の固形製剤形態等が含まれる。これらの製剤の調製には、製剤の形態に応じて、慣用の担体成分を配合することができる。
液剤の調製には、例えば、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、界面活性剤、ブドウ糖、アミノ酸等を用いることができる。また固形製剤の調製には、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、崩壊助剤、糖類、保湿剤、界面活性剤等を用いることができる。その他、必要に応じて、保存剤、抗酸化剤、可溶化剤、乳化剤、増粘剤、可塑剤、吸着剤、香料、着色剤、分散剤、矯味矯臭剤、甘味剤等を使用することもできる。
制限されないものの、本発明の経口組成物は、好ましくは固形製剤であり、より好ましくは、錠剤、カプセル剤、細粒剤、及び顆粒剤であり、特に好ましくは錠剤、及びカプセル剤である。
【0016】
本発明の経口組成物は、後述する実施例に記載するように、それを服用した者の免疫力を高める効果を有するものの、かぜ様症状に対しては、種々あるかぜ様症状(鼻水、のどの痛み、鼻づまり、全身倦怠感、関節痛、発熱、及び頭痛等)の中でも「鼻づまりによる頭部および顔面の圧迫感」及び「のどの痛み」に対して選択的に有意な抑制又は改善効果を発揮することを特徴とする。このため、本発明の経口組成物は、こうした効果を効能とする医薬品又は医薬部外品として調製することができる。また、本発明の経口組成物を飲食物として提供する場合は、こうした効果が表示可能な特定保健用食品又は機能性表示食品として調製することが好ましい。
【0017】
なお、本発明の経口組成物は有効成分としてフコイダンのみを配合することができるが、前述する本発明の効果を損なわないことを限度として、フコイダン以外の生理活性成分を配合することも可能である。こうした成分として、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、脂肪酸、核酸、糖類、オリゴ糖、食物繊維、乳酸菌、枯草菌、生薬、DHA、EPA、プロポリス、及びローヤルゼリー等を例示することができる。
【0018】
本発明の経口組成物の1日あたりの摂取量は、かぜ様症状の種類やその程度、年齢、体重等に応じて、設定することができる。通常、成人1人あたり、フコイダンの乾燥重量に換算して1日30mg以上、好ましくは30~200mg、より好ましくは30~100mg、特に好ましくは30~50mgの範囲を挙げることができる。この量を1日1回、または2~3回にわけて摂取することもできる。摂取期間もかぜ様症状の種類やその程度、年齢、体重等に応じて、設定することができるが、通常1日~12週間、好ましくは5日~8週間程度である。
【0019】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0020】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0021】
(1)倫理
本試験は、メディカルステーションクリニック倫理委員会(IRB番号:20000022)において審査され、試験実施の科学的・倫理的妥当性が承認された後に実施した。試験実施にあたっては、ヘルシンキ宣言(2013年10月改訂)の精神に則り、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第一号、令和3年3月23日)、及び人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針ガイダンス(文部科学省・厚生労働省・経済産業省、令和3年4月16日)を遵守するとともに、承認された試験計画書を厳守した。また、試験対象の候補者には、事前に倫理審査委員会により承認された説明文書を用いて、本試験の趣旨および内容を十分に説明した。本試験の内容を理解し、その趣旨に賛同できる方について、本人の自由意思に基づいて文書による同意を取得した。
【0022】
(2)試験食品の調製
試験食品として、被験食品と対照食品(プラセボ)の2種類を用意した。
被験食品は、1製剤(276mg)中に、有効成分としてフコイダン35mgを含むガゴメ昆布抽出物、その他の成分としてデンプン及びステアリン酸カルシウムを、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びカラメル色素(着色料)からなるカプセル基材に充填して、カプセル剤の形態に調製した。
対照食品(プラセボ)は、ガゴメ昆布抽出物を含まないこと以外は、被験食品と同様に、デンプン、及びステアリン酸カルシウムを、HPMC及びカラメル色素からなるカプセル基材に充填してカプセル剤の形態に調製し、被験食品とプラセボの区別がつかないようにした。
試験食品は、1日1回、1粒をコップ1杯の水またはぬるま湯で摂取させた。
【0023】
(3)試験方法:試験候補者、並びに試験対象者及び有効性解析対象者の絞りこみ(図1参照)
被験者の選択、試験食品の割付から解析までの経過(有効性解析対象者の絞りこみ)を図1に試験フローチャートとして示す。
文書にて試験参加に同意を得られた被験候補者132名に対して、後述する事前検査を行った。事前検査の結果に基づき、選択基準に該当し、且つ除外基準に該当しない68名(辞退者3名を除く)を本試験に適格な試験対象者(被験者)として選択し、ランダムに2群(被験食品群:n=34、プラセボ群:n=34)に割り付けた。
【0024】
[事前検査及びその検査項目]
・生活習慣アンケート:
・身体測定:
・一般臨床検査:血液学的検査(白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数)、血液生化学検査(総蛋白、アルブミン、総ビリルビン、直接ビリルビン、間接ビリルビン、ALP、AST(GOT)、ALT(GPT)、LD、γ-GT(γ-GTP)、総コレステロール、中性脂肪、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、Na、K、CL、血糖、HbA1c)、尿検査(蛋白(定性)、糖(定性)、潜血反応(定性))。
・mDC評価:HLA-DRの発現強度
【0025】
なお、本試験において、mDC活性は、mDCの活性化に伴い発現量が増加するHLA-DRの発現量により評価した。
[mDC活性の測定方法]
mDC活性は、被験者の末梢血をFITCanti-CD11c(BD)、PEanti-CD1c(Biolegend)、PE anti-CD141(Biolegend)、PE/Cy5(登録商標)anti-CD86 (abcam)、及びPerCP-CyTM 5.5anti-HLA-DR(BD)で染色し、RBC Lysis Buffer(Biolegend)を加えて末梢血単核球(PBMC)を分離し、1%パラホルムアルデヒド緩衝液で染色細胞を固定した後、Guava(登録商標)easy CyteTM HT(Merck Millipore)フローサイトメーターを用いて測定した(非特許文献15参照)。CD11c陽性細胞中でCD1cまたはCD141陽性細胞をmDCと定義し、HLA-DRの発現強度(Mean Fluorescence Intensity;MFI)を解析した。
【0026】
[選択基準]
下記の2点を選択基準とした。
(1)年齢20歳以上65歳未満の健常な男女
(2)事前検査時にmDC活性マーカーが発現している者。
具体的には、前記事前検査の各検査項目がいずれも基準範囲内(正常範囲内)であるか、または、身体測定値、及び臨床検査値のいずれかに基準範囲外の項目がある場合は実施医師責任者が対象者毎に確認して問題ないと判断した者を「選択基準に該当する」と判定した。
なお、基準範囲内であるか否かの判断は、実施医療機関で定める基準値を基にして、日本化学療法学会が定める異常変動の判定基準(非特許文献16参照)、CTCAE v5.0-JCOGおよび日本人間ドック学会判定区分(2020年4月1日改定)を参考として、実施医師責任者が行った。
【0027】
[除外基準]
除外基準は以下の18項目とした。
(1)2019年8月から2021年9月までに、かぜまたはかぜ様症状の自覚がなかった者、
(2)免疫に影響を及ぼす医薬品や医薬部外品を服用している者(抗アレルギー薬、免疫抑制剤、ステロイド剤等)、
(3)アレルギー性疾患(季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)、通年性アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、食物や金属等のアレルギー)を有し、風邪治療薬を常時服用あるいは外用している者(ステロイド含有の目薬を含む)、
(4)免疫強化に関する健康食品や健康補助食品、サプリメント等を週1日以上摂取する習慣のある者(フコイダン、亜鉛、乳酸菌含有食品として乳酸菌飲料やヨーグルト等、アガリクス、高麗人参、スピルリナ等を強化した食品を含む)、
(5)事前検査の1週間前までに予防接種を受けた者、あるいは摂取12週目検査の1週間前までに予防接種を受ける予定のある者、
(6)試験結果に影響を及ぼすような治療を実施している者(減感作療法等)、
(7)事前検査の1ヵ月前から現在、あるいは試験期間中に、歯や口腔内の治療(定期的なスケーリング(歯の掃除)も含む、虫歯、歯周病等の治療)を行っている者、あるいは行う予定がある者、
(8)出血を伴う歯や口腔内のトラブル(口内炎など)がある者、
(9)医師より重篤な疾病を持つと判断された者、
(10)糖尿病、肝疾患、腎疾患、心疾患などの疾患や、副腎皮質ホルモンの分泌に影響を及ぼす疾患を有している者、あるいは既往症がある者、
(11)試験あるいは試験食品によりアレルギーを引き起こす恐れのある者、
(12)その他、治療中の疾患のある者、
(13)事前検査時の臨床検査値や理学検査値から、被験者として不適当と判断される者、
(14)昼夜交代勤務や深夜勤務等に従事している者、
(15)本試験への参加同意取得前1ヵ月以内に他の臨床試験に参加していた者および参加同意取得後に他の臨床試験に参加予定の者、
(16)試験期間中に妊娠、授乳の予定がある者、
(17)生活習慣アンケートの回答から、被験者として不適当と判断された者、
(18)その他、実施医師責任者が被験者として不適当と判断した者。
【0028】
辞退者1名を除く67名(被験食品群34名、プラセボ群33名)(被験者)で摂取試験を開始した。なお、摂取試験に先立って、全被験者に対して、摂取試験期間中は、試験参加前の食事、飲酒、運動、睡眠等の生活習慣を極力変更しないことを遵守事項とした。
本試験は、無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験で、摂取期間は12週間とした。試験に直接関係のない割付責任者が乱数表を用いて割付表を作成し、それに基づいて試験食品を被験者に割り付けた。割付表は、割付責任者によって封緘され、割付表開封時まで密封保管された。なお、実施医師責任者、被験者、医療施設のスタッフ、その他本試験に関わる全スタッフに対して盲検性を維持した。
【0029】
被験者に試験食品の摂取期間中、体調アンケート用紙を配布し、試験食品の摂取期間中の体調(かぜ様症状の自覚症状)を記録してもらった。摂取から12週目に来院させ、問診・体調確認、身体測定、一般臨床検査、唾液中s-IgA評価、mDC評価、NK細胞活性評価、及び血中免疫マーカー測定を行った。
【0030】
また、体調(かぜ様症状)の自覚症状の記録は、体調アンケート用紙に記載されたかぜ様症状の項目(鼻水、鼻づまりによる頭部及び顔面の圧迫感、のどの痛み、全身倦怠感、関節痛、発熱、及び頭痛等)と、その程度に応じた8段階のスコア「0点(症状なし)、1点(とても軽い)、2点、3点(軽い)、4点、5点(重い)、6点、7点(ひどく重い)」を基準として、被験者本人が、自覚症状に基づいて、摂取期間中、毎日1日の平均した症状の程度に当てはまるものを選択(スコアリング)することで実施した。
【0031】
途中離脱者2名を除く65名が所定の試験内容を終了した。
これらの被験者から解析対象者を選定するにあたり検討した結果、3名(被験食品群1名、プラセボ群2名)が長期の服薬や検査当日の服薬を理由に解析対象者から除外された。また、摂取期間中の日誌の記載内容又は免疫応答の発生から、体調を崩しやすいと判断された27名(被験食摂取品群16名、プラセボ群11名)を本試験の有効性解析対象者PPSとした。
【0032】
(4)有効性の評価
前記の試験工程で選抜された有効性解析対象者27名(被験食品群16名、プラセボ群11名)を対象として、試験食品の摂取前後のPBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cells)中のmDC活性、NK細胞活性、及び体調アンケートによる自覚症状(かぜ様症状)を比較して、被験食品摂取による影響を評価した。
【0033】
(5)統計解析
検査値および測定値において、外れ値と思われる値であっても評価に用いることとしたが、有効性および安全性評価において外れ値はなかった。原因が明らかに測定ミスと判明した場合には、その時点を解析から除外した。欠損値がある場合には、補填を行わず、欠測として解析に含めなかった。各被験者群の特徴を比較するための摂取前および、摂取後各時点における測定値ならびに摂取前からの変化量は、おのおの平均値± 標準偏差で示した(性別は被験者数)。性別の群間比較にはχ2検定を用いた。それ以外の項目について群間比較は2標本t検定を用いた。自覚症状の記録に関しては、各被験者の摂取期間日数を規定摂取期間日数(84、4週毎の集計の際には28)で除した数値を相対摂取期間比率とし、各症状について摂取期間のかぜ様症状のスコアを4週毎に合計し、その合計値と相対摂取期間比率の商を算出し、累積スコアとした。また、各被験者の摂取期間中のかぜ様症状の有症日の日数を4週毎に合計し、その合計値と相対摂取期間比率の商を算出し、発症日数とした。各項目について、摂取前および摂取後各時点の摂取前からの変化量の群間比較は2標本t検定を用いた。摂取後各時点における測定値の摂取前からの変化量の群内比較には、1標本t検定を用いた。統計解析ソフトウェアとして、Excelfor Microsoft 365(Microsoft社)、IBM SPSS statisticsversion 26(IBM社)を用いた。検定の有意水準は両側5%とした。
【0034】
(6)試験結果
有効性解析対象者27名の背景因子を表1に示す。
【表1】
【0035】
有効性解析対象者27名のmDC活性の変化を表2に示す。
【表2】
【0036】
有効性解析対象者27名のNK細胞活性の変化を表3に示す。
【表3】
【0037】
有効性解析対象者27名(プラセボ群:n=11、被験食品群:n=16)の体調アンケートによる自覚症状の累積スコア(平均値±標準偏差)を表4に示す。
【表4】
【0038】
表2に示すように、試験食品の摂取12週後において、被験食品群のHLA-DR発現量(mDC活性)はプラセボ群と比較して有意に増加していた。また、表3に示すように、NK細胞活性に関して、プラセボ群は群内評価で有意に悪化したのに対して、被験食品群では活性が維持され、群間でも有意傾向が認められた。一方、表4に示すように、自覚症状の評価では、かぜ様症状のうち、「鼻づまりによる頭部および顔面の圧迫感」及び「のどの痛み」が、被験食品群のほうがプラセボ群と比較して有意に低くなる結果が得られ、かぜ様症状のうち、鼻水、並びに全身症状に該当する全身倦怠感、関節痛、発熱、及び頭痛については、両群間で有意差は認められなかった。
このことから、フコイダン、特にガゴメ昆布由来のフコイダンは、経口的に摂取することで、mDCや他の免疫に関連する細胞や組織を活性化するものの、かぜ様症状に対しては、「鼻づまりによる頭部および顔面の圧迫感」及び「のどの痛み」に対して選択的に効果が認められることが確認された。
【0039】
なお、摂取試験期間中、被験食品を12週間連続摂取させても、安全性に問題がないことが確認された。
図1