(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132505
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】酵素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/20 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C12N9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043296
(22)【出願日】2023-03-17
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 将大
(57)【要約】
【課題】簡易で収量が良く酵素を回収することを実現し、トータルの製造コストを下げることができる、酵素を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】酵素生産菌の培養液から酵素を精製する過程において、ポリオキシエチレン型界面活性剤を添加することにより酵素を製造する方法を提供。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)から(d)を含む精製工程を含む、酵素の製造方法。
(a)酵素生産菌を培養する
(b)(a)で得られた培養液から菌体を除き、塩析を行う
(c)(b)で得られた沈殿物を緩衝液により懸濁する
(d)(c)で得られた懸濁液中に、ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤を添加する
【請求項2】
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテルである、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【請求項3】
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤のHLB値が13以上17以下である、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【請求項4】
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤のHLB値が14以上15以下である、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【請求項5】
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤がポリオキシエチレンラウリルエーテルである、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【請求項6】
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤の平均酸化エチレン付加モル数が7以上10以下である、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【請求項7】
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤が、ポリエチレングリコールと高級アルコールの縮合物であって、高級アルコールとして、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、およびセチルアルコールよりなる群から選択されるいずれかである、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【請求項8】
酵素が加水分解酵素である、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【請求項9】
酵素が脂質分解酵素である、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【請求項10】
酵素が、リパーゼ活性、ホスホリパーゼ活性、エステラーゼ活性およびクチナーゼ活性よりなる群から選択される少なくともいずれか一つの活性を有する酵素である、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【請求項11】
酵素がシュードモナス(Pseudomonas)属の微生物由来のリパーゼである、請求項1に記載の酵素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素生産菌の培養液から酵素を精製する過程で、特定の種類の界面活性剤を用いた、酵素の製造方法に関する。更に詳しくは、酵素生産菌の培養液から酵素を精製する過程において、ポリオキシエチレン型界面活性剤を添加することにより精製効率を高めることができる、酵素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬、臨床、生化学分野、食品等に用いられる各種タンパク質は、微生物、細胞等の培養によって生産される方法、また天然原料からの抽出による方法等、様々な方法によって生産されている。最近では遺伝子工学等を利用して有用タンパク質を高効率で生産するなど、生産の分野の発展は目覚ましいものがある。しかしながら、これらタンパク質をいかに低いコストで分離精製し有用タンパク質を取り出すかが、重要な課題となっており、タンパク質の分離精製法の改良と、それに要するコストの低減、および操作性の向上が強く望まれている。
【0003】
酵素のようなタンパク質は高次構造を有するために、本来pH、温度等の環境の変化および化学薬品等には弱く、非常に変性しやすいものである。工業分野においてタンパク質の生産を行う場合、天然原料からの分離精製、または培養液等からの分離精製においても、目的のタンパク質を変性させないように細心の注意が必要とされる。
【0004】
従来のタンパク質の精製法としては、分別沈殿法や二層分離法等の通常の方法の他に膜分離法やカラムクロマトグラフィ―法等による分離精製の各種の方法が用いられている。一方、有機溶媒中で酵素反応を行うことや、酵素の反応特性を変えることを目的として、酵素表面を界面活性剤等の両親媒性物質で修飾する方法が、これまでにいくつか開発されている。
【0005】
その他、膜タンパク質を細胞膜から可溶化して分離精製する方法として、超音波処理などによる物理的方法、あるいはKClやEDTAなどの化学試薬、またはTriton X-100などの界面活性剤によって処理する方法が従来知られている。
【0006】
例えば、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌の膜結合酸化還元酵素の分離において、ポリエチレングリコールエーテル型非イオン性界面活性剤を用いる分離方法が知られている(特許文献1)。この精製法は、タンパク質精製の前段工程において細胞膜から膜結合酸化還元酵素を可溶化して分離する方法である。しかしながら、この方法は、あらゆる種類の酵素においても汎用的に適用できるものではない。
【0007】
酵素の中でも特にリパーゼは、種や由来に依らず凝集しやすいことで知られている(非特許文献1-5)。その理由として、リパーゼは界面において活性を発揮するために、その構造中に“lid”と呼ばれる疎水性の領域を有することが挙げられる(非特許文献6)。以上のように、リパーゼは凝集して不溶化してしまうことから、精製が困難である。リパーゼを変性させることなく可溶化することで精製工程における収量を向上させることが望まれている。
【0008】
例えば、原核生物のリパーゼを界面活性剤ベースの水性二相システムを用いることで濃縮する方法(非特許文献7)や、シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)の細胞外リパーゼを、アルギン酸を用いたエタノール共沈により採取した後に、界面活性剤を含む緩衝液に溶解してDEAE-Sephadex A-25のイオン交換クロマトグラフィーによりリパーゼと多糖類を分離する方法(非特許文献8)などが報告されている。しかしながら、これまでにリパーゼを変性させることなく可溶化して、効率的に精製する方法については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】International Journal of Biological Macromolecules, 2018年, Vol. 119, p.172-179
【非特許文献2】The Open Biochemistry Journal, 2010年, Vol. 4, p.22-28
【非特許文献3】Biocatalysis and Agricultural Biotechnology, 2012年, Vol. 1, p.45-50
【非特許文献4】Frontiers in Biology, 2016年, Vol. 11, p.323-330
【非特許文献5】Molecular Biotechnology, 2017年, Vol. 59, p.34-45
【非特許文献6】Biochimica et Biophysica Acta, 2006年, Vol. 1761, p.995-1013
【非特許文献7】Biotechnol. Appl. Biochem. 1992年,Vol. 16, Issue 3, p.228-235.
【非特許文献8】1679015283654_0,1987年, Vol. 27, p.139-145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、簡易で収量良く酵素を精製することにより、酵素の製造コストを抑えることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討した結果、培養液から酵素を精製する過程において、ポリオキシエチレン型非界面活性剤を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
本発明は、例えば以下のような構成からなる。
項1.
以下の(a)から(d)を含む精製工程を含む、酵素の製造方法。
(a)酵素生産菌を培養する
(b)(a)で得られた培養液から菌体を除き、塩析を行う
(c)(b)で得られた沈殿物を緩衝液により懸濁する
(d)(c)で得られた懸濁液中に、ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤を添加する
項2.
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテルである、項1に記載の酵素の製造方法。
項3.
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤のHLB値が13以上17以下である、項1に記載の酵素の製造方法。
項4.
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤のHLB値が14以上15以下である、項1に記載の酵素の製造方法。
項5.
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤がポリオキシエチレンラウリルエーテルである、項1に記載の酵素の製造方法。
項6.
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤の平均酸化エチレン付加モル数が7以上10以下である、項1に記載の酵素の製造方法。
項7.
ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤が、ポリエチレングリコールと高級アルコールの縮合物であって、高級アルコールとして、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、およびセチルアルコールよりなる群から選択されるいずれかである、項1に記載の酵素の製造方法。
項8.
酵素が加水分解酵素である、項1に記載の酵素の製造方法。
項9.
酵素が脂質分解酵素である、項1に記載の酵素の製造方法。
項10.
酵素が、リパーゼ活性、ホスホリパーゼ活性、エステラーゼ活性およびクチナーゼ活性よりなる群から選択される少なくともいずれか一つの活性を有する酵素である、項1に記載の酵素の製造方法。
項11.
酵素がシュードモナス(Pseudomonas)属の微生物由来のリパーゼである、項1に記載の酵素の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、簡易で収量良く酵素を回収することが実現され、その結果として酵素の製造コストを下げることが達成される、酵素を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳述する。本発明は、酵素生産菌の培養液から酵素を精製する過程において、ポリオキシエチレン型界面活性剤を添加することを特徴とする、酵素を製造する方法に関する。具体的には、以下の(a)から(d)を含む精製工程を含む酵素の製造方法である。
(a)酵素生産菌を培養する
(b)(a)で得られた培養液から菌体を除き、塩析を行う
(c)(b)で得られた沈殿物を緩衝液により懸濁する
(d)(c)で得られた懸濁液中に、ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤を添加する
【0016】
酵素生産菌とは、目的とする酵素の生産能を有する微生物をいう。具体的には、細菌、真菌、酵母などが挙げられるが、特に限定されるものではない。酵素生産菌を所望の培地組成及び培養条件により培養を行い、次に得られた培養液から菌体の除去を行い、培養液の塩析による処理を行う必要がある。
【0017】
菌体の除去については、特に限定されないが、遠心分離、濾過などの方法により行うのが好ましい。塩析は、高濃度の塩類存在下に置くことで溶解度を減少させタンパク質を沈殿させる方法である。塩としては、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどが用いられるが、硫酸アンモニウムが特に好ましい。硫酸アンモニウムを所望の飽和パーセントになるまで加え、10分~1時間程度撹拌することにより行うことが好ましい。
【0018】
上記により得られた沈殿物を緩衝液により懸濁し、懸濁液中にポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤を添加する。緩衝液の種類、濃度、pH等の条件については特に限定されないが、酵素の特性により適宜調整し、選択することができる。例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、GOODの緩衝液などを、精製する酵素のpH安定性などの諸要素に応じて選択して用いることができる。本発明においては、この懸濁液中に、ポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤を添加し、カラム精製等の以降の精製工程に供することを特徴とする。
【0019】
本発明において用いることができるポリオキシエチレン型非界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどが挙げられる。中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが、特に好ましい。
【0020】
例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル類として、一般に市販されているものとしては、エマルゲン(登録商標)104P(HLB9.6)、エマルゲン(登録商標)105(HLB9.7)、エマルゲン(登録商標)106(HLB10.5)、エマルゲン(登録商標)108(HLB12.1)、エマルゲン(登録商標)109P(HLB13.6)、エマルゲン(登録商標)120(HLB15.3)、エマルゲン(登録商標)123P(HLB16.9)、エマルゲン(登録商標)147(HLB16.3)、エマルゲン(登録商標)130K(HLB18.1)、ノニオン(登録商標)K-204(HLB9.2)、ノニオン(登録商標)K-215(HLB15.2)、ノニオン(登録商標)K-220(HLB16.2)、ノニオン(登録商標)K-230(HLB17.3)、NIKKOL(登録商標)BL-2(HLB9.5)、NIKKOL(登録商標) BL-4.2(HLB11.5)、NIKKOL(登録商標) BL-9EX(HLB14.5)、NIKKOL(登録商標)BL-21(HLB19)、NIKKOL(登録商標) BL-25(HLB19.5)、エマルゲン(登録商標)210(HLB10.7)、エマルゲン(登録商標)220(HLB14.2)、NIKKOL(登録商標)BC-2(HLB8.0)、NIKKOL(登録商標) BC-5.5(HLB10.5)、NIKKOL(登録商標) BC-7(HLB11.5)、NIKKOL(登録商標)BC-10TX(HLB13.5)、NIKKOL(登録商標) BC-15TX(HLB15.5)、NIKKOL(登録商標) BC-20TX(HLB17)、NIKKOL(登録商標)BC-23(HLB18)、NIKKOL(登録商標) BC-25TX(HLB18.5)、NIKKOL(登録商標) BC-30TX(HLB19.5)、NIKKOL(登録商標)BC-40TX(HLB20)、ノニオン(登録商標)P-208(HLB11.9)、ノニオン(登録商標)P-210(HLB12.9)、ノニオン(登録商標)P-213(HLB14.1)、エマルゲン(登録商標)306P(HLB9.4)、エマルゲン(登録商標)320P(HLB13.9)、NIKKOL(登録商標)BS-2(HLB8.0)、NIKKOL(登録商標) BS-4(HLB9.0)、NIKKOL(登録商標) BS-20(HLB18)、ノニオン(登録商標)S-206(HLB10.1)、ノニオン(登録商標)S-207(HLB10.7)、ノニオン(登録商標)S-215(HLB14.2)、ノニオン(登録商標)S-220(HLB15.3)、エマルゲン(登録商標)404(HLB8.8)、エマルゲン(登録商標)408(HLB10.0)、エマルゲン(登録商標)409P(HLB12.0)、エマルゲン(登録商標)420(HLB13.6)、エマルゲン(登録商標)430(HLB16.2)、NIKKOL(登録商標)BO-2(HLB7.5)、NIKKOL(登録商標) BO-7(HLB10.5)、NIKKOL(登録商標) BO-10TX(HLB14.0)、NIKKOL(登録商標)BO-20(HLB17.0)、NIKKOL(登録商標) BO-50(HLB18.0)、ノニオン(登録商標)E-206(HLB9.5)、ノニオン(登録商標)E-215(HLB14.2)、ノニオン(登録商標)E-230(HLB16.6)、NIKKOL(登録商標)BB-5(HLB7.0)、NIKKOL(登録商標) BB-10(HLB10.0)、NIKKOL(登録商標) BB-20(HLB16.5)NIKKOL(登録商標)BB-30(HLB18)、Brij(登録商標)93(HLB4)、Brij(登録商標)58(HLB15.7)、Brij(登録商標)52(HLB5)、Brij(登録商標)35(HLB16.9)、Brij(登録商標)L4(HLB9)、Brij(登録商標)L23(HLB16.9)、Brij(登録商標)C10(HLB12)、Brij(登録商標)S2(HLB4.9)、Brij(登録商標)S10(HLB12)、Brij(登録商標)S20(HLB15)、Brij(登録商標)S100(HLB18)、Brij(登録商標)O10(HLB12.4)、Brij(登録商標)O20(HLB15)等が挙げられる。
【0021】
これらの界面活性剤は、単独または2種類以上またはポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤以外の界面活性剤と組み合わせて用いることができる。また、各界面活性剤のHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)の値は特に限定されず、タンパク質の安定性を考慮し選択されるべきであるが、好ましくは単独の界面活性剤のHLBの上限が17以下、さらには16以下であることが精製収量向上の点で好ましい。また、単独のHLBの下限としては、好ましくは13以上、より好ましくは14以上である。13~15であることが特に好ましい。
【0022】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルのポリオキシエチレン部分の重合度を示す、平均酸化エチレン付加モル数としては、30以下であることが好ましい。さらには20以下であることが精製収量向上の点で好ましく、特には7~10であることが好ましい。
【0023】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ポリエチレングリコールと高級アルコールの縮合物である。この高級アルコールとしては、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコールなどが精製収量向上の点で好ましい。
【0024】
ポリオキシエチレン型非界面活性剤を添加する量は、適宜設定されるが、上記沈殿物の懸濁液に対して、界面活性剤の終濃度が0.01から2%となるようにするのが好ましい。より好ましくは0.02から1.5%、さらに好ましくは0.05から1%である。
【0025】
本発明が適用される酵素の種類としては、特に制限されないが、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、脱離酵素、異性化酵素、合成酵素、輸送酵素などに適用することができる。中でも、加水分解酵素に対して適用することが好ましい。より好ましくは精製の過程で高次構造を維持することで機能を発揮し活性を保つ必要のある酵素、さらに好ましくは、溶液中で凝集して不溶化しやすい性質のある脂質分解酵素に対して適用することが好ましい。
【0026】
上記脂質分解酵素は、国際生化学・分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology;IUBMB)が定める酵素分類番号でEC 3.1.1.(カルボン酸エステルヒドロラーゼ)に分類される酵素をいう。当該脂質分解酵素はEC 3.1.1.の規定上記載されている基質、例えばモノ-、ジ-、及びトリグリセリド、リン脂質、コレステロールエステル、クチン、ワックスエステル、合成エステル、又はその他の脂質中に存在するカルボン酸エステル結合に対して、典型的には水/脂界面において、加水分解活性を示しうる。脂質分解酵素としては、例えばリパーゼ活性(基質としてのトリグリセリドに対し)、ホスホリパーゼ活性、エステラーゼ活性又はクチナーゼ活性を有する酵素が挙げられる。中でもリパーゼに適用することが特に好ましい。また、その由来は特に限定されないが、シュードモナス(Pseudomonas)属の微生物に由来するリパーゼに適用することが特に好ましい。
【実施例0027】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。
【0028】
実施例1
ポリペプトン2.0%、酵母エキス0.4%、肉エキス0.4%、KH2PO40.2%、MgSO4・7H2O0.05%、KCl0.05%、米糠白紋油0.5%、シリコン0.1%,pH6.5よりなる培地6Lを10L容のジャーファーメンターに仕込み、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。他方、同組成培地を用い、500mL容坂口フラスコを用いて、30℃で24時間予め振盪培養しておいたシュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa) TE3285株の培養液60mLを上記培地に無菌的に植菌し、30℃で30時間通気(2L/分)、攪拌(300rpm)培養した。培養終了後、培養液6Lを遠心分離機で処理して菌体を除き、培養上清を取得した。この培養上清を50kDaカットの濃縮膜を用いて濃縮した。35%飽和となるように硫酸アンモニウムを加え、遠心分離することで、リパーゼを含むタンパク質沈殿物を得た。このタンパク質沈殿物を0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に懸濁後、各種非イオン界面活性剤を終濃度で0.5%となるように添加し、攪拌した。その後、助剤(昭和化学工業社製)を用いたろ過により、沈殿を除いた上清中のリパーゼ活性を測定することで、リパーゼ回収率を確認した。
【0029】
実施例2
リパーゼ活性の測定については、以下のようにして行った。
オリーブ油エマルジョン液を次のように調製した。オリーブ油(ナカライテスク製, リパーゼ測定用特製試薬)5.0gと5.0%Triton X-100溶液(B)5.0mLの混合液を10分間超音波処理(20kHz)し、エマルジョンを調製した。次いでこのエマルジョンに4.0%BSA水溶液(C)25mLと0.1Mリン酸カリウム緩衝液(D)15mLを添加混合した。
【0030】
以上のように調整したオリーブ油エマルジョン液を用いて、以下のようにリパーゼ測定試薬を調製した。以下の測定手順、活性算出式に基づき、リパーゼ添加試料液中のリパーゼ活性を測定した。得られたリパーゼ活性値より、培養上清の膜濃縮液の総活性を100%として回収率(%)を算出した。
【0031】
<リパーゼ測定試薬の調製法>
A.オリーブ油エマルジョン液
B.5.0%Triton X-100溶液
5.0 mLのTriton X-100を100mLの蒸留水に溶解した。
C.4.0%BSA水溶液
4.0gの牛血清アルブミンを100mLの蒸留水に溶解した。
D.0.1M リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)
E.0.2Mトリクロル酢酸(TCA)溶液
33 gのトリクロル酢酸を1000 mLの蒸留水に溶解した。
F.50 mMMES緩衝液(pH6.5)
9.76gの 2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(MW=195.23)を約850mLの蒸留水に溶解し,pHを5.0N NaOHで6.5に調整後、蒸留水で1000mLとした。
G.発色試薬
200mLの50mM MES緩衝液(pH6.5)(F)に、以下の順序で試薬及び酵素を溶解する。
4.0mL 5.0%Triton X-100溶液(B)
0.04mL N,N-Diethyl-m-toluidine(完全に溶解するまで攪拌する)
4.0mg 4-アミノアンチピリン
24.2mg ATP・Na2・3水和物
40.7mg MgCl2・6水和物
200単位 Glycerolkinase(東洋紡製,Grade III)
500単位 L-α-Glycerophosphateoxidase(東洋紡製, Grade III)
300単位 Peroxidase(プルプロガリン単位)(東洋紡製,Grade III)
【0032】
<測定手順>
(1)オリーブ油エマルジョン液(A)2.0mLを試験管に採り、37℃で約5分間予備加温した。
(2)酵素溶液0.2mL加え、反応を開始した。
(3)37℃で正確に15分間反応させた後,TCA溶液(E)2.0mLを加えて反応を停止した。
(4)生成する不溶物を濾紙濾過で除いた。
(5)濾液の0.05mLを試験管に採り、発色試薬(G)3.0mLを加えて混合した後、37℃にて15分間加温し、545nmにおける吸光度を測定した(ODtest)。
(6)盲検はオリーブ油エマルジョン液(A)2.0mL37℃で15分間放置後,TCA溶液(E)2.0mLを加え、次いで酵素溶液0.2mLを加えて調製し、以下上記同様((4)~(5))に操作して吸光度を測定した(ODblank)。
【0033】
<活性算出式>
リパーゼ活性については、以下に示す数式に基づき算出した。
【0034】
【0035】
式中の数字は、それぞれ以下の意味を有する。
28.2 :Quinoneimine色素の、上記測定条件下でのミリモル分子吸光度係数(cm2/micromole)
1/2 :H2O21分子から形成するQuinoneimine色素は、1/2分子であることによる係数
1.0 :光路長(cm)
【0036】
各種の界面活性剤を用いて得られた上清中におけるリパーゼ活性を測定した結果を、表1に示す。ポリオキシエチレンアルキルエーテル以外の界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)を用いた比較例では、リパーゼがほとんど回収されなかったのに対し、各種のポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いた実施例では、非常に高い収率でリパーゼが回収されることが確認された。
【0037】
本発明により、簡易で収量良く酵素を精製する方法を採用することにより、低コストな酵素の製造をすることができることから、医薬、生化学、診断、食品などの業界をはじめ、広く産業界に寄与することが期待される。