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特開2024-132507電気化学セル、集電体、及びセルスタック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132507
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】電気化学セル、集電体、及びセルスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0258 20160101AFI20240920BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20240920BHJP
   H01M 8/0247 20160101ALI20240920BHJP
   H01M 8/2404 20160101ALI20240920BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20240920BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20240920BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240920BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20240920BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240920BHJP
【FI】
H01M8/0258
H01M8/1213
H01M8/0247
H01M8/2404
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B15/08 302
C25B9/23
C25B9/77
C25B9/65
C25B13/02 302
C25B13/04 302
H01M8/0206
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043298
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正人
(72)【発明者】
【氏名】松永 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AA09
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC09
4K021CA02
4K021CA03
4K021CA08
4K021CA15
4K021DB04
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC03
4K021DC15
4K021EA05
5H126AA08
5H126AA23
5H126BB06
5H126EE05
5H126EE22
5H126GG02
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】酸素極、電解質、及び燃料極を含む電極積層体とその周囲の部材との接触に起因する電気化学セルにおける不所望な内部応力や変形を抑制しつつ、電極積層体とその周囲の部材との間においてガスが流通することを抑制することができる電気化学セルを提供する。
【解決手段】一実施の形態によれば、電気化学セル1は、第1の面10e1及び第1の面10e1の反対に位置する第2の面10e2を有する電解質10eと、第1の面10e1に接する酸素極10cと、第2の面10e2に接する燃料極10aとを含む電極積層体10と、電極積層体10の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置し、電解質10e、酸素極10c及び燃料極10aとは異なる材料から形成されるガス流れ抑制部20と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面及び前記第1の面の反対に位置する第2の面を有する電解質と、前記第1の面に接する酸素極と、前記第2の面に接する燃料極とを含む電極積層体と、
前記第1の面と前記第2の面との間に位置する前記電極積層体の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置し、前記電解質、前記酸素極及び前記燃料極とは異なる材料から形成されるガス流れ抑制部と、を備える、電気化学セル。
【請求項2】
前記ガス流れ制御部は、前記電極積層体と一体化されている、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記ガス流れ制御部は、前記電解質、前記酸素極及び前記燃料極の線膨張係数よりも大きい線膨張係数を有する材料から形成される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記ガス流れ抑制部は、ガス拡散性を有する金属からなる、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記電気化学セルは、複数の前記ガス流れ抑制部を備え、
複数の前記ガス流れ抑制部は、前記電極積層体の側面を周回する方向に沿って間隔を空けて設けられる、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記ガス流れ抑制部は、前記電極積層体の側面を周回する方向に延びる壁形状で形成されている、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記電解質と前記酸素極と前記燃料極とが重なる方向で、前記酸素極又は前記燃料極に接するシート状の部材を備え、
前記シート状の部材と前記ガス流れ抑制部とが、一体化されている、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記シート状の部材及び前記ガス流れ抑制部は、ガス拡散性を有する金属からなる、請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記シート状の部材は導電性を有し、集電体として機能する、請求項7又は8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記電解質と前記酸素極と前記燃料極とが重なる方向で、前記電極積層体と重なるベース部を含むセパレータと、
前記電極積層体の側面を囲む枠体と、を備え、
前記電極積層体の側面と前記枠体との間には隙間が形成され、
前記ガス流れ抑制部は、前記電極積層体の側面と少なくとも部分的に隣り合うとともに前記枠体から離れるように前記隙間に位置する、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記ガス流れ抑制部は、所定の温度以上になった際、熱膨張により前記枠体に接触又は近接する、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記ガス流れ制御部の線膨張係数は、前記枠体の線膨張係数よりも大きい、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記枠体は、前記電極積層体に向かって突出する複数の凸部を備え、
前記ガス流れ抑制部と、前記凸部とは、互い違いに並ぶように設けられる、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記枠体は、前記セパレータの一部であり、前記ベース部の外周側の部分に一体化されている、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記電解質は、固体電解質である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項16】
電気化学セルの電極積層体における電解質と酸素極と燃料極とが重なる方向で、前記酸素極又は前記燃料極に接するように配置される集電体であって、
前記電極積層体の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置するガス流れ抑制部を備える、集電体。
【請求項17】
請求項1に記載の複数の電気化学セルを重ねた、セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、電気化学セル、集電体、及びセルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルには、固体高分子形や、固体酸化物形などの種々の形式がある。固体酸化物形電気化学セルは、電解質として固体酸化物を用いることから、その作動温度が高い(例えば600~1000℃)。固体酸化物形電気化学セルは、このような高い作動温度で動作することにより、高価な貴金属触媒を用いずに大きい反応速度を得られる。
【0003】
上記のように大きい反応速度を得られることで、固体酸化物形電気化学セルを燃料電池(固体酸化物形燃料電池:SOFC)として動作させた場合には、高い発電効率が得られる。また、固体酸化物形電気化学セルを電解セル(固体酸化物形電解セル:SOEC)として動作させた場合には、低い電解電圧で高効率に例えば水素を製造できる。そのため、固体酸化物形電気化学セルは、高効率の燃料電池、水素製造用の電解セル、これらを組み合わせた電力貯蔵システム等を実現するための技術として注目を集めており、その開発が進められている。
【0004】
電気化学セルは、少なくとも空気極と、電解質と、燃料極とを含む積層体(以下、電極積層体と呼ぶ場合がある。)を備える。空気極、電解質及び燃料極は、通常、互いに異なる特性を有する材料から形成される。空気極と燃料極は電気伝導体であり、一般に多孔質体で形成される。空気極と燃料極とには、電解質を境にそれぞれ異なるガスが供給される。一方で、電解質は、イオン伝導体である。
【0005】
電気化学セルの形状には、平板型や円筒型、円筒平板型などがある。例えば平板型の電気化学セルでは、空気極、電解質、燃料極などが平板状に積層される。
【0006】
多くの電力や水素を発生するために複数の電気化学セルを集積させた構造物は、一般にセルスタックと呼ばれる。例えば、複数の平板型の電気化学セルを含むセルスタックでは、複数の電気化学セルが、それぞれの厚さ方向を揃える状態で積層される。各電気化学セルの空気極と燃料極には、対応するガスが供給され、各電気化学セルは、電気的に直列に接続される。セルスタックを構成する電気化学セルは、通常、セパレータを備える。そして、セルスタックでは、電気化学セルが、自身のセパレータと他の電気化学セルとを接触させるようにして他の電気化学セルと重ねられる。このような構成では、電気化学セルごとのガスの流路が、セパレータによって隔てられる。セパレータは導電性を有し、他の電気化学セルとの電気的導通の役割も担う。
【0007】
上述のセパレータには、電気化学セルの積層方向(厚さ方向)で電極積層体と接する例えば板状のベース部分と、電極積層体の周囲を囲む枠体とで、空気極及び燃料極のうちのいずれかに対するガスの流路を区画するものがある。このような構成のセパレータでは、枠体に、ガスの供給路と、排出路とが形成されてもよい。この場合、供給路から枠体内に流入したガスは電気化学セルにおける空気極又は燃料極へ供給され、空気極又は燃料極を通過したガスは、排出路から外部に排出される。
【0008】
以上のようなセルスタックの性能を評価する指標として、例えばガスの利用率が挙げられる。例えば水素を発生させる電解モードでの運用においては、電力あたりの生成水素量が指標として重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5734823号公報
【特許文献2】特許第6172524号公報
【特許文献3】特開2022-24498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電気化学セルへ供給されるガスの一部は、電気化学セルの反応領域(電極積層体における空気極・燃料極)を通過せずに排出されてしまうことがある。具体的には、例えば反応領域を迂回しようとするガスの流れや、反応領域からその外部に漏れ出るガスの流れが生じることがある。
【0011】
しかしながら、反応領域を通過しないガスの流れは反応に寄与しない。そのため、反応領域を迂回しようとするガスや、反応領域から漏れ出るガスを阻止するためのガスシール性を確保することが望まれる。そして、好適なガスシール性の確保により、空気極・燃料極における反応を効率良く行えるようにガスを流通させることが望まれる。
【0012】
上述したように電極積層体の周囲を囲む枠体が設けられる構成では、電極積層体と枠体との間に隙間が形成されることがある。この場合、この隙間において上記の反応領域を迂回しようとするガスの流れが生じ得る。ここで、電極積層体と枠体とを密着させれば、隙間におけるガスの流れが抑制され得る。しかしながら、電極積層体及び枠体の寸法加工精度のばらつきにより、電極積層体と枠体とを適正に密着させることが困難な場合がある。また、電極積層体及び枠体の昇温時の膨張による相互干渉が生じ、高温状態の作動時に電極積層体と枠体との接触面に圧力が生じ、電気化学セルに不所望な内部応力や変形が生じる虞がある。接触面における圧力が過度に大きくなった場合には、電気化学セルの破損が生じる虞もあり、この場合には、発電又は電解性能が大きく損なわれ得る。
【0013】
以上のような事情から、電気化学セルにおける電極積層体と枠体との間には隙間を設けざるを得ない場合がある。特に固体酸化物形電気化学セルが用いられる場合には、作動温度が高いために、膨張時における相互干渉が問題になることが多く、また、使用する形成材料に起因して電気化学セル(電極積層体や枠体)の寸法加工精度がばらつき易くなることがある。したがって、固体酸化物形電気化学セルにおいては、電極積層体と枠体との間に、通常、意図的に隙間を形成する。ただし、電極積層体と枠体との間の隙間が過度に大きくなると、酸素極又は燃料極を通過しないガスの増加によるガスの利用率が低下して、発電又は電解性能の低下が生じ得る。反応領域に供給されるガスが望ましい供給量から大きく不足した場合には、電気化学セルに損傷が生じることも考えられる。
【0014】
以上に鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、酸素極、電解質、及び燃料極を含む電極積層体とその周囲の部材との接触に起因する電気化学セルにおける不所望な内部応力や変形を抑制しつつ、電極積層体とその周囲の部材との間においてガスが流通することを抑制することができる電気化学セル、集電体、及びセルスタックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一実施の形態に係る電気化学セルは、第1の面及び前記第1の面の反対に位置する第2の面を有する電解質と、前記第1の面に接する酸素極と、前記第2の面に接する燃料極とを含む電極積層体と、前記第1の面と前記第2の面との間に位置する前記電極積層体の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置し、前記電解質、前記酸素極及び前記燃料極とは異なる材料から形成されるガス流れ抑制部と、を備える。
一実施の形態に係る集電体は、電気化学セルの電極積層体における電解質と酸素極と燃料極とが重なる方向で、前記酸素極又は前記燃料極に接するように配置される集電体であって、前記電極積層体の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置するガス流れ抑制部を備える。
一実施の形態に係るセルスタックは、前記の複数の電気化学セルを重ねた、セルスタックである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸素極、電解質、及び燃料極を含む電極積層体とその周囲の部材との接触に起因する電気化学セルにおける不所望な内部応力や変形を抑制しつつ、電極積層体とその周囲の部材との間においてガスが流通することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施の形態に係る電気化学セルを備えるセルスタックの積層方向での断面図である。
図2図1のII-II線に対応するセルスタックの積層方向での断面図である。
図3図2のIII-III線から見たセルスタックにおける電気化学セルの概略的な図である。
図4図3に示す電気化学セルが動作中に熱膨張した様子を示す図である。
図5】第2の実施の形態に係る電気化学セルを概略的に示す図である。
図6】第3の実施の形態に係る電気化学セルを概略的に示す図である。
図7】(A)~(D)は、実施の形態に係る電気化学セルの製造方法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照しつつ、各実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜のために、縮尺及び寸法比などが実物のそれらから変更され誇張して示されている場合がある。
【0019】
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態に係る電気化学セル1を備えるセルスタックSの積層方向での断面図である。図2は、図1のII-II線に対応するセルスタックSの積層方向での断面図である。図3は、図2のIII-III線から見た電気化学セル1の概略的な図である。電気化学セル1は平板型である。セルスタックSにおいては、複数の電気化学セル1が、それぞれの厚さ方向を揃えるようにして互いに重ねられている。なお、図1乃至図3は、非動作時であって常温(25℃)における電気化学セル1及びセルスタックSを示している。
【0020】
セルスタックSにおいて複数の電気化学セル1が重ねられる方向を、以下、積層方向Zと呼ぶ。また、積層方向Zに直交する方向のうちの図1において左右に延びる方向を、X方向と呼ぶ。また、積層方向Zに直交する方向のうちの図2において左右に延びる方向を、Y方向と呼ぶ。X方向とY方向とは、積層方向Zに直交する面において互いに直交する。
【0021】
なお、以下に説明する電気化学セル1又はセルスタックSの構成要素において側面と呼ばれる面は、当該構成要素における外表面であってX方向及び/又はY方向を向く面のことを意味する。また、以下で言う平面視とは、積層方向Zに平行な方向に見ることを意味する。
【0022】
図1及び図2に示すように、電気化学セル1は、電極積層体10と、セパレータ12と、燃料極側集電体14aと、酸素極側集電体14cと、封止板16と、シール材18と、を備えている。電極積層体10は、単に「セル」と呼ばれる場合もある。
【0023】
電極積層体10は、電解質10eと、酸素極10cと、燃料極10aと、燃料極多孔質基材10gと、を含む。電解質10eは、第1の面10e1と、第1の面10e1の反対に位置する第2の面10e2とを有する。
【0024】
酸素極10cは、第1の面10e1に接している。燃料極10aは、第2の面10e2に接している。燃料極多孔質基材10gは、燃料極10aにおける電解質10eと接する面とは反対の面に接している。すなわち、電極積層体10では、燃料極多孔質基材10g、燃料極10a、電解質10e、及び酸素極10cがこの順で積層されている。
【0025】
電気化学セル1は、詳しくは、平面視での形状が矩形になる平板型である。ただし、平板型の電気化学セル1の平面視での形状は特に限られず、例えば円形などでもよい。
【0026】
本実施の形態における電解質10eは固体電解質であり、酸素イオン導電性を有する固体酸化物からなる。この場合、電解質10eは、例えば緻密な安定化ジルコニア、セリア系固溶体の成形体、ペロブスカイト型酸化物などから形成される。電解質10eは、Y、Sc、Yb、Gd、Ca、Mg、および、Ceからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Y,Sc,Yb,Gd,CaO,MgO,CeO)で安定化されたジルコニアを用いて形成されもよい。また、電解質10eは、Sm、Gd、および、Yの群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Sm,Gd,Y)がドープされたセリアを用いて形成されていてもよい。
【0027】
酸素極10cは多孔質体であり、例えばペロブスカイト型酸化物などから形成される。詳しくは、酸素極10cは、例えばLaSrMn酸化物、LaSrCo酸化物、LaSrCoFe酸化物、LaSrFe酸化物などを用いて形成されてもよい。
【0028】
燃料極10aは多孔質体であり、例えば金属と固体酸化物の混合焼結体(サーメット)などから形成される。詳しくは、燃料極10aは、例えばNi-YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、Ni-ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)などを用いて形成されてもよい。ここで、電解質10eが上述したように「緻密」であるとは、電解質10eが、少なくとも多孔質体である酸素極10c及び燃料極10aよりも気孔率が低いことを意味する。
【0029】
燃料極多孔質基材10gも多孔質体であり、シート状に形成される。本実施の形態では、燃料極多孔質基材10g、燃料極10a、電解質10e、及び酸素極10cがこの順で積層されて一体化されている。本実施の形態では、燃料極多孔質基材10gが、電極積層体10を補強するとともに、支持する支持材として機能している。
【0030】
電極積層体10は、例えば燃料極多孔質基材10gに、燃料極10a、電解質10e、及び酸素極10cを順次成膜することで形成され得る。このような工程で電極積層体10が形成される場合には、燃料極多孔質基材10g、燃料極10a、電解質10e、及び酸素極10cは自然と一体化される。ただし、電極積層体10の形成手法は特に限られるものではない。
【0031】
燃料極多孔質基材10gは、例えば金属粒子と金属酸化物を含む焼結体などから形成されてもよい。焼結体に含まれ又は酸化物に固溶している金属粒子には、例えばニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、および、銅(Cu)からなる群から選ばれる1種以上、もしくはそれらを含む合金が挙げられる。
【0032】
なお、本実施の形態に係る電気化学セル1は固体酸化物形の電気化学セルであるため、上述で例示した材料により形成され得る。ただし、電気化学セル1の形式は、固体酸化物形に限られるものではない。例えば電気化学セル1が固体高分子形又は溶融炭酸塩形の電気化学セルとして構成される場合には、形式に対応した材料で電気化学セルの各部が形成されればよい。
【0033】
セパレータ12は、電解質10eと酸素極10cと燃料極10aとが重なる方向、つまり積層方向Zで、電極積層体10と重なるベース部121と、電極積層体10の側面を囲む枠体122と、を備える。本実施の形態では、枠体122の内側にセル収容部12aが形成される。セル収容部12a内に電極積層体10が設置される。電極積層体10は、矩形の各辺が枠体122のいずれかの辺に沿うように設置され、電極積層体10の側面と枠体122との間には隙間が形成される。すなわち、電極積層体10は、枠体122の内面に密着することなく、枠体122との間に隙間を空ける状態で枠体122に囲まれている。
【0034】
図3に示すように、ベース部121の形状は平面視で矩形である。枠体122の形状は平面視で矩形の枠状である。図1及び図2に示すように、ベース部121は、燃料極多孔質基材10gを介して燃料極側集電体14aに接している。また、ベース部121は、燃料極多孔質基材10g側の面とは反対の面で、他の電気化学セル1の酸素極側集電体14cと接する。
【0035】
電気化学セル1は、ガスの流通のための複数の流路を備えている。具体的には、図1乃至図3に示すように、電気化学セル1は、燃料供給共有流路131と、燃料排出共有流路132と、燃料供給分岐流路133と、燃料排出分岐流路134と、酸素供給共有流路135と、酸素排出共有流路136と、酸素供給分岐流路137と、酸素排出分岐流路138と、を備えている。
【0036】
図3に示すように、枠体122における互いに対向する2辺部(図3における上下の2辺部)のうちの一方には、燃料供給共有流路131に形成され、上記2辺部のうちの他方には、燃料排出共有流路132が形成されている。また、枠体122における互いに対向する他の2辺部(図3における左右の2辺部)のうちの一方には、酸素供給共有流路135が形成され、上記他の2辺部のうちの他方には、酸素排出共有流路136が形成されている。
【0037】
燃料供給共有流路131、燃料排出共有流路132、酸素供給共有流路135、及び酸素排出共有流路136はそれぞれ、積層方向に枠体122を貫通している。図1及び図2に示すように、燃料供給共有流路131、燃料排出共有流路132、酸素供給共有流路135、及び酸素排出共有流路136はそれぞれ、他の電気化学セル1の対応する燃料供給共有流路131、燃料排出共有流路132、酸素供給共有流路135、及び酸素排出共有流路136に流体的に接続される。
【0038】
一方で、図1及び図3に示すように、燃料供給分岐流路133は、枠体122において燃料供給共有流路131と隣接して形成されている。詳しくは、燃料供給分岐流路133は、枠体122における燃料供給共有流路131が形成される辺部に形成され、燃料供給共有流路131とセル収容部12aとを流体的に接続している。また、燃料排出分岐流路134は、枠体122において燃料排出共有流路132と隣接して形成されている。詳しくは、燃料排出分岐流路134は、枠体122における燃料排出共有流路132が形成される辺部に形成され、燃料排出共有流路132とセル収容部12aとを流体的に接続している。
【0039】
以上のように燃料供給共有流路131と、燃料排出共有流路132と、燃料供給分岐流路133と、燃料排出分岐流路134とが接続されることにより、燃料供給共有流路131を流通する燃料ガスが、燃料供給分岐流路133からセル収容部12aに流入し得る。これにより、燃料ガスが電極積層体10における燃料極10aに供給され得る。そして、電極積層体10を通過した燃料ガスは、セル収容部12aから燃料排出分岐流路134を通過して、燃料排出共有流路132に流出し得る。これにより、未反応の燃料ガスを燃料排出共有流路132から排出できる。
【0040】
燃料供給分岐流路133及び燃料排出分岐流路134は、本実施の形態では枠体122の頂面から凹み、積層方向と交差する方向に延びる溝として形成されている。ただし、燃料供給分岐流路133及び燃料排出分岐流路134は、枠体122を貫通する孔でもよい。なお、酸素供給分岐流路137及び酸素排出分岐流路138は、封止板16に設けられる。これについての詳細は後述する。
【0041】
以上のようにセパレータ12は、燃料極10aに供給される燃料ガスの流路及び酸素極10cに供給される酸素の流路の少なくとも一部を形成している。セパレータ12は、燃料ガス及び酸素を透過させない程度に緻密であって、導電性を有する材料から形成される。セパレータ12は、例えば金属、セラミックスなどで形成される。セパレータ12の材料の線膨張係数は、電極積層体10の線膨張係数と近いことが望ましい。なお、セパレータ12が上述したように「緻密」であるとは、セパレータ12が、少なくとも多孔質体となる酸素極10c及び燃料極10aよりも気孔率が低いことを意味する。
【0042】
また、本実施の形態では枠体122がセパレータ12の一部であり、枠体122が、ベース部121の外周側の部分に一体化されて立ち上がる。ただし、枠体122とベース部121とは別々に形成され、事後的に互いに連結されてもよい。
【0043】
燃料極側集電体14aは、燃料極多孔質基材10gとセパレータ12のベース部121とに接する状態で配置される。酸素極側集電体14cは、酸素極10cと、他の電気化学セル1のセパレータ12とに接する状態で配置される。燃料極側集電体14aは、燃料極多孔質基材10gとセパレータ12のベース部121とに接着剤を介して接着されてもよい。同様に、酸素極側集電体14cも、酸素極10cと他の電気化学セル1のセパレータ12とに接着剤を介して接着されてもよい。
【0044】
燃料極側集電体14a及び酸素極側集電体14cは導電性を有するシート状の部材であり、導電性材料で形成される。燃料極側集電体14a及び酸素極側集電体14cは、例えばステンレス、鉄、ニッケル、チタン、アルミニウム、Ag、Pt、Au、又はこれらのうちの一種以上を含む合金素材などから形成されてもよい。特に燃料極側集電体14a及び酸素極側集電体14cは、ガス拡散性を有する構造体から形成されてもよい。より具体的には、燃料極側集電体14a及び酸素極側集電体14cは、ガス拡散性を有し、比較的変形し易い、金属製のメッシュ、エキスパンドメタル、又は金属製の発泡体から形成されてもよい。これらメッシュ、エキスパンドメタル、金属製の発泡体の材質は、上述と同様に、例えばステンレス、鉄、ニッケル、チタン、アルミニウム、Ag、Pt、Au、又はこれらのうちの一種以上を含む合金素材などもよい。なお、ガス拡散性とは、流入したガスを拡散させつつ透過させることが可能な性質である。
【0045】
図2に示すように、燃料極側集電体14aには燃料ガス流路24aが設けられている。図1に示すように、酸素極側集電体14cには酸素流路24cが設けられている。この例では、燃料ガス流路24a及び酸素流路24cが、積層方向Zで見た場合に互いに直交する方向に延びる。ただし、燃料ガス流路24a及び酸素流路24cのパターンは特に限られない。
【0046】
燃料極側集電体14aは、凹部と凸部とが繰り替えし形成される波板形状で形成されている。燃料ガス流路24aは、図2において上方に凸となる燃料極側集電体14aの隣り合う凸部の間に形成され、X方向に延びる。X方向における燃料ガス流路24aの一方の端部は、図1及び図2を参照し、セル収容部12a及び燃料供給分岐流路133を介して燃料供給共有流路131に流体的に接続する。X方向における燃料ガス流路24aの他方の端部は、セル収容部12a及び燃料排出分岐流路134を介して、燃料排出共有流路132に流体的に接続する。
【0047】
また、酸素極側集電体14cも、凹部と凸部とが繰り替えし形成される波板形状で形成されている。そして、酸素流路24cは、図1において下方にへこむ酸素極側集電体14cの隣り合う凹部の間に形成され、Y方向に延びる。Y方向における酸素流路24cの一方の端部は、図1及び図2を参照し、酸素供給分岐流路137を介して酸素供給共有流路135に流体的に接続する。Y方向における酸素流路24cの他方の端部は、酸素排出分岐流路138を介して、酸素排出共有流路136に流体的に接続する。
【0048】
なお、燃料極側集電体14a及び酸素極側集電体14cには、上述のような燃料ガス流路24a及び酸素流路24cが設けられなくてもよい。この場合、例えば、燃料極側集電体14a及び酸素極側集電体14cが多孔質体で形成されるとともに、セパレータ12に燃料ガス流路24a及び酸素流路24cのような溝状の流路が形成されてもよい。
【0049】
また、本実施の形態では平面視における酸素極10cのサイズが電解質10eよりも小さく、電解質10eの外周側の部分は酸素極10cに覆われていない。ここで、封止板16は、電解質10eにおける酸素極10cが位置しない面と、枠体122の頂面と、に跨がる状態で設置されている。封止板16は矩形枠状の板体であり、酸素極10c及び酸素極側集電体14cを囲んでいる。封止板16の内側に酸素極10cに供給される酸素が流入するが、封止板16は、封止板16の内側の空間と、セル収容部12aとのガス雰囲気を隔てている。
【0050】
封止板16には、上述したように、酸素供給分岐流路137と酸素排出分岐流路138とが形成される。詳しくは、図2を参照し、酸素供給分岐流路137は、酸素供給共有流路135と封止板16の内側の空間とを流体的に接続するように形成されている。酸素排出分岐流路138は、酸素排出共有流路136と封止板16の内側の空間とを流体的に接続するように形成されている。封止板16は緻密な材料であって、例えば金属、セラミックスなどで形成されてもよく、セパレータ12と同じ材料から形成されてもよい。
【0051】
シール材18は、封止板16と他の電気化学セル1のセパレータ12との間に設けられ、封止板16と他の電気化学セル1のセパレータ12との間を気密及び液密にシールする。シール材18は、加圧することによって変形するコンプレッシブな材料から形成されてもよい。
【0052】
本実施の形態に係る電気化学セル1は、以上に説明した電極積層体10、セパレータ12、燃料極側集電体14a、酸素極側集電体14c、封止板16、及びシール材18により、単位ユニット、所謂、単セルを構成する。そして、このような電気化学セル1が任意の数だけ積み上げられることにより、セルスタックSが形成される。セルスタックSにおいては、積層方向Zの両端部に、エンドプレート(図示省略)などが配置される。そして、一対のエンドプレートなどの部材が、締結手段、例えば複数のボルトやナット(図示省略)によって締め付けられて固定される。
【0053】
ここで、図1乃至図3を参照し、電気化学セル1は、ガス流れ抑制部20を備えている。ガス流れ抑制部20は、電極積層体10の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置する。詳しくは、本実施の形態におけるガス流れ抑制部20は、電極積層体10のうちの燃料極側の面(図中の下面)から電解質10eまでの部分の一部又は全部の側面に隣り合うように位置し、酸素極10cとは隣り合っていない。
【0054】
上述したように電極積層体10の側面と枠体122との間には隙間が形成される。ガス流れ抑制部20は、電極積層体10の側面と枠体122との間の隙間に位置し、これにより、電極積層体10の側面と枠体122との間の隙間を流通しようとする燃料ガスの流れを阻止するように機能する。
【0055】
ガス流れ抑制部20は、電解質10e、酸素極10c及び燃料極10aとは異なる材料から形成されている。詳しくは、ガス流れ抑制部20は、電解質10e、酸素極10c及び燃料極10aの線膨張係数よりも大きい線膨張係数を有する材料から形成されている。上述したように、本実施の形態では電解質10e、酸素極10c及び燃料極10aが主としてセラミックスから形成されている。これに対して、ガス流れ抑制部20は、例えばステンレス、鉄、ニッケル、チタン、アルミニウム、Ag、Pt、Au、又はこれらのうちの一種以上を含む合金素材などから形成されてもよい。これにより、ガス流れ抑制部20の線膨張係数は、電解質10e、酸素極10c及び燃料極10aの線膨張係数よりも大きくなり得る。
【0056】
詳しくは、本実施の形態では金属から形成される燃料極側集電体14aにガス流れ抑制部20が一体に形成されている。すなわち、燃料極側集電体14aは、電極積層体10の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置するガス流れ抑制部20を備えていることになる。また、本実施の形態では、燃料極側集電体14aが電極積層体10と一体化されているため、ガス流れ抑制部20が電極積層体10と一体化されていることになる。なお、ガス流れ抑制部20は燃料極側集電体14aと一体でなくてもよく、例えば燃料極多孔質基材10gと一体化されてもよい。本実施の形態ではガス流れ抑制部20が燃料極側集電体14aと同様の材料から形成される。したがって、ガス流れ抑制部20は、ガス拡散性を有する構造体から形成されてもよい。より具体的には、ガス流れ抑制部20は、ガス拡散性を有し、比較的変形し易い、金属製のメッシュ、エキスパンドメタル、又は金属製の発泡体から形成されてもよい。
【0057】
図2及び図3に示すように、ガス流れ抑制部20は、例えば常温(25℃)での電気化学セル1の非動作時に、枠体122から離れて位置する。ここで、ガス流れ抑制部20の線膨張係数が、電解質10e、酸素極10c及び燃料極10aの線膨張係数よりも大きい場合には、電気化学セル1の動作時に、ガス流れ抑制部20が、枠体122との間の距離が狭くなるように枠体122に向けて膨張し易くなる。これにより、電極積層体10と枠体122との間の隙間を流通する燃料ガスの流れを阻止し易くなる。また、上述のように燃料ガスの流れを阻止するガス流れ抑制部20のような部材を、主としてセラミックスからなる電極積層体10と同じ材料で加工精度良く適正に形成する場合には、非常に大きい手間がかかり得る。そのため、ガス流れ抑制部20を、電解質10e、酸素極10c及び燃料極10aと異なる材料から形成することは、ガス流れ抑制部20の加工の観点で有利になり得る。
【0058】
本実施の形態におけるガス流れ抑制部20は、詳しくは、図4に示すように電極積層体10から枠体122に向かって突き出す凸形状を有している。ガス流れ抑制部20は、一例として厚さが一定の矩形の板状であり、板面が積層方向Zに沿うように形成されている。本実施の形態では、複数のガス流れ抑制部20が電極積層体10の側面を周回する方向に沿って間隔を空けて設けられる。詳しくは、電極積層体10の側面のうちの燃料極側集電体14aの燃料ガス流路24aに平行な部分に沿って、複数のガス流れ抑制部20が間隔を空けて設けられる。
【0059】
隣り合うガス流れ抑制部20は、その間に燃料ガスが流入して急縮小から急拡大に切り替わって圧力損失が生じるようにある程度離れることが望ましい。また、隣り合うガス流れ抑制部20の間に燃料ガスが流入した際に、渦が生じるようにガス流れ抑制部20が構成されることが望ましい。
【0060】
また、本実施の形態は、電気化学セル1の動作時に、ガス流れ抑制部20と枠体122との間の距離が狭くなるようにガス流れ抑制部20を枠体122に向けて膨張させることを意図している。すなわち、ガス流れ抑制部20は、所定の温度以上になった際、熱膨張により枠体122に接触又は近接するように構成される。
【0061】
具体的には、ガス流れ抑制部20は、例えば常温(25℃)での電気化学セル1の非動作時に、言い換えると組立時に、枠体122から離れるように電極積層体10と枠体122との間の隙間に位置する。そして、上述したようにガス流れ抑制部20の線膨張係数は電解質10e、酸素極10c及び燃料極10aの線膨張係数よりも大きいが、さらに、枠体122の線膨張係数よりも大きく設定される。詳しくは、一例として、所定の温度時にガス流れ抑制部20が膨張する寸法と、所定の温度時に枠体122が膨張する寸法との差が、常温におけるガス流れ抑制部20と枠体122との距離以上なるように、ガス流れ抑制部20の線膨張係数と、枠体122の線膨張係数とが設定されている。これにより、図4に示すように、ガス流れ抑制部20は、所定の温度以上になった際に熱膨張により枠体122に接触し得る。
【0062】
図3を参照しつつ詳細に説明すると、図3における符号L1は、互いに対向する枠体122の内面間の距離を示す。符号L2は、燃料極側集電体14aの互いに対向する縁部に設けられたガス流れ抑制部20の先端間の距離を示す。ここで、((L1-L2)/2)により、常温におけるガス流れ抑制部20と枠体122との間の距離が算出される。そして、枠体122の線膨張係数をc1、ガス流れ抑制部20の線膨張係数をc2、所定の温度をTd、常温をTsとしたとき、本実施の形態では、((L1-L2)/2)-(c1×L1-c2×L2)×(Td-Ts)≧0という関係が成り立つように、ガス流れ抑制部20の線膨張係数と、枠体122の線膨張係数とが設定される。
【0063】
上述のようにガス流れ抑制部20を熱膨張させて枠体122に接触させる場合、ガス流れ抑制部20は、高温の運転状態で枠体122に接触しても、変形が許容されるか又は容易に座屈が起こり得るものであり、電極積層体10の変形を拘束せず又は電極積層体10に荷重を伝達しない構造であることが好ましい。この観点で、ガス流れ抑制部20はガス拡散性を有する構造体であって、比較的変形し易い、金属製のメッシュ、エキスパンドメタル、又は金属製の発泡体から形成されることが好ましく、例えばニッケルの発泡体が特に良い。
【0064】
また、ガス流れ抑制部20は、例えば常温(25℃)での電気化学セル1の非動作時に、言い換えると組立時に、枠体122から離れるため、枠体122と電極積層体10との組み立てを阻害しない。また、本実施の形態では、図1及び図2に示すように、ガス流れ抑制部20の頂面(封止板16と対面する面)も例えば常温(25℃)での電気化学セル1の非動作時に封止板16から離れるように位置する。ガス流れ抑制部20の頂面も、適正な組立への影響を回避するために封止板16から離れるように、言い換えると電解質10eを超えないように形成されることが望ましい。一方で、このようにガス流れ抑制部20の頂面が封止板16から離れる場合も、高温時にガス流れ抑制部20は熱膨張により封止板16に近づき得る。そのため、燃料ガスの流れは好適に抑制され得る。
【0065】
次に、本実施の形態に係る電気化学セル1の作用を説明する。
【0066】
セルスタックSをSOEC(固体酸化物形電解セル)として動作させる場合には、外部から燃料供給共有流路131に燃料ガスを導入する。SOECとして動作させる場合の燃料ガスは、例えば、水蒸気や二酸化炭素を少なくとも含むガスなどが挙げられる。この燃料ガスは、燃料供給分岐流路133からセル収容部12aに流入する。そして、燃料ガスは、燃料極側集電体14aの燃料ガス流路24aを通り、ここで燃料極多孔質基材10gで拡散されて、電極積層体10における燃料極10aに供給される。これにより、燃料ガスは、電極積層体10での電気分解反応の反応物として用いられる。電気分解反応の反応物として用いられなかった燃料ガスは、燃料供給分岐流路133と、燃料排出分岐流路134とを経て外部へ排出される。
【0067】
本実施の形態では、電極積層体10と枠体122との間に隙間が形成されるため、この隙間を燃料ガスが通過しようとする。ここでガス流れ抑制部20が設けられることにより、隙間における燃料ガスの流通が抑制される。特に本実施の形態では、電気化学セル1の動作時に、ガス流れ抑制部20と枠体122との隙間が狭くなるようにガス流れ抑制部20が枠体122に向けて熱膨張して枠体122に接触又は近接する。これにより、シール性能を向上できる。
【0068】
本実施の形態では電解質10eが固体酸化物であることで、電極積層体10と枠体122とを密着させることが困難であり、そのため、電極積層体10と枠体122との間に隙間が形成される。ここで、本実施の形態では電極積層体10とは異なる材料で作製されたガス流れ抑制部20が設けられることにより、容易に望ましいシール機能を付与できる。詳しくは、電極積層体10とは異なる材料、例えば加工性に優れる金属によりガス流れ抑制部20を作製することで、枠体122と接触しないサイズや大きさの又は枠体122に接触したとしても、電極積層体10に不所望な変形や内部応力を生じさせない態様のガス流れ抑制部20が容易に作製され得る。そのため、効果的にシール性能を付与することが可能となる。
【0069】
なお、セルスタックSをSOEC(固体酸化物形電解セル)として動作させる場合においても、上述と同様に、ガス流れ抑制部20によって効果的にシール性能を付与できる。
【0070】
以上に説明したように本実施の形態に係る電気化学セル1は、第1の面10e1及び第1の面10e1の反対に位置する第2の面10e2を有する電解質10eと、第1の面10e1に接する酸素極10cと、第2の面10e2に接する燃料極10aとを含む電極積層体10と、電極積層体10の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置し、電解質10e、酸素極10c及び燃料極10aとは異なる材料から形成されるガス流れ抑制部20と、を備える。
【0071】
以上の構成により、電気化学セル1は、電極積層体10が枠体122との間に隙間が形成されるように枠体122に囲まれた場合であっても、ガス流れ抑制部20によって、隙間を流通しようとする燃料ガスを抑制できる。そして、ガス流れ抑制部20は、電極積層体10とは異なる材料、例えば加工性に優れる金属により作製される。これにより、枠体122と接触しないサイズや大きさの又は枠体122に接触したとしても電極積層体10に不所望な変形や内部応力を生じさせない態様のガス流れ抑制部20が容易に作製され得る。したがって、本実施の形態に係る電気化学セル1によれば、電極積層体10とその周囲の部材である枠体122との接触に起因する電気化学セル1における不所望な内部応力や変形を抑制しつつ、電極積層体10とその周囲の部材である枠体122との間においてガスが流通することを抑制することができる。
【0072】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態に係る電気化学セル2について図5を参照しつつ説明する。第2の実施の形態の構成部分のうちの第1の実施の形態と同一のものには、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0073】
図5に示すように、本実施の形態における枠体122は、電極積層体10に向かって突出する複数の凸部30を備える。凸部30は、電極積層体10の側面のうちのガス流れ抑制部20が隣接する部分に向かって突出する。ただし、凸部30は、その先端が電極積層体10の側面から離れるように形成される。本実施の形態では、凸部30が一例として厚さが一定の矩形の板状であり、板面が積層方向Zに沿うように形成されている。
【0074】
また本実施の形態では、ガス流れ抑制部20と凸部30とが互い違いに並ぶように設けられている。凸部30は、ガス流れ抑制部20の先端と枠体122との間を通過する燃料ガスを阻止するように位置する。すなわち、凸部30は吹き抜けを防止する機能を有する。そして、ガス流れ抑制部20と凸部30とが互い違いに並ぶことにより、ガス流れ抑制部20の先端と枠体122との間を通過する燃料ガスは、その後、隣り合うガス流れ抑制部20と凸部30との間の空間で急縮小と急拡大とを繰り替えして、圧力損失を発生さ得る。これにより、ガス流れ抑制部20と枠体122との間の隙間における燃料ガスの流通が効果的に抑制される。ここで、隣り合うガス流れ抑制部20と凸部30との間の空間は、燃料ガスが流入した際に渦が発生し得るように構成されることが好ましい。
【0075】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、常温時に枠体122から離れて位置するガス流れ抑制部20が、所定の温度以上になった際、熱膨張により枠体122に接触又は近接するように構成されている。この際、本実施の形態では温度上昇時に仮にガス流れ抑制部20が枠体122に接しなかった場合でも、凸部30によって燃料ガスの流れが阻止される。これにより、シール性能を向上できる。
【0076】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態に係る電気化学セル3について図6を参照しつつ説明する。第3の実施の形態の構成部分のうちの第1及び第2の実施の形態と同一のものには、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0077】
図6に示すように、本実施の形態における電気化学セル1では、ガス流れ抑制部20が広い範囲にわたり電極積層体10の側面を覆う。すなわち、ガス流れ抑制部20は、電極積層体10の側面を周回する方向に延びる壁形状で形成されている。詳しくは、ガス流れ抑制部20は、電極積層体10の側面のうちの燃料供給共有流路131から燃料排出共有流路132に向かう方向に延びる部分を、部分的に又は全体的に覆うように形成されている。
【0078】
本実施の形態では、電気化学セル3の非動作時、例えば常温(25℃)においては、ガス流れ抑制部20は、枠体122から離れるように位置し、且つ、電気化学セル3の動作時においても、ガス流れ抑制部20と枠体122とが離れた状態が維持される。なお、第1の実施の形態のように、本実施の形態におけるガス流れ抑制部20も、所定の温度以上になった際、熱膨張により枠体122に接触又は近接するように構成されてもよい。
【0079】
本実施の形態においても、電極積層体10と枠体122との間に隙間における燃料ガスの流通を抑制できる。
【0080】
<電気化学セルの製造方法>
以下、製造方法の一例について図7を参照しつつ説明する。図7には、第1の実施の形態に係る電気化学セル1の製造手順が示されるが、第2及び第3の実施の形態に係る電気化学セルも同様の手順で製造され得る。
【0081】
ここで説明する例では、電極積層体10、特にガス流れ抑制部20と、枠体122との間に所望の隙間が形成されるように組立治具40が用いられる。組立治具40は、電極積層体10と枠体122との間の所望の隙間よりもわずかに小さい寸法を有するように形成された例えば直方体のブロックなどでもよい。
【0082】
図7(A)に示すように、まず、セパレータ12が準備された後、図7(B)に示すように、セパレータ12におけるベース部121上に、組立治具40が設置される。この際、組立治具40は、互いに対向する枠体122の2つの辺部のそれぞれに近接するように少なくとも2つ配置される。上記枠体122の2つの辺部は、組立後に、それぞれガス流れ抑制部20と対向する辺部である。
【0083】
つづいて、燃料極側集電体14aを、組立治具40に接触しないようにベース部121上に載せる。この状態で、燃料極側集電体14aがベース部121に接着剤などで接着される。これにより、燃料極側集電体14aが所望の位置で固定され、燃料極側集電体14aと一体のガス流れ抑制部20と枠体122との間の距離が所望の状態になる。
【0084】
その後、電極積層体10を、組立治具40及びガス流れ抑制部20に接触しないように燃料極側集電体14a上に載せる。この状態で、電極積層体10が燃料極側集電体14aに接着剤などで接着される。これにより、電極積層体10が所望の位置で固定され、電極積層体10と枠体122との間の隙間が所望の寸法になる。これにより、ガス流れ抑制部20を適正に機能させることができる。その後、組立治具40は、抜き出されるようにして取り外される。
【0085】
以上、各実施の形態を説明したが、上記実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述の実施の形態及びその他の変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0086】
例えば、上述の第1及び第2の実施の形態におけるガス流れ抑制部20は厚さが一定の板状であるが、ガス流れ抑制部20は枠体122に向かって先細りとなる形状などもよい。また、ガス流れ抑制部20はブロック状でもよい。
【0087】
また、上述の第1~第3の実施の形態では、ガス流れ抑制部20が燃料ガスの流通を抑制するように構成されているが、ガス流れ抑制部20は酸素の流通を抑制するように適用されてもよい。この場合、ガス流れ抑制部20は、酸素極10cと封止板16との間に配置される。この場合、ガス流れ抑制部20は、酸素極側集電体14cと一体化されてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1, 2,3…電気化学セル、10…電極積層体、10e…電解質、10e1…第1の面、10e2…第2の面、10c…酸素極、10a…燃料極、10g…燃料極多孔質基材、12…セパレータ、12a…セル収容部、121…ベース部、122…枠体、131…燃料供給共有流路、132…燃料排出共有流路、133…燃料供給分岐流路、134…燃料排出分岐流路、135…酸素供給共有流路、136…酸素排出共有流路、137…酸素供給分岐流路、138…酸素排出分岐流路、14a…燃料極側集電体、14c…酸素極側集電体、16…封止板、18…シール材、20…ガス流れ抑制部、30…凸部、40…組立治具、S…セルスタック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-01-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面及び前記第1の面の反対に位置する第2の面を有する電解質と、前記第1の面に接する酸素極と、前記第2の面に接する燃料極とを含む電極積層体と、
前記電極積層体の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置し、前記電解質、前記酸素極及び前記燃料極とは異なる材料から形成されるガス流れ抑制部と、を備える、電気化学セル。
【請求項2】
前記ガス流れ制御部は、前記電極積層体と一体化されている、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記ガス流れ制御部は、前記電解質、前記酸素極及び前記燃料極の線膨張係数よりも大きい線膨張係数を有する材料から形成される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記ガス流れ抑制部は、ガス拡散性を有する金属からなる、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記電気化学セルは、複数の前記ガス流れ抑制部を備え、
複数の前記ガス流れ抑制部は、前記電極積層体の側面を周回する方向に沿って間隔を空けて設けられる、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記ガス流れ抑制部は、前記電極積層体の側面を周回する方向に延びる壁形状で形成されている、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記電解質と前記酸素極と前記燃料極とが重なる方向で、前記酸素極又は前記燃料極に接するシート状の部材を備え、
前記シート状の部材と前記ガス流れ抑制部とが、一体化されている、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記シート状の部材及び前記ガス流れ抑制部は、ガス拡散性を有する金属からなる、請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記シート状の部材は導電性を有し、集電体として機能する、請求項7又は8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記電解質と前記酸素極と前記燃料極とが重なる方向で、前記電極積層体と重なるベース部を含むセパレータと、
前記電極積層体の側面を囲む枠体と、を備え、
前記電極積層体の側面と前記枠体との間には隙間が形成され、
前記ガス流れ抑制部は、前記電極積層体の側面と少なくとも部分的に隣り合うとともに前記枠体から離れるように前記隙間に位置する、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記ガス流れ抑制部は、所定の温度以上になった際、熱膨張により前記枠体に接触又は近接する、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記ガス流れ制御部の線膨張係数は、前記枠体の線膨張係数よりも大きい、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記枠体は、前記電極積層体に向かって突出する複数の凸部を備え、
前記ガス流れ抑制部と、前記凸部とは、互い違いに並ぶように設けられる、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記枠体は、前記セパレータの一部であり、前記ベース部の外周側の部分に一体化されている、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記電解質は、固体電解質である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項16】
電気化学セルの電極積層体における電解質と酸素極と燃料極とが重なる方向で、前記酸素極又は前記燃料極に接するように配置される集電体であって、
前記電極積層体の側面と少なくとも部分的に隣り合うように位置するガス流れ抑制部を備える、集電体。
【請求項17】
請求項1に記載の複数の電気化学セルを重ねた、セルスタック。