(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132512
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】水中探知装置、送受波器の故障判定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/52 20060101AFI20240920BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01S7/52 U
H04R3/00 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043304
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】高力 圭太
(72)【発明者】
【氏名】西久保 大輔
【テーマコード(参考)】
5D019
5J083
【Fターム(参考)】
5D019AA27
5D019FF02
5J083AA02
5J083AB01
5J083AC27
5J083BA01
5J083BB02
5J083CA01
5J083CB01
5J083EB12
(57)【要約】
【課題】送受波器の故障を早期かつ安定的に判定することが可能な水中探知装置、送受波器の故障判定方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】魚群探知装置100(水中探知装置)は、送受波器2に供給される送信電圧を測定する送信電圧測定回路109と、送受波器2に供給される送信電流を測定する送信電流測定回路110と、制御回路101と、を備える。制御回路101は、実動作時に測定された送信電圧および送信電流から送受波器2のインピーダンスを算出し、算出したインピーダンスに基づいて送受波器2が正常であるか否かを判定する第1判定処理と、送受波器2からの受信信号に基づくエコー強度に基づいて送受波器2が正常であるか否かを判定する第2判定処理との両方において、送受波器2が正常でないと判定したことに基づいて、送受波器2に故障が生じたと判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受波器に供給される送信電圧を測定する送信電圧測定回路と、
前記送受波器に供給される送信電流を測定する送信電流測定回路と、
制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
実動作時に測定された前記送信電圧および前記送信電流から前記送受波器のインピーダンスを算出し、
算出した前記インピーダンスに基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第1判定処理と、前記送受波器からの受信信号に基づくエコー強度に基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第2判定処理との両方において、前記送受波器が正常でないと判定したことに基づいて、前記送受波器の故障が生じたと判定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水中探知装置において、
前記制御回路は、前記第1判定処理により前記送受波器が正常であると判定できなかった場合に、前記第2判定処理を実行する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項3】
請求項1に記載の水中探知装置において、
前記制御回路は、
初期動作時に測定された前記送信電圧および前記送信電流から前記送受波器の初期インピーダンスを算出し、
前記第1判定処理において、前記実動作時に取得した前記インピーダンスと、前記初期インピーダンスとに基づいて、前記送受波器が正常であるか否かを判定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項4】
請求項3に記載の水中探知装置において、
前記制御回路は、
前記初期インピーダンスに基づいて、前記送受波器が正常であると判定するための閾値範囲を設定し、
前記第1判定処理において、前記実動作時に取得した前記インピーダンスが前記閾値範囲に含まれるか否かに基づいて、前記送受波器が正常であるか否かを判定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項5】
請求項4に記載の水中探知装置において、
前記制御回路は、
前記送受波器が正常であると判定される標準的なインピーダンス範囲と、前記初期インピーダンスとに基づいて、前記閾値範囲を設定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項6】
請求項5に記載の水中探知装置において、
前記制御回路は、
標準的なインピーダンスに対する前記初期インピーダンスの比率が1以上である場合、前記標準的なインピーダンス範囲を前記比率により修正して前記閾値範囲を算出し、
前記標準的なインピーダンスに対する前記初期インピーダンスの比率が1未満である場合、前記標準的なインピーダンス範囲を前記閾値範囲に設定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項7】
請求項1に記載の水中探知装置において、
前記制御回路は、
水上の所定の判定位置において、前記送受波器からの受信信号に基づくエコー強度を初期エコー強度として取得し、
前記第2判定処理において、前記実動作時に前記判定位置において取得した前記エコー強度と、前記初期エコー強度とに基づいて、前記送受波器が正常であるか否かを判定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項8】
請求項7に記載の水中探知装置において、
前記制御回路は、
前記実動作時に取得した前記エコー強度と前記初期エコーとの差が所定の閾値以下であるか否かに基づいて、前記送受波器が正常であるか否かを判定する、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項9】
請求項8に記載の水中探知装置において、
前記判定位置は、当該水中探知装置が設置された船の係留位置とされる、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項10】
請求項2に記載の水中探知装置において、
前記制御回路は、
前記第1判定処理において正常と判定できなかったことに基づいて故障の潜在性に関する報知を行い、
前記第2判定処理において正常と判定できなかったことに基づいて故障に関する報知を行う、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項11】
水中探知装置が実行する送受波器の故障判定方法であって、
実動作時において、送受波器に供給される送信電圧および送信電流を測定し、
測定した前記送信電圧および前記送信電流から前記送受波器のインピーダンスを算出し、
算出した前記インピーダンスに基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第1判定処理と、前記送受波器からの受信信号に基づくエコー強度に基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第2判定処理との両方において、前記送受波器が正常でないと判定したことに基づいて、前記送受波器の故障が生じたと判定する、
ことを特徴とする送受波器の故障判定方法。
【請求項12】
送受波器に供給される送信電圧を測定する送信電圧測定回路と、前記送受波器に供給される送信電流を測定する送信電流測定回路と、を備える水中探知装置の制御回路
に、
実動作時に測定された前記送信電圧および前記送信電流から前記送受波器のインピーダンスを算出する機能と、
算出した前記インピーダンスに基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第1判定機能と、
前記送受波器からの受信信号に基づくエコー強度に基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第2判定機能と、
前記第1判定機能および前記第2判定機能の両方において、前記送受波器が正常でないと判定したことに基づいて、前記送受波器の故障が生じたと判定する機能と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の状態を探知する水中探知装置、水中探知装置が実行する送受波器の故障判定方法、および水中探知装置の制御回路に所定の機能を実行させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中の状態を探知する水中探知装置が知られている。水中探知装置では、水中に超音波が送波され、その反射波が受波される。受波された反射波の強度に応じたエコーデータが生成され、生成されたエコーデータに基づいてエコー画像が表示される。
【0003】
この種の水中探知装置では、品質および特性維持等の観点から、装置の欠陥が判定される。この判定では、たとえば、送受波器に供給される送信電圧および送信電流が測定され、測定された送信電圧および送信電流から送受波器のインピーダンスが算出される。そして、算出されたインピーダンスが予め定められた値に比べて異常に低すぎるかまたは高すぎる場合に、そのことが提示される。
【0004】
このような構成が、以下の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の判定方法では、送受波器のインピーダンスが異常に低いか高いかが欠陥の判定基準とされるため、欠陥がかなり進んだ状態でないと故障の発生を判定できない。
【0007】
かかる課題に鑑み、本発明は、送受波器の故障を早期かつ安定的に判定することが可能な水中探知装置、送受波器の故障判定方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、水中探知装置に関する。本態様に係る水中探知装置は、送受波器に供給される送信電圧を測定する送信電圧測定回路と、前記送受波器に供給される送信電流を測定する送信電流測定回路と、制御回路と、を備える。前記制御回路は、実動作時に測定された前記送信電圧および前記送信電流から前記送受波器のインピーダンスを算出し、算出した前記インピーダンスに基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第1判定処理と、前記送受波器からの受信信号に基づくエコー強度に基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第2判定処理との両方において、前記送受波器が正常でないと判定したことに基づいて、前記送受波器に故障が生じたと判定する。
【0009】
送受波器のインピーダンスや、受信信号に基づくエコー強度は、水中の状態等、送受波器の使用環境により変化しやすい。このため、送受波器の故障判定がインピーダンスによる判定およびエコー強度による判定の何れか一方のみにより行われる場合、インピーダンスまたはエコー強度が正常値に比べて異常に高いか低いかによってしか、故障判定を正確に行い得ない。
【0010】
これに対し、本態様に係る水中探知装置によれば、上記のように、送受波器のインピーダンスに基づく第1判定処理において送受波器が正常であると判定できず、且つ、エコー強度に基づく第2判定処理において送受波器が正常であると判定できなかったことに基づいて、送受波器に故障が生じたと判定される。このように、2種類の判定が相補的に用いられるため、各々の判定基準を厳格に設定しなくとも、安定的かつ適正に、送受波器における故障の有無を判定できる。よって、早期かつ安定的に、送受波器の故障を判定できる。
【0011】
本態様に係る水中探知装置において、前記制御回路は、前記第1判定処理により前記送受波器が正常であると判定できなかった場合に、前記第2判定処理を実行するよう構成され得る。
【0012】
この構成によれば、第1判定処理により送受波器が正常であると判定できた場合は、第2判定処理の実行をスキップできる。よって、故障判定の精度を維持しつつ、故障の判定処理を簡素にできる。
【0013】
本態様に係る水中探知装置において、前記制御回路は、初期動作時に測定された前記送信電圧および前記送信電流から前記送受波器の初期インピーダンスを算出し、前記第1判定処理において、前記実動作時に取得した前記インピーダンスと、前記初期インピーダンスとに基づいて、前記送受波器が正常であるか否かを判定する。
【0014】
この構成によれば、初期動作時に測定された初期インピーダンスが第1判定処理において加味されるため、送受波器ごとに生じる固有の特性誤差に応じて、インピーダンスによる故障の判定基準を適正に設定できる。よって、第1判定処理による信頼性を高めることができ、結果、送受波器の故障判定精度を高めることができる。
【0015】
この構成において、前記制御回路は、前記初期インピーダンスに基づいて、前記送受波器が正常であると判定するための閾値範囲を設定し、前記第1判定処理において、前記実動作時に取得した前記インピーダンスが前記閾値範囲に含まれるか否かに基づいて、前記送受波器が正常であるか否かを判定するよう構成され得る。
【0016】
この構成によれば、実動作時に取得したインピーダンスが、初期インピーダンスを加味して設定された閾値範囲に含まれるか否かにより、送受波器が正常であるか否かを円滑に判定できる。
【0017】
この場合、前記制御回路は、前記送受波器が正常であると判定される標準的なインピーダンス範囲と、前記初期インピーダンスとに基づいて、前記閾値範囲を設定するよう構成され得る。
【0018】
たとえば、前記制御回路は、前記送受波器の標準的なインピーダンスに対する前記初期インピーダンスの比率が1以上である場合、前記標準的なインピーダンス範囲を前記比率により修正して前記閾値範囲を算出し、前記標準的なインピーダンスに対する前記初期インピーダンスの比率が1未満である場合、前記標準的なインピーダンス範囲を前記閾値範囲に設定するよう構成され得る。
【0019】
この構成によれば、送受波器が正常であると判定される標準的なインピーダンス範囲を用いて、簡易かつ適正に、閾値範囲を設定できる。
【0020】
本態様に係る水中探知装置において、前記制御回路は、水上の所定の判定位置において、前記送受波器からの受信信号に基づくエコー強度を初期エコー強度として取得し、前記第2判定処理において、前記実動作時に前記判定位置において取得した前記エコー強度と、前記初期エコー強度とに基づいて、前記送受波器が正常であるか否かを判定するよう構成され得る。
【0021】
この構成によれば、環境条件が揃い易い同一の判定位置から取得された初期エコー強度と実動作時のエコー強度とにより第2判定処理が行われるため、第2判定処理により、送受波器が正常であるか否かを適正に判定できる。
【0022】
この場合、前記制御回路は、前記第2判定処理において、前記実動作時に取得した前記エコー強度と前記初期エコーとの差が所定の閾値以下であるか否かに基づいて、前記送受波器が正常であるか否かを判定するよう構成され得る。
【0023】
送受波器に故障が生じると、初期動作時に取得されるエコー強度と実動作時に取得されるエコー強度との差が大きくなりやすい。したがって、上記構成によれば、送受波器が正常であるか否かを円滑に判定できる。
【0024】
なお、上述の判定位置は、当該水中探知装置が設置された船の係留位置とされることが好ましい。
【0025】
船の係留位置は、比較的水深が浅く、水中の環境条件が変化しにくい。このため、上記のように、船の係留位置が判定位置に設定されることにより、初期エコー強度および実動作時のエコー強度を取得する際の環境条件が、さらに揃いやすくなる。よって、エコー強度に基づく第2判定処理をより精度良く行うことができ、結果、送受波器の故障判定精度を高めることができる。
【0026】
本態様に係る水中探知装置において、前記制御回路は、前記第1判定処理において正常と判定できなかったことに基づいて故障の潜在性に関する報知を行い、前記第2判定処理において正常でないと判定されたことに基づいて故障に関する報知を行うよう構成され得る。
【0027】
この構成によれば、使用者は、故障の発生のみならず、故障の発生前における故障の潜在性を把握できる。よって、送受波器の故障に備えて然るべき対応をとることができる。
【0028】
本発明の第2の態様は、水中探知装置が実行する送受波器の故障判定方法に関する。この態様に係る送受波器の故障判定方法は、実動作時において、送受波器に供給される送信電圧および送信電流を測定し、測定した前記送信電圧および前記送信電流から前記送受波器のインピーダンスを算出し、算出した前記インピーダンスに基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第1判定処理と、前記送受波器からの受信信号に基づくエコー強度に基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第2判定処理との両方において、前記送受波器が正常でないと判定したことに基づいて、前記送受波器に故障が生じたと判定する。
【0029】
本態様に係る送受波器の故障判定方法によれば、上記第1の態様と同様の効果が奏され得る。
【0030】
本発明の第3の態様は、送受波器に供給される送信電圧を測定する送信電圧測定回路と、前記送受波器に供給される送信電流を測定する送信電流測定回路と、を備える水中探知装置の制御回路に、所定の機能を実行させるプログラムに関する。この態様に係るプログラムは、実動作時に測定された前記送信電圧および前記送信電流から前記送受波器のインピーダンスを算出する機能と、算出した前記インピーダンスに基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第1判定機能と、前記送受波器からの受信信号に基づくエコー強度に基づいて前記送受波器が正常であるか否かを判定する第2判定機能と、前記第1判定機能および前記第2判定機能の両方において、前記送受波器が正常でないと判定したことに基づいて、前記送受波器に故障が生じたと判定する機能とを、前記制御回路に実行させる。
【0031】
本態様に係るプログラムによれば、上記第1の態様と同様の効果が奏され得る。
【発明の効果】
【0032】
以上のとおり、本発明によれば、送受波器の故障を早期かつ安定的に判定することが可能な水中探知装置、送受波器の故障判定方法およびプログラムを提供することができる。
【0033】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、実施形態に係る、魚群探知装置の使用形態を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る、魚群探知装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る、初期動作時に制御回路が実行する閾値範囲の設定処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態に係る、初期エコー強度の設定処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態に係る、送受波器のインピーダンスに基づいて送受波器が正常であるか否かを判定する第1判定処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施形態に係る、送受波器の受信信号から取得したエコー強度に基づいて送受波器が正常であるか否かを判定する第2判定処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、それぞれ、制御回路における報知処理を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、変更例に係る、送受波器のインピーダンスに基づいて送受波器が正常であるか否かを判定する第1判定処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、変更例に係る、送受波器の受信信号から取得したエコー強度に基づいて送受波器が正常であるか否かを判定する第2判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態では、水中探知装置の一例として、魚群探知装置が示されている。
【0036】
【0037】
本実施形態では、船1の船底に送受波器2が設置され、送受波器2から水中に送信ビーム3(超音波)が送波される。送信ビーム3は、頂角が小さい円錐の形状で、鉛直下方向にパルス状に送波される。送信ビーム3は、水底4や魚群5により反射され、反射波(エコー)が、送受波器2で受波される。1回の送信ビーム3の送波に基づく反射波の受信信号により、水深方向の探知範囲に受信信号の信号強度(エコー強度)が分布するエコーデータが生成される。
【0038】
所定時間分のエコーデータが蓄積されることにより、水深方向における信号強度(エコー強度)の分布を示すエコー画像が生成される。エコー画像には、各物標からのエコーの強度分布が含まれる。生成された水中のエコー画像は、船1の操舵室等に設置された表示部に表示される。これにより、ユーザは、水中に存在する物標(水底4や魚群5など)を確認できる。
【0039】
図2は、魚群探知装置100の構成を示すブロック図である。
【0040】
魚群探知装置100は、
図1に示した送受波器2とともに、制御回路101と、メモリ102と、送信回路103と、受信回路104と、切替回路105と、入力部106と、表示部107と、位置検出部108と、送信電圧測定回路109と、送信電流測定回路110と、を備える。
【0041】
制御回路101、メモリ102、送信回路103、受信回路104、切替回路105、入力部106、表示部107、送信電圧測定回路109および送信電流測定回路110は、船1の操舵室等に設置される。送受波器2を除く構成が、1つの筐体にユニット化されてもよく、あるいは、表示部107等の一部の構成要素が別体とされてもよい。切替回路105は、信号ケーブルによって、送受波器2に通信可能に接続される。
【0042】
送受波器2は、超音波の送波に用いられる送波素子と、超音波の受波に用いられる受波素子と、を備える。本実施形態では、送受波器2の送波素子および受波素子が、1つの超音波振動子21により構成されている。
【0043】
送信回路103は、制御回路101から入力される制御信号から超音波振動子21を駆動するための送信信号を生成し、生成した送信信号を、切替回路105を介して送受波器2の超音波振動子21に出力する。
【0044】
より詳細には、制御回路101は、所定の制御周波数で矩形に振幅する周波数制御信号と、制御電圧を規定する電圧制御信号とを、上述の制御信号として送信回路103に出力する。送信回路103は、入力された周波数制御信号の制御周波数と同様の周波数を有し、且つ、入力された電圧制御信号の制御電圧と同様の送信電圧を有する送信信号を生成する。送信回路103は、生成した送信信号を、切替回路105を介して超音波振動子21に出力する。
【0045】
超音波振動子21は、入力された送信信号に基づいて水中に超音波(送信ビーム3)を送波する。また、超音波振動子21は、送波した超音波の反射波を受波し、反射波の強度に応じた大きさの受信信号を、切替回路105を介して受信回路104に出力する。切替回路105は、超音波振動子21に対する信号の送受を切り替える。
【0046】
受信回路104は、超音波振動子21からの受信信号から送波の周波数成分を抽出するフィルタや、受信信号を増幅するための増幅回路を備える。受信回路104は、フィルタにより抽出した周波数成分の受信信号に基づいて、深度ごとのエコー強度を示すエコーデータを生成する。具体的には、受信回路104は、超音波(送信ビーム3)を送波したタイミングからの経過時間と、反射波の強度とを対応付けたデータをエコーデータとして生成し、生成したエコーデータを制御回路101に出力する。
【0047】
ここで、超音波を送信したタイミングからの経過時間は、深度に対応する。なお、反射波の強度は、深度が大きくなるほど減衰する。したがって、受信回路104は、経過時間に応じて減衰する反射波の強度を補正し、強度を補正したエコーデータを制御回路101に出力する。
【0048】
制御回路101は、CPU等の演算処理回路や、FPGA等の集積回路により構成される。メモリ102は、ROM、RAM、ハードディスク等により構成される。メモリ102には、各種のプログラムや情報が記憶されている。これらプログラムには、エコーデータを処理して画像を生成する機能、および、送受波器2の故障を判定するための機能を制御回路101(コンピュータ)に実行させるプログラムが含まれている。
【0049】
メモリ102は、制御回路101の処理の際にワーク領域としても用いられる。制御回路101は、メモリ102に記憶されたプログラムにより各部を制御する。送受波器2の故障を判定するための処理は、追って、
図3~
図6を参照して説明する。
【0050】
また、メモリ102には、同種(同じ型式)の送受波器2の標準的なインピーダンスZsや、同種(同じ型式)の送受波器2が正常であると判定される標準的なインピーダンス範囲ΔZsに関する情報が記憶されている。これらの情報は、送受波器2のメーカから提供される。使用者は、これらの情報を、入力部106から入力してよい。あるいは、これらの情報が送受波器2内のメモリ(図示せず)に保持され、制御回路101が、送受波器2との初期通信時等において、このメモリに保持されているこれらの情報を送受波器2から取得してもよい。
【0051】
入力部106は、マウスやキーボード等の入力手段により構成され、ユーザからの入力を受け付ける。入力部106は、表示部107に一体化されたタッチパネルであってもよい。表示部107は、CRTモニタや液晶パネル等の表示器により構成され、制御回路101によって生成された画像を表示する。上述のように、表示部107には、エコーデータに基づいて生成されたエコー画像が表示される。
【0052】
制御回路101は、超音波(送信ビーム3)の送波タイミングごとに、深度とエコー強度とを対応づけたエコーデータを取得する。制御回路101は、連続的に取得した1フレーム分のエコーデータに基づいて、エコー画像を生成し、表示部107に表示させる。エコー画像は、エコーグラムと呼ばれることもある。
【0053】
エコー画像は、深度と時間とを2軸とする座標領域にエコー強度が分布する画像である。エコー画像では、画素ごとに、反射波の信号強度に応じた階調で色付けまたは濃淡付けが施される。漁師等のユーザは、表示部107に表示されたエコー画像を参照することで、水中における魚群の位置および範囲を把握できる。
【0054】
送信電圧測定回路109は、送信回路103から送受波器2(超音波振動子21)に供給される送信電圧を測定する。送信電流測定回路110は、送信回路103から送受波器2(超音波振動子21)に供給される送信電流を測定する。送信電圧測定回路109および送信電流測定回路110の構成は、電源回路等の送信電圧および送信電流の測定に用いられる送信電圧測定回路および送信電流測定回路の構成と同様である。送信電圧測定回路109および送信電流測定回路110は、送受波器2(超音波振動子21)に供給されることが想定され得る送信電圧および送信電流の大きさに適合するように、各素子のパラメータ(抵抗値等)が調整されている。
【0055】
本実施形態では、送信電圧測定回路109および送信電流測定回路110により測定された送信電圧および送信電流と、受信信号に基づくエコー強度とによって、送受波器2の故障を判定するための処理が実行される。より詳細には、実動作時に取得される送信電圧および送信電流から送受波器2のインピーダンスが測定され、この測定結果とエコー強度とによって、送受波器2の故障の有無が判定される。
【0056】
図3は、初期動作時に制御回路101が実行する閾値範囲の設定処理を示すフローチャートである。
【0057】
ここで、初期動作時とは、送受波器2および魚群探知装置100が船1に設置された後、送受波器2が実質的に最初に駆動されたタイミングのことである。初期動作時は、送受波器2が最初に駆動されたタイミングであってよく、あるいは、最初に駆動された後、数日または数週間が経過した送受波器2の動作タイミングであってもよい。
【0058】
なお、送受波器2が交換された場合は、交換後、送受波器2が実質的に最初に駆動されたタイミングが初期動作時となる。また、送受波器2以外の魚群探知装置100が新たに設置され、送受波器2は従前のものがそのまま利用される場合は、その後、送受波器2が実質的に最初に駆動されたタイミングが初期動作時となる。
【0059】
制御回路101は、初期動作時に送信電圧測定回路109および送信電流測定回路110によってそれぞれ測定された送信電圧および送信電流から、送受波器2の初期インピーダンスZ0(送信電圧/送信電流)を算出する(S101)。制御回路101は、メモリ102に記憶されている送受波器2の標準的なインピーダンスZsを参照し、標準的なインピーダンスZsに対する初期インピーダンスZ0の比率R0(すなわち、R0=Z0/Zs)を算出する(S102)。制御回路101は、算出した比率R0が1以上であるか否かを判定する(S103)。
【0060】
比率R0が1以上である場合(S103:YES)、制御回路101は、メモリ102に記憶されている標準的なインピーダンス範囲ΔZsを参照し、標準的なインピーダンス範囲ΔZsを比率R0により修正した範囲を、送受波器2が正常であるか否かを判定するための閾値範囲ΔZrに設定する(S104)。他方、比率R0が1未満である場合(S103:NO)、制御回路101は、メモリ102に記憶されている標準的なインピーダンス範囲ΔZsを、そのまま、正常判定のための閾値範囲ΔZrに設定する(S105)。制御回路101は、ステップS104またはステップS105により設定した閾値範囲ΔZrを、メモリ102に記憶させる。
【0061】
ここで、ステップS104では、以下の演算により閾値範囲ΔZrが設定される。すなわち、インピーダンス範囲ΔZsの中間値Zs0に比率R0が乗じられて、閾値範囲ΔZrの中間値Zr0が設定される。そして、この中間値Zr0を中心にインピーダンス範囲ΔZsと同じ幅の範囲が閾値範囲ΔZrとして設定される。たとえば、インピーダンス範囲ΔZsが、その中間値Zs0を中心に±ΔZの範囲である場合、閾値範囲ΔZrの中間値Zr0はZs0×R0の値に設定され、この中間値Zr0を中心に±ΔZの範囲が、閾値範囲ΔZrに設定される。
【0062】
なお、上述の比率R0が1未満の場合、すなわち、初期インピーダンスZ0が標準のインピーダンスZsより小さい場合は、標準のインピーダンスZsの場合よりも、送受波器2に電流が流れやすくなり、送受波器2に損傷が生じやすい。このため、比率R0が1未満の場合においても、ステップS104によって、標準的なインピーダンス範囲ΔZsを比率R0により修正して閾値範囲ΔZrが設定されると、設定された閾値範囲ΔZrもまた標準のインピーダンス範囲ΔZsより小さくなり、後述の
図5の判定処理(第1判定処理)において、送受波器2に大きな電流が流れる状態が正常であると判定されやすくなる。その結果、
図5の処理おいて送受波器2が正常であるとされる状態が、送受波器2に損傷が生じやすい状態となってしまう。
【0063】
このような問題が生じないよう、
図3のフローチャートでは、上述の比率R0が1未満の場合は(S303:NO)、標準的なインピーダンス範囲ΔZsが、そのまま正常判定のための閾値範囲ΔZrに設定される。これにより、送受波器2に大きな電流が流れて送受波器2に損傷が生じることを抑制できる。
【0064】
図4は、初期エコー強度の設定処理を示すフローチャートである。
【0065】
制御回路101は、水上の所定の判定位置(経度、緯度)において、送受波器2から最初に出力された受信信号に基づくエコー強度を、初期エコー強度E0として取得する(S201)。初期エコー強度E0は、予め決められた送信パワー(参照送信パワー)で送受波器2から超音波を送波したときの、所定の深度(参照深度)からのエコー強度として取得される。たとえば、参照深度は水底の深度とされる。この場合、初期エコー強度E0は、参照送信パワーで超音波を送波したときの、水底からの反射波のエコー強度とされる。制御回路101は、取得した初期エコー強度E0をメモリ102に記憶させる(S202)。
【0066】
ここで、ステップS201の判定位置は、当該魚群探知装置100が設置された船1が頻繁に通る航路上の位置(経度、緯度)に設定されることが好ましい。判定位置は、制御回路101が、位置検出部108により検出された位置(経度、緯度)の履歴に基づいて設定され得る。あるいは、使用者がマニュアルで、判定位置を設定してもよい。たとえば、船1が頻繁に通る航路上において、使用者が入力部106を介して設定入力を行ったタイミングで位置検出部108により検出された位置(経度、緯度)が、判定位置に設定されてもよい。
【0067】
但し、判定位置は、船1が停止する位置であることが好ましく、港内において船1が通常係留される位置であることがさらに好ましい。船1が停止した状態では、エコー強度が気泡等の影響を受けにくいため、初期エコー強度E0とエコー強度Erとがそれぞれ取得される環境条件を互いに近づけることができる。また、判定位置が港内の係留位置である場合は、初期エコー強度E0とエコー強度Erとを、ほぼ同様の環境条件で取得できる。このため、後述の
図6の判定処理(第2判定処理)を精度良く行うことができる。
【0068】
なお、判定位置が係留位置である場合、判定位置は、必ずしも、位置検出部108で検出された位置として特定されなくてもよく、たとえば、船1の出航準備の際に、使用者が魚群探知装置100を起動したことに応じて、魚群探知装置100および送受波器2が判定位置にあると判定されてもよい。
【0069】
初期エコー強度E0の取得タイミングは、送受波器2および魚群探知装置100が船1に設置された後、送受波器2が最初に判定位置で駆動されて、超音波の反射波が送受波器2により受波されたタイミングである。送受波器2が交換された場合は、交換後、送受波器2が最初に判定位置で駆動されて取得されたエコー強度が、初期エコー強度E0として取得される。また、送受波器2以外の魚群探知装置100が新たに設置され、送受波器2は従前のものがそのまま利用される場合は、その後、送受波器2が最初に判定位置で駆動されて取得されたエコー強度が、初期エコー強度E0として取得される。
【0070】
図3における初期インピーダンスZ0および閾値範囲ΔZrの設定と、
図4における初期エコー強度E0の取得および記憶は、送受波器2の通常動作時に行われてよく、あるいは、通常動作時とは別のタイミングで行われてもよい。
【0071】
たとえば、船1の係留位置においてこれらの処理が行われる場合、すなわち、係留位置が上述の判定位置である場合、制御回路101は、魚群探知装置100が起動された直後に、これらの処理のために、参照送信パワーで送受波器2から超音波を送波させて、初期インピーダンスZ0および初期エコー強度E0を取得する。そして、この処理の後、制御回路101は、通常の動作状態(送信パワー)で送受波器2を動作させる。
【0072】
なお、通常動作時に初期エコー強度E0の取得処理が行われる場合は、通常動作時の送信パワーが上述の参照送信パワーに一致しない場合が起こり得る。この場合、この処理を行う際の送信パワーと参照送信パワーとの比に基づいて、この処理により取得されたエコー強度(たとえば、水底からのエコー強度)が参照送信パワーに対応する強度に変換される。そして、変換後のエコー強度が、初期エコー強度E0として取得される。
【0073】
図5は、送受波器2のインピーダンスに基づいて送受波器2が正常であるか否かを判定する第1判定処理を示すフローチャートである。
【0074】
制御回路101は、実動作時に送信電圧測定回路109および送信電流測定回路110によりそれぞれ測定された送信電圧および送信電流から送受波器2のインピーダンスZrを算出し(S301)、算出したインピーダンスZrと、
図3の処理により設定した閾値範囲ΔZrとを比較する(S302)。ここで、実動作時とは、
図3および
図4の初期設定動作が完了した後に、魚群探知装置100が通常の動作を行う期間のことである。
【0075】
インピーダンスZrが閾値範囲ΔZrに含まれる場合(S303:YES)、制御回路101は、送受波器2は正常であると判定する(S304)。他方、インピーダンスZrが閾値範囲ΔZrに含まれない場合(S303:NO)、制御回路101は、送受波器2は、故障の可能性があるとするグレーゾーン判定を行う(S305)。
【0076】
制御回路101は、
図5の第1判定処理を、魚群探知装置100の実動作時に、所定の周期で繰り返し実行する。制御回路101は、各回の判定処理において、ステップS304の判定結果またはステップS305の判定結果を取得する。制御回路101は、これらの判定処理の少なくとも1回において、ステップS305のグレーゾーン判定が得られると、エコー強度に基づく第2判定処理を実行する。
【0077】
あるいは、制御回路101は、ステップS305のグレーゾーン判定が所定回数繰り返し得られた場合、または、ステップS305のグレーゾーン判定の頻度が所定の閾値を超えた場合に、送受波器2に故障が生じた可能性が高いとして、エコー強度に基づく第2判定処理を実行してもよい。
【0078】
図6は、送受波器2の受信信号から取得したエコー強度に基づいて送受波器2が正常であるか否かを判定する第2判定処理を示すフローチャートである。
【0079】
制御回路101は、実動作時に、判定位置において、送受波器2からの受信信号に基づくエコー強度Erを取得する(S401)。
【0080】
たとえば、判定位置が係留位置である場合、制御回路101は、位置検出部108の検出結果から、船1が港に帰港して係留位置に停止したと判定したタイミングにおいて、参照送信パワーで送受波器2に送波を行わせる。あるいは、制御回路101は、船1が港に帰港して係留され、魚群探知装置100の電源が落とされた後、次の出航の際に、魚群探知装置100が起動されたタイミングにおいて、参照送信パワーで送受波器2に送波を行わせる。制御回路101は、この送波の反射波により送受波器2から出力された受信信号に基づくエコー強度のうち、参照深度のエコー強度(たとえば、水底からのエコー強度)を実動作時のエコー強度Erとして取得する。
【0081】
なお、判定位置が、船1が頻繁に通る航路上に設定されている場合、制御回路101は、位置検出部108の検出結果から、船1がその判定位置に到達したタイミングで送受波器2から出力された受信信号に基づく参照深度のエコー強度(たとえば、水底からのエコー強度)を実動作時のエコー強度Erとして取得する。
【0082】
この場合、判定位置における送受波器2の送信パワーが参照送信パワーからずれていれば、制御回路101は、その送信パワーと参照送信パワーとの比に基づいて、今回、判定位置から取得した参照深度のエコー強度(たとえば、水底からのエコー強度)を、参照送信パワーに対応する強度に変換する。そして、制御回路101は、変換後のエコー強度を、実動作時のエコー強度Erとして取得する。
【0083】
制御回路101は、取得したエコー強度Erと、
図4の処理により取得した初期エコー強度E0とを比較する(S402)。エコー強度Erと初期エコー強度E0との差が、所定の閾値以下である場合(S403:YES)、制御回路101は、送受波器2は正常であると判定する(S404)。他方、エコー強度Erと初期エコー強度E0との差がこの閾値以下でない場合(S403:NO)、制御回路101は、送受波器2に故障が生じていると判定する(S405)。これにより、制御回路101は、
図6の処理を終了する。
【0084】
ここで、ステップS403の閾値は、送受波器2に故障が生じているか否かを判定可能な値に設定される。たとえば、エコー強度Erと初期エコー強度E0との差がデシベル単位で取得される場合、ステップS403の閾値Ethは、上述の標準的なインピーダンス範囲ΔZsの上限値Zmaxと下限値Zminを用いて、以下の式により取得され得る。
【0085】
Eth=20log10(Zmax/Zmin) …(1)
【0086】
図7(a)、(b)は、制御回路101における報知処理を示すフローチャートである。
【0087】
図7(a)を参照して、制御回路101は、
図5の処理において、ステップ305におけるグレーゾーン判定を行うと(S501:NO)、送受波器2に故障が生じた可能性があることの報知(故障の潜在性に関する報知)を実行する(S502)。この場合、制御回路101は、たとえば、表示部107に表示されている画面に重ねて、「送受波器に故障が生じている可能性があります」とのメッセージを含む報知画面をポップアップ表示させる。これにより、使用者は、送受波器2に故障が生じている可能性を把握できる。
【0088】
図7(b)を参照して、制御回路101は、
図6の処理において、ステップ405における故障判定を行うと(S511:NO)、送受波器2に故障が生じていることの報知(故障に関する報知)を実行する(S512)。この場合、制御回路101は、たとえば、表示部107に表示されている画面に重ねて、「送受波器に故障が生じています」とのメッセージを含む報知画面をポップアップ表示させる。これにより、使用者は、送受波器2に故障が生じていることを把握できる。
【0089】
なお、報知の方法は、上記の例に限られない。たとえば、ステップS502において、「送受波器に故障が生じかけています」とのメッセージが表示されてもよい。また、ステップS502とステップS512とで、報知画面の背景色が変更されてもよい。たとえば、ステップS502における報知画面の背景色は黄色に設定され、ステップS512における報知画面の背景色が赤色に設定されて、ステップS512による報知の方が、故障の可能性や対応の必要性が高いことが示されてもよい。
【0090】
<実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
【0091】
図2に示したように、魚群探知装置100(水中探知装置)は、送受波器2に供給される送信電圧を測定する送信電圧測定回路109と、送受波器2に供給される送信電流を測定する送信電流測定回路110と、制御回路101と、を備える。
図5および
図6に示したように、制御回路101は、実動作時に測定された送信電圧および送信電流から送受波器2のインピーダンスZrを算出し(S301)、算出したインピーダンスZrに基づいて送受波器2が正常であるか否かを判定する第1判定処理(
図5)と、送受波器2からの受信信号に基づくエコー強度Erに基づいて送受波器2が正常であるか否かを判定する第2判定処理(
図6)との両方において、送受波器2が正常でないと判定したことに基づいて(S303:NO、S403:NO)、送受波器2の故障が生じたと判定する(S405)。
【0092】
送受波器2のインピーダンスや、受信信号に基づくエコー強度は、水中の状態等、送受波器2の使用環境により変化しやすい。このため、送受波器2の故障判定がインピーダンスZrによる判定およびエコー強度Erによる判定の何れか一方のみにより行われる場合、インピーダンスZrまたはエコー強度Erが正常値に比べて異常に高いか低いかによってしか、故障判定を正確に行い得ない。つまり、欠陥がかなり進んだ状態でないと故障の発生を判定できない。
【0093】
これに対し、本実施形態に係る魚群探知装置100(水中探知装置)によれば、上記のように、送受波器2のインピーダンスZrに基づく第1判定処理において送受波器2が正常であると判定できず、且つ、エコー強度Erに基づく第2判定処理において送受波器2が正常であると判定できなかったことに基づいて、送受波器2に故障が生じたと判定される。このように、2種類の判定が相補的に用いられるため、各々の判定基準を厳格に設定しなくとも、安定的かつ適正に、送受波器2における故障の有無を判定できる。よって、早期かつ安定的に、送受波器2の故障を判定できる。
【0094】
図5および
図6を参照して説明したとおり、制御回路101は、
図5の第1判定処理により送受波器2が正常であると判定できなかった場合に(S305)、
図6の第2判定処理を実行する。これにより、
図5の第1判定処理により送受波器2が正常であると判定できた場合は(S304)、
図6の第2判定処理を実行しなくてよい。よって、故障判定の精度を維持しつつ、故障の判定処理を簡素にできる。
【0095】
図3および
図5に示したように、制御回路101は、初期動作時に測定された送信電圧および送信電流から送受波器2の初期インピーダンスZ0を算出し、実動作時に取得したインピーダンスZrと、初期インピーダンスZ0とに基づいて、送受波器2が正常であるか否かを判定する。この構成によれば、初期動作時に測定された初期インピーダンスZ0が第1判定処理において加味されるため、送受波器2ごとに生じる固有の特性誤差に応じて、インピーダンスZrによる故障の判定基準(閾値範囲ΔZr)を適正に設定できる。よって、第1判定処理による信頼性を高めることができ、結果、送受波器2の故障判定精度を高めることができる。
【0096】
具体的には、制御回路101は、
図3に示したように、初期インピーダンスZ0に基づいて、送受波器2が正常であると判定するための閾値範囲ΔZrを設定する(S104、S105)。そして、制御回路101は、
図5の第1判定処理において、実動作時に取得したインピーダンスZrが閾値範囲ΔZrに含まれるか否かに基づいて(S303)、送受波器2が正常であるか否かを判定する。この構成によれば、実動作時に取得したインピーダンスZrが、初期インピーダンスZ0を加味して設定された閾値範囲ΔZrに含まれるか否かにより、送受波器2が正常であるか否かを円滑に判定できる。
【0097】
ここで、制御回路101は、
図3に示したように、送受波器2が正常であると判定される標準的なインピーダンス範囲ΔZsと、初期インピーダンスZ0とに基づいて、閾値範囲ΔZrを設定する。
【0098】
より詳細には、制御回路101は、送受波器2の標準的なインピーダンスZsに対する初期インピーダンスZ0の比率R0が1以上である場合(S103:YES)、標準的なインピーダンス範囲ΔZsを比率R0により修正して閾値範囲ΔZrを算出し(S104)、標準的なインピーダンスZsに対する初期インピーダンスZ0の比率R0が1未満である場合(S103:NO)、標準的なインピーダンス範囲ΔZsを閾値範囲ΔZrに設定する。これにより、上記のように、送受波器2が正常であると判定される標準的なインピーダンス範囲ΔZsを用いて、簡易かつ適正に、閾値範囲ΔZrを設定できる。
【0099】
図4に示したように、制御回路101は、水上の所定の判定位置において、送受波器2からの受信信号に基づくエコー強度を初期エコー強度E0として取得し(S201)、
図6の第2判定処理において、実動作時に判定位置において取得したエコー強度Erと、初期エコー強度E0とに基づいて、送受波器2が正常であるか否かを判定する。この構成によれば、環境条件が揃い易い同一の判定位置から取得された初期エコー強度と実動作時のエコー強度とにより第2判定処理が行われるため、第2判定処理により、送受波器2が正常であるか否かを適正に判定できる。
【0100】
より詳細には、制御回路101は、
図6の第2判定処理において、実動作時に取得したエコー強度Erと初期エコー強度E0との差が所定の閾値以下であるか否かに基づいて(S403)、送受波器2が正常であるか否かを判定する。送受波器2に故障が生じると、初期動作時に取得されるエコー強度と実動作時に取得されるエコー強度との差が大きくなりやすい。したがって、上記構成によれば、送受波器2が正常であるか否かを円滑に判定できる。
【0101】
なお、上記のように、判定位置は、魚群探知装置100(水中探知装置)が設置された船1の係留位置とされることが好ましい。船1の係留位置は、比較的水深が浅く、水中の環境条件が変化しにくい。このため、上記のように、船1の係留位置が判定位置に設定されることにより、初期エコー強度E0および実動作時のエコー強度Erを取得する際の環境条件が、さらに揃いやすくなる。よって、エコー強度Erに基づく第2判定処理をより精度良く行うことができ、結果、送受波器2の故障判定精度を高めることができる。
【0102】
図7(a)に示したように、制御回路101は、第1判定処理において正常と判定できなかったことに基づいて(S501:NO)、故障の潜在性に関する報知を行い(S502)、
図7(b)に示したように、制御回路101は、前記第2判定処理において正常でないと判定されたことに基づいて(S511:NO)、故障に関する報知を行う(S512)。これらの構成によれば、使用者は、故障の発生のみならず、故障の発生前における故障の潜在性を把握できる。よって、送受波器2の故障に備えて然るべき対応をとることができる。
【0103】
<変更例>
本発明は、上記実施形態に制限されるものではない。また、本発明の実施形態は、上記構成の他に種々の変更が可能である。
【0104】
たとえば、第1判定処理は、必ずしも
図5の処理に限られるものではなく、他の処理に変更されてもよい。たとえば、実動作時のインピーダンスZrが所定回数連続して閾値範囲ΔZrに含まれない場合に、送受波器2が正常でないと判定されてもよく、あるいは、実動作時のインピーダンスZrが閾値範囲ΔZrに含まれない頻度が所定の閾値を超えた場合に、送受波器2が正常でないと判定されてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、第1判定処理において、実動作時のインピーダンスZrが閾値範囲ΔZrに含まれるか否かによって、送受波器2が正常であるか否かが判定されたが、第1判定処理において、実動作時のインピーダンスZrと初期インピーダンスZ0との差分が所定の閾値以下であれば送受波器2は正常であり、この差分がこの閾値を超えると、送受波器2は正常でないと判定されてもよい。この場合、閾値は、この差分によって送受波器2が正常であるか否かを判定可能な値に設定されればよい。
【0106】
また、第2判定処理は、必ずしも
図6の処理に限られるものではなく、他の処理に変更されてもよい。たとえば、実動作時のエコー強度Erと初期エコー強度E0との差が所定回数連続して閾値Ethを超えた場合に、送受波器2が正常でないと判定されてもよく、あるいは、実動作時のエコー強度Erと初期エコー強度E0との差が閾値Ethを超える頻度が所定の閾値を超えた場合に、送受波器2が正常でないと判定されてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、第1判定処理により送受波器2が正常でないと判定されたことに応じて、
図7(a)の処理により故障の潜在性に関する報知が行われたが、第1判定処理により送受波器2が正常でないと判定されたことが所定回数連続して生じた場合に故障の潜在性に関する報知が行われてもよく、あるいは、第1判定処理により送受波器2が正常でないと判定された頻度が所定の閾値を超えた場合に故障の潜在性に関する報知が行われてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、
図5の第1判定処理における判定がグレーゾーン判定となった場合に、
図6の第2判定処理が行われて、送受波器2に故障が生じたか否かが判定されたが、送受波器2の故障判定のために、第1判定処理と第2判定処理の両方が行われてもよい。
【0109】
この場合、たとえば、第1判定処理は、
図8のように変更され、第2判定処理は、
図9のように変更される。
図8の処理では、ステップS303の判定がNOの場合、送受波器2は正常でないとの判定が行われ(S311)、
図9の処理では、ステップS403の判定がNOの場合、送受波器2は正常でないとの判定が行われる(S411)。制御回路101は、たとえば、魚群探知装置100が起動されてから動作終了(電源オフ)までの1つのシーケンスにおいて、ステップS311とステップS411の両方の判定結果が得られた場合に、送受波器2に故障が生じたと判定する。あるいは、1つのシーケンスにおいて、第1判定処理によりステップS311の判定結果が得られ、このシーケンスの直前または直後のシーケンスにおいて、第2判定処理によりステップS411の判定結果が得られた場合に、送受波器2に故障が生じたと判定されてもよい。
【0110】
また、閾値範囲ΔZrの設定方法は、
図3の方法に限られるものではなく、適宜、変更され得る。たとえば、比率R0に所定の係数を乗じた値を標準的なインピーダンス範囲ΔZsに乗じて閾値範囲ΔZrが算出されてもよい。この場合、比率R0が1より小さい場合の係数を、比率R0が1以上の場合の係数より小さく調整して、比率R0が1以上であるか否かに拘わらず、この算出方法で一律、閾値範囲ΔZrが算出されてもよい。また、比率R0が小さくなるほど係数を小さくする等、係数が比率R0に応じて変化してもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、
図4の処理における判定位置の例として、港内の係留位置が示されたが、判定位置はこれに限られない。たとえば、捕獲した魚が洋上の生簀に移される場合、生簀に船1が横付けされる位置が判定位置に設定されてもよい。制御回路101は、船1が停止する位置情報(位置検出部108からの情報)の履歴から、船1が頻繁に停止する位置を取得し、その位置を判定位置に設定してよい。
【0112】
また、判定位置は、1つに限らず、複数設定されてもよい。この場合、
図5のステップS305の判定がなされた後、判定位置に船1(魚群探知装置100)が到達するごとに、
図6の処理が行われてよい。魚群探知装置100が起動されてから動作終了(電源オフ)までの1つのシーケンスにおいて、複数の判定位置で
図6の処理が行われた場合、そのうち何れかにおいてステップS405の判定が得られたことにより、送受波器2に故障が生じたと判定されてよい。あるいは、これらの判定位置のうち複数においてステップS405の判定が得られたことにより、送受波器2に故障が生じたと判定されてもよい。同様に、
図9の処理も、各々の判定位置に船1が到達したタイミングで行われてよい。
【0113】
また、
図2には、送受波器2に超音波振動子21が1つだけ配置されているが、送受波器2に複数の超音波振動子が配置されてもよい。この場合、超音波振動子ごとに送信電圧測定回路および送信電流測定回路が設けられ、第1判定処理および第2判定処理が超音波振動子ごとに行われる。
【0114】
また、上記実施形態では、船1に搭載される魚群探知装置100に本発明を適用した例が示されたが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。たとえば、定置網に設置される魚群探知装置に本発明が適用されてもよく、あるいは、スキャニングソナー等、魚群探知装置以外の水中探知装置に本発明が適用されてもよい。
【0115】
この他、本発明の実施形態は、特許請求の範囲に記載の範囲で適宜種々の変更可能である。
【符号の説明】
【0116】
2 送受波器
100 魚群探知装置
101 制御回路
109 送信電圧測定回路
110 送信電流測定回路