(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132518
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ハイブリッドノイズフィルタ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/44 20070101AFI20240920BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240920BHJP
H03H 7/09 20060101ALI20240920BHJP
H03H 11/12 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H02M1/44
H02M7/48 Z
H03H7/09 Z
H03H11/12 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043315
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】野上 晴加
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 菜実
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
5J024
5J098
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB09
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740NN03
5H770AA05
5H770BA01
5H770DA03
5H770GA16
5H770HA01W
5H770KA01W
5J024AA01
5J024CA06
5J024DA01
5J024DA25
5J024DA35
5J024EA08
5J098AA01
5J098AA11
5J098AA14
5J098AA16
5J098AB02
5J098AB31
5J098AD11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小型・軽量化でき、パッシブフィルタのコイルサイズに依存せずにアクティブフィルタ回路の低周波特性を向上でき、アクティブフィルタ用の電源回路を内蔵させることによりノイズ対策用の電気機器に後付けで取り付けやすくしたハイブリッドノイズフィルタ装置を提供する。
【解決手段】交流電源と、交流電源により駆動される電気機器との間に挿入されるハイブリッドノイズフィルタ装置100であって、交流電源と電気機器とを接続する電線に流れるノイズ信号を検出し、その極性とは逆極性の逆極性信号を発生して電線に注入するアクティブフィルタ回路110と、電線の夫々に一端部が接続され、他端部が共通に接続された第1の線間コンデンサC7~C9及び第2の線間コンデンサC10~C12、電線の夫々に直列に設けられたコイルL1~L3及び第2の線間コンデンサと接地との間の接地コンデンサC13を含むパッシブフィルタ回路120と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と、前記電源により駆動される電気機器との間に挿入されるハイブリッドノイズフィルタ装置であって、
前記ハイブリッドノイズフィルタ装置は、
前記電源と前記電気機器とを接続する電線に流れるコモンモードノイズ信号を検出し、前記コモンモードノイズ信号とは逆極性の信号を発生して前記電線に注入するアクティブフィルタ回路と、
前記電線のそれぞれにその一端部が接続され、他端部が共通に接続された第1の線間コンデンサおよび第2の線間コンデンサと、前記電線のそれぞれに直列に介装されたコイルと、前記第2の線間コンデンサの前記他端部とその一端部が接続され、他端部が接地された接地コンデンサとを含むパッシブフィルタ回路と、
前記電源側の前記電線とそれぞれ接続するための入力端子と、
前記電気機器側の前記電線とそれぞれ接続するための出力端子と、
を含むことを特徴とするハイブリッドノイズフィルタ装置。
【請求項2】
前記パッシブフィルタ回路には、前記第1の線間コンデンサおよび前記第2の線間コンデンサと並列にそれぞれ放電用抵抗がさらに設けられたことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドノイズフィルタ装置。
【請求項3】
前記アクティブフィルタ回路は、
一端部が前記電線にそれぞれ接続され、他端部が共通に接続された検出コンデンサを介してコモンモードノイズを検出するコモンモードノイズ検出部と、
前記コモンモードノイズ検出部から入力されたコモンモードノイズ信号に基づき、前記コモンモードノイズとは逆極性の相殺用電圧を発生する演算増幅部と、
前記演算増幅部の出力端子に共通に接続され、一端部がそれぞれ前記電線に接続されて、前記相殺用電圧を前記電線に重畳して注入する出力コンデンサからなる相殺用電圧重畳部とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッドノイズフィルタ装置。
【請求項4】
前記アクティブフィルタ回路には、前記電線と接続し、前記電線を介して接続されている前記電源を駆動源として直流電圧を生成する電源回路をさらに含み、前記電源回路により前記演算増幅部を駆動することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッドノイズフィルタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置などの種々の電気機器で発生するノイズを低減するためにパッシブフィルタ回路とアクティブフィルタ回路とからなるハイブリッドノイズフィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどを制御するために用いられるインバータ装置は、ダイオードブリッジやスイッチング素子などによって商用の交流電圧を直流電圧に変換する整流部を備え、その直流電圧をスイッチング素子によって交流電圧に変換するインバータ部を備えている。 このようなインバータ装置は、スイッチング素子の動作などに起因して、電源線を伝わって他の電子機器に影響を与える伝導性ノイズを発生する。伝導性ノイズには、電源線間で往復するノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)と、電源線と接地(アース)との間を伝わるコモンモードノイズとがある。
【0003】
コモンモードノイズはノーマルモードノイズに比べてノイズ対策が難しい。また、ノーマルモードノイズのように相殺効果が現れないので、場合によってはノーマルモードノイズと比べて1000倍近くのノイズ電波が放射されることもあり、他の電子機器等へのノイズ障害への影響が大きい。ノイズを抑制するためにフィルタ装置が用いられている。フィルタ装置としては、パッシブフィルタ、アクティブフィルタおよびこれらを組み合わせたハイブリッドフィルタがある。
【0004】
パッシブフィルタは、電磁ノイズを抑制するために広く用いられている。近年、種々の装置の設計において、小型化・軽量化の要求がさらに強まっているが、パッシブフィルタはノイズ抑制効果を大きくすると、容積が大きく、重量が重くなるという課題を有している。アクティブフィルタやハイブリッドフィルタは、パッシブフィルタの問題点を解決できることから注目を集めている。特に、ハイブリッドフィルタは、アクティブフィルタとパッシブフィルタとの両方のメリットを生かし、デメリットを避ける構成を取りうるのでインバータ装置などの電気機器のノイズ対策用として注目されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、交流電源の出力を直流電圧に変換する整流器と、電力用半導体素子のスイッチング動作により直流電圧を交流電圧に変換する電力変換器とを有する系に適用される伝導性ノイズフィルタであって、電力用半導体素子のスイッチング動作時に発生するコモンモード電圧を、交流電源と整流器間の線路に接続された接地コンデンサを介して検出するコモンモード電圧検出手段と、検出したコモンモード電圧に基づいて、コモンモード電圧と同じ大きさの逆極性の相殺用電圧を発生し、この相殺用電圧を線路における交流電源と接地コンデンサの接続点との間に重畳させてコモンモード電圧を相殺する相殺用電圧源とを備える伝導性ノイズフィルタが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、交流を供給する複数の電源線のそれぞれに直列に設けられ、相互に磁気結合する複数のコイルを有する第1のコイル部と、第1のコイル部に直列に接続されるとともに、複数の電源線のそれぞれに直列に設けられ、相互に磁気結合する複数のコイルを有する第2のコイル部と、第1のコイル部と第2のコイル部とのいずれか一方に磁気結合してコモンモードノイズを検出する検出コイルと、検出コイルが検出したコモンモードノイズに対応する信号を増幅する増幅部と、第1のコイル部と第2のコイル部との間において複数の電源線のそれぞれに接続され、増幅部からの出力を当該複数の電源線のそれぞれに重畳する複数のコンデンサを有するコンデンサ部とを備える伝導性ノイズ抑制回路が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、第1の一次巻線と、第2の一次巻線と、二次巻線と、二次巻線の両端に直列接続された第1の抵抗(RCT)及び第1のインダクタンス(La)とを有し、二次巻線が第1の一次巻線及び第2の一次巻線と電磁カップリングし、第1の一次巻線の巻数が二次巻線の巻数よりも多く設定され、第2の一次巻線の巻数が二次巻線の巻数よりも多く設定され、第1の一次巻線の一端がインピーダンス安定化ネットワークの第1の出力端に接続され、第2の一次巻線の一端がインピーダンス安定化ネットワークの第2の出力端に接続され、第1の一次巻線の他端及び第2の一次巻線の他端がそれぞれ用電設備の電力入力端に接続されるように構成されたコモンモードチョークコイルと、2つの入力端がコモンモードチョークコイルの二次巻線の両端にそれぞれ接続され、出力端から補償信号を出力し、出力端と入力端との間に帰還抵抗(Rf)が接続されるように構成されたオペアンプと、第1の一次巻線の他端と第2の一次巻線の他端との間に直列接続された抵抗とキャパシタとを含み、オペアンプの出力端に接続され、補償信号に基づいて第1の一次巻線および第2の一次巻線に電流を注入するように構成された電流注入ネットワークとを備えた電磁干渉(EMI)フィルタ回路が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
さらに、電源系統と負荷回路との間の受電点において一端が接続され、高調波電流を除去するフィルタ装置であって、一端が受電点に接続され、所定の次数の高調波電流に同調する同調フィルタと、この同調フィルタの他の一端に直接接続されるアクティブフィルタであって、受電点に対して電源系統側を流れる電源系統電流に含まれる高調波電流を抑制するようなアクティブフィルタ出力電圧を発生するアクティブフィルタと、を備えたフィルタ装置が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-57268号公報
【特許文献2】特開2017-38500号公報
【特許文献3】WO2020/171095号公報
【特許文献4】特開2002-359927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の発明においては、電源と誘導電動機との間にコイルからなるパッシブフィルタを設けたハイブリッドフィルタ構成も示されている。しかし、このハイブリッドフィルタ構成では、コイルをさらに設けて高周波ノイズに対する低減効果を得るようにしているが、コイルは大きく重いので、コモンモードトランスにさらにコイルを加えると容積が大きく、かつ重くなるので、電気機器の小型・軽量化に対しては障害となる。
【0011】
特許文献2に記載の発明では、第1のコイル部と第2のコイル部とを設けており、これらのコイル部を設ける結果として容積が大きくなり、かつ、重くなる。また、第1のコイル部は検出トランスを構成するだけでなく、高周波を低減させるパッシブフィルタとしても機能するように設計されている。しかし、アクティブフィルタとして最適なコイル構成とパッシブフィルタに最適なコイル構成とが全く同じになることはないので、どちらかのノイズ低減効果をある程度犠牲にした設計とせざるを得ない。
【0012】
特許文献3に記載の発明は、コモンモードチョークコイルを用いてパッシブフィルタとアクティブフィルタとの回路の統合を容易にして小型化を実現しているが、パッシブフィルタはコモンモードチョークコイルのみである。小型化は実現できるが、この構成ではコモンモードノイズを十分に低減することは難しいと思われる。
【0013】
特許文献4に記載の発明は、所定の次数の高調波電流に同調する同調フィルタにアクティブフィルタを直接接続しており、小型軽量化が容易で、製造コストも低減できるが、フィードバック回路やフィードフォワード回路などを設けることが必要であり回路構成が複雑である。
【0014】
本発明は、それぞれ最適なパッシブフィルタとアクティブフィルタとを組み合わせて、パッシブフィルタが主として高周波ノイズの低減、アクティブフィルタが主として低周波ノイズの低減を行うフィルタ構成とすることで、パッシブフィルタのコイルサイズや個数に依存せず低周波特性を向上させながら、小型・軽量化を実現したハイブリッドノイズフィルタ装置を提供することを目的とする。
【0015】
さらに、アクティブフィルタ用の電源回路を内蔵することにより、ノイズ対策が必要な電気機器に後付けする場合でも取り付けが容易なハイブリッドノイズフィルタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記従来の課題を解決するために本発明のハイブリッドノイズフィルタ装置は、電源と、この電源により駆動される電気機器との間に挿入される装置であって、電源と電気機器とを接続する電線に流れるコモンモードノイズ信号を検出し、コモンモードノイズ信号とは逆極性の信号を発生して電線に注入するアクティブフィルタ回路と、電線のそれぞれにその一端部が接続され、他端部が共通に接続された第1の線間コンデンサおよび第2の線間コンデンサと、電線のそれぞれに直列に介装されたコイルと、第2の線間コンデンサの他端部とその一端部が接続され、他端部が接地された接地コンデンサとを含むパッシブフィルタ回路と、電源側の電線とそれぞれ接続するための入力端子と、電気機器側の電線とそれぞれ接続するための出力端子とを含むことを特徴とする。
【0017】
上記構成において、パッシブフィルタ回路には、第1の線間コンデンサおよび第2の線間コンデンサと並列にそれぞれ放電用抵抗がさらに設けられていてもよい。
【0018】
このような構成とすることにより、パッシブフィルタとアクティブフィルタとはそれぞれ最適な回路構成とすることができる。パッシブフィルタの第1の線間コンデンサと第2の線間コンデンサとは上記電線を流れるノーマルモードノイズをバイパスする。さらに、第2の線間コンデンサは接地コンデンサにより接地されているので、コモンモードノイズを接地導体にバイパスして低減する。上記電線間に直列に介装されたコイルは、高周波信号に対しては抵抗となるので高周波のコモンモードノイズを低減する機能を有する。
なお、第1の線間コンデンサと第2の線間コンデンサとについては、それぞれ放電用抵抗を並列に配置することで安全性を確保することができる。
【0019】
このように、パッシブフィルタはノーマルモードノイズの低減およびコモンモードノイズの高周波成分を主に低減する機能を有し、アクティブフィルタはコモンモードノイズの低周波成分を主に低減する機能を有するように設計されているので、全体として良好なフィルタ特性を得ることができる。
【0020】
上記構成において、アクティブフィルタ回路は、一端部が電線にそれぞれ接続され、他端部が共通に接続された検出コンデンサを介してコモンモードノイズを検出するコモンモードノイズ検出部と、コモンモードノイズ検出部から入力されたコモンモードノイズ信号に基づき、コモンモードノイズとは逆極性の相殺用電圧を発生する演算増幅部と、演算増幅部の出力端子に共通に接続され、一端部がそれぞれ上記電線に接続されて、相殺用電圧を上記電線に重畳して注入する出力コンデンサからなる相殺用電圧重畳部とを含むようにしてもよい。
【0021】
具体的には、コモンモードノイズ検出部が電源と電気機器とを接続する電線に流れるコモンモードノイズ信号を検出し、演算増幅部がコモンモードノイズ信号とは逆極性の信号である相殺用電圧を発生し、相殺用電圧重畳部が相殺用電圧を電線に重畳して注入する構成である。
【0022】
このような構成とすることにより、アクティブフィルタのコモンモードノイズ検出部と相殺用電圧重畳部とは、それぞれ容量の小さなコンデンサを用いることができ、コイルなどを用いる場合に比べて大幅に小型化・軽量化することができる。
【0023】
上記構成において、 アクティブフィルタ回路には上記電線と接続し、電線を介して接続されている電源を駆動源として直流電圧を生成する電源回路をさらに含み、この電源回路により演算増幅部を駆動するようにしてもよい。なお、電源が単相電源である場合には2本の電線に接続し、3相電源の場合には3本の電線の内、例えばS相とT相とに接続すればよい。
【0024】
このような構成とすることにより、アクティブフィルタの演算増幅部を駆動するための電源を別途用意する必要がなくなるため、ハイブリッドノイズフィルタ装置の設置の自由度を大きくすることができる。例えば、電気機器のノイズ対策が必要であると機器設置後に判明した場合でも、電源とその電気機器との間に本発明のハイブリッドノイズフィルタ装置を簡単に設置することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のハイブリッドノイズフィルタ装置は、インバータ装置を使ってモータを駆動するような電気機器などで発生するノイズを効果的に減衰させることができ、パワーエレクトロニクス機器分野に大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施の形態において、3相交流電源とインバータ装置との間にハイブリッドノイズフィルタ装置を挿入した例である。
【
図3】本実施の形態の実施例において、
図2に示すハイブリッドノイズフィルタ装置の外観形状を示す写真である。
【
図4】本実施の形態の実施例において、比較例1の1段ノイズフィルタ装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】本実施の形態の実施例において、
図4に示す比較例1の1段ノイズフィルタ装置の外観形状を示す写真である。
【
図6】本実施の形態の実施例において、比較例2の2段ノイズフィルタ装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】本実施の形態の実施例において、
図6に示す比較例2の2段ノイズフィルタ装置の外観形状を示す写真である。
【
図8】本実施の形態の実施例において、本実施例、比較例1および比較例2について、それぞれ減衰特性を測定した結果である。
【
図9】本実施の形態の実施例において、本実施例、比較例1および比較例2の重量を比較した結果である。
【
図10】本実施の形態の実施例において、本実施例、比較例1および比較例2の容積を比較した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施の形態)
【0028】
以下、本発明の実施の形態のハイブリッドノイズフィルタ装置について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置100の構成を示すブロック図である。
【0029】
本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置100は、電源とこの電源により駆動される電気機器との間に挿入されて用いられる。本実施の形態では、電源として3相交流電源を用いる場合について説明するので、電源と電気機器とを接続する電線はR相、S相およびT相として説明する。なお、R相、S相およびT相をまとめて説明するときには電線とよぶことにする。
【0030】
ハイブリッドノイズフィルタ装置100は、上記電線に流れるコモンモードノイズ信号を検出し、コモンモードノイズ信号とは逆極性の信号を発生して上記電線に注入するアクティブフィルタ回路110を含む。さらに、上記電線のそれぞれにその一端部が接続され、他端部が共通に接続された第1の線間コンデンサC7、C8、C9および第2の線間コンデンサC10、C11、C12と、上記電線のそれぞれに直列に介装されたコイルL1、L2、L3と、第2の線間コンデンサC10、C11、C12の他端部とその一端部が接続され、他端部が接地された接地コンデンサC13とを含むパッシブフィルタ回路120とを含む。そして、電源側の電線とそれぞれ接続するための入力端子140と、電気機器側の電線とそれぞれ接続するための出力端子150とを含むことを特徴とする。
【0031】
パッシブフィルタ回路120には、第1の線間コンデンサC7、C8、C9および第2の線間コンデンサC10、C11、C12と並列に、それぞれ放電用抵抗R1、R2、R3、R4、R5、R6がさらに設けられている。例えば、第1の線間コンデンサC7の一端部はR相に接続され、他端部は共通接続部を介して第1の線間コンデンサC8、C9に接続し、S相とT相に接続されている。放電用抵抗R1は同様にその一端部がR相に接続され、他端部が共通接続部を介して放電用抵抗R2、R3に接続し、S相とT相に接続されている。
【0032】
アクティブフィルタ回路110は、一端部が電線にそれぞれ接続され、他端部が共通に接続された検出コンデンサC1、C2、C3によりコモンモードノイズを検出するコモンモードノイズ検出部111と、コモンモードノイズ検出部111から入力されたコモンモードノイズ信号に基づき、このコモンモードノイズ信号(電圧)に対して逆極性の相殺用電圧を発生する演算増幅部113と、演算増幅部113の出力端子Pに共通に接続され、一端部がそれぞれ電線に接続されて、相殺用電圧を電線に重畳して注入する出力コンデンサC4、C5、C6からなる相殺用電圧重畳部112とを含む構成からなる。
【0033】
本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置100では、アクティブフィルタ回路110には電線と接続し、電線に接続された電源を駆動源として所定の直流電圧を生成する電源回路130をさらに含み、この電源回路130により演算増幅部113を駆動する構成としている。
以下、本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置100について詳細に説明する。
【0034】
パッシブフィルタ回路120は、R相、S相およびT相の電線ごとに直列に接続されたコイルL1、L2、L3を備えている。これらのコイルL1、L2、L3は、それぞれR相、S相およびT相を構成する電線に相当し、1個のトロイダルコアにそれぞれ巻き回されて構成されている。そして、コイルL1、L2、L3は、1個のトロイダルコアに互いに隣接するように巻き回されている。以下、これをコイル部123とよぶ。
【0035】
また、コイル部123の両側には、R相、S相およびT相の線間に第1の線間コンデンサC7、C8、C9と、これらの第1の線間コンデンサC7、C8、C9に対して並列に放電用抵抗R1、R2、R3、および、R相、S相およびT相の線間に第2の線間コンデンサC10、C11、C12と、これらの第2の線間コンデンサC10、C11、C12に対して並列に放電用抵抗R4、R5、R6が設けられている。さらに、第2の線間コンデンサC10、C11、C12は、その他端部に接地コンデンサC13が接続され、接地(アース)されている。
【0036】
以下、第1の線間コンデンサC7、C8、C9を第1ノイズ吸収部121、第2の線間コンデンサC10、C11、C12と接地コンデンサC13とを含んで第2ノイズ吸収部122、放電用抵抗R1、R2、R3を第1放電用抵抗部124、放電用抵抗R4、R5、R6を第2放電用抵抗部125とよぶことにする。すなわち、パッシブフィルタ回路120は、アクティブフィルタ回路110側から順に、第1放電用抵抗部124、第1ノイズ吸収部121、コイル部123、第2放電用抵抗部125、および、第2ノイズ吸収部122が配置された構成からなる。
【0037】
第1の線間コンデンサC7、C8、C9は、R相、S相、T相間にそれぞれ設けられている。例えば、第1の線間コンデンサC7とC8とは直列に接続され、R相とS相との間に設けられており、第1の線間コンデンサC7とC9とも直列に接続され、R相とT相との間に設けられている。したがって、第1の線間コンデンサC7、C8、C9は、R相、S相、T相を流れるノーマルモードノイズをバイパスするように機能する。
【0038】
第2の線間コンデンサC10、C11、C12もR相、S相、T相間にそれぞれ設けられ、かつ共通接続部は接地コンデンサC13を介して接地(アース)されている。したがって、第2の線間コンデンサC10、C11、C12についても、R相、S相、T相を流れるノーマルモードノイズをバイパスするように機能する。加えて、接地コンデンサC13と接続され接地(アース)されているので、コモンモードノイズを低減する機能も有する。
【0039】
コモンモードノイズは、R相、S相、T相と接地(アース)との間に流れ、R相、S相、T相については同じ方向に流れる。コイルL1、L2、L3は、高周波信号であるコモンモードノイズに対しては抵抗として作用し、コモンモードノイズを低減する。また、コイルL1、L2、L3のコイル定数を設定することによりカットオフ周波数を設定することができる。これらのコイルのインダクタンスは、1mH~15mHの範囲が好ましい。
【0040】
第1の線間コンデンサC7、C8、C9と第2の線間コンデンサC10、C11、C12とは、R相、S相、T相間にそれぞれ接続されているので、それぞれの両端には常に電源からの電圧が加わっている。そこで、第1の線間コンデンサC7、C8、C9と第2の線間コンデンサC10、C11、C12とに対して放電用抵抗R1、R2、R3、R4、R5、R6をそれぞれ並列に設けている。
【0041】
以上のようにパッシブフィルタ回路120は、アクティブフィルタ回路110とは独立した回路構成であり、ノーマルモードノイズの低減とコモンモードノイズの特に高周波成分の低減に寄与する。
【0042】
なお、第1の線間コンデンサC7、C8、C9と第2の線間コンデンサC10、C11、C12には、耐圧性能に優れるフィルムコンデンサが適している。静電容量の範囲としては、0.1μF~10μFが好ましい範囲である。また、接地コンデンサC13は、通常フィルムコンデンサまたはセラミックコンデンサが主に使用される。漏れ電流の制限があるため大きな静電容量のものは使用できなく、1000pF~4700pFが好ましい範囲である。
【0043】
第2ノイズ吸収部122の接地コンデンサC13は、上記のように静電容量が小さいため、主に1MHz以上の周波数のコモンモードノイズを低減する機能を有している。1MHz以下の周波数帯域については、コイルL1、L2、L3と組み合わせたLCフィルタ構成でコモンモードノイズを低減するが、十分に低減することは難しいので、アクティブフィルタ回路110を用いる。
【0044】
つぎに、アクティブフィルタ回路110について説明する。コモンモードノイズ検出部111は、R相、S相、T相間にそれぞれ接続された検出コンデンサC1、C2、C3の共通接続部が、演算増幅部113の抵抗Rsを介してオペアンプ(OPamp)のマイナス端子に接続されている。オペアンプ(OPamp)のプラス端子は接地(アース)されている。オペアンプ(OPamp)のマイナス端子と出力端子Pとの間には抵抗Rfが設けられている。出力端子Pは抵抗Roを介して相殺用電圧重畳部112を構成する出力コンデンサC4、C5、C6の共通接続部に接続されている。
【0045】
コモンモードノイズ検出部111を構成する検出コンデンサC1、C2、C3で検出されたコモンモードノイズ信号(電圧)は、電気機器で発生したコモンモードノイズよりも小さい場合が多い。そこで、増幅度を抵抗Rsと抵抗Rfの抵抗値により設定し、増幅して出力端子Pから相殺用電圧重畳部112を構成する出力コンデンサC4、C5、C6に相殺用電圧を重畳する。なお、出力電圧(Vout)は下記式で与えられる。また、増幅度は電気機器により発生するコモンモードノイズが異なるためそれぞれ異なるが、通常1~10程度である。
[式1]
Vout=-Vin(Rf/Rs)
Vin:コモンモードノイズ信号(電圧)
【0046】
なお、本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置100では、S相とT相に接続して、この電線に接続された電源を駆動源として直流電圧を生じるAC-DC変換の電源回路130が設けられており、この電源回路130をオペアンプ(OPamp)の駆動源としている。
【0047】
コモンモードノイズが発生すると、検出コンデンサC1、C2、C3に電圧が発生し、オペアンプ(OPamp)に入力される。オペアンプ(OPamp)はコモンモードノイズと逆位相の電圧を発生し、出力コンデンサC4、C5、C6を介してコモンモードノイズと逆位相の相殺用電圧を電線に重畳して注入し、コモンモードノイズを低減する。
【0048】
以上のように、本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置100は、パッシブフィルタ回路120とアクティブフィルタ回路110とをそれぞれ別々の部品で構成し、パッシブフィルタ回路120に最適な回路構成及びアクティブフィルタ回路110に最適な回路構成としたことが特徴である。この結果、コモンモードノイズの高周波成分は主としてパッシブフィルタ回路120で低減し、低周波成分をアクティブフィルタ回路110で低減させ、全体としてコモンモードノイズを効率よく低減することができる。
【0049】
検出コンデンサC1、C2、C3と出力コンデンサC4、C5、C6とは同じ容量のものを用いることができる。また、第1ノイズ吸収部121の第1の線間コンデンサC7、C8、C9および第2ノイズ吸収部122の第2の線間コンデンサC10、C11、C12も同じ容量のものを用いることができる。また、放電用抵抗R1、R2、R3、R4、R5、R6についても同じ抵抗値のものを使用することができる。
【0050】
図2は、3相交流電源160とインバータ装置170との間に、本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置100を挿入した例である。インバータ装置170からはモータ180に接続されておりモータ180を駆動する構成である。インバータ装置170とモータ180とが本発明にいう電気機器である。
図2からわかるように、本発明のハイブリッドフィルタ装置100は、電源160とインバータ装置170との間に配置するときに、R相、S相、T相のそれぞれの電線を入力端子140と出力端子150にそれぞれ接続するのみでよく、接続作業が非常に容易である。
【0051】
インバータ装置170は、スイッチング素子を用いて電源からの交流電圧を直流電圧に変換し、変換された直流電圧をスイッチング素子によって交流電圧に変換するインバータ部を備えている。このようなインバータ装置170は、スイッチング素子の動作などを原因として電線を伝わって他の電気機器あるいは電子機器に悪影響を与える伝導性ノイズを発生する。伝導性ノイズには、ノーマルモードノイズとコモンモードノイズとがある。本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置100は、これらのノイズを低減して、他の電気機器あるいは電子機器が異常動作することを防止する機能を有する。
【0052】
本実施の形態では、ハイブリッドノイズフィルタ装置100を、3相交流電源160とインバータ装置170との間に設置する構成としたが、本発明はこれに限定されない。インバータ装置170とモータ180との間に設置してもよい。また、インバータ装置170を用いて駆動する機器としてはモータに限定されることもない。さらに、急速充電システムなどのAC-DC変換装置のノイズ低減用として用いてもよい。
【0053】
また、本実施の形態では、3相交流電源を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。単相交流電源を用いてもよい。この場合には、電線が2本になるので、パッシブフィルタ回路120及びアクティブフィルタ回路110に用いるコンデンサ、コイルおよび抵抗はそれぞれ2個とすればよい。あるいは、電線として3相4線式の場合でもよい。
【0054】
また、本実施の形態では、パッシブフィルタ回路120には安全性の向上のために第1放電用抵抗部124と第2放電用抵抗部125に、放電用抵抗R1、R2、R3、R4、R5、R6を設けているが、フィルタ機能を得るためには必ずしも必須ではない。ただし、安全性を考慮すれば両方に設けることが好ましいが、第1放電用抵抗部124または第2放電用抵抗部125のみであってもよい。
【0055】
さらに、本実施の形態では、演算増幅部113のオペアンプの駆動源として、S相とT相に接続して、この電線に接続された電源により直流電圧を生じるAC-DC変換の電源回路130を設けてハイブリッドノイズフィルタ装置の設置を容易な構成としたが、本発明はこれに限定されない。このような電源回路を設けず、例えば電池駆動としてもよい。
(実施例)
【0056】
以下、具体的な実施例について説明する。
図3は、
図2に示すハイブリッドノイズフィルタ装置100の外観形状を示す写真である。
図3において、(a)は主要部品が実装された面で、(b)は反対側の面であり、基板に設けられたR相、S相、T相からなる電線と、アクティブフィルタ回路110とを設けた面である。
図2と同じものについては同じ符号を付しているので説明は省略する。これを本実施例とよぶ。
【0057】
図4は比較例1の1段ノイズフィルタ装置200の構成を示すブロック図である。比較例1の1段ノイズフィルタ装置200は、本実施の形態に係るハイブリッドノイズフィルタ装置100で用いたパッシブフィルタ回路120のみで構成されている。
図1で説明した構成要件と同じ構成要件については同じ符号を付しているので説明を省略する。
図5は、
図4に示す比較例1の1段ノイズフィルタ装置200の外観形状を示す写真である。
図5において、(a)は主要部品が実装された面で、(b)は反対側の面であり、基板に設けられたR相、S相、T相からなる電線を設けた面である。
図2と同じものについては同じ符号を付しているので説明は省略する。
図3と
図5とを比較するとわかるように、本実施例のハイブリッドノイズフィルタ装置100は、
図5に示す1段ノイズフィルタ装置200に対して、アクティブフィルタ回路110と電源回路130とを付加した構成であるが、全体形状はほとんど変わらない。
【0058】
図6は、比較例2の2段ノイズフィルタ装置300の構成を示すブロック図である。比較例2の2段ノイズフィルタ装置300は、比較例1の1段ノイズフィルタ装置200と同じパッシブフィルタ回路120に、さらにコイル部320、第3放電用抵抗部330および第3ノイズ吸収部310を付加した構成からなる。コイル部320は、コイル部123と同様にR相、S相、T相に直列に、コイルL4、L5、L6が接続されている。第3ノイズ吸収部310は、第1ノイズ吸収部121と同じ構成であり、第3の線間コンデンサC14、C15、C16の一端部がそれぞれR相、S相、T相に接続され、他端部は共通に接続されている。第3放電用抵抗部330は、第1放電用抵抗部124および第2放電用抵抗部125と同じように相間に接続されている。すなわち、比較例2のノイズフィルタ装置300は、LCフィルタを2段構成にしてノイズ低減機能をさらに向上させたものである。
図7は、
図6に示す比較例2の2段ノイズフィルタ装置300の外観形状を示す写真である。
図6と同じものについては同じ符号を付しているので説明は省略する。
【0059】
図8は、本実施例、比較例1および比較例2について、それぞれ減衰特性を測定した結果である。測定器としてはENAベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー株式会社製)を用い、0.01MHz~30MHzの周波数範囲で減衰特性を測定した。
【0060】
図8からわかるように、本実施例のハイブリッドノイズフィルタ装置100は、比較例1の1段ノイズフィルタ装置200に比べて、1MHz以下の周波数領域で良好な減衰特性が得られた。一方、比較例2の2段ノイズフィルタ装置300に比べると、150KHz以下の周波数領域で良好な減衰特性が得られた。
【0061】
図9は、本実施例、比較例1および比較例2の重量を比較した結果である。本実施例のハイブリッドノイズフィルタ装置100は、比較例1の1段ノイズフィルタ装置200とほぼ同じ重量であるが、比較例2の2段ノイズフィルタ装置300に比べると約45%軽量化されている。
【0062】
図10は、本実施例、比較例1および比較例2の容積を比較した結果である。本実施例のハイブリッドノイズフィルタ装置100は、比較例2に比べると大幅(約56%)な小型化を実現している。
【0063】
以上の結果、本実施例のハイブリッドノイズフィルタ装置100は、低周波領域を含めて十分な減衰特性を有しながら、小型化と軽量化を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のハイブリッドノイズフィルタ装置は、小型でありながらコモンモードノイズを効率よく低減できるだけでなく、ノーマルモードノイズ低減もできインバータ装置などのノイズ源を発生する電気機器のノイズ対策分野に有用である。
【符号の説明】
【0065】
100 ハイブリッドノイズフィルタ装置
110 アクティブフィルタ回路
111 コモンモードノイズ検出部
112 相殺用電圧重畳部
113 演算増幅部
120 パッシブフィルタ回路
121 第1ノイズ吸収部
122 第2ノイズ吸収部
123、320 コイル部
124 第1放電用抵抗部
125 第2放電用抵抗部
130 電源回路
140 入力端子
150 出力端子
160 3相交流電源
170 インバータ装置
180 モータ
200 1段ノイズフィルタ装置
300 2段ノイズフィルタ装置
310 第3ノイズ吸収部
330 第3放電用抵抗部
C1、C2、C3 検出コンデンサ
C4、C5、C6 出力コンデンサ
C7、C8、C9 第1の線間コンデンサ
C10、C11、C12 第2の線間コンデンサ
L1、L2、L3、L4、L5、L6 コイル
C13 接地コンデンサ
C14、C15、C16 第3の線間コンデンサ
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9 放電用抵抗
P 出力端子
Rs、Rf、Ro 抵抗