(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132521
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】光硬化型インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/101 20140101AFI20240920BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20240920BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240920BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C09D11/101
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/01 129
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043318
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】龍官 真琴
(72)【発明者】
【氏名】矢野 章世
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FC01
2C056HA44
2H186AB11
2H186BA08
2H186DA09
2H186FB04
2H186FB15
2H186FB36
2H186FB37
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB46
2H186FB48
2H186FB53
4J039AD21
4J039BA04
4J039BE01
4J039BE22
4J039BE27
4J039CA07
4J039EA06
4J039EA39
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】硬化性に優れ、硬化後の硬化物から光重合開始剤が溶出することのない光硬化型インクを提供する。
【解決手段】(a)光重合開始剤、及び(b)ラジカル重合性化合物を含む光硬化型インクであり、前記(a)光重合開始剤が、一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体であることを特徴とする光硬化型インク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)光重合開始剤、及び(b)ラジカル重合性化合物を含む光硬化型インクであり、前記(a)光重合開始剤が、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体であることを特徴とする光硬化型インク。
一般式(1):
【化1】
((一般式(1)中、R
1およびR
2は独立してメチル基またはエチル基、R
3は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、R
4は置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。Arは下記一般式(2):Ar
1、Ar
2、またはAr
3で表されるアリール基である。)
一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、mは0から3の整数を表し、R
11は独立した置換基であって、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。))
【請求項2】
前記ラジカル重合性化合物全量中、単官能化合物の含有量が10~99質量%である請求項1に記載の光硬化型インク。
【請求項3】
さらに、顔料を含む請求項1又は2に記載の光硬化型インク。
【請求項4】
さらに、α―ヒドロキシアセトフェノン誘導体、α―アミノアセトフェノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、及びベンゾフェノン誘導体の群から選ばれる1種以上の化合物を含む請求項1又は2に記載の光硬化型インク。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の光硬化型インクを用いたインクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性に優れ、硬化後の硬化物から光重合開始剤が溶出することのない光硬化型インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紫外線や電子線などの活性エネルギー線により硬化する活性光線硬化型組成物は、プラスチック,紙,ガラス,木工及び無機材料等に使用される塗料、コーティング剤、接着剤、印刷インク、インク受容層、印刷回路基板、3次元造形物及び電気絶縁関係等の種々の用途において実用化されている。中でも、光硬化型インクは、その速乾性やインク吸収性の乏しい材料への記録が可能な点で注目されている。
【0003】
これらの光硬化型インクを硬化するための光源としては、高圧水銀ランプやメタルハライドランプなどが使用されるが、省エネルギー化や設備小型化などの観点からLEDランプを使用するケースが増えている。高圧水銀ランプやメタルハライドランプなどに対し、LEDランプは、光源から放射される光の波長(例えば、中心波長領域が350~410nmの波長域)が単一波長であることから、LEDランプを使用した場合でも硬化性に優れた光硬化型インクが求められている。
【0004】
このような光硬化型インクとして、特許文献1や特許文献2では、光重合開始剤としてチオキサントン化合物と、α―ヒドロキシアセトフェノン化合物、α-アミノアルキルフェノン化合物及びアシルフォスフィンオキサイド化合物等の光重合開始剤を組合わせた光硬化型インクが提案されている。しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の光硬化型インクは、チオキサントン化合物として2-イソプロピルチオキサントン(ITX)や2,4-ジエチルチオキサントン(DETX)を含むため、ITXやDETXが硬化後の硬化物中に低分子化合物として残存することにより硬化後の硬化物中から溶出してしまい、臭気や外観不良を引き起こしてしまう。
【0005】
一方、光硬化型インクは、インクジェット方式等により被印刷体に吐出されるため、その特性上、インクの粘度に大きな制限があり、粘度を低くするために一般的に単官能モノマーが反応性希釈剤として使用される(特許文献3)。しかしながら、単官能モノマーの配合割合が多いと硬化性が悪く、硬化後の表面にベタつきが生じたり、硬化物の架橋密度が小さくなるため、硬化物の強度が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-236885号公報
【特許文献2】特開2011-80054号公報
【特許文献3】特開2018-177904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、硬化性に優れ、硬化後の硬化物から光重合開始剤が溶出することのない光硬化型インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、以下のような構成を有している。
[1](a)光重合開始剤、及び(b)ラジカル重合性化合物を含む光硬化型インクであり、前記(a)光重合開始剤が、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体であることを特徴とする光硬化型インク。
一般式(1):
【化1】
((一般式(1)中、R
1およびR
2は独立してメチル基またはエチル基、R
3は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、R
4は置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。Arは下記一般式(2):Ar
1、Ar
2、またはAr
3で表されるアリール基である。)
一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、mは0から3の整数を表し、R
11は独立した置換基であって、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。))
[2]前記ラジカル重合性化合物全量中、単官能化合物の含有量が10~99質量%である上記[1]に記載の光硬化型インク。
[3]さらに、顔料を含む上記[1]又は[2]に記載の光硬化型インク。
[4]さらに、α―ヒドロキシアセトフェノン誘導体、α―アミノアセトフェノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、及びベンゾフェノン誘導体の群から選ばれる1種以上の化合物を含む上記[1]から[3]のいずれかに記載の光硬化型インク。
[5]上記[1]から[4]のいずれかに記載の光硬化型インクを用いたインクジェット用インク。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化性に優れ、硬化後の硬化物から光重合開始剤が溶出することのない光硬化型インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光硬化型インクは、(a)光重合開始剤、及び(b)ラジカル重合性化合物を含む光硬化型インクであり、前記(a)光重合開始剤が、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体であることを特徴とするものである。
【0011】
【化3】
((一般式(1)中、R
1およびR
2は独立してメチル基またはエチル基、R
3は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、R
4は置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。Arは下記一般式(2):Ar
1、Ar
2、またはAr
3で表されるアリール基である。)
【化4】
(一般式(2)中、mは0から3の整数を表し、R
11は独立した置換基であって、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。))
また、各種添加剤(例えば、顔料、他の光重合開始剤、光増感剤や重合禁止剤等) を組み合わせて用いることもできる。
以下、本発明の光硬化型インクを構成する各成分について説明する。
【0012】
<(a)光重合開始剤>
本発明の光硬化型インクは、光重合開始剤として、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体を含有する。前記トリアジンペルオキシド誘導体は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
【化5】
((一般式(1)中、R
1およびR
2は独立してメチル基またはエチル基、R
3は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、R
4は置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。Arは下記一般式(2):Ar
1、Ar
2、またはAr
3で表されるアリール基である。)
【化6】
(一般式(2)中、mは0から3の整数を表し、R
11は独立した置換基であって、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。))
【0014】
一般式(1)中、R1およびR2は独立してメチル基またはエチル基を表し、分解温度が高く、光硬化型インクの貯蔵安定性が高くなる観点から、メチル基が好ましい。
【0015】
一般式(1)中、R3は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表す。前記アルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。R3の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基、イソプロピルフェニル基等が挙げられる。これらの中でも、前記トリアジンペルオキシド誘導体の合成が容易である観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基であることが好ましい。前記トリアジンペルオキシド誘導体の分解温度が高いため光硬化型インクの貯蔵安定性が高くなり、光に対する感度が高く、塗布膜の内部の硬化を充分に進行させる点から、R3は、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基であることがさらに好ましい。
【0016】
一般式(1)中、R4は置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。上記のR4はトリアジンペルオキシド誘導体の吸収波長への影響が小さいため、R4が上記の広範囲であっても、良好な感度を発現する。また、上記の「置換されていてもよい」における「置換基」には、ハロゲン原子、炭素骨格中にエーテル結合やチオエーテル結合を有してもよい脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環含有基、アシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基などが包含される。上記のR4は、安定性が高い観点から、好ましくは、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、または-Y-Rであり、より好ましくは、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、又は-Y-Rである。
合成が容易である観点から、より好ましくは、-O-Rであって、Rは置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基である。
【0017】
一般式(2)中、mは0から3の整数を表され、合成が容易である観点から、mが0から2であることが好ましく、光を効率よく吸収する観点から、mが1であることがより好ましい。
【0018】
一般式(2)中、R11は置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。上記のR11はトリアジンペルオキシド誘導体の吸収波長への影響が小さいため、R11が上記の広範囲であっても、良好な感度を発現する。また、上記の「置換されていてもよい」における「置換基」には、ハロゲン原子、炭素骨格中にエーテル結合やチオエーテル結合を有してもよい脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環含有基、アシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基などが包含される。上記のR11は、独立した置換基であって、炭素数1から20のアルキル基、一般式(3):R12-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表し、前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表し、前記R12は、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、および、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、または炭素数1~20のアシル基であってもよく、またR11は隣接する2つの前記一般式(3):R12-Y-により5~6員環を形成していてもよい。
上記した中でも、R11は-Y-Rであることが好ましい。
【0019】
本発明のトリアジンペルオキシド誘導体の具体例を以下に示すが、これらに限定されない。
【化7】
【0020】
本発明の光硬化型インクに含まれるトリアジンペルオキシド誘導体としては、化合物19、化合物23、化合物25、化合物26、化合物27、化合物31、化合物32、化合物33、化合物35、化合物37、化合物38、化合物39、化合物43、化合物44、化合物45、化合物46、化合物47、化合物48、化合物49、化合物50、化合物51、化合物52、化合物53、化合物54、化合物55、化合物56、化合物57、化合物60、化合物61、化合物73、化合物77、化合物78、化合物79、化合物81が好ましく、これらの中でも、化合物19、化合物25、化合物35、化合物53、化合物56、化合物77がより好ましい。
【0021】
光硬化型インク中の(a)光重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、1~12質量部であることが更に好ましい。(b)ラジカル重合性化合物100質量部に対する(a)光重合開始剤の含有量が0.1質量部以上であると硬化反応が進行しやすくなるため好ましい。また、(a)光重合開始剤の含有量が20質量部以下であると、(b)ラジカル重合性化合物との溶解性が向上するため、光硬化型インクの印刷時に(a)光重合開始剤の結晶が析出しにくくなり、印刷物表面が平滑になる。また、(a)光重合開始剤の分解残渣が少なくなるため、印刷物の塗膜の強度が向上する。
【0022】
<トリアジンペルオキシド誘導体の製造方法>
前記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体の製造方法は、塩化シアヌル及び/又はその誘導体と、ヒドロペルオキシドとを原料として反応させる工程を含む。このような製造方法としては、例えば、下記反応式のように、塩化シアヌル誘導体を得る工程(以下、工程(A)および(B)とも称す)と、続いて、得られた塩化シアヌル誘導体と、ヒドロペルオキシドを、アルカリの存在下で、反応させる工程(以下、工程(C)とも称す)を含む方法が挙げられる。なお、上記の各工程は、順番が限定されず、例えば、塩化シアヌル及びヒドロペルオキシドとの反応物に、下記のAr-XやR4-Xを反応させてもよく、また、各工程は同時に行ってもよい。各工程の前後には、余剰の原料等を減圧留去(除去)する工程や、精製工程を含んでもよい。
【0023】
【0024】
【0025】
<工程(C)>
【化10】
(上記反応式において、R
1、R
2、R
3、R
4およびArは前記一般式(1)と同じである。)
【0026】
前記工程(C)において、前記塩化シアヌル誘導体は、市販品を利用できる。なお、市販品がない場合、前記工程(A)および(B)において、グリニャール反応、リチオ化反応、鈴木カップリング反応、またはフリーデル・クラフツ反応、アルカリ存在下での求核置換反応等の公知の合成法に準じて合成することができる。
【0027】
<グリニャール反応による塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)および(B)において、グリニャール反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、特開平6-179661号公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。前記工程(A)におけるAr-Xおよび前記工程(B)におけるR4-XのXが塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子で表されるハロゲン化合物を使用することができる。ハロゲン化合物とマグネシウムを反応させることでグリニャール試薬を調製し、次いで得られたグリニャール試薬を塩化シアヌルと反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。
【0028】
上記のグリニャール試薬の調製において、マグネシウムは、ハロゲン化合物1モルに対して、0.8から2.0モル用いることが好ましく、1から1.5モル用いることがより好ましい。反応開始剤として、ヨウ素、ブロモエタン、ジブロモエタン等を用いてもよく、ハロゲン化合物1モルに対して、0.0001から0.01モル用いることが好ましい。反応温度は0から70℃が好ましく、10から60℃がより好ましい。反応時間は30分から20時間が好ましく、1時間から10時間がより好ましい。
【0029】
上記のグリニャール試薬の調製において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0030】
また、上記のグリニャール試薬と塩化シアヌルの反応において、塩化シアヌルは、ハロゲン化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-30から70℃が好ましく、-10から40℃がより好ましい。反応時間は10分から20時間が好ましく、30分から15時間であることがより好ましい。なお、調製したグリニャール試薬に塩化シアヌルを投入してもよく、塩化シアヌルの溶液にグリニャール試薬を投入してもよい。
【0031】
上記のグリニャール試薬と塩化シアヌルの反応において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0032】
<リチオ化反応による塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)および(B)において、リチオ化反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、WO2012/096263公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。前記工程(A)におけるAr-Xおよび前記工程(B)におけるR4-XのXが塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子で表されるハロゲン化合物を使用することができる。ハロゲン化合物とリチオ化剤を反応させることでリチオ化合物を調製し、次いで得られたリチオ化合物と塩化シアヌルを反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。
【0033】
前記リチオ化剤としては、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウム類;フェニルリチウム等のアリールリチウム類;リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド等のリチウムアミド類を挙げることができ、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、フェニルリチウムであることが好ましい。
【0034】
上記のリチオ化合物の調製において、リチオ化剤は、ハロゲン化合物1モルに対して、0.8から3.0モル用いることが好ましく、1.0から2.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-100から50℃が好ましく、-80から0℃がより好ましい。反応時間は0.2から20時間が好ましく、0.5から10時間がより好ましい。
【0035】
上記のリチオ化合物の調製において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0036】
また、上記のリチオ化合物と塩化シアヌルの反応において、塩化シアヌルは、ハロゲン化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-30から70℃が好ましく、-10から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、調製したリチオ化合物に塩化シアヌルを投入してもよく、塩化シアヌルの溶液にリチオ化合物を投入してもよい。
【0037】
上記のリチオ化合物と塩化シアヌルの反応において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0038】
<鈴木カップリングによる塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)および(B)において、鈴木カップリング反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、WO2012/096263公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。例えば、前述のリチオ化合物をホウ素試薬と反応させることによって、前記工程(A)におけるAr-Xおよび前記工程(B)におけるR4-XのXがボロニル基またはボロン酸に変換されたホウ素化合物を合成することができる。次いで得られたホウ素化合物を塩化シアヌルと反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。なお、ホウ素化合物の市販品が販売されている場合、そのまま使用することができる。
【0039】
前記ホウ素試薬としては、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリイソプロピル、2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン等が挙げられる。
【0040】
上記のホウ素化合物の合成において、ホウ素試薬は、リチオ化合物1モルに対して、0.8から3.0モル用いることが好ましく、1.0から2.0モル用いることがより好ましい。反応温度は-100から50℃が好ましく、-80から20℃がより好ましい。反応時間は10分から20時間が好ましく、30分から10時間がより好ましい。
【0041】
上記のホウ素化合物の合成において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0042】
また、上記のホウ素化合物と塩化シアヌルの反応において、塩化シアヌルは、ホウ素化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-30から70℃が好ましく、-10から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、ホウ素化合物に塩化シアヌルを投入してもよく、塩化シアヌルの溶液にホウ素化合物を投入してもよい。
【0043】
上記のホウ素化合物と塩化シアヌルの反応において、パラジウム触媒およびアルカリを用いることが好ましく、必要に応じて配位子を添加しても良い。
【0044】
前記パラジウム触媒としては、酢酸パラジウム、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、(ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウムジクロリド-塩化メチレン錯体等が挙げられる。
【0045】
前記アルカリとしては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属塩等の無機塩基;トリエチルアミン等の有機塩基が挙げられる。
【0046】
前記配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフタレン、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2,6’-ジメトキシビフェニル等の有機リン系配位子等が挙げられる。
【0047】
上記のホウ素化合物と塩化シアヌルの反応において、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、2-プロパノール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類等の有機溶媒を用いることができる。前記有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。さらに、前記有機溶媒と水との混合溶媒を用いることができる。
【0048】
<フリーデル・クラフツ反応による塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)および(B)において、フリーデル・クラフツ反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、US5322941公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。前記工程(A)におけるAr-Xおよび前記工程(B)におけるR4-XのXが水素原子で表される芳香族化合物を使用することができる。塩化アルミニウム等のルイス酸の存在下、芳香族化合物と塩化シアヌルを反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。
【0049】
前記ルイス酸としては、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化鉄(III)、塩化チタン(IV)、塩化スズ(IV)、塩化亜鉛、ビスマス(III)トリフラート、ハフニウム(IV)トリフラート、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体等を用いることができる。
【0050】
上記の芳香族化合物と塩化シアヌルの反応において、塩化シアヌルは、芳香族化合物1モルに対して、0.7から2.5モル用いることが好ましく、0.8から1.5モル用いることがより好ましい。塩化アルミニウムは、芳香族化合物1モルに対して、1.0から3.0モル用いることが好ましく、1.0から2.0モル用いることがより好ましい。反応温度は-50から60℃が好ましく、0から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、芳香族化合物と塩化シアヌルの溶液に塩化アルミニウムを加えてもよく、塩化シアヌルと塩化アルミニウムの溶液に芳香族化合物を加えてもよく、芳香族化合物と塩化アルミニウムの溶液に塩化シアヌルを加えてもよい。
【0051】
上記の芳香族化合物と塩化シアヌルの反応において、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、キシレン等の溶媒を用いることができる。
【0052】
<トリアジンペルオキシド誘導体の合成>
前記工程(C)において、一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体の製造方法は、特に限定されないが、特公昭45-39468号公報等に記載の公知のトリアジンペルオキシドの合成法に準じて合成することができる。
【0053】
上記の工程(A)および(B)で得られた塩化シアヌル誘導体と、ヒドロペルオキシドを、アルカリの存在下で、反応させる工程(C)により、トリアジンペルオキシド誘導体が得られる。
【0054】
前記工程(C)において、ヒドロペルオキシドは、塩化シアヌル誘導体1モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、0.9モル以上反応させることが好ましく、1.0モル以上反応させることがより好ましく、そして、3.0モル以下反応させることが好ましく、2.0モル以下反応させることがより好ましい。なお、ヒドロペルオキシドは、市販品を利用でき、市販品がない場合、特開昭58-72557号公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。
【0055】
前記工程(C)において、反応温度は、目的物の収率性を高める観点から、-10℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましく、そして、50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。
【0056】
前記工程(C)において、反応時間は、原料や反応温度等によって異なるので一概には決定できないが、通常、目的物の収率性を高める観点から、10分から6時間が好ましい。
【0057】
前記工程(C)において、使用するアルカリは、特に制限はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピリジン、α―ピコリン、γ―ピコリン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン等が挙げられる。アルカリは、塩化シアヌル誘導体1モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、0.8モル以上使用することが好ましく、1.0モル以上使用することがより好ましく、そして、3.0モル以下使用することが好ましく、2.0モル以下使用することがより好ましい。
【0058】
前記工程(C)では、塩化シアヌル誘導体が液状である場合は、有機溶媒を用いずに反応を行うことができる。また、塩化シアヌル誘導体が固体である場合は、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、塩化シアヌル誘導体の種類により溶解度が異なるため、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。前記有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0059】
前記有機溶媒の使用量は、通常、原料の合計量100質量部に対して30~1000質量部程度である。有機溶媒は工程(C)の後に留去することで、トリアジンペルオキシド誘導体を取り出してもよく、取り扱い性の向上や熱分解時の危険性を低減させるため、トリアジンペルオキシド誘導体を有機溶媒の希釈品として使用してもよい。
【0060】
前記工程(C)は、常圧下で、空気下で行うことができるが、窒素気流下または窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0061】
前記精製工程としては、余剰の原料や副生物を除去するために、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化水素、硫酸、塩化ナトリウム等の電解質水溶液や、イオン交換水を用いて洗浄し、目的物を精製する工程が挙げられる。
【0062】
<(a)光重合開始剤以外の重合開始剤>
本発明の光硬化型インクは、上記のトリアジンペルオキシド誘導体以外の重合開始剤(以下、他の重合開始剤とも称す)を含有することができる。吸収帯の異なる2種類以上のトリアジンペルオキシド誘導体や他の重合開始剤を使用することで、例えば、高圧水銀ランプ等の複数の波長の光が放射されるランプに対し、光硬化型インクの高感度化を図ることができる。光硬化型インクに含まれる光を吸収や散乱する顔料等の種類、光硬化型インクの膜厚等を考慮して、他の重合開始剤を用いることで、光硬化型インクの表面硬化性や深部硬化性、透明性等を改良することができる。
【0063】
前記他の重合開始剤としては、公知のものが使用でき、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン、4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒロドキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン等のα―ヒドロキシアセトフェノン誘導体;2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-(N,N-ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα―アミノアセトフェノン誘導体;ジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、エチル(メシチルカルボニル)フェニルホスフィナート等のアシルホスフィンオキサイド誘導体;1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1,2-ジオン-2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-[({1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エチリデン}アミノ)オキシ]エタノン、等のオキシムエステル誘導体;2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(3,4-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)1,3,5-トリアジン、2-(4-エトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等のハロメチルトリアジン誘導体;2,2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン等のベンジルケタール誘導体;4-(4-メチルフェニルチオ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;3-ベンゾイルー7-ジエチルアミノクマリン、3,3‘-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)等のクマリン誘導体;2-(2-クロロフェニル)-1-[2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-1,3-ジアゾール-2-イル]-4,5-ジフェニルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;3,3‘、4,4’-テトラキス(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジベンゾイルペルオキシド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;カンファーキノン等が挙げられる。これらの中でも、α-ヒドロキシアセトフェノン誘導体、α-アミノアセトフェノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、及びベンゾフェノン誘導体から選ばれる1種以上が好ましく、アシルホスフィンオキサイド誘導体がさらに好ましい。他の重合開始剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0064】
なお、光硬化型インクが前記他の重合開始剤を含む場合、他の重合開始剤の含有量に特に制限はないが、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましい。
【0065】
<(b)ラジカル重合性化合物>
本発明の(b)ラジカル重合性化合物としては、エチレン性不飽和基を有する化合物を好ましく用いることができる。(b)ラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、マレイン酸エステル類、フマル酸エステル類、イタコン酸エステル類、桂皮酸エステル類、クロトン酸エステル類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、ビニルケトン類、アリルエーテル類、アリルエステル類、N-置換マレイミド類、N-ビニル化合物類、不飽和ニトリル類、オレフィン類等が挙げられる。これらの中でも、反応性が高い(メタ)アクリル酸エステル類を含むことが好ましい。(b)ラジカル重合性化合物は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0066】
前記(メタ)アクリル酸エステル類は、単官能化合物および多官能化合物を使用することができる。単官能化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、2―エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するモノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート等の鎖状または環状のエーテル結合を有するモノマー等;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等の窒素原子を有するモノマー;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基を有するモノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基を有するモノマー;リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等のリン原子を有するモノマー;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のケイ素原子を有するモノマー;2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素原子を有するモノマー;(メタ)アクリル酸、コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、マレイン酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するモノマー等が挙げられる。
【0067】
ラジカル重合性化合物全量中の単官能化合物の含有量に特に制限はないが、10~99質量%であることが好ましく、20~98質量%であることがより好ましく、30~95質量%であることが更に好ましい。
【0068】
前記多官能化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)フェニル)フルオレン等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルチオフェニル)スルフィド、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ジルコニウム、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。
【0069】
本発明のラジカル重合性化合物は、一種のみ用いても、所望とする特性を向上するために任意の比率で二種以上混合したものを用いてもよい。
【0070】
ラジカル重合性化合物全量中の多官能化合物の含有量は、1~90質量%であることが好ましく、2~80質量%であることがより好ましく、5~70質量%であることが更に好ましい。
ラジカル重合性化合物全量中の多官能化合物の含有量が1質量%以上であると、塗膜強度や耐溶剤性が向上するため好ましく、また、多官能化合物の含有量が90質量%より少ないと光硬化型インクの粘度が高くなりすぎず、印刷時の吐出性が良好になり、また、ノズルの目詰まりを抑制することができる。
【0071】
本発明の光硬化型インク中の前記ラジカル重合性化合物の合計含有量は、40~99質量%であることが好ましく、50~98質量%であることがより好ましく、60~97質量%であることが更に好ましい。
【0072】
<顔料>
本発明で使用される光硬化型インクの顔料としては、従来光硬化型インクに使用されている顔料、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無彩色の顔料または有彩色の有機顔料が挙げられる。これらはただ一種のみ用いても、または色相および濃度の調整等を目的とする特性を向上するために任意の比率で二種以上混合した系でもかまわない。顔料等の着色剤の配合割合は、当該着色剤の種類、および光硬化型インクの色味に応じて任意に設定できる。
光硬化型インク中の顔料の含有量は、0.5~20質量%であることが好ましく、0.8~10質量%であることがより好ましい。ラジカル重合性化合物の含有量が前記範囲内であると、表面硬化性及び深部硬化性と着色の両立を図ることができる。
【0073】
<分散剤>
光硬化型インクは、顔料の分散安定性を向上させることを目的として、分散剤を含有することが好ましい。分散剤としては、例えば高分子系分散剤、界面活性剤等の種々の分散剤が、いずれも使用可能である。
光硬化型インク中の分散剤の含有量に特に制限はないが、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0074】
<溶剤>
光硬化型インクには、粘度や塗装性、硬化膜の平滑性の改良のため、更に溶媒を加えることもできる。前記溶媒としては、例えば、水、アルコール系溶媒、カルビトール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ラクトン系溶媒、不飽和炭化水素系溶媒、セロソルブアセテート系溶媒、カルビトールアセテート系溶媒やプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
光硬化型インク中の溶剤の含有量に特に制限はないが、0.1~50質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。
【0075】
<その他添加剤>
その他添加剤として、例えば、増感剤(9,10-ジブトキシアントラセン、アクリジン、カンファーキノン等)、重合禁止剤(p-メトキシフェノール、ヒドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、フェノチアジン等)、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、表面調整剤、界面活性剤、消泡剤等が挙げられる。添加剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0076】
<光硬化型インクの調製方法>
光硬化型インクを調製する場合には、収納容器内に前記(a)光重合開始剤、前記(b)ラジカル重合性化合物、必要に応じて、前記その他の成分を投入し、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドグラインドミル、ボールミル、アトライターミル、2本ロールミル、3本ロールミル等を用いて、常法に従って溶解または分散させればよい。また、必要に応じて、メッシュまたはメンブレンフィルター等を通してもろ過してもよい。
【0077】
なお、前記光硬化型インクの調製において、前記(a)光重合開始剤は、光硬化型インクに最初から添加しておいてもよいが、光硬化型インクを比較的長時間保存する場合には、使用直前に(a)光重合開始剤を(b)ラジカル重合性化合物を含む組成物中に溶解または分散させてもよい。
【0078】
<硬化物の製造方法>
本発明の光硬化型インクは、被印刷体に塗布後、当該光硬化型インクを活性エネルギー線で照射する工程、および当該光硬化型インクを加熱する工程のいずれかの工程を含む製造方法により硬化物を製造することができる。また、前記活性エネルギー線で照射する工程と前記加熱する工程の両方を含む工程を、デュアルキュア工程ともいう。
【0079】
被印刷体に光硬化型インクを付着させる方法としては、例えば、スピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スリットコート法、ドクターブレードコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法等の種々の方法が挙げられる。高解像度の高精細画像の記録が可能な点から、インクジェット方式が好ましい。すなわち、本発明の光硬化型インクはインクジェット用インクとして用いることが好ましい。
【0080】
被印刷体は、例えば、紙、ガラス、シリコンウエハ、金属、プラスチック等のフィルムやシート、および立体形状の成形品等が挙げられ、被印刷体の形状が制限されることは無い。
【0081】
上記の光硬化型インクを活性エネルギー線で照射する工程は、電子線、紫外線、可視光線、放射線等の活性エネルギー線の照射により、(a)光重合開始剤を分解させて、(b)ラジカル重合性化合物を重合させることで、硬化物を得ることができるものである。
【0082】
活性エネルギー線は、活性エネルギー線の波長が250から450nmの光であることが好ましく、硬化を迅速に行うことができる観点から、350から410nmの光であることがより好ましい。
【0083】
前記光の照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線無電極ランプ、LEDランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、太陽光、YAGレーザー等の固体レーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等のガスレーザー等を使用することができる。なかでも、省エネルギー、小型、低発熱である点からLEDランプが好ましい。
【0084】
前記活性エネルギー線の露光量は、活性エネルギー線の波長や強度、光硬化型インクの組成に応じて適宜設定することができる。一例として、UV-A領域での露光量は、10から5,000mJ/cm2であることが好ましく、30から1,000mJ/cm2であることがより好ましい。
【0085】
上記の光硬化型インクを加熱する工程は、熱により(a)光重合開始剤を分解させて、(b)ラジカル重合性化合物を重合させることで、硬化物を得ることができるものである。
【0086】
前記光硬化型インクを加熱する工程において、加熱する手法は、例えば、加熱、通風加熱等が挙げられる。加熱の方式としては、特に制限されることはないが、例えば、オーブン、ホットプレート、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また、通風加熱の方式としては、例えば、送風式乾燥オーブン等が挙げられる。
【0087】
前記光硬化型インクを加熱する工程において、加熱温度は高いほど、(a)光重合開始剤の分解速度は加速される。しかし、分解速度が速すぎると、(b)ラジカル重合性化合物の分解残渣が多くなる傾向を有する。一方、加熱温度は低いほど、(a)光重合開始剤の分解速度は遅いため、硬化に長時間を必要とする。よって、加熱温度と加熱時間は、前記光硬化型インクの組成により適宜設定すべきである。一例として、加熱温度は、50から230℃であることが好ましく、100から200℃であることがより好ましい。また、前記光硬化型インクに、前記硬化促進剤を配合する場合には、その種類や配合量により、加熱温度は室温から160℃で任意に調整することができる。一方、加熱時間は1から180分であることが好ましく、5から120分であることがさらに好ましい。
【0088】
前記硬化物の製造方法として、前記デュアルキュア工程を適用する場合、特に、光硬化型インクを活性エネルギー線で照射する工程の後に、加熱する工程を行うことが、光を吸収や散乱する着色顔料を高濃度に含む光硬化型インクの深部や、光が遮光されて光が届いていない箇所の硬化を効率よく行なうことができるため好ましい。
【実施例0089】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0090】
(1)トリアジンペルオキシド誘導体の合成
[合成例1:化合物19の合成]
100mLナスフラスコに、ジフェニルスルフィド3.03g(16.3mmol)、脱水ジクロロメタン30mLを加え、0℃まで冷却した。ここに、塩化シアヌル3.00g(16.3mmol)を加えた後、塩化アルミニウム2.39g(17.9mmol)を10分かけて加え、0℃にて3時間反応させた。反応終了後、反応液を氷冷1M塩酸50mLに注いで撹拌し、水相を分液した。油相を飽和食塩水50mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて脱水した。ろ過後、減圧濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=4/1から2/1)で精製し、5.03g(収率92.6%)の2,4-ジクロロ-6-(4-フェニルチオ-1-フェニル)-1,3,5-トリアジンを得た。
【0091】
100mLナスフラスコに2,4-ジクロロ-6-(4-フェニルチオ-1-フェニル)-1,3,5-トリアジン3.00g(8.98mmol)、メチルエチルケトン30mLを加え、40℃に加温した。イオン交換水4.67g、25質量%水酸化ナトリウム水溶液4.31g(26.9mmol)を加えた後、メタノール0.32g(9.87mmol)を10分かけて滴下し、40℃で2時間反応させた。40℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液1.29g(9.87mmol)を10分かけて滴下し、40℃で1時間反応させた。反応終了後、水相を分液し、油相を氷水50mLに投入した。析出した結晶をろ過し、イオン交換水で洗浄し、減圧下で乾燥させ、2.60g(収率75.5%)で本発明の化合物19を得た。得られた化合物19のEI-MSおよび1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0092】
[合成例2:化合物25の合成]
本発明の化合物25は、合成例1に記載のジフェニルスルフィドを1-メトキシナフタレンに変更したこと以外は、合成例1に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物25のEI-MSおよび1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0093】
[合成例3:化合物35の合成]
ヒートドライ乾燥した100mL三つ口フラスコに、マグネシウム0.44g(17.1mmol)、脱水テトラヒドロフラン15mL、触媒量のヨウ素を入れ、室温下で撹拌した。4-ブロモ-4’-メトキシビフェニル4.29g(16.3mmol)と脱水テトラヒドロフラン15mLの混合溶液を滴下した後、1時間還流撹拌させた。別の100mL三つ口フラスコに、塩化シアヌル3.00g(16.3mmol)、脱水テトラヒドロフラン15mLを加え、0℃まで冷却した。ここに、先に調製した混合溶液を、30分かけて滴下し、室温に上げ、15時間撹拌した。反応液を氷浴で冷却し、1M塩酸を加えて撹拌し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液でpHを8に調整した。次いで、酢酸エチルで抽出した。油相を飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=3/1から1/1)で精製し、2.07g(収率38.2%)の2,4-ジクロロ-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジンを得た。
【0094】
50mLナスフラスコに2,4-ジクロロ-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジン1.20g(3.62mmol)、メチルエチルケトン10mLを加え、40℃に加温した。イオン交換水1.88g、25質量%水酸化ナトリウム水溶液1.74g(10.9mmol)を加えた後、メタノール0.13g(3.98mmol)を5分かけて滴下し、40℃で2時間反応させた。40℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液0.52g(3.98mmol)を5分かけて滴下し、40℃で1時間反応させた。反応終了後、水相を分液し、油相を氷水50mLに投入した。析出した結晶をろ過し、イオン交換水で洗浄し、減圧下で乾燥させ、1.04g(収率75.0%)で本発明の化合物35を得た。得られた化合物35のEI-MSおよび1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0095】
[合成例4:化合物53の合成]
本発明の化合物53は、合成例3に記載のメタノールをイソプロピルアルコールに、及び69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を90質量%tert-ヘキシルヒドロペルオキシド溶液に変更したこと以外は、合成例3に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物53のEI-MSおよび1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0096】
[合成例5:化合物56の合成]
本発明の化合物56は、合成例3に記載のメタノールをtert-ブチルアルコールに、及び69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を80質量%クメンヒドロペルオキシド溶液に変更したこと以外は、合成例3に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物56のEI-MSおよび1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0097】
[合成例6:化合物77の合成]
ヒートドライ乾燥した100mL三つ口フラスコに、マグネシウム0.44g(17.1mmol)、脱水テトラヒドロフラン15mL、触媒量のヨウ素を入れ、室温下で撹拌した。4-ブロモ-4’-メトキシビフェニル4.29g(16.3mmol)と脱水テトラヒドロフラン15mLの混合溶液を滴下した後、1時間還流撹拌させた。別の100mL三つ口フラスコに、塩化シアヌル3.00g(16.3mmol)、脱水テトラヒドロフラン15mLを加え、0℃まで冷却した。ここに、先に調製した混合溶液を、30分かけて滴下し、室温に上げ、15時間撹拌した。反応液を氷浴で冷却し、1M塩酸を加えて撹拌し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液でpHを8に調整した。次いで、酢酸エチルで抽出した。油相を飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=3/1から1/1)で精製し、2.07g(収率38.2%)の2,4-ジクロロ-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジンを得た。
【0098】
100mLナスフラスコに、アニソール3.03g(16.3mmol)、脱水ジクロロメタン30mLを加え、0℃まで冷却した。ここに、2,4-ジクロロ-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジン3.00g(16.3mmol)を加えた後、塩化アルミニウム2.39g(17.9mmol)を10分かけて加え、0℃にて3時間反応させた。反応終了後、反応液を氷冷1M塩酸50mLに注いで撹拌し、水相を分液した。油相を飽和食塩水50mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて脱水した。ろ過後、減圧濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=4/1から2/1)で精製し、5.03g(収率92.6%)の2-クロロ-4-(4-メトキシフェニル)-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジンを得た。
【0099】
50mLナスフラスコにイオン交換水1.88g、25質量%水酸化ナトリウム水溶液1.74g(10.9mmol)を加え、30℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液0.52g(3.98mmol)を徐々に加えた。ここに、2-クロロ-4-(4-メトキシフェニル)-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジン1.20g(3.62mmol)とテトラヒドロフラン10mLの混合溶液を、10℃で10分かけて滴下し、20℃で3時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタン10mLを加え、水相を分液した。油相をイオン交換水で洗浄し、0℃にて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、1.04g(収率75.0%)で本発明の化合物77を得た。得られた化合物77のEI-MSおよび1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0100】
【0101】
<実施例1~13および比較例1~3>
<光硬化型インク1の調製>
表2に示す量のラジカル重合性化合物、顔料、分散剤を混合撹拌し、光重合開始剤を添加してよく撹拌し、実施例1~13および比較例1~3の光硬化型インクを調製した。得られた光硬化型インクについて下記方法にしたがって評価を行った。
【0102】
[評価方法]
(硬化性評価)
上記で調製した光硬化型インクを、インクジェット吐出装置により易接着処理が施されたPETフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡社製)上に印刷した。次いで、波長365nmのLEDランプ(UniJet E110III、ウシオ電機社製)を用い、照度5.5W/cm2,ラインスピード6m/minで光照射を行った。印刷物の表面を触診し、光硬化型インクが手につかなくなるまでの照射回数を硬化性として評価した。その結果を表2に示す。
【0103】
(溶出性評価)
上記で調製した光硬化型インクを、バーコーター(#6)を用いて、易接着処理が施されたPETフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡社製)上に塗布し、厚さ約10μmの均一な塗布膜を作製した。次いで、高圧水銀ランプ(アイグラフィック製)を用い、照度500mW/cm2で光照射を行った。光照射後の硬化物40cm2を5mm程度の大きさに細かく裁断し、2.5gのアセトン溶剤中に40℃、94時間浸漬させて硬化膜中に残存する光重合開始剤を抽出した。光重合開始剤の抽出量は、液体クロマトグラフィーによる内部標準法で定量した。光重合開始剤の添加量に対し、光重合開始剤の抽出量が5質量%以下の場合を「〇」、溶出量が5質量%より多い場合を「×」とした。その結果を表2に示す。
【0104】
【0105】
なお、表2に記載の化合物の略号等の詳細は以下のとおりである。
MAPO:ジフェニル (2,4,6-トリメチルベンゾイル) ホスフィンオキシド(IGM RESINS B.V.製)
ITX:2-イソプロピルチオキサントン
ECA:エチルカルビトールアクリレート(大阪有機化学工業製)
IBXA:イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業製)
DPGDA:ジプロピレングリコールジアクリレート(新中村化学工業製)
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業製)
VEEA:アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(日本触媒製)
MA100:カーボンブラック(三菱化学製)
Re:Kyaset Red G(日本化薬製)
Ye:Kayaset Yellow 3170(日本化薬製)
Bl:Kayaset Blue A2R(日本化薬製)
BYK-9076:高分子共重合体のアルキルアンモニウム塩(ビックケミー・ジャパン製)
【0106】
<実施例14~24および比較例4~6>
<光硬化型インク2の調製>
表3に示す量のラジカル重合性化合物、顔料、分散剤を混合撹拌し、光重合開始剤を添加してよく撹拌し、実施例14~24および比較例4~6の光硬化型インクを調製した。得られた光硬化型インクについて、硬化性を下記の方法にしたがって評価した。また、溶出性については、上記の実施例1~13および比較例1~3と同様の方法にしたがって評価した。
【0107】
<硬化性>
得られた光硬化型インクを厚さ1mmとなるよう注型し、波長365nmのLEDランプ(UniJet E110III、ウシオ電機社製)を用いて、片面10,000mJ/cm2、両面20,000mJ/cm2のエネルギーを照射した。得られた硬化物の表面にタック性が残る、もしくは内部に液状の組成物が残存する場合を硬化性「×」とし、十分に硬化された場合を「〇」とした。
【0108】
【0109】
なお、表3に記載の化合物の略号等の詳細は以下のとおりである。
HDDA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業製)
BR113:メタクリル樹脂(三菱ケミカル製)
【0110】
表2、3に示されるとおり、各実施例の光硬化型インクは、高い硬化性を示し、硬化後の硬化膜から溶出されないことが明らかである。一方、比較例の光硬化型インクは、硬化性、及び溶出性において劣った結果を示した。