(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132524
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】アミノシルセスキオキサン
(51)【国際特許分類】
C07F 7/21 20060101AFI20240920BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20240920BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20240920BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20240920BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07F7/21
C23C16/42
C23C16/455
H01L21/316 X
H01L21/318 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043322
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100224605
【弁理士】
【氏名又は名称】畠中 省伍
(72)【発明者】
【氏名】三田 宗一朗
(72)【発明者】
【氏名】平 元輝
(72)【発明者】
【氏名】島田 新大
【テーマコード(参考)】
4H049
4K030
5F058
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP08
4H049VQ35
4H049VQ88
4H049VR11
4H049VR43
4H049VR51
4H049VS88
4H049VU24
4H049VV02
4H049VW02
4H049VW06
4K030AA09
4K030AA13
4K030AA14
4K030AA18
4K030BA40
4K030BA44
4K030FA10
4K030HA01
4K030LA15
5F058BA06
5F058BC02
5F058BC10
5F058BC11
5F058BD04
5F058BD13
5F058BD15
5F058BF04
5F058BF27
5F058BF37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シリコン含有膜の形成において、低温において高速な成膜を可能とするシリコン前駆体として利用可能なかご状シルセスキオキサンを提供する。
【解決手段】式(1)で表されるアミノシルセスキオキサンである。
[式(1)中、R
1~R
8の内6つは水素原子であり、R
1~R
8の内2つのそれぞれは独立してNR
9R
10で表されるアミノ基であり、R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1):
[式(1)中、
R
1~R
8の内6つは水素原子であり、
R
1~R
8の内2つのそれぞれは独立してNR
9R
10で表されるアミノ基であり、R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表されるアミノシルセスキオキサン。
【請求項2】
下式(2):
で表される1,3-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサン、
下式(3):
で表される1,5-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサン、及び
下式(4):
で表される1,7-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のアミノシルセスキオキサン。
【請求項3】
前記アミノシルセスキオキサンが二種以上の異性体構造を含む異性体混合物である、請求項1又は2に記載のアミノシルセスキオキサン。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアミノシルセスキオキサンを含む、シリコン含有膜の前駆体。
【請求項5】
前記シリコン含有膜が化学気相成長により形成される、請求項4に記載の前駆体。
【請求項6】
前記シリコン含有膜が原子層堆積法により形成される、請求項4に記載の前駆体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のアミノシルセスキオキサンを含む、シリコン含有膜形成用の組成物。
【請求項8】
前記シリコン含有膜が化学気相成長により形成される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記シリコン含有膜が原子層堆積法により形成される、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
下式(1):
[式(1)中、
R
1~R
8の内6つは水素原子であり、
R
1~R
8の内2つのそれぞれは独立してNR
9R
10で表されるアミノ基であり、
R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表されるアミノシルセスキオキサンの製造方法であって、
(a)原料シルセスキオキサンを第二級アミンと反応させて前記アミノシルセスキオキサンを合成することを含む合成工程;及び
(b)蒸留及び/又は昇華を含む精製工程
を含む、アミノシルセスキオキサンの製造方法。
【請求項11】
前記第二級アミンが下式(5-2):
HNR9R10 (5-2)
[式(5-2)中、
R9及びR10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表される、請求項10に記載のアミノシルセスキオキサンの製造方法。
【請求項12】
下式(1):
[式(1)中、
R
1~R
8の内6つは水素原子であり、
R
1~R
8の内2つのそれぞれは独立してNR
9R
10で表されるアミノ基であり、
R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表されるアミノシルセスキオキサンを用いる、シリコン含有膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アミノシルセスキオキサン、特にシリコン含有膜の形成に有用なアミノシルセスキオキサンに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製作において、シリコン含有薄膜は、様々な蒸着工程によりシリコン膜、シリコン酸化膜、シリコン炭窒化膜、及びシリコンオキシ窒化膜等の種々の形態の薄膜に製造されており、様々な分野で応用されている。中でもシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜は、非常に優れた遮断特性及び耐酸化性を有するため、装置の製作において絶縁膜、金属間誘電物質、シード層、スペーサー、ハードマスク、トレンチアイソレーション、拡散防止膜、エッチング停止層、及び保護膜層として機能する。
【0003】
近年は素子の微細化、アスペクト比の増加、及び素子材料の多様化に伴い、電気特性に優れた超微細薄膜を低温かつ高速で成膜する技術が要求されている。しかしながら、従来のシリコン前駆体を用いた成膜方法では成膜温度を高温600℃以上にする必要があり、また、成膜速度が小さく、生産性の低下が問題となっている。
【0004】
この問題を解決すべく、特許文献1では原子層堆積法で、シリコン源としてアミノシラン化合物であるビスジエチルアミノシラン(BDEAS)を用いることにより、400℃未満の低温で均一なシリコン酸化膜を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、シリコン含有膜の形成において、低温において高い成膜速度でシリコン含有膜を形成できる新規なシリコン前駆体を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、アミノ基(-N-R2、Rはアルキル基)及びシルセスキオキサン構造(Si(-O-)1.5)を有するアミノシルセスキオキサンは、成膜速度の向上が可能であることを見出した。中でも特定のかご状構造を有するアミノシルセスキオキサンをシリコン前駆体として用いることで、成膜速度の向上ができることを見出し、本開示を完成させるに至った。
【0008】
本開示における実施形態の一例は次のとおりである。
[項1]
下式(1):
[式(1)中、
R
1~R
8の内6つは水素原子であり、
R
1~R
8の内2つのそれぞれは独立してNR
9R
10で表されるアミノ基であり、R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表されるアミノシルセスキオキサン。
[項2]
下式(2):
で表される1,3-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサン、
下式(3):
で表される1,5-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサン、及び
下式(4):
で表される1,7-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサンからなる群から選択される少なくとも一種である、項1に記載のアミノシルセスキオキサン。
[項3]
前記アミノシルセスキオキサンが二種以上の異性体構造を含む異性体混合物である、項1又は2に記載のアミノシルセスキオキサン。
[項4]
項1~3のいずれか一項に記載のアミノシルセスキオキサンを含む、シリコン含有膜の前駆体。
[項5]
前記シリコン含有膜が化学気相成長により形成される、項4に記載の前駆体。
[項6]
前記シリコン含有膜が原子層堆積法により形成される、項4又は5に記載の前駆体。
[項7]
項1~3のいずれか一項に記載のアミノシルセスキオキサンを含む、シリコン含有膜形成用の組成物。
[項8]
前記シリコン含有膜が化学気相成長により形成される、項7に記載の組成物。
[項9]
前記シリコン含有膜が原子層堆積法により形成される、項7又は8に記載の組成物。
[項10]
下式(1)
[式(1)中、
R
1~R
8の内6つは水素原子であり、
R
1~R
8の内2つのそれぞれは独立してNR
9R
10で表されるアミノ基であり、
R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表されるアミノシルセスキオキサンの製造方法であって、
(a)原料シルセスキオキサンを第二級アミンと反応させて前記アミノシルセスキオキサンを合成することを含む合成工程;及び
(b)蒸留及び/又は昇華を含む精製工程
を含む、アミノシルセスキオキサンの製造方法。
[項11]
前記第二級アミンが下式(5-2):
HNR
9R
10 (5-2)
[式(5-2)中、
R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表される、項10に記載のアミノシルセスキオキサンの製造方法。
[項12]
下式(1):
[式(1)中、
R
1~R
8の内6つは水素原子であり、
R
1~R
8の内2つのそれぞれは独立してNR
9R
10で表されるアミノ基であり、
R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表されるアミノシルセスキオキサンを用いる、シリコン含有膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示におけるアミノシルセスキオキサンは低温において高い成膜速度を有するシリコン前駆体として利用できる。これにより、シリコン酸化膜等のシリコン含有膜の生産性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施例1における製造方法により得られた1,3-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサン、1,5-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサン及び1,7-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサンの異性体混合物の
1H-NMRチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<アミノシルセスキオキサン>
本開示におけるアミノシルセスキオキサンは、下式(1):
[式(1)中、
R
1~R
8の内6つは水素原子であり、
R
1~R
8の内2つのそれぞれは独立してNR
9R
10で表されるアミノ基であり、
R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表される。
【0012】
本開示におけるアミノシルセスキオキサンをシリコン前駆体として使用することで、低温において、高い成膜速度を有し得る。また、本開示におけるアミノシルセスキオキサンをシリコン前駆体として使用することで、シリコン含有膜(例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜)として良質な膜を形成し得る。したがって、本開示のアミノシルセスキオキサンを使用することで、高速で膜特性に優れた成膜が可能となり、高生産性で高性能な半導体デバイスを作製し得る。
【0013】
R1~R8のそれぞれは独立して水素原子又はNR9R10で表されるアミノ基である。
【0014】
R1~R8の内6つは水素原子である。
【0015】
R1~R8の内2つのそれぞれは独立してNR9R10で表されるアミノ基であり、R9及びR10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。2つのNR9R10は同一であってもよいし、異なっていてもよく、例えば同一である。
【0016】
R9及びR10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル又はtert-ブチル)であり、好ましくは炭素数1~3のアルキル基(メチル、エチル、プロピル又はイソプロピル)である。R9及びR10のそれぞれは独立して分岐鎖状又は直鎖状であってよく、好ましくは直鎖状である。R9及びR10は同一又は異なってもよく、例えば同一である。R9及びR10が同一であるNR9R10の例としてはジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、及びジイソプロピルアミノが挙げられる。R9及びR10が異なるNR9R10の例としてはメチルエチルアミノ、メチルプロピルアミノ、メチルイソプロピルアミノ、エチルプロピルアミノ、及びエチルイソプロピルアミノが挙げられる。
【0017】
アミノシルセスキオキサンは、1,3位アミノ基修飾物、1.5位アミノ基修飾物、及び1,7位アミノ基修飾物からなる群から選択される少なくとも一種であってよい。アミノシルセスキオキサンが二種以上の異性体混合物であってもよく、例えば1,3位アミノ基修飾物、1.5位アミノ基修飾物、及び1,7位アミノ基修飾物の異性体混合物であってもよい。アミノシルセスキオキサンの具体例としては、
下式(2):
で表される1,3-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサン、
下式(3):
で表される1,5-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサン、及び
下式(4):
で表される1,7-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサンからなる群から選択される少なくとも一種、例えばこれら3種の異性体混合物であってもよい。
【0018】
<アミノシルセスキオキサンの製造方法>
本開示における式(1)で表されるアミノシルセスキオキサンの製造方法は、
(a)原料シルセスキオキサンを第二級アミンと反応させてアミノシルセスキオキサンを合成する合成工程、及び
(b)蒸留及び/又は昇華による精製工程
を含んでよい。
【0019】
[合成工程(a)]
合成工程(a)において、原料シルセスキオキサンを第二級アミンと反応させてアミノシルセスキオキサンを合成する。
【0020】
原料シルセスキオキサンは下式(5-1):
下式(5-1):
で表されるかご状ヒドロシルセスキオキサン(ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサン)であってよい。
【0021】
第二級アミンは下式(5-2):
HNR9R10 (5-2)
[式(5-2)中、R9及びR10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表される化合物であってよい。ここで、R9及びR10の態様は上記で説明したとおりである。
【0022】
本開示における合成工程(a)は、触媒存在下で行われてもよい。触媒は公知のヒドロシルセスキオキサンのアミノ化反応に使用可能な公知の触媒を使用できる。触媒は遷移金属触媒を利用してもよく、例えばRu、Re、Pd、Pt、Au、Ir、Rh、Mn、Zn、Cu、Ni、Fe又はY系の触媒であってよい。これら金属の単体、錯体(例えばカルボニル触媒)、酸化物、ハロゲン化物、塩類等を触媒として用いてもよい。これらは単独で用いてもよいし、又は二種類以上を併用して用いてもよい。触媒の具体例としては、トリルテニウムドデカカルボニル、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)、二コバルトオクタカルボニル等が挙げられる。
【0023】
本開示に用いることができる溶媒は、例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカンなどの炭化水素類;ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類及びこれらの混合物を用いることができる。ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、又はヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素類が好ましい。溶媒の使用量は原料シルセスキオキサンに対して、通常0.1~50倍質量である。
【0024】
原料シルセスキオキサンなどの加水分解を回避するため、合成工程(a)の反応系は全て無水条件で行うことが望ましく、使用する全ての原料中の水分を全ての原料質量に対して0~5000質量ppm、好ましくは0~500質量ppmの範囲にして反応を行う。また、反応装置は加熱乾燥及び減圧、窒素やアルゴンなどの不活性ガス置換を行うことで乾燥されたものを用いることが望ましい。
【0025】
原料シルセスキオキサンと第二級アミン(5-2)の反応式の例を以下に示す。
式(6):
[式中、R
9及びR
10は上述のとおりである。]
【0026】
工程(a)では、最初に原料シルセスキオキサンを有機溶媒に溶解させて、そこに第二級アミン(5-2)を加えていく方法、及び、第二級アミン(5-2)を有機溶媒に溶かしておき、原料シルセスキオキサンを加えていく方法のいずれでも本反応には適用可能である。
【0027】
工程(a)にて第二級アミン(5-2)の使用量は、原料シルセスキオキサン1.0モルに対して、通常1.5モル以上、好ましくは2.0モル以上である。工程(a)にて第二級アミン(5-2)の使用量は、原料シルセスキオキサン1.0モルに対して、通常3.0モル以下、好ましくは2.5モル以下である。
【0028】
また、触媒を使用する場合、触媒の使用量は原料シルセスキオキサン1.0モルに対して、通常0.0001モル以上、好ましくは0.0005モル以上である。触媒の使用量は原料シルセスキオキサン1.0モルに対して、0.1モル以下、好ましくは0.01モル以下である。
【0029】
反応温度は、20℃以上であってよく、好ましくは50度以上である。反応温度は、200℃以下であってよく、好ましくは100度以下である。
【0030】
反応時間は10分以上、又は30分以上であってよい。反応時間は48時間以下、又は24時間以下であってよい。
【0031】
工程(a)では、反応終了後に濾過工程又は精製工程あるいはその両方を含む後処理工程を実施してよい。前記精製工程には蒸留工程又は昇華工程あるいはその両方を含む工程を実施してよい。反応終了後に副生塩などの固体が反応液中に存在する場合は、濾過を行い反応器内の粗生成物から固体を除去してよい。濾過工程を行う場合は、アミノシルセスキオキサンの分解を抑えるために乾燥した不活性ガス下で、例えば窒素又はアルゴン下で行うことが望ましい。濾過温度は一意的に決まるものではないが、10℃から使用溶媒の沸点まで適用可能である。好ましくは20℃から65℃の範囲で行うのが望ましい。後処理工程は実施しても実施しなくても本製法には適用可能である。
【0032】
[精製工程(b)]
工程(b)では、蒸留及び/又は昇華(蒸留又は昇華あるいはその両方)を含む操作、例えば減圧蒸留を行うことによってアミノシルセスキオキサンが精製される。有機溶媒は容易に除去され、目的のアミノシルセスキオキサンを十分に高い純度で精製し得る。上記反応工程(a)で得られる生成物は、モノ置換体や、三置換体等の副生物も含み得るが、蒸留及び/又は昇華により、目的のアミノシルセスキオキサンを得ることができる。蒸留及び/又は昇華後のアミノシルセスキオキサンが異性体を含んでもよく、さらに、クロマトグラフィ等の手段を用いて異性体を分離してもよい。
【0033】
工程(b)は、蒸留及び/又は昇華以外に、その他の精製を含んでもよい。その他の精製は、例えば、金属触媒や副生塩等の非目的物を沈殿化させて濾過等により除去する沈殿除去を含んでもよい。沈殿化剤の例としては、N,N,N’,N’-テトラメチル-チオペルオキシジカルボニックジアミド(又の名をテトラメチルチウラムジスルフィド)、チオフェノール等が挙げられる。濾過を行う場合は、アミノシルセスキオキサンの分解を抑制するために乾燥した不活性ガス下で、例えば窒素又はアルゴン下で行ってもよい。濾過温度は一意的に決まるものではないが、10℃から使用溶媒の沸点まで適用可能である。好ましくは20℃から65℃の範囲で行うのが望ましい。その他の精製は、合成工程後、蒸留及び/又は昇華工程の前に行ってもよい。その他の精製は実施しても実施しなくても本製法には適用可能である。
【0034】
<シリコン含有膜の製造方法>
本開示によるアミノシルセスキオキサンをシリコン含有膜の中間体として用いて、基板上にシリコン含有膜を、化学気相成長、特に原子堆積法により、形成することができる。より詳しくは、本開示によるシリコン含有膜の形成方法は、
(c)基板に、アミノ基を有するかご状シルセスキオキサン組成物、すなわち下式(1):
[式(1)中、
R
1~R
8の内6つは水素原子であり、
R
1~R
8の内2つのそれぞれは独立してNR
9R
10で表されるアミノ基であり、R
9及びR
10のそれぞれは独立して炭素数1~4のアルキル基である。]
で表されるアミノシルセスキオキサンを含む、アミノシルセスキオキサンを接触させて、基板に前記アミノシルセスキオキサンを吸着させる工程;
(d)未吸着の前記アミノシルセスキオキサン及び副生物をパージする工程;
(e)前記アミノシルセスキオキサンが吸着した基板に反応ガスを注入することで、アミノシルセスキオキサンが分解され原子層を形成する工程;及び
(f)未反応の反応ガスと副生物をパージする工程
を含む、化学気相成長法(特に原子層堆積法)であってよい。
【0035】
基板の温度は100℃以上、150℃以上、200℃以上、又は250℃以上であってよい。基板の温度は800℃以下、700℃以下、600℃以下、500℃以下、又は450℃以下であってよく、好ましくは700℃以下である。
【0036】
工程(c)及び工程(e)におけるガス注入時の圧力は0.05Torr以上、0.1Torr以上、又は0.15Torr以上であってよい。工程(c)及び工程(e)におけるガス注入時の圧力は100Torr以下、50Torr以下、又は25Torr以下であってよく、好ましくは50Torr以下である。組成物は、窒素やアルゴンなどの不活性ガスをキャリアガスとして含有してよい。
【0037】
工程(e)では、反応ガスとして、Si-O結合を有する酸化シリコン膜を形成する際は酸素、オゾン、一酸化窒素から選択される一種類以上のガスを用いることができる。Si-N結合を有する窒化シリコン膜を形成する際は窒素、アンモニア、一酸化二窒素、一酸化窒素、二酸化窒素から選択される一種類以上のガスを用いることができる。
【0038】
シリコン含有膜の形成は窒素やアルゴンなどの不活性ガス置換を行った後に行うことが望ましい。すなわち、反応系内部を不活性ガス置換した後に、上記工程(c)を行うことが好ましい。
【実施例0039】
以下に本開示を実施例により詳細に説明する。
【0040】
[実施例1:1,3-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1,5-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、及び1,7-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサンの組成物の合成]
窒素置換後、温度計、冷却管、モーター攪拌機をセットした500mLのフラスコにペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン30.8g(0.072モル)、トリルテニウムドデカカルボニル0.89g(0.0014モル)とトルエン83.0gを添加し、オイルバスを用いて温度を90℃で保持し攪拌しながら、50mL滴下ロートにてジエチルアミン12.3g(0.17モル)を3時間かけて滴下して、目的のアミノシルセスキオキサン19.7g(0.0035モル、GC分析より算出)を含むトルエン溶液を125.7g得た。
【0041】
得られた目的のアミノシルセスキオキサンを含むトルエン溶液にテトラメチルチウラムジスルフィド2.0g(0.0084モル)及びトルエン167.2gを添加し、オイルバスを用いて温度を70℃で保持しながら3時間攪拌した。内温48℃で減圧蒸留することでトルエンを除去し、窒素置換したグローブボックス内で減圧濾過及びヘキサン洗浄によりトリルテニウムドデカカルボニル及びテトラメチルチウラムジスルフィドが反応して生成した錯体が主である固形物を取り除き、目的のアミノシルセスキオキサン組成物を含むヘキサン溶液を94.3g得た。
【0042】
得られた目的のアミノシルセスキオキサン組成物を含むヘキサン溶液を、内温46℃で減圧蒸留することでヘキサンを除去した。さらに昇華装置を用いてオイルバス温95℃、0.3Torrで昇華することで目的のアミノシルセスキオキサンを高純度で得た。
【0043】
昇華後のGC分析により、78面積%の純度で8.0g(収率19%)のアミノシルセスキオキサンが得られたことが確認された。得られたアミノシルセスキオキサン組成物は
1H-NMR及びGC-MSによって同定した。
1H-NMRの帰属は以下の通りである。
1H-NMRチャートは
図1に示す通りである。
【0044】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ0.95-1.09(m,12H,[CH
3
-CH2-N]),δ2.82-2.98(m,8H,[CH3-CH
2
-N]),δ3.80-4.77(m, 6H,[Si-H])
【0045】
上記
1H-NMR及びGC-MSの結果により、得られたアミノシルセスキオキサン組成物は、下式:
で表される1,3-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサンと下式:
で表される1,5-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサンと下式:
で表される1,7-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.1
3,9.1
5,15.1
7,13]オクタシロキサンとの組成物であると同定した。
【0046】
[実施例2:1,3-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1,5-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン及び1,7-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサンの組成物を用いたシリコン含有膜の形成]
真空装置内にシリコン基板を設置し、250~700℃に加熱した。実施例1で得られたアミノシルセスキオキサン並びにキャリアガスを含むシルセスキオキサン組成物を、加熱したシリコン基板に吸着させた。次いで、アルゴンガスを導入することで装置内に未吸着のアミノシルセスキオキサン及び副生物をパージした。その後、反応ガスとしてオゾンを0.05~100Torrの圧力で注入し、基板上に堆積したシルセスキオキサン組成物由来の酸化シリコンの原子層を形成した。次いで、アルゴンガスを導入することで未反応のオゾンと副生物をパージした。上記のサイクルを繰り返して、酸化シリコン膜を得た。
【0047】
[比較例1:2-ジメチルアミノ-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサンを用いたシリコン含有膜の形成]
真空装置内にシリコン基板を設置し、100~750℃の所定温度に加熱した。2-ジメチルアミノ-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン及びキャリアガスを含むシロキサン組成物を0.05~100Torrの圧力で注入し、加熱したシリコン基板に吸着させた。次いで、アルゴンガスを導入することで装置内に未吸着のアミノシロキサン組成物及び副生物をパージした。その後、反応ガスとしてオゾンを0.05~100Torrの圧力で注入し、基板上に堆積した2-ジメチルアミノ-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン由来の酸化シリコンの原子層を形成した。次いで、アルゴンガスを導入することで未反応のオゾンガスと副生物をパージした。上記のサイクルを繰り返して、酸化シリコン膜を得た。
【0048】
[比較例2:ビスジエチルアミノシランを用いたシリコン含有膜の形成]
真空装置内にシリコン基板を設置し、100~750℃の所定温度に加熱した。ビスジエチルアミノシラン及びキャリアガスを含むアミノシラン組成物を0.05~100Torrの圧力で注入し、加熱したシリコン基板に吸着させた。次いで、アルゴンガスを導入することで装置内に未吸着のアミノシラン組成物及び副生物をパージした。その後、反応ガスとしてオゾンを0.05~100Torrの圧力で注入し、基板上に堆積したビスジエチルアミノシラン由来の酸化シリコンの原子層を形成した。次いで、アルゴンガスを導入することで未反応のオゾンガスと副生物をパージした。上記のサイクルを繰り返して、酸化シリコン膜を得た。
【0049】
[比較例3:オクタメチルシルセスキオキサンを用いたシリコン含有膜の形成]
真空装置内にシリコン基板を設置し、100~750℃の所定温度に加熱した。オクタメチルシルセスキオキサン及びキャリアガスを含むシルセスキオキサン組成物を0.05~100Torrの圧力で注入を試みた。しかしながら、当該条件ではシルセスキオキサン組成物はALD成膜不可であった。
【0050】
以下表1に具体的な蒸着方法を示した。表2には実施例2並びに比較例1、2、及び3についての各温度での堆積速度をまとめる。なお、層の厚さはエリプソメータで測定した。
【表1】
【表2】
【0051】
表2に示したように基板温度300℃において、1,3-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1,5-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン及び1,7-ビス(ジエチルアミノ)-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサンの組成物は、比較例で示した2-ジメチルアミノ-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、ビスジエチルアミノシラン、及びオクタメチルシルセスキオキサンよりも高い堆積速度で成膜することが可能である。
本開示における化学気相成長法、例えば原子堆積法を用いることにより、アスペクト比が高い構造が形成された半導体基板やナノワイヤーなどにも利用可能な、極薄かつ原子欠陥がなく酸化シリコン膜などを形成することができる。本開示によるアミノシルセスキオキサンは、良好な膜質を有し、より高速に成膜する原子堆積法に特に有用である。