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特開2024-132529ガスセンサの動作方法および車両システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132529
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ガスセンサの動作方法および車両システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20240920BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/26 391Z
F01N3/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043330
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤村 昇平
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091AA17
3G091BA27
3G091HA37
(57)【要約】
【課題】HCガスの吸着に起因する始動時の不具合発生を回避可能な、ガスセンサ動作方法を提供する。
【解決手段】当該動作方法が、センサ素子の加熱昇温開始とともに、通常駆動条件に従い、測定ポンプセルによる測定用内部空所からの酸素の汲み出し動作を含むセンサ素子の動作を開始させる工程と、測定ポンプ電流をモニタし、所定の条件をみたす変化の有無を判断する工程と、当該変化が生じていると判断された場合に、あらかじめ設定されてなる汲み入れ電流値および汲み入れ時間に従い測定用内部空所に酸素を汲み入れさせる工程と、汲み入れ時間経過時点でセンサ素子を通常駆動条件での動作に復帰させる工程と、を備え、汲み入れ電流値および汲み入れ時間は、HCガスが全て酸化されるように、ガスセンサの実使用時に先立ってあらかじめ設定される、ようにした。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に被測定ガスを導入して前記被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたセンサ素子を備えるガスセンサの動作方法であって、
前記センサ素子が、
酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された長尺板状の基体部と、
前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、
拡散律速部を介して前記ガス導入口と連通してなる、測定用内部空所と、
前記測定用内部空所に設けられた測定電極と、前記測定用内部空所以外の箇所に設けられてなる空所外ポンプ電極と、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された測定ポンプセルと、
前記センサ素子を加熱するヒータ部と、
を備えるものであり、
前記ヒータ部による前記センサ素子の加熱昇温を開始させるともに、前記所定ガス成分の濃度を測定するための通常駆動条件に従い、前記測定ポンプセルによる前記測定用内部空所からの酸素の汲み出し動作を含む前記センサ素子の動作を開始させる素子始動工程と、
前記素子始動工程において動作が開始された前記センサ素子において前記測定ポンプセルを流れる測定ポンプ電流をモニタするモニタ工程と、
前記モニタ工程においてモニタされる前記測定ポンプ電流に所定の条件をみたす変化が生じたか否かを判断する判断工程と、
前記判断工程において前記所定の条件をみたす変化が生じていると判断された場合に、あらかじめ設定されてなる汲み入れ電流値および汲み入れ時間に従い、前記測定ポンプセルに前記測定用内部空所に対し酸素を汲み入れさせる汲み入れ工程と、
前記汲み入れ時間が経過した時点で前記センサ素子を前記通常駆動条件に基づく動作に復帰させる復帰工程と、
を備え、
前記汲み入れ電流値および前記汲み入れ時間は、前記測定用内部空所に吸着している炭化水素ガスが前記汲み入れ工程によって全て酸化されるように、前記ガスセンサの実使用時に先立ってあらかじめ設定されてなる、
ことを特徴とする、ガスセンサの動作方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサの動作方法であって、
前記汲み入れ電流値および前記汲み入れ時間は、前記ガスセンサの実使用時までに行われる設定工程において設定される値であり、
前記設定工程が、
前記ガスセンサの実使用前に、前記センサ素子の前記測定用内部空所に、前記ガスセンサの実使用時に見込まれる吸着量と同等以上の炭化水素ガスを導入させる炭化水素ガス導入工程と、
前記炭化水素ガス導入工程において炭化水素ガスが導入された前記ガスセンサにおいて、前記ヒータ部による前記センサ素子の加熱昇温を行いつつ前記通常駆動条件に従い前記センサ素子の動作を開始させたときに前記測定ポンプ電流に生じる一時的な減少における、前記測定ポンプ電流の減少量と減少継続時間とを特定し、前記減少量と前記減少継続時間との積を必要酸素量相当値とする酸素量特定工程と、
前記汲み入れ電流値と前記汲み入れ時間との積が前記必要酸素量相当値と等しくなるように、前記汲み入れ電流値と前記汲み入れ時間とを設定する、始動時パラメータ設定工程と、
を備えることを特徴とする、ガスセンサの動作方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサの動作方法であって、
前記判断工程において前記測定ポンプ電流に所定の閾値以上の減少が生じたと判断されたタイミングで前記汲み入れ工程を開始する、
ことを特徴とする、ガスセンサの動作方法。
【請求項4】
内燃機関が搭載された車両と、前記内燃機関の排気管に設けられてなり、前記内燃機関からの排ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたガスセンサと、制御手段とを備える、車両システムであって、
前記ガスセンサが、
内部に被測定ガスを導入して前記被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたセンサ素子と、
前記センサ素子の動作を制御するセンサコントローラと、
を備え、
前記センサ素子が、
酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された長尺板状の基体部と、
前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、
拡散律速部を介して前記ガス導入口と連通してなる、測定用内部空所と、
前記測定用内部空所に設けられた測定電極と、前記測定用内部空所以外の箇所に設けられてなる空所外ポンプ電極と、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された測定ポンプセルと、
前記センサ素子を加熱するヒータ部と、
を備えるものであり、
前記制御手段は、
前記センサ素子において、前記ヒータ部による加熱昇温と、前記測定ポンプセルによる前記測定用内部空所からの酸素の汲み出し動作を含む、前記所定ガス成分の濃度を測定するための通常駆動条件に従う動作とを開始させた状態で、前記測定ポンプセルを流れる測定ポンプ電流をモニタして、前記測定ポンプ電流に所定の条件をみたす変化が生じたか否かを判断するように構成されてなり、
前記測定ポンプ電流に前記所定の条件をみたす変化が生じていると判断される場合、あらかじめ設定されて前記センサコントローラに格納されてなる汲み入れ電流値および汲み入れ時間に従い、前記測定ポンプセルに前記測定用内部空所に酸素を汲み入れさせ、これによって前記測定用内部空所に吸着している炭化水素ガスを全て酸化させ、
前記汲み入れ時間が経過した時点で前記センサ素子を前記通常駆動条件に基づく動作に復帰させる、
ことを特徴とする車両システム。
【請求項5】
請求項4に記載の車両システムであって、
前記制御手段が実使用時に見込まれる吸着量と同等以上の炭化水素ガスが導入されてなる実使用前の前記ガスセンサの前記センサ素子において前記ヒータ部による加熱昇温と前記通常駆動条件に従う動作とを開始させたときに前記測定ポンプ電流に生じる一時的な減少における、前記測定ポンプ電流の減少量と減少継続時間との積を、前記測定用内部空所に吸着すると見込まれる炭化水素ガスを全て酸化させる際の必要酸素量に対応する必要酸素量相当値と定義するときに、
前記汲み入れ電流値および前記汲み入れ時間は、前記汲み入れ電流値と前記汲み入れ時間との積が、前記必要酸素量相当値と等しくなるように、設定されてなる、
ことを特徴とする、車両システム。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の車両システムであって、
前記制御手段は、前記測定ポンプ電流が0にまで減少したと判断されるタイミングで、前記測定ポンプセルに前記汲み入れ電流値および前記汲み入れ時間に従い前記測定用内部空所に酸素を汲み入れさせる、
ことを特徴とする、車両システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンエンジン等の内燃機関の排気管に設けられてなるガスセンサの動作方法に関し、特に、始動時における炭化水素ガスの吸着に起因する問題を回避する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン車両における環境性能を確保・維持する観点から、エンジンの排気経路においてTWC(三元触媒)とGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)とを備える触媒部から下流側へと排出されるNOxおよびアンモニア(NH)の排出量を、正確にかつ経時的に把握することが、求められている。TWCの内部がリーン雰囲気である場合にはNOxが排出され、リッチ雰囲気である場合にはNHが排出される。NOxおよびNHの排出量を把握することにより、触媒部の劣化の度合を診断することが可能となる。
【0003】
NOxセンサをガソリンエンジンの排気経路に取り付け、使用する態様は、すでに公知である(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
また、特許文献1および特許文献2に開示されているようなNOxを検出可能なガスセンサにおいて、NHを検出可能であることも、すでに公知である(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-113770号公報
【特許文献2】特開2021-148612号公報
【特許文献3】特開2022-091669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1ないし特許文献3に開示されているようなガスセンサを用いた、エンジンの排気経路における被測定ガス中のNOxおよびNHの濃度の測定は通常、車両の使用を開始するためのエンジンの始動とともに、内部に備わるヒータによる加熱・昇温が開始されたセンサ素子が所定の駆動温度に到達した状態で、行われる。
【0007】
一方で、エンジンが停止状態にあるときは、ガスセンサも動作せず常温にある。そのような状態のガスセンサにおいては、その内部に、具体的にはセンサ素子の内部空所にまで炭化水素(HC)ガスが流入し、吸着していることがある。係るHCガスは、例えば、排気管に残存している排ガスなどに由来する。また、センサ素子の昇温時にHCガスが吸着する場合も起こり得る。
【0008】
このようなHCガスがセンサ素子の内部に吸着した状態でガスセンサの使用を開始するべくヒータによるセンサ素子の加熱が開始された場合、センサ素子がある温度域に達すると、吸着していたHCガスがセンサ素子の内部に存在する酸素にて酸化されるようになる。係るHCガスの酸化は、センサ素子に吸着していた全てのHCガスが酸化されるまで継続するが、場合によっては、センサ素子が駆動温度に到達後、NOxおよびNHの濃度測定が開始された以降においても起こり得る。
【0009】
測定電極が備わる内部空所に吸着しているHCガスが酸化される場合には、当該内部空所に存在する酸素が消費されることになる。しかしながら、濃度測定の開始後に当該内部空所においてHCガスが酸化される際に消費される酸素は、当該内部空所に導入された窒素酸化物の分解によって生じるものである。係る酸素がHCガスの酸化に消費されてしまうと、濃度の特定に用いる測定ポンプ電流が本来の値よりも減少してしまい、結果として、NOxおよびNHの濃度値が本来の値からずれてしまうことになる。
【0010】
あるいは、当該内部空所に存在する酸素の量が少ない場合、NOxおよびNHの濃度値を得るための本来の動作である汲み出し動作とは反対の、酸素の汲み入れ動作が生じてしまうことも起こり得る。
【0011】
なお、当該内部空所に存在する全てのHCガスが酸化されてしまえば、酸素ポンプ電流は本来の値に戻ることにはなるため、始動後の一定時間、濃度値の特定を行わないようにすれば、濃度値のズレの問題は生じないが、そのような測定不能時間を許容することは必ずしも望ましい態様とはいえず、そもそも、どの程度の時間、測定ポンプ電流が減少状態にあるのかが不明である。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、炭化水素ガスの吸着に起因する測定精度の劣化と測定不能時間の発生という問題を回避可能な、ガスセンサの動作方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、内部に被測定ガスを導入して前記被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたセンサ素子を備えるガスセンサの動作方法であって、前記センサ素子が、酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された長尺板状の基体部と、前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、拡散律速部を介して前記ガス導入口と連通してなる、測定用内部空所と、前記測定用内部空所に設けられた測定電極と、前記測定用内部空所以外の箇所に設けられてなる空所外ポンプ電極と、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された測定ポンプセルと、前記センサ素子を加熱するヒータ部と、を備えるものであり、前記ヒータ部による前記センサ素子の加熱昇温を開始させるともに、前記所定ガス成分の濃度を測定するための通常駆動条件に従い、前記測定ポンプセルによる前記測定用内部空所からの酸素の汲み出し動作を含む前記センサ素子の動作を開始させる素子始動工程と、前記素子始動工程において動作が開始された前記センサ素子において前記測定ポンプセルを流れる測定ポンプ電流をモニタするモニタ工程と、前記モニタ工程においてモニタされる前記測定ポンプ電流に所定の条件をみたす変化が生じたか否かを判断する判断工程と、前記判断工程において前記所定の条件をみたす変化が生じていると判断された場合に、あらかじめ設定されてなる汲み入れ電流値および汲み入れ時間に従い、前記測定ポンプセルに前記測定用内部空所に対し酸素を汲み入れさせる汲み入れ工程と、前記汲み入れ時間が経過した時点で前記センサ素子を前記通常駆動条件に基づく動作に復帰させる復帰工程と、を備え、前記汲み入れ電流値および前記汲み入れ時間は、前記測定用内部空所に吸着している炭化水素ガスが前記汲み入れ工程によって全て酸化されるように、前記ガスセンサの実使用時に先立ってあらかじめ設定されてなる、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサの動作方法であって、前記汲み入れ電流値および前記汲み入れ時間は、前記ガスセンサの実使用時までに行われる設定工程において設定される値であり、前記設定工程が、前記ガスセンサの実使用前に、前記センサ素子の前記測定用内部空所に、前記ガスセンサの実使用時に見込まれる吸着量と同等以上の炭化水素ガスを導入させる炭化水素ガス導入工程と、前記炭化水素ガス導入工程において炭化水素ガスが導入された前記ガスセンサにおいて、前記ヒータ部による前記センサ素子の加熱昇温を行いつつ前記通常駆動条件に従い前記センサ素子の動作を開始させたときに前記測定ポンプ電流に生じる一時的な減少における、前記測定ポンプ電流の減少量と減少継続時間とを特定し、前記減少量と前記減少継続時間との積を必要酸素量相当値とする酸素量特定工程と、前記汲み入れ電流値と前記汲み入れ時間との積が前記必要酸素量相当値と等しくなるように、前記汲み入れ電流値と前記汲み入れ時間とを設定する、始動時パラメータ設定工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るガスセンサの動作方法であって、前記判断工程において前記測定ポンプ電流に所定の閾値以上の減少が生じたと判断されたタイミングで前記汲み入れ工程を開始する、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第4の態様は、内燃機関が搭載された車両と、前記内燃機関の排気管に設けられてなり、前記内燃機関からの排ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたガスセンサと、制御手段とを備える、車両システムであって、前記ガスセンサが、内部に被測定ガスを導入して前記被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたセンサ素子と、前記センサ素子の動作を制御するセンサコントローラと、を備え、前記センサ素子が、酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された長尺板状の基体部と、前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、拡散律速部を介して前記ガス導入口と連通してなる、測定用内部空所と、前記測定用内部空所に設けられた測定電極と、前記測定用内部空所以外の箇所に設けられてなる空所外ポンプ電極と、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された測定ポンプセルと、前記センサ素子を加熱するヒータ部と、を備えるものであり、前記制御手段は、前記センサ素子において、前記ヒータ部による加熱昇温と、前記測定ポンプセルによる前記測定用内部空所からの酸素の汲み出し動作を含む、前記所定ガス成分の濃度を測定するための通常駆動条件に従う動作とを開始させた状態で、前記測定ポンプセルを流れる測定ポンプ電流をモニタして、前記測定ポンプ電流に所定の条件をみたす変化が生じたか否かを判断するように構成されてなり、前記測定ポンプ電流に前記所定の条件をみたす変化が生じていると判断される場合、あらかじめ設定されて前記センサコントローラに格納されてなる汲み入れ電流値および汲み入れ時間に従い、前記測定ポンプセルに前記測定用内部空所に酸素を汲み入れさせ、これによって前記測定用内部空所に吸着している炭化水素ガスを全て酸化させ、前記汲み入れ時間が経過した時点で前記センサ素子を前記通常駆動条件に基づく動作に復帰させる、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第5の態様は、第4の態様に係る車両システムであって、前記制御手段が実使用時に見込まれる吸着量と同等以上の炭化水素ガスが導入されてなる実使用前の前記ガスセンサの前記センサ素子において前記ヒータ部による加熱昇温と前記通常駆動条件に従う動作とを開始させたときに前記測定ポンプ電流に生じる一時的な減少における、前記測定ポンプ電流の減少量と減少継続時間との積を、前記測定用内部空所に吸着すると見込まれる炭化水素ガスを全て酸化させる際の必要酸素量に対応する必要酸素量相当値と定義するときに、前記汲み入れ電流値および前記汲み入れ時間は、前記汲み入れ電流値と前記汲み入れ時間との積が、前記必要酸素量相当値と等しくなるように、設定されてなる、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の第6の態様は、第4または第5の態様に係る車両システムであって、前記制御手段は、前記測定ポンプ電流が0にまで減少したと判断されるタイミングで、前記測定ポンプセルに前記汲み入れ電流値および前記汲み入れ時間に従い前記測定用内部空所に酸素を汲み入れさせる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1ないし第6の態様によれば、測定用内部空所に吸着している炭化水素ガスを短時間で意図的にかつ確実に全て酸化させることにより、係る意図的な汲み入れを行わない場合に比して、炭化水素ガスの酸化が原因で酸素ポンプ電流に基づく測定を好適に行い得ない時間を、短縮することができる。これにより、ガスセンサにおいて測定を行っている途中で、炭化水素ガスの酸化に伴い酸素ポンプ電流が減少することを、回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】車両システム1000の要部の構成を模式的に示す図である。
図2】ガスセンサ100の長手方向に沿った要部断面図である。
図3】センサ素子101の構成の一例を概略的に示す、素子長手方向に沿った垂直断面図である。
図4】、ガスセンサ100を実使用する前の段階における、必要酸素量指標値の特定について説明するための図である。
図5】ガスセンサ100の使用開始時に、汲み入れ電流値Xおよび汲み入れ時間Yに基づく酸素の汲み入れ動作を短時間で行う場合の、測定ポンプ電流Ip2の時間変化を示す図である。
図6】ガスセンサ100の製造の流れを示す図である。
図7】始動時汲み入れパラメータの設定に係る処理の流れを示す図である。
図8】車両システム1000の始動時の処理の流れを示す図である。
図9】実施例に係るガスセンサ100を大気中にて通常の駆動条件で駆動したときの、加熱開始からの測定ポンプ電流Ip2の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本実施の形態に係る動作方法の実施対象であるガスセンサ100を含む、車両システム1000の要部の構成を、模式的に示す図である。
【0022】
車両システム1000は、ガスセンサ100に加え、図示しない車両(自動車)本体に搭載された、当該車両の動力源たるガソリンエンジン(以下、単にエンジンとも称する)200と、エンジン200から排出される排ガスの排気管300と、排気管300の途中に設けられてなる触媒部400と、車両システム1000の動作を制御するECU(電子制御装置)500とを、主として備える。
【0023】
ガスセンサ100は、排気管300において触媒部400よりも下流側に設けられてなり、エンジン200から排出された後、触媒部400を通過した排ガスにおけるNOxおよびNHを検知し、その濃度を特定するためのものである。ガスセンサ100は、センサコントローラ150を介してECU500に接続されており、時々刻々と測定されるNOxおよびNHの濃度の時間積分値をECU500にて演算することにより、NOxおよびNHの排出量が求められるようになっている。
【0024】
触媒部400は、TWC(三元触媒)400aと、GPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)400bとを備える。図1においては、TWC400aと、GPF400bとが一体となった構成を示しているが、これは一例であり、両者は別体に設けられる場合もある。TWC400aは、エンジン200の排ガスがλ<1のリッチ雰囲気である場合には主に排ガス中のNOxを浄化し、排ガスがλ>1のリーン雰囲気にあるときは主に排ガス中のHC(炭化水素)およびCO(一酸化炭素)を浄化し、λ=1近傍のストイキ雰囲気では排ガス中のNOx、HC、およびCOを全て浄化する。GPF400bは、エンジン200の排ガスに含まれるPM(粒子状物質)を捕集するフィルタである。PM(粒子状物質)の一種として、炭素の微粒子である煤がある。
【0025】
ECU500は、車両の運転全般に係る制御を担う。ECU500は少なくとも1つのプロセッサ(図示せず)およびメモリ(図示せず)を含んでおり、ECU500が有する各機能は、プロセッサがメモリに格納されているソフトウェアを実行することによって実現される。メモリは、例えば、不揮発性または揮発性の半導体メモリである。
【0026】
センサコントローラ150は、ガスセンサ100に電気的に接続されてなるものであり、ECU500の制御のもと、ガスセンサ100における濃度測定のための種々の駆動動作を制御する。センサコントローラ150も、少なくとも1つのプロセッサ(図示せず)およびメモリ(図示せず)を含んでおり、センサコントローラ150が有する各機能は、プロセッサがメモリに格納されているソフトウェアを実行することによって実現される。メモリは、例えば、不揮発性または揮発性の半導体メモリである。
【0027】
センサコントローラ150は、ガスセンサ100の製造時に、個々のガスセンサ100に固有のものが用意され、接続される。そして、後述するように、個々のガスセンサ100に固有の特性情報が、接続されたセンサコントローラ150のメモリに格納されるようになっている。
【0028】
<ガスセンサの構成>
図2は、ガスセンサ100の長手方向に沿った要部断面図である。図2においては、鉛直方向をz軸方向として示しており、ガスセンサ100の長手方向はz軸方向と一致している。
【0029】
ガスセンサ100は、主として、センサ素子101と、その周囲に環装されてなる環装部品120と、環装部品120の周囲にさらに環装され、該環装部品120を収容してなる筒状体130とが、保護カバー102と、固定ボルト103と、外筒104とによって被覆された構成を有する。換言すれば、ガスセンサ100においては、概略、センサ素子101が筒状体130の内部の軸中心位置において軸方向に貫通し、環装部品120が、筒状体130の内部においてセンサ素子101に環装された構成を有する。主として、筒状体130と、保護カバー102と、外筒104とが、センサ素子101のケーシング(収容部材)を構成している。
【0030】
センサ素子101は、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質セラミックスからなる素子体を主たる構成材料とする長尺の柱状あるいは薄板状の部材である。センサ素子101は、筒状体130の長手方向に沿った中心軸上に配置されてなる。以降、筒状体130の長手方向と一致する中心軸の延在方向を軸線方向とも称する。図2において、軸線方向はz軸方向と一致している。
【0031】
センサ素子101は、第1先端部101aの側にガス導入口や内部空所などを備える検知部を有するとともに、素子体表面および内部に種々の電極や配線パターンを備えた構成を有する。センサ素子101においては、内部空所に導入された被検ガスが内部空所内で還元ないしは分解されて酸素イオンが発生する。ガスセンサ100においては、素子内部を流れる酸素イオンの量が被検ガス中における当該ガス成分の濃度に比例することに基づいて、係るガス成分の濃度が求められる。すなわち、ガスセンサ100は、限界電流式のガスセンサである。
【0032】
センサ素子101の表面の、第1先端部101aから長手方向における所定の範囲は、保護膜111で被覆されてなる。保護膜111は、内部空所や電極等が設けられてなるセンサ素子101の第1先端部101a近傍を被水などによる熱的な衝撃から保護するために設けられ、耐熱衝撃保護層とも称される。保護膜111は、例えばAl3などからなる厚みが10μm~2000μm程度の多孔質膜である。保護膜111は、その目的に照らして、50N程度までの力に耐え得るように形成されるのが好ましい。ただし、図2における保護膜111の形成範囲はあくまで例示であって、実際の形成範囲は、センサ素子101の具体的構造に応じて適宜に定められる。
【0033】
保護カバー102は、センサ素子101のうち、使用時に被検ガスに直接に接触する部分である第1先端部101aを保護する、略円筒状の外装部材である。保護カバー102は、筒状体130の図面視下側(z軸方向負側)の外周端部(後述する縮径部131の外周)に、溶接固定されてなる。
【0034】
図2に示す場合においては、保護カバー102は、外側カバー102aと内側カバー102bとの2層構造となっている。外側カバー102aと内側カバー102bは、それぞれ、気体が通過可能な複数の貫通孔H1およびH2と、H3およびH4が設けられてなる。なお、図2に示す貫通孔の種類、配置個数、配置位置、形状などあくまで例示であって、保護カバー102の内部への被測定ガスの流入態様を考慮して適宜に定められてよい。
【0035】
固定ボルト103は、ガスセンサ100を測定位置に固定する際に用いられる環状の部材である。固定ボルト103は、ねじ切りがされたボルト部103aと、ボルト部103aを螺合する際に保持される保持部103bとを備えている。ボルト部103aは、ガスセンサ100の取り付け位置に設けられたナットと螺合する。例えば、自動車の排気管に設けられたナット部にボルト部103aが螺合されることで、ガスセンサ100は、保護カバー102の側が排気管300内に露出する態様にて該排気管300に固定される。
【0036】
外筒104は、その一方端部(図面視下端部)が筒状体130の図面視上側(z軸方向正側)の外周端部に溶接固定されてなる、金属製の円筒状部材である。外筒104の内部にはコネクタ105が配されている。また、外筒104の他方端部(図面視上端部)には、シール(封止)部材として、ゴム栓106が嵌め込まれている。ガスセンサ100においては、筒状体130とゴム栓106との間において、外筒104に囲繞されてなる空間が、基準ガス空間SPとなっている。換言すれば、基準ガス空間SPは、ゴム栓106にて封止されてなる。基準ガス空間SPには、センサ素子101の第2先端部101bが突出してなる。係る基準ガス空間SPには、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0037】
コネクタ105には、センサ素子101の第2先端部101bに備わる図示しない複数の端子電極と接する複数の接点部材151が備わっている。接点部材151は、ゴム栓106に挿通されたリード線107と接続されてなる。リード線107は、ガスセンサ100外部の図2においては図示しないセンサコントローラ150や各種電源に接続されてなる。
【0038】
なお、図2には、接点部材151とリード線107とをそれぞれ2つずつのみ示しているが、これは例示である。
【0039】
筒状体130は、主体金具とも称される金属製の筒状部材である。筒状体130の内部には、センサ素子101と環装部品120とが収容されてなる。換言すれば、筒状体130は、センサ素子101の周りに環装された環装部品120の周囲に、さらに環装されてなる。
【0040】
筒状体130は、軸線方向に平行な円筒状の内面130aによって円筒状の内空間をなしている厚肉の主部130Mと、図面視で軸線方向下端部(z軸方向負側)に備わり、主部130Mよりもさらに厚肉の縮径部131と、図面視で軸線方向の上端に位置する主部130Mの端面130cからさらに上方に延在しつつ、軸中心へ向かう向きへと屈曲させられてなる薄肉のかしめ部132と、周方向外側へと突出してなる係止部133とを主として備える。
【0041】
かしめ部132は、屈曲させられてなることで、内部に配置された環装部品120を(直接的には第2セラミックサポータ123を)図面視上方から押圧しつつ固定(拘束)してなる。なお、かしめ部132は、後述するように、センサ素子101および環装部品120の環装後に屈曲させられてなる。
【0042】
環装部品120は、第1セラミックサポータ121と、圧粉体122と、第2セラミックサポータ123とからなる。
【0043】
第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123は、セラミックス製の碍子である。より詳細には、第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123の軸中心位置には、センサ素子101の断面形状に応じた矩形状の貫通孔(図示省略)が設けられており、当該貫通孔にセンサ素子101が挿通されることによって、第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123はセンサ素子101に環装されてなる。なお、第1セラミックサポータ121は、図面視下方において筒状体130のテーパー面130bに係止されてなる。
【0044】
一方、圧粉体122は、タルクなどのセラミックス粉末を成型してなり、かつ、第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123と同様、貫通孔にセンサ素子101が挿通されることによってセンサ素子101の周囲に環装された状態で筒状体130の内部に配置された後、さらに圧縮されて一体となったものである。より詳細には、圧粉体122をなすセラミックス粒子は、第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123と筒状体130とに囲繞され、かつ、センサ素子101が貫通する空間に、密に充填されてなる。
【0045】
ガスセンサ100においては、概略、第1セラミックサポータ121のテーパー面130bによる係止と、第2セラミックサポータ123の図面視上側からのかしめ部132による押圧とによって、筒状体130の内部におけるセンサ素子101と環装部品120との固定が、実現されてなる。加えて、圧粉体122の圧縮充填により、センサ素子101の第1先端部101a側と、第2先端部101b側との間の気密封止が、実現されてなる。
【0046】
<センサ素子の概略構成>
図3は、センサ素子101の構成の一例を概略的に示す、素子長手方向に沿った垂直断面図である。図3においては、センサ素子101の第1先端部101a側に備わる保護膜111の図示を省略している。
【0047】
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(ZrO)からなる(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などからなる)、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの固体電解質層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する、平板状の(長尺板状の)セラミックス製の素子体である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。なお、以降においては、図3におけるこれら6つの層のそれぞれの上側の面を単に上面、下側の面を単に下面と称することがある。また、センサ素子101のうち固体電解質からなる部分全体を基体部と総称する。
【0048】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターン(例えば、電極、電極リード、リード絶縁層など)の印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0049】
センサ素子101の第1先端部101a側であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10を兼ねる第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0050】
緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間(領域)である。なお、ガス導入口10についても同様に、第1拡散律速部11とは別に、第1先端部101aにおいてスペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられてなる態様であってもよい。係る場合、第1拡散律速部11がガス導入口10よりも内部に隣接形成されることになる。
【0051】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30と、第4拡散律速部60とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から最奥の内部空所である第3内部空所61に至る部位をガス流通部とも称する。
【0052】
また、センサ素子101の第2先端部101b側には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空所43が設けられている。基準ガス導入空所43は、外筒104内の基準ガス空間SPに対し開口しており、基準ガス空間SPから基準ガスたる大気が導入される。
【0053】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空所43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0054】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空所43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0055】
ガス流通部において、ガス導入口10(第1拡散律速部11)は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0056】
第1拡散律速部11は、取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0057】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0058】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0059】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0060】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素濃度(酸素分圧)を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0061】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極(主ポンプ電極とも称する)22と、第2固体電解質層6の上面(センサ素子101の一方主面)の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側(空所外)ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0062】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)に形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成されてなる。これら天井電極部22aと底部電極部22bとは、第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0063】
天井電極部22aおよび底部電極部22bは、平面視矩形状に設けられてなる。ただし、天井電極部22aのみ、あるいは、底部電極部22bのみが設けられる態様であってもよい。
【0064】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極として形成される。特に、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力が弱められてなる一方で、NHに対する酸化能力を有する材料を用いて形成される。被測定ガスにNHが含まれている場合、係るNHは内側ポンプ電極22の触媒能により酸化されてNOに変換される。
【0065】
内側ポンプ電極22は、例えば、5%~40%の気孔率を有し、Auを0.6wt~1.4wt%程度含むAu-Pt合金とZrOとのサーメット電極として、5μm~20μmの厚みに形成される。Au-Pt合金とZrOとの重量比率は、Pt:ZrO=7.0:3.0~5.0:5.0程度であればよい。
【0066】
一方、外側ポンプ電極23は、例えばPtあるいはその合金とZrOとのサーメット電極として、平面視矩形状に形成される。
【0067】
なお、図3においては図示を省略しているが、センサ素子101の一方主面側に、外側ポンプ電極23を保護する目的で、外側ポンプ電極23を被覆する電極保護層が備わっていてもよい。
【0068】
主ポンプセル21においては、ECU500による制御のもと、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向に主ポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。なお、主ポンプセル21において内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に印加されるポンプ電圧Vp0を、主ポンプ電圧Vp0とも称する。
【0069】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセルである主センサセル80が構成されている。
【0070】
主センサセル80における内側ポンプ電極22と基準電極42との電位差である起電力V0を測定することで、第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0071】
さらに、センサコントローラ150が、起電力V0が一定となるように主ポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することで、主ポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0072】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0073】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧をさらに調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。第2内部空所40においては、被測定ガスの酸素濃度がさらに高精度に調整される。
【0074】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素濃度(酸素分圧)の調整が行われるようになっている。
【0075】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0076】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様の形態にて、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成されてなり、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成されてなる。これら天井電極部51aと底部電極部51bは、平面視矩形状をなしているとともに、第2内部空所40の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0077】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。あるいはさらに、NHに対する酸化能力をも有する材料を用いて形成される態様であってもよい。係る場合、仮に第2内部空所40に到達した被測定ガスに第1内部空所20において内側ポンプ電極22の触媒能により酸化されなかったNHが残存している場合であっても、係るNHをより確実に酸化させてNOに変換させることが可能となる。
【0078】
補助ポンプセル50においては、センサコントローラ150による制御のもと、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧(補助ポンプ電圧)Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0079】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセルである補助センサセル81が構成されている。補助センサセル81においては、第2内部空所40内の酸素分圧に応じて補助ポンプ電極51と基準電極42との間に生じる電位差である起電力V1が、検出される。
【0080】
補助ポンプセル50は、この補助センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、ポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にフィードバック制御されるようになっている。
【0081】
また、これとともに、その補助ポンプ電流Ip1が、主センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、補助ポンプ電流Ip1は、制御信号として主センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0082】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。
【0083】
第3内部空所61は、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物の濃度の測定に係る処理を行うための空間(測定用内部空所)として設けられている。ここで、窒素酸化物には、もとより被測定ガスに含まれていたNOxと、被測定ガスに含まれていたNHが酸化されることにより生じたNOとが含まれる。窒素酸化物濃度の測定は、第3内部空所61において、測定ポンプセル41が動作することによりなされる。第3内部空所61には、第2内部空所40において酸素濃度が高精度に調整された被測定ガスが導入されるため、ガスセンサ100においては精度の高い窒素酸化物濃度測定が可能となる。
【0084】
測定ポンプセル41は、第3内部空所61内に導入された被測定ガスの窒素酸化物濃度を測定するためのものである。測定ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0085】
測定電極44は、貴金属と固体電解質との多孔質サーメット電極である。例えばPtあるいはPtとRhなどの他の貴金属との合金と、センサ素子101の構成材料たるZrOとのサーメット電極として形成される。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在する窒素酸化物を還元する窒素酸化物還元触媒としても機能する。
【0086】
測定ポンプセル41においては、センサコントローラ150による制御のもと、第3内部空所61内の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流(測定ポンプ電流)Ip2として検出することができる。
【0087】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって、電気化学的なセンサセルである測定センサセル82が構成されている。測定センサセル82にて検出される、第3内部空所61内の酸素分圧に応じて測定電極44と基準電極42との間に生じる電位差である起電力V2に基づいて、可変電源46がフィードバック制御される。なお、測定ポンプセル41は、起電力V2の設定によっては外部より酸素を汲み入れることも可能とされてなる。
【0088】
第3内部空所61内に導かれた被測定ガス中の窒素酸化物は測定電極44により還元され、酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧(測定ポンプ電圧)Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定ポンプセル41におけるポンプ電流(測定ポンプ電流)Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0089】
ただし、係る態様にて窒素酸化物濃度を算出するだけでは、その値がリーン雰囲気の被測定ガスに含まれていたNOxの濃度に該当するのか、あるいはリッチ雰囲気の被測定ガスに含まれていたNHが酸化されることにより生じたNOの濃度に該当するのか、不明である。NOxとNHの排出量をそれぞれに把握するためには、濃度値の算出対象となっているガス成分が、NOxとNHのいずれであるかを判別する必要がある。
【0090】
本実施の形態に係る車両システム1000においては、係る判別を、NOxおよびNHを直接に検出することによって行うのではなく、センサ素子101に備わる雰囲気判定セル83を用いて行うようになっている。
【0091】
雰囲気判定セル83は、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから構成される電気化学的なセンサセルである。この雰囲気判定セル83によって得られる起電力Vrefは、センサ素子101の周囲の雰囲気中の酸素分圧、つまりは酸素の多少に応じた値となる。
【0092】
そこで、車両システム1000においては、被測定ガスがリーン雰囲気であるときの起電力Vrefの値(範囲)とリッチ雰囲気であるときの起電力Vrefの値(範囲)とをあらかじめ特定しておき、センサコントローラ150の図示しないメモリに記憶させておくようにする。ガスセンサ100による測定の実行時、センサコントローラ150は、測定ポンプ電流Ip2の値を示す信号と起電力Vrefの値を示す信号とをセットで取得する。そして、起電力Vrefの値に基づいて、測定ポンプ電流Ip2に基づいて演算される窒素酸化物の濃度値を、NOxによるものかNHによるものかを判別し、該当するガス種の濃度値として記録または出力する。
【0093】
センサ素子101は、さらに、基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。
【0094】
ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータエレメント72と、ヒータリード72aと、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、図3においては図示を省略するヒータ抵抗検出リードとを、主として備えている。また、ヒータ部70は、ヒータ電極71を除いて、センサ素子101の基体部に埋設されてなる。
【0095】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(センサ素子101の他方主面)に接する態様にて形成されてなる電極である。
【0096】
ヒータエレメント72は、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、図3においては図示を省略する、センサ素子101の外部に備わる図示しないヒータ電源から、通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、およびヒータリード72aを通じて給電されることより、発熱する。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、センサ素子101のガス流通部が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向においてガス流通部と対向するように埋設されている。ヒータエレメント72は、10μm~30μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0097】
センサ素子101においては、センサコントローラ150による制御のもと、ヒータ電極71を通じてヒータエレメント72に電流を流すことにより、ヒータエレメント72を発熱させることで、センサ素子101の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、センサ素子101は、ガス流通部付近の固体電解質および電極の温度が700℃~900℃程度になるように加熱される。係る加熱によって、センサ素子101において基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。なお、ガスセンサ100が使用される際の(センサ素子101が駆動される際の)ヒータエレメント72による加熱温度を、素子駆動温度と称する。
【0098】
ヒータエレメント72による発熱の程度(ヒータ温度)は、ヒータエレメント72の抵抗値の大きさ(ヒータ抵抗)によって把握される。
【0099】
以上のような構成を有するガスセンサ100においてNOxあるいはNHの濃度が測定される際には、センサコントローラ150が主ポンプセル21さらには補助ポンプセル50を作動させることによって、第1内部空所20さらには第2内部空所40において酸素濃度が一定とされるフィードバック制御が実行され、酸素濃度一定とされた被測定ガスが、第3内部空所61へと導入され、測定電極44に到達する。被測定ガスがNHを含んでいる場合には、NHは第1内部空所20あるいは第2内部空所40において酸化され、NOに変換される。
【0100】
そして、測定電極44においては、到達した被測定ガス中の窒素酸化物が還元されることによって、酸素が発生する。係る酸素は、測定ポンプセル41より汲み出されるが、係る汲み出しの際に流れる測定ポンプ電流Ip2は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度と一定の関数関係(以下、感度特性と称する)を有する。
【0101】
係る感度特性は、ガスセンサ100を実使用するに先立ってあらかじめ、窒素酸化物濃度が既知の複数種類のモデルガスを用いて特定され、そのデータがセンサコントローラ150のメモリに記憶される。また、上述のように、メモリには、センサ素子101の周囲の被測定ガスがリーン雰囲気である場合とリッチ雰囲気である場合のそれぞれに対応する、雰囲気判定セル83に生じる起電力Vrefの値(範囲)も、あらかじめ記憶されている。
【0102】
そして、ガスセンサ100の実使用時、つまりは車両システム1000を備える車両の運転時には、被測定ガスにおける窒素酸化物濃度に応じて流れる測定ポンプ電流Ip2の値を表す信号と、被測定ガスの雰囲気に応じた値となる起電力Vrefを示す信号とが、センサコントローラ150に時々刻々と与えられる。これらの信号は、センサコントローラ150からECU500へと与えられ、ECU500においては、測定ポンプ電流Ip2の値と特定した感度特性とに基づいて、窒素酸化物濃度が次々と演算される。また、起電力Vrefの値に基づいて、被測定ガスがどのような雰囲気にあるかが判定される。被測定ガスがリーン雰囲気であると判定された場合には、演算された窒素酸化物濃度はNOxの濃度を示すものとして取り扱われ、被測定ガスがリッチ雰囲気であると判定された場合には、演算された窒素酸化物濃度はNHの濃度を示すものとして取り扱われる。
【0103】
これにより、ガスセンサ100を備える車両システム1000においては、被測定ガス中のNOxおよびNHの濃度をほぼリアルタイムで把握することができるようになっている。
【0104】
<炭化水素ガスの酸化への対応>
次に、本実施の形態に係る車両システム1000において実現される、ガスセンサ100に吸着していた炭化水素(HC)ガスの酸化に伴う測定精度の劣化と測定不能時間の発生という問題を回避するための動作について説明する。
【0105】
エンジン200が停止しており、ガスセンサ100も動作しておらず常温となっている間、ガスセンサ100にはHCガスが吸着する。あるいはさらに、係るHCガスの吸着は、エンジン200の始動に伴う昇温時に発生する。吸着したHCガスは昇温の過程で酸化され、係る酸化は、遅くとも、センサ素子101が素子駆動温度に到達後、一定程度の時間が経過するまでの間に、終了する。
【0106】
このようなHCガスの吸着さらには酸化に関して特に問題となるのは、測定電極44が備わる第3内部空所61に吸着していたHCガスの酸化に伴い、測定ポンプセル41における測定ポンプ電流Ip2が一時的に減少し、その結果として、係る測定ポンプ電流Ip2を用いて特定されるNOxおよびNHの濃度値が本来の値からずれてしまうという点である。
【0107】
ただし、このことは、別の見方をすれば、測定ポンプセル41における測定ポンプ電流Ip2の値をモニタすることによって、第3内部空所61においてHCガスの酸化が生じていることを、把握できることを意味する。
【0108】
また、吸着しているHCガスの酸化に要する酸素量はHCガスの量に比例するところ、ガスセンサ100の通常の動作時に第3内部空所61に存在する酸素の量が、吸着しているHCガスの量に比べて少ない場合、たとえ通常の動作条件に従い、汲み入れ動作が行われるとしても、HCガスを全て酸化させるのには時間を要する。
【0109】
一方で、個々のガスセンサ100においてセンサ素子101の内部に吸着し得るHCガスの量は、その構造(内部空所のサイズや電極の面積、気孔率など)に応じて概ね一定であり、使用が繰り返される都度、再現性があると考えられる。これはすなわち、個々のガスセンサ100につき、第3内部空所61に吸着するHCガスの酸化に必要な酸素の量を、あらかじめ見積もることが可能であることを意味する。
【0110】
本実施の形態においては、以上の点を鑑み、ガスセンサ100を実使用する前の段階であらかじめ、第3内部空所61に吸着しているHCガスの酸化に必要な酸素の量を示すための指標値(以下、必要酸素量指標値)を特定する。そして、ガスセンサ100を使用する都度、HCガスの酸化が生じ始めたことに起因して測定ポンプ電流Ip2が本来とるべき値よりも減少し始めるタイミングで、係る指標値に基づく量の酸素を、短時間で意図的に(強制的に)汲み入れ、HCガスを意図的にかつ確実に短時間で全て酸化させるようにする。HCガスを意図的に酸化させている間は測定を行い得ないものの、係る意図的な酸化の時間を、これを行わない場合において酸素ポンプ電流Ip2の異常値が継続する時間に比して十分に短くすることで、結果的には、酸素ポンプ電流Ip2に基づく測定を好適に行い得ない時間は短縮される。
【0111】
なお、センサ素子101の内部におけるHCガスの吸着と、駆動開始時におけるその酸化とは、第3内部空所61のみならず、ガス導入口10から第3内部空所61に至るまでのガス流通部全体で起こり得るが、第3内部空所61以外に吸着しているHCガスの酸化は基本的に、主ポンプセル21により第1内部空所20から汲み出される酸素の量と、補助ポンプセル50により第2内部空所40から酸素の汲み出される酸素の量を低減させるだけであるので、窒素酸化物濃度の測定精度に対し直接には影響を及ぼさない。
【0112】
図4は、ガスセンサ100を実使用する前の段階における、必要酸素量指標値の特定について説明するための図である。具体的には、図4は、センサ素子101の内部にHCガスを意図的に十分に吸着させた実使用前のガスセンサ100を、大気中において通常の駆動条件で動作させたときの、測定ポンプ電流Ip2の駆動開始からの時間変化を示す図である。なお、係る場合におけるHCガスの吸着は、ガスセンサ100の実使用時に通常生じ得る吸着において見込まれる吸着量と同等あるいはそれ以上の吸着量にてなされるようにするのが好ましい。また、ヒータ部70によるセンサ素子101の加熱温度は必ずしも700℃~900℃程度の素子駆動温度と同じとする必要はなく、HCガスの酸化が好適に生じる温度としてもよい。
【0113】
係る場合、大気中の酸素の濃度は一定であり、かつ、大部分の酸素は主ポンプセル21と補助ポンプセル50とによって汲み出されるため、測定ポンプ電流Ip2は、駆動開始から十分に時間が経てば、オフセット電流値とも称される0に近いある一定の値Ip2_ofsとなる。しかしながら、これまで説明したように、これに先立つ幾何かの時間、測定ポンプ電流Ip2は、酸素がHCガスの酸化に消費されるために減少する。
【0114】
ここで、図4に示すように、測定ポンプ電流Ip2の減少開始時の減少量をAとし、係る減少が継続する時間(減少継続時間)をBとすると、これらの値の積A×Bは、HCガスの酸化に要した酸素の量に応じた値となる。それゆえ、本実施の形態においては、これらの値AおよびBを、必要酸素量指標値と定義し、積A×Bを必要酸素量相当値と定義する。なお、測定ポンプ電流Ip2の本来の値からの減少量は時間経過とともに変化し得るが、通常は、減少開始時の減少量Aが最大となるため、積A×Bが実際にHCガスを酸化させるのに必要な酸素の量に比して過小となる可能性は小さいことから、必要酸素量相当値の特定にあたり減少量Aを用いることに特段の不具合はない。
【0115】
なお、図4においては、減少量Aの絶対値がIp2_ofsよりも大きいために、減少継続時間Bにおける測定ポンプ電流Ip2の値は負となっている(つまりは酸素が汲み入れられている)が、Ip2_ofsの大きさと、HCガスの吸着量との兼ね合いによっては、減少量Aの絶対値がIp2_ofsよりも小さく減少継続時間Bにおける測定ポンプ電流Ip2の値がプラスのままとなることもあり得る。
【0116】
必要酸素量指標値である減少量Aと減少継続時間Bとが特定されることにより必要酸素量相当値が定まると、ガスセンサ100の使用開始時に係る必要酸素量相当値に相当する酸素を第3内部空所61に汲み入れるための測定ポンプ電流Ip2(汲み入れ電流)の電流の大きさ(絶対値)である汲み入れ電流値Xと、汲み入れ時間Yとは、
A×B=X×Y ・・・(1)
X≫A ・・・(2)
Y≪B ・・・(3)
なる条件に従い設定することができる。
【0117】
ただし、
X≦100μA ・・・(4)
Y≦10min ・・・(5)
とする。
【0118】
具体的には、式(1)~(3)は、式(1)の左辺の積A×Bにて定まる、第3内部空所61に吸着しているHCガスを全て酸化させるにあたっての必要酸素量相当値に相当する酸素の汲み入れを、減少量Aに比して十分に大きな汲み入れ電流値Xにて、減少継続時間Bよりも十分に短い、さらにはセンサ素子101が素子駆動温度に達するまでの時間よりも十分に短い汲み入れ時間Yで行うための、汲み入れ電流値Xおよび汲み入れ時間Yがみたすべき条件を、示している。
【0119】
また、式(4)および式(5)は、測定電極44が汲み入れた酸素にて酸化される不具合が生じないようにするための条件である。なお、式(4)の100μA(=0.1mA)なる値は、酸素濃度としては5%に相当する。
【0120】
なお、XおよびYの値は必ずしも、式(1)~(5)によって一義的に定まるわけではなく、式(1)~(5)をみたすことを条件に任意の組み合わせを取り得る。それゆえ、実際の汲み入れ電流値Xおよび汲み入れ時間Yの設定の仕方には自由度がある。よって、実際の設定に際しては、例えば汲み入れ時間Yの短縮を重視するのであれば、汲み入れ電流値Xが式(4)の100μAを超えない範囲で汲み入れ時間Yの値を最小にし、汲み入れの確実性を重視するのであれば汲み入れ時間Yが式(5)の10minを超えない範囲で汲み入れ電流値を最小にする、などの設定基準に従い設定するようにすればよい。
【0121】
汲み入れ電流値Xおよび汲み入れ時間Yは、ガスセンサ100の使用開始前までに(典型的には出荷時までに)設定され、センサコントローラ150のメモリに格納される。
【0122】
図5は、ガスセンサ100の使用開始時に、設定された汲み入れ電流値Xおよび汲み入れ時間Yに基づいて必要酸素量相当値に従う酸素の汲み入れ動作を短時間で行う場合の、測定ポンプ電流Ip2の時間変化を示す図である。なお、図5においては図示の簡単のため、図4の場合と同様に、測定ポンプ電流Ip2は十分に時間が経てばあるオフセット電流値Ip2_ofsとなるものとしているが、実際には必ずしも一定になるわけではなく、当該被測定ガスに含まれるNOxの濃度に応じて変動する。
【0123】
ECU500からの制御指示に基づきセンサコントローラ150が通常の駆動条件でセンサ素子101の駆動を開始させると、第3内部空所61にHCガスが吸着している場合、例えばセンサ素子101の昇温途中など、センサ素子101の駆動開始後のある任意のタイミングで、係るHCガスが酸化され始めることに伴い測定ポンプ電流Ip2は本来の値から急激に減少する。図5においては、時刻t1において減少量Cの減少が生じた場合を示している。
【0124】
仮に、係る減少が生じた以降もそれまでの駆動条件が維持された場合には、図5において一点鎖線にて示すように、HCガスの吸着状態に応じたある減少継続時間Dの間、測定ポンプ電流Ip2の減少が継続することになる。
【0125】
しかしながら、本実施の形態においては、測定ポンプ電流Ip2に所定の閾値以上の減少が生じるタイミングで、あらかじめ設定された汲み入れ電流値Xおよび汲み入れ時間Yに従う汲み入れ動作が実行されるよう、センサ素子101の駆動条件が変更される。
【0126】
より詳細には、例えば図5に示すオフセット電流値Ip2_ofsに収束するプロファイルのような、ガスセンサ100を始動させたときの測定ポンプ電流Ip2の時間変化プロファイルを与える、ガスセンサ100を始動開始後の任意の時刻における測定ポンプ電流Ip2の値は、車両システム1000の各構成要素の構造・形状・状態を表す所定のパラメータの値に応じて予測(演算)が可能である。本実施の形態においては、ECU500が、その値を時々刻々と予測しつつ、当該予測値と、測定ポンプ電流Ip2の実測値とを比較する。そして、始動開始後のある時刻における測定ポンプ電流Ip2の予測値が、所定の閾値を超えて小さいと判断されたタイミングで、汲み入れ動作が実行される。
【0127】
なお、車両システム1000の各構成要素の構造・形状・状態を表す所定のパラメータとしては、ガスセンサ100の構成や駆動条件、エンジン200の駆動状況(回転数、燃料噴射量)、排気管300の内径、触媒部400の状況(温度など)などが例示される。
【0128】
汲み入れ動作の実行にあたっては、測定ポンプ電流Ip2が汲み入れ電流値Xの汲み入れ電流として流れるように、測定センサセル82における起電力V2の目標値が、通常の駆動条件に比して小さい値に一時的に変更され、汲み入れ時間Yが経過するまで維持される。図5においては、ある時刻t1において、測定ポンプ電流Ip2があらかじめ設定された閾値を超える減少量Cにて減少したことに伴い起電力V2の目標値が変更された場合を、例示している。
【0129】
このような駆動条件の一時的な変更により、第3内部空所61に対し、内部に吸着しているHCガスを全て酸化させるに足る酸素を、条件を変更しない場合の減少継続時間Dに比して十分に短い時間で汲み入れることが、可能となる。なお、その際にはもちろんのこと、汲み入れの時点ですでに第3内部空所61に存在する酸素も、HCガスの酸化に際し消費される。そして、図5に示すように、汲み入れ時間Yの間のみ一時的に大きな汲み入れ電流が流れた後は、NOxが検出されない限り、測定ポンプ電流Ip2はオフセット電流値Ip2_ofsへと収束することになる。
【0130】
なお、係るガスセンサ100の使用開始の時点での第3内部空所61におけるHCガスの吸着状態(吸着量)と、汲み入れ電流値Xおよび汲み入れ時間Yの設定に用いる必要酸素量指標値(減少量Aと減少継続時間B)を特定するべく、実使用前の段階でのガスセンサ100の駆動に先立ちHCガスを意図的に導入させた際の吸着状態(吸着量)とは、必ずしも同じではない。しかしながら、後者はHCガスが十分に吸着した状態を想定したものであることから、通常は、汲み入れ電流値Xおよび汲み入れ時間Yに従う酸素の汲み入れを行っておけば、第3内部空所61におけるHCガスは、係る組み入れを行わない場合に比して短い時間で、確実に全て酸化される。すなわち、通常の窒素酸化物濃度の測定動作に代えて意図的な汲み入れ動作を短時間行うことで、結果として、酸素ポンプ電流Ip2に基づく測定を好適に行い得ない時間は短縮される。
【0131】
以上のように、本実施の形態においては、HCガスの酸化が生じるタイミングで測定電極の備わる内部空所に意図的に酸素を汲み入れて係るHCガスを短時間で全て酸化させる。これにより、酸素ポンプ電流Ip2に基づく測定を好適に行い得ない時間は短縮される。さらには、被測定ガスを対象とした窒素酸化物濃度の測定を行うことが可能となった以降に、係るHCガスの酸化に起因して酸素ポンプ電流Ip2が異常値となって測定不能時間が生じることが、回避される。
【0132】
<ガスセンサの製造プロセス>
次に、汲み入れ電流値Xと汲み入れ時間Yとの設定に係る処理を主たる対象とした、ガスセンサ100の製造プロセスの例について説明する。図6は、ガスセンサ100の製造の流れを示す図である。また、以降においては、汲み入れ電流値Xと、汲み入れ時間Yとを、始動時汲み入れパラメータとも称する。
【0133】
ガスセンサ100の製造にあたってはまず、センサ素子101が作製される(ステップS10)。センサ素子101の作製は、従来公知の手法にて行うことができる。概略的にいえば、センサ素子101のそれぞれの固体電解質層(図3においては6つの層)に対応するセラミックスグリーンシートを用意し、それらに所定の加工および回路パターン(例えば、電極、電極リード、リード絶縁層など)の印刷などを行ったうえで全てのシートを積層し、さらに、個片化のうえ焼成し、各層を一体化させることによって、多数個のセンサ素子101が同時に作製される。
【0134】
係る態様にて製造されたそれぞれのセンサ素子101は、保護膜111の形成を経て、次に、図2に示したような環装部品120、筒状体130、保護カバー102、固定ボルト103、外筒104、コネクタ105、ゴム栓106、リード線107などを用いた組立工程(ステップS20)に供される。所定の手順にてこれらの部材が組み付けられることにより、検査前の組立品としてのガスセンサ100が得られる。さらには、リード線107に対しセンサコントローラ150が接続される。
【0135】
次に、得られた個々のガスセンサ100について、使用の際に利用される種々の特性が特定される(ステップS30)。例えば、NOxあるいはNHの濃度を特定する際に用いられる感度特性(測定ポンプ電流Ip2と被測定ガス中の窒素酸化物の濃度との関数関係)や、各内部空所における酸素濃度(酸素分圧)と、対応するセンサセルに生じる起電力値との関係を示す情報や、センサ素子101の周囲の被測定ガスがリーン雰囲気かリッチ雰囲気かを判定するための起電力Vrefの値の情報などが、所定の処理に基づき特定される。これらの情報は、それぞれのガスセンサ100に接続された固有のセンサコントローラ150に記憶される。
【0136】
そして、その後の検査工程(S40)を合格したガスセンサ100が、製品として出荷される(ステップS50)。出荷されたガスセンサ100は、図1に示したように、車両システム1000の排気管300の触媒部400よりも下流側の位置に取り付けられ、ECU500の動作制御に従い使用される。
【0137】
<始動時汲み入れパラメータの設定プロセス>
ガスセンサ100は以上のプロセスにより得られるが、本実施の形態においてはさらに、ステップS30における特性特定のタイミングで、上述した始動時汲み入れパラメータの設定も行われる。図7は、始動時汲み入れパラメータの設定に係る処理の流れを示す図である。
【0138】
まず、ステップS20の組立工程により組み立てられた出荷前の(つまりは実使用前の)ガスセンサ100の内部に、HCガスを導入し、センサ素子101の第3内部空所61にHCガスを十分に吸着させる(ステップS311)。これは、ガスセンサ100を所定の時間、HCガスを含む雰囲気ガス内に載置することや、所定の流量のHCガスを所定時間、ガスセンサ100の内部に導入させることなどによって、実現される。
【0139】
次に、HCガスが導入されたガスセンサ100を大気中で始動させる。すなわち、ヒータ部70による加熱昇温を開始する(ステップS312)とともに、センサ素子を通常の駆動条件で動作させる(ステップS313)。
【0140】
そして、測定ポンプ電流Ip2のモニタを開始し、図4に示したような時間変化に基づいて、始動時汲み入れパラメータの設定に用いる必要酸素量指標値の値、すなわち、減少量Aと減少継続時間Bの値を特定する(ステップS314)。
【0141】
これらの必要酸素量指標値が得られると、式(1)~(5)に従うように始動時汲み入れパラメータを設定する(ステップS315)。設定された始動時汲み入れパラメータは、センサコントローラ150に記憶される。
【0142】
<ガスセンサ始動時の動作>
次に、車両システム1000の始動に伴いガスセンサ100が始動される際の動作について説明する。図8は、車両システム1000の始動時の処理の流れを示す図である。
【0143】
まず、ECU500は、車両システム1000のエンジンを始動させる(ステップS110)とともに、センサコントローラ150を通じてガスセンサ100を駆動させる。ECU500からガスセンサ100の駆動開始指示を受けたセンサコントローラ150は、センサ素子101を素子駆動温度にまで昇温させるべくヒータ部70による加熱を開始させる(ステップS120)とともに、センサ素子101を、ECU500を通じて設定された、窒素酸化物濃度の測定のための通常の駆動条件にて駆動させる(ステップS130)。
【0144】
センサ素子101の駆動が開始されると、ECU500は、測定ポンプ電流Ip2の値を時々刻々と予測しつつ、センサコントローラ150を通じて測定ポンプセル41を流れる測定ポンプ電流Ip2の値をモニタし、測定ポンプ電流Ip2の実測値の、予測値からの減少量が、所定の閾値以上となったか否かを判断する(ステップS140)。閾値は、あらかじめ定められてECU500に保持されてなる。なお、係る場合の閾値は、HCガスの酸化を確実に捉えることができるような値に設定されるのが好ましい。
【0145】
測定ポンプ電流Ip2における予測値からの減少量が閾値以上となった場合(ステップS140でYES)、ECU500は、センサコントローラ150に記憶されている始動時汲み入れパラメータに基づく酸素の汲み入れが行われるように、センサコントローラ150にガスセンサ100の駆動条件を変更させる。これにより、図5に示したような汲み入れ電流値Xおよび汲み入れ時間Yに従い、測定ポンプセル41が第3内部空所61に酸素を汲み入れる(ステップS160)。その結果、第3内部空所61に吸着していたHCガスは全て酸化される。
【0146】
汲み入れ時間Yが経過した時点で、ECU500は、センサコントローラ150を通じてセンサ素子101の駆動条件を通常の条件に復帰させる。これにより、センサ素子101は再び、通常の駆動条件にて駆動されるようになり(ステップS160)、素子駆動温度に達すると、窒素酸化物の濃度の特定が開始される。
【0147】
なお、測定ポンプ電流Ip2における減少量が閾値未満であった場合(ステップS140でNO)、センサ素子101においてはそのまま、通常の駆動条件での駆動が継続される(ステップS130)。これは、センサ素子101において窒素酸化物の測定に影響を及ぼすようなHCガスの酸化が生じていない場合に相当する。
【0148】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサの使用を開始する際、ヒータ部にて加熱昇温されつつ通常の駆動条件に駆動が開始されてなるセンサ素子において、酸素ポンプ電流の減少が生じ始めた時点で、あらかじめ見積もった必要酸素量相当値に基づいて設定した汲み入れ電流値および汲み入れ時間に従い、測定電極が備わる内部空所に対し意図的に酸素を汲み入れることによって、センサ素子が動作していない間に吸着しているHCガスを、確実に全て酸化させるようにする。その際の汲み入れ時間は、係る意図的な汲み入れを行わない場合にHCガスが全て酸化されるのに要する時間に比して、十分に短くする。これにより、酸素ポンプ電流に基づく測定を好適に行い得ない時間は短縮される。さらには、測定を行っている途中でHCガスの酸化に伴い酸素ポンプ電流が減少することを、回避することができる。
【0149】
<変形例>
上述の実施の形態においては、測定に際してセンサ素子の内部に被測定ガスが導入され、かつ測定ポンプセルにおける酸素の汲み入れおよび汲み出しを行い得るガスセンサが、内燃機関の一種であるガソリンエンジンの排気管に取り付けられて使用される場合を対象としているが、センサ素子の駆動開始時の意図的な酸素の汲み入れによる、測定電極が備わる内部空所におけるHCガスの酸化は、当該ガスセンサが、例えばディーゼルエンジンなど、他の内燃機関の排気管に取り付けられて使用される場合においても実現可能である。あるいは、不使用時に測定電極が備わる内部空所にHCガスが吸着するガスセンサであれば、排気管に取り付けられることなく使用されるものであっても、同様の効果を得ることが可能である。
【実施例0150】
組立工程を経たガスセンサ100を対象に、始動時汲み入れパラメータを設定するための処理を行った。
【0151】
具体的には、対象となるガスセンサ100のセンサ素子101をヒータ部70にて850℃にまで加熱するようにしつつ、センサ素子101を大気中にて通常の駆動条件で駆動し、測定ポンプ電流Ip2のモニタを開始した。具体的にはIp1=7μA、V1=385mV、V2=400mVをみたすように、センサ素子101を駆動した。
【0152】
図9は、本実施例係るガスセンサ100を大気中にて通常の駆動条件で駆動したときの、加熱開始からの測定ポンプ電流Ip2の時間変化を示す図である。
【0153】
図9に示した測定ポンプ電流Ip2のプロファイルより、必要酸素量指標値としての減少量Aと減少継続時間Bとを特定すると、A=0.2μA、B=120minとなった。なお0.2μAという測定ポンプ電流Ip2の減少量は、100ppmの酸素濃度の減少に相当する。
【0154】
得られたA、Bの値より、A×B=24となるので、式(1)~(5)を満たす始動時汲み入れパラメータX、Yの値を、X=24μA、Y=1minと設定した。
【0155】
このように値X、Yが特定されたガスセンサ100を車両システム1000の排気管300の触媒部400よりも下流側に取り付け、エンジン200を始動させるとともに当該ガスセンサ100の動作を開始させたところ、測定ポンプ電流Ip2は、センサ素子101の昇温途中でX=24μA、Y=1minなる始動時汲み入れパラメータの設定値に従い一時的にマイナスとなった後、センサ素子101が素子駆動温度に到達する前の時点でV2=400mVに従う一定値となり、ガスセンサ100は、センサ素子101が素子駆動温度に到達後、直ちに測定可能な状態となった。
【符号の説明】
【0156】
10 ガス導入口
20 第1内部空所
21 主ポンプセル
22 内側ポンプ電極
23 外側ポンプ電極
40 第2内部空所
41 測定ポンプセル
42 基準電極
44 測定電極
50 補助ポンプセル
51 補助ポンプ電極
61 第3内部空所
70 ヒータ部
80 主センサセル
81 補助センサセル
82 測定センサセル
83 雰囲気判定セル
100 ガスセンサ
101 センサ素子
102 保護カバー
104 外筒
105 コネクタ
106 ゴム栓
107 リード線
111 保護膜
120 環装部品
130 筒状体
151 接点部材
400 触媒部
1000 車両システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9