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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132542
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】光硬化型インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20240920BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20240920BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240920BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C09D11/101
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 129
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043347
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】龍官 真琴
(72)【発明者】
【氏名】矢野 章世
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056EA21
2C056FC01
2C056HA44
2H186AB11
2H186BA08
2H186DA09
2H186FB04
2H186FB15
2H186FB36
2H186FB37
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB46
2H186FB48
2H186FB53
2H186FB57
4J039AD21
4J039BA04
4J039BE01
4J039BE22
4J039BE27
4J039CA07
4J039EA06
4J039EA39
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】硬化性に優れ、硬化後の硬化物から光重合開始剤が溶出することがなく、かつ保存安定性に優れる光硬化型インクを提供する。
【解決手段】(a)光重合開始剤、及び(b)ラジカル重合性化合物を含む光硬化型インクであり、前記(a)光重合開始剤が、一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含有する重合開始剤(A)であり、前記重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、30質量部以下であることを特徴とする光硬化型インク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)光重合開始剤、及び(b)ラジカル重合性化合物を含む光硬化型インクであり、前記(a)光重合開始剤が、一般式(1):
【化1】

(一般式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立してメチル基又はエチル基を表し、Rは炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基を表し、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0~2の整数を表す。)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、
一般式(2):
【化2】

(一般式(2)中、R、及びRは独立してメチル基又はエチル基を表し、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含有する重合開始剤(A)であり、
前記重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、30質量部以下であることを特徴とする光硬化型インク。
【請求項2】
前記ラジカル重合性化合物全量中、単官能化合物の含有量が10~99質量%である請求項1に記載の光硬化型インク。
【請求項3】
さらに、顔料を含む請求項1又は2に記載の光硬化型インク。
【請求項4】
さらに、α―ヒドロキシアセトフェノン誘導体、α―アミノアセトフェノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、及びベンゾフェノン誘導体の群から選ばれる1種以上の化合物を含む請求項1又は2に記載の光硬化型インク。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の光硬化型インクを用いたインクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性に優れ、硬化後の硬化物から光重合開始剤が溶出することがなく、かつ保存安定性に優れる光硬化型インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紫外線や電子線などの活性エネルギー線により硬化する活性光線硬化型組成物は、プラスチック,紙,ガラス,木工及び無機材料等に使用される塗料、コーティング剤、接着剤、印刷インク、インク受容層、印刷回路基板、3次元造形物及び電気絶縁関係等の種々の用途において実用化されている。中でも、光硬化型インクは、その速乾性やインク吸収性の乏しい材料への記録が可能な点で注目されている。
【0003】
これらの光硬化型インクを硬化するための光源としては、高圧水銀ランプやメタルハライドランプなどが使用されるが、省エネルギー化や設備小型化などの観点からLEDランプを使用するケースが増えている。高圧水銀ランプやメタルハライドランプなどに対し、LEDランプは、光源から放射される光の波長(例えば、中心波長領域が350~410nmの波長域)が単一波長であることから、LEDランプを使用した場合でも硬化性に優れた光硬化型インクが求められている。
【0004】
このような光硬化型インクとして、特許文献1や特許文献2では、光重合開始剤としてチオキサントン化合物と、α―ヒドロキシアセトフェノン化合物、α-アミノアルキルフェノン化合物及びアシルフォスフィンオキサイド化合物等の光重合開始剤を組合わせた光硬化型インクが提案されている。しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の光硬化型インクは、チオキサントン化合物として2-イソプロピルチオキサントン(ITX)や2,4-ジエチルチオキサントン(DETX)を含むため、ITXやDETXが硬化後の硬化物中に低分子化合物として残存することにより硬化後の硬化物中から溶出してしまい、臭気や外観不良を引き起こしてしまう。
【0005】
一方、光硬化型インクは、インクジェット方式等により被印刷体に吐出されるため、その特性上、インクの粘度に大きな制限があり、粘度を低くするために一般的に単官能モノマーが反応性希釈剤として使用される(特許文献3)。しかしながら、単官能モノマーの配合割合が多いと硬化性が悪く、硬化後の表面にベタつきが生じたり、硬化物の架橋密度が小さくなるため、硬化物の強度が低下するという問題がある。
【0006】
また、光硬化型インクは、海外への海上輸送時や港湾施設での滞留時における輸送コンテナ内の環境や、作業環境等を考慮し、長期の保存安定性が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-236885号公報
【特許文献2】特開2011-80054号公報
【特許文献3】特開2018-177904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、硬化性に優れ、硬化後の硬化物から光重合開始剤が溶出することがなく、かつ保存安定性に優れる光硬化型インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下のような構成を有している。
[1](a)光重合開始剤、及び(b)ラジカル重合性化合物を含む光硬化型インクであり、前記(a)光重合開始剤が、一般式(1):
【化1】

(一般式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立してメチル基又はエチル基を表し、Rは炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基を表し、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0~2の整数を表す。)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、
一般式(2):
【化2】

(一般式(2)中、R、及びRは独立してメチル基又はエチル基を表し、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含有する重合開始剤(A)であり、
前記重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、30質量部以下であることを特徴とする光硬化型インク。
[2]前記ラジカル重合性化合物全量中、単官能化合物の含有量が10~99質量%である上記[1]に記載の光硬化型インク。
[3]さらに、顔料を含む上記[1]又は[2]に記載の光硬化型インク。
[4]さらに、α―ヒドロキシアセトフェノン誘導体、α―アミノアセトフェノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、及びベンゾフェノン誘導体の群から選ばれる1種以上の化合物を含む上記[1]から[3]のいずれかに記載の光硬化型インク。
[5]上記[1]から[4]のいずれかに記載の光硬化型インクを用いたインクジェット用インク。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、硬化性に優れ、硬化後の硬化物から光重合開始剤が溶出することがなく、かつ保存安定性に優れる光硬化型インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[光硬化型インク]
本発明の光硬化型インクは、(a)光重合開始剤、及び(b)ラジカル重合性化合物を含む光硬化型インクであり、前記(a)光重合開始剤が、一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含有する重合開始剤(A)であり、前記重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、30質量部以下であることを特徴とするものである。
【0012】
【化3】

(一般式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立してメチル基又はエチル基を表し、Rは炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基を表し、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0~2の整数を表す。)
【0013】
【化4】

(一般式(2)中、R、及びRは独立してメチル基又はエチル基を表し、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)
また、各種添加剤(例えば、顔料、他の光重合開始剤、光増感剤や重合禁止剤等) を組み合わせて用いることもできる。
【0014】
本発明の光硬化型インクは、チオキサントン基を有するジアルキルペルオキシドを含むため、LED光源などのランプから放射される波長領域(例えば、中心波長領域が350~410nm)の光を効率よく吸収し、分子内の過酸化結合の開裂によりラジカル(酸素ラジカル)を発生できる。
酸素ラジカルは、有機過酸化物以外のラジカル重合開始剤から生じる炭素ラジカルやリンラジカルと比較して水素引抜能が高いため、結合解離エネルギーの大きな炭素-水素結合からも水素原子を引き抜くことができる。よって、ラジカル重合性化合物の重合に加え、水素引抜反応によってポリマー主鎖中に炭素ラジカルを生成させて、その炭素ラジカル同士が再結合することによって、架橋構造を形成するため、単官能モノマーの配合割合が多い場合であっても硬化性に優れる。
また、チオキサントン基を有するジアルキルペルオキシドは分子内開裂型の光重合開始剤であることから、光重合開始剤は塗膜中のポリマーと共有結合を形成し塗膜中に保持されるため、光硬化型インクを硬化した後も硬化物から光重合開始剤が溶出しにくい。
以下、本発明の光硬化型インクを構成する各成分について説明する。
【0015】
<(a)光重合開始剤>
本発明の光硬化型インクに含まれる光重合開始剤は、一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)とを含有する重合開始剤(A)である。上記2種類の光重合開始剤を含む重合開始剤(A)を用い、かつ上記2種類の光重合開始剤の量を所定の範囲に調整することにより、硬化性に優れ、光重合開始剤が硬化後の硬化物から溶出することがなく、かつ保存安定性に優れる光硬化型インクを提供することができる。
【0016】
<チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)>
重合開始剤(A)に含まれるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)は、下記一般式(1)で表すことができる。
【化5】


(一般式(1)中、R、R、R及びRは独立してメチル基又はエチル基を表し、Rは炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表し、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)
【0017】
前記一般式(1)中、R、R、R及びRは独立してメチル基又はエチル基を表す。R、R、R及びRは、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの分解温度が高いため、光硬化型インクの保存安定性が高くなる観点から、メチル基が好ましい。
【0018】
前記一般式(1)中、Rは、炭素数が1~6のアルキル基、又はフェニル基である。前記アルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基が挙げられる。これらの中でも、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの合成が容易である観点から、メチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましい。前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの分解温度が高いため、光硬化型インクの保存安定性が高くなり、さらにランプの光に対する感度が高い点から、メチル基、エチル基、プロピル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。
【0019】
前記一般式(1)中、チオキサントンに対するジアルキルペルオキシドの置換位置は、特に限定されないが、ランプの光に対する感度が高い点から、チオキサントン骨格の2位、3位、又は4位に置換されていることが好ましく、合成が容易である観点から、チオキサントン骨格の2位又は3位に置換されていることがより好ましい。
【0020】
前記一般式(1)中、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表す。使用するランプの発光波長に対して、これら置換基にかかるプッシュ・プル効果より、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの光の吸収特性を調整することができ、ランプの光を効率よく吸収することができる。
【0021】
前記一般式(1)中、nは0から2の整数を表す。前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの合成が容易である観点から、nは0から1の整数が好ましく、0がより好ましい。
【0022】
前記一般式(1)中、nが1から2の整数の場合、前記Rの置換位置は、特に限定されないが、ランプの光に対する感度が高い点から、チオキサントン骨格の6位又は7位に置換されていることが好ましく、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの合成が容易である観点から、チオキサントン骨格の7位に置換されていることがより好ましい。
【0023】
前記Rの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基等のアルコキシ基;塩素原子等が挙げられる。ランプの光に対する感度が高い点から、メトキシ基、エトキシ基であることがより好ましい。
【0024】
以下に本発明のチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
【化6】
【0026】
前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)としては、好ましくは化合物1から化合物9が挙げられ、より好ましくは化合物1、化合物2、化合物3、化合物7、化合物8が挙げられ、さらに好ましくは化合物1、化合物2が挙げられる。
【0027】
<チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)の製造方法>
前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)の製造方法は、特に限定されず、例えば、国際公開第2020/067118号を参考にすればよい。
【0028】
<チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)>
重合開始剤(A)に含まれるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、下記一般式(2)で表すことができる。
【化7】

(一般式(2)中、R、及びRは独立してメチル基又はエチル基を表し、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)
【0029】
前記一般式(2)中、R、及びRは独立してメチル基又はエチル基を表す。R、Rは、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドの分解温度が高いため、光硬化型インクの保存安定性が高くなる観点から、メチル基が好ましい。
【0030】
前記一般式(2)中、Rは独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表す。使用するランプの発光波長に対して、これら置換基にかかるプッシュ・プル効果より、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドの光の吸収特性を調整することができ、ランプの光を効率よく吸収することができる。
【0031】
前記一般式(2)中、nは0から2の整数を表す。前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドの合成が容易である観点から、nは0から1の整数が好ましく、0がより好ましい。
【0032】
前記一般式(2)中、nが1から2の整数の場合、前記Rの置換位置は、特に限定されないが、ランプの光に対する感度が高い点から、チオキサントン骨格の6位又は7位に置換されていることが好ましく、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドの合成が容易である観点から、チオキサントン骨格の7位に置換されていることがより好ましい。
【0033】
前記Rの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基等のアルコキシ基;塩素原子等が挙げられる。ランプの光に対する感度が高い点から、メトキシ基、エトキシ基であることがより好ましい。
【0034】
以下に本発明のチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化8】
【0035】
前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)としては、好ましくは化合物10から化合物18が挙げられ、より好ましくは化合物10、化合物11が挙げられる。
【0036】
<チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)の製造方法>
前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)の製造方法は、例えば、下記反応式のように、イソアルキル基置換チオキサントン誘導体を、金属錯体の存在下、ヒドロペルオキシドを反応させる工程(以下、工程(A)とも称す)を含む方法が挙げられる。なお、反応後には、余剰の原料等を減圧留去(除去)する工程や、精製工程を含んでも良い。
【化9】

(上記反応式において、R、R、R及びnは前記一般式(2)と同じであり、R及びRは独立してメチル基又はエチル基を表し、Rは炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表す。)
【0037】
前記工程(A)において、前記イソアルキル基置換チオキサントン誘導体は、市販品を利用できる。なお、市販品がない場合、例えば、J.Chem.Soc.99,645(1911)に記載のように、2,2’-ジチオ二安息香酸を芳香族化合物と硫酸中で反応させることにより合成することができる。
【0038】
前記工程(A)において、ヒドロペルオキシドは、イソアルキル基置換チオキサントン誘導体1.0モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、0.8モル以上反応させることが好ましく、1.0モル以上反応させることがより好ましく、そして、10.0モル以下反応させることが好ましく、6.0モル以下反応させることがより好ましい。なお、ヒドロペルオキシドは、市販品を利用でき、市販品がない場合、特開昭58-72557号公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。
【0039】
前記工程(A)において、金属錯体は、第4及び第5周期の遷移金属の中から選ばれる金属の金属錯体を用いることができる。金属錯体の金属としては、例えば、銅、コバルト、マンガン、鉄、クロム、亜鉛などであり、配位子としては、例えば、臭素、塩素等のハロゲン、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、ナフテン酸、オクテン酸、グルコン酸等の有機酸、シアン、アセチルアセトナート等が挙げられる。金属錯体は、ヒドロペルオキシド1.0モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、0.0001モル以上使用することが好ましく、0.001モル以上使用することがより好ましく、そして、1.0モル以下使用することが好ましく、0.1モル以下使用することがより好ましい。
【0040】
前記工程(A)において、反応温度は、目的物の収率性を高める観点から、0℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、そして、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。反応時間は、原料や反応温度等によって異なるので一概には決定できないが、通常、目的物の収率性を高める観点から、1時間から60時間が好ましい。
【0041】
前記工程(A)において、媒体として水を使用することが好ましく、水と有機溶媒を併用してもよい。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等を使用することができる。前記有機溶媒や水の使用量は、通常、原料の合計量100質量部に対して50~1000質量部程度である。有機溶媒や水は工程(A)の後に留去や分離することで、チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドを取り出してもよい。
【0042】
前記工程(A)は、常圧、加圧、減圧下の何れの条件化でも実施できるが、窒素等の不活性ガス雰囲気又は大気下で実施することが好ましく、大気下で実施することがより好ましい。
【0043】
前記精製工程としては、余剰の原料や副生物を除去するために、例えば、有機溶媒やイオン交換水、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液や、塩酸や硫酸等の酸性水溶液を用いて洗浄し、目的物を精製する工程が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、ヘプタン、メタノール、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等を使用することができる。なかでも、有機溶剤で洗浄することが好ましく、ヘプタンやメタノールで洗浄することがより好ましい。前記有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。前記有機溶媒の使用量は、通常、原料の合計量100質量部に対して50~1000質量部程度である。
【0044】
光硬化型インク中の(a)光重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、1~12質量部であることが更に好ましい。(b)ラジカル重合性化合物100質量部に対する(a)光重合開始剤の含有量が0.1質量部以上であると硬化反応が進行しやすくなるため好ましい。また、(a)光重合開始剤の含有量が20質量部以下であると、(b)ラジカル重合性化合物との溶解性が向上するため、光硬化型インクの印刷時に(a)光重合開始剤の結晶が析出しにくくなり、印刷物表面が平滑になる。また、(a)光重合開始剤の分解残渣が少なくなるため、印刷物の塗膜の強度が向上する。
【0045】
<重合開始剤(A)>
本発明の重合開始剤(A)は、前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含有する。重合開始剤(A)は、活性エネルギー線又は熱により分解し、発生したラジカルが(b)ラジカル重合性化合物の重合(硬化)を開始する働きを有する。重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、ラジカル重合性化合物の高分子量化を抑制する観点から30質量部以下であり、15質量部以下が好ましく、そして、保存安定性の観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、前記重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)は、硬化性の観点から、30質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、そして、保存安定性の観点から、98質量部以下が好ましく、95質量部以下がより好ましい。
【0046】
また、前記重合開始剤(A)は、チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド及びチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド以外の重合開始剤(以下、他の重合開始剤とも称す)を含有することができる。チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド及びチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドと吸収帯の異なる他の重合開始剤の2種類以上を使用することで、例えば、高圧水銀ランプ等の複数の波長の光が放射されるランプに対し、光硬化型インクの高感度化を図ることができる。また、光硬化型インクに含まれる(b)ラジカル重合性化合物の重合性、光硬化型インクに含まれる光を吸収や散乱する顔料等の種類、光硬化型インクの膜厚等を考慮して、他の重合開始剤を用いることで、光硬化型インクの表面硬化性や深部硬化性、透明性等を改良することができる。
【0047】
前記他の重合開始剤としては、公知のものが使用でき、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン、4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒロドキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン等のα―ヒドロキシアセトフェノン誘導体;2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-(N,N-ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα―アミノアセトフェノン誘導体;ジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、エチル(メシチルカルボニル)フェニルホスフィナート等のアシルホスフィンオキサイド誘導体;1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1,2-ジオン-2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-[({1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エチリデン}アミノ)オキシ]エタノン、[8-[5-(2,4,6-トリメチルフェニル)-11-(2-エチルヘキシル)-11H-ベンゾ[a]カルバゾイル]][2-(2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ)フェニル]メタノン-(O-アセチルオキシム)、1-[4-[4-(2-ベンゾフラニルカルボニル)フェニル]チオ]フェニル-4-メチル-1-ペンタノン-1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル誘導体;2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(3,4-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)1,3,5-トリアジン、2-(4-エトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等のハロメチルトリアジン誘導体;2,2-ジメトキシ-2-フエニルアセトフエノン等のベンジルケタール誘導体;イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体、4-(4-メチルフェニルチオ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;3-ベンゾイルー7-ジエチルアミノクマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)等のクマリン誘導体;2-(2-クロロフェニル)-1-[2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-1,3-ジアゾール-2-イル]-4,5-ジフェニルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;3,3’、4,4’-テトラキス(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2-(1-tert-ブチルパーオキシ-1メチルエチル)-9H-チオキサンテン-9-オン、ジベンゾイルペルオキシド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;カンファーキノン等が挙げられる。これらの中でも、α-ヒドロキシアセトフェノン誘導体、α-アミノアセトフェノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、及びベンゾフェノン誘導体から選ばれる1種以上が好ましく、アシルホスフィンオキサイド誘導体がさらに好ましい。他の重合開始剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0048】
なお、光硬化型インクが前記他の重合開始剤を含む場合、他の重合開始剤の含有量に特に制限はないが、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましい。
【0049】
<(b)ラジカル重合性化合物>
本発明の(b)ラジカル重合性化合物としては、エチレン性不飽和基を有する化合物を好ましく用いることができる。(b)ラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、マレイン酸エステル類、フマル酸エステル類、イタコン酸エステル類、桂皮酸エステル類、クロトン酸エステル類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、ビニルケトン類、アリルエーテル類、アリルエステル類、N-置換マレイミド類、N-ビニル化合物類、不飽和ニトリル類、オレフィン類等が挙げられる。これらの中でも、反応性が高い(メタ)アクリル酸エステル類を含むことが好ましい。(b)ラジカル重合性化合物は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0050】
前記(メタ)アクリル酸エステル類は、単官能化合物および多官能化合物を使用することができる。単官能化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、2―エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するモノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート等の鎖状または環状のエーテル結合を有するモノマー等;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等の窒素原子を有するモノマー;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基を有するモノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基を有するモノマー;リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等のリン原子を有するモノマー;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のケイ素原子を有するモノマー;2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素原子を有するモノマー;(メタ)アクリル酸、コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、マレイン酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するモノマー等が挙げられる。
【0051】
ラジカル重合性化合物全量中の単官能化合物の含有量に特に制限はないが、10~99質量%であることが好ましく、20~98質量%であることがより好ましく、30~95質量%であることが更に好ましい。
【0052】
前記多官能化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)フェニル)フルオレン等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルチオフェニル)スルフィド、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ジルコニウム、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。
【0053】
本発明のラジカル重合性化合物は、一種のみ用いても、所望とする特性を向上する
ために任意の比率で二種以上混合したものを用いてもよい。
【0054】
ラジカル重合性化合物全量中の多官能化合物の含有量は、1~90質量%であることが好ましく、2~80質量%であることがより好ましく、5~70質量%であることが更に好ましい。
ラジカル重合性化合物全量中の多官能化合物の含有量が1質量%以上であると、塗膜強度や耐溶剤性が向上するため好ましく、また、多官能化合物の含有量が90質量%より少ないと光硬化型インクの粘度が高くなりすぎず、印刷時の吐出性が良好になり、また、ノズルの目詰まりを抑制することができる。
【0055】
本発明の光硬化型インク中の前記ラジカル重合性化合物の合計含有量は、40~99質量%であることが好ましく、50~98質量%であることがより好ましく、60~97質量%であることが更に好ましい。
【0056】
<顔料>
本発明で使用される光硬化型インクの顔料としては、従来光硬化型インクに使用されている顔料、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無彩色の顔料または有彩色の有機顔料が挙げられる。これらはただ一種のみ用いても、または色相および濃度の調整等を目的とする特性を向上するために任意の比率で二種以上混合した系でもかまわない。顔料等の着色剤の配合割合は、当該着色剤の種類、および光硬化型インクの色味に応じて任意に設定できる。
光硬化型インク中の顔料の含有量は、0.5~20質量%であることが好ましく、0.8~10質量%であることがより好ましい。ラジカル重合性化合物の含有量が前記範囲内であると、表面硬化性及び深部硬化性と着色の両立を図ることができる。
【0057】
<分散剤>
光硬化型インクは、顔料の分散安定性を向上させることを目的として、分散剤を含有することが好ましい。分散剤としては、例えば高分子系分散剤、界面活性剤等の種々の分散剤が、いずれも使用可能である。
光硬化型インク中の分散剤の含有量に特に制限はないが、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0058】
<溶剤>
光硬化型インクには、粘度や塗装性、硬化膜の平滑性の改良のため、更に溶媒を加えることもできる。前記溶媒としては、例えば、水、アルコール系溶媒、カルビトール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ラクトン系溶媒、不飽和炭化水素系溶媒、セロソルブアセテート系溶媒、カルビトールアセテート系溶媒やプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
光硬化型インク中の溶剤の含有量に特に制限はないが、0.1~50質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。
【0059】
<その他添加剤>
その他添加剤として、例えば、増感剤(9,10-ジブトキシアントラセン、アクリジン、カンファーキノン等)、重合禁止剤(p-メトキシフェノール、ヒドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、フェノチアジン等)、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、表面調整剤、界面活性剤、消泡剤等が挙げられる。その他添加剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0060】
<光硬化型インクの調製方法>
光硬化型インクを調製する場合には、収納容器内に前記(a)光重合開始剤、前記(b)ラジカル重合性化合物、必要に応じて、前記その他の成分を投入し、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドグラインドミル、ボールミル、アトライターミル、2本ロールミル、3本ロールミル等を用いて、常法に従って溶解または分散させればよい。また、必要に応じて、メッシュまたはメンブレンフィルター等を通してもろ過してもよい。
【0061】
なお、前記光硬化型インクの調製において、前記(a)光重合開始剤は、光硬化型インクに最初から添加しておいてもよいが、光硬化型インクを比較的長時間保存する場合には、使用直前に(a)光重合開始剤を(b)ラジカル重合性化合物を含む組成物中に溶解または分散させてもよい。
【0062】
<硬化物の製造方法>
本発明の光硬化型インクは、被印刷体に塗布後、当該光硬化型インクを活性エネルギー線で照射する工程、および当該光硬化型インクを加熱する工程のいずれかの工程を含む製造方法により硬化物を製造することができる。また、前記活性エネルギー線で照射する工程と前記加熱する工程の両方を含む工程を、デュアルキュア工程ともいう。
【0063】
被印刷体に光硬化型インクを付着させる方法としては、例えば、スピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スリットコート法、ドクターブレードコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法等の種々の方法が挙げられる。高解像度の高精細画像の記録が可能な点から、インクジェット方式が好ましい。すなわち、本発明の光硬化型インクはインクジェット用インクとして用いることが好ましい。
【0064】
被印刷体は、例えば、紙、ガラス、シリコンウエハ、金属、プラスチック等のフィルムやシート、および立体形状の成形品等が挙げられ、被印刷体の形状が制限されることは無い。
【0065】
上記の光硬化型インクを活性エネルギー線で照射する工程は、電子線、紫外線、可視光線、放射線等の活性エネルギー線の照射により、(a)光重合開始剤を分解させて、(b)ラジカル重合性化合物を重合させることで、硬化物を得ることができるものである。
【0066】
活性エネルギー線は、活性エネルギー線の波長が250から450nmの光であることが好ましく、硬化を迅速に行うことができる観点から、350から410nmの光であることがより好ましい。
【0067】
前記光の照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線無電極ランプ、LEDランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、太陽光、YAGレーザー等の固体レーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等のガスレーザー等を使用することができる。なかでも、省エネルギー、小型、低発熱である点からLEDランプが好ましい。
【0068】
前記活性エネルギー線の露光量は、活性エネルギー線の波長や強度、光硬化型インクの組成に応じて適宜設定することができる。一例として、UV-A領域での露光量は、10から5,000mJ/cmであることが好ましく、30から1,000mJ/cmであることがより好ましい。
【0069】
上記の光硬化型インクを加熱する工程は、熱により(a)光重合開始剤を分解させて、(b)ラジカル重合性化合物を重合させることで、硬化物を得ることができるものである。
【0070】
前記光硬化型インクを加熱する工程において、加熱する手法は、例えば、加熱、通風加熱等が挙げられる。加熱の方式としては、特に制限されることはないが、例えば、オーブン、ホットプレート、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また、通風加熱の方式としては、例えば、送風式乾燥オーブン等が挙げられる。
【0071】
前記光硬化型インクを加熱する工程において、加熱温度は高いほど、(a)光重合開始剤の分解速度は加速される。しかし、分解速度が速すぎると、(b)ラジカル重合性化合物の分解残渣が多くなる傾向を有する。一方、加熱温度は低いほど、(a)光重合開始剤の分解速度は遅いため、硬化に長時間を必要とする。よって、加熱温度と加熱時間は、前記光硬化型インクの組成により適宜設定すべきである。一例として、加熱温度は、50から230℃であることが好ましく、100から200℃であることがより好ましい。また、前記光硬化型インクに、前記硬化促進剤を配合する場合には、その種類や配合量により、加熱温度は室温から160℃で任意に調整することができる。一方、加熱時間は1から180分であることが好ましく、5から120分であることがさらに好ましい。
【0072】
前記硬化物の製造方法として、前記デュアルキュア工程を適用する場合、特に、光硬化型インクを活性エネルギー線で照射する工程の後に、加熱する工程を行うことが、光を吸収や散乱する着色顔料を高濃度に含む光硬化型インクの深部や、光が遮光されて光が届いていない箇所の硬化を効率よく行なうことができるため好ましい。
【実施例0073】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
(1)チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの合成
[合成例1:化合物1の合成]
200mL四つ口フラスコに、ベンゼン30mL、2-イソプロピルチオキサントン6.10g(24.0mmol)、塩化銅(I)0.0238g(0.24mmol)を入れ、室温下で撹拌した。69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液15.7g(0.12mol)を徐々に加えた。窒素気流下で65℃に加温し、60時間反応させた。反応液を冷却し、酢酸エチル20mLを添加した後に、水相を分液した。油相を5質量%塩酸、5質量%水酸化ナトリウム水溶液、イオン交換水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製し、2.55g(収率31%)の化合物1を得た。得られた化合物1のEI-MS及びH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0075】
[合成例2:化合物2の合成]
本発明の化合物2は合成例1に記載の69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を、85質量%tert-アミルヒドロペルオキシドに変更したこと以外は、合成例1に記載の方法を準じて合成した。得られた化合物2のEI-MS及びH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0076】
(2)チオキサントン骨格を有するジアルキルヒドロペルオキシドの合成
[合成例3:化合物10の合成]
2L四つ口フラスコに、水300.8mL、2-イソプロピルチオキサントン100.3g(0.39mol)、ラピゾールA-80(日油製)1.0g、酢酸銅二水和物0.79g(0.004mol)、69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液154.4g(1.18mol)を入れ、70℃で9時間撹拌した。反応液にn-ヘプタン444.9g、メタノール444.9g、10質量%水酸化ナトリウム水溶液222.5gを添加後、油相と水相を分離した。水相とヘプタン444.9gを混合し、抽出した油相を減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製し、11.5g(収率5.4%)の化合物10を得た。得られた化合物10のEI-MS及びH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0077】
[合成例4:化合物11の合成]
本発明の化合物11は、合成例3に記載の2-イソプロピルチオキサントンを、2-メトキシ-7-イソプロピルチオキサントンに変更したこと以外は、合成例3に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物11のEI-MS及びH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
<実施例1~9および比較例1~5>
<光硬化型インク1の調製>
表2に示す量のラジカル重合性化合物、顔料、分散剤を混合撹拌し、光重合開始剤を添加してよく撹拌し、実施例1~9および比較例1~4の光硬化型インクを調製した。得られた光硬化型インクについて下記方法にしたがって評価を行った。
【0080】
[評価方法]
(硬化性評価)
上記で調製した光硬化型インクを、インクジェット吐出装置により易接着処理が施されたPETフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡社製)上に印刷した。次いで、波長385nmのLEDランプ(UniJet E110III、ウシオ電機社製)を用い、照度5.5W/cm,ラインスピード6m/minで光照射を行った。印刷物の表面を触診し、光硬化型インクが手につかなくなるまでの照射回数を硬化性として評価した。その結果を表2に示す。
【0081】
(溶出性評価)
上記で調製した光硬化型インクを、バーコーター(#6)を用いて、易接着処理が施されたPETフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡社製)上に塗布し、厚さ約10μmの均一な塗布膜を作製した。次いで、高圧水銀ランプ(アイグラフィック製)を用い、照度500mW/cmで光照射を行った。光照射後の硬化物40cmを5mm程度の大きさに細かく裁断し、2.5gのアセトン溶剤中に40℃、94時間浸漬させて硬化膜中に残存する光重合開始剤を抽出した。光重合開始剤の抽出量は、液体クロマトグラフィーによる内部標準法で定量した。光重合開始剤の添加量に対し、光重合開始剤の抽出量が5質量%以下の場合を「〇」、溶出量が5質量%より多い場合を「×」とした。その結果を表2に示す。
【0082】
(保存安定性)
上記で調製した光硬化型インクを、褐色のガラス瓶中に入れ、アルミホイルで遮光した後に、輸送・保存を想定した60℃の定温恒温機内に静置した。3ヶ月保存後、目視で硬化が確認されなかった場合を「〇」、3ヶ月保存後、目視で硬化が確認された場合を「×」とした。その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
なお、表2に記載の化合物の略号等の詳細は以下のとおりである。
MAPO:ジフェニル (2,4,6-トリメチルベンゾイル) ホスフィンオキシド(IGM RESINS B.V.製)
ITX:2-イソプロピルチオキサントン
ECA:エチルカルビトールアクリレート(大阪有機化学工業製)
IBXA:イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業製)
DPGDA:ジプロピレングリコールジアクリレート(新中村化学工業製)
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業製)
VEEA:アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(日本触媒製)
MA100:カーボンブラック(三菱化学製)
Re:Kyaset Red G(日本化薬製)
Ye:Kayaset Yellow 3170(日本化薬製)
Bl:Kayaset Blue A2R(日本化薬製)
BYK-9076:高分子共重合体のアルキルアンモニウム塩(ビックケミー・ジャパン製)
【0085】
<実施例10~16および比較例6~10>
<光硬化型インク2の調製>
表3に示す量のラジカル重合性化合物、顔料、分散剤を混合撹拌し、光重合開始剤を添加してよく撹拌し、実施例11~16および比較例6~10の光硬化型インクを調製した。得られた光硬化型インクについて、硬化性を下記の方法にしたがって評価した。また、溶出性、保存安定性については、上記の実施例1~9および比較例1~5と同様の方法にしたがって評価した。
【0086】
<硬化性>
得られた光硬化型インクを厚さ1mmとなるよう注型し、波長385nmのLEDランプ(UniJet E110III、ウシオ電機社製)を用いて、片面10,000mJ/cm、両面20,000mJ/cmのエネルギーを照射した。得られた硬化物の表面にタック性が残る、もしくは内部に液状の組成物が残存する場合を硬化性「×」とし、十分に硬化された場合を「〇」とした。
【0087】
【表3】

【0088】
なお、表3に記載の化合物の略号等の詳細は以下のとおりである。
HDDA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業製)
BR113:メタクリル樹脂(三菱ケミカル製)
【0089】
表2、3に示されるとおり、各実施例の光硬化型インクは、高い硬化性を示し、硬化後の硬化膜から溶出されないことが明らかである。一方、比較例の光硬化型インクは、硬化性、溶出性、及び保存安定性において劣った結果を示した。