IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧

特開2024-132547物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法
<>
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図1
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図2
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図3
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図4
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図5
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図6
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図7
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図8
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図9
  • 特開-物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132547
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20240920BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240920BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
   C12N 15/88 20060101ALI20240920BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240920BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20240920BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/18
A61K47/22
A61K48/00
A61P43/00 111
C12N15/88 Z
C12N5/10
C12Q1/6897 Z
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043358
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 絵美
(72)【発明者】
【氏名】赤星 英一
(72)【発明者】
【氏名】石原 美津子
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QS28
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA05
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA19
4C076CC29
4C076DD49
4C076DD60
4C076FF11
4C084AA13
4C084MA24
4C084NA05
4C084ZC021
4C084ZC022
(57)【要約】
【課題】 標的細胞へ高効率に目的分子を送達する技術を提供する。
【解決手段】 実施形態に従う脂質組成物は、37℃以上の環境下で目的細胞と接触されることを特徴とする、目的物質を当該目的細胞に送達するための脂質組成物である。脂質組成物は、脂質粒子と、脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを含む。脂質粒子は、リポソームを構成し、その構成成分としてFFT-10及び/又はFFT-20を共に含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質粒子と、脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを含み、
前記脂質粒子が、その構成成分として式(I)の第1脂質(FFT-10)及び/又は式(II)の第2脂質(FFT-20)
【化1】

を少なくとも含む、37℃以上の環境下で目的細胞と接触されることを特徴とする目的物質を送達するための脂質組成物。
【請求項2】
当該FFT-10及びFFT-20の合計含有量が、当該脂質粒子の10%~80%である請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項3】
前記接触環境が、40℃~42℃である請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項4】
前記接触環境が、5分間~20分間である請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項5】
前記目的物質がゲノム組み換えのための核酸物質である請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項6】
前記核酸物質が核酸断片又は核酸構築物である請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項7】
目的細胞に目的物質を送達する方法であって、
式(I)の第1脂質(FFT-10)及び/又は式(II)の第2脂質(FFT-20)
【化2】

を少なくとも含む脂質粒子と、
前記脂質粒子に内包された目的物質と
を備える物質送達キャリアを、インビトロで目的細胞と接触させ、37℃以上に加温することを含む方法。
【請求項8】
FFT-10及びFFT-20の合計含有量が、当該脂質粒子の10%~80%である請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記加温温度が、40℃~42℃である請求項5に記載の方法。
【請求項10】
目的物質で目的細胞をゲノム組み換えする方法であって、
式(I)の第1脂質(FFT-10)及び/又は式(II)の第2脂質(FFT-20)
【化3】

を少なくとも含む脂質粒子と、
前記脂質粒子に内包された目的物質と
を備える物質送達キャリアを、インビトロで目的細胞と接触させ、37℃以上に加温することを含む方法。
【請求項11】
当該FFT-10及びFFT-20の合計含有量が、当該脂質粒子の10%~80%である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記加温温度が、40℃~42℃である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
更に、当該加温することに続いて、前記細胞を培養することを含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
材料細胞に目的物質を送達し、標的細胞を作製する方法であって、
式(I)の第1脂質(FFT-10)及び/又は式(II)の第2脂質(FFT-20)
【化4】

を少なくとも含む脂質粒子と、
前記脂質粒子に内包された目的物質と
を備える物質送達キャリアを、インビトロで材料細胞と接触させ、37℃以上に加温することと、
加温された当該細胞を培養することと
を含む方法。
【請求項15】
当該FFT-10及びFFT-20の合計含有量が、当該脂質粒子の10%~80%である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記加温することの温度が、40℃~42℃である請求項14に記載の方法。
【請求項17】
目的細胞を検出する方法であって、
式(I)の第1脂質(FFT-10)及び/又は式(II)の第2脂質(FFT-20)
【化5】

を少なくとも含む脂質粒子と、
前記脂質粒子に内包されたレポーター遺伝子と
を備える物質送達キャリアを、インビトロで目的細胞と接触させ、37℃以上に加温することと、
前記レポーター遺伝子からの信号を検出することと
を含む方法。
【請求項18】
当該FFT-10及びFFT-20の合計含有量が、当該脂質粒子の10%~80%である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記加温温度が、40℃~42℃である請求項17に記載の方法。
【請求項20】
更に、前記目的細胞を培養することを含む請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、物質送達キャリアを含む脂質組成物及びそれを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、CAR-T細胞を作製する場合など、ゲノム組み換えによって目的とする細胞を作製する場合などでは、複数の細胞が存在する環境下において、標的細胞により効率よく目的分子を送達することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-237631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、標的細胞へ高効率に目的物質を送達する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に従う脂質組成物は、37℃以上の環境下で目的細胞と接触されることを特徴とする、目的物質を当該目的細胞に送達するための脂質組成物である。脂質組成物は、脂質粒子と、脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを含む。脂質粒子は、リポソームを構成し、その構成成分としてFFT-10及び/又はFFT-20を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態の一例を示す模式図。
図2】第2及び第6の実施形態の一例を示すフローチャート。
図3】第3及び第7の実施形態の一例を示すフローチャート。
図4】第4及び第8の実施形態の一例を示すフローチャート。
図5】第4の実施形態の一例を示す模式図。
図6】第5及び第9の実施形態の一例を示すフローチャート。
図7】第9の実施形態の一例に使用される領域加温機構の略図を示す
図8】実験1の結果を示すフラフ。
図9】実験2の結果を示すグラフ。
図10】実験4の結果を示すイメージ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の脂質組成物は、37℃以上の環境下で目的細胞と接触されることを特徴とする目的物質を送達するための脂質組成物である。脂質組成物は、脂質粒子と、脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを含む。脂質粒子は、リポソームを構成し、その構成成分としてFFT-10及び/又はFFT-20を含む。
【0009】
例えば、そのような脂質組成物は、脂質粒子と、脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを含み、
前記脂質粒子が、その構成成分として式(I)の第1脂質(FFT-10)及び/又は式(II)の第2脂質(FFT-20)
【化1】

を含む、37℃以上の環境下で目的細胞と接触されることを特徴とする、目的物質を目的細胞に送達するための脂質組成物である。
【0010】
目的細胞は、実施形態に従う脂質組成物が送達されるべき細胞である。例えば、何れかの非正常細胞、異常細胞、疾患に罹患した細胞、正常の範囲を離脱した細胞などであり得る。具体的には、例えば、がん細胞及び腫瘍細胞であってよい。がん細胞及び腫瘍細胞の例は、これらに限定するものではないが、乳がん、大腸がん、肺がん、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮がん、卵巣がん、肉腫、前立腺がん、胆管がん、膀胱がん、食道がん、肝臓がん、脳腫瘍、腎臓がん、T細胞性腫瘍細胞などである。例えば、T細胞性腫瘍は、T細胞(Tリンパ球)の悪性腫瘍化に起因する疾患である。T細胞性腫瘍細胞は、悪性腫瘍化したT細胞、例えば、T細胞由来の白血病細胞及びリンパ腫細胞等を含む。
【0011】
目的物質の例は、治療薬及び/又は診断薬、目的細胞の性質を特定するための指標物質、診断や治療の判断に役立つ情報を得るための物質、目的細胞を殺傷する物質、目的細胞のゲノムを組み換えるための物質などであり得る。例えば、それらの物質は、天然物、化合物、抽出物、核酸、ペプチド及びタンパク質などであり得る。例えば、核酸は、核酸断片、核酸構築物、DNA及びRNAなどであり得る。
【0012】
実施形態に従う組成物は、37℃以上の接触環境下で目的細胞に目的物質を送達するための脂質組成物である。当該物質送達キャリアの物性として、通常の培養条件の温度よりも高い温度の条件下で目的細胞と接触したときに、当該脂質粒子に内包された目的物質の目的細胞への導入をより高効率に達成するという1つの特性が発揮される。また、例えば、目的物質が細胞核への送達を意図される物質の場合などにおいては、目的物質は目的細胞の核内への導入を高効率に達成し得る。
【0013】
37℃以上の環境とは、上述の通り、通常の培養条件の温度よりも高い温度条件で提供される環境であればよく、そのような温度は、例えば、37℃以上、37℃よりも高い温度、例えば40℃~46℃、40℃~42℃であり得る。接触時間は、5分間~20分間、例えば7分間~18分間、或いは8分間~17分間などであり得る。適切な接触条件は、例えば細胞種に応じて、温度と時間との組み合わせを適宜選択すればよい。当該温度は、目的細胞に脂質組成物を添加してから加温すること、例えば、目的細胞と送達キャリアとが接触してから加温すること、加温しながら目的細胞に脂質組成物を添加すること、などにより達成されてよい。好ましくは、脂質組成物を目的細胞に添加した後に加温される。ここで、例えば42℃以上の加温、或いは例えば20分間以上での加温は、細胞死を加速させる傾向もみられるので、温度と時間との組み合わせによっては、それ以下の条件が好ましい場合もある。
【0014】
実施形態に従う組成物は、目的細胞、例えば、がん細胞などの非正常細胞に対して、或いは目的細胞のゲノムに対して、目的物質、治療物質及び/又は治療や診断に関する情報を得るための物質、合成化合物、核酸物質などを送達するための組成物である。この組成物の活性の中心は、脂質粒子と、脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアであり、当該脂質粒子についての構成と、37℃以上の環境下で目的細胞に接触させるという使用条件によって、目的細胞に、例えば、目的細胞内、目的細胞の核内及び/又は目的細胞のゲノムに対して目的物質を送達する。ここにおいて「目的物質を目的細胞に送達する」とは、例えば、目的細胞の全体、又は、例えば、目的細胞若しくは細胞内、目的細胞の核若しくは核内、又は目的細胞のゲノム若しくはゲノム内などの目的細胞の局所に対して目的物質を送達することを包括的に含む。具体的には、例えば、送達される目的物質の種類や性質、送達の目的に応じ得る。
【0015】
・脂質粒子
図1に示す通り、脂質粒子1は、略球状の中空体であり、その中心の内腔2に目的物質3を内包することができる。
【0016】
目的物質3は、目的細胞内に送達することが望まれる物質である。目的物質3は、脂質粒子1内に内包することができるものであれば何れの物質であってもよいが、上述した通り、例えば、核酸、タンパク質、ペプチド、他の有機化合物、無機化合物、治療薬又は診断薬などであり得る。
【0017】
脂質粒子1は、例えばその材料である複数の脂質の分子が非共有結合で配列してできた脂質膜から構成され得る。脂質粒子1は、その構成成分として第1脂質1a及び/又は第2脂質1bを少なくとも含めばよい。しかしながら、脂質粒子1は、その構成成分として第1脂質1a及び第2脂質1bを少なくとも含むことが作用を得るうえで特に望ましい。第1脂質1aは下記式(I)を有する脂質化合物(FFT-10)であり、第2脂質1bは下記式(II)を有する脂質化合物(FFT-20)である。
【0018】
【化2】

脂質粒子1は、第1脂質1a及び第2脂質1bの他に更なる脂質を含んでもよい。脂質粒子1を構成する脂質分子材料の組成の中で、第1脂質1aと第2脂質1bとからなる画分を以下「第1画分」と称する。また、第1脂質1a及び第2脂質1b以外の脂質分子材料からなる画分を以下「第2画分」と称する。第2画分に含まれる脂質をまとめて以下「第3脂質1c」とも称する。
【0019】
第1画分及び第2画分という言葉は、脂質粒子1の構成成分の組成を表すものであって、そこに含まれる脂質の物理的な位置を示すのもではない。例えば、第1画分及び第2画分の構成成分は脂質粒子1の中でそれぞれ1つのまとまりになっている必要はなく、第1画分に含まれる脂質と第2画分に含まれる脂質とは混ざり合って存在し得る。脂質粒子1を構成する脂質材料全体に対する第1画分の配合割合は5%以上、10%以上、15%以上、例えば、10%~80%、又は15%~60%などであり得る。
【0020】
言い換えれば、FFT-10及びFT-20の合計含有量は、脂質粒子の配合割合は5%以上、8%以上、10%以上、15%以上、例えば、10%~80%、又は15%~60%、15%~50%などであり得る。脂質粒子中のFFT-10及びFFT-20の最大含有量は、例えば、脂質粒子が、リポソームを形成し得る量であればよい。第1画分における第2脂質1bの配合割合は0%以上~100%であってもよく、例えば、15%~75、20%~60%、24%~50%などであり得る。同様に第1画分における第1脂質1aの配合割合は0%以上~100%であってもよく、例えば、15%~75、20%~60%、24%~50%などであり得る。
【0021】
第1画分における第1脂質1aと第2脂質1bとの配合割合により、脂質粒子1の粒子径及び細胞への浸透性が変化する場合もある。例えば、第2脂質1bが多いほど脂質粒子1の粒子径は大きくなり得る。脂質粒子1の平均粒子径は、用途に応じて変更することが可能である。例えば約50nm~約300nmに調節してもよい。例えばインビボで用いる場合は、約70nm~約100nmとすることが好ましい場合がある。
【0022】
脂質粒子1は、37℃以上で、目的細胞と接触させることにより、例えば該細胞内にエンドサイトーシスにより取り込まれ得る。目的物質3が該細胞内に放出され得る。そして、目的物質3に応じて、ゲノムにまで送達され得る。脂質粒子1に目的物質3を内包して目的細胞に接触させる(例えば、投与する、添加する、混合するなど)簡単な手順により、従来のように、例えば、抗体又は受容体を用いることなく目的物質3を効率よく目的細胞に導入することができる。また、故に、脂質粒子1は目的細胞に選択的又は特異的に目的物質3を送達することが求められる様々な用途において用いることができる。
【0023】
脂質粒子1の第2画分に含まれる第3脂質1cの種類は限定されるものではないが、例えば、第2画分はベース脂質を含む。ベース脂質として、例えば、生体膜の主成分である脂質を用いることができる。ベース脂質は、リン脂質又はスフィンゴ脂質、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、ケファリン又はセレブロシド、或いはこれらの組み合わせ等である。
【0024】
例えば、ベース脂質として、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、
1,2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DPPC)、
1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、
1,2-ジ-O-オクタデシル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、
1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、
1,2-ジミリストイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(14:0 DAP)、
1,2-ジパルミトイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(16:0 DAP)、
1,2-ジステアロイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(18:0 DAP)、
N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイロキシ)プロパン(DOBAQ)、
1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホクロリン(DOPC)、
1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホクロリン(DLPC)、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、又は
コレステロール、
或いはこれらの何れかの組み合わせ等を用いることが好ましい。
【0025】
上記ベース脂質として、特にカチオン性脂質又は中性脂質の脂質を用いること好ましく、その含有量によって脂質粒子1の酸解離定数を調節することができる。カチオン性脂質としてDOTAPを用いることが好ましく、中性脂質としてDOPEを用いることが好ましい。
【0026】
第2画分は、脂質粒子1の凝集を防止する脂質を含むこともまた好ましい。例えば、凝集を防止する脂質は、PEG修飾した脂質、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)ジミリストイルグリセロール(DMG-PEG)、オメガ-アミノ(オリゴエチレングリコール)アルカン酸モノマーから誘導されるポリアミドオリゴマー(米国特許第6,320,017号)又はモノシアロガングリオシド等を更に含むことが好ましい。
【0027】
第2画分は、更に、毒性を調整するための相対的に毒性の低い脂質;脂質粒子1に配位子を結合させる官能基を有する脂質;ステロール、例えばコレステロール等の内包物の漏出を抑制するための脂質等の脂質を含んでもよい。特に、コレステロールを含ませることが好ましい。
【0028】
第2画分に用いる脂質の種類及びその組成は、目的とする脂質粒子1の酸解離定数(pKa)若しくは脂質粒子1の粒子径、目的物質3の種類、或いは細胞中での安定性等を考慮して適切に選択される。
【0029】
例えば、第2画分は、DOPEと、DOTAPと、コレステロールと、DMG-PEGとを含む場合、目的物質3の送達効率が特に優れているため好ましい。
【0030】
脂質粒子1内には、目的物質3の他に、必要に応じて更なる成分が内包されていてもよい。更なる成分は、例えば、pH調整剤、浸透圧調整剤、遺伝子活性化剤又はT細胞性腫瘍細胞の他の治療薬、他の診断薬等である。pH調整剤は、例えば、クエン酸などの有機酸及びその塩等である。浸透圧調整剤は、糖又はアミノ酸等である。遺伝子活性化剤については後述する。
【0031】
目的物質3及び必要に応じて他の物質を内包する脂質粒子1は、例えば、小分子を脂質粒子に封入する際に用いられる公知の方法、例えば、バンガム法、有機溶媒抽出法、界面活性剤除去法又は凍結融解法等を用いて製造することができる。例えば、脂質粒子1の材料を所望の比率でアルコール等の有機溶媒に含ませて得られた脂質混合物と、目的物質3等の内包するべき成分を含む水性緩衝液を用意し、脂質混合物に水性緩衝液を添加する。得られた混合物を撹拌して懸濁することにより目的物質3等を内包した脂質粒子1が形成される。
【0032】
脂質粒子1の構成成分の配合比は、脂質混合物中の各材料の配合比を変えることで容易に調節することができる。例えば、脂質粒子1の構成成分の混合比は、脂質混合物中の各材料の混合比と略同一であり得る。また、脂質粒子1に内包する物質の量比は、水性緩衝液中の両者の量比を変えることにより容易に調節することができる。
【0033】
以下、目的物質3を内包した状態の脂質粒子1を「物質送達キャリア」、「送達キャリア」とも称する。図1においては、物質送達キャリア10として示している。
【0034】
・組成物
物質送達キャリアは、適切な担体に含ませた液体の組成物として提供されてもよい。担体は、例えば、水、生理食塩水のような食塩水、グリシン水溶液又は緩衝液等である。或いは、物質送達キャリアは乾燥した粉末状の組成物として提供されてもよい。粉末状の組成物は、使用者が上記担体のような適切な液体を加えることによって使用可能となる。
【0035】
組成物は、物質送達キャリアの他に保管安定性を向上させる物質を更に含んでもよい。保管安定性を向上させる物質は、限定されるものではないが、例えば、アルブミン、リポタンパク、アポリポタンパク、グロブリン等の糖タンパク等:pH調整剤、緩衝化剤、張度調整剤等;ナトリウムアセテート、ナトリウムラクテート、ナトリウムクロリド、カリウムクロリド、カルシウムクロリド等の製薬学的に許容可能であり、組成物を生理的状態に近づける関与剤;フリーラジカルによるダメージを抑制する、α-トコフェロールのような脂肪親和性フリーラジカルクエンチャー;脂質の過酸化損傷を抑制し、貯蔵安定性を改良するためのフェリオキサミンのような水溶性キレーター等の脂質保護剤等である。
【0036】
物質送達キャリアを生体への投与に用いる場合、組成物は薬学的に許容され得る組成を有し、公知の方法で滅菌されていることが好ましい。
【0037】
脂質粒子1の製造は、脂質混合物を使用して行われる。脂質混合物は、第1脂質1a及び第2脂質1bを少なくとも含む。脂質混合物は、第1脂質1a及び第2脂質1bを上記の何れかの所望の配合割合で含み、第2画分の脂質も含み得る。脂質混合物は、所望の目的物質3とともに脂質粒子1製造キットとして提供されてもよい。
【0038】
実施形態に従う脂質組成物又は物質送達キャリアは、使用される目的細胞や目的物質に応じて、種々の方法を実行するために使用され得る。
【0039】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に従うと、目的細胞に目的物質を送達する方法が提供される。この方法は、図2に示すように、FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを、インビトロで目的細胞と接触させ、37℃以上に加温すること(S21)を含み、それにより目的細胞に目的物質を送達する(S22)。なお、図2には、好ましい例としてFFT-10及びFFT-20を共に含む例を示した。
【0040】
目的細胞と物質送達キャリアとの接触は、ペトリ皿、培養皿若しくは培養用チューブ、培養槽などの培養容器、又は任意の反応容器に含まれる目的細胞に対して、例えば、脂質組成物の形態にある物質送達キャリアを添加することにより行われる。37℃以上の加温は、例えば、インキュベーターに維持すること、それ以外のヒーターなどの加温器又は加温システムを利用して加熱することにより行われ得る。加温条件は上述の通りである。例えば、37℃以上での加温は、40~42℃であってもよい。
【0041】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に従うと、目的物質で目的細胞をゲノム組み換えする方法が提供される。この方法は、図3に示すように、FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを、インビトロで目的細胞と接触させ、37℃以上に加温すること(S31)を含み、それにより目的物質で目的細胞をゲノム組み換えする(S32)。なお、図3には、好ましい例としてFFT-10及びFFT-20を共に含む例を示した。
【0042】
培養容器又は任意の反応容器に含まれる目的細胞に対して、例えば、脂質組成物の形態にある物質送達キャリアを添加することにより行われ得る。37℃以上の加温は、例えば、インキュベーターに維持すること、それ以外のヒーターなどの加温器又は加温システムを利用して加熱することにより行われ得る。加温条件は上述の通りである。例えば、37℃以上での加温は、40~42℃であってもよい。
【0043】
目的物質は、RNA及び/又はDNAなどの核酸断片、所望のベクター、プラスミドベクター、タンパク質などとの混合物等であり得る。目的とするゲノム組み換えを促進する物質を更に物質送達キャリアに含ませてもよい。また、必要に応じて、目的細胞と物質送達キャリアとの接触する場に対して、外部から更なる物質を添加してもよい。37℃以上の加温は、例えば、インキュベーターに維持すること、それ以外のヒーターなどの加温器又は加温システムを利用して加熱することにより行われ得る。また、送達キャリアと目的細胞との接触の後に、適切な環境下で当該細胞を培養することを更に含んでいてもよい。
【0044】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に従うと、目的細胞である材料細胞に目的物質を送達し、標的細胞を作製する方法であって、この方法は、図4に示すように、FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを、インビトロで目的細胞と接触させ、37℃以上に加温すること(S41)、加温された当該細胞を培養すること(S42)、目的細胞に目的物質を送達し、ターゲット細胞(ゴール細胞)を作製する(S43)ことを含む。なお、図4には、好ましい例としてFFT-10及びFFT-20を共に含む例を示した。
【0045】
培養容器又は任意の反応容器に含まれる目的細胞に対して、例えば、脂質組成物の形態にある物質送達キャリアを添加することにより行われる。37℃以上の加温は、例えば、インキュベーターに維持すること、それ以外のヒーターなどの加温器又は加温システムを利用して加熱することにより行われ得る。
【0046】
目的物質は、RNA及び/又はDNAなどの核酸断片、所望のベクター、プラスミドベクター、タンパク質などとの混合物等であり得る。目的とするゲノム組み換えを促進する物質を更に物質送達キャリアに含ませてもよい。また、必要に応じて、目的細胞と物質送達キャリアとの接触する場に対して、外部から更なる物質を添加してもよい。37℃以上の加温は、例えば、インキュベーターに維持すること、それ以外のヒーターなどの加温器又は加温システムを利用して加熱することにより行われ得る。例えば、37℃以上での加温は、40~42℃であってもよい。また、目的細胞と送達キャリアとの接触の後に、適切な環境下で当該細胞を培養することを更に含んでいてもよい。
【0047】
この方法を使用することによって、例えば、CAR-T細胞作製やiPS細胞作製などを提供することが可能である。そのような場合、ターゲット細胞は、CAR-T細胞やiPS細胞など作製が意図される細胞である。このような各細胞作製方法は、何れも高効率に行うことが可能である。
【0048】
例えば、CAR-T細胞を作製する場合、図5(a)に示すように、目的とする物質は、それ自身公知の何れかのCAR(キメラ抗体受容体)をコードする核酸3aと、ゲノム組込み促進剤3bであってよい。また、目的細胞は、末梢血単核球(Peripheral Blood Mononuclear Cells: PBMC)或いはリンパ球画分などに含まれた状態で材料細胞を含む材料細胞群である材料画分として使用されてもよい。CAR-T細胞を治療や診断用に使用する場合には、治療、予防及び/又は診断の対象から採取されたPBMCであり得る。末梢血からのPBMCの調整は、フィコールを用いた超遠心などの密度勾配遠心分離法など、それ自身公知の何れかの方法により行われればよい。
【0049】
PBMCに含まれるT細胞の培養は、例えば、次の通りに行い得る。分離したPBMCに含まれるT細胞を培養する。T細胞の培養は、市販のT細胞培養用培地(TexMACS, Miltenyi biotec社や、AlyS705, 細胞科学研究所社など)を用いて行う。培地には必要に応じて、T細胞の生存や増殖を補助する成分、例えば人工血清(動物由来の成分を含まない、人工的に調整された血清)、サイトカイン(インターロイキン7やインターロイキン15など)を加えてもよい。
【0050】
CARをコードする核酸3aは、物質送達キャリア10に包含されて、材料となる目的細胞51の細胞質52へと送達され、そこから目的細胞51の核53へと送られたのちに、細胞のゲノム54に組み込まれるように構成されている。細胞のゲノム54に組み込まれることにより、当該目的細胞の細胞膜表面にCARを発現するように構成されていればよい。CARをコードする核酸は、例えば、CAR-DNAであり、即ちこれは、CAR遺伝子配列をコードする二本鎖DNAが好ましい。CAR-DNAは、核に取り込まれ、細胞のゲノムに挿入されてCARを発現するように構成されている。
【0051】
ゲノム組込み促進剤3bは、例えば、PB-mRNAなどのpiggyBac遺伝子であり得る。そのような酵素遺伝子は、トランスポサーセ(transposase: DNA転移酵素)遺伝子として知られている。目的細胞であるT細胞へのCAR遺伝子とトランスポサーセ遺伝子の導入により、安定してCAR-T(CAR遺伝子をT細胞のゲノムに組込んだ細胞)を作出できる。代表的なトランスポサーセには、蛾に由来するpiggyBacや、魚に由来するSleeping Beautyなどがある。これらの何れが使用されてもよいが、しかしながらこれらに限定するものではない。更にその他のゲノム組み込み促進機構を発揮する装置を使用することも可能である。例えば、CARをコードする核酸をプラスミドDNAに組み込み、それをリポソームに封入してもよい。また更には、PB遺伝子と共にプラスミドに組み込んだものをCAR細胞作製用の遺伝子セットとして封入してもよい。PB遺伝子は、DNAでもmRNAでもよい。
【0052】
CAR-T細胞に限らず、例えば、iPS細胞を作製する場合においても、細胞の脱分化や様々な遺伝子のサイレンシングの際に、目的遺伝子を目的物質として、目的細胞に導入させ、ゲノム組み換えを効率的に引き起こすために、何れの実施形態を使用することが可能である。また、これらに限定するものではなく、目的物質及び目的細胞を選択することにより様々な細胞を作製するために使用され得る。
【0053】
(第5の実施形態)
第5の実施形態に従うと、標的細胞を検出する方法が提供される。この方法は、図6に示すように、FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包されたレポーター遺伝子とを備える物質送達キャリアを、インビトロで被検細胞と接触させ、37℃以上に加温すること(S61)、前記レポーター遺伝子からの信号を検出すること(S62)、それにより標的細胞を検出する(S63)。なお、図6には、好ましい例としてFFT-10及びFFT-20を共に含む例を示した。
【0054】
培養容器、又は任意の反応容器に含まれる目的細胞に対して、例えば、脂質組成物の形態にある物質送達キャリアを添加することにより行われる。37℃以上の加温は、例えば、インキュベーターに維持すること、それ以外のヒーターなどの加温器又は加温システムを利用して加熱することにより行われ得る。加温条件は上述の通りである。例えば、37℃以上での加温は、40~42℃であってもよい。
【0055】
目的物質は、導入された目的物質の細胞質又は組み込まれたゲノムにおいて検出可能な信号を生ずるレポーター遺伝子であってよい。或いは、そのようなレポーター遺伝子に連結して、又はそのようなレポーター遺伝子と共に、更なる核酸などの物質が脂質粒子に内包されてもよい。
【0056】
レポーター遺伝子は、例えば、レポーター遺伝子のmRNAを含むRNAであってもよい。レポーター遺伝子は、例えば、レポータータンパク質をコードする遺伝子である。レポータータンパク質は、検出可能な第1信号を生じるタンパク質である。レポータータンパク質は、細胞毒性が低く、かつ生細胞において信号の検出が可能なものであることが好ましい。
【0057】
レポータータンパク質は、例えば、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質又は青色蛍光タンパク質などの蛍光タンパク質;ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ又はNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼなどの発光酵素タンパク質;キサンチンオキシダーゼ又は一酸化窒素合成酵素などの活性酸素生成酵素;或いはβ-ガラクトシダーゼ又はクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼなどの発色酵素タンパク質等から選択されることが好ましい。
【0058】
このRNAは、レポーター遺伝子のmRNAに加えて更なる配列を更に含んでもよく、分解耐性を有するように修飾されていてもよく、核酸凝縮ペプチドによって凝縮された状態で脂質粒子に内包されていてもよい。
【0059】
脂質粒子は、レポーター遺伝子のmRNAからのレポータータンパク質の発現及び/又はレポータータンパク質からの第1の信号の発生を助ける遺伝子活性化剤を更に内包していてもよい。
【0060】
RNA及び/又はDNAなどの核酸断片、所望のベクター、プラスミドベクター、タンパク質などとの混合物等であり得る。目的とするゲノム組み換えを促進する物質を更に物質送達キャリアに含ませてもよい。また、必要に応じて、目的細胞と物質送達キャリアとの接触する場に対して、外部から更なる物質を添加してもよい。37℃以上の加温は、例えば、インキュベーターに維持すること、それ以外のヒーターなどの加温器又は加温システムを利用して加熱することにより行われ得る。例えば、37℃以上での加温は、40~42℃であってもよい。また、37℃以上での加温の後に、適切な環境下で当該細胞を培養することを更に含んでいてもよい。
【0061】
ここに示される何れの実施形態によっても、標的細胞へ高効率に目的分子を送達できる技術が提供される。このような技術は、例えば、一定の範囲内、例えば、40℃~42℃などの範囲の温度環境下で、脂質粒子と標的細胞が接触することで実施可能であるために、加温処理の精度に依存せずに、高効率を達成することが可能である。
【0062】
[例]
以下、実施形態の核酸送達キャリアを作成し、使用した例について説明する。
【0063】
実験1 GFP遺伝子を内包した脂質粒子の作製
脂質粒子に内包する核酸として、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子のメッセンジャーRNAを使用した。
FFT-10、FFT-20、DOPE、DOTAP、コレステロール及びDMG-PEGを、下記表1に示すモル比でエタノール中に溶解し脂質溶液を得た。マイクロチューブに分注した脂質溶液をボルテックスミキサーで撹拌しながら、上記核酸を滴下して混合して粒子化した。当該各脂質粒子溶液を10mM HEPES(pH7.3)で10倍に希釈した後、限外濾過フィルタ(Amicon Ultra 0.5 Ultracel-50、Merck製)で濃縮し、例1~15の核酸送達キャリアを得た。
【0064】
【表1】
【0065】
実験2 遺伝子発現強度の測定
MEM培地(Thermo Fisher Scientific製)で培養したヒト乳がん細胞株(MCF7、ATCC製)、及び、MammaryLife BM培地(Lifeline Cell Technology製)で培養したヒト乳腺上皮細胞(HMEC、Lifeline Cell Technology製)を遠心で回収した後、マイクロチューブに4×10細胞/チューブになるように播種した。例1で作製した各核酸送達キャリアを2μL/チューブになるように添加した。各マイクロチューブをヒートブロックに入れて、37~48℃、0~17分間の加温処理を行った。その後、マイクロチューブ内の溶液全量を分注した培養プレートをインキュベーターに収容し、細胞を37℃、5%CO雰囲気で培養した。
【0066】
核酸送達キャリアの添加から24時間後、培養プレートをインキュベーターから取り出し、GFP遺伝子から発現するGFPタンパク質の蛍光強度をマイクロプレートリーダー(infinite F200 Pro、TECAN製)で測定した。測定は、マイクロプレートリーダーに添付のマニュアルに従って行った。
【0067】
図8に、37℃、40℃、42℃、44℃、46℃、48℃の加温処理を10分間行った際の、GFPタンパク質の蛍光強度測定の結果を、MCF7の蛍光強度をHMECの蛍光強度で除算し、37℃、10分間の加温処理の結果を1とした相対蛍光強度で示した。
【0068】
FFT-10とFFT-20の一方のみを含む核酸送達キャリア(例1~6)を添加した細胞の相対蛍光強度は、40~44℃の加温処理によって1.2~1.8倍に増大した。FFT-10とFFT-20の両方を含む核酸送達キャリア(例7~15)を添加した細胞の相対蛍光強度は、40~44℃の加温処理によって2~4倍以上に増大し、46℃の加温処理では約1.5倍に増大した。48℃の加温処理は、いずれの核酸送達キャリアを添加した細胞においても、相対蛍光強度に大きな変化を与えなかった。
【0069】
図9に、44℃の加温処理を5分間、8分間、11分間、14分間、17分間行った際の、GFPタンパク質の蛍光強度測定の結果を示す。各データは、MCF7の蛍光強度をHMECの蛍光強度で除算し、加温処理なしの測定結果を1とした相対蛍光強度で示す。FFT-10とFFT-20の一方のみを含む核酸送達キャリア(例1~6)を添加した細胞の相対蛍光強度は、8~14分間の加温処理によって1.2~1.5倍に増大した。FFT-10とFFT-20の両方を含む核酸送達キャリア(例7~15)を添加した細胞の相対蛍光強度は、8~14分間の加温処理によって1.5~4.5倍以上に増大した。5分間及び17分間の加温処理は、いずれの核酸送達キャリアを添加した細胞においても、相対蛍光強度に大きな変化を与えなかった。以上の結果から、40℃以上48℃未満、8分間以上17分間未満の加温処理を行うことによって、FFT-10とFFT-20の両方を含む核酸送達キャリアの細胞指向性が向上することが示された。
【0070】
実験3 CAR遺伝子およびpiggyBac遺伝子を内包した脂質粒子の作製
脂質粒子に内包する核酸として、CAR遺伝子を含むプラスミドDNAと、piggyBacトランスポゼース遺伝子のメッセンジャーRNAを使用した。
【0071】
FFT-10、FFT-20、DOPE、DOTAP、コレステロール及びDMG-PEGをそれぞれ15:30:4:9:38:4のモル比でエタノール中に溶解し脂質溶液を得た。マイクロチューブに分注した脂質溶液をボルテックスミキサーで撹拌しながら、上記核酸を滴下して混合して粒子化した。当該各脂質粒子溶液を10mM HEPES(pH7.3)で10倍に希釈した後、限外濾過フィルタ(Amicon Ultra 0.5 Ultracel-50、Merck製)で濃縮し、例16の核酸送達キャリアを得た。
【0072】
実験4 CAR-T細胞作製効率の評価
ALyS705培地(細胞科学研究所製)で培養したヒト末梢血単核細胞(PBMC、ロンザ製)を遠心で回収した後、マイクロチューブに2×10細胞/チューブになるように播種した。例3で作製した例16の核酸送達キャリアを、核酸量が2.5μg/チューブになるように添加した。マイクロチューブをヒートブロックに入れて、加温処理なし、42℃で10分間の加温処理、又は42℃で15分間の加温処理を行った。その後、マイクロチューブ内の溶液全量を分注した培養プレートをインキュベーターに収容し、細胞を37℃、5%CO雰囲気で培養した。
【0073】
核酸送達キャリアの添加から2週間後、培養プレートをインキュベーターから取り出し、培養液半量をマイクロチューブに回収して、リン酸緩衝液(Thermo Fisher Scientific製)で洗浄した。抗体処理した細胞をリン酸緩衝液で洗浄後、ビオチン標識抗ヒトIgG(H+L)抗体(Jackson IR製)を25倍希釈で添加し、遮光して4℃で30分間静置した。リン酸緩衝液で洗浄後、APC標識ストレプトアビジン(BD製)を25倍希釈で添加し、遮光して4℃で30分間静置した。抗体処理した細胞をリン酸緩衝液で洗浄した後、APCの蛍光強度をフローサイトメーター(FACSVerse、BD製)で測定し、piggyBacによって細胞のゲノムに組込まれたCAR遺伝子の発現率を評価した。測定は、フローサイトメーターに添付のマニュアルに従って行った。
【0074】
RPMI培地(Thermo Fisher Scientific製)で培養した急性リンパ性白血病由来CD19陽性細胞(NALM6、ATCC製)を遠心で回収した後、上記の培養液を半量残したPBMCと混合比PBMC:NALM6=1:5になるように混合し、96ウェルプレートに播種した。培養プレートをインキュベーターに収容し、細胞を37℃、5%CO雰囲気で培養した。混合培養から5日後、培養プレートをインキュベーターから取り出し、培養液全量をマイクロチューブに回収して、リン酸緩衝液(Thermo Fisher Scientific製)で洗浄した。洗浄後、FITC標識抗CD19抗体(BD製)を25倍希釈で添加し、遮光して4℃で30分間静置した。抗体処理した細胞をリン酸緩衝液で洗浄した後、FITCの蛍光強度をフローサイトメーター(FACSVerse、BD製)で測定し、NALM6細胞残存率、すなわちCAR遺伝子を発現したPBMCの腫瘍細胞殺傷性能を評価した。測定は、フローサイトメーターに添付のマニュアルに従って行った。
【0075】
表2に、核酸送達キャリアを添加していないPBMC細胞、例16の核酸送達キャリアを添加し加温処理を行っていないPBMC細胞、例16の核酸送達キャリアを添加し42℃で10分間の加温処理を行ったPBMC細胞、例16の核酸送達キャリアを添加し42℃で15分間の加温処理を行ったPBMC細胞、それぞれのCAR遺伝子発現率と腫瘍細胞生存率を示す。併せて、フローサイトメーターにより得られたイメージを図10に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
例16の核酸送達キャリアを添加して42℃で加温処理を行ったPBMC細胞は、処理時間が10分間と15分間いずれの場合も、CAR遺伝子発現率が25%以上、腫瘍細胞生存率が2%以下だった。例16の核酸送達キャリアを添加し加温処理を行っていないPBMC細胞は、CAR9遺伝子発現率が9%で、腫瘍細胞生存率が61%だった。核酸送達キャリアを入れていない場合、CAR遺伝子発現率は5%、腫瘍細胞生存率は97%だった。以上の結果から、FFT-10およびFFT-20の両方を含む核酸送達キャリアを添加した細胞に42℃の加温処理を10~15分間行うことによって、トランスポゼースpiggyBacによるCAR-T細胞作製効率が向上し、高い腫瘍細胞殺傷性能をもつCAR-T細胞を作製できることが示された。
【0078】
以上の結果から、実施形態に従う脂質組成物及び各方法によって、標的細胞へ高効率に目的分子を送達する技術が提供されることが確認された。
【0079】
(第6~第9の実施形態)
上述の第2~第5の実施形態は、インビトロにて行う方法である。所望に応じて、医師の管理の下、これらの方法を治療方法又は診断方法などとして利用することも可能である。更に、実施形態に従うと、次のような方法についても提供される。
【0080】
(第6の実施形態)
そのような場合、目的細胞に目的物質を送達する方法が提供される。この方法では、例えば、図2に示されるワークフローにおける「インビトロで」の語を「生体又は組織内において」と読み替える。当該方法は、FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを、生体又は組織において、目的細胞と接触させ、37℃以上に加温すること(S21)、それにより目的細胞に目的物質を送達する(S22)。
【0081】
(第7の実施形態)
また、そのような方法は、図3に示されるワークフローにおける「インビトロで」の語を「生体又は組織内において」と読み替える。当該方法は、FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを、生体又は組織内において目的細胞と接触させ、37℃以上に加温すること(S31)、それにより目的物質で目的細胞をゲノム組み換えする(S32)。
【0082】
(第8の実施形態)
更に、そのような方法は、図4に示されるワークフローにおける「インビトロで」の語を「生体又は組織内において」と読み替える。当該方法は、FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを、生体又は組織内において目的細胞である材料細胞と接触させ、37℃以上に加温すること(S41)、加温された当該細胞を培養すること(S42)、材料細胞に目的物質を送達し、標的細胞(ゴール細胞)を作製する(S43)ことを含む。
【0083】
(第9の実施形態)
更に、そのような方法は、図6に示されるワークフローにおける「インビトロで」の語を「生体又は組織内において」と読み替える。当該方法は、FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包されたレポーター遺伝子とを備える物質送達キャリアを、生体又は組織内において目的細胞と接触させ、37℃以上に加温する、前記レポーター遺伝子からの信号を検出することと含む。
【0084】
37℃以上の加温は、例えば、がんの温熱療法などにおいて使用される高周波による領域加温機構(図7)を使用してもよい。或いは、それ以外のヒーター又は浴槽などの加温器又は加温システムを利用して加熱してもよい。例えば、加温は、40~42℃であってもよい。
【0085】
生体内又は組織への物質送達キャリア10の送達は、物質送達キャリア10を含む組成物を対象に投与することによって行われる。投与経路は特に限定されるものではなく、例えば、静脈注射、皮下注射、筋肉内注射、動脈注射、硬膜外注射、脳脊髄腔注射、胸腔内注射、腹腔内注射、局所・病巣内注射等、或いは点滴等によって全身投与する。投与スケジュールは、用途、対象の性別、年齢、体重又は病態等を考慮して選択すればよく、単回投与であってもよいし、連続的又は定期的な複数回投与であってもよい。投与によって、物質送達キャリア10は例えば血液により運ばれ、標的となる体内の目的細胞と接触する。このような方法に使用される脂質組成物及び物質送達キャリアは、生体に投与されることが適切な医薬組成物として、必要なグレード及び基準を満たす構成である。
【0086】
以上に説明したこれらの方法によれば、効率的に生体又は組織内の目的細胞に目的物質を送達することができ、目的細胞の検出、治療及び/又は診断を行うことが可能である。
以下に、生体内又は組織内で実施される実施形態の例を記載する。
(1)FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを、生体又は組織において、目的細胞と接触させ、37℃以上に加温すること、それにより目的細胞に目的物質を送達することを含む、目的物質の送達方法:
(2)FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを、生体又は組織内において目的細胞と接触させ、37℃以上に加温すること、それにより目的物質で目的細胞をゲノム組み換えすることを含む、ゲノム組み換え方法:
(3)FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包された目的物質とを備える物質送達キャリアを、生体又は組織内において材料細胞と接触させ、37℃以上に加温すること、加温された当該細胞を培養すること、材料細胞に目的物質を送達し、標的細胞を作製することを含む、細胞作製方法。
(4) FFT-10及び/又はFFT-20を少なくとも含む脂質粒子と、前記脂質粒子に内包されたレポーター遺伝子とを備える物質送達キャリアを、イ生体又は組織内において目的細胞と接触させ、37℃以上に加温する、前記レポーター遺伝子からの信号を検出することと含む、標的細胞を検出する方法。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1…脂質粒子、1a…第1の脂質、1b…第2の脂質、1c…第3の脂質、2…内腔、3…目的物質、3a…核酸、3b…ゲノム組み込み促進剤。10…物質送達キャリア、51…目的細胞、53…核、54…ゲノム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10