(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013256
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】冷間圧延機の圧延条件設定方法、冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延機の圧延条件設定装置および冷間圧延機
(51)【国際特許分類】
B21B 37/68 20060101AFI20240125BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20240125BHJP
B21B 38/02 20060101ALI20240125BHJP
B21B 37/28 20060101ALI20240125BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B21B37/68
B21C51/00 L
B21B38/02
B21B37/28
B21B37/00 221
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115192
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昇輝
(72)【発明者】
【氏名】青江 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】松原 行宏
(72)【発明者】
【氏名】沼澤 義典
(72)【発明者】
【氏名】原田 悦充
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA01
4E124BB01
4E124CC01
4E124EE01
4E124EE17
4E124FF01
4E124GG10
(57)【要約】
【課題】高負荷、かつ圧延前板厚の薄い難圧延材を冷間圧延する際にも、冷間圧延の安定性を確保しつつ、生産性よく冷間圧延する圧延条件を設定可能な冷間圧延機の圧延条件設定方法を提供することにある。
【解決手段】冷間圧延機の圧延条件設定方法は、予測モデルが、冷間圧延機の入側における圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報を含む、過去の圧延実績データを多次元データに変換した第1多次元データを説明変数とし、ステアリングロールの制御量および冷間圧延機の圧下位置を目的変数として生成されたものであり、冷間圧延機の入側における圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報から生成した第2多次元データを予測モデルに入力することにより、ステアリングロールの制御量および冷間圧延機の圧下位置の少なくとも一方を推定するステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延対象材の冷間圧延後の状態を予測する予測モデルを用いて、前記圧延対象材を冷間圧延する際の冷間圧延機の目標圧延条件を設定する、冷間圧延機の圧延条件設定方法であって、
前記予測モデルは、前記冷間圧延機の入側における前記圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報を含む、過去の圧延実績データを多次元データに変換した第1多次元データを説明変数とし、ステアリングロールの制御量および前記冷間圧延機の圧下位置を目的変数として生成されたものであり、
前記冷間圧延機の入側における前記圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報から生成した第2多次元データを前記予測モデルに入力することにより、前記ステアリングロールの制御量および前記冷間圧延機の圧下位置の少なくとも一方を推定するステップを含む、
冷間圧延機の圧延条件設定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の冷間圧延機の圧延条件設定方法を用いて変更された冷間圧延機の目標圧延条件を用いて、圧延対象材を冷間圧延するステップを含む冷間圧延方法。
【請求項3】
請求項2に記載の冷間圧延方法を用いて鋼板を製造するステップを含む鋼板の製造方法。
【請求項4】
圧延対象材の冷間圧延後の状態を予測する予測モデルを用いて、前記圧延対象材を冷間圧延する際の冷間圧延機の目標圧延条件を設定する、冷間圧延機の圧延条件設定装置であって、
前記予測モデルは、前記冷間圧延機の入側における前記圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報を含む、過去の圧延実績データを多次元データに変換した第1多次元データを説明変数とし、ステアリングロールの制御量および前記冷間圧延機の圧下位置を目的変数として生成されたものであり、
前記冷間圧延機の入側における前記圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報から生成した第2多次元データを前記予測モデルに入力することにより、前記ステアリングロールの制御量および前記冷間圧延機の圧下位置の少なくとも一方を推定する手段を備える冷間圧延機の圧延条件設定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の冷間圧延機の圧延条件設定装置を備える冷間圧延機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延機の圧延条件設定方法、冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延機の圧延条件設定装置および冷間圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷延薄鋼鈑等の圧延材を冷間圧延する際には、圧延材の長手方向および幅方向の厚み精度を良好に保ちながら圧延材の形状(または平坦度)を良好にすることにより、圧延材の通板性を安定化させた状態で冷間圧延が行われることが望ましい。一方で、軽量化による燃費抑制等を目的として、高負荷、かつ圧延前板厚の薄い薄物硬質材等の難圧延材のニーズが高まっている。このような難圧延材の冷間圧延時には、圧延負荷を抑えるために、難圧延材は前工程の熱間圧延にて薄引きされた後に冷間圧延工程に送られる。
【0003】
近年、冷間圧延機の制御因子の多くは、冷間圧延機に搭載されたアクチュエータによって自動制御され、オペレータが冷間圧延機の制御因子を設定する機会は減りつつある。ところが、上記のような難圧延材の冷間圧延時には、熱間圧延時の形状不良に起因したコイル先尾端の曲がりが残存した状態で次コイルと接合される場合がある。
【0004】
コイル長手方向に沿って曲がりや形状不良が急峻に変動した場合、圧延荷重、冷間圧延機のロールギャップ、ワークロールベンダー、中間ロールシフト、サーマルクラウンによるロール膨張等のロール撓み補正に対する変動が自動制御によって吸収できない場合が多い。なお、上記の圧延荷重には、付随して計算される先進率やトルクも含まれる。
【0005】
このような場合、オペレータは、冷間圧延機の設備制約を満たしつつ、かつ生産性を阻害しないように、パススケジュールや形状制御アクチュエータを設定する。このため、近年、オペレータの経験や主観によって冷間圧延機の操業速度、ひいては生産性が左右されやすくなっている。
【0006】
このような背景から、特許文献1には、ニューラルネットワークを用いて過去の操業条件を学習し、学習結果を用いて冷間圧延機のミルセットアップを行う方法が提案されている。また、特許文献2には、冷間圧延後の形状に寄与する画像情報を用いた機械学習により、形状制御を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6705519号公報
【特許文献2】特開2021-30280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ミルセットアップ時点で冷間圧延機が最適な操業条件となったとしても、長手方向に沿って板クラウンが変動した場合には、冷間圧延機の出側における圧延材の形状が大きく変動する。そのため、形状不良による圧延速度の制限や、最悪の場合、圧延材の破断が発生する可能性がある。一方、特許文献2に記載の方法では、コイルの曲がりや形状不良といった状態を定量的に捉えて形状制御アクチュエータに反映することが難しい。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、高負荷、かつ圧延前板厚の薄い難圧延材を冷間圧延する際にも、冷間圧延の安定性を確保しつつ、生産性よく冷間圧延する圧延条件を設定可能な冷間圧延機の圧延条件設定方法および圧延条件設定装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、高負荷、かつ圧延前板厚の薄い難圧延材を冷間圧延する際にも、冷間圧延の安定性を確保しつつ、生産性よく冷間圧延可能な冷間圧延方法および冷間圧延機を提供することにある。また、本発明の他の目的は、鋼板を歩留まりよく製造可能な鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る冷間圧延機の圧延条件設定方法は、圧延対象材の冷間圧延後の状態を予測する予測モデルを用いて、前記圧延対象材を冷間圧延する際の冷間圧延機の目標圧延条件を設定する、冷間圧延機の圧延条件設定方法であって、前記予測モデルは、前記冷間圧延機の入側における前記圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報を含む、過去の圧延実績データを多次元データに変換した第1多次元データを説明変数とし、ステアリングロールの制御量および前記冷間圧延機の圧下位置を目的変数として生成されたものであり、前記冷間圧延機の入側における前記圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報から生成した第2多次元データを前記予測モデルに入力することにより、前記ステアリングロールの制御量および前記冷間圧延機の圧下位置の少なくとも一方を推定するステップを含む。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る冷間圧延方法は上記の冷間圧延機の圧延条件設定方法を用いて変更された冷間圧延機の目標圧延条件を用いて、圧延対象材を冷間圧延するステップを含む。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る鋼板の製造方法は、上記の冷間圧延方法を用いて鋼板を製造するステップを含む。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る冷間圧延機の圧延条件設定装置は、圧延対象材の冷間圧延後の状態を予測する予測モデルを用いて、前記圧延対象材を冷間圧延する際の冷間圧延機の目標圧延条件を設定する、冷間圧延機の圧延条件設定装置であって、前記予測モデルは、前記冷間圧延機の入側における前記圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報を含む、過去の圧延実績データを多次元データに変換した第1多次元データを説明変数とし、ステアリングロールの制御量および前記冷間圧延機の圧下位置を目的変数として生成されたものであり、前記冷間圧延機の入側における前記圧延対象材の板道外を含む3次元鋼板情報から生成した第2多次元データを前記予測モデルに入力することにより、前記ステアリングロールの制御量および前記冷間圧延機の圧下位置の少なくとも一方を推定する手段を備える。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る冷間圧延機は、上記の冷間圧延機の圧延条件設定装置を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る冷間圧延機の圧延条件設定方法および圧延条件設定装置によれば、高負荷、かつ圧延前板厚の薄い難圧延材を冷間圧延する際にも冷間圧延の安定性を確保しつつ生産性よく冷間圧延する圧延条件を設定することができる。また、本発明に係る冷間圧延方法および冷間圧延機によれば、高負荷、かつ圧延前板厚の薄い難圧延材を冷間圧延する際にも冷間圧延の安定性を確保しつつ生産性よく冷間圧延することができる。また、本発明に係る鋼板の製造方法によれば、鋼板を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である冷間圧延機の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した演算ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、多次元配列情報の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、アクチュエータ予測モデルの構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、多次元配列情報を一次元情報に変換する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、予測モデル実行部の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である冷間圧延機の圧延条件設定方法、冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延機の圧延条件設定装置および冷間圧延機について説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための装置や方法を例示したものであって、構成部品の材質、形状、構造、配置等を以下に示す実施形態に限定するものではない。また、図面は模式的なものである。このため、厚みと平面寸法との関係や比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0018】
〔冷間圧延機の構成〕
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態である冷間圧延機の構成について説明する。なお、本明細書中では「冷間圧延」を単に「圧延」と記載することがあり、本明細書において「冷間圧延」と「圧延」は同義である。また、以下の説明では、冷間圧延機によって圧延される圧延材(圧延対象材)として鋼板を例に挙げる。但し、圧延材は、鋼板に限定されることはなく、アルミニウム板等のその他の金属板でも適用可能である。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態である冷間圧延機の構成を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態である冷間圧延機1は、鋼板Sの入側(
図1の紙面に向かって左側)から出側(
図1の紙面に向かって右側)に向かって、順に第1圧延スタンド~第5圧延スタンド(♯1STD~♯5STD)の5機の圧延スタンドを備える冷間タンデム圧延機である。この冷間圧延機1において、隣り合う圧延スタンド間には、図示しないテンションロール、デフロール、板厚計および形状計が適宜設置されている。圧延スタンドの構成や鋼板Sの搬送装置等は特に限定されず、適宜公知の技術を適用できる。
【0020】
図1に示す実施形態では、熱間圧延ライン(図示せず)で圧延された鋼板Sは、ペイオフリール2から払い出された後、入側ルーパー3、ステアリングロール4を通過する。次いで、鋼板Sは冷間圧延機1で冷間圧延された後、コイラー5に巻き取られる。入側ルーパー3の長さやステアリングロール4の本数は、特に限定されない。
【0021】
〔アクチュエータ予測モデル〕
次に、
図1~
図6を参照して、本発明の一実施形態であるアクチュエータ予測モデルについて説明する。
【0022】
本発明の一実施形態であるアクチュエータ予測モデルに関連する機能は、
図1に示す圧延制御装置100、演算ユニット200および鋼板3次元情報測定装置300と、
図2に示す操業監視装置400とによって実現される。
【0023】
圧延制御装置100は、演算ユニット200からの制御信号に基づいて冷間圧延機1の圧延条件を制御する。
【0024】
図2は、
図1に示す演算ユニット200の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、演算ユニット200は、演算装置210、入力装置220、記憶装置230および出力装置240を備えている。
【0025】
演算装置210は、バス250を介して入力装置220、記憶装置230および出力装置240と有線接続されている。但し、演算装置210、入力装置220、記憶装置230および出力装置240は、この接続の態様に限らず、無線により接続されてもよく、有線接続と無線接続とを組み合わせた態様で接続されてもよい。
【0026】
入力装置220は、各種情報が入力される入力ポートとして機能する。入力装置220には、例えば圧延制御装置100による冷間圧延機1の制御情報が入力される。また、入力装置220には、鋼板3次元情報測定装置300によって測定された圧延入側鋼板情報(冷間圧延機1の入側における鋼板Sの板道外を含む3次元鋼板情報(例えば鋼板座標、曲がり、急峻度等))、操業監視装置400からの情報が入力される。
【0027】
操業監視装置400は、鋼板Sの製造ラインに設置されており、例えばオペレータが各種設定を行うための入力装置(例えばキーボード、マウス等)や、圧延状況を監視するための表示装置(例えば液晶ディスプレイ等)等から構成される。操業監視装置400からの情報としては、アクチュエータ予測モデルの実行指令情報が含まれる。また、操業監視装置400からの情報としては、圧延対象の鋼板Sに関する情報(前工程条件、鋼種、サイズ)、冷間圧延前にプロセスコンピュータまたはオペレータにより設定された冷間圧延条件情報(数値情報、文字情報、画像情報)が含まれる。
【0028】
記憶装置230は、例えばハードディスクドライブ、半導体ドライブ、光学ドライブ等により構成され、本システムにおいて必要な情報(後述する予測モデル生成部214および予測モデル実行部215の機能の実現に必要な情報)を記憶する装置である。
【0029】
予測モデル生成部214の機能の実現に必要な情報としては、例えば鋼板3次元情報測定装置300によって測定された圧延入側の3次元鋼板情報、鋼板Sの要求特性(鋼種、製品の板厚、板幅等)、冷間圧延機1の設備制約が含まれる。また、予測モデル生成部214の機能の実現に必要な情報としては、鋼板Sの溶接点通過後の圧延情報(コイル情報、形状アクチュエータ位置を含む)、圧延スタンドで使用されるクーラント性状が含まれる。また、予測モデル生成部214の機能の実現に必要な情報としては、圧延条件(目標圧延速度を含む)等の冷間圧延に関連する説明変数、ステアリングロール4のシリンダ位置や第1圧延スタンドでの圧下位置情報といった目的変数を示す情報が含まれる。
【0030】
予測モデル実行部215の機能の実現に必要な情報としては、例えば予測モデル生成部214によって生成された鋼板Sの圧延状態ごとのアクチュエータ予測モデル、アクチュエータ予測モデルに入力される各種情報が挙げられる。
【0031】
出力装置240は、演算装置210からの制御信号を圧延制御装置100に対して出力する出力ポートとして機能する。
【0032】
操業監視装置400は、液晶ディスプレイや有機ディスプレイ等の任意の表示装置を備えている。操業監視装置400は、圧延制御装置100から冷間圧延機1の操業状態を示す各種情報を受信し、受信した情報をオペレータが冷間圧延機1の操業状態を監視するための運転画面(操業画面)に表示する。
【0033】
演算装置210は、RAM(Random Access Memory)211、ROM(Read Only Memory)212および演算処理部213を備えている。
【0034】
ROM212は、コンピュータプログラムである予測モデル生成プログラム212aおよび予測モデル実行プログラム212bを記憶している。
【0035】
演算処理部213は、演算処理機能を有し、バス250を介してRAM211およびROM212と接続されている。
【0036】
RAM211、ROM212および演算処理部213は、バス250を介して入力装置220、記憶装置230および出力装置240に接続されている。
【0037】
演算処理部213は、機能ブロックとして、予測モデル生成部214および予測モデル実行部215を備えている。
【0038】
予測モデル生成部214は、アクチュエータ予測モデルを生成する処理部である。アクチュエータ予測モデルは、過去の圧延実績データを多次元データに変換した第1多次元データを説明変数とし、ステアリングロール4の制御量および冷間圧延機1の圧下位置を目的変数として生成される。また、「過去の圧延実績データ」には、冷間圧延機1の入側における鋼板Sの板道外を含む3次元鋼板情報が含まれる。
【0039】
予測モデル生成部214では、冷間圧延機1における過去の圧延実績のうち、鋼板Sの圧延前における板道外を含む3次元鋼板情報とアクチュエータ量(ステアリングロール4のシリンダ量および第1圧延スタンドの圧下位置)とを結び付ける機械学習手法を用いる。
【0040】
例えば鋼板Sの形状や曲がりに応じて、予めステアリングロール4のシリンダ量を変更させることにより、当該ステアリングロール4に対する鋼板Sの巻掛位置を調整することができるため、急激な鋼板Sの蛇行に対してもセンタリングすることができる。同様に、鋼板Sの片伸びや曲がりを修正するように、第1圧延スタンドの圧下位置(レベリング)を制御することにより、圧延出側での片伸びや曲がりを低減することができる。
【0041】
機械学習手法によるアクチュエータ予測モデルとして、本実施形態では、ニューラルネットワークモデルを用いる。但し、機械学習手法は、ニューラルネットワークに限定されず、他の公知の機械学習手法を採用しても構わない。
【0042】
予測モデル生成部214は、学習用データ取得部214a、前処理部214b、第1データ変換部214c、モデル生成部214dおよび結果保存部214eを備えている。予測モデル生成部214は、操業監視装置400からアクチュエータ予測モデルの生成の指示を受けた際に、ROM212に記憶されている予測モデル生成プログラム212aを実行する。これにより、予測モデル生成部214は、学習用データ取得部214a、前処理部214b、第1データ変換部214c、モデル生成部214dおよび結果保存部214eとして機能する。また、アクチュエータ予測モデルは、予測モデル生成部214が実行する度に更新される。
【0043】
学習用データ取得部214aは、アクチュエータ予測モデルの生成のための事前処理として、入力実績データ(説明変数)および出力実績データ(目的変数)からなる、複数の学習用データを取得する。入力実績データとしては、過去の圧延実績データのうち、鋼板3次元情報測定装置300からの板道外を含む3次元鋼板情報が含まれる。また、出力実績データとしては、過去の圧延実績データのうち、アクチュエータ量(ステアリングロール4のシリンダ量および第1圧延スタンドの圧下位置)が含まれる。
【0044】
学習用データ取得部214aは、記憶装置230から上記の入力実績データおよび出力実績データを取得して学習用データを作成する。各学習用データは、入力実績データと出力実績データの組からなる。また、作成した学習用データは、記憶装置230に記憶される。なお、学習用データ取得部214aは、記憶装置230に学習用データを記憶させることなく、前処理部214bやモデル生成部214dに学習用データを供給してもよい。
【0045】
入力実績データには、説明変数を時間方向に連結した多次元配列情報が含まれる。本実施形態では、多次元配列情報として、例えば
図3に示すような情報を採用する。
【0046】
図3は、鋼板3次元情報測定装置300の測定点が、鋼板Sの板道外を含む幅方向に複数ある場合の例を示す。この場合、学習用データ取得部214aは、鋼板Sの長手方向に対して連続的に測定された測定点群を入力実績データとする。鋼板Sの板道外(鋼板Sの板エッジよりも外側に相当する部位)の情報も取り込まれることにより、コイル自体の形状不良部を検出できるだけでなく、コイル長手方向に対する曲がりも入力データとなる。なお、鋼板3次元情報測定装置300の測定手法は特に限定されず、接触式でも非接触式(2次元レーザー、3Dスキャナー、γ線、X線等)でもよい。また、測定点群を平均化したデータ、またはスプライン平滑化処理等の加工を加えたデータを、入力実績データとしてもよい。なお、入力実績データに取り込まれる板道外の情報は、片側当り、鋼板Sの板幅の10%未満が好ましい。
【0047】
ここで、記憶装置230に過去の圧延実績データが記憶されていない場合(例えば過去に実績のない圧延条件や鋼種条件である場合)やサンプル量が少ない場合も想定される。この場合、学習用データ取得部214aは、オペレータに対して、1回または複数回、アクチュエータ予測モデルを使用せずに冷間圧延を実行するよう要求する。また、記憶装置230に記憶されている学習用データの数が多い程、アクチュエータ予測モデルによる予測精度が高まる。このため、学習用データの数が予め設定した閾値未満である場合、学習用データ取得部214aは、データ数が閾値に至るまで、オペレータに対して、アクチュエータ予測モデルを使用せずに冷間圧延を実行するよう要求してもよい。
【0048】
前処理部214bは、学習用データ取得部214aが取得した学習用データをアクチュエータ予測モデル生成用に加工する。具体的には、前処理部214bは、学習用データを構成する圧延実績データをニューラルネットワークモデルに読み込ませるために、必要に応じて0~1の間で入力実績データの値域を標準化(正規化)する。
【0049】
入力実績データは多次元情報である。このため、第1データ変換部214cは、畳み込みニューラルネットワークを用いて特徴量を残した状態で入力実績データを次元圧縮し、一次元情報とする(
図4参照)。入力実績データは、一次元情報となった状態で、
図4に示すニューラルネットワークモデルの入力層501に結合される。
【0050】
ここで、
図5を参照して、第1データ変換部214cの処理例について説明する。
図5は、多次元配列情報を一次元情報に変換する処理の流れを示すフローチャートである。
図5に示すように、多次元配列情報を一次元情報に変換する処理、すなわち多次元配列情報の格納方法は、複数のフィルターの入出力が多段に繋がれた構造を有している。すなわち、多次元配列情報を一次元情報に変換する処理は、入力側から順番に、第1畳み込みステップS1、第1プーリングステップS2、第2畳み込みステップS3、第2プーリングステップS4および全結合ステップS5を含む。
【0051】
第1畳み込みステップS1では、第1データ変換部214cが、横64×縦64の多次元配列情報を入力とし、畳み込み演算によって64×64の第1特徴マップを出力する。第1特徴マップは、入力配列のどの箇所にどのような局所的な特徴があるのかを示す。畳み込み演算では、例えば横3×縦3ピクセル、32チャンネルのフィルターとし、フィルターの適用間隔を1、周辺を0で埋める(パッディング)長さを1とする。
【0052】
第1プーリングステップS2では、第1データ変換部214cが、第1畳み込みステップS1により出力された第1特徴マップを入力とし、第1特徴マップの横3×縦3ピクセル内での最大値を新たな1ピクセルとする。第1データ変換部214cは、このような操作を、ピクセルをずらしながらマップ全体にわたり実施する。これにより、第1プーリングステップS2では、第1データ変換部214cは、第1特徴マップを圧縮した第2特徴マップを出力する。
【0053】
第2畳み込みステップS3では、第1データ変換部214cが、第2特徴マップを入力とし、畳み込み演算によって第3特徴マップを出力する。畳み込み演算では、例えば横3×縦3ピクセル、32チャンネルのフィルターとし、フィルターの適用間隔を1、周辺を0で埋める(パッディング)長さを1とする。
【0054】
第2プーリングステップS4では、第1データ変換部214cが、第2畳み込みステップS3により出力された第3特徴マップを入力とし、第3特徴マップの横3×縦3ピクセル内での最大値を新たな1ピクセルとする。第1データ変換部214cは、このような操作を、ピクセルをずらしながらマップ全体にわたり実施する。これにより、第2プーリングステップS4では、第1データ変換部214cは、第3特徴マップを圧縮した第4特徴マップを出力する。
【0055】
全結合ステップS5では、第1データ変換部214cが、第2プーリングステップS4により出力された第4特徴マップの情報を一列に配列する。そして、全結合ステップS5から出力された100個のニューロンは、
図4に示すニューラルネットワークモデルの入力層501となる。なお、畳み込みの手法や出力ニューロン数は上記に限定されない。また、畳み込みニューラルネットワークの手法としては、GoogleNetやVGG16、MOBILENET、EFFICIENTNET等の既知のモデルを用いてもよい。
【0056】
図2に戻る。モデル生成部214dは、前処理部214bが取得した複数の学習用データ(第1データ変換部214cで変換された情報も含む)を用いた機械学習を実施する。これにより、モデル生成部214dは、圧延入側3次元鋼板情報を入力実績データとして含み、アクチュエータ量を出力実績データとするアクチュエータ予測モデルを生成する。
【0057】
本実施形態では、機械学習の手法としてはニューラルネットワークを採用するため、モデル生成部214dは、アクチュエータ予測モデルとしてニューラルネットワークモデルを生成する。すなわち、モデル生成部214dは、アクチュエータ予測モデル生成用に加工された学習用データにおける入力実績データと出力実績データとを結び付けるアクチュエータ予測モデルとしてのニューラルネットワークモデルを生成する。このニューラルネットワークモデルは、例えば関数式で表現される。
【0058】
具体的には、モデル生成部214dは、ニューラルネットワークモデルに用いられるハイパーパラメータの設定を行うとともに、当該ハイパーパラメータを用いたニューラルネットワークモデルによる学習を行う。ハイパーパラメータの最適化計算として、モデル生成部214dは、まず学習用データに対して、ハイパーパラメータ内の幾つかを段階的に変更したニューラルネットワークモデルを生成し、検証用データに対する予測精度が最も高くなるようなハイパーパラメータを選択する。
【0059】
ハイパーパラメータとして通常、隠れ層の数、各隠れ層のニューロン数、各隠れ層におけるドロップアウト率(ニューロンの伝達をある一定の確率で遮断する)、各隠れ層における活性化関数および出力数が設定されるが、これに限定されない。また、ハイパーパラメータの最適化手法は特に限定されないが、パラメータを段階的に変更するグリッドサーチや、パラメータをランダムに選択するランダムサーチ、あるいはベイズ最適化による探索を用いることができる。
【0060】
なお、モデル生成部214dは演算装置210の一部として組み込まれているが、構成はこれに限定されない。例えば、アクチュエータ予測モデルを予め生成して保存しておき、それら適宜読み出しても構わない。
【0061】
図4に示すように、本実施形態におけるアクチュエータ予測モデルとしてのニューラルネットワークモデルは、入力側から順に、入力層501、中間層502および出力層503を備えている。
【0062】
図3で作成された多次元配列情報は、学習用データ取得部214aによって畳み込みニューラルネットワークを用いて特徴量を残した状態で次元圧縮され、一次元情報となった状態で入力層501に格納される。
【0063】
中間層502は複数の隠れ層で構成され、各々の隠れ層には複数のニューロンが配置されている。中間層502内に構成される隠れ層の数や各隠れ層に配置されるニューロンの数は特に限定されない。中間層502では、あるニューロンから続く隠れ層へのニューロンの伝達は、重み係数による変数の重み付けとともに、活性化関数を介して行われる。活性化関数には、シグモイト関数やハイパボリックタンジェント関数、あるいはランプ関数等の既知の関数を用いることができる。
【0064】
出力層503は、中間層502により伝達されたニューロンの情報が結合され、最終的なアクチュエータ量(アクチュエータ情報)として出力される。出力層503内に構成される出力数は特に限定されない。この出力された結果と、過去の鋼板Sの冷間圧延前における3次元鋼板情報とその時のアクチュエータ実績(ステアリングロール4のシリンダ量および第1圧延スタンドの圧下位置)とに基づき、ニューラルネットワークモデル内の重み係数が徐々に最適化されることにより、学習が行われる。
【0065】
ニューラルネットワークモデルの重み係数が学習された後、モデル生成部214dは、評価用データ(アクチュエータ予測モデルを用いた圧延対象となる鋼板Sの3次元鋼板情報)を、この重み係数が学習されたニューラルネットワークモデルに入力する。これにより、モデル生成部214dは、評価用データに対する推定結果を得る。
【0066】
図2に戻る。結果保存部214eは、学習用データ、評価用データ、ニューラルネットワークモデルのパラメータ(重み係数)を、記憶装置230に記憶させる。また、結果保存部214eは、学習用データに対するニューラルネットワークモデルの出力結果、評価用データに対するニューラルネットワークモデルの出力結果を、記憶装置230に記憶させる。
【0067】
予測モデル実行部215は、鋼板Sの冷間圧延前に、予測モデル生成部214で生成されたアクチュエータ予測モデルを用いて圧延対象の鋼板Sの3次元鋼板情報に対応するアクチュエータ位置を予測する。そして、予測モデル実行部215は、圧延対象の鋼板Sにおけるアクチュエータ位置を決定する。
【0068】
上記処理を行うため、予測モデル実行部215は、情報読取部215a、第2データ変換部215b、アクチュエータ予測部215c、アクチュエータ決定部215dおよび結果出力部215eを備えている。ここで、予測モデル実行部215は、入力装置220を介して圧延制御装置100から冷間圧延が実施されていることを知らせる信号を受けたときに、ROM212に記憶されている予測モデル実行プログラム212bを実行する。これにより、予測モデル実行部215は、情報読取部215a、第2データ変換部215b、アクチュエータ予測部215c、アクチュエータ決定部215dおよび結果出力部215eとして機能する。
【0069】
情報読取部215aは、記憶装置230から、操業監視装置400にてプロセスコンピュータならびにオペレータによって設定された圧延対象の鋼板Sの圧延条件を読み込む。
【0070】
第2データ変換部215bは、アクチュエータ予測モデルへの入力データとなる多次元配列情報を、一次元情報に畳み込む処理を行う。第2データ変換部215bの処理は、第1データ変換部214cの処理と同じであるため、処理の詳細な説明は省略する。また、第1データ変換部214cおよび第2データ変換部215bを、一つの処理部としてサブルーチン化してもよい。
【0071】
アクチュエータ予測部215cは、第2データ変換部215bで畳み込まれた後の一次元情報をアクチュエータ予測モデルに入力して、圧延対象の鋼板Sにおけるアクチュエータ量(ステアリングロール4のシリンダ量および第1圧延スタンドの圧下位置)を予測する。すなわち、アクチュエータ予測部215cは、冷間圧延機1の入側における鋼板Sの板道外を含む3次元鋼板情報から生成した第2多次元データをアクチュエータ予測モデルに入力する。これにより、ステアリングロール4の制御量および冷間圧延機1の圧下位置の少なくとも一方を推定する。
【0072】
アクチュエータ決定部215dは、予測した鋼板Sのアクチュエータ量が、別途設定されている設備制約閾値以内であるかどうかを判定する処理を行う。
【0073】
結果出力部215eは、予測した鋼板Sのアクチュエータ量が、予め設定した設備制約閾値以内の場合に作動する。そして、結果出力部215eは、決定した圧延対象の鋼板Sの3次元鋼板形状(3次元鋼板情報)に対する操業条件(形状制御アクチュエータ量)を出力し、フィードフォワード制御する。
【0074】
次に、
図6を参照して、予測モデル実行部215の処理について説明する。
【0075】
図6は、予測モデル実行部215の処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示すように、アクチュエータ予測モデルを実行する際は、まず、情報読取部215aが、ステップS11の処理として、圧延対象の鋼板Sの要求特性に対応するアクチュエータ予測モデルとしてのニューラルネットワークモデルを記憶装置230から読み込む。
【0076】
次に、情報読取部215aが、ステップS12の処理として、上位計算機から入力装置220を介して記憶装置230に記憶されている要求される設備制約閾値を読み込む。次に、情報読取部215aは、ステップS13の処理として、上位計算機から入力装置220を介して、記憶装置230に記憶されている圧延対象の鋼板Sの3次元鋼板形状を読み込む。
【0077】
次に、アクチュエータ予測部215cが、ステップS14の処理として、ステップS11の処理で読み込まれたアクチュエータ予測モデルとしてのニューラルネットワークモデルを用いて、アクチュエータ量を予測する。ステップS14の処理では、具体的には、ニューラルネットワークモデルを用いて、ステップS13の処理で読み込まれた圧延対象の鋼板Sの3次元鋼板形状を多次元配列化した入力実績データに対応する、冷間圧延中の鋼板Sに対するアクチュエータ量を求める。なお、ニューラルネットワークモデルによる予測結果は、
図4に示したニューラルネットワークモデルの出力層503に出力される。
【0078】
そして、予測されたアクチュエータ量が、設備制約閾値以内である場合は、結果出力部215eが、出力装置240を介して変更されたアクチュエータに関する情報を、圧延制御装置100へ伝送し、予測モデル実行部215は一連の処理を終了する。
【0079】
以上のように、本実施形態では、予測モデル生成部214が、過去の鋼板Sの圧延入側における板道外を含む3次元鋼板形状実績とその3次元鋼板形状実績に対応する過去のアクチュエータ量とを結び付ける機械学習手法によるアクチュエータ予測モデルを生成する。
【0080】
また、予測モデル実行部215は、鋼板Sの冷間圧延中に、生成されたアクチュエータ予測モデルにより圧延対象の鋼板Sの3次元鋼板形状を求める。そして、予測モデル実行部215は、求められた3次元鋼板形状に対するアクチュエータ予測結果が、設備制約閾値以内であった場合に、圧延対象の鋼板Sの3次元鋼板形状に対するアクチュエータ量を決定する。これにより、オペレータの経験や主観によらない、圧延操業における各種制約を満たす形状制御が実施され、冷間圧延中の形状不良や破断等のトラブルの発生を抑制しながら生産性を維持できる。
【0081】
更に、本実施形態では、冷間圧延中の鋼板Sのアクチュエータに用いる説明変数として、板道外を含む3次元鋼板形状実績より採取される数値情報を連結し多次元配列情報を入力データとして使用する。このため、コイル接合部近傍におけるコイル長手方向の曲がりや形状不良部を考慮しながら、冷間圧延中の形状不良に対して寄与の大きい因子をニューラルネットワークモデル上で識別することができる。
【0082】
〔冷間圧延方法〕
本発明の一実施形態である冷間圧延方法では、上記の圧延条件設定方法を用いて変更された冷間圧延機1の目標圧延条件を用いて、鋼板Sを冷間圧延する。これにより、高負荷、かつ圧延前板厚の薄い難圧延材を冷間圧延する際にも冷間圧延の安定性を確保しつつ生産性よく冷間圧延することができる。
【0083】
〔鋼板の製造方法〕
本発明の一実施形態である鋼板の製造方法では、上記の冷間圧延方法を用いて鋼板Sを製造する。これにより、鋼板Sを歩留まりよく製造することができる。
【0084】
〔変形例〕
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。例えば、本実施形態では、アクチュエータ予測モデルによる鋼板Sのアクチュエータ条件の決定をコイル全長にわたって行うこととしたが、一部で行うこととしてもよい。また、冷間圧延機1としては、4段式に限定されず、2段式(2Hi)や6段式(6Hi)等の多重圧延機であってもよく、圧延スタンドの数にも特に限定はない。また、クラスター圧延機やゼンジミア圧延機であってもよい。
【0085】
また、演算ユニット200によって、変更上下限界値を超える異常な制御量が算出される場合や制御量が算出できない場合に、圧延制御装置100は、演算ユニット200からの指令に基づく制御を実行できない。そこで、圧延制御装置100は、演算ユニット200からの制御量が異常と判定したり、演算ユニット200から制御量が供給されなかったりした場合等には、本実施を行わないようにするとよい。また、鋼板3次元情報測定装置300からの測定結果が過去学習範囲を超えているような場合は、破断トラブルを防止するため、圧延ロールを解放して、減速して通板できるようにしてもよい。
【0086】
また、本実施形態において、鋼板3次元情報測定装置300の設置位置はステアリングロール4の上流側となっているが、下流側に設置してもよい。この場合、目的変数は、冷間圧延機1の圧下位置のみとなる。また、第1圧延スタンド出側形状計による圧下位置のフィードバック制御が十分に機能している場合は、目的変数をステアリングロール4のシリンダ量のみとしてもよい。
【0087】
また、冷間圧延機1の圧延スタンド間に設置された形状計によるフォードバック制御が実施されている場合は、本発明との制御ハンチングが発生する場合がある。そこで、圧延制御装置100は、演算ユニット200からの制御量が過剰とならないように、ゲインを調整できる機構にするとよい。
【0088】
また、
図2に示す構成例では、出力装置240と操業監視装置400は接続されていないが、両者は通信可能に接続されていてもよい。これにより、予測モデル実行部215の処理結果(特にアクチュエータ予測部215cによる圧延中の鋼板Sの形状予測情報およびアクチュエータ決定部215dにより決定された変更後の圧延条件)を、操業監視装置400の運転画面に表示することができる。
【0089】
また、
図2に示す構成例では、予測モデルの作成および実行が同一の演算装置210内で行われ、バス250を介して圧延制御装置100、鋼板3次元情報測定装置300および操業監視装置400と接続されているが、この構成には限定されない。例えば、予測モデルの作成を、演算装置210以外の装置によって行い、作成した予測モデルをROM212に記憶させ、予測モデル実行部215で実行させてもよい。
【実施例0090】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0091】
図1に示す実施形態の全5圧延スタンドからなる冷間タンデム圧延機を用い、母材厚2.0~2.6mm、板幅1000mmの2.5~3.0mass%Siを含有する電磁鋼板用の素材鋼板を圧延材として仕上げ厚0.300mmまで冷間圧延する実験を行った。事前学習として、まず、学習用データ(3000件程度の過去の鋼板の圧延実績データ)を用いてニューラルネットワークモデルによる学習を実施した。これにより、過去の圧延前鋼板の3次元形状実績と過去のアクチュエータ実績とを結び付け、アクチュエータの予測に用いるニューラルネットワークモデルを作成した。
【0092】
発明例では、過去の鋼板の圧延前実績データとして、3Dスキャナーによって板道外を含む3次元鋼板形状が測定され、多次元配列情報の形で入力実績データとした。過去のアクチュエータ情報として、3次元鋼板形状測定装置以降に設置されたステアリングロールのシリンダ位置や第1圧延スタンドでの圧下位置実績が学習された。冷間タンデム圧延機入側にて先行鋼帯と後行鋼帯が接合された後、圧延制御装置100がオンとなった段階で、生成されたニューラルネットワークモデルによる冷間圧延中のアクチュエータ量を予測した。
【0093】
比較例でも発明例と同様に、母材厚2.0~2.6mm、板幅1000mmの2.5~3.0mass%Siを含有する電磁鋼板用の素材鋼板を圧延材として仕上げ厚0.300mmまで冷間圧延する実験を行った。比較例では、過去の鋼板の圧延前実績データとして、レーザー変位計を鋼板幅方向に複数個配置し、板道のみの鋼板変位とアクチュエータ量を結び付け、アクチュエータの予測に用いるニューラルネットワークモデルを生成した。
【0094】
発明例および比較例の100コイル圧延後の鋼板の破断発生数を表1に示す。表1に示すように、比較例では、コイルの曲がりに対して十分な学習がなされなかった。このため、コイル接合部近傍で曲がりが大きく変動した際にアクチュエータの操作量が追い付かず、コイルが冷間圧延機のミルセンタを逸脱し、片伸びあるいはエッジ過張力による破断トラブルが発生した。
【0095】
【0096】
以上のことから、本発明に係る冷間圧延方法および冷間圧延機を用いて、鋼板の圧延前の形状を適切に予測し、続くアクチュエータの操作を適切に制御することが好ましいことが確認された。また、これにより、本発明を適用することにより、冷間圧延中の形状不良や板破断等のトラブルの発生を抑制できるだけでなく、圧延工程や次工程以降の生産性の向上や品質の向上に大いに寄与できることが確認された。
【0097】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は、全て本発明の範疇に含まれる。