IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立パワーソリューションズの特許一覧

特開2024-132561浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法
<>
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図1
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図2
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図3
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図4
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図5
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図6
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図7
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図8
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図9
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図10
  • 特開-浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132561
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   E03F 1/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
E03F1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043375
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 悟史
(72)【発明者】
【氏名】楠田 尚史
【テーマコード(参考)】
2D063
【Fターム(参考)】
2D063AA07
(57)【要約】
【課題】浸水シミュレーションにおいて、排水区及び排水機場をモデルとして簡便に組み込む。
【解決手段】本発明の浸水シミュレーション装置は、地表上において隣接する複数の区画を含む1つの排水区を設定し、前記設定した1つの排水区に対して複数の排水機場を設定し、前記設定した複数の排水機場のそれぞれに排水量を分配する分配ルールを設定する条件設定部と、前記設定した1つの排水区の排水量を排水機場ごとに算出する浸水シミュレーション部と、を備えること、を特徴とする。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表上において隣接する複数の区画を含む1つの排水区を設定し、
前記設定した1つの排水区に対して複数の排水機場を設定し、
前記設定した複数の排水機場のそれぞれに排水量を分配する分配ルールを設定する条件設定部と、
前記設定した1つの排水区の排水量を排水機場ごとに算出する浸水シミュレーション部と、
を備えること、
を特徴とする浸水シミュレーション装置。
【請求項2】
前記条件設定部は、
前記設定した複数の排水機場のうち、前記設定した1つの排水区の水を排水する河川の下流に位置する排水機場に、より多くの排水量を分配すること、
を特徴とする請求項1に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項3】
前記条件設定部は、
前記設定した複数の排水機場のうち、排水能力が大きい排水機場に、より多くの排水量を分配すること、
を特徴とする請求項1に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項4】
前記浸水シミュレーション部は、
前記設定した1つの排水区の浸水深を、区画ごとに時系列で表示すること、
を特徴とする請求項2又は3に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項5】
前記条件設定部は、
ユーザによる入力に基づき、前記1つの排水区を設定するとともに前記複数の排水機場を設定すること、
を特徴とする請求項2又は3に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項6】
浸水シミュレーション装置の条件設定部は、
地表上において隣接する複数の区画を含む1つの排水区を設定し、
前記設定した1つの排水区に対して複数の排水機場を設定し、
前記設定した複数の排水機場のそれぞれに排水量を分配する分配ルールを設定し、
前記浸水シミュレーション装置の浸水シミュレーション部は、
前記設定した1つの排水区の排水量を排水機場ごとに算出すること、
を特徴とする浸水シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸水シミュレーション装置及び浸水シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水機場は、市街地又は農地にある水を河川に排水する施設である。排水元の水位が排水先の河川の水位よりも高い場合、排水元と排水先との間にあるゲートを開けることで自然に排水がなされる。一方、排水元の水位が排水先の河川の水位よりも低い場合、ゲートを閉じ、排水ポンプにより強制的に排水がなされる。排水機場は、水害を未然に防ぎ、又は、被害を軽減するための施設である。
【0003】
排水機場は、水害に大きな影響を持つ重要な施設であるため、浸水シミュレーションにおいて排水機場をモデルとして組み込むことが重要である。また、実務においては、シミュレーションの精度の高さに加え、シミュレーションの設定の簡便さが求められる。
【0004】
特許文献1の浸水リスク診断装置の目的は、診断対象地域の浸水リスクの診断において、リアルタイムで浸水リスクを診断すること、及び、ユーザにとって分かりやすい診断結果を提供することである。
【0005】
特許文献1は、その解決手段として、“浸水リスク診断装置は、パラメータ生成部と、解析モデル構築部と、流出解析部と、浸水解析部と、を持つ。パラメータ生成部は、流量計算表に基づいて診断対象地域の浸水リスクの診断するための解析モデルの構築に必要なパラメータを生成する。解析モデル構築部は、流量計算表及び前記パラメータに基づいて解析モデルを構築する。流出解析部は、解析モデルに基づいて各小排水区における管路ごとの流量を算出する。浸水解析部は各小排水区における管路ごとの流量に基づいて小排水区の浸水リスクの指標となる管路ごとの満管率を算出する。”と記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-194344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、排水区ごとに流入線番号、線番号、面積、流出係数、流達時間、延長及び断面の各項目が設定された流量計算表を作成する必要がある(図2)。また、排水区を設定するには、その排水区に属する区画を特定する必要がある(図3)。
【0008】
排水区の設定は、設定するべき排水区の数が増えるほど煩雑になる。なぜなら、実際の排水区は、地表上に重複なく、かつ、隙間なく存在しており、シミュレーションにおいても、ユーザはそのように排水区を設定する必要があるからである。さらに、多くの排水区のそれぞれに対して排水機場を設定するのも煩雑である。
本発明が解決しようとする課題は、浸水シミュレーションにおいて、排水区及び排水機場をモデルとして簡便に組み込むことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の浸水シミュレーション装置は、地表上において隣接する複数の区画を含む1つの排水区を設定し、前記設定した1つの排水区に対して複数の排水機場を設定し、前記設定した複数の排水機場のそれぞれに排水量を分配する分配ルールを設定する条件設定部と、前記設定した1つの排水区の排水量を排水機場ごとに算出する浸水シミュレーション部と、を備えること、を特徴とする。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、浸水シミュレーションにおいて、排水区及び排水機場をモデルとして簡便に組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来技術における排水区の設定例を説明する図である。
図2】本実施形態における排水区の設定例を説明する図である。
図3】本実施形態の浸水シミュレーション装置の構成を示す図である。
図4】氾濫モデルデータの構造を示す図である。
図5】河川モデルデータの構造を示す図である。
図6】排水機場モデルデータの構造を示す図である。
図7】処理手順のフローチャートである。
図8】ステップS505の処理の詳細を示すフローチャートである。
図9】浸水シミュレーション部が備えるGUIである。
図10】シミュレーション実行中のGUIである。
図11】処理手順のシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(用語)
区画とは、雨水等(以降、単に“水”とも呼ぶ)が降り注ぐ地表上の仮想的な管理単位である。区画は、例えば25m×25mの正方形である。地表は、重複なくかつ隙間なく複数の区画に分割される。
排水区とは、隣接した複数の区画の集合である。水は、排水区ごとに同時に河川に排水される。地表は、重複なくかつ隙間なく複数の排水区に分割される。ある排水区と他の排水区との境界線は、地形、交通路、下水配管の配置、地表の構造物、植物相、土地の用途等に基づいて決定される。
【0013】
排水機場とは、排水区に貯まった水を河川に排水する設備(排水機、ポンプ)を備える施設である。なお、例えば“排水機場A”に水が集められる排水区を、“排水区A”と呼ぶことがある。
セルとは、シミュレーション上使用される仮想的な平面の一部である。本実施形態は、地表をセルに擬制(モデル化)するとともに、河川の垂直断面もセルに擬制する。つまり、セルは、前記した区画、又は、河川の垂直断面を意味する。
【0014】
(従来技術)
図1は、従来技術における排水区の設定例を説明する図である。排水機場A12及び排水機場B13が存在し、それらは、水を河川11に排水する。河川11は、図1の右上から左下へ流れている。排水区A(右上がりの斜線でハッチング)は、複数の区画を有し、そのなかに区画14が含まれる。排水区B(疎らな点でハッチング)は、複数の区画を有し、そのなかに区画15が含まれる。
【0015】
ここで、浸水シミュレーション装置のユーザが、本来排水区Aに含まれる区画16を、排水区Bにも含まれるように誤って設定したとする。この場合、シミュレーション上、区画16に降った雨水が排水区A及び排水区Bから重複して河川11に排水されることになる。これにより、排水区Bの降雨量は、実際よりも過大に計上されてしまう。さらに、排水機場Aだけでなく本来関係しないはずの排水機場Bからも、区画16の水が河川11に排水されるため、区画16の浸水被害は、過小に評価されてしまう。
【0016】
一方、ユーザが、本来排水区Aに含まれる別の区画17を、どの排水区にも含まれないと誤って設定したとする。この場合、シミュレーション上、区画17に降った雨水は、無視され排水されない。これにより、排水区A及び排水区Bの降雨量は、実際よりも過小に計上されてしまう。さらに、本来関係しているはずの排水機場Aによって区画17の水が排水されないため、区画17の浸水被害は、過大に評価されてしまう。
【0017】
以降、本発明を実施するための形態(“本実施形態”という)を、図等を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本実施形態は、従来複数存在していた複数の排水区をまとめて1つの排水区とし、その1つの排水区に対し複数の排水機場を設定することができる。これにより、排水区の数を減らすことができるため、排水区の設定の手間を省くことができる。また、排水区の数が減ることで、排水区の設定の誤りを減らすことができる。
【0019】
さらに、本実施形態は、1つの排水区に対し複数の排水機場を設定する。しかしながら、1つの排水機場に対応する排水区は、本来1つである。その意味で、本実施形態は、現実に完全には即していないといえる。そうであるにもかかわらず、本実施形態は、高精度かつ自然なシミュレーションを提供する。
【0020】
図2は、本実施形態における排水区の設定例を説明する図である。本実施形態は、例えば、排水区A(図1)及び排水区B(図1)を含む排水区C21(右下がりの斜線でハッチング)を新たに設定する。本実施形態では、排水区C21の排水能力は、排水区Aの排水能力と排水区Bの排水能力との合計値となる。そのため、排水区C21の排水能力が過大に計上されることはない。
【0021】
排水区C21にある水が、単位時間当たりの排水能力に対しシミュレーションの時間ステップ幅を乗算した値よりも少ない場合、排水区C21内にある水の量は0となり、排水機場の優先度が高い順に、水が排水機場に分配される。本実施形態では、排水区C21内にある水の量が0未満になることはない。自然界において水の量が0未満になることはなく、シミュレーションにおいても同様の結果になるべきであるからである。
【0022】
一般に、排水区内の水は、河川の下流方向に流れ下っていくと考えられる。そのため、排水機場が水を排水する先である河川の位置が上流にあるほど、その排水機場の優先度が低く、下流にあるほど優先度が高くなるように設定することで、モデルの挙動が現実と整合することが期待される。図2の場合、下流に位置する排水機場A12の優先度の方が、上流に位置する排水機場B13の優先度よりも高くなる。
【0023】
また、一般に、ポンプ排水能力が大きいほど実際の排水量が多くなると考えられる。そのため、排水機場のポンプ排水能力が大きいほど優先度が高く、小さいほど優先度が低くなるように設定することで、モデルの挙動が現実と整合することが期待される。さらに、前記の基準を組み合わせた指標をもとに、優先度が設定されてもよい。
【0024】
図3は、本実施形態の浸水シミュレーション装置100の構成を示す図である。浸水シミュレーション装置100は、一般的なコンピュータであり、例えば、パーソナルコンピュータである。浸水シミュレーション装置100は、入出力部110、主記憶装置120、中央制御装置130及び補助記憶装置140を備える。入出力部110は、キーボード111、マウス112等からなる入力装置、及び、ディスプレイ113等からなる出力装置によって構成される。ユーザは、キーボード111及びマウス112に命令を入力し、ディスプレイ113から結果を視認することができる。
【0025】
中央制御装置130は、プログラムである浸水シミュレーション部121及び条件設定部122を補助記憶装置140から読み出し、これらを主記憶装置120に展開する。中央制御装置130は、これらのプログラムの命令に従い、様々な計算、入出力部110からの信号の受付、入出力部110への信号の出力、補助記憶装置140への保存、補助記憶装置140からの読み出し等を行う。つまり、浸水シミュレーション部121及び条件設定部122が実行する処理は、実際には、これらのプログラムに記述された命令に従う中央制御装置130によって実行される。補助記憶装置140は、氾濫モデルデータ141、河川モデルデータ142、排水機場モデルデータ143及び地図データ144を格納する。
【0026】
図4は、氾濫モデルデータ141の構造を示す図である。氾濫モデルデータ141の個数は、浸水シミュレーション部121が複数種類存在する場合、そのそれぞれにつき1個である。1つの氾濫モデルデータ141は、格子定義情報210及び複数のセルデータ220から構成される。
【0027】
格子定義情報210は、前記した複数の区画を示す2次元の格子に関する情報である。格子定義情報210は、格子南西端座標(経度)211、格子南西端座標(緯度)212、セルサイズ(X方向)213、セルサイズ(Y方向)214、セル数(X方向)215及びセル数(Y方向)216からなる。2次元の格子とは、地表を一定の間隔ごとに縦線及び横線でセル(区画)に分割したものである。
【0028】
例えば、図4は、東西方向をX軸(東向きが正)、南北方向をY軸(北向きを正)とし、格子南西端が東経135.0度、北緯35.0度にあり、セルサイズがX方向、Y方向ともに25mとなるように分割され、X方向にセルが600個、Y方向にセルが400個並ぶような格子の定義を示す。
【0029】
セルデータ220の個数は、セル(地表上の区画)の個数と同じである。セルの個数は、セル数(X方向)215にセル数(Y方向)216を乗算した数(24万個)である。セルデータ220は、セルID221、地盤高標高222、マニングの粗度係数223、水深時系列224、流速(X方向)時系列225及び流速(Y方向)時系列226からなる。セルID221は、セルごとに一意な値をとり、そのセルが格子南西端から何番目のセルであるかを示す。なお、“〇〇時系列”は、時刻及びその時刻における○○の値の組み合わせが、多数配列されていることを意味する。
【0030】
ユーザは、セルID221、地盤高標高222及びマニングの粗度係数223を、測量データ等に基づき予め作成しておき、補助記憶装置140に格納しておく。浸水シミュレーション部121は、シミュレーションの結果として、セルごとに水深時系列224、流速(X方向)時系列225及び流速(Y方向)時系列226を得る。
【0031】
図5は、河川モデルデータ142の構造を示す図である。河川モデルデータ142の個数は、浸水シミュレーション部121が対象とする河川の本数と同じである。1つの河川モデルデータ142は、格子定義情報310及び複数のセルデータ320から構成される。
【0032】
格子定義情報310は、前記した垂直断面を示す1次元の格子に関する情報である。格子定義情報310は、河川の名前311、距離標座標312及びセルの個数313からなる。距離標座標312は、距離標、左岸座標(経度)、左岸座標(緯度)、右岸座標(経度)及び右岸座標(緯度)の組み合わせが複数集合して構成されるデータである。距離標とは、河川の下流端を原点とし、原点から河川の左岸又は右岸に沿って測った距離である(下流から上流に向かう方向が正)。左岸・右岸とは、河川の上流を後ろ、下流を前にした際の左側・右側の岸である。セルの個数313は、下線の垂直断面の個数である。仮に距離標が0.5kmごとに200個設定されており、距離標のそれぞれを含むすべての垂直断面をセルとする場合、セルの個数313は、200となる。“1次元の格子”は、垂直断面のセルが河川の流れに沿って線状に並んでいることを意味する。
【0033】
セルデータ320の個数は、セル(河川の垂直断面)の個数313と同じである。セルデータ320は、セルID321、距離標322、横断面形状323、マニングの粗度係数324、水深時系列325及び流速時系列326からなる。セルID321は、セルごとに一意な値をとり、そのセルが最下流のセルから何番目のセルであるかを示す。横断面形状323は、河川の垂直断面の形状である。より詳しくは、いま仮に、左岸の距離標322の位置と右岸の距離標322の位置とを結ぶ線分をX軸(左岸から右岸に向かう方向を正)とし、垂直方向をY軸(上向きを正)とする座標平面で河川を切断する。横断面形状323は、その断面上に所定の間隔で水平に描画された複数の線分の端点のX座標およびY座標からなる。すべての端点を包絡する面が、実際の横断面形状となる。実際の横断面形状は、多くの場合、半円状、又は、三角形状を呈する。
【0034】
ユーザは、セルID321、距離標322、横断面形状323及びマニングの粗度係数324を、測量データ等に基づき予め作成しておき、補助記憶装置140に格納しておく。浸水シミュレーション部121は、シミュレーションの結果として、セルごとに水深時系列325及び流速時系列326を得る。
【0035】
図6は、排水機場モデルデータ143の構造を示す図である。排水機場モデルデータ143の個数は、浸水シミュレーション部121が対象とする排水機場の個数と同じである。排水機場モデルデータ143は、排水機場の名前401、優先度402、ポンプ排水能力403、河川の名前404、河川モデルデータのセルID405、氾濫モデルデータ141のセルID406及び排水量時系列407から構成される。
【0036】
ユーザ又は条件設定部122は、排水機場が水を排水する先である河川の位置が上流にあるほど優先度が低く、下流にあるほど優先度が高くなるように優先度402を設定する。上流・下流の区別は、河川モデルデータのセルID405によって特定される距離標322に基づいて判断され得る。ユーザ又は条件設定部122は、各排水機場のポンプ排水能力403が大きいほど優先度が高く、小さいほど優先度が低くなるように優先度402設定してもよい。ユーザ又は条件設定部122は、前記の基準を組み合わせた指標に基づいて、優先度を設定してもよい。なお、“ユーザ又は条件設定部122は”とは、ユーザが手動で設定してもよいし、ユーザの設定を待つまでもなく、条件設定部122が自動的に設定してもよいことを意味する。
【0037】
河川の名前404は、排水機場が水を排水する先である河川の名前311である。河川モデルデータのセルID405は、排水機場が水を排水する位置に相当するセル(河川の垂直断面)のセルID321である。氾濫モデルデータのセルID406は、排水区に含まれる氾濫モデルデータのセル(地表上の区画)のセルID221である。一般に、排水区は複数の区画を含むため、氾濫モデルデータのセルID406には、複数の値が格納される。
【0038】
ユーザは、排水機場の名前401、優先度402、ポンプ排水能力403、河川の名前404、河川モデルデータのセルID405及び氾濫モデルデータのセルID406を、測量データなどに基づき予め作成しておき、補助記憶装置140に格納しておく。浸水シミュレーション部121は、シミュレーションの結果として、排水機場ごとに排水量時系列407を得る。
【0039】
地図データ144(図3)は、河川の流域の地図である。ユーザ又は条件設定部122は、排水区に含まれる区画、排水機場の位置、排水区と排水機場との対応関係等を、地図データ144上で設定する。地図データ144は、区画を示す格子線を記載している。
【0040】
図7は、処理手順のフローチャートである。
【0041】
ステップS500aにおいて、条件設定部122は、排水区の設定を行う。具体的には、第1に、条件設定部122は、地図データ144をディスプレイ113に表示する。
第2に、条件設定部122は、ユーザがマウス112を使用して1つの排水区に含まれる複数の区画を設定する(ドラッグ等で範囲指定する)のを受け付ける。
【0042】
条件設定部122は、ユーザの設定を受け付けるまでもなく、1つの排水区に含まれる複数の区画を自動的に設定してもよい。この場合、条件設定部122は、例えば以下の基準に基づいて複数の区画を1つの排水区に関連付ける。
・1つの排水区の面積は、所定の閾値以上(又は以下)となる。
・1つの排水区が含む区画の地盤高標高の最大値と最小値との差分は、所定の閾値以上(又は以下)となる。
・1つの排水区は、市街地及び農地を同時に含まない。
・1つの排水区は、河川の左岸の区画及び右岸の区画を同時に含まない。
なお、図4には記載されていないが、氾濫モデルデータ141は、土地の用途(市街地、農地等)をセルごとに記憶しているものとする。
【0043】
第3に、条件設定部122は、ユーザ又は自身が設定した結果を、排水区及び複数の区画の組み合わせとして、補助記憶装置140に記憶する。
【0044】
ステップS500bにおいて、条件設定部122は、排水機場の設定を行う。具体的には、第1に、条件設定部122は、ユーザがマウス112を使用して、1つの排水区に対して複数の排水機場を設定する(排水区に接する河川の岸上の点をクリックする)のを受け付ける。
【0045】
条件設定部122は、ユーザの設定を受け付けるまでもなく、1つの排水区に接する河川の岸上に、複数の排水機場を自動的に設定してもよい。この場合、条件設定部122は、例えば以下の基準に基づいて、1つの排水区に対し複数の排水機場を設定する。
・ある排水機場の距離標と他の排水機場の距離標の差分は、所定の閾値以上(又は以下)である。
・排水機場は、河川の屈曲点に位置する(又は屈曲点を避ける)。
・排水機場の個数は、排水区の面積又は排水量に比例する。
・排水機場の個数は、所定の下限以上、所定の上限以下である。
【0046】
第2に、条件設定部122は、ユーザ又は自身が設定した結果を、排水区及び複数の排水機場の組み合わせとして、補助記憶装置140に記憶する。
【0047】
ステップS500cにおいて、条件設定部122は、分配ルールの設定を行う。分配ルールとは、1つの排水区の水を、複数の排水機場のうちのどれにどれだけ分配するかを決めるルールである。具体的には、第1に、条件設定部122は、1つの排水区に対して設定された複数の配水場の優先順位をユーザがマウス112で設定する(順番にクリックする)のを受け付ける。
【0048】
条件設定部122は、ユーザの設定を受け付けるまでもなく、例えば、排水機場が下流にあるほど、その優先度を高くなるように自動的に設定してもよい。さらに、条件設定部122は、排水機場のポンプ排水能力403(図6)が大きいほど、その優先度が高くなるように自動的に設定してもよい。すなわち、条件設定部122は、河川の下流に位置する排水機場に、より多くの排水量を分配してもよく、排水能力が大きい排水機場に、より多くの排水量を分配してもよい。
【0049】
第2に、条件設定部122は、ユーザ又は自身が設定した優先度を排水機場モデルデータ143に記憶する。
【0050】
ステップS501において、浸水シミュレーション部121は、以降のステップS502~ステップS509を、シミュレーションにおける現在時刻tが終了時刻Tになるまでtごとに繰り返す。浸水シミュレーション部121は、終了時刻Tを、ユーザから予め受け付けておく。
【0051】
ステップS502において、浸水シミュレーション部121は、氾濫モデルデータ141の流れ解析を行い、時刻を時間ステップ幅dtだけ進める。浸水シミュレーション部121は、時間ステップ幅dtをユーザから予め受け付けておく。浸水シミュレーション部121は、氾濫モデルデータの流れ解析として、2次元不定流計算を行ってもよい。これにより、浸水シミュレーション部121は、時刻“t+dt”におけるセル(地表上の区画)ごとに水深、流速(X方向)及び流速(Y方向)を算出する。
【0052】
ステップS503において、浸水シミュレーション部121は、河川モデルデータ142の流れ解析を行い、時刻を時間ステップ幅dtだけ進める。浸水シミュレーション部121は、河川モデルデータの流れ解析として、1次元不定流計算を行ってもよい。これにより、浸水シミュレーション部121は、時刻“t+dt”におけるセル(垂直断面)ごとに水深及び流速を算出する。河川モデルデータ142の個数が2以上である場合、このステップS503は、それぞれの河川モデルデータ142について実行される。
【0053】
ステップS504において、浸水シミュレーション部121は、優先度が高い順に並べられた排水機場のそれぞれについてステップS505及びステップS506を繰り返す。
【0054】
ステップS505において、浸水シミュレーション部121は、排水機場モデルデータ143の流れ解析を行い、時刻を時間ステップ幅dtだけ進める。浸水シミュレーション部121は、排水機場モデルデータの流れ解析として、各排水機場が排水区内の水を均等に排水するものとする。つまり、浸水シミュレーション部121は、排水機場と区画との間の距離に関係なく、各区画から集める排水量を均等に維持する。ステップS505の処理の詳細は、図8として後記する。この結果、浸水シミュレーション部121は、時刻tから時刻“t+dt”の間における排水機場の排水量QDを算出する。
【0055】
ステップS506において、浸水シミュレーション部121は、排水機場の排水量QDを河川モデルデータのセルIDが示すセルに加える。つまり、浸水シミュレーション部121は、排水量QDを時間ステップ幅dtで除した値を横流入として与える。
ステップS507において、浸水シミュレーション部121は、時刻tに時間ステップ幅dtを加える。
【0056】
ステップS508において、浸水シミュレーション部121は、シミュレーション結果として得られたデータを時系列データとして補助記憶装置140に保存する。
ステップS509において、浸水シミュレーション部121は、シミュレーション結果をディスプレイ113に表示する。
【0057】
図8は、ステップS505の処理の詳細を示すフローチャートである。
【0058】
ステップS601において、浸水シミュレーション部121は、氾濫モデルデータのセルID406が特定するセル、すなわち排水区内のセルのうち水深が0より大きいセルの数を数え、変数nに代入する。
【0059】
ステップS602において、浸水シミュレーション部121は、ポンプの排水能力Qを変数nで除し、その結果にdtを乗じ、さらにその結果を氾濫モデルデータのセルの面積Apで除することで、時刻が時間ステップ幅dtだけ進む間に排水区内のセルの水深が減る量hmを求める。なお、氾濫モデルデータのセルの面積Apは、セルサイズ(X方向)213にセルサイズ(Y方向)214を乗じた値である。
【0060】
ステップS603において、浸水シミュレーション部121は、排水機場の排水量QDを0に初期化する。
ステップS604において、浸水シミュレーション部121は、氾濫モデルデータのセルのそれぞれについて、以降のステップS605~ステップS607を繰り返す。
【0061】
ステップS605において、浸水シミュレーション部121は、水深h及び水深が減る量hmのうち小さい方をhmに代入する。
ステップS606において、浸水シミュレーション部121は、水深hからhmを減ずる。ステップS605の処理を行っているため、計算後の水深は必ず0以上になる。
【0062】
ステップS607において、浸水シミュレーション部121は、hmにdtを乗じ、その結果に氾濫モデルデータのセルの面積Apを乗じ、その結果を排水機場の排水量QDに加える。
【0063】
図9は、浸水シミュレーション部121が備えるGUI(Graphical User Interface)である。このGUIは、ディスプレイ113に表示され、キーボード111及びマウス112を介してユーザからの指示を受け付ける。ユーザは、このGUIを介して、氾濫モデルデータ141、河川モデルデータ142及び排水機場モデルデータ143の内容を確認する。また、必要に応じてこれらのデータを編集する。
【0064】
このGUIは、ウィンドウ700からなる。ウィンドウ700は、プロジェクト表示欄710、プロパティ表示欄720及び地図表示欄730から構成される。プロジェクト表示欄710には、シミュレーション対象のプロジェクトの概要が表示される。図9では、河川として河川X711が、排水機場として排水機場A712、排水機場B713及び排水機場C714が設定されている。これらの表示には、河川の名前311及び排水機場の名前401が使用される。
【0065】
プロパティ表示欄720は、ユーザが選択した項目のプロパティを表示する。図9では、排水機場A712が選択されており、このプロパティが表示される。プロパティとして、排水機場モデルデータ143が使用される。ユーザは、キーボード111及びマウス112等を使用し、プロパティのそれぞれの項目を編集してもよい。
【0066】
地図表示欄730は、地図データ144を表示する。ユーザは、キーボード111及びマウス112等を使用し、地図の表示範囲及び縮尺を入力してもよい。地図の表示範囲の変更は、マウス112のドラッグにより行われる。地図の縮尺の変更は、マウス112のホイールの回転により行われる。地図データ144には、北の向きを示すアイコン741及び縮尺の凡例742が表示される。図9では、河川X711が図形731として、排水機場A712がアイコン732として、排水機場B713がアイコン733として、排水機場C714がアイコン734として表示されている。また、すべての排水機場が1つの排水区735(右上がり斜線でハッチング)に対応している。この排水区735は、氾濫モデルデータの複数のセルから構成される。
【0067】
ユーザがこのGUIを視認してその内容に問題がないことを確認した場合、ユーザはシミュレーションを実行する旨の指示を浸水シミュレーション部121に対して出す。ユーザがメニュー701から“シミュレーション”を選択し、出現するサブメニュー(図示せず)の“シミュレーション開始”を選択すると、GUIは、図10の状態に遷移する。
【0068】
図10は、シミュレーション実行中のGUIである。浸水シミュレーション部121は、氾濫モデルデータのセルのそれぞれ(一例として符号836)を浸水深に応じたハッチングで塗りつぶす。ハッチングが示す浸水深は、凡例843により確認できる。この浸水深の値は、氾濫モデルデータ141の水深時系列224の値である。浸水シミュレーション部121は、画面に示される浸水深を、シミュレーションにおける現在時刻844が終了時刻Tになるまで逐次更新する。終了時刻Tになると、シミュレーションは終了する。
【0069】
図11は、処理手順のシーケンス図である。
ステップS901において、浸水シミュレーション部121は、氾濫モデルデータ141、河川モデルデータ142、排水機場モデルデータ143及び地図データ144を補助記憶装置140から読み出す。
【0070】
ステップS902において、浸水シミュレーション部121は、入出力部110のディスプレイ113にウィンドウ700を表示する。その表示に必要なデータはステップS901において読み出し済みである。
【0071】
ステップS903において、入出力部110は、シミュレーション開始の指示をユーザから受け付け、浸水シミュレーション部121に送る。これは、メニュー701(図9)に対しユーザが所定の操作をすることにより実現される。
【0072】
以下のステップS904~ステップS906は、シミュレーションにおける現在時刻tが終了時刻Tになるまでtごとに繰り返される。
【0073】
ステップS904において、浸水シミュレーション部121は、シミュレーションの処理を行う。この処理の詳細は、図7及び図8にて示した。
ステップS905において、浸水シミュレーション部121は、ステップS904の結果として、氾濫モデルデータ141、河川モデルデータ142、及び、排水機場モデルデータ143の時系列情報を更新し、補助記憶装置140に保存する。
ステップS906において、浸水シミュレーション部121は、シミュレーション結果を入出力部110に表示する。
【0074】
なお、本発明は前記した実施例(実施形態)に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0075】
11 河川
12、13 排水機場
14、15、16、17 区画
21 排水区
100 浸水シミュレーション装置
110 入出力部
111 キーボード
112 マウス
113 ディスプレイ
120 主記憶装置
121 浸水シミュレーション部
122 条件設定部
130 中央制御装置
140 補助記憶装置
141 氾濫モデルデータ
142 河川モデルデータ
143 排水機場モデルデータ
144 地図データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11