(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132562
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】車体前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B62D25/08 D ZHV
B62D25/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043378
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203AA31
3D203AA33
3D203BB12
3D203BB13
3D203BB15
3D203BB16
3D203BB17
3D203BB18
3D203BB35
3D203BB37
3D203BB38
3D203BB43
3D203BB44
3D203BB45
3D203BB54
3D203CA23
3D203CA24
3D203CA53
3D203CA54
3D203DA05
3D203DA72
3D203DB07
3D203DB09
(57)【要約】
【課題】複数の前面衝突形態においても、インバータ部の変形を防止する。
【解決手段】車両上側辺の車幅方向外側において、車両後方側に向かって突出している突出部PPが形成されているラジエータパネルフレーム部100と、車幅方向下部両側において車両前後方向に延在する一対のフロントサイドフレーム110と、ラジエータパネルフレーム部100の車幅方向外側下部とが結合されているサブフレーム120と、車両前部下側端部においてラジエータパネルフレーム部100の車幅方向外側下部と結合されている一対のアッパーフレームリインフォース140と、ラジエータパネルフレーム部100の突出部PPと、アッパーフレームリインフォース140の車両上部前側に結合されているラジエータパネルリインフォース150と、アッパーフレームリインフォース140とフロントサイドフレーム110とを結合する結合部材JPと、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が搭乗するキャビンの車両前側に設けられた車体前部構造であって、
車両前側において車幅方向に長辺を有し車両上下方向に短辺を有した長方形状に形成され、車両上側辺の車幅方向外側において、車両後方側に向かって突出している突出部が形成されているラジエータパネルフレーム部と、
車幅方向下部両側において車両前後方向に延在され、車両前側端部において前記ラジエータパネルフレーム部と結合されている一対のフロントサイドフレームと、
前記フロントサイドフレームの車幅方向下部外側において車両前後方向に延在し、車両前側端と、前記ラジエータパネルフレーム部の車幅方向外側下部とが結合されているサブフレームと、
車幅方向上方両側において、前記キャビンの車両前側から車両前側に向かって延在し、車両前側において車両前部下側に向かう傾斜部を有して屈曲し、車両前部下側端部において前記ラジエータパネルフレーム部の車幅方向外側下部と結合されている一対のアッパーフレームリインフォースと、
一方端側は、前記ラジエータパネルフレーム部の車両上側辺における前記突出部の車幅方向内側部に結合され、他方端側は、前記アッパーフレームリインフォースにおける前記傾斜部の車両上部前側に結合されているラジエータパネルリインフォースと、
前記アッパーフレームリインフォースが有する前記傾斜部において、前記アッパーフレームリインフォースと前記フロントサイドフレームとを結合する結合部材と、
を備えていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記結合部材は、車両前側から車幅方向外側に向けて折り曲げられたL字形状の平板であることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記結合部材は、前記アッパーフレームリインフォースと前記フロントサイドフレームとが交差する前記フロントサイドフレームの車幅方向外側面における車両上側稜線部と車両下側稜線部とに固定されていることを特徴とする請求項2に記載の車体前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の前面衝突においては、乗員の傷害を低減させる手段として乗員搭乗空間であるキャビンを変形させない事が有効であり、そのための様々な手段が設けられている。これらの手段のひとつとして、近年、キャビンよりも車両前側において衝突エネルギーを吸収する構造が普及している。
【0003】
車両の前面衝突においては、例えば、車両進行方向側全面が衝突体に衝突するフルラップ衝突、車両進行方向側片側が衝突体に衝突するオフセット衝突、あるいは車両進行方向側上側が衝突帯に衝突するアンダーライド衝突等、複数の衝突形態を考慮する必要がある。
【0004】
また、車両がハイブリッド車両や電気自動車等の場合には、電動モータを駆動するために、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部が車両前部に搭載されている場合がある。
インバータ部においては、車両の走行に必要な高電圧を生成させており、車両の前面衝突等によって変形や断線が発生した場合には、急激な異常反応が生じる虞もある。
そのため、それぞれの衝突形態において、車体前部構造において衝突エネルギーを吸収することによって、インバータ部を損傷させない構造が求められている。
【0005】
上述の要求に対して、フロントバンパリインフォースメントの長手方向の端部は、第1連結部材から第4連結部材を一体成形した連結体によってアッパメンバ、ラジエータサポートアッパ、フロントサイドメンバ、ラジエータサポートロアと連結されている。従って、長手方向の端部に衝突体が衝突するような微小ラップ衝突の場合に当該長手方向の端部を支えて衝突荷重をボディー側へ伝達し、エネルギー吸収する構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術においては、フルラップ衝突、あるいはアンダーライド衝突については考慮されておらず、車両の前面側からフルラップ衝突、あるいはアンダーライド衝突が発生した場合には、インバータ部に変形が発生する虞があるという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、複数の前面衝突形態においても、インバータ部の変形を防止する車体前部構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
形態1;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、乗員が搭乗するキャビンの車両前側に設けられた車体前部構造であって、車両前側において車幅方向に長辺を有し車両上下方向に短辺を有した長方形状に形成され、車両上側辺の車幅方向外側において、車両後方側に向かって突出している突出部が形成されているラジエータパネルフレームと、車幅方向下部両側において車両前後方向に延在され、車両前側端部において前記ラジエータパネルフレーム部と結合されている一対のフロントサイドフレームと、前記フロントサイドフレームの車幅方向下部外側において車両前後方向に延在し、車両前側端と、前記ラジエータパネルフレーム部の車幅方向外側下部とが結合されているサブフレームと、車幅方向上方両側において、前記キャビンの車両前側から車両前側に向かって延在し、車両前側において車両前部下側に向かう傾斜部を有して屈曲し、車両前部下側端部において前記ラジエータパネルフレームの車幅方向外側下部と結合されている一対のアッパーフレームリインフォースと、一方端側は、前記ラジエータパネルフレームの車両上側辺における前記突出部の車幅方向内側部に結合され、他方端側は、前記アッパーフレームリインフォースにおける前記傾斜部の車両上部前側に結合されているラジエータパネルリインフォースと、前記アッパーフレームリインフォースが有する前記傾斜部において、前記アッパーフレームリインフォースと前記フロントサイドフレームとを結合する結合部材と、を備えている車体前部構造を提案している。
【0010】
形態2;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、前記結合部材は、車両前側から車幅方向外側に向けて折り曲げられたL字形状の平板である車体前部構造を提案している。
【0011】
形態3;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、前記結合部材は、前記アッパーフレームリインフォースと前記フロントサイドフレームとが交差する前記フロントサイドフレームの車幅方向外側面における車両上側稜線部と車両下側稜線部とに固定されている車体前部構造を提案している。
【発明の効果】
【0012】
本発明の1またはそれ以上の実施形態によれば、複数の前面衝突形態においても、インバータ部の変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る車体前部構造を上方から見た斜視図である。
【
図2】
図1に示された車体前部構造において前輪およびストラットタワー部をはずした状態の概略図であり、(a)は車両上方から見た平面図であり、(b)は側面図であり、(c)は車両進行方向側から見た正面図である。
【
図3】車体前部構造に車両前側から衝突する衝突物を車両前側から見た概要図であり、(a)はフルラップ衝突時の衝突物を示し、(b)はスモールラップ衝突時の衝突物を示し、(c)はアンダーライド衝突時の衝突物を示している。
【
図4】発明の実施形態に係る車体前部構造におけるフルラップ衝突時の変形を上方から見た斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る車体前部構造におけるスモールラップ衝突時の変形を上方から見た斜視図である。
【
図6】発明の実施形態に係る車体前部構造におけるアンダーライド衝突時の変形を上方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1から
図6を用いて、本実施形態に係る車体前部構造Sが適用された車両Vについて説明する。なお、図面に適宜示される矢印FRは、
図1に示す車両Vの車両進行方向側を示し、矢印UPは車両Vの上方を示し、矢印LHは車両進行方向側から見て左方を示している。また、以下の説明において、上下、前後、左右の方向を用いて説明するときには、特に断りのない限り、車両進行方向側から見て上下方向、車両進行方向側を前としての前後方向、車両進行方向側から見て左右方向を示すものとする。
【0015】
<実施形態>
図1~
図6を用いて、車両Vに備えられた、本実施形態に係る車体前部構造Sの構成について説明する。
なお、車両Vは、電気自動車(EV:Electric Vehicle)あるいはハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)として説明する。
【0016】
<車両Vの構成>
車両Vは、例えば、パワーユニット部20を駆動源とした電気自動車である。なお、車両Vは、例えば、エンジンとパワーユニット部20との複数の駆動源を有するハイブリッド電気自動車であってもよい。
【0017】
車両Vには、乗員が搭乗する車室内としてのキャビンCAの車両前側に車両前部室FAが確保されている。
図1に示すように、車両前部室FAには、前輪10と、パワーユニット部20と、インバータ部30と、トーボード部40と、ストラットタワー部50と、トルクボックス部60と、サイドシル70と、車体前部構造S(
図1の二点鎖線で囲まれたドットハッチング部)と、を含んで構成されている。
【0018】
パワーユニット部20は、前輪10を駆動する図示しない車両駆動用モータ、変速機、クラッチ、駆動軸等が設けられた駆動装置である。パワーユニット部20は、後述するフロントサイドフレーム110、フロントクロスメンバ130、トーボード部40およびトルクボックス部60に囲まれた空間に設置され、フロントサイドフレーム110の上面側に載置された状態で固定されている。
【0019】
インバータ部30は、パワーユニット部20の車両上方側に載置固定されている。インバータ部30は、車両駆動用モータに供給する電圧を生成する。
インバータ部30は、パワーユニット部20へ供給する高電圧の出力が可能であり、パワーユニット部20の駆動に必要な電圧を生成する。
【0020】
パワーユニット部20およびインバータ部30は、頑強なフレームに囲まれた空間に設置されている。
パワーユニット部20およびインバータ部30の車両前側には、車体前部構造Sが設けられ、車幅方向外側には、ストラットタワー部50が設けられている。また、パワーユニット部20およびインバータ部30の車両後側には、トーボード部40、トルクボックス部60およびサイドシル70が設けられている。
【0021】
トーボード部40は、キャビンCAの車両前側の車両上下方向に立ち上げられ、車両前部室FAとキャビンCAとを隔てる隔壁である。トーボード部40は、トルクボックス部60の車両上側およびフロントサイドフレーム110の車両後方端部に溶接等によって結合されている。
【0022】
ストラットタワー部50は、サスペンションを取付ける車体側の支えであり、トーボード部40の車両前側に車幅方向両側に設けられている。ストラットタワー部50は、車幅方向上部外側から、車幅方向下部内側に向いた傾斜を成した骨格であり、高剛性を有する金属等によって形成されている。
ストラットタワー部50は、車両上部外側において、後述するアッパーフレームリインフォース140と結合され、車両下部内側において、フロントサイドフレーム110およびサブフレーム120と結合されている。
【0023】
トルクボックス部60は、後述するサブフレーム120と、サイドシル70と、の間に介在し、サブフレーム120とサイドシル70とを連結する部材である。
トルクボックス部60は、車両Vの底面に車幅方向に延在された骨格であり、トルクボックス部60には、左右それぞれのフロントサイドフレーム110の一端部が溶接等によって結合されている。トルクボックス部60は、高剛性を有する金属等によって形成され、略矩形閉断面形状を成している。
【0024】
サイドシル70は、トーボード部40の車両後側において、車幅方向両側の車両側方底面に設けられている。サイドシル70は、車両前後方向に延在された骨格であり、高剛性を有する金属等によって形成され、略矩形閉断面形状を成している。
【0025】
車体前部構造Sは、トーボード部40の車両前側における車両前部室FAの内部に設けられている。
以下、車体前部構造Sの構成について記述する。
【0026】
<車体前部構造Sの構成>
車体前部構造Sは、車幅方向において左右対称に構成されている。
車体前部構造Sは、
図2に示すように、ラジエータパネルフレーム部100と、フロントサイドフレーム110と、サブフレーム120と、フロントクロスメンバ130と、アッパーフレームリインフォース140と、ラジエータパネルリインフォース150と、を含んで構成されている。
【0027】
(ラジエータパネルフレーム部100について)
ラジエータパネルフレーム部100は、
図2のドットハッチングで示すように、車両前側面部において車幅方向および車両上下方向に広がる骨格を構成している。
ラジエータパネルフレーム部100は、
図2(c)に示すように、車両進行方向側から見て、金属等によって略矩形閉断面形状に形成されたフレームが、車幅方向に長辺を成し車両上下方向に短辺を成した略長方形状に結合されて構成されている。
ラジエータパネルフレーム部100における車両下側辺両端部は、ラジエータパネルフレーム部100の短辺側から車幅方向外側に向かって突出している。そして、その突出した車両下側辺両端部には、アッパーフレームリインフォース140が溶接等によって結合されている。また、アッパーフレームリインフォース140よりも車両内側における車両下側辺後部面には、サブフレーム120が溶接等によって結合されている。
また、ラジエータパネルフレーム部100における車両上側辺両端部は、ラジエータパネルフレーム部100の車両上側辺の車幅方向外側において、車両後方側に向かって突出している突出部PPが形成されている。突出部PPは、金属等によって強固な略矩形閉断面形状に形成されている。
【0028】
(フロントサイドフレーム110について)
フロントサイドフレーム110は、
図2(a)に示すように、パワーユニット部20の車幅方向下方両側において車両前後方向に延在され、車幅方向両側に一対となって設けられている。
フロントサイドフレーム110は、車両前側端においては、ラジエータパネルフレーム部100における車幅方向外側部と溶接等によって結合されている。フロントサイドフレーム110は、ラジエータパネルフレーム部100よりも車両前側に突出して設けられている。フロントサイドフレーム110の車両後方端部は、トーボード部40に溶接等によって結合されている。
また、フロントサイドフレーム110は、
図2(b)に示すように、アッパーフレームリインフォース140と交差する位置の車両前側において、アッパーフレームリインフォース140の車幅方向上側とフロントサイドフレーム110の車幅方向外側とが、結合部材JPによって結合されている。
フロントサイドフレーム110は、高剛性を有する金属等によって形成され略矩形閉断面形状を成している。
【0029】
(サブフレーム120について)
サブフレーム120は、
図2(b)に示すように、フロントサイドフレーム110の車幅方向下部外側において車幅方向両側に一対となって設けられ、車両前後方向に延在し、車両前側端においては、ラジエータパネルフレーム部100の車幅方向外側下部と結合されている。また、サブフレーム120の車両後方端部は、トルクボックス部60およびサイドシル70に溶接等によって結合されている。
サブフレーム120は、高剛性を有する金属等によって形成され略矩形閉断面形状を成している。
【0030】
(フロントクロスメンバ130)
フロントクロスメンバ130は、
図2(a)に示すように、インバータ部30の車両前側において車幅方向に延在し、車幅方向両端部においてフロントサイドフレーム110と溶接等によって強固に結合されている。
フロントクロスメンバ130は、金属等によって形成され、略矩形閉断面形状を成している。
【0031】
(アッパーフレームリインフォース140について)
アッパーフレームリインフォース140は、車幅方向上方両側において、キャビンCAの車両前側としてのトーボード部40の上部から車両前後方向に延在している。
アッパーフレームリインフォース140は、
図2(b)に示すように、フロントクロスメンバ130の車両前側において屈曲し、車両前部下側に向かう傾斜部TLを有している。
アッパーフレームリインフォース140は、ラジエータパネルフレーム部100よりも車両後側において、フロントサイドフレーム110と交差する位置の車両前側において、アッパーフレームリインフォース140における傾斜部TLの車両前側とフロントサイドフレーム110の車幅方向外側とが、結合部材JPによって固定されている。
また、アッパーフレームリインフォース140の車両前部下側端部は、ラジエータパネルフレーム部100において車幅方向外側に向かって突出している車両下側辺両端部の車両上面側に溶接等によって結合されている。
また、アッパーフレームリインフォース140の車両後側端は、トーボード部40およびストラットタワー部50の上部に溶接等によって結合されている。
アッパーフレームリインフォース140は、金属等によって形成され、略矩形閉断面形状を成している。
【0032】
(結合部材JPについて)
結合部材JP(結合部材JP1、JP2)は、
図2(b)に示すように、アッパーフレームリインフォース140が有する傾斜部TLにおいて、アッパーフレームリインフォース140とフロントサイドフレーム110とを固定している。
結合部材JPは、例えば、車両前側から車幅方向外側に向けて折り曲げられたL字形状の平板によって形成されている。結合部材JPは、金属等の平板であり、アッパーフレームリインフォース140の傾斜部TLにおける車両前側とフロントサイドフレーム110の車幅方向外側面とに当接する形状に屈曲されている。
結合部材JPには、フロントサイドフレーム110およびアッパーフレームリインフォース140と当接する面に、例えば、ボルト孔が板厚方向に貫通して設けられている。
また、結合部材JPは、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とが交差するフロントサイドフレーム110の車幅方向外側面における車両上側稜線部と車両下側稜線部とに固定されている。フロントサイドフレーム110の車両上側稜線部には、結合部材JP1がボルト等によって固定され、車両下側稜線部には、結合部材JP2がボルト等によって固定されている。
【0033】
(ラジエータパネルリインフォース150について)
ラジエータパネルリインフォース150は、ラジエータパネルフレーム部100の車幅方向上部外側を車両前後方向に延在している。
ラジエータパネルリインフォース150は、一方端側としての車両前側端部においては、ラジエータパネルフレーム部100の車両上側辺における突出部PPの車両後側車幅方向内側に溶接等によって結合され、他方端側としての車両後側端部においては、アッパーフレームリインフォース140における傾斜部TLの車両上部前側に溶接等によって結合されている。
ラジエータパネルリインフォース150は、
図2(a)に示すように、車両前側から車両後部外側へ向かう傾斜を成している。
ラジエータパネルリインフォース150は、金属等によって形成され、略矩形閉断面形状を成している。
【0034】
車体前部構造Sは、ラジエータパネルフレーム部100と、フロントサイドフレーム110と、サブフレーム120と、フロントクロスメンバ130と、アッパーフレームリインフォース140と、ラジエータパネルリインフォース150と、が結合されることによって、井桁形状を有する強固な骨格が形成されている。
さらに、車両前部室FAにおいて、車体前部構造Sと、トーボード部40と、ストラットタワー部50と、トルクボックス部60と、サイドシル70と、が結合されることによって、強固な車両前部室FAが構成されている。
【0035】
<作用・効果>
上記のように構成された本実施形態に係る車体前部構造Sにおいて、衝突物が車両進行方向側から衝突した場合の作用について説明する。
【0036】
図3(a)のハッチング部に示すように、衝突物FB1が車両進行方向側から衝突するフルラップ衝突の場合には、衝突物FB1は、車両前側に衝突する。
図3(b)のハッチング部に示すように、衝突物FB2が車両進行方向側から衝突するスモールオーバラップ衝突の場合には、衝突物FB2は、車両Vの左右どちらかの車両前部車幅方向外側に衝突する。
図3(c)のハッチング部に示すように、衝突物FB3が車両進行方向側から衝突するアンダーライド衝突の場合には、衝突物FB3は、車両上側に衝突する。
【0037】
(フルラップ衝突の場合)
図4に示すように、衝突物FB1が車両進行方向側から衝突するフルラップ衝突の場合には、衝突物FB1が車両Vの正面から衝突し、矢印Aに示す方向から衝突エネルギーが発生する。
【0038】
衝突物FB1による衝突エネルギーは、矢印B1~矢印B5に示すように、ラジエータパネルフレーム部100、フロントサイドフレーム110、サブフレーム120、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150を介して車両後側に向かって伝達される。
【0039】
フロントサイドフレーム110には、矢印B1に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、フロントサイドフレーム110の車両前側端部が衝突エネルギーによって圧壊され、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110における車両前側端部の変形によって吸収される。
また、フロントサイドフレーム110に伝達された矢印Eに示す衝突エネルギーは、矢印Gに示されるように、車両後側に結合されているトーボード部40に分散され吸収される。
【0040】
フルラップ衝突の場合には、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110を車両前側から車両後側に向かって移動させることによって、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140との間には、ズレが発生する。
フロントサイドフレーム110の上側稜線部および下側稜線部において、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140の傾斜部TLとは、結合部材JP(結合部材JP1、JP2)によって固定されている。結合部材JPは、車両前側から車幅方向外側に向けて折り曲げられたL字形状の平板によって形成されている。
そのため、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140との間にズレが発生することによって、結合部材JP1およびJP2における折り曲げ部に沿った破断がはじまる。
そして、結合部材JP1およびJP2が破断され、フロントサイドフレーム110がアッパーフレームリインフォース140と分離されることによって、フロントサイドフレーム110は、アッパーフレームリインフォース140の剛性の影響を受けなくなる。そして、フロントサイドフレーム110がフロントクロスメンバ130よりも車両前側において圧壊および変形することによって、衝突エネルギーは、吸収される。
【0041】
フロントサイドフレーム110における車両前側端部の圧壊とともに、フロントサイドフレーム110における車両後方側に向かう変形がすすむと、フロントサイドフレーム110に結合されているラジエータパネルフレーム部100には、矢印B2に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、ラジエータパネルフレーム部100は、矢印B2に示す衝突エネルギーに押されることによって、車両後側に向かってサブフレーム120、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150に矢印B3~矢印B5に示す衝突エネルギーが伝達される。
【0042】
サブフレーム120には、ラジエータパネルフレーム部100を介して矢印B3に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、サブフレーム120の車両前側端部が衝突エネルギーによって圧壊され、衝突エネルギーは、サブフレーム120における圧壊および変形によって吸収される。
また、サブフレーム120に伝達された矢印Kに示す衝突エネルギーは、矢印G、矢印Lおよび矢印Mに示すように、車両後側に結合されているトーボード部40、トルクボックス部60およびサイドシル70に分散され吸収される。
【0043】
アッパーフレームリインフォース140には、ラジエータパネルフレーム部100を介して矢印B4に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。また、傾斜部TLの車両上側におけるラジエータパネルリインフォース150との結合部には、矢印B4および矢印B5に示す衝突エネルギーが伝達される。
そして、アッパーフレームリインフォース140に伝達された矢印Fに示す衝突エネルギーは、矢印Gおよび矢印Hに示されるように、車両後側に結合されているトーボード部40およびストラットタワー部50に分散され吸収される。
【0044】
ラジエータパネルリインフォース150には、ラジエータパネルフレーム部100を介して矢印B5に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、衝突エネルギーは、ラジエータパネルリインフォース150の圧壊および変形によって吸収される。
ラジエータパネルリインフォース150は、車両前側から車両後部外側へ向かう傾斜を成しているため、衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140を矢印Cに示すように車幅方向外側に向かって変形させる。
また、ラジエータパネルリインフォース150に伝達された矢印B5に示す衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140に伝達され、アッパーフレームリインフォース140を介して分散され吸収される。
【0045】
衝突エネルギーの入力が終了することによって、車体前部構造Sの変形による衝突エネルギーの吸収は終了する。
【0046】
以上のように、衝突物FB1による衝突エネルギーは、ラジエータパネルフレーム部100、フロントサイドフレーム110、サブフレーム120、フロントクロスメンバ130、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150によって構成されている車体前部構造Sが圧壊および変形することによって吸収される。
また、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とを固定している結合部材JPが変形あるいは破断することによって、フロントサイドフレーム110はアッパーフレームリインフォース140の剛性の影響を受けなくなる。そして、フロントサイドフレーム110がフロントクロスメンバ130よりも車両前側において変形および圧壊することによって、衝突エネルギーは、吸収される。
さらに、衝突物FB1による衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110、フロントクロスメンバ130、トーボード部40、ストラットタワー部50、トルクボックス部60およびサイドシル70によって構成されている車両前部室FAにおいて分散され吸収される。
したがって、車幅方向両側において車両前後方向に延在しているフロントサイドフレーム110、サブフレーム120およびアッパーフレームリインフォース140における車幅方向内側、かつ、フロントクロスメンバ130の車両後側に配設されているインバータ部30は変形しない。
【0047】
(スモールラップ衝突の場合)
図5に示すように、スモールオーバラップ衝突の場合には、衝突物FB2は、車両Vの左右どちらかの車両前部外側に衝突し、矢印SAに示す方向から衝突エネルギーが発生する。
以下、車両Vの車両進行方向側から見て右側に衝突した場合を説明する。
【0048】
衝突物FB2による衝突エネルギーは、矢印SB1~矢印SB5に示すように、ラジエータパネルフレーム部100、フロントサイドフレーム110、サブフレーム120、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150を介して車両後側に向かって伝達される。
【0049】
フロントサイドフレーム110には、矢印SB1に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、フロントサイドフレーム110の車両前側端部が衝突エネルギーによって圧壊され、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110における車両前側端部の変形によって吸収される。
また、フロントサイドフレーム110に伝達された矢印SEに示す衝突エネルギーは、矢印SGに示されるように、車両後側に結合されているトーボード部40に分散され吸収される。
【0050】
フロントサイドフレーム110における車両前側端部の圧壊とともに、フロントサイドフレーム110における車両後方側に向かう変形がすすむと、フロントサイドフレーム110に結合されているラジエータパネルフレーム部100には、矢印SB2に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、ラジエータパネルフレーム部100は、矢印SB2に示す衝突エネルギーに押されることによって、車両後側に向かってサブフレーム120、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150に矢印SB3~矢印SB5に示す衝突エネルギーが伝達される。
【0051】
このとき、衝突が発生していない側におけるラジエータパネルフレーム部100およびフロントクロスメンバ130から、矢印RF1~RF3に示す反力が発生する。換言すると、衝突が発生している側におけるラジエータパネルフレーム部100およびフロントクロスメンバ130は、衝突が発生していない側としての車幅方向内側に向かって引っ張られる。
衝突が発生している側におけるラジエータパネルフレーム部100およびフロントクロスメンバ130に伝達された衝突エネルギーは、ラジエータパネルフレーム部100およびフロントクロスメンバ130を介して伝達される反力に相殺されることによって吸収される。
【0052】
また、フロントクロスメンバ130において発生する矢印RF1に示す車幅方向内側に向かう反力は、フロントサイドフレーム110に車幅方向内側に向かう回転運動を発生させる。
このとき、フロントサイドフレーム110が車幅方向内側に向かうことによって、結合部材JPは、破断せずにフロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とを固定した状態を保つ。そのため、アッパーフレームリインフォース140は、結合部材JPを介して、フロントサイドフレーム110の回転運動を制限する。
そして、フロントサイドフレーム110およびアッパーフレームリインフォース140が固定された状態で剛性を保ちながらフロントクロスメンバ130よりも車両前側において変形することによって、衝突エネルギーは、吸収される。
【0053】
また、ラジエータパネルフレーム部100における矢印RF2および矢印RF3に示す反力によって、ラジエータパネルフレーム部100は、ラジエータパネルフレーム部100の車両下側辺および衝突が発生していない側を回転軸として、矢印SB6に示す車両後部内側に向けて回転運動をはじめる。そして、ラジエータパネルフレーム部100に結合されているフロントサイドフレーム110、サブフレーム120、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150は、車幅方向内側に向かって変形する。
矢印SB6に示す方向に変形が進むと、ラジエータパネルフレーム部100の車両上部外側に突出している突出部PPは、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150に当接する。そして、矢印SB6に示す方向に向かう回転移動は、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150によって制限される。
【0054】
サブフレーム120には、ラジエータパネルフレーム部100を介して矢印SB3に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、サブフレーム120の車両前側端部が衝突エネルギーによって圧壊され、衝突エネルギーは、サブフレーム120における圧壊および変形によって吸収される。
また、サブフレーム120に伝達された矢印SKに示す衝突エネルギーは、矢印SG、矢印SLおよび矢印SMに示すように、車両後側に結合されているトーボード部40、トルクボックス部60およびサイドシル70に分散され吸収される。
【0055】
アッパーフレームリインフォース140には、ラジエータパネルフレーム部100を介して矢印SB4に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。アッパーフレームリインフォース140は、結合部材JPによって、フロントサイドフレーム110と固定されているため、アッパーフレームリインフォース140は、フロントサイドフレーム110との剛性を保ちながら変形する。
そして、アッパーフレームリインフォース140には、矢印SB4および矢印SB5に示す衝突エネルギーが伝達される。
アッパーフレームリインフォース140に伝達された矢印SFに示す衝突エネルギーは、矢印SGおよび矢印SHに示されるように、車両後側に結合されているトーボード部40およびストラットタワー部50に分散され吸収される。
【0056】
ラジエータパネルリインフォース150には、ラジエータパネルフレーム部100を介して矢印SB5に示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、衝突エネルギーは、ラジエータパネルリインフォース150の圧壊および変形によって吸収される。
ラジエータパネルリインフォース150は、車両前側から車両後部外側へ向かう傾斜を成しているため、衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140を矢印SCに示すように車幅方向外側に向かって変形させる。そのため、矢印SB6に示す方向に回転する変形を相殺させる。
また、ラジエータパネルリインフォース150に伝達された矢印SB5に示す衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140に伝達され、アッパーフレームリインフォース140を介して分散され吸収される。
【0057】
衝突エネルギーの入力が終了することによって、車体前部構造Sの変形による衝突エネルギーの吸収は終了する。
【0058】
以上のように、衝突物FB2による衝突エネルギーは、ラジエータパネルフレーム部100、フロントサイドフレーム110、サブフレーム120、フロントクロスメンバ130、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150によって構成されている車体前部構造Sが、フロントクロスメンバ130よりも車両前側において変形および圧壊することによって、衝突エネルギーは、吸収される。
また、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とを、結合部材JPが固定していることによって、フロントサイドフレーム110は、アッパーフレームリインフォース140とともに剛性を保ちながら変形する。また、ラジエータパネルフレーム部100車両上部外側に突出している突出部PPが、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150に当接することによって、車幅方向内側に向かう回転移動が制限される。また、ラジエータパネルリインフォース150が車幅方向外側に向かう傾斜を成しているため、アッパーフレームリインフォース140は外側に向けて変形する。
さらに、衝突物FB2による衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110、フロントクロスメンバ130、トーボード部40、ストラットタワー部50、トルクボックス部60およびサイドシル70によって構成されている車両前部室FAにおいて分散され吸収される。
したがって、車幅方向両側において車両前後方向に延在しているフロントサイドフレーム110、サブフレーム120およびアッパーフレームリインフォース140における車幅方向内側、かつ、フロントクロスメンバ130の車両後側に配設されているインバータ部30は変形しない。
【0059】
(アンダーライド衝突の場合)
図6に示すように、アンダーライド衝突の場合には、衝突物FB3は、車両Vの車両上方側に衝突し、矢印UAに示す方向から衝突エネルギーが発生する。
【0060】
衝突物FB3による衝突エネルギーは、矢印UB1に示すように、ラジエータパネルフレーム部100の車両上側を介して車両後側に向かって伝達される。
ラジエータパネルフレーム部100の車両上側は、衝突エネルギーに押されることによって、車両後側に向かって移動する。また、ラジエータパネルフレーム部100の車両下側辺を回転軸にして、矢印UDに示すように、車両後部下側に向かって傾きはじめる。
このとき、ラジエータパネルフレーム部100の車両上部上側に結合されているラジエータパネルリインフォース150は、ラジエータパネルフレーム部100の傾きを制限しながら、車両後側に向かって圧壊および変形する。
また、ラジエータパネルリインフォース150の圧壊による変形がすすむと、ラジエータパネルフレーム部100の車両上側に設けられている突出部PPが、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150に当接する。そのため、ラジエータパネルフレーム部100の車両上側の車両後側に向かう変形は制限される。
【0061】
ラジエータパネルリインフォース150に伝達された矢印UB2に示す衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140に伝達される。
ラジエータパネルリインフォース150は、車両前側から車両後部外側へ向かう傾斜を成しているため、衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140を矢印UCに示すように車幅方向外側に向かって変形させる。
このとき、アッパーフレームリインフォース140は、フロントサイドフレーム110と結合部材JPによって固定されているため、アッパーフレームリインフォース140は、フロントサイドフレーム110との剛性を保ちながら変形する。
そして、衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140に固定されているフロントサイドフレーム110およびサブフレーム120に分散される。
【0062】
アッパーフレームリインフォース140には、矢印UFに示す衝突エネルギーが車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、アッパーフレームリインフォース140が衝突エネルギーによって圧壊され、衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140における変形によって吸収される。
また、アッパーフレームリインフォース140に伝達された衝突エネルギーは、矢印UGおよび矢印UHに示されるように、車両後側に結合されているトーボード部40およびストラットタワー部50に分散され吸収される。
【0063】
フロントサイドフレーム110には、矢印UEに示す衝突エネルギーがアッパーフレームリインフォース140を介して車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、フロントサイドフレーム110に伝達された矢印UEに示す衝突エネルギーは、矢印UGおよび矢印ULに示すように、トーボード部40およびトルクボックス部60に分散され吸収される。
【0064】
サブフレーム120には、矢印UKに示す衝突エネルギーがアッパーフレームリインフォース140を介して車両前側から車両後側に向かって伝達される。そして、サブフレーム120に伝達された矢印UKに示す衝突エネルギーは、矢印UG、矢印ULおよび矢印UMに示すように、トーボード部40、トルクボックス部60およびサイドシル70に分散され吸収される。
【0065】
衝突エネルギーの入力が終了することによって、車体前部構造Sの変形による衝突エネルギーの吸収は終了する。
【0066】
以上のように、衝突エネルギーは、ラジエータパネルフレーム部100、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150によって構成されている車体前部構造Sが圧壊および変形することによって吸収される。また、衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140に固定されているフロントサイドフレーム110およびサブフレーム120に分散される。
また、ラジエータパネルリインフォース150は、ラジエータパネルフレーム部100の車両後側への傾きを制限しながら、車両後側に向かって圧壊および変形する。また、ラジエータパネルフレーム部100における突出部PPが、ラジエータパネルフレーム部100の車両上側の車両後側に向かう変形を制限する。また、ラジエータパネルリインフォース150が車幅方向外側に向かう傾斜を成しているため、アッパーフレームリインフォース140は外側に向けて変形する。
さらに、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110、フロントクロスメンバ130、トーボード部40、ストラットタワー部50、トルクボックス部60およびサイドシル70によって構成されている車両前部室FAにおいて分散され吸収される。
したがって、車幅方向両側において車両前後方向に延在しているフロントサイドフレーム110、サブフレーム120およびアッパーフレームリインフォース140における車幅方向内側、かつ、フロントクロスメンバ130の車両後側に配設されているインバータ部30は変形しない。
【0067】
以上、本実施形態に係る車体前部構造Sは、乗員が搭乗するキャビンCAの車両前側に設けられた車体前部構造Sであって、車両前側において車幅方向に長辺を有し車両上下方向に短辺を有した長方形状に形成され、車両上側辺の車幅方向外側において、車両後方側に向かって突出している突出部PPが形成されているラジエータパネルフレーム部100と、車幅方向下部両側において車両前後方向に延在され、車両前側端部においてラジエータパネルフレーム部100と結合されている一対のフロントサイドフレーム110と、フロントサイドフレーム110の車幅方向下部外側において車両前後方向に延在し、車両前側端と、ラジエータパネルフレーム部100の車幅方向外側下部とが結合されているサブフレーム120と、車幅方向上方両側において、キャビンCAの車両前側から車両前側に向かって延在し、車両前側において車両前部下側に向かう傾斜部TLを有して屈曲し、車両前部下側端部においてラジエータパネルフレーム部100の車幅方向外側下部と結合されている一対のアッパーフレームリインフォース140と、一方端側は、ラジエータパネルフレーム部100の車両上側辺における突出部PPの車幅方向内側に結合され、他方端側は、アッパーフレームリインフォース140における傾斜部TLの車両上部前側に結合されているラジエータパネルリインフォース150と、アッパーフレームリインフォース140が有する傾斜部TLにおいて、アッパーフレームリインフォース140とフロントサイドフレーム110とを結合する結合部材JPと、を備えている。
フルラップ衝突の場合には、フロントサイドフレーム110を介して車両後側に向かう衝突エネルギーが伝達される。衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110を車両後側に向かって移動させ、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とを固定している結合部材JPが破断する。そして、フロントサイドフレーム110は、アッパーフレームリインフォース140の剛性の影響を受けなくなり、フロントクロスメンバ130よりも車両前側において圧壊および変形する。したがって、フロントサイドフレーム110は、衝突エネルギーをフロントクロスメンバ130よりも車両前側において吸収することができる。また、ラジエータパネルリインフォース150が車幅方向外側に向かう傾斜を成しているため、アッパーフレームリインフォース140は外側に向けて変形する。したがって、車体前部構造Sは、車幅方向内側に向かう変形を制限することができる。
スモールラップ衝突の場合には、衝突が発生した側のフロントサイドフレーム110およびラジエータパネルフレーム部100を介して車両後部内側に向かう衝突エネルギーが伝達される。衝突エネルギーは、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150をフロントクロスメンバ130よりも車両前側において変形および圧壊することによって、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150において吸収される。また、結合部材JPがフロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とを固定していることによって、フロントサイドフレーム110は、アッパーフレームリインフォース140とともに剛性を保ちながら変形する。また、ラジエータパネルフレーム部100車両上部外側に突出している突出部PPが、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150に当接することによって、車幅方向内側に向かう回転移動が制限される。また、ラジエータパネルリインフォース150が車幅方向外側に向かう傾斜を成しているため、アッパーフレームリインフォース140は外側に向けて変形する。したがって、車体前部構造Sは、車幅方向内側に向かう変形を制限することができる。
アンダーラップ衝突の場合には、ラジエータパネルフレーム部100の車両上側を介して車両後側に向かう衝突エネルギーが伝達される。ラジエータパネルリインフォース150は、ラジエータパネルフレーム部100の車両後側への傾きを制限しながら、車両後側に向かって圧壊および変形する。また、ラジエータパネルフレーム部100における突出部PPが、ラジエータパネルフレーム部100の車両上側の車両後側に向かう移動を制限する。したがって、車体前部構造Sは、ラジエータパネルフレーム部100およびラジエータパネルリインフォース150において衝突エネルギーを吸収することができる。また、結合部材JPがフロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とを固定していることによって、フロントサイドフレーム110は、アッパーフレームリインフォース140とともに剛性を保ちながら変形する。したがって、車体前部構造Sは、衝突エネルギーをアッパーフレームリインフォース140、フロントサイドフレーム110およびサブフレーム120に分散することができる。また、ラジエータパネルリインフォース150が車幅方向外側に向かう傾斜を成しているため、アッパーフレームリインフォース140は外側に向けて変形する。したがって、車体前部構造Sは、車幅方向内側に向かう変形を制限することができる。
さらに、フルラップ衝突、スモールラップ衝突およびアンダーラップ衝突において、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110、サブフレーム120、フロントクロスメンバ130、アッパーフレームリインフォース140、ラジエータパネルリインフォース150、トーボード部40、ストラットタワー部50、トルクボックス部60およびサイドシル70によって構成されている車両前部室FAにおいて分散され吸収される。
つまり、フルラップ衝突、スモールラップ衝突およびアンダーラップ衝突において、衝突エネルギーは、ラジエータパネルフレーム部100、フロントサイドフレーム110、サブフレーム120、アッパーフレームリインフォース140およびラジエータパネルリインフォース150の圧壊、車幅方向外側への変形、移動方向の制限および反力によって分散され吸収される。そして、車体前部構造Sの車幅方向内側、かつ、フロントクロスメンバ130の車両後側に配設されているインバータ部30を変形させることなく衝突エネルギーを吸収することができる。
そのため、複数の前面衝突形態においても、インバータ部30の変形を防止することができる。
【0068】
また、本実施形態に係る車体前部構造Sは、結合部材JPは、車両前側から車幅方向外側に向けて折り曲げられたL字形状の平板である。
フルラップ衝突においては、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110を車両前側から車両後側に向かって移動させることによって、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140との間に、ズレを発生させる。そして、結合部材JPは、L字状の折り曲げ部において破断され、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とが分離される。そして、フロントサイドフレーム110は、アッパーフレームリインフォース140における剛性の影響を受けなくなる。
したがって、フルラップ衝突において、車体前部構造Sは、フロントサイドフレーム110がフロントクロスメンバ130よりも車両前側において圧壊および変形することによって、衝突エネルギーを吸収する。
一方、スモールラップ衝突においては、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム110に結合されているフロントクロスメンバ130において発生する車幅方向内側に向かう反力によって、フロントサイドフレーム110に車幅方向内側に向かう回転運動を発生させる。
このとき、フロントサイドフレーム110が車幅方向内側に向かうことによって、結合部材JPは、破断せずにフロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とを固定した状態を保つ。そして、アッパーフレームリインフォース140は、結合部材JPを介して、フロントサイドフレーム110の回転運動を制限する。
したがって、スモールラップ衝突において、車体前部構造Sは、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とが固定され剛性を保ちながら変形することによって、衝突エネルギーを吸収する。
また、アンダーラップ衝突においては、フロントサイドフレーム110には、アッパーフレームリインフォース140を介して衝突エネルギーが伝達される。そして、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とは、結合部材JPによって固定されている。
したがって、アンダーラップ衝突において、車体前部構造Sは、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とが固定され剛性を保ちながら変形することによって、衝突エネルギーを吸収する。
そのため、複数の前面衝突形態においても、インバータ部30の変形を防止することができる。
【0069】
また、本実施形態に係る車体前部構造Sは、結合部材JPは、アッパーフレームリインフォース140とフロントサイドフレーム110とが交差するフロントサイドフレーム110の車幅方向外側面における車両上側稜線部と車両下側稜線部とに固定されている。
フルラップ衝突においては、結合部材JP1およびJP2がフロントサイドフレーム110の車両上側稜線部と車両下側稜線部における車両後側に向かう変形に適正に追従するとともに、変形あるいは破断することによって、フロントサイドフレーム110は、アッパーフレームリインフォース140における剛性の影響を受けなくなる。
したがって、フルラップ衝突において、車体前部構造Sは、フロントサイドフレーム110がフロントクロスメンバ130よりも車両前側において圧壊および変形することによって、衝突エネルギーを吸収する。
一方、スモールラップ衝突においては、フロントサイドフレーム110の車両上側稜線部と車両下側稜線部およびアッパーフレームリインフォース140は、車幅方向内側に向かって変形する。そして、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とは、結合部材JP1およびJP2によって固定されている。
また、アンダーラップ衝突においては、フロントサイドフレーム110の車両上側稜線部と車両下側稜線部は変形せずに、アッパーフレームリインフォース140を介して衝突エネルギーが伝達される。そして、フロントサイドフレーム110とアッパーフレームリインフォース140とは、結合部材JP1およびJP2によって固定されている。
したがって、スモールラップ衝突およびアンダーラップ衝突においては、車体前部構造Sは、フロントサイドフレーム110がフロントクロスメンバ130よりも車両前側において剛性を保つことによって、衝突エネルギーを吸収する。
つまり、結合部材JP1およびJP2が、フロントサイドフレーム110の車両上側稜線部と車両下側稜線部とに固定されていることによって、フロントサイドフレーム110の変形に適正に追従して変形し、車体前部構造Sは、複数の前面衝突形態においても衝突エネルギーの吸収をすることができる。
そのため、複数の前面衝突形態においても、インバータ部30の変形を防止することができる。
【0070】
なお、車体前部構造Sの車両前後方向および車幅方向における先端部は、金属等によって閉口されていてもよい。
また、結合部材JPは、溶接等による固定に置き換えてもよい。
【0071】
以上、この発明の実施形態につき、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1;車両
10;前輪
20;パワーユニット部
30;インバータ部
40;トーボード部
50;ストラットタワー部
60;トルクボックス
70;サイドシル
100;ラジエータパネルフレーム部
110;フロントサイドフレーム
120;サブフレーム
130;フロントクロスメンバ
140;アッパーフレームリインフォース
150;ラジエータパネルリインフォース
CA;キャビン(乗員室)
FA;車両前部室
S;車体前部構造