(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132567
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】電気化学セル用燃料極、電気化学セル用燃料極の製造方法、及び、電気化学セル
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240920BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240920BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240920BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240920BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240920BHJP
C25B 11/067 20210101ALI20240920BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20240920BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20240920BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240920BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240920BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M4/86 T
H01M8/12 101
H01M4/88 T
H01M4/90 X
C25B11/054
C25B11/067
C25B11/077
C25B11/031
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043390
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 忠司
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA04
4K011AA11
4K011AA20
4K011AA21
4K011AA58
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
4K021DB19
4K021DB21
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB05
5H018EE13
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】Niの使用量を十分に低減させながら、SOFC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の発電性能を発揮することができるとともにSOEC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の水の電解性能を発揮することができ、SOFC及びSOECの両セルに利用可能な電気化学セル用燃料極を提供すること。
【解決手段】電子伝導性酸化物粒子と、イオン導電性酸化物粒子と、下記組成式(1):
(Ce1-x-yGdxNiy)O2 (1)
[式中、xは0.02~0.3の範囲の数値を示し、yは0.02~0.3の範囲の数値を示す。]
で表される混合伝導性酸化物とからなることを特徴とする電気化学セル用燃料極。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子伝導性酸化物粒子と、
イオン導電性酸化物粒子と、
下記組成式(1):
(Ce1-x-yGdxNiy)O2 (1)
[式中、xは0.02~0.3の範囲の数値を示し、yは0.02~0.3の範囲の数値を示す。]
で表される混合伝導性酸化物と、
からなることを特徴とする電気化学セル用燃料極。
【請求項2】
前記混合伝導性酸化物が前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の表面に担持されていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル用燃料極。
【請求項3】
前記電子伝導性酸化物粒子が、下記組成式(2):
La1-zMzTiO3 (2)
[式中、MはCa及びSrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示し、zは0.4~0.8の範囲の数値を示す。]
で表されるペロブスカイト型酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル用燃料極。
【請求項4】
前記イオン導電性酸化物粒子が、下記組成式(3):
Ce1-nAnO2 (3)
[式中、AはGd及びSmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示し、nは0.05~0.3の範囲の数値を示す。]
で表される酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル用燃料極。
【請求項5】
電子伝導性酸化物粒子及びイオン導電性酸化物粒子からなる多孔体を得る工程と、
Ceイオン、Gdイオン及びNiイオンを含有する溶液を、前記多孔体に含浸せしめて焼成することにより、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の電気化学セル用燃料極を得る工程と、
を含むことを特徴とする電気化学セル用燃料極の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の電気化学セル用燃料極と、空気極と、固体電解質層とを備えることを特徴とする電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル用燃料極、電気化学セル用燃料極の製造方法、並びに、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルの推進が叫ばれる中、水素を用いた発電技術や水素の生成技術として電気化学セルが注目を集めている。このような電気化学セルとしては、酸化物形固体燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)及び固体酸化物形電解セル(SOEC:Solid Oxide Electrochemical Cell)が知られており、これらは高効率で発電したり、あるいは、高効率で水素を生成できることから、次世代エネルギーデバイスとして特に注目されている。このような電気化学セルとしては、固体電解質に酸化物イオン伝導体(例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等)を利用し、その一方の面に多孔体を含む燃料極を配置し、かつ、その他方の面に空気極を配置する構成を有するものが知られている。
【0003】
そして、このような電気化学セルに利用される燃料極として、従来は、一般に、酸化物イオン伝導体(例えば、YSZ等)と、金属Niとの混合体が主として用いられてきた。このような金属Niは電子伝導性が高く、しかも電気化学触媒としても高い活性を持つことから、その利用によって高い性能(SOFCの場合、高い出力性能)が得られることが知られている。しかしながら、かかる混合体からなる燃料極をSOFCに利用した場合について検討すると、金属Niは酸化還元され易い成分であるため、例えば、余剰燃料を少なくして燃料利用率の高い運転を行った場合等に、局所的に燃料不足が生じた際に酸素分圧が上昇して金属Niが酸化されて膨張し、その後、燃料不足が解消された際に、今度は還元されて収縮するといった現象が起きる。このように、実際のSOFCの運転に際しては、金属Niの酸化と還元が交互に生じ、金属Niの膨張収縮が起こる。そして、このような膨張収縮を繰り返すと、燃料極内で電極構成材の接合部分が破損し、SOFCの性能が低下してしまう。このように、前記混合体からなる燃料極をSOFCに利用した場合には、金属Niの利用に起因した構成部材の破損によりSOFCの性能低下が生じるといった問題があった。一方、前記混合体からなる燃料極をSOECに利用した場合、使用時に燃料極が水蒸気の濃度が高い雰囲気に曝されるが、その場合に金属Niと水蒸気との反応によりNi(OH)2が生成されて一部が飛散してしまい電極材の消散が生じるといった問題や、水蒸気によるNiの凝集、肥大化が進んで電極構成材の接合部分の破損、三相界面の減少、触媒活性の低下等が生じるといった問題、等が生じ、これによりSOECの性能が低下してしまうという問題があった。また、金属Niの利用には前述のようなセルの破損等の問題がある他、Ni自体が経済的なコストの高い成分であるため、近年では、Niの使用量の低減も要求されている。
【0004】
ここで、上述のような金属Niの問題に対応するため、金属Niを用いず、Niの酸化物を利用する技術として、例えば、特開2012-33418号公報(特許文献1)においては、SOFCが備える燃料極として、SrTiO3を主成分とするチタン酸ペロブスカイト型酸化物からなる電子導電性を有する第1の酸化物材料と、Y2O3、Sc2O3、及びYb2O3からなる群より選ばれる少なくとも一種で安定化されたZrO2からなりイオン導電性を有する第2の酸化物材料とからなる多孔質焼結体の表面の少なくとも一部に形成されてなる、NiAl2O3複合酸化物膜を含む燃料極の利用が提案されている(実施例1等を参照)。
【0005】
一方、近年では、発電と水素生成を同一のセルで行う可逆作動型燃料電池(SORC:Solid Oxide Reversible type Fuel Cell)システムの将来的な利用も提案されており、SOFCとSOECの両セルの燃料極を、同一の材料及び同一の構造とすることが期待されている。
【0006】
このような背景から、電気化学セルの分野においては、Niの使用量の低減を図りつつ、SOFC用の燃料極として利用した場合に優れた発電特性を示すとともに、SOEC用の燃料極として利用した場合にも優れた水の電解性能を示すことが可能となるような、新たな構成の燃料極の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、Niの使用量を十分に低減させながら、SOFC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の発電性能を発揮することができるとともにSOEC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の水の電解性能を発揮することができ、SOFC及びSOECの両セルに利用可能な電気化学セル用燃料極;その電気化学セル用燃料極を効率よく製造することが可能な電気化学セル用燃料極の製造方法;並びに、前記電気化学セル用燃料極を用いた電気化学セル;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、電気化学セル用燃料極を、電子伝導性酸化物粒子と、イオン導電性酸化物粒子と、下記組成式(1)で表される混合伝導性酸化物とからなるものとすることにより、Niの使用量を十分に低減させながら、SOFC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の発電性能を発揮することができるとともにSOEC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の水の電解性能を発揮することができ、SOFC及びSOECの両セルに利用可能なものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0011】
[1] 電子伝導性酸化物粒子と、
イオン導電性酸化物粒子と、
下記組成式(1):
(Ce1-x-yGdxNiy)O2 (1)
[式中、xは0.02~0.3の範囲の数値を示し、yは0.02~0.3の範囲の数値を示す。]
で表される混合伝導性酸化物と、
からなる、電気化学セル用燃料極。
【0012】
[2] 前記混合伝導性酸化物が前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の表面に担持されている、[1]に記載の電気化学セル用燃料極。
【0013】
[3] 前記電子伝導性酸化物粒子が、下記組成式(2):
La1-zMzTiO3 (2)
[式中、MはCa及びSrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示し、zは0.4~0.8の範囲の数値を示す。]
で表されるペロブスカイト型酸化物からなる、[1]又は[2]に記載の電気化学セル用燃料極。
【0014】
[4] 前記イオン導電性酸化物粒子が、下記組成式(3):
Ce1-nAnO2 (3)
[式中、AはGd及びSmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示し、nは0.05~0.3の範囲の数値を示す。]
で表される酸化物からなる、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の電気化学セル用燃料極。
【0015】
[5] 電子伝導性酸化物粒子及びイオン導電性酸化物粒子からなる多孔体を得る工程と、
Ceイオン、Gdイオン及びNiイオンを含有する溶液を、前記多孔体に含浸せしめて焼成することにより、[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載の電気化学セル用燃料極を得る工程と、
を含む、電気化学セル用燃料極の製造方法。
【0016】
[6] [1]~[4]のうちのいずれか1項に記載の電気化学セル用燃料極と、空気極と、固体電解質層とを備える、電気化学セル。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Niの使用量を十分に低減させながら、SOFC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の発電性能を発揮することができるとともにSOEC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の水の電解性能を発揮することができ、SOFC及びSOECの両セルに利用可能な電気化学セル用燃料極;その電気化学セル用燃料極を効率よく製造することが可能な電気化学セル用燃料極の製造方法;並びに、前記電気化学セル用燃料極を用いた電気化学セル;を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1において製造した電気化学セルの断面を模式的に示す概略断面図である。
【
図2】実施例1で得られた溶液(A)に由来して形成された焼成粉末のXRDチャート及び実施例2で得られた溶液(B)に由来して形成された焼成粉末のXRDチャートのグラフである。
【
図3】実施例1~2及び比較例1~2で得られた電気化学セルのセル電圧と発電電流の関係を示すグラフである。
【
図4】実施例1~2及び比較例1~2で得られた電気化学セルのセル電圧と電解電流の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
[電気化学セル用燃料極]
本発明の電気化学セル用燃料極は、
電子伝導性酸化物粒子と、
イオン導電性酸化物粒子と、
下記組成式(1):
(Ce1-x-yGdxNiy)O2 (1)
[式中、xは0.02~0.3の範囲の数値を示し、yは0.02~0.3の範囲の数値を示す。]
で表される混合伝導性酸化物と、
からなることを特徴とするものである。
【0021】
本発明にかかる前記電子伝導性酸化物粒子としては、特に制限されず、SOFCやSOECの分野において利用されている電子伝導性を有する酸化物の粒子として公知のものを適宜利用できる。このような電子伝導性酸化物粒子としては、中でも、電子伝導率の向上の観点から、Bサイトを構成する元素にTiを含むABO3型のペロブスカイト型酸化物(Ti含有ペロブスカイト型酸化物)の粒子が好ましい。このように、前記電子伝導性酸化物粒子に好適に利用可能な前記ABO3型のペロブスカイト型酸化物は、Bサイトの構成元素として必ずTiを含むものである。このように、前記ABO3型のペロブスカイト型酸化物がTiを含むことにより、より高い電子伝導性の発現が可能となる。また、このようなBサイトの構成元素は、Tiとともに、Nb、Ta、Co、Cr、Mn及びMoからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。また、このようなABO3型のペロブスカイト型酸化物のBサイトは、構成元素が、電子伝導率の更なる向上の観点から、Tiのみからなるものがより好ましい。
【0022】
また、前記ABO3型のペロブスカイト型酸化物(Ti含有ペロブスカイト型酸化物)はAサイトを構成する元素がLa、Ca、Sr、Ba及びY(より好ましくは、Ca、Sr及びBa、更に好ましくはCa及びSr)からなる群からなる少なくとも1種であることが好ましい。このような電子伝導性酸化物粒子に好適に利用可能な前記ABO3型のペロブスカイト型酸化物のAサイトを構成する元素としては、電子伝導率及び耐還元性の向上の観点から、Laと;Ca及びSrからなる群から選択される少なくとも1種の元素と;を組み合わせて含むものが好ましい。
【0023】
また、このような電子伝導性酸化物粒子としては、より高い電子伝導性及び耐還元性が得られることから、下記組成式(2):
La1-zMzTiO3 (2)
[式中、MはCa及びSrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示し、zは0.4~0.8の範囲の数値を示す。]
で表されるペロブスカイト型酸化物からなるものが更に好ましい。
【0024】
このような式(2)中のMは、Ca及びSrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。このような元素Mとしては、電子伝導性及び耐還元性の更なる向上の観点から、Srが特に好ましい。このように、電子伝導性酸化物粒子としては、式(2)で表されかつ式中のMがSrであるランタンストロンチウムチタン複合酸化物(LST)を好適に利用できる。
【0025】
また、このような式(2)中のzは0.4~0.8(より好ましくは0.5~0.7、更に好ましくは0.5~0.6)の範囲の数値を示す。このようなzの値が前記下限以上となると、前記下限未満の場合と比較して電子伝導性の点でより高い効果が得られる傾向にあり、他方、前記上限以下となると、前記上限を超えた場合と比較して電子伝導性の点でより高い効果が得られる傾向にある。
【0026】
また、前記電子伝導性酸化物粒子の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、100~3000nm(より好ましくは300~1500nm)であることが好ましい。このような平均粒子径が前記下限以上となると、前記下限未満の場合と比較して、イオン導電性酸化物粒子及び混合伝導性酸化物との接点をより多く形成することが可能となる点でより高い効果が得られる傾向にあり、他方、前記上限以下となると、前記上限を超えた場合と比較してイオン導電性酸化物粒子及び混合伝導性酸化物との接点をより多く形成することが可能となる点でより高い効果が得られる傾向にある。なお、このような電子伝導性酸化物粒子の平均粒子径は、レーザー回折法を用いることにより測定できる。
【0027】
また、このような電子伝導性酸化物粒子を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用できる。
【0028】
また、本発明にかかる前記イオン導電性酸化物粒子としては、特に制限されず、SOFCやSOECの分野において利用されている電子伝導性を有する酸化物の粒子として公知のものを適宜利用できる。このようなイオン導電性酸化物粒子としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)及びカルシア安定化ジルコニア(CSZ)等のジルコニア系酸化物;ガドリニアドープセリア(GDC)やサマリア(Sm2O3)ドープセリア(SDC)等のセリア系酸化物;ランタンガレート系酸化物(例えば、式:La1-xSrxGd1-yMgyO3で表される過酸化物(ここにおいてxは0.05~0.2の範囲の数値であり、yは0.1~0.3の範囲の数値である));アパタイト型ランタンシリケート系酸化物;等の公知のイオン導電性酸化物からなる粒子を適宜利用することができる。
【0029】
このようなイオン導電性酸化物粒子としては、より高度なイオン導電性が得られることから、下記組成式(3):
Ce1-nAnO2 (3)
[式中、AはGd及びSmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示し、nは0.05~0.3の範囲の数値を示す。]
で表される酸化物(セリア系の酸化物)からなるものが好ましい。
【0030】
このような式(3)中のAはGd及びSmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。このような元素Aとしては、イオン導電性の更なる向上を図れるとともにコスト面においても優れるといった観点から、Gdが特に好ましい。このように、前記イオン導電性酸化物粒子としては、式(3)で表されかつ式中のAがGdであるガドリニアドープセリア(GDC)を好適に利用できる。
【0031】
また、式(3)中のnは0.05~0.3(より好ましくは0.1~0.2)の範囲の数値を示す。このようなnの値が前記下限以上となると、前記下限未満の場合と比較してイオン導電性の向上の点でより高い効果が得られる傾向にあり、他方、前記上限以下となると、前記上限を超えた場合と比較してイオン導電性の向上の点でより高い効果が得られる傾向にある。
【0032】
また、前記イオン導電性酸化物粒子の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、100~3000nm(より好ましくは100~1000nm)であることが好ましい。このような平均粒子径が前記下限以上となると、前記下限未満の場合と比較して電子伝導性酸化物粒子及び混合伝導性酸化物との接点をより多く形成することが可能となる点でより高い効果が得られる傾向にあり、他方、前記上限以下となると、前記上限を超えた場合と比較して電子伝導性酸化物粒子及び混合伝導性酸化物との接点をより多く形成することが可能となる点でより高い効果が得られる傾向にある。なお、このようなイオン導電性酸化物粒子の平均粒子径は、レーザー回折法を用いることにより測定できる。
【0033】
また、このようなイオン導電性酸化物粒子を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用できる。
【0034】
また、本発明にかかる混合伝導性酸化物は、下記組成式(1):
(Ce1-x-yGdxNiy)O2 (1)
[式中、xは0.02~0.3の範囲の数値を示し、yは0.02~0.3の範囲の数値を示す。]
で表される酸化物(複合酸化物)である。このような組成式(1)で表される酸化物を、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子とともに利用することで、前記混合伝導性酸化物に電子とイオンの輸送機能を付与することが可能となり(なお、前記混合伝導性酸化物を前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子に担持された状態とした場合には、電子とイオンの輸送機能をより効率よく付与することが可能となる)、これにより混合伝導性酸化物の高い電極機能を利用することができるため、電極機能を十分に発揮させながらNiの使用量の低減(Niの少量化)を図れる点でより高い効果が得られる。
【0035】
このような式(1)中のxは0.02~0.3(より好ましくは0.05~0.3、更に好ましくは0.05~0.2、特に好ましくは0.1~0.2)の範囲の数値を示す。このような式(1)中のxの値が前記下限以上となると、前記下限未満の場合と比較して電極反応の反応活性の点でより高い効果が得られる傾向にあり、他方、前記上限以下となると、前記上限を超えた場合と比較して電極反応の反応活性の点でより高い効果が得られる傾向にある。
【0036】
また、前記式(1)中のyは0.02~0.3(より好ましくは0.03~0.2、更に好ましくは0.05~0.2、特に好ましくは0.05~0.1)の範囲の数値を示す。このような式(1)中のyの値が前記下限以上となると、前記下限未満の場合と比較して電極反応の反応活性の点でより高い効果が得られる傾向にあり、他方、前記上限以下となると、前記上限を超えた場合と比較して電極反応の反応活性の点でより高い効果が得られる傾向にある。
【0037】
なお、このような混合伝導性酸化物の製造方法は特に制限されるものではないが、中でも、Ceイオン、Gdイオン及びNiイオンを含有する溶液を利用し、かかる溶液を各種基材(例えば、多孔体等)に接触(例えば、含浸等)せしめて、大気雰囲気下、焼成することにより混合伝導性酸化物を製造する方法を採用することが好ましい。このようなCeイオン、Gdイオン及びNiイオンを含有する溶液としては、Ceの塩(硝酸塩、炭酸塩、水酸化物等)と、Gdの塩(硝酸塩、炭酸塩、水酸化物等)、及び、Niの塩(硝酸塩、炭酸塩、水酸化物等)を、焼成後の組成式が上記式(1)に示す式となるような割合で、溶媒中に溶解させることにより調製してもよい。このような溶液の製造に利用する溶媒としては特に制限されず、水、クエン酸含有水等を適宜利用できる。
【0038】
本発明の電気化学セル用燃料極は、前記電子伝導性酸化物粒子と、前記イオン導電性酸化物粒子と、前記混合伝導性酸化物とを備えるものであればよく、その形態は特に制限されないが、電気化学反応をより効率よく進めることが可能となるといった観点から、前記混合伝導性酸化物が、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の表面に担持(それらの表面の少なくとも一部に担持)されているものであることが好ましく、ここにおいて、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子が、これらの粒子の混合粒子の焼成物である多孔体の形態となっていることがより好ましい。すなわち、本発明の電気化学セル用燃料極においては、前記混合伝導性酸化物が前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の表面に担持されている形態のものが好ましく、前記混合伝導性酸化物が前記多孔体(前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の混合粒子の焼成物)の表面に担持されている形態のものがより好ましい。このように、前記混合伝導性酸化物が前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の表面に担持されていることで、Niの利用量が少量であっても燃料極に高活性の反応活性点を十分に付与することが可能となり、これによりNiの効率的利用の点(Niの利用量の低減の点)でより高い効果が得られる傾向にある。
【0039】
また、本発明の電気化学セル用燃料極において、前記混合伝導性酸化物が前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の表面に担持されている場合、前述のように、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子は、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の混合粒子の焼成物である多孔体を形成していることが好ましい。前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子が前記多孔体を形成することにより、水素、水蒸気などの燃料ガスや生成ガスを効率よく拡散させることが可能となり、これにより燃料ガスをより効率よく全体に亘って十分に供給でき、SOFCに利用した場合の発電性能及びSOECに利用した場合の電解性能の点で、更に高い効果が得られる傾向にある。
【0040】
また、このような本発明の電気化学セル用燃料極の形態は特に制限されず、層状、円柱状等の各種形態とすることができるが、固体電解質(基板や膜等の形態であってもよい)の表面上により効率よく形成することが可能であるといった観点からは、層状であることが好ましい。このように、本発明の電気化学セル用燃料極が層状のものである場合には、燃料極の平均厚さは1~100μm(より好ましくは5~50μm)であることが好ましい。このような電気化学セル用燃料極の平均厚さが前記下限未満では、電極内における酸化物粒子同士の接続性が低下して電極性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ガス拡散抵抗が増加して電極性能が低下する傾向にある。
【0041】
また、本発明の電気化学セル用燃料極において、前記電子伝導性酸化物粒子の含有量は燃料極の総量に対して40~70質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。このような電子伝導性酸化物粒子の含有量が前記下限未満では、電極内での導通が低下して電極性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、電極内でのイオン導電性酸化物粒子の連続性が低下して電極性能が低下する傾向にある。
【0042】
さらに、本発明の電気化学セル用燃料極において、前記イオン導電性酸化物粒子の含有量は燃料極の総量に対して30~60質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。このようなイオン導電性酸化物粒子の含有量が前記下限未満では、電極内でのイオン導電性酸化物粒子の連続性が低下して電極性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、電極内での電子伝導性酸化物粒子の連続性が低下して電極性能が低下するとなる傾向にある。
【0043】
また、本発明の電気化学セル用燃料極において、前記電子伝導性酸化物粒子と前記イオン導電性酸化物粒子の質量比([電子伝導性酸化物粒子]:[イオン導電性酸化物粒子])は2:1~1:2(より好ましくは1.5:1~1:1.5)であることが好ましい。このような質量比において、電子伝導性酸化物粒子の割合が前記下限未満では、電極内での電子伝導性酸化物粒子の連続性が低下して電極性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、電極内でのイオン導電性酸化物粒子の連続性が低下して電極性能が低下する傾向にある。
【0044】
また、本発明の電気化学セル用燃料極中の前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の合計含有量1g当たりの前記混合伝導性酸化物のモル含有量は、5×10-5~5×10-3mol/g(より好ましくは1×10-4~5×10-4mol/g)であることが好ましい。すなわち、前記多孔体に前記混合伝導性酸化物が担持されている場合、前記多孔体の質量1g当たりの前記混合伝導性酸化物の担持量(モル量)が5×10-5~5×10-3mol/g(より好ましくは1×10-4~5×10-4mol/g)であることが好ましい。このような混合伝導性酸化物の含有量(担持量)が前記下限未満では、電極性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ガス拡散抵抗が増加して電極性能が低下する傾向にある。
【0045】
また、本発明の電気化学セル用燃料極において、前記混合伝導性酸化物の含有量は燃料極の総量に対して0.1~5質量%であることが好ましく、1~3質量%であることがより好ましい。このような混合伝導性酸化物の含有量が前記下限未満では、電極性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ガス拡散抵抗が増加して電極性能が低下する傾向にある。
【0046】
なお、このような本発明の電気化学セル用燃料極を利用する電気化学セルとしては、燃料極を本発明の電気化学セル用燃料極からなるものとする以外は、公知のSOFCの構成又は公知のSOECの構成と同様の構成としたものを適宜利用でき、例えば、本発明の電気化学セル用燃料極と、空気極と、固体電解質層とを備える構成のものとしてもよい。なお、このような電気化学セル(本発明の電気化学セル用燃料極を利用する電気化学セル)としては、後述の本発明の電気化学セルが好ましい。また、このような本発明の電気化学セル用燃料極を製造するための方法は特に制限されるものではないが、後述の本発明の電気化学セル用燃料極の製造方法を採用することが好ましい。
【0047】
[電気化学セル用燃料極の製造方法]
本発明の電気化学セル用燃料極の製造方法は、
電子伝導性酸化物粒子及びイオン導電性酸化物粒子からなる多孔体を得る工程(以下、便宜上、場合により単に「第一工程」と称する)と、
Ceイオン、Gdイオン及びNiイオンを含有する溶液を、前記多孔体に含浸せしめて焼成することにより、前記本発明の電気化学セル用燃料極を得る工程(以下、便宜上、場合により単に「第二工程」と称する)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、各工程を分けて説明する。
【0048】
〈第一工程〉
第一工程は、電子伝導性酸化物粒子及びイオン導電性酸化物粒子からなる多孔体を得る工程である。
【0049】
このような電子伝導性酸化物粒子及びイオン導電性酸化物粒子からなる多孔体としては、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の混合粒子の焼成物であることが好ましい。このような観点から、前記第一工程は、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の混合粒子からなるペーストを準備し、そのペーストを基材(好ましくは固体電解質よりなる膜や基板)に塗工し、焼成することにより、前記基材上に、電子伝導性酸化物粒子及びイオン導電性酸化物粒子からなる多孔体を形成する工程(A)とすることが好ましい。以下、かかる工程(A)について説明する。
【0050】
このような混合粒子からなるペーストの製造方法は特に制限されず、前記電子伝導性酸化物粒子と、前記イオン導電性酸化物粒子と、溶媒とを混合(更に必要な場合にはバインダーや造孔材等を併せて混合)して製造する方法を採用してもよい。このような溶媒としては、特に制限されず、公知のものを適宜利用でき、例えば、水、テルピネオール、ブタノール、エタノール等を利用してもよい。なお、このようなペーストの製造に際しては、金属粒子のペーストを製造する際に利用されているような公知の他の成分を含有させてもよい。このような他の成分としては、例えば、バインダーや造孔材を挙げることができる。また、他の成分としてバインダーを利用する場合、その種類は特に制限されず、公知のもの(例えば、エチルセルロース等)を適宜利用できる。また、ペーストの製造に際して、前記他の成分として造孔材を利用する場合、その種類は特に制限されず、公知のもの(例えば、ポリビニルブチラール等)を適宜利用できる。また、このようなペーストの製造に際しては、ペースト中に含まれている前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子の質量比([電子伝導性酸化物粒子]:[イオン導電性酸化物粒子])が、2:1~1:2(より好ましくは1.5:1~1:1.5)となるように、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子を利用することが好ましい。
【0051】
また、前記ペーストを基材に塗工する方法としては特に制限されず、ペーストを塗工可能な公知の方法を適宜利用でき、例えば、スクリーン印刷法により塗工する方法を採用してもよい。また、このようなペーストの塗工に際しては、塗工膜の厚みは特に制限されず、最終的に形成する燃料極の厚みが所望の厚みとなるように、ペーストの種類や塗工量等を適宜調整すればよい。なお、このような基材としては、電気化学セルを形成することがより容易となることから、固体電解質からなるものを利用することが望ましいが、第二工程において電気化学セル用燃料極を形成した後に、電気化学セル用燃料極を剥離して利用する場合(例えば、剥離した燃料極を、別途、固体電解質に貼り合わせて利用する場合等)には、剥離可能なシート等を利用してもよい。
【0052】
また、前記ペーストを焼成する際の焼成の条件は特に制限されず、大気雰囲気下、800~1400℃(好ましくは、1200~1350℃)の温度下で1~3時間(好ましくは1~2時間)焼成することが好ましい。このような焼成により電子伝導性酸化物粒子及びイオン導電性酸化物粒子からなる多孔体(焼結体)を形成することができる。
【0053】
〈第二工程〉
第二工程は、Ceイオン、Gdイオン及びNiイオンを含有する溶液を、前記多孔体に含浸せしめて焼成することにより前記本発明の電気化学セル用燃料極を得る工程である。
【0054】
このようなCeイオン、Gdイオン及びNiイオンを含有する溶液を調製するための方法としては、Ceの塩と、Gdの塩、及び、Niの塩を、焼成後に得られる酸化物の組成式が上記式(1)に示す式となるような割合で、溶媒中に溶解させることにより調製する方法を採用することが好ましい。
【0055】
このようなCeの塩としては、特に制限されず、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、水酸化物等のCeの塩が挙げられるが、中でも、水溶性が高いことから、Ceの硝酸塩が特に好ましい。また、前記Gdの塩としては、特に制限されず、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、水酸化物等のGdの塩が挙げられるが、中でも、コストの観点からは、Gdの硝酸塩が特に好ましい。さらに、前記Niの塩としては、特に制限されず、硝酸塩、塩化物、水酸化物等のNiの塩が挙げられるが、中でも、コストの観点からは、Niの硝酸塩が特に好ましい。また、このような溶液の調製に利用する溶媒としては特に制限されず、水、クエン酸含有水等を適宜利用できる。
【0056】
なお、前記溶液の調製に際しては、上記式(1)で表される化合物(酸化物)に関して、化合物中のCeとGdとNiの含有量の総和を1モルと換算した場合のGdの含有割合を示すxの値は0.02~0.3であることから、かかる溶液中の金属イオンの全モル量(CeイオンとGdイオンとNiイオンの総量)を1モルと換算した場合の前記溶液中のGdイオンの含有量が前記xと同じ数値範囲(0.02~0.3の範囲、より好ましくは0.05~0.3の範囲、更に好ましくは0.05~0.2の範囲、特に好ましくは0.1~0.2の範囲)のモル量となるように、Gdの塩を利用することが好ましい。また、同様に、上記式(1)で表される化合物に関して、化合物中のCeとGdとNiの含有量の総和を1モルと換算した場合のNiの含有割合を示すyの値は0.02~0.3であることから、溶液中の金属イオンの全モル量(CeイオンとGdイオンとNiイオンの総量)を1モルと換算した場合の前記溶液中のNiイオンの含有量が前記yと同じ数値範囲(0.02~0.3の範囲、より好ましくは0.03~0.2の範囲、更に好ましくは0.05~0.2の範囲、特に好ましくは0.05~0.1の範囲)のモル量となるように、Niの塩を利用することが好ましい。また、溶液中の金属イオンの全量(CeとGdとNiの総量)を1モルと換算した場合のCeイオンの含有量(モル量)は、溶液中のGdイオンの量xとNiイオンの量yの大きさに応じて決定(設計)することができるが、かかるCeイオンの含有量が0.4~0.9モル(より好ましくは0.7~0.9モル、更に好ましくは0.8~0.9モル)となるように、Ceの塩を利用することが好ましい。このようなCeイオンの含有量が前記下限未満では副生成物が生成されるとともに導電性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると導電性が低下する傾向にある。
【0057】
また、このような溶液の調製に際して、溶液中に含まれるCeの塩、Gdの塩及びNiの塩の総量(含有量)は、特に制限されないが、0.2~1モル/L(より好ましくは0.3~0.7モル/L、更に好ましくは0.4~0.6モル/L)であることが好ましい。このようなCeとGdとNiの塩の総量が前記下限未満では所定量の式(1)で表される化合物(酸化物)を効率よく得ることが困難となる(所定量の化合物の製造に時間がかかる)傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる化合物(酸化物)の組成が所望の組成からずれて、均一な組成の化合物が得られなくなる傾向にある。
【0058】
また、第二工程においては、前記溶液を前記多孔体に含浸せしめる。このように、前記多孔体に前記溶液を含浸させる方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。このような方法としては、例えば、前記多孔体に前記溶液を滴下して含浸させる方法、前記多孔体に前記溶液をスプレーして含浸させる方法、前記多孔体を前記溶液に一定時間浸漬して含浸させる方法等を適宜採用できる。
【0059】
このようにして含浸させる際には、得られる燃料極において前記多孔体の質量1g当たりの前記混合伝導性酸化物の担持量(モル量)が5×10-5~5×10-3mol/g(より好ましくは1×10-4~5×10-4mol/g)となるように、溶液を利用することが好ましい。
【0060】
さらに、前記第二工程において、前記溶液を前記多孔体に含浸せしめた後に焼成する。なお、このような焼成工程を施す際には、その焼成工程前に、前記多孔体に含浸せしめた溶液から溶媒を除去すること(溶媒が水である場合には乾燥させること)が好ましい。このような溶媒の除去工程は特に制限されないが、80~200℃の温度条件で0.5~2時間静置する工程とすることが好ましい。また、このような焼成の際の条件は特に制限されないが、例えば、大気雰囲気下、800~1200℃(好ましくは、900~1000℃)の温度下で0.5~3時間(好ましくは、1~2時間)焼成することが好ましい。このような焼成により、前記多孔体に担持された形態で前記混合伝導性酸化物を形成することができる。そのため、このような第一工程及び第二工程により、前記電子伝導性酸化物粒子と、前記イオン導電性酸化物粒子と、前記混合伝導性酸化物とからなる電気化学セル用燃料極を製造することが可能となり、その燃料極の形態を、前記電子伝導性酸化物粒子と前記イオン導電性酸化物粒子とからなる多孔体に前記混合伝導性酸化物が担持された形態とすることができる。
【0061】
[電気化学セル]
本発明の電気化学セルは、前記本発明の電気化学セル用燃料極と、空気極と、固体電解質層とを備えることを特徴とするものである。
【0062】
このような電気化学セルに利用する電気化学セル用燃料極は、前述の本発明の電気化学セル用燃料極である。なお、このような電気化学セル用燃料極は、電気化学セルをSOFCとして利用する場合にはアノード電極として利用され、他方、電気化学セルをSOECとして利用する場合にはカソード電極として利用されることとなる。
【0063】
また、このような電気化学セルに利用する空気極としては、特に制限されず、SOFCやSOECの分野で利用されている公知の空気極(例えば、SOFCのカソード電極として利用されている公知の電極、SOECのアノード電極として利用されているような公知の電極等)を適宜利用できる。このような空気極としては、例えば、LaxSr1-xCoO3系酸化物(ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物:LSC)、LaxSr1-xCoyFe1-yO3系酸化物(ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物:LSCF)、SmxSr1-xCoO3系酸化物(サマリウムストロンチウムコバルト複合酸化物:SSC)等の遷移金属ペロブスカイト型酸化物(なお、前記式中のx及びyはそれぞれ、0≦x≦1、0≦y≦1の条件を満たす)からなるものを例示することができる。このような遷移金属ペロブスカイト型酸化物等の空気極の材料は1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。また、このような遷移金属ペロブスカイト型酸化物を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。
【0064】
また、このような空気極は層状の形態とすることが好ましく、その平均厚さの下限値は、集電性の向上及び反応面積の向上の観点からは、5μm以上(より好ましくは15μm以上、更に好ましくは20μm以上)であることが好ましい。また、空気極が層状である場合、平均厚さの上限値は、他の層との熱線膨張係数の差によるクラックの発生をより十分に抑制できるといった観点からは、100μm以下(より好ましくは80μm以下、更に好ましくは60μm以下)であることが好ましい。
【0065】
また、前記固体電解質層としては、特に制限されず、SOFCやSOECの分野で利用されている公知の固体電解質からなる膜、基板等を適宜利用できる。このような固体電解質層は、強度、熱安定性に優れているという観点から、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等のジルコニア系酸化物からなるものであることが好ましく、中でも、酸素イオン伝導性に優れているという観点から、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)からなるものがより好ましい。
【0066】
また、このような固体電解質としては、基板状(板状、膜状等)のものが好ましく、その平均厚さは、抵抗低減の観点から、3~20μmが好ましく、4~15μmがより好ましく、5~10μmが特に好ましい。このような固体電解質を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、特開2020-167052号公報に記載されている方法等)を適宜採用することができる。
【0067】
また、本発明の電気化学セルは、前記本発明の電気化学セル用燃料極と、空気極と、固体電解質層とを備えていればよく、それ以外の構成や構造に関する事項(例えば、各層の配置に関する構造や、他の層を含むか否かといった層構成に関する事項等)は特に制限されず、SOFCやSOECの分野において採用されている公知の構成や構造を適宜採用することができる。このような本発明の電気化学セルは、前記固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面側に配置された前記本発明の電気化学セル用燃料極と、前記固体電解質層の他方の面側に配置された空気極とからなる構造(配置構造)を有することが好ましい。また、このような電気化学セルにおいては、必要に応じて、SOFCやSOECの分野において採用されている公知の他の層(例えば、反応防止層等)を備えていてもよい。また、他の層として、例えば、反応防止層を備える場合には、その構造を、例えば、固体電解質層と空気極との間に反応防止層を更に配置した構造としてもよい。
【0068】
このような反応防止層としては、SOFCの分野において公知のものを適宜利用でき、例えば、セリア(CeO2);Gd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca及びHoのうちの少なくとも1種の元素がドープされたCeO2;からなるものを適宜利用できる。このような反応防止層の材料は、1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。なお、このような反応防止層としては、例えば、ガドリニアドープセリア(Gd2O3がドープされたCeO2:GDC)からなるシート(薄膜)を好適に利用できる。また、このような反応防止層の平均厚さとしては、SOFCに利用した場合のオーミック抵抗が低減され、空気極からの元素の拡散を抑制できるという観点から、1~20μmが好ましく、2~10μmがより好ましい。なお、このような反応防止層としては、公知の方法により製造されたシート等を適宜利用できる。
【0069】
また、このような電気化学セルの製造方法としては、例えば、シート積層法、印刷法等が挙げられる。また、このような電気化学セルの製造方法としては、例えば、前記固体電解質よりなる基板を準備し、その一方の面側に空気極を形成し(なお、反応防止層を備える形態とする場合には、前記基板の一方の表面上に反応防止層を形成した後、その反応防止層上に空気極を形成し)、他方の面側に前記本発明の電気化学セル用燃料極を形成する方法(この方法において、例えば、空気極や電気化学セル用燃料極の製造に上述のような印刷法を利用してもよい)を採用してもよい。なお、このような固体電解質よりなる基板は電気化学セルの分野において公知の方法で製造したものを適宜利用できる。また、空気極の形成方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、空気極の材料からなるペーストを準備して、基板の表面又は反応防止層の表面上に、かかるペーストを塗工(好ましくは印刷)した後に焼成する方法を採用できる。このような空気極の材料からなるペーストの製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる(なお、かかるペーストは、必要に応じて、水等の公知の溶媒や公知のバインダー等を適宜含んでいてもよい)。また、空気極の製造時の焼成の条件は、特に制限されないが、例えば、大気雰囲気下、900~1500℃(好ましくは、950~1450℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、2~5時間)焼成することが好ましい。
【0070】
また、基材の表面上に反応防止層を形成する場合、その製造方法も特に制限されず、公知の方法(例えば、特開2020-167052号公報に記載されている方法等)で反応防止層の材料からなるシートを準備し、これを基材上に貼り合わせた後(必要に応じて公知の方法で圧着等することにより貼り合わせた後)、焼成することで、基材の表面上に積層された反射防止層を形成してもよい。なお、反射防止層の製造時の焼成の条件は、特に制限されないが、例えば、大気雰囲気下、900~1500℃(好ましくは、950~1450℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、2~5時間)焼成することが好ましい。また、前記基板の他方の面側に前記本発明の電気化学セル用燃料極を形成する方法としては、前述の本発明の電気化学セル用燃料極の製造方法において説明した方法を採用することが好ましい。なお、この場合、最終的に、前述の第一工程と第二工程の双方の工程を実施することで、電気化学セル用燃料極を製造すればよく、例えば、基材(固体電解質層)の一方の面に対して前述の第一工程と第二工程を連続的に施す方法を採用してもよいし、基材(固体電解質層)の一方の面に対して第一工程を施した後、他方の面に空気極を積層する等、他の工程を別の部位において実施し、その後、第二工程を施すことで、基材(固体電解質層)の一方の面に対して前述の第一工程と第二工程の双方の工程を実施する方法を採用してもよい。このようにして、各層を形成することで、前記固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面側に配置された前記本発明の電気化学セル用燃料極と、前記固体電解質層の他方の面側に配置された空気極とからなる構造(配置構造)を有する形態の電気化学セルを製造することができる。
【0071】
このような本発明の電気化学セルは、酸化物形固体燃料電池(SOFC)及び/又は固体酸化物形電解セル(SOEC)として利用されるものであることが好ましい。なお、このような本発明の電気化学セルは、例えば、発電と水素生成を同一のセルで行う可逆作動型燃料電池(SORC:Solid Oxide Reversible type Fuel Cell)システムにも利用可能である。
【実施例0072】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
以下に記載の「混合伝導性酸化物の製造用の溶液(A)の調製工程」及び「電気化学セルの製造工程」を採用して、電気化学セルを製造した。実施例1で製造した電気化学セルの断面を模式的に示す概略断面図を
図1に示す。なお、
図1に示す電気化学セル10は、固体電解質層11と、固体電解質層11の一方の面側に配置(積層)された燃料極12と、固体電解質層11の他方の面側に配置された反応防止層13と、反応防止層13上に配置された空気極14とを備える形態のものである。
【0074】
〈混合伝導性酸化物の製造用の溶液(A)の調製工程〉
Ceの塩としてCe(NO3)3・6H2Oを用い、Gdの塩としてGd(NO3)3・6H2Oを用い、Niの塩としてNi(NO3)2・6H2Oを用いて、Ceの塩、Gdの塩及びNiの塩を所定比でイオン交換水に溶解させて、Ceの塩、Gdの塩及びNiの塩の含有量(総量)が0.5モル/Lとなる、Ce0.85Gd0.1Ni0.05O2を得るための溶液(A)を製造した。なお、このような溶液(A)の調製に際しては、溶媒を除去して焼成した後に得られる酸化物の組成がCe0.85Gd0.1Ni0.05O2となるように、溶液中のCeイオン、Gdイオン及びNiイオンの総モル量を1モルと換算した場合のCeイオンのモル量が0.85モル、Gdイオンのモル量が0.1モル、Niイオンのモル量が0.05モルとなるような割合で、Ceの塩、Gdの塩及びNiの塩をそれぞれ利用した。
【0075】
〈電気化学セルの製造工程について〉
先ず、固体電解質層形成用の基板として、市販のYSZ基板(株式会社ニッカトー製;8モル%のY2O3で安定化させたZrO2を用いたイットリア安定化ジルコニア基板;直径22mm、厚さ0.5mmの円板状)を準備した。
【0076】
また、反応防止層形成用のシートとして、ガドリニアドープセリア(略称:GDC、10モル%のGd2O3がドープされたCeO2、平均粒子径が0.8μmの粒子)からなる直径22mm、厚さ0.01mmの円板状のシートを準備した。なお、このような反応防止層形成用のシートは、以下の方法で製造した。すなわち、先ず、前記GDCの粉末:25g、バインダーとしてのポリビニルブチラール:2.75g、及び、溶媒(アルコール系溶媒(今津薬品工業製、商品名:エコノール)とフタル酸の混合溶媒):16.5gの混合物からなるスラリーを樹脂シート上に塗工し、2時間乾燥させた。その後、得られた積層物を直径22mmのパンチで打ち抜き、樹脂シートを剥離することで、GDCからなる直径22mmの円板状のシート(反応防止層形成用のシート)を製造した。
【0077】
そして、前記固体電解質層形成用の基板(円板状)の一方の面上に前記反応防止層形成用のシート(円板状)を張り合わせて、温水静水圧プレス(温度:80℃、プレス圧:200MPa、加圧時間:2分)で圧着した後、1350℃で120分間焼成することにより、YSZからなる固体電解質層の一方の表面上に、GDCからなる反応防止層が積層された直径22mm円板状の積層体(I)を得た。なお、このようにして得られた反応防止層/固体電解質層の順に積層された構造の積層体(I)において、GDCからなる反応防止層の平均厚みは約3μmとなった。
【0078】
次に、平均粒子径が0.5μmのLa0.4Sr0.6TiO3(略称:LST、Kcera社製)からなる電子伝導性酸化物粒子と、平均粒子径が0.5μmのCe0.9Gd0.1O2(略称:GDC、Kcera社製)からなるイオン導電性酸化物粒子とを質量比が1:1となるようにして含有する混合粒子18gをテルピネオール10gに添加して混錬することにより多孔体形成用のペーストを形成した。次いで、かかるペーストをスクリーン印刷により、前記積層体(I)の反応防止層13が積層されていない側の円形の表面(反応防止層13が積層された面とは反対側の固体電解質層11(基板)の表面)の中心部に塗工して、直径8mmの円形の塗工膜を形成し、その後、1340℃で2時間焼成することにより、LSTの粒子とGDCの粒子からなる円形状の多孔体からなる層を形成し、YSZからなる固体電解質層11の一方の表面上にGDCからなる反応防止層13が積層されかつ他方の表面上にLSTの粒子とGDCの粒子からなる円形状の多孔体(平均厚み:40μm、総量:0.015g)からなる層が積層された構造の積層体(II)を得た(なお、このような工程(以下、場合により「多孔体の形成工程」と称する)においては、多孔体の層の円形の面の中心と、固体電解質層の中心が同じ位置となるように多孔体からなる層を形成した)。
【0079】
その後、平均粒子径が0.5μmのLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3(略称:LSCF、Kcera社製)からなる金属酸化物粒子18gをテルピネオール10gに添加して混錬することにより得られた空気極形成用のペーストを、スクリーン印刷により、前記積層体(II)の反応防止層13の表面上の中心部に塗工して、直径18mmの円形の塗工膜を形成した後、1000℃で1時間焼成することにより、LSCF粒子からなる空気極14(平均厚み:50μm)を形成し、「空気極/反射防止層/固体電解質層/多孔体の層」の順に積層された積層体(III)を得た(なお、このような工程においては、空気層の円形の面の中心と、固体電解質層の中心が同じ位置となるように空気層を形成した)。
【0080】
次に、積層体(III)中の一方の面側(空気極が配置されている面と反対側の面)に形成されている前記多孔体の層に対して、混合伝導性酸化物の製造用の前記溶液(A)を5μL滴下して、層を構成する多孔体に前記溶液(A)を含浸せしめた後、120℃の温度条件で加熱することにより前記溶液(A)の溶媒を除去(乾燥工程)し、950℃で1時間焼成することにより、前記多孔体にCe0.85Gd0.1Ni0.05O2からなる混合伝導性酸化物を担持せしめて燃料極12を形成して、「空気極14/反射防止層13/固体電解質層11/燃料極12」の順に積層された電気化学セル10を得た。
【0081】
なお、このようにして形成された電気化学セル10中の燃料極12は、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子からなる多孔体に前記混合伝導性酸化物が担持されてなる構造を有するものとなった。さらに、燃料極12中のNiの含有量(総量)は7.3×10-6g(仕込量から求められる計算値)となった。
【0082】
(実施例2)
混合伝導性酸化物の製造用の溶液(A)の調製工程の代わりに下記混合伝導性酸化物の製造用の溶液(B)の調製工程を実施し、前記溶液(A)の代わりに下記溶液(B)を用いた以外は実施例1と同様にして、電気化学セル10を形成した。なお、このようにして形成された電気化学セル10中の燃料極12は、前記電子伝導性酸化物粒子及び前記イオン導電性酸化物粒子からなる多孔体にCe0.85Gd0.05Ni0.1O2からなる混合伝導性酸化物が担持されてなる構造を有するものとなった。なお、燃料極12中のNiの含有量(総量)は1.4×10-5g(仕込量から求められる計算値)となった。
【0083】
〈混合伝導性酸化物の製造用の溶液(B)の調製工程〉
Ceの塩としてCe(NO3)3・6H2Oを用い、Gdの塩としてGd(NO3)3・6H2Oを用い、Niの塩としてNi(NO3)2・6H2Oを用いて、Ceの塩、Gdの塩及びNiの塩を所定比でイオン交換水に溶解させて、Ceの塩、Gdの塩及びNiの塩の含有量(総量)が0.5モル/Lとなる、Ce0.85Gd0.05Ni0.1O2を得るための溶液(B)を製造した。なお、このような溶液(B)の調製に際しては、溶媒を除去して焼成した後に得られる酸化物の組成がCe0.85Gd0.05Ni0.1O2となるように、溶液中のCeイオン、Gdイオン及びNiイオンの総モル量を1モルと換算した場合のCeイオンのモル量が0.85モル、Gdイオンのモル量が0.05モル、Niイオンのモル量が0.1モルとなるような割合で、Ceの塩、Gdの塩及びNiの塩をそれぞれ利用した。
【0084】
(比較例1)
混合伝導性酸化物の製造用の溶液(A)の調製工程を実施せず、実施例1に記載さている工程のうち、積層体(III)を形成する工程までを実施して、得られた積層体(III)を比較のための電気化学セルとした。このように、前記溶液(A)を利用して多孔体に混合伝導性酸化物を担持する工程を施さなかった以外は、実施例1と同様にして、「空気極/反射防止層/固体電解質層/多孔体の層(比較のための燃料極(i))」の順に積層された構造の電気化学セルを形成した。
【0085】
(比較例2)
多孔体の形成工程の代わりに、以下に記載する比較のための燃料極(ii)の形成工程を実施し、かつ、前記溶液(A)を利用して多孔体に混合伝導性酸化物を担持する工程を施さなかった以外は、実施例1と同様にして、「空気極/反射防止層/固体電解質層/比較のための燃料極(ii)」の順に積層された構造の電気化学セルを形成した。
【0086】
〈燃料極(ii)の形成工程〉
平均粒子径1μmのNi粒子(関東化学株式会社製)と、平均粒子径0.7μmのイットリア安定化ジルコニア(略称:YSZ、8モル%のY2O3で安定化させたZrO2、第一稀元素化学工業株式会社製)からなるYSZ粒子とを質量比が1:1となるようにして含有する混合粒子18gをテルピネオール10gとともに混錬することにより得られた燃料極形成用のペーストを、スクリーン印刷により、固体電解質層11の反応防止層13が積層されていない側の円形の表面の中心部に塗工して、直径8mmの円形の塗工膜を形成し、その後、1340℃で5時間焼成することにより、Ni粒子とYSZ粒子の混合体からなる燃料極(ii)を形成した。なお、燃料極(ii)中のNiの含有量(総量)は5×10-3g(仕込量から求められる計算値)となった。
【0087】
[実施例1~2及び比較例1~2で得られた電気化学セルの特性の評価]
<溶液(A)及び(B)の焼成粉末に対するXRD測定>
先ず、実施例1及び実施例2において製造した溶液(A)及び(B)をそれぞれ用いて、各溶液に由来した焼成粉末をそれぞれ形成し、得られた各焼成粉末に対してXRD測定を行った。このような測定に利用した焼成粉末は、溶液(A)及び(B)をそれぞれ用い、その溶液を500℃で30分間加熱することにより溶液から溶媒(水)を除去し、得られた固形分を950℃で1時間焼成することにより形成した(これにより各溶液に由来した焼成粉末をそれぞれ形成した)。実施例1で得られた溶液(A)に由来して形成された焼成粉末のXRDチャート及び実施例2で得られた溶液(B)に由来して形成された焼成粉末のXRDチャートを
図2に示す。
【0088】
図2に示す結果からも明らかなように、XRDチャートにおいてCeO
2と同様のパターンが確認され、Gd及びNiのピークは確認されなかった。このようなXRDチャートから、Gd及びNiがCeO
2に固溶していることが確認された。そして、このようなXRD測定の結果から、実施例1及び実施例2では、燃料極の製造時に、用いた溶液の組成に応じた(溶液中に含まれる各金属の比率に応じた)、所望の組成の混合伝導性酸化物(実施例1ではCe
0.85Gd
0.1Ni
0.05O
2、実施例2ではCe
0.85Gd
0.05Ni
0.1O
2)がそれぞれ形成されて、多孔体に担持されたことが分かった。このように、実施例1及び実施例2においては、NiがCeO
2に固溶して利用されていることから、金属Niをそのまま利用した燃料極の従来技術と比較した場合に、燃料極の耐久性がより高いものとなることは明らかである。例えば、NiがCeO
2に固溶して酸化物として利用されていることから、燃料極の使用環境(ガス雰囲気)に基づくNiの酸化と還元の発生を十分に抑制でき、Niの膨張収縮をより高度に抑制できるものと考えられ、かかる観点から、燃料極の耐久性が向上するものと推察される。
【0089】
このような測定結果から、実施例1及び2においては、燃料極がLSTの粒子と、GDCの粒子と、混合伝導性酸化物(実施例1ではCe0.85Gd0.1Ni0.05O2、実施例2ではCe0.85Gd0.05Ni0.1O2)とからなっていることは明らかであることから、燃料極は全て酸化物により構成されたものとなっていることが分かる。そして、このような燃料極の全体の構成からも、燃料極は膨張収縮が十分に抑制されたものとなることが理解でき、燃料極の耐久性が十分に高いものとなっていることが分かる。
【0090】
<SOFCとして利用した場合の発電性能の測定>
実施例1~2及び比較例1~2で得られた電気化学セルをそれぞれ用いて、以下のようにして、SOFCとして利用した場合の発電性能を評価した。すなわち、電気化学セルを評価装置(BioLogic社製、商品名「VSP」、I(発電電流)とV(電圧)の関係を評価可能な装置)に設置し、温度:700℃の条件で、N
2とO
2の混合ガス(O
2:20体積%、N
2:残部)を空気極側に流し、かつ、H
2(100体積%)を35℃で加湿して得られたガス(水蒸気の含有割合:5.6体積%)を燃料極側に流して、前記評価装置によりI(発電電流)とV(電圧)の関係を測定した。得られた結果(セル電圧と電流の関係を示すグラフ)を
図3に示す。
【0091】
図3に示す結果からも明らかなように、LSTの粒子とGDCの粒子からなる多孔体に混合伝導性酸化物(Ce
0.85Gd
0.1Ni
0.05O
2又はCe
0.85Gd
0.05Ni
0.1O
2)が担持されてなる燃料極を備える電気化学セルを用いた場合(実施例1、実施例2)には、燃料極を前記多孔体のみからなるものとした場合(比較例1:溶液(A)又は(B)を利用せず、多孔体に混合伝導性酸化物を担持しなかった場合)に比べて、発電電流が十分に大きくなることが分かった。
【0092】
また、LSTの粒子とGDCの粒子からなる多孔体に前記混合伝導性酸化物(Ce0.85Gd0.1Ni0.05O2又はCe0.85Gd0.05Ni0.1O2)が担持されてなる燃料極を備える電気化学セルを用いた場合(実施例1、実施例2)には、Ni粒子とYSZ粒子の混合体からなる燃料極を備える電気化学セル(比較例2)と同等程度の水準の発電電流が確認された。なお、実施例1~2で得られた電気化学セル及び比較例2で得られた電気化学セルでのNiの利用の仕方を考慮すれば、実施例1~2のように混合伝導性酸化物を利用した場合には、Niの使用量を大幅に低減しながらも、金属Niを利用した場合と同等程度の発電性能を発揮できることが分かる。
【0093】
このような結果から、上記式(1)で表される混合伝導性酸化物を燃料極に利用した電気化学セル(例えば、実施例1~2参照)は、Ni粒子とYSZ粒子の混合体を燃料極に利用した従来の電気化学セル(例えば、比較例2参照)と同等程度の高い水準の発電性能を発揮しながら、Ni粒子とYSZ粒子の混合体を燃料極に利用した従来の電気化学セルよりもNiの使用量を大幅に低減できること(これにより低コスト化を図れること)が分かった。なお、前述のように、得られる混合伝導性酸化物においては、NiがCeO2に固溶されていることから、金属Niをそのまま利用した場合よりも燃料極の耐久性が高くなっているものとも考えられ、本発明によれば、燃料極へのNi使用量の低減と、燃料極の高性能化の両立が図れるとともに、燃料極の耐久性をより優れたものとすることが可能であることも分かる。
【0094】
<SOECとして利用した場合の電解性能の測定>
実施例1~2及び比較例1~2で得られた電気化学セルをそれぞれ用いて、以下のようにして、SOECとして利用した場合の水の電解特性を評価した。すなわち、電気化学セルを評価装置(BioLogic社製、商品名「VSP」、V(電圧)とI(電解電流)の関係を評価可能な装置)に設置し、温度:700℃の条件で、N
2とO
2の混合ガス(O
2:20体積%、N
2:残部)を空気極側に流し、かつ、H
2O(水蒸気)とH
2の混合ガス(H
2O:H
2(容量比)=1:1)を燃料極側に流して、前記評価装置によりV(電圧)とI(電解電流)の関係を測定した。得られた結果(セル電圧と電解電流の関係を示すグラフ)を
図4に示す。
【0095】
LSTの粒子とGDCの粒子からなる多孔体に前記混合伝導性酸化物(Ce0.85Gd0.1Ni0.05O2又はCe0.85Gd0.05Ni0.1O2)が担持されてなる燃料極を備える電気化学セルを用いた場合(実施例1、実施例2)には、燃料極を前記多孔体のみからなるものとした場合(比較例1:溶液(A)又は(B)を利用せず、多孔体に混合伝導性酸化物を担持しなかった場合)に比べて、電解電流が十分に大きくなることが分かった。
【0096】
また、LSTの粒子とGDCの粒子からなる多孔体に前記混合伝導性酸化物(Ce0.85Gd0.1Ni0.05O2又はCe0.85Gd0.05Ni0.1O2)が担持されてなる燃料極を備える電気化学セルを用いた場合(実施例1、実施例2)には、Ni粒子とYSZ粒子の混合体からなる燃料極を備える電気化学セル(比較例2)と同等程度の水準の電解電流が確認された。なお、実施例1~2で得られた電気化学セル及び比較例2で得られた電気化学セルでのNiの利用の仕方を考慮すれば、実施例1~2のように混合伝導性酸化物を利用した場合には、Niの使用量を大幅に低減しながらも、金属Niを利用した場合と同等程度の電解性能を発揮できることが分かる。
【0097】
このような結果から、上記式(1)で表される混合伝導性酸化物を燃料極に利用した電気化学セル(例えば、実施例1~2参照)によれば、Ni粒子とYSZ粒子の混合体を燃料極に利用した従来の電気化学セル(例えば、比較例2参照)と同等程度の高い水準の電解性能を発揮しながら、Ni粒子とYSZ粒子の混合体を燃料極に利用した従来の電気化学セルよりもNiの使用量を大幅に低減できること(これにより低コスト化を図れること)が分かった。なお、前述のように、得られる混合伝導性酸化物においては、NiがCeO2に固溶されていることから、金属Niをそのまま利用した場合よりも燃料極の耐久性が高くなっているものとも考えられ、本発明によれば、燃料極へのNi使用量の低減と、燃料極の高性能化の両立が図れるとともに、燃料極の耐久性をより優れたものとすることが可能であることも分かる。
以上説明したように、本発明によれば、Niの使用量を十分に低減させながら、SOFC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の発電性能を発揮することができるとともにSOEC用の燃料極として利用した場合に十分に高い水準の水の電解性能を発揮することができ、SOFC及びSOECの両セルに利用可能な電気化学セル用燃料極;その電気化学セル用燃料極を効率よく製造することが可能な電気化学セル用燃料極の製造方法;並びに、前記電気化学セル用燃料極を用いた電気化学セル;を提供することが可能となる。したがって、本発明の電気化学セル用燃料極は、例えば、SOFC用の燃料極、SOEC用の燃料極、SORC用の燃料極等として特に有用である。