(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132573
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】プレート耐火物およびスライドバルブ装置
(51)【国際特許分類】
B22D 41/28 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B22D41/28
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043398
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】濱本 直秀
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 恵輔
【テーマコード(参考)】
4E014
【Fターム(参考)】
4E014MA05
(57)【要約】
【課題】比較的簡単な方法で製造でき、かつ縦亀裂を抑制しうるプレート耐火物およびスライドバルブ装置を実現する。
【解決手段】平面図において長手方向と短手方向とを区別可能な形状を有する耐火物製の本体部2と、本体部2の長手方向の中央から一方側に偏位した位置において本体部2を貫通する貫通孔部3と、本体部2において耐火物を部分的に欠く欠損部4と、を備え、平面図における貫通孔部3の中心を原点Oとし長手方向の他方側に伸びる仮想線を始線Xとする極座標系において、欠損部4のうち原点Oからの距離が最小になる点である近位点41が、偏角の絶対値が30°以上70°以下である第一領域A1、または、偏角の絶対値が110°以上150°以下である第二領域A2、に存在し、長手方向および短手方向と直交する第三方向に沿う欠損部4の長さが4.0mm以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面図において長手方向と短手方向とを区別可能な形状を有する耐火物製の本体部と、
前記本体部の前記長手方向の中央から一方側に偏位した位置において前記本体部を貫通する貫通孔部と、
前記本体部において耐火物を部分的に欠く欠損部と、を備え、
平面図における前記貫通孔部の中心を原点とし前記長手方向の他方側に伸びる仮想線を始線とする極座標系において、前記欠損部のうち原点からの距離が最小になる点である近位点が、偏角の絶対値が30°以上70°以下である第一領域、または、偏角の絶対値が110°以上150°以下である第二領域、に存在し、
前記長手方向および前記短手方向と直交する第三方向に沿う前記欠損部の長さが4.0mm以上であるプレート耐火物。
【請求項2】
前記貫通孔部の前記短手方向の範囲と、前記欠損部の前記短手方向の範囲と、が重複しない請求項1に記載のプレート耐火物。
【請求項3】
前記第三方向に沿う前記欠損部の長さが、当該第三方向に沿う前記本体部の長さの30%以上である請求項1または2に記載のプレート耐火物。
【請求項4】
前記極座標系において、前記近位点と、前記欠損部のうち原点からの距離が最大になる点である遠位点と、の距離が2.0mm以上である請求項1または2に記載のプレート耐火物。
【請求項5】
前記極座標系において、前記近位点と、前記欠損部のうち原点からの距離が最大になる点である遠位点と、の偏角が一致する請求項1または2に記載のプレート耐火物。
【請求項6】
平面図において、前記欠損部が前記本体部の外周から5.0mm以上離間している請求項1または2に記載のプレート耐火物。
【請求項7】
請求項1または2に記載のプレート耐火物である第一プレート耐火物、および、
平面図において長手方向と短手方向とを区別可能な形状を有する耐火物製の第二本体部と、前記本体部の前記長手方向の中央から一方側に偏位した位置において前記本体部を貫通する第二貫通孔部と、を有するプレート耐火物である第二プレート耐火物、を備え、
前記第一プレート耐火物における前記欠損部の前記短手方向の範囲と、前記第二プレート耐火物における前記第二貫通孔部の前記短手方向の範囲と、が重複しないスライドバルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の流量調整等に用いられるプレート耐火物およびスライドバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
取鍋やタンディッシュなどの容器から溶融金属を流出させる際の流出口として、スライドバルブ装置が汎用される。スライドバルブ装置は、互いに摺動可能な複数のプレート耐火物を含み、それぞれのプレート耐火物に設けられた貫通孔部の相対位置を調節することによって、溶融金属の流量制御を実現する。
【0003】
プレート耐火物の貫通孔部に溶融金属が流通する際に、貫通孔部の周辺とそれ以外の部分との間に温度差が生じる。この温度差は熱応力の原因となり、プレート耐火物に亀裂を生じさせうる。特に、プレート耐火物のスライド方向に走る亀裂(「縦亀裂」と呼ばれる。)が生じる場合、流通する溶融金属と接触しうる位置に亀裂が生じることになるため、亀裂を起点とするプレート耐火物の損傷が生じやすい。
【0004】
非特許文献1では、亀裂を抑制する目的で鉄バンドが焼嵌めされているプレート耐火物について、スライドバルブ装置における固定方法の違いによる亀裂の発生挙動の違いが検討されている。非特許文献1では、スライド方向を含まない四面においてプレート耐火物を拘束した場合に縦亀裂が生じにくいこと、および、拘束位置をプレート耐火物の貫通孔部に近づけた場合に縦亀裂が生じにくいこと、が報告されている。
【0005】
また、特許文献1には、プレート耐火物の外周部に凹部を設けることによって、四面拘束の位置を貫通孔部に近づけることができるようにしたプレート耐火物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】耐火物,1997年,49巻,6号,349~354ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1に開示された技術的思想に沿って縦亀裂を抑制しようとする場合、プレートの拘束面を、プレートのスライド方向と大きく異なる方向に配置することになる。すなわち拘束面が荷重方向となす角が小さくなり、プレートを確実に固定するにはその拘束力を相当に大きくする必要があった。そのため、プレート耐火物を取り外そうとする際に大きな力を要し、プレート耐火物の交換作業が困難になる場合があった。この問題は、特許文献1の技術のようにプレート耐火物の形状に工夫を加えることで緩和されうるが、その一方で、プレート耐火物の加工精度の要求水準が高くなるという課題があった。
【0009】
そこで、比較的簡単な方法で製造でき、かつ縦亀裂を抑制しうるプレート耐火物およびスライドバルブ装置の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るプレート耐火物は、平面図において長手方向と短手方向とを区別可能な形状を有する耐火物製の本体部と、前記本体部の前記長手方向の中央から一方側に偏位した位置において前記本体部を貫通する貫通孔部と、前記本体部において耐火物を部分的に欠く欠損部と、を備え、平面図における前記貫通孔部の中心を原点とし前記長手方向の他方側に伸びる仮想線を始線とする極座標系において、前記欠損部のうち原点からの距離が最小になる点である近位点が、偏角の絶対値が30°以上70°以下である第一領域、または、偏角の絶対値が110°以上150°以下である第二領域、に存在し、前記長手方向および前記短手方向と直交する第三方向に沿う前記欠損部の長さが4.0mm以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るスライドバルブ装置は、上記のプレート耐火物である第一プレート耐火物、および、平面図において長手方向と短手方向とを区別可能な形状を有する耐火物製の第二本体部と、前記本体部の前記長手方向の中央から一方側に偏位した位置において前記本体部を貫通する第二貫通孔部と、を有するプレート耐火物である第二プレート耐火物、を備え、前記第一プレート耐火物における前記欠損部の前記短手方向の範囲と、前記第二プレート耐火物における前記第二貫通孔部の前記短手方向の範囲と、が重複しないことを特徴とする。
【0012】
これらの構成によれば、欠損部が存在する方向に亀裂を誘導できるため、縦亀裂を抑制しやすい。また、一部を欠損部とする耐火物の製造は従来の方法で可能であるので、上記の構成のプレート耐火物およびスライドバルブ装置の製造は、比較的簡単である。さらに、上記の構成のスライドバルブ装置によれば、プレート耐火物の欠損部が溶融金属と接しにくいため、溶融金属の侵入を避けやすい。
【0013】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0014】
本発明に係るプレート耐火物は、一態様として、前記貫通孔部の前記短手方向の範囲と、前記欠損部の前記短手方向の範囲と、が重複しないことが好ましい。
【0015】
この構成によれば、欠損部が溶融金属と接しにくいため、溶融金属の侵入を避けやすい。
【0016】
本発明に係るプレート耐火物は、一態様として、前記第三方向に沿う前記欠損部の長さが、当該第三方向に沿う前記本体部の長さの30%以上であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、欠損部が亀裂を誘導する効果が発現しやすい。
【0018】
本発明に係るプレート耐火物は、一態様として、前記極座標系において、前記近位点と、前記欠損部のうち原点からの距離が最大になる点である遠位点と、の距離が2.0mm以上であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、欠損部が亀裂を誘導しやすい。
【0020】
本発明に係るプレート耐火物は、一態様として、前記極座標系において、前記近位点と、前記欠損部のうち原点からの距離が最大になる点である遠位点と、の偏角が一致することが好ましい。
【0021】
この構成によれば、欠損部が亀裂を誘導する効果が高まりやすい。
【0022】
本発明に係るプレート耐火物は、一態様として、平面図において、前記欠損部が前記本体部の外周から5.0mm以上離間していることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、欠損部が外気の流入の原因になりにくい。
【0024】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係るプレート耐火物の平面図である。
【
図3】変形例に係るプレート耐火物の平面図である。
【
図5】実施形態に係るスライドバルブ装置の側面断面図である。
【
図6】実施形態に係るスライドバルブ装置の全閉状態を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るプレート耐火物およびスライドバルブ装置の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係るプレート耐火物を、スライドバルブ装置10に使用されるプレート耐火物1に適用した例について説明する。
【0027】
〔プレート耐火物の構成〕
プレート耐火物1は、耐火物製の本体部2と、本体部2を貫通する貫通孔部3と、本体部2において耐火物を部分的に欠く欠損部4と、を備える(
図1、
図2)。
【0028】
本体部2は、耐火物製の板状部材である。本体部2を構成する耐火物としては、連続鋳造用プレート耐火物に従来適用されている緻密質耐火物を使用できる。当該緻密質耐火物としては、当分野において通常用いられる緻密質耐火物を使用でき、その基材としては、アルミナ質、ムライト質、スピネル質、マグネシア質、ジルコニア質等の耐火物として一般に使用される酸化物系の材質、および、それらの酸化物と炭素等の非酸化物とを組み合わせた材質、などの諸材質を例示できる。
【0029】
本体部2は、平面図(
図1)において、長方形の四隅に面取りを施した形状を有する。したがって本体部2は、平面図において長手方向(
図1紙面左右方向)と短手方向(
図1紙面上下方向)とを区別可能な形状を有する。
【0030】
貫通孔部3は、本体部2を貫通する孔部分である。貫通孔部3が本体部2を貫通する方向は、板状部材である本体部2の厚さ方向(第三方向の一例である。)であり、上記の長手方向および短手方向と直交する方向(
図1紙面と直交する方向)である。本実施形態では、貫通孔部3は平面図において直径80mmの円である。なお、貫通孔部3の周囲には、下ノズルN2(後述する。)と接続するための突起が設けられている。
【0031】
貫通孔部は、平面図(
図1)において、本体部2の長手方向の中央から一方側に偏位した位置において本体部2を貫通している。本実施形態では、貫通孔部3が
図1において長手方向の中央から左側に偏位した位置に設けられている例を示している。
【0032】
欠損部4は、本体部2において耐火物を部分的に欠く部分である。欠損部4は、たとえば、本体部2の上面および下面にわたって厚さ方向に貫通する貫通孔、本体部2の上面または下面から厚さ方向に貫通しない態様で設けられている凹部、および、本体部2の上面および下面のいずれにも開口しない空隙、などの態様で設けられ、いずれの場合も第三方向に沿う欠損部4の長さは4.0mm以上である。本実施形態では、欠損部4が貫通孔の態様で設けられている例を示している。
【0033】
欠損部4の平面図(
図1)における形状は特に限定されず、たとえば、円形、楕円形、長円形、矩形、多角形、直線形、曲線形、波線形、またはこれらの組み合わせなど、任意の形状でありうる。なお、欠損部4は複数設けられていてもよく、この場合は複数の欠損部4の形状はそれぞれ独立に選択されうる。本実施形態では、平面図において円形の欠損部4が二つ設けられている例を示している。
【0034】
次に欠損部4の位置を説明するが、その前提として、欠損部4の位置を表現する曲座標系を定義する。欠損部4の位置は、平面図における貫通孔部3の中心を原点Oとし、長手方向の他方側に伸びる仮想線を始線Xとする極座標系で表現される(
図1)。本実施形態では、平面図において貫通孔部3が円形であるので、貫通孔部3の中心は当該円の中心であり、これが極座標系の原点Oとなる。なお、平面図において貫通孔部が円形ではない図形である場合は、当該図形の幾何中心が極座標系の原点になる。また、本実施形態では、貫通孔部3が
図1において左側に偏位した位置に設けられているので、始線Xは
図1において原点Oから右側に延びる。
【0035】
欠損部4は、欠損部4のうち原点からの距離が最小になる点である近位点41が、偏角の絶対値が30°以上70°以下である第一領域A1に存在するように設けられている(
図1)。なお、第一領域A1は偏角の絶対値によって定義されるため、
図1に示すように始線Xの上下に一つずつの第一領域A1が存在する。本実施形態では、二つの欠損部4が二つの第一領域A1に一つずつ設けられている。なお、欠損部4は、近位点41が、偏角の絶対値が110°以上150°以下である第二領域A2(
図1)に存在するように設けられていてもよい。この点については変形例として後述する。
図1では、第一領域A1および第二領域A2を画定する直線に偏角θの値を付して示している。
【0036】
欠損部4が第一領域A1または第二領域A2に設けられていることによって、本体部2に生じる亀裂を第一領域A1および第二領域A2に誘導することができる。これによって、本体部2の長手方向に亀裂が走ること(縦亀裂が生じること)を回避しやすい。
【0037】
また、本実施形態では、貫通孔部3の短手方向の範囲Y1と欠損部4の短手方向の範囲Y2とが重複しない位置に欠損部4が設けられている。なお、範囲Y1と範囲Y2とが3.0mm以上離れていることが好ましい。
【0038】
本実施形態では、欠損部4が平面図において直径4.0mmの円である。したがって、近位点41は、極座標系の原点Oと欠損部4の中心とを結ぶ直線L1と欠損部4の周との二つの交点のうち、原点Oに近い方の点になる。また、欠損部4のうち原点からの距離が最大になる点である遠位点42は、当該二つの交点のうち原点Oから遠い方の点である。以上の関係から明らかなように、近位点41と遠位点42とは、いずれも直線L1上にあるため、両者の偏角は一致する。
【0039】
また、近位点41と遠位点42との距離は欠損部4の直径と一致し、4.0mmである。この例のように、近位点41と遠位点42との距離が2.0mm以上であると、欠損部4が亀裂を誘導しやすいため、好ましい。
【0040】
欠損部4は、平面図(
図1)において本体部2の外周から5.0mm以上内側の領域に設けられている。この例のように、欠損部4が本体部2の外周から5.0mm以上離間していると、欠損部4に起因する本体部2の強度低下を防ぎやすく、かつ、本体部2の外周から欠損部4を経由する外気の侵入を防ぎやすいため、好ましい。
【0041】
〔プレート耐火物の製造方法〕
本実施形態に係るプレート耐火物1は、耐火物製の部材の製造方法として公知の製造方法によって製造されうる。すなわち、所望の材料を所望の質量比で混合した混合材料を、プレートの形状に成形して予備成形体を得たのちに、予備成形体を焼成してプレート耐火物1を得ることができる。なお、貫通孔部3および欠損部4(以下、欠損部4等、という。)としては、欠損部4等を有さない板状の耐火物を製造したのちに欠損部4等に相当する部分の耐火物を取り除く方法、予備成形体の成形に用いる金型に欠損部4等に相当する突起等を設けておく方法、予備成形体のうち欠損部4等に相当する部分を焼成によって焼失する焼失材料により形成しておく方法(焼成後に焼失材料が焼失して欠損部4等にあたる空間が形成される。)、などが例示される。
【0042】
〔プレート耐火物の変形例〕
次に、欠損部の変形例について説明する。なお、本体部2および貫通孔部3の構成、長手方向、短手方向、および厚さ方向(第三方向)の定義、ならびに極座標系の定義は、上記の実施形態と同様である。
【0043】
変形例に係るプレート耐火物1A(
図3、
図4)は、平面図(
図3)において楕円形の欠損部を四つ有する。このうち二つの欠損部5は近位点51が第一領域A1に存在するように設けられ、残りの二つの欠損部6は近位点61が第二領域A2に存在するように設けられている。すなわち当変形例では、四つの欠損部5、6が、貫通孔部3の四方に一つずつ設けられている。
【0044】
欠損部5は、近位点51のみならず欠損部5の全体が第一領域A1に存在する。一方、欠損部6は、一部が第二領域A2の外側にある。このように、近位点が第一領域A1または第二領域A2にある限りにおいて、欠損部の一部が第一領域A1または第二領域A2の外側にあってもよい。
【0045】
欠損部5は、平面図(
図3)において楕円形の長軸が、極座標系の原点Oと近位点51とを結ぶ直線L2上にある。そのため、欠損部5の遠位点52も直線L2上にあり、近位点51と遠位点52との偏角は一致する。一方、欠損部6は、楕円形の長軸が原点Oと近位点61とを結ぶ直線L3上にない。そのため、欠損部6の遠位点62は直線L3上になく、近位点61と遠位点62との偏角は一致しない。このように、欠損部の近位点と遠位点との偏角が一致するか否かは任意である。
【0046】
欠損部5、6は、本体部2の下面(
図4において下側の面)から厚さ方向に貫通しない態様で設けられている凹部である(
図4)。この凹部の深さZ(第三方向に沿う欠損部の長さの一例である。)は、欠損部5、6が設けられている部分における本体部2の厚さH(第三方向に沿う本体部の長さの一例である。)の50%である。この例のように、第三方向に沿う欠損部の長さを本体部の長さの30%以上とすると、欠損部が亀裂を誘導する効果が発現しやすく好ましい。なお、複数の欠損部が凹部の態様で設けられる場合、その深さ(第三方向に沿う欠損部の長さ)は、それぞれの欠損部について同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0047】
当変形例では、欠損部5にモルタルMが充填されている(
図4)。この例のように、欠損部に耐火物以外の物質が充填されていてもよい。耐火物以外の物質が充填されているとしても、耐火物を部分的に欠いた構造であることに変わりはなく、本体部2における非連続部分として亀裂を誘導する効果を有する。欠損部に充填されうる材料としては、モルタルの他に、黒鉛ペースト、金属ペースト、グレーズなどが例示されるが、これらに限定されない。これらの充填物には、欠損部そのものや誘導された亀裂によって生じた空隙を塞ぐことで外気の侵入を遮断する効果や、プレート耐火物を補強する効果などを持つものがあり、目的に応じて適宜使用することができる。
【0048】
〔スライドバルブ装置の実施形態〕
次に、スライドバルブ装置10の実施形態について説明する。スライドバルブ装置10は、プレート耐火物1(第一プレート耐火物の一例である。)と、第二プレート耐火物11と、を含み、プレート耐火物1および第二プレート耐火物11には鉄バンド14が装着されている(
図5)。第二プレート耐火物11は、取鍋(不図示)から出湯した溶鋼が流通する上ノズルN1に接続されており、プレート耐火物1は、溶鋼をタンディッシュ(不図示)に案内する下ノズルN2に接続されている。なお、第二プレート耐火物11、上ノズルN1、および下ノズルN2を構成する材料として、それぞれの部位を構成する耐火材として公知のものが使用される。
【0049】
第二プレート耐火物11は、プレート耐火物1と概ね同様の形状を有するが、欠損部を有さない。すなわち第二プレート耐火物11は、第二本体部12および第二貫通孔部13を有し、これらの各部位の寸法はプレート耐火物1の本体部2および貫通孔部3と同様である。なお、第二プレート耐火物11とプレート耐火物1とは互い違いに組み合わされている。すなわち、プレート耐火物1の貫通孔部3が
図5の左側に偏位した位置に設けられているのに対し、第二プレート耐火物11の第二貫通孔部13は
図5の右側に偏位した位置に設けられている。また、スライドバルブ装置10を流通する溶鋼は
図5の上から下に向けて流通する。したがって、第二プレート耐火物11がプレート耐火物1の上流側に設けられている。
【0050】
第二プレート耐火物11の第二貫通孔部13は、上ノズルN1と連通しており、溶鋼の流路として機能する。同様に、プレート耐火物1の貫通孔部3は、下ノズルN2と連通しており、溶鋼の流路として機能する。
【0051】
スライドバルブ装置10は、第二プレート耐火物11に対してプレート耐火物1(および下ノズルN2)を摺動させることによって、第二貫通孔部13と貫通孔部3との相対位置を調整し、これによって溶鋼の流量を調節する装置である。具体的には、平面図において第二貫通孔部13と貫通孔部3とが重複部分を有さない全閉状態(
図6)と、平面図において第二貫通孔部13と貫通孔部3とが一致する全開状態との間で、第二プレート耐火物11とプレート耐火物1との相対位置を任意に選択でき、通常は平面図において第二貫通孔部13と貫通孔部3とが部分的に重複する状態(
図5)で使用される。
【0052】
本実施形態では、貫通孔部3の短手方向の範囲Y1と欠損部4の短手方向の範囲Y2とが重複しない位置に欠損部4が設けられている(
図1)。また、第二プレート耐火物11の第二貫通孔部13の短手方向の範囲と、プレート耐火物1の欠損部4の短手方向の範囲とも重複しない(
図6)。そのため、欠損部4は、プレート耐火物1の摺動動作によって第二プレート耐火物11の第二貫通孔部13と相対する可能性がある部分を避けて設けられている。これによって、欠損部4が第二貫通孔部13を満たす溶鋼と接しにくいため、欠損部4から本体部に溶鋼が侵入することを避けやすい。
【0053】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係るプレート耐火物およびスライドバルブ装置のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0054】
上記の実施形態では、貫通孔部3の短手方向の範囲Y1と欠損部4の短手方向の範囲Y2とが重複しない位置に欠損部4が設けられている構成を例として説明した。しかし本発明において、貫通孔部の短手方向の範囲と欠損部の短手方向の範囲とが重複していてもよい。
【0055】
上記の実施形態では、欠損部4を有するプレート耐火物1と、欠損部を有さない第二プレート耐火物11と、の二つのプレート耐火物を含むスライドバルブ装置10を例として説明した。しかし、本発明に係るプレート耐火物の数量は限定されない。たとえば、上ノズルに接続されたプレート耐火物、下ノズルに接続されたプレート耐火物、これらの間に摺動可能に設置されたプレート耐火物、の三つのプレート耐火物を含む場合において、いずれかのプレート耐火物を本発明に係るプレート耐火物とした場合も、本発明の一実施形態である。
【0056】
また、上記の実施形態では、スライドバルブ装置10に含まれる二つのプレート耐火物のうちの一方(プレート耐火物1)のみが欠損部4を有する構成を例として説明したが、スライドバルブ装置に含まれる複数のプレート耐火物のうち本発明に係るプレート耐火物の数量は限定されない。
【0057】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0058】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0059】
〔実施例1〕
二つの第一領域のそれぞれに一つずつの欠損部を設けたプレート耐火物を作成した。ただし、本体部の厚さHを40mmとし、貫通孔部の直径Dを80mmとし、欠損部を直径2.0mmの円形貫通孔とした。欠損部が貫通孔であるため、欠損部の長さZは本体部の厚さHと同じ40mmである。また、欠損部の近位点を極座標系における(r,θ)=(71,45°)の位置とした。この近位点の始線からの離間距離は50mmである。
【0060】
続いて、プレート耐火物を用いて、上記の実施形態(
図5および
図6)と同様の構成のスライドバルブ装置を作成した。実施例1のプレート耐火物と組み合わせる固定プレート耐火物として、欠損部を有さない他はプレート耐火物と同様の寸法の耐火物を用いた。また、プレート耐火物および固定プレート耐火物の外周に装着される鉄バンドの厚さを4.5mmとし、各プレート耐火物の四方の面取り部から1MPaの負荷をかけて拘束した。
【0061】
上記のスライドバルブ装置を、取鍋の下部に取り付けられるスライドバルブ装置として使用した。取鍋に満たされた溶鋼をすべて排出するまでの使用を一回と数えて複数回の使用を実施し、損傷が見られ使用不可と判断されるまでの使用回数を数えた。実施例1において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0062】
〔実施例2〕
欠損部を直径4.0mmの円形貫通孔とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。実施例2において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0063】
〔実施例3〕
欠損部を直径4.0mmの円形貫通孔とし、欠損部の近位点を極座標系における(r,θ)=(85,45°)の位置とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。なお、この場合の近位点の始線からの離間距離は60mmである。実施例3において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0064】
〔実施例4〕
欠損部を、直径が4.0mmであり、長さZが25mmである円形凹部とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。実施例4において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0065】
〔実施例5〕
欠損部の近位点を極座標系における(r,θ)=(87,35°)の位置とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。なお、この場合の近位点の始線からの離間距離は50mmであり、実施例1と同様である。実施例5において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0066】
〔実施例6〕
欠損部の近位点を極座標系における(r,θ)=(61,55°)の位置とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。なお、この場合の近位点の始線からの離間距離は50mmであり、実施例1と同様である。実施例6において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0067】
〔実施例7〕
欠損部を長軸8mm、短軸2mmの楕円形貫通孔とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。欠損部は、極座標系の原点と近位点とを結ぶ直線上に欠損部の長軸がある配置とした。実施例7において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0068】
〔実施例8〕
欠損部を長辺8mm、短辺2mmの長方形貫通孔とし、欠損部の近位点を極座標系における(r,θ)=(78,50°)の位置とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。欠損部は、極座標系の原点と近位点とを結ぶ直線と欠損部の長辺とが平行である配置とした。なお、この場合の近位点の始線からの離間距離は50mmであり、実施例1と同様である。実施例8において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0069】
〔実施例9〕
欠損部を長辺40mm、短辺2mmの長方形貫通孔とした他は、実施例8と同様の条件で試験を行った。実施例9において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0070】
〔実施例10〕
欠損部にモルタルを充填した他は、実施例9と同様の条件で試験を行った。欠損部は、極座標系の原点と近位点とを結ぶ直線と欠損部の長辺とが平行である配置とした。なお、この場合の近位点の始線からの離間距離は50mmであり、実施例1と同様である。実施例10において使用不可と判断されるまでの使用回数は8回だった。
【0071】
〔実施例11〕
欠損部を直径1.0mmの円形貫通孔とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。実施例11において使用不可と判断されるまでの使用回数は7回だった。
【0072】
〔実施例12〕
欠損部を直径4.0mmの円形貫通孔とし、欠損部の近位点を極座標系における(r,θ)=(42,45°)の位置とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。なお、この場合の近位点の始線からの離間距離は30mmである。実施例12において使用不可と判断されるまでの使用回数は7回だった。
【0073】
〔実施例13〕
欠損部を、直径が4.0mmであり、長さZが10mmである円形凹部とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。実施例13において使用不可と判断されるまでの使用回数は7回だった。
【0074】
〔比較例1〕
欠損部を有さない構造とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。比較例1において使用不可と判断されるまでの使用回数は6回だった。
【0075】
〔比較例2〕
欠損部を直径4.0mmの円形貫通孔とし、欠損部の近位点を極座標系における(r,θ)=(118,25°)の位置とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。なお、この場合の近位点の始線からの離間距離は50mmであり、実施例1と同様である。比較例2では、欠損部の近位点が第一領域および第二領域のいずれにも該当しない領域にある。比較例2において使用不可と判断されるまでの使用回数は6回だった。
【0076】
〔比較例3〕
欠損部を直径4.0mmの円形貫通孔とし、欠損部の近位点を極座標系における(r,θ)=(52,75°)の位置とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。なお、この場合の近位点の始線からの離間距離は50mmであり、実施例1と同様である。比較例3では、欠損部の近位点が第一領域および第二領域のいずれにも該当しない領域にある。比較例3において使用不可と判断されるまでの使用回数は6回だった。
【0077】
〔比較例4〕
欠損部を、直径が4.0mmであり、長さZが3mmである円形凹部とした他は、実施例1と同様の条件で試験を行った。比較例4において使用不可と判断されるまでの使用回数は6回だった。
【0078】
〔結果〕
上記の実施例および比較例から明らかなように、欠損部の位置および寸法を特定の範囲とした実施例1~13において、欠損部を設けない比較例1および欠損部の位置および寸法の少なくとも一方が特定の範囲を外れる比較例2~4に比べて、プレート耐火物の寿命が長かった。本発明者らが見出した条件を満たす欠損部を設けることによって、プレート耐火物の寿命を延長できることが示された。
【0079】
【0080】
【0081】