(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132589
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】基地局機能配置決定装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20240920BHJP
H04W 24/02 20090101ALI20240920BHJP
H04W 24/06 20090101ALI20240920BHJP
【FI】
H04W16/18
H04W24/02
H04W24/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043423
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】米川 慧
(72)【発明者】
【氏名】塚本 優
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 和広
(72)【発明者】
【氏名】村松 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】黒川 茂莉
(72)【発明者】
【氏名】新保 宏之
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA11
5K067AA21
5K067HH22
5K067HH23
(57)【要約】
【課題】無線アクセスネットワークの各セルの基地局機能配置を予測モデルにより全体最適を考慮して決定する基地局機能配置決定装置を提供する。
【解決手段】セル毎に制御周期tにおける基地局機能配置、要求スループット及びリソース使用量に基づいて制御周期t+1におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測する予測モデルMと予め構築し、セル毎に任意の制御時刻における要求スループット及びリソース使用量並びに全ての基地局機能配置を、対応する予測モデルに入力して各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測し、各セルの各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率の予測結果に基づいてセル間の基地局機能配置の組み合わせを最適化し、最適化された組み合わせの基地局機能配置を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線アクセスネットワークの各セルの基地局機能配置を決定する基地局機能配置決定装置において、
セル毎に制御周期tにおける基地局機能配置、要求スループット及びリソース使用量に基づいて制御周期t+1におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測する予測モデルと、
セル毎に任意の制御時刻における要求スループット及びリソース使用量並びに全ての基地局機能配置を、対応する予測モデルに入力して各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測する手段と、
前記各セルの各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率の予測結果に基づいてセル間の基地局機能配置の組み合わせを最適化する手段とを具備し、
セル毎に最適化された組み合わせの基地局機能配置を採用することを特徴とする基地局機能配置決定装置。
【請求項2】
前記予測モデルは、前記基地局機能配置及び要求スループットをサービス毎の入力として、前記要求品質達成率をサービスごとに予測することを特徴とする請求項1に記載の基地局機能配置決定装置。
【請求項3】
前記予測モデルが、制御周期tにおける基地局配置、要求スループット及びリソース使用量に基づいて、制御周期t+1におけるリソース使用量を予測する第1予測モデル及び要求品質達成率を予測する第2予測モデルを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の基地局機能配置決定装置。
【請求項4】
前記最適化する手段は、ヒルクライム法を用いてセル間の基地局機能配置の組み合わせを最適化することを特徴とする請求項1又は2に記載の基地局機能配置決定装置。
【請求項5】
前記予測モデルは、セル毎に制御周期tにおける基地局機能配置、要求スループット及びリソース使用量に基づいて予測した制御周期t+1におけるリソース使用量及び要求品質達成率の誤差を目的関数とする教師あり学習により構築されることを特徴とする請求項1又は2に記載の基地局機能配置決定装置。
【請求項6】
仮想化されたDU及びCUを各セルの収容局及びアンテナサイトの少なくとも一方に分散配置する基地局機能配置を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の基地局機能配置決定装置。
【請求項7】
前記各セルのリソース使用量が、収容局の計算機リソース、アンテナサイトの計算機リソース及び当該収容局とアンテナサイトとを接続する伝送路のリソースの使用量であることを特徴とする請求項6に記載の基地局機能配置決定装置。
【請求項8】
前記要求品質達成率がスループットの達成率及び通信遅延の達成率であることを特徴とする請求項1又は2に記載の基地局機能配置決定装置。
【請求項9】
無線アクセスネットワークの各セルにおける基地局機能配置を決定する基地局機能配置決定方法において、
セル毎に制御周期tにおける基地局機能配置、要求スループット及びリソース使用量に基づいて制御周期t+1におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測する予測モデルに、各セルの要求スループット及びリソース使用量並びに全ての基地局機能配置を入力して各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測し、
前記各セルの各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率の予測結果に基づいてセル間の基地局機能配置の組み合わせを最適化し、
セル毎に最適化された組み合わせの基地局機能配置を採用することを特徴とする基地局機能配置決定方法。
【請求項10】
前記予測モデルを、セル毎に制御周期tにおける基地局機能配置、要求スループット及びリソース使用量に基づいて予測した制御周期t+1におけるリソース使用量及び要求品質達成率の誤差を目的関数とする教師あり学習により構築することを特徴とする請求項9に記載の基地局機能配置決定方法。
【請求項11】
無線アクセスネットワークの各セルの基地局機能配置を決定する基地局機能配置決定プログラムにおいて、
セル毎に制御周期tにおける基地局機能配置、要求スループット及びリソース使用量に基づいて制御周期t+1におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測する予測モデルに、各セルの要求スループット及びリソース使用量並びに全ての基地局機能配置を入力して各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測する手順と、
前記各セルの各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率の予測結果に基づいてセル間の基地局機能配置の組み合わせを最適化する手順とをコンピュータに実行させ、
セル毎に最適化された組み合わせの基地局機能配置を採用することを特徴とする基地局機能配置決定プログラム。
【請求項12】
前記予測モデルを、セル毎に制御周期tにおける基地局機能配置、要求スループット及びリソース使用量に基づいて予測した制御周期t+1におけるリソース使用量及び要求品質達成率の誤差を目的関数とする教師あり学習により構築する手順を更に含むことを特徴とする請求項11に記載の基地局機能配置決定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局機能配置決定装置、方法及びプログラムに係り、特に、無線アクセスネットワークの各セルの基地局機能配置を予測モデルにより全体最適を考慮して決定する基地局機能配置決定装置、方法及びプログラム関する。
【背景技術】
【0002】
5Gでは、特許文献1が開示するように、RANスライシング技術によって仮想化された基地局機能(vDU,vCU)をアンテナサイトや収容局に適応的に配置することができる。O-RAN仕様では、トラヒックの変動に応じてスライスを最適化する方法が策定されており(非特許文献1)、その実現のために各種リソース情報を収集することが規定されており(非特許文献2)、それらの情報を使用して基地局機能配置を変更する方法が提案されている(特許文献2)。
【0003】
基地局機能の配置に応じて各種ネットワークリソースの消費量は異なり、セル間で共有されているリソースもあるため、基地局機能配置の決定に際しては全体最適を考慮することが重要となる。
【0004】
基地局機能配置の決定方法として、特許文献3~6には強化学習を用いる方法が開示されている。これらの方法においては、基地局機能配置の学習に際してRANに対して基地局機能配置を試行錯誤することにより学習データを収集し学習モデルの更新を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-136787号公報
【特許文献2】特開2022-154666号公報
【特許文献3】特開2022-165659号公報
【特許文献4】特開2022-165660号公報
【特許文献5】特開2022-165661号公報
【特許文献6】特開2022-171145号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】O-RAN WG1,"Slicing architecture",v03.00,3.2.3 Use Case 3: NSSI Resource Allocation Optimization
【非特許文献2】3GPP(登録商標),"TS 28.552",V17.1.0,2020-12
【非特許文献3】Yu Tsukamoto, Haruhisa Hirayama, Seung Il Moon, Hiroyuki Shinbo, "Adaptive Function Placement with Distributed Deep Reinforcement Learning in RAN Slicing," The 2022 IEEE 95th Vehicular Technology Conference VTC2022-Spring)
【非特許文献4】Yu Tsukamoto, Haruhisa Hirayama, Seung Il Moon, Shinobu Nanba, and Hiroyuki Shinbo, "Feedback control for adaptive function placement in uncertain traffic changes on an advanced 5G system," 2021 IEEE 18th Annual Consumer Communications and Networking Conference (CCNC 2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、RANの本番環境において基地局機能配置を試行錯誤することは、不適切な基地局機能配置を選択することにより通信品質を劣化させる等のリスクを伴う。また、学習モデルの精度が高まるまで試行錯誤を続ける必要があり時間を要する。さらに、本番環境でのリスクを減らすためにシミュレーション環境を使用することも考えられるが、本番環境とシミュレーション環境の間に生じるモデル化誤差は学習モデルの精度を劣化させる。
【0008】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、基地局機能配置と各種リソース(伝送路、計算機等)の使用量や要求品質達成率(スループット、通信遅延等)との関係を教師あり学習で学習した予測モデルを用いて、基地局機能配置の組み合わせを最適化することにより基地局機能配置を決定する基地局機能配置決定装置、方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、無線アクセスネットワークの各セルの基地局機能配置を決定する基地局機能配置決定装置において、セル毎に制御周期tにおける基地局機能配置、要求スループット及びリソース使用量に基づいて制御周期t+1におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測する予測モデルと、セル毎に任意の制御時刻における要求スループット及びリソース使用量並びに全ての基地局機能配置を、対応する予測モデルに入力して各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率を予測する手段と、各セルの各基地局配置におけるリソース使用量及び要求品質達成率の予測結果に基づいてセル間の基地局機能配置の組み合わせを最適化する手段とを具備し、最適化された組み合わせの基地局機能配置を採用するようにした点に特徴がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、RANに対してマニュアル制御したり、比較的リスクの低いフィードバック制御をした実績データを用いて学習モデルを事前に学習したりすることが可能となり、強化学習を用いた方法における課題である、試行錯誤に伴うリスクや時間が不要となり、シミュレーション環境が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無線アクセスネットワーク(RAN)の構成例を示すブロック図である。
【
図2】RANの基地局機能配置の例を示す説明図である。
【
図3】基地局機能配置制御部の構成例を示すブロック図である。
【
図4】基地局機能配置制御方法の概略手順のフローチャートである。
【
図5】基地局機能配置制御方法の詳細な手順の例を示すシーケンス図である。
【
図6】学習モデルの構築方法を模式的に示した図である。
【
図7】ヒルクライム法による最適化手順の例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る無線アクセスネットワーク(RAN)1の構成例を示した機能ブロック図である。ここでは、RANスライシング技術及びO-RAN仕様が適用されるRANを例にして説明するが、O-RAN仕様の適用に限定されるものではない。
【0013】
RAN1はSMO Functions(Service and Management Orchestration機能部)11、Non-RT RIC(非リアルタイムRANインテリジェントコントローラー)12及び基地局機能群2を主要な構成とし、Non-RT RICは基地局機能配置制御部20を含む。
【0014】
本実施形態では、基地局機能配置制御部20がNon-RT RIC12を用いて実現される。SMO機能部11及びNon-RT RIC12はSMOフレームワーク10を用いて実現される。基地局の機能のうち、無線信号の処理等を担うDU及び暗号化や品質制御を担うCUは仮想化され、基地局機能群2は、
図2に例示されるようにRU(Radio Unit)、vCU(Virtual Central Unit)及びvDU(Virtual Distributed Unit)から構成される。vDU、vCUはアンテナサイト及び収容局のいずれかに適応的に配置される。
【0015】
図2は、RAN1における基地局機能配置の例を示した図であり、単一のセルを形成するRUに対してvCU及びvDUのセットが計5セット接続されている。基地局機能の配置パターンは、vDU及びvCUの収容局及びアンテナサイトへの配置方法に応じて3通りあり、配置パターンに応じてネットワーク特性が異なる。多様なサービスの要求品質(安定性重視、低遅延重視、等)に応えるため、本実施形態では、セル毎サービス毎に基地局機能配置を適切に決定される。
【0016】
第1の例「O-RAN slice subnet#1」はC-RAN(Centralized -RAN)配置であって、収容局にvCU及びvDUの両方が配置される。C-RAN配置ではセル間連携が可能であるが、伝送路の必要帯域が大きいという特徴を持つ。
【0017】
第2の例「O-RAN slice subnet#2」及び第3の例「O-RAN slice subnet#3」はS-RAN(Split -RAN)配置であって、アンテナサイトにvDUが配置され且つ収容局にvCUが配置される。S-RAN配置はセル間連携が不可であるが、伝送路の必要帯域が小さいという特徴を持つ。
【0018】
第4の例「O-RAN slice subnet#4」及び第5の例「O-RAN slice subnet#5」はD-RAN(Distributed RAN)配置であって、アンテナサイトにvCU及びvDUの両方が配置される。D-RAN配置は、セル間連携が不可であるが、通信遅延が小さいという特徴を持つ。
【0019】
図2に例示されるように、RAN1において単一のセルを形成するRUに対してvCUとvDUとのセットを複数接続することにより、単一のセルに対して複数の異なる特徴を持つ基地局機能配置のスライスを実現することができる。これにより、RAN1において単一のセルで複数の異なる特徴を持つ無線通信サービスを提供することが可能になり、多種多様なサービスが要求する多様な通信品質に適応することができる。
【0020】
図1へ戻り、SMOフレームワーク10はO-RAN仕様で規定されるO1インタフェースを提供する。Non-RT RIC12はO1インタフェースを介してKPI(主要性能指標)を基地局機能群2から取得する。SMO機能部11とNon-RT RIC12とはR1インタフェースを介してメッセージを交換する。
【0021】
本実施形態では、SMO機能部11とNon-RT RIC12との間のR1インタフェースに対して、Non-RT RIC12がSMO機能部11から基地局機能配置情報を取得するためのメッセージAを新たに追加する。基地局機能配置情報は、RAN1における現在の基地局機能配置を示す情報である。SMO機能部11は、基地局機能配置情報を含むメッセージAをR1インタフェースによりNon-RT RIC12へ送信する。基地局機能配置制御部20は、SMO機能部11から送信されたメッセージAから基地局機能配置情報を取得する。
【0022】
本実施形態では更に、Non-RT RIC12がR1インタフェースによりSMO機能部11へ送信する既存のメッセージBに対して、新たに基地局機能配置設定情報を含める。基地局機能配置設定情報は、RAN1における基地局機能配置を変更するための基地局機能配置の変更内容を示す情報である。
【0023】
基地局機能配置制御部20は、Non-RT RIC12から送信されるメッセージBに対して基地局機能配置設定情報を含める。SMO機能部11は、基地局機能配置設定情報を含むメッセージBをR1インタフェースにより受信する。SMO機能部11は、R1インタフェースにより受信したメッセージBから基地局機能配置設定情報を取得する。
【0024】
図3は、本実施形態に係る基地局機能配置制御部20の構成例を示す機能ブロック図である。基地局機能配置制御部20は、基地局機能配置情報取得部201、基地局機能配置情報記憶部202、KPI取得部203、基地局機能配置設定情報送信部204及び制御部205を主要な構成としている。
【0025】
基地局機能配置情報取得部201は、SMO機能部11との間のインタフェースを介して基地局機能配置情報を取得する。当該インタフェースは、本実施形態ではR1インタフェースである。より具体的には、基地局機能配置情報取得部201は、R1インタフェースによりSMO機能部11から送信されたメッセージAから基地局機能配置情報を取得する。
【0026】
基地局機能配置情報記憶部202は、基地局機能配置情報取得部201が取得した基地局機能配置情報を記憶する。KPI取得部203は、O1インタフェースを介してKPIを基地局機能群2から取得する。
【0027】
基地局機能配置設定情報送信部204は、SMO機能部11との間のインタフェースを介して基地局機能配置設定情報を送信する。当該インタフェースは、本実施形態の一例として、R1インタフェースである。より具体的には、基地局機能配置設定情報送信部204は、基地局機能配置設定情報を含むメッセージBをR1インタフェースにより送信する。制御部205は、KPI取得部203が取得したKPIに基づいて、次の基地局機能配置を決定する。
【0028】
このような基地局機能配置制御部20は、CPU、ROM、RAM、バス、インタフェース等を備えた少なくとも1台の汎用のコンピュータやサーバに、以下に詳述する各機能を実現するアプリケーション(プログラム)を実装することで構成できる。あるいはアプリケーションの一部をハードウェア化またはソフトウェア化した専用機や単能機としても構成できる。
【0029】
図4は、本実施形態に係る基地局機能配置制御方法の概略手順のフローチャートであり、ステップS1では、SMO機能部11が基地局機能群2の立ち上げ後に、基地局機能群2に対して初期設定を行う。
【0030】
ステップS2では、基地局機能群2の初期設定の完了後、基地局機能配置制御部20(基地局機能配置情報取得部201)がSMO機能部11から送信されたメッセージAから基地局機能配置情報を取得する。基地局機能配置制御部20(基地局機能配置情報記憶部202)は当該基地局機能配置情報を記憶する。
【0031】
ステップS3では、基地局機能配置制御部20(KPI取得部203)がO1インタフェースを介してKPIを基地局機能群2から取得する。基地局機能配置制御部20(制御部205)は、KPI取得部203が取得したKPIに基づいて次の基地局機能配置を決定する。
【0032】
ステップS4では、基地局機能配置制御部20(制御部205)が、決定された次の基地局機能配置に関する基地局機能配置設定情報を生成する。当該基地局機能配置設定情報は、RAN1における基地局機能配置を当該次の基地局機能配置に変更するための基地局機能配置の変更内容を示す情報である。
【0033】
ステップS5では、基地局機能配置制御部20(基地局機能配置設定情報送信部204)が、制御部205の生成した基地局機能配置設定情報を含むメッセージBをSMO機能部11へ送信する。
【0034】
ステップS6では、SMO機能部11が、メッセージBに含まれる基地局機能配置設定情報に基づいて、基地局機能群2の基地局機能配置を変更する設定を実行する。
【0035】
ステップS7では、基地局機能群2の基地局機能配置の変更の設定の完了後、基地局機能配置制御部20(基地局機能配置情報取得部201)が、SMO機能部11から送信されたメッセージAから基地局機能配置情報を取得する。基地局機能配置制御部20(基地局機能配置情報記憶部202)は、当該基地局機能配置情報を最新の基地局機能配置情報として記憶する。
【0036】
次いで、
図5のシーケンス図を参照して本実施形態に係る基地局機能配置制御方法の詳細な手順を説明する。
【0037】
ステップS101からステップS105では、基地局機能の立ち上げシーケンスが実行される。この基地局機能の立ち上げシーケンスは、O-RAN仕様「Instantiate Network Function on O-Cloud(O-RAN.WG6.ORCH-USE-CASES-v01.00)」に基づいたものである。
【0038】
ステップS101では、「Network Function install project Mgr」が「Service Request」メッセージを「O-Cloud M&O」へ送信する。
【0039】
ステップS102では、「O-Cloud M&O」がO2インタフェースにより「Create workload」メッセージを「DMS」へ送信する。
【0040】
ステップS103では、「DMS」が基地局機能群2の各ノード(O-CU、O-DU1、O-DUN)へ「Deploy NF」メッセージを送信する。
【0041】
ステップS104では、「DMS」がO2インタフェースにより「Notify workload created」メッセージを「O-Cloud M&O」へ送信する。
【0042】
ステップS105では、SMO機能部11がO1インタフェースにより基地局機能群2の各ノード(O-CU、O-DU1、O-DUN)へ「Configure NF」メッセージを送信する。
以上が基地局機能の立ち上げシーケンスである。
【0043】
ステップS106では、SMO機能部11がR1インタフェースにより基地局機能配置情報を含むメッセージAをNon-RT RIC12へ送信する。基地局機能配置制御部20は、当該メッセージAから基地局機能配置情報を取得する。
【0044】
ステップS107では、基地局機能配置制御部20がO1インタフェースにより基地局機能群2の各ノード(O-CU、O-DU1、O-DUN)から「Performance measurements」メッセージを受信する。基地局機能配置制御部20は、当該「Performance measurements」メッセージからKPIを取得する。
【0045】
ステップS108では、基地局機能配置制御部20が「Performance measurements」メッセージから取得したKPIに基づいて、次の基地局機能配置を決定する。基地局機能配置制御部20は、決定された次の基地局機能配置に関する基地局機能配置設定情報を生成する。
【0046】
ステップS109からステップS110では基地局機能の設定変更シーケンスが実行される。このシーケンスは、O-RAN仕様「Reconfiguration of O-RAN Virtual Network Function(s)(O-RAN.WG6.ORCH-USE-CASES-v01.00)」に基づいたものである。
【0047】
ステップS109では基地局機能配置制御部20が、前記ステップS108で生成された基地局機能配置設定情報を含む「Reconfig NF set」メッセージをR1インタフェースによりSMO機能部11へ送信する。「Reconfig NF set」メッセージは、既存のメッセージBに対応する。SMO機能部11は、R1インタフェースにより受信した「Reconfig NF set」メッセージから基地局機能配置設定情報を取得する。
【0048】
ステップS110では、SMO機能部11がO1インタフェースにより基地局機能群2の各ノード(O-CU、O-DU1、O-DUN)へ「Configure NF」メッセージを送信する。この「Configure NF」メッセージには、前記ステップS109で取得した基地局機能配置設定情報に示される次の基地局機能配置に変更するための設定情報が含まれる。これにより、基地局機能群2の基地局機能配置が当該次の基地局機能配置に変更される。
【0049】
次いで、前記ステップS108において基地局機能配置制御部20が基地局機能配置を予測モデルMに基づいて決定する方法を説明する。本実施形態に係る基地局機能配置決定方法は事前の準備も含めると、(1) 予測モデルMの学習に必要なデータの収集、(2) 予測モデルMの学習、(3) 予測モデルMを用いて全サービスを対象に基地局機能配置、リソース使用量及び要求品質達成率の予測値をセル毎に取得、(4) セル毎に得られた予測値の組リストを用いてセル間の基地局機能配置の組み合わせを最適化、の各手順を含む。
【0050】
(1) 予測モデルMの学習に必要なデータの収集
予測モデルMの学習に必要なデータの項目は、制御周期のある時点tにおけるRANの状態を示す情報(セル毎/サービス毎の要求スループットz、各種リソース使用量ω及びセル毎/サービス毎の基地局機能配置u)と、次の制御周期である時点t+1におけるリソース使用量ω及び要求品質達成率qである。
【0051】
収集する方法としては、RANに対してマニュアル制御を実行しても良いし、あるいは非特許文献4のような比較的リスクの低いフィードバック制御を実行し、O-RANの仕様に基づいて各種情報を収集してもよい。
【0052】
(2) 予測モデルMの学習
予測モデルMとしては、リソース使用量予測モデルMΩと要求品質達成率予測モデルMQとを別々に用意しても良く、それぞれを多層パーセプトロンで構成しても良い。なお、全サービスの基地局機能配置の組み合わせを正の整数に対応させて入力することを前提として、基地局機能配置を埋め込み層(embedding layer)でベクトル化してもよい。
【0053】
予測モデルMの学習は、セル毎に制御周期のある時点tにおける要求スループットZ,各種リソース使用量ω及び基地局配置uを入力情報として、次の制御周期のある時点t+1におけるリソース使用量ω及び要求品質達成率qを予測させ、予測誤差をRMSEで測って誤差逆伝播法により予測モデルMを更新することで実現できる。
【0054】
図6は、予測モデルMの学習方法の一例を示した図であり、ここではリソース使用量予測モデルM
Ω及び要求品質達成率予測モデルM
Qを別々に学習する場合を例にして説明する。
【0055】
予測モデルMはセル毎に異なる予測モデルを学習しても良いし、セルの違いを無視してセル間で単一の予測モデルMを学習しても良い。ただし、収容局の計算機リソースの使用量ωn
CC及び伝送路リソースの使用量ωn
TLについてはセル間で共有されているので、予めセル毎の使用量に変換しておくことが望ましい。
【0056】
伝送路のセル毎のリソース使用量ωn
TLは、パケットがどのセル由来かを監視することにより計測することができる。収容局のセル毎の計算機リソースωn
CCは、非特許文献3に記載されているように、計算機リソースの使用量が要求スループットに比例すると仮定して算出することができる。
【0057】
本実施形態では、入力情報として制御周期tにおける各セルnのサービスsに関するスループットZn,s,t、基地局配置un,s,t及びリソース使用量ωtを用いる。リソース使用量ωtには、制御周期tにおける伝送路のリソースの使用量ωn
TL,アンテナサイトの計算機リソースωn
CA及び収容局の計算機リソースωn
CCが含まれる。基地局配置un,s,tは3進数{0,1,2}で表現し、それぞれC-RAM/S-RAM/D-RAMの各配置に対応する。
【0058】
基地局配置un,s,tは10進数に変換された後に第1及び第2埋込層(embedding layer)へ入力されて整数を学習可能なdense vectorに変換される。リソース使用量予測モデルMΩには第1埋込層の出力、スループットZn,s,t及びリソース使用量ωtが入力される。品質達成予測モデルMQには第2埋込層の出力、スループットZn,s,t及びリソース使用量ωtが入力される。
【0059】
リソース使用量予測モデルMΩは制御周期t+1におけるリソース使用量ωn,t+1を予測する。品質達成予測モデルMQは制御周期t+1における要求品質達成率qn,s,t+1を予測する。要求品質達成率qはスループットの達成率qn,s
tp及び通信遅延の達成率qn,s
laを含む。
【0060】
正解情報は、制御周期t+1におけるリソース使用量ωn,t+1及び要求品質達成率qn,s,t+1であり、目的関数としてリソース使用量及び要求品質達成率のRMSE(Root Mean Squared Error:二乗平均平方根誤差)がそれぞれ計算される。
【0061】
(3) 予測モデルMを用いて全サービスを対象に基地局機能配置、リソース使用量及び要求品質達成率の予測値をセル毎に取得
セル毎の予測では、セル毎に基地局機能配置以外の直近のRAN1の状態を示す情報を予測モデルMに入力すると共に、全サービスで基地局機能配置の取り得るパターンを入力することにより、特定のセルで全サービスを対象にある基地局機能配置を実行した場合のリソース使用量及び要求品質達成率の予測値を得る。
【0062】
例えば、サービス数が6の場合、基地局機能の配置パターンは3通りなので、全サービスで基地局機能配置の取り得るパターンは3^6=729通りとなる。したがって、セル毎に、基地局機能配置の候補、リソース使用量の予測値及び要求品質達成率の予測値の組み合わせが729組得られることになる。
【0063】
以下、要求品質達成率の予測値を、その平均値として求める方法について説明する。サービスs毎のスループットtpの達成率の予測値Qtpの平均値Qtp,n,uは、例えば次式(1)で求められる。
【0064】
【0065】
サービスs毎の通信遅延laの達成率の予測値Qlaの平均値Qla,n,uは、例えば次式(2)で求められる。
【0066】
【0067】
各セルnにおける配置uの要求品質達成率の予測値Qn,uは次式(3)で求められる。
【0068】
【0069】
上記の計算をセルごとに実施することで、次式(4)の通りセル毎に729通りの要求品質達成率の予測値が求まる。
【0070】
【0071】
(4) セル毎に得られた予測値の組リストを用いてセル間の基地局機能配置の組み合わせを最適化セル間の基地局機能配置の組み合わせを最適化
セル間の最適化では、セル毎に得られた基地局機能配置の候補、リソース使用量の予測値及び要求品質達成率の予測値の組のリストを用いて、各種リソースの制約条件を考慮してセル間の基地局機能配置の組み合わせの最適化を行う。
【0072】
組み合わせの最適化には、セルを次元としたヒルクライム法を適用できる。ヒルクライム法による組み合わせの最適化の具体的な手順を
図7に示す。ここでは予め、ある時点において、特定のセルで全サービスを対象にある基地局機能配置を実行した場合のリソース使用量及び要求品質達成率の予測値が前記予測モデルMを用いて取得済みであるものとして説明する。
【0073】
ステップS301では、各セルnにおいて要求品質達成率Qn,uの予測値が最大となる基地局機能配置uが初期解として選択される。
【0074】
ステップS302では、初期解による目的関数の値が計算される。目的関数Objは、例えば次式(5)で与えられる。ここで、λは目的関数において制約違反Lをどれだけ重く見るかのバランシングパラメータである。
【0075】
【0076】
収容局の計算機リソースの制約違反LCCは次式(6)で与えられる。収容局の計算機リソースの使用量ωn
CCはセル間でリソースを共有しているので、収容局の制約違反Lccは全セルで合計を出してから許容量ΩCCを減じることで求められる。
【0077】
【0078】
アンテナサイトの計算機リソースの制約違反LCAは次式(7)で与えられる。アンテナサイトの計算機リソースの使用量ωn
CAはセル内ではリソースを共有しているので、アンテナの制約違反LCAはセル毎に全サービスで合計を出してから許容量ΩCAを減じることで求められる。
【0079】
【0080】
転送路のリソースの制約違反LTLは次式(8)で与えられる。伝送路リソースの使用量ωn
TLはセル間でリソースを共有しているので全セルで合計を出してから許容量ΩTLを減じて違反有無を見る。
【0081】
【0082】
したがって、制約違反ペナルティは各制約違反の総和として次式(9)で求められる。
【0083】
【0084】
この初期解はリソースの制約を大きく違反している可能性があるため、次に、セル毎に配置を変更した場合の目的関数を全配置に対して計算した後、変更後の目的関数が最大となる配置を特定し、その時の目的関数の変化量を記録する。
【0085】
ステップS303,S304の各処理は各セルに対して実行される。ステップS303では、特定の1つのセルにおいて配置を変更した場合の目的関数が全ての配置を対象に計算される。変更後の目的関数の計算には、例えば収容局の計算機リソースの制約違反については次式(10)を用いることができる。
【0086】
【0087】
ステップS304では、変更後の目的関数が最大となる配置を特定し、その時の目的関数の変化量が記録される。
【0088】
全てのセルについて目的関数の変化量の記録が完了するとステップS305へ進み、目的関数の変化量が最大となるセルが特定される。ステップS306では、前記最大の変化量がゼロ以下であるか否かが判定される。ゼロ以下でなければステップS307へ進み、そのセルで変更後の目的関数が最大となる配置に解を更新した後にステップS302へ戻って上記の各処理が繰り返される。
【0089】
その後、目的関数の変化量が最大となるセルを特定し、その変化量が0以下ならば改善しないので最適化を終了する一方、変化量が正なら改善するので解をそのセルで変更後の目的関数が最大となる配置に更新し、目的関数の値の計算に戻る。
【0090】
組み合わせ最適化には、上記で示したヒルクライム法の他、一般的な組み合わせ最適化手法を適用することができる。例えば、シミュレ―テッドアニーリング法を応用して用いてもよい。
【0091】
本実施形態によれば、O-RAN仕様の無線アクセスネットワーク(RAN)において基地局機能配置の変更を行うことができるという効果が得られる。
【0092】
なお、これにより、例えば無線アクセスネットワークにおける総合的なサービス品質の向上を実現することができることから、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0093】
1…無線アクセスネットワーク(RAN)、2…基地局機能群、10…SMOフレームワーク、11…SMO機能部、12…Non-RT RIC、20…基地局機能配置制御部、201…基地局機能配置情報取得部、202…基地局機能配置情報記憶部、203…KPI取得部、204…基地局機能配置設定情報送信部、205…制御部