(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132600
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】合金部材、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル及び電気化学モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2404 20160101AFI20240920BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240920BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20240920BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20240920BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20240920BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20240920BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M8/2404
H01M8/12 101
H01M8/021
H01M8/0228
H01M8/12 102A
H01M8/0215
C25B1/042
C25B13/04 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043436
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中尾 孝之
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA01
4K021DB40
4K021DB43
4K021DB53
5H126BB06
5H126EE03
5H126EE22
5H126GG08
5H126GG12
5H126HH01
5H126HH04
5H126JJ01
5H126JJ03
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】比較的低温の一括熱処理で、低抵抗性能を有するSOEC及びSOFC用の合金部材と電気化学素子とを備えた電気化学モジュールを得ることを目的とする。
【解決手段】基材の一方側面が燃料ガスの接触する雰囲気となり、基材の他方側面が酸素含有ガスの接触する雰囲気となる状態で、固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルに用いられ、フェライト系ステンレス鋼からなる合金部材における基材の他方側面の上に、Coめっき層又はCo-Niめっき層を形成するめっき層形成工程と、合金部材と、電解質層を電極層と対極電極層との間に挟んで構成される単セルを有する電気化学素子との間に、接合材を介在させた状態で、650℃以上800℃以下の温度で熱処理するスタッキング工程とを有する、電気化学モジュールの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方側面が燃料ガスの接触する雰囲気となり、前記基材の他方側面が酸素含有ガスの接触する雰囲気となる状態で、固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルに用いられ、フェライト系ステンレス鋼からなる合金部材における前記基材の前記他方側面の上に、Coめっき層又はCo-Niめっき層からなるめっき層を形成するめっき層形成工程と、
前記合金部材と、電解質層を電極層と対極電極層との間に挟んで構成される単セルを有する電気化学素子との間に、接合材を介在させた状態で、650℃以上800℃以下の温度で熱処理するスタッキング工程とを有する、電気化学モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記スタッキング工程における前記熱処理により、前記基材の前記他方側面に、厚さが0.2μm以上0.8μm以下の酸化被膜を形成すると共に、前記酸化被膜の上に、厚さが2.0μm以上3.0μm以下の前記めっき層を形成する、請求項1に記載の電気化学モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記スタッキング工程における前記熱処理後において、前記接合材が、前記合金部材と前記単セルとを接合した状態での平均粒径が0.1μm以上0.2μm以下である複数の微粒子が集合した構造を有する、請求項2に記載の電気化学モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記めっき層形成工程において、前記めっき層を形成する前に、前記基材の他方側面に、Co又はNiのストライクメッキ層を形成する工程を含む、請求項1から3の何れか一項に記載の電気化学モジュールの製造方法。
【請求項5】
基材の一方側面が燃料ガスの接触する雰囲気となり、前記基材の他方側面が酸素含有ガスの接触する雰囲気となる状態で、固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルに用いられる合金部材であって、
前記基材の前記他方側面に、厚さが0.2μm以上0.8μm以下の酸化被膜と、
前記酸化被膜の上に、厚さが2.0μm以上3.0μm以下のCoめっき層又はCo-Niめっき層からなるめっき層とを備える、合金部材。
【請求項6】
請求項5に記載の合金部材と、電解質層を電極層と対極電極層との間に挟んで構成される単セルを有する電気化学素子とが、接合材により接合されて構成される電気化学モジュール。
【請求項7】
前記接合材が、前記合金部材と前記単セルとを接合した状態での平均粒径が0.1μm以上0.2μm以下である複数の微粒子が集合した構造を有する、請求項6に記載の電気化学モジュール。
【請求項8】
前記酸化被膜は、Crの酸化物を含む請求項6に記載の電気化学モジュール。
【請求項9】
前記めっき層は、Mnを含む請求項6に記載の電気化学モジュール。
【請求項10】
請求項6から9の何れか一項に記載の電気化学モジュールを備え、前記単セルで発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池。
【請求項11】
請求項6から9の何れか一項に記載の電気化学モジュールを備え、前記単セルで電解反応を生じさせる固体酸化物形電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルに用いられる合金部材、電気化学モジュール及び電気化学モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な開発目標(SDG‘s)における目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」というスローガンの下、水蒸気や二酸化炭素の電気分解により水素や酸素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)や水素等の燃料ガス及び空気を用いて発電を行う固体酸化物形燃料電池(SOFC)等の電気化学デバイスが注目されている。
【0003】
SOEC及びSOFCは、固体電解質を挟んで一端側に燃料極、他端側に空気極を備える単セル(電気化学素子)と、単セル同士の間に設けられるセル間接続部材などの合金部材とを備えて構成されている。具体的には、例えば、電気化学素子が、電気化学素子の燃料極側に配置される金属製の燃料極側合金部材と、空気極に配置される金属製の空気極側合金部材とにより挟まれて電気的に接続された状態で順次積層されることで、セルスタックとして形成される。
【0004】
合金部材の基材は、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが一般的である。合金部材はセルの製造工程及びこれらのセルの使用時に高温に晒されるため、フェライト系ステンレス鋼に含まれるCrがCr2O3として表面に析出する。そして、このCr2O3が揮発して空気極のCr被毒を起こすことを抑制すること等を目的として、保護膜を形成する試みが行われている。
【0005】
特許文献1には、インターコネクタの基材表面にスピネル型酸化物被膜として、ZnCo2O4よりなる保護膜を形成した固体酸化物形燃料電池が記載されている。この固体酸化物形燃料電池は保護膜の元となるスラリーをコートして熱処理した後、接着層を塗布して熱処理を行うことで形成されている。このような形成方法によって、耐剥離性が高く抵抗の増大が抑制された保護膜を形成できることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、CоxMn3-xO4から成るスピネル型酸化物の保護膜を設けたSOFC用セル間接続部材が開示されている。このセル間接続部材についても、保護膜の元となるスラリーをコートして熱処理した後、接着層を塗布して熱処理を行うことで形成されている。このような保護膜を有するセル間接続部材は、保護膜を有することで表面に析出するCr2O3の揮発をより抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-118177号公報
【特許文献2】特開2013-118178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの先行文献においては、保護膜を熱処理により形成した後、接着層を塗布して熱処理することを段階的に行うことで形成している。
そのため、接着層の熱処理により接着層の成分が保護膜へと拡散せず、接着層の原料と保護膜の原料との相乗効果は見込み難い。ゆえに、このようなSOEC及びSOFC等の電気化学モジュールの作製方法では、これらの電気化学モジュールの更なる性能向上は見込めなかった。
【0009】
本発明は、比較的低温の一括熱処理で、低抵抗性能を有するSOEC及びSOFC用の電気化学モジュールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る電気化学モジュールの製造方法の特徴構成は、
基材の一方側面が燃料ガスの接触する雰囲気となり、前記基材の他方側面が酸素含有ガスの接触する雰囲気となる状態で、固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルに用いられ、フェライト系ステンレス鋼からなる合金部材における前記基材の前記他方側面の上に、Coめっき層又はCo-Niめっき層からなるめっき層を形成するめっき層形成工程と、
前記合金部材と、電解質層を電極層と対極電極層との間に挟んで構成される単セルを有する電気化学素子との間に、接合材を介在させた状態で、650℃以上800℃以下の温度で熱処理するスタッキング工程とを有する点にある。
【0011】
本特徴構成によれば、比較的安価で、しかも、高温熱処理(例えば、合金部材が固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルに用いられた際の温度を超える温度(例えば800℃を超える温度)での熱処理)を必要とせずに、基材の他方側面に電子導電性及びCrの揮発抑制効果を有するCoめっき層又はCo-Niめっき層からなるめっき層を形成することができる。
また、上記特徴構成によれば、めっき層が形成された合金部材と、電解質層を電極層と対極電極層との間に挟んで構成される単セルを有する電気化学素子との間に、接合材を介在させた状態で、650℃以上800℃以下の温度で熱処理することにより、合金部材と電気化学素子とを接合する接合材の焼成と、接合材とめっき層との反応とを、一括して行うことができる。
そして、上記特徴構成によれば、比較的低温の一括熱処理で、基材の他方側面に、厚さが0.2μm以上0.8μm以下の酸化被膜と、当該酸化被膜の上に、厚さが2.0μm以上3.0μm以下のめっき層とを備える合金部材を得ることができる。そのため、後述の試験結果に示すように、長期間に亘って、基材の他方側面からのCrの揮発を抑制して性能の低下を抑制でき、また、酸化被膜が存在する場合であっても、内部抵抗を許容可能な程度に低く維持することができる。
よって、上記特徴構成によれば、比較的低温の一括熱処理で、低抵抗性能を有するSOEC及びSOFC用の合金部材と電気化学素子とを備えた電気化学モジュールを得ることができた。
【0012】
本発明に係る電気化学モジュールの製造方法の更なる特徴構成は、
前記スタッキング工程における前記熱処理により、前記基材の前記他方側面に、厚さが0.2μm以上0.8μm以下の酸化被膜を形成すると共に、前記酸化被膜の上に、厚さが2.0μm以上3.0μm以下の前記めっき層を形成する点にある。
【0013】
本特徴構成によれば、後述の試験結果に示すように、長期間に亘って、基材の他方側面からのCrの揮発を抑制でき、また、酸化被膜が存在する場合であっても、内部抵抗を許容可能な程度に低く維持することができる。
【0014】
本発明に係る電気化学モジュールの製造方法の更なる特徴構成は、
前記スタッキング工程における前記熱処理後において、前記接合材が、前記合金部材と前記単セルとを接合した状態での平均粒径が0.1μm以上0.2μm以下である複数の微粒子が集合した構造を有する点にある。
【0015】
本特徴構成によれば、スタッキング工程における熱処理後において、接合材が、合金部材と単セルとを接合した状態での平均粒径が0.1μm以上0.2μm以下である複数の微粒子が集合した構造を有するので、比較的低温の一括熱処理でも低抵抗性能及び高密着性能を確保できた。
【0016】
本発明に係る電気化学モジュールの製造方法の更なる特徴構成は、
前記めっき層形成工程において、前記めっき層を形成する前に、前記基材の他方側面に、Co又はNiのストライクメッキ層を形成する工程を含む点にある。
【0017】
本特徴構成によれば、Co又はNiのストライクメッキ層の上に、めっき層を形成することができるので、形成されためっき層が基材の他方側面から剥離することを良好に抑制することができる。
【0018】
上記目的を達成するための本発明に係る合金部材の特徴構成は、
基材の一方側面が燃料ガスの接触する雰囲気となり、前記基材の他方側面が酸素含有ガスの接触する雰囲気となる状態で、固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルに用いられる合金部材であって、
前記基材の前記他方側面に、厚さが0.2μm以上0.8μm以下の酸化被膜と、
前記酸化被膜の上に、厚さが2.0μm以上3.0μm以下のめっき層とを備える点にある。
【0019】
本特徴構成によれば、後述の試験結果に示すように、長期間に亘って、基材の他方側面からのCrの揮発を抑制して性能の低下を抑制でき、また、酸化被膜が存在する場合であっても、内部抵抗を許容可能な程度に低く維持することができる。
よって、上記特徴構成によれば、低抵抗性能を有するSOEC及びSOFC用の合金部材を得ることができた。
なお、酸化被膜の厚さは、0.2μm未満であると、基材から酸化鉄が析出するなどの異常酸化の虞があり、また、0.8μmより厚いと内部抵抗が増加する虞がある。また、めっき層の厚さは、2.0μm未満であると、Crの揮発抑制効果が十分に得られない虞があり、また、3.0μmより厚いと抵抗が大きくなり性能低下の虞がある。
【0020】
上記目的を達成するための本発明に係る電気化学モジュールの特徴構成は、
上記合金部材と、電解質層を電極層と対極電極層との間に挟んで構成される単セルを有する電気化学素子とが、接合材により接合されて構成される点にある。
ここで、前記合金部材の前記酸化被膜はCrの酸化物を含んでいてもよい。
【0021】
本特徴構成によれば、後述の試験結果に示すように、長期間に亘って、基材の他方側面から、当該基材と接合される電気化学素子を構成する電極層や電解質層へのCrの揮発を抑制して性能の低下を抑制でき、また、酸化被膜が存在する場合であっても、内部抵抗を許容可能な程度に低く維持することができる。
よって、上記特徴構成によれば、低抵抗性能を有するSOEC及びSOFC用の合金部材と電気化学素子とを備えた電気化学モジュールを得ることができた。
【0022】
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
前記接合材が、前記合金部材と前記単セルとを接合した状態での平均粒径が0.1μm以上0.2μm以下である複数の微粒子が集合した構造を有する点にある。
【0023】
本特徴構成によれば、接合材により前記合金部材と単セルとの高密着性能を確保できた。
【0024】
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
前記めっき層は、Mnを含む点にある。
【0025】
本特徴構成によれば、めっき層には、接合材から拡散したMn等の金属が含まれているため、高耐久なめっき層となっている。そのため、長期間に亘って、基材の他方側面からのCrの揮発を抑制して性能の低下を抑制できる。
【0026】
上記目的を達成するための本発明に係る固体酸化物形燃料電池の特徴構成は、上記電気化学モジュールを備え、前記単セルで発電反応を生じさせる点にある。
【0027】
上記特徴構成によれば、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学モジュールを備えた固体酸化物形燃料電池として発電反応を行うことができるので、高耐久・高性能な固体酸化物形燃料電池を得る事ができる。
【0028】
上記目的を達成するための本発明に係る固体酸化物形電解セルの特徴構成は、上記電気化学モジュールを備え、前記単セルで電解反応を生じさせる点にある。
【0029】
上記特徴構成によれば、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学モジュールを備えた固体酸化物形電解セルとして電解反応によるガスの生成を行うことができるので、高耐久・高性能な固体酸化物形電解セルを得る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】ストライクメッキ層及びめっき層を形成した合金部材の断面図である。
【
図3】合金部材と電気化学素子との積層状態を示す概略断面図である。
【
図5】固体酸化物形燃料電池の作動時の反応の説明図である。
【
図6】(a)実施例1,(b)実施例2及び(c)比較例1の合金部材の表面のSEM画像及び電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるCrマッピング像である。
【
図7】実施例1,実施例2及び比較例1の合金部材を用いた電気化学モジュールの通電試験における抵抗値を示すグラフである。
【
図8】固体酸化物形電解セルの作動時の反応の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルに用いられる合金部材、電気化学モジュール及び電気化学モジュールの製造方法を説明する。尚、以下に好適な実施形態を記すが、これら実施形態はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0032】
図1は電気化学モジュールCを備える固体酸化物形燃料電池の概略図である。
図2は、ストライクメッキ層12及びめっき層13を形成したセル間接続部材1(合金部材の一例)の断面図である。
図3は、セル間接続部材1と電気化学素子3(単セルの一例)との積層状態を示す概略説明図である。
図4は、
図3の概略断面図の拡大図である。
図5は、固体酸化物形燃料電池の作動時の反応の説明図である。
図1~
図3に示すように、電気化学モジュールCは、セル間接続部材1と、電解質膜30(電解質層の一例)を燃料極31(電極層の一例)と空気極32(対極電極層の一例)との間に挟んで構成される電気化学素子3とが交互に接合されて構成される。具体的には、電気化学素子3は、酸素イオン伝導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方側面に、酸素イオンおよび電子伝導性の多孔体からなる空気極32を接合し、同じ電解質膜30の他方側面に電子伝導性の多孔体からなる燃料極31を接合して形成される。
【0033】
電気化学モジュールCは、電気化学素子3を、空気極32または燃料極31に対して電子の授受を行うとともに空気(酸素含有ガスの一例)および水素(燃料ガスの一例)を供給するための溝2が形成された一対の電子伝導性のセル間接続部材1により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。空気極32とセル間接続部材1とが密着配置されることで、空気極32の側の溝2が空気極32に空気を供給するための空気流路2bとして機能する。燃料極31とセル間接続部材1とが密着配置されることで、燃料極31の側の溝2が燃料極31に水素を供給するための燃料流路2aとして機能する。
【0034】
なお、電気化学素子3を構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、例えば、空気極32の材料としては、LaMO3(例えばM=Mn,Fe,Co,Ni)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO3のペロブスカイト型酸化物を利用することができる。
燃料極31の材料としては、電子伝導性の多孔体からなり、LaMO3(例えばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO3のペロブスカイト型酸化物及びNiとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができる。
さらに、電解質膜30の材料としては、酸化物イオン伝導性の固体酸化物の緻密体であることが好ましく、ガドリニア等のドープ剤がドープされたセリア(GDC)及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)等を利用することができる。
【0035】
そして、複数の電気化学素子3同士が、セル間接続部材1によって電気的に接続された状態、即ち、複数の電気化学素子3の間にセル間接続部材1を挟んで積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持されて、セルスタックとなる。このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたセル間接続部材1は、燃料流路2aまたは空気流路2bの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたセル間接続部材1は、一方の面に燃料流路2aが形成され、他方の面に空気流路2bが形成されるものを利用できる。なお、このような積層構造のセルスタックでは、セル間接続部材1をセパレータ、インターコネクタ等と呼ぶ場合がある。
【0036】
セルスタックは、燃料ガス(水素)を供給するマニホールドに、ガラスシール材等の接合材により取り付けられる。ガラスシール材としては、例えば結晶化ガラスが用いられる。ガラスシール材は、マニホールドの接着の他、電気化学素子3とセル間接続部材1の間など、封止(シール)が必要な箇所に用いられる。このようなセルスタックの構造を有する固体酸化物形燃料電池を一般的に平板形固体酸化物形燃料電池と呼ぶ。本実施形態では、一例として平板形固体酸化物形燃料電池について説明するが、本発明はその他の構造の固体酸化物形燃料電池についても適用可能である。
【0037】
このような電気化学モジュールCを備え、電気化学素子3で発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池(セルスタック)の作動時には、
図5に示すように、空気極32に対して隣接するセル間接続部材1に形成された空気流路2bを介して空気を供給するとともに、燃料極31に対して隣接するセル間接続部材1に形成された燃料流路2aを介して水素を供給し、例えば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極32において酸素分子O
2が電子e
-と反応して酸素イオンO
2-が生成され、そのO
2-が電解質膜30を通って燃料極31に移動し、燃料極31において供給されたH
2がそのO
2-と反応してH
2Oとe
-とが生成されることで、一対のセル間接続部材1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用できる。
【0038】
<セル間接続部材>
セル間接続部材1は、フェライト系ステンレス鋼製の金属基材11(以下、基材の一例)から成り、
図1に示すようにその表面には溝2が設けられている。溝2は、金属基材11の一方側面(燃料極31に対向する面)に水素が接触する雰囲気を形成する燃料流路2aと、金属基材11の他方側面(空気極32に対向する面)に空気が接触する雰囲気を形成する空気流路2bとを備える。
なお、実際には、金属基材11の他方側面は、接合層15(空気極側接合層15b)を介して空気極32と接合される。
【0039】
金属基材11はフェライト系ステンレス鋼製であり、一般的には、Fe、Cr及びMn等の金属が含まれている。
【0040】
尚、セル間接続部材1に集電体が設けられていてもよい。この場合、燃料極31とセル間接続部材1との間に集電体が配置され、空気極32とセル間接続部材1との間に集電体が配置される。その結果、セル間接続部材1と燃料極31との間及びセル間接続部材1と空気極32との間の電気的接続が補強される。
【0041】
<燃料極側酸化被膜>
セル間接続部材1の金属基材11の一方側面(燃料極31に対向する面)には、
図3に示すように、金属基材11の内部に形成された燃料極側酸化被膜11a(図示せず)を備える。燃料極側酸化被膜11aは、Cr等の酸化物を含む薄膜層である。なお、後述のように、燃料極側酸化被膜11aは、スタッキング工程の熱処理における650℃以上800℃以下の焼成で形成される。
【0042】
<空気極側酸化被膜>
セル間接続部材1の他方側面(空気極32に対向する面)には、
図3に示すように、金属基材11の内部に形成された空気極側酸化被膜11b(酸化被膜の一例)を備える。空気極側酸化被膜11bについては、Cr、Mn等の酸化物を含む薄膜層である。
空気極側酸化被膜11bの厚さは、0.2μm以上0.8μm以下である。なお、後述のように、空気極側酸化被膜11bは、スタッキング工程の熱処理における650℃以上800℃以下の焼成で形成される。
【0043】
<ストライクメッキ層>
少なくとも金属基材11の他方側面には、ストライクメッキ層12が設けられる。ストライクメッキ層12は、Ni又はCоを含む薄いメッキ層である。ストライクメッキ層12は、ストライクメッキ層12上に形成されるめっき層13と金属基材11の他方側面との密着性を向上させるために設けられるため、金属基材11の他方側面に後述のメッキ層を十分な強度でめっきできる場合には、ストライクメッキ層12を省略してもよい。
ストライクメッキ層12は、一般的に基材を陰極として、陽極と共にNi又はCоを含む金属濃度が低い浴に浸漬し、比較的高電流密度で数秒から数分間の短時間でメッキ処理を行う方法等で得られる。また、ストライクメッキ層12はNi、Cо等の真空蒸着及びスパッタリング等で形成されてもよい。尚、ストライクメッキ層12は、Ni又はCоに加えて、Au、Ag又はCu等を含んでもよい。
【0044】
<めっき層>
金属基材11には、他方側面のストライクメッキ層12の上に、めっき層13が設けられている。めっき層13は、Coめっき層又はCo-Niめっき層からなる層である。
めっき層13の形成方法は、ストライクメッキ層12が設けられた金属基材11を陰極として、SUS等の陽極と共にめっき層13の前駆体となるCo等の塩、又は、Coの塩及びNiの塩を含む浴に浸漬し、陽極と陰極の間に電圧をかけてめっきを行う方法等が挙げられる。
【0045】
めっき層13の厚みは、基材から酸化鉄が析出するなどの異常酸化や内部抵抗が増加する虞があるという観点から、2.0μm以上3.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以上2.5μm以下であることがより好ましく、2.0μmであることが更に好ましい。めっき層の厚さは、2.0μm未満であると、Crの揮発抑制効果が十分に得られない虞があり、また、3.0μmより厚いと抵抗が大きくなり性能低下の虞がある。
【0046】
めっき層13は、Cо及びMnの酸化物、或いは、Co、Ni及びMnの酸化物を含む。これは、後述する空気極側接合材がMnを含む場合、スタッキング工程の熱処理時に空気極側接合材のMnがめっき層13側へ拡散し、酸化されるために形成される、と考えられる。
【0047】
<空気極側接合層>
金属基材11の他方側面には、
図3に示すように、金属基材11の上のめっき層13の上に、空気極側接合層15bが設けられる。この構造を拡大した図を
図4に示す。
空気極側接合層15bは、NiOと、Sr、Ca、Mg、Ti、Zr、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Ba、Mo及びPbのうち少なくとも1種類以上の元素をドープしたLaCrO
3を含む複合材料が用いられ、金属基材11と電気化学素子3とを接合し電気的に接続するために設けられる。空気極側接合層15bについては、空気極32と類似する成分を有するペロブスカイト型酸化物及びスピネル型酸化物等の空気極側接合材を利用できる。
特に、空気極側接合層15bの接合材の材料はCoを含有する材料であることが好ましい。或いは、接合材の材料はNiを含有する材料であることが好ましい。また或いは、接合材の材料はCo、Mn、Cu及びNiの内の少なくとも2つ以上を含有する金属酸化物を含む材料であることが好ましい。また或いは、接合材の材料はCo及びMnを主成分として含有する金属酸化物を含む材料であることが好ましい。更に、空気極側接合層15b(接合材)は、セル間接続部材1と電気化学素子3とを接合した状態での平均粒径が0.1μm以上0.2μm以下である複数の微粒子が集合した構造を有する。加えて、空気極側接合層15b(接合材)は、セル間接続部材1と電気化学素子とを接合した状態での空隙率が60%以上であることが好ましい。また、その空隙率が65%以上であることが更に好ましい。また、空気極側接合層15b(接合材)の厚みは、特に限定されるものではないが、費用対効果の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下であるとよい。
【0048】
空気極側接合層15bは、上記の複合材料を溶剤と共に混錬してスラリーを作製し、金属基材11の他方側面に塗布して空気極側接合材層14bを形成した後、後述のように、スタッキング工程の熱処理における650℃以上800℃以下の焼成で形成される。
【0049】
<電気化学モジュール>
図1に示す電気化学モジュールC(セルスタック)は、電気化学素子3と金属基材11とが交互に複数積層されることで形成され、金属基材11の空気極32側に空気流路2bが形成され、金属基材11に燃料極31側に燃料流路2aが形成される。なお、積層方向の両端部に配置された金属基材11は、燃料流路2aまたは空気流路2bの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置された金属基材11は、一方面に燃料流路2aが形成され他方面に空気流路2bが形成されるものを利用することができる。
なお、電気化学モジュールCを構成する複数の電気化学素子3は、夫々の燃料極31及び空気極32が積層方向に対して同じ側に配置されるように積層される。例えば、金属基材11及び電気化学素子3を鉛直方向に交互に積層させる場合は、夫々の燃料極31が積層方向の上側に配置され、夫々の空気極32が積層方向の下側に配置されるように積層される。
【0050】
<電気化学モジュールの製造工程>
次に、本実施形態における電気化学モジュールCの製造方法について説明する。
電気化学モジュールCの製造方法は、金属基材11の他方側面の上に、Coめっき層又はCo-Niめっき層からなるめっき層13を形成するめっき層形成工程S101と、めっき層13が形成された金属基材11と、電解質膜30を燃料極31と空気極32との間に挟んで構成される単セルを有する電気化学素子3との間に、接合材を介在させた状態で、650℃以上800℃以下の温度で熱処理するスタッキング工程S102とを含む。
【0051】
より具体的には、めっき層形成工程S101として、金属基材11の少なくとも他方側面に、Cо又はNiを含むストライクメッキ層12を形成するストライクメッキ工程と、金属基材11の他方側面のストライクメッキ層12の上に、Coめっき層又はCo-Niめっき層からなるめっき層13を形成する工程とを行う。
【0052】
そして、めっき層形成工程S101の後に、スタッキング工程S102として、金属基材11の他方側面におけるめっき層13の上に空気極側接合材を塗布して空気極側接合材層14bを形成する空気極側接合材塗布工程と、金属基材11の一方側面における燃料極側酸化被膜11aの上に、燃料極31が接触する状態で電気化学素子3を配置し、当該電気化学素子3の空気極32の上に、当該金属基材11とは別の金属基材11の他方側面におけるめっき層13の上の空気極側接合材層14bが接触する状態で、当該別の金属基材11を配置する。これを順次繰り返して、金属基材11と電気化学素子3とを所望の数だけ順次積層させて、650℃以上800℃以下の温度で熱処理する工程とを行う。
なお、電気化学素子3は、公知の手法により、電解質膜30、燃料極31及び空気極32を、それぞれ電解質膜30の一方側面と他方側面に配置して得ることができるので、詳細な説明は省略する。
【0053】
<ストライクメッキ工程>
ストライクメッキ工程は、セル間接続部材1の少なくとも他方側の表面に、Cо又はNiを含むストライクメッキ層12を形成する工程である。ストライクメッキ層12は、金属基材11をNi又はCоの塩を含む溶液に浸漬し、金属基材11を陰極とし、SUS等を陽極として、比較的高電流密度で数秒から数分間の短時間でメッキ処理することにより形成される。ストライクメッキ層12を形成することで、ストライクメッキ層12上に形成されるめっき層13と金属基材11との密着性が向上する。
【0054】
<めっき層を形成する工程>
セル間接続部材1の他方側面におけるストライクメッキ層12の上に、めっき層13を形成する工程を行う。この工程では、ストライクメッキ層12が設けられた金属基材11を陰極として、SUS等の陽極と共にめっき層13の前駆体となるCo等の塩、又は、Coの塩及びNiの塩を含む浴に浸漬し、陽極と陰極の間に電圧をかけてめっきを行う方法等が挙げられる。これにより、Coめっき層又はCo-Niめっき層からなるめっき層13が得られる。
なお、めっき層13の厚みが、2.0μm以上3.0μm以下となるように、めっき層を形成する工程において、印加する電流や電圧或いは印加時間等が調整され、また、材料の選定や濃度等の選定が行われる。
【0055】
電解液に溶解するNi塩は水溶性であることが好ましく、Ni(NО3)2、NiSO4等が挙げられる。電解液に溶解するCo塩は水溶性であることが好ましく、Co(NО3)2、CoSO4等が挙げられる。
【0056】
<空気極側接合材塗布工程>
めっき層13を形成する工程の後に行われる空気極側接合材塗布工程では、めっき層13の上に空気極側接合材を塗布して空気極側接合材層14bを形成する。例えば、空気極側接合材を溶剤と共に混錬してスラリーを作製した後、めっき層13の上に塗布する。スラリーの塗布方法は、例えば刷毛塗り法、スクリーン印刷法、スプレー法、ディッピング法、スピンコーター法等が好適に用いられる。
【0057】
<熱処理する工程>
そして、熱処理する工程では、まず、金属基材11の一方側面における燃料極側酸化被膜11aの上に、燃料極31が接触する状態で電気化学素子3を配置し、当該電気化学素子3の空気極32の上に、当該金属基材11とは別の金属基材11の他方側面におけるめっき層13の上の空気極側接合材層14bが接触する状態で当該別の金属基材11を配置する。これを順次繰り返して、金属基材11と電気化学素子3とを所望の数だけ順次積層させて、650℃以上800℃以下の温度で熱処理する。
これにより、スタッキング工程S102における比較的低温(600℃以上800℃以下)の熱処理のみで、セル間接続部材1と電気化学素子3とを接合する空気極側接合材の焼成と、空気極側接合材とめっき層13との反応とを、一括して行うことができる。なお、空気極側接合材層14bは、上記熱処理が行われることで焼付けられて、空気極側接合層15bとなる。
【0058】
熱処理工程での熱処理温度は、600℃以上800℃以下であることが好ましい。600℃未満であると燃料極側酸化被膜11aや空気極側酸化被膜11bが十分な厚みに形成されず(例えば、空気極側酸化被膜11bの厚みが0.2μm未満の厚みとなり)、Crの拡散を抑制が不十分となる虞、空気極側接合材の焼き付けが不十分となる虞及び空気極側接合材からめっき層13へのMn等の金属の拡散が不十分となる虞がある。800℃より高い温度であると、燃料極側酸化被膜11aや空気極側酸化被膜11bの厚みが厚くなりすぎて(例えば、空気極側酸化被膜11bの厚みが0.8μmを超える厚さとなり)、抵抗が大きくなる虞がある。
なお、熱処理による燃料極側酸化被膜11aや空気極側酸化被膜11bの形成は、大気雰囲気下で行われることが好ましいが、燃料極側酸化被膜11aや空気極側酸化被膜11bを形成することができれば窒素雰囲気下又は水蒸気雰囲気下で行われてもよい。
【0059】
上述のように、めっき層形成工程S101、スタッキング工程S102を含む電気化学モジュールCの製造方法を実行することで、電気化学素子3同士の間に金属基材11を挟み込んだ状態で電気的に直列に接続された電気化学モジュールCを得ることができる。
【0060】
最後に、燃料流路2aに水素等の還元ガスを通流し、所定温度にて電気化学モジュールCの還元処理を行う。所定温度は約750℃以上900℃未満であることが好ましい。750℃未満であると、燃料極31の還元が十分に進まない虞がある。900℃以上であると、燃料極31の劣化が進み過ぎるため好ましくない。
尚、電気化学モジュールCは、電気化学素子3と金属基材11との固着力の補強及び電気的接続のために、複数のボルトおよびナットにより、電気化学モジュールCの両端側から積層方向に押圧力を与えられるように挟持され得る。
【0061】
続いて、本実施形態における実施例及び比較例を以下に記載する。
【0062】
(実施例1)
8mm角、厚み1mmのフェライト系ステンレス鋼に、Coを含むストライクメッキ層を形成した。その後、空気極側の表面をCo塩を溶解した電解液に浸漬しめっき処理により、厚さ2.0μmのCoのめっき層を形成した。そして、めっき層上に空気極側接合材を塗布してCo-Mn酸化物からなる空気極側接合材層を形成した後、大気雰囲気下において700℃~800℃の温度で1~2時間の間、熱処理し、合金部材A1を得た。空気極側酸化被膜の厚みを測定したところ、平均膜厚は0.4~0.6μmであった。
【0063】
(実施例2)
めっき層をNi-Coのめっき層とした他は、実施例1と同様の条件で、めっき層及び空気極側接合材層を形成したフェライト系ステンレス鋼を熱処理し、合金部材A2を得た。空気極側酸化被膜の平均膜厚は0.4~0.6μmであった。
【0064】
(比較例1)
8mm角、厚み1mmのフェライト系ステンレス鋼に、Coを含むストライクメッキ層を形成した。その後、ストライクメッキ層上にCo2MnO4を含む層(厚さ約10μm)を電着塗装により形成し、大気雰囲気下1000℃の温度で焼成した。次に、空気極側接合材を塗布して、大気雰囲気下700℃~800℃の温度で1~2時間焼成し、合金部材Bを得た。空気極側酸化被膜の平均膜厚は1.0~1.3μmであった。
なお、空気極側接合材は、実施例1及び2と同じものを用いた。
【0065】
<空気極側酸化被膜の分析>
実施例1,2及び比較例1の合金部材を、走査型電子顕微鏡(SEM)により分析した。また、これらの空気極側酸化被膜に対して電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるCrマッピングを行った。
【0066】
その結果を
図6に示す。実施例1及び2の合金部材には、合金部材とめっき層との界面において合金部材の内部側に、0.40~0.60μmの非常に薄い空気極側酸化被膜が形成された。その一方で、比較例1の合金部材には、合金部材とCo
2MnO
4を含む層との界面において合金部材の内部側に、1.0~1.3μmの比較的厚い空気極側酸化被膜が形成された。これらの結果から、実施例1及び2の方法では、比較例1の方法よりも2分の1程度薄い空気極側酸化被膜を形成できることが分かる。EPMA分析により、各合金部材の表面に、比較的濃色の部分(Crを多く含む部分)が集中している事実からも、これらの結果が示唆される。
【0067】
<通電試験>
実施例1,2の合金部材A1、A2及び比較例1の合金部材Bを、0.50A/cm
2の電流が流れるように設定した通電試験機に接続し、700℃の温度条件下で12000時間の通電試験を行った。その結果を
図7に示す。
【0068】
合金部材A1は通電試験中において約50(mΩcm2)の抵抗値を示して安定的に推移し、合金部材A2は通電試験中において約70(mΩcm2)の抵抗値を示して安定的に推移した。この結果から、長時間の使用においても低い抵抗値を示すため、電気化学モジュールに使用して長時間用いた場合に高性能を維持できると考えられる。その一方で、合金部材Bは通電試験開始直後から約90(mΩcm2)と比較的高い抵抗値を示し、通電試験終了時も他の合金部材よりも高い抵抗値を示した。なお、合金部材Bが通電開始直後から、比較的高い抵抗値を示しているのは、1000℃の熱履歴が存在し、空気極側酸化被膜の厚さが比較的厚い(1~1.3μm)ことに起因していると考えられる。
【0069】
(別実施形態)
(1)上記実施形態では、金属基材11及び電気化学素子3を備えた電気化学モジュールCを固体酸化物形燃料電池として用いて発電を行う構成について説明したが、これに限らず、当該電気化学モジュールCを固体酸化物形電解セルとして用いることもできる。
電気化学モジュールCを構成する電気化学素子3で電解反応を生じさせる固体酸化物形電解セル(SOEC)を実現する場合について説明する。
固体酸化物形電解セルの作動時には、
図8に示すように、電極層としての燃料極31(電極層の一例)に燃料流路2aを介して水蒸気や二酸化炭素を含有するガス(燃料ガスの一例)が流通され、燃料極31と空気極32(対極電極層の一例)との間に電圧が印加される。そして、燃料極31において電子e
-と水分子H
2O、二酸化炭素分子CO
2が反応し水素分子H
2や一酸化炭素COと酸素イオンO
2-(酸化物イオン)となる。酸素イオンO
2-は電解質膜30を通って空気極32へ移動する。空気極32において酸素イオンO
2-が電子を放出して酸素分子O
2となる。以上の反応により、水分子H
2Oが水素分子H
2と酸素分子O
2とに、二酸化炭素分子CO
2を含有するガスが流通される場合は一酸化炭素COと酸素分子O
2とに電気分解される。
【0070】
(2)上記実施形態では、合金部材を、電気化学素子3の両側を挟み込むセル間接続部材1として用いる例を示したが、合金部材を電気化学素子3を支持する金属支持体として用いて金属支持型の固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セルとして用いてもよい。
具体的には、合金部材の上に電気化学素子3を配置し、当該電気化学素子3の上に金属製のセパレータを配置する構成として、これら合金部材、電気化学素子3及びセパレータを順次積層することでセルスタックを構成した電気化学モジュールCとすることができる。この場合、合金部材の一方側面に形成された燃料極側酸化被膜11aと電気化学素子3の燃料極31とを接合させ、合金部材の他方側面に形成されためっき層13と他の電気化学素子3の空気極32と接合させることになる。また、合金部材には、合金部材の一方側面と他方側面とを厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が設けられ、合金部材の一方側面と他方側面との間でガスを透過可能に構成されることになる。
【0071】
尚、上記の実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、又、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る電気化学モジュールは、固体酸化物形燃料電池又は固体酸化物形電解セル用の電気化学モジュールとして用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
1:合金部材
2:溝
2a:燃料流路
2b:空気流路
3:電気化学素子
11:金属基材
11a:燃料極側酸化被膜
11b:空気極側酸化被膜
12:ストライクメッキ層
13:めっき層
14b:空気極側接合材層
15:接合層
15b:空気極側接合層
30:電解質膜
31:燃料極
32:空気極
C:セル
S101:めっき層形成工程
S102:スタッキング工程