(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132605
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】耐火壁構造、建物、引き戸、及び襖
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20240920BHJP
E06B 5/16 20060101ALI20240920BHJP
E06B 3/70 20060101ALI20240920BHJP
E06B 3/82 20060101ALI20240920BHJP
A62C 2/00 20060101ALI20240920BHJP
B27M 3/00 20060101ALI20240920BHJP
B27N 3/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E04B1/94 L
E04B1/94 R
E06B5/16
E06B3/70 B
E06B3/82
A62C2/00 X
B27M3/00 B
B27N3/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043444
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】591043293
【氏名又は名称】加島 道夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】加島 道夫
【テーマコード(参考)】
2B250
2B260
2E001
2E016
2E239
【Fターム(参考)】
2B250AA09
2B250AA11
2B250BA07
2B250CA11
2B250EA05
2B260AA02
2B260BA13
2B260CB04
2B260CD03
2B260CD04
2E001DE01
2E001FA02
2E001FA03
2E001FA11
2E001FA14
2E001GA12
2E001GA63
2E001HA03
2E001HA04
2E001HA21
2E001HA34
2E001HC04
2E001HC14
2E001JA27
2E001LA04
2E016HA02
2E016JA01
2E016JA03
2E016KA05
2E016LA01
2E016LB10
2E016LB20
2E016LC02
2E016MA11
2E016NA05
2E239CA05
2E239CA22
2E239CA29
2E239CA32
2E239CA34
2E239CA43
2E239CA66
(57)【要約】
【課題】耐火性能の向上を図ることができる耐火壁構造、建物、引き戸、及び襖を提供する。
【解決手段】耐火壁構造、引き戸70及び襖70Aは、複数の縦枠111及び横枠112を枠状に組み合わせてなる枠組材11と、枠組材11の開口面を覆うように枠組材11に固定されるパネル材12と、で構築されており、パネル材12は、無機繊維集合体21と無機繊維集合体21に包含された耐熱性組成物22とを含み、また、建物60は、耐火壁構造を有する壁として耐力壁61を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される耐火壁構造であって、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、ことを特徴とする耐火壁構造。
【請求項2】
前記パネル材には、珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、が含浸されて、前記珪酸化合物が硬化された木質板からなるバックアップ材が積層されている、請求項1に記載の耐火壁構造。
【請求項3】
前記パネル材には、石膏ボード及びケイ酸カルシウム板から選択される少なくとも1種からなるバックアップ材が積層されている、請求項1に記載の耐火壁構造。
【請求項4】
前記枠組材は、珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、が含浸されて、前記珪酸化合物が硬化された木材からなる、請求項1に記載の耐火壁構造。
【請求項5】
請求項1に記載の耐火壁構造を有する壁を備える、ことを特徴とする建物。
【請求項6】
土台から伸びる鉄筋を有し、
前記枠組材において、前記複数の縦枠のうち少なくとも1部は、その内部に前記鉄筋が挿通されている、請求項5に記載の建物。
【請求項7】
上下に複数のフロアを有し、前記複数のフロアをわたって上下方向に通された通し柱を備えており、
前記通し柱が前記枠組材を構成している、請求項5に記載の建物。
【請求項8】
前記通し柱は、珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、が含浸されて、前記珪酸化合物が硬化された木材からなる、請求項7に記載の建物。
【請求項9】
前記通し柱は、その内部に、土台から伸びる鉄筋が挿通されている、請求項7に記載の建物。
【請求項10】
枠状に組み合わされた複数の根太と、前記根太の上方に被着された床板と、によって構築される床構造を有しており、
前記床板は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、請求項3に記載の建物。
【請求項11】
前記床板には、珪酸化合物が含浸されて硬化された木質板からなるバックアップ材が積層されている、請求項10に記載の建物。
【請求項12】
前記根太は、珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、が含浸されて、前記珪酸化合物が硬化された木材からなる、請求項8に記載の建物。
【請求項13】
上下に複数のフロアを有し、上方のフロアの前記床構造は、前記根太の下方に被着された天井板を有しており、
前記天井板は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、請求項10に記載の建物。
【請求項14】
複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される引き戸を備え、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、請求項5に記載の建物。
【請求項15】
複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される襖を備え、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、請求項5に記載の建物。
【請求項16】
複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される引き戸であって、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、ことを特徴とする引き戸。
【請求項17】
複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される襖であって、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、ことを特徴とする襖。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の壁に適用される耐火壁構造、その耐火壁構造による壁を備える建物、その耐火壁構造を有する引き戸及び襖に関する。
【背景技術】
【0002】
家屋やビルディング等といった建物に関し、その壁の構造として、特許文献1から特許文献3に記載の構成のものが提案されている。
即ち、特許文献1には、少なくとも表基材と裏基材からなり、表基材と裏基材は接着剤を介して貼着され、互いに貼着する両貼着面側の、少なくともいずれか一方に形成された凸部と凹部によって、複数の空気層を形成する不燃性積層板が記載されている。また、表基材と裏基材には、珪酸カルシウム板、石膏ボード、スラグ石膏板、ロックウール板、スレート板等からなる無機質板や、これらを積層一体化した複合無機質板、火山性ガラス質複層板が使用される。
特許文献2には、第1建築用基材の片面或いは両面に第1塗膜層を有し、この第1塗膜層が、鱗片状の膨潤性無機化合物と、水膨潤性物質と、ソープフリーのエマルジョン接着剤とが含有されている難燃性塗料組成物で形成されている板状体、あるいは第1建築用基材と第1塗膜層を有する板状体を芯材として、該芯材の表裏面にそれぞれ第2建築用基材が貼着された板状体が記載されている。また、第1建築用基材及び第2建築用基材には、石膏ボード、ケイカル板、火山性ガラス質複層板、金属板、樹脂板、ロックウール板、インシュレーションボード等が使用される。
特許文献3には、火山性ガラス質複層板と石膏ボードとが接着剤により接着一体化された耐火パネルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-083039号公報
【特許文献2】特開2011-068853号公報
【特許文献3】特開2016-211288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、建物の壁には、特許文献1から特許文献3に開示されるように、石膏ボード、セメント板、ケイ酸カルシウム板、ALCパネル(軽量気泡コンクリートパネル)等による耐火パネルが使用されている。こうした耐火パネルは、原料に使用された石灰質やケイ酸質が結晶水等の水分を保持しているため、火災時等に、その水分を放出することで、耐火性を発揮する。
また、多くの家屋は、枠組壁工法(ツーバイフォー(2×4)工法等とも称される)を採用しており、こうした家屋等の建物は、耐火パネルからなる壁を耐力壁として、その耐力壁で建物を支える構造を有している。
しかしながら、火災時に水分を放出してしまった耐火パネルは、割れてしまうため、炎熱を遮ることができなくなってしまう。さらに、火災時に耐火パネルが割れると、耐火パネルからなる壁は、耐力壁としての機能を喪失してしまい、倒壊するおそれがある。
【0005】
本発明は、前述の従来技術の問題点を解決するものであり、耐火性能の向上を図ることができる耐火壁構造、建物、引き戸、及び襖を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題点を解決する手段として、本発明は以下のとおりである。
本発明の耐火壁構造は、複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される耐火壁構造であって、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、ことを要旨とする。
前記パネル材には、珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、が含浸されて、前記珪酸化合物が硬化された木質板からなるバックアップ材が積層されているものとすることができる。
前記パネル材には、石膏ボード及びケイ酸カルシウム板から選択される少なくとも1種からなるバックアップ材が積層されているものとすることができる。
前記枠組材は、珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、が含浸されて、前記珪酸化合物が硬化された木材からなるものとすることができる。
本発明の建物は、上記の耐火壁構造を有する壁を備える、ことを要旨とする。
上記の建物は、土台から伸びる鉄筋を有し、
前記枠組材において、前記複数の縦枠のうち少なくとも1部は、その内部に前記鉄筋が挿通されているものとすることができる。
上記の建物は、上下に複数のフロアを有し、前記複数のフロアをわたって上下方向に通された通し柱を備えており、
前記通し柱が前記枠組材を構成しているものとすることができる。
前記通し柱は、珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、が含浸されて、前記珪酸化合物が硬化された木材からなるものとすることができる。
前記通し柱は、その内部に、土台から伸びる鉄筋が挿通されているものとすることができる。
上記の建物は、枠状に組み合わされた複数の根太と、前記根太の上方に被着された床板と、によって構築される床構造を有しており、
前記床板は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含むものとすることができる。
前記床板には、珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、が含浸されて、前記珪酸化合物が硬化された木質板からなるバックアップ材が積層されているものとすることができる。
前記根太は、珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、が含浸されて、前記珪酸化合物が硬化された木材からなるものとすることができる。
上記の建物は、上下に複数のフロアを有し、上方のフロアの前記床構造は、前記根太の下方に被着された天井板を有しており、
前記天井板は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含むものとすることができる。
上記の建物は、複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される引き戸を備え、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含むものとすることができる。
上記の建物は、複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される襖を備え、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含むものとすることができる。
本発明の引き戸は、複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される引き戸であって、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、ことを要旨とする。
本発明の襖は、複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、前記枠組材の開口面を覆うように前記枠組材に固定されるパネル材と、で構築される襖であって、
前記パネル材は、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐火壁構造、建物、引き戸、及び襖によれば、無機繊維集合体と前記無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含むパネル材が、優れた耐火性能を発揮することにより、耐火性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】耐火壁構造を有する枠組壁を示す分解斜視図である。
【
図6】(a)は難燃化処理された縦枠を示す斜視図であり、(b)は
図6(a)の6B-6B指示線における断面図である。
【
図7】(a)は難燃化処理されたバックアップ材を示す斜視図であり、(b)は
図7(a)の7B-7B指示線における断面図である。
【
図9】通し柱及び鉄筋を示す一部を破断した斜視図である。
【
図10】床構造および天井板を示す一部を拡大した斜視図である。
【
図12】耐火壁構造を有する別形態の枠組壁を示す分解斜視図である。
【
図13】(a)、(b)は鉄骨の耐火構造を示す一部を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。ここで示す事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要で、ある程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
〔1〕耐火壁構造
本発明の耐火壁構造は、複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、枠組材の開口面を覆うように枠組材に固定されるパネル材と、で構築される耐火壁構造であって、
パネル材は、無機繊維集合体と無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、ことを特徴とする。
【0011】
耐火壁構造は、枠組壁を構築するための構造であって、その枠組壁を、優れた耐火性能の付与により、耐火壁とするための構造である。
すなわち、
図1に示すように、耐火壁構造を有する枠組壁10は、枠組材11とパネル材12とによって構築されている。枠組材11は、複数の縦枠111と横枠112とを組み合わせることにより、四角枠状に形成されている。パネル材12は、四角枠状に形成された枠組材11の開口面を覆うように、その枠組材11に被着され、釘打ち、ネジ止め等の方法により、枠組材11に固定されている。
【0012】
縦枠111及び横枠112からなる枠組材11は、使用される材料について特に限定されない。
枠組材11の縦枠111及び横枠112は、木材を主に使用することができ、鉄、アルミニウム等の金属や、コンクリート、セメント等の無機材料を使用することもできる。
パネル材12は、耐火材からなり、その耐火材は、無機繊維集合体と無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む。つまり、耐火材からなるパネル材12は、無機繊維集合体と無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む(
図2参照)。このパネル材12が用いられた枠組壁10は、優れた耐火性を発揮することができる。
【0013】
耐火壁構造を有する枠組壁は、地震や風などといった外力に抗して建物を支える壁として、耐力壁、準耐力壁、耐震壁などとすることができる。
枠組壁10において、パネル材12には、バックアップ材14を積層することができる。つまり、枠組壁10は、パネル材12とバックアップ材14とが積層されてなる積層パネル15を用いて構築することができる。
バックアップ材14には、日本農林規格(JAS)で定められた構造用合板、あるいは、その構造用合板に準じた強度を有するボード材、パネル材などを用いることができる。このため、パネル材12にバックアップ材14を積層して積層パネル15とすることにより、強度が飛躍的に高まり、枠組壁10を耐力壁、準耐力壁、耐震壁などとすることができる。
【0014】
具体的に、バックアップ材14は、使用される材料について特に限定されず、例えば、集成材、合板、中質繊維板(MDF)、硬質繊維板(ハードボード)、軟質繊維板(インシュレーションボード)、パーティクルボード等の木質板を使用することができる。
また、バックアップ材14は、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板、セメント板、ALCパネル(軽量気泡コンクリートパネル)等の所謂「耐火パネル」を使用することができる。これら耐火パネルの中でも、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板は、軽量である観点から、好ましい。
さらに、バックアップ材14は、例えば、複数の木質板を積層してなる、又は複数の耐火パネルを積層してなる、あるいは木質板と耐火パネルとを積層してなる積層板を使用することもできる。
【0015】
枠組材11及び/又はバックアップ材14に木材や木質板を使用する場合、枠組材11及び/又はバックアップ材14は、難燃材からなるものを用いることができる。
難燃材は、難燃処理として、木材や木質板に珪酸化合物及び燃焼抑制剤を含浸させ、さらに、その含浸させた珪酸化合物を硬化(ゲル化)させたものである。
すなわち、耐火壁構造を有する枠組壁10は、耐火材からなるパネル材12が用いられることで、優れた耐火性能を発揮することができ、難燃材からなる枠組材11及び/又はバックアップ材14が用いられることで、耐火性能の更なる向上を図ることができる。
【0016】
(1)パネル材
パネル材12は、耐火壁構造において優れた耐火性能を発揮するためのものである。このパネル材12は、耐火材からなり、その耐火材に由来して、複数の無機繊維によって構成された無機繊維集合体21と、無機繊維集合体21に包含された耐熱性組成物22と、を含んでいる(
図2参照)。耐火材に由来の無機繊維集合体21及び耐熱性組成物22を含むパネル材12は、高温度域で溶融し難く、燃焼し難いことから、優れた耐火性能を発揮することができる。
言い換えると、パネル材12は、優れた耐火性能を有する耐火材からなり、その耐火材は、無機繊維集合体21と耐熱性組成物22とを含む、所謂、繊維強化耐熱性セラミックスである。つまり、耐火材は、繊維である無機繊維集合体21とセラミックスである耐熱性組成物22との複合によって、繊維強化により強度が向上された耐熱性を有するセラミックス材料であり、非常に高い靱性、剛性、耐熱性を有している。
耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)からなるパネル材12は、火災時などの高温度域における割れを防止することができる。また、耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)からなるパネル材12は、通常、建物に使用されている木質材、木材、耐火パネル等と同等に、釘打ち、ネジ止めが可能な材料であり、建材として好適である。
【0017】
具体的に、耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)からなるパネル材12は、1000℃以上の温度域で溶融しない耐熱性能を有しているものが好ましい。言い換えると、パネル材12は、1000℃以上の温度域でも溶融することがなく、このため、1000℃以上の温度域で燃焼しない耐火性能を有しているものが好ましい。
なお、パネル材12において、1000℃以上の温度域で燃焼しない耐火性能は、好ましくは建築基準法における2時間耐火の要求を満たす性能であり、より好ましくは3時間耐火の要求を満たす性能である、ともいうことができる。
耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)からなるパネル材12の密度(嵩比重)は、特に限定されないが、好ましくは62.5Kg/m3以上700Kg/m3以下、より好ましくは187.5Kg/m3以上660Kg/m3以下、更に好ましくは312.5Kg/m3以上600Kg/m3以下とすることができる。この場合、パネル材12における強度と、軽量化及び断熱性とのバランスを好適なものとすることができる。
【0018】
パネル材12は、表層部分にスキン層12Aを有することができる(
図2参照)。このスキン層12Aは、耐熱性組成物22によって膜状に形成されており、無機繊維集合体21をほぼ含んでいない。
耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)からなるパネル材12は、内部に複数の気泡23を有するポーラス状に形成されている。このため、パネル材12によって構築された枠組壁10の軽量化を図ることができる。
さらに、パネル材12は、内部の気泡23に空気を保持することで、良好な断熱性能を発揮することができ、また、良好な防音性を発揮することができる。
【0019】
上述のパネル材12において、耐火材に含まれる耐熱性組成物(セラミックス)は、その材料である反応性耐熱組成物(スラリー)が焼成されて、硬化(セラミック化)することにより形成されたものである。
すなわち、耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)は、耐熱性組成物(セラミックス)の材料となる反応性耐熱組成物(スラリー)を、無機繊維集合体に含浸等させたうえで、焼成処理して得られたものであり、その耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)を所定形状(例えば、板状)に形成したものがパネル材12である。
焼成処理は、反応性耐熱組成物(スラリー)を焼成して耐熱性組成物(セラミックス)が得られるのであれば、特に限定されないが、パネル材12を形成する観点から、ホットプレス加工が好ましい。つまり、パネル材12は、反応性耐熱組成物(スラリー)が含浸等された無機繊維集合体21を、ホットプレス加工することによって形成することができる。
【0020】
上述のように、パネル材12は、表層部分にスキン層12Aを有している。ホットプレス加工では、型面に絵柄等の柄を付した金型を用いることにより、スキン層12Aに任意の柄、例えば、鏡面状の化粧面15A(
図4参照)や凹凸状のタイル模様からなる化粧面15B(
図5参照)等を設けることができる。
スキン層12Aの表面は、耐熱性の無機塗料などを用いることにより、着色することができる。
スキン層12Aの表面は、カラー鋼板等の金属板を接合することにより、強度の向上や化粧性の向上を図ることができる。
【0021】
(1-1)無機繊維集合体
無機繊維集合体21は、複数本の無機繊維が絡み合わされて形成されたものであり、セラミックスである耐熱性組成物22を繊維強化することで、パネル材12に強度をもたせることができるとともに、断熱性を付与することができる。
無機繊維は、特に限定されないが、不燃性繊維が好ましい。具体的に、無機繊維として、ガラス繊維、スラグ繊維、アルミナ繊維、石綿繊維、他に、炭素繊維、スチールウール、ステンレス繊維等が挙げられる。これらのなかでも、ガラス繊維、スラグ繊維、アルミナ繊維、石綿繊維は、入手容易性、断熱性、耐火性能の観点から、無機繊維としてより好ましい。
無機繊維は、上述したものから選択される1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
無機繊維の繊維径、繊維長さは、特に限定されない。
無機繊維の繊維径は、通常は2μm~30μm、好ましくは5μm~30μm、より好ましくは5μm~20μm、更に好ましくは5~15μmである。
無機繊維の繊維長さの下限は、通常は10mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上、更に好ましくは50mm以上である。無機繊維の繊維長さの上限は、通常は100mm以下、好ましくは80mm以下である。
【0023】
無機繊維集合体21の形状、形態は、特に限定されない。無機繊維集合体21の形状、形態として、シート、ニードルマット、ボード、フェルト、不織布、フィルム状体、紙状体、織物等が挙げられる。
無機繊維集合体21は、その形状、形態に応じて、密度や嵩高さが異なる。
【0024】
無機繊維集合体21の形状、形態が不織布、紙状体、織物等の場合、無機繊維集合体21は、高密度なものとなる。
この場合、無機繊維集合体21は、無機繊維をより多く含むことにより、耐火性能に優れる傾向を有する。具体的に、この場合の、無機繊維集合体21の坪量は、好ましくは150g/m2以上900g/m2以下、より好ましくは200g/m2以上600g/m2以下とすることができる。
【0025】
無機繊維集合体21の形状、形態がシート、ニードルマット、ボード、フェルト等の場合、無機繊維集合体21は、嵩高なものとなる。
この場合、無機繊維集合体21を含むパネル材12は、気泡23をより多く含むものとなり、断熱性に優れる傾向を有する。具体的に、この場合の、無機繊維集合体21の坪量は、上述した高密度なものの坪量の約1/4~1/2程度の値とすることができる。
【0026】
無機繊維集合体21の密度(嵩比重)は、特に限定されないが、パネル材12が形成された状態(つまり、厚さ方向に圧縮された状態)の密度(嵩比重)で、下限を、好ましくは50Kg/m3以上、より好ましくは150Kg/m3以上、更に好ましくは250Kg/m3以上とすることができる。また、密度(嵩比重)の上限は、好ましくは350Kg/m3以下、より好ましくは330Kg/m3以下、さらに好ましくは300Kg/m3以下とすることができる。この場合、パネル材12における強度と、軽量化及び断熱性とのバランスを好適なものとすることができる。
なお、圧縮前の状態の無機繊維集合体の密度(嵩比重)は、特に限定されないが、好ましくは20Kg/m3以上250Kg/m3以下、より好ましくは65Kg/m3以上230Kg/m3以下、さらに好ましくは80Kg/m3以上200Kg/m3以下とすることができる。
【0027】
無機繊維集合体21は、1層のみがパネル材12に含まれてもよく、2層以上が積層された形態としてパネル材12に含まれてもよい。
無機繊維集合体21の厚さは、特に限定されない。その厚さは、パネル材12が形成された状態(つまり、厚さ方向に圧縮された状態)で、好ましくは0.5mm~200mm、より好ましくは2mm~150mm、更に好ましくは5~100mmとすることができる。
なお、圧縮前の状態の無機繊維集合体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1mm~300mm、より好ましくは4mm~200mm、更に好ましくは10~150mmとすることができる。
上述した無機繊維集合体21の厚さは、無機繊維集合体21全体の厚さとする。即ち、2層以上の無機繊維集合体21が積層された形態でパネル材12に含まれる場合、無機繊維集合体21の厚さは、2層以上の無機繊維集合体21の合計の厚さである。
【0028】
(1-2)耐熱性組成物
耐熱性組成物22は、反応性耐熱組成物(スラリー)を焼成により硬化(セラミック化)させてなるセラミックスであり、耐火材(パネル材12)において無機繊維集合体21の無機繊維を結着するものでもある。
耐熱性組成物22は、耐熱性を有するものであれば、特に限定されない。具体的に、耐熱性組成物22は、例えば、カオリン系耐熱材、ムライト系耐熱材、アルミナ系耐熱材、ケイ素系耐熱材、シャモット系耐熱材、クロム系耐熱材、カーボランダム系耐熱材、及びマグネシア系耐熱材等から選択され、反応性、耐熱性の観点で、カオリン系耐熱材、ムライト系耐熱材、及びアルミナ系耐熱材などが好ましい。
【0029】
耐火材(パネル材12)中における無機繊維集合体21と耐熱性組成物22との比率は、特に限定されないが、無機繊維集合体21の質量をM1とし、耐熱性組成物22の質量をM2とした場合に、M1とM2との比(M1/M2)で、好ましくは1.0以上4.0以下、より好ましくは1.2以上3.5以下、さらに好ましくは1.5以上3.0以下とすることができる。
パネル材12(耐火材)に含まれる耐熱性組成物22の嵩比重(密度)は、特に限定されないが、特に1000℃以上の温度域で溶融することがない、優れた耐火性能をパネル材12に付与する観点から、パネル材12が形成された状態(つまり、セラミック化した状態)で、下限を、好ましくは12.5Kg/m3以上、より好ましくは37.5Kg/m3以上、更に好ましくは62.5Kg/m3以上とすることができる。また、嵩比重(密度)の上限は、好ましくは350Kg/m3以下、より好ましくは330Kg/m3以下、さらに好ましくは300Kg/m3以下とすることができる。
なお、セラミック化した耐熱性組成物22は、反応性耐熱組成物に使用するものの種類によっては結晶構造中に結晶水を有していたり、風化による酸化分解で微粉化される段階で水酸基が生成したりしており、こうした結晶水や水酸基の働きにより、優れた耐熱性を発揮することができる。
【0030】
(1-3)反応性耐熱組成物
反応性耐熱組成物は、セラミックスである耐熱性組成物22を得るための材料である。この反応性耐熱組成物は、粘土質性鉱物、耐熱性セラミックス、無機酸化物ゾル等を含み、スラリー状とされている。
反応性耐熱組成物は、耐熱性組成物22を形成するための焼成時において、上述した無機繊維集合体21の無機繊維と反応することにより、無機繊維集合体21の耐熱性を大きく向上させることができる。例えば、無機繊維がガラス繊維の場合、ガラス繊維による無機繊維集合体21は、通常、耐熱性が400℃~800℃であるが、反応性耐熱組成物を用いることにより、その耐熱性を1000℃以上に向上させることができる。
含浸等させる場合の無機繊維集合体21に対する反応性耐熱組成物の質量比は、特に限定されないが、無機繊維集合体21の質量をM1とし、反応性耐熱組成物の質量をM3として、M1とM3との比(M1/M3)で、好ましくは1.0以上4.0以下、より好ましくは1.2以上3.5以下、さらに好ましくは1.5以上3.0以下とすることができる。
【0031】
反応性耐熱組成物(耐熱性組成物22)とともに用いられる無機繊維集合体21は、上述のように厚さ方向に圧縮された状態で使用することができ、その状態で密度(嵩比重)を、例えば、250Kg/m3~300Kg/m3に高めることができる。
このように密度(嵩比重)を高めた無機繊維集合体21を、反応性耐熱組成物(耐熱性組成物22)とともに用いる場合、得られる耐火材(パネル材12)は、非常に軽量であり、強靱性、強剛性を有し、その耐熱性が1100℃~1250℃と極めて高いものとなる。
こうした耐火材(パネル材12)は、石膏ボード、セメント板、ケイ酸カルシウム板、ALCパネル(軽量気泡コンクリートパネル)等の通常の耐火パネルと比べて、耐熱性、断熱性、強靱性、加工性に優れるうえ、軽量であるから、高層建築物や集合住宅等の建材としての用途に有用であり、特に、純木造や、木造と鉄骨造のハイブリッド構造の高層建築物や集合住宅等の耐火材や防火材としての用途に有用である。
【0032】
〔粘土質性鉱物〕
上記の粘土質性鉱物は、反応性耐熱組成物に含まれる耐熱性セラミックスに作用し、反応性耐熱組成物に粘性を付与して、スラリー状にしやすくするものである。
粘土質性鉱物は、特に限定されず、結晶質粘土鉱物、非晶質粘土鉱物、準晶質粘土鉱物等を用いることができる。これらの中でも、セピオライト、ハロイサイト等の結晶質粘土鉱物が好ましく、特に、セピオライトが好ましい。セピオライトは、含水ケイ酸マグネシウムを主成分とし、温度が変化しても粘性が変化しにくく、高温であっても高い粘性を維持することができる。このため、反応性耐熱組成物(スラリー)を無機繊維集合体21の無機繊維の表面へ好適に密着させ、固相反応を起こさせることにより、耐熱性組成物が無機繊維同士を好適に接合し、高強度の耐火材(パネル材12)を得ることができる。
【0033】
セピオライトの組成は、特に限定されないが、SiO2:50重量部~70重量部、MgO2:25重量部以下が好ましい。更に、Al2O3:2重量部~4重量部、CaO:1重量部~2重量部等を含んでもよい。
セピオライトの平均粒径は、特に限定されないが、5μm~10μmが好ましい。この場合、無機繊維の表面への密着はもとより、無機繊維集合体21の内部にまで浸透して固相反応を起こしやすくなる。
セピオライトの比表面積は、特に限定されないが、200m2~400m2であることが好ましく、250m2~350m2であることが更に好ましい。この場合、固相反応の効率を高く維持することができる。
【0034】
粘土質性鉱物は、耐熱性セラミックスと無機酸化物ゾルのみを混合した場合に、耐熱性セラミックスの沈殿が発生する可能性があり、この沈殿を防止するものとしても有用である。粘土質性鉱物、特に粘土鉱物は、反応性耐熱組成物の粘性を大きくするので、無機繊維に対する反応性を高めることができる。
また、無機酸化物ゾルとしてシリカゾルが用いられる場合、粘土質性鉱物としてセピオライトを用いることにより、高温になっても高い粘性を維持できるセピオライトと、低分子で反応性に優れたシリカゾルと、が耐熱性セラミックスと組み合わされることで、高温に耐えられる耐熱性組成物が得られる。
【0035】
〔耐熱性セラミックス〕
上記の耐熱性セラミックスは、無機繊維集合体21の無機繊維と反応し、無機繊維の耐熱性を向上させることで、耐火性能の向上に寄与するものである。耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)からなるパネル材12において、耐熱性は、この耐熱性セラミックスの種類によって調整することができる。
耐熱性セラミックスは、特に限定されない。具体的に、耐熱性セラミックスは、陶土等の天然鉱物のほか、カオリン系セラミックス(カオリナイト等)、ムライト系セラミックス(ムライト等)、アルミナ系セラミックス(アルミナ等)、ケイ素系セラミックス(ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、シリカ(ケイ酸)、シリカアルミナ(ケイ酸アルミニウム)等のケイ酸塩類)、シャモット系セラミックス、クロム系セラミックス、カーボランダム系セラミックス、マグネシア系セラミックス、及びリン酸系セラミックス等から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0036】
耐熱性セラミックスは、上述した中でも、ケイ素系セラミックス(ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩類)、カオリン系セラミックス(カオリナイト等)、ムライト系セラミックス(ムライト等)、アルミナ系セラミックス(アルミナ等)が好ましい。これらの中でも、繊維系セラミックス(例えば、ヒドロキシアパタイト等)や、ケイ酸塩類(例えば、ケイ酸カルシウム等)を好適に用いることができる。
さらに、ケイ酸塩類は、例えば、含水ケイ酸カルシウム、含水ケイ酸アルミニウム、含水ケイ酸マグネシウム等のような、ケイ酸塩類の水和物が好ましい。
耐熱性セラミックスは、希望の耐熱温度(1000℃以上、特に1100℃以上、更に1200℃以上、特に1400℃~1800℃)を得るべく、上述した中から適宜選択することができる。
耐熱性セラミックスの粒径は、特に限定されない。粒径は、反応性を向上させる観点から、小さい粒径であることが好ましく、具体的に、15μm以下であることが好ましい。
【0037】
〔無機酸化物ゾル〕
上記の無機酸化物ゾルは、反応性耐熱組成物に含まれる粘土質性鉱物と混合することで、反応性耐熱組成物を均一なスラリー状とするものである。この無機酸化物ゾルによって均一なスラリー状とされた反応性耐熱組成物は、無機繊維集合体21に含浸等させて焼成する際に、均一な硬化反応(セラミック化)をすることができる。また、無機酸化物ゾルは、分散性が良く、粒子が極めて小さいことから固相反応において高い反応性を発揮し、更に無機繊維とのからみに優れることから、耐熱性、結合性が強く強扨なパネル材12を形成することができる。
無機酸化物ゾルは、特に限定されないが、水系媒体に無機酸化物が分散、含有された分散液を用いることができる。具体的に、無機酸化物ゾルとして、シリカゾル(コロイダルシリカ)、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等を挙げることができる。
無機酸化物ゾル中における無機酸化物の含有量は、特に限定されない。無機酸化物の含有量は、無機酸化物ゾルを100重量部とした場合に、好ましくは20重量部~40重量部、より好ましくは25重量部~35重量部とすることができる。この場合、無機繊維集合体21の無機繊維同士を、容易且つ十分に結着させることができる。
【0038】
無機酸化物ゾルは、上述した中でも、シリカゾル(コロイダルシリカ)、アルミナゾルが好ましい。シリカゾル(コロイダルシリカ)、アルミナゾルは、様々な粒子径、粒度分布、形状などの選択がしやすく、耐熱性、結合性、硬度などの必要な物性に適合することができる。
例えば、シリカゾルは、焼成されると、シリカゾル表面のシラノール基[Si-OH]が化学結合に寄与することで、結着する無機繊維同士の間に多数の接点を生むため、パネル材12の強度を大きく向上させることができる。特に、無機繊維がガラス繊維の場合、ガラス繊維同士の隙間にシリカゾルが毛細管現象によって集まり、シラノール基の脱水縮合反応によって、ガラス繊維同士を強固に結合させることができる。
特に、シリカゾルとして繊維性ゾル(アルミナナノファイバーゾル等)は、粘土質性鉱物として繊維性鉱物(セピオライト等)と組み合わせる、更に耐熱性セラミックスとして繊維性セラミックス(ヒドロキシアパタイト等)と組み合わせることにより、耐熱性の更なる向上を図ることができる。
【0039】
〔その他の成分〕
反応性耐熱組成物は、粘土質性鉱物、耐熱性セラミックス、無機酸化物ゾルの3成分の他、所望に応じて、例えば、増粘剤、硬化促進剤、浸透剤等のような、その他の成分を含んでもよい。
増粘剤は、反応性耐熱組成物の粘性を増加させるための補助剤として用いられ、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸ソーダ、糊料等が挙げられる。増粘剤の含有量は、特に限定されず、反応性耐熱組成物の固形分の合計を100重量部とした場合、通常、2重量部~5重量部である。
硬化促進剤は、反応性耐熱組成物の硬化を促進させるための硬化促進剤として用いられ、例えば、ヘキサメタリン酸ソーダ等が挙げられる。硬化促進剤の含有量は、特に限定されず、反応性耐熱組成物の固形分の合計を100重量部とした場合、通常、0.2重量部~0.5重量部である。
浸透剤は、反応性耐熱組成物を無機繊維集合体21中に浸透しやすくするために用いられ、例えば、ジアルキルスルホコハク酸エステルナトリウム等が挙げられる。
浸透剤の含有量は、特に限定されず、反応性耐熱組成物の固形分の合計を100重量部とした場合、通常、0.2重量部~1.0重量部である。
【0040】
(2)バックアップ材
バックアップ材14は、所謂、芯材として、上述のパネル材12を補強するものであり、耐力壁としての強度を向上させるものである。
バックアップ材14には、木質板を使用することができ、あるいは、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板等の耐火パネルを使用することができる。
バックアップ材14は、木質板を使用する場合、枠組材11と同様の難燃化処理により、珪酸化合物を含浸させて硬化させることで難燃化することが好ましい。
【0041】
パネル材12は、バックアップ材14の一面にのみ積層された構成とすることができる(
図2参照)。
あるいは、パネル材12は、バックアップ材14の一面と他面の両面に積層された構成とすることができる(
図3参照)。
【0042】
バックアップ材14の厚さは、特に限定されない。この厚さは、例えば、上述したバックアップ材14に用いられる材料や、積層パネルに所望される用途や性能等に適宜応じた値にすることができる。
例えば、バックアップ材14が石膏ボードである場合、バックアップ材14の厚さは、好ましくは9.5mm以上、より好ましくは12.5mm以上、さらに好ましくは15mm以上である。通常、この場合のバックアップ材14の厚さは、100mm以下である。
バックアップ材14がケイカル板である場合、バックアップ材14の厚さは、好ましくは4mm以上、より好ましくは6mm以上、さらに好ましくは10mm以上である。通常、この場合のバックアップ材14の厚さは、50mm以下である。
【0043】
バックアップ材14が木質板である場合、バックアップ材14の厚さは、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上である。通常、この場合のバックアップ材14の厚さは、100mm以下である。
上述したバックアップ材14の厚さは、1枚の材料のみで達成することができるが、2枚以上の材料を重ね合わせて達成することもできる。
【0044】
バックアップ材14の嵩比重は、特に限定されない。この嵩比重は、例えば、上述したバックアップ材14に用いられる材料や、積層パネルに所望される用途や性能等に適宜応じた値にすることができる。
バックアップ材14の材料が石膏ボードである場合、通常、嵩比重(密度)は、好ましくは500Kg/m3以上1300Kg/m3以下、より好ましくは600Kg/m3以上1200Kg/m3以下、さらに好ましくは650Kg/m3以上1000Kg/m3以下である。
バックアップ材14の材料がケイカル板である場合、通常、嵩比重(密度)は、好ましくは600Kg/m3以上1500Kg/m3以下、より好ましくは750Kg/m3以上1300Kg/m3以下、さらに好ましくは800Kg/m3以上1100Kg/m3以下である。
バックアップ材14の材料が木質板である場合、通常、嵩比重は、好ましくは300Kg/m3以上1500Kg/m3以下、より好ましくは400Kg/m3以上1000Kg/m3以下、さらに好ましくは500Kg/m3以上900Kg/m3以下である。
【0045】
(3)積層パネル
積層パネル15は、パネル材12とバックアップ材14とを積層して形成されたものである。
積層パネルは、バックアップ材14とパネル材12とを1つずつ有する構成に限らず、複数ずつ有する構成とすることができる。
例えば、積層パネル15は、互いに積層された2つのバックアップ材14と、各バックアップ材14の一面にそれぞれ積層されたパネル材12と、を備えている、つまりバックアップ材14とパネル材12を2つずつ有する構成とすることができる。
積層パネル15は、複数を積層して一体化した構成とすることもできる。
【0046】
枠組壁10において、積層パネル15の向き、つまりパネル材12又はバックアップ材14の何れを枠組壁10の外面側に配するかについて、特に限定はされないが、パネル材12を外面側とする積層パネル15の向きが好ましい。
すなわち、火災時の枠組壁10は、その外面側から火に曝されて高温になる。上述したように、パネル材12は、耐熱性組成物として耐熱性セラミックスを含み、その耐熱温度が1000℃以上であるから、バックアップ材14に比べて耐熱温度が非常に高い。
このため、枠組壁10は、パネル材12が外面側となるような積層パネル15の向きとした場合、火災時において、火に曝されたパネル材12が高温に長時間耐えることができ、優れた耐火性能を発揮することができる。
【0047】
積層パネル15は、パネル材12の表面を、
図4に示すように、鏡面状の化粧面15Aとすることができる。
また、積層パネル15は、パネル材12の表面を、
図5に示すように、凹凸状の模様からなる化粧面15Bとすることができる。この化粧面15Bについて、凹凸状の模様は、特に限定されず、
図5に示したタイル模様の他に、例えば、木目模様、幾何学模様などとすることができる。
即ち、積層パネル15は、鏡面状の化粧面15Aや凹凸状の模様からなる化粧面15Bを設けることができ、化粧性を有している。
【0048】
積層パネル15の嵩比重(密度)は、特に限定されないが、好ましくは362.5Kg/m3以上2200Kg/m3以下、より好ましくは587.5Kg/m3以上1960Kg/m3以下、更に好ましくは812.5Kg/m3以上1700Kg/m3以下とすることができる。
この場合、積層パネル15は、建物の壁に用いた場合に、耐力壁として十分な圧縮強度と断熱効果を発揮することができる。
なお、上述の嵩比重は、積層パネル15の全体における嵩比重である。つまり、バックアップ材14、パネル材12等を備えた状態とした積層パネルの嵩比重である。
積層パネル15の形状は、板状であれば、特に限定されず、例えば、平板や、あるいは、波板や、曲げ角度が直角や鋭角や鈍角とされた屈曲板や、曲面状とされた曲面板等とすることができる。
【0049】
積層パネル15は、家屋等の木構造による建物や、ビルディング等の鉄筋コンクリート構造による建物に使用される建築材料として、壁板として使用することができ、壁板の他にも、床板、天井板等に使用することができる。
積層パネル15は、パネル材12を有していることから、耐火材として壁、天井、床、柱等の構造自体を形成する構造材等として使用することができ、あるいは、壁、天井、床、柱等を装飾する化粧材としても使用することができる。
積層パネル15の用途が壁板の場合、積層パネル15は、内壁、外壁、間仕切り壁などといった固定された壁(耐力壁)の他に、引き戸、襖などのような建具にも使用することができる。
【0050】
(4)枠組材
枠組材11は、複数の縦枠111及び横枠112を枠状に組み合わせてなり、上述のパネル材12とともに、建物の耐力壁となる枠組壁10を構築するためのものである。
具体的に、枠組材11は、上下一対の横枠112の間に、複数の縦枠111を架設することにより、四角枠状に形成されている(
図1参照)。四角枠状に形成された枠組材11は、1つ又は複数の開口面を有しており、開口面を覆うようにパネル材12を配して、そのパネル材12を横枠112及び縦枠111に固定することにより、枠組壁10が構築されている。
【0051】
枠組材11(横枠112及び縦枠111)には、通常、木材を使用することができる。
耐火壁構造は、上述のパネル材12を、耐火材に由来する無機繊維集合体21及び耐熱性組成物22を含むものとすることにより、優れた耐火性能を発揮することができるが、枠組材11が木材である場合、その木材を難燃化処理して難燃材とすることにより、更なる耐火性能の向上を図ることができる。
【0052】
(4-1)難燃化処理
難燃化処理は、木材や木質板など、木に由来の材料を難燃化するための処理である。よって、「木材」、「木質板」は、木に由来の材料であれば、特に限定されず、全ての天然木材、加工木材、あるいは集成材、合板、中質繊維板(MDF)、硬質繊維板(ハードボード)、軟質繊維板(インシュレーションボード)、パーティクルボード等を用いることができる。
木材や木質板の形態も、特に限定されず、例えば、角材、棒材、柱材、板材等を挙げることができる。
【0053】
難燃化処理に供される木材や木質板などは、そのまま用いることができ、あるいは処理前に十分に乾燥させたものを用いることができる。特に、乾燥させたものは、収縮や反り等が除かれることにより、強度の向上を図ることができる。
乾燥の程度は、特に限定されない。通常、木材や木質板の水分率は、屋外保存では平衡水分率で約15質量%、室内保存では8~15質量%、平均では12質量%程度であるが、処理前の木材や木質板を、例えば、水分率0~5質量%となるように、乾燥させることができる。
乾燥方法は、特に限定されず、例えば、高周波加熱、過熱蒸気加熱、熱板加熱等を挙げることができる。
【0054】
難燃化処理は、以下に示す工程を備えている。
第1の含浸工程;木材や木質板などに珪酸化合物及びゲル化剤を含浸させる工程。
硬化工程;珪酸化合物をゲル化剤によって硬化(ゲル化)する工程。
第2の含浸工程;木材や木質板などにリン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤を含浸させる工程。
第1の含浸工程と第2の含浸工程は、2つの工程に分けて実行することができるが、まとめて1つの工程で実行することもできる。
【0055】
難燃化処理が備える各工程の順序は、第1の含浸工程よりも後に硬化工程が実行されるのであれば、特に限定されない。各工程の具体的な順序としては、以下の順序A~Dを挙げることができる。
順序A;第1の含浸工程、硬化工程、第2の含浸工程
順序B;第1の含浸工程、第2の含浸工程、硬化工程
順序C;第1の含浸工程及び第2の含浸工程、硬化工程
順序D;第2の含浸工程、第1の含浸工程、硬化工程
【0056】
上述した順序A~Dの中でも、順序Aは、木材等に珪酸化合物を含浸させて硬化(ゲル化)させた後に、燃焼抑制剤を含浸させることができるため、好ましい。
すなわち、硬化(ゲル化)させた珪酸化合物は吸着性に優れており、燃焼抑制剤は、硬化(ゲル化)させた珪酸化合物に吸着されて木材等の内部に強固に固定される。このため、燃焼抑制剤の木材等の表面への溶出を防止することができ、耐水性の向上を図ることができる。
また、順序Aの場合、木材等の内部には先に珪酸化合物が含浸されて硬化(ゲル化)されているため、後から含浸させる燃焼抑制剤の使用量の低減を図ることができる。
【0057】
難燃化処理では、上述の順序Aの場合、珪酸化合物及びゲル化剤を木材等に含浸させ、珪酸化合物を硬化(ゲル化)させた後、燃焼抑制剤を木材等に含浸させることができる。この場合、木材等は、珪酸化合物及びゲル化剤を含浸させる前と、燃焼抑制剤を含浸させる前とのそれぞれで乾燥させたものとすることができる。
特に、珪酸化合物を硬化(ゲル化)させた後、燃焼抑制剤を木材等に含浸させる前に木材等を乾燥させたものとする場合、木材等の内部において、硬化(ゲル化)させた珪酸化合物が収縮することにより、空隙が生じるため、燃焼抑制剤の含浸に用いる液剤の浸透性の向上を図ることができる。
【0058】
(4-2)液剤
難燃化処理は、木材や木質板などに珪酸化合物と、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤と、を含浸させて、珪酸化合物を硬化させることにより、木材や木質板などを難燃化するための処理である。
この難燃化処理では、木材や木質板などに珪酸化合物、燃焼抑制剤等を含浸させるための液剤が使用される。
液剤は、珪酸化合物と、燃焼抑制剤と、珪酸化合物を硬化させるためのゲル化剤とを含んでいる。
珪酸化合物は、ゲル化剤によってゲル化(硬化)させることができる珪酸系化合物を用いることができる。具体的に、珪酸化合物として、コロイダルシリカに含有されるシリカ、及びアルカリ珪酸塩等を挙げることができる。
燃焼抑制剤は、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0059】
〔珪酸化合物〕
珪酸化合物としてコロイダルシリカは、一般式;Me2O・nSiO2[MeはNa、R3N又はR4N(Rは水素原子又はコリン、モノメチルトリエタノールアンモニウム等の有機基)であり、nは50~300である。]で表される。
コロイダルシリカは、シリカが媒体に分散してなるコロイドである。このシリカは、アルカリ珪酸塩とは異なり、SiO2のモル比が50~300と高いものである。また、シリカの粒径は、通常、5nm以上であり、上限は50μm以下、好ましくは20μm以下である。
コロイダルシリカにおいて、シリカの濃度は特に限定されず、SiO2濃度で、好ましくは20~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。
また、コロイダルシリカには、水分散系のもの(以下、「水性コロイダルシリカ」ともいう)と、有機媒体分散系のもの(以下、「オルガノコロイダルシリカ」ともいう)とがあり、いずれか一方のみを用いてもよく、両者を併用してもよい。
【0060】
水性コロイダルシリカを用いる場合、シリカの粒径が、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下の低粘度品を用いることができる。
また、水性コロイダルシリカを用いる場合、SiO2濃度は、好ましくは20~50質量%、より好ましくは20~40質量%、さらに好ましくは20~35質量%である。
水性コロイダルシリカは、上述した一般式のMeが、R4Nである(アンモニウムシリケート)場合、他のコロイドに比べ、SiO2濃度が比較的高くとも低粘度であり、且つ結合力が強い等の利点を有することから、好ましい。
【0061】
オルガノコロイダルシリカを用いる場合、シリカの粒径が、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下の低粘度品を用いることができる。
また、オルガノコロイダルシリカを用いる場合、SiO2濃度は、好ましくは20~40質量%、より好ましくは20~30質量%である。
オルガノコロイダルシリカは、媒体がメタノール、イソプロパノール又はキシレン-ブタノール混合媒体等である場合、低粘度、且つSiO2濃度の高いコロイドとすることができ、好ましい。
【0062】
水性コロイダルシリカ及びオルガノコロイダルシリカは、粘度が、好ましくは1~50cps/25℃、より好ましくは1~30cps/25℃の低粘度のものが好ましい。低粘度とすることで、木材等への浸透性を良好なものとすることができる。
コロイダルシリカに分散しているシリカは、例えば、粒径が20μm以下の小粒径のものが好ましい。粒径が20μm以下の場合、木材等の細胞壁孔と同程度であり、木材等の細胞壁の内部にまで珪酸化合物を含浸させることができる。
【0063】
変色し易いアルカリ珪酸塩が含まれる場合は、コロイダルシリカを併用することが好ましい。これにより、アルカリ金属による変色を著しく抑えることができる。アルカリ珪酸塩とコロイダルシリカとを併用する場合、珪酸化合物の合計量を100質量%とした場合に、アルカリ珪酸塩(固形分での割合)は50質量%以下、特に30質量%以下、更に10質量%以下であることが好ましい。
【0064】
珪酸化合物としてアルカリ珪酸塩は、一般式;Me2O・nSiO2(Meは、Na、K、Li、R3N、又はR4N(Rは、コリン、モノメチルトリエタノールアンモニウム等の有機基、又は水素原子)であり、nは0.5~10の数である。)で表される珪酸化合物の塩である。
具体的に、アルカリ珪酸塩として、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム、第3級アミン珪酸塩、第4級アンモニウム珪酸塩等が挙げられる。これらのうちでは、珪酸ナトリウム、珪酸リチウム及び珪酸カリウムのうちの少なくとも1種であることが好ましく、珪酸ナトリウム及び珪酸リチウムの少なくとも一方であることがより好ましい。
また、珪酸ナトリウムと珪酸リチウムとを併用した場合、低粘度となり、且つ木材への浸透性に優れるため特に好ましい。
更に、改質木材の変色を抑制するという観点では、珪酸リチウム、第3級アミン珪酸塩、第4級アンモニウム珪酸塩が好ましい。これらのアルカリ珪酸塩は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
アルカリ珪酸塩の含有量は、特に限定されず、液剤の全量を100質量%とした場合、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~30質量%とすることができる。この場合、十分に高濃度でありながら、適度な粘度となり、木材への浸透性に優れる。また、この場合、ゲル化しない程度の加温により、粘度を低下させ、更に浸透性を向上させることもできる。つまり、1回の処理で、より多くの珪酸化合物を木材等に含浸させることができる。
更に、より多くの珪酸化合物を木材等に含浸させるため、加圧と減圧とを繰り返すこともできる。
【0066】
アルカリ珪酸塩として珪酸ナトリウムを使用し、媒体として水を用いる場合、珪酸リチウムを併用することが好ましい。特に、アルカリ金属元素に対してより多くのケイ素を含有し、ケイ素を効率よく木材に含浸させることができるため、アルカリ珪酸塩としては、JIS3号又はJIS4号の珪酸ナトリウムを用いることが好ましい。
但し、これらの珪酸ナトリウムのみで上述したアルカリ珪酸塩の濃度の液剤を調製しようとすると粘度が高くなる。この場合に、水を媒体としたときに低粘度である珪酸リチウムを併用することで、粘度を低下させることができる。この場合の液剤の粘度は、例えば、5~250cps/25℃、特に10~150cps/25℃とすることができる。
【0067】
〔ゲル化剤〕
ゲル化剤は、珪酸化合物をゲル化、つまり硬化させることができればよく、珪酸化合物の種類によって適宜選択して用いることができる。このゲル化剤は固形でもよく、液状でもよい。
ゲル化剤としては、例えば、酸性反応剤及び金属塩反応剤等が挙げられる。
【0068】
酸性反応剤としては、硫酸、リン酸、ホウ酸、シュウ酸、酢酸、炭酸、蟻酸及びその塩であり、酸性を呈する化合物、ホウ酸及びその塩であり、酸性を呈する化合物、リン酸塩又はホウ酸塩で熱分解等により酸性を呈する化合物などを用いることができる。
具体例としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素カルシウム、アルキル基安定化重リン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0069】
金属塩反応剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属の塩等を用いることができる。
具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。
【0070】
珪酸化合物がシリカの場合(コロイダルシリカを用いるとき)は、液剤の水素イオン指数(pH)を、最も不安定なpH4.0~7.0の領域を避け、可使時間を長くすることができる酸性域、又はアルカリ性域のいずれかの安定域となるようにpHを調整した後、液剤を木材に含浸させ、次いで、ゲル化剤を分解させる、又は次工程でゲル化剤を含浸させてゲル化させることもできる。
また、アルカリ珪酸塩、例えば、水ガラスを用いる場合は、最も不安定なpH6.5~8.5の中性域を避け、可使時間を長くすることができる酸性域で酸性シリカゾル分散液として木材に含浸させ、その後、液剤に含まれるゲル化剤を分解させ、pHを不安定な中性域に調整してゲル化させる、又は次工程でゲル化剤を含浸させ、ゲル化させることができる。
更に、アルカリ珪酸塩を用いる場合は、ゲル化剤として、金属塩反応剤を除く他のゲル化剤、例えば、酸性反応剤が用いられる。
【0071】
〔燃焼抑制剤〕
燃焼抑制剤は、木材の燃焼を抑えるためのものであり、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種を用いることができる。
また、燃焼抑制剤は、例えば、溶液、分散液の形態することができる化合物、つまりは液化できる化合物を用いることができる。
燃焼抑制剤は、リン系燃焼抑制剤とホウ素系燃焼抑制剤とを併用することが好ましく、リン系燃焼抑制剤とホウ素系燃焼抑制剤をそれぞれ単独で用いる場合と比べて、より高い耐熱性と難燃性とを発揮することができる。このことは、燃焼抑制剤が含浸された木材を示差熱分析したときに、単独で用いた場合と比べて、併用したときは、昇温時の残留重量がより多いことから理解することができる。
【0072】
(リン系燃焼抑制剤)
リン系燃焼抑制剤は、リン元素を有する化合物を含み、通常、リン元素を有する化合物による脱水炭化作用により燃焼抑制効果を発揮することができる。脱水炭化作用とは、加熱時に、木材を構成するセルロースを脱水させ、水と炭素とに分離させる作用である。
なお、リン系燃焼抑制剤は、リン元素を有する化合物に加えて、リン元素を有する化合物以外の他の化合物を含むこともできる。
【0073】
リン系燃焼抑制剤の具体例としては、リン酸、リン酸塩等を挙げることができる。
リン酸としては、メタリン酸、ポリリン酸を挙げることができる。リン酸塩としては、リン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素、リン酸メラミン、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等を挙げることができる。これらリン酸、リン酸塩等は、1種のみを用いることができ、あるいは2種以上を併用することができる。
リン系燃焼抑制剤には、合成品、天然品、加工天然品、それらの混合物の何れも使用することができる。
【0074】
リン系燃焼抑制剤は、他の化合物、特に窒素系燃焼抑制助剤等との併用により、燃焼抑制効果をより効果的に発揮することができる。
窒素系燃焼抑制助剤は、窒素元素を有する化合物からなる。
窒素系燃焼抑制助剤としては、硝酸アンモニウム、尿素、グアニジン、ジシアンジアミド、塩化アンモニウム等の窒素元素を有する各種の化合物を挙げることができる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
窒素系燃焼抑制助剤には、合成品、天然品、加工天然品、それらの混合物の何れも使用することができる。
【0075】
(ホウ素系燃焼抑制剤)
ホウ素系燃焼抑制剤は、ホウ素元素を含有する化合物を含み、通常、ホウ素元素を含有する化合物が加熱により脱水分解され、その後、溶融し、ガラス状となって木材表面を覆うことにより燃焼を抑制することができる。
ホウ素系燃焼抑制剤の具体例としては、ホウ酸、ホウ酸塩等を挙げることができる。ホウ酸塩としては、ホウ酸ナトリウム(ホウ酸ソーダ、ホウ砂)等を挙げることができる。これらホウ酸、ホウ酸塩等は、1種のみを用いることができ、あるいは2種以上を併用することができる。
ホウ素系燃焼抑制剤には、合成品、天然品、加工天然品、それらの混合物の何れも使用することができる。
なお、ホウ素系燃焼抑制剤は、ホウ素を有する化合物に加えて、ホウ素を有する化合物以外の他の化合物を含むこともできる。
【0076】
(ハロゲン系燃焼抑制剤)
ハロゲン系燃焼抑制剤は、ハロゲン元素を有する化合物を含み、通常、木材の熱分解時に、ハロゲン元素を有する化合物が分解成分と結合して不燃性成分又は難燃性成分を形成することにより燃焼を抑制することができる。
ハロゲン元素は、特に限定されないが、それらのなかでも、臭素、塩素が好ましい。
ハロゲン系燃焼抑制剤の具体例としては、各種ハロゲン化物を挙げることができ、例えば、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化アンチモン、塩化パラフィン等を挙げることができる。
ハロゲン系燃焼抑制剤には、合成品、天然品、加工天然品、それらの混合物の何れも使用することができる。
なお、ハロゲン系燃焼抑制剤は、ハロゲン元素を有する化合物に加えて、ハロゲン元素を有する化合物以外の他の化合物を含むこともできる。
【0077】
〔媒体等〕
液剤は、珪酸化合物、燃焼抑制剤、ゲル化剤等を、媒体に溶解させた液体、媒体に分散させた液体、及びこれらの混合液のうちのいずれかの液体である。
この液剤は、珪酸化合物、燃焼抑制剤及びゲル化剤の全てを同一の媒体に溶解又は分散した1剤型とすることができ、あるいは、珪酸化合物、燃焼抑制剤及びゲル化剤から選択される1種と2種とを異なる媒体にそれぞれ溶解又は分散した2剤型とすることができ、あるいは、珪酸化合物、燃焼抑制剤及びゲル化剤を異なる媒体にそれぞれ溶解又は分散した3剤型とすることができる。
液剤の調製方法は、珪酸化合物、燃焼抑制剤及びゲル化剤を媒体にそれぞれ溶解又は分散させることができる限り、特に限定されない。
具体的に液剤は、コロイダルシリカ等の珪酸化合物の分散液又はアルカリ珪酸塩等の珪酸化合物の溶液と、燃焼抑制剤の分散液又は溶液と、ゲル化剤との3剤を混合して調製することができる。
液剤を1剤型、2剤型又は3剤型の何れとするかは、特に限定されず、例えば、難燃処理の各工程を上述した順序A~Dのうち何れの順序で実行するか等に応じて、適宜選択することができる。具体例として、難燃処理の各工程を順序Aで実行する場合、液剤は、珪酸化合物及びゲル化剤を含むA剤と燃焼抑制剤を含むB剤とを有する2剤型とすることができ、難燃処理の各工程を順序Cで実行する場合、液剤は、珪酸化合物、燃焼抑制剤及びゲル化剤を含む1剤型とすることができる。
【0078】
液剤に用いる媒体は、特に限定されず、水を用いてもよく、有機媒体を用いてもよく、水と有機媒体との混合媒体を用いてもよい。
媒体は、水系媒体であることが好ましく、水又は水と親水性の高い有機媒体との混合媒体が好ましい。混合媒体の場合、用いる有機媒体としては、炭素数が1又は2のアルコール、特に炭素数が1のメタノールが好ましく、この場合、浸透性をより向上させることができる。混合媒体における炭素数が1又は2のアルコールの含有量は、特に限定されないが、媒体の全量を100質量%とした場合に、好ましくは50質量%以下、より好ましくは10~40質量%である。
【0079】
液剤の可使時間は、珪酸化合物及び燃焼抑制剤を木材等に含浸させるのに要する時間よりも長ければよく、特に限定されない。この可使時間は、通常、2~50日であり、10日間以上であることが好ましく、特に50日間以上であることがより好ましい。この可使時間が10日間以上であれば、操作性に優れ、液剤を木材に十分に含浸させる時間がとれ、且つ何回も継続使用することができるという利点がある。
また、この可使時間はpH調整で制御することができ、木材等に浸透させ、含浸させた後、乾燥工程で水分を除去し、濃縮させてゲル化(硬化)させる、ゲル化剤を加熱分解させてpHを中性域に調整してゲル化(硬化)させる、又は次工程でゲル化剤を含浸させてゲル化(硬化)させることができる。
【0080】
具体的な可使時間は下記のとおりである。
〔1〕30質量%のシリカを含有するコロイダルシリカとアルキル基安定化重リン酸アルミニウムとを使用し、コロイダルシリカ70質量部、アルキル基安定化重リン酸アルミニウム30質量部及び水10質量部を含有する液剤とした場合、室温(例えば、20~30℃)で6ヶ月以上安定である。コロイダルシリカ50質量部及びアルキル基安定化重リン酸アルミニウム50質量部を含有する液剤とした場合、5~6日安定である。
【0081】
〔2〕30質量%のシリカを含有するコロイダルシリカと、シュウ酸二水和物を使用し、コロイダルシリカ100質量部及びシュウ酸二水和物4質量部を含有する液剤とした場合、室温で4日目にゲル化し始め、ゾルを2℃/分で昇温させたときは84℃でゲル化し始める。
〔3〕30質量%のシリカを含有するコロイダルシリカと、1Kケイ酸カリウムを使用し、コロイダルシリカ100質量部及び1Kケイ酸カリウム10質量部を含有する液剤とした場合、室温で17日目にゲル化し始め、コロイダルシリカ100質量部及び1Kケイ酸カリウム25質量部を含有する液剤とした場合、3日目にゲル化し始める。
【0082】
〔4〕30質量%のシリカを含有するコロイダルシリカと、2Kケイ酸カリウムを使用し、コロイダルシリカ80容量部及び2Kケイ酸カリウム20容量部を含有する液剤とした場合、室温で2日目にゲル化し始め、コロイダルシリカ50容量部及び2Kケイ酸カリウム50容量部を含有する液剤とした場合、16時間でゲル化し始め、可使時間が少し短いが、実用可能である。
〔5〕30質量%のシリカを含有するコロイダルシリカと、蟻酸アンモニウムを使用し、コロイダルシリカ100質量部及び蟻酸アンモニウム0.5質量部を含有する液剤とした場合、室温で3日目にゲル化し始める。
〔6〕30質量%のシリカを含有するコロイダルシリカと、酢酸アンモニウムを使用し、コロイダルシリカ100質量部及び酢酸アンモニウム0.5質量部を含有する液剤とした場合、室温で6日目にゲル化し始め、ゾルを100℃で5分間加熱するとゲル化し始める。
【0083】
更に、珪酸化合物がコロイダルシリカである場合、pHが8.0~11.0、特に8.5~10.0の範囲では、可使時間が短く、不安定で極めて使用し難いため、塩基性化合物系のゲル化剤によりpHを調整し、可使時間を制御して用いることが好ましい。
また、珪酸化合物がアルカリ珪酸塩である場合、pH3.5~10.0、特に4.5~9.5の範囲では、可使時間が短く、不安定で極めて使用し難いため、硫酸、リン酸等を用いて安定性が高く、且つ低粘度で可使時間を長くすることができる酸性ゾル(pH1.0~2.5)に変換し、木材等に含浸させた後、pHを6.0~8.0に調整してゲル化させる方法が好ましい。
【0084】
(4-3)含浸方法及び含浸条件
液剤の木材等への含浸方法は、特に限定されないが、例えば、窒素ガス等を用いて加圧しながら含浸させる加圧含浸、加圧せずに含浸させる常圧含浸が挙げられる。これらの中でも、加圧含浸が好ましく、加圧により、木材等の組織内(導管や細胞壁等の内部)にまで、より多くの珪酸化合物、燃焼抑制剤及びゲル化剤を含浸させることができる。
含浸時には、木材、木質板等の表面に液剤を塗布すればよいが、木材、木質板等の表面に孔状やスリット状の凹部を設けることが好ましい。
例えば、木材からなる縦枠111に液剤を含浸させる場合、
図6(a),(b)に示すように、縦枠111の表面に、孔状の凹部111Aを複数設け、それら凹部111Aに液剤を注入あるいは圧入して、珪酸化合物、燃焼抑制剤及びゲル化剤を含浸させる。
また、木質板からなるバックアップ材14に液剤を含浸させる場合、
図7(a),(b)に示すように、バックアップ材14の表面に、スリット状の凹部14Aを複数設け、それら凹部14Aに液剤を注入あるいは圧入して、珪酸化合物、燃焼抑制剤及びゲル化剤を含浸させる。
【0085】
凹部111A,14Aの形成方法は、特に限定されず、例えば、レーザー光により孔設してもよく、ドリル等の木工加工機により孔設してもよく、その他の方法で孔設してもよく、これらの方法のうちの2種以上を併用してもよい。
なお、レーザー光の種類は、特に限定されないが、炭酸ガスレーザーが好ましい。レーザー光の波長、出力等についても限定されず、木材等の種類、凹部の形状及び深さ等により設定することが好ましい。レーザー光を用いた場合、他の方法、例えば、木工加工機を用いたときと比べて、より容易に寸法精度の高い凹部を形成することができる。
【0086】
凹部111A,14Aは、木材等に形成された孔であり、この孔は木材等を貫通していてもよく、貫通していない有底のものでもよい。つまり、凹部(孔)の深さは、特に限定されず、凹部の周囲で30~50mmの範囲に液剤が含浸されることを考慮し、設定されることが好ましい。
凹部111A,14Aの形状は、特に限定されない。例えば、
図6(a),(b)に示されるような、開口形状が略円形で断面形状が直線状の円柱孔、開口形状が略円形で断面形状が内部へ向かって窄まる円錐孔を挙げることができる。他に、開口形状について四角形等の多角形、断面形状について折線状、曲線状等を挙げることができる。
【0087】
凹部111A,14Aの伸び方向は、特に限定されず、例えば、木目と交差する方向、木目と略平行な方向を挙げることができる。
凹部111A,14Aのサイズ(大きさ)は、特に限定されず、例えば、凹部111Aであれば開口径、凹部14Aであれば開口幅(太さ、又は
図7(a)に示された状態で上下幅)を、0.5mm~1mmとすることができる。
凹部111A,14Aは、1つの凹部の周囲で30~50mmの範囲に液剤を拡散させて含浸させることができる。
スリット状の凹部14Aに関し、開口長さ(長手方向の長さ、又は
図7(a)に示された状態で左右幅)は、特に限定されないが、木材等の強度保持のため、両端部及び/又は中央部に、凹部が形成されない部分を残したスリット状とすることができる。スリット状の凹部14Aは、液剤の浸透速度が特に速く、凹部を形成しない場合に比べて含浸に要する時間を1/20~1/50程度に短縮することができる。
【0088】
凹部111A,14Aの形成位置、形成数、形成密度等は、特に限定されない。これら形成位置、形成数、形成密度等は、木材等の性質や用途に応じて設定することができる。例えば、木材等の裏面、端面、周面等のような目立たない箇所に凹部を形成すれば、木材等の変形や強度低下を抑制することができ、且つ外観(見栄え)の悪化を防止することができる。
なお、凹部111A,14Aの形成位置、形成数、形成密度等に関しては、木材等の硬さ、木目(年輪)の密度、板目、柾目等に応じて、適宜設定することができる。
【0089】
凹部111A,14Aを設けた場合、液剤は、木材、木質板等の表層部分に含浸されるのみならず、凹部111A,14Aを介して木材、木質板等の内部にまで含浸されるため、木材、木質板等により多くの珪酸化合物、燃焼抑制剤及びゲル化剤を含浸させることができる。
つまり、凹部111A,14Aの形成は、木材、木質板等に対する液剤の浸透性の向上に寄与している。このため、木材、木質板等が、長尺や大面積等といったサイズの大きなものや、木目の詰まった堅いもの等のように、加圧や加熱をしても液剤を内部深くにまで浸透させて含浸させるのが困難なものであっても、凹部の形成により液剤を容易に(例えば、低圧力、短時間で)浸透させ、含浸させることができる。
【0090】
含浸条件は、特に限定されないが、液剤のポットライフを勘案して含浸させることが好ましい。
含浸時には、液剤及び/又は木材、木質板等の加熱の有無に関し、特に限定されないが、加熱した場合、浸透速度を大きくすることができ、特に、常圧又は低圧力であっても十分な浸透速度とすることができる。
但し、特に可使時間が短い液剤を加熱するときは、含浸時に珪酸化合物が硬化(ゲル化)してしまうことがあるため、十分に注意する必要がある。
【0091】
加圧する場合、加圧方法は特に限定されない。例えば、気体を反応容器内に圧入して加圧してもよく、加熱により加圧してもよく、これらを組み合わせて加圧してもよい。
加圧条件も特に限定されないが、例えば、木材の種類、水分率、真空度、木目の状態及び種類、木材の寸法及び形状等により適宜設定することが好ましい。
通常、圧力は10MPa以下、特に8MPa以下、更に6MPa以下(通常、0.2MPa以上)であることが好ましい。これにより、木材の種類及び形状等に影響されることなく、反り、変形及び割れなどを十分に防止することができる。
特に、年輪が認められない木材、木質材の場合、軟質系及び硬質系のいずれであっても10MPaまでは加圧することができる。
年輪が認められる軟質系の木材、木質材の場合、3MPa以下(通常0.5MPa以上)とすることが好ましい。年輪が認められる硬質系の木材、木質材の場合、5MPa以下(通常1.5MPa以上)とすることが好ましい。
なお、軟質系の木材、木質材とは、JIS Z2101により測定した、温度25℃、且つ含水率7質量%以下における密度が0.56kg/m3未満である木材、木質材をいうものとする。軟質系の木材として、例えば、杉、檜及びラワン等の針葉樹の木材が挙げられる。
【0092】
液剤は、加熱して含浸させることもできる。加熱する場合、液剤を加熱してもよく、液剤の容器全体を加熱してもよく、これらの加熱を併用してもよい。
液剤は、例えば、液剤を含浸させる容器とは別の、加熱用の容器を用いて加熱することができる。また、容器同士の間で液剤を循環させることもできる。
加熱された液剤の温度は、特に限定されないが、180℃未満、特に40~150℃、更に60~120℃)であることが好ましい。この範囲の液温であれば、浸透速度を十分に向上させることができ、且つ木材の損傷、液体の変質等を防止することもできる。また、このように液温を上昇させることにより、室温(例えば、20~30℃)で含浸させるときと比べて、浸透速度を2~5倍に向上させることができ、珪酸化合物を含浸する工程(第1の工程)に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0093】
(4-4)珪酸化合物の含浸量
木材等への珪酸化合物の含浸量は、特に限定されないが、十分な難燃効果を得るために、含浸前の木材の質量を100質量部として、SiO2の含有量で、好ましくは40~200質量部、より好ましくは50~150質量部、更に好ましくは60~~120質量部とすることができる。
【0094】
(4-5)ゲル化剤の混合量
液剤におけるゲル化剤の混合量は、ゲル化剤の種類によっても異なり、特に限定されないが、珪酸化合物を十分にゲル化させることができる配合量とすることができる。
例えば、蟻酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等では、0.2~1.0質量部(珪酸化合物を100質量部とする。以下、同様である。)、特に0.3~0.7質量部程度でよく、アルキル基安定化重リン酸アルミニウム、シュウ酸、1K(2K)珪酸カリウム等では、1~40質量部、特に2~30質量部とすることができる。このように、ゲル化剤の混合量は種類によって設定する必要があるが、0.2~40質量部。特に0.3~30質量部、更に0.5~25質量部であることが好ましい
なお、珪酸化合物とゲル化剤の各々の組み合わせによっても、好ましい混合範囲があるため、十分な可使時間となる混合量とすることが好ましい。
また、ゲル化剤の混合量とは、酸性反応剤のみを含む(金属塩反応剤を含まない。)液剤では、珪酸化合物100質量部に対する酸性反応剤の質量割合を表す。
また、金属塩反応剤のみを含む(酸性反応剤を含まない。)液剤では、珪酸化合物100質量部に対する金属塩反応剤の質量割合を表す。
更に、酸性反応剤と金属塩反応剤とを含む液剤では、珪酸化合物100質量部に対する酸性反応剤と金属塩反応剤との合計質量割合を表す。
【0095】
(4-6)燃焼抑制剤の含浸量
木材等への燃焼抑制剤の含浸量は、特に限定されないが、好適な燃焼抑制効果を得る観点から、通常、木材等の体積1m3中の含浸量の下限として、固形分で100Kg/m3以上とすることができる。燃焼抑制剤の含浸量は、好ましくは150Kg/m3以上、より好ましくは200Kg/m3以上、更に好ましくは300Kg/m3以上とすることができる。また、燃焼抑制剤の含浸量の上限は、特に限定されないが、通常、700Kg/m3以下とすることができる。
なお、燃焼抑制剤は、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種を用いるが、上述の含浸量は、燃焼抑制剤として含浸されたものの全量、つまり、燃焼抑制剤としてリン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの2種以上を用いる場合は、それらの合計量とする。
【0096】
具体的に、リン系燃焼抑制剤の含浸量は、十分な燃焼抑制効果を得る観点から、下限として、固形分で、好ましくは100Kg/m3以上、より好ましくは120Kg/m3以上、更に好ましくは200Kg/m3以上、特に好ましくは300Kg/m3以上とすることができる。リン系燃焼抑制剤の含浸量の上限は、特に限定されず、固形分で、通常、500Kg/m3以下とすることができる。
ホウ素系燃焼抑制剤の含浸量は、十分な燃焼抑制効果を得る観点から、下限として、固形分で、好ましくは100Kg/m3以上、より好ましくは120Kg/m3以上、更に好ましくは200Kg/m3以上とすることができる。ホウ素系燃焼抑制剤の含浸量の上限は、特に限定されず、固形分で、通常、400Kg/m3以下とすることができる。
ハロゲン系燃焼抑制剤の含浸量は、十分な燃焼抑制効果を得る観点から、下限として、固形分で、好ましくは50Kg/m3以上、より好ましくは100Kg/m3以上、更に好ましくは120Kg/m3以上とすることができる。ホウ素系燃焼抑制剤の含浸量の上限は、特に限定されず、固形分で、通常、300Kg/m3以下とすることができる。
【0097】
(5)変更例
耐火壁構造に関し、上述の枠組壁10は、枠組材11(横枠112及び縦枠111)に木材を使用したもの、つまりは木造のものに適用した場合について説明したが、木造以外にも鉄筋コンクリート造や鉄骨造についても耐火壁構造を適用することができる。
【0098】
図12には、鉄筋コンクリート造に耐火壁構造を適用する場合の具体例を示す。
鉄筋コンクリート造の建物において、耐火壁10Aは、上下一対の横枠112と、複数の縦枠111と、を備えている。これら横枠112及び縦枠111は、枠状に組み合わされて枠組材11を構成しており、その枠組材11の開口面を覆うようにパネル材12が被着されて、耐火壁10Aが構築されている。
【0099】
パネル材12は、上述の枠組壁10(木造)で使用されたパネル材12と同じものを用いることができる。つまり、パネル材12は、耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)からなり、その耐火材に由来の無機繊維集合体と無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含み、優れた耐火性能を有している。
さらに、パネル材12は、上述したバックアップ材14を積層してなる積層パネル15として用いることもできる。
また、パネル材12は、ネジ、リベット等の固定具、あるいは接着剤等を用いて、枠組材11に固定されている。
【0100】
横枠112及び縦枠111は、金属材料を用い、断面略C字状の長尺形状に形成されており、互いの接合部で、ボルト、ネジ、接合金具等の固定具(図示略)を用いる、溶接する等して接合されている。なお、金属材料を用いた横枠112及び縦枠111に関し、横枠112は、ランナーとも呼称され、縦枠は、スタッドとも呼称される。
金属材料を用いた横枠112及び縦枠111は、上述のパネル材12に用いられた耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)、又は上述の反応性耐熱組成物(スラリー)を使用することにより、耐火性能の向上を図ることができる。
すなわち、上述の耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)を横枠112及び縦枠111の表面に設け、耐火材に由来の無機繊維集合体及び耐熱性組成物で横枠112と縦枠111とを被覆することにより、金属材料を用いた横枠112及び縦枠111の耐火性能の向上を図ることができる。
また、反応性耐熱組成物(スラリー)は、粘土質性鉱物、耐熱性セラミックス、無機酸化物ゾル等を含み、スラリー状とされたものである。よって、反応性耐熱組成物(スラリー)を横枠112及び縦枠111の表面に塗布等して硬化(セラミック化)させることにより、横枠112と縦枠111を耐熱性組成物(耐熱性セラミックス)で被覆することができ、これにより耐火性能の向上を図ることができる。
【0101】
上記の耐火壁10Aは、その構造として、無機繊維集合体と無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含むパネル材12を備えている。
このパネル材12は、1000℃以上の温度域で燃焼しない耐火性能を有しており、火災時において、金属材料からなる横枠112及び縦枠111が直接的に日に曝されることを防止することができる。
このため、耐火壁10Aは、優れた耐火性能、具体的には、建築基準法における2時間耐火の要求を満たす性能を発揮することができる。
また、金属材料からなる横枠112及び縦枠111は、反応性耐熱組成物を用いることで、パネル材12に含まれるものと同様の耐熱性組成物22を、その表面に設けることができる。この場合、耐火壁10Aは、さらに優れた耐火性能、具体的には、建築基準法における3時間耐火の要求を満たす性能を発揮することもできる。
【0102】
図13(a)、(b)には、鉄骨造に耐火壁構造を適用する場合の具体例を示す。
鉄骨造の建物では、例えばH鋼等の鉄骨68を柱(縦枠)や梁(横枠)として四角枠状等に枠組みする構造を有している。
図13(a)に示すように、パネル材12に用いられた耐火材(繊維強化耐熱性セラミックス)は、これを使用して筒状のスリーブ121を形成することができ、そのスリーブ121を鉄骨68に被せることで、耐火材に由来の無機繊維集合体及び耐熱性組成物で鉄骨68を被覆することにより、耐火性能の向上を図ることができる。
また、
図13(b)に示すように、鉄骨68を内側に囲うように複数のパネル材12を配置し、それらパネル材12で鉄骨68の周囲を覆うことで、耐火材に由来の無機繊維集合体及び耐熱性組成物で鉄骨68を被覆することにより、耐火性能の向上を図ることができる。
【0103】
〔2〕建物
本発明の建物は、上述の耐火壁構造を有する壁を備える、ことを特徴とする。
本発明の建物の具体例として、
図8に示すように、壁式構造の建物60を挙げることができる。
この建物60は、建物(躯体)に加わる外力を、平面的な構造材である耐力壁61や剛床62で支える、所謂「壁式構造」を有している。
すなわち、建物60は、地盤上に建物を支える下部構造として、基礎63及び土台64を有し、土台64上において、耐力壁61と剛床62による箱状構造の躯体を構築することにより、これら耐力壁61と剛床62が躯体に加わる外力を支える壁式構造として構成されている。
【0104】
建物60において、耐力壁61は、上述の枠組壁10と略同様の耐火壁構造を有している。
つまり、耐力壁61は、縦枠111及び横枠112を組み合わせてなる枠組材11と、枠組材11に固定される積層パネル15とで構築されている。
積層パネル15は、パネル材12とバックアップ材14とを備えており、そのパネル材12は、耐火材からなり、耐火材に由来の無機繊維集合体及び耐熱性組成物を含む。
このため、耐力壁61を構築する積層パネル15は、パネル材12によって耐火性能を付与されており、耐力壁61を耐火壁としている。
【0105】
(1)耐力壁(耐火壁)
耐力壁61に用いられる積層パネル15は、パネル材12とバックアップ材14とを備えている(例えば、
図2参照)。
積層パネル15のパネル材12は、耐火材からなり、耐火材に由来の無機繊維集合体21と耐熱性組成物22とを含む。耐火材は、無機繊維集合体21と耐熱性組成物22とを含む、所謂、繊維強化セラミックスであり、その耐火材からなるパネル材12は、優れた耐火性能を有している。さらに、耐火材は、気泡23を有するポーラス状であることから、その耐火材からなるパネル材12は、好適な断熱性と防音性を有している。
このため、積層パネル15を用いて構築された耐力壁61は、パネル材12を有することにより、好適な断熱性と防音性を有する耐火壁とすることができる。
【0106】
積層パネル15は、パネル材12に上述のバックアップ材14が積層されてなるものである。
バックアップ材14には、構造用合板や、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板等の耐火パネルを使用することができる。
このため、耐力壁61は、バックアップ材14に構造用合板や、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板等の耐火パネルが用いられることにより、耐力壁61として十分な強度を有するものとすることができる。
【0107】
さらに、耐力壁61は、これを構築する枠組材11に関し、枠組材11が木材である場合、難燃化処理により、その木材を珪酸化合物及び燃焼抑制剤が含浸されて、珪酸化合物が硬化された難燃材とすることができる。
つまり、耐力壁61は、パネル材12による耐火性能に加え、難燃材とされた枠組材11により、耐火壁として、更なる耐火性能の向上を図ることができる。具体的に、耐力壁61(耐火壁)は、パネル材12及び難燃材とされた枠組材11の双方を有する場合、建築基準法における2時間耐火の要求を満たすことができ、3時間耐火の要求を満たすこともできる。
また、バックアップ材14が、構造用合板等の木質板である場合、枠組材11と同様に、難燃化処理により、木質板を、珪酸化合物及び燃焼抑制剤が含浸されて、珪酸化合物が硬化された難燃材とすることができる。この場合もまた、耐力壁61は、耐火壁として、更なる耐火性能の向上を図ることができ、具体的には、建築基準法における2時間耐火の要求を満たすことができ、3時間耐火の要求を満たすこともできる。
【0108】
(2)フロア
建物60は、上下に複数(図中では2つ)のフロアを有することができる。この場合、建物60は、複数のフロアをわたって上下方向に通された通し柱65を有することができる(
図8参照)。
通し柱65は、例えば、
図8に示すように、横枠112と組み合わされることにより、枠組材11を構成することができ、その通し柱65によって構成された枠組材11によって、一部の耐力壁61を構築することができる。
【0109】
建物60は、
図9に示すように、基礎63及び土台64から上下方向に伸びる鉄筋66を有することができる。鉄筋66は、下端部が基礎63に埋設されることにより、固定されている。
鉄筋66は、枠組材11を構成する縦枠111及び/又は通し柱65の内部に挿通されたものとすることができる。
つまり、鉄筋66は、上下方向に伸びる縦枠111や通し柱65の内部に挿通されることで、縦枠111や通し柱65を補強することができ、建物60の耐震性や耐久性の向上を図ることができる。
【0110】
火災時の鉄筋66は、通常、約500℃で約5分程度、熱に曝されると、急激な強度低下を起こすおそれがある。
しかしながら、縦枠111や通し柱65の内部に鉄筋66を挿通する場合、鉄筋66が直接的に熱に曝されることを防止することができるため、火災時における急激な強度低下を抑制することができる。
【0111】
鉄筋66が挿通される縦枠111や通し柱65が木材からなる場合、縦枠111や通し柱65は、上述の難燃化処理により、珪酸化合物が含浸されて硬化された木材からなるものとすることができる。
難燃化処理された縦枠111や通し柱65は、火災時において、それ自身が火災に耐えるとともに、内部に挿通された鉄筋66が直接的に熱に曝されることを長時間にわたって防止することができる。
よって、建物60は、複数のフロアを有するものでありながら、火災時において、縦枠111や通し柱65が鉄筋66で補強された状態を長時間にわたって維持することができ、倒壊を抑制することができる。
なお、鉄筋66が挿通される縦枠111や通し柱65は、耐力壁61(耐火壁)において、最も強度が必要とされる箇所、言い換えると、最も荷重が加わる箇所に配されることが好ましい。具体的に、鉄筋66が挿通される縦枠111や通し柱65が配される位置としては、耐力壁61(耐火壁)の横方向の両端部、又は横方向の中央部を挙げることができる。特に、通し柱65は、耐力壁61(耐火壁)の中央部に配される場合、複数の耐力壁61が通し柱65を介して上下方向に繋げられた大壁を形成することができ、耐力性の向上による耐震性の向上を図ることができる。
【0112】
(3)床構造及び天井
建物60は、枠状に組み合わされた複数の根太621と、根太621の上方に被着された床板622と、によって構築される床構造を有している(
図10参照)。
床構造において、根太621と床板622は、平面的な構造材である剛床62を構築しており、この剛床62は、上述の耐力壁61とともに、建物(躯体)に加わる外力を支える、所謂「壁式構造」を構成している。
【0113】
剛床62は、耐火構造を有するものとすることができ、この場合、床構造は、耐火床構造として構築することができる。
すなわち、剛床62において、床板622は、耐力壁61のパネル材12と同様に、無機繊維集合体と無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含むもの、つまりは耐火材からなるもの、とすることができる。この場合、床板622は、パネル材12と同じく、優れた耐火性能を発揮することができる。
【0114】
剛床62は、これを構築する床板622に関し、上述のバックアップ材が積層されたものとすることができる。
バックアップ材には、構造用合板や、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板等の耐火パネルを使用することができる。
剛床62は、床板622にバックアップ材が積層された場合、建物60(躯体)を支える耐力構造材として十分な強度を有するものとすることができる。
【0115】
剛床62は、これを構築する根太621に関し、根太621が木材である場合、難燃化処理により、その木材を珪酸化合物及び燃焼抑制剤が含浸されて、珪酸化合物が硬化された難燃材とすることができる。
つまり、剛床62は、床板622による耐火性能に加え、難燃材とされた根太621により、耐火構造として、更なる耐火性能の向上を図ることができる。
また、バックアップ材が、構造用合板等の木質板である場合、根太621と同様に、難燃化処理により、木質板を珪酸化合物及び燃焼抑制剤が含浸されて、珪酸化合物が硬化された難燃材とすることができる。この場合もまた、剛床62は、耐火材として、更なる耐火性能の向上を図ることができ、2時間耐火を達成することができる。
【0116】
さらに、建物60が上下に複数のフロアを有する場合、上方のフロアの床構造は、根太621の下方に被着された天井板67を有するものとすることができる(
図10参照)。
この天井板67は、上述した耐力壁61のパネル材12と同様に、無機繊維集合体と無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含むもの、つまりは耐火材からなるもの、とすることができる。
この場合、天井板67は、パネル材12と同じく、優れた耐火性能を発揮することができる。
また、天井板67は、上述のバックアップ材が積層されたものとすることができる。バックアップ材には、構造用合板や、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板等の耐火パネルを使用することができる。バックアップ材が積層された天井板67は、建物60(躯体)を支える耐力構造材として十分な強度を有するものとすることができる。
【0117】
〔3〕引き戸及び襖
本発明の引き戸は、複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、枠組材の開口面を覆うように枠組材に固定されるパネル材と、で構築される引き戸であって、
パネル材は、無機繊維集合体と無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、ことを特徴とする。
本発明の襖は、複数の縦枠及び横枠を枠状に組み合わせてなる枠組材と、枠組材の開口面を覆うように枠組材に固定されるパネル材と、で構築される襖であって、
パネル材は、無機繊維集合体と無機繊維集合体に包含された耐熱性組成物とを含む、ことを特徴とする。
また、上記の引き戸及び襖は、上述の建物において、フロアを各部屋に仕切る仕切壁や、可動壁や、建具などとして備えられるものでもある。
【0118】
図11に示すように、引き戸70は、複数の縦枠111と横枠112とを組み合わせることによって四角枠状に形成された枠組材11を備えている。また、引き戸70において、枠組材11の一面及び他面には、その枠組材11の開口面を覆うようにパネル材12が被着されている。
襖70Aは、引き戸70と実質的に同じ構成を有しており、つまり、複数の縦枠111と横枠112とを組み合わせてなる枠組材11と、枠組材11の一面及び他面に被着されたパネル材12と、を備えている。
【0119】
引き戸70及び襖70Aにおいて、パネル材12は、上述した耐火壁構造において、枠組壁10の構築に用いられたパネル材12と同じものを使用することができる。
すなわち、引き戸70及び襖70Aにおいて、これらを構築するパネル材12は、耐火材からなり、耐火材に由来する無機繊維集合体21と、無機繊維集合体21に包含された耐熱性組成物22とを含む。
【0120】
引き戸70及び襖70Aは、通常、上下一対の框の間において、略水平方向(横方向)へ摺動できるように、複数が設けられている。そして、引き戸70及び襖70Aは、閉じた状態とすることにより、各部屋を仕切ることができ、開けた状態とすることにより、各部屋を開放して繋ぐことができる。
引き戸70及び襖70Aは、耐火材からなるパネル材12を用いることにより、優れた耐火性を発揮することができる。つまり、火災時において、引き戸70及び襖70Aは、閉じた状態として各部屋を仕切ることにより、耐火壁とすることができ、これにより、部屋間における延焼を抑制することができる。
【0121】
なお、上述のように、パネル材12は、表層部分にスキン層12Aを有しており、そのスキン層12Aに任意の柄を設けることができる。また、スキン層12Aの表面は、耐熱性の無機塗料などを用いることによって着色することができ、あるいは、カラー鋼板等の金属板を接合することにより、強度の向上や化粧性の向上を図ることができる。
従って、引き戸70及び襖70Aは、それらの構築に用いられるパネル材12によって意匠性を高めることができるものであり、建物の室内等において人の目に留まる建具として有用である。
【0122】
枠組材11は、木材を使用する場合、難燃処理により得られた難燃材を用いることができる。
難燃処理は、木材に珪酸化合物及び燃焼抑制剤を含浸させ、珪酸化合物を硬化させて難燃材とする処理である。難燃処理の詳細については、上述したとおりである。
引き戸70及び襖70Aは、枠組材11に難燃材からなるものが用いられることにより、耐火性能の更なる向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の耐火壁構造、建物、引き戸、襖は、建築分野において広く用いられる。特に、耐火壁構造によって構築される枠組壁は、枠組壁工法による耐力壁として利用されるのみならず、優れた耐火性能を有する耐火壁としても好適に利用される。また、本発明の建物は、耐力壁が耐火壁構造を有しているため、建築基準法における2時間耐火の要求を満たすものとすることができる。また、本発明の引き戸、襖は、優れた耐火性能を有するため、部屋間の延焼を抑制する耐火材として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0124】
10;枠組壁、10A;耐火壁、
11;枠組材、111;縦枠、112;横枠、111A,112A;凹部
12;パネル材、12A;スキン層、121;スリーブ、
14;バックアップ材、
15;積層パネル、
21;無機繊維集合体、
22;耐熱性組成物、
23;気泡、
60;建物、61;耐力壁、
62;剛床、621;根太、622;床板、
63;基礎、
64;土台、
65;通し柱、
66;鉄筋、
67;天井板、
68;鉄筋、
70;引き戸、70A;襖70A。