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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132607
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】植物病害防除剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20240920BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240920BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240920BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240920BHJP
   A01N 37/46 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/02
A01N37/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043447
(22)【出願日】2023-03-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年度日本植物病理学会大会 プログラム・講演要旨予稿集、発行者 日本植物病理学会、発行日 令和4年3月18日 令和4年度日本植物病理学会大会、発表日 令和4年3月27日
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 大吾
(72)【発明者】
【氏名】今野 沙弥香
【テーマコード(参考)】
4H011
4H045
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BB19
4H011DA13
4H011DA14
4H011DH11
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA32
4H045CA30
4H045FA34
4H045GA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環境汚染を防止しつつ、植物の病害を抑制または防止することができる植物病害防除剤を提供する。
【解決手段】少なくとも8個のアミノ酸から構成されるペプチドを含有する植物病害防除剤である。ただし、N末端から1番目及び6番目のBは塩基性アミノ酸を示す。また、3番目及び4番目のBはシステイン以外の中性アミノ酸を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示す少なくとも8個のアミノ酸(ただし、N末端から1番目及び6番目のBは塩基性アミノ酸を示し、3番目及び4番目のBはシステイン以外の中性アミノ酸を示す。)から構成されるペプチドを含有する、植物病害防除剤。
【請求項2】
上記ペプチドが、配列番号2に示す少なくとも8個のアミノ酸から構成されている、請求項1に記載の植物病害防除剤。
【請求項3】
上記ペプチドがジスルフィド結合を有する、請求項1又は2に記載の植物病害防除剤。
【請求項4】
上記ペプチドの濃度が5μM以上の液体からなる、請求項1又は2に記載の植物病害防除剤。
【請求項5】
胞子によって増殖する植物病原性微生物が引き起こす病害に対して使用される、請求項1又は2に記載の植物病害防除剤。
【請求項6】
上記植物病原性微生物が植物病原性卵菌又は植物病原性真菌である、請求項5に記載の植物病害防除剤。
【請求項7】
農作物に用いられる、請求項1又は2に記載の植物病害防除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドを含有する植物病害防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、病原性微生物に感染すると病害を引き起こすことがある。特に農作物の病害は、生産者にとっての大きな問題となっている。
【0003】
植物は病原性微生物による病害に対して多様性を有し、植物の罹病性や抵抗性は植物や病原性微生物の種類によって異なることが知られている。例えばベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)は、ナス科タバコ属に属する植物であり、ナス科のモデル植物として知られているが、同じナス科であるトマトやジャガイモが罹病するジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)に対して抵抗性を有する。
【0004】
SAR8.2遺伝子ファミリーは、タバコモザイクウイルス(TMV)感染やエリシター処理によって活性化される全身獲得抵抗性の誘導に伴って発現する遺伝子群としてベンサミアナタバコから単離された。これまでに、ベンサミアナタバコのNbSAR8.2m遺伝子の発現と植物の病害に対する抵抗性との関係が示唆されているもののその機能は十分明らかになっておらず、機能解析が進められている(特許文献1及び2、非特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許5767369号明細書
【特許文献2】米国特許9957522号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】モレキュラー プラント-マイクローブ インタラクションズ(MOLECULAR PLANT-MICROBE INTERACTIONS)、米国、1992年、第5巻、第6号、p.513-515
【非特許文献2】プラント モレキュラー バイオロジー(Plant Molecular Biology)、韓国、2006年、第61巻、p.95-109
【非特許文献3】ファンクショナル プラント バイオロジー(Functional Plant Biology)、カナダ、2005年、第32巻、p.259-266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
病原性微生物による植物病害の抑制、防止には、殺菌作用を有する化学農薬が有効であるものの、農薬は、圃場だけでなく周囲の土壌、河川、大気などの自然環境を汚染させる可能性があるため、その使用には懸念がある。したがって、化学農薬以外の病害防除剤の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、環境汚染を防止しつつ、植物の病害を抑制または防止することができる植物病害防除剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、下記の[1]~[7]にかかる植物病害防除剤にある。
[1]配列番号1に示す少なくとも8個のアミノ酸(ただし、N末端から1番目及び6番目のBは塩基性アミノ酸を示し、3番目及び4番目のBはシステイン以外の中性アミノ酸を示す。)から構成されるペプチドを含有する、植物病害防除剤。
【0010】
[2]上記ペプチドが、配列番号2に示す少なくとも8個のアミノ酸から構成されている、[1]に記載の植物病害防除剤。
[3]上記ペプチドがジスルフィド結合を有する、[1]又は[2]に記載の植物病害防除剤。
[4]上記ペプチドの濃度が5μM以上の液体からなる、[1]~[3]のいずれかに記載の植物病害防除剤。
【0011】
[5]胞子によって増殖する植物病原性微生物が引き起こす病害に対して使用される、[1]~[4]のいずれかに記載の植物病害防除剤。
[6]上記植物病原性微生物が植物病原性卵菌又は植物病原性真菌である、[5]に記載の植物病害防除剤。
[7]農作物に用いられる、[1]~[6]のいずれかに記載の植物病害防除剤。
【発明の効果】
【0012】
配列番号1に示す少なくとも8個のアミノ酸から構成されるペプチドは、植物の病害に対する抵抗性の誘導活性を有する。そのため、上記ペプチドを含有する植物病害防除剤は、植物の病害を抑制または防止することができる。さらに、ペプチドは、自然環境下で容易に分解される。そのため、たとえ土壌、水質、大気に流出しても汚染の懸念がなく、環境汚染を防止することができる。
【0013】
以上のごとく、上記態様によれば、環境汚染を防止しつつ、植物の病害を抑制または防止することができる植物病害防除剤を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)は配列番号3のアミノ酸配列を示す図であり、図1(b)は配列番号2のアミノ酸配列を示す図であり、図1(c)は配列番号1のアミノ酸配列を示す図である。
図2図2は、実施例1における植物由来のペプチドのナノLC-MS解析によるマススペクトルを示す図である。
図3図3は、実施例1におけるSAR8.2mペプチドのマススペクトルを示す図である。
図4図4は、実施例1における未酸化型の合成SAR8.2mペプチドのMALDI-TOFマススペクトルを示す図である。
図5図5は、実施例1における酸化型の合成SAR8.2mペプチドのMALDI-TOFマススペクトルを示す図である。
図6図6(a)は、実施例2における各ペプチドによるジャガイモ疫病菌の発芽抑制効果を示すグラフ、図6(b)は、実施例2における変異型のSAR8.2mペプチドによるジャガイモ疫病菌の発芽抑制効果を示す写真であり、図6(c)は、実施例2における未酸化型のSAR8.2mペプチドによるジャガイモ疫病菌の発芽抑制効果を示す写真であり、図6(d)は、実施例2における酸化型のSAR8.2mペプチドによるジャガイモ疫病菌の発芽抑制効果を示す写真である。
図7図7(a)は、実施例2における各ペプチドによるブロッコリー黒すす病菌の発芽抑制効果を示すグラフ、図7(b)は、実施例2における変異型のSAR8.2mペプチドによるブロッコリー黒すす病菌の発芽抑制効果を示す写真であり、図7(c)は、実施例2における未酸化型のSAR8.2mペプチドによるブロッコリー黒すす病菌の発芽抑制効果を示す写真であり、図7(d)は、実施例2における酸化型のSAR8.2mペプチドによるブロッコリー黒すす病菌の発芽抑制効果を示す写真である。
図8図8(a)は、実施例2における各ペプチドによるメロンつる割病菌の発芽抑制効果を示すグラフ、図8(b)は、変異型のSAR8.2mペプチドによるメロンつる割病菌の発芽抑制効果を示す写真であり、図8(c)は、未酸化型のSAR8.2mペプチドによるメロンつる割病菌の発芽抑制効果を示す写真であり、図8(d)は、酸化型のSAR8.2mペプチドによるメロンつる割病菌の発芽抑制効果を示す写真である。
図9図9(a)は、実施例3における各ペプチドによる灰色かび病菌の発芽抑制効果を示すグラフ、図9(b)は、実施例3における変異型のSAR8.2mペプチドによる灰色かび病菌の発芽抑制効果を示す写真であり、図9(c)は、実施例3における未酸化型のSAR8.2mペプチドによる灰色かび病菌の発芽抑制効果を示す写真であり、図9(d)は、実施例3における酸化型のSAR8.2mペプチドによる灰色かび病菌の発芽抑制効果を示す写真である。
図10図10は、実施例4における変異型SAR8.2mペプチド又は酸化型SAR8.2mペプチドによるジャガイモ疫病菌の発芽抑制効果の濃度依存性を示す写真である。
図11図11は、ナス科植物のSAR8.2相同遺伝子から推定されるアミノ酸配列の比較図。
図12図12(a)は、[配列番号5]のNbSAR8.2aのアミノ酸配列であり、図12(b)は、[配列番号6]のNbSAR8.2bのアミノ酸配列であり、図12(c)は、[配列番号7]のNbSAR8.2dのアミノ酸配列であり、図12(d)は、[配列番号8]のNbSAR8.2mのアミノ酸配列であり、図12(e)は、[配列番号9]のNtSAR8.2aのアミノ酸配列である。
図13図13(a)は、[配列番号10]のNtSAR8.2bのアミノ酸配列であり、図13(b)は、[配列番号11]のNtSAR8.2cのアミノ酸配列であり、図13(c)は、[配列番号12]のNtSAR8.2dのアミノ酸配列であり、図13(d)は、[配列番号13]のNtSAR8.2eのアミノ酸配列であり、図13(e)は、[配列番号14]のNtSAR8.2hのアミノ酸配列である。
図14図14(a)は、[配列番号15]のNtSAR8.2iのアミノ酸配列であり、図14(b)は、[配列番号16]のNtSAR8.2jのアミノ酸配列であり、図14(c)は、[配列番号17]のNtSAR8.2kのアミノ酸配列であり、図14(d)は、[配列番号18]のNtSAR8.2mのアミノ酸配列であり、図14(e)は、[配列番号19]のNitab4.5_0000037g0340.1.のアミノ酸配列である。
図15図15(a)は、[配列番号20]のNitab4.5_0000037g0360.1のアミノ酸配列であり、図15(b)は、[配列番号21]のNitab4.5_0000309g0200.1のアミノ酸配列であり、図15(c)は、[配列番号22]のLOC104086212のアミノ酸配列であり、図15(d)は、[配列番号23]のLOC104104830のアミノ酸配列であり、図15(e)は、[配列番号24]のLOC104119564のアミノ酸配列である。
図16図16(a)は、[配列番号25]のmRNA_63025_cdsのアミノ酸配列であり、図16(b)は、[配列番号26]のmRNA_79697_cdsのアミノ酸配列であり、図16(c)は、[配列番号27]のLOC104234595のアミノ酸配列であり、図16(d)は、[配列番号28]のCaSAR8.2Aのアミノ酸配列であり、図16(e)は、[配列番号29]のCaSAR8.2Bのアミノ酸配列である。
図17図17(a)は、[配列番号30]のCaSAR8.2Cのアミノ酸配列であり、図17(b)は、[配列番号31]のCaSAR8.2Dのアミノ酸配列であり、図17(c)は、[配列番号32]のCQW23_08460のアミノ酸配列であり、図17(d)は、[配列番号33]のCQW23_08471のアミノ酸配列であり、図17(e)は、[配列番号34]のCQW23_08712のアミノ酸配列である。
図18図18(a)は、[配列番号35]のCQW23_10282のアミノ酸配列であり、図18(b)は、[配列番号36]のCQW23_32808のアミノ酸配列であり、図18(c)は、[配列番号37]のSotub09g030070.1のアミノ酸配列であり、図18(d)は、[配列番号38]のSotub09g021790.1のアミノ酸配列であり、図18(e)は、[配列番号39]のStSAR8.2 (CX161734)のアミノ酸配列である。
図19図19(a)は、[配列番号40]のStSAR8.2 (AM907765)のアミノ酸配列であり、図19(b)は、[配列番号41]のStSAR8.2 (EG014717)のアミノ酸配列であり、図19(c)は、[配列番号42]のStSAR8.2(TC214280)のアミノ酸配列であり、図19(d)は、[配列番号43]のSolyc09g097810.3.1のアミノ酸配列であり、図19(e)は、[配列番号44]のEJD97_020159のアミノ酸配列であり、図19(f)は、[配列番号45]のEJD97_020160のアミノ酸配列である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
植物病害防除剤は、配列番号1に示す少なくとも8個のアミノ酸から構成されるペプチドを含有する(図1(c)参照)。配列番号1におけるN末端から1番目及び6番目のBは塩基性アミノ酸を示し、3番目及び4番目のBはシステイン以外の中性アミノ酸を示す。なお、本明細書では、配列番号1に示す少なくとも8個のアミノ酸から構成されるペプチドのことを適宜「SAR8.2mペプチド」と称する。
【0016】
SAR8.2mペプチドは、ベンサミアナタバコのSAR8.2ファミリーのひとつであるNbSAR8.2mの成熟型ペプチドと50%以上の相同性を有し、4個のシステインを有するペプチドである。
NbSAR8.2m遺伝子は、図1(a)に示す配列番号3のアミノ酸配列を有する約7kDaのタンパク質をコードしている。このタンパク質は、システインリッチであり、配列番号3における1~26番目のアミノ酸からなる配列に分泌シグナルを有する(図1(a)参照)。分泌シグナルを有するNbSAR8.2mタンパク質は、ベンサミアナタバコの細胞外に分泌された後、8個のアミノ酸配列から構成される上述の成熟型のNbSAR8.2mペプチドとなる。成熟型のNbSAR8.2mペプチドのアミノ酸配列を配列番号2に示す(図1(b)参照)。
【0017】
SAR8.2mペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列と50%以上の相同性(つまり、同一性)を有する少なくとも8個のアミノ酸から構成されると共に、上記配列番号2に示すアミノ酸配列と同じ位置に4つのシステインを有するペプチドであるといえる。配列番号2に示すアミノ酸配列において、アルギニン及び/又はリシンは、それぞれ他の塩基性アミノ酸に置き換えられていれもよく、ロイシン及び/又はアラニンは、それぞれ、システイン以外の他の中性アミノ酸に置き換えられてもよい。
【0018】
植物病害防除剤は、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する少なくとも8個のアミノ酸をからなるSAR8.2mペプチドを含有するが、本願の所望の効果を示す限り、N末端及び/又はC末端にさらにアミノ酸残基が追加されていてもよい。病害抑制又は防止効果の低下を抑制する観点から、N末端及び/又はC末端のアミノ酸残基は、システイン以外のアミノ酸であることが好ましい。また、同様の観点から、SAR8.2mペプチドのN末端及び/又はC末端に追加されるアミノ酸残基の数は、それぞれ1~3個であることが好ましい。
【0019】
SAR8.2mペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列と75%以上の相同性を有することが好ましく、85%以上の相同性を有することがより好ましく、95%以上の相同性を有することがさらに好ましい。この場合には、SAR8.2mペプチドは、NbSAR8.2m成熟型ペプチドとの同一性が高くなり、植物の病害抑制効果または防止効果が向上する。
【0020】
配列番号2に示す少なくとも8個のアミノ酸配列との類似性の観点から、配列番号1におけるN末端から1番目のBは、塩基性アミノ酸の中でもアルギニン又はリシンであることが好ましく、アルギニンであることがより好ましい。N末端から6番目Bも同様であり、塩基性アミノ酸の中でもアルギニン又はリシンであることが好ましく、アルギニンであることがより好ましい。
また、配列番号2に示す少なくとも8個のアミノ酸配列との類似性の観点から、配列番号1におけるN末端から3番目のBは、中性アミノ酸の中でも、脂肪族アミノ酸であることが好ましく、ロイシン、イソロイシン、又はアラニンであることがより好ましく、ロイシン又はイソロイシンであることがより好ましく、ロイシンであることがさらに好ましい。N末端から4番目のBは、中性アミノ酸の中でも、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、又はイソロイシンであることが好ましく、アラニン、フェニルアラニン、又はグリシンであることがより好ましく、アラニンであることがさらに好ましい。
【0021】
SAR8.2mペプチドは、配列番号2に示す少なくとも8個のアミノ酸から構成されていることが好ましい。この場合には、ペプチドは、ベンサアミノタバコが有する病害抵抗性と同程度の病害抵抗性を示し、病害抑制効果または防止効果が向上する。
【0022】
SAR8.2mペプチドは、例えばペプチド合成により製造される。また、ベンサミアナタバコの培養液から、分泌ペプチドを抽出し、周知のクロマトグラフィ法を用いて抽出物からNbSAR8.2mペプチドを含む画分を精製することによっても得られる。
また、SAR8.2mペプチドをコードするSAR8.2m遺伝子を組み込んだベクターを構築し、ベクターを例えばシロイヌナズナ等の植物に導入した植物形質転換体得た後、形質転換体から分泌ペプチドを抽出し、クロマトグラフィにより精製することによってもSAR8.2mペプチドを得ることができる。形質転換体の製造は、例えば、プラント バイオテクノロジー(Plant Biotechnology)、日本、2010年、第27巻、p.349-351の記載に基づいて行うことができる。
【0023】
SAR8.2mペプチドは、ジスルフィド結合を有することが好ましい。SAR8.2mペプチドは、ペプチド内に少なくとも1組のジスルフィド結合を有することが好ましく、2組のジスルフィド結合を有することがより好ましい。この場合には、植物の病害抑制または防止効果が向上する。ジスルフィド結合は、SAR8.2mペプチドの酸化により形成される。SAR8.2mペプチドは、4つのシステインを有しており、酸化により、少なくとも4つのシステインにより2組のジスルフィド結合が形成される。
【0024】
植物病害防除剤は、固体(具体的には、粉体)であっても液体であってもよく、粉体のSAR8.2mペプチドを封入した水溶性のカプセルであってもよい。植物病害防除剤は、例えば、農薬(つまり、ペプチド農薬)として圃場に散布されたり、たい肥や肥料として圃場に供給される。
【0025】
植物病害防除剤は、液体であることが好ましい。この場合には、散布などによる植物への供給が容易になる。また、病害抑制効果または防止効果が向上する観点から、液体中のSAR8.2mペプチドの濃度は1μM以上であることが好ましく、5μM以上であることがより好ましく、10μM以上であることがさらに好ましい。生産性やコストの観点、濃度上昇に見合った向上効果得られなくなる観点、環境中への残留を避けるという観点から、液体状の植物病害防除剤の濃度は100μM以下であることが好ましく、50μM以下であることがより好ましく、30μM以下がさらに好ましい。
【0026】
後述の実施例において示されるように、SAR8.2mペプチドは微生物の胞子の発芽を抑制、防止する効果を有する。植物病害防除剤による病害抑制効果または防止効果が向上する観点から、植物病害防除剤は、胞子によって増殖する病原性微生物が引き起こす病害に対して使用されることが好ましい。より好ましくは、植物病原性糸状菌等の真菌、又は植物病原性卵菌が引き起こす病害に使用される。
【0027】
植物病原性卵菌としては、具体的には、ジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)、タイズ茎疫病菌(Phytophthora sojae)、疫病菌(多犯性)(Phytophthora nicotianae)、疫病菌(多犯性)(Phytophthora capsici)、苗立枯病菌(多犯性)(Pythium aphanidermatum)苗立枯病菌(多犯性)(Pythium ultimum)等がある。
【0028】
植物病原性糸状菌としては、具体的には、ブロッコリー黒すす病菌(Alternaria brassicicola)、メロンつる割病菌(Fusarium oxysporum f. sp. melonis)、灰色かび病菌(多犯性)(Botrytis cinerea)、ウリ類炭疽病菌(Colletotrichum orbiculare)、トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum f. sp.lycopersici)、イネいもち病菌(Pyricularia oryzae)、菌核病菌(Sclerotinia sclerotiorum)半身萎凋病(多犯性)(Verticillium dahliae)等がある。
【0029】
糸状菌以外の植物病原性真菌としては、具体的には、トウモロコシ黒穂病(Ustilago maydis)、オオムギ堅黒穂病(Ustilago hordei)、イネ墨黒穂病(Tilletia horrida)、アワ黒穂病(Macalpinomyces tanakae)モロコシ裸黒穂病(Sporisorium cruentum)等がある。
【0030】
植物病害防除剤は、農作物に用いられることが好ましい。この場合には、植物病害防除剤の有用性がより顕著になる。これは、上述のように、植物病害防除剤が灰色かび病菌等の植物病原性真菌やジャガイモ疫病菌等の植物病原性卵菌に対してその胞子発芽の抑制効果や防止効果を示し、これらの植物病原性微生物は、農作物に対して深刻な病害を引き起こすためである。また、灰色かび病菌等の植物病原性真菌は、農作物だけでなくほぼすべての植物に対する感染性を有する。したがって、植物病害防除剤は、農作物だけでなく、植物全般の病害防除に有効である可能性が高い。
【実施例0031】
[実施例1]
本例は、質量分析により、SAR8.2mペプチドの構造解析を行うである。具体的には、まず、植物から抽出したSAR8.2mペプチドについて解析を行った。
【0032】
・植物の水中培養及びペプチド画分の抽出
SAR8.2m遺伝子を導入したシロイヌナズナCol-0株の芽生え約50個体をスクロース濃度1.0質量%のガンボーグB5液体培地100mlに入れ、照度15000luxの明条件、温度22℃の植物インキュベータ内で3週間静置することにより水中培養を行った。なお、SAR8.2m遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体の製造は、プラント バイオテクノロジー(Plant Biotechnology)、日本、2010年、第27巻、p.349-351の記載に基づいて行った。また、ガンボーグB5液体培地は水溶液であり、その組成は、スクロース:1質量%、硝酸カリウム:0.25質量%、硫酸マグネシウム七水和物:0.025質量%、りん酸二水素ナトリウム一水和物:0.015質量%、塩化カルシウム二水和物:0.015質量%、硫酸アンモニウム:0.0134質量%、エチレンジアミン四酢酸 二ナトリウム:0.00373質量%、硫酸鉄(II)七水和物:0.00278質量%、硫酸マンガン一水和物:0.0010質量%、ホウ酸:0.0003質量%、硫酸亜鉛七水和物:0.0002質量%、よう化カリウム:0.000075質量%、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物:0.000025質量%、硫酸銅(II)五水和物:0.0000025質量%、塩化コバルト(II)六水和物:0.0000025質量%である。水中培養後の培養液を回収し、ロータリーエバポレーターにより、培養液約100mlを5倍に濃縮した。濃縮後の培養液に最終濃度1質量%となるようにN-エチルモルホリンを加え、さらに水飽和o-クロロフェノール10mlを加えて、1分間室温で振とうした。次いで、o-クロロフェノールを加えた培養液を5000×gの条件で10分間遠心し、遠心後に10mlのフェノール層を回収した。回収物に最終濃度0.02質量%となるように1質量%フィコールを加えた後に40mlのアセトンを加え、-20℃で一晩静置することにより、沈殿を形成させた。このようにしてペプチド画分を含むサンプルを得た。このサンプルを5000×gの条件で10分間遠心した。次いで、アセトンを取り除いた後、沈殿に再び20mlのアセトンを加えて、同条件(つまり、5000×g、10分間)で遠心を行うことにより沈殿を洗浄した。この沈殿を風乾させ、超純水により懸濁させた。このようにして得られた懸濁液には、各植物から分泌されるペプチド画分が含まれている。この懸濁液をジチオトレイトール処理により還元した後に、ヨードアセトアミド処理によりアルキル化し、この懸濁液を下記のナノLC-MS分析(つまり、ナノ液体クロマトグラフィ質量分析)に供試した。
【0033】
・ナノLC-MS分析
ナノLC-MS分析は、KYA Technologies社製「DiNa-M splitless nano HPLC system」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製の「LTQ Orbitrap XL mass spectrometer」を用いて行った。
具体的には、まず、ペプチド画分サンプル(上述の懸濁液)5 μlをプレカラム(具体的には、KYA Technologies社製の「C18トラップカラム(内径:0.5mm、長さ:1mmのカートリッジカラム)」にロードし、0.1質量%ギ酸水溶液10mlで洗浄した。次いで、プレカラムから溶出したペプチド画分サンプルを、ジーエル社製の「MonoCap C18 Fast-flow nano-column(内径100nm、長さ150mm)」により分離させた。溶出時間は30分間であり、溶出溶媒としては0.1質量%ギ酸水溶液を含む2~50質量%グラジエントのアセトニトリルを用い、流速条件は500nl/minである。
タンデムマススペクトル測定は、HCDフラグメンテーション手法を用いたdata-dependent acquisition methodsにより、m/z400~2000までの質量範囲(より具体的には、質量電荷比の範囲)をスキャンすることにより行った。データ解析は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Proteome Discoverer 1.3 software using the MEQUEST search engine」を用いて行った。図2に、全イオンクロマトグラムの結果を示し、図3に、NbSAR8.2ペプチドのMS/MS解析の結果を示す。
【0034】
図2に示すように、m/z=578.24の位置に現れるピークが成熟型のNbSAR8.2ペプチドのアルキル化したものである。還元処理を施さない場合にはNbSAR8.2ペプチドが検出されないため、ジスルフィド結合が形成されていることがわかる。
また、図3から理解されるように、フラグメントイオンの特徴からNbSAR8.2の8アミノ酸のペプチドが特定された。、NbSAR8.2ペプチド内ではジスルフィド結合が形成されていることがわかる。
【0035】
次に、ペプチド合成により製造されたSAR8.2ペプチドについて解析を行った。
まず、配列番号2に示す8アミノ酸からなるSAR8.2ペプチドの合成を行った。ペプチド合成は、ユーロフィンジェノミクス社に委託した。
【0036】
次に、ペプチド合成により得られたSAR8.2mペプチド(つまり、未酸化型のSAR8.2mペプチド)を用いて酸化型のSAR8.2mペプチドを作製した。具体的には、まず、pH8.0の50mMのTris-HCl緩衝液に4mMのSAR8.2mペプチドおよび4mMのシスチンを添加することによりペプチド溶液を作製し、このペプチド溶液を2日間攪拌することにより、ペプチドを酸化させた。その後、逆相クロマトグラフィにより、酸化型のSAR8.2mペプチド溶液の精製を行った。このようにして、酸化型のSAR8.2mペプチドを得た。
【0037】
次に、未酸化型及び酸化型のSAR8.2mペプチドサンプルを、それぞれMALDI-ToFMS分析(つまり、マトリクス支援レーザ脱離イオン化飛行時間質量分析)に供試した。具体的には、まず、マトリクス(つまり、イオン化支援剤)として、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸を準備し、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸とサンプルとを混合し、その混合物をプレート上で結晶化させた。結晶化物のMALDI-ToFMS分析を、エービーサイエックス社製の「AB Sciex TOF/TOF 5800」を使用してリフレクターモードにて行った。未酸化型のNbSAR8.2mペプチドのマススペクトルを図4に示し、酸化型のNbSAR8.2mペプチドのマススペクトルを図5に示す。
【0038】
図4より理解されるように、未酸化型のSAR8.2mペプチドのマススペクトルでは、アミノ酸配列から推定される質量が検出されるため、未酸化型のSAR8.2ペプチドは、ジスルフィド結合を有しておらず、直鎖状であることがわかる。
一方、図5より理解されるように、酸化型のSAR8.2mペプチドのマススペクトルでは、未酸化型のSAR8.2ペプチドの質量と比較して分子量が約3.7少ないため、酸化型のSAR8.2ペプチドは、2組のジスルフィド結合を有し、ペプチド内に環状構造を有していることがわかる。
【0039】
[実施例2]
本例は、SAR8.2mペプチドの抗菌活性を評価する例である。
【0040】
・供試菌の調製
<卵菌>
卵菌として、ジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)の菌株08YD1(レース:1.3.4.10)を準備した。菌株08YD1のレース:1.3.4.10は、北海道立北見農業試験場から分与されたものを使用した。温度20℃の暗条件で、ライ麦培地[雪印種苗社製の「春一番」、2g/l酵母エキス、20g/lショ糖、1.5質量%寒天]上で菌株を培養した。培養開始から1週間後に、遊走子のうを超純水中に掻き取り、懸濁液を得た。懸濁液1mlを遠心分離し、上清を取り除いた後、超純水を加えた。なお、遠心分離は、室温(具体的には、25℃)、回転数3000rpmで5分間行った。このようにして、ジャガイモ疫病菌の供試菌サンプルを得た。
【0041】
<真菌>
真菌としては、糸状菌を評価に用いた。具体的には、ブロッコリー黒すす病菌、メロンつる割病菌、灰色かび病菌を使用した。
【0042】
「ブロッコリー黒すす病菌」
ブロッコリー黒すす病菌(Alternaria blassicicola)としては、農業生物資源ジーンバンクの保存菌株(具体的には、MAFF番号:242993株)を使用した。この菌株をポテトデキストロース寒天培地(つまり、PDA培地)上で培養することにより、供試菌サンプルを得た。
【0043】
「メロンつる割病菌」
メロンつる割病菌(Fusarium oxysporum f. sp. Melonis)としては、中部大学の拓殖尚志研究室(柘植尚志教授)より分譲されたKTF4株を使用し、菌株をPDA培地上で植え継いだ。このような菌株を用いて、以下の方法によりメロンつる割病菌のバド・セルを形成させた。具体的には、まず、50mlのPDB培地(つまり、ポテトデキストロース培地)を含む容積100ml三角フラスコに菌株を接種し、室温で3日間、120rpm回転速度で振とう培養を行った。次いで、培養液をコーニング社製のFalcon(登録商標)セルストレーナー(メッシュ70μm)でろ過し、ストレーナーを通り抜けたバド・セルを回収し、供試菌サンプルとして用いた。
【0044】
「灰色かび病菌」
灰色かび病菌(Botrytis cinerea)のAI18株は、日本の三重県にて採取したものを使用し、PDA培地上で菌株の胞子形成を誘導させた。次いで、胞子を形成した菌塊に超純水を加え、コンラージ棒を用いて菌糸表面から胞子を遊離させた。このようにして、供試菌サンプルを得た。
【0045】
・評価用ペプチドサンプル
実施例1における未酸化型及び酸化型のSAR8.2mペプチドを評価に用いた。さらに、比較用として、配列番号4に示す8個のアミノ酸からなる変異型のSAR8.2mペプチドを準備した。変異型のSAR8.2mペプチドは、ペプチド合成により作製したものであり、合成はユーロフィンジェノミクス社に委託した。変異型のSAR8.2mペプチドは、配列番号2に示すSAR8.2mペプチドのシステインをアラニンに置換したものである。変異型のSAR8.2mペプチドのことを適宜「コントロール」と表記する。
・抗菌活性の評価試験
3種類の評価用ペプチドを用いて、卵菌、真菌に対する抗菌活性の評価を行った。
96ウェルのマイクロプレートのウェル内に各供試菌サンプルを加えた。さらに、超純水で希釈して濃度10μMに調整された各評価用ペプチドをウェル内に加え、インキュベータ(20℃、暗条件)内に静置した。1~3日後にインキュベータから取り出し、発芽率を算出した。
【0046】
発芽率の算出は、顕微鏡観察により行った。具体的には、顕微鏡観察により、96ウェル内の胞子の数Nを計測すると共に、発芽した胞子の数Nを計測した。次いで、下記算出式(I)に基づいて発芽率Gを算出した。
G[%]=100×N/N ・・・(I)
【0047】
図6に、ジャガイモ疫病菌(P. infestans)の発芽率、顕微鏡観察結果を示した。
図7に、ブロッコリー黒すす病菌(A. blassicicola)の発芽率、顕微鏡観察結果を示した。
図8に、メロンつる割病菌(F. oxysporum)の発芽率、顕微鏡観察結果を示した。
図9に、灰色かび病菌(B. cinerea)の発芽率、顕微鏡観察結果を示した。
図6図9における(a)は、発芽率の結果を示す。図6図9における(b)は、変異型SAR8.2mペプチドが投与された供試菌サンプルの顕微鏡観察結果を示す。図6図9における(c)は、未酸化型のSAR8.2mペプチドが投与された供試菌サンプルの顕微鏡観察結果を示す。図6図9における(d)は、酸化型のSAR8.2mペプチドが投与された供試菌サンプルの顕微鏡観察結果を示す。図6図9では、「Control」は、変異型のSAR8.2mを意味し、「SAR8.2m」は、未酸化型のSAR8.2mを意味し、「Oxidized SAR8.2m」は、酸化型のSAR8.2mを意味する。
【0048】
図6(a)~(d)より理解されるように、ジャガイモ疫病菌では、未酸化型SAR8.2ペプチド及び酸化型SAR8.2mペプチドが、コントロールと比較して高い発芽抑制効果を示した。また、酸化型SAR8.2mペプチドでは、未酸化型SAR8.2mよりも発芽が大幅に抑制されており、発芽抑制効果が顕著に増大した。つまり、SAR8.2mペプチドは、ジャガイモ疫病菌などの卵菌の発芽を抑制または防止でき、SAR8.2mペプチドがジスルフィド結合を有する場合には、発芽抑制効果又は防止効果が増大することが理解される。
【0049】
図7(a)~(d)、図8(a)~(d)、図9(a)~(d)においても、ジャガイモ疫病菌と同様の傾向が示されている。つまり、SAR8.2mペプチドは、ブロッコリー黒すす病菌、メロンつる割病菌、灰色かび病菌等の真菌の発芽を抑制又は防止でき、SAR8.2mペプチドがジスルフィド結合を有する場合には、発芽抑制効果又は防止効果が増大することが理解される。
【0050】
このように、本例によれば、SAR8.2mペプチドは、植物病原性微生物の成長を抑制又は防止する効果があり、SAR8.2mペプチドを含有する植物病害防除剤によれば、植物の病害を抑制または防止できるといえる。また、SAR8.2mペプチドによる病害抑制又は防止効果はジスルフィド結合の形成により大幅に増大することから、ペプチド内の4つのシステインの存在が効果発現に重要であることが推察される。SAR8.2mペプチドは、自然環境下で容易に分解されるため、SAR8.2mペプチドをたとえば有効成分として含有する植物病害防除剤は、たとえ土壌、水質、大気に流出しても汚染の懸念がなく、環境汚染を防止することができる。
【0051】
[実施例3]
本例は、SAR8.2mペプチドの抗菌活性の濃度依存性を評価する例である。
供試菌サンプルとしてジャガイモ疫病菌を用い、評価用ペプチドサンプルとして変異型SAR8.2mペプチド及び酸化型SAR8.2mペプチドを用い、実施例2と同様の抗菌活性の評価を行った。抗菌活性の評価には、濃度5μM、濃度10μM、濃度100μM、各評価用ペプチドサンプルを使用し、評価は、顕微鏡観察により行った。その結果を図10に示す。
【0052】
図10より理解されるように、5μM、10μM、100μMのいずれの濃度のSAR8.2mペプチド溶液により、菌株の発芽が抑制または防止されていた。発芽抑制効果は、濃度依存的に増大する傾向にあるが、濃度10μmを超えると増大幅が緩やかになる。
【0053】
[実施例4]
本例は、SAR8.2mペプチドの相同性を検討する例である。
図11にナス科植物におけるSAR8.2mペプチドの相同性を示した。図11における各アミノ酸配列は、配列番号5~45に示される(図12図19参照)。図11では、各配列における相同性を有するアミノ酸の位置が黒背景の白抜きで表されており、図11における「シグナルぺプチド」で表される領域は、分泌シグナルを表す。また、図11における各アミノ酸配列は、上から順に配列番号5~45のアミノ酸配列を有し、図12(a)~図19(f)に表される。図11中「Nb」はNicotiana benthamiana、「Nt」はNicotiana tabacum、「Nto」はNicotiana tomentosiformis、「Ns」はNicotiana sylvestris、「Ca」はCapsicum annuum「Cb」はCapsicum Baccatum、「St」はSolanum tuberosum、「Sl」はSolanum lycopersicum、「Sc」はSolanum chilenseを表す。
【0054】
図11及び図12図19の配列番号5~45より理解されるように、ナス科に属するNicotiana属、Capsicum属およびSolanum属植物は配列が多様なSAR8.2ペプチドをもっており、長さや配列の大きく異なる同様の効果を示すペプチドが今後見出される可能性や、SAR8.2mペプチドのアミノ酸置換によって抗菌活性が向上したペプチドがデザインできる可能性がある。
また、図11及び図12図19の配列番号5~45より理解されるように、ナス科に属する植物の中には、配列番号2に示されるペプチドと相同性の低いSAR8.2ペプチドを有するものがあり、発芽した胞子を介して植物に侵入する植物病原性糸状菌や卵菌等の植物病原性微生物に対する抵抗性が低いものがある。そして、ベンサミアナのNbSAR8.2mと極めて高い相同性を示す分泌タンパク質は、植物病原性糸状菌や卵菌等の植物病原性微生物に対する抵抗性が高いタバコ属(具体的には、N. tabacum)で見出される。したがって、配列番号1や配列番号2で示されるペプチドを含む植物病害防除剤は、様々な植物に対して有効に機能する可能性がきわめて高いことが示唆される。
【0055】
本発明は上記各実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図19
【配列表】
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